説明

成膜方法

【課題】基板上に膜の材料液を塗布する際に材料液の膜厚変動を防止して、基板上に均一な膜厚の膜を形成することができる成膜方法を提供する。
【解決手段】基板Pに材料液Lを塗布する塗布工程を少なくとも二回有し、最初の塗布工程において塗布する材料液Lの塗布量が、次の塗布工程において塗布する材料液Lの塗布量よりも少ないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板の表面に均一な膜厚の薄膜を形成できる成膜方法が知られている。この成膜方法は、ヘッドに並設された複数のノズルから溶液を噴射して、その下側を搬送される基板の表面に上記溶液を塗布する塗布方法において、上記基板を搬送し、その表面に上記ノズルから溶液を噴射塗布する第1の塗布工程と、上記第1の塗布工程終了後、上記基板を所定の角度だけ回転し、その向きを上記ノズルの並設方向に対して相対的に変える回転工程と、上記回転工程終了後、上記基板を再び搬送し、その表面に上記ノズルから溶液を噴射塗布する第2の塗布工程と、を具備するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、各ノズルから基板に溶液をドットで噴射する工程と、ヘッドと基板とを所定方向に相対的に移動させて所定間隔の一対のノズルから最初に基板に噴射された一対のドット間の部分を複数のドットによって塗り潰す工程とを具備し、最初に基板に所定間隔で噴射された一対のドット間の部分は、最初に噴射塗布されたドットに最後に噴射塗布されるドットが隣接することのない順序で、複数のドットによって塗り潰すものが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−193232号公報
【特許文献2】特開2005−721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の成膜方法では、例えば、液晶装置に用いられる配向膜を成膜するために、ポリイミドが溶解した溶液等、比較的粘度の高い材料液を塗布する場合には、塗布された材料液の膜厚が不均一になるという課題がある。
例えば、基板上に塗布された材料液の膜厚を均一化させるためのレベリング時間が不十分であると、材料液の塗布時の液滴吐出ヘッドの重なり等により、材料液にスジ状の膜厚ムラが発生する。一方、レベリング時間を長くすると、スジ上の膜厚ムラは低減されるが、塗布された材料液の周縁部が乾燥し、材料液が周縁部に移動して膜厚が増加する、いわゆる「しみ上がり」が発生する。
【0005】
そこで、この発明は、基板上に膜の材料液を塗布する際に材料液の膜厚変動を防止して、基板上に均一な膜厚の膜を形成することができる成膜方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の成膜方法は、溶媒に膜の材料を溶解させた材料液を液滴吐出法により基板上に塗布して成膜する成膜方法であって、前記基板に前記材料液を塗布する塗布工程を有し、前記塗布工程は、複数回行い、最初の塗布工程において塗布する前記材料液の塗布量が、その他の塗布工程において塗布する前記材料液の塗布量よりも少ないことを特徴とする。
【0007】
このように成膜することで、最初の塗布工程において基板上に塗布される一層目の材料液の膜厚が、材料液を一度に塗布する場合の膜厚や、最初の塗布工程における材料液の塗布量を次の塗布工程の塗布量以上とする場合の膜厚と比較して薄くなる。そのため、一層目の材料液の膜にスジ状の膜厚ムラが発生し難くなり、レベリング時間を短縮できる。また、一層目の材料液の膜厚が薄くなることで膜全体が乾燥しやすくなり、膜全体が均一に乾燥することで、材料液の移動による周縁部の膜厚の増加(いわゆる「しみ上がり」)を防止できる。
また、次の塗布工程において基板上に液滴を吐出する際には、基板上には一層目の材料液の膜が塗布され、材料液の溶媒が蒸発してその蒸気に覆われた状態となっている。これにより、基板上に吐出された材料液の液滴の乾燥が防止され、基板上で液滴が容易に濡れ拡がる。そのため、二層目の材料液の膜において、スジ状の膜厚ムラや周縁部の膜厚の増加が防止されて膜厚が均一になり、レベリング時間を短縮、あるいは省略することができる。
したがって、本発明の成膜方法によれば、基板上に膜の材料液を塗布する際に、材料液の膜厚変動を防止して均一な膜厚で塗布し、基板上に均一な膜厚の膜を形成することができる。
【0008】
また、本発明の成膜方法は、前記最初の塗布工程において、前記基板に吐出する前記材料液の液滴の中心間の間隔が、前記基板に前記液滴が着弾して拡がったときの径以下となるように、前記液滴を吐出することを特徴とする。
【0009】
このように成膜することで、最初の塗布工程によって基板上に塗布される液滴同士が基板上で繋がって連続的な膜を形成することができ、基板上に一層目の材料液の膜を均一な膜厚で形成することができる。
【0010】
また、本発明の成膜方法は、前記最初の塗布工程において、前記液滴の中心間の間隔が、前記基板に前記液滴が着弾して拡がったときの径と等しくなるように、前記液滴を吐出することを特徴とする。
【0011】
このように成膜することで、基板上に塗布される一層目の材料液の膜厚を、材料液の液滴同士が辛うじて繋がる程度に薄くして、スジ状の膜厚ムラの発生や周縁部の膜厚増加をより効果的に防止でき、レベリング時間を短縮、あるいは省略することができる。
【0012】
また、本発明の成膜方法は、前記最初の塗布工程において前記材料液を塗布する第一塗布領域を、前記その他の塗布工程において前記材料液を塗布する第二塗布領域と等しいか該第二塗布領域内とすることを特徴とする。
【0013】
このように成膜することで、二回目の塗布工程において基板上に塗布される材料液が第二塗布領域の外側へ濡れ拡がることを防止できる。
【0014】
また、本発明の成膜方法は、前記その他の前記塗布工程において塗布される前記材料液の膜厚変動を想定し、前記膜厚変動に応じて前記最初の塗布工程における前記材料液の塗布量を前記膜の膜厚が均一となるように調整することを特徴とする。
【0015】
このように成膜することで、二層目の材料液の膜厚変動を一層目の材料液によって吸収し、基板上に材料液の膜を均一な膜厚で形成して、基板上に均一な膜厚の膜を形成することができる。
【0016】
また、本発明の成膜方法は、前記膜は、液晶分子の配向方向を規定する配向膜であることを特徴とする。
【0017】
このように成膜することで、配向膜の膜厚を均一にして、液晶装置の表示性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0019】
(成膜装置)
図1は、液滴吐出法により基板P上に膜を成膜する成膜装置10の概略構成を示す模式図である。図1に示すように、成膜装置10は、ベース31と、基板移動手段32と、ヘッド移動手段33と、液滴吐出ヘッド34と、液体供給部35と、制御装置40とを備えて構成されている。ベース31の上には、基板移動手段32と、ヘッド移動手段33とが設置されている。また、成膜装置10は、不図示のクリーニングユニットと、キャッピングユニットとを備えている。
【0020】
基板移動手段32はベース31上に設けられ、Y軸方向に沿って配置されたガイドレール36を有している。この基板移動手段32は、例えばリニアモータ(図示せず)により、スライダ37をガイドレール36に沿って移動させるよう構成されている。
スライダ37上にはステージ39が固定されており、このステージ39は、基板Pを位置決めして保持するためのものである。即ち、このステージ39は、公知の吸着保持手段(図示せず)を有し、この吸着保持手段を作動させることにより、基板Pをステージ39の上に吸着保持するように構成されている。基板Pは、例えばステージ39の位置決めピン(図示せず)により、ステージ39上の所定位置に正確に位置決めされ、保持されるようになっている。
【0021】
ヘッド移動手段33は、ベース31の後部側に立てられた一対の架台33a、33aと、これら架台33a、33a上に設けられた走行路33bを備え、この走行路33bをX軸方向、即ち前記の基板移動手段32のY軸方向と直交する方向に沿って配置したものである。走行路33bは、架台33a、33a間に渡された保持板33cと、この保持板33c上に設けられた一対のガイドレール33d、33dとを備え、ガイドレール33d、33dの長さ方向に液滴吐出ヘッド34を搭載するキャリッジ42を移動可能に保持している。キャリッジ42は、リニアモータ(図示せず)等の作動によってガイドレール33d、33d上を走行し、これにより液滴吐出ヘッド34をX軸方向に移動させるように構成されている。
【0022】
キャリッジ42は、ガイドレール33d、33dの長さ方向、即ちX軸方向に、例えば、1μm単位で移動可能になっている。キャリッジ42のこのような移動はコンピュータ等からなる制御装置40によって制御可能に構成されている。
制御装置40は、液滴吐出ヘッド34の位置情報、即ち液滴吐出ヘッド34のガイドレール33d、33d上での位置(X座標)とそのときの各ノズルの位置(X座標)とを検知して記憶するものである。
【0023】
液滴吐出ヘッド34は、キャリッジ42に取付部43を介して回動可能に取り付けられたものである。取付部43にはモータ44が設けられており、液滴吐出ヘッド34はその支持軸(図示せず)がモータ44に連結している。このような構成のもとに、液滴吐出ヘッド34はその周方向に回動可能となっている。また、モータ44も制御装置40に接続されており、これによって液滴吐出ヘッド34はその周方向への回動が、制御装置40に制御されるようになっている。
【0024】
液体供給部35は、インク(材料液)Lが充填されたインク供給容器45と、インク供給容器45から液滴吐出ヘッド34にインクLを送るためのインク供給チューブ46とを備えたものである。
【0025】
ここで、この実施の形態では、インクLとして、例えば、溶媒に液晶分子の配向を規制する配向膜の材料を溶解させたものを用いている。配向膜の材料としては、例えば、ポリイミドが用いられ、この配向膜の材料を溶解可能な溶媒として、例えば、ブチルセロソルブ等の有機溶剤を用いることができる。
【0026】
図2は液滴吐出ヘッド34の構成を説明する断面図、図3は液滴吐出ヘッド34の要部断面図である。
この実施の形態における液滴吐出ヘッド34は、導入針ユニット117、ヘッドケース118、流路ユニット119及びアクチュエータユニット120を主な構成要素としている。
導入針ユニット117の上面にはフィルタ121を介在させた状態で2本の液体導入針122が横並びで取り付けられている。これらの液体導入針122には、サブタンク102がそれぞれ装着される。また、導入針ユニット117の内部には、各液体導入針122に対応した液体導入路123が形成されている。
この液体導入路123の上端はフィルタ121を介して液体導入針122に連通し、下端はパッキン124を介してヘッドケース118内部に形成されたケース流路125と連通する。
【0027】
フィルタ121は、インクLに含まれる異物を除去するために配設され、その材質は、例えば、ステンレス鋼であって、メッシュ状に形成されている。
【0028】
サブタンク102は、ポリプロピレン等の樹脂製材料によって成型されている。このサブタンク102には、液室127となる凹部が形成され、この凹部の開口面に弾性シート126を貼設して液室127が区画されている。
また、サブタンク102の下部には液体導入針122が挿入される針接続部128が下方に向けて突設されている。サブタンク102における液室127は、底の浅いすり鉢形状をしている。液室127の側面における上下中央よりも少し下の位置には、針接続部128との間を連通する接続流路129の上流側開口が臨んでおり、この上流側開口にはインクLを濾過するタンク部フィルタ130がそれぞれ取り付けられている。
【0029】
針接続部128の内部空間には液体導入針122が液密に嵌入されるシール部材131が嵌め込まれている。このサブタンク102には、インク供給チューブ46が接続される。インク供給チューブ46は、液体供給部35のインク供給容器45に貯留されたインクLを供給する。したがって、インク供給チューブ46を通ってきたインクLは、この液室127に流入する。
【0030】
上記の弾性シート126は、液室127を収縮させる方向と膨張させる方向とに変形可能である。そして、この弾性シート126の変形によるダンパ機能によって、インクLの圧力変動が吸収される。即ち、弾性シート126の作用によってサブタンク102が圧力ダンパとして機能する。従って、インクLは、サブタンク102内で圧力変動が吸収された状態で液滴吐出ヘッド34側に供給される。
【0031】
ヘッドケース118は、合成樹脂製の中空箱体状部材であり、下端面に接着剤を介して流路ユニット119を接合し、内部に形成された収容空部137内にアクチュエータユニット120を収容し、流路ユニット119側とは反対側の上端面にパッキン124を介在した状態で導入針ユニット117を取り付けるようになっている。
このヘッドケース118の内部には、高さ方向を貫通してケース流路125が設けられている。このケース流路125の上端は、パッキン124を介して導入針ユニット117の液体導入路123とそれぞれ連通するようになっている。
また、ケース流路125の下端は、流路ユニット119内の共通インク室144に連通するようになっている。従って、液体導入針122から導入されたインクLは、液体導入路123及びケース流路125を通じて共通インク室144側にそれぞれ供給される。
【0032】
ヘッドケース118の収容空部137内に収容されるアクチュエータユニット120は、図3に示すように、櫛歯状に列設された複数の圧電振動子138と、この圧電振動子138が接合される固定板139と、制御装置40からの駆動信号を圧電振動子138供給する配線部材としてのフレキシブルケーブル140とから構成される。各圧電振動子138は、固定端部側が固定板139上に接合され、自由端部側が固定板139の先端面よりも外側に突出している。即ち、各圧電振動子138は、所謂片持ち梁の状態で固定板139上にそれぞれ取り付けられている。
【0033】
また、各圧電振動子138を支持する固定板139は、例えば、厚さ1mm程度のステンレス鋼によって構成されている。そして、アクチュエータユニット120は、固定板139の背面を、収容空部137を区画するケース内壁面に接着することで収容空部137内にそれぞれ収納・固定されている。
【0034】
流路ユニット119は、振動板141、流路基板142及びノズル基板143からなる流路ユニット構成部材を積層した状態で接着剤を介して接合して一体化することにより作製されている。これらは、共通インク室144からインク供給口145及び圧力室146を通りノズル147に至るまでの一連のインク流路を形成する部材である。
【0035】
圧力室146は、ノズル147の列設方向に対して直交する方向に細長い室として形成されている。
また、共通インク室144は、ケース流路125と連通し、液体導入針122側からのインクLが導入される室である。そして、この共通インク室144に導入されたインクLは、インク供給口145を通じて圧力室146に分配供給される。
【0036】
流路ユニット119の底部に配置されるノズル基板143は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル147を列状に開設した金属製の薄い板材である。この実施の形態のノズル基板143は、ステンレス鋼の板材によって作製され、この実施の形態においてはノズル147の列が、それぞれサブタンク102に対応して形成されている。
ノズル基板143と振動板141との間に配置される流路基板142は、インク流路及び処理液流路となる流路部、具体的には、共通インク室144、インク供給口145及び圧力室146となる空部が区画形成された板状の部材である。
【0037】
この実施の形態において、流路基板142は、結晶性を有する基材であるSiウェハーを異方性エッチング処理することによって作製されている。振動板141は、ステンレス鋼等の金属製の支持板上に弾性フィルムをラミネート加工した二重構造の複合板材である。この振動板141の圧力室146に対応する部分には、エッチングなどによって支持板を環状に除去することで、圧電振動子138の先端面が接合される島部148が形成されており、この部分はダイヤフラム部として機能する。即ち、この振動板141は、圧電振動子138の作動に応じて島部148の周囲の弾性フィルムが弾性変形するように構成されている。また、振動板141は、流路基板142の一方の開口面を封止し、コンプライアンス部149としても機能する。このコンプライアンス部149に相当する部分についてはダイヤフラム部と同様にエッチングなどにより支持板を除去して弾性フィルムだけにしている。
【0038】
そして、上記の液滴吐出ヘッド34において、フレキシブルケーブル140を通じて駆動信号が圧電振動子138に供給されると、この圧電振動子138が素子長手方向に伸縮し、これに伴い島部148が圧力室146に近接する方向或いは離隔する方向に移動する。これにより、圧力室146の容積が変化し、圧力室146内のインクLに圧力変動が生じる。この圧力変動によってノズル147から液滴状となったインクLが吐出される。
【0039】
(配向膜の成膜方法)
次に、この実施の形態の成膜方法について説明する。この実施の形態では、基板Pとして透明基板上に絶縁膜、TFT、電極及び配線等が形成された液晶装置の素子基板を用い、成膜装置10を用いて基板P上に配向膜を成膜する方法について説明する。
【0040】
まず、図1に示すように、ステージ39上に基板Pを位置決めピンにより位置決めして配置し、吸着保持手段に吸着保持する。これにより、基板Pは、ステージ39上に正確に位置決めされた状態で保持される。
次に、基板移動手段32及びヘッド移動手段33により液滴吐出ヘッド34を移動させると共に、取付部43のモータ44を作動させて、図4に示すように、液滴吐出ヘッド34を基板Pに対する初期位置に配置する。
【0041】
次に、基板移動手段32によりステージ39をY軸正方向に移動させることで、液滴吐出ヘッド34を基板Pに対してY軸負方向に移動させながら、液滴吐出ヘッド34のノズル147から基板P上に、図5(a)に示すように、インクLを液滴として吐出して塗布する。ここで、インクLの液滴の中心間の間隔Cは、インクLの液滴が、図5(b)に示すように基板P上に着弾して、図5(c)に示すように基板P上で拡張したときの径Dと等しくなるように調整する。また、インクLは、図4に示すように、基板P上の配向膜の形成領域Aと等しい領域(第一塗布領域)に塗布する。
【0042】
配向膜の形成領域Aの初期位置側の縁から初期位置とは反対側の縁までインクLを塗布したら、ヘッド移動手段33により、図4に示すように、液滴吐出ヘッド34をX軸正方向に移動させて改行し、基板移動手段32によりステージ39をY軸負方向に移動させる。そして、液滴吐出ヘッド34を基板Pに対してY軸正方向に移動させながら、液滴吐出ヘッド34のノズル147から基板P上にインクLを吐出して塗布する。このように、配向膜の形成領域Aの外縁でX軸正方向に改行を繰り返しながら、液滴吐出ヘッド34をY軸方向に往復させ、配向膜の形成領域Aの全域にインクLを塗布する(最初の塗布工程)。
これにより、基板P上の配向膜の形成領域Aに、図5(c)に示すようにインクLの液滴同士が辛うじて繋がる程度にインクLが薄く塗布された状態となる。そして、基板P上でインクLの溶媒が蒸発してその蒸気が発生し、基板P上がインクLの溶媒の蒸気によって覆われた状態となる。
【0043】
次に、液滴吐出ヘッド34を再び初期位置に移動させる。そして、上述のように、液滴吐出ヘッド34を基板Pに対してY軸負方向に移動させながら、液滴吐出ヘッド34のノズル147から基板P上に塗布された一層目のインクL上に、インクLの液滴を吐出して塗布する。そして、最初の塗布工程と同様に、配向膜の形成領域Aの外縁でX軸正方向に改行を繰り返しながら、液滴吐出ヘッド34をY軸方向に往復させ、配向膜の形成領域(第二塗布領域)Aの全域にインクLを塗布する(次の塗布工程)。
【0044】
ここで、二回目の塗布工程におけるインクLの吐出量は、最初の塗布工程におけるインクLの吐出量よりも多くする。この実施の形態では、最初の塗布工程におけるインクLの塗布量は、次の塗布工程におけるインクLの塗布量の約5%前後となっている。また、成膜される配向膜の膜厚は、例えば、約50nm〜約100nm程度である。
【0045】
このとき、図6(a)に示すように、基板P上には最初の塗布工程で一層目のインクLの膜が均一な膜厚で塗布されて、インクLの溶媒の蒸気によって覆われた状態となっている。そのため、次の塗布工程で吐出されたインクLの液滴は、基板P上に着弾した後に乾燥が防止され、図6(b)に示すように基板P上で容易に濡れ拡がり、均一な膜厚のインクLの膜が形成される。
次いで、基板P上に塗布されたインクLを、例えば、加熱乾燥させることで、基板P上に配向膜が成膜される。
【0046】
以上説明したように、この実施の形態によれば、最初の塗布工程のインクLの塗布量を次の塗布工程のインクの塗布量よりも少なくすることで、基板P上に塗布される一層目のインクLの膜厚が、インクLを一度に塗布する場合の膜厚や、最初の塗布工程におけるインクLの塗布量を次の塗布工程の塗布量以上とする場合の膜厚と比較して小さくなる。そのため、一層目のインクLの膜にスジ状の膜厚ムラが発生し難くなる。また、膜厚が薄くなることで、一層目のインクLの膜全体が乾燥しやすくなり、周縁部の乾燥による膜厚の増加を防止でき、均一な膜厚のインクLの膜を形成できる。これにより、レベリング時間を短縮、あるいは省略できる。
【0047】
また、最初の塗布工程においてインクLの液滴の中心間の間隔Cを、インクLの液滴が基板P上に着弾して、基板P上で拡張したときの径Dと等しくなるように調整することで、一層目のインクLの膜厚を、基板P上に着弾して拡張したインクLの液滴同士が辛うじて繋がる程度の薄い膜厚とすることができる。これにより、一層目のインクLの膜にスジ状の膜厚ムラが発生することをより効果的に防止できる。また、一層目のインクLの膜全体がより乾燥しやすくなり、周縁部の乾燥による膜厚の増加をより効果的に防止でき、より均一な膜厚のインクLの膜を形成できる。これにより、レベリング時間を省略することが可能になる。
【0048】
また、次の塗布工程において基板P上に液滴を吐出する際には、基板P上には一層目のインクLの膜が塗布され、インクLの溶媒が蒸発してその蒸気に覆われた状態となっている。これにより、基板P上に吐出されたインクLの液滴の乾燥が防止され、基板P上で液滴が容易に濡れ拡がる。そのため、二層目のインクLの膜においてもスジ状の膜厚ムラや周縁部のしみ上がりが防止され、二層目のインクLの膜厚を均一にすることができる。これにより、レベリング時間を短縮、あるいは省略することができる。
【0049】
したがって、この実施の形態の成膜方法によれば、基板P上に配向膜の材料液であるインクLを塗布する際に、インクLの膜厚変動を防止して均一な膜厚で塗布し、基板P上に均一な膜厚の配向膜を形成することができる。さらに、この基板Pを液晶装置の基板として用いることで、基板間に挟持された液晶層の層厚を均一にして、液晶装置の表示性能を向上させることができる。
【0050】
尚、この発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、上述の実施形態では単一の液滴吐出ヘッドを備えた成膜装置について説明したが、液滴吐出ヘッドを複数備えた成膜装置を用いてもよい。
また、インクの液滴の中心間の間隔は、インクの液滴が基板上に着弾して拡張したときの径以下となるように調整してもよい。これにより、最初の塗布工程によって基板上に塗布される液滴同士が基板上で繋がって連続的な膜を形成することができ、基板上に一層目の材料液の膜を均一な膜厚で形成することができる。
また、最初の塗布工程において、次の塗布工程において塗布される材料液の膜厚変動を想定し、膜厚変動に応じてインクの塗布量を膜の膜厚が均一となるように調整してもよい。例えば、二回目の塗布工程で塗布するインクの周縁部において膜厚が増加する場合には、最初の塗布工程において塗布する材料液の周縁部の膜厚を他の部分よりも小さくしておくことで、最終的なインクの膜厚を均一にすることができ、均一な膜厚の配向膜を形成することができる。
また、上述の実施形態では、最初の塗布工程においてインクを塗布する第一塗布領域と、次の塗布工程においてインクを塗布する第二塗布領域とを、配向膜の形成領域と等しい領域としたが、第一塗布領域を第二塗布領域内としてもよい。この場合には、第二塗布領域の周縁部において一層目のインクが塗布されないため、インクの濡れ拡がりが押さえられ、二回目の塗布工程において塗布されたインクが第二塗布領域の外部に流出することを効果的に防止できる。
また、本発明の成膜方法は、配向膜以外の膜の成膜にも適用可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態に係る成膜装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る液滴吐出ヘッドの構成を説明する断面図である。
【図3】同液滴吐出ヘッドの要部断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る配向膜の成膜工程を説明する平面図である。
【図5】(a)〜(c)は、同、断面図である。
【図6】(a)及び(b)は、同、断面図である。
【符号の説明】
【0052】
L インク(材料液)、P 基板、C 間隔、D 径、A 形成領域(第一塗布領域、第二塗布領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に膜の材料を溶解させた材料液を液滴吐出法により基板上に塗布して成膜する成膜方法であって、
前記基板に前記材料液を塗布する塗布工程を有し、
前記塗布工程は、複数回行い、最初の塗布工程において塗布する前記材料液の塗布量が、その他の塗布工程において塗布する前記材料液の塗布量よりも少ないことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記最初の塗布工程において、前記基板に吐出する前記材料液の液滴の中心間の間隔が、前記基板に前記液滴が着弾して拡がったときの径以下となるように、前記液滴を吐出することを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記最初の塗布工程において、前記液滴の中心間の間隔が、前記基板に前記液滴が着弾して拡がったときの径と等しくなるように、前記液滴を吐出することを特徴とする請求項2記載の成膜方法。
【請求項4】
前記最初の塗布工程において前記材料液を塗布する第一塗布領域を、前記その他の塗布工程において前記材料液を塗布する第二塗布領域と等しいか該第二塗布領域内とすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記その他の塗布工程において塗布される前記材料液の膜厚変動を想定し、前記膜厚変動に応じて前記最初の塗布工程における前記材料液の塗布量を前記膜の膜厚が均一となるように調整することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記膜は、液晶分子の配向方向を規定する配向膜であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−142796(P2009−142796A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325593(P2007−325593)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】