説明

成膜方法及び成膜装置

【課題】高アスペクト比の孔や溝が形成された基板にスパッタにより薄膜を成膜するに際し、前記孔や溝の内部にスパッタ粒子を堆積させることができ、成膜性の向上を図ることが可能な成膜方法を提供する。
【解決手段】本発明の成膜方法は、真空容器10内に配されたターゲット13に電圧を印加し、前記ターゲットと該ターゲットに対向して配された基板2との間の空間にプラズマを生成させ、前記プラズマにより前記ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子を前記基板上に堆積させることにより前記基板上に薄膜を形成する成膜方法において、前記ターゲットと前記基板との間に、該ターゲットから見て前記基板を遮るように、メッシュ状の中間電極18を配し、該中間電極にマイナス電位のパルス電圧を印加すること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングにより基板上に薄膜を形成する成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
孔や溝が形成された半導体基板に、スパッタにより薄膜を成膜する技術を考える。通常のスパッタでは、基板に対して斜めに入射するスパッタ粒子が存在するため孔・構の内部での成膜厚さは基板表面に比べて薄くなる。
【0003】
これを改善するために、基板にバイアス電圧を印加してスパッタ粒子を基板方向に引き込み、スパッタ粒子を基板に垂直に入射させて孔・構内への成膜性を高める方法がある。しかし、基板に高電圧がかかると基板上に形成されたデバイスが破損する恐れがあるため、印加できるバイアス電圧には限界がある。
【0004】
また、図5に示すように、半導体基板にスパッタ成膜する際に、ターゲット100と基板101の間に多孔グリッド電極102を設け、グリッド電極に直流負電圧または交流電圧を印加してスパッタ粒子の正イオンをグリッド方向に加速する方法も提案されている(例えば特許文献1参照)。ターゲットから放出されたスパッタ粒子をコイル電極103でイオン化し、グリッド電極に直流負電圧または交流電圧を印加してスパッタ粒子の正イオンをグリッド方向に加速する。グリッド電極は多孔であるので、加速されたイオンのほとんどはグリッドを通過し、基板に垂直に近い方向で基板上に入射する。
【0005】
この方法によるとグリッド電極には負電圧が印加される一方で、基板は接地されていることになる。そのため、ターゲットからグリッド方向に加速されたイオンがグリッドを通過した後は、今度はグリッド方向に引力を受け減速されることになる。基板に平行な速度成分はグリッドによって影響されないので、基板に近づくにつれてイオンの横方向の速度成分が無視できなくなり、結局基板に対して斜め方向にイオンが入射する。従って孔内への成膜性(すなわち、孔の側壁や底面に対して均一な膜厚を有する被膜の形成可能性)の改善には寄与しないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-213320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、高アスペクト比の孔や溝が形成された基板にスパッタにより薄膜を成膜するに際し、前記孔や溝の内部にスパッタ粒子を堆積させることができ、成膜性の向上を図ることが可能な成膜方法を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、高アスペクト比の孔や溝が形成された基板にスパッタにより薄膜を成膜するに際し、高アスペクト比の孔、溝の内部にスパッタ粒子を誘導する手段を備え、優れた成膜性を有する成膜装置を提供することを第二の目的とする。
なお、本発明において「成膜性」とは、孔や溝の内部にも均一な膜厚の薄膜を形成し得る性能を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の成膜方法は、真空容器内に配されたターゲットに電圧を印加し、前記ターゲットと該ターゲットに対向して配された基板との間の空間にプラズマを生成させ、前記プラズマにより前記ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子を前記基板上に堆積させることにより前記基板上に薄膜を形成する成膜方法において、前記ターゲットと前記基板との間に、該ターゲットから見て前記基板を遮るように、メッシュ状の中間電極を配し、該中間電極にマイナス電位のパルス電圧を印加すること、を特徴とする。
本発明の請求項2に記載の成膜方法は、請求項1において、前記中間電極を通過させることにより、前記基板の表面プロファイルに応じて、前記スパッタ粒子を均一に前記基板に向けて誘導することを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の成膜方法は、請求項1又は2において、前記スパッタ粒子をパルス電源を用いてイオン化し、かつ、前記パルス電源のパルス電圧と前記メッシュ電極に印加するパルス電圧とを同期させることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の成膜装置は、真空容器と、前記真空容器内にプロセスガスを供給するガス供給手段と、前記真空容器内のガスを排気する排気手段と、前記真空容器内に配されたターゲットと、前記真空容器内において前記ターゲットに対向して配され、基板を保持する基板ステージと、前記ターゲットに電圧を印加し、前記ターゲットと前記基板ステージとの間の空間にプラズマを生成させる電圧印加手段と、前記ターゲットと前記基板との間に、該ターゲットから見て前記基板を遮るように配された、メッシュ状の中間電極と、前記中間電極にマイナス電位のパルス電圧を印加するパルス電源と、を少なくとも備えたことを特徴とする。
請求項5に記載の成膜装置は、請求項4において、前記プラズマにより前記ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子をイオン化するイオン化機構を、さらに備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の成膜方法では、ターゲットと基板との間に、該ターゲットから見て前記基板を遮るように、メッシュ状の中間電極を配し、該中間電極にマイナス電位のパルス電圧を印加しているので、該パルス電圧によって、電荷をもつスパッタ粒子を基板へ垂直に入射させることが可能となる。これにより本発明では、高アスペクト比の孔、溝の内部にスパッタ粒子を堆積させることができ、成膜性を向上させた成膜方法を提供することが可能である。
【0010】
本発明の成膜装置では、ターゲットと基板との間に、該ターゲットから見て前記基板を遮るように配された、メッシュ状の中間電極と、前記中間電極にマイナス電位のパルス電圧を印加するパルス電源と、を備えているので、中間電極に印加されるパルス電圧によって、スパッタ粒子を基板へ垂直に入射させることが可能となり、高アスペクト比の孔、溝の内部にスパッタ粒子を誘導することができる。これにより本発明では、高アスペクト比の孔、溝の内部にスパッタ粒子を堆積させることができ、成膜性を向上させた成膜装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る成膜装置の一構成例を示す図。
【図2】本発明に係る成膜装置の他の構成例を示す図。
【図3】本発明においてスパッタ粒子の挙動を模式的に説明する図。
【図4】高アスペクト比の孔や溝の内部にスパッタ粒子が堆積される様子を示す図。
【図5】従来の成膜装置の一構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の成膜方法及び成膜装置の好適な実施形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る成膜装置の一構成例を模式的に示す図である。
本発明の成膜装置1は、真空容器10と、前記真空容器10内にプロセスガスを供給するガス供給手段11と、前記真空容器10内のガスを排気する排気手段12と、前記真空容器10内に配されたターゲット13と、前記真空容器10内において前記ターゲット13に対向して配され、基板2を保持する基板ステージ14と、前記ターゲット13に電圧を印加し、前記ターゲット13と前記基板ステージ14との間の空間にプラズマを生成させる電圧印加手段15と、前記ターゲット13と前記基板2との間に、該ターゲット13から見て前記基板2を遮るように配された、メッシュ状の中間電極18と、前記中間電極18にマイナス電位のパルス電圧を印加するパルス電源19と、を少なくとも備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明の成膜装置1では、ターゲット13と基板2との間に、該ターゲット13から見て前記基板2を遮るように配された、メッシュ状の中間電極18と、この中間電極18にマイナス電位のパルス電圧を印加するパルス電源19と、両者(中間電極18、パルス電源19)間を電気的に接続する配線20と、を備えているので、中間電極18に印加されるパルス電圧によって、スパッタ粒子3を基板2へ垂直に入射させることが可能となる。その際、ターゲット13の近傍には、イオン化源21が配され、このイオン化源21には直流電源22が配線23を介して電気的に接続されている。
これにより本発明では、高アスペクト比の孔や溝が形成された基板2に成膜するに際し、孔や溝の内部にスパッタ粒子を誘導し、孔や溝の内部にスパッタ粒子3を堆積させることができる。その結果、成膜性を向上することが可能である。すなわち、孔の側壁や底面に対して均一な膜厚を有する被膜を形成することが可能になる。
【0015】
図2は、本発明に係る成膜装置の他の一構成例を模式的に示す図である。
図2の成膜装置が、図1の成膜装置と異なる点は、必要とする電源の数である。他の構成は図1と図2は同一である。すなわち、図2の成膜装置においては、中間電極18に繋がるパルス電源19が、イオン化源21にも並列接続され、直流電源としても機能する。これにより、図2の成膜装置によれば、必要とする電源の数を半減できるので、低消費電力化とともに、省スペース化も同時に図ることが可能となる。
【0016】
真空容器10は、スパッタリングを行うために所定の真空度を維持する、鉄、ステンレス、アルミニウム等で形成される気密性の高い容器であり、接地されている。
真空容器10には、その内部に成膜にプロセスガスを供給するガス供給手段11および真空容器10内のガスを排気する排気手段12が取り付けられている。
ガス供給手段11により真空容器10内に供給されるプロセスガスとしては、アルゴン(Ar)、または、アルゴン(Ar)と酸素(O)の混合ガス等を用いることができる。
排気手段12は、真空容器10内を所定の真空度にすると共に、成膜中にこの所定の真空度に維持するために、真空容器10内のガスを排気する。
【0017】
ターゲット13の材料は特に限定されるものではないが、例えば、Ti、Cu、Cr等が挙げられる。またターゲット13のサイズは特に限定されるものではないが、例えば、表面積が約750cm(直径310mmの円形状)である。
【0018】
基板ステージ14は、前記真空容器10内において前記ターゲット13に対向して配される。この基板ステージ14に被処理体である基板2が保持される。この成膜装置1では、ターゲット13と基板2とが略平行になるように配置される。ターゲット13―基板2間の距離は特に限定されるものではないが、例えば10cm程度である。
【0019】
電圧印加手段15は、スパッタ電極16とスパッタ電極16に接続された高周波電源17とを備える。
スパッタ電極16は、真空容器10の内部の上方に配置され、その表面に成膜する圧電膜などの薄膜の組成に応じた組成のターゲット13を保持するようになっており、高周波電源17に接続されている。スパッタ電極16は高周波電源17からの高周波電力(負の高周波)の印加により放電して、真空容器10内に導入されたArなどのガスをプラズマ化し、Arイオン等のプラスイオンを生成させる。
【0020】
高周波電源17は、真空容器10内に導入されたArなどのガスをプラズマ化させるための高周波電力(負の高周波)をスパッタ電極16に供給するためのものであり、その一方の端部がスパッタ電極16に接続され、他方の端部が接地されている。電圧印加手段15のスパッタ印加電力は、特に限定されるものではないが、例えば、高周波電源17の周波数が13.56MHz、出力が1.5kW〜3.0kWとする。
【0021】
こうして生成されたプラスイオンは、ターゲット13をスパッタする。このようにして、プラスイオンにスパッタされた(叩き出された)ターゲット13の構成元素は、ターゲット13から放出され、中性あるいはイオン化された状態で、基板ステージ14に保持された基板2上に蒸着される。
【0022】
そして本発明の成膜装置1では、前記ターゲット13と前記基板2との間に、該ターゲット13から見て前記基板2を遮るように配された、メッシュ状の中間電極18と、前記中間電極18にマイナス電位のパルス電圧を印加するパルス電源19と、を備えている。
中間電極18は非磁性体からなることが好ましく、例えばステンレス鋼からなる。
【0023】
中間電極18のメッシュ形状としては特に限定されるものではなく、スパッタ粒子3が通過できるのであれば、何でも良い。メッシュの開口が大きいほうがスパッタ粒子3の透過率が良いが、メッシュの開口が大きすぎると中間電極18近辺の電場が不均一になる。メッシュの開口が小さすぎると、スパッタ粒子3が付着、堆積して目詰まりが生じ易くなる。例えばメッシュの開口をlcm角以下程度とする。
【0024】
中間電極18はターゲット13と基板2の間の空間に、該ターゲット13から見て前記基板2を遮るように設置する。
中間電極18が配される位置としては特に限定されるものではないが、スパッタ粒子3はメッシュ電極から基板2まで飛行する間に放電ガスの原子と衝突するため、中間電極18−基板2間の距離が長いとスパッタ粒子3が減速してしまう。例えば圧力1Paのときの平均自由行程がlcm程度である。ターゲット13−基板2間で基板寄りの位置、例えば基板2から1cm程度とすることが好ましい。
【0025】
真空容器10と基板ステージ14は接地し、中間電極18にはパルス電源19を接続してパルス的に負電圧を印加できるようにしておく。
パルス電源19のパルス印加電圧は特に限定されるものではないが、例えば100〜1000V程度とする。パルス印加電圧が200Vでスパッタ粒子3の基板垂直方向の速度が平行方向の10倍程度になり、電圧を上げるほど垂直性が良くなる。ただし電圧を上げすぎると中間電極18と基板2の間で放電してしまう。
【0026】
例えば、圧力を1Paとして、ターゲット13と基板2との離間距離を10cm、中間電極18と基板2との離間距離を1cm、中間電極18への印加電圧を200V、とそれぞれ設定した場合、スパッタ粒子がターゲット13から基板2まで飛行する時間は100μs程度となる。
また、パルス電源19のパルス周波数としては特に限定されるものではないが、例えば5〜10kHzの矩形波とする。パルス周波数がこれより短すぎると、イオンが基板2に到達する前に押し戻されてしまう。
【0027】
なお、本発明の成膜装置1は、前記プラズマにより前記ターゲット13から叩き出されたスパッタ粒子3をイオン化するイオン化機構を、さらに備えていることが好ましい。イオン化機構は、イオン化源21、直流電源22、およびイオン化源21と直流電源22を接続する配線23からなる。イオン化源21(例えばフィラメント)へ直流電源22より電流を流し加熱して熱電子を放出させる。ターゲット13と基板2との間において、イオン化源21から放出された熱電子をスパッタ粒子3及びスパッタ放電用のプロセスガスの粒子に衝突させてスパッタ粒子3をイオン化するものである。これにより、電荷をもつスパッタ粒子3が増えるため、メッシュ電極で垂直方向に加速するスパッタ粒子3が増加し、高アスペクト比の孔、溝の内部に効率よく成膜できる。
【0028】
次に、このような成膜装置1を用いて、基板2上に薄膜を形成する成膜方法について説明する。
本発明の成膜方法は、真空容器10内に配されたターゲット13に電圧を印加し、前記ターゲット13と前記ターゲット13に対向して配された基板2との間の空間にプラズマを生成させ、前記プラズマにより前記ターゲット13から叩き出されたスパッタ粒子3を前記基板2上に堆積させることにより前記基板2上に膜を形成する成膜方法において、前記ターゲット13と前記基板2との間に、該ターゲット13から見て前記基板2を遮るように、メッシュ状の中間電極18を配し、該中間電極18にマイナス電位のパルス電圧を印加すること、を特徴とする。
【0029】
本発明の成膜方法では、ターゲット13と基板2との間に、該ターゲット13から見て前記基板2を遮るように、メッシュ状の中間電極18を配し、該中間電極18にマイナス電位のパルス電圧を印加しているので、該パルス電圧によって、電荷をもつスパッタ粒子3を基板2へ垂直に入射させることが可能となる。これにより本発明では、高アスペクト比の孔や溝が形成された基板2に成膜するに際し、孔、溝の内部にスパッタ粒子3を堆積させることができる。その結果、成膜性を向上することが可能である。すなわち、孔の側壁や底面に対して均一な膜厚を有する被膜を形成することが可能になる。
【0030】
真空容器10内に配されたターゲット13に電圧を印加し、前記ターゲット13と前記ターゲット13に対向して配された基板2との間の空間にプラズマを生成させ、前記プラズマにより前記ターゲット13から叩き出されたスパッタ粒子3を前記基板2上に堆積させる。
まず、真空容器10内にスパッタリング用のターゲット13を装着して保持させるとともに、真空容器10内において、ターゲット13と対向する位置に離間して配置された基板ステージ14に薄膜を成膜する基板2を装着して保持させる。
その後、排気手段12により真空容器10内が所定の真空度になるまで排気し、所定の真空度を維持しながら、ガス供給手段11によりアルゴンガス(Ar)などのプラズマ用ガスを供給する。真空容器10内の圧力は特に限定されるものではないが、例えば1Paとする。
【0031】
そして、電圧印加手段15によりスパッタ電極16に高周波(負の高周波電力)を印加して、スパッタ電極16を放電させて、真空容器10内に導入されたArなどのガスをプラズマ化し、Arイオン等のプラスイオンを生成させる。
こうして形成されたプラスイオンは、ターゲット13をスパッタし、スパッタされた(叩き出された)ターゲット13の構成元素からなるスパッタ粒子3は、ターゲット13から放出され、中性あるいはイオン化された状態で、対向離間配置された基板ステージ14に保持された基板2上に蒸着され、成膜が開始される。
【0032】
そして特に本発明では、ターゲット13と基板2との間に、該ターゲット13から見て前記基板2を遮るように、メッシュ状の中間電極18を配し、該中間電極18にマイナス電位のパルス電圧を印加している。
簡単のため、イオン化されたスパッタ粒子3がターゲット13近傍のみに存在する場合をまず考える。スパッタ粒子3イオンは、メッシュ状の中間電極18に負電圧が印加されている間は基板2に垂直方向に加速される[図3(a)参照]。ここでイオンが中間電極18を通過した直後に中間電極18を接地電位に落とすと、イオンは力を受けなくなりそのままの速度で直進する[図3(b)参照]。従って、スパッタ粒子3イオンは基板2に垂直方向に入射させることが可能となる。これにより高アスペクト比の孔、溝の内部にスパッタ粒子3を堆積させることができ、成膜性を向上することができる。
【0033】
図4は、高アスペクト比の孔や溝の内部にスパッタ粒子が堆積される様子を模式的に示す図である。図4(a)と図4(b)は従来の成膜装置の場合を、図4(c)と図4(d)は本発明の成膜装置の場合を、それぞれ示している。特に、図4(a)と図4(c)は基板に対してスパッタ粒子が飛来する様子(堆積前)を、図4(b)と図4(d)は基板に対して成膜された状態(堆積後)を、それぞれ表している。
【0034】
従来の成膜方法および成膜装置では、図4(a)に示すように、基板2に設けた孔や溝4に対して、スパッタ粒子3a、3b、3c(3)は異なる角度を成して飛来する。ゆえに、各スパッタ粒子3a、3b、3c(3)は、孔や溝の内底面4a(4)や内側面4b(4)、基板の表面2aに対して付着確率に偏りが生じる。その結果、図4(b)に示すように、基板の表面2aに膜が厚く成長し、孔や溝の内側面4b(4)では奥に向かうほど膜が薄くなり、孔や溝の内底面4a(4)には最も薄い膜が形成される傾向があった。
【0035】
これに対して、本発明の成膜方法および成膜装置においては、図4(c)に示すように、全てのスパッタ粒子3x、3y、3z(3)が基板4に対して略垂直を成して飛来する。ゆえに、各スパッタ粒子3x、3y、3z(3)は、孔や溝の内底面4a(4)や内側面4b(4)、基板の表面2aに対して、同レベルの付着確率をもつことになる。その結果、図4(d)に示すように、基板の位置に依存することなく、ほぼ同レベルの厚さの膜が形成される。すなわち、本発明によれば、基板の表面2a、基板の孔や溝の内側面4b(4)、基板の孔や溝の内底面4a(4)に依存せず、従来より均一な厚さの膜を、安定して形成することが可能である。
【0036】
換言すると、本発明に係る成膜装置においては、ターゲット13近傍でスパッタ粒子3をパルス電源19を用いてイオン化すると、イオン化直後にはスパッタ粒子3イオンはターゲット13近傍のみに存在する。そこで、前記パルス電源19のパルス電圧と前記メッシュ電極に印加するパルス電圧とを適切なタイミングで同期させることが好ましい。これによりイオン化したスパッタ粒子3を、効率的に基板2へ入射させることができ、成膜性をさらに向上することができる。
【0037】
常時イオン化が行われるようなイオン化源を使用する場合は、中間電極18に負電圧を印加している間はイオンが中間電極18方向への引力を受け、接地電位に落ちている間は力を受けない。従って、中間電極18に負電圧を印加させる瞬間にターゲット13と中間電極18の間の空間にあるイオンは基板方向に加速される一方で、中間電極18と基板2の間にあるイオンは基板2から遠ざかる方向に加速されるので、スパッタ粒子3をパルスでイオン化する場合より効率は落ちる。
【0038】
なお、本発明では、前記中間電極18を通過させることにより、前記基板2の表面プロファイルに応じて、前記スパッタ粒子3を均一に前記基板2に向けて誘導することが好ましい。これによりメッシュ電極で垂直方向に加速するスパッタ粒子3が増加し、効率よく成膜することができる。
【0039】
以上、本発明の成膜方法及び成膜装置について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、スパッタリングにより基板上に膜を形成する成膜方法及び成膜装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 成膜装置、2 基板、3 スパッタ粒子、10 真空容器、11 ガス供給手段、12 排気手段、13 ターゲット、14 基板ステージ、15 電圧印加手段、16 スパッタ電極、17 高周波電源、18 中間電極、19 パルス電源、20、23 配線、21 イオン化源、22 直流電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に配されたターゲットに電圧を印加し、前記ターゲットと該ターゲットに対向して配された基板との間の空間にプラズマを生成させ、前記プラズマにより前記ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子を前記基板上に堆積させることにより前記基板上に薄膜を形成する成膜方法において、
前記ターゲットと前記基板との間に、該ターゲットから見て前記基板を遮るように、メッシュ状の中間電極を配し、該中間電極にマイナス電位のパルス電圧を印加すること、を特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記中間電極を通過させることにより、前記基板の表面プロファイルに応じて、前記スパッタ粒子を均一に前記基板に向けて誘導することを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記スパッタ粒子をパルス電源を用いてイオン化し、かつ、前記パルス電源のパルス電圧と前記メッシュ電極に印加するパルス電圧とを同期させることを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜方法。
【請求項4】
真空容器と、
前記真空容器内にプロセスガスを供給するガス供給手段と、
前記真空容器内のガスを排気する排気手段と、
前記真空容器内に配されたターゲットと、
前記真空容器内において前記ターゲットに対向して配され、基板を保持する基板ステージと、
前記ターゲットに電圧を印加し、前記ターゲットと前記基板ステージとの間の空間にプラズマを生成させる電圧印加手段と、
前記ターゲットと前記基板との間に、該ターゲットから見て前記基板を遮るように配された、メッシュ状の中間電極と、
前記中間電極にマイナス電位のパルス電圧を印加するパルス電源と、を少なくとも備えたことを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
前記プラズマにより前記ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子をイオン化するイオン化機構を、さらに備えていることを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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