説明

成形機のデータ処理方法及び装置

【課題】 相関関係を、容易,正確かつ迅速に把握できるようにして相関の強いデータを見逃してしまう不具合を回避するとともに、相関関係の性格や傾向或いは他のデータとの関連性など、多様な情報を十分に把握できるようにする。
【解決手段】 ショット毎の動作状態に係わる複数の異なる検出項目に対応する物理量を順次検出し、検出した複数の物理量(検出データ)から統計データを求めて表示するに際し、任意の異なる二つの検出項目Hx,Hy…に対応する検出データ間の相関係数R…を一又は二以上求めるとともに、求めた相関係数R…を所定の表示条件により順次定量的に表示し、かつ検出項目Hx,Hy…を各相関係数R…に対応させて表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショット毎の動作状態に係わる検出データから統計データを求めて表示する際に用いて好適な成形機のデータ処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形機では、ショット毎の動作状態に係わる複数の異なる検出項目に対応する物理量(検出データ)を順次検出し、トレンドグラフ等によりリアルタイムで表示するとともに、成形状態を、より正確,容易かつ迅速に把握できるように、複数の検出データから統計データを求め、この統計データを表示することも行われており、例えば、特開平3−199025号公報には、設定された各成形運転条件値と各センサからの計測情報とに基づき成形機の各部を駆動制御するマイクロコンピュータを具備し、このマイクロコンピュータは、連続自動運転時における各ショット毎に、予め定められた複数のモニタ項目の測定データを取り込んで記憶する機能を具備するとともに、マイクロコンピュータは、取り込んだ各モニタ項目毎に統計演算処理を実行し、この演算処理結果を測定データの分布状態が視認できる形にグラフ化してプリンタ又は表示装置に出力可能にした射出成形機における測定データ処理装置が開示されている。
【0003】
また、特開2004−155125号公報には、成形機又はこの成形機の運転を補助する周辺機器の状態を検出する各種検出器と、この検出器から状態に係る情報を取り入れる制御装置からなる成形機システムであって、この制御装置の表示部は、情報をグラフ又は数値で表示し、グラフ又は数値のうち特定の情報範囲を指定すると、指定された特定の情報範囲に対して統計処理を行うとともに、表示を行う成形機の成形情報表示方法が開示されている。
【特許文献1】特開平3−199025号
【特許文献2】特開2004−155125号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した射出成形機における従来のデータ処理方法(装置)は、次のような問題点があった。
【0005】
第一に、データ処理技術の発展による検出データの多様化及び同時処理化により、検出データ(検出項目)及び統計データも多種に及んでいるが、単純表示による従来の表示方法では、大量のデータ数(項目数)に対して的確に対応できない。例えば、検出項目の種類が23種の場合、相関関係に係わる統計データの組み合せは253通りになるが、単純表示による表示方法では、相関の強いデータを見逃してしまうなど、相関関係を容易,正確かつ迅速に把握できない。
【0006】
第二に、単純表示による従来の表示方法では、多様で緻密な情報を十分に把握できない。即ち、相関関係の有無やその度合についてはある程度把握できるものの、相関関係の性格や傾向或いは他のデータとの関連性等、より幅の広い、かつ奥の深い情報の把握が容易でない。
【0007】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した成形機のデータ処理方法及び装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る成形機のデータ処理方法は、上述した課題を解決するため、ショット毎の動作状態に係わる複数の異なる検出項目に対応する物理量を順次検出し、検出した複数の物理量(検出データ)から統計データを求めて表示するに際し、任意の異なる二つの検出項目Hx,Hy…に対応する検出データ間の相関係数R…を一又は二以上求めるとともに、求めた相関係数R…を所定の表示条件により順次定量的に表示し、かつ検出項目Hx,Hy…を各相関係数R…に対応させて表示することを特徴とする。
【0009】
この場合、発明の好適な態様により、表示条件として、相関係数R…の大きい順又は相関係数R…の小さい順などを用いることができる。また、相関係数R…を表示するに際しては、予め設定した基準値Rs以上の相関係数R…のみを表示する態様、予め一又は二以上の特定の検出項目(親項目)Hxp…を指定し、この親項目Hxp…と他の対応する検出項目Hy…に係わる相関係数R…のみを表示する態様、予め一又は二以上の特定の検出項目(除外項目)Ht…を指定し、この除外項目Ht…を除いた検出項目Hx,Hy…に係わる相関係数R…のみを表示する態様などを用いることができる。さらに、相関係数R…は、ショットに対して指定した任意のサンプリング範囲Arから求めることができる。また、本発明に係るデータ処理方法では、相関係数R…に対応する検出データの分布状態を示す相関図fr…を相関係数R…の表示画面Vc内に一緒に表示することができる。
【0010】
一方、本発明に係る成形機のデータ処理装置1は、上述した課題を解決するため、成形機Mの制御を司るコンピュータ機能を有する成形機コントローラ2に、ショット毎の動作状態に係わる複数の異なる検出項目に対応する物理量を順次検出する検出手段3と、この検出手段3により検出した物理量(検出データ)を記憶する記憶手段4と、この記憶手段4に記憶した検出データから得られる統計データを表示する表示手段5とを備えるデータ処理装置であって、記憶手段4に記憶した任意の異なる二つの検出項目Hx,Hy…に対応する検出データ間の相関係数R…を演算処理により一又は二以上求める相関係数演算処理手段6と、この相関係数演算処理手段6により求めた相関係数R…を所定の表示条件により順次定量的に表示し、かつ検出項目Hx,Hy…を各相関係数R…に対応させて表示する表示処理手段7を備えることを特徴とする。
【0011】
この場合、発明の好適な態様により、相関係数演算処理手段6には、サンプリング範囲指定手段11により指定したショットに対する任意のサンプリング範囲Arにおける相関係数R…を求める機能Faを設けることができる。また、表示処理手段7には、基準値設定手段12により設定した基準値Rs以上の相関係数R…のみを表示する機能Fb、親項目指定手段13により指定した一又は二以上の特定の検出項目(親項目)Hxp…と他の対応する検出項目Hy…に係わる相関係数R…のみを表示する機能Fc、除外項目指定手段14により指定した一又は二以上の特定の検出項目(除外項目)Ht…を除いた検出項目Hx,Hy…に係わる相関係数R…のみを表示する機能Fdなどを設けることができる。さらに、表示処理手段7には、相関係数R…に対応する検出データの分布状態を示す相関図fr…を相関係数R…の表示画面Vc内に一緒に表示する機能Feを設けることができる。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明に係る成形機のデータ処理方法及び装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0013】
(1) 任意の異なる二つの検出項目Hx,Hy…に対応する検出データ間における一又は二以上の相関係数R…を所定の表示条件により順次定量的に表示するとともに、検出項目Hx,Hy…を各相関係数R…に対応させて表示するようにしたため、相関関係R…を容易,正確かつ迅速に把握でき、相関の強いデータを見逃してしまう不具合を回避できるなど、大量のデータ数(項目数)に対して的確に対応できる。しかも、相関関係の性格や傾向或いは他のデータとの関連性等、より幅の広い、かつ奥の深い情報の把握が容易となり、多様な情報を十分に把握することができる。
【0014】
(2) 好適な態様により、表示条件として、相関係数R…の大きい順又は相関係数R…の小さい順を用いれば、相関係数R…の強弱関係を容易かつ確実に把握することができる。特に、表示条件として相関係数R…の大きい順を用いれば、相関関係の強い検出項目を速やかに把握し、成形条件出しや良否判定の閾値設定などに有効に利用できるとともに、相関係数R…の小さい順を用いれば、本来、相関関係の強いと言われている検出項目における相関関係の無いことを速やかに検出し、異常検出などに有効に利用できる。
【0015】
(3) 好適な態様により、相関係数R…を表示するに際し、予め設定した基準値Rs以上の相関係数R…のみを表示するようにすれば、特に、相関係数R…の弱いものを排除し、比較的強い相関係数R…を容易に把握することができる。また、予め親項目Hxp…を指定し、この親項目Hxp…と他の対応する検出項目Hy…に係わる相関係数R…のみを表示するようにすれば、特定の親項目Hxp…に着目した相関状態を容易かつ的確に把握することができる。さらに、予め除外項目Ht…を指定し、この除外項目Ht…を除いた検出項目Hx,Hy…に係わる相関係数R…のみを表示するようにすれば、オペレータにとって必要性の無い不要な表示を排除することができる。そして、このような各表示態様は、必要に応じて選択できるため、使い勝手及び利便性をより高めることができる。
【0016】
(4) 好適な態様により、相関係数R…を、ショットに対して指定した任意のサンプリング範囲Arから求めるようにすれば、オペレータの判断した任意のサンプリング範囲Arにおける相関関係を把握できるため、オペレータにとってより的確な相関情報を得ることができる。
【0017】
(5) 好適な態様により、相関係数R…に対応する検出データの分布状態を示す相関図fr…を相関係数R…の表示画面Vc内に一緒に表示するようにすれば、相関関係に係わる多彩な情報を同時に観察できるため、より正確かつ確実な相関情報を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明に係る最良の実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0019】
まず、本実施形態に係るデータ処理装置1を備える射出成形機Mの構成について、図2及び図3を参照して説明する。
【0020】
図2中、仮想線で示すMは射出成形機であり、機台Mbと、この機台Mb上に設置された射出装置Mi及び型締装置Mcを備える。射出装置Miは、加熱筒21を備え、この加熱筒21の前端に図に現れない射出ノズルを有するとともに、加熱筒21の後部には材料を供給するホッパ22を備える。一方、型締装置Mcには可動型と固定型からなる金型23を備える。また、機台Mb上には側面パネル24を起設し、この側面パネル24にカラー液晶ディスプレイ等を用いたディスプレイ25を配設する。このディスプレイ25は、図3に示すように、タッチパネル25tが付設され、タッチパネル25tを含むディスプレイ25は、機台Mbに内蔵したコントローラ本体30に接続する。
【0021】
図3は、成形機コントローラ2のブロック構成図を示す。31はCPUであり、このCPU31には内部バス32を介してチップセット33を接続する。また、チップセット33には、PCIバス等のローカルバスを用いたバスライン34を接続してHMI(ヒューマン・マシン・インタフェース)制御系を構成する。このため、バスライン34には、RAM,ROM等の各種メモリ類を総括する内部メモリ35を接続する。さらに、バスライン34には、表示インタフェース36を介して上述したディスプレイ25及びタッチパネル25tを接続するとともに、入出力インターフェイス37を介してメモリカード等の記憶メディア38に対する読出及び書込を行うドライブユニット39を接続する。
【0022】
一方、チップセット33には、バスライン34と同様のバスライン40を接続してPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)制御系を構成する。このため、バスライン40には、各種スイッチやリレー等を含むスイッチ群41から得る切換データDd…をCPU31に付与し、かつCPU31から得る制御指令データDo…を対応するアクチュエータに付与する入出力インターフェイス42を接続するとともに、各種センサを含むセンサ群43から得る検出信号Sd…を、アナログ−ディジタル変換してCPU31に付与し、かつCPU31から得る制御指令データをディジタル−アナログ変換して得た制御信号So…を対応するアクチュエータに付与する入出力インターフェイス44を接続する。これにより、所定のフィードバック制御系及びオープンループ制御系が構成される。
【0023】
したがって、前述した内部メモリ35には、PLCプログラムとHMIプログラムを格納するとともに、各種処理プログラムを格納する。なお、PLCプログラムは、射出成形機Mにおける各種工程のシーケンス動作や射出成形機Mの監視等を実現するためのソフトウェアであり、HMIプログラムは、射出成形機Mの動作パラメータの設定及び表示,射出成形機Mの動作監視データの表示等を実現するためのソフトウェアである。これらのソフトウェアは、成形機コントローラ2を搭載する射出成形機Mの固有アーキテクチャとして構築され、特に、本実施形態に係るデータ処理方法に係わる処理を実行できる。
【0024】
このような射出成形機Mの制御を司るコンピュータ機能を有する成形機コントローラ2は、本実施形態に係るデータ処理装置1として機能する。この場合、上述したスイッチ群41及びセンサ群43は、ショット毎の動作状態に係わる複数の異なる検出項目に対応する物理量を順次検出する検出手段3の主要部を構成し、内部メモリ35は、この検出手段3により検出した物理量(検出データ)を記憶する記憶手段4を構成し、ディスプレイ25は、この記憶手段4に記憶した検出データから得られる統計データを表示する表示手段5を構成する。したがって、上述した検出信号Sd…をA/D変換して得るデータ及び切換データDd…は、検出手段3により検出される検出データとなる。
【0025】
また、成形機コントローラ2は、記憶手段4に記憶した任意の異なる二つの検出項目Hx,Hy…に対応する検出データ間の相関係数R…を演算処理により一又は二以上求める相関係数演算処理手段6を構成するとともに、この相関係数演算処理手段6により求めた相関係数R…を所定の表示条件により順次定量的に表示し、かつ検出項目Hx,Hy…を各相関係数R…に対応させてディスプレイ25に表示する表示処理手段7を構成する。
【0026】
図1及び図2に、相関係数R…を所定の表示条件により順次定量的に表示し、かつ検出項目Hx,Hy…を各相関係数R…に対応させて表示するための相関チェック画面(表示画面Vc)を示す。この相関チェック画面Vcは、相関係数R…を大きい順に表示する相関係数表示部51、各相関係数R…に対応させた検出項目Hx,Xy…を表示する項目表示部52、相関係数R…に対応する検出データの分布状態を示す相関図fr…を表示する相関図表示部53を有する。この場合、相関係数R…を大きい順に表示することが所定の表示条件となる。また、相関図表示部53による表示は、相関図fr…を相関係数R…の表示画面、即ち、相関チェック画面Vc内に一緒に表示する機能(表示処理手段7による機能Fe)となる。なお、54は相関係数R…の大きい順を順位番号で示す順位番号表示部、55u,55dはスクロールキー、56は相関チェック開始キーをそれぞれ示す。
【0027】
一方、相関チェック画面Vcにおいて、57は基準値Rsを設定する基準相関係数設定キーであり、この基準相関係数設定キー57は基準値設定手段12を構成する。これにより、基準相関係数設定キー57により設定した基準値Rs以上の相関係数R…のみを相関係数表示部51及び項目表示部52に表示する処理が行われる(表示処理手段7による機能Fb)。58は一又は二以上の特定の検出項目(親項目)Hxp…を指定するための親項目設定キーであり、この親項目設定キー58は親項目指定手段13を構成する。これにより、親項目設定キー58により指定した一又は二以上の親項目Hxp…と他の対応する検出項目Hy…に係わる相関係数R…のみを相関係数表示部51及び項目表示部52に表示する処理が行われる(表示処理手段7による機能Fc)。59は一又は二以上の特定の検出項目(除外項目)Ht…を指定するための除外項目設定キーであり、この除外項目設定キー59は除外項目指定手段14を構成する。これにより、除外項目設定キー59により指定した一又は二以上の除外項目Ht…を除いた検出項目Hx,Hy…に係わる相関係数R…のみを相関係数表示部51及び項目表示部52に表示する処理が行われる(表示処理手段7による機能Fd)。
【0028】
さらに、60はショットに対する任意のサンプリング範囲Arを指定するためのサンプリング範囲指定キーであり、このサンプリング範囲指定キー60はサンプリング範囲指定手段11を構成する。この場合、サンプリング範囲指定手段11は相関係数演算処理手段6の一部として機能する。したがって、相関係数演算処理手段6では、サンプリング範囲指定手段11により指定されたショットに対する任意のサンプリング範囲Arにおける相関係数R…を求める処理が行われる(相関係数演算処理手段6における機能Fa)。
【0029】
他方、ディスプレイ25には、図2に示すように、上段と下段に、各種画面を切換える画面項目毎に設けた複数の画面切換キーK1,K2,K3…を表示する。この画面切換キーK1…は、使用頻度の高さを考慮してランク分けされ、上段に、型開閉画面切換キーK1,エジェクタ画面切換キーK2,射出・計量画面切換キーK3,温度画面切換キーK4,モニタ画面切換キーK5,主要条件画面切換キーK6,条件切換画面切換キーK7を有する成形機の動作条件の設定に係わる第一のグループGaを横一列に配するとともに、下段に、これ以外となる段取り画面切換キーK8,工程監視画面切換キーK9,生産情報画面切換キーK10,波形画面切換キーK11,履歴画面切換キーK12,支援画面切換キーK13を有する第二のグループGbを横一列に配する。なお、第二のグループGbは、第一階層が表示された状態であるが、画面右端の階層画面切換キーKcを選択(ON)することにより、第二階層における画面切換キーに入れ替えることができる。
【0030】
次に、本実施形態に係るデータ処理方法について、図1〜図3及び図5〜図8を参照しつつ図4に示すフローチャートに従って説明する。
【0031】
なお、本実施形態に係るデータ処理方法は、射出成形機Mが稼働中であるか否かは問わずに実施できる。今、オペレータは、図2に示すモニタ画面切換キーK5を選択(ON)したものとする(ステップS1)。これにより、図5に示すモニタ画面Vmがディスプレイ25に表示される。このモニタ画面Vmは、上段に「射出充填時間」など、全部で八つの検出項目が表示される検出項目表示部61を有する。この検出項目表示部61の検出項目は、他の検出項目に変更することができる。検出項目は、「射出充填時間」,「指定位置通過時間」,「射出開始位置」,「V−P切換位置」,「射出最前進位置」,「射出終了位置」,「V−P切換圧」,「射出最前進圧」,「射出ピーク圧」,「指定位置通圧」,「区間平均射出圧」,「射出開始圧」など、全部で23項目存在する。したがって、相関係数R…は、全部で253通り求められる。また、各検出項目の下には、成形品の良否判別のための設定を行う基準値設定部62及び監視幅設定部63を有するとともに、さらにこの下に、検出データがショット毎に順次時系列的にプロットされてトレンドグラフとなるトレンドグラフ表示部64を有する。この場合、トレンドグラフの横方向は検出データの大きさ(時間)となり、縦方向はショット数となる。例示の場合、表示されるショット数は250回であるが、隠れたショット分はスクロールキー65u,65dによりスクロール表示することができる。
【0032】
一方、この状態でオペレータがトレンドグラフをモニタし、検出データの相関チェックを行う場合を想定する。この場合、オペレータは、図5に示す相関チェックキー66を選択(ON)する(ステップS2)。これにより、ディスプレイ25の画面切換が行われ、図1(図2)に示す相関チェック画面Vcが表示される(ステップS3)。相関チェック画面Vcでは、相関チェックに際しての必要な設定(指定)を行うことができる。なお、設定(指定)は必ずしも行う必要がなく、設定(指定)を行わない場合には標準モードによる全表示が行われる。標準モードによる全表示は、初期段階の生産において、成形品の品質に影響を与える検出データ(検出項目)が全く或いはほとんど把握ができていない場合に有用であり、品質をより安定させることができる。
【0033】
設定(指定)は、基準値Rsの設定,親項目Hxp…の指定及び除外項目Ht…の指定があり、基準値Rsの設定には、基準相関係数設定キー57を用いる。この場合、基準相関係数設定キー57を選択(ON)することにより、テンキーが表示されるため、このテンキーを用いて所望の数値を入力する(ステップS4)。例示の設定は「0.60」である。したがって、「0.60」以上の相関係数R…のみが表示され、「0.60」未満の相関係数R…は表示されない。これにより、特に、相関係数R…の弱いものを排除でき、オペレータは、比較的強い相関係数R…を容易に把握することができる利点がある。
【0034】
また、親項目Hxp…の指定(設定)には、親項目設定キー58を用いる。この場合、親項目設定キー58を選択(ON)することにより、図6に示す親項目指定画面Vcpが表示されるため、この親項目指定画面Vcpを用いて一又は二以上の特定の検出項目(親項目)Hxp…を指定する(ステップS5)。これにより、指定した親項目Hxp…と他の対応する検出項目Hy…に係わる相関係数R…のみが表示される。例示の場合、親項目Hxpとして「可塑化時間」が指定されているため、「可塑化時間−計量減速開始位置」,「可塑化時間−計量トルク平均」など、「可塑化時間−〇〇〇〇」の組み合せによる相関係数R…のみが表示される。したがって、「〇〇〇〇」に対応する「計量減速開始位置」や「計量トルク平均」などが親項目Hxpに対する他の検出項目Hy…となる。このような表示態様により、オペレータは、指定した親項目Hxp…に着目した相関状態を容易かつ的確に把握できる利点がある。親項目Hxp…を指定する表示態様は、生産が進み、成形品の品質に影響を与える検出データ(検出項目)について、ある程度の把握ができている場合に有用であり、特定の検出項目に着目してより品質を高めることができる。
【0035】
さらに、除外項目Ht…の指定(設定)には、除外項目設定キー59を用いる。この場合、除外項目設定キー59を選択(ON)することにより、図7に示す除外項目指定画面Vctが表示されるため、この除外項目指定画面Vctを用いて一又は二以上の特定の検出項目(除外項目)Ht…を指定する(ステップS6)。これにより、指定した除外項目Ht…を除いた検出項目Hx,Hy…に係わる相関係数R…のみが表示される。例示の場合、「サイクル時間(Hx)」−「全項目(Hy…)」の組み合せによる相関係数Rと「指定位置通過圧(Hx)」−「V−P切換圧(Hy)」の組み合せによる相関係数Rが除かれることになる。71は項目追加キーであり、除外項目Ht…を追加する場合には、この項目追加キー71を選択(ON)して追加することができる。このような表示態様により、オペレータにとって必要性の無い不要な表示を排除できる利点がある。
【0036】
一方、以上の設定が終了したなら、相関係数R…を求める検出データ(ショット)のサンプリング範囲Arを指定する。サンプリング範囲Arの指定は、まず、サンプリング範囲指定キー60を選択(ON)する(ステップS7)。これにより、ディスプレイ25の画面切換が行われ、設定用モニタ画面が表示される(ステップS8)。この設定用モニタ画面は、図5に示すモニタ画面Vmのトレンドグラフ表示部64とサンプリング範囲Arを指定するための指定画面(図示を省略)を有する。したがって、オペレータは、トレンドグラフ表示部64のトレンドグラフを見ながら設定画面により所望のサンプリング範囲Arを指定する(ステップS9)。例示は、80ショット分を指定した場合を示しており、指定した範囲は容易に判別できるように色替表示される。このように、ショットに対して指定した任意のサンプリング範囲Arにおける相関係数R…を求めることができるため、オペレータは、自分の判断したサンプリング範囲Arにおける相関関係を把握でき、オペレータにとってより的確な相関情報を得ることができる利点がある。
【0037】
そして、サンプリング範囲Arの指定が終了したなら確定キー(不図示)を選択(ON)する(ステップS10,S11)。これにより、ディスプレイ25の画面切換が行われ、図1に示す相関チェック画面Vcが再表示される(ステップS12)。相関チェック画面Vcでは、サンプリング範囲指定キー60の隣に有する範囲表示部60rに、指定したサンプリング範囲Arとなるショット数「80」が表示される。なお、必要によりサンプリング範囲指定キー60におけるアップダウンキー60sによりサンプリング範囲Arの増減を行うことができる。
【0038】
この後、相関チェック開始キー56を選択(ON)することにより、成形機コントローラ2における相関係数演算処理手段6により相関係数R…の演算処理が行われる(ステップS13,S14)。この場合、相関係数Rの演算には、公知であるピアソンの積率相関係数Rを利用し、この積率相関係数Rは[数1]式により算出する。
【数1】

【0039】
そして、相関係数R…が得られたなら、表示処理手段7によりディスプレイ25の相関チェック画面Vcに図1に示す表示を行う(ステップS15)。この場合、相関係数R…は、得られた数値を、相関係数R…の大きい順に相関係数表示部51に表示を行う。したがって、相関係数R…は設定した表示条件により順次定量的に表示されることになる。このように、表示条件として、相関係数R…の大きい順を用いれば、相関係数R…の強弱関係を容易かつ確実に把握することができるとともに、特に、相関関係の強い検出項目を速やかに把握し、成形条件出しや良否判定の閾値設定などに有効に利用できる利点がある。また、各相関係数R…にそれぞれ係わる二つの検出項目Hx,Xy…は、各相関係数R…に対応させて項目表示部52に表示する。
【0040】
さらに、項目表示部52の隣に位置する相関図表示部53には、相関係数R…に対応する検出データの分布状態を示す相関図fr…を表示する。各相関図fr…は、横軸に一方の検出項目Hxを設定し、縦軸に他方の検出項目Hyを設定する。これにより、各相関図fr…には、ショット毎の検出データがプロット表示され、プロット数は、サンプリング範囲Arにより指定したショット数分となる。なお、各相関図fr…を表示する順番(番号)は、相関係数R…に付した順位番号表示部54の順位番号に対応する。
【0041】
このように、相関係数R…に対応する検出データの分布状態を示す相関図fr…を相関係数R…の表示画面Vc内に一緒に表示するようにすれば、相関関係に係わる多彩な情報を同時に観察できるため、より正確かつ確実な相関情報を得ることができる利点がある。特に、図8に示すようなイレギュラデータdiが存在する相関図frの場合、イレギュラデータdiを含めた相関係数Rは「0.69」となるが、このイレギュラデータdiを除いたレギュラデータ群drの相関係数Rは「−0.367」となる。したがって、相関係数R…と相関図fr…を同一画面により一緒に表示することにより、このようなイレギュラデータdiを考慮して相関関係を的確に把握することができる。
【0042】
なお、例示の相関チェック画面Vcは、表示できる相関係数R…,検出項目Hx,Hy…及び相関図fr…の件数は9件となるが、10件目以降は、スクロールキー55u,55dにより表示させることができる。一方、前述した基準値Rsが設定されている場合には、基準値Rs以上の相関係数R…のみが表示される。また、親項目Hxp…が指定されている場合には、親項目Hxp…及び他の対応する検出項目Hy…に係わる相関係数R…のみが表示される。この場合、表示は親項目Hxp…単位となり、各親項目Hxp…毎に相関係数R…は大きい順に表示される。さらに、除外項目Ht…が指定されている場合には、除外項目Ht…を除いた検出項目Hx,Hy…のみが表示される。
【0043】
他方、オペレータが表示内容を確認することにより、基準値Rsの設定,親項目Hxp…の指定及び除外項目Ht…の指定、更にはサンプリング範囲Arの指定の変更が必要と判断したときは、再設定(再指定)が可能である(ステップS16)。このように、本実施形態に係るデータ処理方法では、各種表示態様を選択できるため、使い勝手及び利便性をより高めることができる利点がある。
【0044】
よって、このような本実施形態に係るデータ処理方法(データ処理装置1)によれば、任意の異なる二つの検出項目Hx,Hy…に対応する検出データ間における一又は二以上の相関係数R…を所定の表示条件により順次定量的に表示するとともに、検出項目Hx,Hy…を各相関係数R…に対応させて表示するため、相関関係R…を容易,正確かつ迅速に把握でき、相関の強いデータを見逃してしまう不具合を回避できるなど、大量のデータ数(項目数)に対して的確に対応できる。しかも、相関関係の性格や傾向或いは他のデータとの関連性等、より幅の広い、かつ奥の深い情報の把握が容易となり、多様な情報を十分に把握することができる。
【0045】
図9には、相関チェック画面Vcの変更例を示す。図1に示した相関チェック画面Vcは、相関係数R…を表示する態様として数値を用いたいわゆるデジタルタイプで表示する場合を例示したが、図9に示す相関チェック画面Vcは、相関係数R…を棒グラフ形式によるいわゆるアナログタイプで表示したものである。なお、相関係数R…が負の場合には、色替表示する。このように、相関係数R…を表示するに際しては、各種表示態様を適用することができる。
【0046】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0047】
例えば、動作状態に係わる物理量(検出データ)は、動作自体に伴う検出データは勿論のこと、時間や指令値の取込みなども検出データに含まれる。また、ショット毎とは、毎回のショットのみならず、所定間隔毎のショットも含まれる。一方、表示には、ディスプレイ25による表示のみならず、プリンタによりプリントアウトした印刷用紙に表示される態様や通信により他の表示器などに表示する態様も含まれる。さらに、表示条件として、相関係数R…の大きい順を例示したが、相関係数R…の小さい順であってもよい。この場合、本来、相関関係の強いと言われている検出項目における相関関係の無いことを速やかに検出し、異常検出などに有効に利用できる。その他、表示条件としては、各検出項目毎における相関係数R…の平均値を登録し、平均値に対する乖離の大きい順番などを適用することができる。なお、射出成形機Mに適用した場合を例示したが、押出成形機など各種タイプの成形機にも同様に適用できるとともに、広くは各種生産機械にも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の最良の実施形態に係るデータ処理方法の実施に用いる相関チェック画面の表示態様図、
【図2】同データ処理方法の実施に用いる射出成形機及び同射出成形機に搭載するディスプレイの概要図、
【図3】同射出成形機に備える成形機コントローラのブロック構成図、
【図4】同データ処理方法の手順を説明するためのフローチャート、
【図5】同データ処理方法の実施に用いるモニタ画面の表示態様図、
【図6】同データ処理方法の実施に用いる親項目指定画面の表示態様図、
【図7】同データ処理方法の実施に用いる除外項目指定画面の表示態様図、
【図8】同データ処理方法の実施に用いる相関図の一例を示す表示態様図、
【図9】同データ処理方法の実施に用いる相関チェック画面の変更例を示す表示態様図、
【符号の説明】
【0049】
1:データ処理装置,2:成形機コントローラ,3:検出手段,4:記憶手段,5:表示手段,6:相関係数演算処理手段,7:表示処理手段,11:サンプリング範囲指定手段,12:基準値設定手段,13:親項目指定手段,14:除外項目指定手段,M:成形機(射出成形機),R:相関係数,Rs:基準値,Hx:検出項目,Hxp:親項目(検出項目),Hy:検出項目,Ht:除外項目(検出項目),Ar:サンプリング範囲,fr:相関図,Vc:表示画面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショット毎の動作状態に係わる複数の異なる検出項目に対応する物理量を順次検出し、検出した複数の物理量(検出データ)から統計データを求めて表示する射出成形機のデータ処理方法において、任意の異なる二つの検出項目に対応する検出データ間の相関係数を一又は二以上求めるとともに、求めた相関係数を所定の表示条件により順次定量的に表示し、かつ検出項目を各相関係数に対応させて表示することを特徴とする成形機のデータ処理方法。
【請求項2】
前記表示条件は、相関係数の大きい順又は相関係数の小さい順であることを特徴とする請求項1記載の成形機のデータ処理方法。
【請求項3】
前記相関係数を表示するに際し、予め設定した基準値以上の相関係数のみを表示することを特徴とする請求項1又は2記載の成形機のデータ処理方法。
【請求項4】
前記相関係数を表示するに際し、予め一又は二以上の特定の検出項目(親項目)を指定し、この親項目と他の対応する検出項目に係わる相関係数のみを表示することを特徴とする請求項1,2又は3記載の成形機のデータ処理方法。
【請求項5】
前記相関係数を表示するに際し、予め一又は二以上の特定の検出項目(除外項目)を指定し、この除外項目を除いた検出項目に係わる相関係数のみを表示することを特徴とする請求項1,2又は3記載の成形機のデータ処理方法。
【請求項6】
前記相関係数は、前記ショットに対して指定した任意のサンプリング範囲から求めることを特徴とする請求項1記載の成形機のデータ処理方法。
【請求項7】
前記相関係数に対応する検出データの分布状態を示す相関図を前記相関係数の表示画面内に一緒に表示することを特徴とする請求項1記載の成形機のデータ処理方法。
【請求項8】
成形機の制御を司るコンピュータ機能を有する成形機コントローラに、ショット毎の動作状態に係わる複数の異なる検出項目に対応する物理量を順次検出する検出手段と、この検出手段により検出した物理量(検出データ)を記憶する記憶手段と、この記憶手段に記憶した検出データから得られる統計データを表示する表示手段とを備える成形機のデータ処理装置において、前記記憶手段に記憶した任意の異なる二つの検出項目に対応する検出データ間の相関係数を演算処理により一又は二以上求める相関係数演算処理手段と、この相関係数演算処理手段により求めた相関係数を所定の表示条件により順次定量的に表示し、かつ検出項目を各相関係数に対応させて表示する表示処理手段を備えることを特徴とする成形機のデータ処理装置。
【請求項9】
前記相関係数演算処理手段は、サンプリング範囲指定手段により指定した前記ショットに対する任意のサンプリング範囲における相関係数を求める機能を備えることを特徴とする請求項8記載の成形機のデータ処理装置。
【請求項10】
前記表示処理手段は、基準値設定手段により設定した基準値以上の相関係数のみを表示する機能を備えることを特徴とする請求項8記載の成形機のデータ処理装置。
【請求項11】
前記表示処理手段は、親項目指定手段により指定した一又は二以上の特定の検出項目(親項目)と他の対応する検出項目に係わる相関係数のみを表示する機能を備えることを特徴とする請求項8記載の成形機のデータ処理装置。
【請求項12】
前記表示処理手段は、除外項目指定手段により指定した一又は二以上の特定の検出項目(除外項目)を除いた検出項目に係わる相関係数のみを表示する機能を備えることを特徴とする請求項8記載の成形機のデータ処理装置。
【請求項13】
前記表示処理手段は、前記相関係数に対応する検出データの分布状態を示す相関図を前記相関係数の表示画面内に一緒に表示する機能を備えることを特徴とする請求項8記載の成形機のデータ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−196480(P2007−196480A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16442(P2006−16442)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】