説明

成形回路部品の製造方法

【課題】板状の基体を被覆材で部分的に被覆する際に、被覆材の射出圧力によって基体が変形することを防止する。
【解決手段】基体1の裏面12であって、めっきによる導電性回路となる部分に、下金型6に設けた突起部62、62を当接させて、この基体1の表面11を覆う第1のキャビティ51に被覆材4を射出する。被覆材4の射出圧力によって基体1が変形しないように、突起部62、62の中間にダミー導電性回路用の突起部64の先端を当接させる。さらに基体1の左右の端部を、下金型6の内周壁に設けた段付部65で拘束して、この端部の変形を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形回路部品の製造方法に関し、特に表面を被覆材で部分的に被覆し、この被覆材で被覆されていない部分にめっきによる導電性回路を形成する成形回路部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から絶縁材からなる基体の表面を被覆材で部分的に被覆し、この被覆材で被覆されていない部分に、めっき層からなる導電性回路を選択的に形成する、成形回路部品の製造方法が各種提案されている(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平01−207989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで特許文献1において、基体の表面を被覆材で部分的に被覆するときには、基体を金型内に設置して、この基体と金型との間に設けたキャビティに、被覆材を射出形成する。ここで基体の表面及び裏面の両面を被覆材で部分的に被覆する場合には、この基体の表面及び裏面の両面と金型との間に、それぞれキャビティを設け、これらのキャビティに被覆材を射出形成する。
【0005】
しかるに基体の表面及び裏面を覆うキャビティ毎に、それぞれ別個独立に被覆材を射出形成する場合には、金型にそれぞれ別個の湯道を設ける必要があり、金型の製造コストや被覆材の射出形成の作業コスト等が増加する。このコスト等の増加を回避するためには、基体の表面を覆うキャビティのみに湯道を設け、この基体の表面を覆うキャビティに射出した被覆材を、この基体の端面を覆うキャビティを介して、この基体の裏面を覆うキャビティに射出する方法が採用されている。
【0006】
しかるに基体が厚さの薄い平板からなる場合には、この基体の表面を覆うキャビティに被覆材を射出すると、この射出された被覆材が、この基体の裏面を覆うキャビティに侵入するまでの間に、この被覆材の射出圧力に押されて、この基体の端部や中央部分等が、この基体の裏面を覆うキャビティに向かって変形する場合がある。成形回路部品に形成する導電性回路は、極めて小型で高密度であるため、基体の形状が変形すると、導電性回路
が正確に形成されず、他の電子回路や電子部品等の組み付け等が困難になる。
【0007】
被覆材の射出圧力は、被覆材の流動特性によって相違し、さらに基体の変形の程度は、基体の材質、厚さ、及びキャビティの形状等によって相違する。したがって、これらの要素を適切に組み合わせて基体の変形を防止することは、極めて困難である。
【0008】
そこで本発明の目的は、絶縁材からなる基体の表面を被覆材で部分的に被覆し、この被覆材で被覆されていない部分に、めっき層からなる導電性回路を選択的に形成する際に、この被覆材の射出圧力によって、この基体が変形することを防止する、成形回路部品の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による成形回路部品の製造方法の特徴は、被覆材の射出圧力によって基体が変形して、金型のキャビティの内壁に接触する部分に、ダミー導電性回路を設けることによって、基体が変形しないようにすることにある。すなわち本発明による成形回路部品の製造方法は、絶縁材からなる基体の表面に導電性回路となる部分を残して被覆材を射出成形し、この導電性回路となる部分にめっきすることによって成形回路部品を製造する方法であって、上記基体は、板状であって、相互に対向する第1の表面、第2の表面、及びこの基体の端面を形成する第3の表面を有している。上記被覆材を射出成形するための金型は、上記第1の表面、第2の表面、及び第3の表面を、それぞれこの被覆材によって被覆するための第1のキャビティ、第2のキャビティ、及び第3のキャビティを有している。また上記第1のキャビティ及び第2のキャビティは、上記第3のキャビティを介して相互に連通している。
【0010】
上記被覆材は、上記第1のキャビティに、上記金型の外部から射出され、この第1のキャビティに射出された被覆材は、上記第3のキャビティを介して上記第2のキャビティに射出されるものであって、上記第2の表面は、所定の間隔を隔てて、少なくとも2個所に導電性回路が設けられ、相互に隣接するこの導電性回路の中間、または上記基体の端部のいずれかには、ダミー導電性回路が形成されることにある。
【0011】
上記所定の間隔が、少なくとも上記基体の板厚の3倍であるときに、この間隔の中間にダミー導電性回路を設けることが望ましい。
【0012】
上記基体の端面と、この端面に最も近い上記導電性回路との間隔が、少なくとも上記基体の板厚の2倍であるときに、上記基体の端部にダミー導電性回路を設けることが望ましい。
【0013】
上記基体には、上記第1のキャビティと第2のキャビティとを相互に連通する開口孔を設けることが望ましい。
【0014】
ここで「絶縁材からなる基体」とは、基体自体が絶縁性の材料からなる場合に限らず、導電性の部材の表面を絶縁性の材料によって覆ったものも含まれる。「導電性回路となる部分にめっきする」の「めっき」には、無電解めっきの他、無電解めっきの表面に電解めっきを積層する場合も含む。「板状」とは、表裏の2表面を有し、この表面積に較べて厚さが小さい形状を意味するが、その形状を問わない。また平板形状に限らず、曲面形状、及び一部を屈成した3次元形状も含む。「第1のキャビティ」、「第2のキャビティ」、及び「第3のキャビティ」の「キャビティ」とは、金型の内面に設けた窪みであって、この金型内に基体を設置したときに、この基体の表面と金型との間にできる空間を意味する。すなわちこの「キャビティ」に被覆材を射出成形すると、この被覆材によって基体の表面が覆われる。
【0015】
「少なくとも2個所に導電性回路が設けられ」の「導電性回路」は、その形状を問わない。直線状のものの他、屈曲したもの、円弧状のもの、リング状のもの、あるいはスポット状のものも含む。「基体の端部」とは、板状の基体の周辺部を意味するが、その周辺部の全周に限らず、全周の一部である場合も含む。「ダミー導電性回路」とは、成形回路部品において実際には通電しない部分を意味し、導電性回路と同様に、めっきによって成形される。またその形状や個数を問わない。「開口孔」の、形状は問わない。円形孔に限らず、楕円孔、あるいは多角形孔の場合も含む。また単数の場合に限らず、複数個を配列した場合も含む。
【発明の効果】
【0016】
基体の表面であって、導電性回路となる部分には、めっきによって導電性回路を形成する。したがって、この導電性回路となる部分は、被覆材で覆われないように、金型の内壁面を当接させる。すなわち金型の内壁面には、導電性回路となる部分と同じ形状の突起部が設けてあり、この突起部を基体の表面に当接させて、被覆材で覆われないようにする。他方基体の表面に当接しない部分は、金型に形成したキャビティであって、このキャビティ内に被覆材を射出成形することによって、導電性回路となる部分の周囲が、被覆材で覆われる。
【0017】
したがって平板状の基体の第1の表面に設けた第1のキャビティにのみ、金型の外部から被覆材を射出したときには、被覆材の射出圧力によって、この第1の表面に対向する第2の表面に設けた第2のキャビティの方に、この基体が変形する。ここで第2の表面に2個以上の導電性回路となる部分、すなわちこの第2の表面に当接する金型の突起面が2個所以上に設けられる場合には、相互に隣接する突起部の間で、基体が変形する。また基体の端部と導電性回路となる部分との間は、この導電性回路となる部分を支持部として、片持ち梁の状態になるため、この片持ち梁の部分が変形する。よって相互に隣接する導電性回路の中間、あるいは基体の端部に、ダミー導電性回路形成すべき金型の突起部を設けることによって、この相互に隣接する導電性回路の中間、あるいは基体の端部の変形を防止することができる。
【0018】
相互に隣接する導電性回路の間隔が、基体の板厚の3倍以上に、あるいは基体の端面と、この端面に最も近い導電性回路との間隔が、基体の板厚の2倍以上になると、基体の変形が成形回路部品の機能等に与える影響が大きくなる。よってかかる場合に、基体の端部に上述したダミー導電性回路を設けることによって、基体の変形を効果的に防止できる。
【0019】
基体に、第1のキャビティと第2のキャビティとを相互に連通する開口孔を設けることによって、第1のキャビティに射出された被覆材が、この開口孔を介して第2のキャビティに侵入し易くなって、基体がより変形し難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来例による平板状の成形回路部品の正面図である。
【図2】従来例による平板状の成形回路部品の上面図である。
【図3】従来例による金型内に設置した平板状の基体の断面図である。
【図4】従来例による金型内に設置した平板状の基体の上面図である。
【図5】従来例による金型内に設置した平板状の基体に被覆材を射出成形したときの断面図である。
【図6】従来例による金型内に設置した平板状の基体に被覆材を射出成形したときの他の断面図である。
【図7】従来例による金型内に設置した平板状の基体に被覆材を射出成形したときの他の断面図である。
【図8】従来例による変形した平板状の成形回路部品の断面図である。
【図9】本発明による金型内に設置した平板状の基体の断面図である。
【図10】本発明による金型内に設置した平板状の基体の上面図である。
【図11】本発明による金型内に設置した平板状の基体に被覆材を射出成形したときの断面図である。
【図12】本発明による金型内に設置した平板状の基体に被覆材を射出成形したときの他の断面図である。
【図13】本発明による金型内に設置した平板状の基体に被覆材を射出成形したときの他の断面図である。
【図14】本発明による平板状の成形回路部品の断面図である。
【図15】本発明による平板状の成形回路部品の上面図である。
【図16】従来例によるコの字状の成形回路部品の斜視図である。
【図17】従来例による金型内に設置したコの字状の基体の断面図である。
【図18】従来例による金型内に設置したコの字状の基体の水平断面図である。
【図19】従来例による金型内に設置したコの字状の基体に被覆材を射出成形したときの断面図である。
【図20】従来例による金型内に設置したコの字状の基体に被覆材を射出成形したときの他の断面図である。
【図21】従来例による金型内に設置したコの字状の基体に被覆材を射出成形したときの他の断面図である。
【図22】従来例による変形したコの字状の成形回路部品の断面図である。
【図23】本発明による金型内に設置したコの字状の基体の断面図である。
【図24】本発明による金型内に設置したコの字状の基体の水平断面図である。
【図25】本発明による金型内に設置したコの字状の基体に被覆材を射出成形したときの断面図である。
【図26】本発明による金型内に設置したコの字状の基体に被覆材を射出成形したときの他の断面図である。
【図27】本発明による金型内に設置したコの字状の基体に被覆材を射出成形したときの他の断面図である。
【図28】本発明によるコの字状の成形回路部品の断面図である。
【図29】本発明による金型内に設置した他のコの字状の基体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明による成形回路部品の製造方法についての理解を容易にするため、まず従来技術による製造方法を、図1〜図8を参照しつつ説明する。さて図1と図2とは、平板状の基体201の表裏面に、それぞれ導電性回路202、203を設けた成形回路部品を示している。すなわち平板状の基体201は、図2に示すように横長の矩形形状をしており、絶縁性の熱可塑性樹脂を射出成形して製造する。平板状の基体201の表面211と裏面212とには、所定の間隔を隔てて、それぞれ2本の導電性回路202と203とが形成されている。導電性回路202と203とは、基体201の表面211と裏面212とであって、それぞれ被覆材204で被覆されていない部分に、無電解めっきを行うことによって形成される。なお図1と図2とに示す成形回路部品は、設計上の形状であって、従来技術による製造方法では、後述するように平板状の基体201が変形する。
【0022】
図3は、基体201の表面211、端面213、及び裏面212に、被覆材204を射出成形するために、上金型205と下金型206との間に、この基体を収納した場合を示している。基体201の表面211、裏面212、及び端面213であって、被覆材204によって覆われる部分は、それぞれ上金型205と下金型206との内面に、第1のキャビティ251、第2のキャビティ261、及び第3のキャビティ263が設けてある。また被覆材204によって覆われず、後工程において無電解めっきによって導電性回路202、203を形成する部分は、それぞれ上金型205と下金型206との内壁面に突起部252、262が設けてあり、この突起部の先端が、それぞれ基体201の表面211と裏面212とに当接している。なお上金型205には、第1のキャビティ251に被覆材204を射出するための、湯道253が設けてある。
【0023】
図4〜図7は、湯道253から第1のキャビティ251に被覆材204を射出したときに、この被覆材が、この第1のキャビティと第2のキャビティ261と第3のキャビティ263とに、順次広がっていく状態を示している。図4に示すように、上金型205の湯道253から、基体201の表面211を覆う第1のキャビティ251に射出された被覆材204は、矢印のように、この基体の表面に沿って広がる。図5は、図4に示す状態を、基体201の中央線を含む断面で示したものである。すなわち基体201の表面211を覆う第1のキャビティ251に射出された被覆材204は、その射出圧力によって、未だこの被覆材が侵入しておらず空洞になっている、この基体の裏面212を覆う第2のキャビティ261に向かって、この基体を変形させる。同様に左右の第1のキャビティ251に広がった被覆材204は、その射出圧力によって、左右の第2のキャビティ263に向かって、基体201の左右の端部を変形させる。
【0024】
図6に示すように、さらに被覆材204の射出量が増えると、この被覆材は、基体201の端面213を覆う第3のキャビティ263を廻って、第2のキャビティ261に侵入するが、この第2のキャビティに充満するまでの間に、この基体の中央部と左右の端部とがさらに変形し、ついにはこの第2のキャビティの内壁面に当接する。図7は、被覆材204が、第1のキャビティ251、第2のキャビティ261、及び第3のキャビティ263に充満し、この被覆材の射出が完了した状態を示している。
【0025】
図8は、以上説明した従来技術による成形回路部品を示したものである。すなわち基体201は、その中央部と左右の端部において変形し、第2のキャビティ261の内壁面に当接するため、この部分は被覆材204によって覆われない。このため被覆材204によって覆われない基体201の中央部と両端部には、無電解めっきによる導電性回路207が形成される。すなわち図1及び図2に示すような、設計目的であった導電性回路202、203以外の部分にも、導電性回路207が形成される。
【0026】
本発明は、上述した従来技術における基体201の変形と、設計目的以外の部分に導電性回路が形成されることを防止するものである。以下図9〜図15を参照しつつ、本発明による成形回路部品の製造方法を詳述する。なお本発明によって製造する成形回路部品は、図14及び図15に示すとおりである。さて最初に成形回路部品を構成する平板状の基体1を、合成樹脂を用いて射出成形する。合成樹脂としては、熱可塑性樹脂が望ましいが、熱硬化性樹脂であってもよい。かかる合成樹脂としては、例えば芳香族系液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルポリスルホン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリアミド、変性ポリフェニレンオキサイド樹脂、ノルボルネン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂が該当する。なお基体1を射出成形する合成樹脂には、必要に応じて無機フィラー等を混合してもよい。
【0027】
つぎに基体1の表面を粗化する。基体1の表面に小さな凹凸を形成し、アンカー効果によって、後工程における無電解めっきの密着性を向上すると共に、親水性を付与するためである。具体的には、まず基体1を、トリクロルエチレン等の溶剤や、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液によって脱脂処理する。次に例えば、NaOHやKOH等のアルカリ金属水酸化物の水溶液、アルコール性ナトリウム、アルコール性カリウム等のアルカリ金属アルコラートの水溶液、またはジメチルホルムアミド等の有機溶剤を使用して、これらの液を基体1の表面に塗布したり、これらの液中にこの基体を浸漬したりして表面をエッチングする。
【0028】
次の工程として、基体1の粗化した表面を被覆材4によって被覆する。具体的には図9に示すように、表面を粗化した基体1を、上金型5と下金型6との間に収納して、この基体の表面11を覆う第1のキャビティ51と、この基体の裏面12を覆う第2のキャビティ61とに、被覆材4を射出成形する。ここで、後工程における無電解めっきによって、図14等に示す導電性回路2、3を形成すべき部分には、被覆材4によって覆われないように、上金型5と下金型6とに、それぞれ設けた2個の突起部52と62との先端が当接している。なお2個の突起部52、52、及び突起部62、62の相互の間隔は、それぞれ基体1の板厚の3倍以上になっている。また2個の突起部62、62と、基体1の左右の端部との間隔は、基体1の板厚の2倍以上になっている。
【0029】
また被覆材4の射出圧力によって、基体の中央部に上述した変形が生じないように、下金型6に設けた突起部62、62の中央部に、ダミー導電性回路用の突起部64が設けてある。さらに基体の端部に上述した変形が生じないように、この基体の左右の両端部は、下金型6の内周壁に設けた段差部65と上金型5の下面との間に、密接挿着されている。
【0030】
さて図10は、上金型5に設けた湯道53から、基体1の表面11を覆う第1のキャビティ51に、被覆材4を射出した状態を示している。被覆材4は、矢印のように、基体1の表面11を覆う第1のキャビティ51内に広がる。また図11〜図13は、第1のキャビティ51に射出した被覆材4が、基体1の上下の端面13を覆う第3のキャビティ63を廻って、この基体の裏面12を覆う第2のキャビティ61に、順次侵入していく状態を示している。なお被覆材4としては、水溶性のポリビニルアルコール系樹脂を使用する。後述する工程において、この被覆材を容易に除去できるようにするためである。なお被覆材4としては、アルカリ水溶液によって容易に加水分解できる高分子材料であるポリグリコール酸、ポリ乳酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体若しくは共重合体を使用してもよい。
【0031】
ここで図12に示すよう、第1のキャビティ51に被覆材4を射出すると、この被覆材が第2のキャビティ61に十分侵入するまでの間、その射出圧力によって、この基体を下方に押圧するが、第2のキャビティ61、61の中央部であって、この基体の裏面12には、ダミー導電性回路用の突起部64の先端が当接しているために、この基体が下方に変形することが防止される。また被覆材4が、基体1の表面11を覆う左右の第1のキャビティ51内に広がると、この基体の左右の端部を下方に押圧するが、この基体の両端部は、下金型6の内周壁に設けた段差部65と上金型5の下面との間に密接挿着されているため、この両端部が下方に変形することが防止される。
【0032】
さて図13に示すように、被覆材4によって、基体1の表面11、裏面12、及び両端部を、それぞれ導電性回路となる部分を残して覆った後に、この被覆材で被覆されていない部分に、無電解めっきが析出する核となる触媒を付与する。触媒の付与は公知の方法で行うが、例えば、錫、パラジウム系の混合触媒液に、基体1を浸漬した後、塩酸、硫酸などの酸で活性化し、表面にパラジウムを析出させる。または、塩化第1錫等の比較的強い還元剤を表面に吸着させ、金などの貴金属イオンを含む触媒溶液に浸漬し、表面に金を析出させる。液の温度は15〜23℃で5分間浸漬すれば良い。
【0033】
次の工程において、基体1の表面に射出成形した被覆材4を除去する。上述したように、被覆材4は水溶性であるため、80℃の温湯に10分間程度浸漬することによって、この被覆材を溶出除去する。
【0034】
次の工程において、基体1の表面に無電解めっきを行なう。被覆材4を溶出除去した部分は、前工程において、この被覆材で覆われていたために触媒が付与されておらず、無電解めっきは形成されない。他方被覆材4で被覆されていなかった部分は、触媒が付与されているので無電解めっきが形成される。図14及び図15に示すように、無電解めっきによって、基体1の表面11に2個の導電性回路2、2、裏面12に、2個の導電性回路3、3が形成されると共に、この基体の裏面であって、2個の導電性回路の間に、ダミー導電性回路8が形成される。また基体1の左右の両端部13にも、それぞれダミー導電性回路8が形成される。
【0035】
なお無電解めっきは、公知の手段が使用できる。例えば無電解銅めっきの場合には、めっき液として、金属塩として硫酸銅を5〜15g/l、還元剤としてホルマリンの37容量%の溶液を8〜12ml/l、錯化材としてロッシェル塩を20〜25g/l、そしてアルカリ剤として水酸化ナトリウムを5〜12g/l混合した、温度20℃の溶液を使用することができる。なお無電解銅めっきの替わりに無電解ニッケルめっきを行なうこともできる。また無電解めっきの上に重ねて、他の金属の無電解めっき、あるいは電解めっきを行うことも容易にできる。
【0036】
さらに被覆材4として、上述したアルカリ水溶液で加水分解するポリグリコール酸、ポリ乳酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体若しくは共重合体を使用する場合には、この被覆材を除去する前に、無電解めっきを行い、この無電解めっきの後に、この被覆材を、除去してもよい。被覆材4を除去する手段としては、温度25〜70℃のアルカリ水溶液(濃度2〜15重量%)に、1〜120分間程度浸漬する。なおこれらのポリグリコール酸等は、耐酸性を有するので、無電解めっきは、浴塑性が酸性または中性のもので行なう。
【0037】
図16〜図28は、他の実施の形態であって、コの字状の断面形状を有する成形回路部品の製造方法を示したものである。なお図16〜図22は、従来技術による製造方法を示しており、図23〜図28は、本発明による製造方法を示すものである。また参照等の便宜等を図るべく、図16〜図28において、図1〜図15に示す部品及び部位と同等のものは、図1〜図15に示す番号に一律100を加えた番号にしている。以下、図1〜図15と相違する部分を中心として説明する。さて図16に示すように、従来技術によって製造すべき成形回路部品は、横長の平板を、Uの字状に屈成した基体301の裏面312に、帯状の導電性回路303、303を、2列並行に配置したものである。なお基体301の表面311、311、311には、導電性回路を設けていない。また導電性回路303、303の相互の間隔は、基体301の板厚の2倍以上であり、この導電性回路と、この基体の端面313との間隔は、この基体の板厚の3倍以上になっている。
【0038】
図17は、被覆材304によって、導電性回路303、303となる部分を残して、基体301の表面311と裏面312とを被覆すべく、この基体を、上金型305と下金型306との内部に収納した場合を示している。すなわち基体301の表面311、311、311、裏面312、及び左右と上下との端面313、313、313、313は、それぞれ第1のキャビティ351、第2のキャビティ361、及び第3のキャビティ363によって覆われている。ただし基体301の裏面312であって、導電性回路303、303となる部分には、下金型306に設けた突起部362、362の先端が当接している。
【0039】
図18〜図21は、上金型305に設けた湯道353から、基体301の表面311を覆う第1のキャビティ351に射出した被覆材304が、この基体の端面313を覆う第3のキャビティ363を介して、この基体の裏面312を覆う第2のキャビティ361に、順次侵入する状態を示している。すなわち図20等に示すように、基体301の裏面312を覆う第2のキャビティ361に、被覆材304が十分侵入するまでは、第1のキャビティ351内における被覆材の射出圧力によって、この基体が、突起部362、362の間、及び左右の両端部において変形し、ついには図21に示すように、第2のキャビティ361の内壁面に当接するようになる。
【0040】
このため図22に示すように、成形回路部品は、基体301の中央部と、左右の端部とにおいて変形し、この基体の中央部と、左右の端部とに、設計目的ではない導電性回路307が形成されてしまう。
【0041】
次に図23〜図28を参照しつつ、本発明による被覆材104の射出成形の方法を説明する。なお他の製造工程及び機材は、図9〜図15において説明したものと同等である。さて図23に示すように、本発明による被覆材104の射出成形においては、下金型106に設けた2列の突起部162、162の間の中央部に、ダミー導電性回路用の突起部164を設け、その先端を、基体101の裏面112に当接させている。また基体101の左右の端部を、それぞれ下金型106に設けた溝165、165内に密接挿入してある。
【0042】
図24〜図27は、上金型105に設けた湯道153から、基体101の表面111を覆う第1のキャビティ151に射出した被覆材104が、この基体の上下の端面113、113を覆う第3のキャビティ163を介して、この基体の裏面112を覆う第2のキャビティ161に、順次侵入する状態を示している。ここで図26等に示すように、第1のキャビティ151に被覆材104を射出すると、この被覆材が第2のキャビティ161に十分侵入するまでの間、その射出圧力によって、基体101を下方に押圧するが、この第2のキャビティの中央部には、ダミー導電性回路用の突起部164が設けてあり、その先端がこの基体の裏面112に当接しているために、この基体が下方に変形することが防止される。また被覆材104が、基体101の表面111を覆う第1のキャビティ151内において左右に広がると、この基体の左右の端部を内側方向に押圧するが、この基体の端部は、下金型106に設けた溝165内に密接挿着してあるため、この端部が内側方向に変形することが防止される。
【0043】
図28は、本発明によって製造された成形回路部品を示しており、無電解めっきによって、基体101の裏面112に2個の導電性回路103、103が形成されると共に、この2個の導電性回路の間に、ダミー導電性回路108が形成される。また基体101の左右の端部にも、それぞれダミー導電性回路108が形成される。
【0044】
図29に示す実施の形態では、上述したコの字の断面形状の基体に、その表面と裏面とを連通する開口孔を設けたものである。すなわち基体401には、ダミー導電性回路用の突起部464を挟む両側位置に、それぞれこの基体の表面と裏面とを連通する円形の開口孔409が開口している。また基体401の折り曲げた左右の両辺においても、それぞれこの基体の表面と裏面とを連通する円形の開口孔409が開口している。
【0045】
したがって図29に示す状態において、上金型405に設けた湯道453から被覆材を、第1のキャビティ451に射出すると、この被覆材が、この基体の上下の端面を覆う第3のキャビティ463だけでなく、開口孔409、409、409、409を介して、それぞれ第2のキャビティ461に侵入するため、この基体の中央部と左右の端部との変形を、より確実に防止できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
基体の表面を被覆材で部分的に被覆する際に、この被覆材の射出圧力によって、この基体が変形することを防止できるため、電子機器等に関する産業に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1、101〜401 基体
11、111〜411 表面(第1の表面)
12、112〜412 裏面(第2の表面)
13、113〜413 端面(第3の表面)
2、102〜302 導電性回路
3、103〜403 導電性回路
4、104〜304 被覆材
5、105〜405 上金型
51、151〜451 第1のキャビティ
52、252 突起部
53、153〜453 湯道
6、106〜406 下金型
61、161〜461 第2のキャビティ
62、162〜462 突起部
64、164、464 ダミー導電性回路用の突起部
65、165 段差部、溝
207、307 導電性回路
8、108 ダミー導電性回路
409 開口孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材からなる基体の表面に導電性回路となる部分を残して被覆材を射出成形し、この導電性回路となる部分にめっきすることによって成形回路部品を製造する方法であって、
上記基体は、板状であって、相互に対向する第1の表面、第2の表面、及びこの基体の端面を形成する第3の表面を有し、
上記被覆材を射出成形するための金型は、上記第1の表面、第2の表面、及び第3の表面を、それぞれこの被覆材によって被覆するための第1のキャビティ、第2のキャビティ、及び第3のキャビティを有し、
上記第1のキャビティ及び第2のキャビティは、上記第3のキャビティを介して相互に連通しており、
上記被覆材は、上記第1のキャビティに、上記金型の外部から射出され、
上記第1のキャビティに射出された被覆材は、上記第3のキャビティを介して上記第2のキャビティに射出されるものであって、
上記第2の表面には、所定の間隔を隔てて、少なくとも2個所に上記導電性回路が設けられ、
相互に隣接する上記導電性回路の中間、または上記基体の端部のいずれかには、ダミー導電性回路が形成される
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記所定の間隔は、少なくとも上記基体の板厚の3倍である
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、上記基体の端面と、この端面に最も近い上記導電性回路との間隔は、少なくとも上記基体の板厚の2倍である
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの1において、上記基体には、上記第1のキャビティと第2のキャビティとを相互に連通する開口孔が設けてある
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2010−238724(P2010−238724A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82128(P2009−82128)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000175504)三共化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】