説明

成形体の製造方法

【課題】環状オレフィン系樹脂を含む成形体に発生するゲル状物を減少させることが可能な、環状オレフィン系樹脂を含む成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】スクリュを備える成形機を用いて、環状オレフィン系樹脂を含む成形体を製造する場合に、成形機のスクリュの圧縮比を2.5以下とし、計量部におけるスクリュ外形寸法をDmm、溝底径寸法をdmmとして、D/d≧1.05とする。シリンダー径は、20mm以上120mm以下であることが好ましく、また、スクリュは、先端にミキシング部を有するものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系樹脂を含む成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系樹脂は、透明性、耐薬品性、防湿性、機械的特性等に優れるため、光学用途や、医薬又は医療機器用途等の材料として用いられている。また、環状オレフィン系樹脂は、溶融加工性や流動性にも優れ、フィルム状又はシート状の成形品や、包装材料にも利用されている。さらに、環状オレフィン系樹脂は、熱収縮性や印刷特性にも優れる。このように、環状オレフィン系樹脂は、多くの特徴を有し、様々な分野に利用されている。
【0003】
環状オレフィン系樹脂は、上記のような有用な面以外に、溶融成形すると時にゲル状物が発生し成形表面が荒れ外観特性が低下するという面も持つ。この外観特性の低下は、特に透明材料、光学用途、包装材料として環状オレフィン系樹脂を利用する場合に大きな影響を与える。
【0004】
そこで、上記ゲル状物の発生を抑え、環状オレフィン系樹脂を含む成形体の外観特性を改善する技術の開発が行われている。例えば、特許文献1には、特定の物性を有する環状オレフィン系樹脂を用い、押出機のスクリュの圧縮比を特定の範囲に調整することにより、環状オレフィン系樹脂を含む成形体を製造する方法が開示されている。特許文献1に記載の方法で、環状オレフィン系樹脂を含む成形体を製造すれば、ゲル状物の発生が抑えられるとされている。
【0005】
しかしながら、従来の方法では、ゲル状物による透明性低下を抑える効果が充分とは言えない場合もあり、改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−66767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、環状オレフィン系樹脂を含む成形体に発生するゲル状物を減少させることが可能な、環状オレフィン系樹脂を含む成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、スクリュを備える成形機を用いて、環状オレフィン系樹脂を含む成形体を製造する場合、成形機のスクリュの供給部、圧縮部の樹脂圧を低く保ち、計量部で樹脂圧をある程度上昇させることによって、具体的には、スクリュの圧縮比を2.5以下に調整し、スクリュの計量部におけるスクリュ外形寸法をDmm、溝底径寸法をdmmとして、D/d≧1.05と調整することによって、ゲル状物による成形体の透明性低下を抑えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) スクリュを備える成形機を用いて、環状オレフィン系樹脂を含む成形体を製造する方法であって、前記スクリュの圧縮比が2.5以下であり、前記スクリュの計量部におけるスクリュ外形寸法をD(mm)、溝底径寸法をd(mm)として、D/d≧1.05である成形体の製造方法。
【0010】
(2) シリンダー径が、20mm以上120mm以下である(1)に記載の成形体の製造方法。
【0011】
(3) 前記スクリュは先端にミキシング部を有する(1)又は(2)に記載の成形体の製造方法。
【0012】
(4) 原料のフィード量が、フルフィードである(1)から(3)のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【0013】
(5) 前記環状オレフィン系樹脂が、環状オレフィンとエチレンの共重合体である請求項1から4いずれかに記載の成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の成形体の製造方法によれば、環状オレフィン系樹脂を含む成形体を製造する際に、成形機のスクリュの圧縮比を2.5以下に調整し、スクリュの計量部におけるスクリュ外形寸法をDmm、溝底径寸法をdmmとして、D/d≧1.05に調整することで、成形機の供給部、圧縮部の樹脂圧を低く保ち、計量部での樹脂圧を均一に保つことにより、成形時に発生するゲル状物による、成形体の透明性の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一般的なスクリュの断面を模式的に示す図である。
【図2】押出機を模式的に示す図である。
【図3】Tダイからフィルムが押し出され、フィルムを評価する様子を模式的に示す図である。
【図4】比較例1、実施例1、実施例3における、フルフィード時のシリンダー内の樹脂にかかる圧力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0017】
本発明は、環状オレフィン系樹脂を含む成形体の製造方法である。本発明は、スクリュを調整することで、成形体の透明性を改善する技術である。以下、成形体の透明性を改善する技術として、本発明を説明する。
【0018】
本発明が、スクリュのどの部分を調整するかについて、説明するために、図1に一般的なスクリュ1の側面の模式図を示した。スクリュ1は、供給部10、圧縮部11、計量部12を有する。本発明では、計量部12のスクリュを調整する。また、必要に応じて供給部10のスクリュを調整する。
【0019】
先ず、各部に関して簡単に説明する。供給部10は、ホッパを通して、樹脂を食い込み、圧縮部11まで樹脂を移送するための部位である。圧縮部11は、谷径が計量部に向かうほど太くなるテーパー状になっており、樹脂を計量部12に向かって移送させながら、圧縮、加熱、混練して、溶融させるための部位である。計量部12は、圧縮部11から送られた樹脂を、一定圧力のもとに一定量ずつダイに送り出す部位である。
【0020】
次いで、スクリュに関するパラメータについて、図1を用いて説明する。図1に示すように、スクリュの全長をL、スクリュの外径寸法をD、スクリュの溝底径寸法をd、供給部10の長さをF、圧縮部11の長さをC、計量部12の長さをM、スクリュの1ピッチの長さをP、フライトのねじ山幅をW、スクリュ供給部の溝深さ距離をFH、スクリュ計量部の溝深さをMHとする。
【0021】
以下、成形体の透明性を改善する技術について詳細に説明する。
本発明の、成形体の透明性を改善する技術は、圧縮比を2.5以下に調整し、スクリュの計量部におけるスクリュ外形寸法をDmm、溝底径寸法をdmmとして、D/d≧1.05に調整することで、成形機の供給部、圧縮部の樹脂圧を低く保ち、計量部で樹脂圧をある程度上昇させる。このような方法をとることで、溶融前の樹脂にかかる圧力は低く、一旦溶融した後は均一な剪断応力をあたえることができ、ゲル発生抑制効果が大きいと推定される。この方法で製造される成形体は、上記の操作を行わないで成形した場合と比較して、ゲル状物による透明性の低下が抑えられ、優れた外観を有する。
このように、本発明は、スクリュを調整することで、成形体の透明性を改善する技術である。そこで、先ず、スクリュについて説明する。
【0022】
圧縮比、スクリュの計量部におけるスクリュ寸法を調整することで、成形機の供給部、圧縮部の樹脂圧を低く保ち、計量部で樹脂圧を上昇させる、この成形機内の圧力の変化によって、成形時にゲル状物が発生すること自体を抑えることができる。その結果、成形体の透明性低下を抑える効果が得られる。
【0023】
圧力の低下の程度は、特に限定されないが、例えば図4の実施例3のごとく、供給部でのシリンダー内の圧力がおよそ1MPa以下で、圧縮部でのシリンダー内の圧力は、およそ3MPa以下であった。計量部以降では圧力が大きくなる場合があってもゲル発生は抑制できる。
【0024】
本発明において圧縮比C/Rは以下の数式のように定義される。
【数1】

計量部のピッチは、D以上2D以下であることが好ましい。D未満では透明性改善効果が不足の可能性あり、ピッチが2Dを超えると搬送能力不足の可能性がある。
【0025】
スクリュの計量部におけるフライトの、上記D/dを増大させると、スクリュの圧縮比が減少する。つまり、本発明は、上記D/dを増大させて、スクリュの圧縮比を減少させることで、溶融前の樹脂にかかる圧力は低く、一旦溶融した後は均一な剪断応力をあたえ、成形体の透明性を改善する発明であるとも言える。本発明において、スクリュの計量部におけるフライトの、上記D/dは1.05以上に調整し、圧縮比は2.5以下に調整する。上記D/dは1.10以上に調整することが好ましく、圧縮比は2.2以下に調整することが好ましい。
圧縮比下限は特に限定されないが、1.2以上が好ましい。1.2以上であれば計量部の混練効果が十分であり、ゲル低減効果が大きくなる。
D/dを1.05にするために、Dを大きくするか、dを小さくする必要があり、いずれでもかまわない。Dを大きくするのは押出機のスケールアップにつながるため、dを小さくする方が容易である。また、一般にDを大きくする方が、剪断効率がアップするため、ゲル低減効果は大きい。
【0026】
ところで、上記の通り、本発明では、スクリュの計量部を調整して、圧縮比を下げる。ここで、圧縮比を低くするためには、上記D/dを増大させる方法以外に、供給部のスクリュにおける1ピッチ当たりの容積を減少させる方法が挙げられる。
【0027】
しかし、供給部のスクリュの1ピッチ当たりの容積を減少させる方法では、次の2点が問題となる。第一に、供給部の上記容積を減少させるために、供給部のスクリュの溝深さを浅くすると、樹脂に圧力がかかりやすくなり、ゲル状物の発生を促進してしまう場合がある。第二に、供給部の上記容積を減少させると、樹脂の吐出量が少なくなってしまい、成形体の生産性が低下する。
【0028】
以上より、供給部の溝深さが浅すぎる場合、ピッチが短すぎる場合には、供給部のスクリュの溝深さを深くするような調整、ピッチの長さを長くするような調整を行うことが有効である。ただし、このような調整を行うのみでは、圧縮比が大きくなるため、上記D/dも併せて調整し、全体としては、圧縮比が小さくなるようにスクリュを調整する必要がある。
【0029】
また、スクリュの先端にミキシング部を設け、溶融樹脂の状態でさらに混練することによって、ゲル状物の発生による透明性低下をさらに抑えることができる。溶融樹脂に含まれ、成形体の透明性に悪影響を与えるゲル状物を、混練により消失させることができるからである。上記の通り、D/dの値等を調整することで、成形時にゲル状物を発生させにくくすることができるが、スクリュの先端にミキシング部を設けることで、供給部や圧縮部等で発生したゲル状物を消失させることができる。その結果、成形体の透明性がさらに高まる。
ミキシング部のタイプは、特に限定されない。例えば、ダルメージタイプ、フルーテッドタイプ、ピンタイプ、マドックタイプ、グレゴリータイプ、ユニメルトタイプ等のいずれも使用可能である。また、本発明においてはユニメルトタイプのミキシング部を使用することが好ましい。
【0030】
スクリュに対して、上記のような調整を加えることで、成形体の透明性を改善することができる。その他の条件のスクリュの全長L、供給部10の長さF、圧縮部11の長さC、計量部12の長さM等は、適宜好ましい範囲に調整すればよい。
【0031】
次いで、上記のようにして調整したスクリュを用いて、成形体を製造する方法について、詳細に説明する。
【0032】
本発明は、環状オレフィン系樹脂を含む成形体の製造方法であり、上述の通り、スクリュを調整することで、成形体の透明性を改善する。先ず、原料について説明する。
【0033】
原料は、環状オレフィン系樹脂からなるものであっても、環状オレフィン系樹脂を含む樹脂組成物(以下、「環状オレフィン系樹脂組成物」という場合がある。)であってもよい。特に環状オレフィン系樹脂組成物を原料とする場合には、例えば、樹脂組成物中に環状オレフィン系樹脂が80質量%以上含まれると、ゲル状物による透明性の問題が生じやすい。しかし、本発明の製造方法を用いれば、環状オレフィン系樹脂の含有量が上記の範囲の樹脂組成物を原料としても、ゲル状物による透明性悪化の問題が抑えられる。
【0034】
次いで、環状オレフィン系樹脂について、さらに詳細に説明する。
環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィン成分を共重合成分として含むものであり、環状オレフィン成分を主鎖に含むポリオレフィン系樹脂であれば、特に限定されるものではない。例えば、環状オレフィンの付加重合体又はその水素添加物、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物等を挙げることができる。
【0035】
また、環状オレフィン系樹脂としては、上記重合体に、さらに極性基を有する不飽和化合物をグラフト及び/又は共重合したもの、を含む。
【0036】
極性基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基等を挙げることができ、極性基を有する不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、マレイン酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0037】
環状オレフィン系樹脂としては、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物が好ましい。
【0038】
また、本発明に用いられる環状オレフィン成分を共重合成分として含む環状オレフィン系樹脂としては、市販の樹脂を用いることも可能である。市販されている環状オレフィン系樹脂としては、例えば、TOPAS(登録商標)(Topas Advanced Polymers社製)、アペル(登録商標)(三井化学社製)、ゼオネックス(登録商標)(日本ゼオン社製)、ゼオノア(登録商標)(日本ゼオン社製)、アートン(登録商標)(JSR社製)等を挙げることができる。
【0039】
環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体として、特に好ましい例としては、〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、〔2〕下記一般式(I)で示される環状オレフィン成分と、を含む共重合体を挙げることができる。
【化1】

(式中、R〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
とR10、R11とR12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、
又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、
nが2以上の場合には、R〜Rは、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0040】
〔〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分〕
炭素数2〜20のα−オレフィンは、特に限定されるものではない。例えば、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。また、これらのα−オレフィン成分は、1種単独でも2種以上を同時に使用してもよい。これらの中では、エチレンの単独使用が最も好ましい。
【0041】
〔〔2〕一般式(I)で示される環状オレフィン成分〕
一般式(I)で示される環状オレフィン成分について説明する。
【0042】
一般式(I)におけるR〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものである。
【0043】
〜Rの具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0044】
また、R〜R12の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、ステアリル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、通りル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ナフチル基、アン通りル基等の置換又は無置換の芳香族炭化水素基;ベンジル基、フェネチル基、その他アルキル基にアリール基が置換したアラルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0045】
とR10、又はR11とR12とが一体化して2価の炭化水素基を形成する場合の具体例としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基等のアルキリデン基等を挙げることができる。
【0046】
又はR10と、R11又はR12とが、互いに環を形成する場合には、形成される環は単環でも多環であってもよく、架橋を有する多環であってもよく、二重結合を有する環であってもよく、またこれらの環の組み合わせからなる環であってもよい。また、これらの環はメチル基等の置換基を有していてもよい。
【0047】
一般式(I)で示される環状オレフィン成分の具体例としては、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。
【0048】
これらの環状オレフィン成分は、1種単独でも、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中では、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)を単独使用することが好ましい。
【0049】
〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と〔2〕一般式(I)で表される環状オレフィン成分との重合方法及び得られた重合体の水素添加方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法に従って行うことができる。ランダム共重合であっても、ブロック共重合であってもよいが、ランダム共重合であることが好ましい。
【0050】
また、用いられる重合触媒についても特に限定されるものではなく、チーグラー・ナッタ系、メタセシス系、メタロセン系触媒等の従来周知の触媒を用いて周知の方法により環状オレフィン系樹脂を得ることができる。
特に好ましい環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィンとエチレンの共重合体からなる樹脂である。このような環状オレフィン系樹脂を用いることで本発明の効果が有効に現れる。
【0051】
〔その他共重合成分〕
環状オレフィン系樹脂は、上記の〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、〔2〕一般式(I)で示される環状オレフィン成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて他の共重合可能な不飽和単量体成分を含有していてもよい。
【0052】
任意に共重合されていてもよい不飽和単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体等を挙げることができる。炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体の具体例としては、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。
【0053】
環状オレフィン系樹脂のガラス転移点が低い場合に、特にゲル状物が発生しやすい。しかし、本発明を用いれば、ゲル状物が発生しやすく透明性が悪化しやすい、ガラス転移点の低い環状オレフィン系樹脂を原料として用いても、透明性の悪化を充分に抑えることができる。ここで、ガラス転移点が低い環状オレフィン系樹脂とは、およそ100℃以下のガラス転移点を有する環状オレフィン系樹脂を指す。なお、ガラス転移点(Tg)は、DSC法(JIS K7121記載の方法)によって昇温速度10℃/分の条件で測定した値を採用する。
【0054】
なお、環状オレフィン系樹脂組成物を原料として用いる場合、環状オレフィン系樹脂組成物は、上記環状オレフィン系樹脂以外の他の樹脂、核剤、着色剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の従来公知の添加剤を含有することができる。
【0055】
次いで、具体的な製造工程について説明する。
図1に示すスクリュを備えた押出機2を図2に示す。この図2に示す押出機2を用いて、フィルムを製造する場合を例に、具体的な製造工程を説明する。
【0056】
押出機2は、ホッパ20、シリンダー21、Tダイ22を備える。シリンダー21内に上記で調整したスクリュが配設される。また、シリンダー21はシリンダー内の圧力を測定するための複数の圧力センサー210を備える。この圧力がシリンダー内の樹脂にかかる圧力であるとする。
【0057】
先ず、押出機2のホッパ20に原料を投入する。投入する原料が複数種類の場合には、予めコンパウンドしたものを用いてもよいし、複数の原料をドライブレンドして用いてもよい。
なお、原料を投入する前に、成形時の酸化による熱分解等を抑えるためにホッパ20、押出機2内を窒素パージしてもよい。窒素パージには従来公知の窒素発生機を使用することができる。
【0058】
原料の投入量(フィード量)は特に限定されず、フルフィードであっても、飢餓フィードであってもよいが、フルフィードで成形してもゲル状物による透明性の悪化を充分に抑えることができる。ここで、飢餓フィードとは、ホッパに樹脂を充満させて押出成形を行った場合の吐出量よりも少ない量の原料を、定量フィーダ等を用いて供給する方式である。一方、フルフィードでは、ホッパに樹脂を充満させて押出成形を行う。つまり、フルフィードは、飢餓フィードと比較して原料の投入量が多い。
【0059】
通常、飢餓フィードは、投入する原料が少ないため、供給部、圧縮部で樹脂に圧力がかかりにくい。その結果、飢餓フィードの場合には、フルフィードの場合と比較して、ゲル状物の発生が抑えられると考えられる。しかし、本発明のように、スクリュの計量部を調整すると、フルフィードの方が、飢餓フィードよりもゲル状物の発生が抑えられる場合があり、その場合の透明性改善効果は非常に高い。
【0060】
次いで、投入した原料を押出機2内で溶融混練する。この際のスクリュ回転数、吐出量、成形温度等の成形条件は特に限定されず適宜調整する。ホッパ20から投入された原料は、スクリュの回転によりかかるせん断力で溶かされながらホッパ20側からTダイ22の方へ移送される。この際、シリンダー21内の圧力を圧力センサー210で測定する。
【0061】
Tダイ22からフィルム状の成形体が押し出される。押し出し後のフィルムは、図3に示すように、いくつかのローラ3を通過しながら、フィルム引取機4に巻き取られる。Tダイ22から押し出された後、このフィルム引取機4に巻き取られるまでの間に、ゲルデータ検出解析装置5を用いて、ゲル状物の発生量を評価する。
【0062】
ここで、フィルムに存在するゲル状物の量が、求める水準を満たさない場合には、スクリュの計量部におけるフライトの、D/dの値をさらに増大させて、供給部、圧縮部で樹脂にかかる圧力を減少させて、ゲル状物の量を減少させることができる。
【0063】
なお、上記の製造工程の説明では、圧力センサーを用いるが、供給部、圧縮部の圧力が所望の範囲になることが確認された後は、圧力センサーを使用する必要はない。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0065】
実施例、比較例では、以下の原料、押出機、スクリュ、圧力センサー、ゲルデータ検出解析装置を使用した。
【0066】
<原料>
実施例、比較例では、Topas Advanced Polymers社製の環状オレフィン系樹脂(「TOPAS 8007F−04」、ガラス転移点78℃)を使用した。
<押出機>
実施例、比較例では、株式会社プラスチック工学研究所製の単軸押出機を使用した。スクリュは、シリンダー径32mm、L=960mm、P=32mm、W=3.2mm、D=31.8mm、が共通の条件であり、その他の条件については表1に示す。
また、全てのスクリュにおいて、圧縮部は谷径がテーパーになっており、傾斜は同角度である。
また、スクリュがミキシング部を備える場合、ミキシング部はユニメルトタイプである。
【表1】

【0067】
<圧力センサー>
実施例、比較例では、圧力センサーとして、キーエンス社製の多点圧力検出装置(「データロガー」)を使用した。
【0068】
<ゲルデータ検出解析装置>
実施例、比較例では、ゲルデータ検出解析装置として、OCS社製のゲルデータ検出解析装置(「FSA100」)を使用した。評価は、図3に示すようにTダイから引取機の間で行った。評価条件は以下に示す。
[評価条件]
感度:50%
検出巾:70mm(フィルム中央部)
グレーレベル:170
【0069】
次いで、具体的な製造について説明する。
図2に示すように、15点でシリンダー内の圧力が測定できるように、押出機のシリンダー上に圧力センサーを配置した。また、KOFLOC社製の窒素発生機を用いて、ホッパ、押出機内を窒素パージした後、スクリュ毎にフルフィード、飢餓フィードの条件でフィルムを製造した。なお、具体的な成形条件は以下の通りであり、飢餓フィードの条件での成形には、定量フィーダを用いた。
本実施例での飢餓フィード条件は、予めフルフィードの吐出量を測定しておき、フルフィード時の80%の吐出量となるように定量フィーダにて調整した条件である。
[成形条件]
スクリュ回転数:100rpm
押出量:20kg/時間
基本温度設定:210℃(C1)、230℃(C2〜C6、H、AD、D)、60℃(ローラ)
【0070】
実施例、比較例のフィルムの欠点数の結果について、表2に示した。また、フルフィードの条件でのシリンダー内の樹脂にかかる圧力を図4に示した。
【表2】

【0071】
表2の結果から明らかなように、圧縮比を2.5以下に、D/dを1.05以上にすることで、ゲル状物による透明性低下を改善できることが確認された。そして、供給部、圧縮部で樹脂にかかる圧力が小さいことが確認された。
【0072】
また、実施例1及び2の結果から、スクリュの先端にミキシング部を備える方が、成形体の透明性をより改善できることが確認された。
【符号の説明】
【0073】
1 スクリュ
10 供給部
11 圧縮部
12 計量部
2 押出機
20 ホッパ
21 シリンダー
210 圧力センサー
22 Tダイ
3 ローラ
4 フィルム引取機
5 ゲルデータ検出解析装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュを備える成形機を用いて、環状オレフィン系樹脂を含む成形体を製造する方法であって、
前記スクリュの圧縮比が2.5以下であり、
前記スクリュの計量部におけるスクリュ外形寸法をD(mm)、溝底径寸法をd(mm)として、D/d≧1.05
である成形体の製造方法。
【請求項2】
シリンダー径が、20mm以上120mm以下である請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
前記スクリュは先端にミキシング部を有する請求項1又は2のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
原料のフィード量が、フルフィードである請求項1から3のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
環状オレフィン系樹脂が、環状オレフィンとエチレンの共重合体である請求項1から4いずれかに記載の成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−6304(P2012−6304A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145276(P2010−145276)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】