説明

成膜用霧化装置

【課題】生成されるミストの粒径を小さくし、粒径の大きさを均一にするとともに、霧化能力を向上させることができる成膜用霧化装置を提供することを課題とする。
【解決手段】霧化用液体5を収容する容器9と、当該容器9および中間溶液6を収容し、当該中間溶液6に少なくとも容器9の底面部を浸漬させる溶液槽11と、当該溶液槽11に配置され、霧化用液体5に対して超音波を照射する超音波振動子部4と、当該超音波振動子部4の駆動を制御する制御装置3とを備える。超音波振動子部4は厚み方向の両面に電極部を有し、一方の電極部は互いに絶縁された複数の電極40a〜40hにより構成され、他方の電極部は共通の電極40iにより構成されており、制御装置3は当該複数の電極40a〜40hのうち電圧が印加される電極40a〜40hを切り換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜に用いられる霧化装置であって、超音波振動子の振動により液体を霧化する成膜用霧化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、霧化用液体を収容し、底面部材が高分子材料の薄膜で形成された容器と、当該容器および中間溶液を収容し、中間溶液に少なくとも容器の底面部材を浸漬させる溶液槽と、当該溶液槽に設けられ、容器の底面部材に対して超音波を照射する超音波振動子とを有する成膜用霧化装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−305233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、超音波振動子を連続して長時間使用すると、超音波振動子の温度が上昇して超音波振動子の特性が劣化するという問題があった。そのため、生成されるミストの粒径が大きく、粒径の大きさにばらつきが生じていた。さらに、霧化能力が低下するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、生成されるミストの粒径を小さくし、粒径の大きさを均一にするとともに、霧化能力の低下を抑制することができる成膜用霧化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明に係る成膜用霧化装置は、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。すなわち、本発明の成膜用霧化装置は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る成膜用霧化装置の第1の特徴は、成膜に用いられる霧化装置であって、霧化用液体を収容する容器と、前記容器および中間溶液を収容し、当該中間溶液に少なくとも前記容器の底面部を浸漬させる溶液槽と、前記溶液槽に配置され、前記霧化用液体に対して超音波を照射する超音波振動子部と、前記超音波振動子部の駆動を制御する制御装置と、を備え、前記超音波振動子部は厚み方向の両面に電極部を有し、一方の電極部は互いに絶縁された複数の電極により構成され、他方の電極部は共通とされており、前記制御装置は当該複数の電極のうち電圧が印加される電極を切り換えることである。
【0008】
この構成によると、超音波振動子部の厚み方向の一方の電極部が複数の電極を有し、当該複数の電極のうち電圧が印加される電極を切り換えることで、各電極に長時間連続して電圧が印加されることがないので、超音波振動子部の温度上昇を抑制することができる。そのため、超音波振動子部の特性が劣化することがないので、超音波振動子部を長時間安定して駆動することができる。その結果、生成されるミストの粒径を小さく、かつ粒径の大きさを均一にすることができる。さらに、霧化能力の低下を抑制することができる。
【0009】
また、本発明に係る成膜用霧化装置の第2の特徴は、成膜に用いられる霧化装置であって、霧化用液体を収容する容器と、前記容器および中間溶液を収容し、当該中間溶液に少なくとも前記容器の底面部を浸漬させる溶液槽と、前記溶液槽に配置され、前記容器に対して超音波を照射する超音波振動子部と、前記超音波振動子部の駆動を制御する制御装置と、を備え、前記超音波振動子部は複数の超音波振動子を有しており、前記制御装置は当該複数の超音波振動子のうち駆動させる超音波振動子を切り換えることである。
【0010】
この構成によると、複数の超音波振動子を設けて、当該複数の超音波振動子のうち駆動させる超音波振動子を切り換えることで、各超音波振動子が長時間連続して駆動されることがないので、各超音波振動子の温度上昇を抑制することができる。そのため、各超音波振動子の特性が劣化することがないので、超音波振動子部を長時間安定して駆動することができる。その結果、生成されるミストの粒径を小さく、かつ粒径の大きさを均一にすることができる。さらに、霧化能力の低下を抑制することができる。
【0011】
また、本発明に係る成膜用霧化装置の第3の特徴は、前記複数の超音波振動子は前記複数の電極は円周状に設けられており、前記複数の電極が周方向に電圧を印加されることである。
【0012】
この構成によると、周方向に回転する回転波動を得ることができる。そのため、振動面における定在波ができるだけ回避され、波動を分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】成膜用霧化装置の概略図である。
【図2】第1実施形態における超音波振動子部の概略図であり、超音波振動子部の表面である。
【図3】第1実施形態における超音波振動子部の概略図であり、超音波振動子部の裏面である。
【図4】図3に示すA−A断面の断面図である。
【図5】電極に電圧を印加させるタイミングを示す図である。
【図6】第2実施形態における超音波振動子部の概略図であり、超音波振動子部の表面である。
【図7】第2実施形態における超音波振動子部の概略図であり、超音波振動子部の裏面である。
【図8】図7に示すB−B断面の断面図である。
【図9】成膜用霧化装置のブロック図である。
【図10】電極に電圧を印加するパターンを示す駆動パターン決定デーブルである。
【図11】成膜用霧化装置の動作を示すフローチャートである。
【図12】超音波振動子部の駆動ルーチンを示すフローチャートである。
【図13】電極に電圧を印加するパターンを示す駆動パターン決定デーブルである。
【図14】生成されたミストの粒径分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0015】
(成膜用霧化装置の構成)
図1は、成膜用霧化装置100の概略図である。図1に示すように、成膜用霧化装置100は、酢酸亜鉛水溶液などの霧化用液体5を霧化する霧化装置1と、霧化用液体5に含まれる物質を成膜する成膜装置2と、これら各装置を制御する制御装置3とを有している。
【0016】
(霧化装置の構成)
霧化装置1は、霧化装置1を支持する架台10と、エタノールなどの中間溶液6を収容した溶液槽11と、当該溶液槽11の底面部に設けられた超音波振動子部4と、霧化用液体5を収容しながら霧化されたミストを排出する容器9とを有している。
【0017】
容器9は、上面および下面が開口された筒形状の霧化筒12と、当該霧化筒12の下端側の開口を密封するように設けられた隔膜15と、霧化筒12の上端側に接続され、上面および下面が開口された筒形状の霧化筒13と、上端側に排出口14aを有し、漏斗状に形成された霧化筒14とを有している。
【0018】
霧化筒12の下端側の開口は、当該開口部に接続された隔膜15およびO−リングを用いて密封される。これにより、霧化用液体5が霧化筒12に収容可能となる。ここで、霧化筒12には、投入口(図示せず)が開閉可能に形成されており、霧化用液体5の投入は、当該投入口から行われる。霧化筒12の上端側は、継手リング16により霧化筒13の下端側と接続され、霧化筒13の上端側は、継手リング17により霧化筒14の下端側と接続されている。霧化用筒13および霧化筒14の内部であり、霧化筒13と霧化筒14の接続付近には、ジャマ板18が設けられており、生成されたミストを当該ジャマ板18に衝突させて凝集させる。
【0019】
霧化筒14には、ガス供給口19aが形成されており、当該ガス供給口19aは、流量制御弁7aを介して窒素ガスボンベ8に接続されている。そして、窒素ガスボンベ8は、流量制御弁7aの開度に応じた供給量で窒素ガスを容器9内に供給するようになっている。霧化筒14の排出口14aは、後述の成膜装置2に両端部がL字に曲折された配管55を介して接続されており、霧化用液体5を霧化して生成されたミストを窒素ガスなどと共に成膜装置2に流出させるようになっている。配管55には、ガス供給口19bが形成され、当該ガス供給口19bは、流量制御弁7bを介して窒素ガスボンベ8に接続されおり、霧化用液体5を霧化して生成されたミストを窒素ガスなどの加圧ガスと共に成膜装置2に流出させるようになっている。なお、配管55の途中には、閉栓バルブ(図示せず)が設けられていてもよい。
【0020】
霧化筒12、13、14は、多少の外力が付与されても形状を維持する材料で形成されている。具体的には、霧化用液体5に対して耐蝕性を備えた金属やプラスチック材料、ガラス、金属表面にプラスチック材料をコーティングした材料などにより霧化筒12、13、14が形成されている。また、配管55の材質は、石英、パイレックスなどにより形成されている。また、溶液槽11および架台10は、塩化ビニル樹脂により形成されている。
【0021】
一方、隔膜15は、超音波を透過させ易い高分子材料で形成されている。具体的には、高密度ポリエチレンやポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などで形成されている。
【0022】
この構成で、霧化筒12の下端側が溶液槽11内に設けられる。これにより、霧化筒12は、隔膜15から霧化筒12の側面部の一部にかけた領域が溶液槽11の中間溶液6に浸漬可能にされている。超音波振動子部4は、超音波の照射方向が鉛直方向となるように溶液槽11の底面部に設置され、超音波を照射する発振面が水平姿勢をとる隔膜15に対向するように配置されている。発振面と隔膜15との距離は、発振面から放射状に照射された超音波のほぼ全量が隔膜15に到達するように設定されている。
【0023】
(成膜装置の構成)
成膜装置2は、筒状部材20と、上述の霧化装置1に連絡された配管55が接続されるガス導入部21と、筒状部材20の下面を支持する架台22とを有している。筒状部材20の上端側には、ガス導入部21が接続されており、霧化装置1から霧化用液体5を霧化したミストが筒状部材20に供給されるようになっている。
【0024】
筒状部材20の上端側の内部には、予熱ヒータ23が設けられおり、ガス導入部21から供給されたミストが予熱される。また、筒状部材20の下端側の内部は、成膜室24が形成されており、当該成膜室24に設けられた基板載置台(図示せず)に基板が載置される。
【0025】
(制御装置の構成)
図9は、図1に示す成膜用霧化装置100のブロック図である。図9に示すように、制御装置3は、CPU30と、記憶部31と、入出力部32とを有しており、手動や自動運転で各装置を単独や連動させながら作動させる各種の処理機能を有している。CPU30は、記憶部31に格納されたプログラム内容に基づいて演算処理を行うために設けられている。記憶部31は、RAM、フラッシュメモリ、HDD等の記憶装置であり、制御装置3の機能を実現するプログラムのほかに、成膜用霧化装置100の運転条件や運転来歴などの記憶情報を記憶する。入出力部32は、キーボードやマウス等の入力装置(図示せず)、液晶モニタ等の出力装置(図示せず)等のインターフェースである。
【0026】
上記のように構成された霧化装置1および成膜装置2は、制御装置3により動作が制御されている。具体的には、霧化装置1を単独で運転する機能としては、中間溶液6の温度や粘度を超音波の伝播にとって最適な状態となるように調整する機能、霧化用液体5の収容量を検知して補充時期を報知したり、自動補充する機能、窒素ガスの供給量を所定値とするように流量制御弁7a、7bの開度を調整する機能等がある。また、成膜装置2を単独で運転する機能としては、予熱ヒータ23を制御する機能等がある。霧化装置1と成膜装置2とを連動させながら運転する機能としては、霧化装置1のミストの生成量と、成膜装置2における成膜室24の温度およびミストの流速とを連動させながら、成膜処理の好適な条件を出現させる機能等がある。
【0027】
(超音波振動子部の構成)
図2および図3は、第1実施形態における超音波振動子部4の概略図である。図2は超音波振動子部4の表面であり、図3は超音波振動子部4の裏面である。図4は、図3に示すA−A断面の断面図である。図3および図4に示すように、第1実施形態における超音波振動子部4は、円柱状の圧電素子40の厚み方向の一面に分離溝41を形成して、当該分離溝41により分離された8つの分離領域にそれぞれ電極40a、40b、40c、40d、40e、40f、40g、40hを形成している。円柱状の圧電素子40は、例えば、PZT系の圧電セラミック板からなる。ここで、電極40a〜40hにより、一方の電極を構成している。また、図2に示すように、圧電素子40の上記分離溝41が形成された側と反対側の面には略全域にわたって共通の電極40i(他方の電極部)を形成している。図9に示すように、電極40a〜40hはそれぞれ電線51a〜51hを介してリレー部53に接続され、電極40iは電線51iを介してリレー部53に接続してある。リレー部53には、当該リレー部53に電源を供給する駆動電源54が接続されており、リレー部53は、制御装置3からの制御信号に従って、各電極40a〜40hに電圧を印加し、超音波振動子部4を駆動する。尚、第1実施形態では、圧電素子40の一面を8つの領域に分離しているが、8つに限定されることはなく、複数であればよい。また、圧電素子40の形状は、円柱形状に限定されることはなく、短形状でもよい。
【0028】
(成膜用霧化装置の動作)
図11は、成膜用霧化装置100の動作を示すフローチャートである。図11を参照して、成膜用霧化装置100の動作について説明する。まず、霧化装置1でミストを生成するための設定処理を行う(S1)。設定処理では、エタノールが溶液槽11に中間溶液6として投入され、隔膜15が中間溶液6に完全に浸漬される。この後、投入口から、所定濃度の酢酸亜鉛溶液が霧化用液体5として霧化筒12内に投入され、霧化用液体5および中間溶液6が熱交換装置(図示せず)で加熱や冷却されることによって、超音波の伝播にとって好適な温度および粘度に調整される。設定処理の後、ミストを生成するために後述の超音波振動子部駆動処理が行われる(S2)。次に、基板に成膜する成膜処理が行われる(S3)。基板の成膜処理が終了すると、設定処理(S1)に移るか、本メインルーチンを終了する。
【0029】
(超音波振動子部の動作)
超音波振動子部4の各電極40a〜40hは、制御装置3からの制御信号に従って駆動される。つまり、制御装置3は、電圧を印加する電極40a〜40hを間欠的または周期的に切り換えるようになっている。電圧を印加する電極40a〜40hの切り換えは、図10に示す駆動パターン決定テーブルを用いて行う。ここで、図5は、電極40a〜40hに電圧を印加させるタイミングを示す図である。図5に示すように、電圧信号の時間幅をT1、周期をT2とし、1つの電極に印加される電圧がオフしてから次の電極に印加される電圧がオンするまでの時間をT3とすると、各電極40a〜40hに、順次、(T1+T3)の周期で、時間幅T1の電圧が印加される。リレー部53が電極40a〜40hに電圧を印加すると、8つに分離された各領域から、例えば、3MHzの超音波が発振される。超音波は、中間溶液6を伝播し、隔膜15を通過して霧化用液体5に伝播する。この結果、霧化用液体5は、超音波により振動され、液体同士の結合が外れることによるミストとなって放出される。
【0030】
(駆動パターン決定テーブル)
ここで、図10を参照して、上記の駆動パターン決定テーブルについて説明する。
【0031】
駆動パターン決定テーブルは、電極40a〜40hの中で電圧が印加される電極および電圧が印加されない電極を各駆動パターンで関連付けている。具体的に、駆動パターン決定テーブルに示した「1」は、電極40a〜40hに電圧が印加されている状態を示し、駆動パターン決定テーブルに示した「0」は、電極40a〜40hに電圧が印加されていない状態を示す。駆動パターン決定テーブルは記憶部31に格納されており、図10に示すように、駆動パターン1〜駆動パターン8の8つの駆動パターンがある。駆動パターン1は、電極40aに電圧が印加され、他の電極40b〜40hには電圧が印加されない。駆動パターン2は、電極40bに電圧が印加され、他の電極40a、40c〜40hには電圧が印加されない。駆動パターン3は、電極40cに電圧が印加され、他の電極40a、40b、40d〜40hには電圧が印加されない。駆動パターン4は、電極40dに電圧が印加され、他の電極40a〜40c、40e〜40hには電圧が印加されない。駆動パターン5は、電極40eに電圧が印加され、他の電極40a〜40d、40f〜40hには電圧が印加されない。駆動パターン6は、電極40fに電圧が印加され、他の電極40a〜40e、40g、40hには電圧が印加されない。駆動パターン7は、電極40gに電圧が印加され、他の電極40a〜40f、40hには電圧が印加されない。駆動パターン8は、電極40hに電圧が印加され、他の電極40a〜40gには電圧が印加されない。なお、図10に示す駆動パターン決定テーブルは、超音波振動子部4の駆動パターンの一例を示したものであり、別の駆動パターン決定テーブルを用い、別の駆動パターンで超音波振動子部4を駆動させてもよい。
【0032】
図12は、超音波振動子部4の駆動ルーチンを示すフローチャートである。図12に示すフローチャートを参照して、超音波振動子部駆動処理(S2)について具体的に説明する。
【0033】
入出力部32に設けられたスタートスイッチ(図示せず)をONすると(S21:YES)、スタートスイッチのON信号は入出力部32からCPU30に伝送される。一方で、スタートスイッチがONされないと(S21:NO)、超音波振動子部駆動ルーチンを終了する。スタートスイッチON処理によって、CPU30がスタートスイッチONを認識すると、駆動パターンを決定するために、CPU30はK=K+1の演算を行う(S22)。次に、CPU30は、図10に示す駆動パターン決定テーブルの中から、Kの値に基づいて駆動パターンKを選択する(S23)。例えば、S23において演算したKの値が1の場合、CPU30は駆動パターン1を選択する。次に、CPU30は、リレー部53に駆動パターンKで超音波振動子部4を駆動するよう信号を出力し、駆動時間T1が経過するまで駆動パターンKで超音波振動子部4を駆動する(S24)。次に、駆動時間T1が経過したら、超音波振動子部4を停止させるように信号を出力する(S25)。次に、超音波振動子部4を停止させたら、所定時間T3が経過するまで超音波振動子部4を待機させる(S26)。
【0034】
次に、超音波振動子部4の駆動をストップするか判断する(S27)。超音波振動子部4の駆動をストップする場合(S27:YES)は、超音波振動子部駆動ルーチンを終了する。一方、超音波振動子部4を駆動する場合(S27:NO)は、Kの値が8であるか判断する(S28)。Kの値が8の場合(S28:YES)は、Kの値を0に置換し(S29)、その後、S22に移る。一方、Kの値が8でない場合(S28:NO)は、S22に移る。
【0035】
つまり、各電極40a〜40hに所定の時間幅で順番に電圧を印加するようになっており、分離溝41により分離された8つの分離領域は制御装置3により時間差を与えられた独立のタイミングにより駆動される。例えば、図10に示す駆動パターン決定テーブルを用いて、CPU30が駆動パターン1〜駆動パターン8まで順番に駆動パターンを選択すると、各電極40a〜40hに対し、電極40a・電極40i間→電極40b・電極40i間→電極40c・電極40i間→電極40d・電極40i間・・・という順番で、円周方向に電圧が印加される。その結果、図3に示すように、右方向(図3の矢印M1方向)に回転する回転波動が得られる。
【0036】
また、各電極40a〜40hに対し、電極40h・電極40i間→電極40g・電極40i間→電極40f・電極40i間→電極40e・電極40i間・・・という順番で、円周方向に電圧を印加してもよい。その結果、図3に示すように、左方向(図3の矢印M2方向)に回転する回転波動が得られる。
【0037】
さらに、円周方向に並ぶ各電極40a〜40hの間で電圧を印加する順番が移る際に、中央の電極40aに電圧を印加する順序を挟む。つまり、電極40a・電極40i間→電極40b・電極40i間→電極40a・電極40i間→電極40c・電極40i間→電極40a・電極40i間→電極40d・電極40i間・・・という順番で、電圧を印加してもよい。
【0038】
上記述べた構成によって、成膜用霧化装置100は、溶液槽11の底面部から、その面と垂直な方向に超音波振動を照射し、且つ、底面部の円周方向に沿って走査して回転するように照射する。これにより、振動面における定在波ができるだけ回避され、波動が分散される。さらに、電圧を印加する電極40a〜40hを間欠的または周期的に切り換えることで、8つの分離領域の内の1つの分離領域が長時間連続して駆動されることがないので、超音波振動子部4の温度上昇を抑制することができる。そのため、超音波振動子部4の特性が劣化することがないので、超音波振動子部4を長時間安定して駆動することができる。その結果、生成されるミストの粒径を小さく、かつ粒径の大きさを均一にすることができる。さらに、霧化装置1の霧化能力の低下を抑制することができる。ここで、「超音波振動子部4の特性」とは、超音波振動子部4が霧化用液体5に超音波を照射して得られるミストの粒径のこと、および、霧化能力のことをいう。
【0039】
上記のようにしてミストが生成されると、この生成タイミングに一致したタイミングや僅かに前後したタイミングで流量制御弁7aが開栓される。そして、窒素ガスボンベ8の窒素ガスが流量制御弁7aの開度に応じた供給量で容器9内に供給される。これにより、ミストは、窒素ガスと共に霧化筒14の上端部から排出され、配管55を介して成膜装置2に供給される。ミストは、筒状部材20の上端部に設けられた予熱ヒータ23で予熱された後、成膜室24に流動され、基板上に散布される。これにより、酸化亜鉛(ZnO)の膜が基板の表面に形成される。
【0040】
[第2実施形態]
第2実施形態の基本構成および基本動作は第1実施形態と略同じであって、超音波振動子部4の構成が相違するだけなので超音波振動子部4についてのみ説明する。図6および図7は、第2実施形態における超音波振動子部4の概略図である。図6は超音波振動子部4の表面であり、図7は超音波振動子部4の裏面である。図8は図7に示すB−B断面の断面図である。図7および図8に示すように、超音波振動子部4は、圧電素子からなる8つの超音波振動子4a、4b、4c、4d、4e、4f、4g、4hを有している。超音波振動子4aは円柱状に形成されており、超音波振動子4aの軸方向には孔が設けられている。超音波振動子4b〜4hは、扇状に形成されている。これらの超音波振動子4a〜4hは、例えば、PZT系の圧電セラミック板からなる。なお、各超音波振動子4a〜4hの面積は同じである。
【0041】
8つの超音波振動子4a〜4hは、それぞれ銀電極盤50の厚み方向の一面に設けられており、これらの8つの超音波振動子4a〜4hのうち、7つの超音波振動子4b〜4hは円周状に配置され、残りの1つの超音波振動子4aは、その円の中心位置に配置され、構造用接着剤などによって接着される。銀電極盤50の超音波振動子4a〜4hが設けられた側と反対側の面は、アースされている。なお、第2実施形態では、8つの超音波振動子4a〜4hを設けているが、超音波振動子4a〜4hの数は8つに限定するものではなく、複数であればよい。また、超音波振動子4a〜4hの形状は、上記形状に限定するものではない。また、超音波振動子4a〜4hの配置は、上記配置に限定するものではない。
【0042】
各超音波振動子4a〜4hは圧電素子の厚み方向の両面に電極が形成されており、各超音波振動子4a〜4hの一方の電極は、電線52a、52b、52c、52d、52e、52f、52g、52hを介して別個に引き出され、リレー部53に接続されている。また、各超音波振動子4a〜4hの他方の電極は、銀電極盤50の表面に接触して電気的に接続され、銀電極盤50は、電線52iを介してリレー部53に接続されている。
【0043】
リレー部53が各超音波振動子4a〜4hそれぞれの両電極間に高周波電圧を印加して各超音波振動子4a〜4hを個別に駆動させる。各超音波振動子4a〜4hが駆動されると、例えば、3MHzの超音波が発振される。
【0044】
[実施例]
次に、実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。本発明の成膜用霧化装置100を用いて生成されたミストの粒径と、成膜用霧化装置100の霧化能力とについて、以下に示すような使用条件で実験した。
【0045】
(使用条件)
(1)実施例
実施例で使用した超音波振動子部4は、図2、図3、および、図4に示すように、円柱状の圧電セラミックの厚み方向の一面に分離溝41を形成して、当該分離溝41により分離された8つの分離領域にそれぞれ電極40a〜40hを形成し、分離溝41が形成された側と反対側の面には略全域にわたって共通の電極40iを形成したものを用いた。実施例では、各電極40a〜40hに対し、電極40a・電極40i間→電極40b・電極40i間→電極40c・電極40i間→電極40d・電極40i間・・・という順番で、円周方向に電圧を印加した。各電極40a〜40hへの切替周期は、0.5Hz、1Hz、2.5Hz、5Hz、10Hz、50Hz、100Hz、500Hz、1KHz、5KHz、10KHz、50KHz、100KHzの中から選択可能であり、実施例では、100Hzを選択した。そして、成膜用霧化装置100を切替周期100Hzで2時間連続運転し、ミストを生成させた。また、超音波振動子部4の振動周波数は、3MHzとした。
【0046】
(実験結果)
実験結果を図14に示す。図14は、生成されたミストの粒径分布を示した図である。図14に示すように、生成されたミストの粒径は、0.2〜0.5μの粒径の範囲に集中して分布していることが確認された。実施例では、生成されるミストの粒径を小さくし、かつミストの粒径の大きさを均一にすることができた。また、成膜用霧化装置100を2時間連続して運転しても、運転中に霧化能力が低下することがなく、霧化能力は150±20(mL/hr)であった。
【0047】
(考察)
実施例で使用した超音波振動子部4は、8つの分離領域のそれぞれに形成された電極40a〜40hに順番に電圧を印加することで、8つの分離領域の内の1つの分離領域が長時間連続して駆動されることがないので、超音波振動子部4の温度上昇を抑制することができる。そのため、超音波振動子部4の特性が劣化することがないので、超音波振動子部4を長時間安定して駆動することができる。その結果、実施例ではミストの粒径を小さく、かつ粒径の大きさを均一にすることができたと考えられる。さらに、霧化能力の低下を抑制することができたと考えられる。
【0048】
以上説明したように、第1実施形態に係る成膜用霧化装置100は、霧化用液体5を収容する容器9と、当該容器9および中間溶液6を収容し、当該中間溶液6に少なくとも容器9の底面部を浸漬させる溶液槽11と、当該溶液槽11に配置され、霧化用液体5に対して超音波を照射する超音波振動子部4と、当該超音波振動子部4の駆動を制御する制御装置3とを備える。超音波振動子部4は厚み方向の両面に電極部を有し、一方の電極部は互いに絶縁された複数の電極40a〜40hにより構成され、他方の電極部は共通の電極40iにより構成されており、制御装置3は当該複数の電極40a〜40hのうち電圧が印加される電極40a〜40hを切り換える。
【0049】
この構成によると、超音波振動子部4の厚み方向の一方の電極部が複数の電極40a〜40hにより構成され、当該複数の電極40a〜40hのうち電圧が印加される電極40a〜40hを切り換えることで、各電極40a〜40hに長時間連続して電圧が印加されることがないので、超音波振動子部4の温度上昇を抑制することができる。そのため、超音波振動子部4の特性が劣化することがないので、超音波振動子部4を長時間安定して駆動することができる。その結果、生成されるミストの粒径は小さく、かつ粒径の大きさを均一にすることができる。さらに、霧化装置1の霧化能力の低下を抑制することができる。
【0050】
また、第2実施形態に係る成膜用霧化装置100は、霧化用液体5を収容する容器9と、当該容器9および中間溶液6を収容し、中間溶液6に少なくとも容器9の底面部を浸漬させる溶液槽11と、当該溶液槽11に配置され、霧化用液体5に対して超音波を照射する超音波振動子部4と、当該超音波振動子部4の駆動を制御する制御装置3とを備える。超音波振動子部4は複数の超音波振動子4a〜4hを有しており、制御装置3は当該複数の超音波振動子4a〜4hのうち駆動させる超音波振動子4a〜4hを切り換える。
【0051】
この構成によると、複数の超音波振動子4a〜4hを設け、当該複数の超音波振動子4a〜4hのうち駆動させる超音波振動子4a〜4hを切り換えることで、各超音波振動子4a〜4hが長時間連続して駆動されることがないので、超音波振動子4a〜4hの温度上昇を抑制することができる。そのため、各超音波振動子4a〜4hの特性が劣化することがないので、超音波振動子部4を長時間安定して駆動することができる。その結果、生成されるミストの粒径を小さく、かつ粒径の大きさを均一にすることができる。さらに、霧化装置1の霧化能力の低下を抑制することができる。また、各超音波振動子4a〜4hの負荷が小さくなるので、超音波振動子4a〜4hの寿命を延ばすことができる。ここで、小さな超音波振動子は振動するのに使うエネルギーが小さく、自身の質量も小さいので振動するためのエネルギーが小さくなる。そのため、小さな超音波振動子はエネルギーの伝達効率がよい。その結果、単体の超音波振動子を連続して駆動する場合に比べ、複数の超音波振動子4a〜4hを設け、各超音波振動子4a〜4hを間欠的に切り換えて駆動することで、各超音波振動子4a〜4hへの投入電力の低減を図ることができる。
【0052】
また、前記複数の電極40a〜40hは円周状に設けられており、前記複数の電極40a〜40hが周方向に電圧を印加される。
【0053】
この構成によると、振動面における定在波ができるだけ回避され、波動を分散させることができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することが可能なものである。例えば、以下のように変更して実施することができる。
【0055】
(1)
上記実施形態で説明したように、CPU30は、電極40a〜40hの8つの電極の中から1つの電極に電圧を印加する駆動パターンを選択し、電圧を印加する電極40a〜40hを間欠的または周期的に切り換えるようになっている。しかし、これに限らず、図13に示す駆動パターン決定テーブルを用いて、CPU30が、電極40a〜40hの8つの電極の中から2つの電極に同時に電圧を印加する駆動パターンを選択し、電圧を印加する電極40a〜40hを間欠的または周期的に切り換えるようにしてもよい。図13に示す、駆動パターン1は、電極40aおよび電極40cに電圧が印加され、他の電極40b、40d〜40hには電圧が印加されない。駆動パターン2は、電極40bおよび電極40dに電圧が印加され、他の電極40a、40c、40e〜40hには電圧が印加されない。駆動パターン3は、電極40cおよび電極40eに電圧が印加され、他の電極40a、40b、40d、40f〜40hには電圧が印加されない。駆動パターン4は、電極40dおよび電極40fに電圧が印加され、他の電極40a〜40c、40e、40g、40hには電圧が印加されない。駆動パターン5は、電極40eおよび電極40gに電圧が印加され、他の電極40a〜40d、40f、40hには電圧が印加されない。駆動パターン6は、電極40fおよび電極40hに電圧が印加され、他の電極40a〜40e、40gには電圧が印加されない。駆動パターン7は、電極40aおよび電極40gに電圧が印加され、他の電極40b〜40f、40hには電圧が印加されない。駆動パターン8は、電極40bおよび電極40hに電圧が印加され、他の電極40a、40c〜40gには電圧が印加されない。このように、電極40a〜40hに電圧を印加する駆動パターンは適宜変更して実施可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 霧化装置
2 成膜装置
3 制御装置
4 超音波振動子部
4a、4b、4c、4d、4e、4f、4g、4h 超音波振動子
5 霧化用液体
6 中間溶液
7a、7b 流量制御弁
8 窒素ガスボンベ
9 容器
10 架台
11 溶液槽
12、13、14 霧化筒
15 隔膜
16、17 継手リング
18 ジャマ板
19a、19b ガス供給口
30 CPU
31 記憶部
32 入出力部
40 圧電素子
40a、40b、40c、40d、40e、40f、40g、40h、40i 電極
41 分離溝
53 リレー部
100 成膜用霧化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜に用いられる霧化装置であって、
霧化用液体を収容する容器と、
前記容器および中間溶液を収容し、当該中間溶液に少なくとも前記容器の底面部を浸漬させる溶液槽と、
前記溶液槽に配置され、前記霧化用液体に対して超音波を照射する超音波振動子部と、
前記超音波振動子部の駆動を制御する制御装置と、
を備え、
前記超音波振動子部は厚み方向の両面に電極部を有し、一方の電極部は互いに絶縁された複数の電極により構成され、他方の電極部は共通とされており、前記制御装置は当該複数の電極のうち電圧が印加される電極を切り換えることを特徴とする成膜用霧化装置。
【請求項2】
成膜に用いられる霧化装置であって、
霧化用液体を収容する容器と、
前記容器および中間溶液を収容し、当該中間溶液に少なくとも前記容器の底面部を浸漬させる溶液槽と、
前記溶液槽に配置され、前記霧化用液体に対して超音波を照射する超音波振動子部と、
前記超音波振動子部の駆動を制御する制御装置と、
を備え、
前記超音波振動子部は複数の超音波振動子を有しており、前記制御装置は当該複数の超音波振動子のうち駆動させる超音波振動子を切り換えることを特徴とする成膜用霧化装置。
【請求項3】
前記複数の電極は円周状に設けられており、前記複数の電極が周方向に電圧を印加されることを特徴とする請求項1に記載の成膜用霧化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−110453(P2011−110453A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266532(P2009−266532)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(309037192)株式会社陶喜 (3)
【出願人】(506233047)有限会社北野製作所 (3)
【Fターム(参考)】