説明

成膜装置

【課題】使用する長尺基板の種類によらず、膜物性を簡便に測定するために有利なロール・ツー・ロール方式を用いた成膜装置を提供する。
【解決手段】長尺基板に膜を形成する成膜装置は、成膜ユニットと、前記長尺基板を搬送する搬送ユニットと、検査基板を前記長尺基板の上に供給する供給部と、前記成膜ユニットにより膜が形成された前記検査基板を前記長尺基板の上から回収する回収部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺基板に膜を形成する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングや蒸着などにより薄膜を形成する場合には、形成された膜の品質を管理するために、薄膜シート抵抗などの膜物性を測定することが行われている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、金属薄膜を形成した基板を真空容器内から取り出した後、基板のシート抵抗を測定することが記載されている。また、特許文献1には、シート抵抗モニタ用基板を基板ホルダ上に基板と一緒に取り付けて膜を形成した後、モニタ基板の抵抗を測定することが記載されている。
【0003】
一方、太陽電池や二次電池、機能フィルムなどの製造にもスパッタリング、蒸着などにより膜を形成する成膜装置は利用されており、生産性を向上させるため処理基板として長尺基板を用いる場合も多い。長尺基板の処理には、一般的にロール・ツー・ロールと呼ばれる方式が採用される。これは、長尺基板をロールから巻き出して伸張させ、必要な処理を行い、再びロールに巻き取るという操作を単一装置の中で実施する方式である。また、長尺基板はウェブとも呼ばれ、その材料や厚さは用途ごとに様々である。
【0004】
長尺基板に膜を形成する処理を施す場合は、巻き出し、巻き取り操作を真空容器内部にて行わなければならず、さらに通常は巻き取ってロール状になっている長尺基板の伸張時の長さは用途により異なるが、1000m以上に達する場合もあり、1回の処理時間は非常に長い。従って、特許文献1に記載されたような方法は、ロール・ツー・ロール方式を用いた成膜装置には適用することができない。
【0005】
ロール・ツー・ロール方式を用いた成膜装置でシート抵抗を測定する方法として、真空容器内でフィルム基板のシート抵抗を測定することが知られている(例えば、特許文献2の第1図)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−302844号公報
【特許文献2】特開平1−283357号公報(第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載されたような方法では、複数の成膜ユニットを用いて多層膜を形成する場合には、多層膜全体の物性を測定することになり、特定の膜の物性を測定することができない。
【0008】
また、形成される膜が一層であっても、ウェブ材料がステンレスやアルミニウム、銅などの導電性基板であった場合には,スパッタリングにより付着させた材料のシート抵抗を測定することができない。すなわち、シート抵抗の測定は、ウェブ材料とその上に形成された膜とからなる部材に電流を流して該部材の2点間における電位差により測定することができるが、ウェブ材料が導電性の材料の場合には、測定のための電流はウェブ材料と成膜ユニットにより形成した膜の両方を通過することになり、形成した膜の2点間における電位差は得られないからである。
【0009】
本発明は、使用する長尺基板の種類によらず、膜物性を簡便に測定するために有利なロール・ツー・ロール方式を用いた成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの側面は、長尺基板に膜を形成する成膜装置において、成膜ユニットと、前記長尺基板を搬送する搬送ユニットと、検査基板を前記長尺基板の上に供給する供給部と、前記成膜ユニットにより膜が形成された前記検査基板を前記長尺基板の上から回収する回収部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、使用する長尺基板の種類によらず、膜物性を簡便に測定するために有利なロール・ツー・ロール方式を用いた成膜装置が提供される。
【0012】
あるいは、本発明によれば、生産を止めることなく任意の膜形成状態の検査を行うことができる。
【0013】
あるいは、本発明は、長尺基板に対して多層膜を積層する場合であっても、特定の層の膜形成性能を検査するために有利である。
【0014】
あるいは、本発明は、従来困難であった導電素材ウェブに対して膜を形成する場合であっても、シート抵抗などの膜特性を検査するために有利である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る成膜装置の側面概略模式図である。
【図2】基板供給部の模式図である。
【図3】基板回収部の模式図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る成膜装置の側面概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本願発明の実施形態について説明する。図1は本願発明の実施形態に係る成膜装置全体の側面概略模式図である。図2は基板投入部分の側面模式図であり、図3は基板回収部分の側面模式図である。
【0017】
以下、図1乃至図3を参照して本発明に係る成膜装置の一態様について説明する。図1乃至図3において、各部の構成や大きさ、配置や数量などは本発明を限定することを意図したものではない。以下で説明する成膜装置は、本発明に係る成膜装置の理解を容易にするための例に過ぎず、この例は本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更および変形することができる。
【0018】
真空容器1は、長尺基板であるウェブ5をロールから巻き出すための巻き出し機構を有する真空容器である。真空容器2は、スパッタリングなどにより膜を形成する成膜ユニットを有する真空容器である。真空容器3は、検査基板を回収する基板回収部を有する真空容器である。真空容器4は、ウェブ5をロールに巻き取るための巻き取り機構を有する真空容器である。
【0019】
各真空容器1、2、3、4には、ウェブを搬送するための開口部と、ウェブを搬送するための搬送ユニットとしてのローラが設けられている。隣接する真空容器の開口部を通してウェブが搬送される。真空容器1には、真空容器1内に検査基板18を供給する機構を有する基板供給部7が設けられている。
【0020】
基板供給部7は、成膜処理を受ける前のウェブ5が通過する位置に検査基板18を供給できるように真空容器1に接続されている。より具体的には、基板供給部7は、前記位置においてウェブ5の上に検査基板18を供給するように構成されている。真空容器3には、検査基板を回収するための機構を有する基板回収部11が設けられている。真空容器3には、第一のローラ9と第一のローラ9の下方に設けられた第二のローラ10とが配設されている。
【0021】
各真空容器には不図示の排気機構が接続されており、真空容器内を大気圧力から真空へと真空容器内部の圧力を変化させることができる。同様に、各真空容器には不図示のガス供給機構が接続されており、空気、または窒素などの不活性ガスを用いて真空容器内部を大気圧力と同圧に復元できる。
【0022】
成膜ユニットを有する真空容器2にはターゲット8が設置されており、ターゲット8は不図示の絶縁部品によって真空容器2とは電気的に絶縁され、不図示の電源と接続されている。ターゲット8の近傍でウェブ5に膜が形成される。プロセス条件や形成すべき積層膜に応じてターゲット8の数や種類は増減することができる。
【0023】
スパッタリングを行う真空容器2には、真空容器2内の圧力を大気圧力に戻すためのガス供給機構とは別に、スパッタリングを行うための不活性ガスを真空容器2に供給するための不図示のガスラインが接続されている。
【0024】
真空容器1、2、3、4の搬送機構としてのローラ群とローラ9、10とは不図示のフレームにより精度よく固定設置され、滑らかに回転ができ、ウェブ5を搬送できる。ローラの種類や役目に応じて適宜不図示の駆動機構が連結されており、ローラは回転駆動されうる。
【0025】
また、ウェブ5の張力を不図示の張力センサーにより管理しつつ、ウェブ5の巻き出し、巻き取りを行うことにより、ウェブ5の搬送トラブルを防止しつつスパッタリング時におけるウェブ5の姿勢を適正に維持することができる。ウェブ5は、該駆動機構によって回転駆動されるローラにより、ウェブの進行方向100に搬送される。
【0026】
基板供給部7の一態様を図2を用いて説明する。図2において、図1と同一符号は図1と同一部分または相当部分を示す。検査基板供給部7は、真空容器12と、真空容器12の大気側に設けられた第一の仕切り弁15と、真空容器12の真空容器1側に設けられた第二の仕切り弁16とを有する。第一の仕切り弁15と第二の仕切り弁16とを有することにより、真空容器1の圧力状態に関係なく真空容器7内部の圧力を大気圧力、真空へと変更できる。
【0027】
圧力の変更は不図示の排気機構とガス供給機構を用いて行うことができる。第一の仕切り弁15と第二の仕切り弁16は、検査基板18を通過させるために十分な開口を開閉することができる。
【0028】
検査基板18としては、検査基板回収後に膜の物性を測定するために適した基板を用いることができる。例えば、膜物性としてシート抵抗を測定する場合には、ガラス基板などの非導電性の基板を検査基板18として用いることができる。検査基板18の供給可能枚数は、1枚でも複数枚でもよく、特別な制限はないが、図2に示すようにカセット17に複数の検査基板18を搭載したものを第一の仕切り弁15を通して真空容器12の内部に設置する方法が、真空容器12の内部への検査基板18の搬入を短時間で行うために有利である。
【0029】
真空容器12内には、検査基板18を真空容器1内に投入させるためのハンド13とハンド駆動部14とを具備する検査基板搬送機構が配置されている。ハンド駆動部14は、検査基板の取り出し方向101と検査基板投入方向102へハンド13を駆動することができ、カセット17から検査基板18を取り出し、検査基板18をウェブ5の表面近傍へ接近させ、ウェブ5の至近距離から検査基板18を投下することができる。
【0030】
次に、検査基板を成膜装置内への投入する方法について説明する。本例では、成膜装置の真空容器1に検査基板18を投入する。検査基板18の投入は、真空容器12の内部圧力が真空かつ、成膜装置がスパッタリング可能な状態であるときに行う。第二の仕切り弁16を開放し、検査基板18がハンド13によって把持された状態で、ハンド駆動部14が検査基板投入方向102へハンド13を駆動し、ウェブ5の表面近傍でハンド13による検査基板18の把持を解除し、検査基板18をウェブ5上に落下させる。
【0031】
ウェブ5表面へは検査基板18は、非常に短距離ではあるが、自由落下するため、検査基板18の角部は鋭利でない形状であることが好ましい。
【0032】
落下した検査基板18はウェブ5の進行方向100に沿ってスパッタリング処理工程の実施位置へと至る。
【0033】
スパッタリング処理は、検査基板18の到達にあわせて、検査したい材料が検査基板18の上に形成されるように制御されうる。たとえば、複数の材料を積層スパッタリングによってウェブ5上に積層させている場合などでは、個々の材料の検査をする必要がある場合もあり、この場合には、各検査基板18には、検査したい材料のみが形成される。
【0034】
図1の基板回収部11の一態様を図3を用いて説明する。図中、図1と同一符号は図1と同一部分または相当部分を示す。基板回収部11は、真空容器19と、真空容器19における真空容器3内の位置に設けられた第三の仕切り弁20と、真空容器19における大気側の位置に設けられた第四の仕切り弁21とを有する。真空容器19内には、基板を回収するための基板回収トレイ22が設けられている。
【0035】
次に、スパッタリング処理が終了した検査基板18を回収する方法について説明する。基板回収部11の上方でウェブ5を第一のローラ9に巻きつかせることにより、ウェブ5の進行方向が変更される。第一のローラ9に到達する前において、ウェブ5は進行方向100にしたがって水平移動していたため、検査基板18がウェブ5上に存在し続けられたが、第一のローラ9を通過後、検査基板18は基板落下方向103に自重により落下する。落下先では、真空容器19が第三の仕切り弁20を開口した状態で、検査基板18の落下を待っている。
【0036】
検査基板18の落下する距離は最小にとどめることが望ましいが、落下時のダメージを吸収するために、第一の回収トレイ22の表面はエラストマー等の弾性を持つ材料を適切な厚さで配置することが望ましい。
【0037】
真空容器19内には複数の検査基板18を回収させるために、第二の回収トレイ23、第三の回収トレイ24のように複数のトレイを設置してもよい。複数の検査基板18を回収する場合は、第一の回収トレイ22、第二の回収トレイ23、第三の回収トレイ24を駆動する不図示の移動機構を搭載し、回収を受け持つトレイのみを検査基板18の落下位置に移動させる必要がある。
【0038】
検査基板18を基板回収トレイ22にて回収する動作が完了したら、第三の仕切り弁20を閉鎖し、真空容器19内部を不図示のガス供給機構により、空気または窒素等の不活性ガスにより、大気圧力と同圧に変更の後、第四の仕切り弁21を開放し、検査基板18を取り出す。取り出した基板は、シート抵抗など膜物性が任意の測定ユニットで測定される。
【0039】
本態様の装置によれば、成膜処理を中断させることなく、形成された膜の物性を測定することができる。また、長尺基板としてアルミニウム、銅などの導電性基板を用いても、シート抵抗を測定することができる。
【0040】
本発明に係る成膜装置の他の態様を図4を用いて説明する。本態様は、複数の成膜ユニットを有することを除いて基本的に第一の実施形態と同じであり、図中の符号は図1と同一部品または相当部品である。本態様によれば、3層積層膜を積層可能であり、検査基板を用いて各層の層の物性を測定することができる。
【0041】
図4を用いて、積層される複数の膜の任意の膜についての測定方法を説明する。長尺基板への成膜処理は連続しておこなうため、通常は第一の成膜処理25での膜の形成後はそのまま第二の成膜処理26、第三の成膜処理27を経て、複数の膜が積層される。各真空容器201、202、203には、各々ターゲット81、82、83が設置されている。この状態で検査基板投入部7より検査基板18を投入しても任意の単膜のみの形成はできない。
【0042】
そのため、不図示の制御装置によって、任意の単膜を形成できる選択機構を用い、検査基板18投入のタイミングと同期して各機能を制御する必要がある。以下に第三の成膜処理27において単膜を検査基板18の上に形成させ、取り出す具体的な方法を記す。
【0043】
まず、不図示の制御装置によって、第三の成膜処理27を検査するための指示を基板投入部7に与える。基板投入部7は、検査基板18をウェブ5上に投下する。この際、ウェブの進行方向100に沿って検査基板18は進行して行き、やがて第一の成膜処理25に達する。
【0044】
制御装置は、ウェブ5の進行を不図示の搬送制御部にて、例えば、ウェブ5の搬送速度に基づいて管理し、これにより検査基板18が第一の成膜処理25に到達することを判断できる。より具体的には、制御装置は、検査基板18の投下位置から第一の成膜処理25の開始位置までの距離を記憶しており、搬送速度と、投下後の経過時間とに基づいて検査基板18が第一の成膜処理25に到達することを判断することができる。
【0045】
第一の成膜処理25に検査基板18が達する前に、第一の成膜処理25に設置されたターゲット80への電力供給を停止する。つまり、成膜処理を停止する。
【0046】
検査基板18が第一の成膜処理25がなされる領域をウェブの進行方向100に沿って通過したら、再び第一の成膜処理25に設置されたターゲット80への電力供給を開始し、膜の形成を再開する。検査基板18の通過は、前述の装置制御部分の速度管理と第一の成膜処理25から判断できるため、特別な監視は不要である。ただし、更なる確実性を求めるために、センサーを用いて、検査基板18の通過管理をしても構わない。
【0047】
同様にして、第二の成膜処理26がなされる領域も、検査基板18は膜が形成されることなく通過できる。
【0048】
第三の成膜処理27に検査基板18が到達したら、そのまま膜の形成をおこなう。これによって、第三の成膜処理27がなされる領域においてのみ膜が形成された検査基板18が作成される。この後、図3の説明どおり、基板回収部11を使い、検査基板18を回収する。
【0049】
上記方法では、ウェブ5の表面のうち検査基板18が乗った部分は、成膜処理25乃至27がなされる領域では、複数の膜の形成がされなくなるため、その部分については完成製品とはならなくなる。よって、少々のスループットの低下とウェブ5の無駄が生じる。
【0050】
しかしながら、検査のためにウェブ5を検査用ウェブに付け替えて検査した場合には、スループットは遙かに低下するし、検査用ウェブが必要になる。すなわち、ウェブ5の付け替え時は、製品が製造されない。同様に、検査用に付け替えたウェブを取り外す際も、製品が製造されない。
【0051】
上記は1台の成膜装置に対して、検査基板18の投入、回収を各々1箇所として説明したが、各成膜処理室に専用の基板投入、基板回収を配置してもよい。この場合は、基板回収機構にロボットハンド等を追加する必要があるが、製品と成せない部分は検査基板18近傍だけとなり、有利になる。
【0052】
なお、上記の例は、成膜ユニットがスパッタリングユニットである場合の例であるが、成膜ユニットとして、スパッタリングユニットに限られるものではなく、CVDユニットなどであってもよい。
【0053】
ロール・ツー・ロール方式の成膜装置は、ロール単位での成膜処理を想定しており、トラブルなどの原因が無い限りその処理を中断しないが、本発明によれば、生産を停止させることなく、任意の成膜処理の検査を実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺基板に膜を形成する成膜装置において、
成膜ユニットと、
前記長尺基板を搬送する搬送ユニットと、
検査基板を前記長尺基板の上に供給する供給部と、
前記成膜ユニットにより膜が形成された前記検査基板を前記長尺基板の上から回収する回収部と、を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記長尺基板は、導電性基板である、ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
複数の前記成膜ユニットを有している、ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記複数の成膜ユニットのうち選択された1つの成膜ユニットによって前記検査基板に膜が形成されるように前記複数の成膜ユニットが制御される、ことを特徴とする請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記搬送ユニットは、ロール・ツー・ロール方式で前記長尺基板を搬送するように構成され、前記回収部は、自重により落下した前記検査基板を回収する、ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate