説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】本発明は、膜質の向上を図りつつ、長時間にわたり連続して成膜作業を行うことを可能とする成膜装置及び成膜方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係る成膜装置1は、真空容器10内でプラズマビームPにより成膜材料Maを蒸発させ、被処理物としての基板11に付着させて膜を生成する成膜装置であって、成膜材料Maを保持すると共に、プラズマビームPを誘導する主陽極3と、主陽極3を囲むように配置されると共に、主陽極3によるプラズマビームPの誘導を補助する環状の補助陽極4と、補助陽極4の位置を調整する位置調整装置6と、を備え、真空容器10は、真空容器10の内外を連通させる貫通孔10f〜10jを有しており、位置調整装置6は、貫通孔10f〜10jを通じて、真空容器10の外側から補助陽極4の位置を調整するための調整部70と、貫通孔のシール性を維持するベローズ80とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被処理物の表面に成膜材料を成膜する装置としては、例えば蒸着装置が知られている。蒸着装置では、真空容器内において主陽極及び補助陽極によりプラズマビームが成膜材料に入射するように誘導し、加熱された成膜材料が蒸発されて、蒸発した成膜材料を被処理物の表面に付着させることで成膜を行う。このような蒸着装置においては、生産効率上、真空容器の真空状態を維持したまま成膜作業を連続して行うことが好ましい。
【0003】
例えば、特許文献1には、真空容器の真空状態を維持したまま真空容器内の主ハースの取り付け及び取り外しが可能なハース機構が開示されている。このハース機構によれば、主ハースの交換が必要となった場合に、真空容器の真空状態を維持したまま主ハースを交換することができ、連続して成膜作業を行うことができる。
【0004】
【特許文献1】特開2007−16269
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、主陽極に成膜材料が堆積すると、主陽極の導電性に変化が生じて、プラズマビームの入射位置にずれが生じることがある。その結果、成膜材料の加熱部位に偏りが生じて、蒸発した成膜材料における粒子の拡散状態が不均一となり、被処理物に対する均一な膜の生成が妨げられるおそれがある。このようなプラズマビームの入射位置のずれは、成膜中に度々発生するため、その度に主陽極を交換することは、コストの面などから見て効率的ではない。そこで、補助陽極の位置を調整して、プラズマビームの入射位置を適切に誘導することで、成膜材料を均一に拡散させることが考えられる。しかしながら、補助陽極の位置を調整するには、真空容器を開放する必要があり、成膜作業が中断されてしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上記した事情を鑑みてなされたものであり、膜質の向上を図りつつ、長時間にわたり連続して成膜作業を行うことを可能とする成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る成膜装置は、真空容器内でプラズマビームにより成膜材料を蒸発させ、被処理物に付着させて膜を生成する成膜装置において、成膜材料を保持すると共に、プラズマビームを誘導する主陽極と、主陽極を囲むように配置されると共に、主陽極によるプラズマビームの誘導を補助する環状の補助陽極と、補助陽極の位置を調整する位置調整手段と、を備え、真空容器は、真空容器の内外を連通させる貫通孔を有しており、位置調整手段は、貫通孔を通じて、真空容器の外側から補助陽極の位置を調整するための調整部と、貫通孔のシール性を維持するシール部とを有することを特徴とする。
【0008】
この成膜装置によれば、蒸発した成膜材料が主陽極に付着して、次第に堆積していき、プラズマビームの入射位置にずれが生じた場合に、調整部を用いて真空容器の外側から補助陽極の位置を調整することで、プラズマビームを適切な入射位置に誘導することができる。これによって、成膜材料の拡散状態を均一に維持することが可能となるため、膜の厚みを均一にして、膜質の向上を図ることができる。このとき、シール部により真空容器の真空状態が維持されるため、真空容器の真空状態を維持しつつ、補助陽極の位置を調整することができ、長時間にわたって連続して成膜作業を行うことを可能とする。また、真空容器の真空状態が維持されるため、プラズマビームを放電させながら、適切な入射位置に誘導することが可能となり、作業効率の向上が図られる。
【0009】
ここで、調整部は、貫通孔から補助陽極に向かう方向に移動可能な長尺部材を有しており、長尺部材が補助陽極に向かって移動されて、補助陽極を押し込むことによって、補助陽極の位置を調整することが好ましい。この場合、長尺部材を操作して、補助陽極を押し込むことで、容易に補助陽極の位置調整を行うことができる。また、簡素な構成により補助陽極の位置調整を可能とする。
【0010】
また、真空容器の側壁には、補助陽極を挟んで一対の貫通孔が対向して設けられ、一対の貫通孔の対向方向と交差する方向に補助陽極を挟んで他の一対の貫通孔が対向して設けられており、位置調整手段は、これら二対の貫通孔から補助陽極に向かう方向にそれぞれ進退可能な複数の長尺部材を有していることが好ましい。このような構成の成膜装置によれば、位置調整手段が、前述した二対の貫通孔からそれぞれ長尺部材を移動させて、補助陽極を四方から押し込むことが可能となるため、補助陽極の位置を自在に調整することができ、プラズマビームを所望の位置に誘導することができる。
【0011】
また、真空容器内の主陽極を撮像する撮像手段と、撮像手段が撮像した前記主陽極の画像データに基づき、位置調整手段による補助陽極の位置調整を制御する制御手段とを更に備えることが好ましい。このような制御手段を有する成膜装置では、撮像手段が撮像した主陽極の画像データから、主陽極の形状を認識して、プラズマビームの入射位置にずれが生じていると判断した場合、位置調整手段による補助陽極の位置調整を制御することで、プラズマビームの入射位置を修正することができる。このように、制御手段及び撮像手段を用いることで、プラズマビームの入射位置のずれを効率よく修正することが可能となるため、成膜材料の拡散状態の不均一が好適に解消されて、膜質の向上を図ることができる。
【0012】
本発明に係る成膜方法は、真空容器内でプラズマビームによって成膜材料を蒸発させ、被処理物に付着させて膜を生成する成膜方法において、真空容器の真空状態を維持しつつ、プラズマビームが成膜材料を保持する主陽極又は成膜材料に誘導されるように、真空容器の貫通孔を通じて、真空容器の外側からプラズマビームを補助的に誘導するための補助陽極の位置を調整する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
この成膜方法によれば、真空容器の真空状態を維持しつつ、プラズマビームが成膜材料を保持する主陽極又は成膜材料に誘導されるように、真空容器の貫通孔を通じて、真空容器の外側からプラズマビームを誘導するための補助陽極の位置を調整する。従って、補助陽極の位置を調整して、プラズマビームの入射位置を適宜修正することにより、膜質の向上を図ることができると共に、真空容器の真空状態を維持しながら、補助陽極の位置調整を行うため、長時間にわたり連続して成膜作業を行うことを可能とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、膜質の向上を図りつつ、長時間にわたり連続して成膜作業を行うことを可能とする成膜装置及び成膜方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る成膜装置の好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る成膜装置を示す概略断面図、図2は、図1のII−IIに沿った概略断面図である。本実施形態の成膜装置1は、いわゆるイオンプレーティング装置である。なお、図面には、説明を容易にする為にXYZ直交座標系も示されている。
【0017】
図1及び図2に示すように、本実施形態の成膜装置1は、プラズマ源2、主陽極3、補助陽極4、ベースプレート5、位置調整装置(位置調整手段)6、CCDカメラ(撮像手段)7、制御装置(制御手段)8、搬送機構9、真空容器10を備える。
【0018】
真空容器10は、導電性の材料から構成されており、接地電位に接続されている。真空容器10は、成膜対象である被処理物としての基板11を搬送するための搬送室10aと、固形成膜材料Maを拡散させる成膜室10bと、図示しない真空ポンプにより真空容器10の内部を真空状態にするための空気排出口10dとを有する。搬送室10aは、所定の搬送方向(図中の矢印A)に延びており、成膜室10b上に配置されている。なお、本実施形態においては、搬送方向(矢印A)はX軸に沿って設定されている。
【0019】
成膜室10bの側壁10cは、真空容器10の内外を連通させる4つの貫通孔10f〜10jを有しており、これらの貫通孔10f〜10jは、後述する補助陽極4を挟むように、貫通孔10f及び貫通孔10gと貫通孔10h及び貫通孔10jとがそれぞれ対向すると共に、貫通孔10f及び貫通孔10gにおける対向方向と貫通孔10h及び貫通孔10jにおける対向方向とが直交するように設けられている。
【0020】
プラズマ源2は、圧力勾配型のプラズマ源であり、その本体部分が成膜室10bの側壁(プラズマ口10e)に設けられている。プラズマ源2において生成されたプラズマビームPは、プラズマ口10eから成膜室10b内へ出射される。プラズマビームPの出射方向は、プラズマ口10eに設けられた図示しないステアリングコイルによって制御される。
【0021】
主陽極3は、成膜材料Maを保持するための部分である。この成膜材料Maとしては、SiOなどの絶縁封止材料や、ITOなどの透明導電材料が例示される。主陽極3は、真空容器10の成膜室10b内の中央下部に設けられ、プラズマ源2から出射されたプラズマビームPを誘導する主ハース31を有する。この主ハース31の中央部には、成膜材料Maを装填するための開口が形成されている。そして、成膜材料Maの先端部分が、この開口から露出している。主ハース31は、接地電位である真空容器10に対して正電位に保たれており、プラズマビームPを主ハース31自身又は成膜材料Maへと誘導する。
【0022】
補助陽極4は、プラズマビームPを誘導するための環状の電磁石である。補助陽極4は、成膜材料Maを保持する主ハース31の周囲に配置されており、環状の容器、並びに該容器内に収容されたコイル4a及び永久磁石4bを有する。コイル4a及び永久磁石4bは、コイル4aに流れる電流量に応じて、主ハース31又は成膜材料Maに入射するプラズマビームPの向きを制御する。
【0023】
ベースプレート5は、主陽極3及び補助陽極4を支持するために水平面(XY平面)に沿って設けられた板状の部材である。ベースプレート5は、主陽極3を支持するための中央支持部5aと、補助陽極4を支持するための外周支持部5bと、真空容器10の底から上下方向(Z方向)に延在する支柱5cとを有している。この外周支持部5bの上面では、補助陽極4が水平面(XY平面)に沿って移動可能に配置されている。
【0024】
位置調整装置6は、補助陽極4を囲むようにして、側壁10cの外側に配置された4つの位置調整機構6A〜6Dによって構成されている。位置調整機構6A〜6Dは、真空容器10に対する絶縁処理が施されており、それぞれ貫通孔10f〜10jを通じて、真空容器10内の補助陽極4の位置を調整する。
【0025】
CCDカメラ7は、主陽極3の斜め上方に位置するように側壁10cの内面に設けられており、主陽極3と補助陽極4との撮像を行う。
【0026】
制御装置8は、位置調整機構6A〜6D及びCCDカメラ7に電気的に接続されており、CCDカメラ7が撮像した主陽極の画像データに基づき、位置調整機構6A〜6Dによる補助陽極4の位置調整を制御する。
【0027】
搬送機構9は、搬送室10a内に設置された複数の搬送ローラ91によって構成され、被処理物としての基板11を保持する保持部材としてのトレイ92を、主陽極3の保持する固形成膜材料Maと対向した状態で搬送方向(矢印A)に搬送する。搬送ローラ91は、搬送方向(矢印A)に沿って等間隔で並んでおり、トレイ92を支持しつつ搬送方向に搬送することができる。なお、被処理物としての基板11には、例えばガラス基板やプラスチック基板、半導体基板などの板状部材がある。
【0028】
図3は、図1の位置調整機構を示す概略断面図である。図3に示すように、位置調整機構6Aは、モータ61と、シャフト62と、ボールスクリュー65と、調整部70と、ベローズ(シール部)80とを有している。なお、位置調整機構6A〜6Dは、全て同等の構成及び機能を有している。
【0029】
モータ61は、制御装置8と電気的に接続されており、制御装置8からの信号に応じて出力軸61aの回転や停止を行う。
【0030】
シャフト62は、モータ61における出力軸61aの突出方向に延在して、軸受63に支持されると共に、フランジ部62aを介してモータ61の出力軸61aに連結されている。また、シャフト62は、その軸線方向に2つのマイタ歯車64を有している。
【0031】
ボールスクリュー65は、ボールスクリュー溝が形成された2本の棒状部材であり、互いに平行となるように配置されている。これらのボールスクリュー65は、一端が真空容器10の側壁10c内に埋設された軸受68に支持されると共に、側壁10cと直交する方向(X方向)に延在して、他端近傍が軸受66に支持されている。また、ボールスクリュー65は、他端にマイタ歯車67を有しており、マイタ歯車67は、シャフト62のマイタ歯車64と咬合している。
【0032】
調整部70は、ベース部材71と、調整棒(長尺部材)72とを有している。ベース部材71は、2本のボールスクリュー65に直交する面に沿って配置される板状の部材であり、その両端にボールスクリュー65と螺合する螺合部を有している。ベース部材71は、ボールスクリュー65が回転することによって、ボールスクリュー65の延在方向(X方向)に向かって前後移動する。
【0033】
調整棒72は、ベース部材71から側壁10cの貫通孔10fに向かう方向(X方向)に延在する部材であり、その先端部72aが真空容器10内に突出するように配置されている。調整棒72は、図1及び図2に示すように、貫通孔10fに嵌合された筒状の摺動部材73に摺動可能に支持されており、ベース部材71と連動してX方向に移動することで、先端部72aが補助陽極4に向かって突出する。
【0034】
ベローズ80は、X方向に伸縮自在な中空部材であり、押し込み部材71と側壁10cとの間に配置されて、その両端が止め具81によって封止されている。このベローズ80は、真空容器10の外側に配置され、調整棒72を覆って内部を密封状態とすることにより、空気が貫通孔10fを通じて真空容器10内に進入することを防ぎ、貫通孔10fのシール性を維持している。また、ベース部材71の中央部、調整棒72の先端部、摺動部材73、及び止め具81は、絶縁性の材料で構成されており、位置調整機構6Aは、真空容器10に対して電気的に絶縁された状態に保たれている。
【0035】
この位置調整機構6Aでは、モータ61が出力軸61aを回転させることで、シャフト62が回転され、マイタ歯車64,67を介してボールスクリュー65が回転する。ボールスクリュー65が回転すると、ボールスクリュー65と螺合されたベース部材71がX方向に移動され、貫通孔10fを通じて調整棒72が真空容器10内の補助陽極4に向かって移動される。そして、調整棒72の先端部72aが補助陽極4を押し込むことで、補助陽極4がX方向にプラズマ源2側へ動かされ、補助陽極4の位置調整が行われる。
【0036】
次に、図1〜図3を参照して、以上の構成を備える成膜装置1の作用及び効果について、成膜装置1を用いた成膜方法と共に説明する。
【0037】
まず、主ハース31へ成膜材料Maを装着するとともに、被処理物としての基板11を保持したトレイ92を搬送機構9に複数セットする。そして、真空容器10内を真空状態にする。
【0038】
続いて、接地電位にある真空容器10を挟んで、負電圧をプラズマ源2に、正電圧を主陽極3に印加して放電を生じさせ、プラズマビームPを生成する。プラズマビームPは、補助陽極4に案内されて主陽極3へ照射される。本方法では、トレイ92を搬送方向(矢印A)に搬送しつつ、このようにプラズマビームPを主陽極3へ照射する。ここで、成膜材料MaがSiOなどの絶縁性物質からなる場合、プラズマビームPが照射されると、プラズマビームPからの電流によって主ハース31が加熱され、成膜材料Maの先端部分が蒸発する。また、成膜材料MaがITOなどの導電性物質からなる場合、プラズマビームPが照射されると、プラズマビームPが成膜材料Maに直接入射し、成膜材料Maの先端部分が加熱されて蒸発する。このようにして、成膜材料Maがイオン化され、成膜材料粒子Mbとなって成膜室10b内に拡散する。成膜室10b内に拡散した成膜材料粒子Mbは、成膜室10b内をZ軸方向の正方向に上昇し、被処理物としての基板11に向けて飛翔する。
【0039】
他方、被処理物としての基板11は、搬送機構9によって搬送されて成膜室10bの上方に達し、成膜室10b内を拡散している成膜材料粒子Mbに曝される。そして、主陽極3と対向する被処理物としての基板11の成膜面に、成膜室10b内に拡散した成膜材料粒子Mbのイオン化粒子が膜状に付着する。被処理物としての基板11が一定速度で搬送されながら成膜材料粒子Mbに所定時間曝されることにより、被処理物としての基板11の表面に所定の厚さの膜が形成される。こうして、被処理物としての基板11の表面に所望の膜が形成される。
【0040】
図4は、図1の主陽極における成膜材料の堆積状態を示す概略断面図である。図4に示すように、成膜作業中に、主陽極3の上部に成膜材料の粒子が堆積すると、主陽極3の導電性が変化して、プラズマビームPの入射位置にずれが生じる場合がある。プラズマビームPの入射位置が初期位置からずれると、二点鎖線で示すように成膜材料Maの加熱部位に偏りが生じて、過剰に消耗された消耗部位Nが形成される。図2に示すように、このような消耗部位Nが形成された場合、本実施形態に係る成膜装置1では、位置調整機構6Bにより補助陽極4を矢印Vの向きに所定量押し込むと共に、位置調整機構6Dにより補助陽極4を矢印Wの向きに所定量押し込むことにより、プラズマビームPの入射位置を初期位置に誘導することができる。
【0041】
このように、本実施形態における成膜装置1では、位置調整機構6A〜6Dによって、補助陽極4の位置を調整することで、プラズマビームPの入射位置を修正することができる。従って、成膜材料Maの加熱部位の偏りが解消されて、成膜材料粒子Mbの拡散状態を均一に維持することが可能となり、膜の厚みが均一とされて、膜質の向上を図ることができる。そして、真空容器10の真空状態が維持されることで、プラズマビームPを放電させながら、初期位置に誘導することが可能となり、作業効率の向上が図られる。
【0042】
また、本実施形態における成膜装置1では、位置調整機構6A〜6Dにおける調整棒72を移動させて、補助陽極4を押し込むことで、容易に補助陽極4の位置調整を行うことが可能となり、簡素な構成により補助陽極4の位置調整が実現される。
【0043】
さらに、真空容器10の外側から補助陽極4の位置を調整する際に、位置調整機構6A〜6Bの有するベローズ80により貫通孔10f〜10jのシール性が維持されるため、真空容器10の真空状態を維持したまま、補助陽極4の位置を調整することができ、長時間にわたって連続して成膜作業を行うことができる。
【0044】
さらに、真空容器10には、貫通孔10f〜10jが補助陽極4を囲むように四方に設けられており、位置調整機構6A〜6Dは、それぞれ貫通孔10f〜10jから補助陽極4に向かう方向に移動可能な調整棒72を有している。これによって、位置調整機構6A及び位置調整機構6Bが、X方向に補助陽極4の位置調整を行うと共に、位置調整機構6C及び位置調整機構6Dが、Y方向に補助陽極4の位置調整を行うことが可能となるため、補助陽極の位置を自在に調整することが可能となり、プラズマビームPを所望の位置に誘導することができる。
【0045】
そして、本実施形態に係る成膜装置1は、真空容器10内の主陽極3を撮像するCCDカメラ7と、CCDカメラ7が撮像した主陽極3の画像データに基づき、位置調整装置6による補助陽極4の位置調整を制御する制御装置8とを有している。この制御装置8を有する成膜装置1では、CCDカメラ7が撮像した主陽極3の画像データから、主陽極3の形状を認識して、プラズマビームPの入射位置にずれが生じているか否かを判断する。プラズマビームPの入射位置にずれが生じていると判断した場合、位置調整装置6を制御して、補助陽極4の位置調整を行い、プラズマビームPの入射位置を主陽極3の中心へと修正する。これによって、プラズマビームPの入射位置のずれを自動で効率よく修正することが可能となる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、貫通孔のシール性を維持するシール部として、貫通孔に嵌合される環状のシール部材を用いてもよい。
【0047】
また、位置調整機構6A〜6Dは、4つではなく1つであっても良く、X方向及びY方向にそれぞれ一つ以上備えることがより好ましい。
【0048】
また、制御装置8に代わって、作業員が位置調整機構6A〜6Dのモータ61を直接操作するためのモータ用コントローラを設けてもよい。この場合には、CCDカメラ7に代わって、作業員が真空容器10内を視認するための窓部を設けてもよい。また、制御装置8及びCCDカメラ7とモータ用コントローラ及び窓部を併設することがより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る成膜装置を示す概略断面図である。
【図2】図1のII−IIに沿った概略断面図である。
【図3】図1の位置調整機構を示す概略断面図である。
【図4】図1の主陽極における成膜材料の堆積状態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1…成膜装置、2…プラズマ源、3…主陽極、4…補助陽極、5…ベースプレート、6…位置調整装置(位置調整手段)、6A,6B,6C,6D…位置調整機構、7…CCDカメラ(撮像手段)、8…制御装置(制御手段)、9…搬送機構、10…真空容器、10f,10g,10h,10j…貫通孔、11…基板、61…モータ、62…シャフト、65…ボールスクリュー、70…調整部、72…調整棒(長尺部材)、80…ベローズ(シール部)、Ma…成膜材料、P…プラズマビーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内でプラズマビームにより成膜材料を蒸発させ、被処理物に付着させて膜を生成する成膜装置において、
前記成膜材料を保持すると共に、前記プラズマビームを誘導する主陽極と、
前記主陽極を囲むように配置されると共に、前記主陽極による前記プラズマビームの誘導を補助する環状の補助陽極と、
前記補助陽極の位置を調整する位置調整手段と、を備え、
前記真空容器には、前記真空容器の内外を連通させる貫通孔が設けられており、
前記位置調整手段は、前記貫通孔を通じて、前記真空容器の外側から前記補助陽極の位置を調整するための調整部と、前記貫通孔のシール性を維持するシール部とを有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記調整部は、前記貫通孔から前記補助陽極に向かう方向に進退可能な長尺部材を有しており、前記長尺部材が前記補助陽極に向かって移動されて、前記補助陽極を押し込むことによって、前記補助陽極の位置を調整することを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記真空容器の側壁には、前記補助陽極を挟んで一対の前記貫通孔が対向して設けられ、前記一対の貫通孔の対向方向と交差する方向に前記補助陽極を挟んで他の一対の前記貫通孔が対向して設けられており、前記位置調整手段は、これら二対の前記貫通孔から前記補助陽極に向かう方向にそれぞれ進退可能な複数の前記長尺部材を有していることを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記真空容器内の前記主陽極を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段が撮像した前記主陽極の画像データに基づき、前記位置調整手段による前記補助陽極の位置調整を制御する制御手段とを更に備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の成膜装置。
【請求項5】
真空容器内でプラズマビームによって成膜材料を蒸発させ、被処理物に付着させて膜を生成する成膜方法において、
前記真空容器の真空状態を維持しつつ、前記プラズマビームが前記成膜材料を保持する主陽極又は前記成膜材料に誘導されるように、前記真空容器の貫通孔を通じて、前記真空容器の外側から前記プラズマビームを補助的に誘導する補助陽極の位置を調整する工程を含むことを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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