成膜速度が速いアーク式蒸発源、このアーク式蒸発源を用いた皮膜の製造方法及び成膜装置
【課題】アーク式蒸発源において、磁力線を基材方向に誘導して成膜速度を速くする。
【解決手段】本発明に係るアーク式蒸発源1は、ターゲット2の外周を取り囲んでいて磁化方向がターゲット2表面と直交する方向に沿うように配置された1又は複数の外周磁石3と、ターゲット2の背面側に配置された背面磁石4とを備え、背面磁石4は、極性が外周磁石3と同方向で且つ磁化方向がターゲット2表面と直交する方向に沿うように配置されている非リング状の第1の永久磁石4Aを有し、第1の永久磁石4Aとターゲット2との間、又は、第1の永久磁石4Aの背面側に、第1の永久磁石4Aと間隔をあけて配置された非リング状の第2の永久磁石4Bを有し、第2の永久磁石4Bは、極性が外周磁石3と同方向で且つ磁化方向がターゲット2表面と直交する方向に沿うように配置されており、第1の永久磁石4Aと第2の永久磁石4Bとの間に磁性体5が配置されている。
【解決手段】本発明に係るアーク式蒸発源1は、ターゲット2の外周を取り囲んでいて磁化方向がターゲット2表面と直交する方向に沿うように配置された1又は複数の外周磁石3と、ターゲット2の背面側に配置された背面磁石4とを備え、背面磁石4は、極性が外周磁石3と同方向で且つ磁化方向がターゲット2表面と直交する方向に沿うように配置されている非リング状の第1の永久磁石4Aを有し、第1の永久磁石4Aとターゲット2との間、又は、第1の永久磁石4Aの背面側に、第1の永久磁石4Aと間隔をあけて配置された非リング状の第2の永久磁石4Bを有し、第2の永久磁石4Bは、極性が外周磁石3と同方向で且つ磁化方向がターゲット2表面と直交する方向に沿うように配置されており、第1の永久磁石4Aと第2の永久磁石4Bとの間に磁性体5が配置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品等の耐摩耗性などの向上のために用いられる、窒化物及び酸化物などのセラミック膜、非晶質炭素膜等の薄膜を形成する成膜装置のアーク式蒸発源、このアーク式蒸発源を用いた皮膜の製造方法及び成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐摩耗性、摺動特性及び保護機能向上などの目的で、機械部品、切削工具、摺動部品などの基材の表面に薄膜をコーティングする技術として、アークイオンプレーティング法、スパッタ法などの物理蒸着法が広く知られており、アークイオンプレーティング法においては、カソード放電型アーク式蒸発源が用いられている。
カソード放電型アーク式蒸発源は、カソードであるターゲットの表面にアーク放電を発生させ、ターゲットを構成する物質を瞬時に溶解し、イオン化したその物質を処理物である基材の表面に引き込むことで薄膜を形成している。このアーク式蒸発源は、蒸発速度が速く、蒸発したターゲットを構成する物質のイオン化率が高いことから、成膜時に基材にバイアスを印加することで緻密な皮膜を形成できるため切削工具などの耐摩耗性皮膜を形成するために産業的に用いられている。
【0003】
しかしながら、カソード(ターゲット)とアノード間で生じるアーク放電のカソード側の電子放出点(アークスポット)を中心としたターゲットの蒸発が生じる時にスポット近傍から溶融したターゲットが放出され、被処理体に付着し、面粗度悪化の原因となる。
アークスポットから放出される溶融ターゲット物質(マクロパーティクル)の量は、アークスポットが高速で移動する場合に抑制される傾向があり、その移動速度はターゲットに印加された磁界に影響されることが知られている。
【0004】
また、アーク放電により蒸発するターゲット原子はアークプラズマ中において高度に電離、イオン化することが知られており、ターゲットから基材に向かうイオンの軌跡はターゲットと基材との間の磁界に影響されるなどの問題がある。
さらには、カソード放電型アーク式蒸発源による成膜のようなPVD成膜により得られる皮膜には、原理的に圧縮応力が残留し、その応力は皮膜が厚くなるほど大きくなる傾向にある。また、圧縮応力が−2GPaより大きくなる(圧縮応力<−2GPa)と、皮膜の工具への密着性が低下して剥離し易くなる。切削工具に被覆する皮膜を厚くすることが可能になれば、切削工具の寿命を延ばすことができるが、前述した理由により、皮膜を厚くすることが出来ない。
【0005】
これらの問題を解消するために、ターゲットに磁界を印加し、アークスポットの移動を制御する下記のような試みが提案されており、ターゲット周囲にリング状の磁力発生機構(永久磁石、電磁コイル)を配置し、ターゲット表面に垂直磁場を印可する技術(特許文献1)、イオン化されたターゲットを構成する物質を効率よく基材方向に収束させるように、ターゲットの前方に収束のための磁力発生機構(電磁コイル)を配置する技術(特許文献2)、アーク式蒸発源のターゲット背面中心に永久磁石を設置し、それを取り巻くようにターゲット背面に極性の異なるリング磁石を配置し、アーク放電を閉じこめるような磁場成分を形成すると共に、リング磁石とほぼ同じ直径の電磁コイルを設ける技術(特許文献3)、ターゲット周囲に配置されたリング状磁石と背面の電磁コイルによりターゲット表面に平行な磁場を形成する技術(特許文献4)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−328236号公報
【特許文献2】特開平07−180043号公報
【特許文献3】特開2007−056347号公報
【特許文献4】特表2004−523658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の磁力発生機構によれば、ターゲット表面から磁力線がリング側面のマグネットに向かって伸びることから、イオンの多くがマグネット方向に誘導される。さらに、ターゲット前方において基材方向に向かって伸びる磁力線が基材方向から大きくそれるために、蒸発してイオン化されたターゲットの物質が効率的に到達できない。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術では、磁力線は基材方向に向かって伸びるものの、ターゲットと基材との間に大型の電磁コイルを配置する必要があることから、必然的にターゲットと基材との間の距離が長くなり、結果として成膜速度が低下することになる。
さらに、特許文献3に開示された配置では、アーク放電は磁場の垂直成分(ターゲット表面に対する磁場の垂直方向の成分)が0になる点で優先的に放電する傾向があることから、永久磁石とリング磁石のほぼ中間部分にトラップされ、電磁コイルを使用しても、それより内周の部分にアーク放電を制御するのは困難であり、ターゲットの利用効率は高くならない。また、このような配置ではターゲットから前方に向かって伸びる磁力線の成分が無いことから、ターゲットから放出されたイオンは基材に向かって効率的に収束されない。
【0009】
そして、特許文献4において示された技術では、電磁コイルの内径がターゲットの直径より小さい実施形態しか記載されておらず、その場合には磁力線はターゲットから外側に向けて発散する傾向があり、効率的なイオンの収束はできないと思われる。また、ターゲット表面に平行な磁場に必要な強度を得るためにアークプラズマの放電を高速に移動させており、電磁コイル(あるいは磁性体ヨーク)との組合せにおいて大型の電磁コイルで大電流が必要とされて蒸発源が大型化するため、産業上好ましくない。
【0010】
前述した問題に鑑み、本発明は、成膜速度が速いアーク式蒸発源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、以下の技術的手段を採用した。
本発明に係るアーク式蒸発源は、ターゲットの外周を取り囲んでいて磁化方向が前記ターゲット表面と直交する方向に沿うように配置された1又は複数の外周磁石と、前記ターゲットの背面側に配置された背面磁石とを備え、前記背面磁石は、極性が前記外周磁石と同方向で且つ磁化方向が前記ターゲット表面と直交する方向に沿うように配置されている非リング状の第1の永久磁石を有すると共に、前記第1の永久磁石と前記ターゲットとの間、もしくは、前記第1の永久磁石の背面側に、前記第1の永久磁石と間隔をあけて配置された非リング状の第2の永久磁石をさらに有し、前記第2の永久磁石は、極性が前記外周磁石と同方向で且つ磁化方向が前記ターゲット表面と直交する方向に沿うように配置されており、前記第1の永久磁石と前記第2の永久磁石との間に磁性体が配置されていることを特徴とする。
【0012】
本発明では、ターゲット表面(ターゲット蒸発面)に水平成分の大きな磁場を形成するために、ターゲットの外周に外周磁石を配置するとともに、外周磁石と同じ向きの極性を有する磁石をターゲットの背面側に配置して、ターゲット表面上で双方の磁石によって反発磁場を形成させることを基本的な構成としている。このような磁石構成にすることにより、アークの回転が早くなり、マクロパーティクルの発生が減少し、平滑な皮膜を形成することができる。なお、ターゲットの外周を取り囲むように外周磁石を配置するのは、ターゲット表面に形成される磁場の水平成分を大きくするためである。
【0013】
ここで、本発明では、ターゲット表面の中心部分から基材方向に伸びる直進性の高い磁力線を多数発生させるために、外周磁石と同じ向きの極性であってターゲットの背面に配置された非リング状の永久磁石(第1の永久磁石)を有している。この第1の永久磁石の磁極の向きと外周磁石の磁極の向きを同じにして、且つ第1の永久磁石の形状を非リング状としているのは、ターゲット表面(端面)の中心部分から基材方向に伸びる直進性の高い磁力線を多数発生させるためである。ターゲット表面の中心部分から基材方向に伸びる磁力線を多数発生させることにより、ターゲットから蒸発して、イオン化した粒子をコーティング基材に効率的に輸送することが出来るため、成膜速度が向上する。
【0014】
仮に、外周磁石及び第1の永久磁石の磁極向きを反対にすると、ターゲット表面(端面)の中心部分から発生する磁力線は外周磁石に引き込まれるため、基材方向に伸びる磁力線を発生することが出来ない。
また、各磁石の磁極向きを同方向とした場合でも、背面磁石の形状が中実状でない(リング状である)場合、磁石の中心部から磁力線が発生しないため、ターゲット表面の中心部分から基材方向に伸びる磁力線を発生させることが出来ない。さらに、前記本発明の構成範囲外とした場合、ターゲット表面の中心部分から基材方向に伸びる磁力線を発生することができないため、成膜速度を向上する効果は得られない。
【0015】
これに加え、本発明では、ターゲット表面の中心部分から発生する磁力線の直進性を向上するために、前述の第1の永久磁石の他に、また別の永久磁石(第2の永久磁石)を、ターゲットの背面に間隔を設けて配置している。
このように第1と第2の永久磁石を間隔を置いて配置しているのは、ターゲット表面の中心部分から基材方向に伸びる磁力線の直進性を向上するためである。磁力線の直進性を向上することにより、ターゲットから蒸発して、イオン化した粒子をコーティング基材に効率的に輸送することが出来るため、成膜速度が向上する。
【0016】
一方、第1と第2の永久磁石を密着して配置した場合、直進性は向上しないため、成膜速度を向上する効果は得られない。
本発明における最も大きな特徴は、ターゲット表面の中心部分から発生する直進性の高い磁力線の数を増大するために、第1の永久磁石と第2の永久磁石の間に磁性体を配置していることである。第1の永久磁石と第2の永久磁石の間に磁性体を配置しているのは、各永久磁石の互いに対向する面(端面)からのびる磁力線を漏れなく繋げ、ターゲット表面の中心部分から発生する直進性の高い磁力線の数をさらに増大させるためである。
【0017】
ここで、アーク放電中、電子は磁力線に巻きつきながら移動すると同時に、ターゲットから蒸発してイオン化した粒子は電子に引寄せられながら移動していることを鑑みるに、直進性の高い磁力線の数を増大することにより、ターゲットから蒸発してイオン化した粒子をコーティング基材に効率的に輸送することが出来るため、成膜速度がさらに向上する。
【0018】
なお、本発明において、「リング状の永久磁石」とは、リング形状を有する単一の永久磁石だけでなく、リング状に配列した複数の永久磁石をも意味する。また、「リング状」とは真円に限定されず、楕円及び多角形などをも含む。
好ましくは、前記磁性体の端面が、前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石の端面とにそれぞれ密着してもよい。
【0019】
こうすることにより、前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石における対向する端面からのびる磁力線を、漏れなく繋げることができる。
また、前記ターゲットは円盤状であり、前記外周磁石はリング状の永久磁石であることとしてもよい。
このようにすることで、ターゲット表面より前方の磁力線の向きを基材方向に向けることができ、ターゲットから蒸発してイオン化した粒子をコーティング基材に効率的に輸送することが出来るため、成膜速度が向上する。
【0020】
さらに好ましくは、前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石をその表面と直交する方向に沿って投影した面の形状は、前記ターゲットをその表面と直交する方向に沿って投影した面の形状と相似であることとしてもよい。
本発明に係る皮膜の製造方法は、上述したアーク式蒸発源を用いて、皮膜を形成することを特徴とする。
【0021】
好ましくは、前記アーク式蒸発源を、隣接するアーク式蒸発源の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的に複数配備しておき、皮膜を形成してもよい。
さらには、前記アーク式蒸発源を含む複数種の蒸発源を、隣接する蒸発源の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的に複数配備しておき、皮膜を形成することも好適である。
【0022】
また、本発明に係る成膜装置は、上述のアーク式蒸発源を用いても好ましく、さらには、前記アーク式蒸発源を、隣接するアーク式蒸発源の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的に複数配備しても好適である。
さらに好ましくは、前記アーク式蒸発源を含む複数種の蒸発源を、隣接する蒸発源の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的に複数配備してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、アーク式蒸発源を用いた成膜装置の成膜速度を速くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るアーク式蒸発源を備えた第1実施形態の成膜装置の概要図である。
【図2】本発明の実施例1に係るアーク式蒸発源の概要図である。
【図3】本発明の実施例2に係るアーク式蒸発源の概要図である。
【図4】比較例1のアーク式蒸発源の磁力線分布図である。
【図5】比較例2のアーク式蒸発源の磁力線分布図である。
【図6】比較例3のアーク式蒸発源の磁力線分布図である。
【図7】比較例4のアーク式蒸発源の磁力線分布図である。
【図8】本発明のアーク式蒸発源の磁力線分布図である。
【図9】アーク式蒸発源を複数備えた第2実施形態の成膜装置の側面図である。
【図10】図9のA−A線矢視図であって、(a)はアーク式蒸発源を直線的に配置した図であり、(b)はアーク式蒸発源を非直線的に配置した図である。
【図11】アーク式蒸発源を複数備えた第3実施形態の成膜装置の平面図である。
【図12】アーク式蒸発源と、スパッタ式蒸発源とをそれぞれ複数備えた第4実施形態の成膜装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づき説明する。
[第1実施形態]
図1には、本発明の一実施形態に係るアーク式蒸発源1(以下、蒸発源1)が備えられた第1実施形態の成膜装置6が示されている。
成膜装置6は、真空チャンバ11を備え、真空チャンバ11内には処理物である基材7を支持する回転台12と、基材7に向けて取り付けられた蒸発源1が配備されている。真空チャンバ11には、当該真空チャンバ11内へ反応ガスを導入するガス導入口13と、真空チャンバ11内から反応ガスを排出するガス排気口14とが設けられている。
【0026】
加えて、成膜装置6は、ターゲット2に負のバイアスをかけるアーク電源15と、基材7に負のバイアスをかけるバイアス電源16とが設けられ、両電源15、16の正側はグランド18に接続されている。
図1に示すように、蒸発源1は、円盤状(以下、「円盤状」とは所定の高さを有した円柱状のものも含む)のターゲット2と、ターゲット2の近傍に配備された磁界形成手段8と、ターゲット2の外周部に配置されたアノード17とを有している。なお、アノード17はグランド18に接続されており、同電位にある真空チャンバ11もアノード17として作用することができる。すなわち、蒸発源1は、カソード放電型のアーク式蒸発源である。
【0027】
ターゲット2は、基材7上に形成しようとする薄膜に応じて選択された材料(例えば、クロム(Cr)、チタン(Ti)、チタンアルミ(TiAl)、又は炭素(C)など)で構成されている。
磁界形成手段8は、ターゲット2の外周に配置された外周磁石3と、ターゲット2の背面側に配置された背面磁石4とを有している。また、磁界形成手段8は、外周磁石3の極性の向きと背面磁石4の極性の向きとが同方向となるように外周磁石3及び背面磁石4が配置されている。
【0028】
なお、ターゲット2の蒸発面(基材7側の面)を「前面」、その反対側の面を「背面」とする(図2、図3参照)。
これら外周磁石3及び背面磁石4は、保持力の高いネオジム磁石により形成された永久磁石によって構成されている。
外周磁石3は、リング状であって、ターゲット2と同心軸状となるように配置されている。外周磁石3の磁化方向は、ターゲット2の軸心に沿うように(ターゲット2を構成する物質の蒸発面に対して垂直になるように)、且つ外周磁石3の径方向における投影面がターゲット2の径方向における投影面と重なるように配置されている。すなわち、外周磁石3は、ターゲット2の蒸発面と平行な方向に外周磁石3とターゲット2とを投影することにより形成される影が互いに重なるように配置されている。
【0029】
なお、外周磁石3は、複数の円柱状等の永久磁石をターゲット2の外周を取り囲むように環状に配置することで形成してもよい(以下、「リング状」又は「環状」とは、複数の磁石をターゲット2の外周に沿って並べた状態も含む)。
背面磁石4は、その磁化方向がターゲット2の軸心に沿うように(ターゲット2を構成する物質の蒸発面に対して垂直になるように)、且つターゲット2の背面側に配置されている。
【0030】
図2、図3においては、外周磁石3及び背面磁石4の極性をともに基材7に近い側をN極、基材7から遠い側をS極としているが、逆に、基材7に近い側をS極、基材7から遠い側をN極として外周磁石3及び背面磁石4を配置してもよい。
磁界形成手段8が前述した構成であるため、ターゲット2の外周部の外周磁石3によって形成される磁界と、ターゲット2の背面側の背面磁石4によって形成される磁界の組合せにより、磁力線を基材7方向に誘導することが可能となる。
【0031】
本実施形態における背面磁石4は、後述の円盤背面磁石4A、4Bのように非リング状のものである。ここで、「非リング状」とは、ドーナツ様に径方向内部に孔が空いているものではなく、中身の詰まった中実であるものを指し、円盤状や円柱状等を含む。
すなわち、「非リング状」とは、表面から外方へ向くいずれの法線も互いに交わらない形状をいう。
【0032】
なお、図2は、背面磁石4として、後述する円盤背面磁石4A(第1の永久磁石)の背後にまた別の円盤背面磁石4B(第2の永久磁石)を配置し、これら円盤背面磁石4A、4Bの間に磁性体5を有した実施例1における磁界形成手段8を示している。
なお、図3は、第1の永久磁石4Aと第2の永久磁石4Bとを入れ替えた実施例2における磁界形成手段8を示している。
【0033】
次に、蒸発源1が備えられた成膜装置6を用いた成膜の方法を説明する。
まず真空チャンバ11を真空引きにより真空にした後、アルゴンガス(Ar)等をガス導入口13より導入する。そして、ターゲット2及び基材7上の酸化物等の不純物をスパッタすることにより除去し、真空チャンバ11内を再び真空にした後、反応ガスをガス導入口13より真空チャンバ11内に導入する。この状態で真空チャンバ11に設置されたターゲット2上でアーク放電を発生させることによりターゲット2を構成する物質をプラズマ化し反応ガスと反応させることで、回転台12に置かれた基材7上に窒化膜、酸化膜、炭化膜、炭窒化膜、或いは非晶質炭素膜等を成膜する。
【0034】
なお、反応ガスとしては窒素ガス(N2)、酸素ガス(O2)、メタン(CH4)などの炭化水素ガスを用途に合わせて選択すればよく、真空チャンバ11内の反応ガスの圧力は1〜7Pa程度とする。また、成膜時、ターゲット2は、100〜200Aのアーク電流を流すことで放電させると共に、10〜30Vの負電圧をアーク電源15により印加している。基材7には10〜200Vの負電圧をバイアス電源16により印加している。
[実施例1、実施例2]
本発明に係る蒸発源1を用いた実施例1について説明する。
【0035】
本実施例では、背面磁石4が円盤状(円柱形状)の永久磁石(以下、「円盤背面磁石4A(第1の永久磁石)」という)と、その背面側(基材7とは反対側)に、所定間隔をおいて配置されたまた別の円盤状の永久磁石(以下、「円盤背面磁石4B(第2の永久磁石)」という)を有していて、さらに、これらの円盤背面磁石4A、4Bの間には、円盤状の磁性体5を備えている。
【0036】
なお、各円盤背面磁石4A、4B及び磁性体5をその表面と直交する方向に沿って投影した面の形状(以下、「投影面形状」という)は、ターゲット2の投影面形状と相似となっており、各円盤背面磁石4A、4B及び磁性体5は、ターゲット2と同心軸状となるように配置されている。
各円盤背面磁石4A、4Bは、保持力の高いネオジム磁石により形成されているため、磁界形成手段8全体をコンパクトにすることができる。
【0037】
磁性体5は、手近で安価な炭素鋼によって形成されているが、比透磁率が1よりも大きい材料であればよく、磁気ガイドとしての役割を果たす。
なお、磁性体5は、比透磁率が250以上の材料で形成されることで、磁気ガイドとしての機能が向上する。具体的には、コバルト(比透磁率は250、以下括弧内の数字は各材料の比透磁率を示す)、ニッケル(600)、炭素鋼(1000)、鉄(5000)、珪素鉄(7000)、純鉄(200000)等を用いるとよい。
【0038】
磁性体5の端面は、円盤背面磁石4A(第1の永久磁石)における背面側(基材7とは反対側)の端面と、円盤背面磁石4B(第2の永久磁石)における基材7側の端面とに、それぞれ密着している。
なお、実施例2は、実施例1における第1の永久磁石4Aと第2の永久磁石4Bとを入れ替えただけであり、各永久磁石4A、4Bは、同一形状であるため、実施例2の説明も以下併せて行う。
【0039】
ターゲット2は、その直径を100mmで、その厚さを16mmとしており、チタン(Ti)とアルミ(Al)の原子比が1:1のチタンアルミ(TiAl)により形成されている。
外周磁石3は、外径が170mm、内径が150mm、厚さが10mmである。
実施例1において、反応ガスとして窒素(N2)を選択し、その圧力は4Pa、成膜時間は30分とした。ターゲット2にはアーク電源15を使用して150Aで放電させ、基材7にはバイアス電源16を用いて30Vの負電圧を印加している。
【0040】
基材7は、15mm×15mm×5mmの鏡面研磨した超硬合金のチップを用い、ターゲット2表面から約180mm離れた位置に配置され、基材7の温度を500℃としている。
また、図4〜図7に示した比較例1〜比較例4においても、ターゲット2、外周磁石3、アーク電流値、反応ガス、成膜時間、印加した負電圧及び基材7に関する条件は同様である。
【0041】
比較例1は、ターゲット2の背面に背面磁石4を有さない比較用の測定例である。
比較例2は、ターゲット2の背面側に配置された永久磁石がリング状である比較用の測定例である。この比較例2において、ターゲット2の背面側に配置したリング状の磁石は、外径が100mm、内径が80mm、厚さが10mmであって、ターゲット2表面から60mmと100mmの位置に配置している。
【0042】
比較例3は、ターゲット2の背面側に配置された2つの永久磁石の形状がリング状であって、各永久磁石の間に磁性体である炭素鋼を前記磁石と密着して配置した比較用の測定例である。各永久磁石の形状、ターゲット2表面からの距離は比較例2と同じにしている。
比較例4は、ターゲット2の背面側に配置された2つの永久磁石の形状が円盤状の磁石であるが、これらの永久磁石の間に磁性体を配置していない比較用の測定例である。
【0043】
表1は、比較例1〜比較例4と、実施例1(実施例2も兼ねる)の背面磁石の枚数、背面磁石の厚み、各磁石の直径、ターゲット2表面からの距離と、基材7に流れる電流値と、成膜速度の評価、皮膜残留応力値、皮膜残留応力の評価結果を示している。
なお、表1では、比較例における各磁石も、便宜上、第1の永久磁石、第2の永久磁石としている。
【0044】
【表1】
【0045】
次に、基材7上の成膜速度、残留応力の評価について説明する。
成膜速度は、アーク放電により基材7に流れるイオン電流に比例することから、基材7に流れる電流値が大きいほど成膜速度が速いことがわかる。生産性、作業効率などを鑑みたとき、成膜速度に比例する電流値は1.5A以上であることが望ましいため、1.5A以上で合格とした。
【0046】
また、薄膜の残留応力については、厚さ1mmのSiウェハ上に成膜を行い、成膜後の基材7のたわみの曲率半径を光てこを利用して測定し、式(1)に示すStoneyの式により薄膜の残留応力を計算した。薄膜の残留応力については、切削工具用の硬質皮膜の剥離を想定して、その絶対値が2.0GPa以下で合格とした。
【0047】
【数1】
【0048】
まず、各測定例における磁力線分布図について考察する。
比較例1の磁力線分布図は図4であるが、この図に示されたように、比較例1は、ターゲット2から前方に向かって伸びる磁力線がターゲット2の正面方向(すなわち、基材7方向)から大きくそれている。
詳しくは、比較例1では、ターゲット2の軸心に最も近い側の磁力線が、ターゲット2表面から基材7方向に約200mm進んだ地点で、すでにターゲット2の軸心から約28mmも離れてしまう(図4中の矢印A参照)。
【0049】
比較例2においては、ターゲット2の軸心から最も近い側の磁力線が、ターゲット2表面から基材7方向に約200mm進んだ地点で、ターゲット2の軸心から約24mm離れている(図5中の矢印B参照)。
同様に、比較例3、比較例4におけるターゲット2の軸心から最も近い側の磁力線は、ターゲット2表面から約200mmの地点で、ターゲット2の軸心から約20mm離れる(図6中の矢印C、及び図7中の矢印D参照)。
【0050】
次に、各比較例において、ターゲット2の軸心から最も離れた側の磁力線について考察する。
比較例1においては、ターゲット2の軸心から最も離れた側の磁力線が、ターゲット2表面から基材7方向に約50mmしか進んでいない地点で、すでにターゲット2の軸心から200mmも離れている、つまり大きくそれていることがわかる(図4中の矢印A’参照)。
【0051】
これと同様に、比較例2〜比較例4においても、ターゲット2の軸心から最も離れた側の磁力線が、ターゲット2表面から基材7方向に約100〜115mmしか進んでいない地点で、すでにターゲット2の軸心から200mmも大きくそれている(図5〜図7中の矢印B’、C’、D’参照)。
このように比較例1〜比較例4では、ターゲット2から前方に向かって伸びる磁力線が基材7方向から大きくそれており、これに伴って、イオンの軌跡も基材7方向からそれる傾向にある。
【0052】
その結果、表1に示したように、比較例1〜比較例4での基材7に流れる電流値は、それぞれ1.0A、1.1A、1.2A、1.3Aで成膜速度の評価も不合格となっており、効率的な成膜が困難である。
また、イオンの軌跡が基材7から大きくそれ、成膜速度が遅いため、表1に示したように、比較例1〜比較例4での皮膜残留応力値は、それぞれ−2.40GPa、−2.30GPa、−2.25GPa、−2.09GPaを示し、皮膜残留応力の評価も不合格となっており、皮膜残留応力の低い皮膜が形成できない。
【0053】
これらの比較例に対して、図8に示す如く、本発明の実施例1及び実施例2では、磁力線を基材7方向に誘導することが可能となっている。
つまり、実施例1及び実施例2においては、ターゲット2の軸心に最も近い側の磁力線が、ターゲット2表面から基材7方向に200mm進んだ地点であっても、ターゲット2の軸心から20mmも離れていない(図8中の矢印E参照)ことから、基材7にはより多くの磁力線が直接伸びていることがわかる。
【0054】
さらに、実施例1と実施例2では、ターゲット2の軸心から最も離れた側の磁力線が、ターゲット2表面から基材7方向に約130mmまで進んだ地点でなくては、ターゲット2の軸心から200mm離れることはなく(図8中の矢印E’参照)、より多くの磁力線がターゲット2の基材7方向へ向かって伸びている。
加えて、実施例1、実施例2では、磁性体5の端面が各円盤背面磁石4A、4Bの端面とそれぞれ密着しているが、これにより、各円盤背面磁石4A、4Bの端面からのびる磁力線を、漏れなく繋げることができる。
【0055】
その結果、表1に示したように、本発明の実施例1及び実施例2における基材7に流れる電流値は1.5A以上で成膜速度の評価が合格となっており、比較例1〜比較例4よりも成膜速度が速く、効率的な成膜が可能となる。
また、皮膜残留応力の絶対値は、2.0GPa以下を示し、皮膜残留応力の評価が合格となっており、残留応力の低い皮膜の形成が可能となる。
【0056】
なお、円盤背面磁石4A、4B及び磁性体5の直径を40mm(つまり、ターゲット2と対向する表面(以下、単に「表面」という)の面積は400πmm2)としてもよく、このとき、ターゲット2表面の面積2500πmm2の0.16倍(100分の16)となる。
また、円盤背面磁石4A、4B及び磁性体5の直径は、80mmであってもよく、各磁石4A、4B及び磁性体5の表面の面積は1600πmm2、つまりターゲット2表面の面積2500πmm2の0.64倍(100分の64)となる。
【0057】
すなわち、各円盤背面磁石4A、4Bや磁性体5の表面の面積は、ターゲット2表面の面積の0.25倍(4分の1)以上としてもよく、この場合であっても、ターゲット2の軸心からそれることなく、より多くの磁力線が基材7へ直接伸び、効率的にターゲット2から蒸発したイオンを基材7に誘導することができる。
なお、円盤背面磁石4A、4B及び磁性体5の表面の面積は、好ましくはターゲット2表面の面積の0.64倍(100分の64)以上であり、さらに好ましくはターゲット2表面の面積(つまり、ターゲット2表面の面積の1.0倍)以上である。また、好ましい上限としては、円盤背面磁石4A、4Bの直径は、ターゲット2の直径の1.5倍、つまりターゲット2表面の面積が2.25倍(4分の9)以下となる。
【0058】
また、アーク放電は、ターゲット2表面と平行な方向の磁力線の成分(以下、「平行成分」という)に対して直角方向(つまり基材7方向)に移動する力を受けており、アークスポットの移動速度は、磁力線の平行成分の強さに比例する。
磁力線の平行成分は、ターゲット2表面に垂直な磁力線の成分(以下、「垂直成分」という)が0(0近傍の値を含む。以下同じ)となる点で強くなる。また、アーク放電は磁力線の垂直成分が0となる点で優先的におこる傾向がある。この垂直成分が0となる点はターゲット2表面に近い側の円盤背面磁石の表面までの距離で決まるが、距離が近い場合にはアーク放電が外周部で生じる傾向があり、イオンが外側で発生するが、距離を離すと磁力線の垂直成分が0となる点が中央部に寄り、イオンを効率的に基材7へと到達させることができる。
【0059】
しかしながら、距離が遠すぎる場合にはターゲット2表面上の磁力線及び基材7方向に伸びる磁力線が弱くなり、イオンを効率的に運ぶことができないことから、測定例6で最も成膜レートが早く、皮膜残留応力が小さくなったと考えられる。
なお、垂直成分が0で、且つ、平行成分のみを有する磁力線の位置を変化させるために、各円盤背面磁石4A、4B及び磁性体5をターゲット2に対して近接離反するように前後に移動させる機構を組み込むことも可能である。このように、各磁石4A、4B及び磁性体5のターゲット2表面からの距離を変化させることで、磁力線の平行成分の強さを調節できると共に、磁力線の垂直成分が0となる点をコントロールすることができる。
[第2実施形態]
図9、図10には、上述したアーク式蒸発源1を複数備えた第2実施形態の成膜装置6が示されている。
【0060】
なお、各アーク式蒸発源1の構成は、第1実施形態と略同じである。
この第2実施形態に係る成膜装置6の最も大きな特徴は、複数(4台)の蒸発源1を、真空チャンバ11内で上下に並べ、且つ隣接するアーク式蒸発源1の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的(図10(a)、(b)参照)に配置している点である。
【0061】
図9に示すように、それぞれの蒸発源1は、磁界形成手段8(外周磁石3及び背面磁石4)における基材7に近い側の極性(磁極の向き)が、隣接する蒸発源1同士で互いに逆極性(逆向き)となるように配置されている。
この逆向き配置とは、例えば、基材7方向(ターゲット2から基材7に近づく方向)に磁力線が向くように蒸発源1を配置し、この蒸発源1に隣接する蒸発源1を、磁力線が基材7方向とは逆向き(基材7からターゲット2に向かって遠ざかる方向)となるように配置することを意味する。
【0062】
このような配置によって、外周磁石3によって形成される磁力線と、背面磁石4(つまり、第1の永久磁石4A、第2の永久磁石4B及び磁性体5)によって形成される磁力線とが、隣り合うアーク式蒸発源1同士で互いに繋がることとなる。
例えば、1番上の蒸発源1Aの磁界形成手段8においてターゲット2表面側(基材7に近い側)がN極であり、上から2番目の蒸発源1Bではターゲット2表面側がS極であるため、隣接する1番上の蒸発源1Aと、2番目の蒸発源1Bとの間では、1番上の蒸発源1Aから2番目の蒸発源1Bに向かう磁力線が発生する(図9参照)。
【0063】
したがって、1番上の蒸発源1Aと2番目の蒸発源1Bとの間の磁力線は閉じた状態となっており(この領域を「閉磁場領域H」とする)、アーク式蒸発源1からの放出電子がこの閉磁場領域H内にトラップされ(閉じ込められ)、放出電子がアノード17や真空チャンバ11に安易に誘導されることを防ぐ。
なお、このような閉磁場領域Hは、蒸発源1A、1B以外の隣接する蒸発源1同士の間でそれぞれ形成されることとなる。
【0064】
また、上述したように、アーク式蒸発源1から多くの磁力線が基材7方向へ向かって伸びていることから、閉磁場領域Hは、基材7近傍まで到達することとなる。
この結果、放出電子の濃度が各閉磁場領域H内で高まり、基材7の周辺で真空チャンバ11中の反応ガスと放出電子との衝突が増加し、高効率で反応ガスのイオン化が図れる。
したがって、隣接するアーク式蒸発源1の磁力線が互いにつながるように、複数のアーク式蒸発源1を配備することによって、成膜速度が上がり、さらに効率的な成膜が可能となる。
【0065】
図10は、複数並べたアーク式蒸発源1を正面(基材7に近い側)からの投影図(図9のA−A線矢視図)であるが、蒸発源1の配列は、図10(a)のように、上下1列に直線的に配備してもよく、または、図10(b)のように、非直線的(例えば、ジグザグ)に配備してもよい。
直線的に配備した場合には、上述の閉磁場領域Hの左右幅が狭くなって、放出電子濃度がさらに上がり、閉磁場領域H内の基材7をより高い効率で成膜できる。
【0066】
また、非直線的に配備した場合には、蒸発源1が蛇行している幅分だけ、閉磁場領域Hの幅も広がることとなり、基材7が幅広であっても、閉磁場領域H内で効率よく皮膜を形成することが可能となる。
なお、本発明において、「直線的に」配備するとは、上述のように上下1列に並べるだけでなく、真空チャンバ11の内面に左右1列に並べたり、斜め1列に並べることも含む。
【0067】
また、第2実施形態における成膜装置6は、基材7が上述した閉磁場領域H内を通過するように、真空チャンバ11内に基材7を回転台12上に複数個(例えば、回転軸に対して2個対称に)設置し、回転台12により基材7を回転させて、基材7が交互に蒸発源1の前方側(ターゲット2正面側)を通るように構成されている。
基材7が閉磁場領域H内を通過するのであれば、回転台12や基材7のほうを回転させずともよく、蒸発源1が基材7の周りを回るように構成する等、成膜装置6は、閉磁場領域Hに対して基材7が順次相対的に移動する手段を有していればよい。
【0068】
なお、第2実施形態の成膜装置6は、その他の構成、又は皮膜を形成する方法は、第1実施形態と同様である。
[第3実施形態]
図11は、上述の蒸発源1を複数備えた第3実施形態の成膜装置6を示している。
第3実施形態の違いは、複数(4台)の蒸発源1を、円周状に(基材7の周りを取り囲むように)配備している点である。
【0069】
円周状に隣接する蒸発源1は、それぞれの磁界形成手段8(外周磁石3及び背面磁石4)の極性の向き(磁極の向き)が、隣接する蒸発源1同士で互いに逆向きとなるように配置されている。
この配置によって、外周磁石3及び背面磁石4によって形成される磁力線が、隣り合うアーク式蒸発源1同士で互いに繋がることとなる。
【0070】
例えば、図11の紙面右上の蒸発源1Cの磁界形成手段8においてターゲット2表面側(基材7に近い側)がN極であり、同じく図11の紙面右下の蒸発源1Dではターゲット2表面側がS極であるため、右上の蒸発源1Cから右下の蒸発源1Dに向かう磁力線が発生する。
図11に示すように、蒸発源1C、1D以外の隣接する蒸発源1同士の間でも磁力線がつながり、且つ各蒸発源1が基材7を囲んで円周状に配置されているため、それぞれの磁力線も基材7の周りを取り囲むようにつながる。
【0071】
したがって、第3実施形態の場合には、基材7を含む領域を囲んで磁力線は閉じた状態となっており、上述した閉磁場領域Hは、基材7を囲んだ広い範囲に発生することとなる。
このように、蒸発源1からの放出電子が、基材7を含む大きな閉磁場領域H内にトラップされ、基材7周辺の放出電子の濃度が高まり、成膜速度の向上と同時に、基材7の大型化や数量の増加に対応した効率的な成膜が実現する。
【0072】
なお、本発明において、「直線的に」配備するとは、第2実施形態のように上下1列に並べる配置のみならず、上述のように基材7を囲んで円周状に、且つ真空チャンバ11の内底から一定高さで配置することも含む。さらに、本発明において、「非直線的に」配備するとは、第2実施形態で述べた上下ジグザグ配置だけでなく、基材7を囲んで円周状に、且つ真空チャンバ11の内底からの高さを異なるようにして配置することも含む。
【0073】
これに加えて、第3実施形態の成膜装置6は、基材7が上述の広い閉磁場領域H内に位置するように、真空チャンバ11内に基材7を回転台12上に複数個(例えば、回転軸に対して2個対称に)設置している。
したがって、回転台12で基材7を回転させることによって、基材7が各蒸発源1の前方側を順次通過することとなり、各アーク式蒸発源1のターゲット2を、同一の、あるいは異なる物質で構成して、基材7上に、同一の、あるいは異なる組成や厚みの皮膜を順次多層に成膜することが可能となる。
【0074】
なお、第3実施形態の成膜装置6は、その他の構成、又は皮膜を形成する方法は、第1実施形態と同様である。
[第4実施形態]
図12には、上述のアーク式蒸発源1と、スパッタ式蒸発源21をそれぞれ複数備えた第4実施形態の成膜装置6が示されている。
【0075】
第4実施形態は、第3実施形態における複数の蒸発源1のうち、対向する2台を、スパッタ式蒸発源21に変えて、各蒸発源1、21を円周状に配備したものである。
ここで用いるスパッタ式蒸発源21は、真空チャンバ11中に導入した不活性ガス(アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、キセノン(Xe)等)を放電によってプラズマイオン化させ、このプラズマイオンをターゲット2にぶつけて(スパッタして)ターゲット物質を基材7側に弾き飛ばす一般的なスパッタリング方式の蒸発源である。
【0076】
このスパッタ式蒸発源21における磁界形成手段8は、ターゲット2の背面磁石4として、リング磁石4C(リング状の永久磁石)と、このリング磁石4Cの内側で、且つ同軸に配置された円柱磁石4D(円柱状の永久磁石)とを備えている。
図12に示す如く、磁界形成手段8は、リング磁石4Cの極性の向きと円柱磁石4Dの極性の向き(磁極の向き)とが、互いに逆向きとなるようにリング磁石4C及び円柱磁石4Dが配置されている。
【0077】
この配置によって、リング磁石4Cと円柱磁石4Dとの間でターゲット2表面側を囲むように磁力線がつながり、ターゲット2表面近傍で磁力線は閉じた状態となる(この領域を「プラズマ閉磁場領域H’」とする)。
したがって、スパッタ式蒸発源21からの放出電子がこのプラズマ閉磁場領域H’内に閉じこめられて、プラズマ閉磁場領域H’内での不活性ガスのプラズマの濃度が高まり、より多くのプラズマイオンがターゲット2にぶつかることから、成膜効率を向上できる。
【0078】
これに加え、各蒸発源1、21は、スパッタ式蒸発源21のリング磁石4Cの極性と、隣接するアーク式蒸発源1の磁界形成手段8(外周磁石3及び背面磁石4)の磁極の向きが、隣接する蒸発源1、21同士で互いに逆向きに配置されている。
よって、スパッタ式蒸発源21のリング磁石4Cと、アーク式蒸発源1の磁界形成手段8によって形成される磁力線が、隣り合う蒸発源1、21同士で互いに繋がることとなる。
【0079】
この結果、それぞれのアーク式蒸発源1及びスパッタ式蒸発源21間で磁力線が基材7の周りを取り囲むようにつながって、上述したプラズマ閉磁場領域H’とは独立して、また別の閉磁場領域Hが、基材7を囲んだ広い範囲に発生する。
つまり、スパッタ式蒸発源21の近傍で高いプラズマ濃度を保ったまま、閉磁場領域H内で基材7周辺の放出電子濃度を高め、大型または大量の基材7を一度に、且つ成膜速度を速く皮膜を形成することが可能となる。
【0080】
次に、第4実施形態の成膜装置6を用いた成膜の方法を説明する。
アーク式蒸発源1のみを用いて皮膜を形成する場合は、窒素(N2)、メタン(CH4)、アセチレン(C2H2)等の反応ガスを真空チャンバ11内に導入して、数Pa(1〜7Pa程度)の圧力下で成膜を実施する。
一方、スパッタ式蒸発源21のみを用いて皮膜を形成する場合は、アルゴン(Ar)等の不活性ガスを真空チャンバ11内に導入して、0.数Pa程度の圧力下で成膜を実施する。
【0081】
さらに、アーク式蒸発源1とスパッタ式蒸発源21とを同時に用いて皮膜を形成する場合には、窒素等の反応ガスと、アルゴン等の不活性ガスとを混合して用い、混合雰囲気の全圧力は2〜4Pa程度とし、アーク式蒸発源1のみによる成膜よりも低い圧力で成膜することとなる。なお、反応ガス(窒素等)の分圧は0.5〜2.65Paとする。
このように、2種類の蒸発源1、21を同時用いたとしても、閉磁場領域Hと、プラズマ閉磁場領域H’は、磁力線によってそれぞれ分けられており、プラズマの濃度、及び放出電子の濃度をそれぞれ独自に高めることができ、アーク式蒸発源1による成膜効率と、スパッタ式蒸発源21による成膜効率とを同時に向上できる。
【0082】
なお、第4実施形態の成膜装置6は、回転台12や基材7の配置など、その他の構成は、第1実施形態及び第3実施形態と同様である。
ところで、本発明は、前述した各実施形態及び実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した本発明の範囲内で適宜変更可能である。
ターゲット2は、円盤状以外の任意の形状であってもよい。
【0083】
具体的には、ターゲット2の投影面形状が、点対称な図形(正方形、六角形等)であってもよく、その際、ターゲット2に対して外周磁石3、背面磁石4及び磁性体5は同心軸状に配置されていなくてもよい。ただし、外周磁石3、背面磁石4及び磁性体5は、それらの中心軸(外周磁石3、背面磁石4及び磁性体5が回転対称体の場合はその回転軸)がターゲット2を通るように配置されていることが好ましい。
【0084】
また、ターゲット2は、投影面形状が長手方向を有した図形(楕円、長方形等)であってもよい。このとき、ターゲット2の投影面形状が、楕円の場合には直径を長径、短径と、長方形の場合には直径を長辺、短辺と読み替えればよい。
外周磁石3は、ターゲット2の外周を取り囲むものであればよく、ターゲット2の投影面形状に沿う形で且つリング状の永久磁石(例えば、ターゲット2が楕円であれば、これを取り囲むように形成された楕円形状の永久磁石)でもよい。
【0085】
例えば、外周磁石3は、ターゲット2の投影面形状に応じて、点対称な図形(正方形、六角形等)、又は長手方向を有した図形(楕円、長方形等)で且つターゲット2を囲うものであってもよい。
背面磁石4は、円盤状以外の任意の形状でもよく、投影面形状が点対称な図形(正方形、六角形等)や長手方向を有した図形(楕円、長方形等)であってもよい。
【0086】
また同様に、磁性体5も、円盤状以外の任意の形状であってもよく、投影面形状が点対称な図形(正方形、六角形等)や長手方向を有した図形(楕円、長方形等)であってもかまわない。
なお、背面磁石4及び磁性体5の投影面形状は、ターゲット2の投影面形状と相似であることが好ましい。
【0087】
また、外周磁石3、背面磁石4及び磁性体5をそれぞれ複数備えていてもよい。
成膜装置6に用いる蒸発源は、アーク式蒸発源1やスパッタ式蒸発源21に限らず、プラズマビーム式蒸発源や、抵抗加熱式蒸発源等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、薄膜を形成する成膜装置のアーク式蒸発源として利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 蒸発源(アーク式蒸発源)
2 ターゲット
3 外周磁石
4 背面磁石
4A 第1の永久磁石(円盤背面磁石)
4B 第2の永久磁石(円盤背面磁石)
5 磁性体
6 成膜装置
7 基材
8 磁界形成手段
11 真空チャンバ
12 回転台
13 ガス導入口
14 ガス排気口
15 アーク電源
16 バイアス電源
17 アノード
18 グランド
A 比較例1にてターゲットの軸心から最も近い側の磁力線を示す矢印
B 比較例2にてターゲットの軸心から最も近い側の磁力線を示す矢印
C 比較例3にてターゲットの軸心から最も近い側の磁力線を示す矢印
D 比較例4にてターゲットの軸心から最も近い側の磁力線を示す矢印
E 実施例1、実施例2にてターゲットの軸心から最も近い側の磁力線を示す矢印
A’ 比較例1にてターゲットの軸心から最も離れた側の磁力線を示す矢印
B’ 比較例2にてターゲットの軸心から最も離れた側の磁力線を示す矢印
C’ 比較例3にてターゲットの軸心から最も離れた側の磁力線を示す矢印
D’ 比較例4にてターゲットの軸心から最も離れた側の磁力線を示す矢印
E’ 実施例1、実施例2にてターゲットの軸心から最も離れた側の磁力線を示す矢印
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品等の耐摩耗性などの向上のために用いられる、窒化物及び酸化物などのセラミック膜、非晶質炭素膜等の薄膜を形成する成膜装置のアーク式蒸発源、このアーク式蒸発源を用いた皮膜の製造方法及び成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐摩耗性、摺動特性及び保護機能向上などの目的で、機械部品、切削工具、摺動部品などの基材の表面に薄膜をコーティングする技術として、アークイオンプレーティング法、スパッタ法などの物理蒸着法が広く知られており、アークイオンプレーティング法においては、カソード放電型アーク式蒸発源が用いられている。
カソード放電型アーク式蒸発源は、カソードであるターゲットの表面にアーク放電を発生させ、ターゲットを構成する物質を瞬時に溶解し、イオン化したその物質を処理物である基材の表面に引き込むことで薄膜を形成している。このアーク式蒸発源は、蒸発速度が速く、蒸発したターゲットを構成する物質のイオン化率が高いことから、成膜時に基材にバイアスを印加することで緻密な皮膜を形成できるため切削工具などの耐摩耗性皮膜を形成するために産業的に用いられている。
【0003】
しかしながら、カソード(ターゲット)とアノード間で生じるアーク放電のカソード側の電子放出点(アークスポット)を中心としたターゲットの蒸発が生じる時にスポット近傍から溶融したターゲットが放出され、被処理体に付着し、面粗度悪化の原因となる。
アークスポットから放出される溶融ターゲット物質(マクロパーティクル)の量は、アークスポットが高速で移動する場合に抑制される傾向があり、その移動速度はターゲットに印加された磁界に影響されることが知られている。
【0004】
また、アーク放電により蒸発するターゲット原子はアークプラズマ中において高度に電離、イオン化することが知られており、ターゲットから基材に向かうイオンの軌跡はターゲットと基材との間の磁界に影響されるなどの問題がある。
さらには、カソード放電型アーク式蒸発源による成膜のようなPVD成膜により得られる皮膜には、原理的に圧縮応力が残留し、その応力は皮膜が厚くなるほど大きくなる傾向にある。また、圧縮応力が−2GPaより大きくなる(圧縮応力<−2GPa)と、皮膜の工具への密着性が低下して剥離し易くなる。切削工具に被覆する皮膜を厚くすることが可能になれば、切削工具の寿命を延ばすことができるが、前述した理由により、皮膜を厚くすることが出来ない。
【0005】
これらの問題を解消するために、ターゲットに磁界を印加し、アークスポットの移動を制御する下記のような試みが提案されており、ターゲット周囲にリング状の磁力発生機構(永久磁石、電磁コイル)を配置し、ターゲット表面に垂直磁場を印可する技術(特許文献1)、イオン化されたターゲットを構成する物質を効率よく基材方向に収束させるように、ターゲットの前方に収束のための磁力発生機構(電磁コイル)を配置する技術(特許文献2)、アーク式蒸発源のターゲット背面中心に永久磁石を設置し、それを取り巻くようにターゲット背面に極性の異なるリング磁石を配置し、アーク放電を閉じこめるような磁場成分を形成すると共に、リング磁石とほぼ同じ直径の電磁コイルを設ける技術(特許文献3)、ターゲット周囲に配置されたリング状磁石と背面の電磁コイルによりターゲット表面に平行な磁場を形成する技術(特許文献4)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−328236号公報
【特許文献2】特開平07−180043号公報
【特許文献3】特開2007−056347号公報
【特許文献4】特表2004−523658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の磁力発生機構によれば、ターゲット表面から磁力線がリング側面のマグネットに向かって伸びることから、イオンの多くがマグネット方向に誘導される。さらに、ターゲット前方において基材方向に向かって伸びる磁力線が基材方向から大きくそれるために、蒸発してイオン化されたターゲットの物質が効率的に到達できない。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術では、磁力線は基材方向に向かって伸びるものの、ターゲットと基材との間に大型の電磁コイルを配置する必要があることから、必然的にターゲットと基材との間の距離が長くなり、結果として成膜速度が低下することになる。
さらに、特許文献3に開示された配置では、アーク放電は磁場の垂直成分(ターゲット表面に対する磁場の垂直方向の成分)が0になる点で優先的に放電する傾向があることから、永久磁石とリング磁石のほぼ中間部分にトラップされ、電磁コイルを使用しても、それより内周の部分にアーク放電を制御するのは困難であり、ターゲットの利用効率は高くならない。また、このような配置ではターゲットから前方に向かって伸びる磁力線の成分が無いことから、ターゲットから放出されたイオンは基材に向かって効率的に収束されない。
【0009】
そして、特許文献4において示された技術では、電磁コイルの内径がターゲットの直径より小さい実施形態しか記載されておらず、その場合には磁力線はターゲットから外側に向けて発散する傾向があり、効率的なイオンの収束はできないと思われる。また、ターゲット表面に平行な磁場に必要な強度を得るためにアークプラズマの放電を高速に移動させており、電磁コイル(あるいは磁性体ヨーク)との組合せにおいて大型の電磁コイルで大電流が必要とされて蒸発源が大型化するため、産業上好ましくない。
【0010】
前述した問題に鑑み、本発明は、成膜速度が速いアーク式蒸発源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、以下の技術的手段を採用した。
本発明に係るアーク式蒸発源は、ターゲットの外周を取り囲んでいて磁化方向が前記ターゲット表面と直交する方向に沿うように配置された1又は複数の外周磁石と、前記ターゲットの背面側に配置された背面磁石とを備え、前記背面磁石は、極性が前記外周磁石と同方向で且つ磁化方向が前記ターゲット表面と直交する方向に沿うように配置されている非リング状の第1の永久磁石を有すると共に、前記第1の永久磁石と前記ターゲットとの間、もしくは、前記第1の永久磁石の背面側に、前記第1の永久磁石と間隔をあけて配置された非リング状の第2の永久磁石をさらに有し、前記第2の永久磁石は、極性が前記外周磁石と同方向で且つ磁化方向が前記ターゲット表面と直交する方向に沿うように配置されており、前記第1の永久磁石と前記第2の永久磁石との間に磁性体が配置されていることを特徴とする。
【0012】
本発明では、ターゲット表面(ターゲット蒸発面)に水平成分の大きな磁場を形成するために、ターゲットの外周に外周磁石を配置するとともに、外周磁石と同じ向きの極性を有する磁石をターゲットの背面側に配置して、ターゲット表面上で双方の磁石によって反発磁場を形成させることを基本的な構成としている。このような磁石構成にすることにより、アークの回転が早くなり、マクロパーティクルの発生が減少し、平滑な皮膜を形成することができる。なお、ターゲットの外周を取り囲むように外周磁石を配置するのは、ターゲット表面に形成される磁場の水平成分を大きくするためである。
【0013】
ここで、本発明では、ターゲット表面の中心部分から基材方向に伸びる直進性の高い磁力線を多数発生させるために、外周磁石と同じ向きの極性であってターゲットの背面に配置された非リング状の永久磁石(第1の永久磁石)を有している。この第1の永久磁石の磁極の向きと外周磁石の磁極の向きを同じにして、且つ第1の永久磁石の形状を非リング状としているのは、ターゲット表面(端面)の中心部分から基材方向に伸びる直進性の高い磁力線を多数発生させるためである。ターゲット表面の中心部分から基材方向に伸びる磁力線を多数発生させることにより、ターゲットから蒸発して、イオン化した粒子をコーティング基材に効率的に輸送することが出来るため、成膜速度が向上する。
【0014】
仮に、外周磁石及び第1の永久磁石の磁極向きを反対にすると、ターゲット表面(端面)の中心部分から発生する磁力線は外周磁石に引き込まれるため、基材方向に伸びる磁力線を発生することが出来ない。
また、各磁石の磁極向きを同方向とした場合でも、背面磁石の形状が中実状でない(リング状である)場合、磁石の中心部から磁力線が発生しないため、ターゲット表面の中心部分から基材方向に伸びる磁力線を発生させることが出来ない。さらに、前記本発明の構成範囲外とした場合、ターゲット表面の中心部分から基材方向に伸びる磁力線を発生することができないため、成膜速度を向上する効果は得られない。
【0015】
これに加え、本発明では、ターゲット表面の中心部分から発生する磁力線の直進性を向上するために、前述の第1の永久磁石の他に、また別の永久磁石(第2の永久磁石)を、ターゲットの背面に間隔を設けて配置している。
このように第1と第2の永久磁石を間隔を置いて配置しているのは、ターゲット表面の中心部分から基材方向に伸びる磁力線の直進性を向上するためである。磁力線の直進性を向上することにより、ターゲットから蒸発して、イオン化した粒子をコーティング基材に効率的に輸送することが出来るため、成膜速度が向上する。
【0016】
一方、第1と第2の永久磁石を密着して配置した場合、直進性は向上しないため、成膜速度を向上する効果は得られない。
本発明における最も大きな特徴は、ターゲット表面の中心部分から発生する直進性の高い磁力線の数を増大するために、第1の永久磁石と第2の永久磁石の間に磁性体を配置していることである。第1の永久磁石と第2の永久磁石の間に磁性体を配置しているのは、各永久磁石の互いに対向する面(端面)からのびる磁力線を漏れなく繋げ、ターゲット表面の中心部分から発生する直進性の高い磁力線の数をさらに増大させるためである。
【0017】
ここで、アーク放電中、電子は磁力線に巻きつきながら移動すると同時に、ターゲットから蒸発してイオン化した粒子は電子に引寄せられながら移動していることを鑑みるに、直進性の高い磁力線の数を増大することにより、ターゲットから蒸発してイオン化した粒子をコーティング基材に効率的に輸送することが出来るため、成膜速度がさらに向上する。
【0018】
なお、本発明において、「リング状の永久磁石」とは、リング形状を有する単一の永久磁石だけでなく、リング状に配列した複数の永久磁石をも意味する。また、「リング状」とは真円に限定されず、楕円及び多角形などをも含む。
好ましくは、前記磁性体の端面が、前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石の端面とにそれぞれ密着してもよい。
【0019】
こうすることにより、前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石における対向する端面からのびる磁力線を、漏れなく繋げることができる。
また、前記ターゲットは円盤状であり、前記外周磁石はリング状の永久磁石であることとしてもよい。
このようにすることで、ターゲット表面より前方の磁力線の向きを基材方向に向けることができ、ターゲットから蒸発してイオン化した粒子をコーティング基材に効率的に輸送することが出来るため、成膜速度が向上する。
【0020】
さらに好ましくは、前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石をその表面と直交する方向に沿って投影した面の形状は、前記ターゲットをその表面と直交する方向に沿って投影した面の形状と相似であることとしてもよい。
本発明に係る皮膜の製造方法は、上述したアーク式蒸発源を用いて、皮膜を形成することを特徴とする。
【0021】
好ましくは、前記アーク式蒸発源を、隣接するアーク式蒸発源の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的に複数配備しておき、皮膜を形成してもよい。
さらには、前記アーク式蒸発源を含む複数種の蒸発源を、隣接する蒸発源の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的に複数配備しておき、皮膜を形成することも好適である。
【0022】
また、本発明に係る成膜装置は、上述のアーク式蒸発源を用いても好ましく、さらには、前記アーク式蒸発源を、隣接するアーク式蒸発源の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的に複数配備しても好適である。
さらに好ましくは、前記アーク式蒸発源を含む複数種の蒸発源を、隣接する蒸発源の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的に複数配備してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、アーク式蒸発源を用いた成膜装置の成膜速度を速くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るアーク式蒸発源を備えた第1実施形態の成膜装置の概要図である。
【図2】本発明の実施例1に係るアーク式蒸発源の概要図である。
【図3】本発明の実施例2に係るアーク式蒸発源の概要図である。
【図4】比較例1のアーク式蒸発源の磁力線分布図である。
【図5】比較例2のアーク式蒸発源の磁力線分布図である。
【図6】比較例3のアーク式蒸発源の磁力線分布図である。
【図7】比較例4のアーク式蒸発源の磁力線分布図である。
【図8】本発明のアーク式蒸発源の磁力線分布図である。
【図9】アーク式蒸発源を複数備えた第2実施形態の成膜装置の側面図である。
【図10】図9のA−A線矢視図であって、(a)はアーク式蒸発源を直線的に配置した図であり、(b)はアーク式蒸発源を非直線的に配置した図である。
【図11】アーク式蒸発源を複数備えた第3実施形態の成膜装置の平面図である。
【図12】アーク式蒸発源と、スパッタ式蒸発源とをそれぞれ複数備えた第4実施形態の成膜装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づき説明する。
[第1実施形態]
図1には、本発明の一実施形態に係るアーク式蒸発源1(以下、蒸発源1)が備えられた第1実施形態の成膜装置6が示されている。
成膜装置6は、真空チャンバ11を備え、真空チャンバ11内には処理物である基材7を支持する回転台12と、基材7に向けて取り付けられた蒸発源1が配備されている。真空チャンバ11には、当該真空チャンバ11内へ反応ガスを導入するガス導入口13と、真空チャンバ11内から反応ガスを排出するガス排気口14とが設けられている。
【0026】
加えて、成膜装置6は、ターゲット2に負のバイアスをかけるアーク電源15と、基材7に負のバイアスをかけるバイアス電源16とが設けられ、両電源15、16の正側はグランド18に接続されている。
図1に示すように、蒸発源1は、円盤状(以下、「円盤状」とは所定の高さを有した円柱状のものも含む)のターゲット2と、ターゲット2の近傍に配備された磁界形成手段8と、ターゲット2の外周部に配置されたアノード17とを有している。なお、アノード17はグランド18に接続されており、同電位にある真空チャンバ11もアノード17として作用することができる。すなわち、蒸発源1は、カソード放電型のアーク式蒸発源である。
【0027】
ターゲット2は、基材7上に形成しようとする薄膜に応じて選択された材料(例えば、クロム(Cr)、チタン(Ti)、チタンアルミ(TiAl)、又は炭素(C)など)で構成されている。
磁界形成手段8は、ターゲット2の外周に配置された外周磁石3と、ターゲット2の背面側に配置された背面磁石4とを有している。また、磁界形成手段8は、外周磁石3の極性の向きと背面磁石4の極性の向きとが同方向となるように外周磁石3及び背面磁石4が配置されている。
【0028】
なお、ターゲット2の蒸発面(基材7側の面)を「前面」、その反対側の面を「背面」とする(図2、図3参照)。
これら外周磁石3及び背面磁石4は、保持力の高いネオジム磁石により形成された永久磁石によって構成されている。
外周磁石3は、リング状であって、ターゲット2と同心軸状となるように配置されている。外周磁石3の磁化方向は、ターゲット2の軸心に沿うように(ターゲット2を構成する物質の蒸発面に対して垂直になるように)、且つ外周磁石3の径方向における投影面がターゲット2の径方向における投影面と重なるように配置されている。すなわち、外周磁石3は、ターゲット2の蒸発面と平行な方向に外周磁石3とターゲット2とを投影することにより形成される影が互いに重なるように配置されている。
【0029】
なお、外周磁石3は、複数の円柱状等の永久磁石をターゲット2の外周を取り囲むように環状に配置することで形成してもよい(以下、「リング状」又は「環状」とは、複数の磁石をターゲット2の外周に沿って並べた状態も含む)。
背面磁石4は、その磁化方向がターゲット2の軸心に沿うように(ターゲット2を構成する物質の蒸発面に対して垂直になるように)、且つターゲット2の背面側に配置されている。
【0030】
図2、図3においては、外周磁石3及び背面磁石4の極性をともに基材7に近い側をN極、基材7から遠い側をS極としているが、逆に、基材7に近い側をS極、基材7から遠い側をN極として外周磁石3及び背面磁石4を配置してもよい。
磁界形成手段8が前述した構成であるため、ターゲット2の外周部の外周磁石3によって形成される磁界と、ターゲット2の背面側の背面磁石4によって形成される磁界の組合せにより、磁力線を基材7方向に誘導することが可能となる。
【0031】
本実施形態における背面磁石4は、後述の円盤背面磁石4A、4Bのように非リング状のものである。ここで、「非リング状」とは、ドーナツ様に径方向内部に孔が空いているものではなく、中身の詰まった中実であるものを指し、円盤状や円柱状等を含む。
すなわち、「非リング状」とは、表面から外方へ向くいずれの法線も互いに交わらない形状をいう。
【0032】
なお、図2は、背面磁石4として、後述する円盤背面磁石4A(第1の永久磁石)の背後にまた別の円盤背面磁石4B(第2の永久磁石)を配置し、これら円盤背面磁石4A、4Bの間に磁性体5を有した実施例1における磁界形成手段8を示している。
なお、図3は、第1の永久磁石4Aと第2の永久磁石4Bとを入れ替えた実施例2における磁界形成手段8を示している。
【0033】
次に、蒸発源1が備えられた成膜装置6を用いた成膜の方法を説明する。
まず真空チャンバ11を真空引きにより真空にした後、アルゴンガス(Ar)等をガス導入口13より導入する。そして、ターゲット2及び基材7上の酸化物等の不純物をスパッタすることにより除去し、真空チャンバ11内を再び真空にした後、反応ガスをガス導入口13より真空チャンバ11内に導入する。この状態で真空チャンバ11に設置されたターゲット2上でアーク放電を発生させることによりターゲット2を構成する物質をプラズマ化し反応ガスと反応させることで、回転台12に置かれた基材7上に窒化膜、酸化膜、炭化膜、炭窒化膜、或いは非晶質炭素膜等を成膜する。
【0034】
なお、反応ガスとしては窒素ガス(N2)、酸素ガス(O2)、メタン(CH4)などの炭化水素ガスを用途に合わせて選択すればよく、真空チャンバ11内の反応ガスの圧力は1〜7Pa程度とする。また、成膜時、ターゲット2は、100〜200Aのアーク電流を流すことで放電させると共に、10〜30Vの負電圧をアーク電源15により印加している。基材7には10〜200Vの負電圧をバイアス電源16により印加している。
[実施例1、実施例2]
本発明に係る蒸発源1を用いた実施例1について説明する。
【0035】
本実施例では、背面磁石4が円盤状(円柱形状)の永久磁石(以下、「円盤背面磁石4A(第1の永久磁石)」という)と、その背面側(基材7とは反対側)に、所定間隔をおいて配置されたまた別の円盤状の永久磁石(以下、「円盤背面磁石4B(第2の永久磁石)」という)を有していて、さらに、これらの円盤背面磁石4A、4Bの間には、円盤状の磁性体5を備えている。
【0036】
なお、各円盤背面磁石4A、4B及び磁性体5をその表面と直交する方向に沿って投影した面の形状(以下、「投影面形状」という)は、ターゲット2の投影面形状と相似となっており、各円盤背面磁石4A、4B及び磁性体5は、ターゲット2と同心軸状となるように配置されている。
各円盤背面磁石4A、4Bは、保持力の高いネオジム磁石により形成されているため、磁界形成手段8全体をコンパクトにすることができる。
【0037】
磁性体5は、手近で安価な炭素鋼によって形成されているが、比透磁率が1よりも大きい材料であればよく、磁気ガイドとしての役割を果たす。
なお、磁性体5は、比透磁率が250以上の材料で形成されることで、磁気ガイドとしての機能が向上する。具体的には、コバルト(比透磁率は250、以下括弧内の数字は各材料の比透磁率を示す)、ニッケル(600)、炭素鋼(1000)、鉄(5000)、珪素鉄(7000)、純鉄(200000)等を用いるとよい。
【0038】
磁性体5の端面は、円盤背面磁石4A(第1の永久磁石)における背面側(基材7とは反対側)の端面と、円盤背面磁石4B(第2の永久磁石)における基材7側の端面とに、それぞれ密着している。
なお、実施例2は、実施例1における第1の永久磁石4Aと第2の永久磁石4Bとを入れ替えただけであり、各永久磁石4A、4Bは、同一形状であるため、実施例2の説明も以下併せて行う。
【0039】
ターゲット2は、その直径を100mmで、その厚さを16mmとしており、チタン(Ti)とアルミ(Al)の原子比が1:1のチタンアルミ(TiAl)により形成されている。
外周磁石3は、外径が170mm、内径が150mm、厚さが10mmである。
実施例1において、反応ガスとして窒素(N2)を選択し、その圧力は4Pa、成膜時間は30分とした。ターゲット2にはアーク電源15を使用して150Aで放電させ、基材7にはバイアス電源16を用いて30Vの負電圧を印加している。
【0040】
基材7は、15mm×15mm×5mmの鏡面研磨した超硬合金のチップを用い、ターゲット2表面から約180mm離れた位置に配置され、基材7の温度を500℃としている。
また、図4〜図7に示した比較例1〜比較例4においても、ターゲット2、外周磁石3、アーク電流値、反応ガス、成膜時間、印加した負電圧及び基材7に関する条件は同様である。
【0041】
比較例1は、ターゲット2の背面に背面磁石4を有さない比較用の測定例である。
比較例2は、ターゲット2の背面側に配置された永久磁石がリング状である比較用の測定例である。この比較例2において、ターゲット2の背面側に配置したリング状の磁石は、外径が100mm、内径が80mm、厚さが10mmであって、ターゲット2表面から60mmと100mmの位置に配置している。
【0042】
比較例3は、ターゲット2の背面側に配置された2つの永久磁石の形状がリング状であって、各永久磁石の間に磁性体である炭素鋼を前記磁石と密着して配置した比較用の測定例である。各永久磁石の形状、ターゲット2表面からの距離は比較例2と同じにしている。
比較例4は、ターゲット2の背面側に配置された2つの永久磁石の形状が円盤状の磁石であるが、これらの永久磁石の間に磁性体を配置していない比較用の測定例である。
【0043】
表1は、比較例1〜比較例4と、実施例1(実施例2も兼ねる)の背面磁石の枚数、背面磁石の厚み、各磁石の直径、ターゲット2表面からの距離と、基材7に流れる電流値と、成膜速度の評価、皮膜残留応力値、皮膜残留応力の評価結果を示している。
なお、表1では、比較例における各磁石も、便宜上、第1の永久磁石、第2の永久磁石としている。
【0044】
【表1】
【0045】
次に、基材7上の成膜速度、残留応力の評価について説明する。
成膜速度は、アーク放電により基材7に流れるイオン電流に比例することから、基材7に流れる電流値が大きいほど成膜速度が速いことがわかる。生産性、作業効率などを鑑みたとき、成膜速度に比例する電流値は1.5A以上であることが望ましいため、1.5A以上で合格とした。
【0046】
また、薄膜の残留応力については、厚さ1mmのSiウェハ上に成膜を行い、成膜後の基材7のたわみの曲率半径を光てこを利用して測定し、式(1)に示すStoneyの式により薄膜の残留応力を計算した。薄膜の残留応力については、切削工具用の硬質皮膜の剥離を想定して、その絶対値が2.0GPa以下で合格とした。
【0047】
【数1】
【0048】
まず、各測定例における磁力線分布図について考察する。
比較例1の磁力線分布図は図4であるが、この図に示されたように、比較例1は、ターゲット2から前方に向かって伸びる磁力線がターゲット2の正面方向(すなわち、基材7方向)から大きくそれている。
詳しくは、比較例1では、ターゲット2の軸心に最も近い側の磁力線が、ターゲット2表面から基材7方向に約200mm進んだ地点で、すでにターゲット2の軸心から約28mmも離れてしまう(図4中の矢印A参照)。
【0049】
比較例2においては、ターゲット2の軸心から最も近い側の磁力線が、ターゲット2表面から基材7方向に約200mm進んだ地点で、ターゲット2の軸心から約24mm離れている(図5中の矢印B参照)。
同様に、比較例3、比較例4におけるターゲット2の軸心から最も近い側の磁力線は、ターゲット2表面から約200mmの地点で、ターゲット2の軸心から約20mm離れる(図6中の矢印C、及び図7中の矢印D参照)。
【0050】
次に、各比較例において、ターゲット2の軸心から最も離れた側の磁力線について考察する。
比較例1においては、ターゲット2の軸心から最も離れた側の磁力線が、ターゲット2表面から基材7方向に約50mmしか進んでいない地点で、すでにターゲット2の軸心から200mmも離れている、つまり大きくそれていることがわかる(図4中の矢印A’参照)。
【0051】
これと同様に、比較例2〜比較例4においても、ターゲット2の軸心から最も離れた側の磁力線が、ターゲット2表面から基材7方向に約100〜115mmしか進んでいない地点で、すでにターゲット2の軸心から200mmも大きくそれている(図5〜図7中の矢印B’、C’、D’参照)。
このように比較例1〜比較例4では、ターゲット2から前方に向かって伸びる磁力線が基材7方向から大きくそれており、これに伴って、イオンの軌跡も基材7方向からそれる傾向にある。
【0052】
その結果、表1に示したように、比較例1〜比較例4での基材7に流れる電流値は、それぞれ1.0A、1.1A、1.2A、1.3Aで成膜速度の評価も不合格となっており、効率的な成膜が困難である。
また、イオンの軌跡が基材7から大きくそれ、成膜速度が遅いため、表1に示したように、比較例1〜比較例4での皮膜残留応力値は、それぞれ−2.40GPa、−2.30GPa、−2.25GPa、−2.09GPaを示し、皮膜残留応力の評価も不合格となっており、皮膜残留応力の低い皮膜が形成できない。
【0053】
これらの比較例に対して、図8に示す如く、本発明の実施例1及び実施例2では、磁力線を基材7方向に誘導することが可能となっている。
つまり、実施例1及び実施例2においては、ターゲット2の軸心に最も近い側の磁力線が、ターゲット2表面から基材7方向に200mm進んだ地点であっても、ターゲット2の軸心から20mmも離れていない(図8中の矢印E参照)ことから、基材7にはより多くの磁力線が直接伸びていることがわかる。
【0054】
さらに、実施例1と実施例2では、ターゲット2の軸心から最も離れた側の磁力線が、ターゲット2表面から基材7方向に約130mmまで進んだ地点でなくては、ターゲット2の軸心から200mm離れることはなく(図8中の矢印E’参照)、より多くの磁力線がターゲット2の基材7方向へ向かって伸びている。
加えて、実施例1、実施例2では、磁性体5の端面が各円盤背面磁石4A、4Bの端面とそれぞれ密着しているが、これにより、各円盤背面磁石4A、4Bの端面からのびる磁力線を、漏れなく繋げることができる。
【0055】
その結果、表1に示したように、本発明の実施例1及び実施例2における基材7に流れる電流値は1.5A以上で成膜速度の評価が合格となっており、比較例1〜比較例4よりも成膜速度が速く、効率的な成膜が可能となる。
また、皮膜残留応力の絶対値は、2.0GPa以下を示し、皮膜残留応力の評価が合格となっており、残留応力の低い皮膜の形成が可能となる。
【0056】
なお、円盤背面磁石4A、4B及び磁性体5の直径を40mm(つまり、ターゲット2と対向する表面(以下、単に「表面」という)の面積は400πmm2)としてもよく、このとき、ターゲット2表面の面積2500πmm2の0.16倍(100分の16)となる。
また、円盤背面磁石4A、4B及び磁性体5の直径は、80mmであってもよく、各磁石4A、4B及び磁性体5の表面の面積は1600πmm2、つまりターゲット2表面の面積2500πmm2の0.64倍(100分の64)となる。
【0057】
すなわち、各円盤背面磁石4A、4Bや磁性体5の表面の面積は、ターゲット2表面の面積の0.25倍(4分の1)以上としてもよく、この場合であっても、ターゲット2の軸心からそれることなく、より多くの磁力線が基材7へ直接伸び、効率的にターゲット2から蒸発したイオンを基材7に誘導することができる。
なお、円盤背面磁石4A、4B及び磁性体5の表面の面積は、好ましくはターゲット2表面の面積の0.64倍(100分の64)以上であり、さらに好ましくはターゲット2表面の面積(つまり、ターゲット2表面の面積の1.0倍)以上である。また、好ましい上限としては、円盤背面磁石4A、4Bの直径は、ターゲット2の直径の1.5倍、つまりターゲット2表面の面積が2.25倍(4分の9)以下となる。
【0058】
また、アーク放電は、ターゲット2表面と平行な方向の磁力線の成分(以下、「平行成分」という)に対して直角方向(つまり基材7方向)に移動する力を受けており、アークスポットの移動速度は、磁力線の平行成分の強さに比例する。
磁力線の平行成分は、ターゲット2表面に垂直な磁力線の成分(以下、「垂直成分」という)が0(0近傍の値を含む。以下同じ)となる点で強くなる。また、アーク放電は磁力線の垂直成分が0となる点で優先的におこる傾向がある。この垂直成分が0となる点はターゲット2表面に近い側の円盤背面磁石の表面までの距離で決まるが、距離が近い場合にはアーク放電が外周部で生じる傾向があり、イオンが外側で発生するが、距離を離すと磁力線の垂直成分が0となる点が中央部に寄り、イオンを効率的に基材7へと到達させることができる。
【0059】
しかしながら、距離が遠すぎる場合にはターゲット2表面上の磁力線及び基材7方向に伸びる磁力線が弱くなり、イオンを効率的に運ぶことができないことから、測定例6で最も成膜レートが早く、皮膜残留応力が小さくなったと考えられる。
なお、垂直成分が0で、且つ、平行成分のみを有する磁力線の位置を変化させるために、各円盤背面磁石4A、4B及び磁性体5をターゲット2に対して近接離反するように前後に移動させる機構を組み込むことも可能である。このように、各磁石4A、4B及び磁性体5のターゲット2表面からの距離を変化させることで、磁力線の平行成分の強さを調節できると共に、磁力線の垂直成分が0となる点をコントロールすることができる。
[第2実施形態]
図9、図10には、上述したアーク式蒸発源1を複数備えた第2実施形態の成膜装置6が示されている。
【0060】
なお、各アーク式蒸発源1の構成は、第1実施形態と略同じである。
この第2実施形態に係る成膜装置6の最も大きな特徴は、複数(4台)の蒸発源1を、真空チャンバ11内で上下に並べ、且つ隣接するアーク式蒸発源1の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的(図10(a)、(b)参照)に配置している点である。
【0061】
図9に示すように、それぞれの蒸発源1は、磁界形成手段8(外周磁石3及び背面磁石4)における基材7に近い側の極性(磁極の向き)が、隣接する蒸発源1同士で互いに逆極性(逆向き)となるように配置されている。
この逆向き配置とは、例えば、基材7方向(ターゲット2から基材7に近づく方向)に磁力線が向くように蒸発源1を配置し、この蒸発源1に隣接する蒸発源1を、磁力線が基材7方向とは逆向き(基材7からターゲット2に向かって遠ざかる方向)となるように配置することを意味する。
【0062】
このような配置によって、外周磁石3によって形成される磁力線と、背面磁石4(つまり、第1の永久磁石4A、第2の永久磁石4B及び磁性体5)によって形成される磁力線とが、隣り合うアーク式蒸発源1同士で互いに繋がることとなる。
例えば、1番上の蒸発源1Aの磁界形成手段8においてターゲット2表面側(基材7に近い側)がN極であり、上から2番目の蒸発源1Bではターゲット2表面側がS極であるため、隣接する1番上の蒸発源1Aと、2番目の蒸発源1Bとの間では、1番上の蒸発源1Aから2番目の蒸発源1Bに向かう磁力線が発生する(図9参照)。
【0063】
したがって、1番上の蒸発源1Aと2番目の蒸発源1Bとの間の磁力線は閉じた状態となっており(この領域を「閉磁場領域H」とする)、アーク式蒸発源1からの放出電子がこの閉磁場領域H内にトラップされ(閉じ込められ)、放出電子がアノード17や真空チャンバ11に安易に誘導されることを防ぐ。
なお、このような閉磁場領域Hは、蒸発源1A、1B以外の隣接する蒸発源1同士の間でそれぞれ形成されることとなる。
【0064】
また、上述したように、アーク式蒸発源1から多くの磁力線が基材7方向へ向かって伸びていることから、閉磁場領域Hは、基材7近傍まで到達することとなる。
この結果、放出電子の濃度が各閉磁場領域H内で高まり、基材7の周辺で真空チャンバ11中の反応ガスと放出電子との衝突が増加し、高効率で反応ガスのイオン化が図れる。
したがって、隣接するアーク式蒸発源1の磁力線が互いにつながるように、複数のアーク式蒸発源1を配備することによって、成膜速度が上がり、さらに効率的な成膜が可能となる。
【0065】
図10は、複数並べたアーク式蒸発源1を正面(基材7に近い側)からの投影図(図9のA−A線矢視図)であるが、蒸発源1の配列は、図10(a)のように、上下1列に直線的に配備してもよく、または、図10(b)のように、非直線的(例えば、ジグザグ)に配備してもよい。
直線的に配備した場合には、上述の閉磁場領域Hの左右幅が狭くなって、放出電子濃度がさらに上がり、閉磁場領域H内の基材7をより高い効率で成膜できる。
【0066】
また、非直線的に配備した場合には、蒸発源1が蛇行している幅分だけ、閉磁場領域Hの幅も広がることとなり、基材7が幅広であっても、閉磁場領域H内で効率よく皮膜を形成することが可能となる。
なお、本発明において、「直線的に」配備するとは、上述のように上下1列に並べるだけでなく、真空チャンバ11の内面に左右1列に並べたり、斜め1列に並べることも含む。
【0067】
また、第2実施形態における成膜装置6は、基材7が上述した閉磁場領域H内を通過するように、真空チャンバ11内に基材7を回転台12上に複数個(例えば、回転軸に対して2個対称に)設置し、回転台12により基材7を回転させて、基材7が交互に蒸発源1の前方側(ターゲット2正面側)を通るように構成されている。
基材7が閉磁場領域H内を通過するのであれば、回転台12や基材7のほうを回転させずともよく、蒸発源1が基材7の周りを回るように構成する等、成膜装置6は、閉磁場領域Hに対して基材7が順次相対的に移動する手段を有していればよい。
【0068】
なお、第2実施形態の成膜装置6は、その他の構成、又は皮膜を形成する方法は、第1実施形態と同様である。
[第3実施形態]
図11は、上述の蒸発源1を複数備えた第3実施形態の成膜装置6を示している。
第3実施形態の違いは、複数(4台)の蒸発源1を、円周状に(基材7の周りを取り囲むように)配備している点である。
【0069】
円周状に隣接する蒸発源1は、それぞれの磁界形成手段8(外周磁石3及び背面磁石4)の極性の向き(磁極の向き)が、隣接する蒸発源1同士で互いに逆向きとなるように配置されている。
この配置によって、外周磁石3及び背面磁石4によって形成される磁力線が、隣り合うアーク式蒸発源1同士で互いに繋がることとなる。
【0070】
例えば、図11の紙面右上の蒸発源1Cの磁界形成手段8においてターゲット2表面側(基材7に近い側)がN極であり、同じく図11の紙面右下の蒸発源1Dではターゲット2表面側がS極であるため、右上の蒸発源1Cから右下の蒸発源1Dに向かう磁力線が発生する。
図11に示すように、蒸発源1C、1D以外の隣接する蒸発源1同士の間でも磁力線がつながり、且つ各蒸発源1が基材7を囲んで円周状に配置されているため、それぞれの磁力線も基材7の周りを取り囲むようにつながる。
【0071】
したがって、第3実施形態の場合には、基材7を含む領域を囲んで磁力線は閉じた状態となっており、上述した閉磁場領域Hは、基材7を囲んだ広い範囲に発生することとなる。
このように、蒸発源1からの放出電子が、基材7を含む大きな閉磁場領域H内にトラップされ、基材7周辺の放出電子の濃度が高まり、成膜速度の向上と同時に、基材7の大型化や数量の増加に対応した効率的な成膜が実現する。
【0072】
なお、本発明において、「直線的に」配備するとは、第2実施形態のように上下1列に並べる配置のみならず、上述のように基材7を囲んで円周状に、且つ真空チャンバ11の内底から一定高さで配置することも含む。さらに、本発明において、「非直線的に」配備するとは、第2実施形態で述べた上下ジグザグ配置だけでなく、基材7を囲んで円周状に、且つ真空チャンバ11の内底からの高さを異なるようにして配置することも含む。
【0073】
これに加えて、第3実施形態の成膜装置6は、基材7が上述の広い閉磁場領域H内に位置するように、真空チャンバ11内に基材7を回転台12上に複数個(例えば、回転軸に対して2個対称に)設置している。
したがって、回転台12で基材7を回転させることによって、基材7が各蒸発源1の前方側を順次通過することとなり、各アーク式蒸発源1のターゲット2を、同一の、あるいは異なる物質で構成して、基材7上に、同一の、あるいは異なる組成や厚みの皮膜を順次多層に成膜することが可能となる。
【0074】
なお、第3実施形態の成膜装置6は、その他の構成、又は皮膜を形成する方法は、第1実施形態と同様である。
[第4実施形態]
図12には、上述のアーク式蒸発源1と、スパッタ式蒸発源21をそれぞれ複数備えた第4実施形態の成膜装置6が示されている。
【0075】
第4実施形態は、第3実施形態における複数の蒸発源1のうち、対向する2台を、スパッタ式蒸発源21に変えて、各蒸発源1、21を円周状に配備したものである。
ここで用いるスパッタ式蒸発源21は、真空チャンバ11中に導入した不活性ガス(アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、キセノン(Xe)等)を放電によってプラズマイオン化させ、このプラズマイオンをターゲット2にぶつけて(スパッタして)ターゲット物質を基材7側に弾き飛ばす一般的なスパッタリング方式の蒸発源である。
【0076】
このスパッタ式蒸発源21における磁界形成手段8は、ターゲット2の背面磁石4として、リング磁石4C(リング状の永久磁石)と、このリング磁石4Cの内側で、且つ同軸に配置された円柱磁石4D(円柱状の永久磁石)とを備えている。
図12に示す如く、磁界形成手段8は、リング磁石4Cの極性の向きと円柱磁石4Dの極性の向き(磁極の向き)とが、互いに逆向きとなるようにリング磁石4C及び円柱磁石4Dが配置されている。
【0077】
この配置によって、リング磁石4Cと円柱磁石4Dとの間でターゲット2表面側を囲むように磁力線がつながり、ターゲット2表面近傍で磁力線は閉じた状態となる(この領域を「プラズマ閉磁場領域H’」とする)。
したがって、スパッタ式蒸発源21からの放出電子がこのプラズマ閉磁場領域H’内に閉じこめられて、プラズマ閉磁場領域H’内での不活性ガスのプラズマの濃度が高まり、より多くのプラズマイオンがターゲット2にぶつかることから、成膜効率を向上できる。
【0078】
これに加え、各蒸発源1、21は、スパッタ式蒸発源21のリング磁石4Cの極性と、隣接するアーク式蒸発源1の磁界形成手段8(外周磁石3及び背面磁石4)の磁極の向きが、隣接する蒸発源1、21同士で互いに逆向きに配置されている。
よって、スパッタ式蒸発源21のリング磁石4Cと、アーク式蒸発源1の磁界形成手段8によって形成される磁力線が、隣り合う蒸発源1、21同士で互いに繋がることとなる。
【0079】
この結果、それぞれのアーク式蒸発源1及びスパッタ式蒸発源21間で磁力線が基材7の周りを取り囲むようにつながって、上述したプラズマ閉磁場領域H’とは独立して、また別の閉磁場領域Hが、基材7を囲んだ広い範囲に発生する。
つまり、スパッタ式蒸発源21の近傍で高いプラズマ濃度を保ったまま、閉磁場領域H内で基材7周辺の放出電子濃度を高め、大型または大量の基材7を一度に、且つ成膜速度を速く皮膜を形成することが可能となる。
【0080】
次に、第4実施形態の成膜装置6を用いた成膜の方法を説明する。
アーク式蒸発源1のみを用いて皮膜を形成する場合は、窒素(N2)、メタン(CH4)、アセチレン(C2H2)等の反応ガスを真空チャンバ11内に導入して、数Pa(1〜7Pa程度)の圧力下で成膜を実施する。
一方、スパッタ式蒸発源21のみを用いて皮膜を形成する場合は、アルゴン(Ar)等の不活性ガスを真空チャンバ11内に導入して、0.数Pa程度の圧力下で成膜を実施する。
【0081】
さらに、アーク式蒸発源1とスパッタ式蒸発源21とを同時に用いて皮膜を形成する場合には、窒素等の反応ガスと、アルゴン等の不活性ガスとを混合して用い、混合雰囲気の全圧力は2〜4Pa程度とし、アーク式蒸発源1のみによる成膜よりも低い圧力で成膜することとなる。なお、反応ガス(窒素等)の分圧は0.5〜2.65Paとする。
このように、2種類の蒸発源1、21を同時用いたとしても、閉磁場領域Hと、プラズマ閉磁場領域H’は、磁力線によってそれぞれ分けられており、プラズマの濃度、及び放出電子の濃度をそれぞれ独自に高めることができ、アーク式蒸発源1による成膜効率と、スパッタ式蒸発源21による成膜効率とを同時に向上できる。
【0082】
なお、第4実施形態の成膜装置6は、回転台12や基材7の配置など、その他の構成は、第1実施形態及び第3実施形態と同様である。
ところで、本発明は、前述した各実施形態及び実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した本発明の範囲内で適宜変更可能である。
ターゲット2は、円盤状以外の任意の形状であってもよい。
【0083】
具体的には、ターゲット2の投影面形状が、点対称な図形(正方形、六角形等)であってもよく、その際、ターゲット2に対して外周磁石3、背面磁石4及び磁性体5は同心軸状に配置されていなくてもよい。ただし、外周磁石3、背面磁石4及び磁性体5は、それらの中心軸(外周磁石3、背面磁石4及び磁性体5が回転対称体の場合はその回転軸)がターゲット2を通るように配置されていることが好ましい。
【0084】
また、ターゲット2は、投影面形状が長手方向を有した図形(楕円、長方形等)であってもよい。このとき、ターゲット2の投影面形状が、楕円の場合には直径を長径、短径と、長方形の場合には直径を長辺、短辺と読み替えればよい。
外周磁石3は、ターゲット2の外周を取り囲むものであればよく、ターゲット2の投影面形状に沿う形で且つリング状の永久磁石(例えば、ターゲット2が楕円であれば、これを取り囲むように形成された楕円形状の永久磁石)でもよい。
【0085】
例えば、外周磁石3は、ターゲット2の投影面形状に応じて、点対称な図形(正方形、六角形等)、又は長手方向を有した図形(楕円、長方形等)で且つターゲット2を囲うものであってもよい。
背面磁石4は、円盤状以外の任意の形状でもよく、投影面形状が点対称な図形(正方形、六角形等)や長手方向を有した図形(楕円、長方形等)であってもよい。
【0086】
また同様に、磁性体5も、円盤状以外の任意の形状であってもよく、投影面形状が点対称な図形(正方形、六角形等)や長手方向を有した図形(楕円、長方形等)であってもかまわない。
なお、背面磁石4及び磁性体5の投影面形状は、ターゲット2の投影面形状と相似であることが好ましい。
【0087】
また、外周磁石3、背面磁石4及び磁性体5をそれぞれ複数備えていてもよい。
成膜装置6に用いる蒸発源は、アーク式蒸発源1やスパッタ式蒸発源21に限らず、プラズマビーム式蒸発源や、抵抗加熱式蒸発源等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、薄膜を形成する成膜装置のアーク式蒸発源として利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 蒸発源(アーク式蒸発源)
2 ターゲット
3 外周磁石
4 背面磁石
4A 第1の永久磁石(円盤背面磁石)
4B 第2の永久磁石(円盤背面磁石)
5 磁性体
6 成膜装置
7 基材
8 磁界形成手段
11 真空チャンバ
12 回転台
13 ガス導入口
14 ガス排気口
15 アーク電源
16 バイアス電源
17 アノード
18 グランド
A 比較例1にてターゲットの軸心から最も近い側の磁力線を示す矢印
B 比較例2にてターゲットの軸心から最も近い側の磁力線を示す矢印
C 比較例3にてターゲットの軸心から最も近い側の磁力線を示す矢印
D 比較例4にてターゲットの軸心から最も近い側の磁力線を示す矢印
E 実施例1、実施例2にてターゲットの軸心から最も近い側の磁力線を示す矢印
A’ 比較例1にてターゲットの軸心から最も離れた側の磁力線を示す矢印
B’ 比較例2にてターゲットの軸心から最も離れた側の磁力線を示す矢印
C’ 比較例3にてターゲットの軸心から最も離れた側の磁力線を示す矢印
D’ 比較例4にてターゲットの軸心から最も離れた側の磁力線を示す矢印
E’ 実施例1、実施例2にてターゲットの軸心から最も離れた側の磁力線を示す矢印
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットの外周を取り囲んでいて磁化方向が前記ターゲット表面と直交する方向に沿うように配置された1又は複数の外周磁石と、前記ターゲットの背面側に配置された背面磁石とを備え、
前記背面磁石は、極性が前記外周磁石と同方向で且つ磁化方向が前記ターゲット表面と直交する方向に沿うように配置されている非リング状の第1の永久磁石を有すると共に、
前記第1の永久磁石と前記ターゲットとの間、もしくは、前記第1の永久磁石の背面側に、前記第1の永久磁石と間隔をあけて配置された非リング状の第2の永久磁石をさらに有し、
前記第2の永久磁石は、極性が前記外周磁石と同方向で且つ磁化方向が前記ターゲット表面と直交する方向に沿うように配置されており、前記第1の永久磁石と前記第2の永久磁石との間に磁性体が配置されていることを特徴とするアーク式蒸発源。
【請求項2】
前記磁性体の端面が、前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石の端面とにそれぞれ密着していることを特徴とする請求項1に記載のアーク式蒸発源。
【請求項3】
前記ターゲットは円盤状であり、前記外周磁石はリング状の永久磁石であることを特徴とする請求項1に記載のアーク式蒸発源。
【請求項4】
前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石をその表面と直交する方向に沿って投影した面の形状は、前記ターゲットをその表面と直交する方向に沿って投影した面の形状と相似であることを特徴とする請求項1に記載のアーク式蒸発源。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のアーク式蒸発源を用いて、皮膜を形成することを特徴とする皮膜の製造方法。
【請求項6】
前記アーク式蒸発源を、隣接するアーク式蒸発源の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的に複数配備しておき、皮膜を形成することを特徴とする請求項5に記載の皮膜の製造方法。
【請求項7】
前記アーク式蒸発源を含む複数種の蒸発源を、隣接する蒸発源の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的に複数配備しておき、皮膜を形成することを特徴とする請求項5に記載の皮膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載のアーク式蒸発源を用いることを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
前記アーク式蒸発源を、隣接するアーク式蒸発源の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的に複数配備することを特徴とする請求項8に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記アーク式蒸発源を含む複数種の蒸発源を、隣接する蒸発源の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的に複数配備することを特徴とする請求項8に記載の成膜装置。
【請求項1】
ターゲットの外周を取り囲んでいて磁化方向が前記ターゲット表面と直交する方向に沿うように配置された1又は複数の外周磁石と、前記ターゲットの背面側に配置された背面磁石とを備え、
前記背面磁石は、極性が前記外周磁石と同方向で且つ磁化方向が前記ターゲット表面と直交する方向に沿うように配置されている非リング状の第1の永久磁石を有すると共に、
前記第1の永久磁石と前記ターゲットとの間、もしくは、前記第1の永久磁石の背面側に、前記第1の永久磁石と間隔をあけて配置された非リング状の第2の永久磁石をさらに有し、
前記第2の永久磁石は、極性が前記外周磁石と同方向で且つ磁化方向が前記ターゲット表面と直交する方向に沿うように配置されており、前記第1の永久磁石と前記第2の永久磁石との間に磁性体が配置されていることを特徴とするアーク式蒸発源。
【請求項2】
前記磁性体の端面が、前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石の端面とにそれぞれ密着していることを特徴とする請求項1に記載のアーク式蒸発源。
【請求項3】
前記ターゲットは円盤状であり、前記外周磁石はリング状の永久磁石であることを特徴とする請求項1に記載のアーク式蒸発源。
【請求項4】
前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石をその表面と直交する方向に沿って投影した面の形状は、前記ターゲットをその表面と直交する方向に沿って投影した面の形状と相似であることを特徴とする請求項1に記載のアーク式蒸発源。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のアーク式蒸発源を用いて、皮膜を形成することを特徴とする皮膜の製造方法。
【請求項6】
前記アーク式蒸発源を、隣接するアーク式蒸発源の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的に複数配備しておき、皮膜を形成することを特徴とする請求項5に記載の皮膜の製造方法。
【請求項7】
前記アーク式蒸発源を含む複数種の蒸発源を、隣接する蒸発源の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的に複数配備しておき、皮膜を形成することを特徴とする請求項5に記載の皮膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載のアーク式蒸発源を用いることを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
前記アーク式蒸発源を、隣接するアーク式蒸発源の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的に複数配備することを特徴とする請求項8に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記アーク式蒸発源を含む複数種の蒸発源を、隣接する蒸発源の磁力線が互いにつながるように、直線的又は非直線的に複数配備することを特徴とする請求項8に記載の成膜装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−26026(P2012−26026A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201946(P2010−201946)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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