成形体及び成形方法、成形装置
【課題】磁場配向が局所的に制御された成形体、及び磁場配向を局所的に制御する制御技術としての成形方法、成形装置を提供する。
【解決手段】強磁性体粉を含む原料粉が一軸加圧成形されてなる成形体である。一軸加圧方向における配向度が異なる領域を有し、当該領域における主要な結晶面のX線回折ピークの半値全幅と他の領域における半値全幅の差が0.05°以上である。局所的な配向制御を行うには、強磁性体粉を含む原料粉を金型の成形空間4内で一軸加圧成形する際に、一軸加圧方向に外部磁場Hexを印加するとともに、金型の成形空間の近傍に角部が臨むように強磁性体を配する。
【解決手段】強磁性体粉を含む原料粉が一軸加圧成形されてなる成形体である。一軸加圧方向における配向度が異なる領域を有し、当該領域における主要な結晶面のX線回折ピークの半値全幅と他の領域における半値全幅の差が0.05°以上である。局所的な配向制御を行うには、強磁性体粉を含む原料粉を金型の成形空間4内で一軸加圧成形する際に、一軸加圧方向に外部磁場Hexを印加するとともに、金型の成形空間の近傍に角部が臨むように強磁性体を配する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば結晶磁気異方性を有する強磁性粉末が一軸加圧成形された成形体及びその成形方法、成形装置に関するものであり、特に、配向を制御するための新規な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において、高速で高精度な変位制御や位置制御が求められており、さらには前記制御を行う制御装置の小型化・低コスト化が求められている。具体的な分野としては、燃料吐出装置(インジェクター)、医療機器、いわゆるマイクロマシン、ナノマシン等を挙げることができる。
【0003】
そして、前記要求に対し、いわゆる超磁歪材料は、変位制御、位置制御に高いポテンシャルを持つ材料として注目されている。また、例えばTb−Dy−Fe系等のRT2(Rは希土類元素、Tは3d遷移金属元素を表す。)系超磁歪材料は、PZTに代表されるような圧電材料に比して約2倍以上の変位が可能であることから、音響関連のエキサイタとしても注目されている。
【0004】
前記Tb−Dy−Fe系に代表される超磁歪材料は、ゾーンメルト法等の単結晶成長でも作製することはできるが、生産性、コスト、特性制御性等の観点から、一般に粉末の磁場中成形体を焼結する粉末冶金法が採用されている(例えば、特許文献1等を参照)。これにより、配向性に優れる多結晶体の超磁歪材料を安価に得ることができる。
【特許文献1】特開平7−286249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記超磁歪材料等を成形する場合、成形時に粒子を磁場配向させるための外部磁場が必要となる。例えば、Tb−Dy−Fe系に代表されるようなRT2系の超磁歪材料の結晶質は、特別の場合を除き、磁気的相転移点以下で結晶磁気異方性を有する。このような材料の粒子や粉末を成形する際には、特性向上、特性管理の点から、磁場配向させるのが通常である。
【0006】
前記磁場配向の際には、各強磁性粒子の磁化ベクトルは印加磁場に沿った方向に向こうとし、粒子の方位は磁化容易軸方向に磁化ベクトルが来るよう回転する。これらの効果は一般に印加磁場が大であるほど顕著であるので、磁場配向成形時には、より大きな磁場が求められる。また、配向制御の観点に立てば、配向程度を制御するには印加磁場の大きさを適度に制御する必要がある。
【0007】
ところで、これら粉末や粒子の磁場中成形体やその後の焼結体磁性材料に対し、近年、高度な特性制御が求められるようになってきている。例えば、電子機器、電子デバイスに対する低コスト化、小型化、高性能化の要求は近年強く、その結果、電子デバイスを構成する電子材料、磁性材料にも、デバイス構成要素としての低コスト化や、デバイスコストを下げるための材料自体の高性能化,高機能化の要求が高まっている。超磁歪材料等、印加磁場に対する磁気的機械的変化を各種デバイスやシステムに適用する材料では、複雑な形状や複数の超磁歪材料の使用を回避し、一体で単一の超磁歪材料を用いて、優れた動作や簡便な周辺設計、低コスト、新規の機能などを達成することが常に求められている。これを実現する手法の一つとして、高度に局所的な磁気特性が制御された磁性材料、及びその制御技術が求められている。
【0008】
例えば、磁場配向させた成形体、あるいはこれに焼成等を施した焼結体をシステムやデバイスの一部に適用する場合、設計や仕様の要求によっては、成形体の磁場配向の大きさや方向が一定ではなく、成形体内の場所によって意図的に異なる方向や大きさの磁場配向がより適する場合がある。しかしながら、従来の磁場中成形においては、外部磁場の磁気回路固有の空間的に緩やかな分布はあっても、局所的な制御性や設計意図に応じた制御性等を積極的に付与することは、ほとんど想定されていない。このため、これらの要求に応えることが困難で、例えば超磁歪材料等を用いたデバイスやシステムのより高度な設計、高度な利用を阻んでいるのが実情である。特に、マイクロマシンやナノマシンと呼ばれる分野においては、寸法や部品点数への要求が厳しく、一体の素材単体であっても場所によって特性が異なる傾斜機能材料や、局所的に特性を制御した材料が開く新たな潜在的需要は大きいものと考えられる。
【0009】
前述のように、超磁歪材料等、印加磁場に対する磁気的機械的変化を各種デバイスやシステムに適用する材料では、複雑な形状や複数の超磁歪材料を回避し、一体で単一の超磁歪材料を用いて優れた動作や簡便な周辺設計、低コスト、新規の機能等を達成することが求められている。そして、これを実現する手法の一つとして、高度に局所的な磁気特性が制御された磁性材料、特に磁場配向が局所的に制御された超磁歪材等の磁気異方性材料、及びそれらの制御技術が求められている。本発明は、これらの要望に応えて提案されたものであり、磁場配向が局所的に制御された成形体を提供することを目的とし、さらには、磁場配向を局所的に制御する制御技術としての成形方法、成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の目的を達成するために、本発明の成形体は、強磁性体粉を含む原料粉が一軸加圧成形により一体に成形されてなる成形体であって、他の領域とは局所的に配向度が異なる領域を有することを特徴とする特徴とする。
【0011】
本発明の成形体は、前記の通り、磁場配向が局所的に制御され、配向度が他の場所とは異なる領域を有する成形体である。これまでの考えでは、成形体を磁場配向する場合には、如何にして均一な配向とするかに重点が置かれてきたが、本発明の成形体は、従来とは全く異なる考えに基づき、局所的に特性が制御されたものであり、前述の新たな需要に応えるものである。
【0012】
なお、本発明で言うところの成形体は、強磁性体粉を含む原料粉が加圧成形された成形体全般を含む概念であり、例えば、特段の処理(焼成等)を行っていない未焼結成形体や、焼成後の焼結体等、最終的な形態は問わず、製造の過程で前記加圧成形が行われたものを全て含むものとする。
【0013】
前記のような配向度が局所的に制御された成形体を成形するには、磁場印加方法に工夫が必要である。従来技術のように、一方向に外部磁場を印加しながら成形するだけでは、前記ように配向度が局所的に制御された成形体を得ることは難しい。これを規定したのが、本発明の成形方法、成形装置である。すなわち、本発明の成形方法は、強磁性体粉を含む原料粉を金型の成形空間内で一軸加圧成形する成形方法であって、前記一軸加圧方向に外部磁場を印加するとともに、前記金型の成形空間の近傍に角部が臨むように強磁性体を配することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の成形装置は、強磁性体粉を含む原料粉を一軸加圧成形する成形空間を有する金型と、前記金型の成形空間に外部磁場を印加する外部磁場印加手段と、前記金型の成形空間に対して角部が臨むように成形空間近傍に配される強磁性体とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の成形方法、成形装置では、成形空間の近傍に磁性体を配置し、これに磁極を発生させて局所磁場を発生させ、外部磁場に重畳させることで、有効磁場が前記外部磁場よりも大である領域を形成する。これにより局所的に実効的な縦磁場を変化させることができ、その結果、成形される成形体の配向が局所的に制御される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、部位によって意図的に磁場配向の大きさや方向が局所的に制御された成形体を提供することが可能である、例えば、磁歪材料の原料合金粉末を成形した成形体では、この成形体にさらに焼成等を施すことで、デバイス化にあたり、優れた動作や精密な動作、または複雑な動作が可能な一体で単一の超磁歪材料を得ることが可能である。この超磁歪材料をデバイス化することにより、簡便な周辺設計、低コスト化、新規の機能の付与等が可能になる
【0017】
また、本発明の成形方法、成形装置によれば、例えば成形体を縦磁場成形により成形する場合に、局所的に強い磁場を印加することができ、成形される成形体の磁場配向を局所的に制御することが可能である。この際、局所的な磁場を形成するための特別な磁場発生用電源や磁気回路は不要であり、簡便に局所磁場を印加することが可能であるので、装置構成の簡素化や使用電流の低減等が可能である。したがって、これらにより、例えば前記のようなデバイス化等に適した超磁歪素子等を、市場に安価に安定供給することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を適用した成形体及びその成形方法、成形装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下においては、超磁歪素子の成形を例にして説明するが、本発明がこれに限定されるものでないことは言うまでもなく、例えば磁化容易軸、磁化容易面、磁化容易方向のいずれかを有する強磁性体粉の成形全般に適用可能である。
【0019】
図1は、本発明を適用した成形体(焼結体)の一例を示すものである。この成形体1は、超磁歪材料を一軸加圧成形した成形体を焼成したものであり、本例の場合、一体成形されて円筒形状を有するものである。成形体の形状としては、これに限らず、例えば円柱形状や、角筒形状、角柱形状等、任意である。
【0020】
超磁歪素子の場合、前記成形体(焼結体)は例えば希土類元素と3d遷移金属元素を主たる構成元素として含む磁歪材料から構成され、磁歪変位が大きく、高速応答性に優れ、大きな駆動力を発現するという優れた特徴を有する。具体的組成としては、例えばRTy(ここで、Rは1種類以上の希土類元素、Tは1種類以上の遷移金属であり、yは1<y<4である。)で示される組成となるように原料合金粉を焼結すればよい。
【0021】
ここで、Rは、Yを含むランタノイド系列、アクチノイド系列の希土類元素から選択される1種以上を表している。これらの中で、Rとしては、特にNd、Pr、Sm、Tb、Dy、Ho等の希土類元素が好ましく、Tb、Dyがより一層好ましく、これらを混合して用いることができる。Tは、1種以上の遷移金属を表している。これらの中で、Tとしては、特に、Fe、Co、Ni、Mn、Cr、Mo等の遷移金属が好ましく、これらを混合して用いることができる。
【0022】
RTyで表される合金のうち、y=2であるRT2ラーベス型金属間化合物は、キュリー温度が高く、磁歪値が大きいため、磁歪素子に適する。ここで、yが1以下では、焼結後の熱処理でRT相が析出して磁歪値が低下する。また、yが4以上では、RT3相又はRT6相が多くなり、磁歪値が低下する。このため、RT2がリッチな相を多くするために、yは1<y<4の範囲が好ましい。
【0023】
Rは、2種以上の希土類元素を混合してもよく、特に、TbとDyを混合して用いることが好ましい。具体的には、TbaDy1−aで表される合金で、aは0.27<a≦0.50の範囲にあることが一層好ましい。これにより、(TbaDy1−a)Tyなる合金で、飽和磁歪定数が大きく、大きな磁歪値が得られる。ここで、aが0.27以下では室温以下では十分な磁歪値を示さず、逆に0.50を越えると室温付近では十分な磁歪値を示さない。
【0024】
Tは、特にFeが好ましく、FeはTb、Dyと(Tb、Dy)Fe2金属間化合物を形成して、大きな磁歪値を有し磁歪特性の高い焼結体が得られる。このときに、Feの一部をCo、Niで置換してもよいが、Coは磁気異方性を大きくするものの、透磁率を低くし、また、Niはキュリー温度を下げ、結果として常温・高磁場での磁歪値を低下させる。したがって、Feは70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0025】
本発明の成形体において特徴的なことは、例えば円筒形状の成形体1において、局所的に配向が制御されていることである。すなわち、前記成形体1を一軸加圧方向において、例えばその一部(円環状領域1a)が、他の部分と異なる配向度となっていることが特徴である。
【0026】
この配向度の指標としては、本発明においては、X線回折ピークの半値全幅を採用する。例えば、前記超磁歪材料の場合、立方晶系であって、[hhh]方向が結晶磁気異方性の磁化容易軸方向である。一軸加圧成形では、一軸加圧方向を鉛直方向とする平面の磁場方向に、前記結晶磁気異方性としての磁化容易軸が優先配向する。したがって、例えば成形体1を前記円環状領域1aと他の部分について、それぞれ一軸加圧方向と直交する面で切断した場合、切断面には前記磁化容易軸と直交する結晶面が含まれることになる。そこで、前記磁化容易軸と直交する主要な結晶面の粉末法X線による回折ピークを測定し、その半値全幅を比較することで、前記円環状領域1aや他の部分の結晶配向度を把握することができる。
【0027】
前記希土類元素と3d遷移金属元素を主たる構成元素として含む磁歪材料の成形体の場合、前記主要な結晶面として、[222]面の粉末X線回折ピークを測定し、前記円環状領域1aと他の部分の半値全幅を比較する。本発明の成形体の基準としては、前記円環状領域1aの半値全幅と他の部分の半値全幅の差が0.05(degree)以上である。前記半値全幅の差が0.05(degree)以上であれば、積極的に磁場配向を局所的に制御したと言える。
【0028】
前述のような局所的に磁場配向が制御された成形体は、以下のような要求において有用である。その例の一つは、超磁歪素子を外部デバイス側から支持あるいは保持する場合、支持あるいは保持する部位の磁歪量低減である。例えば、縦磁場成形を経て得られた超磁歪材料をインジェクター用途等に代表されるアクチュエーター等へ適用する際に、超磁歪材料の端部に端面を形成し、デバイス側の端面に相対した面で超磁歪材料を保持する場合が多い。端部を対面する支持面で受ける手法は、力や線形運動の授受に適する方法の一つであるが、反面、端面加工の品質等にばらつきが多く、それによって性能が左右され、安価で安定した品質の量産には必ずしも最適な方法とは言い難い。機械強度に関しても、力の授受は、前記端面の面積内で行わなければならず、扱いたい力に対して面圧を一定以下にすることができない。
【0029】
このような場合に、超磁歪素子の側面の一部に保持、支持用に磁歪量が小さい部分を局所的に設けることで、システム側支持部が超磁歪素子側面を直接機械的に保持あるいは支持することが容易になる。これは、磁場配向を調整した超磁歪材料の保持用部分とシステム側支持部との機械的ストレスが大幅に低減できるからである。したがって、前記磁歪量が局所的に小さな超磁歪素子を作製、供給することができれば、側面の機械的支持が従来より格段に小さな機械的ストレス下で可能になり、端面処理の品質が性能に与える影響が非常に小さくなる。また、授受する力に応じて側面の支持部面積や構造を変更できるので、超磁歪材料の断面積等を維持したまま、保持あるいは支持部でやり取りする面圧を下げることができる。特に、円筒形状や円柱形状の超磁歪素子では、長さ方向において局所的に磁歪等の磁気特性が制御された材料が求められる素地が広く、本発明の成形体における磁場配向制御は有用である。
【0030】
また、例えば、別の例として、超磁歪材料の円柱状試料の側面で磁歪量を小さくしたアクチュエーター等の需要が挙げられる。ここで、全体としては円柱の長さ方向に磁場配向させた超磁歪材料を考える。この円柱状試料に円柱の長さ方向の磁場を印加して伸縮させる際、特段の工夫をしなければ、円柱側面で反磁場効果が小さく、円柱内部の中心付近で反磁場効果が大きいためである。この反磁場効果は、円柱の端面近傍で特に顕著になる。例えば、理想的な軟磁性材を仮定した場合、端面近傍の中心部では、反磁場係数が0.5近傍になり、端面近傍の側面部では0.25程度となる。したがって、いわゆる磁歪定数が場所に依らずほぼ一定ならば、実効的な磁歪感受率は、円柱中心近傍で低く、円柱周辺部で高くなる。
【0031】
この円柱中心部と側面部の差により、磁場駆動した際に、円柱中心部で磁歪変位量が小さく、円柱側面部で磁歪変位量が大きいという現象が発生する。その結果、力や変位を伝えるデバイス側への入力が側面部中心になり、実質的にドーナツ状の面を介してデバイス側へ機械的入力をすることになる。これは超磁歪材料円柱の体積的な能力を十分引き出しているとは言えず、好ましい設計とは言えない。また、周辺部に集中的に力が加わることから、機械的強度の確保が一段と困難になる。
【0032】
その対策法の一つは、円柱試料端部近傍の外周部をテーパーを付けて除去するというものである。これは、周辺部が物理的にデバイス側支持部へ接しないため、超磁歪材料側面部による機械的入力が生じないという明快な対策手法である。また、これにより反磁場効果も幾分低減されるものと考えられる。しかしながら、この場合には、テーパー加工のコストや、加工時の素子劣化などの問題を抱える。
【0033】
このような問題も、本発明の技術を適用し、超磁歪材料の円柱状試料の側面で磁歪量を局所的に小さくすることで、実質的に前記問題を低減、あるいは解消することが可能である。側面部で反磁場が小、すなわち有効磁場が大であっても、側面部は単位磁場あたりの磁歪変位量、すなわち磁歪感受率が相対的に低くなっているため、磁歪変位量自体の円柱試料中心部との乖離は小さくなる。あるいは、優れた最適設計のもとでは、実質的な差をなくすことができる。
【0034】
さらに進んだ応用の例として、一体の超磁歪成形体あるいは焼結体の任意の部位、複数の部位の配向を局所的に制御することで、複雑な動作、精密な動作のアクチュエーターを簡便に得ることが期待される。その一つとして、超磁歪円筒状試料において、半径回転方向の特定方向の磁歪量を局所的に変えたアクチュエータが考えられる。具体的には以下に述べる。
【0035】
先ず、説明を簡単にするため、超磁歪円筒状試料の部位を円柱座標(r,θ,z)で表記する。なお、円筒の下方の端面はz=0の平面内にあり、円筒端面の中心はr=0、すなわち、円柱座標の原点に一致するものとした。また、円筒の長さはL、円筒の内径はa,外径はbとした。
【0036】
最初に、円筒全体は円筒軸方向に所定の磁場配向をしているが、円筒のθ=0(degree)を中心とする方向の部位だけは、配向が局所的に小であるよう作製する。θの範囲は−90(degree)から+90(degree)でもよいし、−45(degree)から+45(degree)でも良い。効果が限定的で良い場合は、−10(degree)から+10(degree)といった、狭い範囲の部位でも、基本的効果は変わらない。
【0037】
この時、円筒軸方向に一様に外部磁場を印加すれば、配向が劣るθ=0方向は磁歪の伸びが他の方向より小さくなる。その結果、この円筒の上面の端面は理想的な上下動ではなく、θ=0方向である程度面が低く、θ=0方向に面全体を僅かに傾けた上下動を行う。
【0038】
次に、前述のような、一方向の部位のみ配向が劣る円筒が複数積み上げて重ねられた円筒を考える。円筒の積み上げ数は2,3,4のいずれでも構わないし、用途に応じ4を越える数字でも良い。ここでは、4段の場合について記述する。なお、この複数積み上げは、θ方向の局所的な配向性の異なる部位の立体的な組み合わせを分かりやすく表現するためのものであり、実際には超磁歪材、あるいは強磁性体として、当初から全体が一体に成形された成形体を焼成して得た焼結体である方が生産上も特性管理上も優れていることは言うまでもない。
【0039】
本発明では、一体の成形体よりなる焼結体内の複数の局所的な部位に異なる磁場配向性を与えることができる。そこで、例えば、一段目の円筒はθ=0を中心とする方向の部位だけ配向が局所的に小であり、二段目はθ=90度を中心とする方向の部位だけ配向が局所的に小であるとする。同様に、3段目はθ=180度、4段目はθ=270度を中心とする方向だけが配向が局所的に小とする。
【0040】
この円筒の外周部の各段の中心付近に個別にソレノイドコイルを巻き、各ソレノイドコイルに流す電流は独立に制御できるように一つまたは複数の電流源に接続する。この各ソレノイドに等しい値の電流を流せば、理想的な超磁歪円筒の場合、端面はほぼ水平に上下動する。さらに、例えば、θ=180度の方向に面全体を傾けた動作をさせたい場合には、3段目のコイルに流す電流を他の段のコイルよりも多くすることで可能になる。各コイル電流の任意な制御で、端面の上下動の傾きや湾曲は種々制御が可能になる。時間と共に電流量を変化させることで、チルト面の見かけ上の回転など、複雑なアクチュエーションも可能となる。
【0041】
また、この機構を精密な制御の観点から利用することもできる。現実の超磁歪材の円筒には、作製時に制御できず、意図しないばらつき、材料内の非一様性が導入されることがある。これに対しても、前述の機構をそのまま活用し、磁歪変位の大小を逆に補償するように各コイルの電流値を設定することで、端面の精密なピストンモーションが可能になる。制御は半固定抵抗などの受動素子でもよく、オペアンプ等の能動素子、適当なブリッジ回路やセンサー等のフィードバックを利用しても良いのは当然である。
【0042】
この技術は、特段に精密な端面動作制御のみならず、製造上、低コスト化や、製造法簡略化の過程で、最終的な焼結体にばらつきが生じたり増加したりしても、デバイスの動作精度や品質を確保するための技術として用いてもよい。
【0043】
以上述べたような局所的に配向の異なる方位を持つ円筒を多段で組んだ構造は、超磁歪材自体として当初から一体の成形体、焼結体であることが好ましい。縦磁場成形に代表されるような通常の磁場中成形では、成形体全体に一様性高く磁場を印加することは考慮されるものの、任意の複数の箇所に局所的に弱い磁場を印加するのは困難であるが、本発明はこれらも可能にするものである。
【0044】
前述のような局所的に磁場配向が制御された成形体を成形するには、成形時の磁場印加方法を工夫する必要がある。具体的には、一軸加圧成形する際の成型空間の近傍に磁性体を配置し、これに磁極を発生させて局所磁場を発生させ、外部磁場に重畳させることで、有効磁場が前記外部磁場よりも大である領域を形成する。そして、成形空間の近傍に配置した強磁性体の配置によって前記有効磁場が外部磁場よりも大である領域を所定の位置に作用させ、その部分の配向を局所的に制御する。
【0045】
以下、前記有効磁場が外部磁場よりも大である領域の形成、及びそれによる配向制御の具体例について説明する。
【0046】
<局所的に外側での印加磁場を低下させる例>
本発明の一例として、円柱試料の側面外周部で磁歪感受率が中心部より低い材料の作製法について述べる。これは、超磁歪材円柱状試料の側面の磁歪量を局所的に小さくすることで、中心部と外周部の磁歪変位量の差を低減、あるいは実質的に解消するものである。これにより、円柱端部がデバイス側へ力や変位を伝える際に、外周部のみへの応力集中などを回避することができる。また、磁歪を高周波で駆動する際にも、反磁場効果に加えて、渦電流による表皮効果により、実質的駆動磁場が試料外周部で高く、中心部で低いという現象が一般に生じるが、この場合の磁歪変位量の外周部と中心部の差も低減あるいは実質的に解消することができる。
【0047】
通常、縦磁場成形の際、強磁性体の粒子または粉末を一部または全部に含む材料を上下パンチで挟み、圧力を掛ける時やその前後に外部磁場を印加する。この時、従来のダイは、一般には強磁性体ではない。例えば、非磁性体や弱い反磁性材料である。このため、円筒状試料に掛かる磁場は外部磁場と概略同じである。また、ダイ同様、従来の中棒は一般に強磁性体ではない。例えば、非磁性体や弱い反磁性材料である。このため、円筒状試料に掛かる新たな磁場は発生しない。したがって、従来の縦磁場成形では、金型の外部からの巨視的でほぼ一様な磁場が与えられるのみで、成形体の特定の一部に局所的に大きさや方向の異なる磁場を与え、局所的に磁場配向を制御した材料を作ることは極めて困難であった。
【0048】
本発明では、ダイの一部または全部に強磁性体を用い、さらに、必要に応じ該強磁性体の形状や表面または界面の凹凸構造を制御することで、成形する材料の意図する部位に局所的な磁場を付加し、用意に磁場配向を局所的に制御することができる。なお、前記強磁性体は、リングや整列したリング群、板状、塊状などの形状で十分に効果があるが、これを凹凸構造として一体化することで、製造容易性や強度を高めることができる。
【0049】
先ず、磁性体の配置により外部一様磁場よりも高い有効磁場が一部の領域に発生する概念を説明する。図2は、このための説明図であり、前記外部一様磁場よりも高い有効磁場を発生するための最も単純な組み合わせである。
【0050】
図2(a)及び図2(b)は、一軸加圧成形を行うための成形装置の構成例を模式的に示すものであり、金型のダイ2中にリング状の強磁性体リング3が一つのみ組み込まれている。ダイ2の他の部分は非磁性体である。前記ダイ2には、成形空間4が形成されており、その中心部に中棒5が挿入されてリング状の成形空間4とされている。この成形空間4内に原料粉6を充填し、下パンチ7及び上パンチ8で加圧することにより成形が行われる。
【0051】
なお、図2(a),(b)においては、前記ダイ2や下パンチ7、上パンチ8、中棒5等を支持、保持、運動させる周辺部位の図示は省略した。また、外部磁場Hexの磁力線の方向の概略を矢印で示した。外部磁場を発生させるコイルや磁気回路、パンチ近傍まで磁場を伝えるコア等の要素の図示は省略した。外部磁場Hexを示す矢印は、磁場の印加の概念を伝えるものであり、必ずしも、磁力線のようにN極からS極へ向くものではなく、逆の場合もある。また、外部磁場Hexの大きさや方向は、一般に場所によって一定の分散があり、矢印の大きさや方位が、固定された磁場の大きさや方向を表すものではない。
【0052】
ここで、強磁性体リング3の内径をrin、外径をrout、長さをLとする。また、金型の外部から印加される一様な外部磁場をHexとする。この時、成形される原料粉が充填される空間(成形空間4)、すなわち、強磁性体リング3の内径rinよりも距離Q以上内側の空間で有効磁場が外部磁場より高まる領域が生じることを以下に示す。
【0053】
一例として、強磁性体リング3の内径rin=5mm、外径rout=10mm、長さL=10mmとする。この時に強磁性体リング3の内側に発生する局所的磁場Hlocalの場所による変化を図3に示す。該磁場の値は、一般的な有限要素法で計算したものである。なお、ここで、一様な外部磁場Hexにより磁化した強磁性体リング3の端面の磁極密度、すなわち磁化を1Tと仮定した。強磁性体リング3は、球や回転楕円体のように内部で一様な反磁場係数を定義できる形状ではない。しかしながら、例えば、強磁性体リング3の自発磁化が1Tより十分大きく、比透磁率が1000以上、実効的な反磁場係数を0.5程度とみなした場合、500kA/m(=6kOe)程度か、それ以上の一様外部磁場を印加すれば、1T程度の磁化は可能である。
【0054】
図3の原点は、強磁性体リング3の重心点に取り、強磁性体リング3の長手方向にx軸、半径方向長さにr軸を取った。すなわち、強磁性体リング3の存在範囲は、リングの内径をrin≦r≦rout、且つ−L/2≦x≦+L/2である。図3から明らかなように、−L/2≦x≦+L/2、すなわち−5mm≦x≦+5mmの範囲では、負の局所的磁場が発生する。したがって、r=5mm以下、すなわち、強磁性体リング3の内側の空間では、外部磁場Hexを弱める局所的磁場Hlocalとなる。その結果、外部磁場Hexと局所的磁場Hlocalとの和である有効磁場Heffは、前記外部磁場Hexよりも低い値となってしまう。例えば、外部磁場Hexが500kA/m程度であるとすれば、有効磁場Heffはその約半分の250kA/m前後の値となる。
【0055】
一方、+L/2<x,及び、x<−L/2の領域では、局所的磁場Hlocalの値は正となる。特に、磁性体リング3の内径5mmよりも僅かに内側のr=4.5mmやr=4.0mmの位置では、+100kA/m程度以上の実用上十分意味のある正の局所磁場が発生する。例えば、x=6mm、すなわち、強磁性体リング3の一端から1mmほど軸方向に離れた位置で、前記距離Q=0.5mm、またはQ=1.0mmの位置での有効磁場Heffは外部磁場Hexより+100kA/m前後高い値、例えば、外部磁場Hexが500kA/m程度であるとすれば、600kA/m程度の値となる。この効果は、強磁性体リング3から遠ざかるほど減少、すなわち、rが零に近い内側に行くほど弱まるので、円柱形状よりも円筒形状の成形体に対してより有効に働くものと考えられる。
【0056】
さらに、強磁性体リング3の形状と局所的磁場の相関を基本的な例で示す。図4から図6は、図3と同じ条件及び仮定の下で、強磁性体リング3の長さLだけを5mm,2mm,1mmと変化させた場合の局所的磁場の場所依存性を示すものである。このように、局所的磁場が正で、外部一様磁場を強める方向に働く場所での局所的磁場の値は、磁性体リング3の長さLが短くなるほど値が減少する。これを基に、強磁性体リング3の半径方向の厚さTと長さLの比(L/T)と局所磁場の相関の一例を図7に示す。図7に示すように、L/Tは、概ね大であるほど局所的磁場の最大値は大きくなる。しかしながら、原料粉を充填する領域は有限の長さを有することから、前記強磁性体リング3の長さLが大であると、局所的磁場が正の領域に存在する原料粉の割合が低下するものと考えられる。したがって、成形体の形状や全体の設計の中で前記比(L/T)は決定する必要がある。
【0057】
以上示したように、金型中に強磁性体リング3を組み込むことで、原料粉を充填する成形空間4の少なくとも一部に、外部磁場よりも高い有効磁場を印加することが可能であることが示された。ただし、その領域は全体的ではなく、限定的で、その効果を実用上十分なものに引き上げるには、金型構造等の工夫、強磁性体リング3の意識的な設計等が必要になる。
【0058】
前述の検討結果を基に、本発明では、ダイ2の一部または全部に強磁性体を用い、さらに、必要に応じて強磁性体の表面または界面に凹凸構造を設けることで、強磁性体の角部で生ずる局所的磁場を利用して成形する材料に与える最大磁場を増加させる。あるいは、中棒5の一部または全部に強磁性体を用い、さらに、必要に応じ該強磁性体の表面または界面の磁極を利用して、成形する材料に与える最大磁場を増加させる。さらには、ダイ2と中棒5の双方に強磁性体部分を含む構造を採用することで、該強磁性体の発生する2次的な局所的磁場を設計制御し、成形する材料に与える最大磁場を増加させる。
【0059】
ここで、前記局所的磁場を形成するためには、前記の通り配置する強磁性体が角部を有することが必要である。例えば、成形空間4の高さ寸法よりも小さな幅を持った強磁性体リングを配置した場合、成形空間4には強磁性体の端部が角部として臨むことになり、前記局所磁場が形成される。例えば、ダイ2の成形空間4に臨む内周部全体に強磁性体を配した場合には、前記端部が角部として臨むことがないので、このような場合には強磁性体に凹凸を形成し、凸部(凹部)のエッジが角部として臨むようにすることが必要である。
【0060】
前述のように局所的磁場を形成し成形する材料に与える最大磁場を増加させるためには、前記の通り配置する磁性体が前記凹凸構造等によって角部を有することが必要で、例えばダイ全体が表面に特段の凹凸を有しない強磁性体、特に、軟磁性材料等により構成される場合には、外部磁場によって磁化されたダイの発生する磁場が、円筒状の成形体に対して、外部磁場を弱める方向に働き、縦磁場成形効果を弱めたり、実質的な磁場印加効果をほとんど無くしてしまう。中棒全体が特段の凹凸のない強磁性体で構成される場合も同様で、外部磁場によって磁化された中棒の発生する磁場が、円筒状の成形体に対して外部磁場を弱める方向に働き、縦磁場成形効果を弱めてしまう。ダイや中棒が強磁性体でなく例えば非磁性体や弱い反磁性材料である場合には、円筒状の成形体に掛かる磁場は外部磁場と概略同じである。
【0061】
図8は、このような強磁性体リング3をスペースSの距離で離しつつ、複数個内包する円柱用金型とパンチの模式図である。図9は、図8の各部の寸法を{R,Q,T,L,S}={8mm,1mm,4mm,1mm,1mm}とした場合に、強磁性体リング3の一巻きが発生する2次的局所磁場のZ軸成分計算値を場所(R=8mm,4mm,0mm、−1mm<Z<1mm)、すなわち径8mmの円柱状に成形される粉体の最外周部(半径8mm)、内部(半径4mm)、中心部(半径0mm)を円柱軸方向に走査した領域について図示したものである。なお、ここで、ダイ中の強磁性体のZ軸端面の磁化は約+1Tとなるよう、約6.6kOeの外部磁場を印加した。また、強磁性体リング3の重心の高さをZの原点とした。
【0062】
このように、Zが±0.0005mの範囲、すなわち、強磁性体リング3を側面に持つ部位で2次的局所磁場が負の値が得られる。また、強磁性体リング3と強磁性体リング3の間のスペース部を側面に持つ0.0005m<z<0.001m、及び−0.001m<z<−0.0005mの領域でも負の値の2次的局所磁場が得られる。強磁性体リング3の各部寸法によっては、強磁性体リング3間のスペース部を側面に持つ部位の2次的局所磁場は正にすることも可能である。本例では、意図的に負になるよう各寸法を選択している。
【0063】
Rによる差を見ると、円柱試料表面に相当するR=8mmでは、2次的局所磁場の負の値の絶対値は大で、最大で1500Oeを越えるが、R=4mmでは、絶対値が300Oe未満、R=0mmでは約200Oeと大きく減衰する。この2次的局所磁場の最大値を横軸に半径Rを取って示した図が図10である。このように、本例によれば、半径8mmの円柱試料成形体の表面で大きな逆磁場を与え、より内部、すなわちRが8mmより小の領域では速やかに減衰する。
【0064】
図11は隣接する強磁性リングの局所磁場を取り込んだR=8mm、すなわち成形体円柱表面の2次的局所磁場のZ軸方向の変化である。さらに、図12は本例で印加している巨視的な一様外部磁場約6.6kOeを足し合わせた有効磁場のZ軸方向変化である。このように、金型ダイ中心部付近では、図9に示したように、200Oe程度の減少、すなわち6.4kOe程度の有効磁場が生じるのに対し、成形体表面近傍では、5kOe程度しか有効磁場が印加されないことがわかる。これにより、成形される粉末の磁場配向を表面で弱く、中心で強くすることができることになる。なお、モデルの精度や、実際の強磁性材料の不完全性等により、本説明の計算と実際の値では若干のずれが生じる可能性があるが、基本的な磁場分布を妨げるような大きなずれはあり得ず、許容できるものである。
【0065】
<多分割コイルによる電流制御で端面の精密なピストンモーション、あるいは積極制御による多方向首振り制御などの自在な動作の超磁歪材への付与>
超磁歪材料の円筒状試料において、半径回転方向の特定方向の磁歪量を局所的に変えたアクチュエータについて、以下に具体的に述べる。
【0066】
前記アクチュエータを作製するには、先ず、深さ毎に強磁性部分の方向が異なる金型を用意する。ダイの内径rは、例えば4.5mm(直径9mm)とする。ダイ全体は非磁性体で構成し、ダイ内部のr=5mmからr=10mmの範囲で、深さ毎に特定の方向をFe系の軟磁性強磁性体で置き換える。説明を簡単にするため、ダイ内部のr=5mmの円筒部分を仮に切り出して、円筒を切り開き、平面化したと仮定して図示化した。これを図13に示す。
【0067】
図13において、横軸は円筒内の方向、すなわち円柱座標の角度θである。縦軸はダイの一軸加圧方向である。ダイ内部に強磁性体の埋め込まれた領域近辺のみを切り出して、任意単位で縦軸に目盛りを与えた。θ=360(degree)であるグラフの右辺と、θ=0(degree)であるグラフの左辺は、実際には連続して円柱面を為しているものである。また、強磁性体に置き換えられた部位をハッチングで示した。
【0068】
図13に示すように、最下段では、θ=90(degree)を中心とする方向に強磁性体リングを設けた。第2段には、θ=180(degree)を中心とする方向、第3段にはθ=270(degree)を中心とする方向、最上段にはθ=360(degree)を中心とする方向にそれぞれ強磁性体リングを設けた。リングの角度範囲は、それぞれ約90(degree)とした。
【0069】
また、ダイの内径と強磁性体リングの内径との間隙Qは0.5mm、強磁性体リングの厚さTを5mm、強磁性体リングの長さLを5mm、または10mmとした。強磁性体リングと強磁性体リングの間の距離Sは9mm、または7mmとした。
【0070】
これらのリング形状は、以下の磁場計算値を参考に設計した。図14は、内径rin=5mm、外径rout=10mmの強磁性リングの上下端面に互いに異符号の1[wb/m2]の磁極が発生している場合の局所的磁場の計算値をリングの一軸加圧方向の厚さTでプロットしたものである。計算位置は強磁性体リングの中心高さで半径R=4.5mmの位置とした。局所的磁場の方向は、強磁性体リングの磁化の方向と反平行であるが、便宜上、ここでは正の値に変換して示した。
【0071】
このように、強磁性体リングの厚さTによって、近傍の局所的磁場は大きく変化すること、途中で極大を持つことが示された。これは、強磁性体リングの一軸加圧方向の長さLが大であると、強磁性体リングの中心高さ位置では、上下のリング磁極面が遠くなり、磁束が広い空間に広がって戻るために、計算位置での局所磁場が小さくなることを意味している。また、強磁性体リングの長さLが小になると、ある領域から急減するのは、正負の磁極面同士の距離が近すぎて、計算位置と強磁性体リングとの間の間隙(0.5mm)の範囲内で、既に多くの磁束が正磁極面から負磁極面に還流してしまうためである。なお、実際に外部から巨視的な一様磁場を印加する際には、各軟磁性リングの見かけの反磁場係数も重要な要素になる。図14では、リング厚さL=3mm近傍が局所磁場の最大効果領域であるが、ここで強磁性体リングは外部印加磁場に対して扁平であり、反磁場係数が高く、0.5程度以上と推定される。一方、長さLが5mmから10mmの領域は、印加磁場方向に対して矩形か細長く、反磁場係数が比較的小さい。したがって、印加磁場が十二分に高くないときは、軟磁性体の磁化率によっては、これらの領域のほうが、発生させる2次的な局所的磁場が大きくなる場合がある。また、上下に類似の強磁性体リングが存在すれば、その距離に応じて実効的な反磁場係数が緩和される。したがって、最適、最大の範囲は、全体設計に応じて広がりを有する。
【0072】
図15は、図14同様、内径rin=5mm、外径rout=10mmの強磁性体リングの上下端面に互いに異符号の1[wb/m2]の磁極が発生している場合の局所的磁場を一軸加圧方向の変化としてプロットしたものである。軸の位置原点は強磁性体リングの中心高さとした。図15(a)は強磁性体リングの長さLが10mmの場合、図15(b)は強磁性体リングの長さLが5mm、図15(c)は強磁性体リングの長さLが2mmの場合である。
【0073】
図15(a)では、半径位置rによらず、絶対値として最大で3000Oe前後の局所的磁場が得られることがわかる。強磁性体リングに近いr大側で局所的磁場の絶対値や分布の一様性が改善されるのは当然であるが、概ね磁場一様性に優れる。一方、強磁性体リングの長さLが5mmと短い図15(b)では、rが3mm程度以上では絶対値の最大値が増加するが、rが3mm程度以下では局所磁場が図15(a)より少なくなる。この結果、局所磁場の絶対値の最大値は図15(a)より大であるが、全体的な磁場一様性は図15(a)より劣る。さらに、強磁性体リングの長さLを2mmとした図15(c)では、絶対値の最大値も増加せず、全体的な磁場一様性がさらに劣化する。
【0074】
このように、図14より、次のことが示された。比較的一様で大きな局所的磁場を発生させるには、強磁性体リングの径方向の厚さTに対し、一軸加圧方向の強磁性体リングの長さLは、概ね1/2倍から2倍程度が特段に有効な範囲である。無論、前記長さLは厚さTの1/4倍から4倍程度でも十分有効であり、これを越えても効果があるのは当然である。
【0075】
加えて、図15より、以下のことが示された。局所磁場を印加する対象と強磁性体リングの距離Qは小であるほど効果が高い。2次的な局所磁場の効果を与える内部部位までの距離は、図15より解釈できるように、一様性が比較的高く、十分な値を与えられるのは、図15(a)の場合で5mm(R=0mmまで)、図15(b)の場合で約2mm(R=3mmまで)、図15(c)の場合で1mm程度(R=4mmまで)であり、これは強磁性体リングの一軸加圧方向の長さLの1/2相当である。したがって、局所的磁場の効果を十分に与える範囲が強磁性体リングの長さLの1/2以下になるように設計すると、非常に効果が高く、当然試料までのリングの距離Qはこの値以下になる。局所的磁場の効果を十分に与える範囲が強磁性体リングの長さLの1倍程度までならば、比較的大きな局所磁場効果が期待され、長さLの2倍程度までは実用的な効果が十分期待される。
【0076】
これらを式で要約すると、以下の通りである。比較的一様で大きな2次的局所的磁場を発生させるには、金型中の強磁性体の形状は、リングで表現すると以下のような式を満たすと良い。
T/2 ≦ L ≦ 2*T :非常に有効
T/4 ≦ L ≦ 4*T :十分に有効
Q+α≦ L/2 :非常に効果が高い
Q+α≦ L :効果十分
Q+α≦ 2*L :実用的な効果
【0077】
前述の良好な領域は、典型的な場合の範囲で、本発明がこれに限定されるものではなく、用途、意図に対する最適化としては自由度を有する。例えば、外部印加磁場に対して逆平行ではなく、順平行の2次的局所的磁場を意図する場合には、上式群の長さLを強磁性リング間の距離Sで置き換えると目安になり、これに併せて長さLと厚さTから反磁場効果大小の検討を行うと良い。モデルの精度や、実際の強磁性材料の不完全性などで、本説明の計算と実際の値には若干のずれが生ずる可能性があるが、基本的な磁場分布を妨げるような大きなずれはありえず、許容できるものである。
【実施例】
【0078】
次に、本発明の具体的な実施例について、実験結果を基に説明する。
【0079】
実験1
本実験は、局所的に外側での印加磁場を低下させる例の適用例である。本実験では、図3に示す金型を用い、表1に示す条件で、Tb−Dy−Fe系超磁歪材料の成形体を作製した。比較例では、外形が同じで、強磁性体リング等の強磁性体を内包しないダイを用いた。なお、成形前の粉体の準備・作製、及び成形後の焼結等熱処理は、本出願人の既出願である特開平7−28624号公報に準じる方法、条件で実施した。成形時の原料粉の主相は立方晶系で、[111]方向を磁化容易軸とした磁場配向が生じる。成形は縦磁場成形(parallel compaction)とし、3.0tonf/cm2の成形圧、成形時の巨視的な外部磁場は成形開始前の80mm距離で530kA/mになるよう印加した。
【0080】
成形後の試料長は28mmから30mmであった。焼結後にさらにアニール処理を行った。また、端面を鉛直面に機械加工し、10〜20μm程度のウエットエッチングを行った。なお、焼結、熱処理後の磁歪値は、有効磁場約80kA/m印加、予備荷重60kg/cm2で測定した。
【0081】
超磁歪試料端面の外周部と中心部の伸び量の違いについては、端面の当たり面の評価で調べた。磁場印加用ソレノイドコイル中に置いた円柱試料の両端部に、予備荷重印加用に試料を挟み込むパンチ状の冶具を設けた。手順としては、試料下端に片方の冶具のみセットしただけで磁場を印加し、試料が磁歪で伸びた状態で、試料上端部にプレッシャースケール紙を挟み、その上に上側コアをセットし、予備荷重が試料に加わるようにした。その後、逆操作でプレッシャースケール紙を取り出した。同様に、無磁場中での予備荷重に対する当たり面もプレッシャースケール紙で評価した。結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1から明らかなように、実施例でも比較例でも、巨視的には良好な磁歪値が得られた。しかしながら、実施例では実用上、磁場印加時の当たり面が広く一様であるのに対し、比較例では、外周部が優先的に面当たりしてしまうことが確認できた。
【0084】
さらに、この試料を音響エキサイタに加工して、耐久性を調べた。これら試料をコアにして、シースを介しソレノイド状のコイルを巻き、内鉄形インダクタの様に構成した。巻き線は1kHz近傍でインピーダンス8Ω相当になるよう調整し、試料端面を平板な軽金属で挟み、50kgf/cm2相当の圧縮応力を予備荷重として加えた。予備荷重にはシリコーン系の弾性ゴムを用い、前記軽金属を介して試料に与圧した。
【0085】
これに1kHz−1Wを入力し、試料を励磁、伸縮させた。500時間連続運転の後、試料を取り出して端面を観察したところ、実施例1,2,3では、試料端部の欠け、脱落は目視で観察されなかった。一方、比較例1と比較例2では、共に試料端部の外周部に0.5mm以上の欠け、脱落が見られた。このように、可聴帯域で駆動するエキサイタ用途においても、外周部の磁気配向の低減により磁歪が低減され、外周部の優先的な面当たり回避に有効であることが確認された。
【0086】
さらに、磁歪測定後の試料をワイヤカッターで一軸加圧方向に鉛直な面で切断した。切断後、10%硝酸液で20〜50μmの表面エッチングを行った。その表面を粉末法X線で評価し、[222]ピークの半値全幅を調べた。測定部位は、端面中心部と外周部2mm幅(R=6mm〜8mm)のそれぞれに注目し、試料ホルダ上の取り付け位置を調整した。中心部位に注目する試料には、外周部4mm幅(R=4mm〜8mm)にレジストを塗布し、マスキングした。外周部に注目する試料には、中心部(R=0〜6mm)にレジストを塗布し、マスキングした。各試料、4端面を測定し、算術平均した。この平均は、主にX線測定側のばらつきを軽減するための処置である。なお、[222]ピークの面間隔は、0.210nm〜0.215nm程度であった。半値全幅の評価結果を表2に示した。
【0087】
【表2】
【0088】
表2に示したように、実施例1〜3では、局所的な磁場配向に差が生じており、[222]ピークの半値全幅の差が0.05(degree)以上あることが明らかになった。一方、比較例1,2では、中心部と外周部の差が小さく、半値全幅の差が0.03(degree)程度以下であることがわかった。
【0089】
実験2
本実験は、多分割コイルによる電流制御で端面の精密なピストンモーション、あるいは積極制御による多方向首振り制御などの自在な動作の超磁歪材への付与に関する実験例である。
【0090】
図13に示すダイを金型に用い、下記表3に示す条件で、Tb−Dy−Fe系超磁歪材料の成形体を作製した。実施例4及び5では、中棒として直径3mmの非磁性体を同心状に用い、概略、内径3mmφ/外径9mmφの円筒形に成形されるよう構成した。比較例では、外形が同じで、強磁性体リング等の強磁性体を内包しない非磁性体ダイを用いた。なお、本発明の成形前の粉体の準備、作製、及び成形後の焼結等熱処理は、本出願人の既出願である特開平7−28624号公報に準じる方法、条件で実施した。成形時の原料粉の主相は立方晶系で、[111]方向を磁化容易軸とした磁場配向が生じる。成形は縦磁場成形(parallel compaction)で、4.0tonf/cm2の成形圧、成形時の巨視的な外部磁場は成形開始前の70mm距離で640kA/mになるよう印加した。
【0091】
各粒子とダイ中の強磁性体部位の位置関係は、成形加圧開始時と完了時で大きく異なる。そこで、パンチ位置が正味の充填深さより上の80mm距離から磁場を十分印加し、70mm距離を経て55mm距離まで一定電流で磁場印加した。55mm距離で、パンチを動作させつつ、速やかに印加磁場を零にした。成形後の試料長は22mmから25mmであった。焼結後にさらにアニール処理を行った。端面を鉛直面に機械加工し、10〜20μm程度のウエットエッチングを行った。なお、焼結、熱処理後の磁歪値は、有効磁場約80kA/m印加、予備荷重60kg/cm2で測定した。結果を表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
得られた試料に、4〜5mmの巻き幅のソレノイドコイルを、試料の円柱または円筒の長手方向に連なる形で独立に4系統巻いた。試料の一方の端面を下端面として定盤に固定し、上端面に10mm角のミラーを接着した。ミラーは、半導体作製用の研磨済みSi(100)ウエハーに、Crをスパッタリングし、璧開にて作製した。ミラーにHe−Neガスレーザーのスポットを固定角で入射させ、磁場電流印加有無による反射角の変化を測定した。反射角は、試料から遠方5mの所定の場所にマイクロポジショナーに取り付けた受光素子を配し、受光量最大の位置をマイクロポジショナーでトレースして求めた。なお、予備実験で試料を定盤面内で種々に回転させ、反射角変化が最も大である方向についてデータを収集した。
【0094】
先ず、第一の測定として、4系統のソレノイドに等しい電流を印加した。この時の試料に加わる有効磁場は、約60〜70kA/mであった。この時の反射角変化を表4に示す。なお、比較例に見られるような反射角変化は、成形時の充填高さのばらつきや、焼成時の熱や雰囲気のばらつきを反映したものと推定される。
【0095】
次に、反射角が変化した方向の逆方向にチルトするよう、逆方向に働くコイルには電流増加、順方向に働くコイルには電流減少を意図し、4系統のソレノイドコイルの電流を種々独立に変化させた。増加電流、減少電流は様々であるが、最大で、第一の測定時の±40%以内の変化であった。また、4系統の電流値の総和は変化しないよう調整した。これを測定2として表4に示した。なお、測定2においても、予備実験で試料を定盤面内で種々に回転させ、反射角変化が最も大である方向について、データを収集した。
【0096】
【表4】
【0097】
このように、実施例では、反射角変化が20秒か10秒以下に抑えることが可能になった。一方、比較例においても、調整を試みたが、±20秒程度は容易に変化するが、チルトする方向も変化し、系統的な低減で押さえ込むことはできなかった。
【0098】
以上のように、実施例4,5,6,7では、複数のコイルの電流の割合を調整するという簡単な手法で、伸縮時の端面の平行性の精密制御が可能になることが示された。複数コイルの作る磁場が流れ込む磁気回路である試料自体は単体で一つのものであっても、このように、精密で複雑な制御ができることが示された。一方、比較例では、同様の複数コイルによるドライブを試みても、系統的制御が得られず、ほとんど低減できなかった。
【0099】
実際の大量生産では、さらに試料内特性のばらつきが大きくなると予想され、実動作時の特性の補正、実質上の歩留まり向上等へも本発明の効果は波及すると考えられる。なお、本実施例は、概略、直径9mm、長さ22mmの試料であり、アスペクト比が3未満と小さい。しかしながら、燃料噴射用インジェクター等、用途によっては、より長く、アスペクト比が高い形状が要求される。アスペクト比が上がると、単純な幾何学的考察から明白なように、同じばらつきであっても、反射角の角度変化はアスペクト比にほぼ比例して大きくなる。本実施例は、角度変化量の程度を限定するものではなく、本質は磁歪の伸び縮みのばらつき制御にあり、より大きな角度のばらつきやずれの補正にも有効であるのは言うまでもない。
【0100】
さらに、磁歪測定後の該試料をワイヤカッターで一軸加圧方向に鉛直な面数箇所で切断し、切断面に対して10%硝酸液で20〜50μmの表面エッチングを行った。そして、切断した円板試料または円環試料について、表4の測定2のコイル電流とチルト方向の関係から、磁場配向が弱いと推定される方向とそうではない3方向に分かれるよう面内を4分割した。磁場配向が弱いと推定できる方向の試料を3試料集め、そうではない方向の試料についても3試料無作為に選択し、一軸加圧方向に鉛直な面を粉末法X線で評価し、[222]ピークの半値全幅を調べた。測定値は、それぞれ算術平均したが、これは主にX線測定側のばらつきを軽減するための処置である。結果を表5に示す。
【0101】
【表5】
【0102】
表5に示したように、各実施例では、意図的な局所的磁場印加によって、局所的な磁場配向に差が生じており、[222]ピークの半値全幅の差が0.05(degree)以上あることが明らかになった。一方、各比較例では、試料片による差は小さく、各試料片の半値全幅の差が0.03(degree)を越えることはなかった。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明を適用した成形体の一例を示す概略斜視図である。
【図2】有効磁場が外部磁場よりも大である領域の形成の原理を説明する図であり、(a)は強磁性体リングを組み込んだ成形装置の概略斜視図、(b)は概略断面図である。
【図3】強磁性体リングの内側に発生する局所的磁場の場所による変化を示す特性図である。
【図4】強磁性体リングの長さを5mmとした場合の強磁性体リングの内側に発生する局所的磁場の場所による変化を示す特性図である。
【図5】強磁性体リングの長さを2mmとした場合の強磁性体リングの内側に発生する局所的磁場の場所による変化を示す特性図である。
【図6】強磁性体リングの長さを1mmとした場合の強磁性体リングの内側に発生する局所的磁場の場所による変化を示す特性図である。
【図7】強磁性体リングの径を固定した場合のL/Tと局所磁場最大値の相関を示す特性図である。
【図8】強磁性体リングを複数個内包する円柱用金型とパンチの模式図である。
【図9】強磁性体リングの一巻きが発生する2次的局所磁場のZ軸成分計算値を示す特性図である。
【図10】2次的局所磁場の最大値を横軸に半径Rを取って示した図である。
【図11】成形体円柱表面の2次的局所磁場のZ軸方向の変化を示す特性図である。
【図12】一様外部磁場を足し合わせた有効磁場のZ軸方向変化を示す特性図である。
【図13】深さ毎に強磁性部分の方向が異なる金型を切り開き平面化した状態を示す図である。
【図14】強磁性リングの上下端面に互いに異符号の磁極が発生している場合の局所的磁場の計算値をリングの一軸加圧方向の厚さTでプロットした図である。
【図15】強磁性体リングの上下端面に互いに異符号の磁極が発生している場合の局所的磁場を一軸加圧方向の変化としてプロットした図であり、(a)は強磁性体リングの長さLが10mmの場合、(b)は強磁性体リングの長さLが5mm、(c)は強磁性体リングの長さLが2mmの場合である。
【符号の説明】
【0104】
1 成形体、1a 円環状領域、2 ダイ、3 強磁性体リング、4 成形空間、5 中棒、6 原料粉、7 下パンチ、8 上パンチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば結晶磁気異方性を有する強磁性粉末が一軸加圧成形された成形体及びその成形方法、成形装置に関するものであり、特に、配向を制御するための新規な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において、高速で高精度な変位制御や位置制御が求められており、さらには前記制御を行う制御装置の小型化・低コスト化が求められている。具体的な分野としては、燃料吐出装置(インジェクター)、医療機器、いわゆるマイクロマシン、ナノマシン等を挙げることができる。
【0003】
そして、前記要求に対し、いわゆる超磁歪材料は、変位制御、位置制御に高いポテンシャルを持つ材料として注目されている。また、例えばTb−Dy−Fe系等のRT2(Rは希土類元素、Tは3d遷移金属元素を表す。)系超磁歪材料は、PZTに代表されるような圧電材料に比して約2倍以上の変位が可能であることから、音響関連のエキサイタとしても注目されている。
【0004】
前記Tb−Dy−Fe系に代表される超磁歪材料は、ゾーンメルト法等の単結晶成長でも作製することはできるが、生産性、コスト、特性制御性等の観点から、一般に粉末の磁場中成形体を焼結する粉末冶金法が採用されている(例えば、特許文献1等を参照)。これにより、配向性に優れる多結晶体の超磁歪材料を安価に得ることができる。
【特許文献1】特開平7−286249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記超磁歪材料等を成形する場合、成形時に粒子を磁場配向させるための外部磁場が必要となる。例えば、Tb−Dy−Fe系に代表されるようなRT2系の超磁歪材料の結晶質は、特別の場合を除き、磁気的相転移点以下で結晶磁気異方性を有する。このような材料の粒子や粉末を成形する際には、特性向上、特性管理の点から、磁場配向させるのが通常である。
【0006】
前記磁場配向の際には、各強磁性粒子の磁化ベクトルは印加磁場に沿った方向に向こうとし、粒子の方位は磁化容易軸方向に磁化ベクトルが来るよう回転する。これらの効果は一般に印加磁場が大であるほど顕著であるので、磁場配向成形時には、より大きな磁場が求められる。また、配向制御の観点に立てば、配向程度を制御するには印加磁場の大きさを適度に制御する必要がある。
【0007】
ところで、これら粉末や粒子の磁場中成形体やその後の焼結体磁性材料に対し、近年、高度な特性制御が求められるようになってきている。例えば、電子機器、電子デバイスに対する低コスト化、小型化、高性能化の要求は近年強く、その結果、電子デバイスを構成する電子材料、磁性材料にも、デバイス構成要素としての低コスト化や、デバイスコストを下げるための材料自体の高性能化,高機能化の要求が高まっている。超磁歪材料等、印加磁場に対する磁気的機械的変化を各種デバイスやシステムに適用する材料では、複雑な形状や複数の超磁歪材料の使用を回避し、一体で単一の超磁歪材料を用いて、優れた動作や簡便な周辺設計、低コスト、新規の機能などを達成することが常に求められている。これを実現する手法の一つとして、高度に局所的な磁気特性が制御された磁性材料、及びその制御技術が求められている。
【0008】
例えば、磁場配向させた成形体、あるいはこれに焼成等を施した焼結体をシステムやデバイスの一部に適用する場合、設計や仕様の要求によっては、成形体の磁場配向の大きさや方向が一定ではなく、成形体内の場所によって意図的に異なる方向や大きさの磁場配向がより適する場合がある。しかしながら、従来の磁場中成形においては、外部磁場の磁気回路固有の空間的に緩やかな分布はあっても、局所的な制御性や設計意図に応じた制御性等を積極的に付与することは、ほとんど想定されていない。このため、これらの要求に応えることが困難で、例えば超磁歪材料等を用いたデバイスやシステムのより高度な設計、高度な利用を阻んでいるのが実情である。特に、マイクロマシンやナノマシンと呼ばれる分野においては、寸法や部品点数への要求が厳しく、一体の素材単体であっても場所によって特性が異なる傾斜機能材料や、局所的に特性を制御した材料が開く新たな潜在的需要は大きいものと考えられる。
【0009】
前述のように、超磁歪材料等、印加磁場に対する磁気的機械的変化を各種デバイスやシステムに適用する材料では、複雑な形状や複数の超磁歪材料を回避し、一体で単一の超磁歪材料を用いて優れた動作や簡便な周辺設計、低コスト、新規の機能等を達成することが求められている。そして、これを実現する手法の一つとして、高度に局所的な磁気特性が制御された磁性材料、特に磁場配向が局所的に制御された超磁歪材等の磁気異方性材料、及びそれらの制御技術が求められている。本発明は、これらの要望に応えて提案されたものであり、磁場配向が局所的に制御された成形体を提供することを目的とし、さらには、磁場配向を局所的に制御する制御技術としての成形方法、成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の目的を達成するために、本発明の成形体は、強磁性体粉を含む原料粉が一軸加圧成形により一体に成形されてなる成形体であって、他の領域とは局所的に配向度が異なる領域を有することを特徴とする特徴とする。
【0011】
本発明の成形体は、前記の通り、磁場配向が局所的に制御され、配向度が他の場所とは異なる領域を有する成形体である。これまでの考えでは、成形体を磁場配向する場合には、如何にして均一な配向とするかに重点が置かれてきたが、本発明の成形体は、従来とは全く異なる考えに基づき、局所的に特性が制御されたものであり、前述の新たな需要に応えるものである。
【0012】
なお、本発明で言うところの成形体は、強磁性体粉を含む原料粉が加圧成形された成形体全般を含む概念であり、例えば、特段の処理(焼成等)を行っていない未焼結成形体や、焼成後の焼結体等、最終的な形態は問わず、製造の過程で前記加圧成形が行われたものを全て含むものとする。
【0013】
前記のような配向度が局所的に制御された成形体を成形するには、磁場印加方法に工夫が必要である。従来技術のように、一方向に外部磁場を印加しながら成形するだけでは、前記ように配向度が局所的に制御された成形体を得ることは難しい。これを規定したのが、本発明の成形方法、成形装置である。すなわち、本発明の成形方法は、強磁性体粉を含む原料粉を金型の成形空間内で一軸加圧成形する成形方法であって、前記一軸加圧方向に外部磁場を印加するとともに、前記金型の成形空間の近傍に角部が臨むように強磁性体を配することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の成形装置は、強磁性体粉を含む原料粉を一軸加圧成形する成形空間を有する金型と、前記金型の成形空間に外部磁場を印加する外部磁場印加手段と、前記金型の成形空間に対して角部が臨むように成形空間近傍に配される強磁性体とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の成形方法、成形装置では、成形空間の近傍に磁性体を配置し、これに磁極を発生させて局所磁場を発生させ、外部磁場に重畳させることで、有効磁場が前記外部磁場よりも大である領域を形成する。これにより局所的に実効的な縦磁場を変化させることができ、その結果、成形される成形体の配向が局所的に制御される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、部位によって意図的に磁場配向の大きさや方向が局所的に制御された成形体を提供することが可能である、例えば、磁歪材料の原料合金粉末を成形した成形体では、この成形体にさらに焼成等を施すことで、デバイス化にあたり、優れた動作や精密な動作、または複雑な動作が可能な一体で単一の超磁歪材料を得ることが可能である。この超磁歪材料をデバイス化することにより、簡便な周辺設計、低コスト化、新規の機能の付与等が可能になる
【0017】
また、本発明の成形方法、成形装置によれば、例えば成形体を縦磁場成形により成形する場合に、局所的に強い磁場を印加することができ、成形される成形体の磁場配向を局所的に制御することが可能である。この際、局所的な磁場を形成するための特別な磁場発生用電源や磁気回路は不要であり、簡便に局所磁場を印加することが可能であるので、装置構成の簡素化や使用電流の低減等が可能である。したがって、これらにより、例えば前記のようなデバイス化等に適した超磁歪素子等を、市場に安価に安定供給することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を適用した成形体及びその成形方法、成形装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下においては、超磁歪素子の成形を例にして説明するが、本発明がこれに限定されるものでないことは言うまでもなく、例えば磁化容易軸、磁化容易面、磁化容易方向のいずれかを有する強磁性体粉の成形全般に適用可能である。
【0019】
図1は、本発明を適用した成形体(焼結体)の一例を示すものである。この成形体1は、超磁歪材料を一軸加圧成形した成形体を焼成したものであり、本例の場合、一体成形されて円筒形状を有するものである。成形体の形状としては、これに限らず、例えば円柱形状や、角筒形状、角柱形状等、任意である。
【0020】
超磁歪素子の場合、前記成形体(焼結体)は例えば希土類元素と3d遷移金属元素を主たる構成元素として含む磁歪材料から構成され、磁歪変位が大きく、高速応答性に優れ、大きな駆動力を発現するという優れた特徴を有する。具体的組成としては、例えばRTy(ここで、Rは1種類以上の希土類元素、Tは1種類以上の遷移金属であり、yは1<y<4である。)で示される組成となるように原料合金粉を焼結すればよい。
【0021】
ここで、Rは、Yを含むランタノイド系列、アクチノイド系列の希土類元素から選択される1種以上を表している。これらの中で、Rとしては、特にNd、Pr、Sm、Tb、Dy、Ho等の希土類元素が好ましく、Tb、Dyがより一層好ましく、これらを混合して用いることができる。Tは、1種以上の遷移金属を表している。これらの中で、Tとしては、特に、Fe、Co、Ni、Mn、Cr、Mo等の遷移金属が好ましく、これらを混合して用いることができる。
【0022】
RTyで表される合金のうち、y=2であるRT2ラーベス型金属間化合物は、キュリー温度が高く、磁歪値が大きいため、磁歪素子に適する。ここで、yが1以下では、焼結後の熱処理でRT相が析出して磁歪値が低下する。また、yが4以上では、RT3相又はRT6相が多くなり、磁歪値が低下する。このため、RT2がリッチな相を多くするために、yは1<y<4の範囲が好ましい。
【0023】
Rは、2種以上の希土類元素を混合してもよく、特に、TbとDyを混合して用いることが好ましい。具体的には、TbaDy1−aで表される合金で、aは0.27<a≦0.50の範囲にあることが一層好ましい。これにより、(TbaDy1−a)Tyなる合金で、飽和磁歪定数が大きく、大きな磁歪値が得られる。ここで、aが0.27以下では室温以下では十分な磁歪値を示さず、逆に0.50を越えると室温付近では十分な磁歪値を示さない。
【0024】
Tは、特にFeが好ましく、FeはTb、Dyと(Tb、Dy)Fe2金属間化合物を形成して、大きな磁歪値を有し磁歪特性の高い焼結体が得られる。このときに、Feの一部をCo、Niで置換してもよいが、Coは磁気異方性を大きくするものの、透磁率を低くし、また、Niはキュリー温度を下げ、結果として常温・高磁場での磁歪値を低下させる。したがって、Feは70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0025】
本発明の成形体において特徴的なことは、例えば円筒形状の成形体1において、局所的に配向が制御されていることである。すなわち、前記成形体1を一軸加圧方向において、例えばその一部(円環状領域1a)が、他の部分と異なる配向度となっていることが特徴である。
【0026】
この配向度の指標としては、本発明においては、X線回折ピークの半値全幅を採用する。例えば、前記超磁歪材料の場合、立方晶系であって、[hhh]方向が結晶磁気異方性の磁化容易軸方向である。一軸加圧成形では、一軸加圧方向を鉛直方向とする平面の磁場方向に、前記結晶磁気異方性としての磁化容易軸が優先配向する。したがって、例えば成形体1を前記円環状領域1aと他の部分について、それぞれ一軸加圧方向と直交する面で切断した場合、切断面には前記磁化容易軸と直交する結晶面が含まれることになる。そこで、前記磁化容易軸と直交する主要な結晶面の粉末法X線による回折ピークを測定し、その半値全幅を比較することで、前記円環状領域1aや他の部分の結晶配向度を把握することができる。
【0027】
前記希土類元素と3d遷移金属元素を主たる構成元素として含む磁歪材料の成形体の場合、前記主要な結晶面として、[222]面の粉末X線回折ピークを測定し、前記円環状領域1aと他の部分の半値全幅を比較する。本発明の成形体の基準としては、前記円環状領域1aの半値全幅と他の部分の半値全幅の差が0.05(degree)以上である。前記半値全幅の差が0.05(degree)以上であれば、積極的に磁場配向を局所的に制御したと言える。
【0028】
前述のような局所的に磁場配向が制御された成形体は、以下のような要求において有用である。その例の一つは、超磁歪素子を外部デバイス側から支持あるいは保持する場合、支持あるいは保持する部位の磁歪量低減である。例えば、縦磁場成形を経て得られた超磁歪材料をインジェクター用途等に代表されるアクチュエーター等へ適用する際に、超磁歪材料の端部に端面を形成し、デバイス側の端面に相対した面で超磁歪材料を保持する場合が多い。端部を対面する支持面で受ける手法は、力や線形運動の授受に適する方法の一つであるが、反面、端面加工の品質等にばらつきが多く、それによって性能が左右され、安価で安定した品質の量産には必ずしも最適な方法とは言い難い。機械強度に関しても、力の授受は、前記端面の面積内で行わなければならず、扱いたい力に対して面圧を一定以下にすることができない。
【0029】
このような場合に、超磁歪素子の側面の一部に保持、支持用に磁歪量が小さい部分を局所的に設けることで、システム側支持部が超磁歪素子側面を直接機械的に保持あるいは支持することが容易になる。これは、磁場配向を調整した超磁歪材料の保持用部分とシステム側支持部との機械的ストレスが大幅に低減できるからである。したがって、前記磁歪量が局所的に小さな超磁歪素子を作製、供給することができれば、側面の機械的支持が従来より格段に小さな機械的ストレス下で可能になり、端面処理の品質が性能に与える影響が非常に小さくなる。また、授受する力に応じて側面の支持部面積や構造を変更できるので、超磁歪材料の断面積等を維持したまま、保持あるいは支持部でやり取りする面圧を下げることができる。特に、円筒形状や円柱形状の超磁歪素子では、長さ方向において局所的に磁歪等の磁気特性が制御された材料が求められる素地が広く、本発明の成形体における磁場配向制御は有用である。
【0030】
また、例えば、別の例として、超磁歪材料の円柱状試料の側面で磁歪量を小さくしたアクチュエーター等の需要が挙げられる。ここで、全体としては円柱の長さ方向に磁場配向させた超磁歪材料を考える。この円柱状試料に円柱の長さ方向の磁場を印加して伸縮させる際、特段の工夫をしなければ、円柱側面で反磁場効果が小さく、円柱内部の中心付近で反磁場効果が大きいためである。この反磁場効果は、円柱の端面近傍で特に顕著になる。例えば、理想的な軟磁性材を仮定した場合、端面近傍の中心部では、反磁場係数が0.5近傍になり、端面近傍の側面部では0.25程度となる。したがって、いわゆる磁歪定数が場所に依らずほぼ一定ならば、実効的な磁歪感受率は、円柱中心近傍で低く、円柱周辺部で高くなる。
【0031】
この円柱中心部と側面部の差により、磁場駆動した際に、円柱中心部で磁歪変位量が小さく、円柱側面部で磁歪変位量が大きいという現象が発生する。その結果、力や変位を伝えるデバイス側への入力が側面部中心になり、実質的にドーナツ状の面を介してデバイス側へ機械的入力をすることになる。これは超磁歪材料円柱の体積的な能力を十分引き出しているとは言えず、好ましい設計とは言えない。また、周辺部に集中的に力が加わることから、機械的強度の確保が一段と困難になる。
【0032】
その対策法の一つは、円柱試料端部近傍の外周部をテーパーを付けて除去するというものである。これは、周辺部が物理的にデバイス側支持部へ接しないため、超磁歪材料側面部による機械的入力が生じないという明快な対策手法である。また、これにより反磁場効果も幾分低減されるものと考えられる。しかしながら、この場合には、テーパー加工のコストや、加工時の素子劣化などの問題を抱える。
【0033】
このような問題も、本発明の技術を適用し、超磁歪材料の円柱状試料の側面で磁歪量を局所的に小さくすることで、実質的に前記問題を低減、あるいは解消することが可能である。側面部で反磁場が小、すなわち有効磁場が大であっても、側面部は単位磁場あたりの磁歪変位量、すなわち磁歪感受率が相対的に低くなっているため、磁歪変位量自体の円柱試料中心部との乖離は小さくなる。あるいは、優れた最適設計のもとでは、実質的な差をなくすことができる。
【0034】
さらに進んだ応用の例として、一体の超磁歪成形体あるいは焼結体の任意の部位、複数の部位の配向を局所的に制御することで、複雑な動作、精密な動作のアクチュエーターを簡便に得ることが期待される。その一つとして、超磁歪円筒状試料において、半径回転方向の特定方向の磁歪量を局所的に変えたアクチュエータが考えられる。具体的には以下に述べる。
【0035】
先ず、説明を簡単にするため、超磁歪円筒状試料の部位を円柱座標(r,θ,z)で表記する。なお、円筒の下方の端面はz=0の平面内にあり、円筒端面の中心はr=0、すなわち、円柱座標の原点に一致するものとした。また、円筒の長さはL、円筒の内径はa,外径はbとした。
【0036】
最初に、円筒全体は円筒軸方向に所定の磁場配向をしているが、円筒のθ=0(degree)を中心とする方向の部位だけは、配向が局所的に小であるよう作製する。θの範囲は−90(degree)から+90(degree)でもよいし、−45(degree)から+45(degree)でも良い。効果が限定的で良い場合は、−10(degree)から+10(degree)といった、狭い範囲の部位でも、基本的効果は変わらない。
【0037】
この時、円筒軸方向に一様に外部磁場を印加すれば、配向が劣るθ=0方向は磁歪の伸びが他の方向より小さくなる。その結果、この円筒の上面の端面は理想的な上下動ではなく、θ=0方向である程度面が低く、θ=0方向に面全体を僅かに傾けた上下動を行う。
【0038】
次に、前述のような、一方向の部位のみ配向が劣る円筒が複数積み上げて重ねられた円筒を考える。円筒の積み上げ数は2,3,4のいずれでも構わないし、用途に応じ4を越える数字でも良い。ここでは、4段の場合について記述する。なお、この複数積み上げは、θ方向の局所的な配向性の異なる部位の立体的な組み合わせを分かりやすく表現するためのものであり、実際には超磁歪材、あるいは強磁性体として、当初から全体が一体に成形された成形体を焼成して得た焼結体である方が生産上も特性管理上も優れていることは言うまでもない。
【0039】
本発明では、一体の成形体よりなる焼結体内の複数の局所的な部位に異なる磁場配向性を与えることができる。そこで、例えば、一段目の円筒はθ=0を中心とする方向の部位だけ配向が局所的に小であり、二段目はθ=90度を中心とする方向の部位だけ配向が局所的に小であるとする。同様に、3段目はθ=180度、4段目はθ=270度を中心とする方向だけが配向が局所的に小とする。
【0040】
この円筒の外周部の各段の中心付近に個別にソレノイドコイルを巻き、各ソレノイドコイルに流す電流は独立に制御できるように一つまたは複数の電流源に接続する。この各ソレノイドに等しい値の電流を流せば、理想的な超磁歪円筒の場合、端面はほぼ水平に上下動する。さらに、例えば、θ=180度の方向に面全体を傾けた動作をさせたい場合には、3段目のコイルに流す電流を他の段のコイルよりも多くすることで可能になる。各コイル電流の任意な制御で、端面の上下動の傾きや湾曲は種々制御が可能になる。時間と共に電流量を変化させることで、チルト面の見かけ上の回転など、複雑なアクチュエーションも可能となる。
【0041】
また、この機構を精密な制御の観点から利用することもできる。現実の超磁歪材の円筒には、作製時に制御できず、意図しないばらつき、材料内の非一様性が導入されることがある。これに対しても、前述の機構をそのまま活用し、磁歪変位の大小を逆に補償するように各コイルの電流値を設定することで、端面の精密なピストンモーションが可能になる。制御は半固定抵抗などの受動素子でもよく、オペアンプ等の能動素子、適当なブリッジ回路やセンサー等のフィードバックを利用しても良いのは当然である。
【0042】
この技術は、特段に精密な端面動作制御のみならず、製造上、低コスト化や、製造法簡略化の過程で、最終的な焼結体にばらつきが生じたり増加したりしても、デバイスの動作精度や品質を確保するための技術として用いてもよい。
【0043】
以上述べたような局所的に配向の異なる方位を持つ円筒を多段で組んだ構造は、超磁歪材自体として当初から一体の成形体、焼結体であることが好ましい。縦磁場成形に代表されるような通常の磁場中成形では、成形体全体に一様性高く磁場を印加することは考慮されるものの、任意の複数の箇所に局所的に弱い磁場を印加するのは困難であるが、本発明はこれらも可能にするものである。
【0044】
前述のような局所的に磁場配向が制御された成形体を成形するには、成形時の磁場印加方法を工夫する必要がある。具体的には、一軸加圧成形する際の成型空間の近傍に磁性体を配置し、これに磁極を発生させて局所磁場を発生させ、外部磁場に重畳させることで、有効磁場が前記外部磁場よりも大である領域を形成する。そして、成形空間の近傍に配置した強磁性体の配置によって前記有効磁場が外部磁場よりも大である領域を所定の位置に作用させ、その部分の配向を局所的に制御する。
【0045】
以下、前記有効磁場が外部磁場よりも大である領域の形成、及びそれによる配向制御の具体例について説明する。
【0046】
<局所的に外側での印加磁場を低下させる例>
本発明の一例として、円柱試料の側面外周部で磁歪感受率が中心部より低い材料の作製法について述べる。これは、超磁歪材円柱状試料の側面の磁歪量を局所的に小さくすることで、中心部と外周部の磁歪変位量の差を低減、あるいは実質的に解消するものである。これにより、円柱端部がデバイス側へ力や変位を伝える際に、外周部のみへの応力集中などを回避することができる。また、磁歪を高周波で駆動する際にも、反磁場効果に加えて、渦電流による表皮効果により、実質的駆動磁場が試料外周部で高く、中心部で低いという現象が一般に生じるが、この場合の磁歪変位量の外周部と中心部の差も低減あるいは実質的に解消することができる。
【0047】
通常、縦磁場成形の際、強磁性体の粒子または粉末を一部または全部に含む材料を上下パンチで挟み、圧力を掛ける時やその前後に外部磁場を印加する。この時、従来のダイは、一般には強磁性体ではない。例えば、非磁性体や弱い反磁性材料である。このため、円筒状試料に掛かる磁場は外部磁場と概略同じである。また、ダイ同様、従来の中棒は一般に強磁性体ではない。例えば、非磁性体や弱い反磁性材料である。このため、円筒状試料に掛かる新たな磁場は発生しない。したがって、従来の縦磁場成形では、金型の外部からの巨視的でほぼ一様な磁場が与えられるのみで、成形体の特定の一部に局所的に大きさや方向の異なる磁場を与え、局所的に磁場配向を制御した材料を作ることは極めて困難であった。
【0048】
本発明では、ダイの一部または全部に強磁性体を用い、さらに、必要に応じ該強磁性体の形状や表面または界面の凹凸構造を制御することで、成形する材料の意図する部位に局所的な磁場を付加し、用意に磁場配向を局所的に制御することができる。なお、前記強磁性体は、リングや整列したリング群、板状、塊状などの形状で十分に効果があるが、これを凹凸構造として一体化することで、製造容易性や強度を高めることができる。
【0049】
先ず、磁性体の配置により外部一様磁場よりも高い有効磁場が一部の領域に発生する概念を説明する。図2は、このための説明図であり、前記外部一様磁場よりも高い有効磁場を発生するための最も単純な組み合わせである。
【0050】
図2(a)及び図2(b)は、一軸加圧成形を行うための成形装置の構成例を模式的に示すものであり、金型のダイ2中にリング状の強磁性体リング3が一つのみ組み込まれている。ダイ2の他の部分は非磁性体である。前記ダイ2には、成形空間4が形成されており、その中心部に中棒5が挿入されてリング状の成形空間4とされている。この成形空間4内に原料粉6を充填し、下パンチ7及び上パンチ8で加圧することにより成形が行われる。
【0051】
なお、図2(a),(b)においては、前記ダイ2や下パンチ7、上パンチ8、中棒5等を支持、保持、運動させる周辺部位の図示は省略した。また、外部磁場Hexの磁力線の方向の概略を矢印で示した。外部磁場を発生させるコイルや磁気回路、パンチ近傍まで磁場を伝えるコア等の要素の図示は省略した。外部磁場Hexを示す矢印は、磁場の印加の概念を伝えるものであり、必ずしも、磁力線のようにN極からS極へ向くものではなく、逆の場合もある。また、外部磁場Hexの大きさや方向は、一般に場所によって一定の分散があり、矢印の大きさや方位が、固定された磁場の大きさや方向を表すものではない。
【0052】
ここで、強磁性体リング3の内径をrin、外径をrout、長さをLとする。また、金型の外部から印加される一様な外部磁場をHexとする。この時、成形される原料粉が充填される空間(成形空間4)、すなわち、強磁性体リング3の内径rinよりも距離Q以上内側の空間で有効磁場が外部磁場より高まる領域が生じることを以下に示す。
【0053】
一例として、強磁性体リング3の内径rin=5mm、外径rout=10mm、長さL=10mmとする。この時に強磁性体リング3の内側に発生する局所的磁場Hlocalの場所による変化を図3に示す。該磁場の値は、一般的な有限要素法で計算したものである。なお、ここで、一様な外部磁場Hexにより磁化した強磁性体リング3の端面の磁極密度、すなわち磁化を1Tと仮定した。強磁性体リング3は、球や回転楕円体のように内部で一様な反磁場係数を定義できる形状ではない。しかしながら、例えば、強磁性体リング3の自発磁化が1Tより十分大きく、比透磁率が1000以上、実効的な反磁場係数を0.5程度とみなした場合、500kA/m(=6kOe)程度か、それ以上の一様外部磁場を印加すれば、1T程度の磁化は可能である。
【0054】
図3の原点は、強磁性体リング3の重心点に取り、強磁性体リング3の長手方向にx軸、半径方向長さにr軸を取った。すなわち、強磁性体リング3の存在範囲は、リングの内径をrin≦r≦rout、且つ−L/2≦x≦+L/2である。図3から明らかなように、−L/2≦x≦+L/2、すなわち−5mm≦x≦+5mmの範囲では、負の局所的磁場が発生する。したがって、r=5mm以下、すなわち、強磁性体リング3の内側の空間では、外部磁場Hexを弱める局所的磁場Hlocalとなる。その結果、外部磁場Hexと局所的磁場Hlocalとの和である有効磁場Heffは、前記外部磁場Hexよりも低い値となってしまう。例えば、外部磁場Hexが500kA/m程度であるとすれば、有効磁場Heffはその約半分の250kA/m前後の値となる。
【0055】
一方、+L/2<x,及び、x<−L/2の領域では、局所的磁場Hlocalの値は正となる。特に、磁性体リング3の内径5mmよりも僅かに内側のr=4.5mmやr=4.0mmの位置では、+100kA/m程度以上の実用上十分意味のある正の局所磁場が発生する。例えば、x=6mm、すなわち、強磁性体リング3の一端から1mmほど軸方向に離れた位置で、前記距離Q=0.5mm、またはQ=1.0mmの位置での有効磁場Heffは外部磁場Hexより+100kA/m前後高い値、例えば、外部磁場Hexが500kA/m程度であるとすれば、600kA/m程度の値となる。この効果は、強磁性体リング3から遠ざかるほど減少、すなわち、rが零に近い内側に行くほど弱まるので、円柱形状よりも円筒形状の成形体に対してより有効に働くものと考えられる。
【0056】
さらに、強磁性体リング3の形状と局所的磁場の相関を基本的な例で示す。図4から図6は、図3と同じ条件及び仮定の下で、強磁性体リング3の長さLだけを5mm,2mm,1mmと変化させた場合の局所的磁場の場所依存性を示すものである。このように、局所的磁場が正で、外部一様磁場を強める方向に働く場所での局所的磁場の値は、磁性体リング3の長さLが短くなるほど値が減少する。これを基に、強磁性体リング3の半径方向の厚さTと長さLの比(L/T)と局所磁場の相関の一例を図7に示す。図7に示すように、L/Tは、概ね大であるほど局所的磁場の最大値は大きくなる。しかしながら、原料粉を充填する領域は有限の長さを有することから、前記強磁性体リング3の長さLが大であると、局所的磁場が正の領域に存在する原料粉の割合が低下するものと考えられる。したがって、成形体の形状や全体の設計の中で前記比(L/T)は決定する必要がある。
【0057】
以上示したように、金型中に強磁性体リング3を組み込むことで、原料粉を充填する成形空間4の少なくとも一部に、外部磁場よりも高い有効磁場を印加することが可能であることが示された。ただし、その領域は全体的ではなく、限定的で、その効果を実用上十分なものに引き上げるには、金型構造等の工夫、強磁性体リング3の意識的な設計等が必要になる。
【0058】
前述の検討結果を基に、本発明では、ダイ2の一部または全部に強磁性体を用い、さらに、必要に応じて強磁性体の表面または界面に凹凸構造を設けることで、強磁性体の角部で生ずる局所的磁場を利用して成形する材料に与える最大磁場を増加させる。あるいは、中棒5の一部または全部に強磁性体を用い、さらに、必要に応じ該強磁性体の表面または界面の磁極を利用して、成形する材料に与える最大磁場を増加させる。さらには、ダイ2と中棒5の双方に強磁性体部分を含む構造を採用することで、該強磁性体の発生する2次的な局所的磁場を設計制御し、成形する材料に与える最大磁場を増加させる。
【0059】
ここで、前記局所的磁場を形成するためには、前記の通り配置する強磁性体が角部を有することが必要である。例えば、成形空間4の高さ寸法よりも小さな幅を持った強磁性体リングを配置した場合、成形空間4には強磁性体の端部が角部として臨むことになり、前記局所磁場が形成される。例えば、ダイ2の成形空間4に臨む内周部全体に強磁性体を配した場合には、前記端部が角部として臨むことがないので、このような場合には強磁性体に凹凸を形成し、凸部(凹部)のエッジが角部として臨むようにすることが必要である。
【0060】
前述のように局所的磁場を形成し成形する材料に与える最大磁場を増加させるためには、前記の通り配置する磁性体が前記凹凸構造等によって角部を有することが必要で、例えばダイ全体が表面に特段の凹凸を有しない強磁性体、特に、軟磁性材料等により構成される場合には、外部磁場によって磁化されたダイの発生する磁場が、円筒状の成形体に対して、外部磁場を弱める方向に働き、縦磁場成形効果を弱めたり、実質的な磁場印加効果をほとんど無くしてしまう。中棒全体が特段の凹凸のない強磁性体で構成される場合も同様で、外部磁場によって磁化された中棒の発生する磁場が、円筒状の成形体に対して外部磁場を弱める方向に働き、縦磁場成形効果を弱めてしまう。ダイや中棒が強磁性体でなく例えば非磁性体や弱い反磁性材料である場合には、円筒状の成形体に掛かる磁場は外部磁場と概略同じである。
【0061】
図8は、このような強磁性体リング3をスペースSの距離で離しつつ、複数個内包する円柱用金型とパンチの模式図である。図9は、図8の各部の寸法を{R,Q,T,L,S}={8mm,1mm,4mm,1mm,1mm}とした場合に、強磁性体リング3の一巻きが発生する2次的局所磁場のZ軸成分計算値を場所(R=8mm,4mm,0mm、−1mm<Z<1mm)、すなわち径8mmの円柱状に成形される粉体の最外周部(半径8mm)、内部(半径4mm)、中心部(半径0mm)を円柱軸方向に走査した領域について図示したものである。なお、ここで、ダイ中の強磁性体のZ軸端面の磁化は約+1Tとなるよう、約6.6kOeの外部磁場を印加した。また、強磁性体リング3の重心の高さをZの原点とした。
【0062】
このように、Zが±0.0005mの範囲、すなわち、強磁性体リング3を側面に持つ部位で2次的局所磁場が負の値が得られる。また、強磁性体リング3と強磁性体リング3の間のスペース部を側面に持つ0.0005m<z<0.001m、及び−0.001m<z<−0.0005mの領域でも負の値の2次的局所磁場が得られる。強磁性体リング3の各部寸法によっては、強磁性体リング3間のスペース部を側面に持つ部位の2次的局所磁場は正にすることも可能である。本例では、意図的に負になるよう各寸法を選択している。
【0063】
Rによる差を見ると、円柱試料表面に相当するR=8mmでは、2次的局所磁場の負の値の絶対値は大で、最大で1500Oeを越えるが、R=4mmでは、絶対値が300Oe未満、R=0mmでは約200Oeと大きく減衰する。この2次的局所磁場の最大値を横軸に半径Rを取って示した図が図10である。このように、本例によれば、半径8mmの円柱試料成形体の表面で大きな逆磁場を与え、より内部、すなわちRが8mmより小の領域では速やかに減衰する。
【0064】
図11は隣接する強磁性リングの局所磁場を取り込んだR=8mm、すなわち成形体円柱表面の2次的局所磁場のZ軸方向の変化である。さらに、図12は本例で印加している巨視的な一様外部磁場約6.6kOeを足し合わせた有効磁場のZ軸方向変化である。このように、金型ダイ中心部付近では、図9に示したように、200Oe程度の減少、すなわち6.4kOe程度の有効磁場が生じるのに対し、成形体表面近傍では、5kOe程度しか有効磁場が印加されないことがわかる。これにより、成形される粉末の磁場配向を表面で弱く、中心で強くすることができることになる。なお、モデルの精度や、実際の強磁性材料の不完全性等により、本説明の計算と実際の値では若干のずれが生じる可能性があるが、基本的な磁場分布を妨げるような大きなずれはあり得ず、許容できるものである。
【0065】
<多分割コイルによる電流制御で端面の精密なピストンモーション、あるいは積極制御による多方向首振り制御などの自在な動作の超磁歪材への付与>
超磁歪材料の円筒状試料において、半径回転方向の特定方向の磁歪量を局所的に変えたアクチュエータについて、以下に具体的に述べる。
【0066】
前記アクチュエータを作製するには、先ず、深さ毎に強磁性部分の方向が異なる金型を用意する。ダイの内径rは、例えば4.5mm(直径9mm)とする。ダイ全体は非磁性体で構成し、ダイ内部のr=5mmからr=10mmの範囲で、深さ毎に特定の方向をFe系の軟磁性強磁性体で置き換える。説明を簡単にするため、ダイ内部のr=5mmの円筒部分を仮に切り出して、円筒を切り開き、平面化したと仮定して図示化した。これを図13に示す。
【0067】
図13において、横軸は円筒内の方向、すなわち円柱座標の角度θである。縦軸はダイの一軸加圧方向である。ダイ内部に強磁性体の埋め込まれた領域近辺のみを切り出して、任意単位で縦軸に目盛りを与えた。θ=360(degree)であるグラフの右辺と、θ=0(degree)であるグラフの左辺は、実際には連続して円柱面を為しているものである。また、強磁性体に置き換えられた部位をハッチングで示した。
【0068】
図13に示すように、最下段では、θ=90(degree)を中心とする方向に強磁性体リングを設けた。第2段には、θ=180(degree)を中心とする方向、第3段にはθ=270(degree)を中心とする方向、最上段にはθ=360(degree)を中心とする方向にそれぞれ強磁性体リングを設けた。リングの角度範囲は、それぞれ約90(degree)とした。
【0069】
また、ダイの内径と強磁性体リングの内径との間隙Qは0.5mm、強磁性体リングの厚さTを5mm、強磁性体リングの長さLを5mm、または10mmとした。強磁性体リングと強磁性体リングの間の距離Sは9mm、または7mmとした。
【0070】
これらのリング形状は、以下の磁場計算値を参考に設計した。図14は、内径rin=5mm、外径rout=10mmの強磁性リングの上下端面に互いに異符号の1[wb/m2]の磁極が発生している場合の局所的磁場の計算値をリングの一軸加圧方向の厚さTでプロットしたものである。計算位置は強磁性体リングの中心高さで半径R=4.5mmの位置とした。局所的磁場の方向は、強磁性体リングの磁化の方向と反平行であるが、便宜上、ここでは正の値に変換して示した。
【0071】
このように、強磁性体リングの厚さTによって、近傍の局所的磁場は大きく変化すること、途中で極大を持つことが示された。これは、強磁性体リングの一軸加圧方向の長さLが大であると、強磁性体リングの中心高さ位置では、上下のリング磁極面が遠くなり、磁束が広い空間に広がって戻るために、計算位置での局所磁場が小さくなることを意味している。また、強磁性体リングの長さLが小になると、ある領域から急減するのは、正負の磁極面同士の距離が近すぎて、計算位置と強磁性体リングとの間の間隙(0.5mm)の範囲内で、既に多くの磁束が正磁極面から負磁極面に還流してしまうためである。なお、実際に外部から巨視的な一様磁場を印加する際には、各軟磁性リングの見かけの反磁場係数も重要な要素になる。図14では、リング厚さL=3mm近傍が局所磁場の最大効果領域であるが、ここで強磁性体リングは外部印加磁場に対して扁平であり、反磁場係数が高く、0.5程度以上と推定される。一方、長さLが5mmから10mmの領域は、印加磁場方向に対して矩形か細長く、反磁場係数が比較的小さい。したがって、印加磁場が十二分に高くないときは、軟磁性体の磁化率によっては、これらの領域のほうが、発生させる2次的な局所的磁場が大きくなる場合がある。また、上下に類似の強磁性体リングが存在すれば、その距離に応じて実効的な反磁場係数が緩和される。したがって、最適、最大の範囲は、全体設計に応じて広がりを有する。
【0072】
図15は、図14同様、内径rin=5mm、外径rout=10mmの強磁性体リングの上下端面に互いに異符号の1[wb/m2]の磁極が発生している場合の局所的磁場を一軸加圧方向の変化としてプロットしたものである。軸の位置原点は強磁性体リングの中心高さとした。図15(a)は強磁性体リングの長さLが10mmの場合、図15(b)は強磁性体リングの長さLが5mm、図15(c)は強磁性体リングの長さLが2mmの場合である。
【0073】
図15(a)では、半径位置rによらず、絶対値として最大で3000Oe前後の局所的磁場が得られることがわかる。強磁性体リングに近いr大側で局所的磁場の絶対値や分布の一様性が改善されるのは当然であるが、概ね磁場一様性に優れる。一方、強磁性体リングの長さLが5mmと短い図15(b)では、rが3mm程度以上では絶対値の最大値が増加するが、rが3mm程度以下では局所磁場が図15(a)より少なくなる。この結果、局所磁場の絶対値の最大値は図15(a)より大であるが、全体的な磁場一様性は図15(a)より劣る。さらに、強磁性体リングの長さLを2mmとした図15(c)では、絶対値の最大値も増加せず、全体的な磁場一様性がさらに劣化する。
【0074】
このように、図14より、次のことが示された。比較的一様で大きな局所的磁場を発生させるには、強磁性体リングの径方向の厚さTに対し、一軸加圧方向の強磁性体リングの長さLは、概ね1/2倍から2倍程度が特段に有効な範囲である。無論、前記長さLは厚さTの1/4倍から4倍程度でも十分有効であり、これを越えても効果があるのは当然である。
【0075】
加えて、図15より、以下のことが示された。局所磁場を印加する対象と強磁性体リングの距離Qは小であるほど効果が高い。2次的な局所磁場の効果を与える内部部位までの距離は、図15より解釈できるように、一様性が比較的高く、十分な値を与えられるのは、図15(a)の場合で5mm(R=0mmまで)、図15(b)の場合で約2mm(R=3mmまで)、図15(c)の場合で1mm程度(R=4mmまで)であり、これは強磁性体リングの一軸加圧方向の長さLの1/2相当である。したがって、局所的磁場の効果を十分に与える範囲が強磁性体リングの長さLの1/2以下になるように設計すると、非常に効果が高く、当然試料までのリングの距離Qはこの値以下になる。局所的磁場の効果を十分に与える範囲が強磁性体リングの長さLの1倍程度までならば、比較的大きな局所磁場効果が期待され、長さLの2倍程度までは実用的な効果が十分期待される。
【0076】
これらを式で要約すると、以下の通りである。比較的一様で大きな2次的局所的磁場を発生させるには、金型中の強磁性体の形状は、リングで表現すると以下のような式を満たすと良い。
T/2 ≦ L ≦ 2*T :非常に有効
T/4 ≦ L ≦ 4*T :十分に有効
Q+α≦ L/2 :非常に効果が高い
Q+α≦ L :効果十分
Q+α≦ 2*L :実用的な効果
【0077】
前述の良好な領域は、典型的な場合の範囲で、本発明がこれに限定されるものではなく、用途、意図に対する最適化としては自由度を有する。例えば、外部印加磁場に対して逆平行ではなく、順平行の2次的局所的磁場を意図する場合には、上式群の長さLを強磁性リング間の距離Sで置き換えると目安になり、これに併せて長さLと厚さTから反磁場効果大小の検討を行うと良い。モデルの精度や、実際の強磁性材料の不完全性などで、本説明の計算と実際の値には若干のずれが生ずる可能性があるが、基本的な磁場分布を妨げるような大きなずれはありえず、許容できるものである。
【実施例】
【0078】
次に、本発明の具体的な実施例について、実験結果を基に説明する。
【0079】
実験1
本実験は、局所的に外側での印加磁場を低下させる例の適用例である。本実験では、図3に示す金型を用い、表1に示す条件で、Tb−Dy−Fe系超磁歪材料の成形体を作製した。比較例では、外形が同じで、強磁性体リング等の強磁性体を内包しないダイを用いた。なお、成形前の粉体の準備・作製、及び成形後の焼結等熱処理は、本出願人の既出願である特開平7−28624号公報に準じる方法、条件で実施した。成形時の原料粉の主相は立方晶系で、[111]方向を磁化容易軸とした磁場配向が生じる。成形は縦磁場成形(parallel compaction)とし、3.0tonf/cm2の成形圧、成形時の巨視的な外部磁場は成形開始前の80mm距離で530kA/mになるよう印加した。
【0080】
成形後の試料長は28mmから30mmであった。焼結後にさらにアニール処理を行った。また、端面を鉛直面に機械加工し、10〜20μm程度のウエットエッチングを行った。なお、焼結、熱処理後の磁歪値は、有効磁場約80kA/m印加、予備荷重60kg/cm2で測定した。
【0081】
超磁歪試料端面の外周部と中心部の伸び量の違いについては、端面の当たり面の評価で調べた。磁場印加用ソレノイドコイル中に置いた円柱試料の両端部に、予備荷重印加用に試料を挟み込むパンチ状の冶具を設けた。手順としては、試料下端に片方の冶具のみセットしただけで磁場を印加し、試料が磁歪で伸びた状態で、試料上端部にプレッシャースケール紙を挟み、その上に上側コアをセットし、予備荷重が試料に加わるようにした。その後、逆操作でプレッシャースケール紙を取り出した。同様に、無磁場中での予備荷重に対する当たり面もプレッシャースケール紙で評価した。結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1から明らかなように、実施例でも比較例でも、巨視的には良好な磁歪値が得られた。しかしながら、実施例では実用上、磁場印加時の当たり面が広く一様であるのに対し、比較例では、外周部が優先的に面当たりしてしまうことが確認できた。
【0084】
さらに、この試料を音響エキサイタに加工して、耐久性を調べた。これら試料をコアにして、シースを介しソレノイド状のコイルを巻き、内鉄形インダクタの様に構成した。巻き線は1kHz近傍でインピーダンス8Ω相当になるよう調整し、試料端面を平板な軽金属で挟み、50kgf/cm2相当の圧縮応力を予備荷重として加えた。予備荷重にはシリコーン系の弾性ゴムを用い、前記軽金属を介して試料に与圧した。
【0085】
これに1kHz−1Wを入力し、試料を励磁、伸縮させた。500時間連続運転の後、試料を取り出して端面を観察したところ、実施例1,2,3では、試料端部の欠け、脱落は目視で観察されなかった。一方、比較例1と比較例2では、共に試料端部の外周部に0.5mm以上の欠け、脱落が見られた。このように、可聴帯域で駆動するエキサイタ用途においても、外周部の磁気配向の低減により磁歪が低減され、外周部の優先的な面当たり回避に有効であることが確認された。
【0086】
さらに、磁歪測定後の試料をワイヤカッターで一軸加圧方向に鉛直な面で切断した。切断後、10%硝酸液で20〜50μmの表面エッチングを行った。その表面を粉末法X線で評価し、[222]ピークの半値全幅を調べた。測定部位は、端面中心部と外周部2mm幅(R=6mm〜8mm)のそれぞれに注目し、試料ホルダ上の取り付け位置を調整した。中心部位に注目する試料には、外周部4mm幅(R=4mm〜8mm)にレジストを塗布し、マスキングした。外周部に注目する試料には、中心部(R=0〜6mm)にレジストを塗布し、マスキングした。各試料、4端面を測定し、算術平均した。この平均は、主にX線測定側のばらつきを軽減するための処置である。なお、[222]ピークの面間隔は、0.210nm〜0.215nm程度であった。半値全幅の評価結果を表2に示した。
【0087】
【表2】
【0088】
表2に示したように、実施例1〜3では、局所的な磁場配向に差が生じており、[222]ピークの半値全幅の差が0.05(degree)以上あることが明らかになった。一方、比較例1,2では、中心部と外周部の差が小さく、半値全幅の差が0.03(degree)程度以下であることがわかった。
【0089】
実験2
本実験は、多分割コイルによる電流制御で端面の精密なピストンモーション、あるいは積極制御による多方向首振り制御などの自在な動作の超磁歪材への付与に関する実験例である。
【0090】
図13に示すダイを金型に用い、下記表3に示す条件で、Tb−Dy−Fe系超磁歪材料の成形体を作製した。実施例4及び5では、中棒として直径3mmの非磁性体を同心状に用い、概略、内径3mmφ/外径9mmφの円筒形に成形されるよう構成した。比較例では、外形が同じで、強磁性体リング等の強磁性体を内包しない非磁性体ダイを用いた。なお、本発明の成形前の粉体の準備、作製、及び成形後の焼結等熱処理は、本出願人の既出願である特開平7−28624号公報に準じる方法、条件で実施した。成形時の原料粉の主相は立方晶系で、[111]方向を磁化容易軸とした磁場配向が生じる。成形は縦磁場成形(parallel compaction)で、4.0tonf/cm2の成形圧、成形時の巨視的な外部磁場は成形開始前の70mm距離で640kA/mになるよう印加した。
【0091】
各粒子とダイ中の強磁性体部位の位置関係は、成形加圧開始時と完了時で大きく異なる。そこで、パンチ位置が正味の充填深さより上の80mm距離から磁場を十分印加し、70mm距離を経て55mm距離まで一定電流で磁場印加した。55mm距離で、パンチを動作させつつ、速やかに印加磁場を零にした。成形後の試料長は22mmから25mmであった。焼結後にさらにアニール処理を行った。端面を鉛直面に機械加工し、10〜20μm程度のウエットエッチングを行った。なお、焼結、熱処理後の磁歪値は、有効磁場約80kA/m印加、予備荷重60kg/cm2で測定した。結果を表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
得られた試料に、4〜5mmの巻き幅のソレノイドコイルを、試料の円柱または円筒の長手方向に連なる形で独立に4系統巻いた。試料の一方の端面を下端面として定盤に固定し、上端面に10mm角のミラーを接着した。ミラーは、半導体作製用の研磨済みSi(100)ウエハーに、Crをスパッタリングし、璧開にて作製した。ミラーにHe−Neガスレーザーのスポットを固定角で入射させ、磁場電流印加有無による反射角の変化を測定した。反射角は、試料から遠方5mの所定の場所にマイクロポジショナーに取り付けた受光素子を配し、受光量最大の位置をマイクロポジショナーでトレースして求めた。なお、予備実験で試料を定盤面内で種々に回転させ、反射角変化が最も大である方向についてデータを収集した。
【0094】
先ず、第一の測定として、4系統のソレノイドに等しい電流を印加した。この時の試料に加わる有効磁場は、約60〜70kA/mであった。この時の反射角変化を表4に示す。なお、比較例に見られるような反射角変化は、成形時の充填高さのばらつきや、焼成時の熱や雰囲気のばらつきを反映したものと推定される。
【0095】
次に、反射角が変化した方向の逆方向にチルトするよう、逆方向に働くコイルには電流増加、順方向に働くコイルには電流減少を意図し、4系統のソレノイドコイルの電流を種々独立に変化させた。増加電流、減少電流は様々であるが、最大で、第一の測定時の±40%以内の変化であった。また、4系統の電流値の総和は変化しないよう調整した。これを測定2として表4に示した。なお、測定2においても、予備実験で試料を定盤面内で種々に回転させ、反射角変化が最も大である方向について、データを収集した。
【0096】
【表4】
【0097】
このように、実施例では、反射角変化が20秒か10秒以下に抑えることが可能になった。一方、比較例においても、調整を試みたが、±20秒程度は容易に変化するが、チルトする方向も変化し、系統的な低減で押さえ込むことはできなかった。
【0098】
以上のように、実施例4,5,6,7では、複数のコイルの電流の割合を調整するという簡単な手法で、伸縮時の端面の平行性の精密制御が可能になることが示された。複数コイルの作る磁場が流れ込む磁気回路である試料自体は単体で一つのものであっても、このように、精密で複雑な制御ができることが示された。一方、比較例では、同様の複数コイルによるドライブを試みても、系統的制御が得られず、ほとんど低減できなかった。
【0099】
実際の大量生産では、さらに試料内特性のばらつきが大きくなると予想され、実動作時の特性の補正、実質上の歩留まり向上等へも本発明の効果は波及すると考えられる。なお、本実施例は、概略、直径9mm、長さ22mmの試料であり、アスペクト比が3未満と小さい。しかしながら、燃料噴射用インジェクター等、用途によっては、より長く、アスペクト比が高い形状が要求される。アスペクト比が上がると、単純な幾何学的考察から明白なように、同じばらつきであっても、反射角の角度変化はアスペクト比にほぼ比例して大きくなる。本実施例は、角度変化量の程度を限定するものではなく、本質は磁歪の伸び縮みのばらつき制御にあり、より大きな角度のばらつきやずれの補正にも有効であるのは言うまでもない。
【0100】
さらに、磁歪測定後の該試料をワイヤカッターで一軸加圧方向に鉛直な面数箇所で切断し、切断面に対して10%硝酸液で20〜50μmの表面エッチングを行った。そして、切断した円板試料または円環試料について、表4の測定2のコイル電流とチルト方向の関係から、磁場配向が弱いと推定される方向とそうではない3方向に分かれるよう面内を4分割した。磁場配向が弱いと推定できる方向の試料を3試料集め、そうではない方向の試料についても3試料無作為に選択し、一軸加圧方向に鉛直な面を粉末法X線で評価し、[222]ピークの半値全幅を調べた。測定値は、それぞれ算術平均したが、これは主にX線測定側のばらつきを軽減するための処置である。結果を表5に示す。
【0101】
【表5】
【0102】
表5に示したように、各実施例では、意図的な局所的磁場印加によって、局所的な磁場配向に差が生じており、[222]ピークの半値全幅の差が0.05(degree)以上あることが明らかになった。一方、各比較例では、試料片による差は小さく、各試料片の半値全幅の差が0.03(degree)を越えることはなかった。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明を適用した成形体の一例を示す概略斜視図である。
【図2】有効磁場が外部磁場よりも大である領域の形成の原理を説明する図であり、(a)は強磁性体リングを組み込んだ成形装置の概略斜視図、(b)は概略断面図である。
【図3】強磁性体リングの内側に発生する局所的磁場の場所による変化を示す特性図である。
【図4】強磁性体リングの長さを5mmとした場合の強磁性体リングの内側に発生する局所的磁場の場所による変化を示す特性図である。
【図5】強磁性体リングの長さを2mmとした場合の強磁性体リングの内側に発生する局所的磁場の場所による変化を示す特性図である。
【図6】強磁性体リングの長さを1mmとした場合の強磁性体リングの内側に発生する局所的磁場の場所による変化を示す特性図である。
【図7】強磁性体リングの径を固定した場合のL/Tと局所磁場最大値の相関を示す特性図である。
【図8】強磁性体リングを複数個内包する円柱用金型とパンチの模式図である。
【図9】強磁性体リングの一巻きが発生する2次的局所磁場のZ軸成分計算値を示す特性図である。
【図10】2次的局所磁場の最大値を横軸に半径Rを取って示した図である。
【図11】成形体円柱表面の2次的局所磁場のZ軸方向の変化を示す特性図である。
【図12】一様外部磁場を足し合わせた有効磁場のZ軸方向変化を示す特性図である。
【図13】深さ毎に強磁性部分の方向が異なる金型を切り開き平面化した状態を示す図である。
【図14】強磁性リングの上下端面に互いに異符号の磁極が発生している場合の局所的磁場の計算値をリングの一軸加圧方向の厚さTでプロットした図である。
【図15】強磁性体リングの上下端面に互いに異符号の磁極が発生している場合の局所的磁場を一軸加圧方向の変化としてプロットした図であり、(a)は強磁性体リングの長さLが10mmの場合、(b)は強磁性体リングの長さLが5mm、(c)は強磁性体リングの長さLが2mmの場合である。
【符号の説明】
【0104】
1 成形体、1a 円環状領域、2 ダイ、3 強磁性体リング、4 成形空間、5 中棒、6 原料粉、7 下パンチ、8 上パンチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性体粉を含む原料粉が一軸加圧成形により一体に成形されてなる成形体であって、他の領域とは局所的に配向度が異なる領域を有することを特徴とする成形体。
【請求項2】
前記一軸加圧方向において、前記局所的に配向度が異なる領域が形成されていることを特徴とする請求項1記載の成形体。
【請求項3】
前記一軸加圧方向と略直交する面内に前記局所的に配向度が異なる領域と他の領域が存在することを特徴とする請求項1記載の成形体
【請求項4】
前記局所的に配向度が異なる領域における主要な結晶面のX線回折ピークの半値全幅と、他の領域における前記半値全幅の差が0.05°以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の成形体。
【請求項5】
前記強磁性体粉が、磁化容易軸、磁化容易面、磁化容易方向のいずれかを有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の成形体。
【請求項6】
前記一軸加圧成形後、焼成により焼結体とされていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の成形体。
【請求項7】
磁歪材料からなることを特徴とする請求項6記載の成形体。
【請求項8】
RTx(Rは1種類以上の希土類元素、Tは1種類以上の遷移金属であり、xは1<x<3である。)で示される組成を有することを特徴とする請求項7記載の成形体。
【請求項9】
前記結晶面が[222]面であることを特徴とする請求項8記載の成形体。
【請求項10】
前記一軸加圧方向と略平行な軸を中心軸とする円筒形状とされていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項記載の成形体。
【請求項11】
前記円筒形状において、外径寸法が長さ寸法よりも小であることを特徴とする請求項10記載の成形体。
【請求項12】
強磁性体粉を含む原料粉を金型の成形空間内で一軸加圧成形する成形方法であって、
前記一軸加圧方向に外部磁場を印加するとともに、前記金型の成形空間の近傍に角部が臨むように強磁性体を配することを特徴とする成形方法。
【請求項13】
前記強磁性体は、一軸加圧方向における寸法が前記成形空間の寸法よりも小であることを特徴とする請求項12記載の成形方法。
【請求項14】
前記強磁性体を配することにより前記外部磁場よりも磁場の強さが大である有効磁場領域を形成することを特徴とする請求項12または13記載の成形方法。
【請求項15】
前記成形空間を円筒形状とすることを特徴とする請求項12から14のいずれか1項記載の成形方法。
【請求項16】
前記強磁性体を円環状として前記成形空間の周囲に略同軸に配することを特徴とする請求項15記載の成形方法。
【請求項17】
強磁性体粉を含む原料粉を一軸加圧成形する成形空間を有する金型と、前記金型の成形空間に外部磁場を印加する外部磁場印加手段と、前記金型の成形空間に対して角部が臨むように成形空間近傍に配される強磁性体とを備えることを特徴とする成形装置。
【請求項18】
前記強磁性体を配することにより前記外部磁場よりも磁場の強さが大である有効磁場領域が形成されることを特徴とする請求項17記載の成形装置。
【請求項19】
前記成形空間が円筒形状であることを特徴とする請求項17または18記載の成形装置。
【請求項20】
前記強磁性体が円環状であり、前記成形空間の周囲に略同軸に配されることを特徴とする請求項19記載の成形装置。
【請求項1】
強磁性体粉を含む原料粉が一軸加圧成形により一体に成形されてなる成形体であって、他の領域とは局所的に配向度が異なる領域を有することを特徴とする成形体。
【請求項2】
前記一軸加圧方向において、前記局所的に配向度が異なる領域が形成されていることを特徴とする請求項1記載の成形体。
【請求項3】
前記一軸加圧方向と略直交する面内に前記局所的に配向度が異なる領域と他の領域が存在することを特徴とする請求項1記載の成形体
【請求項4】
前記局所的に配向度が異なる領域における主要な結晶面のX線回折ピークの半値全幅と、他の領域における前記半値全幅の差が0.05°以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の成形体。
【請求項5】
前記強磁性体粉が、磁化容易軸、磁化容易面、磁化容易方向のいずれかを有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の成形体。
【請求項6】
前記一軸加圧成形後、焼成により焼結体とされていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の成形体。
【請求項7】
磁歪材料からなることを特徴とする請求項6記載の成形体。
【請求項8】
RTx(Rは1種類以上の希土類元素、Tは1種類以上の遷移金属であり、xは1<x<3である。)で示される組成を有することを特徴とする請求項7記載の成形体。
【請求項9】
前記結晶面が[222]面であることを特徴とする請求項8記載の成形体。
【請求項10】
前記一軸加圧方向と略平行な軸を中心軸とする円筒形状とされていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項記載の成形体。
【請求項11】
前記円筒形状において、外径寸法が長さ寸法よりも小であることを特徴とする請求項10記載の成形体。
【請求項12】
強磁性体粉を含む原料粉を金型の成形空間内で一軸加圧成形する成形方法であって、
前記一軸加圧方向に外部磁場を印加するとともに、前記金型の成形空間の近傍に角部が臨むように強磁性体を配することを特徴とする成形方法。
【請求項13】
前記強磁性体は、一軸加圧方向における寸法が前記成形空間の寸法よりも小であることを特徴とする請求項12記載の成形方法。
【請求項14】
前記強磁性体を配することにより前記外部磁場よりも磁場の強さが大である有効磁場領域を形成することを特徴とする請求項12または13記載の成形方法。
【請求項15】
前記成形空間を円筒形状とすることを特徴とする請求項12から14のいずれか1項記載の成形方法。
【請求項16】
前記強磁性体を円環状として前記成形空間の周囲に略同軸に配することを特徴とする請求項15記載の成形方法。
【請求項17】
強磁性体粉を含む原料粉を一軸加圧成形する成形空間を有する金型と、前記金型の成形空間に外部磁場を印加する外部磁場印加手段と、前記金型の成形空間に対して角部が臨むように成形空間近傍に配される強磁性体とを備えることを特徴とする成形装置。
【請求項18】
前記強磁性体を配することにより前記外部磁場よりも磁場の強さが大である有効磁場領域が形成されることを特徴とする請求項17記載の成形装置。
【請求項19】
前記成形空間が円筒形状であることを特徴とする請求項17または18記載の成形装置。
【請求項20】
前記強磁性体が円環状であり、前記成形空間の周囲に略同軸に配されることを特徴とする請求項19記載の成形装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【公開番号】特開2006−274439(P2006−274439A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100121(P2005−100121)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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