説明

成膜方法、及びそれを用いたスペーサと薄型フラットパネルディスプレイの製造方法

【課題】 微細な凹凸表面を有する基体上に、均一な膜厚で均質な被膜を噴霧熱分解法により成膜する方法を提供する。
【解決手段】 凸部頂の最小間隔Sが1〜60μm、高さHと間隔Sの比(H/S)が0.2以上の凹凸表面を有する基体表面に、酸化物の前駆体溶液を、直径dが上記凹凸表面の最小間隔S×0.8より小さい液滴が体積割合で80%以上を占める霧状態にして、加熱した上記基体表面に対して噴霧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸表面を持つ基体の該表面に、該凹凸形状を保持したまま、膜厚制御性よく成膜する方法に関するものである。特に凹凸表面を持った基体上に、噴霧熱分解法によって成膜を行う方法に関するものであり、また、該成膜方法を利用して、電子放出素子から構成される薄型フラットパネルディスプレイのスペーサ、さらには薄型フラットパネルディスプレイの製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大画面、奥行きの小さい薄型ディスプレイとして、電界放出型(FED)ディスプレイが研究、開発されている。これは、電子放出素子から放出された電子を加速して、蛍光体に衝突させることにより発光を行うもので、CRTと原理的には同じだが、CRTと異なり、基本的に一画素に対し、一つ以上の電子放出素子を持つのが特徴である。
【0003】
この方式で薄型ディスプレイを製造する時は、容器内を真空にする必要がある。一般的には、2枚のガラス基板を平行に配置し、それぞれ向かい合った面の一方に複数の電子放出素子と配線を備えた電子源、もう一方に蛍光体を配置し、2枚のガラス基板間を枠などを介して封止し、内部を真空に保つ形態が用いられることが多い。
【0004】
このような形態の真空容器においては、外部より大気圧が印加されるため、このままでは容器が破損し易い。そのため、2枚のガラス基板間に、スペーサと呼ばれる耐大気圧構造を形成することにより大気圧に耐える構造になっている。
【0005】
このスペーサは、平板型、十字型、円柱型、球形など、さまざまな形態をとりうるが、基本的に必要な要件としては、機械的強度が十分であることに加えて、帯電しにくいことが挙げられる。スペーサ近傍には電子放出素子があり、蛍光体面からの反射電子がスペーサに入射したり、トリプルジャンクションからの電子放出により、帯電しやすい環境になっている。もしスペーサが帯電すると、近傍の電子放出素子からの電子軌道を狂わせ、画像の品位を落としたり、帯電による放電現象が起こったりする可能性がある。
【0006】
このようなことを防止するために、スペーサ表面に帯電防止用の抵抗膜を設けたり(特許文献1参照)、表面に凹凸形状を設けたり(特許文献2参照)して帯電しにくくする方法が提案されている。また、表面に凹凸形状を設けた基体上に帯電防止膜を設ける方法も提案されている。
【0007】
このような帯電防止膜などの薄膜の成膜技術として、従来から知られている方法としては、CVDやスパッタリングに代表される気相成膜法や、ディッピングやスプレー法、スピンコートに代表される液相成膜法、噴霧熱分解法が挙げられる。
【0008】
気相成膜法は、成膜する容器内を真空に保つ必要があるものが多く、装置が大型化し、成膜時間が長くなるため、生産性、コストの面では液相法に比べて不利である。一方、ディッピングやスプレーに代表される液相成膜法は大型の装置や真空系が不要であり、成膜スピードも速いために、生産性はよく、コストの面でも気相成膜法に比べて有利である。
【0009】
しかしながら液相成膜法は、凹凸表面を有する基体の表面には均一な成膜を行うことが非常に難しい。特に凹凸のアスペクト比が高く、微細な凹凸の場合、毛細管現象が起こるために、均一な被覆を行うことが困難である。そのため、液相成膜法は平坦な基板上に成膜を行う際には使われるが、凹凸表面のある基体表面に均一な膜厚の被膜を精度よく被覆することはできなかった。
【0010】
【特許文献1】特開平08−007806号公報
【特許文献2】米国特許第5939822号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、現在まで、アスペクト比が高く、微小な凹凸表面を有する基体表面に、安価に、精度よく成膜を行うことはできなかった。そのため、電界放出を利用した画像表示装置の耐大気圧対策としてのスペーサとして、凹凸表面を有する基体に帯電防止膜を、安価に、均一に形成することができなかった。
【0012】
本発明の目的は、凹凸表面を有する基体表面に、均一な膜厚の膜を安価に成膜する方法を提供することにあり、また、該成膜方法を適用して画像表示装置のスペーサの製造方法、さらには薄型フラットパネルディスプレイの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1は、
凸部頂の最小間隔Sが1〜60μm、高さHと間隔Sの比(H/S)が0.2以上の凹凸表面を有する基体表面に、噴霧熱分解法で酸化物被膜を形成する成膜方法であって、上記酸化物の前駆体溶液を、直径dが上記凹凸表面の最小間隔S×0.8より小さい液滴が体積割合で80%以上を占める霧状態にして、加熱した上記基体表面に対して噴霧することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第2は、
外囲器を有する薄型フラットパネルディスプレイの該外囲器内に配置される、スペーサの製造方法であって、
前記外囲器は、複数の電子放出素子と該電子放出素子の配線とを備えた電子源を有する第1の基板と、側壁と、前記側壁を介して前記第一の基板と対向配置し、前記電子放出素子から放出された電子の照射によって発光する発光部材を備えた第2の基板とを有し、
前記スペーサは、前記第1の基板と第2の基板との間に位置し、凸部頂の最小間隔Sが1〜60μm、高さHと間隔Sの比が0.2以上の凹凸表面を有する基体と、該基体表面を被覆する抵抗膜とを有し、
前記抵抗膜を上記第1の発明の成膜方法により前記基体表面に成膜することを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明の第3は、
複数の電子放出素子と該電子放出素子の配線とを備えた電子源を有する第1の基板と、側壁と、前記側壁を介して前記第一の基板と対向配置し、前記電子放出素子から放出された電子の照射によって発光する発光部材を備えた第2の基板と、前記第1の基板と第2の基板との間に位置するスペーサとを有する外囲器を有する薄型フラットパネルディスプレイの製造方法であって、
前記スペーサは、凸部頂の最小間隔Sが1〜60μm、高さHと間隔Sの比が0.2以上の凹凸表面を有する基体と、該基体表面を被覆する抵抗膜とを有し、該スペーサを上記第2の発明のスペーサの製造方法により製造することを特徴とする。
【0016】
さらに本発明の第4は、
外囲器を有する薄型フラットパネルディスプレイの該外囲器内に配置される、表面に凹凸形状を有するスペーサの製造方法であって、
表面に凹凸を有するスペーサ基体を加熱する工程と、
該加熱された基体に被膜材料を含む液体を塗布して被膜を形成する工程とを有し、
該被膜材料を含む液体の塗布は、超音波噴霧器によって行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の成膜方法によれば、安価で高生産性の噴霧熱分解法により、微細な凹凸表面を持つ基体の表面にも均一に酸化物被膜を形成することができる。よって、当該成膜方法を利用することにより、電子放出素子を利用した画像表示装置において、微細な凹凸表面を有する基体上に、毛管現象や、液滴痕などの表面平滑性に悪影響を与える形状を生成せず、膜厚が均一で、表面平滑性が高い帯電防止膜を形成することができ、その結果、帯電による影響が防止されたスペーサを製造することができ、該スペーサを用いて高画質の画像表示が実現し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。但し、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0019】
図1、図2は、本発明の成膜方法に用いられる噴霧熱分解法を模式的に示した図である。図中、1は基体、2は液滴、3はノズル、4はヒーターである。
【0020】
図2に示すように、噴霧熱分解法においては、成膜を行う基体1をヒーター4で加熱しながら、上部からノズル3、或いはその他の噴霧手段により、酸化物前駆体を含む溶液を微細な液滴2として基体1表面に塗布する。基体1表面に付与された酸化物前駆体は熱分解し、基体1表面に酸化物の被膜が形成される。
【0021】
図1が本発明の成膜方法の特徴である、基体表面構造と液滴径の関係を示した図である。
【0022】
本発明において用いられる基体1は、少なくとも一部に表面凹凸を有し、該表面凹凸の凸部頂の最小間隔Sが1〜60μm、高さHと間隔Sの比(H/S)が0.2以上である。図1は、凹凸の断面において、表面がさざなみのように繰り返す正弦波を描く構造例である。
【0023】
本発明では、前駆体を含む溶液の液滴2の直径をdとした時、このdと上記凸部頂の最小間隔Sの関係において、d<S×0.8である液滴2が体積割合で80%以上になるように液滴2を形成し、必要ならば液滴2を分級して基体1表面に噴霧することを特徴とする。
【0024】
ここで、噴霧熱分解法について、簡単に説明する。
【0025】
噴霧熱分解法(Spray Pyrolysis Deposition=SPD法)は、ローコストと膜厚制御性を兼ね備えた成膜法である。この成膜法は、加熱した基体上に、酸化物の前駆体を含む溶液(以下、前駆体溶液と記す。)を噴霧することにより、基体上に酸化物の膜成長を起こし、酸化物被覆を形成する方法である。この方法は、最初、ガラス基板上に酸化スズ透明導電膜を形成する方法として研究されたため、特に酸化スズ膜に関しては研究が進んでおり、前駆体としては塩化スズの水溶液かアルコール溶液を用い、ガラス基板上を300℃〜500℃程度に加熱してスプレー等により前駆体溶液を噴霧することにより、大規模、高速、均一な透明導電膜を形成することができ、ローコストに有利な成膜法である。
【0026】
しかしながら噴霧熱分解法も、液滴を吹き付けるため、アスペクト比の高い凹凸表面を有する基体表面に、該凹凸形状を維持したまま膜厚の均一な被膜を成膜することがむずかしい。噴霧熱分解法においては、着滴確率の大きいところから膜が形成されていく傾向があるので、アスペクト比の高い凹凸表面に適用すると、凸部の膜成長速度が速くなり、凹部の膜厚が薄くなる現象が起こる。また、基体表面に窪みがある場合には、被覆表面形態が滑らかにならず、でこぼこになってしまうという傾向がある。これは、凹部に液滴が着滴した時に、突沸のような現象で飛沫が飛び散りやすいことや、凹部の温度が凸部より多少高いため、成膜条件がずれて膜形態が崩れやすいなどというメカニズムが考えられる。
【0027】
そのため、ローコスト成膜に有望でありながら、微細で凹凸アスペクト比の高い基体の凹凸表面の被覆に関しては応用が難しかった。
【0028】
次に図3を用いて、噴霧熱分解法における基体の温度と液滴の状態を説明する。図3において、(a)が最も基体温度が低く、(d)が最も高い場合を示す。
【0029】
図3(a)では、吐出された酸化物前駆体を含む溶液の液滴11がそのままの状態で、加熱された基体1上に着滴し、そこで被膜を形成するものである。この場合、基体1に着滴した後に、液滴11の溶媒が揮発し、該液滴11に含まれる酸化物前駆体が分解する。従って、溶媒の選択が適切でなかったり、液滴径が大きすぎると、形成される被膜の形態に悪影響を及ぼす恐れがある。例えば、液滴痕が発生したり、溶媒の急激な揮発、燃焼が起きるため、膜形状が荒れてしまう場合がある。特に、凹凸表面を持った基体を使う場合、毛管現象により、凹部に溶液が移動することになる。そのため、凹部において、溶媒の急激な揮発、燃焼が引き起こされ、膜形状が荒れてしまうような現象が起こりやすくなる。
【0030】
図3(b)では、(a)よりも基体1の温度が高く、滴下途中の溶媒が着滴前に揮発し、固体成分(前駆体)12となって基体1に到達する。
【0031】
図3(c)では、(b)よりもさらに基体1の温度が高いため、滴下された液滴11は固体成分12を経て気化し、ガス状成分13となって基体1に到達し、基体1上で熱分解を起こすものであり、CVDに類似したメカニズムである。
【0032】
図3(d)では、気化したガス状成分13が、基体1到達前に熱分解を起こし、酸化物微粒子14となって基体1に付着する。
【0033】
一般的に、(a)〜(d)のメカニズムは、独立して起こるわけではなく、それぞれのメカニズムがオーバーラップして、被膜を形成する。材料や塗布条件によっても変わるが、(d)のメカニズムが主体の被膜は表面形状が荒れ、精度よい膜質均一性が得られない。特に、電界放出型ディスプレーのスペーサ表面の帯電防止膜などのように、レベルの高い平滑性、均質性の被膜が求められる場合は好適ではない。
【0034】
(b)、(c)の場合は、比較的均質性、平滑性のよい膜が得られる可能性は高い。但し、実際には、(b)、(c)のメカニズムが主として起こる塗布条件は非常に狭い範囲であり、当該範囲を狙って塗布を行うと、(d)のメカニズムも必ず並行して起こるようになるため、プロセスマージンを考えると実用化に適した条件選択とはいえない。
【0035】
以上のことを勘案すると、本発明においては(a)のメカニズムを主体とし、一部(b)、(c)が平行して起こるような条件を選択するのが好適となる。
【0036】
実際にはこの基板温度は、影響を与えるパラメータが大変複雑である。ノズル3と基板1間距離や、噴霧量、溶媒気化熱、溶質濃度、噴霧粒子速度などがさまざまに影響しあうために、一概に計算で求めるのは難しい。基板温度は、前駆体の分解温度以上に設定されるが、それ以上の範囲でどこに設定するかは、実際に成膜を行って決定することになる。
【0037】
例えば、もし、成膜後の膜の表面に、微粒子上のごみのようなものがたくさん発生していれば、(d)のプロセスが起こっている可能性が高いので、基板温度を下げる方向で条件を出すことが望ましい。反対に、成膜はされるが、SEMで観察して膜表面形状が荒れているように感じられる場合は、基板表面で溶媒の突沸が起こっている可能性が考えられるので、基板温度を上げる方向で検討すると望ましい結果が出ることがある。このように、実際に塗布を行って、最適な膜形状と思われる温度で成膜を行うことになる。
【0038】
前記したように、(a)のメカニズムを選択した場合、基体1が凹凸表面を持つ場合には、凹部に液滴11が移動するような現象があり、表面平滑性、均質性の悪い被膜が成膜されやすい。本発明においては、この問題を回避するために液滴11の液滴径分布を制御し、(a)のメカニズムを主体にした塗布条件でありながら、凹凸表面を有する基体上への成膜も良好に行うことに特徴を有する。
【0039】
本発明の成膜方法は、微細な凹凸表面を有する基体上に均一な膜厚、膜質で安価に酸化物被膜を形成することができるため、電界放出型電子放出素子等を用いて構成される薄型フラットパネルディスプレイ(以下単に画像表示装置という場合もある)のスペーサの製造方法及び該スペーサを用いた画像表示装置の製造方法に好ましく適用される。
【0040】
即ち、前記したように、かかるスペーサとしては、微細な凹凸表面を有する基体の表面に帯電防止膜を形成した形態が好ましく用いられ、該帯電防止膜には非常にレベルの高い表面平滑性、均質性、表面凹凸追随性が求められる。
【0041】
該帯電防止膜の均質性が低い場合、つまり組成が偏った場合には、膜内に抵抗分布が生じる。スペーサ上端には、電子を加速するための電圧Vaが、またスペーサの下端には電子源に印加される低電位(例えばGND電位)が印加されており、スペーサ近傍で均一な電界が生じるようになっている。従って、帯電防止膜の抵抗分布が生じると、スペーサ近傍の電界が乱れ、近傍を飛翔する電子の軌道を乱すことになり、画像品位の低下を引き起こす。
【0042】
また、スペーサ上下端に印加される電圧は、時として10kV以上が想定されることもあり、このような超高圧が印加された場合に、ごくわずかでも帯電防止膜で被覆されていない微小な突起がスペーサ表面に存在すると、容易に放電や電界放出を引き起こす。そのため、スペーサ表面の被膜には基本的にはスパッタ法と同等以上の表面追随性と、微視的な表面平滑性を有する膜が求められ、噴霧熱分解法で成膜を行った場合、先述の図3(d)のような状態が存在する条件で成膜を行うと、放電確率は非常に高くなる。
【0043】
本発明の成膜方法を用いてスペーサ表面の帯電防止膜を形成した場合には、上記したような表面平滑性、均質性、表面凹凸追随性に優れた帯電防止膜を得ることができる。
【0044】
本発明のスペーサの製造方法に用いられる基体としては、通常ガラスが用いられる。また、酸化物前駆体としては、金属またはSiを含む化合物が挙げられ、好ましくは、これらのアンモニウム塩、塩化物、硝酸塩、アセチルアセトネート(acac)錯体、DMP(ジピバロイルメタネート)錯体、カルボン酸塩が挙げられる。これらの化合物は単独でも、2種以上を併用して用いても構わない。また、該前駆体を含む溶液の溶媒として好ましくは、水、メタノール、アセトン、IPA(イソプロピルアルコール)、メチルエチルケトンが挙げられ、これらは単独でも、或いは2種以上を任意の割合で混合して用いることもできる。
【0045】
さらに、基体表面の凹凸構造としては、直線状の凸状ストライプ部と凹状ストライプ部が交互に現れる形状が好ましく、該ストライプに直交する方向におけるスペーサの断面において、表面形状が正弦波或いは矩形波である形状が好ましい。
【0046】
また、本発明の成膜方法において液滴を形成する手段としては、特に限定されないが、超音波ネブライザが好ましく用いられ、必要に応じて該液滴をさらに既知の分級手段によって分級し、所望の液滴径分布とする。
【0047】
尚、本発明に係る液滴径分布(体積分布)の測定方法としては、レーザー光回析法が用いられる。
【0048】
本件においては、粒度分布測定は、レーザー光回折法を用いた、東日コンピューターアプリケーションズのLDSA−1400Aを用いて測定した。測定条件としては、レンズを焦点距離100mmのものを用い、噴霧器はレンズから60mmのところに来るように設置した。BG(バックグラウンド、噴霧する前の状態)取り込み時間は2.0秒、オートスタート機能を用い、平均化回数100回、取り込み間隔500msで、50秒の平均を測定している。
【0049】
本発明の製造方法により製造される画像表示装置の一例の構成を図9に示す。図9は、本発明の画像表示装置の一実施形態の表示パネルの斜視図であり、内部構造を示すためにパネルの一部を切り欠いて示している。図中、91はフェースプレートであり、ガラス基板96の内側に蛍光膜97とメタルバック98を設けてなる。95は電子源基板であり、複数の電子放出素子99と、行方向配線85と列方向配線86とを有する。92はリアプレート、93は側壁であり、フェースプレート91とリアプレート92と側壁93とにより表示パネルの内部を真空に維持するための気密容器を形成している。気密容器を組み立てるに当たっては、各部材の接合部に十分な強度と気密性を保持させるため封着する必要があるが、例えばフリットガラスを接合部に塗布し、大気中或いは窒素雰囲気中で、400〜500℃で10分以上焼成することにより封着を達成する。また、上記気密容器の内部は10-4Pa程度の真空に保持されるので、大気圧や不意の衝撃などによる気密容器の破壊を防止する目的で、耐大気圧構造体として、スペーサ94が設けられている。
【0050】
リアプレート92には、電子源基板95が固定されているが、該基板95上には電子放出素子99がn×m個形成されている(n,mは2以上の正の整数であり、目的とする表示画素数に応じて適宜設定される。例えば、高品位テレビジョンの表示を目的とした表示装置においては、n=3000,m=1000以上の数を設定することが望ましい。)。前記n×m個の電子放出素子は、m本の行方向配線85とn本の列方向配線86により単純マトリクス配線されている。電子放出素子99の材料や形状或いは製法に制限はない。従って、例えば表面伝導型電子放出素子やFE型、或いはMIM型などの冷陰極素子を用いることができる。
【0051】
図8は、図9の表示パネルに用いられる電子放出素子99の一例の平面模式図である。図中、81,82は素子電極、83は導電性薄膜、84は電子放出部である。本例の電子放出素子は表面伝導型であり、当該素子は行方向配線85と列方向配線86により単純マトリクス状に配線され、行方向配線85の下部には、層間絶縁層(不図示)が形成されており、列方向配線86との間の電気的な絶縁が保たれている。
【0052】
前記のような構造の電子放出素子99は、予め基板95上に行方向配線85、列方向配線86、電極間絶縁層(不図示)、及び素子電極81,82と導電性薄膜83を形成した後、行方向配線85及び列方向配線86を介して各素子に給電して通電フォ−ミング処理と通電活性化処理を行うことにより電子放出部84を形成して製造される。
【0053】
図9の形態においては、気密容器のリアプレート92にマルチ電子ビ−ム源の基板95を固定する構成としたが、マルチ電子ビーム源の基板95が十分な強度を有するものである場合には、気密容器のリアプレート92としてマルチ電子ビーム源の基板95自体を用いてもよい。
【0054】
また、フェースプレート91の内面には、蛍光膜97、さらにはCRTの分野では公知のメタルバック98が設けられている。メタルバック98を設ける目的は、蛍光膜97が発する光の一部を鏡面反射して光利用率を向上させる事、負イオンの衝突から蛍光膜97を保護する事、電子ビーム加速電圧を印加するための電極として作用させる事、蛍光膜97を励起した電子の導電路として作用させる事、などである。メタルバック98は、蛍光膜97をガラス基板96上に形成した後、蛍光膜97表面を平滑化処理(通常フィルミングと呼ばれる)し、その上にAlを真空蒸着する方法により形成される。
【0055】
また、本形態では用いなかったが、加速電圧の印加用や蛍光膜の導電性向上を目的として、ガラス基板96と蛍光膜97との間に、例えばITOを材料とする透明電極を設けてもよい。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
基体としてソーダライムガラスを用い、ガラスモールド法により凹凸を形成した。図4(a)は、本実施例で用いた基体を模式的に示す斜視図であり、図4(b)は、図4(a)におけるA−A’断面の部分模式図である。本例では、凹凸形状は正弦波形状であり、2mm×10mm×200μmの長方形の形をした基体の、短辺に平行になるように凹凸が刻まれている。凹凸の凸部頂の最小間隔Sは60μmであり、深さHは30μmである。
【0057】
図2に示されるように、基体1をヒーター4の上に平置きし、基体1の表面温度が450℃になるようにヒーター4により加熱した。成膜は、SnとAlの複合酸化物被膜を形成することを目的とし、前駆体には、SnCl4とAl(acac)3を用いた。溶媒はエタノール(EtOH)を用い、上記前駆体を溶媒に2質量%溶解した溶液をそれぞれ用意した。
【0058】
液滴を発生させる手段としては、超音波噴霧器(以下では、超音波ネブライザという場合もある)を用いた。超音波ネブライザを2台用意し、それぞれの溶液を霧化させ、途中で液滴を混合し基体1上に噴霧した。図5に模式的な系を示す。図中、51a,51bは霧化ユニット、52はバルブ、53はキャリアガスである。ネブライザには超音波振動子が2.4MHzのものを用い、霧化能力は最大20ml/minである。霧化ユニットは51a、51bの二つを用意し、それぞれ違う種類の前駆体/溶媒を霧化し、キャリアガス53で搬送し、途中で混合する方法をとった。二種類の前駆体は、各霧化ユニット51a、51bの霧化量を調節するか、バルブ52で混合比を調節するか、或いは前駆体の濃度を調節するかのいずれかの方法によりSn/Alの混合比を調節することができる。
【0059】
この超音波ネブライザのノズル3から噴出される液滴径分布をレーザー光回折法を用いて測定したところ、液滴径1〜15μmの範囲に80体積%以上が分布することが確認された。
【0060】
ノズル3から噴出されるガス中において、SnCl4/EtOHは1質量%、Al(acac)3/EtOHは2質量%とした。バルブ52、霧化レートは特に調節をせず、最大開度、最大レートで成膜を行った。基体1の加熱温度は430℃とし、基体1の表面がこの温度になるように調節した。噴霧を2分間行い、30秒停止して、また2分間噴霧を行う間欠法で噴霧を行った。噴霧時間合計が10分に達したところで成膜を終了した。
【0061】
成膜操作終了後、この基体1表面の膜形態の観察を詳しく行った。
【0062】
EDAX(エネルギー分散型X線分析法)により膜組成の分析を行ったところ、原子比でSn/Al≒1:4となる複合酸化物被膜が生成していることがわかった。
【0063】
高分解能SEM(走査型電子顕微鏡)により表面及び断面観察を行ったところ、微結晶状態の平滑な膜が成膜されていることが確認され、偏析や、液滴痕や、その他、膜形態の異常は観察されなかった。
【0064】
断面SEM観察においては、凹凸全域に、ほぼ200nmの膜厚の均一な膜厚の被膜が成膜されていることが確認された。
【0065】
(比較例1)
実施例1と同様の基体、材料で、二流体スプレー法を用いて同様の条件で噴霧熱分解法による成膜を行った。但し、それぞれの前駆体溶液は、予め質量比1:1で混合した。即ち、SnCl4/EtOHの1質量%溶液と、Al(acac)3/EtOHの2質量%溶液を質量比1:1で混合したので、SnCl4が0.5質量%、Al(acac)3が1質量%のエタノール溶液となる。この溶液を430℃に加熱した基体1(実施例1と同様の形状)に噴霧し、成膜を行った。
【0066】
スプレーノズル噴射直後の液滴径分布を測定したところ、中心径が約40μmであり、48μm以上の液滴径の占める体積割合が約35%であることがわかった。
【0067】
噴霧は実施例1と同じく間欠法を用い、2分塗布して30秒停止する操作を同じく5回繰り返した。このようにして成膜したものを、同じく高分解能SEMで観察したところ、50μmを超すような大きな液滴痕が多数観察された。
【0068】
また、断面の高分解能SEMも合わせて観察すると次のようなことがわかった。
【0069】
先ず最初に、凸部表面には20nm程度の膜厚のごく薄い一層の被膜が形成され、その上に不定形の酸化物成長粒子のようなものがかなりの厚さで付着していた。一方、凹部表面には均一な膜厚を持った被膜はほとんど観察されず、不定形の酸化物成長粒子のようなものがランダムに覆い被さり、その厚さは場所によってはほとんど凹部深さの半分程度まで達していた。
【0070】
このように、凹凸表面に、ある程度以上の大きさの液滴径を持つ霧を噴霧すると、少なくとも一部は着滴した場所にとどまらずに凹部に移動し、そこで適切な膜成長を起こすことができず、膜形状の異常を引き起こすものと考えられる。
【0071】
(実施例2)
図9の構成の画像表示装置を製造した。スペーサ94の基体は加熱延伸法を用いて形成した。その形成方法を図6を参照しながら説明する。図中、61は母材、62はヒーター、63は延伸ローラー、64はカッター、65、67、68は延伸した部材、66はノズルである。
【0072】
図6の加熱延伸法において、母材61は加熱ヒーター62を通して加熱される。加熱温度は部材によって異なるが、ガラス部材の場合、通常500℃以上に設定される。これによりガラスが溶融状態になり、延伸加工が可能になる。本実施例の場合、加熱温度は750℃とした。
【0073】
この、溶融したガラスを延伸ローラー63で引き伸ばす。引き出し速度V2をV1より早くすることで、母材61より断面積の小さい延伸ガラスを作成することができる。基本的には、母材61と、引き出し後の部材65の断面形状は相似になり、引き出し速度が速くなればなるほど、引き出し後の部材65の断面積は母材61に比べて小さくなる。
【0074】
また、延伸ローラー63の表面に凹凸を設けることで、引き出し後の部材65の表面に凹凸を設けることができる。本実施例については、延伸ローラー63表面に凹凸の溝を設けることにより、図7に示すような形態の凹凸を部材65の両面に設けた。また、加熱延伸された部材65はカッター64により、最終的に必要な長さの部材68に切断される。本実施例においては最終的な部材68を825mmの長さに切断した。
【0075】
加熱延伸された直後の部材65は500℃以上の温度を保っている。そのため、噴霧熱分解法で表面に被膜を成膜するにはわざわざ再加熱する必要がなく、好都合の状態である。図6における66は、加熱延伸直後の部材65に酸化物前駆体を含む溶液を噴霧するためのノズルである。液滴形成手段としては、ノズル以外にスプレーであってもよいし、あるいはネブライザを用いても構わない。本実施例においては、超音波噴霧器(超音波ネブライザ)を用いた。
【0076】
スペーサの詳細な作成条件は以下のとおりである。
【0077】
母材として、電子線ディスプレイ用のNa含有量の少ないガラスを用い、750℃に加熱して、厚さ200μm、幅1.5mmになるようなスピードで延伸を行った。延伸ローラー63には溝型の凹凸を形成し、部材65表面に長手方向に沿った溝が形成されるようにした。実際に部材65(基体)の表面に形成された溝は図7のように、凸部頂の最小間隔S=30μm、深さH=8μmの凹凸形状が設けられている。このような形に延伸された部材65に噴霧熱分解法で成膜を行うためにノズル66を用いて噴霧熱分解法による成膜を行った。この時、ノズル66を通過する部材65の温度は約520℃であり、噴霧熱分解法に好適な温度を保った。
【0078】
噴霧条件としては、先ず、成膜する被膜としてはCrとAlの複合酸化物とし、(以下Cr−Al−Oと表記)前駆体物質としてはCr(acac)3とAl(acac)3を用いた。これらをそれぞれエタノールに1質量%で溶解した。
【0079】
次にCr(acac)3/EtOH溶液と、Al(acac)3/EtOH溶液を質量比で4:1で混合し、噴霧溶液とした。この時、混合比を変化することにより、溶液中のCr/Al比を変化させることができ、それにより抵抗調節を行うことができる。本実施例の場合は原子比でCr/Al≒3.7になり、スペーサ抵抗として適正な値に調節することができる。この被膜の比抵抗は約1×107Ω・cmであった。
【0080】
霧化は実施例1で用いたネブライザを用い、中心径約8μm、液滴径分布が1〜15μmで80体積%、霧化能力が20ml/minである。部材65の送り速度V2は、15mm/minとした。この条件で膜厚約200nmの被膜が部材65上に形成される。
【0081】
被膜が形成された部材67をブレードカッター64で825mmの長さに切断し、最終部材68(スペーサ)とした。
【0082】
次に、このようにして得られたスペーサを用いて図9に示した構成の画像表示装置を製造した。電子放出素子99の構成は図8及び図9に示した通りである。また、先ほど作成した凹凸表面を持つスペーサは、図9の94で示されるスペーサとして用いた。
【0083】
[工程1]
青板ガラスを基板95として用い、洗剤と純水により洗浄した後、スクリーン印刷法により、素子電極81,82の形状のMODペースト(DU−2110;ノリタケ(株)製)のパターンを形成した。このMODペーストは金属成分として、金を含むものである。
【0084】
印刷後、110℃で20分乾燥し、次いで熱処理装置によりピーク温度580℃、ピーク保持時間8分間の条件で上記MODペーストを焼成し、厚さ0.3μmの素子電極81,82を形成した。尚、素子電極間隔は10μmとした。
【0085】
[工程2]
次いで、金属成分として銀を含むペースト材料(NP−4028A;ノリタケ(株)製)を用い、スクリーン印刷法により列方向配線86のパターンを形成、工程1と同様の条件で焼成して列方向配線86を形成した。
【0086】
次にPbOを主成分とするペーストを用い、層間絶縁層のパターンを印刷して同様の条件で焼成し、層間絶縁層を形成した。
【0087】
[工程4]
工程2の列方向配線86と同様の方法で、行方向配線85を形成した。
【0088】
[工程5]
次いで、導電性薄膜83を形成した。具体的には、有機パラジウム含有溶液を、バブルジェット(登録商標)方式のインクジェット噴射装置を用いて、幅が200μmとなるように付与し、その後350℃で10分間の加熱処理を行って、酸化パラジウム微粒子から成る微粒子膜を得た。その後、上記基板95を弱アルカリ洗浄液で超音波洗浄した。洗浄液は0.4質量%TMAH(トリメチルアンモニウムハイドライド)を用い、超音波洗浄は2分間行った。洗浄後は純水で流水置換すすぎを5分間行い、付着水をエアーナイフで除去した後、オーブンにて120℃、2分間の乾燥を行った。
【0089】
その後以下に述べる方法により、基板95の表面を抵抗膜で被覆した。
【0090】
抵抗膜は、酸化スズに酸化アンチモンをドープした酸化物微粒子をエタノールとイソプロパノールの1:1混合液に分散させたものを用いた。固形物の質量濃度は約0.1質量%とした。
【0091】
塗布方法としてはスプレー法を用いた。スプレー装置を用い、液圧0.025MPa、エアー圧1.5Kg/cm2、基板−ヘッド間距離50mm、ヘッド移動速度0.8m/secの条件で塗布を行った。塗布後は膜の安定化のために425℃、20minの大気焼成を行った。
【0092】
上記基板95を、リアプレート92上に固定した後、スペーサ94をスペーサの両端に張力をかけて引っ張り、行方向配線上に、等間隔に11本配置した。その後、フェースプレート91(ガラス基板96の内面に蛍光膜97とメタルバック98が形成されている)を、側壁93、スペーサ94を介して配置し、フェースプレート91、側壁93、リアプレート92の接合部にフリットガラスを塗布し、大気中で450℃で10min焼成することで封着した。
【0093】
また、リアプレート92への基板95の固定もフリットガラスで行った。
【0094】
以上のようにして完成したガラス容器内の雰囲気を、排気管(図示せず)を通じ真空ポンプにて排気し、十分な真空度に達した後、容器外端子Dx1〜DxmとDy1〜Dynを通じて、電子放出素子99の電極81,82間に電圧を印加し、導電性薄膜83をフォーミング処理することにより、電子放出部84を形成した。
【0095】
フォーミング処理の電圧波形は、図10(b)と同様である。本実施例ではT1を1msec、T2を10msecとし、約2×10-3Paの圧力下で行った。尚、図10(a)の波形電圧を用いることも可能である。
【0096】
このように作成された電子放出部94は、パラジウム元素を主成分とする微粒子が分散配置された状態となり、その微粒子の平均粒径は3nmであった。
【0097】
次に、パネルの排気管より、アセトンをスローリークバルブを通してパネル内に導入し、0.1Paを維持した。次いで、上記フォーミング処理で使用した三角波を矩形波に変えて、波高14Vで、素子電流If(素子電極81,82間を流れる電流)、放出電流Ie(アノード(メタルバック98)に到達する(流れる)電流)を測定しながら、活性化処理をおこなった。
【0098】
以上のようにフォーミング、活性化処理を行い、電子放出部84を形成し、電子放出素子99を作製した。
【0099】
次に、10-6Pa程度の圧力まで排気し、不図示の排気管をガスバーナーで熱することで溶着してガラス容器の封止を行った。
【0100】
最後に封止後の真空度を維持するために、高周波加熱法でゲッター処理を行った。
【0101】
以上のように完成した本実施例の画像表示装置において、各電子放出素子99には、容器外端子Dx1〜Dxm,Dy1〜Dynを通じ、走査信号及び変調信号を不図示の信号発生手段より、それぞれ印加することにより、電子放出させて、高圧端子Hvを通じて、メタルバック98にVa=10kV以上の高圧を印加して電子ビームを加速し、蛍光膜97に衝突させて励起・発光させることで画像を表示した。
【0102】
その結果、安定した高品位な画像を表示し、電子ビームの偏向等も起きず、放電による破壊等も見られなかった。また、スペーサ94の周辺において、他の領域と異なるような電子到達位置(発光位置)の乱れは生じず、スペーサ94に起因すると考えられるような固定パターンは全く見られなかった。
【0103】
その後、この画像表示装置を分解し、スペーサ94を高分解能SEMで観察したところ、凹部と凸部にはほぼ200nm厚の均一な膜が成膜されていることが確認され、表面形態も、微小な凹凸や膜の異常成長などはなく、微視的に見てもスパッタ法に匹敵する平滑、清浄な表面が形成されていることが確認された。
【0104】
(比較例2)
図6の噴霧熱分解法での成膜を行う際に、前駆体の霧化を行うネブライザの振動子を取り替え、噴霧液滴径分布が異なるものでスペーサを製造した以外は、実施例2と同様にして画像表示装置を製造した。本例で用いたネブライザは、液滴の中心径約25μm、24μm以上の液滴径の占める体積割合が約65%を占めた。
【0105】
本例の画像表示装置において、高圧端子Hvを通じてメタルバック98に高圧Vaを印加していったところ、7kV付近まで印加したところで、スペーサ94から微小な点発光が起こっていることが確認された。この発光は加速電圧Vaを上げていくと輝度を上昇させていくことが確認された。
【0106】
さらにVa=10kVにおいて、電子放出素子99に信号電流及び走査電流を流して電子放出を行い、画像表示を行ったところ、数分以内でスペーサ94付近の微小の点発光付近から大放電が発生し、それ以後、その周りの電子放出素子99が破壊され、その後スペーサの近傍は、画像表示が出来なかった。
【0107】
この画像表示装置の駆動を停止し、分解してスペーサ94に関して高分解能SEMにおいて観察を行った。その結果、スペーサ94の表面は滑らかで、均一な被膜が成膜されていることがわかったが、実施例1のスペーサ表面と比べると、ごくわずかではあるが被膜表面の形態が乱れ、でこぼこになっている個所が発見された。スペーサ94の近傍から発生した微小な点発光は、これらのごくわずかなでこぼこが原因となって高圧がかかった時に電界放出が起きた可能性が高いと考えられる。
【0108】
また、この微小点発光がスペーサ94の帯電を引き起こし、画像表示をした際にさらにスペーサの帯電量が増えることにより最終的な放電を引き起こしたと考えられる。
【0109】
(実施例3)
スペーサの基体表面に設ける凹凸の凸部頂の最小間隔Sが15μm、深さHが10μmとした。これは、図6の63で示される、延伸ローラーに設けられている溝作成ブレードの形状を変えることにより対応した。
【0110】
噴霧熱分解法に用いる噴霧手段は、実施例2と同じで、噴霧液滴は、中心径が約8μm、液滴径分布は1〜15μmが80体積%であった。本実施例では、この噴霧液滴をさらに、微細孔を持つメッシュを通過させることにより分級し、中心径が約7μm、1〜10μmの範囲に全液滴の80体積%が存在するような分布を示す液滴とした。
【0111】
延伸ローラー63による送り速度は11mm/minとし、この条件で部材65上に膜厚が200nmの均一なCr−Al−O被膜を成膜した。実施例2と同じく、比抵抗は1×107Ω・cmであった。
【0112】
その後、実施例2と同様に画像表示装置を製造し、Va=10kVにおいて画像表示を行ったところ、安定した高品位な画像を表示し、電子ビームの偏向等も起きず、放電による破壊等も見られなかった。また、スペーサ94の周辺において、他の領域と異なるような電子到達位置(発光位置)の乱れは生じず、スペーサ94に起因すると考えられるような歪んだ画像パターンは全く見られなかった。
【0113】
その後、この画像表示装置を分解し、スペーサ94を高分解能SEMで観察したところ、凹部と凸部にはほぼ200nm厚の均一な被膜が成膜されていることが確認され、表面形態も、微小な凹凸や被膜の異常成長などはなく、微視的に見てもスパッタ法に匹敵する平滑、清浄な表面が形成されていることが確認された。
【0114】
(比較例3)
スペーサ94の製造工程において、ネブライザで生成される噴霧液滴を、メッシュによって分級せず、そのまま(中心径が約8μm、液滴径分布は1〜15μmが80体積%、12μm以上が40体積%以上)噴霧する以外は、全て実施例3と同様に行い、画像表示装置を製造した。
【0115】
その結果、比較例2と同様に、Va=7kV付近から、微小点発光が発生し、Va=10kV付近までVaを上げて画像表示を行うと、数分のうちに放電して、高品位な画像表示が不可能になった。
【0116】
その後、この画像表示装置を分解し、スペーサ94の高分解能SEMによる観察を行うと、スペーサ94のほぼ全域に渡って滑らかで欠陥のない被膜が成膜されていたが、ごくわずかに、平滑表面の乱れた場所があり、でこぼこな表面を形成していた。
【0117】
このスペーサ94表面のでこぼこが放電の原因になっている可能性が高いと考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明に用いられる噴霧熱分解法における基体表面周辺の模式図である。
【図2】本発明に用いられる噴霧熱分解法の概略模式図である。
【図3】噴霧熱分解法の基体温度と成膜メカニズムを示した模式図である。
【図4】実施例1で用いた基体の形状を示す模式図である。
【図5】実施例1で用いた噴霧熱分解法の系の模式図である。
【図6】加熱延伸法による基体形成工程の模式図である。
【図7】実施例2で用いた基体の形状を示す模式図である。
【図8】本発明による画像表示装置を構成する電子放出素子の一例の平面模式図である。
【図9】本発明による画像表示装置の一例の表示パネルの構成を模式的に示す斜視図である。
【図10】本発明の画像表示装置の製造方法に用いられるフォーミング電圧波形の説明図である。
【図11】実施例3で用いた基体の断面形状を示す模式図である。
【符号の説明】
【0119】
1 基体
2 液滴
3 ノズル
4 ヒーター
11 酸化物前駆体を含む溶液
12 固体成分
13 ガス状成分
14 酸化物微粒子
51a,51b 霧化ユニット
52 バルブ
53 キャリアガス
61 母材
62 ヒーター
63 延伸ローラー
64 カッター
65,67,68 部材
66 ノズル
81,82 素子電極
83 導電性薄膜
84 電子放出部
91 フェースプレート
92 リアプレート
93 側壁
94 スペーサ
95 電子源基板
96 ガラス基板
97 蛍光膜
98 メタルバック
99 電子放出素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸部頂の最小間隔Sが1〜60μm、高さHと間隔Sの比(H/S)が0.2以上の凹凸表面を有する基体表面に、噴霧熱分解法で酸化物被膜を形成する成膜方法であって、上記酸化物の前駆体溶液を、直径dが上記凹凸表面の最小間隔S×0.8より小さい液滴が体積割合で80%以上を占める霧状態にして、加熱した上記基体表面に対して噴霧することを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記液滴の形成手段が超音波噴霧器である請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記液滴が液滴形成手段により発生した液滴をさらに分級した後、基体表面に付与する請求項1または2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記凹凸表面の形状が、直線状に延びた凹状ストライプ部と凸状ストライプ部とが互いに繰り返される形状であり、該ストライプに直交する方向における前記基体の断面形状は、正弦波形状或いは矩形波形状である請求項1〜3のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項5】
前記成膜方法に用いられる酸化物の前駆体溶液の溶媒が、水、メタノール、エタノール、アセトン、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトンのいずれか、または2種以上の混合溶媒である請求項1〜4のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項6】
前記成膜方法に用いられる酸化物の前駆体が、金属またはSiを含む化合物のいずれか、または2種以上を含む請求項1〜5のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項7】
前記酸化物の前駆体が、アンモニウム塩、塩化物、硝酸塩、アセチルアセトネート錯体、DMP錯体、カルボン酸塩のいずれかである請求項6に記載の成膜方法。
【請求項8】
外囲器を有する薄型フラットパネルディスプレイの該外囲器内に配置される、スペーサの製造方法であって、
前記外囲器は、複数の電子放出素子と該電子放出素子の配線とを備えた電子源を有する第1の基板と、側壁と、前記側壁を介して前記第一の基板と対向配置し、前記電子放出素子から放出された電子の照射によって発光する発光部材を備えた第2の基板とを有し、
前記スペーサは、前記第1の基板と第2の基板との間に位置し、凸部頂の最小間隔Sが1〜60μm、高さHと間隔Sの比が0.2以上の凹凸表面を有する基体と、該基体表面を被覆する抵抗膜とを有し、
前記抵抗膜を請求項1に記載の成膜方法により前記基体表面に成膜することを特徴とするスペーサの製造方法。
【請求項9】
複数の電子放出素子と該電子放出素子の配線とを備えた電子源を有する第1の基板と、側壁と、前記側壁を介して前記第一の基板と対向配置し、前記電子放出素子から放出された電子の照射によって発光する発光部材を備えた第2の基板と、前記第1の基板と第2の基板との間に位置するスペーサとを有する外囲器を有する薄型フラットパネルディスプレイの製造方法であって、
前記スペーサは、凸部頂の最小間隔Sが1〜60μm、高さHと間隔Sの比が0.2以上の凹凸表面を有する基体と、該基体表面を被覆する抵抗膜とを有し、該スペーサを請求項8に記載のスペーサの製造方法により製造することを特徴とする薄型フラットパネルディスプレイの製造方法。
【請求項10】
外囲器を有する薄型フラットパネルディスプレイの該外囲器内に配置される、表面に凹凸形状を有するスペーサの製造方法であって、
表面に凹凸を有するスペーサ基体を加熱する工程と、
該加熱された基体に被膜材料を含む液体を塗布して被膜を形成する工程とを有し、
該被膜材料を含む液体の塗布は、超音波噴霧器によって行われることを特徴とするスペーサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−15332(P2006−15332A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142137(P2005−142137)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】