説明

成型用ポリエステルフィルム

【課題】 低い温度および低い圧力下での成型性、透明性、耐溶剤性、耐熱性、に優れ、かつロール状に巻取った長尺のフィルムを巻き出す際にブロッキングやフィルムの破れが発生せず、かつ、フィルムの加工、成型時、成型後の高温環境下において、析出物が少なく、透明性の低下が小さい、成型用ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 共重合ポリエステルを含む二軸配向フィルムであって、(1)フィルムの長手方向及び幅方向における100%伸張時応力が25℃において40〜300MPa及び100℃において1〜100MPa、(2)フィルムの150℃での長手方向及び幅方向の熱収縮率が0.01〜5.0%、(3)ヘーズが0.1〜3.0%、(4)少なくとも片面のフィルムの表面粗さ(Ra)が0.005〜0.030μm、(5)面配向度が0.095以下、(6)フィルムを170℃で10分間熱処理した後のヘーズの増加が0.3%以下、であることを特徴とする成型用ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低い温度および低い圧力下での成型性、透明性、耐溶剤性、耐熱性、に優れ、かつロール状に巻取った長尺のフィルムを巻き出す際にブロッキングやフィルムの破れが発生せず、フィルムの加工、成型時、成型後の高温環境下において、析出物が少なく、透明性の低下が小さく、さらに環境負荷が小さい、各種携帯機器の筐体、家電、自動車の銘板用または建材用部材として好適な成型用ポリエステルフィルムに関する。加えて、屋外で使用される用途(自動車の外装用または建材用部材)に好適な耐光性にも優れる成型用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、成型用シートとしては、ポリ塩化ビニルフィルムが代表的であり、加工性などの点で好ましく使用されてきた。一方、該フィルムは火災などによりフィルムが燃焼した際の有毒ガス発生の問題、可塑剤のブリードアウトなどの問題があり、近年の耐環境性のニーズにより、環境負荷が小さい新しい素材が求められてきている。
【0003】
上記要求を満足させるために、非塩素系素材としてポリエステル、ポリカーボネートおよびアクリル系樹脂よるなる未延伸シートが広い分野において使用されてきている。特に、ポリエステル樹脂よりなる未延伸シートは、機械的特性、透明性が良く、かつ経済性に優れており注目されている。例えば、ポリエチレンテレフタレートにおけるエチレングリコール成分の約30モル%を1,4−シクロヘキサンジメタノールで置換した、実質的に非結晶のポリエステル系樹脂を構成成分とする未延伸ポリエステル系シートが開示されている(例えば、特許文献1〜5を参照)。
【特許文献1】特開平9−156267号公報
【特許文献2】特開2001−71669号公報
【特許文献3】特開2001−80251号公報
【特許文献4】特開2001−129951号公報
【特許文献5】特開2002−249652号公報
【0004】
上記の未延伸ポリエステルシートは、成型性やラミネート適性に関しては市場要求を満足するものではあるが、未延伸シートであるため、耐熱性や耐溶剤性が充分ではなく市場の高度な要求を満足させるまでには至っていない。
【0005】
上記の課題を解決する方法として、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いる方法が開示されている(例えば、特許文献6〜9を参照)。
【特許文献6】特開平9−187903号公報
【特許文献7】特開平10−296937号公報
【特許文献8】特開平11−10816号公報
【特許文献9】特開平11−268215号公報
【0006】
しかしながら、上記方法は、耐熱性や耐溶剤性は改善されるものの、成型性が不十分となり、総合的な品質のバランスの点で、市場要求を満足させるものではなかった。
【0007】
上記課題を解決する方法として、フィルムの100%伸張時応力を特定化する方法が開示されている(例えば、特許文献10、11を参照)
【特許文献10】特開平2−204020号公報
【特許文献11】特開2001−347565号公報
【0008】
該方法は前記の方法に比べ、成型性は改善されているものの、成型性に関する市場の高度な要求に十分に答えられるレベルには達していない。特に、成型温度の低温化に適合できる成型性や得られた成型品の仕上がり性に課題が残されていた。
【0009】
本発明者らは、上記の課題解決について検討をし、すでに、特定した組成の共重合ポリエステル樹脂を原料とし、かつフィルムの100%伸張時応力を特定化することにより上記課題を改善する方法を提案している(例えば、特許文献11を参照)。
【特許文献12】特開平2004−075713号公報
【0010】
この方法により、成型時の成型圧力の高い金型成型法においては、市場要求を満たす、成型温度の低温化に適合可能な成型性や得られた成型品の仕上がり性を大幅に改善することができる。しかしながら、市場要求が近年強くなっている圧空成型法や真空成型法等の成型時の成型圧力が低い成型方法の場合、成型品の仕上がり性をさらに改善することが要望されている。
【0011】
また、成型時の成型圧力が低い成型方法である圧空成型法や真空成型法に適用できる成型用ポリエステルフィルムとして、共重合ポリエステルを含む二軸延伸ポリエステルフィルムからなり、フィルムの25℃と100℃における100%伸張時応力、100℃と180℃における貯蔵弾性率(E’)、175℃における熱変形率を特定範囲とする成型用ポリエステルフィルムを本発明者らは提案した(例えば、特許文献13を参照)。しかしながら、このフィルムを連続的に製造し、ロール状に巻取った後、フィルムを巻き出して後加工する場合に、ブロッキングや破れが発生しやすいことがわかった。そのため、フィルムに金属や金属酸化物を蒸着またはスパッタリングする場合や印刷を行うなどの後加工時に、生産性や品質の安定性をさらに高めることが要望されている。
【特許文献13】特開2005−290354号公報
【0012】
また、フィルム表面に印刷や蒸着等の加工をする際の熱により、環状三量体に起因する析出物が発生し、印刷面や蒸着面の品位が低下する場合があった。さらに、フィルムを成型加工する際に金型が汚染し、清掃頻度が増加し、生産性が低下するという問題があった。また、フィルムを成型した後、得られた成型品を高温下で使用した際、透明性が低下するという問題もあった。このように、成型性のみならず、フィルムの加工、成型時、成型後の高温環境下において、熱による析出物や透明性の悪化を改善することも、市場から強く要求されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、前記の従来の問題点を解決するものであり、低い温度および低い圧力下での成型性、透明性、耐溶剤性、耐熱性、に優れ、かつロール状に巻取った長尺のフィルムを巻き出す際にブロッキングやフィルムの破れが発生せず、かつ、フィルムの加工、成型時、成型後の高温環境下において、析出物が少なく、透明性の低下が小さく、さらに環境負荷が小さい、各種携帯機器の筐体、家電、自動車の銘板用または建材用部材として好適な成型用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決することができる本発明の成型用ポリエステルフィルムは、以下の構成からなる。
【0015】
本発明における第1の発明は、共重合ポリエステルを含む二軸配向ポリエステルフィルムよりなる成型用ポリエステルフィルムであって、(1)フィルムの長手方向及び幅方向における100%伸張時応力が、いずれも25℃において40〜300MPa及び100℃において1〜100MPa、(2)フィルムの150℃での長手方向及び幅方向の熱収縮率が0.01〜5.0%、(3)ヘーズが0.1〜3.0%、(4)少なくとも片面のフィルムの表面粗さ(Ra)が0.005〜0.030μm、(5)面配向度が0.095以下、(6)フィルムを170℃で10分間熱処理した後のヘーズの増加が0.3%以下であることを特徴とする成型用ポリエステルフィルムである。
【0016】
第2の発明は、共重合ポリエステルが、(a)芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールと、分岐状脂肪族グリコール又は脂環族グリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステル、あるいは(b)テレフタル酸及びイソフタル酸を含む芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステルであることを特徴とする第1の発明に記載の成型用ポリエステルフィルムである。
【0017】
第3の発明は、二軸配向ポリエステルフィルムを構成するポリエステルが、さらにグリコール成分として1,3−プロパンジオール単位または1,4−ブタンジオール単位を含むことを特徴とする第2の発明に記載の成型用ポリエステルフィルムである。
【0018】
第4の発明は、二軸配向ポリエステルフィルムの融点が200〜245℃であることを特徴とする第1〜3の発明のいずれかに記載の成型用ポリエステルフィルムである。
【0019】
第5の発明は、二軸配向ポリエステルフィルムを基材フィルムとし、該基材フィルムの片面または両面に厚みが0.01〜5μmの表面層を積層してなる成型用ポリエステルフィルムであって、前記基材フィルムは実質的に粒子を含有せず、表面層にのみ粒子を含有させることを特徴とする第1〜4の発明のいずれかに記載の成型用ポリエステルフィルムである。
【0020】
第6の発明は、表面層が密着性改質樹脂と粒子から主として構成されていることを特徴とする第5の発明に記載の成型用ポリエステルフィルムである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の成型用ポリエステルフィルムは、低い温度や低い圧力下での加熱成型時の成型性に優れているので幅広い成型方法に適用でき、かつ成型品として常温雰囲気下で使用する際に、弾性および形態安定性(熱収縮特性、厚み斑)に優れ、そのうえ耐溶剤性、耐熱性、さらに環境負荷が小さい。また、後加工時にロール状に巻き取った長尺のフィルムを巻き出す際に、ブロッキングや破れが起こりにくいため、生産性に優れている。
【0022】
また、本発明の成型用ポリエステルフィルムは、高温環境下においてフィルム表面に析出する環状三量体の量が少ないため、フィルムを加熱した際に、透明性の低下やフィルム表面への環状三量体の移行が抑制される。そのため、該フィルムに印刷や蒸着等の加工をした場合の析出物の発生が少なく、かつ成型加工時の金型の汚染が少なく、さらに、高温での使用においても、高い透明性が維持できるという利点を有する。したがって、透明性が高度に優れているので、後加工時に蒸着層、スパッタリング層、または印刷層を設けた際の意匠性に優れる。そのため、各種携帯機器の筐体、家電、自動車の銘板用または建材用部材として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
まず、本発明の成型性ポリエステルフィルムで規定した物性の技術的意義について説明する。次いで、本発明の成型性ポリエステルフィルムを製造するための方法について説明する。
【0024】
(本発明に記載の物性の技術的意味と意義)
本発明において、100%伸長時の応力(F100)とは、フィルムの成型性と密接な関連がある尺度である。F100がフィルムの成型性と密接な関連を持つ理由として、例えば、真空成形法を用いて二軸配向ポリエステルフィルムを成型する際、金型のコーナー付近では、フィルムは局部的に100%以上に伸長する場合がある。F100が高いフィルムでは、このような局所的に伸長された部分において、部分的に極めて高い応力が発生し、この応力集中によりフィルムが破断し、成形性が低下すると考えられる。一方、F100が小さすぎるフィルムでは、成形性は良好となるものの、金型の平面部のような均一に伸長される部分において、極めて弱い張力しか発生せず、その結果、該部分におけるフィルムの均一な伸長が得られないのではないかと考えられる。
【0025】
本発明では、成型時の温度に対応する成型性と関連のある物性として、100℃における100%伸長時応力(F100100)を用いている。また、凹凸や窪みのある金型を用いて成型する際に、成型前のフィルムを事前にそれらの型に軽く追随させて成型する際の成型性と関連のある物性として、25℃における100%伸長時応力(F10025)を用いている。
【0026】
本発明における成型用ポリエステルフィルムは、フィルムの長手方向及び幅方向における25℃での100%伸張時応力(F10025)がいずれも30〜300MPaである。
【0027】
フィルムの長手方向及び幅方向におけるF10025は40〜300MPaであり、下限値は、好ましくは50MPa、より好ましくは60MPaである。また上限値は、好ましくは250MPa、より好ましくは200MPa、さらに好ましくは180MPaである。F10025が40MPa未満の場合、ロール状のフィルムを引っ張って巻きだすときに、フィルムが伸びたり破れたりするため作業性が不良となる。一方、F10025が300MPaを超える場合、成型性が不良になる。特に、凹凸や窪みのある金型を用いて成型する場合に、成型前のフィルムを事前にそれらの型に軽く追随させて成型することがある。そのような場合に、フィルムの型がつきにくくなり、完成品の意匠性が不良となることがある。
【0028】
また、本発明における成型用ポリエステルフィルムは、フィルムの長手方向及び幅方向における100℃での100%伸張時応力(F100100)が、いずれも1〜100MPaであることが重要である。
【0029】
フィルムの長手方向及び幅方向におけるF100100の上限は、成型性の点から、90MPaが好ましく、80MPaがより好ましく、70MPaが特に好ましい。一方、F100100の下限は、成型品を使用する際の弾性や形態安定性の点から、5MPaが好ましく、10MPaがより好ましく、20MPaが特に好ましい。
【0030】
本発明のフィルムにおいて、150℃における長手方向及び幅方向の熱収縮率は0.01〜5.0%である。150℃における熱収縮率の下限値は、0.1%が好ましく、より好ましくは0.5%である。一方、150℃における熱収縮率の上限値は、4.5%が好ましくは、より好ましくは4.1%、さらに好ましくは3.2%である。150℃における長手方向及び幅方向のフィルムの熱収縮率が0.01%未満の成型用二軸延伸ポリエステルフィルムを製造しても、実用上の効果に顕著な差が見られず、生産性が非常に低下するため、150℃での熱収縮率を0.01%未満とする必然性はない。一方、150℃における長手方向及び幅方向のフィルムの熱収縮率が5.0%を超えると、蒸着、スパッタリングまたは印刷などの熱のかかる後処理工程において、フィルムが変形しやすくなり、後加工後のフィルムの外観や意匠性が不良となる。
【0031】
また、本発明において、フィルムのヘーズは0.1〜3.0%である。ヘーズの下限値は0.3%が好ましく、より好ましくは0.5%である。一方、ヘーズの上限値は2.5%が好ましく、より好ましくは2.0%である。ヘーズが0.1%未満のフィルムはすべり性が悪いため通常の生産性で工業規模で生産することは困難である。一方、フィルムのヘーズが3.0%を超える場合、金属などの蒸着やスパッタリング面、または印刷面をフィルムの裏面から見た場合、金属や印刷面がくすんで見えるため、意匠性が乏しくなる。なお、フィルム中のハンドリング性の改良のために一般的に行われる、粒子をフィルム中に含有させてフィルム表面に凹凸を形成する方法では、ヘーズが2.0%以下のフィルムを得ることは難しい。
【0032】
本発明において、少なくとも片面のフィルムの表面粗さ(Ra)は、0.005〜0.030μmである。Raの下限値は0.006μmが好ましく、より好ましくは0.007μmである。一方、Raの上限値は0.025μmが好ましく、より好ましくは0.015μmである。少なくとも片面のフィルムのRaが小さくなるにつれ、フィルムを巻取ることが困難となり、また、一旦ロール状に巻き取ったフィルムを巻き出す際に、ブロッキングやフィルムの破れが発生する頻度が増加する。また、Raが0.03μmを超えると、蒸着、スパッタリングまたは印刷などの後加工工程で突起が欠点となり、意匠性が低下する。
【0033】
本発明において、フィルムの面配向度(ΔP)も成型性と関連のある物性であり、面配向度が高いほど分子鎖が面方向に配列し、成型性が低下する。本発明では、フィルムの面配向度の上限は0.095以下であることが要望されており、0.090がより好ましい。また、面配向度が小さいほど成型性は良くなるが、フィルムの強度が低下し、厚み斑などの平面性が悪化しやすくなる。したがって、面配向度の下限は0.001とすることが好ましく、0.01がより好ましく、0.04が特に好ましい。
【0034】
また、本発明の成型用ポリエステルフィルムは、170℃で10分間加熱した後のヘーズの増加が0.30%以下であることが重要であり、好ましくは0.25%以下であり、特に好ましくは0.20%以下である。なお、フィルムに上記の加熱処理を行っても、フィルム表面の環状三量体の量やヘーズが変化しないことが最も好ましい。しかしながら、前記特性の変化をゼロにすることは極めて高度な技術が必要となるが、実用上は前記範囲内に管理できていれば、問題なく使用することができる。
【0035】
フィルムを170℃で10分間加熱した後のヘーズの増加が0.30%を超える場合には、印刷や蒸着など熱をともなう加工を行う場合、高温あるいは減圧下で成型する場合、成形品を高温で使用する場合に、フィルム表面への環状三量体の移行が増大して、透明性の低下や析出物による品位の低下が見られる。
【0036】
また、本発明の成型用ポリエステルフィルムは、フィルム表面の環状三量体が0.20mg/m以下であることが好ましく、より好ましくは0.18mg/m以下であり、特に好ましくは0.16mg/m以下である。フィルム表面の環状三量体が0.20mg/mを超える場合は、該フィルムに各種機能を有した機能層や機能フィルムを積層する時の接着阻害や欠陥が発生するので好ましくない。
【0037】
また、本発明の成型用ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムを170℃で10分間加熱したときのフィルム表面の環状三量体が0.9mg/m以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.6mg/m以下であり、特に好ましくは0.3mg/mである。
【0038】
(本発明の着想点)
本願は、従来技術に記載した特許文献12の改良発明である。
本発明のように共重合成分を5〜50モル%含む共重合ポリエステルを原料として用いて得たポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどに比較して結晶化速度が遅く、また結晶性が低い。また、面配向度と150℃の熱収縮率を小さくするために、特許文献12に記載した、通常よりも高温で熱処理するという方法を用いた場合、延伸終了後に急激に高温で熱処理をするため、熱処理ゾーンにおいて結晶性の低い材料を構成する分子の運動性が高くなる。よって、延伸工程において粒子(二軸配向フィルム中の粒子あるいはコーティング層中の粒子)が隆起することにより形成された表面突起が、熱処理ゾーンにおいて再び埋没してしまうために、十分な表面粗さを得ることができない。それゆえ、フィルムをきれいに巻き取り、かつロール状に巻き取ったフィルムを巻き出す際のブロッキングや破れを抑制するために、粒子の添加量を必要以上に増やすと、ヘーズが悪化するという問題がある。
【0039】
本発明において、熱処理ゾーンを2段(以上)にし、一段目の熱処理温度TS1と2段目の熱処理温度TS2を特定範囲に制御するという好適な方法を用いることで、上記の問題点を解決したのである。このメカニズムは以下のように考えている。
【0040】
第1段目の熱処理ゾーンにおいて、粒子がフィルム内部に埋没する前に、ある程度フィルムの結晶化を促進させておいて、さらに2段目の熱処理ゾーンにおいて十分に温度を上げても、分子の運動性は十分に低下しており、表面の突起を形成したまま、さらに結晶性を促進させ、熱収縮率の低いフィルムが得られる。また、透明性の点から、必要以上に粒子を含有させる必要がなくなる。
【0041】
さらに、原料のポリエステル樹脂中の環状三量体の含有量の低減技術、あるいはフィルム製造時の溶融押出工程における溶融状態のポリエステル樹脂中の環状三量体の再生抑制技術の少なくとも1つの技術を用いることにより、フィルム中の環状三量体の含有量を低減させている。そのため、フィルムは高温環境下(例えば、170℃で10分間)においても、環状三量体に起因するヘーズの増加を抑制することができ、高い透明性を維持することができる。
【0042】
(フィルムの好適な製造方法)
本発明の成型用ポリエステルフィルムは、原料として共重合ポリエステルを用いる。共重合ポリエステルとしては、(a)芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールと、分岐状脂肪族グリコール又は脂環族グリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステル、あるいは(b)テレフタル酸及びイソフタル酸を含む芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステルが好適である。また、二軸配向ポリエステルフィルムを構成するポリエステルが、さらにグリコール成分として1,3−プロパンジオール単位または1,4−ブタンジオール単位を含むことが成型性をさらに向上させる点から好ましい。
【0043】
本発明において、フィルム原料としては、共重合ポリエステル単独、1種類以上のホモポリエステルまたは共重合ポリエステルのブレンド、またはホモポリエステルと共重合ポリエステルの組合せのいずれの方法も可能である。これらの中でも、ブレンド法が融点の低下を抑制する点から好適である。
【0044】
前記の共重合ポリエステルとして、芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールと、分岐状脂肪族グリコール又は脂環族グリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステルを用いる場合、芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸又はそれらのエステル形成性誘導体が好適であり、全ジカルボン酸成分に対するテレフタル酸および/またはナフタレンジカルボン酸成分の量は70モル%以上、好ましくは85モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、とりわけ好ましくは100モル%である。
【0045】
また、分岐状脂肪族グリコールとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールなどが例示される。脂環族グリコールとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなどが例示される。
【0046】
これらのなかでも、ネオペンチルグリコールや1,4−シクロヘキサンジメタノールが特に好ましい。さらに、本発明においては、上記のグリコール成分に加えて1,3−プロパンジオールや1,4−ブタンジオールを共重合成分とすることが、より好ましい実施態様である。これらのグリコールを共重合成分として使用することは、前記の特性を付与するために好適であり、さらに、透明性や耐熱性にも優れ、密着性改質層との密着性を向上させる点からも好ましい。
【0047】
また、前記の共重合ポリエステルとして、テレフタル酸及びイソフタル酸を含む芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステルを用いる場合、エチレングリコールの量は全グリコール成分に対し70モル%以上、好ましくは85モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、とりわけ好ましくは100モル%である。エチレングリコール以外のグリコール成分としては、前記の分岐状脂肪族グリコールや脂環族グリコール、またはジエチレングリコールが好適である。
【0048】
前記共重合ポリエステルを製造する際に用いる触媒としては、例えば、アルカリ土類金属化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、チタン/ケイ素複合酸化物、ゲルマニウム化合物などが使用できる。これらのなかでも、チタン化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、アルミニウム化合物が触媒活性の点から好ましい。
【0049】
前記共重合ポリエステルを製造する際に、熱安定剤としてリン化合物を添加することが好ましい。前記リン化合物としては、例えばリン酸、亜リン酸などが好ましい。
【0050】
前記共重合ポリエステルは、成型性、密着性、製膜安定性の点から、固有粘度が0.50dl/g以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.55dl/g以上、特に好ましくは0.60dl/g以上である。固有粘度が0.50dl/g未満では、成型性が低下する傾向がある。また、メルトラインに異物除去のためのフィルターを設けた場合、溶融樹脂の押出時における吐出安定性の点から、固有粘度の上限を1.0dl/gとすることが好ましい。
【0051】
本発明では、フィルム原料として、1種類以上のホモポリエステルまたは共重合ポリエステルを用い、これらをブレンドしてフィルムを製膜することによって、共重合ポリエステルのみを用いた場合と同等の柔軟性を維持しながら透明性と高い融点(耐熱性)を実現することができる。また、高融点のホモポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)のみを用いた場合に対し、高い透明性を維持しながら柔軟性と実用上問題のない融点(耐熱性)を実現することができる。
【0052】
また、前記共重合ポリエステルと、ポリエチレンテレフタレート以外のホモポリエステル(例えば、ポリテトラメチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート)を少なくとも1種以上ブレンドして、本発明の成型用ポリエステルフィルムの原料として使用することは、成型性の点からもさらに好ましい。
【0053】
前記のポリエステルフィルムの融点は、耐熱性及び成型性の点から、200〜245℃であることが好ましい。使用するポリマーの種類や組成、さらに製膜条件を前記融点の範囲内に制御することにより、成型性と仕上がり性とのバランスが取れ、高品位の成型品を経済的に生産することができる。ここで、融点とは、いわゆる示差走査熱量測定(DSC)の1次昇温時に検出される融解時の吸熱ピーク温度のことである。該融点は、示差走査熱量分析装置(マックサイエンス社製、DSC3100S)を用いて、昇温速度20℃/分で測定して求めた。融点の下限値は、210℃がさらに好ましく、特に好ましくは230℃である。融点が200℃未満であると、耐熱性が悪化する傾向がある。そのため、成型時や成型品の使用時に高温にさらされた際に、問題となる場合がある。
【0054】
前記融点の上限値は、耐熱性の点からは高いほうが良いが、ポリエチレンテレフタレート単位を主体とした場合、融点が250℃を超えるフィルムでは、成型性が悪化する傾向がある。また、透明性も悪化する傾向がある。さらに、高度な成型性や透明性を得るためには、融点の上限を245℃に制御することが好ましい。
【0055】
また、フィルムの滑り性や巻き取り性などのハンドリング性を改善するために、フィルム表面に凹凸を形成させることが好ましい。フィルム表面に凹凸を形成させる方法としては、一般にフィルム中に粒子を含有させる方法が用いられる。
【0056】
前記粒子としては、平均粒子径が0.01〜10μmの内部析出粒子、無機粒子及び/又は有機粒子などの外部粒子が挙げられる。平均粒子径が10μmを越える粒子を使用すると、フィルムの欠陥が生じ易くなり、意匠性や透明性が悪化する傾向がある。一方、平均粒子径が0.01μm未満の粒子では、フィルムの滑り性や巻き取り性などのハンドリング性が低下する傾向がある。前記粒子の平均粒子径は、滑り性や巻き取り性などのハンドリング性の点から、下限は0.10μmとすることがさらに好ましく、特に好ましくは0.50μmである。一方、前記粒子の平均粒子径は、透明性や粗大突起によるフィルム欠点の低減の点から、上限は5μmとすることがさらに好ましく、特に好ましくは2μmである。
【0057】
なお、粒子の平均粒子径は、少なくとも200個以上の粒子を電子顕微鏡法により複数枚写真撮影し、OHPフィルムに粒子の輪郭をトレースし、該トレース像を画像解析装置にて円相当径に換算して算出する。
【0058】
前記外部粒子としては、例えば、湿式及び乾式シリカ、コロイダルシリカ、珪酸アルミニウム、酸化チタン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、マイカ、カオリン、クレー、ヒドロキシアパタイト等の無機粒子及びスチレン、シリコーン、アクリル酸類等を構成成分とする有機粒子等を使用することができる。なかでも、乾式、湿式及び乾式コロイド状シリカ、アルミナ等の無機粒子及びスチレン、シリコーン、アクリル酸、メタクリル酸、ポリエステル、ジビニルベンゼン等を構成成分とする有機粒子等が、好ましく使用される。これらの内部粒子、無機粒子及び/又は有機粒子は二種以上を、本願発明で規定した特性を損ねない範囲内で併用してもよい。
【0059】
さらに、前記粒子のフィルム中での含有量は0.001〜10質量%の範囲であることが好ましい。0.001質量%未満の場合、フィルムの滑り性が悪化したり、巻き取りが困難となったりするなどハンドリング性が低下しやすくなる。一方、10質量%を越えると、粗大突起の形成、製膜性や透明性の悪化などの原因となりやすい。
【0060】
また、フィルム中に含有させる粒子は、一般的には屈折率がポリエステルと異なるため、フィルムの透明性を低下させる要因となる。成型品は意匠性を高めるために、フィルム
を成型する前にフィルム表面に印刷が施される場合が多い。このような印刷層は、成型用フィルムの裏側に施されることが多いため、印刷鮮明性の点から、フィルムの透明性が高いことが要望されている。
【0061】
そのため、フィルムのハンドリング性を維持しながら、高度な透明性を得るために、主層の基材フィルム中に実質的に粒子を含有させず、厚みが0.01〜5μmの表面層にのみ粒子を含有させた積層構造を有する積層フィルムを用いることが有効である。表面層の厚みの上限は3μmが好ましく、特に好ましくは1μmである。この場合、粒子は上記で例示したものを用いることができる。
【0062】
本発明において、フィルムのヘーズを0.1〜3.0%とするためには、上記の基材フィルム中に実質的に粒子を含有させず、厚みが0.01〜5μmの表面層を形成して表面層にのみ粒子を含有させた積層構造とすることが好ましい。なお、ハンドリング性を維持しながら、フィルム中に粒子を含有させることのみで、ヘーズが3.0%以下となるフィルムを得ることは難しい。
【0063】
なお、上記でいう「基材フィルム中に実質的に粒子を含有させず」とは、例えば無機粒子の場合、ケイ光X線分析で無機元素を定量した場合に検出限界以下となる含有量を意味する。これは意識的に粒子を基材フィルムに添加させなくても、外来異物由来のコンタミ成分などが混入する場合があるためである。
ヘーズが低いフィルムを得るには、基材フィルム中に実質的に粒子を含有させないことが好ましいが、30ppm以下であれば基材フィルム中に粒子を添加しても構わない。
【0064】
厚みの薄い表面層の形成は、コーティング法または共押出し法によって行うことができる。なかでも、コーティング法の場合、粒子を含有する密着性改質樹脂からなる組成物を塗布層として用いることで、印刷層との密着性も改良することができるので好ましい方法である。前記の密着性改質樹脂としては、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル系重合体および/またはそれらの共重合体から選ばれた少なくとも1種からなる樹脂が好ましい。
【0065】
前記表面層に含有させる粒子としては、前記で記載した粒子と同様のものを使用することができる。粒子のなかでも、シリカ粒子、ガラスフィラー、シリカ−アルミナ複合酸化物粒子は屈折率がポリエステルに比較的近いため、透明性の点から特に好適である。
【0066】
さらに、前記表面層における粒子含有量は、0.01〜25質量%の範囲であることが好ましい。0.01質量%未満の場合、フィルムの滑り性が悪化したり、巻き取りが困難となったりするなどハンドリング性が低下しやすくなる。一方、25質量%を越えると、透明性や塗布性が悪化しやすくなる。
【0067】
本発明のポリエステルフィルムは、他の機能を付与するために、種類の異なるポリエステルを用い、公知の方法で積層構造とすることができる。かかる積層フィルムの形態としては、例えば、A/Bの2種2層構成、B/A/B構成の2種3層構成、C/A/Bの3種3層構成の積層形態が挙げられる
【0068】
本発明の成型用ポリエステルフィルムは、二軸延伸フィルムであることが重要である。本発明においては、二軸延伸による分子配向により、前記のフィルムの微小張力(初期荷重49mN)下での熱変形率を本発明の範囲内に制御することができ、未延伸シートの欠点である耐溶剤性や寸法安定性が改善される。すなわち、未延伸シートの成型性の良さを維持しつつ、未延伸シートの欠点である耐溶剤性や耐熱性を改善したことが本発明の特徴の一つである。
【0069】
前記二軸配向ポリエステルフィルムの好適な製造方法としては、例えばポリエステル樹脂を必要に応じて乾燥した後、公知の溶融押出機に供給し、スリット状のダイからシート状に押出し、静電印加などの方式によりキャスティングドラムに密着させ、冷却固化し、未延伸シート(原反)を得た後、かかる未延伸シートを二軸延伸する方法が挙げられる。
【0070】
二軸延伸方法としては、未延伸シートをフィルムの長手方向(MD)及び幅方向(TD)に延伸、熱処理し、目的とする面内配向度を有する二軸延伸フィルムを得る方法が採用される。これらの方式の中でも、フィルム品質の点で、長手方向に延伸した後、幅方向に延伸するMD/TD法、又は幅方向に延伸した後、長手方向に延伸するTD/MD法などの逐次二軸延伸方式、長手方向及び幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸方式が望ましい。また、同時二軸延伸法の場合、リニアモーターで駆動するテンターを用いてもよい。さらに、必要に応じて、同一方向の延伸を多段階に分けて行う多段延伸法を用いても構わない。
【0071】
二軸延伸する際のフィルム延伸倍率としては、長手方向と幅方向に1.6〜4.2倍とすることが好ましく、特に好ましくは1.7〜4.0倍である。この場合、長手方向と幅方向の延伸倍率はどちらを大きくしてもよいし、同一倍率としてもよい。長手方向の延伸倍率は2.8〜4.0倍、幅方向の延伸倍率は3.0〜4.5倍で行うことがより好ましい。
【0072】
本発明の成型用ポリエステルフィルムを製造する際の延伸条件としては、例えば、下記の条件を採用することが好ましい。
【0073】
縦延伸においては、後の横延伸がスムースにできるように、延伸温度は50〜110℃、延伸倍率は1.6〜4.0倍とすることがさらに好ましい。
【0074】
通常、ポリエチレンテレフタレートを延伸する際に、適切な条件に比べ延伸温度が低い場合は、横延伸の開始初期で急激に降伏応力が高くなるため、延伸ができない。また、たとえ延伸ができても厚みや延伸倍率が不均一になりやすいため好ましくない。
【0075】
また、適切な条件に比べ延伸温度が高い場合は初期の応力は低くなるが、延伸倍率が高くなっても応力は高くならない。そのため、25℃における100%伸張時応力が小さいフィルムとなる。よって、最適な延伸温度をとることにより、延伸性を確保しながら配向の高いフィルムを得ることができる。
【0076】
しかしながら、前記共重合ポリエステルが共重合成分を1〜40モル%含む場合、降伏応力をなくすように延伸温度を高くしていくと、延伸応力は急激に低下する。特に、延伸の後半でも応力が高くならないため、配向が高くならず、25℃における100%伸張時応力が低下する。
【0077】
このような現象は、フィルムの厚さが60〜500μmで発生しやすく、特に厚みが100〜300μmのフィルムで顕著に見られる。そのため、本発明の共重合したポリエステルを用いたフィルムの場合、横方向の延伸温度は、以下の条件とすることが好ましい。
【0078】
まず、予熱温度はフィルム材料を押出機で押出した後の混合物(原反)をDSCにおいて測定した場合のガラス転移温度の+10℃〜+50℃の範囲で行う。次いで、横延伸の前半部では延伸温度は予熱温度に対して−20℃〜+15℃とすることが好ましい。横延伸の後半部では、延伸温度は前半部の延伸温度に対して0℃〜−30℃とすることが好ましく、特に好ましくは前半部の延伸温度に対して−10℃〜−20℃の範囲である。このような条件を採用することにより、横延伸の前半では降伏応力が小さいため延伸しやすく、また後半では配向しやすくなる。なお、横方向の延伸倍率は、2.5〜5.0倍とすることが好ましい。その結果、本発明で規定したF10025やF100100を満足するフィルムを得ることが可能である。
【0079】
さらに、二軸延伸後にフィルムの熱処理(熱固定処理)を行う。この熱処理条件は、ヘーズと表面粗さ、つまりフィルムのすべり性を両立させるために重要な条件である。延伸終了後のフィルムを引き続きテンター内で熱処理するが、この場合、熱処理は2段階以上に分けて行うことが重要である。一段目の熱処理温度(TS1)は、二段目の熱処理温度(TS2)の−5℃〜−30℃の範囲、下限値は好ましくはTS2−10℃、上限値は好ましくはTS2−25℃である。二段目の熱処理温度(TS2)は、フィルム材料を押出機で押出した後の混合物(原反)を後述のDSCにおいて測定した場合の融点の−5℃〜−35℃の範囲で行う。TS2の下限値は好ましくは融点−10℃、TS2の上限値は好ましくは融点−30℃である。なお、TS1とTS2の間に中間の熱処理ゾーンを設けることも、またTS2の後に熱処理ゾーンを設けることも可能である。これらの場合、TS2は最高の熱処理温度を示す。このような条件を取ることにより、ヘーズが低く、すべり性が良好なフィルムが得られる。
熱処理は緊張熱処理、弛緩熱処理のいずれでも構わない。熱収縮率を低くするためには、3〜10%の弛緩熱処理が好ましい。
【0080】
その理由は、以下のようなものと考える。本発明のような共重合成分が5〜50モル%程度含まれるポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどに比較して結晶化速度が遅く、また結晶性が低い。そのため、延伸終了後に急激に高温で熱処理をすると、熱処理ゾーンにおいて結晶性の低い材料を構成する分子の運動性が高くなる。よって、延伸工程において粒子(フィルム中の粒子および/またはコーティング層の粒子)が隆起することにより形成された表面突起が、熱処理ゾーンにおいて再び埋没してしまうために、十分な表面粗さを得ることができない。それゆえ、フィルムをきれいに巻き取るためには、粒子の含有量をポリエチレンテレフタレートフィルムの必要量以上に増加させることになり、ヘーズが低下する原因になる。一方、TS2の温度を所定の温度より低くすると、150℃における熱収縮率が十分低いフィルムが得られなくなる。
【0081】
よって、熱処理ゾーンを2段(以上)にする本願発明の方法をとることは、TS1において粒子がフィルム内部に埋没する前に、ある程度フィルムの結晶化を促進させておいて、さらにTS2ゾーンにおいて十分に温度を上げても、前項の状態に比べれば十分分子の運動性は低下しており表面の突起を形成したまま、さらに結晶性を促進させ、熱収縮率の低いフィルムが得られる。また、必要以上の粒子の添加を防ぐことができる。
【0082】
一般に、面配向度を下げる手段としては延伸倍率を下げる方法と共重合成分の配合量を増加させる方法が知られているが、前者の方法はフィルムの厚み斑が悪化し、後者の方法ではフィルムの融点が低下し、耐熱性が悪化するため好ましくない。本発明において、二軸配向ポリエステルフィルムの面配向度と150℃の熱収縮率を小さくするために、通常よりも高温で熱固定を行う。熱固定は、前述の熱処理、特に二段目の熱処理において行うことが好ましい。
【0083】
また、本発明においては二軸配向ポリエステルフィルムとして共重合ポリエステルを用いる必要があり、融点が均一重合体に比して低いため、熱固定温度を高くすると、横延伸工程でフィルムを保持するクリップにフィルムが融着して剥離しにくくなる。したがって、テンター出口でクリップがフィルムを開放するときにクリップ近傍を充分に冷却することが重要である。具体的には、フィルムとクリップとを剥離しやすくするために、(1)クリップが加熱されにくいように、クリップ部分に熱遮蔽壁を設ける方法、(2)クリップ冷却機構をテンターに付加する方法、(3)冷却能力の強化を行うために熱固定後の冷却区間を長く設定し、フィルム全体の冷却を十分行う方法、(4)冷却区間の長さ、区画数を増やすことで、冷却効率を増加させる方法、(5)クリップの戻り部分が炉の外側を走行するタイプを用いてクリップの冷却を強化する方法、などを採用することが好ましい。
【0084】
以下で、フィルムを170℃で10分間加熱した後のヘーズの増加を0.30%以下とするための手段について説明する。
【0085】
フィルムを170℃で10分間加熱した後のヘーズの増加を0.30%以下とするためには、フィルム原料として用いるポリエステル樹脂中の環状三量体の含有量を5000ppm以下に管理することが好ましく、さらに好ましくは4500ppm以下、特に好ましくは4000ppm以下に管理する。
【0086】
前記のポリエステル樹脂中の環状三量体の含有量を低減させるための好適な手段としては、例えば、固有粘度が0.40〜0.60dl/gのポリエステルのチップを固相重合する方法が挙げられる。また、所定の固有粘度のポリエステル樹脂を不活性気体雰囲気下または減圧下で、固有粘度が実質的に変化しない条件で加熱処理する方法も例示される。さらに、環状三量体を溶解する溶媒で抽出する方法を用いてもよい。
【0087】
また、フィルム製造時の溶融押出工程において、溶融状態のポリエステル樹脂中の環状三量体の再生を抑制することが重要である。溶融状態のポリエステル樹脂中の環状三量体の再生を出来るだけ抑制するためには、ポリエステル樹脂中に残存する活性な重合触媒の量を出来るだけ減少させることが重要である。このような活性な重合触媒の量を減少させる代表的な手段としては、下記の方法が挙げられる。
【0088】
一つの手段としては、フィルム原料として使用するポリエステルを、水と接触処理させることによって、重合触媒を不活性化させる方法が挙げられる。
【0089】
フィルム原料として使用するポリエステル中の重縮合触媒を失活処理させる方法としては、溶融重縮合後や固相重合後にポリエステルチップを水や水蒸気または水蒸気含有気体と接触処理する水処理方法が挙げられる。
【0090】
水処理方法としては、水中に浸ける方法やシャワ−でチップ上に水をかける方法等が挙げられる。水処理を行う際の処理時間は、5分〜2日間が好ましく、さらに好ましくは10分〜1日間、特に好ましくは30分〜10時間である。また、水の温度は、20〜180℃が好ましく、さらに好ましくは40〜150℃、特に好ましくは50〜120℃である。
【0091】
以下に、水処理を工業的に行うための好適な方法を例示する。また、水処理方法は、連続方式、バッチ方式のいずれであっても差し支えないが、工業的に行うためには連続方式の方が好ましい。
【0092】
ポリエステルのチップをバッチ方式で水処理する場合は、サイロタイプの処理槽が挙げられる。すなわち、バッチ方式でポリエステルのチップをサイロへ受け入れ水処理を行う。ポリエステルのチップを連続方式で水処理する場合は、塔型の処理槽に継続的又は間欠的にポリエステルのチップを上部より受け入れ、水処理させることができる。
【0093】
また、ポリエステルのチップと水蒸気または水蒸気含有ガスとを接触させて処理する場合には、50〜150℃、好ましくは50〜110℃の温度の水蒸気または水蒸気含有ガスあるいは水蒸気含有空気を好ましくは粒状ポリエチレンテレフタレート1kg当たり、水蒸気として0.5g以上の量で供給または存在させて、粒状ポリエチレンテレフタレートと水蒸気とを接触させる方法が好適である。
【0094】
この、ポリエステルのチップと水蒸気との接触は、通常10分間〜2日間、好ましくは20分間〜10時間行われる。
【0095】
以下に、粒状ポリエチレンテレフタレートと水蒸気または水蒸気含有ガスとの接触処理を工業的に行う方法を例示するが、これに限定されるものではない。また処理方法は連続方式、バッチ方式のいずれであっても差し支えない。
【0096】
ポリエステルのチップをバッチ方式で水蒸気と接触処理をする場合は、サイロタイプの処理装置が挙げられる。すなわちポリエステルのチップをサイロへ受け入れ、バッチ方式で、水蒸気または水蒸気含有ガスを供給し接触処理を行う。
【0097】
ポリエステルのチップを連続的に水蒸気と接触処理する場合は、塔型の処理装置に連続で粒状ポリエチレンテレフタレートを上部より受け入れ、並流あるいは向流で水蒸気を連続供給し水蒸気と接触処理させることができる。
【0098】
水又は水蒸気で処理した場合は、粒状ポリエチレンテレフタレートを必要に応じて振動篩機、シモンカ−タ−などの水切り装置で水切りし、コンベヤ−によって次の乾燥工程へ移送する。
【0099】
水又は水蒸気と接触処理したポリエステルのチップの乾燥は、通常用いられるポリエステルの乾燥処理を用いることができる。連続的に乾燥する方法としては、上部よりポリエステルのチップを供給し、下部より乾燥ガスを通気する、ホッパ−型の通気乾燥機が好適である。また、バッチ方式で乾燥する方法としては、大気圧下で乾燥ガスを通気しながら乾燥する乾燥機が好適である。
【0100】
乾燥ガスとしては、大気空気でも差し支えないが、ポリエステルの加水分解や熱酸化分解による分子量低下を防止する点から、乾燥窒素、除湿空気が好ましい。
【0101】
また、水処理以外の他の手段として、フィルム原料として使用するポリエステル樹脂(以下、ポリエステル樹脂(1)と称する)と、主として芳香族ジカルボン酸とエチレングリコール成分とからなり、リン化合物をリン元素として100〜5000ppmを含む重縮合触媒失活用ポリエステル樹脂(以下、ポリエステル樹脂(2)と称する)を混合して溶融押し出しする方法が挙げられる。
【0102】
ポリエステル樹脂(1)とポリエステル樹脂(2)との混合は、フィルム製造時の溶融押出前に行ってもよいし、事前に両方のポリエステル樹脂を混合した後に溶融押出しをしてもよい。
【0103】
前記のポリエステル樹脂(2)に含まれるリン化合物としては、リン酸系化合物、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、亜リン酸系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物が挙げられる。
【0104】
リン酸系化合物としては、例えば、リン酸、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジプロピルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジアミルホスフェート、ジヘキシルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリアミルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、リン酸とアルキレングリコールとのエステルなどが挙げられる。
【0105】
ホスホン酸系化合物としては、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジフェニル、ベンジルホスホン酸ジメチル、ベンジルホスホン酸ジエチル、トリエチルホスホノアセテート、トリブチルホスホノアセテート、トリ(ヒドロキシエチル)ホスホノアセテート、トリ(ヒドロキシプロピル)ホスホノアセテート、トリ(ヒドロキシブチル)ホスホノアセテートなどが挙げられる。
【0106】
ホスフィン酸系化合物としては、例えば、ジフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸メチル、ジフェニルホスフィン酸フェニル、フェニルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸メチル、フェニルホスフィン酸フェニル、2−カルボキシエチル−メチルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−エチルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−プロピルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−フェニルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−m−トルイルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−p−トルイルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−キシリルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−ベンジルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−m−エチルベンジルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−メチルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−エチルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−プロピルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−フェニルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−m−トルイルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−p−トルイルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−キシリルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−ベンジルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−m−エチルベンジルホスフィン酸、及びこれらの環状酸無水物、或いはこれらのメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、エチレングリコールエステル、プロピオングリコールエステル、ブタンジオールとのエステルなどが挙げられる。
【0107】
亜リン酸系化合物としては、例えば、亜リン酸ならびにジメチルホスファイト、ジエチルホスファイト、ジプロピルホスファイト、ジブチルホスファイト、ジアミルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスファイト、亜リン酸とアルキレングリコールとのエステルなどが挙げられる。
【0108】
亜ホスホン酸系化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、メチル亜ホスホン酸ジメチル、メチル亜ホスホン酸ジフェニル、フェニル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸ジメチル、フェニル亜ホスホン酸ジフェニルなどがあげられる。
【0109】
上記リン化合物は、前記のポリエステル樹脂(1)に用いたものと同種、異種のいずれでも構わないが、リン酸またはその誘導体の使用が好ましい。
【0110】
前記のポリエステル樹脂(2)は、主として芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分とから得られる熱可塑性ポリエステルであり、好ましくは、芳香族ジカルボン酸単位が酸成分の70モル%以上含むポリエステルである。さらに好ましくは、芳香族ジカルボン酸単位が酸成分の85モル%以上含むポリエステルであり、特に好ましくは、芳香族ジカルボン酸単位が酸成分の95モル%以上含むポリエステルであって、前記のリン化合物を共重合または配合したものである。
【0111】
前記のポリエステル樹脂(2)を構成する芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びその機能的誘導体等が挙げられる。
【0112】
また、前記のポリエステル樹脂(2)を構成するグリコール成分としては、エチレングリコール、1,3−トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールなどの脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール等が挙げられる。
【0113】
前記のポリエステル樹脂(2)としては、主たる構成単位がエチレンテレフタレートから構成されるポリエステルが好ましく、さらに好ましくはエチレンテレフタレート単位を70モル%以上含み、共重合成分としてイソフタル酸、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどを含む共重合ポリエステルであり、特に好ましくはエチレンテレフタレート単位を90モル%以上含むポリエステルである。
【0114】
前記のポリエステル樹脂(2)が共重合体である場合、原料仕込み時に、ジカルボン酸成分またはグリコール成分の少なくともいずれかの成分に、1種または2種以上の共重合成分を併用する。以下、テレフタル酸とエチレングリコールを出発原料とするポリエチレンテレフタレートに、エチレンテレフタレートの主鎖に共重合成分を導入する共重合ポリエステルを前記のポリエステル樹脂(2)の代表例として説明する。
【0115】
ジカルボン酸を共重合成分とする場合には、ジカルボン酸として、イソフタル酸、ジフェニル4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びその機能的誘導体、p−オキシ安息香酸、オキシカプロン酸等のオキシ酸及びその機能的誘導体、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、グルタル酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸及びその機能的誘導体、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸及びその機能的誘導体などを使用することができる。
【0116】
また、グリコールを共重合成分とする場合、グリコールとして、ジエチレングリコール、1,3−トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、ダイマーグリコール等の脂肪族グリコール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール、2,5−ノルボルナンジメチロール等の脂環族グリコール、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリアルキレングリコールなどを使用することができる。
【0117】
さらに、他の共重合成分として多官能化合物を使用する場合には、酸成分として、トリメリット酸、ピロメリット酸等を、グリコール成分として、グリセリン、ペンタエリスリトールを使用することができる。但し、これらの多官能化合物の配合量は、ポリエステルが実質的に線状を維持する程度でなければならない。また、単官能化合物、例えば、安息香酸、ナフトエ酸等を共重合させてもよい。
【0118】
前記のポリエステル樹脂(2)は、重縮合時に前記のリン化合物を添加して共重合する方法あるいは汎用のポリエステル樹脂と前記リン化合物から選ばれた少なくとも一種を押出機、例えば二軸押出機で混練する方法によって製造することが可能であるが、これらに限定されるものではない。
【0119】
ポリエステル樹脂(2)の重縮合時に前記のリン化合物を添加して共重合する方法の場合、例えば、テレフタル酸とエチレングリコールの重縮合時にリン化合物を添加して共重合させたポリエステルを代表例として、以下にその製造方法を説明する。
【0120】
テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体(例えば、テレフタル酸ジメチル)と、エチレングリコールとのエステル化反応生成物またはエステル交換反応生成物を重縮合して、ポリエステルにする際に採用される任意の方法で合成することができる。前記リン化合物はポリエステルの製造時に添加されるが、その添加時期は、エステル化工程初期から、初期縮合後期までの任意の段階で添加できるが、重縮合反応機台の腐食の問題などから、エステル化工程終了後から初期縮合後期に添加するのが好ましい。エステル交換法の場合は、エステル交換反応前、エステル交換反応過程、またはエステル交換反応終了から初期縮合後期までの任意の段階で添加することができる。
【0121】
例えば、直接エステル化法の場合、以下の製造条件で行うことが好ましい。
エステル化反応は、230〜250℃で、常圧〜加圧下で0.5〜5時間行い、エステル化反応率を少なくとも95%、好ましくは98%以上にする。次いで、240〜255℃、好ましくは240〜250℃、さらに好ましくは240〜248℃で、300〜0.1Torrで0.5〜2時間、第一段の重縮合を実施する。さらに、250〜290℃、好ましくは250〜280℃、さらに好ましくは250〜275℃で、10〜0.1Torr、好ましくは5〜0.1Torrで、目的の重合度まで重縮合を行う。リン化合物はエステル化終了後から第一段の重縮合終了までの任意の段階で添加する。また、第一段目の重縮合反応を250℃以下で実施することも重要である。
【0122】
前記の出発原料であるテレフタル酸またはエチレングリコールとしては、パラキシレンから誘導されるバージンのテレフタル酸あるいはエチレンから誘導されるエチレングリコールは勿論のこと、使用済みPETボトルからメタノール分解やエチレングリコール分解などのケミカルリサイクル法により回収したテレフタル酸、ビスヒドロキシエチルテレフタレートあるいはエチレングリコールなどの回収原料も、出発原料の少なくとも一部として利用することが出来る。前記回収原料の品質は、使用目的に応じた純度、品質に精製されていなければならないことは言うまでもない。
【0123】
前記のポリエステル樹脂(2)を製造する際に用いる重縮合触媒としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、インジウム、タリウム、ゲルマニウム、錫、鉛、ビスマス、スカンジウム、イットリウム、ニオブ、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、テルル、タンタル、タングステン、ガリウム、アルミニウム、アンチモン、ゲルマニウム、チタン、ケイ素、銀などからなる群より選ばれる1種以上の金属化合物が用いられ、特に、前記のリン化合物によって触媒作用が失活され難い、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、タングステン化合物が最適である。なお、前記のポリエステル樹脂(1)を製造する際に用いた重縮合触媒と同じものを用いてもよい。
【0124】
アンチモン化合物としては、具体的には、三酸化アンチモン、酢酸アンチモン、酒石酸アンチモン、酒石酸アンチモンカリ、オキシ塩化アンチモン、アンチモングリコレート、五酸化アンチモン、トリフェニルアンチモン等が挙げられる。
【0125】
ゲルマニウム化合物としては、具体的には、無定形二酸化ゲルマニウム、結晶性二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、蓚酸ゲルマニウム、塩化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラ−n−ブトキシド、亜リン酸ゲルマニウム等の化合物が挙げられる。
【0126】
タングステン化合物としては、タングステン酸、タングステン酸リチウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸バリウム、タングステン酸コバルト、タングステン酸銅、タングステン酸マンガン、タングステンエトキシド、タングステン酸アンモニウム等の化合物が挙げられる。
【0127】
また、前記のポリエステル樹脂(2)の製造において、ジエチレングリコールの生成を抑制するために、塩基性窒素化合物を用いることができる。塩基性窒素化合物としては、脂肪族、脂環式、芳香族および複素環式窒素化合物のいずれでもかまわない。
例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルアニリン、ジメチルアニリン、ピリジン、キノリン、ジメチルベンジルアミン、ピペリジン、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリエチルベンジルアンモニウムハイドロオキサイド、イミダゾール、イミダゾリン等が挙げられる。これらの化合物は遊離形で用いてもよいし、低級脂肪酸やTPAの塩として用いてもよい。
【0128】
また、これらの塩基性窒素化合物の反応系への添加は、初期重縮合反応が終了するまでの任意の段階で適宜選ぶことができ、単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。これらの塩基性窒素化合物の配合量は、生成ポリエステルに対し0.01〜1モル%であることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.7モル%、特に好ましくは0.1〜0.5モル%である。
【0129】
また、ポリエステル樹脂(2)の製造を、汎用のポリエステル樹脂にリン化合物を配合する方法により行う場合は、乾燥したポリエステル樹脂と前記リン化合物を二軸押出機で溶融混練してチップ化する方法、ポリエステル樹脂粒状体をリン化合物の水溶液や有機溶媒の溶液に浸漬させる方法、あるいはこれらの溶液を表面に付着させる方法などが好適である。
【0130】
前記のポリエステル樹脂(2)の固有粘度は、0.45〜1.00dl/gであることが好ましく、さらに好ましくは0.48〜0.90dl/g、特に好ましくは0.50〜0.85dl/g、最も好ましくは0.55〜0.80dl/gである。固有粘度が0.60dl/g以上のポリエステル樹脂(2)は、溶融重縮合したポリマーを固相状態で重合する方法によって製造することが好ましい。
【0131】
固有粘度が0.45dl/g未満の場合は、フィルム製造時に破断が多発したり、得られたフィルムの透明性が低下したり、機械的強度が低下するなどの問題がある。また、固有粘度が1.00dl/gを越えるポリエステル樹脂を生産するためには、重縮合時間が非常に長くなりコストアップになり、経済性の面から実用的ではないだけでなく、ポリエステル樹脂(2)と他のポリエステル樹脂を混練りしてフィルムを製造する際に、混練が不完全となり均一な品質のフィルムが得られにくくなる。
【0132】
また、前記のポリエステル樹脂(2)は、ポリマーカラー、加水分解性など物性を損なわない程度に、公知の紫外線吸収剤、酸化防止剤、酸素捕獲剤、外部より添加する粒子や重合反応中に内部で析出させた内部析出粒子、離型剤、核剤、安定剤、帯電防止剤、青み付け剤、染料、顔料などの各種の添加剤を併用することも可能である。
【0133】
前記のポリエステル樹脂(1)とポリエステル樹脂(2)は、それらのポリエステル骨格が同種あるいは異種のどちらでも構わない。
【0134】
さらに、ポリエステル樹脂(1)に前記のリン化合物を直接混合して、ポリエステル樹脂(1)の重縮合触媒の活性を失活させてもよい。リン化合物によるポリエステルの触媒活性の失活法を用いる場合は、フィルム製造時の溶融押出工程の前に、ポリエステル樹脂(1)にリン化合物を混合しても良いし、事前にポリエステル樹脂(1)とリン化合物を混合して溶融押出しをしたポリエステル樹脂をフィルム原料として用いてもよい。すなわち、ポリエステル樹脂(1)にリン化合物を混合して溶融押出しをする方法、あるいは溶融状態のポリエステル樹脂(1)にリン化合物を添加する方法、のいずれの方法で実施しても構わない。また、上記のポリエステル樹脂(1)とポリエステル樹脂(2)を混合する方法とポリエステル樹脂(1)に直接リン化合物を混合する方法を併用してもよい。
【0135】
前記のリン化合物による重縮合触媒を失活させる方法においては、例えば、アルミニウム系重縮合触媒系で得られたポリエステルを使用して製膜して得られるポリエステルフィルムのAl原子およびP原子の残存するモル比(P/Al)およびP原子の残存量が、下記式(1)および(2)で表わされる量になるようにポリエステル樹脂(1)とポリエステル樹脂(2)やリン化合物の配合比を調整するのが好ましい。
2.5 ≦ P/Al(モル比) ≦ 20 ・・・(1)
20 ≦ P(ppm) ≦ 200 ・・・(2)
【0136】
両式ともに、下限値よりも小さい場合には重縮合触媒の失活効果が不十分であり、製膜工程におけるポリエステル樹脂の溶融状態での環状三量体の生成抑制効果が小さくなる。一方、上限値を超える場合には、重縮合触媒の失活効果が飽和するうえに、ポリエステル樹脂の固有粘度が低下する。
【0137】
以上説明したように、本発明の成型用ポリエステルフィルムを用いることで、従来の二軸配向ポリエステルフィルムでは成型することが困難であった、成型時の成型圧力が10気圧以下の低圧下での真空成型や圧空成型などの成型方法においても、仕上がり性の良好な成型品を得ることができる。また、これらの成型法は成型コストが安いので、成型品の製造における経済性において優位である。したがって、これらの成型法に適用することが本発明の成型用ポリエステルフィルムの効果を最も有効に発揮することができる。
【0138】
一方、金型成型は金型や成型装置が高価であり、経済性の点では不利であるが、前記の成型法よりも複雑な形状の成型品が高精度に成型されるという特徴がある。そのため、本発明の成型用ポリエステルフィルムを用いて金型成型した場合は、従来の二軸配向ポリエステルフィルムに比べて、より低い成型温度で成型が可能で、かつ成型品の仕上がり性が改善されるという顕著な効果が発現される。
【0139】
さらに、このように成型された成型品は、常温雰囲気下で使用する際に、弾性および形態安定性(熱収縮特性、厚み斑)に優れ、そのうえ耐溶剤性や耐熱性に優れ、さらに環境負荷も小さいので、各種携帯機器の筐体、家電用銘板、自動車用銘板、ダミー缶、建材、化粧板、化粧鋼鈑、転写シートなどの成型部材として好適に使用されてなることが好ましい。
【0140】
なお、本発明の成型用ポリエステルフィルムは、前記の成型方法以外にも、プレス成型、ラミネート成型、インモールド成型、絞り成型、折り曲げ成型などの成型方法を用いて成型する成型用材料としても好適である。
【実施例】
【0141】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。なお、各実施例で得られたフィルム特性は以下の方法により測定、評価した。
【0142】
(1)固有粘度
チップサンプル0.1gを精秤し、25mlのフェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶媒に溶解し、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。なお、測定は3回行い、その平均値を求めた。
【0143】
(2)ポリエステル樹脂中の環状三量体の含有量
試料300mgをヘキサフルオロイソプロパノ−ル/クロロホルム混合液(=2/3;容量比)3mlに溶解し、さらにクロロホルム30mlを加えて希釈する。これにメタノ−ル15mlを加えてポリマーを沈殿させた後、濾過する。濾液を蒸発乾固し、ジメチルホルムアミド10mlで定容とし、高速液体クロマトグラフ法により環状三量体を定量した。
【0144】
(3)フィルムの厚み
ミリトロンを用い、1枚当たり5点を計3枚の15点を測定し、その平均値を求めた。
【0145】
(4)厚みムラ
横延伸方向に長さ3m、縦延伸方向に幅5cmの連続したテープ状サンプルを巻き取り、フィルム厚み連続測定機(アンリツ株式会社製)にてフィルムの厚みを測定し、レコーダーに記録する。チャートより、厚みの最大値(Tmax)、最小値(Tmin)、平均値(Tav)を求め、下記式にて厚みムラ(%)を算出した。なお、測定は3回行い、その平均値を求めた。また、横延伸方向の長さが3mに満たない場合は、つなぎ合せて行う。なお、つなぎの部分における測定データは削除した。
厚みムラ(%)=((Tmax−Tmin)/Tav)×100
【0146】
(5)ヘーズ
JIS−K7136に準拠し、ヘーズメータ(日本電色工業株式会製、300A)を用いて測定した。なお、測定は2回行い、その平均値を求めた。
【0147】
(6)フィルムを170℃で10分間熱処理した後のヘーズの増加(ΔH)
フィルムを無荷重下で、170℃のギアオーブンで10分間熱処理する前後のフィルムのヘーズを測定し、熱処理後のヘーズと熱処理前のヘーズの差をΔHとした。なお、ヘーズの測定は、JIS−K7136に準拠し、ヘーズメータ(日本電色工業株式会製、300A)を用いて測定した。なお、測定は2回行い、その平均値を求めた。
【0148】
(7)フィルム表面の環状三量体の量
A4サイズのフィルムをクロロホルムに5分間接触させることで表面に析出したオリゴマーを溶解させる。得られたクロロホルム溶液について、高速液体クロマトグラフ法により環状三量体を定量した。前記の環状三量体の量をフィルムの表面積で除すことにより、フィルム表面の環状三量体の量(mg/m)を求めた。
【0149】
(8)100%伸張時応力、破断伸度
二軸延伸フィルムの長手方向及び幅方向に対して、それぞれ長さ180mm及び幅10mmの短冊状に試料を片刃カミソリで切り出した。次いで、引っ張り試験機(東洋精機株式会社製)を用いて短冊状試料を引っ張り、得られた荷重−歪曲線から各方向の100%伸張時応力(MPa)及び破断伸度(%)を求めた。
【0150】
なお、測定は25℃の雰囲気下で、初期長(標線間距離)40mm、チャック間距離100mm、クロスヘッドスピード100mm/min、記録計のチャートスピード200mm/min、ロードセル25kgfの条件にて行った。なお、この測定は10回行い平均値を用いた。
【0151】
また、100℃の雰囲気下でも、上記と同様の条件で引っ張り試験を行った。この際、試料は100℃の雰囲気下で30秒保持した後、測定を行った。なお、測定は10回行い平均値を用いた。
【0152】
(9)表面粗さ(Ra)
JIS−B601−2001に基づいて、サーフコム304B(株式会社 東京精密製)にてRaを測定した。なお測定条件は、カットオフ 0.08μm、触針半径2μm、測定長 0.8mm、測定速度 0.03mm/秒で行った。
【0153】
(10)150℃での熱収縮率
フィルムの長手方向及び幅方向に対し、それぞれ長さ150mm及び幅20mmの短冊状試料を切り出す。各試料の長さ方向に100mm間隔で2つの印を付け、無荷重下で2つの印の間隔Aを測定する。続いて、短冊状の各試料の片側をカゴに無荷重下でクリップにてつるし、150℃の雰囲気下のギアオーブンに入れると同時に時間を計る。30分後、ギアオーブンからカゴを取り出し、30分間室温で放置する。次いで、各試料について、無荷重下で、間隔Bを読み取る。読み取った間隔A及びBより、各試料の150℃での熱収縮率を下記式により算出する
熱収縮率(%)=((A−B)/A)×100
【0154】
(11)面配向度(ΔP)
ナトリウムD線(波長589nm)を光源として、アッベ屈折計を用いて、フィルムの長手方向の屈折率(Nz)、幅方向の屈折率(Ny)、厚み方向の屈折率(Nz)を測定し下記式から面配向度(ΔP)を算出した。
ΔP=((Nx+Ny)/2)−Nz
【0155】
(12)ロール状のフィルムの巻き出し性
製膜したフィルムを、300mm幅×200m長で3インチ紙管に巻きつけ、23℃65RH%雰囲気下で72時間放置する。その後、真空蒸着機内にフィルムを設置し、1×10−4torrの雰囲気下にて、50m/分の速度で巻き出したときに、巻き終わるまでに以下のような評価をした。判定基準は、すべての観点から問題のないものを○、少なくとも1つの問題がある場合を×とした。
a.フィルムの破れ
b.ばたつきの発生
c.フィルム同士またはフィルム/ロール間での摩擦による大きい音の発生
【0156】
(13)原料のガラス転移温度(Tg)および融点(Tm)
示差走査熱量分析装置(マックサイエンス社製、DSC3100S)を用いて、各実施例の条件で押出した原料約7mgをサンプルパンに入れ、パンのふたをし、窒素ガス雰囲気下で室温から300℃に20℃/分の昇温速度で昇温して測定した。Tg(℃)はJIS−K7121−1987、9・3項に基づいて、融点は、9・1項に定義される融解ピーク温度(Tpm)、にて求めた。
【0157】
(14)成型性
(a)真空成型性
フィルムに5mm四方のマス目印刷を施した後、500℃に加熱した赤外線ヒーターでフィルムを10〜15秒加熱した後、金型温度30〜100℃で真空成型を行った。なお、加熱条件は各フィルムに対し、上記範囲内で最適条件を選択した。金型の形状はカップ型で、開口部は直径が50mmであり、底面部は直径が40mmで、深さが50mmであり、全てのコーナーは直径0.5mmの湾曲をつけたものを用いた。
【0158】
最適条件下で真空成型した成型品5個について成型性及び仕上がり性を評価し、下記基準にてランク付けを行った。なお、◎及び○を合格とし、×を不合格とした。
◎:(i)成型品に破れがなく、
(ii) 角の曲率半径が1mm以下で、かつ印刷ずれが0.1mm以下であり、
(iii)さらに×に該当する外観不良がないもの
○:(i) 成型品に破れがなく、
(ii) 角の曲率半径が1mmを超え1.5mm以下、または印刷ずれが0.
1mmを超え0.2mm以下で、
(iii)さらに×に該当する外観不良がなく、実用上問題ないレベルのもの
×:成型品に破れがあるもの、または破れがなくとも以下の項目(i)〜(iv)の
いずれかに該当するもの
(i) 角の曲率半径が1.5mmを超えるもの
(ii) 大きな皺が入り外観が悪いもの
(iii)フィルムが白化し透明性が低下したもの
(iv) 印刷のずれが0.2mmを超えるもの
【0159】
(b)圧空成型性
フィルムに5mm四方のマス目印刷を施した後、500℃に加熱した赤外線ヒーターでフィルムを10〜15秒加熱した後、金型温度30〜100℃で、4気圧の加圧下で圧空成型を行った。なお、加熱条件は各フィルムに対し、上記範囲内で最適条件を選択した。金型の形状はカップ型で、開口部は直径が60mmであり、底面部は直径が55mmで、深さが50mmであり、全てのコーナーは直径0.5mmの湾曲をつけたものを用いた。
【0160】
最適条件下で圧空成型した成型品5個について成型性及び仕上がり性を評価し、下記基準にてランク付けをした。なお、◎及び○を合格とし、×を不合格とした。
◎:(i) 成型品に破れがなく、
(ii) 角の曲率半径が1mm以下で、かつ印刷ずれが0.1mm以下であり、
(iii)さらに×に該当する外観不良がないもの
○:(i) 成型品に破れがなく、
(ii) 角の曲率半径が1mmを超え1.5mm以下、または印刷ずれが0.
1mmを超え0.2mm以下で、
(iii)さらに×に該当する外観不良がなく、実用上問題ないレベルのもの
×:成型品に破れがあるもの、または破れがなくとも以下の項目(i)〜(iv)の
いずれかに該当するもの
(i) 角の曲率半径が1.5mmを超えるもの
(ii) 大きな皺が入り外観が悪いもの
(iii)フィルムが白化し透明性が低下したもの
(iv) 印刷のずれが0.2mmを超えるもの
【0161】
(c)金型成型性
フィルムに印刷を施した後、100〜140℃に加熱した熱板で4秒間接触加熱後、金型温度30〜70℃、保圧時間5秒にてプレス成型を行った。なお、加熱条件は各フィルムに対し、上記範囲内で最適条件を選択した。金型の形状はカップ型で、開口部は直径が50mmであり、底面部は直径が40mmで、深さが30mmであり、全てのコーナーは直径0.5mmの湾曲をつけたものを用いた。
【0162】
最適条件下で金型成型した成型品5個について成型性及び仕上がり性を評価し、下記基準にてランク付けをした。なお、◎及び○を合格とし、×を不合格とした。
◎:(i) 成型品に破れがなく、
(ii) 角の曲率半径が1mm以下で、かつ印刷ずれが0.1mm以下であり、
(iii)さらに×に該当する外観不良がないもの
○:(i) 成型品に破れがなく、
(ii) 角の曲率半径が1mmを超え1.5mm以下、または印刷ずれが0.
1mmを超え0.2mm以下で、
(iii)さらに×に該当する外観不良がなく、実用上問題ないレベルのもの
×:成型品に破れがあるもの、または破れがなくとも以下の項目(i)〜(iv)の
いずれかに該当するもの
(i) 角の曲率半径が1.5mmを超えるもの
(ii) 大きな皺が入り外観が悪いもの
(iii)フィルムが白化し透明性が低下したもの
(iv)印刷のずれが0.2mmを超えるもの
【0163】
(15)耐溶剤性
25℃に調温したトルエンに試料を30分間浸漬し、浸漬前後の外観変化について下記の基準で判定し、○を合格とした。なお、ヘーズ値は前記の方法で測定した。
○:外観変化がほとんど無く、ヘーズ値の変化が1%未満
×:外観変化が認められる、あるいはヘーズ値の変化が1%以上
【0164】
(16)印刷品位
印刷前のフィルムを90℃で30分熱処理し、次いで4色のスクリーン印刷を行った。
さらに、印刷層を設けたフィルムを80℃で30分乾燥した。印刷品位の評価は、下記のクリアー感、印刷適性、印刷ずれなどの印刷外観を、印刷面からではなく、裏側からフィルムを通して目視で判定した。判定基準は、全ての観点から問題無いものを○、少なくとも1つの点で問題あるものを×とした。
a.クリアー感:印刷した図柄が、基材フィルムや塗布層に遮られ
ることなく、鮮明に見えること。
b.印刷適性 :印刷インキの転移不良による、色むらやヌケが生
じないこと
c.印刷のズレ:印刷のズレが目視で判別できないこと。
【0165】
実施例1
(ポリエステルフィルムの調製)
フィルム原料として、下記の3種類のポリエステル樹脂A1、B1、B5を準備した。
第1のポリエステル樹脂(A1)は、芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸単位100モル%、ジオール成分としてエチレングリコール単位40モル%及びネオペンチルグリコール単位60モル%を構成成分とする、固有粘度が0.69dl/gの共重合ポリエステルである。
【0166】
第2のポリエステル樹脂(B1)は、固有粘度が0.69dl/gで、かつ平均粒子径(SEM法)が1.5μmの無定形シリカを0.04質量%含有するポリエチレンテレフタレートである。
【0167】
前記のチップ(A1)およびチップ(B1)は、アルミニウム系触媒を用いて製造し、かつポリエステル樹脂を減圧下160℃にて乾燥し、次いで、400ppmのエチレングリコールを含有する窒素ガスを粗製ポリエステル1kg当たり、毎時40リットルで流通し、この反応系を1.2kg/cm2の微加圧に調整し、215℃で20時間加熱処理をして低オリゴマー(低OLG)化処理を行った。得られたポリエステルの固有粘度は処理前と殆ど同じであり、チップ(A1)の環状三量体の含有量は2500ppm、チップ(B1)の環状三量体の含有量は3900ppmであった。
【0168】
第3のポリエステル樹脂(B5)は、固有粘度が0.61dl/gで、リン化合物をリン原子換算で2000ppmを含む触媒失活用ポリエチレンテレフタレートである。なお、触媒失活用ポリエステル(B5)は、下記の方法により得た。
【0169】
(触媒失活用ポリエステル樹脂(B5)の製造)
回分式重合缶に高純度テレフタル酸とその2倍モル量のエチレングリコールを仕込み、トリエチルアミンを酸成分に対して0.3モル%加え、0.25MPaの加圧下245℃にて水を系外に留去しながらエステル化反応を120分行いエステル化率が95%のビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびオリゴマーの混合物(以下BHET混合物という)を得た。このBHET混合物に重縮合触媒として二酸化ゲルマニウム/エチレングリコールスラリーおよびエチレングリコールとリン酸とのエステル(モノ−、ジ−、トリ−、エステル混合物)/エチレングリコール溶液を得られたポリエステルに対しそれぞれ、Ge原子換算で50ppmおよびP原子換算で2000ppmになるように添加し、常法に従い重縮合を行いIVが0.61dl/gの触媒失活用ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂を減圧下160℃にて乾燥し、次いで、400ppmのエチレングリコールを含有する窒素ガスを粗製ポリエステル1kg当たり、毎時40リットルで流通し、この反応系を1.2kg/cm2の微加圧に調整し、215℃で20時間加熱処理をして低オリゴマー(低OLG)化処理を行い、環状三量体含有量は3200ppmに低減させた。
【0170】
前記の共重合ポリエステル(A1)のチップ、粒子含有ポリエヒレンテレフタレート(B1)のチップ、およびP原子換算で2000ppmを含む触媒失活用ポリエステル樹脂(B5)のチップをそれぞれ乾燥させた後、A1/B1/B5=25/70/5の質量比となるように混合した。次いで、これらのチップ混合物を押出し機によりTダイのスリットから270℃で溶融押出し、表面温度40℃のチルロール上で急冷固化させ、同時に静電印加法を用いてチルロールに密着させながら無定形の未延伸シートを得た。
【0171】
得られた未延伸シートを加熱ロールと冷却ロールの間で縦方向に90℃で3.3倍に延伸した。次いで、一軸延伸フィルムをテンターに導き、120℃で10秒間予熱し、横延伸の前半部を110℃、後半部を100℃で3.9倍延伸した。さらに、一段目の熱処理(TS1)を205℃、二段目の熱処理(TS2)を横方向に7%の弛緩処理を行いながら235℃で熱固定処理を行い、厚さ100μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0172】
なお、熱固定処理ゾーンには、延伸区間との間に2mの中間区間を設け、熱固定ゾーンの加熱用区間には遠赤外線ヒーターを設置し、区間ごとの遮蔽板をフィルムに接触しない限界位置まで拡大し、設置した。加熱後の冷却区間においても区間遮蔽を強化し、クリップの戻り方法として外部リターン方式を用い、かつクリップ冷却装置を設置し、さらに20℃の冷風で強制冷却し、テンター出口でのクリップ温度を40℃以下とするクリップ融着防止対策を行った。
【0173】
比較例1
実施例1の共重合ポリエステル(A1)および粒子含有PET(B1)の製造において、低オリゴマー(OLG)化処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、共重合ポリエステル(A2)および粒子含有PET(B2)を得た。実施例1において、共重合ポリエステル(A2)のチップおよび粒子含有PET(B2)のチップを、A2/B2=25/75の質量比となるように混合すること以外実施例1と同様にして、二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。なお、本比較例で得られた共重合ポリエステル(A2)には、7000ppm、粒子含有PET(B2)には9500ppmの環状三量体が含まれていた。
【0174】
比較例2
比較例1において、熱固定温度をTS1およびTS2ともに235℃に変更すること以外は、比較例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0175】
比較例3
比較例1において、熱固定温度をTS1およびTS2ともに205℃に変更すること以外は、比較例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0176】
実施例2
(塗布液の調整)
イソプロパノール40質量%水溶液に共重合ポリエステル樹脂(東洋紡績(株)製、バイロナールMD−1250)を固形分で3.15質量%,末端イソシアネート基を親水性基でブロックした水溶性ウレタン樹脂(第一工業製薬(株)製、エラストロンH−3)を固形分で5.85質量%、平均粒径1.0μmのシリカ粒子を全樹脂に対し0.8質量%及び平均粒径0.05μmのシリカ粒子を全樹脂に対し10質量%含有するように、塗布液を調整した。得られた塗布液を、5質量%の重曹水溶液を用いてpH6.5に調整した。次いで、バッグ式フィルター(住友スリーエム(株)製、リキッドフィルターバッグ)で濾過し、塗布液循環系ストックタンク内で、15℃で2時間撹拌した。
【0177】
(積層フィルムの製造)
実施例1において、ポリエチレンテレフタレートのチップ(B1)の代わりに、環状三量体量が3900ppmで、実質的に粒子を含有していない、固有粘度が0.69dl/gのポリエチレンテレフタレートのチップ(B4)を用いる以外は実施例1と同様にして、無定形の未延伸シートを得た。なお、最終のフィルム厚みが188μmになるように、溶融樹脂の吐出量を調整した。
【0178】
得られた未延伸シートを加熱ロールと冷却ロールの間で縦方向に90℃で3.3倍に延伸した。次いで、一軸延伸フィルムの片面に、上記塗布液をリバースキスコート法により延伸前の樹脂固形分の厚みが0.9μmとなるように塗布した。塗布層を有する積層フィルムを乾燥しつつテンターに導き、120℃で10秒間予熱し、横延伸の前半部を110℃、後半部を100℃で3.9倍延伸した。さらに、一段目の熱処理(TS1)を205℃、二段目の熱処理(TS2)を横方向に7%の弛緩処理を行いながら235℃で熱固定処理を行い、片面に塗布層を有する、厚さ188μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0179】
なお、熱固定処理ゾーンには、延伸区間との間に2mの中間区間を設け、熱固定ゾーンの加熱用区間には遠赤外線ヒーターを設置し、区間ごとの遮蔽板をフィルムに接触しない限界位置まで拡大し、設置した。加熱後の冷却区間においても区間遮蔽を強化し、クリップの戻り方法として外部リターン方式を用い、かつクリップ冷却装置を設置し、さらに20℃の冷風で強制冷却し、テンター出口でのクリップ温度を40℃以下とするクリップ融着防止対策を行った。
【0180】
実施例3
フィルム原料として、実施例1で用いたチップ(B5)のほかに、下記のチップ(A3)、(B6)、(C)を準備した。
【0181】
チップ(A3)は、実施例1の方法に準じて作成し、樹脂成分が芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸単位100モル%、ジオール成分としてエチレングリコール単位70モル%及びネオペンチルグリコール単位30モル%を構成成分とし、固有粘度が0.77dl/gの共重合ポリエステルのチップである。なおチップ(A3)の環状三量体の含有量は3200ppmであった。
【0182】
チップ(B6)は、は、実施例1の方法に準じて作成し、固有粘度が0.77dl/gのポリエチレンテレフタレートのチップである。なおチップ(B6)の環状三量体の含有量は3900ppmであった。
【0183】
チップ(C)は、固有粘度が0.75dl/gのトリメチレンテレフタレート(PTT)のチップである。なお、環状三量体は検出されなかった。
【0184】
前記のチップをそれぞれ乾燥させた後、チップ(A3)、チップ(B6)、チップ(B
1)及びチップ(C)を50/5/5/40の質量比となるように混合した。次いで、これらのチップ混合物を押出し機によりTダイのスリットから270℃で溶融押出し、表面温度40℃のチルロール上で急冷固化させ、同時に静電印加法を用いてチルロールに密着させながら無定形の未延伸シートを得た。
【0185】
得られた未延伸シートを加熱ロールと冷却ロールの間で縦方向に83℃で3.5倍に延伸した。次いで、一軸延伸フィルムのチルロール面側(F面)に、上記塗布液をリバースキスコート法により延伸前の樹脂固形分の厚みが0.9μmとなるように塗布した。塗布層を有する積層フィルムを乾燥しつつテンターに導き、95℃で10秒予熱し、横延伸の前半部を80℃、後半部を75℃で3.9倍延伸した。さらに、一段目の熱処理(TS1)を190℃、二段目の熱処理(TS2)を横方向に7%の弛緩処理を行いながら210℃で熱固定処理を行い、厚さ50μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0186】
なお、熱固定処理ゾーンには、延伸区間との間に2mの中間区間を設け、熱固定ゾーンの加熱用区間には遠赤外線ヒーターを設置し、区間ごとの遮蔽板をフィルムに接触しない限界位置まで拡大し、設置した。加熱後の冷却区間においても区間遮蔽を強化し、クリップの戻り方法として外部リターン方式を用い、かつクリップ冷却装置を設置し、さらに20℃の冷風で強制冷却し、テンター出口でのクリップ温度を40℃以下とするクリップ融着防止対策を行った。
【0187】
比較例4
実施例3において、熱固定温度をTS1及びTS2ともに205℃に変更すること以外は、実施例3と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0188】
比較例5
実施例3において、熱固定温度を180℃(TS1)及び220℃(TS2)に変更すること以外は、実施例2と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0189】
実施例4
実施例4の原料構成をコア層とし、スキン層用原料として別の押出機にチップ(A3)とチップ(B6)およびチップ(B5)を50/45/5の質量比で混合したチップを投入し、280℃で溶融し、コア層の原料と、スキン層/コア層/スキン層=10/80/10の厚み比となるようにフィードブロックで接合後、270℃でT−ダイから押出した以外は、表4に示した条件で二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
表4における原反の融点の値はコア層の値であり、スキン層の融点は243℃であった。
【0190】
実施例5
実施例5の原料として、前記のチップ(B6)、チップ(B5)以外に、下記のチップ(D)とチップ(E)を準備した。
【0191】
チップ(D)は、芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸単位60モル%とイソフタル酸単位が40モル%、ジオール成分としてエチレングリコール単位100モル%を構成成分とする、固有粘度が0.71dl/gの共重合ポリエステルのチップである。なおチップ(D)の環状三量体の含有量は3000ppmであった。
【0192】
チップ(E)は、芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸単位60モル%とナフタレンジカルボン酸成分が40モル%、ジオール成分としてエチレングリコール単位100モル%を構成成分とする、固有粘度が0.71dl/gの共重合ポリエステルのチップである。なおチップ(E)の環状三量体の含有量は3000ppmであった。
【0193】
チップ(B6)、チップ(B5)および前記の共重合ポリエステルのチップ(D)と、ポリエチレンテレフタレートのチップ(E)を45:5:25:25の質量比となるように混合し、乾燥させた。次いで、これらのチップ混合物を押出し機によりTダイのスリットから270℃で溶融押出し、表面温度40℃のチルロール上で急冷固化させ、同時に静電印加法を用いてチルロールに密着させながら無定形の未延伸シートを得た。
【0194】
得られた未延伸シートを加熱ロールと冷却ロールの間で縦方向に90℃で3.3倍に延伸した。次いで、一軸延伸フィルムの片面に、上記塗布液をリバースキスコート法により延伸前の樹脂固形分の厚みが0.9μmとなるように塗布した。塗布層を有する積層フィルムを乾燥しつつテンターに導き、120℃で10秒予熱し、横延伸の前半部を110℃、後半部を100℃で3.9倍延伸した。さらに、一段目の熱処理(TS1)を205℃、二段目の熱処理(TS2)を横方向に7%の弛緩処理を行いながら238℃で熱固定処理を行い、片面に塗布層を有する、厚さ100μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0195】
なお、熱固定処理ゾーンには、延伸区間との間に2mの中間区間を設け、熱固定ゾーンの加熱用区間には遠赤外線ヒーターを設置し、区間ごとの遮蔽板をフィルムに接触しない限界位置まで拡大し、設置した。加熱後の冷却区間においても区間遮蔽を強化し、クリップの戻り方法として外部リターン方式を用い、かつクリップ冷却装置を設置し、さらに20℃の冷風で強制冷却し、テンター出口でのクリップ温度を40℃以下とするクリップ融着防止対策を行った。
【0196】
比較例6
本比較例6は、特開2001−347565号公報の実施例1を追試し、先行技術との対比を行った実験である。
ジメチルテレフタレートとエチレングリコールを仕込み、触媒として酢酸マグネシウム(M)及び三酸化アンチモン、添加剤としてリン酸(P)、平均粒子径(SEM法)が1.5μmの湿式法シリカ(0.08質量%)を添加して、定法によりポリエチレンテレフタレートを重合し、ポリエチレンテレフタレート(PET)のチップ(B7)を得た。得られたPETのチップ(B7)は、固有粘度が0.65dl/g、カルボキシル末端基濃度が25eq/ton、M/Pモル比が2.5であった。
【0197】
前記のPETのチップ(B7)を180℃で4時間真空乾燥後、溶融押出機に供給し、スリット状のダイからシート状に押出し、静電印加(3.0kV)により鏡面冷却ドラムに密着、冷却固化して未延伸シートを作成した。この未延伸シートをまず温度105℃に加熱したロールにて長手方向に3.0倍の延伸を行い、さらに延伸温度125℃で幅方向に3.2倍延伸した後、195℃にて、幅方向に6%の弛緩、6秒間の熱処理を行い、厚さ100μm、面配向度0.138の二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0198】
実施例1〜5及び比較例1〜6に関し、使用したポリマーの原料組成とポリマー特性を表1に、フィルムの製造条件と特性を表2〜5に示す。
【0199】
【表1】

【0200】
【表2】

【0201】
【表3】

【0202】
【表4】

【0203】
【表5】

【0204】
実施例1〜5で得られた二軸配向ポリエステルフィルムは、成型時の成型圧力の低い真空成型法や圧空成型法で成型しても、仕上がり性の良好な成型品が得られた。また、得られた成型品の耐溶剤性や寸法安定性も良好であった。また、フィルム表面の環状三量体量が少なく、加熱処理した時のフィルム表面の環状三量体量の増大が小さかった。従って、成型時の金型汚れが少なかった。実施例2で得られたフィルムは、基材フィルムにシリカ粒子を含有する実施例1で得られたフィルムと比べ透明性に優れているため、印刷品位に優れていた。
【0205】
一方、比較例3及び6で得られたフィルムは、真空成型法や圧空成型法での成型性に劣り、成型品の仕上がり性が良くなかった。また、比較例1、2、3、6で得られたフィルムは、フィルム表面の環状三量体量が多く、かつ加熱処理した時のフィルム表面の環状三量体量の増大が大きいため、加熱によりフィルムの透明性が低下した。また、金型汚れも多かった。さらに、比較例2、4、5で得られたフィルムは、フィルムの巻きだし性の点で劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0206】
本発明の成型用ポリエステルフィルムは、低い温度および低い圧力での加熱成型時の成型性に優れているので幅広い成型方法に適用ができ、かつ成型品として常温雰囲気下で使用する際に、弾性および形態安定性(熱収縮特性、厚み斑)に優れ、そのうえ耐溶剤性、耐熱性、さらに環境負荷が小さいという利点がある。また、後加工時にロール状に巻き取った長尺のフィルムを巻き出す際に、ブロッキングや破れが起こりにくいため、生産性に優れている。加えて、環状三量体の含有量が少ないため、環状三量体による欠点の発生、成型時の金型汚染および透明性の低下などの問題が小さいという利点がある。さらに、平滑性と透明性に高度に優れているため、前記フィルムの印刷性改良層に、凸版印刷、凹版印刷、平版印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷など各種の印刷加飾法、及び捺染、転写、塗装、ペインティング、蒸着、スパッタリング、CVD、ラミネートなどの加飾方法により印刷層、図柄層などの意匠を施し、次いで金型成型、圧空成型、真空成形などの各種成型法により成型する3次元加飾方法に適し、かつインモールド成型性やエンボス成型性に優れている。そのため、各種携帯機器の筐体、家電や自動車の銘板用部材又は建材用部材として好適であり、産業界への寄与は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合ポリエステルを含む二軸配向ポリエステルフィルムよりなる成型用ポリエステルフィルムであって、(1)フィルムの長手方向及び幅方向における100%伸張時応力が、いずれも25℃において40〜300MPa及び100℃において1〜100MPa、(2)フィルムの150℃での長手方向及び幅方向の熱収縮率が0.01〜5.0%、(3)ヘーズが0.1〜3.0%、(4)少なくとも片面のフィルムの表面粗さ(Ra)が0.005〜0.030μm、(5)面配向度が0.095以下、(6)フィルムを170℃で10分間熱処理した後のヘーズの増加が0.3%以下、であることを特徴とする成型用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
共重合ポリエステルが、(a)芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールと、分岐状脂肪族グリコール又は脂環族グリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステル、あるいは(b)テレフタル酸及びイソフタル酸を含む芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載の成型用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
二軸配向ポリエステルフィルムを構成するポリエステルが、さらにグリコール成分として1,3−プロパンジオール単位または1,4−ブタンジオール単位を含むことを特徴とする請求項2に記載の成型用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
二軸配向ポリエステルフィルムの融点が200〜245℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の成型用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
二軸配向ポリエステルフィルムを基材フィルムとし、該基材フィルムの片面または両面に厚みが0.01〜5μmの表面層を積層してなる成型用ポリエステルフィルムであって、前記基材フィルムは実質的に粒子を含有せず、表面層にのみ粒子を含有させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の成型用ポリエステルフィルム。
【請求項6】
表面層が密着性改質樹脂と粒子から主として構成されていることを特徴とする請求項5記載の成型用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2008−95084(P2008−95084A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235081(P2007−235081)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】