説明

成形金型及び光学素子の製造方法

【課題】プラスチックレンズを射出成形する際に、射出成形時の冷却固化による樹脂収縮に起因する離型抵抗を抑制すること。
【解決手段】回折構造を形成する段差形状13A,15Aを有する第1光学転写面11Aを第2光学転写面21Aよりも先にプラスチックレンズPLから離型することによって、例えば3波長互換光学素子のような段差形状の縦横比の値(Y/X)が0.50≦(Y/X)の最大値≦1.0を満たす比較的深い範囲であっても、微細構造において深い段差を有する光学素子であっても、プラスチックレンズPLが固定型10からほとんど抵抗なくスムーズに離型され、プラスチックレンズPLの回折構造の段差すなわち微細形状の変形を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子を成形するための成形金型、当該成形金型を用いて成形される光学素子、及び当該光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回折構造等の階段形状の微細構造を有する光学面を有する光学素子を成形する際に、型開き時の金型の光学転写面と光学素子の光学面とのずれを防ぐために、曲率半径が大きく微細構造を有していない光学面を一方の金型から先に離型し、その後、曲率半径が小さく微細構造を有する光学面を他方の金型から離型する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−200652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような成形金型では、曲率半径が大きく微細構造を有していない光学面を一方の金型から離型するときよりも、曲率半径が小さく微細構造を有する光学面を他方の金型から離型するときの方が、光学素子の冷却がより進んだ状態となっている。光学素子が冷却すると樹脂が収縮するため、光学面に微細構造を有する場合、光学素子の離型抵抗が増大してしまう。従って、特許文献1のような成形金型では、微細構造を有する光学面を他方の金型から離型する際に、光学素子の微細構造の壁面と金型の微細構造の壁面とが強く擦れ合うため、光学素子の微細構造が変形するという問題が生じる。
【0005】
例えば、光ピックアップ用対物光学素子として、開口数(NA)0.45のCD(Compact Disc)の波長(780nm)をCDの光ディスク上に集光し、開口数(NA)0.6でDVD(Digital Versatile Disc)の波長(650nm)をDVDの光ディスク上に集光するCD/DVD2波長互換型の光ピックアップ用対物光学素子や、開口数(NA)で0.45の波長(780nm)をCDの光ディスク上に集光し、開口数(NA)0.6でDVDの波長(650nm)をDVDの光ディスク上に集光し、開口数(NA)0.85でBD(Blu-ray Disc)の波長(405nm)をBDの光ディスク上に集光するCD/DVD/BD3波長互換型の光ピックアップ用対物光学素子がある。このうちCD/DVD/BD3波長互換型の光ピックアップ用対物光学素子は、CD/DVD2波長互換型の光ピックアップ用対物光学素子よりも光学素子に設けられる微細構造がより深い段差形状を有する。そのため、CD/DVD2波長互換型の光ピックアップ用対物光学素子よりも、CD/DVD/BD3波長互換型の光ピックアップ用対物光学素子の方が、光学素子の離型抵抗がより大きくなり、微細構造を有する光学面を離型する際に、光学素子の微細構造の変形がより生じやすくなってしまう。ここで、CD/DVD/BD3波長互換型の光ピックアップ用対物光学素子では、CD/DVD2波長互換型の光ピックアップ用対物光学素子よりも、より高い成形精度及び光学性能が要求されるため、成形の際に生じる光学素子の微細構造の変形をより低減させる必要がある。従って、CD/DVD/BD3波長互換型のような光ピックアップ用対物光学素子を成形する際には特に、微細構造の変形を引き起こす離型抵抗の問題は非常に大きな問題となる。
【0006】
このように、光学面の微細構造が深い段差形状を有する場合、かかる離型抵抗はさらに大きくなり、微細構造を有する光学面を離型する際に、光学素子の微細構造の変形がより生じやすくなってしまう。光学素子の微細構造の変形量が大きくなると、光学素子の光学性能の低下を招いてしまうことになる。従って、微細構造を有する光学素子を成形するうえで、かかる離型抵抗の問題は、無視することのできない非常に大きな問題であることを、このたび本発明者は見出した。
【0007】
そこで、本発明は、微細構造において深い段差を有する光学素子であっても、離型時に微細構造を変形しにくくできる成形金型、当該成形金型を用いて成形される光学素子、及び当該光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る成形金型は、第1金型と第2金型とを型締めすることによって型空間を形成して光学素子の成形を行う成形金型であって、第1金型は、光学素子の第1光学面を形成する第1光学転写面を有し、第2金型よりも先に光学素子から離型し、第2金型は、光学素子の第2光学面を形成する第2光学転写面を有し、第1金型の離型の際に光学素子を保持し、第1光学転写面の曲率半径の絶対値は、第2光学転写面の曲率半径の絶対値よりも小さく、第1光学転写面は、回折構造を形成する段差形状を有し、段差形状の幅をXとし、段差形状の高さをYとして、以下の条件式
0.50≦(Y/X)の最大値≦1.0
を満たすことを特徴とする。ここで、(Y/X)は、段差形状の幅と高さの比の値である。
【0009】
上記成形金型によれば、回折構造を形成する段差形状を有する第1光学転写面を第2光学転写面よりも先に光学素子から離型することによって、多波長互換光学素子のような段差形状が0.50≦(Y/X)の最大値≦1.0を満たす比較的深い範囲であっても、射出成形時の冷却固化による樹脂収縮に起因する離型抵抗を抑制することができる。これにより、光学素子が第1金型からほとんど抵抗なくスムーズに離型され、光学素子の回折構造の段差すなわち微細形状の変形を防止することができる。なお、(Y/X)が0.50より小さい場合、段差が小さく、上記のような課題がほとんど生じない。一方、(Y/X)が1.0を超えるような段差は、本発明の手法を用いても転写の劣化が生じやすく実用的でない。
【0010】
また、本発明の具体的な態様又は側面では、上記成形金型において、第1光学転写面は、光軸側に配置される光軸側領域と、光軸側領域よりも外側に配置される外側領域とを少なくとも有し、外側領域における(Y/X)の最大値は、光軸側領域における(Y/X)の最大値よりも小さいことを特徴とする。一般的に光学素子は、外側から冷却固化される。そのため、光学素子の外側領域に深い段差形状を有する微細構造を形成する場合、光学素子の光軸側領域に深い段差形状を有する微細構造を形成する場合に比べて、離型抵抗が大きくなってしまう。このような課題に対し、本発明では、光学素子が外側から冷却固化するという点に着目し、外側領域における(Y/X)の最大値を、光軸側領域における(Y/X)の最大値よりも小さくすることにより、離型時に外側領域における段差形状の壁面にかかる離型抵抗を緩和し、第1金型から離型しやすくすることができる。
【0011】
本発明の別の側面では、段差形状の内側の壁面と光軸とがなす角度は、段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度以下であることを特徴とする。この場合、段差形状の内側の壁面と光軸とがなす角度が、段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度以下であるような、離型抵抗が比較的大きくなりやすい型構造であるが、離型抵抗の大きな第1光学転写面から、これが温かいうちに優先的に離型することで、スムーズな離型を実現することができる。
【0012】
本発明のさらに別の側面では、段差形状の内側の壁面は、光軸に平行であることを特徴とする。この場合、段差形状を例えば矩形状や内ブレーズ状とすることができる。
【0013】
また、本発明のさらに別の側面では、段差形状は、矩形状を含むことを特徴とする。この場合、マルチレベル型の回折格子を形成することができる。
【0014】
本発明のさらに別の側面では、外側領域における段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度の最小値は、光軸側領域における段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度の最小値よりも大きいことを特徴とする。この場合、光学素子が外側から冷却固化するという点に着目し、外側領域における上記外側の壁面の角度を、光軸側領域における上記外側の壁面の角度よりも大きくすることにより、外側領域における段差形状が光軸側領域における段差形状よりも樹脂の収縮による離型抵抗が少ないものとなり、第1金型から離型しやすくすることができる。
【0015】
本発明のさらに別の側面では、外側領域における段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度の最小値は、光軸側領域における段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度の最小値以下であることを特徴とする。この場合、外側領域における上記外側の壁面の角度が、光軸側領域における上記外側の壁面の角度以下であるような、離型抵抗が外側で比較的大きくなりやすい型構造であるが、離型抵抗の大きな第1光学転写面から、これが温かいうちに優先的に離型することで、スムーズな離型を実現することができる。
【0016】
本発明のさらに別の側面では、光軸側領域は、光軸側に配置される中央領域と、中央領域よりも外側に配置される中間領域とを少なくとも有し、外側領域は、中間領域よりも外側に配置される最周辺領域を少なくとも有し、最周辺領域における(Y/X)の最大値は、中央領域及び中間領域の少なくともいずれか一方における(Y/X)の最大値よりも小さいことを特徴とする。この場合、光学素子が外側から冷却固化するという点に着目し、最周辺領域における(Y/X)の最大値を、中央領域及び中間領域の少なくともいずれか一方における(Y/X)の最大値よりも小さくすることにより、離型時に最周辺領域における段差形状の壁面にかかる離型抵抗を緩和し、第1金型からより離型しやすくすることができる。
【0017】
本発明のさらに別の側面では、中央領域における段差形状と、中間領域における段差形状と、最周辺領域における段差形状とは、それぞれ異なることを特徴とする。この場合、各領域において異なる段差形状を有することにより、複数波長互換型の光ピックアップ用対物レンズを簡易に実現でき、光学素子の回折効率を向上させることができる。
【0018】
本発明のさらに別の側面では、最周辺領域における段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度の最小値は、中央領域及び中間領域のいずれか一方における段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度の最小値よりも大きいことを特徴とする。この場合、光学素子が外側から冷却固化するという点に着目し、最周辺領域における上記外側の壁面の角度を、中央領域及び中間領域のいずれか一方における上記外側の壁面の角度よりも大きくすることにより、最周辺領域における段差形状が中央領域及び中間領域における段差形状よりも樹脂の収縮による離型抵抗が少なくなり、第1金型から離型しやすくすることができる。
【0019】
本発明のさらに別の側面では、最周辺領域における段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度の最小値は、中央領域及び中間領域のいずれか一方における段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度の最小値以下であることを特徴とする。この場合、最周辺領域における上記外側の壁面の角度が、中央領域及び中間領域のいずれか一方における上記外側の壁面の角度以下であるような、離型抵抗が外側で比較的大きくなりやすい型構造であるが、離型抵抗の大きな第1光学転写面から、これが温かいうちに優先的に離型することで、スムーズな離型を実現することができる。
【0020】
本発明のさらに別の側面では、第1金型は固定型であり、第2金型は可動型であることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る光学素子は、第1光学面と第2光学面とを有する光学素子であって、第1光学面の曲率半径の絶対値は、第2光学面の曲率半径の絶対値よりも小さく、第1光学面は、光軸側に配置される光軸側領域と、光軸側領域よりも外側に配置される外側領域とに回折構造を構成する段差を少なくとも有し、段差の幅をXとし、段差の高さをYとして、外側領域における(Y/X)の最大値は、光軸側領域における(Y/X)の最大値よりも小さいことを特徴とする。一般的に光学素子は、外側から冷却固化される。そのため、光学素子の外側領域に深い段差形状を有する微細構造を形成する場合、光学素子の光軸側領域に深い段差形状を有する微細構造を形成する場合に比べて、離型抵抗が大きくなってしまう。このような課題に対し、本発明では、光学素子が外側から冷却固化するという点に着目し、外側領域における(Y/X)の最大値を、光軸側領域における(Y/X)の最大値よりも小さくすることにより、第1金型からの離型時に、外側領域における段差形状の壁面にかかる離型抵抗を緩和し、第1金型から離型しやすくすることができる。
【0022】
本発明の別の側面では、光軸側領域は、光軸側に配置される中央領域と、中央領域よりも外側に配置される中間領域とを少なくとも有し、外側領域は、中間領域よりも外側に配置される最周辺領域を少なくとも有し、最周辺領域における(Y/X)の最大値は、中央領域及び中間領域の少なくともいずれか一方における(Y/X)の最大値よりも小さいことを特徴とする。この場合、光学素子が外側から冷却固化するという点に着目し、最周辺領域における(Y/X)の最大値を、中央領域及び中間領域の少なくともいずれか一方における(Y/X)の最大値よりも小さくすることにより、第1金型からの離型時に最周辺領域における段差形状の壁面にかかる離型抵抗を緩和できるので、第1金型からより離型しやすくすることができ、高精度の転写が可能になる。
【0023】
本発明のさらに別の側面では、以下の条件式
0.50≦(Y/X)の最大値≦1.0
を満たすことを特徴とする。
【0024】
本発明に係る光学素子の製造方法は、光学素子を成形金型により成形する光学素子の製造方法であって、成形金型は、型開き状態で光学素子が残らない第1金型と、型開き状態で光学素子が残る第2金型とを有し、第1金型は、光学素子の第1光学面を形成する第1光学転写面を有し、第2金型は、光学素子の第2光学面を形成する第2光学転写面を有し、第1光学転写面の曲率半径の絶対値は、第2光学転写面の曲率半径の絶対値よりも小さく、第1光学転写面は、回折構造を形成する段差形状を有し、段差形状の幅をXとし、段差形状の高さをYとして、以下の条件式
0.50≦(Y/X)の最大値≦1.0
を満たし、型開き工程の後、第2金型から光学素子を離型させる離型工程を有することを特徴とする。
【0025】
上記製造方法によれば、回折構造を形成する段差形状を有する第1光学転写面を第2光学転写面よりも先に光学素子から離型することによって、多波長互換光学素子のような段差形状が0.50≦(Y/X)の最大値≦1.0を満たす比較的深い範囲であっても、射出成形時の冷却固化による樹脂収縮に起因する離型抵抗を抑制することができる。これにより、光学素子が第1金型からほとんど抵抗なくスムーズに離型され、光学素子の回折構造の段差すなわち微細形状の変形を防止することができる。なお、(Y/X)が0.50より小さい場合、段差が小さく、上記のような課題がほとんど生じない。一方、(Y/X)が1.0を超えるような段差は、本発明の手法を用いても転写の劣化が生じやすく実用的でない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施形態に係る成形金型等を説明する概念図である。
【図2】第1実施形態に係る成形金型の第1光学転写面を説明する図である。
【図3】図1の成形金型を用いて成形される光学素子を説明する図である。
【図4】第2実施形態に係る成形金型の第1光学転写面を説明する図である。
【図5】第3実施形態に係る成形金型の第1光学転写面を説明する図である。
【図6】第4実施形態に係る成形金型の第1光学転写面を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〔第1実施形態〕
図1及び図2を参照して、本発明の成形金型について説明する。成形金型100は、第1金型である固定型10と第2金型である可動型20とを型締めすることによって型空間CVを形成して光学素子であるプラスチックレンズPL(図3参照)の成形を行うものである。成形金型100は、温度調節部30、可動型駆動部40、樹脂射出部50等を備える射出成形装置に組み込まれる。
【0028】
図1に示すように、成形金型100は、固定型10と可動型20とを備える。固定型10に対して可動型20を突き合わせることにより、両金型10,20間に型空間CVが形成される。型空間CVの周囲の一部には、型空間CVに連通するゲートGPが形成される。この型空間CV内部には、ゲートGPを介して樹脂射出部50によって溶融樹脂が供給され、充填される。
【0029】
ここで、成形金型100によって成形されるプラスチックレンズPLについて説明する。図3において、左側は、プラスチックレンズPLの側断面図であり、右側は、第1光学面OL1の概念図である。プラスチックレンズPLは、小型の回折屈折複合レンズであり、例えば、光ピックアップ装置の対物レンズとして用いられる。プラスチックレンズPLは、光学的機能を有する中心部OLと、中心部OLから外径方向に延在する環状のフランジ部FLとを有する。中心部OLは、曲率半径が小さい凸の第1光学面OL1と、曲率半径が大きい凸の第2光学面OL2とを有する。第1光学面OL1と第2光学面OL2とは、肉厚で光透過性を有する本体を挟んで対向する。フランジ部FLは、第1光学面OL1側に第1フランジ面FL1と、第2光学面OL2側に第2フランジ面FL2とを有する。
【0030】
中心部OLにおいて、第1光学面OL1は、多波長互換のため、回折構造の段差すなわち微細構造を有している。つまり、プラスチックレンズPLは、短波長で高開口数の規格と、中波長で中程度の開口数の規格と、長波長で低開口数の規格とに対応する3波長互換光学素子であり、第1光学面OL1に設けた微細構造は、各波長に適合して集光を可能にする形状を有している。図示の例では、第1光学面OL1は、開口数の異なる3波長の光束に対応するため同心の3つの領域に分割されており、内側から外側に向かって3波長互換領域AR1と、2波長互換領域AR2と、1波長専用領域AR3とで構成される。これらすべての領域AR1,AR2,AR3により、例えば開口数(NA)0.85でBD(Blu-ray Disc)の波長(405nm)を集光させ、BDの光ディスク上に最適なスポットを形成する。また、光軸OAから離れた最周辺側を除いた領域AR1,AR2により、例えば開口数(NA)0.6でDVD(Digital Versatile Disc)の波長(650nm)を集光させ、DVDの光ディスク上に最適なスポットを形成する。この際、NA0.6からNA0.85に対応する光学面の領域を通過するDVDの波長(650nm)の光束は、DVDの光ディスクの記録/再生に使用されるスポットの形成に寄与しないフレア成分となる。また、光軸OA側の領域AR1により、例えば開口数(NA)0.45でCD(Compact Disc)の波長(780nm)を集光させ、CDの光ディスク上に最適なスポットを形成する。この際、NA0.45からNA0.85に対応する光学面の領域を通過するCDの波長(780nm)の光束は、CDの光ディスクの記録/再生に使用されるスポットの形成に寄与しないフレア成分となる。なお、第1光学面OL1の具体的な微細構造については、後述する固定型10の第1光学転写面11Aの微細構造を転写したものであるので説明を省略する。
【0031】
図1に戻って、固定型10は、中央側のコア型11と周辺側の外周型12とを有する。コア型11と外周型12とは、例えば同一の鋼材で形成されており、相互に一体的に固定されている。固定型10のうち、コア型11は、可動型20に対向する側に微細構造である輪帯状の回折パターンが設けられているとともに、全体として凹面の第1光学転写面11Aを有する。第1光学転写面11Aは、成形品であるプラスチックレンズPLの曲率半径の小さい第1光学面OL1(図3参照)に対応する。一方、外周型12によって形成される周囲側の第1成形面12Aは、プラスチックレンズPLの周囲の第1フランジ面FL1(図3参照)に対応する。
【0032】
以下、図2を参照しつつ、光学転写面11Aの微細構造について詳述する。図2は、第1光学転写面11Aの側方断面を模式的に拡大した図である。なお、上述のように、第1光学転写面11Aによって形成された面がプラスチックレンズPLの第1光学面OL1となる。
【0033】
第1光学転写面11Aは、第1光学転写面11Aの光軸OA側から半径方向の外側に向かって、同心となるように円形状の光軸側領域11Cと輪帯状の外側領域11Dとに分割される。光軸側領域11Cは、さらに第1光学転写面11Aの中央から外側領域11Dに向かって、同心の中央領域A1と中間領域A2とに分割される。中央領域A1は、図3のプラスチックレンズPLの3波長互換領域AR1に対応し、中間領域A2は、2波長互換領域AR2に対応する。また、外側領域11Dは、最周辺領域A3であり、図3のプラスチックレンズPLの1波長専用領域AR3に対応する。
【0034】
第1光学転写面11Aには、プラスチックレンズPLの回折構造の段差を形成するため、中央領域A1と中間領域A2と最周辺領域A3とのそれぞれにおいて、多数の微細な段差形状が光軸OAを中心に輪帯状に形成されている。この輪帯状の段差形状を断面として見ると、離型抵抗を生じさせるような凹の段差形状の内側の壁面は、光軸OAに平行であり、段差形状の内側の壁面と光軸OAとがなす角度α1,α3はそれぞれ、段差形状の外側の壁面と光軸OAとがなす角度β1,β3以下となっている。具体的には、図からわかるように、第1光学転写面11Aの中央領域A1において、段差形状13Aは、矩形状であり、領域内の全ての段差形状13Aの内側の壁面13Bと光軸OAとがなす角度α1と、段差形状13Aの外側の壁面13Cと光軸OAとがなす角度β1とは、ともに0度で同じとなっている。また、最周辺領域A3において、段差形状15Aは、ブレーズ状である。
【0035】
ここで最周辺領域A3においては、それぞれの段差形状15Aの外側の壁面15Cと光軸OAとがなす角度β3はそれぞれ異なる値となる場合がある。またブレーズ状の場合においては、最周辺領域A3のみならず、中央領域A1(中間領域A2も同様)の領域内において、それぞれの外側の壁面と光軸OAとがなす角度β1(角度β2も同様)はそれぞれ異なる値となる場合がある。そして、それぞれの段差形状15Aにおいてはその内側の壁面15Bと光軸OAとがなす角度α3は、外側の壁面15Cと光軸OAとがなす角度β3よりも小さくなっている。
【0036】
また、図からわかるように、外側領域11Dの最周辺領域A3における段差形状15Aの外側の壁面15Cと光軸OAとがなす角度β3の最小値は、光軸側領域11Cのうち中央領域A1における段差形状13Aの外側の壁面13Cと光軸OAとがなす角度β1よりも大きくなっている。なお、図示を省略しているが、中間領域A2における段差形状は、例えば矩形状であり、中間領域A2の段差形状の内側の壁面と光軸OAとがなす角度は、中間領域A2の段差形状の外側の壁面と光軸OAとがなす角度以下であり、例えばこれらは互いに等しくなっている。最周辺領域A3における段差形状15Aの外側の壁面と光軸OAとがなす角度β3の最小値は、中間領域A2における段差形状の外側の壁面と光軸OAとがなす角度よりも大きくなっている。
【0037】
また、第1光学転写面11Aにおいて、段差形状の幅をXとし、段差形状の高さをYとして、段差形状の縦横比の値(Y/X)は、以下の条件式
0.50≦(Y/X)の最大値≦1.0
を満たすようになっており、第1光学転写面11Aの段差形状が比較的深いものとなっている。このような段差形状が比較的深い光学転写面は、多波長互換光学素子、具体的には3波長互換光学素子の形成に不可欠的になっている。ここで、各領域11C,11Dにおける段差形状の幅Xと高さYとの縦横比の値(Y/X)の最大値は、段差形状がコの字型の段差形状を有する場合は、コの字型の段差形状の幅Xと高さYの比の値を基準にして求める。例えば、図2に示すように、中央領域A1において、コの字型の段差形状UN1の幅X1と高さY1との比を基準にして(Y/X)の最大値を求める。なお、コの字型の段差形状UN1の高さY1は、図2に示すように、コの字型の段差形状UN1を形成する光軸OAに平行な2つの壁面のうち、光軸OA方向の高さが高い方の壁面の高さをY1としている。段差形状がコの字型の段差形状を有していない場合、例えばブレーズ型の段差形状の場合は、ブレーズ型の段差形状の幅Xと高さYの比の値を基準にして求める。例えば、図2に示すように、最周辺領域A3において、ブレーズ型の段差形状UN3の幅X3と高さY3との比を基準にして(Y/X)の最大値を求める。
【0038】
図2に示すように、各領域11C,11D、具体的には領域A1,A3における段差形状はそれぞれ異なっており、外側領域11Dである最周辺領域A3における(Y/X)の最大値は、光軸側領域11Cの中央領域A1における(Y/X)の最大値よりも小さくなっている。なお、図示を省略しているが、中間領域A2における段差形状は、例えば矩形であり、中間領域A2における(Y/X)の最大値は、具体例では最周辺領域A3における(Y/X)の最大値よりも大きくなっている。
【0039】
なお、第1光学面OL1の各領域AR1,AR3等には、第1光学転写面11Aの各領域A1,A3等に形成された段差形状13A,15Aを略反転した段差が形成される。
【0040】
図1に戻って、可動型20は、中央側のコア型21と周辺側の外周型22とを有する。コア型21と外周型22とは、例えば同一の鋼材で形成されており、外周型22は、コア型21を周囲から支持している。可動型20のうち、コア型21は、固定型10に対向する側に段差を有しない滑らかな凹面の第2光学転写面21Aを有する。第2光学転写面21Aは、成形品であるプラスチックレンズPLの曲率半径の大きい第2光学面OL2(図3参照)に対応する。一方、外周型22によって形成される周囲側の第2成形面22Aは、プラスチックレンズPLの周囲の第2フランジ面FL2(図3参照)に対応する。
【0041】
コア型21は、本実施形態の場合、突き出し部として機能し、外周型22に設けられた孔22B中に僅かに離間して挿通された状態で軸AX方向に往復動可能になっている。可動型20を固定型10から離間させる型開き後において、コア型21を外周型22に対して固定型10側に移動させることにより、可動型20に残るプラスチックレンズPLを簡単に離型させることができる。
【0042】
以下、図1に示す成形金型100を用いたプラスチックレンズPLの成形について説明する。まず、可動型20を固定型10に接合することによって型閉じを行う。このような型閉じによって、固定型10のパーティングライン面PA1と可動型20のパーティングライン面PA2とを閉じ合わせた形状の型空間CVが両金型10,20間に形成される。
【0043】
次に、両金型10,20間に形成された型空間CV中に溶融プラスチック樹脂を射出する。つまり、溶融プラスチック樹脂を、ゲートGPを介して両金型10,20間の型空間CV中に導入し、型空間CVを溶融プラスチック樹脂で充填する。
【0044】
次に、型空間CV中に充填された溶融プラスチック樹脂を放熱・冷却する。型空間CV中に射出された溶融プラスチック樹脂の温度は、通常200〜300℃であり、温度調節部30によって通常100〜180℃に保持された両金型10,20の光学転写面11A,21A及び成形面12A,22Aに接すると、溶融プラスチック樹脂は、成形金型100との当接表面から徐々に冷却固化する。
【0045】
次に、可動型駆動部40を用いて、溶融プラスチック樹脂が温かいうちに可動型20を固定型10から離間させる型開きを行う。これにより、冷却固化による樹脂収縮に起因する離型抵抗が抑制され、成形金型100の第1光学転写面11Aが比較的深い段差形状を有していても、プラスチックレンズPLの第1光学面OL1が固定型10からほとんど抵抗なくスムーズに離型される。なお、可動型20を後退させる型開き距離は、例えば回折レンズの肉厚程度以上のものとする。
【0046】
次に、可動型駆動部40を用いて、突き出し部であるコア型21を、外周型22に収納された図示の退避状態から固定型10側に第2成形面22Aよりも固定型10側に突起した動作状態に駆動する。これにより、冷却による樹脂収縮が顕著なプラスチックレンズPLを可動型20から離型すなわち分離させることができる。分離されたプラスチックレンズPLは、図3に示すように、第1光学面OL1が、第1光学転写面11Aに対応して輪帯状の回折パターンを有する凸面となっており、第2光学面OL2が、第2光学転写面21Aに対応して滑らかな凸面となっている。また、プラスチックレンズPLの周囲には、成形面12A、22Aに対応してフランジ部FLが形成されている。
【0047】
以上説明した成形金型100によれば、回折構造を形成する段差形状13A,15Aを有する第1光学転写面11Aを第2光学転写面21Aよりも先にプラスチックレンズPLから離型することによって、例えば3波長互換光学素子のような段差形状13A,15Aが0.50≦(Y/X)の最大値≦1.0を満たす比較的深い範囲であっても、射出成形時の冷却固化による樹脂収縮に起因する離型抵抗を抑制することができる。これにより、プラスチックレンズPLが固定型10からほとんど抵抗なくスムーズに離型され、プラスチックレンズPLの回折構造の段差すなわち微細形状の変形を防止することができる。
【0048】
また、外側領域11Dの最周辺領域A3における(Y/X)の最大値を、光軸側領域11Cの中央領域A1等における(Y/X)の最大値よりも小さくすることにより、離型時に最周辺領域A3における段差形状15Aの内側の壁面15Bにかかる離型抵抗を緩和し、プラスチックレンズPLが外側から冷却固化しても、固定型10からより離型しやすくすることができる。
【0049】
また、外側領域11Dの最周辺領域A3における段差形状15Aの外側の壁面15Cと光軸OAとがなす角度β3の最小値を、光軸側領域11Cの中央領域A1における段差形状13Aの外側の壁面13Cと光軸OAとがなす角度β1の最小値よりも大きくすることにより、最周辺領域A3における段差形状15Aが中央領域A1における段差形状13Aよりも樹脂の収縮による離型抵抗が少なくなり、プラスチックレンズPLが外側から冷却固化しても、固定型10から離型しやすくすることができる。
【0050】
(実施例1)
【0051】
【表1】

【0052】
表1は、図2の第1光学転写面11Aにおける段差形状の縦横比の値(Y/X)について説明するものである。表1に示すように、中央領域A1における段差形状UN1の縦横比の値(Y1/X1)は、0.038〜0.617である。また最周辺領域A3における段差形状UN3の縦横比の値(Y3/X3)は、0.005〜0.030である。この結果、中央領域A1における(Y/X)の最大値は0.617となり、最周辺領域A3における(Y/X)の最大値は0.030となる。
【0053】
以上をまとめると、第1光学転写面11Aにおいて、段差形状の縦横比の値(Y/X)の最大値は、0.617であり、0.50≦(Y/X)の最大値≦1.0の範囲内となっている。また、外側領域11Dの最周辺領域A3における(Y/X)の最大値(0.030)は、光軸側領域11Cの中央領域A1における(Y/X)の最大値(0.617)よりも小さくなっている。
【0054】
〔第2実施形態〕
以下、本発明に係る第2実施形態の成形金型について説明する。第2実施形態の成形金型は、第1実施形態の成形金型を変形したものであり、特に説明しない部分は、第1実施形態と同様である。
【0055】
以下、図4を参照しつつ、第2実施形態に係る成形金型100の光学転写面11Aの微細構造について詳述する。
【0056】
第1光学転写面11Aには、プラスチックレンズPLの回折構造の段差を形成するための多数の微細な段差形状が光軸OAを中心に輪帯状に形成されている。この輪帯状の段差形状を断面として見ると、離型抵抗を生じさせるような凹の段差形状の内側の壁面は、光軸OAに平行であり、段差形状の内側の壁面と光軸OAとがなす角度α1,α2,α3はそれぞれ、段差形状の外側の壁面と光軸OAとがなす角度β1,β2,β3以下となっている。具体的には、図からわかるように、第1光学転写面11Aの中央領域A1において、段差形状13Aは、矩形状であり、領域内の全ての段差形状13Aの内側の壁面13Bと光軸OAとがなす角度α1と、段差形状13Aの外側の壁面13Cと光軸OAとがなす角度β1とは、ともに0度で同じとなっている。また、中間領域A2において、段差形状14Aは、矩形状であり、領域内の全ての段差形状14Aの内側の壁面14Bと光軸OAとがなす角度α2と、段差形状14Aの外側の壁面14Cと光軸OAとがなす角度β2とは、ともに0度で同じとなっている。また、最周辺領域A3において、段差形状15Aは、ブレーズ状であり、それぞれの段差形状15Aにおいてはその内側の壁面15Bと光軸OAとがなす角度α3は、外側の壁面15Cと光軸OAとがなす角度β3よりも小さくなっている。
【0057】
また、図からわかるように、外側領域11Dの最周辺領域A3における段差形状15Aの外側の壁面15Cと光軸OAとがなす角度β3の最小値は、光軸側領域11Cのうち中央領域A1における段差形状13Aの外側の壁面13Cと光軸OAとがなす角度β1や、中間領域A2における同様の角度β2よりも、大きくなっている。
【0058】
また、第1光学転写面11Aにおいて、段差形状の幅をXとし、段差形状の高さをYとして、段差形状の縦横比の値(Y/X)は、以下の条件式
0.50≦(Y/X)の最大値≦1.0
を満たすようになっており、第1光学転写面11Aの段差形状が比較的深いものとなっている。ここで、各領域11C,11Dにおける段差形状の幅Xと高さYとの縦横比の値(Y/X)の最大値は、段差形状がコの字型の段差形状を有する場合は、コの字型の段差形状の幅Xと高さYの比の値を基準にして求める。例えば、図4に示すように、中央領域A1において、コの字型の段差形状UN1の幅X1と高さY1との比を基準にして(Y/X)の最大値を求める。なお、コの字型の段差形状UN1の高さY1は、図4に示すように、コの字型の段差形状UN1を形成する光軸OAに平行な2つの壁面のうち、光軸OA方向の高さが高い方の壁面の高さをY1としている。また、中間領域A2において、コの字型の段差形状UN2の幅X2と高さY2との比を基準にして(Y/X)の最大値を求める。なお、コの字型の段差形状UN2の高さY2は、図4に示すように、コの字型の段差形状UN2を形成する光軸OAに平行な2つの壁面のうち、光軸OA方向の高さが高い方の壁面の高さをY2としている。段差形状がコの字型の段差形状を有していない場合、例えばブレーズ型の段差形状の場合は、ブレーズ型の段差形状の幅Xと高さYの比の値を基準にして求める。例えば、図4に示すように、最周辺領域A3において、ブレーズ型の段差形状UN3の幅X3と高さY3との比を基準にして(Y/X)の最大値を求める。
【0059】
各領域11C,11D、具体的には領域A1,A2,A3における段差形状はそれぞれ異なる形状となっており、外側領域11Dの最周辺領域A3における(Y/X)の最大値は、光軸側領域11Cの中央領域A1及び中間領域A2のいずれか一方における(Y/X)の最大値よりも小さくなっている。
【0060】
なお、第1光学面OL1の各領域AR1,AR2,AR3には、第1光学転写面11Aの各領域A1,A2,A3に形成された段差形状13A,14A,15Aを略反転した段差が形成される。
【0061】
以上説明した成形金型100によれば、外側領域11Dの最周辺領域A3における段差形状15Aの外側の壁面15Cと光軸OAとがなす角度β3の最小値を、光軸側領域11Cの中央領域A1及び中間領域A2における段差形状13A,14Aの外側の壁面13C,14Cと光軸OAとがなす角度β1,β2よりも大きくすることにより、最周辺領域A3における段差形状15Aが中央領域A1及び中間領域A2における段差形状13A,14Aよりも樹脂の収縮による離型抵抗が少なくなり、プラスチックレンズPLが外側から冷却固化しても、固定型10から離型しやすくすることができる。
【0062】
(実施例2)
【0063】
【表2】

【0064】
表2は、図4の第1光学転写面11Aにおける段差形状の縦横比の値(Y/X)について説明するものである。表2に示すように、中央領域A1における段差形状UN1の縦横比の値(Y1/X1)は、0.006〜0.090である、また、中間領域A2における段差形状UN2の縦横比の値(Y2/X2)は、0.421〜0.517である。また最周辺領域A3における段差形状UN3の縦横比の値(Y3/X3)は、0.007〜0.086である。この結果、中央領域A1における(Y/X)の最大値は0.090となり、中間領域A2における(Y/X)の最大値は0.517となり、最周辺領域A3における(Y/X)の最大値は0.086となる。
【0065】
以上をまとめると、第1光学転写面11Aにおいて、段差形状の縦横比の値(Y/X)の最大値は、0.517であり、0.50≦(Y/X)の最大値≦1.0の範囲内となっている。また、外側領域11Dの最周辺領域A3における(Y/X)の最大値(0.086)は、光軸側領域11Cの中央領域A1における(Y/X)の最大値(0.090)、及び、光軸側領域11Cの中間領域A2における(Y/X)の最大値(0.517)よりも小さくなっている。
【0066】
〔第3実施形態〕
以下、本発明に係る第3実施形態の成形金型について説明する。第3実施形態の成形金型は、第1実施形態の成形金型を変形したものであり、特に説明しない部分は、第1実施形態と同様である。
【0067】
以下、図5を参照しつつ、第3実施形態に係る成形金型100の光学転写面11Aの微細構造について詳述する。
【0068】
第1光学転写面11Aには、プラスチックレンズPLの回折構造の段差を形成するための多数の微細な段差形状が光軸OAを中心に輪帯状に形成されている。この輪帯状の段差形状を断面として見ると、離型抵抗を生じさせるような凹の段差形状の内側の壁面は、光軸OAに平行であり、段差形状の内側の壁面と光軸OAとがなす角度α1,α2,α3はそれぞれ、段差形状の外側の壁面と光軸OAとがなす角度β1,β2,β3以下となっている。具体的には、図からわかるように、第1光学転写面11Aの中央領域A1において、段差形状13Aは、矩形状であり、段差形状13Aの内側の壁面13Bと光軸OAとがなす角度α1と、段差形状13Aの外側の壁面13Cと光軸OAとがなす角度β1とは、ともに0度で同じとなっている。また、中間領域A2において、段差形状14Aは、ブレーズ状であり、それぞれの段差形状14Aにおいてはその内側の壁面14Bと光軸OAとがなす角度α2は、外側の壁面14Cと光軸OAとがなす角度β2よりも小さくなっている。また、最周辺領域A3において、段差形状15Aは、ブレーズ状であり、それぞれの段差形状15Aにおいてはその内側の壁面15Bと光軸OAとがなす角度α3は、外側の壁面15Cと光軸OAとがなす角度β3よりも小さくなっている。
【0069】
また、図からわかるように、外側領域11Dの最周辺領域A3における段差形状15Aの外側の壁面15Cと光軸OAとがなす角度β3の最小値は、光軸側領域11Cのうち中央領域A1における段差形状13Aの外側の壁面13Cと光軸OAとがなす角度β1よりも大きくなっていて、光軸側領域11Cの中間領域A2における段差形状14Aの外側の壁面14Cと光軸OAとがなす角度β2の最小値よりも小さくなっている。
【0070】
また、第1光学転写面11Aにおいて、段差形状の幅をXとし、段差形状の高さをYとして、段差形状の縦横比の値(Y/X)は、以下の条件式
0.50≦(Y/X)の最大値≦1.0
を満たすようになっており、第1光学転写面11Aの段差形状が比較的深いものとなっている。ここで、各領域11C,11Dにおける段差形状の幅Xと高さYとの縦横比の値(Y/X)の最大値は、段差形状がコの字型の段差形状を有する場合は、コの字型の段差形状の幅Xと高さYの比の値を基準にして求める。例えば、図5に示すように、中央領域A1において、コの字型の段差形状UN1の幅X1と高さY1との比を基準にして(Y/X)の最大値を求める。なお、コの字型の段差形状UN1の高さY1は、図5に示すように、コの字型の段差形状UN1を形成する光軸OAに平行な2つの壁面のうち、光軸OA方向の高さが高い方の壁面の高さをY1としている。段差形状がコの字型の段差形状を有していない場合、例えばブレーズ型の段差形状の場合は、ブレーズ型の段差形状の幅Xと高さYの比の値を基準にして求める。例えば、図5に示すように、中間領域A2において、ブレーズ型の段差形状UN2の幅X2と高さY2との比を基準にして(Y/X)の最大値を求める。また、最周辺領域A3において、ブレーズ型の段差形状UN3の幅X3と高さY3との比を基準にして(Y/X)の最大値を求める。
【0071】
各領域11C,11D、具体的には領域A1,A2,A3における段差形状はそれぞれ異なる形状となっており、外側領域11Dの最周辺領域A3における(Y/X)の最大値は、光軸側領域11Cの中央領域A1及び中間領域A2のいずれか一方における(Y/X)の最大値よりも小さくなっている。
【0072】
なお、第1光学面OL1の各領域AR1,AR2,AR3には、第1光学転写面11Aの各領域A1,A2,A3に形成された段差形状13A,14A,15Aを略反転した段差が形成される。
【0073】
以上説明した成形金型100によれば、外側領域11Dの最周辺領域A3における段差形状15Aの外側の壁面15Cと光軸OAとがなす角度β3の最小値を、光軸側領域11Cの中央領域A1における段差形状13Aの外側の壁面13Cと光軸OAとがなす角度β1よりも大きくすることにより、最周辺領域A3における段差形状15Aが中央領域A1における段差形状13Aよりも樹脂の収縮による離型抵抗が少なくなり、プラスチックレンズPLが外側から冷却固化しても、固定型10から離型しやすくすることができる。
【0074】
(実施例3)
【0075】
【表3】

【0076】
表3は、図5の第1光学転写面11Aにおける段差形状の縦横比の値(Y/X)について説明するものである。表3に示すように、中央領域A1における段差形状UN1の縦横比の値(Y1/X1)は、0.110〜0.957である、また、中間領域A2における段差形状UN2の縦横比の値(Y2/X2)は、0.039〜0.112である。また最周辺領域A3における段差形状UN3の縦横比の値(Y3/X3)は、0.064〜0.362である。この結果、中央領域A1における(Y/X)の最大値は0.957となり、中間領域A2における(Y/X)の最大値は0.112となり、最周辺領域A3における(Y/X)の最大値は0.362となる。
【0077】
以上をまとめると、第1光学転写面11Aにおいて、段差形状の縦横比の値(Y/X)の最大値は、0.957であり、0.50≦(Y/X)の最大値≦1.0の範囲内となっている。また、外側領域11Dの最周辺領域A3における(Y/X)の最大値(0.362)は、光軸側領域11Cの中央領域A1における(Y/X)の最大値(0.957)よりも小さくなっている。
【0078】
〔第4実施形態〕
以下、本発明に係る第4実施形態の成形金型について説明する。第4実施形態の成形金型は、第1実施形態の成形金型を変形したものであり、特に説明しない部分は、第1実施形態と同様である。
【0079】
以下、図6を参照しつつ、第4実施形態に係る成形金型100の光学転写面11Aの微細構造について詳述する。
【0080】
第1光学転写面11Aには、プラスチックレンズPLの回折構造の段差を形成するための多数の微細な段差形状が光軸OAを中心に輪帯状に形成されている。この輪帯状の段差形状を断面として見ると、離型抵抗を生じさせるような凹の段差形状の内側の壁面は、光軸OAに平行であり、段差形状の内側の壁面と光軸OAとがなす角度α1,α3はそれぞれ、段差形状の外側の壁面と光軸OAとがなす角度β1,β3以下となっている。具体的には、図からわかるように、第1光学転写面11Aの中央領域A1において、段差形状13Aは、ブレーズ状であり、それぞれの段差形状13Aにおいてその内側の壁面13Bと光軸OAとがなす角度α1は、外側の壁面13Cと光軸OAとがなす角度β1よりも小さくなっている。また、最周辺領域A3において、段差形状15Aは、矩形状であり、全ての段差形状15Aにおいて内側の壁面15Bと光軸OAとがなす角度α3は0度である。段差形状15Aの外側の壁面15Cと光軸OAとがなす角度β3は母非球面(ベース面)の角度に対応して0度以上の複数の異なる値を取り得る。つまり内側の角度β1は外側の角度β3以下となっている。
【0081】
また、図6からわかるように、外側領域11Dの最周辺領域A3における段差形状15Aの外側の壁面15Cと光軸OAとがなす角度β3の最小値は、光軸側領域11Cのうち中央領域A1における段差形状13Aの外側の壁面13Cと光軸OAとがなす角度β1の最小値よりも小さくなっている。なお、図示を省略しているが、中間領域A2における段差形状は、例えばブレーズ状であり、中間領域A2のそれぞれの段差形状においてその内側の壁面と光軸OAとがなす角度は、外側の壁面と光軸OAとがなす角度以下である。最周辺領域A3における段差形状15Aの外側の壁面と光軸OAとがなす角度β3の最小値は、中間領域A2における段差形状の外側の壁面と光軸OAとがなす角度の最小値よりも小さくなっている。
【0082】
また、第1光学転写面11Aにおいて、段差形状の幅をXとし、段差形状の高さをYとして、段差形状の縦横比の値(Y/X)は、以下の条件式
0.50≦(Y/X)の最大値≦1.0
を満たすようになっており、第1光学転写面11Aの段差形状が比較的深いものとなっている。ここで、各領域11C,11Dにおける段差形状の幅Xと高さYとの縦横比の値(Y/X)の最大値は、段差形状がコの字型の段差形状を有する場合は、コの字型の段差形状の幅Xと高さYの比の値を基準にして求める。例えば、図6に示すように、最周辺領域A3において、コの字型の段差形状UN3の幅X3と高さY3との比を基準にして(Y/X)の最大値を求める。なお、コの字型の段差形状UN3の高さY3は、図6に示すように、コの字型の段差形状UN3を形成する光軸OAに平行な2つの壁面のうち、光軸OA方向の高さが高い方の壁面の高さをY3としている。段差形状がコの字型の段差形状を有していない場合、例えばブレーズ型の段差形状の場合は、ブレーズ型の段差形状の幅Xと高さYの比の値を基準にして求める。例えば、図6に示すように、中央領域A1において、ブレーズ型の段差形状UN1の幅X1と高さY1との比を基準にして(Y/X)の最大値を求める。
【0083】
図6に示すように、各領域11C,11D、具体的には領域A1,A3における段差形状はそれぞれ異なる形状となっており、外側領域11Dの最周辺領域A3における(Y/X)の最大値は、光軸側領域11Cの中央領域A1における(Y/X)の最大値よりも小さくなっている。なお、図示を省略しているが、中間領域A2における段差形状は、例えば矩形であり、中間領域A2における(Y/X)の最大値は、具体例では最周辺領域A3における(Y/X)の最大値よりも大きくなっている。
【0084】
なお、第1光学面OL1の各領域AR1,AR3等には、第1光学転写面11Aの各領域A1,A3等に形成された段差形状13A,15Aを略反転した段差が形成される。
【0085】
以上説明した成形金型100によれば、外側領域11Dの最周辺領域A3における段差形状15Aの外側の壁面15Cと光軸OAとがなす角度β3の最小値が、光軸側領域11Cの中央領域A1における段差形状13Aの外側の壁面13Cと光軸OAとがなす角度β1の最小値よりも小さいような、離型抵抗が外側で比較的大きくなりやすい型構造であるが、離型抵抗の大きな第1光学転写面11Aから、これが温かいうちに優先的に離型することで、スムーズな離型を実現することができる。
【0086】
なお、第3実施形態において、中央領域A1の段差形状13Aを矩形状としてもよい。この場合、外側領域11Dの最周辺領域A3における段差形状15Aの外側の壁面15Cと光軸OAとがなす角度β3の最小値は、光軸側領域11Cのうち中央領域A1における段差形状13Aの外側の壁面13Cと光軸OAとがなす角度β1と同じ0度となる。
【0087】
以上、本実施形態に係る成形金型について説明したが、本発明に係る成形金型は上記のものには限られない。例えば、成形金型100において、可動型20に残ったプラスチックレンズPLを、コア型21を突き出すことによって離型させたが、可動型20に埋め込んだ突き出しピンによってプラスチックレンズPLの第2フランジ面FL2を可動型20から突き出してもよい。
【0088】
また、上記実施形態において、段差形状13A,14A,15Aの形状は例示であり、条件の範囲内で形状の組み合わせも自由に設計することができる。例えば、光軸側領域11Cを構成する中央領域A1と中間領域A2とに同一又は類似のパターンを形成することもできる。また中央領域A1、中間領域A2、及び最周辺領域の全ての段差形状を矩形状又はブレーズ状としても良い。
【符号の説明】
【0089】
100 成形金型
10 固定型
20 可動型
30 温度調節部
40 可動型駆動部
50 樹脂射出部
11A,21A 光学転写面
11C 光軸側領域
11D 外側領域
12A,22A 成形面
13A,14A,15A 段差形状
A1 中央領域
A2 中間領域
A3 最周辺領域
CV 型空間
OL 中心部
OL1,OL2 光学面
FL フランジ部
FL1,FL2 フランジ面
PL プラスチックレンズ
OA 光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金型と第2金型とを型締めすることによって型空間を形成して光学素子の成形を行う成形金型であって、
前記第1金型は、前記光学素子の第1光学面を形成する第1光学転写面を有し、前記第2金型よりも先に前記光学素子から離型し、
前記第2金型は、前記光学素子の第2光学面を形成する第2光学転写面を有し、前記第1金型の離型の際に前記光学素子を保持し、
前記第1光学転写面の曲率半径の絶対値は、前記第2光学転写面の曲率半径の絶対値よりも小さく、
前記第1光学転写面は、回折構造を形成する段差形状を有し、
前記段差形状の幅をXとし、前記段差形状の高さをYとして、以下の条件式
0.50≦(Y/X)の最大値≦1.0
を満たすことを特徴とする成形金型。
【請求項2】
前記第1光学転写面は、光軸側に配置される光軸側領域と、前記光軸側領域よりも外側に配置される外側領域とを少なくとも有し、
前記外側領域における前記(Y/X)の最大値は、前記光軸側領域における前記(Y/X)の最大値よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の成形金型。
【請求項3】
前記段差形状の内側の壁面と光軸とがなす角度は、前記段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度以下であることを特徴とする請求項1及び請求項2のいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項4】
前記段差形状の内側の壁面は、光軸に平行であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項5】
前記段差形状は、矩形状を含むことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項6】
前記外側領域における段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度の最小値は、前記光軸側領域における段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度の最小値よりも大きいことを特徴とする請求項2から請求項5までのいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項7】
前記光軸側領域は、光軸側に配置される中央領域と、前記中央領域よりも外側に配置される中間領域とを少なくとも有し、
前記外側領域は、前記中間領域よりも外側に配置される最周辺領域を少なくとも有し、
前記最周辺領域における前記(Y/X)の最大値は、前記中央領域及び前記中間領域の少なくともいずれか一方における前記(Y/X)の最大値よりも小さいことを特徴とする請求項2から請求項6までのいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項8】
前記中央領域における段差形状と、前記中間領域における段差形状と、前記最周辺領域における段差形状とは、それぞれ異なることを特徴とする請求項7に記載の成形金型。
【請求項9】
前記最周辺領域における段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度の最小値は、前記中央領域及び前記中間領域のいずれか一方における段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度の最小値よりも大きいことを特徴とする請求項7及び請求項8のいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項10】
前記外側領域における段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度の最小値は、前記光軸側領域における段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度の最小値以下であることを特徴とする請求項2から請求項5までのいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項11】
前記光軸側領域は、光軸側に配置される中央領域と、前記中央領域よりも外側に配置される中間領域とを少なくとも有し、
前記外側領域は、前記中間領域よりも外側に配置される最周辺領域を少なくとも有し、
前記最周辺領域における前記(Y/X)の最大値は、前記中央領域及び前記中間領域の少なくともいずれか一方における前記(Y/X)の最大値よりも小さいことを特徴とする請求項2から請求項5、及び請求項10のいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項12】
前記中央領域における段差形状と、前記中間領域における段差形状と、前記最周辺領域における段差形状とは、それぞれ異なることを特徴とする請求項11に記載の成形金型。
【請求項13】
前記最周辺領域における段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度の最小値は、前記中央領域及び前記中間領域のいずれか一方における段差形状の外側の壁面と光軸とがなす角度の最小値以下であることを特徴とする請求項11及び請求項12のいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項14】
前記第1金型は固定型であり、前記第2金型は可動型であることを特徴とする請求項1から請求項13までのいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項15】
第1光学面と第2光学面とを有する光学素子であって、
前記第1光学面の曲率半径の絶対値は、前記第2光学面の曲率半径の絶対値よりも小さく、
前記第1光学面は、光軸側に配置される光軸側領域と、前記光軸側領域よりも外側に配置される外側領域とに回折構造を形成する段差を少なくとも有し、
前記段差の幅をXとし、前記段差の高さをYとして、前記外側領域における(Y/X)の最大値は、前記光軸側領域における(Y/X)の最大値よりも小さいことを特徴とする光学素子。
【請求項16】
前記光軸側領域は、光軸側に配置される中央領域と、前記中央領域よりも外側に配置される中間領域とを少なくとも有し、
前記外側領域は、前記中間領域よりも外側に配置される最周辺領域を少なくとも有し、
前記最周辺領域における前記(Y/X)の最大値は、前記中央領域及び前記中間領域の少なくともいずれか一方における前記(Y/X)の最大値よりも小さいことを特徴とする請求項15に記載の光学素子。
【請求項17】
以下の条件式
0.50≦(Y/X)の最大値≦1.0
を満たすことを特徴とする請求項15及び請求項16のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項18】
光学素子を成形金型により成形する光学素子の製造方法であって、
前記成形金型は、型開き状態で前記光学素子が残らない第1金型と、型開き状態で前記光学素子が残る第2金型とを有し、
前記第1金型は、前記光学素子の第1光学面を形成する第1光学転写面を有し、前記第2金型は、前記光学素子の第2光学面を形成する第2光学転写面を有し、
前記第1光学転写面の曲率半径の絶対値は、前記第2光学転写面の曲率半径の絶対値よりも小さく、
前記第1光学転写面は、回折構造を形成する段差形状を有し、前記段差形状の幅をXとし、前記段差形状の高さをYとして、以下の条件式
0.50≦(Y/X)の最大値≦1.0
を満たし、
型開き工程の後、前記第2金型から前記光学素子を離型させる離型工程を有することを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−153145(P2012−153145A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−62576(P2012−62576)
【出願日】平成24年3月19日(2012.3.19)
【分割の表示】特願2012−508121(P2012−508121)の分割
【原出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】