説明

懸架装置におけるシール構造

【課題】 二輪車のフロントフォークやリアクッションユニット等の懸架装置において、アウターチューブとインナーチューブとの間を確実にシールする。
【解決手段】 アウターチューブ1と、インナーチューブ2と、上記アウターチューブ1内周と上記インナーチューブ2外周との間に形成される筒状の潤滑隙間3aと、上記アウターチューブ1の開口端部10内周に設けられて潤滑流体を保持する第一シール部材11とを備える懸架装置において、上記第一シール部材11と直列に設けられて上記潤滑隙間3aと上記懸架装置内部とを区画すると共に、上記アウターチューブ1内周に摺接して上記懸架装置内部の圧力が上記潤滑隙間3a内に作用することを防ぐ第二シール部材21と、上記潤滑隙間3aと連通されると共に上記懸架装置内部に区画される体積補償室3bとを備え、この体積補償室3bと上記潤滑隙間3aとからなる油溜室3内に、潤滑流体からなる潤滑流体室Lと気室Gとが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鞍乗り用車両に利用される懸架装置のシール構造に関し、特に、自動二輪車におけるフロントフォークやリアクッションユニットのシール構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗り用車両に利用される懸架装置、例えば、フロントフォークは、二輪車の前輪を懸架して路面振動を吸収するサスペンションとして機能すると共に、内部に緩衝器を収容して路面振動を減衰するダンパとしても機能するものが知られている。
【0003】
上記フロントフォークは、車体側チューブと、この車体側チューブ内に出没自在に挿入される車輪側チューブと、上記車体側チューブ内周と上記車輪側チューブ外周との間に形成される筒状の潤滑隙間と、上記車体側チューブの上記車輪側チューブ挿入側の開口端部内周に設けられて上記潤滑隙間内に収容される潤滑流体を保持するシール部材とを備え、倒立型に設定される。
【0004】
そして、上記潤滑隙間内には、車輪側チューブの上端開口部の近傍に開穿した油孔を介して潤滑用の作動油が流入する。
【0005】
上記シール部材は、外側に位置するダストシールと、このダストシールに直列に設けられ内側に位置するオイルシールとからなる。
【0006】
上記ダストシールは、車輪側チューブ外周に付着したダスト等の異物を掻き落として、フロントフォーク内部に異物が混入することを防ぎ、上記オイルシールは、上記潤滑隙間内に流入する潤滑用の作動油がフロントフォーク外に漏れ出すことを防ぐ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−64180号 公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のフロントフォークは、上記シール部材からなるシール構造を備えることにより、オイルシールで上記潤滑隙間内に流入する潤滑用の作動油を保持して、車体側チューブに対する車輪側チューブの円滑な出没が可能となる点において有用である。
【0009】
しかしながら、上記従来のフロントフォークは、例えば、車体側チューブと車輪側チューブとの間に介装されてフロントフォークを伸張方向に附勢する懸架ばねに替えて、車体側チューブ内にエアを封入し、フロントフォークをエアサスペンションとする等、フロントフォーク内が高圧傾向に維持される場合において、以下の不具合を指摘される虞がある。
【0010】
即ち、フロントフォーク内が高圧となることにより、当該圧力が油孔を介して潤滑隙間に作用するため、このオイルシールがインナーチューブ外周の異物や傷等により損傷した場合には、オイルシールの損傷部から潤滑用の作動油がフロントフォークの内圧によりフロントフォーク外に噴出する虞がある。
【0011】
そこで、本発明は、上記オイルシールの他にフェールセーフ用の第二のシール部材を設け、例え上記オイルシールが損傷したとしても、潤滑隙間内の作動油がフロントフォーク外に噴出することを防ぐことが可能な懸架装置におけるシール構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための手段は、アウターチューブと、このアウターチューブ内に出没自在に挿入されるインナーチューブと、上記アウターチューブ内周と上記インナーチューブ外周との間に形成される筒状の潤滑隙間と、上記アウターチューブの上記インナーチューブ挿入側の開口端部内周に設けられて上記潤滑隙間内に収容される潤滑流体を保持する第一シール部材とを備える懸架装置において、上記第一シール部材と直列に設けられて上記潤滑隙間と上記懸架装置内部とを区画すると共に、上記アウターチューブ内周に摺接して上記懸架装置内部の圧力が上記潤滑隙間内に作用することを防ぐ第二シール部材と、上記潤滑隙間と連通されると共に上記懸架装置内部に区画される体積補償室とを備え、この体積補償室と上記潤滑隙間とからなる油溜室内に、潤滑流体からなる潤滑流体室と気室とが形成されることである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第二シール部材を備えることにより、懸架装置内部の圧力が第二シール部材よりも外側に作用せず、第一シール部材が損傷した場合においても潤滑用の作動油が潤滑隙間から噴出することを防ぐことが可能となる。
【0014】
また、第二シール部材は、第一シール部材よりも内側に設けられ、外的要因によって損傷することがないアウターチューブ内周に摺接することから、第二シール部材が損傷する危険性を回避してフェールセーフとして確実に機能することが可能となる。
【0015】
更には、懸架装置の伸縮に伴い容積変化する潤滑隙間と連通する体積補償室を設け、潤滑隙間と体積補償室とからなる油溜室内に潤滑流体室と気室とを設けることにより、潤滑隙間の体積変化を補償することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第一の実施の形態に係る懸架装置の最伸張状態を示す半断面図である。
【図2】本発明の第一の実施の形態に係る懸架装置の最収縮状態を示す半断面図である。
【図3】本発明の第一の実施の形態に係る懸架装置の最伸張状態を示す部分拡大半断面図である。
【図4】本発明の第二の実施の形態に係る懸架装置の最伸張状態を示す半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の第一の実施の形態を示す懸架装置におけるシール構造について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品かまたはそれに対応する部品を示す。
【0018】
本実施の形態は、本発明に係る懸架装置におけるシール構造を二輪車の前輪を懸架しながらその前輪に入力される路面振動を減衰する減衰力発生手段を内部に収容するフロントフォークに具現化したものである。
【0019】
このフロントフォークは、二輪車の前輪の両側に起立する左右一対のフォーク部材からなり、このフォーク部材は、アウターチューブ1と、このアウターチューブ1内に出没自在に挿入されるインナーチューブ2と、上記アウターチューブ1内周と上記インナーチューブ2外周との間に形成される筒状の潤滑隙間3aと、上記アウターチューブ1の上記インナーチューブ2挿入側の開口端部10内周に設けられて上記潤滑隙間3a内に収容される潤滑流体を保持する第一シール部材11とを備える。
【0020】
そして、上記フォーク部材は、上記第一シール部材11と直列に設けられて上記潤滑隙間3aと上記フォーク部材内部とを区画すると共に、上記アウターチューブ1内周に摺接して上記フォーク部材内部の圧力が上記潤滑隙間3a内に作用することを防ぐ第二シール部材21と、上記潤滑隙間3aと連通されると共に上記フォーク部材内部に区画される体積補償室3bとを備え、この体積補償室3bと上記潤滑隙間3aとからなる油溜室3内に、潤滑流体からなる潤滑流体室Lと気室Gとが形成される。
【0021】
以下に、本実施の形態におけるフロントフォークの各構成部品についてそれぞれ説明する。
【0022】
上記フロントフォークは、上記アウターチューブ1を二輪車の車体側に、インナーチューブ2を二輪車の車輪側に配置して、倒立型に設定される。
【0023】
そして、図示しないが、アウターチューブ1の図中上端側は二輪車のハンドルに連結され、インナーチューブ2の図中下端側は二輪車の前輪の車軸に連結される。
【0024】
更に、図示するところのフロントフォークは、フォーク部材内部に、気体が封入されてエアサスペンションとして機能すると共に、後述の減衰力発生手段を備えてダンパとしても機能する。
【0025】
上記フォーク部材は、上下端をキャップ部材12及びボトム部材22で封止され、アウターチューブ1とインナーチューブ2との摺動面を本発明に係る第二シール部材21で封止されることにより密閉される。
【0026】
上記フォーク部材内部とは、アウターチューブ1及びインナーチューブ2の内側に形成される空間のうち、上記第二シール部材21によって区画される油溜室3を除く空間をいうものである。
【0027】
このフォーク部材内部は、下方に位置して作動油で満たされる作動油室と、作動油の油面Oを境に上方に位置して気体が封入されて昇圧傾向に維持されるリザーバ室Rとに区画される。
【0028】
上記リザーバ室Rは、アウターチューブ1内に形成される上方気室R1と、インナーチューブ2内に形成される下方気室R2とからなり、これらの気室R1、R2は常に連通状態に保たれる。
【0029】
上記作動油で満たされる作動油室は、インナーチューブ2内周に外周を摺接するピストン15により、図中上方に位置する伸側作動油室P2と、図中下方に位置する圧側作動油室P1とに区画される。
【0030】
そして、上記伸側作動油室P2は、上記リザーバ室R内に収容される気体により油面Oを介して加圧される。
【0031】
上記作動油室P1、P2を区画するピストン15は、アウターチューブ1の図中上端を封止するキャップ部材12に基端部を固定されるロッド13の先端部に、先端部材14を介して保持されてなり、フォーク部材の伸縮に伴い作動油内を図中上下に移動する。
【0032】
そして、上記ピストン15は、図示しないが、ピストン15の肉厚を貫通するポートを備え、このポートは、フォーク部材の収縮時に各作動油室P1、P2を連通する圧側ポートと、フォーク部材の伸張時に各作動油室P1、P2を連通する伸側ポートとからなる。
【0033】
更に、上記ピストン15は、減衰力発生手段を備え、この減衰力発生手段は、フォーク部材の収縮時にのみ圧側ポートの連通を許可して所定の減衰力を発生する圧側リーフバルブV1と、フォーク部材の伸張時にのみ伸側ポートの連通を許可して所定の減衰力を発生する伸側リーフバルブV2とからなる。
【0034】
上記構成を備えることにより、上記リザーバ室Rは、フォーク部材の伸長時にピストン15と共に伸側作動油室P2を加圧するため、伸側作動油室P2と圧側作動油室P1との差圧を増して伸側リーフバルブV2の開口を助け、圧側作動油室P1が減圧されてエアレーションが起こることを防止することが可能となる。
【0035】
これにより、フロントフォークは、フォーク部材内にダンパシリンダやロッドガイド等を備えることなくダンパとしての機能を発揮することが可能となり、軽量に形成されることが可能となる。
【0036】
更に、上記リザーバ室R内に封入された気体は、フォーク部材の伸縮によるリザーバ室Rの容積変化により圧縮比が変化して、この圧縮比に応じた所定のばね反力を生じてエアバネとして機能する。
【0037】
従って、フロントフォークは、コイルスプリングからなる懸架ばねを使用することなくサスペンションとしての機能を発揮することが可能となり、更なる軽量化が図られるものである。
【0038】
また、上記リザーバ室R内に封入された気体は、インナーチューブ2内へ出没するロッド13の体積分増減するリザーバ室Rの体積変化も補償する。
【0039】
尚、上記減衰力発生手段の構成は上記の限りではなく、ピストン14を貫通するオリフィスとする等、周知の方法を適宜選択することが可能である。
【0040】
また、周知の方法により減衰力発生手段における減衰力を調整可能としても良く、当該調整方法としては、図示しないが、減衰力発生手段を迂回してピストンを貫通するバイパス路を設け、このバイパス路の開度を変更する方法が知られている。
【0041】
また、上記リザーバ室Rによる伸側作動油室P2の加圧とは、リザーバ室R内に封入される気体により、リザーバ室R内を昇圧傾向に維持し得る所定の内圧に設定することにより実現され、圧側作動油室P1のエアレーションを防止し得る限りにおいて、適宜設定することが可能である。
【0042】
ところが、上記リザーバ室Rを昇圧傾向に維持した場合において、フォーク部材の最伸張時近傍から収縮ストロークを開始する際、フォーク部材は、上記リザーバ室R内の気体によって伸張方向に附勢されているため収縮ストロークが速やかに開始されず、乗り心地を悪化させる虞がある。
【0043】
そこで、本実施の形態においては、収縮ストロークの開始時においても良好な乗り心地を実現するため、フォーク部材を収縮方向に附勢するバランススプリング4を備えてなる。
【0044】
上記バランススプリング4は、インナーチューブ側に固定される上側ばね受け4aと、ピストン側に固定される下側ばね受け4bとの間に介装される。
【0045】
上記上側ばね受け4aは、インナーチューブ2におけるアウターチューブ1への挿入側、即ち、図中上方に位置する一方端部内側に重ねて取り付けられた隔壁部材5の下端に固定され、上記下側ばね受け4bは、ロッド13の先端部外周に取り付けられる筒状のケース16に固定される。
【0046】
当該構成を備えることにより、バランススプリング4は、図1に示すように、フォーク部材が伸張状態にあるときに圧縮されて、インナーチューブ2の図中上端とロッド13の先端とを離間させ、ロッド13がインナーチューブ2内に侵入するよう附勢するため、フォーク部材は収縮する方向に附勢される。
【0047】
従って、フォーク部材が最伸張時近傍にある場合においても、バランススプリング4がリザーバ室Rの内圧に抗してフォーク部材を収縮方向に附勢するため、収縮ストロークが速やかに開始されて乗り心地の悪化を招くことがない。
【0048】
また、上記下側ばね受け4bを備えるケース16は、当該ケース16の上方と下方を連通する通孔16aを備え、作動油の移動を妨げることがなく、油面Oにかかるリザーバ室Rの圧力は、当該通孔16aを介してケース16の下方に作用するため、伸側作動油室P2全体を加圧することが可能となる。
【0049】
上記ピストン15を保持するロッド13は、その外周に取り付けられる上下一対のクッション部材17a、17bを備えてなり、上側クッション部材17aはロッド13の基端部材近傍に、下側クッション部材17bはロッド13の略中央に取り付けられる。
【0050】
これらのクッション部材17a、17bは弾性素材からなり、フォーク部材の最伸張時においては、図1に示すように、下側クッション部材17bがインナーチューブ2に固定される隔壁部材5の内周片5a下面に当接し、フォーク部材の最収縮時においては、図2に示すように、上側クッション部材17aが上記隔壁部材5の内周片5a上面に当接する。
【0051】
従って、各クッション部材17a、17bは、フォーク部材の最伸張時及び最収縮時の衝撃を吸収すると共に、それ以上の伸張及び収縮を防ぐ。
【0052】
また、クッション部材17bと隔壁部材5とが当接している場合においても、上下のリザーバ室R1、R2は連通しており、クッション部材17b及び隔壁部材5は、上下のリザーバ室R1、R2の連通を妨げないものである。
【0053】
ところで、インナーチューブ2の図中下側には、硬質の合成樹脂からなるキャップ状のボトムケース23がボトム部材22に固定され、図示しないが、このボトムケース23外周とボトム部材22は液密に封止されており、上記ボトムケース23の内側には外気と連通する空気室Aが設けられている。
【0054】
上記ボトムケース23が図2に示すフォーク部材の最収縮時において、その上端とピストン15とが接触しない長さに形成され、当該構成を備えることにより、フォーク部材のストローク長を確保すると共に作動油量を低減してフロントフォークを軽量化することが可能となる。
【0055】
従って、ストローク長が確保される限りにおいては、上記ケース23を設けずにフォーク部材の全長を短くするとしても良い。
【0056】
以上の構成を備えることにより、本実施の形態におけるフロントフォークは、エアサスペンションやダンパとしての機能等、フロントフォークとしての基本的な性能を発揮することが可能となる。
【0057】
また、上記フロントフォークは、アウターチューブ1内にインナーチューブ2を円滑に出没させるための構成を備え、当該構成に本発明に係る構成が具現化される。
【0058】
フォーク部材は、図3に示すように、アウターチューブ1内周とインナーチューブ2外周との間に筒状の潤滑隙間3aを形成し、この潤滑隙間3a内に潤滑用の作動油を収容すると共に、上下一対の環状軸受6a、6bを備えてなる。
【0059】
そして、アウターチューブ1のインナーチューブ挿入側の開口端部10、即ち、図中下方端部内周に、インナーチューブ2外周に摺接する環状の第一シール部材11を備え、この第一シール部材11は、潤滑用の作動油を潤滑隙間3a内に保持する。
【0060】
上記第一シール部材11は、外側に位置する環状のダストシール11aと、このダストシール11aの内側に直列に設けられる環状のオイルシール11bとを備えてなり、従来周知の構成が採用される。
【0061】
上記潤滑隙間3aは、図中下端側を上記第一シール部材11で封止され、図中上端側をインナーチューブ2に隔壁部材5を介して取り付けられた第二シール部材21で封止されて、フォーク部材の伸縮に伴い膨縮する。
【0062】
上記第二シール部材21は、環状に形成されて上記隔壁部材5の外周に設けられ、第一シール部材11よりも内側、即ち、フォーク本体内部側に位置するアウターチューブ1内周に外周を摺接させる。
【0063】
つまり、図1に示すように、フォーク部材が伸張状態にある場合には、第一シール部材11と第二シール部材21とが接近して潤滑隙間3aの容積が収縮し、図2に示すように、フォーク部材が収縮状態にある場合には、第一シール部材11と第二シール部材21とが離間して潤滑隙間3aの容積が膨張する。
【0064】
そして、上記潤滑隙間3aは、インナーチューブ2の図中先端側に設けた油孔30を介して体積補償室3bに連通し、この体積補償室3bと共に密閉された油溜室3を構成する。
【0065】
当該油溜室3は、第二シール部材21によってフォーク部材内部と区画されると共に、フォーク部材が伸張状態にある場合、その内部には、下方に位置して潤滑用の作動油で満たされた潤滑流体室Lと、この潤滑流体室Lの油面O1を境に上方に位置する気室Gとが形成される(図1、3)。
【0066】
当該構成を備えることにより、フォーク部材が伸張した場合には、潤滑隙間3aの体積が減少することにより、潤滑隙間3aから溢れた作動油が油孔30を介して体積補償室3b内に流入する(図1)。
【0067】
また、フォーク部材が収縮した場合には、潤滑隙間3aの体積が増加することにより、潤滑隙間3a内で不足した作動油が油孔30を介して体積補償室3b内から潤滑隙間3a内に供給される(図2)。
【0068】
そして、体積補償室3b内における作動油の増減は、気室G内に収容される気体の膨縮によって補償される。
【0069】
上記構成を備えることにより、フォーク部材内部におけるリザーバ室Rの圧力が第二シール部材21よりも外側に位置する油溜室3内に作用せず、油溜室3をフォーク部材内部と区画することができる。
【0070】
従って、第一シール部材11が損傷した場合においても潤滑用の作動油が潤滑隙間3aから噴出することを防ぐことが可能となる。
【0071】
また、第二シール部材21は、第一シール部材11よりも内側に設けられ、例えば、飛び石等の外的要因によって損傷することがないアウターチューブ1内周に摺接することから、第二シール部材21が損傷する危険性を回避してフェールセーフとして確実に機能することが可能となる。
【0072】
更には、体積補償室3bを備え、潤滑隙間3aと体積補償室3bとからなる油溜室3内に潤滑流体室Lと気室Gとを形成することにより、潤滑隙間3a内の油面低下を防ぎ、潤滑隙間3aの体積変化を補償することが可能となる。
【0073】
本実施の形態において、上記体積補償室3bは、インナーチューブ2におけるアウターチューブ1への挿入側、即ち、図中上側に位置する一方端部内側に設けた筒状の隔壁部材5によって形成される。
【0074】
この隔壁部材5は、図3に示すように、上記インナーチューブ2の一方端部から突出して上記第二シール部材21を外周に備える環状の突出部50と、この突出部50から延設されて外周が上記インナーチューブの一方端部内周に結合する環状の結合部51と、この結合部51から延設されて外周が縮径されてなる環状の縮径部52と、この縮径部52から延設されて外周が上記インナーチューブ2内周にシール部材53aを介して液密に当接する密接部53とを備えてなる。
【0075】
そして、縮径部52外周とインナーチューブ2内周との間に体積補償室3bを形成し、この体積補償室3bは、インナーチューブ2における縮径部52とのラップ部に上記油孔30が開穿され、この油孔30を介して潤滑隙間3aと連通される。
【0076】
上記構成を備えることにより、フロントフォークを組み立てる際、フォーク部材が最収縮状態に維持された状態で作動油を上端近傍まで満たし、次いで、隔壁部材5をインナーチューブ2に組み付けることにより、隔壁部材5内に気室が自然に形成されることがら、本発明における油溜室3を容易に具現化することが可能となる。
【0077】
また、第二シール部材21は、上記隔壁部材5に取り付けられることから、第二シール部材21もまた容易に組み付けることが可能となる。
【0078】
上記第二シール部材21は、リザーバ室R側に対向する環状のエアシール21aと、このエアシール21aと直列に設けられる環状のオイルシール21bとを備えてなり、このオイルシール21bは潤滑隙間3aに対向する。
【0079】
当該構成を備えることにより、各シール21a、21bでリザーバ室Rの気体及び潤滑隙間3aの作動油を確実にシールすることが可能となる。
【0080】
尚、上記第二シール部材21として使用するシールは、封止したい対象によって適宜選択することが可能である。
【0081】
また、エアシール21aが潤滑隙間3aの作動油をリザーバ室Rに掻き出さない程度に封止する機能を有していれば、必ずしもオイルシール21bを備えなくても良い。
【0082】
ところで、本実施の形態において、アウターチューブ1とインナーチューブ2との円滑な摺動を助ける上下一対の環状軸受6a、6bは、潤滑隙間3a内に設けられ、インナーチューブ2の図中上端部外周に位置決めされる上側環状軸受6aと、アウターチューブ1の図中下端部内周に設けられスライド可能な下側環状軸受6bとからなる。
【0083】
上記上側環状軸受6aは、潤滑隙間3aと体積補償室3bとを連通する油孔30よりも上方に設けられ、インナーチューブ2外周に形成された溝24に嵌合されて移動せず、外周をアウターチューブ1内周に摺接させてなり、当該構成を備えることにより、潤滑隙間3aと体積補償室3bとを移動する作動油の妨げとなることがない。
【0084】
一方、上記下側環状軸受6bは、アウターチューブ1の図中下側先端部10内周に形成された溝10a内にスライド自在に設けられ、インナーチューブ2外周に油膜を介して内周を摺接させてなり、インナーチューブ2の移動に伴い上下する。
【0085】
当該構成を備えることにより、第一シール部材11におけるオイルシール11bに作動油を供給して当該オイルシール11bの摺動性を確保することが可能となる。
【0086】
次に、本実施の第二の実施の形態を示す懸架装置におけるシール構造について、図面を参照しながら説明する。
【0087】
本実施の形態は、本発明に係る懸架装置におけるシール構造を二輪車の後輪と車体との間に介装されて後輪に入力される路面振動を減衰する減衰力発生手段を内部に収容するリアクッションユニットに具現化したものである。
【0088】
本実施の形態におけるリアクッションユニットは、上述の第一の実施の形態を具現化するフロントフォークとその基本的な構造を同一にするため、対応する部品については同一符合を付するのみとして詳細な説明を省略する。
【0089】
上記リアクッションユニットは、アウターチューブ1と、このアウターチューブ1内に出没自在に挿入されるインナーチューブ2と、上記アウターチューブ1内周と上記インナーチューブ2外周との間に形成される潤滑隙間3aとを備える。
【0090】
そして、上記リアクッションユニットは、上記アウターチューブ1を二輪車の車体側に、インナーチューブ2を二輪車の後輪側に配置される。
【0091】
更に、図示するところのリアクッションユニットは、内部にエアが封入されてエアサスペンションとして機能すると共に、減衰力発生手段を備えてダンパとしても機能する。
【0092】
上記リアクションユニットは、上下端をキャップ部材12及びボトム部材22で封止され、アウターチューブ1とインナーチューブ2との摺動面を本発明に係る第二シール部材21で封止されることにより密閉される。
【0093】
上記リアクッションユニットの内部とは、アウターチューブ1及びインナーチューブ2の内側に形成される空間のうち、上記第二シール部材21によって区画される油溜室3を除く空間をいい、リアクッション内部とする。
【0094】
このリアクッション内部の構成は、第一の実施の形態におけるフロントフォークのフォーク部材内部の構成と略等しく、上記フロントフォークと同様にしてエアサスペンションやダンパとしての機能を発揮することが可能となる。
【0095】
尚、本実施の形態に係るリアクッションユニットは、上記フロントフォークと比較して伸縮ストロークが短いため、第一の実施の形態におけるボトムケース23を設ける必要がない。
【0096】
従って、リアクッション内部が上記フォーク部材内部と略等しい内部構成を備えることによりエアサスペンションやダンパとしての機能を発揮すると共に、リアクッションユニットの全長を短く形成して車両への搭載性能を向上させることが可能となる。
【0097】
また、本実施の形態に係るリアクッションユニットも、アウターチューブ1内にインナーチューブ2を円滑に出没させるための構成を備え、当該構成に本願発明における構成が具現化される。
【0098】
リアクッションユニットは、図4に示すように、アウターチューブ1内周とインナーチューブ2外周との間に潤滑隙間3aを形成し、この潤滑隙間3a内に潤滑用の作動油を収容すると共に、上下一対の環状軸受60a、60bを備えてなる。
【0099】
そして、アウターチューブ1のインナーチューブ挿入側に位置するシールケース100に、インナーチューブ2外周に摺接する環状の第一シール部材11を備え、この第一シール部材11は、潤滑用の作動油を潤滑隙間3a内に保持する。
【0100】
上記アウターチューブ1の上記シールケース100には、インナーチューブ2の摺動面を覆う伸縮自在のベローズ101の上端が取り付けられており、上記第一シール部材11はオイルシールからなる。
【0101】
上記潤滑隙間3aは、図中下端を上記第一シール部材11で封止され、図中上端側をインナーチューブ2に隔壁部材500を介して取り付けられた第二シール部材21で封止され、リアクッションユニットの伸縮に伴い膨縮する。
【0102】
そして、上記潤滑隙間3aは、インナーチューブ2の図中先端側に設けた油孔30を介して体積補償室3bに連通し、この体積補償室3aと共に密閉された油溜室3を形成する。
【0103】
本実施の形態に係る第二シール部材12及び油溜室3の作用効果は、上記第一の実施の形態における第二シール部材12及び油溜室3と同様であることから、ここでの詳細な説明は省略する。
【0104】
本実施の形態において、上記体積補償室3bは、インナーチューブ2におけるアウターチューブ1への挿入側、即ち、図中上側に位置する一方端部内側に設けた環状の隔壁部材500によって形成される。
【0105】
この隔壁部材500は、図4に示すように、筒状に形成される外壁501と、この外壁501の図中下端から内側に延設される環状の下壁502と、この下壁502から起立して上記外壁501と対向する内壁503と、この内壁503の上端から外側に延設されて上記外壁501に先端が密接する上壁504とを備えてなる。
【0106】
そして、上記外壁501は、上端部外周が拡径されてなる拡径部(符示せず)外周に上記第二シール部材21を備え、この拡径部の下側に外壁501の肉厚を貫通する油孔30を備える。
【0107】
また、この外壁501の油孔30よりも図中側は、上記インナーチューブ2の内周とシール部材(符示せず)を介して密接する。
【0108】
上記構成を備えることにより、上記各壁501、502、503、504で区画される空間に体積補償室3bを形成し、この体積補償室3bは、油孔30を介して潤滑隙間3aと連通し、この潤滑隙間3aと共に油溜室3を構成する。
【0109】
本実施の形態において、上下一対の環状軸受60a、60bは、上記潤滑隙間3aにおける油孔30よりも下方に設けられ、アウターチューブ1のシールケース100内周に位置決めされて、それぞれの内周をインナーチューブ2外周に摺接させてなる。
【0110】
従って、上側環状軸受60aよりも図中下方側に位置する潤滑隙間3aの体積変化は起こらず、上側環状軸受60aと第二シール部材21との間の空間30aの体積変化が起こり、この空間30aと上記体積補償室3bとを作動油が移動する。
【0111】
そして、リアクッションユニットの伸縮に伴い潤滑隙間3aにおける上記空間30a内に過不足する作動油を上記体積補償室3bで補償すると共に、この体積補償室3b内における作動油の増減は、気室G内に収容される気体の膨縮によって補償される。
【0112】
上記構成を備えることにより、上下の環状軸受60a、60bが作動油の移動の妨げとなることがなく、また、これらの環状軸受60a、60bと第一シール部材11におけるオイルシールとの間に収容される作動油によりこのオイルシールの摺動性が確保される。
【0113】
尚、本実施の形態において、図中には第二シール部材21として一のシールのみを設けた状態を示すが、第一の実施の形態と同様にリザーバ室R側に対向するエアシールと、潤滑隙間3a側に対向するオイルシールからなるシール部材としても良いことは勿論である。
【0114】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく改造、変形及び変更を行うことができることは理解すべきである。
【0115】
例えば、上記実施の形態において、倒立型のフロントフォークを採用するとしたがこの限りではなく、正立型のフロントウォークとしても良いことは勿論である。
【0116】
また、本実施の形態においては、フォーク部材内部やリアクッション内部に作動油を収容するとしたが、この限りではなく、水系の作動流体としても良いことは勿論である。
【0117】
また、潤滑流体として作動油を用いるとしたが、フォーク部材内部に
収容する作動流体たる作動油と別のもの、例えば水系の作動流体や他の作動油を用いても良い。
【符号の説明】
【0118】
A 空気室
G 気室
L 潤滑流体室
O、O1 油面
P1 圧側作動油室
P2 伸側作動油室
R リザーバ室
V1 圧側リーフバルブ
V2 伸側リーフバルブ
1 アウターチューブ
2 インナーチューブ
3 油溜室
3a 潤滑隙間
3b 体積補償室
4 バランススプリング
5、500 隔壁部材
6a、6b、60a、60b 環状軸受
11 第一シール部材
12 キャップ部材
13 ロッド
14 先端部材
15 ピストン
16 ケース
17 クッション部材
21 第二シール部材
22 ボトム部材
23 ボトムケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターチューブと、このアウターチューブ内に出没自在に挿入されるインナーチューブと、上記アウターチューブ内周と上記インナーチューブ外周との間に形成される筒状の潤滑隙間と、上記アウターチューブの上記インナーチューブ挿入側の開口端部内周に設けられて上記潤滑隙間内に収容される潤滑流体を保持する第一シール部材とを備える懸架装置において、
上記第一シール部材と直列に設けられて上記潤滑隙間と上記懸架装置内部とを区画すると共に、上記アウターチューブ内周に摺接して上記懸架装置内部の圧力が上記潤滑隙間内に作用することを防ぐ第二シール部材と、
上記潤滑隙間と連通されると共に上記懸架装置内部に区画される体積補償室とを備え、
この体積補償室と上記潤滑隙間とからなる油溜室内に、潤滑流体からなる潤滑流体室と気室とが形成されることを特徴とする懸架装置におけるシール構造。
【請求項2】
上記インナーチューブにおける上記アウターチューブへの挿入側に位置する一方端部内側に筒状の隔壁部材を重ねて取り付け、
この隔壁部材外周と上記インナーチューブ内周との間に上記体積補償室を形成すると共に、上記インナーチューブにおける上記隔壁部材とのラップ部に油孔を設け、この油孔を介して上記潤滑隙間と上記体積補償室とを連通することを特徴とする請求項1に記載の懸架装置におけるシール構造。
【請求項3】
上記隔壁部材は、上記インナーチューブの一方端部から突出して上記第二シール部材を外周に備える環状の突出部と、この突出部から延設されて外周が上記インナーチューブの一方端部内周に結合する環状の結合部と、この結合部から延設されて外周が縮径されてなる環状の縮径部と、この縮径部から延設されて外周が上記インナーチューブ内周に液密に当接する密接部とを備え、
上記第二シール部材は、上記隔壁部材を介して上記インナーチューブに取り付けられ、
上記体積補償室は、上記縮径部外周と上記インナーチューブ内周との間に形成されると共に、上記インナーチューブにおける上記縮径部とのラップ部に設けられる上記油孔を介して上記潤滑隙間と連通されることを特徴とする請求項2に記載の懸架装置におけるシール構造。
【請求項4】
上記懸架装置は、内部に気体が封入されて高圧傾向に維持されてなり、上記第二シール部材が上記気体を封止するエアシールを備えてなることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の懸架装置におけるシール構造。
【請求項5】
上記第二シール部材が上記エアシールと、このエアシールと直列に設けられて上記潤滑隙間に対向するオイルシールとを備えてなることを特徴とする請求項4の何れかに記載の懸架装置におけるシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−127743(P2011−127743A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289437(P2009−289437)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】