説明

成分濃度測定装置

【課題】光照射で被測定物内へ進入した光の一部は透過することになる。この透過光は照射側と対向した音響検出器表面や周辺部に吸収され、これらからも光音響信号が発生する。音響検出器表面や周辺部からの光音響信号は、被測定物から発生する光音響信号の雑音となるため、被測定対象成分の測定精度に著しい影響を与えるという課題があった。そこで、透過光によって被測定物以外で生じる音響雑音を抑制し、被測定物の成分濃度を高精度に測定ができる成分濃度測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る成分濃度測定装置は、光源からの光を透過し、被測定物内で発生した光音響信号を反射する音波反射板を備えることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物に対して非侵襲な成分濃度測定を行う成分濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化が進み、成人病に対する対応が大きな課題になりつつある。血糖値などの検査においては血液の採取が必要なために患者にとって大きな負担となるので、血液を採取しない非侵襲な成分濃度測定装置が注目されている。現在までに開発された非侵襲な成分濃度測定装置としては、皮膚内に電磁波を照射し、測定対象とする血液成分、例えば、血糖値の場合はグルコース分子に吸収され、局所的に加熱して熱膨張を起こして生体内から発生する音波を観測する光音響分光法(以下、「光音響分光法」を「PAS」と略記する。)が注目されている(例えば、非特許文献1及び特許文献1を参照。)。
【0003】
図1は非特許文献1に記載されたPASによる成分濃度測定装置の概略図である。図1の血液成分濃度測定装置は光パルスを電磁波として用いている。本例では血液成分として血糖、すなわちグルコースを測定対象としている。図1の成分濃度測定装置において、駆動電源102はパルス状の励起電流をパルス光源103に供給する。パルス光源103はサブマイクロ秒の持続時間を有する光パルスを発生させ、該光パルスを生体被検部101に照射する。光パルスは生体被検部101の内部にパルス状の光音響信号と呼ばれる音波を発生させる。発生した光音響信号は超音波検出器104により検出され、さらに音圧に比例した電気信号に変換される。
【0004】
変換された電気信号の波形は波形観測器105により観測される。この波形観測器105は上記励起電流に同期した信号によりトリガされ、変換された電気信号を画面等に表示する。また、波形観測器105は変換された電気信号は積算及び平均して測定することができる。このようにして得られた電気信号の振幅を解析して、生体被検部101の内部の血糖値、すなわちグルコースの量が測定される。図1の成分濃度測定装置はサブマイクロ秒のパルス幅の光パルスを最大1kHzの繰り返しで発生し、1024個の光パルスを平均している。
【0005】
しかし、グルコースと電磁波との相互作用は小さく、また生体に安全に照射し得る電磁波の強度には制限があり、生体の血糖値測定においては、十分な効果をあげるに至っていない。
【0006】
そこで、測定精度を高める目的で連続的に強度変調した光源を用いる成分濃度測定装置が特許文献1に開示されている。図2は特許文献1に記載されたPASによる成分濃度測定装置の概略図である。本例も血糖を主な測定対象としている。測定精度を高めるため、異なる波長の複数の光源を用いている。説明の煩雑さを避けるために、光源の数が2の場合の動作を説明する。図2の成分濃度測定装置において、異なる波長の光源、即ち、第一の光源201及び第二の光源202は、それぞれ駆動電源203及び駆動電源204により駆動され、連続光を出力する。
【0007】
第一の光源201及び第二の光源202が出力する光は、モータ214により駆動され一定回転数で回転するチョッパ板213により断続される。ここでチョッパ板213は不透明な材質により形成され、モータ214の軸を中心とする第一の光源201及び第二の光源202の光が通過する円周上に、互いに疎な個数の開口部が形成されている。
【0008】
上記の構成により、第一の光源201及び第二の光源202の各々が出力する光は互いに疎な変調周波数f、及び変調周波数fで強度変調される。合波器211は強度変調されたそれぞれの光を合波し、1の光束として生体被検部101に照射する。
【0009】
生体被検部101の内部には第一の光源201の光により周波数fの光音響信号が発生し、第二の光源202の光により周波数fの光音響信号が発生する。音響センサ212は、これらの光音響信号を検出し、音圧に比例した電気信号に変換する。その周波数スペクトルは周波数解析器215で観測される。本例においては、複数の光源の波長は全てグルコースの吸収波長に設定されており、各波長に対応する光音響信号の強度は、血液中に含まれるグルコースの量に対応した電気信号として測定される。
【0010】
ここで、予め光音響信号の測定値の強度と別途採血した血液によりグルコースの含有量を測定した値との関係を記憶しておき、前記光音響信号の測定値からグルコースの量を測定している。
【特許文献1】特開平10−000189号公報
【非特許文献1】オウル大学(University of Oulu、Finland)学位論文「Pulsed photoacoustic techniqus and glucose determination in human blood and tissue」(IBS 951−42−6690−0、http://herkules.oulu.fi/isbn9514266900/、2002年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
光照射で被測定物内へ進入した光はPASのために光吸収され、また散乱することにより被測定物内で減衰する。具体的には、光は被測定物に含まれる水分の吸光度から求まる減衰距離で概ね1/10に減衰する。しかし、被測定物の試料厚が有限であることや含有水分量の大小により、光の一部は吸収や散乱されず透過することになる。この透過した漏れ光は照射側と対向した音響検出器表面や周辺部に吸収され、これらからも光音響信号が発生する。音響検出器表面や周辺部からの光音響信号は、被測定物から発生する光音響信号の雑音となるため、被測定対象成分の測定精度に著しい影響を与えるという課題があった。以下の説明で、「音響検出器表面や周辺部からの光音響信号」を「音響雑音」と略記する。
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、被測定物以外の場所で漏れ光によって生じる音響雑音を抑制し、被測定物の成分濃度を高精度に測定ができる成分濃度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明に係る成分濃度測定装置は、光源からの光を透過し、被測定物内で発生した光音響信号を反射する音波反射板を備えることとした。
【0014】
具体的には、本発明に係る成分濃度測定装置は、レーザ光を所定周波数の変調信号で電気的に強度変調した変調レーザ光を被測定物に向けて照射する光照射手段と、前記変調レーザ光の光軸方向にあり、前記被測定物を透過した前記変調レーザ光を透過させ、前記変調レーザ光によって前記被測定物に発生する光音響信号を反射させる音波反射板と、前記音波反射板の前記光照射手段側にあり、前記変調レーザ光によって前記被測定物に発生する光音響信号及び前記音波反射板で反射された光音響信号を前記被測定物から検出する音波強度測定手段と、を備える。
【0015】
音波反射板が漏れ光を透過させるため、被測定物以外の場所で漏れ光によって生じる音響雑音を抑制することができる。
【0016】
本発明に係る成分濃度測定装置は、前記光照射手段は、異なる2波長のレーザ光をそれぞれ同一周波数で逆位相の変調信号で強度変調することが好ましい。2光波の照射によって発生した音響信号の差分検出をすることができる。
【0017】
本発明に係る成分濃度測定装置は、前記光照射手段からの前記変調レーザ光の光軸と前記音波強度測定手段が光音響信号を検出する方向の中心である集音中心軸との交点は、前記音波反射板の前記光照射手段側の表面にあり、前記変調レーザ光の光軸が前記音波反射板の前記光照射手段側の表面と成す角度は、前記音波強度測定手段の集音中心軸が前記音波反射板の前記光照射手段側の表面と成す角度と等しいことが好ましい。被測定物の音源から音響検出器までの光音響信号伝達を効率よく行うことができる。
【0018】
本発明に係る成分濃度測定装置は、前記音波反射板の前記光照射手段側の表面に前記変調レーザ光を反射する誘電体ミラーをさらに備えることが好ましい。被測定物を透過した漏れ光を低減するため、音響雑音の発生量を低減する効果を奏する。
【0019】
本発明に係る成分濃度測定装置は、前記音波反射板の前記光照射手段側と反対側に前記音波反射板を透過した前記変調レーザ光を吸収する光吸収体をさらに備えることが好ましい。音波反射板を透過した漏れ光を吸収し、漏れ光の多重反射などによる音響雑音の発生を抑え、測定精度を高める効果を奏する。
【0020】
本発明に係る成分濃度測定装置の前記光吸収体と前記音波反射板とは、前記音波反射板を透過した前記変調レーザ光を透過させ、前記光吸収体で発生する光音響信号を反射するスペーサを介して接続されていることが好ましい。光吸収体で発生した光音響信号がスペーサと光吸収体との界面で効率よく反射し、被測定物へ伝搬しないため、音響雑音を低減する効果を奏する。
【0021】
本発明に係る成分濃度測定装置の前記光吸収体と前記音波反射板とは、前記光吸収体と前記音波反射板との間に気体が入る間隙を形成する支柱で接続されることが好ましい。光吸収体で発生した光音響信号が空気と光吸収体の界面で効率よく反射し、被測定物へ伝搬しないため、音響雑音を低減する効果を奏する。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、音波反射板が漏れ光を透過させるため、被測定物以外の場所で漏れ光によって生じる音響雑音を抑制し、被測定物の成分濃度を高精度に測定ができる成分濃度測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。また、以下においては、被測定物として人や動物の被検体の成分濃度を測定する場合の成分濃度測定装置を説明するが、被測定物はこれらに限らない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、それぞれ同一のものを示すものとする。
【0024】
本実施形態は、レーザ光を所定周波数の変調信号で電気的に強度変調した変調レーザ光を被測定物に向けて照射する光照射手段と、前記変調レーザ光の光軸方向にあり、前記被測定物を透過した前記変調レーザ光を透過させ、前記変調レーザ光によって前記被測定物に発生する光音響信号を反射させる音波反射板と、前記音波反射板の前記光照射手段側にあり、前記変調レーザ光によって前記被測定物に発生する光音響信号及び前記音波反射板で反射された光音響信号を前記被測定物から検出する音波強度測定手段と、を備える。
【0025】
本実施形態の基本構成例として成分濃度測定装置1のブロック図を図3に示す。成分濃度測定装置1は、光照射手段301、音波強度測定手段302、音波反射板303、発振器309及び光音響信号出力端子315を備える。
【0026】
光照射手段301は、レーザ光を所定周波数の変調信号で電気的に強度変調した変調レーザ光Lを被測定物900に向けて照射する。レーザ光は1波長でも複数の波長でもよい。光照射手段301は、異なる2波長のレーザ光をそれぞれ同一周波数で逆位相の変調信号で強度変調することが好ましい。成分濃度測定装置1は、2光波の照射によって発生した音響信号の差分検出をすることができ、高精度に被検出物900の成分濃度測定をすることができる。この場合、光照射手段301は図3のように、第1の光源31−1、第2の光源31−2、駆動回路32−1、駆動回路32−2、遅延調整器33、光ファイバ34−1、光ファイバ34−2、光合波器35、光ファイバ36及び光出射部37を有する。
【0027】
駆動回路32−1及び駆動回路32−2は、それぞれ第2の光源31−1及び第2の光源31−2に電流を供給する。発振器309は駆動回路32−1及び駆動回路32−2に電圧を供給する。発振器309は任意の周波数のパルス列を発生する機能を持つ。また、遅延調整器33は第1の光源31−1と第2の光源31−2を逆相で駆動するために周期の半分の遅延に調整する。
【0028】
第1の光源31−1及び第2の光源31−2で発生した変調レーザ光は、それぞれ光伝達手段である光ファイバ34−1及び光ファイバ34−2によって光合波器35の光入力端子に接続される。光合波器35は合波した変調レーザ光Lを光出力端子から出力し、光伝達手段である光ファイバ36を介して光出射部37へ供給する。光出射部37は被測定物900へ変調レーザ光Lを出射する。光出射部37は、光ファイバ36の先端でもよいが、効率よく変調レーザ光Lを被測定物900へ出射するため、被測定物900の形状に合わせた直角プリズム、ファイバコリメータ又はフェルールでもよい。
【0029】
光照射手段301は、第1の光源31−1及び第2の光源31−2を制御することで、それぞれの光源からの光の波長が重畳した変調レーザ光Lや一方の光源からの光の波長のみからなる変調レーザ光Lを出射することができる。光出射部37から出射した変調レーザ光Lは、被測定物900の内部でPASによる光音響信号を発生させる。
【0030】
音波反射板303は、光照射手段301からの変調レーザ光Lの光軸方向にあり、被測定物900を透過した変調レーザ光Lを透過させ、変調レーザ光Lによって被測定物900に発生する光音響信号を反射させる。
【0031】
音波反射板303は、被測定物900を透過する変調レーザ光Lを透過させ、漏れ光として空中へ放出する。音波反射板303は、音響反射効率が高い材料というだけでなく、音波反射板303自身の音響雑音の発生を抑制する必要がある。そのため、音波反射板303は、第1の光源31−1及び第2の光源31−2の波長帯の光吸収が被測定物900に比べ無視できる程度に小さいことが必要である。さらに、音波反射板303は、第1の光源31−1及び第2の光源31−2の2波長の光が90%以上透過する材質が望ましい。音波反射板303は、例えば、ガラス板やサファイア板である。
【0032】
音波強度測定手段302は、音波検出部41、前置増幅器42及び位相検波増幅器43を有する。音波強度測定手段302は、音波反射板303の光照射手段301側にあり、変調レーザ光Lによって被測定物900に発生する光音響信号及び音波反射板303で反射された光音響信号を被測定物900から検出する。
【0033】
音波検出部41は、被測定物900内で発生した光音響信号を直接的に又は音波反射板303での反射後に検出する。音波検出部41は検出した光音響信号を電気信号に変換する。前置増幅器42は、音波検出部41からの電気信号を増幅する。位相検波増幅器43は、発振器309からの電気信号に基づき、前置増幅器42からの電気信号から第1の光源31−1及び第2の光源31−2の変調周波数と同一周波数成分の振幅及び位相を抽出し、光音響信号出力端子315へ出力する。発振器309からの電気信号を利用することで高精度に変調レーザ光Lによる光音響信号の測定信号を出力することができる。
【0034】
光音響信号出力端子315には、2波長が重畳する変調レーザ光Lによる光音響信号の測定信号(s−s)と1波長のみの変調レーザ光Lによる光音響信号の測定信号sが出力される。以下に出力された測定信号を用いて、濃度Mを求める算定法を説明する。
【0035】
ここで、第1の光源の出力する光の波長をλ、第2の光源の出力する光の波長をλとする。波長λ、λの各々に対して、背景の吸収係数α(w)、α(w)及び測定対象成分のモル吸収係数α(g)、α(g)を知る時、各波長で測定した測定信号s、sを含む連立方程式は数式(1)で表せる。背景の吸収係数とは、例えば、水の吸収係数である。
【数1】

【0036】
ここで、Cは変化し制御或は予想困難な係数である。例えば、音響結合、超音波検出器の感度、照射部から接触部の距離r、比熱、熱膨張係数、音速、変調周波数及び吸収係数にも依存する未知乗数である。ここで、二つの波長λとλを背景の吸収係数がほぼ等しい波長に設定すれば、α(w)=α(w)であるから、数式(1)からCを消去し、数式(2)のように濃度Mを導くことができる。
【数2】

【0037】
測定信号s及び測定信号sは測定結果であり、波長λ、λの各々に対する背景の吸収係数α(w)、α(w)及び対象成分のモル吸収係数α(g)、α(g)は既知の値である。従って、濃度Mは、測定した光音響信号及び既知値から算出できる。
【0038】
次に、図3の成分濃度測定装置1に関して図4を用いて詳細に説明する。図4は成分濃度測定装置1の断面を示した概略図である。図4には、図3には図示していない支柱434、光吸収体435及び光変調信号入力端子409を示している。
【0039】
光照射手段301と音波強度測定手段302は等しい角度で被測定物900の境界に接し、光照射手段301と音波強度測定手段302の中心軸が音波反射板303の表面で交差する距離に配置する。具体的には、光照射手段301からの変調レーザ光Lの光軸と音波強度測定手段302が光音響信号を検出する方向の中心である集音中心軸との交点は、音波反射板303の光照射手段301側の表面にあり、変調レーザ光Lの光軸が音波反射板303の光照射手段301側の表面と成す角度は、音波強度測定手段302の集音中心軸が音波反射板303の光照射手段301側の表面と成す角度と等しい。被測定物の音源から音響検出器までの光音響信号伝達を効率よく行うことができる。
【0040】
光吸収体435は、音波反射板303の光照射手段301側と反対側にあり、変調レーザ光Lのうち音波反射板303を透過した漏れ光Tを吸収する。音波反射板を透過した漏れ光を吸収し、漏れ光の多重反射などによる音響雑音の発生を抑え、測定精度を高める効果を奏する。光吸収体435は、吸音効果のある発泡性がある材質が望ましく、例えば、発泡ウレタンや黒色ゴムが挙げられる。
【0041】
支柱434は、光吸収体435と音波反射板303との間に気体が入る間隙を形成するように光吸収体435と音波反射板303とを接続する。支柱434の材質は、例えば、金属、セラミクス又はプラスチックである。通常使用では、光吸収体435と音波反射板303との間の気体は空気である。光吸収体435で発生した光音響信号が空気と光吸収体の界面を高効率で反射し、被測定物900へ伝搬しないため、音響雑音を低減する効果を奏する。
【0042】
また、光吸収体435と音波反射板303との間は、支柱434ではなく、スペーサを介して接続されていてもよい。具体的には、図4の光吸収体435と音波反射板303との間にスペーサとなる固体や液体が充填されていてもよい。スペーサは、漏れ光Tを透過させるとともに、光吸収体435で発生した光音響信号を光吸収体900との界面で効率よく反射するものが好ましい。スペーサは、例えば、シリコーンゴムやアクリル板である。
【0043】
次に、音波反射板303に関して説明する。光音響信号の波長に比し音波反射板303の厚みが大きい場合は、被測定物900の固有音響インピーダンスをZ、音波反射板303の固有音響インピーダンスをZとすれば、反射率Rを数式(3)で求めることができる。
【数3】

従って、被測定物900と音波反射板303の音響インピーダンスの比(Z/Z,Z<Zの場合)が小さいほど反射効率が良い。被測定物900が水や生体の場合、音波反射板303の部材として音響インピーダンスが高い金属やガラスが好適である。
【0044】
また、光音響信号の波長λ(波数k=2π/λ)に対して音波反射板303の厚みが同程度以下の場合、音波反射板303の厚みdとすれば、反射率Rは数式(4)のようになる。
【数4】

ここで、Zは空隙の音響インピーダンスである。従って、Z<<Zの場合、反射効率Rを高くするために、音波反射板303の厚みdとしてkdがπの整数倍となるdを避ける必要がある。
【0045】
成分濃度測定装置1は、光照射手段301及び音波強度測定手段302と音波反射板303とで被測定物900を挟み、成分濃度測定を行う。具体的には、光変調信号入力端子409に入力された変調信号により光照射手段301は、変調レーザ光Lを被測定物900へ照射する。被測定物900内部ではPASにより光音響信号Aが発生する。光音響信号Aは直接音波強度測定手段302へ向かうものもあるが、音波反射板303で反射されて音波強度測定手段302へ向かうものもある。光音響信号Aの発生に寄与しなかった変調レーザ光Lは音波反射板303を透過して光吸収体435に吸収される。音波強度測定手段302は図3で説明したように被測定物900の表面から光音響信号を検出して光音響信号出力端子315へ出力する。
【0046】
(実施例)
次に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。図5は本実施例で用いた成分濃度測定装置2の断面図の概略である。成分濃度測定装置2は図4の成分濃度測定装置1に台11、支柱12、測定物固定機構13、誘電体ミラー51、アルミ板52、光アタッチメント53及び音響アタッチメント54をさらに備える。本実施例では、被測定物900は人体であり、成分濃度測定装置2は血液中のグルコース濃度を測定する。
【0047】
アルミ板52は、光照射手段301、音波強度測定手段302、光アタッチメント53及び音響アタッチメント54を搭載する。ここでアルミ板52の材質はアルミ以外の金属やセラミクスでもよい。音波反射板303はガラス板を利用する。支柱434の材質はアルミである。光吸収体435は黒色ゴムを利用する。
【0048】
光照射手段301には、第1の光源31−1及び第2の光源31−2としてそれぞれ1.38μm帯DFB−LD及び1.61μm帯DFB−LDが内蔵されている。それぞれのLDはペルチエ素子によって適切な温度管理がなされている。図5には記述を省略しているが、図3で説明した発振器309からの信号が光変調信号入力端子409に入力される。それぞれのLDからは互いに逆位相の変調レーザ光が出射される。平均光パワーは10mW程度、変調周波数は350kHzに設定した。2つのLDからの変調レーザ光はボールレンズによって平行光にコリメートされ、図3で説明した光合波器35によって合波される。光照射手段301は、合波された変調レーザ光Lを光出射窓から光アタッチメント53を経由して、被測定物900への光照射する。光アタッチメント53はプリズムやレンズを含み、光路の変更や照射スポット径の設定を行う。本実施例では、被測定物900の表面に対して入射角30度、半径2mmの照射スポットを形成した。
【0049】
音波反射板303の光照射手段301側の表面に変調レーザ光Lを反射する誘電体ミラー51をさらに備える。音波反射板303の上部には、1.38μm帯と1.61μm帯の光を反射する誘電体ミラー51が蒸着されている。誘電体ミラー51には、屈折率の異なるSiOやTiOを単層もしくは多層に蒸着する。被測定物を透過した漏れ光を低減するため、音響雑音の発生量を低減する効果を奏する。
【0050】
音響アタッチメント54は、音波強度測定手段302と被測定物900との間の音響インピーダンスを整合する。音響アタッチメント54の材質や厚みは数式(2)に基づき、被測定物と整合する材質としてシリコーンゴムとした。シリコーンゴムの厚みは1mmとした。また、音波強度測定手段302の集音中心軸が被測定物900の表面と成す角を30度とした。
【0051】
被測定物900はアルミ板52と音波反射板303としてのガラス板で挟むことで固定される。アルミ板52やガラス板と被測定物900の境界には空気が侵入しないように密着させるために、表面を平滑にするとよい。測定物固定機構13は、アルミ板52と音波反射板303との距離を調節するモータを内蔵する。測定物固定機構13は、適切な圧力を制御しつつ被測定物900を繰返し挟むことができる。測定物固定機構13は支柱12によって台11に固定される。
【0052】
図6は、従来の成分濃度測定装置で人体の血液中のグルコース濃度を測定した結果である。図7は、図5の成分濃度測定装置2で人体の血液中のグルコース濃度を測定した結果である。光音響信号は、パワーや吸光度に対して線形であるため、パワーと吸収媒質が一定の場合、波長λの音響信号および波長λとλを差分した音響信号(図中の破線)は周波数領域で或る一定の比を保つ。図6のように、従来の成分濃度測定装置で測定した場合、不特定の音響雑音が発生し、波長λの音響信号および波長λとλを差分した音響信号は一定の比例関係になかった。一方図7のように、成分濃度測定装置2で測定した場合、波長λの音響信号および波長λとλを差分した音響信号を30倍を比較すると周波数領域にわたって一致し、音響雑音は混入していなかった。以上の測定結果のように、成分濃度測定装置2は、数式(2)における音響信号値s、sに不特定音響雑音が混入することなく、被測定物の成分濃度Mを算定することができた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の成分濃度測定装置は、非侵襲で人間の血液成分を高精度に測定することができる。さらに、本発明の成分濃度測定装置は、液体中の成分濃度を測定することができるため、例えば果実の糖度測定にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】従来の成分濃度検出装置の概略図である。
【図2】従来の成分濃度検出装置の概略図である。
【図3】本発明に係る成分濃度検出装置の概略図である。
【図4】本発明に係る成分濃度検出装置の概略図である。
【図5】本発明に係る成分濃度検出装置の概略図である。
【図6】成分濃度検出装置で人体の血液中のグルコース濃度を測定した結果である。
【図7】本発明に係る成分濃度検出装置で人体の血液中のグルコース濃度を測定した結果である。
【符号の説明】
【0055】
1、2 成分濃度検出装置
101 生体被検部
102 駆動電源
103 パルス光源
104 超音波検出器
105 波形観測器
201 第一の光源
202 第二の光源
203、204 駆動電源
211 合波器
212 音響センサ
213 チョッパ板
214 モータ
215 周波数解析器
11 台
12 支柱
13 測定物固定機構
301 光照射手段
31−1 第1の光源
31−2 第2の光源
32−1、32−2 駆動回路
33 遅延調整器
34−1、34−2、36 光ファイバ
35 光合波器
37 光出射部
302 音波強度測定手段
41 音波検出部
42 前置増幅器
43 位相検波増幅器
303 音波反射板
309 発振器
315 光音響信号出力端子
409 光変調信号入力端子
434 支柱
435 光吸収体
51 誘電体ミラー
52 アルミ板
53 光アタッチメント
54 音響アタッチメント
900 被測定物
L 変調レーザ光
A 光音響信号
T 漏れ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を所定周波数の変調信号で電気的に強度変調した変調レーザ光を被測定物に向けて照射する光照射手段と、
前記変調レーザ光の光軸方向にあり、前記被測定物を透過した前記変調レーザ光を透過させ、前記変調レーザ光によって前記被測定物に発生する光音響信号を反射させる音波反射板と、
前記音波反射板の前記光照射手段側にあり、前記変調レーザ光によって前記被測定物に発生する光音響信号及び前記音波反射板で反射された光音響信号を前記被測定物から検出する音波強度測定手段と、
を備える成分濃度測定装置。
【請求項2】
前記光照射手段は、異なる2波長のレーザ光をそれぞれ同一周波数で逆位相の変調信号で強度変調することを特徴とする請求項1に記載の成分濃度測定装置。
【請求項3】
前記光照射手段からの前記変調レーザ光の光軸と前記音波強度測定手段が光音響信号を検出する方向の中心である集音中心軸との交点は、前記音波反射板の前記光照射手段側の表面にあり、前記変調レーザ光の光軸が前記音波反射板の前記光照射手段側の表面と成す角度は、前記音波強度測定手段の集音中心軸が前記音波反射板の前記光照射手段側の表面と成す角度と等しいことを特徴とする請求項1又は2に記載の成分濃度測定装置。
【請求項4】
前記音波反射板の前記光照射手段側の表面に前記変調レーザ光を反射する誘電体ミラーをさらに備えることを特徴とする請求項1から3に記載のいずれかの成分濃度測定装置。
【請求項5】
前記音波反射板の前記光照射手段側と反対側に前記音波反射板を透過した前記変調レーザ光を吸収する光吸収体をさらに備えることを特徴とする請求項1から4に記載のいずれかの成分濃度測定装置。
【請求項6】
前記光吸収体と前記音波反射板とは、前記音波反射板を透過した前記変調レーザ光を透過させ、前記光吸収体で発生する光音響信号を反射するスペーサを介して接続されていることを特徴とする請求項5に記載の成分濃度測定装置。
【請求項7】
前記光吸収体と前記音波反射板とは、前記光吸収体と前記音波反射板との間に気体が入る間隙を形成する支柱で接続されることを特徴とする請求項5に記載の成分濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−237655(P2008−237655A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83897(P2007−83897)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】