説明

慣性駆動アクチュエータ

【課題】長期に亘って、安定した動作ができなくなるおそれがある。
【解決手段】微小変位を発生する変位手段と、変位手段の微小変位によって往復運動する振動基板と、第1の磁界発生手段を有する移動子と、第1のヨークと、第2のヨークと、振動基板よりも外側で第1のヨークと、第2のヨークの端部が対向することで、移動子の駆動方向に垂直な方向の動きを機械的に規制し、第1の磁界発生手段から発生する磁界を制御することによって、移動子と振動基板の間に働く摩擦力を制御し、移動子を駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体を所定方向に移動させる慣性駆動アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動軸に結合された電気機械変換素子に鋸歯状波駆動パルスを供給して駆動軸を軸方向に変位させ、この駆動軸に摩擦結合させた移動部材を軸方向に移動させるアクチュエータが知られている(以下、このようなアクチュエータを「インパクト駆動アクチュエータ」或いは「慣性駆動アクチュエータ」と称する)。
【0003】
このようなインパクト駆動アクチュエータが、特許文献1に開示されている。図11(a)は、その構成を示す図である。振動部材103は支持部材101の立ち上がり部にあけられた穴に挿入され、振動部材103の軸方向に移動可能に配置されている。振動部材103の一端は圧電素子102の一端と固定され、圧電素子102の他端は支持部材101に固定されている。
このため、圧電素子102の振動に伴い振動部材103が軸方向に振動する。移動体104にも2つの穴が設けられており、振動部材103がその穴に挿入されている。更に移動体104には下方から板ばね105が取り付けられており、板ばね105に設けられている突起部が振動部材103に押付けられている。このように板ばね105による押圧によって、移動体104と振動部材103は互いに摩擦結合されている。
【0004】
図11(b)、(c)に、インパクト駆動アクチュエータを駆動するための駆動波形を示す。図11(b)は移動体104を右に移動させるための駆動波形で、図11(c)は移動体104を左に移動させるための駆動波形である。これらの駆動波形を用いて、インパクト駆動アクチュエータの動作原理を説明する。なお、以下の説明では、圧電素子102が伸びる方向を左、縮む方向を右とする。
【0005】
移動体104を右に動かす場合には、図11(b)に示す駆動波形を用いる。駆動波形は、急峻に立ち上がる部分と緩やかに立ち下がる部分を有している。駆動波形が急峻に立ち上がる部分では、圧電素子102が急激に伸びる。ここで、振動部材103は圧電素子102に固定されているため、振動部材103は、圧電素子102の急激な伸びに応じて急速に左に移動する。このとき、移動体104の慣性は振動部材103との間の摩擦結合力(板ばね105で押圧されている移動体104と振動部材103との間の摩擦力)に打ち勝つことから、移動体104は左には移動せず、その位置にとどまる。
【0006】
次に、駆動波形が緩やかに立ち下がる部分では、圧電素子102が緩やかに縮む。振動部材103は、圧電素子102の緩やかな縮みに応じてゆっくりと右に移動する。この場合、移動体104の慣性は振動部材103との間の摩擦結合力に打ち勝つことができない。そのため、移動体104は振動部材103の移動と共に右に移動する。
【0007】
一方、移動体104を左に動かす場合には、図11(c)に示す駆動波形を用いる。駆動波形は、緩やかに立ち上がる部分と急峻に立ち下がる部分を有している。駆動波形が緩やかに立ち上がる部分では、圧電素子102が緩やかに伸びる。この場合、振動部材103は、圧電素子102の緩やかな伸びに応じてゆっくりと左に移動する。この場合、移動体104の慣性は振動部材103との間の摩擦結合力に打ち勝つことができない。そのため、移動体104は振動部材103の移動と共に左に移動する。
【0008】
次に、駆動波形が急峻に立ち上がる部分では、図11(b)で説明したように、移動体104の慣性は振動部材103との間の摩擦結合力に打ち勝つことから、移動体104は右には移動せず、その位置にとどまる。
【0009】
なお、板ばね105が常に振動部材103を押し付けられていることにより、移動体104は振動部材103に摩擦で支持されている。よって、移動体104が停止している際にも、その位置は保持されている。
【0010】
上記のように、インパクト駆動アクチュエータは、板ばね105による移動体104と振動部材103との摩擦結合と慣性を利用したアクチュエータであって、図11(b)、(c)に示す駆動波形を用いることで、移動体104を移動させることができるアクチュエータである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−288828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
先特許文献1に記載されているインパクト駆動アクチュエータは、板ばねにより振動部材103と移動体104に摩擦力を与えている。しかしながら、板ばねは常に振動部材と接触しているため、摩耗などの影響で所望の摩擦力が得られなくなる。そのため、特許文献1に記載されているインパクト駆動アクチュエータは、長期に亘って、安定した動作ができなくなるおそれがある。
【0013】
本発明は、上記実情に鑑みなされたもので、磨耗等の影響が少なく、効率よく移動体を移動あるいは駆動できる慣性駆動アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の慣性駆動アクチュエータは、第1の方向と第1の方向とは逆の第2の方向に微小変位を発生する変位手段と、変位手段の微小変位によって往復運動する振動基板と、振動基板の平面上に配置され、第1の磁界発生手段を有する移動子と、第1の磁界発生手段が発生するN極とS極の磁束を所定の位置に集中させる第1のヨークと、
振動基板の移動子に対向した向きと反対側に第2のヨークと、を有し、
振動基板よりも外側で第1のヨークと、第2のヨークの端部が対向することで、移動子の駆動方向に垂直な方向の動きを機械的に規制し、第1の磁界発生手段から発生する磁界を制御することによって、移動子と振動基板の間に働く摩擦力を制御し、移動体を駆動することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の好ましい態様によれば、第1の磁界発生手段から発生する磁界に対して、移動子が振動基板に対向した方向に磁気吸引力または磁気反発力が働くように磁界を発生する第2の磁界発生手段をさらに有することが望ましい。
【0016】
また、本発明の好ましい態様によれば、第1の磁界発生手段が電磁コイルであることが望ましい。
【0017】
また、本発明の好ましい態様によれば、第2の磁界発生手段が永久磁石であることが望ましい。
【0018】
また、本発明の好ましい態様によれば、変位手段が圧電素子であることが望ましい。
【0019】
また、本発明の好ましい態様によれば、振動基板が非磁性体であることが望ましい。
【0020】
また、本発明の好ましい態様によれば、振動基板が非磁性部と磁性部を有することが望ましい。
【0021】
また、本発明の好ましい態様によれば、振動基板は、少なくとも一部が第2の磁界発生手段を有することが望ましい。
【0022】
また、本発明の好ましい態様によれば、振動基板は、第2のヨークの機能を兼用することが望ましい。
【0023】
また、本発明の好ましい態様によれば、第1の磁界発生手段が電磁コイルと永久磁石を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、磁気力を用いることで摩耗等の影響を少なくすることができ、さらにヨークを用いることから効率よく移動体を移動あるいは駆動できる慣性駆動アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態の慣性駆動アクチュエータの構造を示す図であって、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【図2】第2実施形態の慣性駆動アクチュエータの構造を示す図であって、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【図3】第3実施形態の慣性駆動アクチュエータの構造を示す図であって、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【図4】第4実施形態の慣性駆動アクチュエータの構造を示す図であって、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【図5】第5実施形態の慣性駆動アクチュエータの構造を示す図であって、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【図6】第6実施形態の慣性駆動アクチュエータの構造を示す図であって、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【図7】第7実施形態の慣性駆動アクチュエータの構造を示す側面図である。
【図8】第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100を駆動するときの駆動方法を示す図である。
【図9】第8実施形態の慣性駆動アクチュエータ800を駆動するときの駆動方法を示す図である。
【図10】第8実施形態の慣性駆動アクチュエータ800を駆動するときの駆動方法を示す図である。
【図11】従来のインパクト駆動アクチュエータを示す図であって、(a)構成を示す図、(b)移動体を右に移動させるための駆動波形を示す図、(c)移動体を左に移動させるための駆動波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本実施形態の慣性駆動アクチュエータの構成による作用効果を説明する。なお、この実施形態によって本発明は限定されるものではない。すなわち、実施形態の説明に当たって、例示のために特定の詳細な内容が多く含まれるが、これらの詳細な内容に色々なバリエーションや変更を加えても、本発明の範囲を超えない。従って、以下で説明する本発明の例示的な実施形態は、権利請求された発明に対して、一般性を失わせることなく、また、何ら限定をすることもなく、述べられたものである。
【0027】
(第1実施形態)
第1実施形態の慣性駆動アクチュエータを図1に示す。図1(a)は慣性駆動アクチュエータの側面図、図1(b)は図1(a)におけるA−Aで示す位置における断面図である。
第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100は、圧電素子(変位手段)3と、振動基板4と、移動子10と固定子20で構成されている。固定子20の上部に圧電素子3と振動基板4が位置し、振動基板4の上部に移動子10が位置する。
【0028】
移動子10は、コイル(第1の磁界発生手段)11と第1のヨーク(磁束誘導部材)12aとで構成されている。第1のヨーク12aは溝状(凹状)の部材で、溝の中央でT字状の部材で仕切られている。そして、T字状の部材を中心としてコイル芯を巻いた円筒形状のコイル11が設けられている。また、コイル11に電流を供給する配線Lが、第1のヨーク12aから外側に延びている。なお、溝状の部材とT字状の部材は連結されている。
【0029】
そして、第1のヨーク12aにおいて、溝状の部材の側面の先端位置とT字状の部材の先端位置は異なる。すなわち、溝状の部材の側面の先端は、振動基板4を超えて固定子20側に位置している。これに対して、T字状の部材の先端は、振動基板4と上面で接している。
【0030】
圧電素子3と振動基板4は、共に板状の部材である。ここで、振動基板4には非磁性体の材料が用いられている。圧電素子3の一端と振動基板4の一端は接着で連結されている。なお、接着に限られず、機械的に連結する構成でも良い。また、圧電素子3の他端(振動基板4と接着していない側の端部)は、固定部材A(不図示)に固定されている。圧電素子3は微小変位を発生させ、振動基板4は微小変位によって往復運動する。
【0031】
固定子20は、永久磁石(第2の磁界発生手段)21と第2のヨーク(磁束誘導部材)22aで構成されている。永久磁石21は直方体の部材で、一方の面側がN極、他方の面側がS極となっている。第2のヨーク22aは板状の部材である。永久磁石21はN極側の面を上にして、第2のヨーク22aの上面に載置されている。また、固定子20の両端は、固定部材B(不図示)に固定されている。
【0032】
なお、固定子20を固定部材Bに固定するにあたっては、永久磁石21と第2のヨーク22aを、別々に固定部材Bに対して固定しても良い。あるいは、永久磁石21と第2のヨーク22aを先に固定(連結)しておき、少なくともどちらか一方を固定部材Bに対して固定しても良い。また、固定部材Bとして固定部材Aを利用して良いし、固定部材Bと固定部材Aは別々であっても良い。
【0033】
このように、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ100では、振動基板4の長手方向(図1(a)の紙面左右方向)では、振動基板4よりも外側に、第1のヨーク12aの端部は存在しない。よって、振動基板4の長手方向については、移動子10の動きは規制されない。一方、振動基板4の長手方向と直交する方向(図1(b)の紙面左右方向)では、振動基板4よりも外側に、第1のヨーク12aの端部が位置している。そして、第1のヨーク12aの端部は、振動基板4と近接している。そのため、振動基板4の長手方向と直交する方向については、移動子10の動きが規制されることになる。
【0034】
慣性駆動アクチュエータ100の動作について説明する。なお、駆動原理(駆動方法)については図8で説明する。コイル11に、紙面下方向にS極が発生するように電流を流す。ここで、コイル11の両側にはヨーク12aが配置されている。そのため、コイル11で発生した磁束の外部への漏れを、第1のヨーク12aよって抑えることができる。
その結果、第1のヨーク12aの中央下部P1にはS極が集中し、第1のヨーク12aの両端下部P2にはN極が集中する。なお、磁束の外部への漏れを抑制するためには、図1(a)の紙面左右方向の一方もヨーク12aで塞ぐようにするのが良く、両方をヨーク12aで塞ぐようにすればなお良い。その際、塞ぐ範囲は、振動基板4と接触しない範囲内であればよい。
【0035】
一方、第1のヨーク12aと対向している固定子20では、永久磁石21の上部にはN極、第2のヨーク22aの両端上部P3にはS極が集中する。なお、第2のヨーク22aの両端上部P3の近傍には、第1のヨーク12aの両端下部P2が位置している。そのため、永久磁石21は、第1のヨーク12aと第2のヨーク22aで囲まれている状態になる。そのため、永久磁石21で発生した磁束の外部への漏れを、第1のヨーク12aと第2のヨーク22aによって抑えることができる。
【0036】
このように、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ100では、移動子10と固定子20の各々で磁束の外部への漏れを抑制し、これによりS極やN極を所定の領域に集中させることができる。よって、移動子10と固定子20の間に、紙面下側に向かって効率的に磁気吸着力を発生させることができる。
【0037】
逆に、コイル11に、紙面上方向にS極が発生するように電流を流すと、第1のヨーク12aの中央下部P1にはN極が集中し、第1のヨーク12aの両端下部P2にはS極が集中する。一方、第1のヨーク12aと対向している固定子20では、永久磁石21の上部にはN極、第2のヨーク22aの両端上部P3にはS極が集中する。そのため、移動子10と固定子20の間に、紙面上側に向かって効率的に磁気反発力を発生させることができる。
【0038】
なお、コイル11に流す電流量を変えることによって、移動子10の振動基板4に対する垂直抗力(移動子10と固定子20の間に発生する磁気吸着力あるいは磁気反発力)の強さを変化させることができる。このようにすることで、移動子10と振動基板4の摩擦力を制御することが可能となる。
【0039】
以上述べたように、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ100では、移動子10の移動あるいは駆動に磁気力を用いている。すなわち、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ100は、駆動したときに磨耗が生じる弾性体のような部材を使っていない。そのため、移動子10を移動あるいは駆動させても磨耗が生じない。その結果、長期間にわたって、安定して移動子10を移動あるいは駆動する(所望の位置に移動させることや、所望の位置で保持する)ことができる。更に、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ100では、ヨークを用いていることから、外部への磁束漏れを抑制できる。これにより、磁気吸着力や磁気反発力を効率よく発生させることができるため、簡単かつ低コストな構成でありながら、移動子10を効率よく移動あるいは駆動できる。
【0040】
さらに、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ100では、第1のヨーク12aの両端は、振動基板4の両端を囲うようにして第2のヨーク22aに向かって伸びている。そのため、第1のヨーク12aの両端と振動基板4によって、図1(b)の紙面左右方向について、移動子10の動きが規制される。このように、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ100では、第1のヨーク12aは磁束漏れを抑制する機能を持つだけでなく、移動子10の所定の方向に対する動きを規制するガイド機能も兼ねる(第1のヨーク12aが複数の役割を担っている)。そのため、より部品数の削減、省サイズ化が可能となる。尚、本実施形態では、第1のヨーク12aと振動基板4によって振動子10の動きを規制しているが、図示を省略した固定部材と第1のヨーク12aを使って、振動子10の動きを規制することも当然可能である。
【0041】
さらに、本実施形態では、基板の厚さ分だけ2つのヨーク12a、22aを近づけることができる。このため、磁束をさらに効率よく閉じ込めることができる。
【0042】
(第2実施形態)
第2実施形態の慣性駆動アクチュエータを図2に示す。図2(a)は慣性駆動アクチュエータの側面図、図2(b)は図2(a)におけるA−Aで示す位置における断面図である。第1実施形態の慣性駆動アクチュエータと同じ構成については同一の番号を付し、その説明は省略する。なお、配線の図示は省略している。
【0043】
第2実施形態の慣性駆動アクチュエータ200は、振動基板の構成が、第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100と異なる。よって、振動基板について説明をする。
【0044】
第2実施形態の慣性駆動アクチュエータ200では、振動基板40は、非磁性部41と磁性部42を有する。磁性部42はヨーク部であって、この磁性部42の両側に非磁性部41が位置している。なお、磁性部42を取り囲むように非磁性部41を設け、磁性部42が振動基板40の内部に位置するようにしても良い。
【0045】
このような構成をとることにより、第2実施形態の慣性駆動アクチュエータ200では、第1のヨーク12aの中央下部と永久磁石21との間を磁束が流れる際に、磁束漏れをより抑制することができる。その結果、効率良く磁気吸着力、もしくは反発力を移動子10に作用させることが可能となる。
【0046】
(第3実施形態)
第3実施形態の慣性駆動アクチュエータを図3に示す。図3(a)は慣性駆動アクチュエータの側面図、図3(b)は図3(a)におけるA−Aで示す位置における断面図である。第1実施形態の慣性駆動アクチュエータと同じ構成については同一の番号を付し、その説明は省略する。なお、配線の図示は省略している。
【0047】
第3実施形態の慣性駆動アクチュエータ300は、圧電素子3と、振動基板4と、移動子10と固定子20で構成されている。固定子20の上部に圧電素子3と振動基板4が位置し、振動基板4の上部に移動子10が位置する。
【0048】
移動子10は、コイル11と、第1のヨーク12bと、永久磁石13で構成されている。第1のヨーク12bは外観が溝状の部材で、溝の中央でT字状の部材で仕切られている。そして、T字状の部材を中心としてコイル芯を巻いた円筒形状のコイル11が設けられている。ここで、溝状の部材とT字状の部材は分離しており、その間に永久磁石13が位置している。永久磁石13は、N極がT字状の部材側に位置するように配置されている。一方、固定子20は第2のヨーク22bを有している。本実施形態は、第1実施形態に比較して、永久磁石21(第2の磁界発生手段)を有していない点が異なる。
【0049】
上記のような構成において、例えば、紙面下方向にN極が発生するように、コイル11に電流を流す。すると、第1のヨーク12bの中央下部にはN極が集中し、第1のヨーク12bの両端下部にはS極が集中する。
永久磁石13からの磁束も同様に第1のヨーク12bの中央下部にN極、第1のヨーク12bの両端下部にS極が集中する。それに対向し、固定子20では、第2のヨーク22bには逆極性が誘起される。すなわち、第2のヨーク22bの中央部にはS極が誘起され、両端部にはN極が誘起される。その結果、移動子10に対して紙面下側に向かって、コイル11に電流を流さないときと比べて強い磁気吸着力が発生する。
【0050】
一方、紙面上方向にN極が集中するように、コイル11に電流を流した場合は、コイル11に電流を流さないときと比べて弱い磁気吸着力が発生する。また、コイル11に流す電流を変えることによって、移動子10の振動基板4に対する垂直抗力の強さを変えることができる。このようにすることで、移動子10と振動基板4の摩擦力を制御することが可能となる。
【0051】
以上述べたように、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ300では、移動子10の移動あるいは駆動に磁気力を用いている。すなわち、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ300は、駆動したときに磨耗が生じる弾性体のような部材を使っていない。そのため、移動子10の移動あるいは駆動させても磨耗が生じない。その結果、長期間にわたって、安定して移動子10を移動あるいは駆動する(所望の位置に移動させることや、所望の位置で保持する)ことができる。更に、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ300では、ヨークを用いていることから、外部への磁束漏れを抑制できる。これにより、磁気吸着力や磁気反発力を効率よく発生させることができるため、移動子10を効率よく移動あるいは駆動できる。
【0052】
さらに、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ300では、第1のヨーク12bの両端は、振動基板4の両端を囲うようにして第2のヨーク22bに向かって伸びている。そのため、第1のヨーク12bの両端と振動基板4によって、図3(b)の紙面左右方向について、移動子10の動きが規制される。このように、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ300では、第1のヨーク12aは磁束漏れを抑制する機能を持つだけでなく、移動子10の所定の方向に対する動きを規制するガイド機能も兼ねる(第1のヨーク12bが複数の役割を担っている)。更に、第1のヨーク12cの紙面縦方向のサイズを小さくすることができるので、移動子10および慣性駆動アクチュエータ300の小型化ができる。また、固定子20は第2のヨーク22bを有するだけのため、固定子20の構成を簡便化することが可能となる。
【0053】
(第4実施形態)
第4実施形態の慣性駆動アクチュエータを図4に示す。図4(a)は慣性駆動アクチュエータの側面図、図4(b)は図4(a)におけるA−Aで示す位置における断面図である。第1実施形態の慣性駆動アクチュエータと同じ構成については同一の番号を付し、その説明は省略する。なお、配線の図示は省略している。
【0054】
第4実施形態の慣性駆動アクチュエータ400は、圧電素子3と、振動基板4と、移動子10と固定子20で構成されている。固定子20の上部に圧電素子3と振動基板4が位置し、振動基板4の上部に移動子10が位置する。
【0055】
第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100との相違点は、次のとおりである。第1のヨーク12cについては、溝状の部材の側面の先端が振動基板4を超えておらず、また固定子20側に位置していない。また、第2のヨーク22cについては、箱状の部材で、側面の先端が振動基板4を超えて移動子10側に位置している。
【0056】
上記のような相違点はあるものの、コイル11と永久磁石21は、第1のヨーク12cと第2のヨーク22cによって覆われている。また、第1のヨーク12cと第2のヨーク22cは、各々の端部が近接するように配置されている。これらの点では、第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100と同じである。
よって、第1実施形態と同様に、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ400では、移動子10を移動あるいは駆動させても磨耗が生じない。その結果、長期間にわたって、安定して移動子10を移動あるいは駆動する(所望の位置に移動させることや、所望の位置で保持する)ことができる。
更に、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ400では、ヨークを用いていることから、外部への磁束漏れを抑制できる。これにより、磁気吸着力や磁気反発力を効率よく発生させることができるため、移動子10を効率よく移動あるいは駆動できる。更に、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ400では、移動体10(第1のヨーク12c)の質量を小さくすることができるため、駆動の安定性がさらに向上する。
【0057】
また、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ400では、第2のヨーク22cの側面の先端が、コイル11の外側に位置している。さらに、第2のヨーク22cの側面は、コイル11と近接している。そのため、振動基板4の長手方向と直交する方向について、移動子10の動きが規制されることになる。なお、コイル11と第2のヨーク22cが接触してもコイル11が破損しないように、コイル11に保護部材または保護膜を設けておくのが望ましい。また、コイル11を小さくし、その代わりにT字状の部材の先端(振動基板4と接触している部分)の大きさを振動基板4と略同じ大きさにしても良い。このようにすることで、振動基板4の長手方向と直交する方向について、移動子10の動きを規制することができる。
【0058】
(第5実施形態)
第5実施形態の慣性駆動アクチュエータを図5に示す。図5(a)は慣性駆動アクチュエータの側面図、図5(b)は図5(a)におけるA−Aで示す位置における断面図である。第4実施形態の慣性駆動アクチュエータと同じ構成については同一の番号を付し、その説明は省略する。なお、配線の図示は省略している。
【0059】
第5実施形態の慣性駆動アクチュエータ500は、振動基板を除いた構成は、第4実施形態の慣性駆動アクチュエータ400と同じである。第5実施形態の慣性駆動アクチュエータ500の振動基板40は、第2実施形態の慣性駆動アクチュエータ200の振動基板40と類似している。
第5実施形態の慣性駆動アクチュエータ500では、振動基板40は、非磁性部41と磁性部42を有する。そして、磁性部42を取り囲むように非磁性部41を設け、磁性部42が振動基板40の内部に位置している。
上記の構成により、第5実施形態の慣性駆動アクチュエータ500では、第2実施形態と第4実施形態で説明した作用効果、すなわち、移動子10の駆動方向の垂直方向の動きを規制でき、磁束漏れを抑制できる。更に、第1のヨーク12cの紙面縦方向のサイズを小さくすることができるため、移動子10の質量を小さくすることができ、これにより駆動の安定化がさらに向上する。
【0060】
(第6実施形態)
第6実施形態の慣性駆動アクチュエータを図6に示す。図6(a)は慣性駆動アクチュエータの側面図、図6(b)は図6(a)におけるA−Aで示す位置における断面図である。第3実施形態の慣性駆動アクチュエータと同じ構成については同一の番号を付し、その説明は省略する。なお、配線の図示は省略している。
【0061】
第6実施形態の慣性駆動アクチュエータ600は、圧電素子3と、振動基板4と、移動子10と固定子20で構成されている。固定子20の上部に圧電素子3と振動基板4が位置し、振動基板4の上部に移動子10が位置する。
【0062】
第3実施形態の慣性駆動アクチュエータ300との相違点は、次のとおりである。第1のヨーク12dについては、溝状の部材の側面の先端が振動基板4を超えておらず、また固定子20側に位置していない。また、第2のヨーク22dについては、箱状の部材で、側面の先端が振動基板4を超えて移動子10側に位置している。
【0063】
上記のような相違点はあるものの、コイル11と永久磁石13は、第1のヨーク12dと第2のヨーク22dによって覆われている。また、第1のヨーク12dと第2のヨーク22dは、各々の端部が近接するように配置されている。これらの点では、第3実施形態の慣性駆動アクチュエータ300と同じである。
よって、第6実施形態の慣性駆動アクチュエータ600では、第3実施形態で説明した作用効果、すなわち、移動子10の駆動方向の垂直方向の動きを規制でき、磁束漏れを抑制できる。更に、第1のヨーク12cの紙面縦方向のサイズを小さくすることができるので、移動子10および慣性駆動アクチュエータ600の小型化ができる。また、固定子20は第2のヨーク22bを有するだけのため、固定子20の構成を簡便化することが可能となる。
【0064】
(第7実施形態)
第7実施形態の慣性駆動アクチュエータ700を図7に示す。図7(a)は慣性駆動アクチュエータの側面図、図7(b)は図7(a)におけるA−Aで示す位置における断面図である。上記各実施形態の慣性駆動アクチュエータと同じ構成については同一の番号を付し、その説明は省略する。
【0065】
本実施形態では、振動基板40が永久磁石で構成されている点が上記各実施形態と異なる。これ以外の構成は、他の実施形態と同じ構成を有している。
第1のヨーク12eと第2のヨーク22eの位置関係としては、第2のヨーク22eが振動基板40の外側を通ってガイドの役割を兼ねている。しかしながら、これに限られず、他の実施形態と同じく、第1のヨーク12eが振動基板40の外側を通る構成によりガイドの役割を兼ねることもできる。
本実施形態によれば、振動基板20が第2の磁界発生手段の機能も兼ねるため、慣性駆動アクチュエータを小型化できるという効果を奏する。
【0066】
次に、各実施形態の慣性駆動アクチュエータの駆動方法を説明する。図8は、例えば、第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100を駆動するときの駆動方法を示している。図8において、横軸は時間を示し、縦軸は圧電素子3の変位を示している。図1(a)において、圧電素子3が紙面左方向に伸びた場合を正としている。
【0067】
時刻0からAまでの間、圧電素子3は延伸している。この間は、コイル11に、紙面下方向にS極が発生するように電流を流す。すると、移動子10に対して振動基板4側に磁気吸着力が働く。そのため、移動子10と振動基板4との間の摩擦は増加する。その結果、圧電素子3の延伸とともに振動基板4は紙面左方向に移動し、それとともに移動子10も紙面左方向に移動する。
【0068】
次に、時刻Aから時刻Bまでの間、圧電素子3は収縮している。この間、コイル11に電流を流すのを止める。すると、移動子10に対して磁気吸着力が働かなくなる。そのため、移動子10と振動基板4との間の摩擦力は減少する。これは、振動基板4の動きに対して移動子10のすべる量が増加したことを意味する。その結果、圧電素子の収縮とともに振動基板4が紙面右方向に移動しても、移動子10は移動した位置で静止した状態となる。このように、圧電素子3の収縮とともに、紙面右方向に移動する振動基板4に対して移動子10は左方向に滑るため、時刻0から時刻Bまでの間で、移動子10は紙面左方向に移動することとなる。
【0069】
同様のことを、時刻Bから時刻C、時刻Cから時刻Dというように繰り返すことにより、移動子10を紙面左方向に移動させていくことができる。なお、移動子10を紙面右方向へ移動させるには、コイル11に電流を流すタイミングを、図8と逆にすることにより可能である。すなわち、時刻0から時刻Aまでの間、移動子10に対して振動基板4側に磁気吸着力が働くように電流を流す代わりに、磁気反発力が働くようにコイル11に電流を流すことにより、移動子10は紙面右側に移動する。
【0070】
尚、上記の例では、時刻Aから時刻Bまでの間は、コイル11に電流を流すのを止めている。これに代わり、移動子10に対して振動基板4側に磁気反発力が働くように、コイル11に電流を流してもよい。このようにすることで、上記と同様に移動子10の移動が可能である。
【0071】
第8実施形態の慣性駆動アクチュエータを図9に示す。図9は、図1(b)と同様の慣性駆動アクチュエータの側面図である。また、図10は、第8実施形態の慣性駆動アクチュエータ800を駆動するときの駆動方法を示している。
【0072】
第8実施形態の慣性駆動アクチュエータは、第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100における移動子10を2つ備えている。すなわち、第8実施形態の慣性駆動アクチュエータ800は、圧電素子3と、振動基板4と、移動子10aと、移動子10bと固定子20で構成されている。固定子20の上部に圧電素子3と振動基板4が位置し、振動基板4の上部に移動子10aと、移動子10bが位置する。なお、移動子10aと、移動子10bの配線は省略している。
【0073】
慣性駆動アクチュエータ800の駆動方法について説明する。図10において、横軸は時間を示し、縦軸は圧電素子3の変位を示している。図9において、圧電素子3が紙面左方向に伸びた場合を正としている。
【0074】
時刻0から時刻Aまでの間、圧電素子3は延伸している。この間、移動子10aのコイル11に電流を流さないでおく。この場合、移動子10aに対して磁気吸着力が働かなくなる。そのため、移動子10aは、その位置を変えずに静止したままである。一方、移動子10bのコイル11に、紙面下方向にS極が発生するように電流を流す。この場合、図8で説明したように、移動子10bに対して振動基板4側に磁気吸着力が働く。そのため、移動子10bは紙面左方向に移動する。
【0075】
次に、時刻Aから時刻Bまでの間、圧電素子3は収縮している。この間、移動子10aのコイル11に、紙面下方向にS極が発生するように電流を流す。この場合、図8で説明したように、移動子10aに対して振動基板4側に磁気吸着力が働く。そのため、移動子10aは紙面右方向に移動する。一方、移動子10bのコイル11に電流を流さないでおく。この場合、移動子10bに対して磁気吸着力が働かなくなる。そのため、移動子10bは、その位置を変えずに静止したままである。
【0076】
以上のように、時刻0から時刻Aの間、移動子10aは静止し、移動子10bは紙面左方向、すなわち移動子10aに向かって移動する。一方、時刻Aから時刻Bまでの間、移動子10aは紙面右方向、すなわち移動子10bに向かって移動し、移動子10bは静止している。その結果、移動子10aと移動子10bを近づけることができる。また、時刻0から時刻Bまでの間の駆動方法を繰り返すことで、移動子10aと移動子10bを更に近づけることができる。また、駆動方法を変えれば、移動子10aと移動子10bを同一方向に移動させることや、移動子10aと移動子10bを離すようにすることもできる。
【0077】
なお、図9および図10では、説明のために2個の移動子の構成とその駆動方法を例示したが、原理的には2個以上の移動子においても、同一の振動基板上で、それぞれを独立に駆動することが可能である。また、第1実施形態から第7実施形態のどれについても、移動子はコイルを有しているため、図9の駆動原理を適用可能である。したがって、本実施形態の慣性駆動アクチュエータについて、同一の振動基板上で、複数の移動子を独立に駆動することは可能である。
【0078】
なお、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変形例をとることができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上のように、本発明は、長期に亘って、安定した動作、例えば、移動体を所望の位置に移動させることや、所望の位置で移動体を静止させることや、静止した状態を維持することができる慣性駆動アクチュエータに適している。
【符号の説明】
【0080】
3 圧電素子
4、40 振動基板
10、10a、10b 移動子
11 コイル
12a、12b、12c、12d、12e 第1のヨーク
13、21 永久磁石
20 固定子
22a、22b、22c、22d、22e 第2のヨーク
41 非磁性部
42 磁性部(ヨーク部)
100、200、300、400、500、600、700、800 慣性駆動アクチュエータ
101 支持部材
102 圧電素子
103 振動部材
104 移動体
105 板ばね
L 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向と前記第1の方向とは逆の第2の方向に微小変位を発生する変位手段と、
前記変位手段の前記微小変位によって往復運動する振動基板と、
前記振動基板の平面上に配置され、第1の磁界発生手段を有する移動子と、
前記第1の磁界発生手段が発生するN極とS極の磁束を所定の位置に集中させる第1のヨークと、
前記振動基板の前記移動子に対向した向きと反対側に第2のヨークと、を有し、
前記振動基板よりも外側で前記第1のヨークと、前記第2のヨークの端部が対向することで、前記移動子の駆動方向に垂直な方向の動きを機械的に規制し、
第1の磁界発生手段から発生する磁界を制御することによって、前記移動子と前記振動基板の間に働く摩擦力を制御し、前記移動子を駆動することを特徴とする慣性駆動アクチュエータ。
【請求項2】
前記第1の磁界発生手段から発生する磁界に対して、前記移動子が前記振動基板に対向した方向に磁気吸引力または磁気反発力が働くように磁界を発生する第2の磁界発生手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項3】
前記第1の磁界発生手段が電磁コイルであることを特徴とする請求項1または2に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項4】
前記第2の磁界発生手段が永久磁石であることを特徴とする請求項2に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項5】
前記変位手段が圧電素子であることを特徴とする請求項1または2に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項6】
前記振動基板が非磁性体であることを特徴とする請求項1または2に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項7】
前記振動基板が非磁性部と磁性部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項8】
前記振動基板は、少なくとも一部が前記第2の磁界発生手段を有することを特徴とする請求項2に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項9】
前記振動基板は、前記第2のヨークの機能を兼用することを特徴とする請求項1または2に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項10】
前記第1の磁界発生手段が電磁コイルと永久磁石を有することを特徴とする請求項1または2に記載の慣性駆動アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−21782(P2013−21782A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151844(P2011−151844)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】