説明

成型装置およびこれを用いたセラミック成型体並びにセラミック成型体の製造方法

【課題】成形時間が短く、高精度で、緻密で、製品形状に近い形状を得ることのできる成形装置およびその成型方法を提供すること。
【解決手段】成形装置10は、上パンチ12と下パンチ13と、この上パンチ12および下パンチ13が上下から挿入される筒状の臼11とから成る金型を用いて、臼11内の上パンチ12と下パンチ13との間で被成型物22をプレスして成型する成形装置10において、臼11の一部に温度が異なる領域11aを形成する機構と、この領域で成型された被成型物22を臼11の他の領域11cに移動させる移動機構とを有している。被成型物22を臼11の高温領域から低温領域に移動させる移動機構によって、被成型物22の加熱および冷却時間を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑物、特に生セラミックスを高精度に成型するための成型装置、その成型方法およびセラミック成形体に関するものであり、特に光通信用部品に用いられる光ファイバを保持するセラミック製フェルールの成型等に適用される。
【背景技術】
【0002】
生セラミックス等の可塑物の成形方法として、目的に応じて粉体プレス、押し出し成型、射出成型などがある。粉体プレスは、例えば、粉体にバインダを噴霧した顆粒状原料を室温でプレス成型し、生成形体を得る。押し出し成型は、粉体と同体積のバインダを添加して、常温で押し出して成型し、生成形体を得る。射出成型は、粉体40〜45体積%に55〜60体積%のバインダを添加し、高温で射出して生成型体を得る。これらセラミックスの生成形体を焼成することによってセラミック成形体が得られる。
【0003】
光通信において、光ファイバ同士を結合させるためにフェルールが用いられる。フェルールは円筒状の内孔内に光ファイバを挿入し、1対のフェルールを突き合わせることで光ファイバ同士を突き合わせて光ファイバ同士を光学的に結合させるものである。このような用途に用いるため、ミクロンオーダーの高精度な形状と、緻密性の高い磁器特性が要求される。
【0004】
しかし、粉体プレスの場合、粉体の流動性が悪く、充填性が悪いため焼成後に緻密な磁器を得られないという問題がある。
【0005】
押し出し成型は高精度で、緻密な磁器を得ることが出来るが、断面形状が一定でない複雑なものには適していない。フェルールを押し出し成型で作成する場合、一旦数10cmの長い筒状の磁器を作製し、これを1cm程度の長さのフェルールの寸法に切断する。その後、切断された円筒体に円錐状の光ファイバ挿入口やC面加工等を施す必要がある。
【0006】
射出成型においては、緻密で、製品形状に近い形状を得ることができるが、射出する際、金型との摩擦でバインダに配向が生じ、焼成後にソリを生じる場合があるので、十分に高精度な形状を得ることができず、形状補正のための後加工が必要となる。
【0007】
図6は特許文献1に提案される実施例を模式的に示した側断面図である。
【0008】
ここでは、セラミック粉体とバインダとを混合した混合物を金型11に供給し、金型を加熱機構51によって加熱し、成型した成型方法を用いている。ここでバインダは熱可塑性を有し、加熱すると溶融する特性を持ち、高温で流動性が高くなる。このため、粉体の充填性が高く、成型体の緻密性が向上する。また、バインダを溶融させているため、射出成型のような配向がバインダに発生せず、高精度な磁器を得られる。また、金型成型のため、製品形状に近い形状を得ることができる。
【0009】
さらに成型速度を高速化するため、加熱機構51において、金型を温水と冷水で加熱および冷却する方法の他、熱電素子を用いて、加熱時間30秒以下、冷却時間30秒以下とする方法を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−145909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、金型の加熱および冷却に時間を要してしまい、押し出し成型や射出成型の時間短縮に限度がある。
【0012】
そこで本発明は、成型時間を短縮させ、高精度で、緻密で、製品形状に近い形状を得る磁器を得ることのできる成形装置およびその成型方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態に係る成形装置は、上パンチと下パンチと、この上パンチおよび下パンチが上下から挿入される筒状の臼とから成る金型を用いて、前記臼内の前記上パンチと前記下パンチとの間で被成型物をプレスして成型する成形装置であって、前記臼の一部に温度が異なる領域を形成する機構と、前記領域で成型された被成型物を前記臼の他の領域に移動させる移動機構とを有することを特徴とする。
【0014】
本発明の成形装置の一実施形態として、前記臼の一部に温度が異なる領域を形成する機構は加熱機構であり、前記臼の他の領域よりも高温の高温領域とされるのが好ましい。
【0015】
また、本発明の成形装置の一実施形態として、前記臼の一部にヒーターが配されて高温領域が形成されることが好ましい。
【0016】
また、本発明の成形装置の一実施形態として、前記高温領域と前記他の領域との間に、前記高温領域より温度が低く、前記他の領域より温度が高い領域をさらに設けることが好ましい。
【0017】
また、本発明の成形装置の一実施形態として、前記臼は、前記領域および前記他の領域の各設定温度において、各領域が同一内寸形状になるようにしてあることが好ましい。
【0018】
また、本発明の成形装置の一実施形態として、前記臼の異なる温度領域の間に断熱構造を有することが好ましい。
【0019】
また、本発明の成形装置の一実施形態として、前記上パンチおよび前記下パンチの先端部に断熱構造が介在されていることが好ましい。
【0020】
また、本発明の成形装置の一実施形態として、前記上パンチと前記下パンチと前記臼が円筒形であり、上パンチまたは下パンチにコアピンがあることが好ましい。
【0021】
本発明の一実施形態に係るセラミック成型体の製造方法は、セラミック粉体と熱可塑性バインダとが混合された顆粒状の混合物が、上記成型装置を用いて製造されたことを特徴とする。
【0022】
また、上記セラミック成型体の製造法において、前記セラミック成型体は、セラミックフェルールまたはセラミックスリーブであることを特徴とする。
【0023】
本発明の一実施形態に係る成形方法は、上パンチと下パンチと、この上パンチおよび下パンチが上下から挿入される筒状の臼とから成る金型を用いて、前記臼内の前記上パンチと前記下パンチとの間で被成型物をプレスして成型する成形方法において、前記臼の一部の領域の温度を異ならせる工程と、前記臼の前記領域において前記上パンチと前記下パンチとの間で被成型物をプレスして成型する工程と、前記上パンチと前記下パンチとを前記臼の前記領域と異なる温度領域に移動させて前記被成型物を異なる温度領域に移動させる工程とを有することを特徴とする。
【0024】
本発明の成形方法の一実施形態として、前記領域は他の領域よりも高温の高温領域とされており、該高温領域で被成型物をプレス成型した後に前記他の領域に移動させて前記被成型物を冷却する工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一実施形態に係る成形装置によれば、臼の一部に温度が異なる領域を形成する機構と、この領域で成型された被成型物を臼の他の領域に移動させる移動機構とを有することから、被成形物を温度が異なる領域に移動させて加熱および冷却を行なうことができ、高精度で、緻密で、製品形状に近い形状の成形体を短い成型時間で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は本発明の成型装置の実施の形態の一例を示す正面図、(b)は(a)の側面図である。
【図2】(a)〜(d)は、本発明の成型装置の一実施形態における金型部分の構成の一例を示す要部断面図である。
【図3】(a)〜(e)は、本発明の成型装置の他の実施形態における金型部分の構成の一例を示す要部断面図である。
【図4】本発明の成型装置における上パンチの構成の一例を示す要部断面図である。
【図5】本発明の成型装置における金型部分の構成の他の例を示す要部断面図である。
【図6】従来の成型装置の例を模式的に示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下本発明の実施の形態の各例について説明する。
【0028】
図1は本発明の成型装置10の実施の形態の一例を模式的に示した図である。図1(a)は成形装置10を前面から見た正面図であり、図1(b)は図1(a)の側面図である。
【0029】
成形装置10の中央に筒型の臼11が配置され、臼11の軸上に上パンチ12および下パンチ13が配されている。上パンチ12および下パンチ13はそれぞれロック付きシリンダ14,15により上下方向に動かすことができ、またロック機構により、上下の適当な位置で静止させることができる。またシリンダ14,15の上下動はフローティングジョイント(浮動性継手)16を介して、上パンチ12、下パンチ13に伝えられ、シリンダ14,15と臼11との軸ズレを吸収できる。
【0030】
臼11は3つのブロックに分割されており、臼上部11aのブロックはヒーター17がつながれており、高温状態を保つことができる。臼下部11cは、臼中央部11bの断熱構造を介して臼上部11aと連結されており、臼下部11cは常温を保つようにしてある。このように臼11は、臼上部11a,臼中央部11bおよび臼下部11cがそれぞれの軸を一致させて順に軸方向に並べて配置されている。
【0031】
図2は、成型装置10の金型部分の断面を示した図である。
【0032】
金型は、臼11と上パンチ12と下パンチ13とからなる。臼11は3つのブロックに分割されており、臼上部11aは外側にヒーター17が巻かれてある。臼中央部11bは断熱構造となっており、臼上部11aと臼下部11cとを断熱している。これによって、高温領域の臼上部11aに対して臼下部11cを臼上部11aより低温な室温に保つようにしている。図2では示していないが、図1において下パンチ13は金具を介して放熱される機構を有する。なお、臼上部11aを高温領域とするために、電熱線をヒーターとして用いる他にも、高温のスチームやオイルを流す等の手段を用いてもよい。ヒーターとして電熱線を用いると、温度管理が容易である。
【0033】
図2を用いて、成形方法について説明する。
【0034】
図2(a)にてバインダ入り原料21を臼上部11aに充填する。このとき臼上部11aは高温状態にあり、バインダ成分の一部(低分子成分)は溶融するため、原料21中の粉体の充填性は高く、緻密な成形体22が得られる。バインダ成分のうち、高分子成分は、アクリル系樹脂やスチレン系樹脂等が結合材として用いられる。低分子成分としては、パラフィンワックスやマイクロクリスタルワックスやモンタンワックス等が用いられる。低分子成分は、脱脂性や粉体の流動性を向上させる。また、臼上部11aにおいて、金型温度を高分子成分の融点より低くすることによって、金型の隙間からの粉体の流出を抑制することができる。
【0035】
このように、高温領域の温度は、熱可塑性樹脂の低分子成分の融点以上、高分子成分の融点以下の温度範囲に制御されるのが好ましい。さらに、上記低分子成分および高分子成分をバインダに用いる場合、具体的に、高温領域の温度は50℃以上150℃以下であることが好ましい。
【0036】
次に、図2(b)を用いて、原料21の成型について説明する。上パンチ12がシリンダ14にて下方向に移動され、臼11の上開口部から臼上部11aの内側に挿入され、バインダ入り原料21を加圧する。このとき下パンチ13は臼11の下開口部から臼上部11aの内側まで挿入されてロックされている。次に下パンチ13のロックを外し、上昇させて原料21を加圧する。このとき下パンチ13の圧力が上パンチ12の圧力を超える場合は、上パンチ12がロックされる。このようにして臼型11の内部で上パンチ12と下パンチ13とから加えられる圧力によって高温状態の原料21を成型し、成型体22を得る。
【0037】
次に図2(c)を用いて、成型体22の移動について説明する。下パンチ13のロックを外し、所定の位置にロックが掛かるようにしておく。下パンチ13に加える圧力を上パンチ12に加えられる圧力より小さい圧力にし、上パンチ12によって成形体22および下パンチ13を並行して下方に移動する。成形体22には移動中も上パンチ12と下パンチ13との圧力差分の圧力が加えられる。臼下部11cの所定位置に成型体22が到達したら、下パンチ13にロックが掛かるようにしてあり、そこで成型体22を静止する。臼下部11cは室温付近の常温とされているので、成形体22は冷却され、バインダが固化する。数秒間保持し、成形体22が十分に冷却されたら、下パンチ13のロックを外し、上パンチ12の圧力で下方向に移動し、図2(d)に示すように、成型体22を、臼11の下側から外部に取り出す。
【0038】
このように、成型装置10は上パンチ12および下パンチ13の移動をコントロールするとともに成形体22に適当な圧力を加える移動機構を備えている。
【0039】
臼11は、熱可塑性樹脂の低分子成分の融点以上の高温度に加熱された臼11aと、常温に保たれた臼11cとの間に、臼11aよりも温度が低く、臼11cよりも温度が高い臼11fの領域をさらに設けてもよい。
【0040】
図3は、このような成形装置10の金型部分の断面を示す図である。
【0041】
金型は臼11と上パンチ32と下パンチ33からなる構造である。臼11は5つの領域からなり、臼11aおよび臼11dの外側にはそれぞれヒーター17a,17bが巻かれてある。臼11b、臼11eは断熱構造となっており、それぞれ上部の臼11aと臼11aの下部にある臼11d、臼11dと臼11dの下部にある臼11cとを断熱している。
【0042】
臼11aはヒーター17aによって加熱されて臼11の他の部位より高温となっており、臼11dはヒーター17bで同じく加熱されているが臼11aよりは低い温度の設定となるようにされている。臼11cは常温に設定されている。
【0043】
次に、図3(a)〜(e)を用いて、成形方法について説明する。
【0044】
図3(a)にてバインダ入り原料21を臼上部11aに充填する。このとき臼上部11aは高温状態にあり、バインダ成分の一部(低分子成分)は溶融するため、原料21中の粉体の充填性は高く、緻密な成形体22が得られる。バインダ成分のうち、高分子成分は、アクリル系樹脂やスチレン系樹脂等が結合材として用いられる。低分子成分としては、パラフィンワックスやマイクロクリスタルワックスやモンタンワックス等が用いられる。低分子成分は、脱脂性や粉体の流動性を向上させる。また、臼11aにおいて、金型温度を高分子成分の融点より低くすることによって、金型の隙間からの粉体の流出を抑制することができる。
【0045】
このように、高温領域の温度は、熱可塑性樹脂の低分子成分の融点以上、高分子成分の融点以下の温度範囲に制御されるのが好ましい。さらに、高温領域の温度は、成形体22の弾性率が0.5MPa〜8MPaとなるように制御されるのが好ましい。上記低分子成分および高分子成分をバインダに用いる場合、具体的に、高温領域の温度は50℃以上150℃以下である。
【0046】
次に、図3(b)を用いて、原料21の成型について説明する。上パンチ32が下方向に移動され、臼11の上開口部から臼11aの内側に挿入され、バインダ入り原料21を加圧する。このとき下パンチ33は臼11の下開口部から臼11aの内側まで挿入されてロックされている。次に下パンチ33のロックを外し、上昇させて原料21を加圧する。このとき下パンチ33の圧力が上パンチ32の圧力を超える場合は、上パンチ32がロックされる。このようにして臼型11aの内部で上パンチ32と下パンチ33とから加えられる圧力によって高温状態の原料21を成型し、成型体22を得る。
【0047】
次に図3(c)を用いて、成型体22の移動について説明する。下パンチ33のロックを外し、所定の位置にロックが掛かるようにしておく。下パンチ33に加える圧力を上パンチ32に加えられる圧力より小さい圧力にし、上パンチ32によって成形体22および下パンチ33を並行して下方に移動する。成形体22には移動中も上パンチ32と下パンチ33との圧力差分の圧力が加えられる。臼11dの所定位置に成型体22が到達したら、下パンチ33にロックが掛かるようにしてあり、そこで成型体22を静止する。
【0048】
臼11dは、臼11aよりも低温に設定されており、成形体22の弾性率が10MPa〜100MPaとなるような温度に制御されているのが好ましい。弾性率が100MPaより大きいと、離型する際、成形体に応力が加わるが、弾性率が高く伸縮しにくいとクラックが発生する。また成形体内部に金型の一部がある場合(例えば図5のコアピン34)、成形体の弾性率が高いと金型が破損する場合がある。また、弾性率が10MPaより小さい状態であると、成形体22の固化が不十分であり、成形体22の形状を維持できない虞がある。具体的に、バインダ樹脂の弾性率や、バインダ樹脂に含まれる潤滑剤により異なるが、臼11dの金型温度においては30℃〜70℃程度が望ましい。
【0049】
次に、図3(d)に示すように、一定時間臼11dに成形体22を保持した後、下パンチ33のロックを外し、下パンチ33を下方向に移動し、下パンチ33の離型を行う。図3(c)に示すとおり、下パンチ33は常温の臼11eに接しており、臼11dより低温になっている。このため下パンチ33は熱収縮し離型しやすくなる。一方、成型体22は樹脂成分を多く含んでいるため熱伝導性が悪く、臼11dに近い温度であり、温度低下による弾性率の上昇を防ぐことができ、離型による成形体22の破損やコアピン34の破損を防ぐことができる。また、樹脂は温度が低い程、弾性率が高くなり、下パンチ33の離型性は良くなる。
【0050】
最後に、図3(e)に示すように、成形体22は臼11c内に移動され、常温の臼11c内で冷却されて、十分に固化される。そして、上パンチ32をさらに下に移動することによって、臼11cの下開口から排出される。
【0051】
なお、図3には示されていないが、臼11cは成形装置10本体に繋がれている。したがって、熱容量が大きく、安定して常温に維持される。臼11cを強制的に冷却しても良いが、結露等発生しやすく、また温度制御が難しく、自然冷却がよい。また臼11cがなく、下パンチ33を自然に冷却しても良いが、十分に離型の効果を得られない。
【0052】
また、上記成形体22の弾性率は、回転式粘弾性測定装置にて行った。バインダ入り原料21をΦ12mm、厚み1mmに成形した単板をアルミ等の金属で挟み、回転方向の振動を加え、その応力を測定する。その際、温度を連続的に変動させ、温度毎の弾性率を計測する方法である。計測器は、例えばAnton Paar製Physica MCR301がある。
【0053】
ここで、臼11の詳細について説明する。
【0054】
光通信用フェルールの場合、磁器直径(外径)は2.5mmである。焼成時の収縮率を考慮すると成型体22の直径は3.1mm程度となる。臼上部11aの温度を75℃とし、臼下部11cの温度を25℃とすると、温度差ΔT=50℃となる。
【0055】
セラミックスによる金型の摩耗を考えると、金型のビッカース硬さがセラミックス同等以上の10GPa以上とすることが望ましい。この硬さを達成するには、アルミナセラミックスやジルコニアセラミックス等のセラミックスや、金属にセラミックス溶射したもの、DLCコートしたものや、超硬合金を用いればよい。ここで加工性を考慮すると、加工が容易な超硬合金を用いることが望ましい。
【0056】
この超硬合金は炭化タングステンとコバルトを主成分とする合金であり、線熱膨張係数は6×10−6/℃程度である。温度差ΔT50℃の場合で、
3.1mm×6×10−6/℃×50℃=0.00093mm
となり、約1μmの膨張を伴うことになる。
【0057】
臼上部11aと臼下部11bに同一寸法のものを用いると、熱膨張している臼上部11aで成型した成型物22が、臼下部11cに引っかかる問題があるので、予め臼上部11aに対し、臼下部11cは熱膨張差分、内孔径を大きくし、稼動時の設定温度において臼上部11aおよび臼下部11cが同一内寸になるようにしておくのが好ましい。ただし、成型体22の熱膨張差は超硬合金以上に大きいので、上パンチ12の移動速度を調整すれば、必ずしも必要なものではない。
【0058】
次に臼中央部11bについて説明する。
【0059】
臼中央部11bの内孔径は、臼下部11cの内孔径と一致させるのが望ましい。また、臼中央部11bには、臼上部11aより線熱膨張係数の大きい材質を用いるのが望ましい。臼中央部11bと臼下部11cとは常温であるため熱膨張もなく、成形体22の移動に引っかかり等の問題は発生しない。一方、臼中央部11bにおける臼上部11aの近傍は伝熱により加熱され、熱膨張が生じる。臼中央部11bと臼上部11aの内孔径とが(常温にて)一致している場合、臼中央部11の線熱膨張係数を臼上部11aより大きくしておくと、成形体の引っかかりを生じない。ただし、線熱膨張係数が大きすぎると成形体22が傾いて引っかかる問題が生じるため、臼材の数倍程度の20×10−6/℃以下が望ましい。
【0060】
臼中央部11bの熱伝導率は小さい方が望ましい。熱伝導性が高いと臼中央部11bの上下方向の厚みを大きくする必要があり、上パンチ12および下パンチ13のストロークを大きくする必要がある。また臼11全体の同軸度が悪化する傾向となる。断熱性については、臼下部11cの放熱性により異なるが、例えばジルコニアセラミックスを用いた場合、厚みを3mm程度にすることで臼下部11cの温度を室温状態に保つことができた。
【0061】
ジルコニアセラミックスは熱伝導率も3W/(m・K)とセラミックスの中でも小さい値を有する。臼中央部が10mm以上になると軸調整が困難になるので、臼中央部11bの熱伝導率は10W/(m・K)以下のものを用いるのが望ましい。
【0062】
また、断熱材は、線熱膨張係数20×10−6/℃以下で、ビッカース硬さが10GPa以上のものを用いるのが望ましい。なお、ジルコニアセラミックスは線熱膨張係数10.5×10−6/℃で熱膨張も小さく、ビッカース硬さも10GPa以上(約13GPa)で耐摩耗性に優れ、臼中央部11bの断熱材料として好適である。
【0063】
次に上パンチ12と下パンチ13について説明する。
【0064】
上パンチ12と下パンチ13の材質については、臼11と同様に、ビッカース硬さがセラミックスと同等以上の10GPa以上が望ましい。この硬さを達成するには、アルミナセラミックスやジルコニアセラミックス等のセラミックスや、金属にセラミックス溶射したもの、DLCコートしたものや、超硬合金を用いればよい。加工性を考慮すると、加工が容易な超硬合金を用いることが望ましい。
【0065】
また、上パンチ12と下パンチ13の先端部12a,13aは臼11の温度と同等になるように熱伝導性に優れたものが良いが、成形体22と接する先端部12a,13aとそれ以外との間に先端部12a,13aの温度を保つ断熱構造を設けるのが望ましい。そのため、先端部12aと上パンチ12(または先端部13aと下パンチ13)の本体との間に断熱材を介在させても良いが、温度サイクルの激しい部分になるので、異種材料を介在させることなく先端部12aと上パンチ12または先端部13aと下パンチ13とは一体化されている方が望ましい。
【0066】
図4は一体化された上パンチ12の例を示す横断面図である。このように断熱性を考えると、図4(a)に示すように、先端部12aを除いた部分が中空状態の筒状に形成された上パンチ12(または下パンチ13)を用いるのが好ましい。または、図4(b)に示すように、先端部12aと上パンチ12の本体部分との間に臼11に接しないように外径を小さくしてくびれさせた構造とすることが望ましい。
【0067】
図5は成型装置10の一実施形態としての金型部分の断面図を示す。
【0068】
下パンチ33の先端部33aにはコアピン34が設けられ、上パンチ32の先端部32aにはコアピン34を受ける穴32bが設けられている。成型方法は上述した内容と同じであるが、成型体22に内孔を設けることができる。これによって、内孔の同心度が3μm以下と小さく、光ファイバの接続用に用いるフェルールを作製することができる。
【0069】
以上のようにして、被成型物の加熱および冷却サイクルの時間を短縮し、高精度で緻密かつ製品形状に近い形状の成形体22を得ることができる成型装置10、およびこの成型装置10を用いた成型方法によってセラミック円筒体等の成形体22を得ることができる。上記成型装置10において、臼上部11aは高温と低温とに温度変化させる必要が無く、常時高温に維持しておけばよい。このため、稼動エネルギー効率にも優れる。
【0070】
なお、本発明は上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内であれば種々の変更は可能である。例えば、上述の実施の形態の一例では臼上部11aが高温領域で臼下部11cが常温領域としたが、臼下部11cが高温領域であってもよい。
【0071】
また、上記において、被成型物はセラミック粉体と低分子成分および高分子成分を含む熱可塑性バインダとを混合した顆粒状の混合物を用いた例を説明した。ここで、セラミック粉体の例としては、ジルコニア質セラミックス,アルミナ質セラミックス,ムライト質セラミックス,炭化チタン質セラミックス等が挙げられる。成型装置10およびこれを用いた上記成型方法は、上記例に示したセラミック成形体に限ることなく、例えば、金属粉末成形体,樹脂成形体等にも用いることができる。
【0072】
また、上記実施の形態の説明において上下左右という用語は、単に図面上の位置関係を説明するために用いたものであり、実際の使用時における位置関係を意味するものではない。
【符号の説明】
【0073】
10:成型装置
11:臼
12,32:上パンチ
13,33:下パンチ
14:上シリンダ
15:下シリンダ
16:フローティングジョイント
17:ヒーター
21:原料
22:成形体(被成型物)
34:コアピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上パンチと下パンチと、該上パンチおよび下パンチが上下から挿入される筒状の臼とから成る金型を用いて、前記臼内の前記上パンチと前記下パンチとの間で被成型物をプレスして成型する成形装置であって、前記臼の一部に温度が異なる領域を形成する機構と、前記領域で成型された被成型物を前記臼の他の領域に移動させる移動機構とを有することを特徴とする成形装置。
【請求項2】
前記臼の一部に温度が異なる領域を形成する機構は加熱機構であり、前記臼の他の領域よりも高温の高温領域とされることを特徴とする請求項1記載の成形装置。
【請求項3】
前記臼の一部にヒーターが配されて高温領域が形成されることを特徴とする請求項1または2記載の成形装置。
【請求項4】
前記高温領域と前記他の領域との間に、前記高温領域より温度が低く、前記他の領域より温度が高い領域をさらに設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の成形装置。
【請求項5】
前記臼は、前記領域および前記他の領域の各設定温度において、各領域が同一内寸形状になるようにしてあることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の成形装置。
【請求項6】
前記臼の異なる温度領域の間に断熱構造を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の成形装置。
【請求項7】
前記上パンチおよび前記下パンチの先端部に断熱構造が介在されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の成形装置。
【請求項8】
前記上パンチと前記下パンチと前記臼が円筒形であり、上パンチまたは下パンチにコアピンがあることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の成形装置。
【請求項9】
セラミック粉体と熱可塑性バインダとが混合された顆粒状の混合物が、請求項1乃至7のいずれかに記載の成型装置を用いて製造されたことを特徴とするセラミック成型体の製造方法。
【請求項10】
前記セラミック成型体は、セラミックフェルールまたはセラミックスリーブであることを特徴とする請求項9記載のセラミック成型体の製造方法。
【請求項11】
上パンチと下パンチと、該上パンチおよび下パンチが上下から挿入される筒状の臼とから成る金型を用いて、前記臼内の前記上パンチと前記下パンチとの間で被成型物をプレスして成型する成形方法において、前記臼の一部の領域の温度を異ならせる工程と、前記臼の前記領域において前記上パンチと前記下パンチとの間で被成型物をプレスして成型する工程と、前記上パンチと前記下パンチとを前記臼の前記領域と異なる温度領域に移動させて前記被成型物を異なる温度領域に移動させる工程とを有することを特徴とする成形方法。
【請求項12】
前記領域は他の領域よりも高温の高温領域とされており、該高温領域で被成型物をプレス成型した後に前記他の領域に移動させて前記被成型物を冷却する工程を有することを特徴とする請求項10記載の成形方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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