説明

成膜装置

【課題】 被処理物の表面へのパーティクルの付着を抑えることが可能な成膜装置を提供する。
【解決手段】 真空チャンバ10内で蒸着材料を蒸発させ基板WAに対して蒸着させる成膜装置1である。蒸着材料を蒸発させるプラズマガン30と、雰囲気ガス供給源106と、主制御装置80と、を備える。主制御装置80は、プラズマガン30による加熱状態を、成膜状態の加熱状態(成膜時電流I)と、非成膜状態における加熱状態(成膜時電流I)との間で切り替え制御する。そして、主制御装置80は、成膜状態と非成膜状態との間における加熱状態の切り替え途上において、蒸着材料の蒸発やプロセスガスの導入による真空チャンバ10内の圧力変動を緩和する方向に、雰囲気ガス供給源106からの雰囲気ガスの供給量を変動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャンバ内で蒸着材料を蒸発させ基板に対して蒸着させる成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理物の表面に成膜材料を成膜する方法としては、例えばイオンプレーティング法などの物理蒸着法が知られている。イオンプレーティング装置としては、例えば特許文献1に開示されたイオンプレーティング装置がある。
【0003】
このようなイオンプレーティング装置では、成膜材料をプラズマビームにより加熱し、蒸発させて基板に堆積させている。プラズマビームは、放電電流を調整することで、成膜材料を蒸発させ得る温度である成膜状態と、成膜材料を蒸発させ得ない温度である非成膜状態(待機放電)とに切替えることができる。従って、基板を成膜しない場合は、非成膜状態にすることにより、材料の消費を抑えることができる。
【0004】
【特許文献1】特開平5−295527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようにプラズマビームを成膜状態と非成膜状態とで切替えるようにすると、材料の消費は抑えられるものの、プラズマビームを成膜状態と非成膜状態とで切替えない成膜方式と比べて、被処理物の表面に付着するパーティクルの量が多くなっていた。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みて為されたものであり、被処理物の表面へのパーティクルの付着を抑えることが可能な成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、上記した課題を解決するため鋭意研究し、放電電流の切替時に材料が蒸発し始めると、チャンバ内圧力が変動することに着目した。すなわち、Si化合物を成膜する場合、プロセスガス(O又はN)を導入しながら蒸着材料としてのシリコン酸化物を蒸発させるのであるが、この蒸発による圧力上昇やプロセスガスの導入による圧力上昇により、チャンバ内圧力が変動することに着目した。そして、この圧力変動により、チャンバ内においてパーティクルが巻き上げられるのではないかと考えた。
【0008】
そこで、非成膜状態から成膜状態への切替え時において、非成膜時に放電の安定化のためにチャンバ内に導入している不活性ガスであるAr,Ne,Xe,Heなどの雰囲気ガスの供給量を、上記した圧力変動を抑えるように低減すると、被処理物の表面に付着するパーティクルの量を低減することができることが分かった。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0009】
本発明に係る成膜装置は、チャンバ内で蒸着材料を蒸発させ基板に対して蒸着させる成膜装置であって、蒸着材料を加熱して蒸発させる加熱手段と、チャンバ内に不活性ガスである雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給手段と、加熱手段と雰囲気ガス供給手段とを制御する制御手段と、を備え、制御手段は、加熱手段による加熱状態を、蒸着材料が蒸発し始める加熱状態よりもより加熱する成膜状態における第1加熱状態と、蒸着材料を蒸発できない非成膜状態における第2加熱状態との間で切り替え制御可能であり、制御手段は、成膜状態と非成膜状態との間における加熱状態の切り替え途上において、蒸着材料の蒸発によるチャンバ内の圧力変動を緩和する方向に、雰囲気ガス供給手段による雰囲気ガスの供給量を変動させることを特徴とする。
【0010】
この成膜装置では、成膜状態と非成膜状態との間における加熱状態の切り替え途上において、不活性ガスである雰囲気ガスの供給量を変動させることで、蒸着材料の蒸発によるチャンバ内の圧力変動を緩和でき、チャンバ内におけるパーティクルの巻き上げを抑制して、被処理物の表面へのパーティクルの付着を抑えることができる。
【0011】
また本発明に係る成膜装置は、チャンバ内で蒸着材料を蒸発させ基板に対して蒸着させる成膜装置であって、蒸着材料を加熱して蒸発させる加熱手段と、チャンバ内に成膜に用いるプロセスガスを供給するプロセスガス供給手段と、チャンバ内に不活性ガスである雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給手段と、加熱手段とプロセスガス供給手段と雰囲気ガス供給手段とを制御する制御手段と、を備え、制御手段は、加熱手段による加熱状態を、蒸着材料が蒸発し始める加熱状態よりもより加熱する成膜状態における第1加熱状態と、蒸着材料を蒸発できない非成膜状態における第2加熱状態との間で切り替え制御可能であり、制御手段は、プロセスガス供給手段によるプロセスガスの供給量を、成膜状態における第1プロセスガス量と、非成膜状態における第2プロセスガス量との間で切り替え制御可能であり、制御手段は、成膜状態と非成膜状態との間におけるプロセスガスの供給量の切り替え途上において、プロセスガスによるチャンバ内の圧力変動を緩和する方向に、雰囲気ガス供給手段による雰囲気ガスの供給量を変動させることを特徴とする。
【0012】
この成膜装置では、成膜状態と非成膜状態との間におけるプロセスガスの供給量の切り替え途上において、不活性ガスである雰囲気ガスの供給量を変動させることで、プロセスガスによるチャンバ内の圧力変動を緩和でき、チャンバ内におけるパーティクルの巻き上げを抑制して、被処理物の表面へのパーティクルの付着を抑えることができる。
【0013】
制御手段は、成膜状態と非成膜状態との間における加熱状態の切り替え途上において、蒸着材料の蒸発によるチャンバ内の圧力変動を緩和する方向に、雰囲気ガス供給手段による雰囲気ガスの供給量を変動させることを特徴としてもよい。このようにすれば、蒸着材料の蒸発によるチャンバ内の圧力変動をも緩和でき、チャンバ内におけるパーティクルの巻き上げを一層抑制して、被処理物の表面へのパーティクルの付着を一層抑えることができる。
【0014】
蒸着材料を収容すると共にプラズマビームを引き寄せる陽極として機能するハースと、ハースの周りに環状に配置されハース上方の電磁場を制御する補助陽極と、を備え、加熱手段は、プラズマビームをチャンバ内に供給するプラズマ源を有することを特徴としてもよい。このように、プラズマを利用したイオンプレーティング法による成膜において、本発明は好適である。
【0015】
雰囲気ガス供給手段は、ハースの周りに不活性ガスを供給することを特徴としてもよい。このように、プラズマビームの放電電流が低い場合において、ハースの周りには、放電を安定させるために不活性ガスを供給することができるが、この場合において、不活性ガスの供給量を変動させることで、チャンバ内の圧力変動を緩和でき、チャンバ内におけるパーティクルの巻き上げを抑制して、被処理物の表面へのパーティクルの付着を抑えることができる。
【0016】
制御手段は、補助陽極に供給する電流値を、成膜状態における第1電流値と、非成膜状態における第2電流値との間で切り替え制御可能であり、制御手段は、成膜状態と非成膜状態との間における電流値の切り替え途上において、電流値を所定の変動率で徐々に変動させることを特徴としてもよい。このようにすれば、成膜状態と非成膜状態との間における放電状態の切り替えをスムーズに行うことができる。
【0017】
チャンバ内の圧力を検出する圧力センサを備え、制御手段は、成膜状態と非成膜状態との間の切り替え途上において、圧力センサの検出値に基づいて、チャンバ内の圧力が一定になるように、フィードバック制御により雰囲気ガス供給手段による雰囲気ガスの供給量を変動させることを特徴としてもよい。このようにすれば、チャンバ内の圧力変動に追従しその圧力が一定になるようにリアルタイムに制御することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被処理物の表面へのパーティクルの付着を抑えることが可能な成膜装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態である成膜装置の全体構造を概略的に説明する図である。
【0021】
この成膜装置1は、成膜室である真空チャンバ10と、真空チャンバ10中にプラズマビームPBを供給するプラズマ源であるプラズマガン(加熱手段)30と、真空チャンバ10内の底部に配置されてプラズマビームPBの流れを制御する陽極部材50と、真空チャンバ10上部に配置されて基板WAを搬送する搬送機構60と、これらの動作を統括制御する主制御装置(制御手段)80とを備える。
【0022】
プラズマガン30は、圧力勾配型のプラズマガンであり、その本体部分は、真空チャンバ10の側壁に設けられた筒状部12に装着されている。この本体部分は、陰極31によって一端が閉塞されたガラス管32からなる。ガラス管32内には、モリブデンMoで形成された円筒33が陰極31に固定されて同心に配置されており、この円筒33内には、LaB6で形成された円盤34とタンタルTaで形成されたパイプ35とが内蔵されている。ガラス管32の両端部のうち陰極31とは反対側の端部と、真空チャンバ10に設けた筒状部12の端部との間には、第1及び第2中間電極41、42が同心状に直列に配置されている。一方の第1中間電極41内には、プラズマビームPBを収束するための環状永久磁石44が内蔵されている。第2中間電極42内にも、プラズマビームPBを収束するための電磁石コイル45が内蔵されている。なお、筒状部12の周囲には、陰極31側で発生して第1及び第2中間電極41、42まで引き出されたプラズマビームPBを真空チャンバ10内に導くステアリングコイル47が設けられている。
【0023】
プラズマガン30の動作は、ガン駆動装置48によって制御されている。このガン駆動装置48は、陰極31への給電をオン・オフしたりこれへの供給電流等を調整したりすることができ、さらに第2中間電極42内の電磁石コイル45、及びステアリングコイル47への給電を調整する。このようなガン駆動装置48によって、真空チャンバ10中に供給されるプラズマビームPBの分布状態が制御され、特に陰極31への供給電流を調整することでプラズマビームPBの強度が制御される。
【0024】
なお、プラズマガン30の最も内心側に配置されるパイプ35は、プラズマビームPBのもととなるAr等のキャリアガスをプラズマガン30中に導入するためものであり、流量計93及び流量調節弁94を介してガス供給源90に接続されている。流量計93によって検出されたキャリアガスの流量は主制御装置80で監視されており、流量調節弁94によるキャリアガスの流量調整等に利用される。
【0025】
真空チャンバ10には、プロセスガスとしての窒素(N)を供給するため、流量調節弁96及び流量計97を有するプロセスガス供給ライン101を介して、プロセスガス供給源100が接続されている(プロセスガス供給手段)。また、真空チャンバ10のプラズマガン30に対向する側面には、真空チャンバ10内を適宜減圧するため、真空ゲート76を介して排気ポンプ77が取り付けられている。
【0026】
真空チャンバ10中の下部に配置された陽極部材50は、プラズマビームPBを下方に導く主陽極であるハース51と、その周囲に配置された環状の補助陽極52とからなる。
【0027】
前者のハース51は、導電性材料で形成されるとともに接地された真空チャンバ10に支持されている。このハース51に、プラズマガン30から出射したプラズマビームPBが入射する。なお、ハース51は、プラズマガン30からのプラズマビームPBが入射する中央上部に蒸着材料53を有している。膜材料であるSiO等の蒸着材料53が、プラズマビームPBによって加熱されて蒸発する。
【0028】
後者の補助陽極52は、ハース51の周囲にこれと同心に配置された環状の容器により構成されている。この環状容器内には、フェライト等で形成された環状の永久磁石55と、これと同心に積層されたコイル56とが収納されている。これら永久磁石55及びコイル56は、磁場制御部材であり、ハース51の直上方にカスプ状磁場を形成する。これにより、ハース51に入射するプラズマビームPBの入射位置等を修正することができる。
【0029】
補助陽極52の容器も、ハース51と同様に導電性材料で形成される。この補助陽極52は、ハース51と真空チャンバ10に対して図示を省略する絶縁物を介して取り付けられている。陽極切替器58は、補助陽極52とハース51とを電極として切替える機構であり、これらを切替えることでプラズマビームPBの入射位置を選択することが可能である。
真空チャンバ10の下部には、蒸着材料53のロッドを上昇させてハース51内に供給する材料供給装置54が設けられている。蒸着材料53のロッドは、ハース51内で加熱され、蒸発開始温度以上になると蒸発(昇華)して蒸発粒子になる。従って、蒸発材料53のロッドは、時間の経過に伴って消耗する。材料供給装置54は、蒸発材料53の消耗分を補うために、蒸発材料53のロッドを所定時間ごとに突き上げて上昇させ、蒸発材料53のロッドの上端面がハース51の上端縁の位置、例えば、先端から5mm以内の位置になるように調整する。
【0030】
ハース51と補助陽極52との間には、不活性ガスであるAr,Ne,Xe,Heなどの雰囲気ガスが供給される。この雰囲気ガスは、雰囲気ガス供給源106から、流量調節弁104及び流量計103を有する雰囲気ガス供給ライン105を介して供給される(雰囲気ガス供給手段)。
【0031】
雰囲気圧センサ99によって検出された真空チャンバ10中のガス圧や、流量計93、97、103によって検出されたガスの流量は、主制御装置80で監視されており、流量調節弁94,96,104によるガスの流量調整、すなわち真空チャンバ10の雰囲気圧の制御に利用される。
【0032】
搬送機構60は、基板WAを保持する枠体であるトレイ60aと、トレイ60aを定速で水平方向に移動させるためのローラ60bを含む駆動装置(図示省略)とを備えている。
【0033】
以下、図1に示す成膜装置1の動作について説明する。この成膜装置1による成膜時には、プラズマガン30の陰極31と真空チャンバ10内のハース51との間で放電を生じさせ、これによりプラズマビームPBを生成する。このプラズマビームPBは、ステアリングコイル47と補助陽極52内の永久磁石55等とにより決定される磁界に案内されてハース51に到達する。ハース51上部の蒸着材料53は、プラズマビームPBにより加熱され、蒸着材料53が蒸発して安定して出射する。この蒸発した蒸着材料は、プラズマビームPBによりイオン化され、基板WAの表面に付着して被膜が形成される。本実施形態では、蒸着材料がSiOであり、プロセスガスとして窒素(N)を供給しているため、基板WAにはSiONの膜が生成される。
【0034】
上記成膜装置1を用いた成膜方法において、プラズマビームPBは、プラズマガン30への給電電流を調整することで、蒸着材料が蒸発し始める加熱状態よりもより加熱する加熱状態である成膜状態と、蒸着材料を蒸発させ得ない加熱状態である非成膜状態(待機放電)とに切替えることができる。従って、真空チャンバ20内で基板WAを成膜しない場合は、次の成膜をスムーズに行うためのスタンバイ状態である非成膜状態にすることにより、材料の消費を抑えることができる。
【0035】
しかしながら、上記のようにプラズマビームPBの状態を成膜状態と非成膜状態とで単に切替えるようにすると、材料の消費は抑えられるものの、プラズマビームPBを成膜状態と非成膜状態とで切替えない成膜方式と比べて、基板WAの表面に付着するパーティクルの量が多くなっていた。これは、Si化合物(ここではSiON)を成膜する場合、プロセスガスであるO又はN(ここではN)を導入しながら蒸着材料(ここではSiO)を蒸発させるのであるが、この蒸発による圧力上昇やプロセスガスの導入による圧力上昇により、真空チャンバ10内の圧力が変動し、この圧力変動により、真空チャンバ10内においてパーティクルが巻き上げられるのではないかと推測された。
【0036】
すなわち、図3(a)に示すように、プラズマガン30に給電する給電電流を、蒸着材料が蒸発し始める加熱状態となる蒸発開始電流Iよりもより加熱する加熱状態である成膜時電流Iから、蒸着材料を蒸発させ得ない加熱状態となる非成膜時電流Iに切替えると、真空チャンバ20内で基板WAを成膜しない場合は、材料の消費を抑えることができる。
【0037】
しかしながら、図3(a)に示すように、プラズマガン30に給電する給電電流を、時刻T2から時刻T4の間に、非成膜時電流Iから成膜時電流Iに連続的に切替える途上で、時刻T3において蒸発開始電流I(ここでは、成膜時電流Iの6割の値)になると、蒸着材料が蒸発し始めるため、これにより真空チャンバ10内の圧力が上昇する。また、非成膜状態から成膜状態に切替えるときには、図3(b)に示すように、プロセスガスの流量も時刻T2において非成膜時流量Fから成膜時流量Fに切替えるため、これによっても真空チャンバ10内の圧力が上昇する。
【0038】
なお、図3(c)に示すように、非成膜状態および切替え時には、プラズマガン30の電流値が低く、放電が不安定になるため、不活性ガスである雰囲気ガスがハース51の周りに非成膜時流量Gで供給される。そして、時刻T4において放電が安定化すると、成膜時流量G(ここではゼロ)に切替えられる。また、図3(d)に示すように、非成膜状態および切替え時には、プラズマガン30の電流値が低く、放電が不安定になるため、補助陽極52のコイル56に給電するハースコイル電流は、高めの非成膜時電流Jで供給される。そして、時刻T4において放電が安定化すると、低めの成膜時電流Jに切替えられる。
【0039】
そこで、本実施形態では、上記した真空チャンバ10内の圧力変動を抑えるように、ハース51周りに導入している不活性ガスである雰囲気ガス(ここではAr)の供給量を制御することで、基板WAの表面に付着するパーティクルの量を低減するのである。
【0040】
具体的に説明すると、本実施形態では、図2(a)に示すように、プラズマガン30に給電する給電電流を、時刻T2から時刻T4の間に、非成膜時電流Iから成膜時電流Iに所定の変動率で連続的に切替える際に、真空チャンバ10内の急激な圧力変動を抑制するため、プロセスガスの供給量を、図2(b)に示すように、非成膜時流量Fから成膜時流量Fに所定の変動率で徐々に連続的に増加させる。
【0041】
そして、このときのプロセスガスの供給量の増加に伴う真空チャンバ10内の圧力上昇を緩和するため、図2(c)に示すように、時刻T2から時刻T3の間に、所定の減少率でハース51周りの雰囲気ガスの供給量を、非成膜時流量Gから流量Gに徐々に連続的に減少させる。更に、時刻T3から時刻T4の間は、蒸着材料の蒸発による圧力上昇も加わるため、その分の圧力上昇を緩和するため、より大きな減少率で、ハース51周りの雰囲気ガスの供給量を、流量Gから成膜時流量G(ここでは0sccm)に徐々に連続的に減少させる。
【0042】
また、図2(d)に示すように、非成膜状態には、プラズマガン30の電流値が低く、放電が不安定になるため、補助陽極に給電するハースコイル電流は、非成膜時電流J(第2電流値)で供給される。そして、切替え時において時刻T2から時刻T4にかけて電流が連続的に所定の減少率で減少され、時刻T4において放電が安定化すると、成膜時電流J(第1電流値)とされる。
【0043】
なお、上記においては、プラズマガン30に給電する給電電流を、非成膜時電流Iから成膜時電流Iに連続的に切替え上昇させる場合について説明しているが、プラズマガン30に給電する給電電流を、成膜時電流Iから非成膜時電流Iに連続的に切替え下降させる場合は、真空チャンバ10内の圧力減少を緩和するため、上記と逆の制御を行う。
【0044】
以上詳述したように、本実施形態の成膜装置1では、成膜状態と非成膜状態との間におけるプラズマガン30による加熱状態の切替え途上、すなわち、プラズマガン30への給電電流の切り替え途上において、蒸着材料の蒸発による真空チャンバ10内の圧力変動を緩和する方向に、不活性ガスである雰囲気ガス(ここではハース51周りに供給されるArガス)の供給量を変動させているため、蒸着材料の蒸発による真空チャンバ10内の圧力変動を緩和でき、真空チャンバ10内におけるパーティクルの巻き上げを抑制して、基板WAの表面へのパーティクルの付着を抑えることができる。
【0045】
また、プロセスガスの供給量を変化させる際には所定の変化率で徐々に変化させているため、真空チャンバ10内の急激な圧力変動を抑えることができるとともに、プロセスガスの供給による真空チャンバ10内の圧力変動を緩和する方向に、不活性ガスである雰囲気ガス(ここではハース51周りに供給されるArガス)の供給量を変動させているため、プロセスガスによる真空チャンバ10内の圧力変動を緩和でき、真空チャンバ10内におけるパーティクルの巻き上げを抑制して、基板WAの表面へのパーティクルの付着を一層抑えることができる。
【0046】
また、成膜状態と非成膜状態との間における補助陽極52としてのコイル56に供給するハースコイル電流の切り替え途上において、成膜状態における成膜時電流Jと、非成膜状態における非成膜時電流Jとの間で電流値を所定の変動率で徐々に変動させるため、成膜状態と非成膜状態との間におけるプラズマビームPBの放電状態の切り替えをスムーズに行うことができる。
【0047】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されることなく、種々の変形が可能である。例えば、上記した実施形態では成膜装置1としてイオンプレーティング装置について説明したが、単に真空雰囲気下で蒸着を行う成膜装置にも本発明は適用可能である。
【0048】
また、上記した実施形態では、蒸着材料を蒸発させる加熱手段としてプラズマガン30について説明したが、加熱手段として電子ビーム発生器を用い電子ビームで蒸着材料を蒸発させるようにしてもよい。
【0049】
また、上記した実施形態では、プラズマガン30の給電電流を図2(a)に示すように切替える際、プロセスガスの供給量、およびハース51周りの雰囲気ガスの供給量を、予め決定されたプロファイルに基づいて制御していたが、プロセスガスの供給量を図2(b)に示すように変動させながら、雰囲気圧センサ99の検出値に基づいて、真空チャンバ10内の圧力が一定になるように、フィードバック制御により雰囲気ガスの供給量を変動させるようにしてもよい。このようにすれば、真空チャンバ10内の圧力変動に追従し、その圧力が一定になるようにリアルタイムに制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施形態に係る成膜装置としてのイオンプレーティング装置の構成を示す図である。
【図2】実施形態に係る成膜装置の運転方法を示すタイムチャートである。
【図3】従来の成膜装置の運転方法を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0051】
1…成膜装置、10…真空チャンバ、30…プラズマガン、44…環状永久磁石、50…陽極部材、51…ハース、52…補助陽極、53…蒸着材料、60…搬送機構、61…基板ホルダ、77…排気ポンプ、80…主制御装置、90…ガス供給源、94,97…流量調節弁、99…雰囲気圧センサ、WA…ウェハ、PB…プラズマビーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内で蒸着材料を蒸発させ基板に対して蒸着させる成膜装置であって、
前記蒸着材料を加熱して蒸発させる加熱手段と、
前記チャンバ内に不活性ガスである雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給手段と、
前記加熱手段と前記雰囲気ガス供給手段とを制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記加熱手段による加熱状態を、前記蒸着材料が蒸発し始める加熱状態よりもより加熱する成膜状態における第1加熱状態と、前記蒸着材料を蒸発できない非成膜状態における第2加熱状態との間で切り替え制御可能であり、
前記制御手段は、前記成膜状態と前記非成膜状態との間における前記加熱状態の切り替え途上において、前記蒸着材料の蒸発による前記チャンバ内の圧力変動を緩和する方向に、前記雰囲気ガス供給手段による雰囲気ガスの供給量を変動させることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
チャンバ内で蒸着材料を蒸発させ基板に対して蒸着させる成膜装置であって、
前記蒸着材料を加熱して蒸発させる加熱手段と、
前記チャンバ内に成膜に用いるプロセスガスを供給するプロセスガス供給手段と、
前記チャンバ内に不活性ガスである雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給手段と、
前記加熱手段と前記プロセスガス供給手段と前記雰囲気ガス供給手段とを制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記加熱手段による加熱状態を、前記蒸着材料が蒸発し始める加熱状態よりもより加熱する成膜状態における第1加熱状態と、前記蒸着材料を蒸発できない非成膜状態における第2加熱状態との間で切り替え制御可能であり、
前記制御手段は、前記プロセスガス供給手段によるプロセスガスの供給量を、前記成膜状態における第1プロセスガス量と、前記非成膜状態における第2プロセスガス量との間で切り替え制御可能であり、
前記制御手段は、前記成膜状態と前記非成膜状態との間におけるプロセスガスの供給量の切り替え途上において、前記プロセスガスによる前記チャンバ内の圧力変動を緩和する方向に、前記雰囲気ガス供給手段による雰囲気ガスの供給量を変動させることを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記成膜状態と前記非成膜状態との間における前記加熱状態の切り替え途上において、前記蒸着材料の蒸発による前記チャンバ内の圧力変動を緩和する方向に、前記雰囲気ガス供給手段による雰囲気ガスの供給量を変動させることを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記蒸着材料を収容すると共にプラズマビームを引き寄せる陽極として機能するハースと、
前記ハースの周りに環状に配置され前記ハース上方の電磁場を制御する補助陽極と、を備え、
前記加熱手段は、プラズマビームをチャンバ内に供給するプラズマ源を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項5】
前記雰囲気ガス供給手段は、前記ハースの周りに前記不活性ガスを供給することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記補助陽極に供給する電流値を、前記成膜状態における第1電流値と、前記非成膜状態における第2電流値との間で切り替え制御可能であり、
前記制御手段は、前記成膜状態と前記非成膜状態との間における前記電流値の切り替え途上において、該電流値を所定の変動率で徐々に変動させることを特徴とする請求項4又は5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記チャンバ内の圧力を検出する圧力センサを備え、
前記制御手段は、前記成膜状態と前記非成膜状態との間の切り替え途上において、前記圧力センサの検出値に基づいて、前記チャンバ内の圧力が一定になるように、フィードバック制御により前記雰囲気ガス供給手段による雰囲気ガスの供給量を変動させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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