説明

成形体およびその製造方法

【課題】多量の植物材料を含み、成形の自由度が高く、安価に製造されてなる成形体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】植物材料と熱可塑性樹脂とを含み射出成形されてなる成形体において、熱可塑性樹脂と植物材料との合計を100質量%としたときに、熱可塑性樹脂を5〜50質量%含むとともに、植物材料を50〜95質量%含むようにし、植物材料は植物材料全体を100質量%としたときに10質量%以上のリグニンを含むようにする。また、成形体の製造方法は、植物材料と水と熱可塑性樹脂とを混合して成形材料を得る混合工程と、成形材料を成形型内に射出するとともに成形型で成形して成形体を得る射出成形工程と、で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物材料と熱可塑性樹脂とを含み射出成形されてなる成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物材料と熱可塑性樹脂とを含む成形体としては、従来より種々のものが知られている。熱可塑性樹脂とともに植物材料を配合することで、成形体に、優れた耐曲げ性、耐衝撃性、耐変形性等を付与できる。
【0003】
上述した各種性能にさらに優れた成形体を形成するためには、植物材料を多く配合すれば良いと考えられる。植物材料を多く配合した成形体を形成する方法としては、一般に押し出し成形法やプレス成形法が用いられる。植物材料の配合量を多くすると、成形材料の流動性が低下するが、これらの方法によると、流動性の低い成形材料を成形することができる。ところで、押し出し成形法やプレス成形法によって得られる成形品は、形状の自由度が低い。射出成形法によると、形状の自由度が高い成形品を得ることができるが、植物材料を多く含み、流動性の低い成形材料を射出成形することは非常に困難である。
【0004】
植物材料と熱可塑性樹脂とを含み射出成形されてなる成形体も提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、植物材料の配合量を比較的少なくすれば、射出成形が可能になる旨が開示されている。例えば特許文献1には、成形材料全体を100質量%としたときに、10〜30質量%の植物材料を含む成形材料は射出成形が可能であること、および、成形材料全体を100質量%としたときに、60質量%の植物材料を含む成形材料は射出成形できないことが開示されている。このように、従来は多量の植物材料を含み、形状の自由度が高い成形品を得ることができなかった。
【0005】
また近年、二酸化炭素排出量の増加等の環境問題への配慮から、熱可塑性樹脂としてポリ乳酸樹脂を用い、成形体により優れた生分解性を付与することが提案されている。しかし、ポリ乳酸樹脂は高価であるために、ポリ乳酸樹脂の配合割合を多くすると、成形体の製造コストが高くなる。さらに、ポリ乳酸樹脂は耐熱性に劣るため、成形品に耐熱性を付与するためには、アニール処理等の結晶化工程が必要になる。したがって、熱可塑性樹脂としてポリ乳酸樹脂を用いる場合には、成形体の製造コストが非常に高くなる問題がある。
【特許文献1】特開2005−105245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、多量の植物材料を含み、成形の自由度が高く、安価に製造されてなる成形体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の成形体は、植物材料と熱可塑性樹脂とを含み、射出成形されてなる成形体であって、熱可塑性樹脂と植物材料との合計を100質量%としたときに、熱可塑性樹脂を5〜50質量%含むとともに、植物材料を50〜95質量%含み、植物材料は、植物材料全体を100質量%としたときに、10質量%以上のリグニンを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の成形体は、下記の(1)〜(3)の何れかを備えるのが好ましい。(1)〜(3)の複数を備えるのがより好ましい。
(1)前記植物材料は、前記植物材料全体を100質量%としたときに、20質量%以上のリグニンを含む。
(2)前記植物材料は、ケナフの芯材である。
(3)前記熱可塑性樹脂は、ポリ乳酸樹脂である。
【0009】
上記課題を解決する本発明の成形体の製造方法は、植物材料と水と熱可塑性樹脂とを混合して成形材料を得る混合工程と、該成形材料を成形型内に射出するとともに該成形型で成形して成形体を得る射出成形工程と、を備え、混合工程において、植物材料として、植物材料全体を100質量%としたときに、10質量%以上のリグニンを含むものを用い、熱可塑性樹脂と植物材料との合計を100質量%としたときに、熱可塑性樹脂を5〜50質量%配合し、植物材料を50〜95質量%配合し、植物材料100質量%に対して5〜200質量%の水を配合し、熱可塑性樹脂を熱溶融させつつ、植物材料と水と熱可塑性樹脂とを混合することを特徴とする。
【0010】
本発明の成形体の製造方法は、下記の(4)〜(8)の何れかを備えるのが好ましい。(4)〜(8)の複数を備えるのがより好ましい。
(4)前記混合工程において、前記植物材料として、前記植物材料全体を100質量%としたときに、20質量%以上のリグニンを含むものを用いる。
(5)前記混合工程において、前記植物材料として、ケナフの芯材を用いる。
(6)前記混合工程において、前記熱可塑性樹脂として、ポリ乳酸樹脂を用いる。
(7)前記混合工程において、前記植物材料として、粒子径が24〜48メッシュのものを用いる。
(8)前記混合工程において、前記植物材料100質量%に対して50〜100質量%の前記水を配合する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の成形体は、熱可塑性樹脂と植物材料との合計を100質量%としたときに、熱可塑性樹脂を5〜50質量%含むとともに、植物材料を50〜95質量%含む。したがって、本発明の成形体には、植物材料に由来して、優れた生分解性や耐曲げ性、耐衝撃性、耐変形性等が付与される。
【0012】
本発明の成形体は射出成形されてなるため、形状の自由度が高い。換言すると、本発明の成形体は種々の形状をとり得る。本発明の成形体が多量の植物材料を含むにもかかわらず射出成形により形成できる理由は定かではないが、植物材料が多量のリグニンを含むことがその一因になっているのではないかと考えられる。
【0013】
また、本発明の成形体は、熱可塑性樹脂の含有量が少ないが、充分な耐衝撃性や耐曲げ性を示す。植物材料に多量に含まれるリグニンが接着剤として働くためであると考えられる。
【0014】
本発明の成形体が上記(1)を備える場合には、植物材料が非常に多くのリグニンを含むために、形状の自由度により一層優れる。植物材料が非常に多くのリグニンを含むことで射出成形がより一層容易になるためである。また、リグニンによる接着効果がより高くなるため、さらに優れた耐衝撃性や耐曲げ性を示す。
【0015】
本発明の成形体が上記(2)を備える場合には、成形体を安価に提供でき、かつ、環境問題に対応できる利点がある。すなわち、ケナフはアオイ科の一年草であり、成長が早いため、近年では、木材に代わる紙の原料として注目されている。ところで、紙等の原料となるケナフ繊維は、ケナフの靱皮部から形成されるが、ケナフの芯材は破棄されている部分である。したがって、ケナフの芯材を植物材料として用いることで、成形体の原料コストを低減でき、成形体の製造コストを低減できる。
【0016】
本発明の成形体が上記(3)を備える場合には、成形体に優れた生分解性を付与できる。これによって、二酸化炭素排出量の増加等を抑制でき、環境問題に対応できる。また、本発明の成形体に多く含まれる植物材料は、耐熱性に優れる。したがって本発明の成形体は、熱可塑性樹脂としてポリ乳酸樹脂を選択しても、充分な耐熱性を示す。さらに、ポリ乳酸樹脂は植物材料に含まれるセルロースに対する接着性に優れる。このため、熱可塑性樹脂としてポリ乳酸樹脂を含む成形体は、剛性に優れる利点もある。
【0017】
本発明の成形体の製造方法は、混合工程において、植物材料と水と熱可塑性樹脂とを混合する。このとき、水の配合割合は、植物材料100質量%に対して5〜200質量%とする。植物材料に対する水の配合割合が比較的多いため、植物材料が吸水して、見掛けの密度が大きくなる。このため、植物材料と熱可塑性樹脂とが均一に混ざり合う。したがって、本発明の製造方法で得られた成形体は、植物材料と熱可塑性樹脂とが均一に配され、品質が均一化する。また、植物材料として、植物材料全体を100質量%としたときに、10質量%以上のリグニンを含むものを用い、かつ、混合工程において熱可塑性樹脂を熱溶融させつつ、植物材料と水と熱可塑性樹脂とを混合することで、植物材料を多く含むにもかかわらず、流動性に優れた成形材料、すなわち、射出成形可能な成形材料が得られる。その理由は定かではないが、植物材料と熱可塑性樹脂とを水の存在下において高温で混合し、かつ、植物材料としてリグニンを多く含むものを用いることに起因すると考えられる。したがって、本発明の製造方法によると、植物材料を多く含み、かつ射出成形されてなる成形体を得ることができる。
【0018】
本発明の成形体の製造方法が上記(4)を備える場合には、上記(1)と同様に、より形状の自由度に優れ、かつ、さらに優れた耐衝撃性や耐曲げ性を示す成形体を得ることができる。
【0019】
本発明の成形体の製造方法が上記(5)を備える場合には、上記(2)と同様に、成形体を安価に製造でき、かつ、二酸化炭素排出量の増加等を抑制できるため環境問題に対応できる利点がある。
【0020】
本発明の成形体の製造方法が上記(6)を備える場合には、上記(3)と同様に、優れた生分解性が付与された成形体を製造でき、かつ、耐曲げ性や、耐衝撃性に優れる成形体を製造できる。
【0021】
本発明の成形体の製造方法が上記(7)を備える場合には、耐曲げ性、耐衝撃性、耐変形性にさらに優れる成形体を製造できる。植物材料として粒子径が24〜48メッシュのものを用いる場合には、植物材料の表面積が充分に小さいために、熱可塑性樹脂やリグニンなどの接着成分が植物材料の表面に均一に付着する。また、植物材料の表面積が充分に大きいため、植物材料同士の接触部分が多くなって植物材料同士が強固に接着される。これらの協働により、耐曲げ性、耐衝撃性、耐変形性にさらに優れる成形体を製造できると考えられる。なお、24メッシュは、JIS Z 8801における標準ふるいの呼び寸法710(μm)と一致する。48メッシュは、JIS Z 8801における標準ふるいの呼び寸法300(μm)と一致する。24〜48メッシュの粒子径とは、24メッシュのふるいを通過し、48メッシュのふるいを通過しない粒子径を指す。
【0022】
本発明の成形体の製造方法が上記(8)を備える場合には、植物材料に対する水の配合量が充分に大きいため、混合工程において、植物材料と熱可塑性樹脂とが均一に混ざり合うとともに流動性に優れた成形材料が得られる。また、植物材料に対する水の配合量が過大でないため、成形材料に含まれる水は、混合工程や射出成形工程で充分に蒸発する。したがって、成形材料に含まれる水を蒸発させるための工程を別途必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の成形体およびその製造方法で用いられる植物材料は、植物材料全体を100質量%としたときに、10質量%以上のリグニンを含む。以下、植物材料全体を100質量%としたときのリグニン含量(質量%)を、単にリグニン含量と呼ぶ。リグニン含量が10質量%以上の植物材料としては、ヒノキやスギに代表される木本の芯材や表皮材、枝等が挙げられる。このうちパルプ加工されていない木本の芯材や表皮材、枝等は、リグニン含量が20質量%以上であるため、好ましく用いられる。また、草本のなかでも、繊維化加工が為されていない材料(ケナフの芯材など)は、同様にリグニン含量が20質量%以上であるため、好ましく用いられる。参考までに、ケナフの芯材のリグニン含量は23質量%程度である。
【0024】
本発明の成形体およびその製造方法で用いられる熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を適宜組み合わせて用いても良い。本発明の製造方法において、混合工程では、固体状でありかつ小形(例えば粒状や粉末状)の熱可塑性樹脂を用いるのが好ましい。固体状でありかつ小形の熱可塑性樹脂を用いる場合には、植物材料と熱可塑性樹脂とが混合工程において非常に均一に混ざり合うためである。
【0025】
本発明の成形体は植物材料を多く配合した射出成形品である。また、本発明の成形体の製造方法によると、植物材料を多く配合するにもかかわらず成形体を射出成形することが可能である。本発明の成形体およびその製造方法において、成形体(または成形材料)は、熱可塑性樹脂と植物材料との合計を100質量%としたときに、熱可塑性樹脂を5〜50質量%含むとともに、植物材料を50〜95質量%含む。本発明の成形体が、植物材料および熱可塑性樹脂のみからなる場合には、本発明の成形体は50〜95質量%の植物材料と、50〜5質量%の熱可塑性樹脂とを含む。同様に、本発明の製造方法において、成形材料が植物材料、熱可塑性樹脂および水のみからなる場合には、得られた成形体は50〜95質量%の植物材料と、50〜5質量%の熱可塑性樹脂とを含む。
【0026】
本発明の成形体およびその製造方法において、植物材料は、熱可塑性樹脂100質量%に対して60質量%以上含まれるのが好ましく、70質量%以上含まれるのが望ましい。耐曲げ性、耐衝撃性および耐変形性を向上させるためである。
【0027】
なお、本発明でいう射出成形とは通常の射出成形法以外にも射出プレス成形法等を含む。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の成形品およびその製造方法を例を挙げて説明する。
【0029】
(実施例1)
実施例1の成形品の製造方法では、植物材料としてケナフの芯材を用い、熱可塑性樹脂としてポリ乳酸樹脂(PLA)を用いた。実施例1の成形品の製造方法を以下に説明する。
【0030】
(1)混合工程
ケナフの芯材を粉砕して24メッシュのふるいにかけた。24メッシュのふるいを通過したケナフの芯材を48メッシュのふるいにかけた。24メッシュのふるいを通過し48メッシュのふるいを通過しなかったケナフの芯材を植物材料として用いた。この植物材料と粒状の熱可塑性樹脂(粒子径3.0mmのPLA)と水とを、混合溶融装置に投入して攪拌し、植物材料と熱可塑性樹脂と水とを混合した。植物材料は、植物材料と熱可塑性樹脂との合計(以下、植物樹脂総量と呼ぶ)を100質量%としたときに60質量%配合した。熱可塑性樹脂は、植物樹脂総量を100質量%としたときに40質量%配合した。水は、植物材料100質量%に対して50質量%配合した。
【0031】
混合溶融装置としては、WO−2004−076044号公報に開示されている装置と同種のものを用いた。植物材料と熱可塑性樹脂と水とを混合溶融装置の攪拌室に投入した。次いで、混合溶融装置の回転羽根を回転させて、攪拌室に投入した植物材料と熱可塑性樹脂と水とを攪拌混合した。先端部における回転羽根の回転速度は30m/sであり、攪拌混合に要した時間は70秒間であった。回転羽根が高速で回転することで、植物材料と熱可塑性樹脂と水とは高速で攪拌混合された。このとき攪拌室内の植物樹脂材料、熱可塑性樹脂および水は、回転羽根で剪断、摩擦および圧縮して急激に発熱した。熱可塑性樹脂は、この熱で溶融し、植物材料の表面に均一に分散した。水はこの熱で蒸発した。この混合工程によって、植物材料と熱可塑性樹脂とが均一に混ざり合った一次材料が得られた。
【0032】
得られた一次材料を、二軸押出装置によって造粒し、二次材料を得た。2軸押出装置としては、株式会社プラスチック工学研究所製、スクリュー口径φが40mm、スクリュー長さ(L/D)が32のものを用いた。造粒温度は190℃であった。得られた二次材料を100℃で24時間乾燥し、成形材料を得た。
【0033】
(2)射出成形工程
混合工程で得た成形材料を射出成形機に投入し、190℃で加熱溶融した。次いで、この射出成形機によって、溶融した成形材料を60℃に加温した成形型に射出し、成形型にて成形した。射出成形機としては、株式会社名機製作所製のM100C−DMを用いた。
【0034】
以上の混合工程と射出成形工程とによって、実施例1の成形体を得た。
【0035】
(実施例2)
実施例2の成形体の製造方法は、植物材料の粒子径以外は実施例1と同じである。実施例2の成形体の製造方法において、植物材料の粒子径は100メッシュであった。なお、100メッシュは、JIS Z 8801における標準ふるいの呼び寸法150(μm)と一致する。粒子径100メッシュの植物材料とは、100メッシュのふるいを通過した植物材料を指す。実施例2の成形体の製造方法によって、実施例2の成形体を得た。
【0036】
(実施例3)
実施例3の成形体の製造方法は、植物材料の粒子径以外は実施例1と同じである。実施例3の成形体の製造方法において、植物材料の粒子径は24〜16メッシュであった。なお、16メッシュは、JIS Z 8801における標準ふるいの呼び寸法1.00(mm)と一致する。実施例3の成形体の製造方法によって、実施例3の成形体を得た。
【0037】
(実施例4)
実施例4の成形体の製造方法は、植物材料と熱可塑性樹脂と水との配合量以外は実施例1と同じである。詳しくは、植物材料は、植物樹脂総量を100質量%としたときに70質量%配合した。熱可塑性樹脂は、植物樹脂総量を100質量%としたときに30質量%配合した。水は、植物材料100質量%に対して50質量%配合した。実施例4の成形体の製造方法によって、実施例4の成形体を得た。
【0038】
(実施例5)
実施例5の成形体の製造方法は、植物材料と熱可塑性樹脂と水との配合量以外は実施例1と同じである。詳しくは、植物材料は、植物樹脂総量を100質量%としたときに80質量%配合した。熱可塑性樹脂は、植物樹脂総量を100質量%としたときに20質量%配合した。水は、植物材料100質量%に対して50質量%配合した。実施例5の成形体の製造方法によって、実施例5の成形体を得た。
【0039】
(実施例6)
実施例6の成形体の製造方法は、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(PP)を用いたこと以外は実施例1と同じである。実施例6の成形体の製造方法によって、実施例6の成形体を得た。
【0040】
(実施例7)
実施例7の成形体の製造方法は、植物材料としてヒノキの樹皮を用いたこと、熱可塑性樹脂としてPPを用いたこと、および、植物材料と熱可塑性樹脂と水との配合量以外は実施例1と同じである。詳しくは、植物材料は、植物樹脂総量を100質量%としたときに80質量%配合した。熱可塑性樹脂は、植物樹脂総量を100質量%としたときに20質量%配合した。水は、植物材料100質量%に対して50質量%配合した。植物材料の粒子径は24メッシュ〜16メッシュであった。実施例7の成形体の製造方法によって、実施例7の成形体を得た。
【0041】
(比較例1)
比較例1の成形体の製造方法では、植物材料としてケナフの繊維を用いた。比較例1の成形体の製造方法では、植物材料は、植物樹脂総量を100質量%としたときに10質量%配合した。熱可塑性樹脂は、植物樹脂総量を100質量%としたときに90質量%配合した。水は配合しなかった。植物材料の平均繊維長は5mmであった。植物材料と熱可塑性樹脂とを押し出し機に投入し、ペレット状の成形材料を得た。得られた成形材料を実施例1と同様に射出成形し、成形前駆体を得た。得られた成形前駆体を100℃で1時間結晶化処理して、成形体を得た。比較例1の成形体の製造方法によって、比較例1の成形体を得た。なお、比較例1および後述する比較例2〜3におけるケナフの繊維のリグニン含量は2質量%程度であった。
【0042】
(比較例2)
比較例2の成形体の製造方法は、植物材料と熱可塑性樹脂との配合量以外は比較例1と同じである。詳しくは、植物材料は、植物樹脂総量を100質量%としたときに20質量%配合した。熱可塑性樹脂は、植物樹脂総量を100質量%としたときに80質量%配合した。比較例2の成形体の製造方法によって、比較例2の成形体を得た。
【0043】
(比較例3)
比較例3の成形体の製造方法は、植物材料と熱可塑性樹脂との配合量以外は比較例1と同じである。詳しくは、植物材料は、植物樹脂総量を100質量%としたときに30質量%配合した。熱可塑性樹脂は、植物樹脂総量を100質量%としたときに70質量%配合した。比較例3の成形体の製造方法によって、比較例3の成形体を得た。
【0044】
(比較例4)
比較例4の成形体の製造方法は、植物材料を配合しなかったこと以外は比較例1と同じである。比較例4の成形体の製造方法によって、比較例4の成形体を得た。
【0045】
(成形体の物性評価試験)
実施例1〜8および比較例1〜4の成形体の、曲げ弾性率、アイゾット衝撃強度、線膨張係数を測定した。
【0046】
曲げ弾性率(GPa)は、JIS K7171に準拠して(23℃)測定するとともに、80℃でも測定した。曲げ弾性率が大きい程、耐曲げ性に優れると評価した。
【0047】
アイゾット衝撃強度(KJ/m)は、JIS K7110に準拠して測定した。アイゾット衝撃強度が大きい程、耐衝撃性に優れると評価した。
【0048】
線膨張係数(/℃)は、JIS K7197に準拠して測定した。なお、実施例1、4、5、7の成形体については、0℃〜110℃の範囲で線膨張係数を算出した。比較例1〜4の成形体については、0℃〜60℃で得られたデータに基づいて線膨張係数を算出した。比較例1〜4の成形体に多く含まれるポリ乳酸樹脂はガラス転移温度が58℃であり、60℃を超えると寸法が大きく変化するためである。線膨張係数が小さい程、耐変形性に優れると評価した。実施例1〜8および比較例1〜4の成形体の、曲げ弾性率、アイゾット衝撃強度、線膨張係数を表1に示す。なお、表1における植物材料の配合量および熱可塑性樹脂の配合量とは、植物樹脂総量を100質量%としたときの配合量を指す。水の配合量とは植物材料100質量%に対する配合量を指す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示すように、各実施例の成形体は、各比較例の成形体に比べて曲げ弾性率が大きく、アイゾット衝撃強度が大きく、線膨張係数が小さい。したがって、本発明の成形体は、耐曲げ性、耐衝撃性、および耐変形性に優れることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物材料と熱可塑性樹脂とを含み、射出成形されてなる成形体であって、
前記熱可塑性樹脂と前記植物材料との合計を100質量%としたときに、前記熱可塑性樹脂を5〜50質量%含むとともに、前記植物材料を50〜95質量%含み、
前記植物材料は、前記植物材料全体を100質量%としたときに、10質量%以上のリグニンを含むことを特徴とする成形体。
【請求項2】
前記植物材料は、前記植物材料全体を100質量%としたときに、20質量%以上のリグニンを含む請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記植物材料は、ケナフの芯材である請求項1に記載の成形体。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、ポリ乳酸樹脂である請求項1に記載の成形体。
【請求項5】
植物材料と水と熱可塑性樹脂とを混合して成形材料を得る混合工程と、前記成形材料を成形型内に射出するとともに前記成形型で成形して成形体を得る射出成形工程と、を備え、
前記混合工程において、
前記植物材料として、前記植物材料全体を100質量%としたときに、10質量%以上のリグニンを含むものを用い、
前記熱可塑性樹脂と前記植物材料との合計を100質量%としたときに、前記熱可塑性樹脂を5〜50質量%配合し、前記植物材料を50〜95質量%配合し、
前記植物材料100質量%に対して5〜200質量%の前記水を配合し、
前記熱可塑性樹脂を熱溶融させつつ、前記植物材料と前記水と前記熱可塑性樹脂とを混合することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項6】
前記混合工程において、前記植物材料として、前記植物材料全体を100質量%としたときに、20質量%以上のリグニンを含むものを用いる請求項5に記載の成形体の製造方法。
【請求項7】
前記混合工程において、前記植物材料として、ケナフの芯材を用いる請求項5に記載の成形体の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程において、前記熱可塑性樹脂として、ポリ乳酸樹脂を用いる請求項5に記載の成形体の製造方法。
【請求項9】
前記混合工程において、前記植物材料として、粒子径が24〜48メッシュのものを用いる請求項5に記載の成形体の製造方法。
【請求項10】
前記混合工程において、前記植物材料100質量%に対して50〜100質量%の前記水を配合する請求項5に記載の成形体の製造方法。

【公開番号】特開2007−326998(P2007−326998A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160945(P2006−160945)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】