説明

成形品の製造方法

【課題】成形面と成形素材との間に形成される空気溜りの発生を防止してこの空気溜りが成形品に残らないようにする。
【解決手段】一対の上型12及び下型14間に成形素材21を配置し、加熱軟化させて押圧することにより成形品34(36)を得る際、成形素材21を加熱軟化させる。その後、この成形素材21の径rよりも小さい孔(半径r)から軟化させた成形素材21を押し出す。そして、成形素材21の押出し先端側の球部34aの曲率半径rを、下型14の成形面14aの曲率半径rよりも小さくして成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性素材を加熱軟化させて押圧することにより成形品を得る成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、図17に示すように、ボール素材(ボールプリフォーム)20を用いて上型12と下型14により球状の凸面を有する成形品を成形する場合を考える。このとき、ボール素材20の曲率半径rが下型14の成形面14aの曲率半径rよりも大きい場合、先端に形成される空気封入部28の空気を逃がさなければ良好な転写精度が得られないという不具合があった。
【0003】
これを解決すべく、例えば特許文献1では、ボール素材に空気の逃げる溝を予め設けておき、その空気を外部に逃がして成形する点が開示されている。これにより、成形品にできる空気溜まり(エアートラップ)を防止する。
【0004】
また、例えば特許文献2では、型セットのキャビテイ内を真空に減圧して成形し空気を成形しないようにした技術が開示されている。これにより、ガラスゴブの形状に工夫を凝らすことなく、成形品の光学機能面にガス残り転写不良の発生を防止することができるというものである。
【特許文献1】特開2006−151780号公報
【特許文献2】特開平9−30818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、予めボール素材に溝を設けることで、溝の加工に時間とコストを要し、また、成形後には成形品に溝の跡が残るというリスクがある。
また、特許文献2では、成形装置を減圧して空気の封入を避けるための真空装置等が大掛かりとなり、製造コストの増大につながる。また、真空ゆえ揮発性素材の揮発を助長して成形品の表面が曇ることがある。
【0006】
本発明は斯かる課題を解決するためになされたもので、型の成形面と成形素材との間に形成される空気溜りの発生を防止してこの空気溜りが成形品に残らないようにした成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、
一対の成形型間に成形素材を配置し加熱軟化させて押圧することにより成形品を得る成形品の製造方法において、
前記成形素材を加熱軟化させた後、該成形素材の径より小さい孔から軟化させた成形素材を押し出して、前記成形素材の押出し先端側の曲率半径を型の曲率半径より小さくして成形することを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の成形品の製造方法において、
前記孔を有する筒状の孔部材の上面がすりばち状に傾斜していることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の成形品の製造方法において、
前記孔部材が分割可能に構成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の成形品の製造方法において、
取り出した前記成形品の外径を後加工で研削して仕上げることを特徴とする。
請求項5に係る発明は、請求項2又は3に記載の成形品の製造方法において、
前記孔部材の内周面でくびれ部を成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、一対の成形型間に配置した成形素材を加熱軟化させた後、成形素材の径より小さい孔から軟化させた成形素材を押し出して、成形素材の押出し先端側の曲率半径を型の曲率半径より小さくして成形するので、型の成形面と成形素材との間に形成される空気溜りの発生を防止してこの空気溜りが成形品に残らないような高精度な成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
[第1の実施の形態]
図1〜図7は、第1の実施の形態の成形品の製造方法を示している。
【0012】
図1は、型セットの組立工程及び加熱工程を示している。同図1において、型セット10は、一対の成形型としての上型12及び下型14、筒状スリーブ16、及び該筒状スリーブ16の内面に嵌挿される筒状の孔部材30を有している。
【0013】
上型12は鍔付き円柱状をなし、大径のフランジ部12と小径の柱状部12とを有している。この柱状部12の軸方向(O軸方向)の端面に、平面状の成形面12aが形成されている。
【0014】
また、下型14も鍔付き円柱状をなし、大径のフランジ部14と小径の柱状部14とを有している。この柱状部14の軸方向(O軸方向)の端面に、凹球面状の成形面14aとその周囲に平面状の成形面14bが形成されている。なお、成形面14aは球面に限らず非球面等であってもよい。
【0015】
筒状スリーブ16は円筒状をなしている。この筒状スリーブ16の内側には、第1の孔16と、該第1の孔16よりも大径の第2の孔16とが形成されている。この第1の孔16と第2の孔16とは、軸方向(O軸方向)の途中の段差部16を介して接続されている。後述するように、この段差部16に、前述した孔部材30が支持される。
【0016】
また、上型12及び下型14は、筒状スリーブ16の内部で、夫々の成形面12a,14aが対向するように筒状スリーブ16の両端側から嵌挿されている。すなわち、上型12は、その柱状部12が筒状スリーブ16の第2の孔16に嵌挿され、下型14は、その柱状部14が筒状スリーブ16の第1の孔16に嵌挿されている。上型12は、筒状スリーブ16の軸方向に摺動可能となっている。
【0017】
下型14は筒状スリーブ16に嵌挿された状態で、該筒状スリーブ16の段差部16は、下型14の成形面14bよりも軸方向の高位置(図1の上方)に位置している。
そして、筒状スリーブ16の第2の孔16に孔部材30が嵌挿され、該孔部材30が段差部16に当接支持されている。こうして、孔部材30の下面と、下型14の平面状の成形面14bとの間には、所定の間隙hが形成されている。
【0018】
孔部材30は、図2に示すように、中央に孔30a(半径r)を有する円筒状をなし、下面が平面30bで、上面がすりばち状に傾斜した傾斜面30cを有している。本実施形態では、この孔部材30は、矢印方向に2つ(30,30)に分割可能に構成されている。これは、後述する成形素材21を半成形品(図6参照)34として成形した後に、この半成形品34を孔部材30から取り出し易くするためである。
【0019】
すなわち、本実施形態では、成形された半成形品(図6参照)34は、その光軸O方向の中途部にくびれ部34cを有している。このため、孔部材30が分割できない場合は、該孔部材30から半成形品34を分離することが困難となる。
【0020】
なお、後述するように(図15参照)、孔部材30と半成形品34とを枠一体構造として成形する場合は、該孔部材30を分割可能に構成する必要はないのは勿論である。
そして、図1において、孔部材30の孔30aの上面に、曲率半径rの球状の成形素材21が載置される。この成形素材21は、筒状スリーブ16の第2の孔16の径よりも小さく、かつ孔部材30の孔30aの径(半径r)よりも大きい形状を有している。
【0021】
こうして、孔部材30の孔30aの上面と上型12の成形面12aとの間に、成形素材21が配置される。このとき、成形素材21の中心は型中心軸(光軸中心)Oを通るように保持されている。
【0022】
成形素材21の中心が型中心軸Oと一致していないと、後述するように、孔部材30から押し出された後の成形素材21の先端形状精度が悪化するおそれがあるためである。また、成形素材21と上型12の成形面12aとは、型中心軸Oを通る1点で接触している。
【0023】
なお、型セット10の組立順序は特に限定されるものではないが、構成上、例えば筒状スリーブ16に孔部材30を嵌挿し、さらに成形素材21を投入した後に、最後に上型12が嵌挿されることになる。
【0024】
本実施形態では、成形素材21として、例えば市販の光学ガラス素材が用いられている。なお、ガラス素材以外にも、例えば合成樹脂を用いることができる。また、上型12、下型14、筒状スリーブ16、及び孔部材30は、例えばタングステンカーバイド(WC)等の超硬合金を研削、研磨して仕上げられている。
【0025】
成形前の加熱工程では、成形素材21がガラス転移点からガラス軟化点付近の温度にまで加熱される。これにより、成形素材21は変形可能な粘度に軟化する。
次いで、図3及び図4は成形工程を示している。
【0026】
図3において、この成形工程では、上型12が筒状スリーブ16内を孔部材30に接近移動して、軟化した成形素材21を押圧する。これにより、軟化した成形素材21はその略中央部が孔部材30の孔30aに向けて押圧されるとともに、成形素材21の周囲部は孔部材30の傾斜面30cに押し付けられる。そして、略中央部の成形素材21が孔部材30の孔30aから下型14の成形面14aに向けて押し出される。
【0027】
この場合、孔部材30の上面は傾斜面30cとなっているため、軟化した成形素材21は傾斜面30cを滑りながら中央の孔30aから押し出されやすい構成となっている。なお、本実施形態では、傾斜面30cの傾斜角度θは、水平面(型中心軸Oと直交する平面)に対して15°以上で60°以下の角度に設定されている。
【0028】
若しも、傾斜面30cの傾斜角度θが15°未満では成形素材21の滑りが悪くなり、また、傾斜角度θが60°より大きいと孔部材30の軸方向の長さが長くなるためである。
【0029】
ここで、孔部材30の孔30aの径(半径r)と、該孔30aから押し出される成形素材21の光軸Oを含む先端曲率半径(r)との間には、相関関係があることが知られている。そして、孔部材30の孔30aの径(半径r)が小さければ小さいほど、押し出される成形素材21の光軸Oを含む先端曲率半径(r)を小さくすることができる。
【0030】
こうして、軟化した成形素材21は、孔部材30の孔30aから光軸Oを含む所定の先端曲率半径(r)で押し出され、その光軸Oを含む先端の球面が下型14の成形面14aの中心に接触する。このとき、所定の先端曲率半径(r)で押し出された成形素材21は、孔部材30と下型14との間の間隙hの距離を移動した後に、下型14の成形面14aの中心に到達する。さらに、上型12が成形素材21を押圧することで、孔部材30の孔30aから押し出された成形素材21は、下型14の成形面14aの中心から外周側に均等に広がっていく。
【0031】
このとき、図4に示すように、孔部材30の孔30aの径(半径r)を適宜に選択することで、押し出される成形素材21の光軸Oを含む先端曲率半径rを下型14の成形面14aの曲率半径rよりも小さく設定することができる。これにより、押し出された球状の成形素材21の外表面と、下型14の凹状の成形面14aとの間に存在していた空気は、中心から外周側に向けて押し出される。
【0032】
押し出された空気は、成形完了前までに下型14の凹状の成形面14aと押し出された球状の成形素材21の外表面との間に形成された隙間から排出されていく。排出された空気は、上型12及び下型14と筒状スリーブ16との間のわずかな隙間から逃げていく。こうして、下型14の凹状の成形面14aと孔部材30の孔30aから押し出された球状の成形素材21との間に、空気溜りが生じることが回避される。
【0033】
同様に、図1において、上型12の成形面12aと接触している成形素材21の曲率半径rは、上型12の成形面(平面)12aの曲率半径(∞)よりも小さいので、球状の成形素材21の外表面と上型12の成形面12aとの間に存在していた空気は、中心から外周側に向けて押し出される。
【0034】
次に、図5は、成形完了後の工程を示している。
この図5に示すように、上型12が軟化した成形素材21を押圧し、そのフランジ部12が筒状スリーブ16の上端面に当接すると、成形が完了する。このとき、軟化した成形素材21は、下型14の凹状の成形面14aと平面状の成形面14bとの境界付近にまで広げられながら変形していく。
【0035】
こうして、軸方向の途中にくびれ部34cを有する半成形品34が成形される。その後、冷却工程に移行して型セット10及び半成形品34が常温付近にまで冷却される。
冷却工程の後、図6に示すように、半成形品34が型セット10から取り出される。
【0036】
この半成形品34は、押出し先端側の光軸Oを含む球部34a、押圧側の光軸Oを中心とする円錐部34b、及び光軸O方向の途中に形成されたくびれ部34cを有している。このくびれ部34cは、孔部材30の孔30aによって形成され、その軸方向長さは孔部材30と下型14との間隙hの大小によって影響される。
【0037】
このくびれ部34cは、押出し先端側の球部34a及び押圧側の円錐部34bの基端側の径(r)よりも小さく(略半径rに)形成されている。
すなわち、半成形品34の押出し先端側の光軸Oを含む球部34aの径r、及び押圧側の光軸Oを中心とする円錐部34bの径rは、孔部材30の孔30aの径(2r)よりも大きく成形される。よって、この半成形品34を光軸O方向に孔部材30から引き抜くことはできない。しかし、この場合でも、孔部材30が2つ(30,30)に分割可能となっているので、半成形品34を取り出すことができる。
【0038】
ところで、最終的に欲しい成形品36の形状は、例えば円柱状の端面に曲面(球面、非球面等)が形成されたもの(図7参照)とすると、半成形品34を中心軸Oを中心として回転させて研削して円柱状に後加工する必要がある。
【0039】
図7は、半成形品34を後加工によって研削加工することにより得られた鉄砲玉状の成形品36の外観を示している。
この成形品36は、光軸O方向に長い円柱部36aを有し、その一端面は球面36bに形成され、他端面は平面36cに形成されている。これにより、孔部材30の孔30aの直径(2r)よりも光軸O方向に長い成形品36を得ることができる。このような成形品36は、例えば内視鏡等の医療用レンズとして幅広い需要が見込まれている。
【0040】
本実施の形態によれば、孔部材30の孔30aの径(半径r)を小さくして、押し出される成形素材21の光軸Oを含む先端曲率半径(r)を、下型14の成形面14aの曲率半径rよりも小さくしたことで、下型14の成形面14aと押し出された成形素材21との間に形成される空気溜りの発生を防止することができる。よって、半成形品34や成形品36として、空気溜りが残ることのない高品質なものを得ることができる。
【0041】
また、下型14の成形面14aの形状を変更することなく、孔部材30の孔30aの径を変更するだけで、成形素材21の大きさに左右されない、また空気溜りの生じない高精度な成形を行うことかできる。
【0042】
さらに、本実施形態では、孔部材30と下型14との間に所定の間隙hを形成したので、半成形品34には、光軸O方向の途中に長いくびれ部34cが形成される。このくびれ部34cを有する半成形品34を後加工することにより、孔部材30の孔30aの径よりも軸方向に長い鉄砲玉状の成形品36を得ることができる。
【0043】
また、本実施形態では、孔部材30を2分割可能に構成したので、半成形品34が軸方向の途中にくびれ部34cを有していても、該半成形品34を型セット10から容易に取り出すことができる。
【0044】
さらに、本実施形態では、下型14と孔部材30との間の間隙hがあるので、軟化した成形素材21の余剰分をこの空間で吸収することができる。よって、成形された半成形品34にバリが発生するのを防止することができる。
[第2の実施の形態]
図8〜図13は、第2の実施の形態の成形品の製造方法を示している。なお、第1の実施の形態と同一又は相当する部材には同一の符号を付して、一部の説明を省略する。
【0045】
本実施形態において、第1の実施の形態と相違するのは、孔部材30と下型14との間に所定の間隙hがない点である。
すなわち、図8は、型セットの組立工程及び加熱工程を示している。この図8において、型セット10は、一対の成形型としての上型12及び下型14、筒状スリーブ16、及び該筒状スリーブ16の内面に嵌合される筒状の孔部材30を有している。
【0046】
上型12と下型14の構成は第1の実施の形態と同様である。筒状スリーブ16は円筒状をなし、上型12及び下型14は、筒状スリーブ16の内部で、夫々の成形面12a,14aが対向するように筒状スリーブ16の両端側から嵌挿されている。
【0047】
下型14は筒状スリーブ16に嵌挿された状態で、凹状の成形面14aの周囲の平面状の成形面14bに円筒状の孔部材30が載置されている。この孔部材30は、前述した図2に示したものと同一の構成を有し、中央に孔30aが形成され、下面が平面30bで、上面にすりばち状に傾斜した傾斜面30cを有している。
【0048】
そして、孔部材30の中央の孔30aの上面に、曲率半径rの球状の成形素材21が載置される。この成形素材21は、筒状スリーブ16の内径よりも小さく、孔部材30の孔30aの径(半径r)よりも大きい径を有している。
【0049】
こうして、孔部材30の孔30aの上面と上型12の成形面12aとの間に、成形素材21が配置される。この状態で成形素材21の中心は型中心軸(光軸)Oを通るように保持されている。また、この成形素材21と上型12の成形面12aとは1点で接触している。
【0050】
そして、成形前の加熱工程では、成形素材21がガラス転移点からガラス軟化点付近の温度にまで加熱される。これにより、成形素材21は変形可能な粘度に軟化する。
次いで、図9及び図10は成形工程を示している。
【0051】
この図9において、上型12が筒状スリーブ16内を孔部材30に接近移動して、軟化した成形素材21を押圧する。これにより、軟化した成形素材21はその略中央部が孔部材30の孔30aに向けて押圧されるとともに、成形素材21の周囲部は傾斜面30cに押し付けられる。そして、略中央部の成形素材21が孔部材30の孔30aから下型14の成形面14aに向けて押し出される。
【0052】
ここで、前述したように、孔部材30の孔30aの径(半径r)と、該孔30aから押し出される成形素材21の光軸Oを含む先端曲率半径rとの間には、相関関係があることが知られている。そして、孔部材30の孔30aの径(半径r)が小さければ小さいほど、押し出される成形素材21の光軸Oを含む先端曲率半径rを小さくすることができる。
【0053】
こうして、軟化した成形素材21は孔部材30の孔30aから所定の先端曲率半径rで押し出され、その光軸Oを含む先端の球面が下型14の成形面14aに接触する。この場合、下型14と孔部材30との間の間隙hはないので、孔30aを通過した成形素材21は早期に成形面14aに到達する。さらに、上型12が成形素材21を押圧することで、孔部材30の孔30aから押し出された成形素材21は、下型14の成形面14aの中心から外周側に広げられていく。
【0054】
このとき、図10に示すように、孔部材30の孔30aの径(半径r)を適宜に選択することで、押し出される成形素材21の光軸Oを含む先端曲率半径rを下型14の成形面14aの曲率半径rよりも小さく設定することができる。このため、押し出された球状の成形素材21の外表面と下型14の凹状の成形面14aとの間に存在していた空気は、中心から外周側に向けて押し出される。
【0055】
押し出された空気は、成形完了前までに凹状の成形面14aと孔部材30の孔30aから押し出された球状の成形素材21の外表面との間に形成された隙間から排出されていく。排出された空気は、上型12及び下型14と筒状スリーブ16との間のわずかな隙間から逃げていく。こうして、下型14の凹状の成形面14aと孔部材30の孔30aから押し出された球状の成形素材21との間に、空気溜りが生じることが回避される。
【0056】
さらに、図11は、成形完了後の工程を示している。
図11に示すように、上型12が軟化した成形素材21を押圧し、そのフランジ部12が筒状スリーブ16の上端面に当接すると、成形が完了する。このとき、下型14の凹状の成形面14aと平面状の成形面14bとの境界にまで、軟化した成形素材21が変形しながら広げられていく。こうして、軸方向の途中にくびれ部34cを有する半成形品34が成形される。その後、冷却工程に移行して型セット10及び半成形品34が常温付近にまで冷却される。
【0057】
本実施形態では、孔部材30と下型14との間に間隙hを有さないので、成形された半成形品34の下方部の余剰部分34dの体積が小さい。よって、設計上で狙った形状に近い半成形品34を得ることができる。このため、半成形品34を後加工するときの加工量を少なくすることができる。
【0058】
冷却工程の後、図12に示すように、半成形品34が型セット10から取り出される。このとき、半成形品34はその押出し先端側の径r及び押圧側の径rが、孔部材30の孔30aの径(半径r)よりも大きく成形されている。この場合でも、孔部材30が2つ(30,30)に分割可能となっているので、孔部材30を2つに分解して半成形品34を取り出すことができる。この半成形品34は、軸方向の途中にくびれ部34cを有している。
【0059】
ところで、最終的に欲しい成形品36の形状は、円柱状の先端に曲面(球面、非球面等)が形成されたものとすると(図13参照)、半成形品34を光軸(O軸)を中心として回転させて研削し、円柱状に後加工する必要がある。
【0060】
図13は、半成形品34を、後加工によって研削加工することにより得られた鉄砲玉状の成形品36の外観を示している。これにより、孔部材30の孔30aの径(半径r)よりも長い成形品36を得ることができる。
【0061】
本実施の形態によれば、下型14の成形面14aと成形素材21との間に形成される空気溜りの発生を防止してこの空気溜りを半成形品34や成形品36に残さないようにすることができる。
【0062】
また、第1の実施形態のように、孔部材30と下型14との間に間隙hを有さないので、成形された半成形品34の余剰部分34dを少なくして後加工量を少なくすることができる。
[第3の実施の形態]
図14(a)(b)は、第3の実施の形態の成形品の製造方法を示す図である。なお、第1の実施の形態と同一又は相当する部材には同一の符号を付して説明する。
【0063】
本実施形態では、孔部材30を3分割可能に構成し、この孔部材30を円筒状のリング部材38で支持したものである。
すなわち、孔部材30は、中心に孔30aを有し、扇形の3つ(30、30,30)の部材に分割可能に構成されている。この孔部材30は、下面が平面30bで、上面がすりばち状に傾斜した傾斜面30cを有し、側面下部に小径に穿設された環状の切欠き部30dが形成されている。
【0064】
この孔部材30は、型セット10への組み込み時には、その外周部をリング部材38によって保持されている。このリング部材38は、型中心軸(O軸)側に延出する延出部38aを有し、内側下部に孔部材30を収容する孔が形成されている。そして、このリング部材38の延出部38aに、孔部材30の切欠き部30dが嵌合保持されている。このリング部材38は、筒状スリーブ16の内面に形成された段差部16に支持される。
【0065】
なお、本実施形態では孔部材30を3分割した場合について説明したが、これに限らない。例えば、4分割等でもよい。
この孔部材30及びリング部材38を用いて、半成形品34及び鉄砲玉状の成形品36を製造する方法は、第1の実施の形態で説明した場合と同様であるので、その説明を省略する。
【0066】
本実施形態によれば、孔部材30を3分割可能に構成したので、該孔部材30を扇形の複数部材に分けて組み合わせることができ、孔部材30を型セット10に組み込むときの組み立て性を向上することができる。また、孔部材30は3分割可能であるため、成形後に分解して半成形品34を容易に取り出すことができる。
[第4の実施の形態]
図15は、第4の実施の形態の成形品の製造方法を示す図である。なお、第1の実施の形態と同一又は相当する部材には同一の符号を付して説明する。
【0067】
本実施形態では、半成形品34を成形した後に、その半成形品34を枠部材40と一体固定して枠一体形の成形品42を得るものである。
すなわち、前述した各実施形態と同様の工程で半成形品34を得る。この半成形品34は、押出し先端側の球部34aと押圧側の円錐部34b、及び軸方向の途中のくびれ部34cを有している。また、枠部材40は円筒状をなし、型中心軸(O軸)側に延出する延出部40aを有し、内側下部に半成形品34を挿通する孔が形成されている。この延出部40aの上面はテーパ面40bに形成されている。
【0068】
そして、半成形品34を枠部材40に組み込む場合、半成形品34の先端側の球部34aを枠部材40の孔に挿通する。このとき、半成形品34のくびれ部34cを枠部材40の延出部40aに位置させ、半成形品34の円錐部34bは、枠部材40のテーパ面40bにて支持する。次いで、半成形品34のくびれ部34cと枠部材40の延出部40aとの間に接着剤44を塗布して固定する。これにより、半成形品34と枠部材40とが一体化された枠一体形成形品42を得ることができる。
【0069】
なお、本実施形態では、半成形品34を成形した後に該半成形品34を枠部材40と一体化したが、これに限らない。例えば、成形当初から枠部材40を型セット10に組み込み、成形素材21と枠部材40とを同時に一体化して成形してもよい。
【0070】
本実施形態によれば、半成形品34の軸方向の途中にくびれ部34cがあることにより、このくびれ部34cを利用して、半成形品34を枠部材40に強固に固定することができる。
[第5の実施の形態]
図16は、第5の実施の形態の成形品の製造方法を示す図で、成形品(46)を具体的な光学系45に用いた状態を示している。
【0071】
すなわち、本実施形態では、成形品としてのロッドレンズ46を製造する際に、例えば前述した実施形態で用いたものよりも軸方向に長い孔部材30を用いる。そして、これを型セット10に組み込んで前述と同様の方法で、軟化した成形素材21を孔部材30から押し出して成形品を成形する。
【0072】
図16に示すように、製造された成形品46は、押出し先端側の円柱部46aと押圧側の円柱部46b、及び軸方向に長いくびれ部46cを有する。押出し先端側の円柱部46aの端面は球面に成形され、押圧側の円柱部46bの端面は平面に成形されている。
【0073】
こうして、製造された同一の2個のロッドレンズ46,46を、円筒パイプ48の内部に直列状に配置して光学系45を形成する。この光学系45は、円筒パイプ48の軸方向に沿って光路を形成している。
【0074】
この場合、ロッドレンズ46は、中間に細径で長いくびれ部46cを有しているので、円筒パイプ48に図の矢印方向の外力が加わって該円筒パイプ48が湾曲した場合においても、ロッドレンズ46が破損するおそれは生じない。円筒パイプ48の変形をくびれ部46cによって吸収することができるためである。
【0075】
本実施形態によれば、成形品としてのロッドレンズ46は中間に細径で長いくびれ部46cを有することにより、円筒パイプ48のたわみによる曲げ応力を回避して折損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】第1の実施の形態における型セットの組立工程及び加熱工程を示す図である。
【図2】同上の孔部材の外観を示す図である。
【図3】同上の成形工程を示す図である。
【図4】同上の成形工程を示す図である。
【図5】同上の成形完了後の工程を示す図である。
【図6】同上の半成形品の構成を示す図である。
【図7】同上の成形品の構成を示す図である。
【図8】第2の実施の形態における型セットの組立工程及び加熱工程を示す図である。
【図9】同上の成形工程を示す図である。
【図10】同上の成形工程を示す図である。
【図11】同上の成形完了後の工程を示す図である。
【図12】同上の半成形品の構成を示す図である。
【図13】同上の成形品の構成を示す図である。
【図14】(a)(b)は、第3の実施の形態における孔部材の構成を示す図である。
【図15】第4の実施の形態における枠一体形の成形品を示す図である。
【図16】第5の実施の形態において成形品を具体的な光学系に用いた状態を示す図である。
【図17】従来の成形品の製造方法を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
10 型セット
12 上型
12a 成形面
14 下型
14a 成形面
14b 成形面
16 筒状スリーブ
16 段差部
16 第1の孔
16 第2の孔
18 筒状位置決め部材
21 成形素材
28 空気封入部
30 孔部材
30 孔部材
30 孔部材
30 孔部材
30a 孔
30b 平面
30c 傾斜面
30d 切欠き部
34 半成形品
34a 球部
34b 円錐部
34c くびれ部
34d 余剰部分
36 成形品
36a 円柱部
36b 球面
36c 平面
38 リング部材
38a 延出部
40 枠部材
40a 延出部
40b テーパ面
42 枠一体形成形品
44 接着剤
45 光学系
46 ロッドレンズ
46a 円柱部
46b 円柱部
46c くびれ部
48 円筒パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の成形型間に成形素材を配置し加熱軟化させて押圧することにより成形品を得る成形品の製造方法において、
前記成形素材を加熱軟化させた後、該成形素材の径より小さい孔から軟化させた成形素材を押し出して、前記成形素材の押出し先端側の曲率半径を型の曲率半径より小さくして成形する
ことを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項2】
前記孔を有する筒状の孔部材の上面がすりばち状に傾斜している
ことを特徴とする請求項1に記載の成形品の製造方法。
【請求項3】
前記孔部材が分割可能に構成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の成形品の製造方法。
【請求項4】
取り出した前記成形品の外径を後加工で研削して仕上げる
ことを特徴とする請求項1に記載の成形品の製造方法。
【請求項5】
前記孔部材の内周面でくびれ部を成形する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の成形品の製造方法。

【図2】
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【図12】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−114032(P2009−114032A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289798(P2007−289798)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】