説明

成膜源、スパッタリング装置

【課題】ターゲットの使用効率を向上させる成膜源、スパッタリング装置を提供する。
【解決手段】ターゲット21には孔26が形成され、磁石装置20は磁石移動装置4により、ターゲット21の孔26の周囲を移動する。従って、磁石装置20により形成されるエロージョン領域は、孔26の周囲に形成され、非エロージョン領域になるべき部分にはターゲット21が存在しないから、ターゲット21の使用効率が高い。孔26の底面上には接地電極25が配置されているから、孔26の内部に露出する部材がスパッタリングされない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタリング装置の技術分野に係る。
【背景技術】
【0002】
大型の基板表面に薄膜を形成するスパッタリング装置では、ターゲット材料と対面しながらターゲット材料の正面を通過し、通過する間に薄膜が形成される通過型スパッタリング装置が用いられている。
【0003】
このようなスパッタリング装置では、ターゲットのエロージョン領域を拡大するために、ターゲット裏面に配置されたマグネトロン磁石装置を移動させる構成が採用されており、例えば、ターゲット材料の裏面に長手方向に沿ってマグネトロン磁石装置の走行軌道を敷設し、走行軌道上を小径のマグネトロン磁石装置が多数走行し、ターゲット材料裏面の広い領域とマグネトロン磁石装置が向き合うことで、エロージョン領域が拡大するようにされている。
【特許文献1】特開2003−293130号公報
【特許文献2】特開平7−18435号公報
【特許文献3】特開2005−336520号公報
【特許文献4】特開2007−224392号公報
【特許文献5】特許第3883316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記のように磁石を走行させても、ターゲットの中央部分と外周部分はスパッタされ難く、ターゲットの使用効率を向上させるのにも限界がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は成膜源であって、孔が形成されたターゲットと、前記孔の底面上に配置され、接地電位に接続された接地電極と、前記ターゲットの裏面側に配置された磁石装置と、前記磁石装置を、前記ターゲットの裏面側で前記孔の周囲に沿って周回移動させる磁石移動装置とを有する成膜源である。
本発明は成膜源であって、前記磁石装置は、リング状の外周磁石と、前記外周磁石のリング内側に配置された中心磁石とを有し、前記中心磁石と前記外周磁石は、S極とN極のうち、前記ターゲット側の面に一方の磁極が形成され、前記中心磁石と前記外周磁石は、前記ターゲット側の面の磁極の極性が互いに反対にされた成膜源である。
本発明は成膜源であって、バッキングプレートを有し、前記ターゲットは前記バッキングプレートに密着して取り付けられ、前記バッキングプレートには、前記ターゲットの前記孔と連通する孔が形成された成膜源である。
本発明は成膜源であって、前記ターゲットと前記バッキングプレートの前記連通する孔には接地線が挿通され、前記接地電極は、前記接地線を介して接地電位に接続された成膜源である。
本発明はスパッタリング装置であって、前記成膜源と、真空槽とを有し、前記成膜源のうち、少なくとも前記ターゲットは前記真空槽内部に配置されたスパッタリング装置である。
【0006】
本発明は上記のように構成されており、磁石装置はターゲットの孔の周囲を周回移動するため、ターゲットのエロージョン領域(ターゲット表面が多量にスパッタリングされ、表面が深く掘れる領域)は孔の周囲に沿って移動し、エロージョン領域がリング状になる。
【0007】
エロージョン領域のリング内側にターゲットが存在しても、その部分は非エロージョン領域(ターゲット表面のスパッタリングされる量が少なく、表面が浅く掘れる領域)となり、ターゲットの使用効率が悪い。本発明では、エロージョン領域のリング内側は、孔の内部空間であり、ターゲットが存在しないため、ターゲットの使用効率が高い。
【発明の効果】
【0008】
エロージョン領域が移動するため、ターゲットの広い領域がスパッタリングされる。非エロージョン領域に当たる部分はターゲットが存在しないため、ターゲットの使用効率が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は本発明のスパッタリング装置10の一例であり、該スパッタリング装置10は真空槽17と、成膜源(スパッタ源)3とを有している。
真空槽17の内部には基板移動軌道12が設けられている。基板移動軌道12には、基板ホルダ19が設けられており、図示しないモータ等の駆動装置を動作させると、基板ホルダ19は真空槽17内を、基板移動軌道12に沿って移動するように構成されている。
【0010】
成膜源3は、バッキングプレート18と、ターゲット21と、接地電極25と、磁石装置20と、磁石移動装置4とを有している。
バッキングプレート18は板状であって、真空槽17内部の基板移動軌道12と面する位置で、表面を基板移動軌道12に向けて配置されている。
【0011】
ターゲット21は板状であって、表面を基板移動軌道12に向けた状態で、裏面がバッキングプレート18の表面に密着して取り付けられている。基板ホルダ19に保持された基板8は、基板ホルダ19と一緒に基板移動軌道12に沿って移動し、ターゲット21上を通過するようにされている。
【0012】
ターゲット21とバッキングプレート18には、表面から裏面まで貫通する孔26、28がそれぞれ形成され、ターゲット21をバッキングプレート18に取り付けた状態では、それらの孔26、28は連通している。
【0013】
ここでは、バッキングプレート18は平面形状がターゲット21よりも大きく、かつ、その孔28はターゲット21の孔26よりも小さくされ、ターゲット21は、バッキングプレート18からはみ出ず、かつ、その孔26の全周がバッキングプレート18の孔28よりも外側に位置するよう取り付けられている。
従って、ターゲット21の裏面全部がバッキングプレート18に密着し、ターゲット21の孔26の底面27にはバッキングプレート18の表面が露出している。
【0014】
接地電極25はステンレス板等の金属板であって、ターゲット21の孔26の底面27上で、ターゲット21及びバッキングプレート18と接触しないように配置されている。
ターゲット21とバッキングプレート18の連通する孔26、28には、接地線29が、ターゲット21及びバッキングプレート18から絶縁された状態で挿通され、接地線29の一端は真空槽17と同じ接地電位に接続され、他端は接地電極25に接続されている。従って、接地電極25はターゲット21及びバッキングプレート18からは絶縁され、真空槽17と同じ接地電位に接続されている。
【0015】
ここでは、接地電極25は、平面形状がターゲット21の孔26よりも大きく、接地電極25は全周が孔26よりも外側にはみ出している。そのため、孔26は接地電極25で覆われ、孔26の内部は露出しない。
【0016】
磁石移動装置4は、取付板23と、駆動装置13とを有している。
取付板23はターゲット21の裏面側の、ターゲット21の表面と平行な平面内に配置されている。
駆動装置13は、取付板23をターゲット21の表面と平行な平面内で、孔26を通る回転中心軸線を中心として回転させる。
【0017】
磁石装置20は一個又は二個以上が、取付板23のターゲット21側の表面に配置されている。各磁石装置20の中心は、取付板23の回転中心軸線から離間している。
磁石装置20が複数の場合、磁石装置20はターゲット21表面と平行な平面内で、互いに離間した状態で、回転中心軸線の周囲に並べられている。
【0018】
取付板23が回転すると、各磁石装置20は並べられた順番を変えずに、ターゲット21裏面側のターゲット21の表面と平行な平面内で、回転中心軸線を中心とする円周上を移動する。回転中心軸線は孔26を通るから、各磁石装置20は孔26の周囲(外周)に沿って移動することになる。
【0019】
図2の符号31は磁石装置20の中心が移動する中心移動軌跡を示している。図2では取付板23と、バッキングプレート18と、後述する金属ヨークは省略されている。
【0020】
ここでは、各磁石装置20の中心から回転中心軸線までの距離はそれぞれ等しく、ターゲット21は円盤状であり、孔26は円形であり、回転中心軸線はターゲット21の中心と孔26の中心を通る。従って、ターゲット21と孔26と、中心移動軌跡31は同心円状である。
各磁石装置20の中心から回転中心軸線までの距離、即ち中心移動軌跡31の半径は、孔26の半径よりも大きく、中心移動軌跡31は孔26の外側に位置する。
【0021】
ターゲット21の外周から孔26外周までを幅Wとすると、ここでは、中心移動軌跡31は幅Wの中央、即ちターゲット21外周と孔26外周の中間を通るから、各磁石装置20は一部又は全部がターゲット21と対面しながら移動する。
【0022】
図3に示すように、磁石装置20は、リング状の外周磁石46と、外周磁石46のリング内側に、該外周磁石46と離間して配置された中心磁石45とを有している。ここでは中心磁石45もリング状であり、中心磁石45と外周磁石46のリング中心が一致するように、中心磁石45と外周磁石46のリング形状の一底面が板状の金属ヨーク40の表面に接触して取り付けられている。
【0023】
中心磁石45と外周磁石46はリングの一方の底面にN極が形成され、他方の底面にS極が形成されている。中心磁石45のN極と外周磁石46のS極がターゲット21表面が位置する平面に向けられているか、中心磁石45のS極と外周磁石46のN極がターゲット21表面が位置する平面に向けられている。
【0024】
上述したように、磁石装置20はターゲット21と対面するから、中心磁石45と外周磁石46は互いに異なる極性の磁極がターゲット21に向けられ、ターゲット21表面にリング状の磁力線トンネルが形成される。
【0025】
その磁力線は、中心磁石45と外周磁石46の間の中間位置で水平磁場成分がゼロになり、その部分が最も強くスパッタリングされる。
中心磁石45と外周磁石46はリング状だから、その中間位置もリング状になる。そのリングの直径は、ターゲット21外周から孔26外周までの幅Wよりも小さくされ、水平磁場成分がゼロとなる部分は孔26内側にもターゲット21の外側にもはみ出さず、ターゲット21表面が強くスパッタリングされる。
【0026】
磁石装置20が静止していると、強くスパッタリングされる領域(エロージョン領域)も静止するから、狭い範囲しかスパッタリングされない。磁石装置20を移動させながらスパッタリングすれば、エロージョン領域も移動するから、ターゲット21の広い範囲がスパッタリングされ、使用効率があがる。
エロージョン領域の外側には孔26があり、孔26にはターゲット21が存在しないから、ターゲット21に非エロージョン領域が形成されず、使用効率が高い。
【0027】
本発明のスパッタリング装置10は上記のように構成されており、薄膜を形成する際には、真空排気系15によって真空槽17内を真空排気すると共に、ガス導入系16から真空槽17内にスパッタリングガスを導入し、所定圧力の真空雰囲気を形成する。
該真空雰囲気を維持し、スパッタ電源14によって、バッキングプレート18を介して、ターゲット21に電圧を印加し、ターゲット21をスパッタリングする。
【0028】
接地電極25とターゲット21との間の距離は、接地電極25とターゲット21間で放電が起こらない程短くされており、ターゲット21がスパッタリングされる際に異常放電が起こらない。
【0029】
接地電極25は真空槽17と同じ接地電位に接続されているから、接地電極25はスパッタリングされない。上述したように、孔26は接地電極25で覆われているから、バッキングプレート18等、孔26の内部に露出する部材もスパッタリングされない。
【0030】
ターゲット21をスパッタリングしながら、基板ホルダ19に保持させた基板8を移動させ、ターゲット21上を通過させると、ターゲット21から飛び出したスパッタリング粒子が基板8表面に到達し、薄膜が形成される。上述したように、接地電極25や他の部材はスパッタリングされないから、薄膜に汚染物質が混入しない。
スパッタリングの際に、磁石装置20を移動させると、ターゲット21表面上の磁力線が一緒に移動するから、エロージョン領域も移動し、ターゲット21の広い領域がスパッタリングされる。
【0031】
以上はターゲット21が円盤状の場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、ターゲット21は、平面形状が楕円、正方形、長方形等種々の形状のものを用いることができる。
【0032】
図4の符号71は他の例のターゲットを示しており、ターゲット71は細長(長方形)であり、孔76も細長(楕円形)になっている。
磁石装置20の中心移動軌跡61は孔76よりも外側にあり、ここでは中心移動軌跡61は、ターゲット71長辺から孔76までの幅Waの中心と、ターゲット71短辺から孔76までの幅Wbの中心を通る。即ち、中心移動軌跡61はターゲット71外周と孔76外周との中間位置を通り、各磁石装置20はターゲット71と対面しながら、孔76の周囲を周回移動する。
この場合も、水平磁場成分がゼロとなる部分がターゲット71外周と孔76外周との間を通るようにすれば、ターゲット71の使用効率が高くなる。
【0033】
各磁石装置20の大きさは同じであってもよいし、異なる大きさの磁石装置20を同じ、中心移動軌跡31上で移動させてもよい。更に、異なる2以上の中心移動軌跡31上で磁石装置20を移動させてもよい。
磁石装置20には、中心磁石45及び外周磁石46とは大きさの異なる1個以上のリング状の磁石を、中心磁石45及び外周磁石46と同心円状に配置してもよい。
【0034】
中心磁石45の形状は特に限定されず、円形、リング形状、矩形等種々の形状とすることができるが、磁力線の密度を均一にするためには、中心磁石45の外周を、外周磁石46のリング内周と相似形にし、かつ、中心磁石45の中心を外周磁石46のリング中心に位置させる。
【0035】
磁石装置20は全部がターゲット21、71の裏面と対向するように配置してもよい。また、水平磁場成分がゼロとなる部分が、ターゲット21、71外周と孔26、76外周の間を移動するのであれば、磁石装置20の一部が孔26、76内部又はターゲット21、71の外側にはみ出てもよい。
【0036】
中心磁石45と外周磁石46は特に限定されないが、電磁石よりも永久磁石を用いた方が装置構造が簡易である。
スパッタリングの際、磁石装置20の移動速度は一定であってもよいし変化させてもよい。
【0037】
接地電極25の設置場所は、ターゲット21、71との間に放電が起こらない程度に、ターゲット21、71までの距離が短いのであれば特に限定されない。例えば、接地電極25の平面形状をターゲット21、71の孔26、76の平面形状よりも小さくし、接地電極25を孔26、76の内部に配置してもよい。
【0038】
取付板23の設置場所は、磁石装置20により形成される磁力線がターゲット21、71表面を通るのであれば特に限定されない。具体的には、取付板23を真空槽17内部に設置し、磁石装置20を真空槽17内部で移動させてもよいし、取付板23を真空槽17外部に設置し、磁石装置20を真空槽17外部で移動させてもよい。取付板23を真空槽17外部に設置する場合には、磁石装置20による磁力線が真空槽17内部を通るように、真空槽17を透磁性材料で構成する。
【0039】
以上はバッキングプレート18を介してターゲット21、71に電圧を印加する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、バッキングプレート18を設けず、ターゲット21、71にスパッタ電源14からの電圧を直接印加してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】第一の発明のスパッタリング装置の内部説明図
【図2】ターゲットと磁石装置の位置関係を説明するための平面図
【図3】磁石装置を説明するための断面図
【図4】ターゲットの他の例を説明するための平面図
【符号の説明】
【0041】
3……成膜源 4……磁石移動装置 10……スパッタリング装置 18……バッキングプレート 17……真空槽 20……磁石装置 21、71……ターゲット 23……取付板 25……接地電極 26、76……ターゲットの孔 27……孔の底面 28……バッキングプレートの孔 29……接地線 45……中心磁石 46……外周磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔が形成されたターゲットと、
前記孔の底面上に配置され、接地電位に接続された接地電極と、
前記ターゲットの裏面側に配置された磁石装置と、
前記磁石装置を、前記ターゲットの裏面側で前記孔の周囲に沿って周回移動させる磁石移動装置とを有する成膜源。
【請求項2】
前記磁石装置は、リング状の外周磁石と、前記外周磁石のリング内側に配置された中心磁石とを有し、
前記中心磁石と前記外周磁石は、S極とN極のうち、前記ターゲット側の面に一方の磁極が形成され、
前記中心磁石と前記外周磁石は、前記ターゲット側の面の磁極の極性が互いに反対にされた成膜源。
【請求項3】
バッキングプレートを有し、
前記ターゲットは前記バッキングプレートに密着して取り付けられ、
前記バッキングプレートには、前記ターゲットの前記孔と連通する孔が形成された請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の成膜源。
【請求項4】
前記ターゲットと前記バッキングプレートの前記連通する孔には接地線が挿通され、
前記接地電極は、前記接地線を介して接地電位に接続された請求項3記載の成膜源。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の成膜源と、真空槽とを有し、
前記成膜源のうち、少なくとも前記ターゲットは前記真空槽内部に配置されたスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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