説明

成長ホルモンのペプチド性分泌促進物質に類似した化合物及びそれを含有する製剤

その構造によりペプチド性の成長ホルモン分泌促進物質と同様の機能を発揮することが可能な、コンピューターでの(in silico)分子モデリングにより得られたペプチド性化合物。又、本発明は、該化合物を含有する組成物、及び、ヒト又は動物が使用するための医薬品、栄養補助食品又は他の配合物の調製におけるその使用も含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の代謝活性及び細胞保護作用を調節する生物活性分子実体の合理的設計の技術分野において説明できる。より詳細には、その活性が、成長ホルモンの制御放出、心保護、心血管系の機能的応答の向上、神経保護、食欲の調節及び制御、脂肪摂取並びにエネルギー代謝を非限定的に含む、成長ホルモンのペプチド性分泌促進物質に類似した化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
合成の成長ホルモン(GH)分泌促進物質はペプチド分子及び非ペプチド分子を含むリガンド群から成り、GH放出ホルモン(GHRH)が単離される以前に、6ないし7個のアミノ酸から成る合成ペプチドが強力なGH放出ペプチド(GHRP)となることがMomanyとBowersによって最初に記載された。当該ペプチドは、生体内でのその機能又は作用機序が知られる前に記載された。突然変異試験並びにin vivo及びin vitroでの実験により、スペーサーとして作用するアミノ酸1個によって分けられるL−D及びD−Lの2種類のアミノ酸配列がGH放出活性にとって最適であると考えられること、又、GHを10から30ng/mLの濃度で放出するペプチド(His−D−Trp−Ala−D−Trp−Phe−NH2)が立体配座されることが明らかになり、このペプチドは後に、GHRP−6(His−D−Trp−Ala−Trp−D−Phe−Lys−NH2)として知られるペプチド(この場合のLys残基は、先のペプチドがin vitroで機能的ではないと判断されたため、in vivoでの活性を向上させる目的でのみ必要とされた)になった(Momany F.A.、Bowers C.Y.ら(1981)、「成長ホルモンを放出するペプチドのin vitroでの設計、合成及び生物活性(Design,synthesis and biological activity of peptides which release growth hormone,in vitro)」、Endocrinology、108、31〜39)。
【0003】
他のアナログペプチドも発見された。1993年、Bowersらは、2種類のGHRP−6アナログペプチド、すなわちGHRP−2(D−Ala−D−β−Nal−Ala−Trp−D−Phe−Lys−NH2)及びGHRP−1(Ala−His−D−β−Nal−Ala−Trp−D−Phe−Lys−NH2)を発見した。この3種類の分泌促進物質により、in vitroでのGH放出はインキュベートした視床下部−下垂体からの方が下垂体のみからの場合より増加していることが示され、当該作用においては視床下部の刺激が重要であることが実証され、又、GHRPとGHRHは、2つのうちいずれかが単独で作用するよりも相乗的に作用する方がより多くのGHを放出することが、ヒトにおいても実証された(Bowers C.Y.(1993)、「GH放出ペプチド:構造と動態(GH−releasing peptides:structure and kinetics)」、J Pediatr Endocrinol、6(1)、21〜31)。
【0004】
GHRP−2として知られるペプチドから、N末端のD−Alaを、D−PheとLysとの間に挿入される別のアミノ酸に連結される側鎖を有するアミノ酸に変更することにより、新しい環状ペプチドが作製された。そのようなペプチドのうちの1つ(D−Lys−D−β−Nal−Ala−Trp−D−Phe−Glu−Lys−NH2)は、in vitroにおける10倍にも向上した活性及びin vivoにおいてGHRP−6に匹敵する有効性をもたらした(McDowell R.S.ら(1995)、「成長ホルモン分泌促進物質:特徴付け、有効性、及び最小の生物活性立体配座(Growth hormone secretagogues:Characterization,efficacy,and minimal bioactive conformation)」、PNAS USA、92(24)、11165〜11169)。この実験はDL環状ペプチドの溶液中での構造試験で完了し、所望の活性を導くにはペプチド性化合物中にDアミノ酸を導入することが絶対に必要であるという結論に達した。他の調査は、経口での生体利用性が向上していてクリアランス時間がより長い活性分子を見出し、新しいGHRP及び他の非ペプチド性分子を発見することを目的としていた。1993年、最初の非ペプチド性GH分泌促進物質が記載され(Smith R.G.ら(1993)、「成長ホルモンの非ペプチド性分泌促進物質(A nonpeptidyl growth houmone secretagogue)」、Science、260、1640〜43)、その後、生体利用性が高く単回経口投与後24時間GH分泌を刺激することが可能な、より強力な非ペプチド性GHSであるMK−0677の合成に言及される(Patchett A.A.、Nargund R.P.ら(1995)、「L−163191(MK−0677)の設計及び生物活性:強力で経口活性のある成長ホルモン分泌促進物質(Design and biological activities of L−163,191(MK−0677):a potent,orally active growth hormone secretagogue)」、PNAS USA、92、7001〜7005;Smith R.G.、Van der Ploeg L.H.ら (1997)、「ペプチド模倣体による成長ホルモン分泌の調節(Peptidomimetic regulation of growth hormone secretion)」、Endocr.Rev、18、621〜645)。より最近では、選択的で強力なGH放出活性を有する別のペプチド模倣体であるGHSが設計され(EP1572)、これは、ヒト及び動物の組織においてグレリン及びペプチド性GHSの結合強度同様のGH分泌促進物質受容体(GHS−R)結合強度を示し、新生ラットへの皮下投与後にGHの顕著な増加を誘発した(Broglio F.、Boutignon F.ら (2002)、「EP1572:ヒトにおいて強力で選択的なGH放出活性を有する新規のペプチド模倣性GH分泌促進物質(EP1572:a novel peptido−mimetic GH secretagogue with potent and selective GH−releasing activity in man)」、J Endocrinol Invest、25、RC26〜RC28)。
【0005】
1999年、主に胃で産生され28個のアミノ酸から成るペプチドとしてグレリンが発見されたが、そのmRNAは他のいくつかの組織でも見つかっている。それは、酸分泌粘膜中の内分泌細胞の多くを占めるX/A細胞により胃の中で産生される。グレリンは視床下部の弓状核でも見つかっており、そこではグレリンのRNAはNPY及びAGRPニューロン中に存在し、食欲制御及びエネルギーバランスに関与している(Kojima M.、Hosoda H.ら(1999)、「グレリンは胃から分泌され成長ホルモンを放出するアシル化ペプチドである(Ghrelin is a growth−hormone−releasing acylated peptide from stomach)」、Nature、402、656〜60;Nakazato M.、Murakami N.ら(2001)、「摂食の中枢性調節におけるグレリンの役割(A role for ghrelin in the central regulation of feeding)」、Nature、409、194〜198)。そのRNAは、膵臓及び腸にも局在していた。それは100〜120fmol/mlの濃度で成人の血流中を循環しており、そのことから、グレリンが胃の細胞により分泌されており、内分泌経路により作用する可能性があることが示唆される。グレリンの産生は、腫瘍組織においても報告されている(Takaya K.、Ariyasu H.ら(2000)、「グレリンはヒトにおいて成長ホルモン放出を強く刺激する(Ghrelin strongly stimulates growth hormone release in humans)」、J.Clin.Endocrinol.Metab、85、4908〜11;Papotti M.ら(2001)、「ヒトの甲状腺髄様癌細胞系によるグレリンの相当量産生(Substantial production of ghrelin by a human medullary thyroid carcinoma cell line)」、J Clin Endoc.Metab、86、4984〜4990)。
【0006】
他の動物実験では、グレリンの分泌は拍動性であり、GHパルスと比較して食欲により大きく関連していることが示された(Tolle V.、Bassant M.H.ら(2002)、「ラットにおける、GHに関係のあるグレリン分泌の縮日周期性、摂食行動、及び睡眠覚醒パターン(Ultradian rhythmicity of ghrelin secretion in relation with GH,feeding behaviour,and sleep wake patterns in rats)」、Endocrinology、143、1353〜1361)。
【0007】
グレリンは、セリンのうちの1つのヒドロキシル基がオクタン酸でアシル化された状態で発見された最初の天然ホルモンである。この修飾はGHS−R1aへの結合並びにGH放出能にとって、さらにおそらくは他の内分泌作用にとっても不可欠なものとして記載されている。
【0008】
非アシル化グレリンはアシル化グレリンより多量に循環しており、直接的な内分泌作用があると記載されてはいないものの、心血管作用、心保護作用、抗増殖性作用、及び細胞保護作用全般などの他の非内分泌性の機能において、おそらくGHS−Rの他のサブタイプへの結合を介して作用するものと考えられている(Matsumoto M.、Hosoda H.ら(2001)、「グレリンの構造活性相関:グレリンペプチドの薬理学的研究(Structure−activity relationship of ghrelin:pharmacological study of ghrelin peptides)」、Biochem Biophys Res Commun、287、142〜146;Hosoda H.、Kojima M.ら(2000)、「グレリンとデスアシルグレリン:ラットの胃腸組織中における主要なグレリンペプチド2種(Ghrelin and des−acyl ghrelin:two major forms of rat ghrelin peptide in gastrointestinal tissue)」、Biochem Biophys Res Commun、279、909〜913;Cassoni P.、Papotti M.ら(2001)、「天然の(グレリン)に対する特異的受容体の同定、特徴付け及び生物活性、並びにヒトの乳癌及び細胞系における合成の成長ホルモン分泌促進物質及びアナログ(Identification,characterization,and biological activity of specific receptors for natural(ghrelin)and synthetic growth hormone secretagogues and analogs in human breast carcinomas and cell lines)」、J Clin Endocrinol Metab、86、1738〜1745)。
【0009】
GHS−R1aに対する別の内因性リガンドが存在するが、これは、Gln14を欠くグレリン遺伝子の選択的プロセシングの結果としての、又、Ser3に同様のアシル化プロセスを実験的にほどこしたグレリンとしての、胃の内分泌粘膜から単離できるデス−Gln14−グレリンである。
【0010】
3番目の残基がいくつかの脂肪族基又は芳香族基で修飾されたグレリンアナログ数種と、グレリン側鎖から誘導された短鎖ペプチド数種とを用いて実施された試験では、この活性には第3残基中の疎水基が不可欠であることが示された。又、グレリンの最初の5個の残基を含有する短い断片が、完全なペプチドに匹敵する有効性で受容体を活性化できることも観察されている。テトラペプチドは有効性が劣ることが示され、N末端を欠く断片は受容体を活性化させることができなかった。(Bednarek M.A.、Feighner S.Dら(2000)、「新しい成長ホルモン放出ペプチドのグレリンについての構造機能試験:成長ホルモン分泌促進物質受容体1aの活性化に必要なグレリンの最小配列(Structure−Function Studies on the New Growth Hormone−Releasing peptide,Ghrelin:Minimal Sequence of Ghrelin Necessary for Activation of Growth Hormone Secretagogue Receptor 1a)」、J Med Chem、43、4370〜4376;Silva Elipe M.V.、Bednarek M.A.ら(2001)、「ヒトのグレリン及びその切断型のアナログ6種の1H NMR構造解析(1H NMR structural analysis of human ghrelin and its six truncated analogs)」、Biopolymers、59、489〜501)。こうした試験からは、この活性にとっては完全なグレリン配列は必須でなく、Gly−Ser−Ser(n−オクタノイル)−Pheがこの活性におけるGHS−R1aの作用物質としての活性断片であることが示唆された。
【0011】
グレリン発見の前後、GHS−Rのリガンドとなり得る小分子及び誘導体を見出すために多大な努力が払われ、いくつかの重要な特許にそのような種類の分子が記載された(米国特許第3,239,345号、第4,036,979号、第4,411,890号、第5,492,916号、第5,494,919号、第5,559,128号、第5,663,171号、第5,721,250号、第5,721,251号、第5,723,616号、第5,726,319号、第5,767,124号、第5,798,337号、第5,830,433号、第5,919,777号、第6,034,216号、第6,548,501号、第6,559,150号、第6,576,686号、第6,686,359号、国際公開第89/07110号、第89/07111号、第92/07578号、第93/04081号、第94/11012号、第94/13696号、第94/19367号、第95/11029号、第95/13069号、第95/14666号、第95/17422号、第95/17423号、第95/34311号、第96/02530号、第96/15148号、第96/22996号、第96/22997号、第96/24580号、第96/24587号、第96/32943号、第96/33189号、第96/35713号、第96/38471号、第97/00894号、第97/06803号、第97/07117号、第97/09060号、第97/11697号、第97/15191号、第97/15573号、第97/21730号、第97/22004号、第97/22367号、第97/22620号、第97/23508号、第97/24369号、第97/34604号、第97/36873号、第97/38709号、第97/40023号、第97/40071号、第97/41878号、第97/41879号、第97/43278号、第97/44042号、第97/46252号、第98/03473号、第98/10653号、第98/18815号、第98/22124号、第98/46569号、第98/51687号、第98/58947号、第98/58948号、第98/58949号、第98/58950号、第99/08697号、第99/09991号、第99/36431号、第99/39730号、第99/45029号、第99/58501号、第99/64456号、第99/65486、第99/65488号、第00/01726号、第00/10975号、第01/47558号、第01/92292号、第01/96300号、第01/97831号)(Carpino,P.(2002)、「グレリン受容体(GHS−.R1a)の作動物質及び拮抗物質の最近の開発(Recent developments in ghrelin receptor(GHS−.R1a)agonists and antagonists)」Exp.Opin.Ther.Patents 12、1599〜1618)。このような広範な見直しの後、他の化合物がGHS−Rの拮抗物質として記載されており(米国特許出願公開第2005/288316号及び国際公開第2005/048916号)、他にもGHS−Rに結合する化合物が記載され、さまざまな目的で使用された。(国際公開第2005/046682号、国際公開第2005/039625号、特開2003/335752号、米国特許出願公開第2004/009984号、米国特許出願公開第2003/130284号、国際公開第03/004518号)より最近では、GHの放出を誘発しないGHS−Rの作動物質とすることを主目的とした新しい一連の大環状化合物が、これらの化合物群に加えられた(米国特許出願公開第2006/025566号)。
【0012】
GHS−Rは、クラスAのGタンパク質共役受容体であり、ヒトにおいては染色体の遺伝子座3q26.2にある単一遺伝子により発現する。mRNA前駆体の選択的プロセシングの結果、2種類のcDNAが同定された。(McKee K.K.、Tan C.P.ら(1997)、「成長ホルモン分泌促進物質及びニューロテンシン受容体に関わる、ヒトのGタンパク質共役受容体遺伝子2種(GPR38及びGPR39)のクローニング及び特徴付け(Cloning and characterization of two human G protein−coupled receptor genes(GPR38 and GPR39)related to the growth hormone secretagogue and neurotensin receptors)」、Genomics、46、426〜434;McKee K.K.、Palyha O.C.ら(1997)、「ラットの下垂体及び視床下部の成長ホルモン分泌促進物質受容体の分子解析(Molecular analysis of rat pituitary and hypothalamic growth hormone secretagogue receptors)」、Mol Endocrinol、11、415〜423;米国特許第6,242,199号、国際公開第97/21730号)。cDNA 1aは、366個のアミノ酸から成り7回膜貫通部分を有する受容体(GHS−R1a)をコードしている。cDNA 1bは、289個のアミノ酸と5回膜貫通部分とを有するそれより短いタンパク質(GHS−R1b)をコードしている。GHS−R1bの役割は未知であるが、それがいくつかの内分泌及び非内分泌組織中で発現することは証明されている(Howard A.D.、Feighner S.D.ら(1996)、「成長ホルモン放出において機能する下垂体及び視床下部中の受容体(A receptor in pituitary and hypothalamus that functions in growth hormone release)」、Science、273、974〜977;Gnanapavan S.、Kola B.ら(2002)、「ヒトにおけるグレリン及びその受容体GHS−RのサブタイプのmRNAの組織分布(The tissue distribution of the mRNA of ghrelin and subtypes of its receptor,GHS−R,in humans)」、J Clin Endocrinol Metab、87、2988;Smith R.G.、Leonard R.ら(2001)、「成長ホルモン分泌促進物質受容体群の構成種及びリガンド(Growth hormone secretagogue receptor family members and ligands)」、Endocrine、14、9〜14)。
【0013】
ヒトのGHS−R1aは、ラット及びブタのものとそれぞれ96%及び93%一致しており、ヒトのGHS−R1aの配列とテロステアス(telosteous)な魚のものとの間では密接な関連が示されている。そのような知見は、GHS−R1aが種間で高度に保存されており、おそらく不可欠な生物学的機能を発揮するということを示唆している。(Palyha O.C.、Feighner S.D.ら(2000)、「フグからヒトへ保存されている、ヒトの成長ホルモン(GH)分泌促進物質のオーファン受容体(GHS−R)のリガンド活性化領域(Ligand activation domain of human orphan growth hormone(GH)secretagogue receptor(GHS−R)conserved from pufferfish to humans)」、Mol Endocrinol.、14、160〜169)。
【0014】
GHS−R1aにグレリン及び合成GHSが結合すると、ホスホリパーゼCのシグナル伝達経路が活性化し、イノシトール−1,4,5三リン酸(IP3)の濃度が高まりプロテインキナーゼC(PKS)活性化が促進され、次いで細胞内貯蔵からCa2+が放出される。又、GHS−Rが活性化するとKも阻害され、チャネルはL型の電位依存性チャネルを経由したCa2+の取込みは可能にするが、T型については可能にしない。GHS−R1aとは異なり、GHS−R1bはGHSに結合又は応答せず、その機能はまだ解明されていない。(Chen C.、Wu D.ら(1996)、「成長ホルモン分泌細胞中の合成GH放出ペプチドが使用するシグナル伝達系(Signal transduction systems employed by synthetic GH−releasing peptides in somatotrophs)」、J Endocrinol.、148、381〜386;Casanueva F.F.、Dieguez C.(1999)、「神経内分泌調節及びレプチンの作用(Neuroendocrine regulation and actions of leptin)」、Front Neuroendocrinol、20、317〜363;Howard A.D.、Feighner S.D.ら(1996)、「成長ホルモン放出において機能する下垂体及び視床下部中の受容体(A receptor in pituitary and hypothalamus that functions in growth hormone release)」、Science、273、974〜977)。
【0015】
合成GHS、グレリン及びその天然アイソフォーム(デス−Gln14−グレリン)はGHS−R1aに対し高親和性で結合し、膜に結合した[35S]MK−0677又は[125I][Tyr]グレリンの置換効率は、GH放出を刺激するのに必要な濃度と相関がある(Muccioli G.、Papotti M.ら(2001)、「ヒトの視床下部及び下垂体から膜への125I標識グレリンの結合(Binding of 125I−labeled ghrelin to membranes from human hypothalamus and pituitary gland)」、J Endocrinol Invest.、24、RC7〜RC9;Hosoda H.、Kojima M.ら(2000)、「成長ホルモン分泌促進物質受容体に対する第二の内因性リガンドであるラットのデス−Gln14−グレリンの精製及び特徴付け(Purification and characterization of rat des−Gln14−ghrelin、a second endogenous ligand for the growth hormone secretagogue receptor)」、J Biol Chem、275、21995〜22000)。
【0016】
GHS−R1aの結合及び活性化のためにグレリンに必須の構造的特徴を決定する目的で、ヒトのGHS−R1aを発現しているHEK−293細胞中で短いグレリンペプチドの試験が行われ、4ないし5個のアミノ酸から成るグレリンのN末端ペプチドが、この受容体を活性化できることが観察された。in vitroでのこの結果に基づき、受容体の活性化のためにはGly−Ser−Ser(n−オクタノイル)−Pheが絶対に必要であるとの仮説が立てられる(Van der Lely A.J.、Tschop M.ら(2004)、「グレリンの生物学的、生理学的、病態生理学的、及び薬理学的側面(Biological,Physiological,Pathophysiological,and Pharmacological Aspects of Ghrelin)」、Endocrine Reviews、25(3)、426〜457)。グレリンの最初の7個のアミノ酸は、試験した全ての種間で保存されているが、トランスフェクト細胞中のGHS−R1aを活性化するグレリン誘導体の能力は、成長ホルモン分泌細胞中でのGH放出を刺激する能力を示してはいないようであり、最近では、(1−4)及び(1−8)オクタノイルのグレリンはラットにおけるGHの放出を刺激することができず、ヒトの下垂体又は視床下部の膜標本中の結合部位から[125I][Tyr]グレリンを置換するには効果的でないことが示された(Torsello A.、Ghe C.ら(2002)、「短いグレリンペプチドはin vitroでのグレリン結合の置換もin vivoでのGH放出の刺激もしない(Short ghrelin peptides neither displace ghrelin binding in vitro nor stimulate GH release in vivo)」、Endocrinology、143、1968〜1971)。ヒト又はブタのGHS−R1aを発現している同様の細胞におけるその他の試験では、アデノシンもこの受容体を活性化するが、短いグレリンアナログと同様にGH分泌を刺激することはできないことが見出され、アデノシンは、受容体中でMK−0677又はGHRP−6とは異なる部位に結合する、GHS−R1aの部分的な作動物質であることが示唆された(Smith R.G.、Griffin P.R.ら(2000)、「アデノシン:成長ホルモン分泌促進物質受容体の部分的作動物質(Adenosine:a partial agonist of the growth hormone secretagogue receptor)」、Biochem Biophys Res Commun、276、1306〜1313)。
【0017】
より最近では、GHS−R1aは、それ自体はGHS−R1aを認識することができないソマトスタチン(SS)と相同のニューロペプチドであるコルチスタチン(CST)を結合させることもできることが報告されている(Deghenghi R.、Papotti M.ら(2001)、「ヒトの下垂体の成長ホルモン分泌促進物質(GHS)受容体にはソマトスタチンでなくコルチスタチンが結合する(Cortistatin,but not somatostatin,binds to growth hormone secretagogue(GHS)receptors of human pituitary gland)」、J Endocrinol Invest、24、RC1〜RC3)。GHS−R1aは、グレリン及び合成GHSの神経内分泌及び食欲刺激活性にとって決定的に重要な領域である弓状核及び下垂体の成長ホルモン分泌細胞中で発現している。(Willesen M.G.、Kristensen P.、Romer J.(1999)、「ラットの弓状核中における成長ホルモン分泌促進物質受容体とNPYのmRNAとの共存(Co−localization of growth hormone secretagogue receptor and NPY mRNA in the arcuate nucleus of the rat)」、Neuroendocrinology、70、306〜316;Bluet−Pajot M.T.、Tolle V.ら(2001)、「成長ホルモン分泌促進物質と視床下部ネットワーク(Growth hormone secretagogues and hypothalamic networks)」、Endocrine、14、1〜8;Shintani M.、Ogawa Y.ら(2001)、「内因性成長ホルモン分泌促進物質のグレリンは、視床下部のニューロペプチドY/Y1受容体経路の活性化を通してレプチン作用に拮抗する新規の食欲促進ペプチドである(Ghrelin,an endogenous growth hormone secretagogue,is a novel orexigenic peptide that antagonizes leptin action through the activation of hypothalamic neuropeptide Y/Y1 receptor pathway)」、Diabetes、50、227〜232)。グレリン及び合成GHSは弓状核のニューロン中におけるニューロンの活性マーカー(c−fos及びEGR−1)の発現を刺激し、GHS−R1aのmRNAは、脳梁などの視床下部外の領域並びに海馬のCA2及びCA3領域、黒質緻密部、並びに腹側被蓋野、背側及び内側の縫線核、エディンガー・ウェストファル核、橋及び脊髄球で検出されており、視床下部外での作用の可能性が示唆されている。mRNAは胃、腸、膵臓、腎臓、心臓、大動脈などいくつかの末梢器官、数種のヒトの腺腫並びにヒトの肺、胃及び膵臓のいくつかの腫瘍においても発見されている。(Hewson A.K.、Dickson S.L.(2000)、「グレリンの全身投与は絶食及び摂食ラットの視床下部の弓状核においてFos及びEgr−1タンパク質を誘導する(Systemic administration of ghrelin induces Fos and Egr−1 proteins in the hypothalamic arcurate nucleus of fasted and fed rats)」、J Neuroendocrinol、12、1047〜1049;Muccioli G.、Gheら(1998)、「ヒトの脳及び下垂体における合成GH分泌促進物質に対する特異的受容体(Specific receptors for synthetic GH secretagogues in the human brain and pituitary gland)」、J Endocrinol、157、99〜106;Guan X.M.、Yu H.ら(1997)、「成長ホルモン分泌促進物質受容体をコードするmRNAの脳及び末梢組織における分布(Distribution of mRNA encoding the growth hormone secretagogue receptor in brain and peripheral tissues)」、Brain Res Mol Brain Res、48、23〜29;Mori K.、Yoshimotoら(2000)、「腎臓は新規のアシル化ペプチドであるグレリンを産生する(Kidney produces a novel acylated peptide,ghrelin)」、FEBS Lett、486、213〜216;Nagaya N.、Miyatake K.ら(2001)、「慢性心不全患者におけるグレリン注射が血行動態、腎臓、及びホルモンに及ぼす効果(Hemodynamic,renal,and hormonal effects of ghrelin infusion in patients with chronic heart failure)」、J Clin Endocrinol Metab、86、5854〜5859;Korbonits M.、Bustin S.A.ら(2001)、「正常及び異常なヒト下垂体並びに他の神経内分泌腫瘍における、成長ホルモン分泌促進物質受容体リガンドであるグレリンの発現(The expression of the growth hormone secretagogue receptor ligand ghrelin in normal and abnormal human pituitary and other neuroendocrine tumours)」、J Clin Endocrinol Metab、86、881〜887;Papotti M.、Cassoni P.ら(2001)、「グレリンを産生する胃及び腸の内分泌腫瘍(Ghrelin−producing endocrine tumors of the stomach and intestine)」、J Clin Endocrinol Metab、86、5052〜5059)。
【0018】
グレリン及びGHSはGHS−R1aに対し高い結合性を有する。しかし、GHS用にその他別の部位が存在する証拠がある。下垂体でみとめられる密度と少なくとも同等の類似の受容体密度を有するTyr−Ala−ヘキサレリン及び他のGHSに特異的な部位が、ヒト及びラットの心臓並びに肺、動脈、骨格筋、腎臓、及び肝臓など他の多くの非内分泌末梢組織において発見されている(Muccioli G.、Ghe C.ら(1998)、「ヒトの脳及び下垂体における合成GH分泌促進物質に対する特異的受容体(Specific receptors for synthetic GH secretagogues in the human brain and pituitary gland)」、J Endocrinol、157、99〜106;Muccioli G.、Broglio F.ら(2000)、「成長ホルモン放出ペプチドと心血管系(Growth hormone−releasing peptides and the cardiovascular system)」、Ann Endocrinol(Paris)、61、27〜31;Bodart V.、Bouchard J.F.ら(1999)、「心臓における新しい成長ホルモン放出ペプチド受容体の同定及び特徴付け(Identification and characterization of a new growth hormone−releasing peptide receptor in the heart)」、Circ Res、85、796〜802;Katugampola S.、Davenport A.(2003)、「心血管系におけるオーファンGタンパク質共役受容体の新たな役割(Emerging roles for orphan G protein−coupled receptors in the cardiovascular system)」、Trends Pharmacol Sci、24、30〜35;Ghigo E.、Arvat E.ら(2001)、「ヒトにおける成長ホルモン分泌促進物質の生物活性(Biologic activities of growth hormone secretagogues in humans)」、Endocrine、14、87〜93;Papotti M.、Ghe C.、Cassoni P.ら(2000)、「ヒトの末梢組織における成長ホルモン分泌促進物質の結合部位(Growth hormone secretagogue binding sites in peripheral human tissues)」、J Clin Endocrinol Metab、85、3803〜3807)。このような結合部位はグレリンに対して低い結合性を示したが、おそらくグレリンの受容体ではなくペプチド性グレリンアナログの受容体なのだと思われる。
【0019】
心臓のGHS−RはGHS−R1aに比べ分子量が大きく(84kDa)、配列相同性はなく、心臓内の受容体の予想されるアミノ酸配列は、CD36と類似している(Papotti M.、Ghe C.ら(2000)、「ヒトの末梢組織における成長ホルモン分泌促進物質の結合部位(Growth hormone secretagogue binding sites in peripheral human tissues)」、J Clin Endocrinol Metab、85、3803〜3807;Bodart V.、Febbraio M.ら(2002)、「CD36は心臓における成長ホルモン放出ペプチドの心血管作用を媒介する(CD36 mediates the cardiovascular action of growth hormone−releasing peptides in the heart)」、Circ Res、90、844〜849)。末梢組織のGHS受容体の機能的意味及び心血管系における知見は、このような結合部位がペプチド性GHSの心保護的な活性を調節していることを示唆している。
【0020】
グレリン及び他の合成分泌促進物質は、in vitroでの成長ホルモン分泌細胞によるGHの放出を、おそらく膜の脱分極により、又、細胞ごとに分泌されるGHの増加により刺激するが、GHSのGH合成促進効果も報告されている。(Kojima M.、Hosoda H.ら(1999)、「グレリンは胃から分泌され成長ホルモンを放出するアシル化ペプチドである(Ghrelin is a growth−hormone−releasing acylated peptide from stomach)」、Nature、402、656〜660;Sartor O.、Bowers C.Y.、Chang D.(1985)、「ラットの下垂体細胞の初代単層培養におけるHis−DTrp−Ala−Trp−DPhe−Lys−NH2及びヒト膵臓の成長ホルモン放出因子44−NH2の平行研究(Parallel studies of His−DTrp−Ala−Trp−DPhe−Lys−NH2 and human pancreatic growth hormone releasing factor−44−NH2 in rat primary pituitary cell monolayer culture)」、Endocrinology、116、952〜957;Bowers C.Y.、Sartor A.O.ら(1991)、「成長ホルモン放出ヘキサペプチドであるGHRPの作用について(On the actions of the growth hormone−releasing hexapeptide,GHRP)」、Endocrinology、128、2027〜2035;Wu D.、Chen C.ら(1994)、「ヒツジの初代培養下垂体細胞からのGH分泌に及ぼすGH放出ペプチド−2(GHRP−2又はKP102)の影響は、特異的なGH放出因子(GRF)受容体拮抗物質により消失させることができる(The effect of GH−releasing peptide−2(GHRP−2 or KP102)on GH secretion from primary cultured ovine pituitary cells can be abolished by a specific GH−releasing factor(GRF)receptor antagonist)」、J Endocrinol、140、R9〜R13)。
【0021】
初期の研究では、GHRHとは異なる受容体及び経路を用いてGH分泌を刺激するGHSが示された。GHRH受容体の拮抗物質はGH分泌を誘導するGHRHを阻害するが、分泌促進物質により刺激されるGHRHの放出は阻害せず、GHRH結合部位についての受容体結合アッセイでは、仮定のGHS−R拮抗物質はGHRHに応答してGH放出に影響を与えることはなく、GHRP−6はGHRHと競合せず、GHSとGHRHを併用投与した場合はGH放出に及ぼす相加効果が見られ、GH放出の点ではGHRHとGHSとの間に交差脱感作は見られない。(Wu D.、Chen C.ら(1994)、「ヒツジの初代培養下垂体細胞からのGH分泌に及ぼすGH放出ペプチド−2(GHRP−2又はKP102)の影響は、特異的なGH放出因子(GRF)受容体拮抗物質により消失させることができる(The effect of GH−releasing peptide−2(GHRP−2 or KP102)on GH secretion from primary cultured ovine pituitary cells can be abolished by a specific GH−releasing factor(GRF)receptor antagonist)」、J Endocrinol、140、R9〜13;Thorner M.O.、Hartman M.L.ら(1994)、「成長ホルモン放出ニューロペプチドを用いた療法の現状(Current status of therapy with growth hormone−releasing neuropeptides)」、Savage MO、Bourguignon J、Grossman AB(編)、Frontiers in Paediatric Neuroendocrinology、161〜167)。
【0022】
GHSのGH放出活性は、単離した下垂体におけるより下垂体−視床下部標本における方が大きく、このことはin vivoでのGH刺激効果の方が大きいという証拠と一致する。(Mazza E.、Ghigo E.ら(1989)、「コリン作動性活性の増強がGH放出ホルモンに対する個体のGH応答の変動に及ぼす影響(Effect of the potentiation of cholinergic activity on the variability in individual GH response to GH−releasing hormone)」、J Endocrinol Invest、12、795〜798;Bowers C.Y.、Sartor A.O.ら(1991)、「成長ホルモン放出ヘキサペプチドであるGHRPの作用について(On the actions of the growth hormone−releasing hexapeptide,GHRP)」、Endocrinology、128、2027〜2035;Clark R.G.、Carlsson M.S.ら(1989)、「覚醒ラット及び麻酔下ラットにおける成長ホルモン放出ペプチド及び成長ホルモン放出因子の効果(The effects of a growth hormone−releasing peptide and growth hormone releasing factor in conscious and anaesthetized rats)」、J Neuroendocrinol、1、249〜255)。
【0023】
視床下部レベルではグレリン及びGHSはGHRH分泌ニューロンに対して作用し、GHS投与後のヒツジではGHRH濃度の増加が下垂体門脈循環において観察されている。(Conley L.K.、Teik J.A.ら(1995)、「ヘキサレリン及びGHRP−6の作用機序:ラットにおけるGHRH及びソマトスタチンの関与の分析(Mechanism of action of hexarelin and GHRP−6:analysis of the involvement of GHRH and somatostatin in the rat)」、Neuroendocrinology、61、44〜50;Guillaume V.、Magnan E.ら(1994)、「ヒツジにおいて成長ホルモン(GH)放出ホルモンの分泌は新しいGH放出ヘキサペプチドにより刺激される(Growth hormone(GH)−releasing hormone secretion is stimulated by a new GH−releasing hexapeptide in sheep)」、Endocrinology、135、1073〜1076)。
【0024】
GHSは、そのGH放出効果を十分に発現するためにはGHRHを必要とし、ヒトの場合、GH応答はGHRH受容体拮抗物質により、又、下垂体−視床下部の分離により阻害される。(Bluet−Pajot M.T.、Tolle V.ら(2001)、「成長ホルモン分泌促進物質と視床下部ネットワーク(Growth hormone secretagogues and hypothalamic networks)」、Endocrine、14、1〜8;148、371〜380;Popovic V.、Miljic D.ら(2003)、「成長ホルモン放出の調節に及ぼすグレリンの主作用は視床下部レベルで発揮される(Ghrelin main action on the regulation of growth hormone release is exerted at hypothalamic level)」、J Clin Endocrinol Metab、88、3450〜3453)。GHRH受容体欠損患者は、GHS刺激に対する応答としてのGH分泌の増加を示さないが、GHS刺激後にコルチゾール、ACTH及びPRLが増加する能力は維持している(Maheshwari H.G.、Pezzoli S.S.ら(2002)、「拍動性の成長ホルモン分泌は遺伝的な成長ホルモン放出ホルモン抵抗性を持続させる(Pulsatile growth hormone secretion persists in genetic growth hormone−releasing hormone resistance)」、Am J Physiol Endocrinol Metab、282、E943〜E951;Maheshwari H.G.、Rahim A.ら(1999)、「成長ホルモン(GH)放出ホルモン受容体欠損患者における、GH放出ペプチドであるヘキサレリンに対するGH応答の選択的欠如(Selective lack of growth hormone(GH)response to the GH−releasing peptide hexarelin in patients with GH−releasing hormone receptor deficiency)」、J Clin Endocrinol Metab、84、956〜959;Gondo R.G.、Aguiar−Oliveira M.H.、Hayashida C.Y.ら(2001)、「成長ホルモン放出ペプチド2は、変異したGH放出ホルモン受容体を有するGH欠損患者においてGH分泌を刺激する(Growth hormone−releasing peptide−2 stimulates GH secretion in GH−deficient patients with mutated GH−releasing hormone receptor)」、J Clin Endocrinol Metab、86、3279〜3283)。動物及びヒトにおいて、GHS及びGHRHは異種でなく相同的な脱感作を誘導したという証拠があり、GHSを注射している間はGHS活性の相同的脱感作が示されたが、ペプチドを15日超にわたり連日、間欠的に経口又は経鼻投与した場合にはそのようにはならなかった。(Ghigo E.、Arvat E.ら(1994)、「新しい合成ヘキサペプチドであるヘキサレリンの、ヒトにおける静脈内、皮下、鼻腔内、及び経口投与後の成長ホルモン放出活性(Growth hormone−releasing activity of hexarelin,a new synthetic hexapeptide,after intravenous,subcutaneous,intranasal,and oral administration in man)」、J Clin Endocrinol Metab、78、693〜698;Ghigo E.、Arvat E.ら(1996)、「合成ヘキサペプチドであるヘキサレリンの短期鼻腔内又は経口投与は、ヒトの加齢における成長ホルモン応答性を脱感作しない(Short−term administration of intranasal or oral hexarelin,a synthetic hexapeptide,does not desensitize the growth hormone responsiveness in human aging)」、Eur J Endocrinol、135、407〜412)。その一方で、GHSを非経口、鼻腔内又は経口投与すると、自然に発生するGHパルスが増え、健常な若年成人におけるIGF−1濃度は、小児及び高齢の被験者の場合と同様上昇する。(Chapman I.M.、Bach M.A.ら(1996)、「GH分泌促進物質(MK−677)の連日経口投与による、健常な高齢被験者における成長ホルモン(GH)インスリン様成長因子I軸の刺激(Stimulation of the growth hormone(GH)−insulin−like growth factor I axis by daily oral administration of a GH secretagogue(MK−677)in healthy elderly subjects)」、J Clin Endocrinol Metab、81、4249〜4257;Copinschi G.、Van Onderbergen A.ら(1996)、「経口で有効な新規の成長ホルモン(GH)分泌促進物質であるMK−0677を用いた7日間の処置が、健常な若年男性における24時間GHプロファイル、インスリン様成長因子I、及び副腎皮質性機能に及ぼす効果(Effects of a 7−day treatment with a novel,orally active,growth hormone(GH)secretagogue,MK−0677,on 24−hour GH profiles,insulin−like growth factor I,and adrenocortical function in normal young men)」、J Clin Endocrinol Metab、81、2776〜2782;Laron Z.、Frenkel J.ら(1995)、「GHRPヘキサレリンの鼻腔内投与は低身長の小児において成長を加速させる(Intranasal administration of the GHRP hexarelin accelerates growth in short children)」、Clin Endocrinol(Oxf)、43、631〜635)。
【0025】
グレリンはラットにおいて食欲を刺激することが可能であり、この特質にはNPY及びAGRPの合成が介在している可能性があると思われる。又、脳室内のグレリンはレプチンの食欲抑制効果を無効にすることも可能であり、食欲及びエネルギー恒常性の制御に関するこの2つのペプチド間には競合的相互作用があると仮定されている。ラットにおけるグレリンの循環濃度は、絶食時に上昇し、摂食後又はグルコース摂取後は低下する(Shintani M.、Ogawa Y.ら(2001)、「内因性成長ホルモン分泌促進物質のグレリンは、視床下部のニューロペプチドY/Y1受容体経路の活性化によるレプチン作用に拮抗する新規の食欲促進ペプチドである(Ghrelin,an endogenous growth hormone secretagogue,is a novel orexigenic peptide that antagonizes leptin action through the activation of hypothalamic neuropeptide Y/Y1 receptor pathway)」、Diabetes、50、227〜32;Nakazato M.、Murakami N.ら(2001)、「摂食の中枢性調節におけるグレリンの役割(A role for ghrelin in the central regulation of feeding)」、Nature、409(6817)、194〜198;Tschop M.、Smiley D.L.、Heiman M.L.(2000)、「グレリンは齧歯動物において肥満症を誘発する(Ghrelin induces adiposity in rodents)」、Nature、407、908〜13)。
【0026】
GHSは又、食欲及び体重増加も刺激する。GHRP−2を用いた長期処置では、NPY欠損マウスにおいて脂肪組織の蓄積が促進され、対照群におけるAGRPのmRNAの視床下部での発現が増加する(Torsello,A.、Luoni,M.ら(1998)、「新規のヘキサレリンアナログは、成長ホルモン放出が関与しない機序によりラットにおいて摂食を刺激する(Novel hexarelin analogs stimulate feeding in the rat through a mechanism not involving growth hormone release)」、Eur.J.Pharmacol、360、123〜129;Ghigo,E.、Arvat,E.ら(1999)、「ヒトにおける成長ホルモン分泌促進物質の内分泌及び非内分泌活性(Endocrine and non−endocrine activities of growth hormone secretagogues in humans)」、Horm.Res、51、9〜15;Tschop,M.、Statnickら(2002)、「GH放出ペプチド−2はNPY欠損マウスにおいて体脂肪量を増加させる:視床下部のアグーチ関連タンパク質の重大な媒介的役割についての指摘(GH−releasing peptide−2 increases fat mass in mice lacking NPY:indication for a crucial mediating role of hypothalamic agouti−related protein)」、Endocrinology、143、558〜568)。
【0027】
ラットにグレリンを投与すると、脂肪組織の有意な増加により食欲及び体重の増加がもたらされるが、赤身の量、骨組織又は成長刺激において変化は観察されない。グレリンの脂質生成効果はGH作用には依存しておらず、この効果は遺伝的にGHが欠損しているラットにおいて確認することができる。GHはエネルギー消費の増加をまねき、脂肪排出をもたらし、グレリンとのバランスを可能にし、グレリンは脂肪組織を増やしGHは赤身組織を減少させない。(Nakazato M.、Murakami N.ら(2001)、「摂食の中枢性調節におけるグレリンの役割(A role for ghrelin in the central regulation of feeding)」、Nature、409(6817)、194〜198;Wren A.M.、Small C.J.ら(2000)、「新規の視床下部ペプチドであるグレリンは食物摂取及び成長ホルモン分泌を刺激する(The novel hypothalamic peptide ghrelin stimulates food intake and growth hormone secretion)」、Endocrinology、141(11)、4325〜4328;Tschop M.、Smiley D.L.、Heiman M.L.(2000)、「グレリンは齧歯動物において肥満症を誘発する(Ghrelin induces adiposity in rodents)」、Nature、407、980〜913)。
【0028】
肥満個体においては、グレリン濃度が枯渇しており摂食後減少しないが、体重が減少するとグレリンの平均血漿濃度が増加することから、これは可逆的な状態である。グレリンの血漿濃度は、体重指数、体脂肪重量、体脂肪蓄積量並びにインスリン、グルコース及びレプチンの血漿濃度と負の相関がある(English P.J.、Ghatei M.A.ら(2002)、「肥満のヒトにおいて食物はグレリン濃度を抑制できない(Food fails to suppress ghrelin levels in obese humans)」、J Clin Endocrinol Metab、87(6)、2984;Tschop M.、Weyer C.ら(2001)、「グレリンの循環濃度は肥満のヒトにおいて減少している(Circulating ghrelin levels are decreased in human obesity)」、Diabetes、50(4)、707〜9)。
【0029】
肥満患者において、長期間の食事制限及び顕著な体重減少の後で可逆的なGH不足になるケースが報告されている。低いグレリン濃度と関連した遊離脂肪酸の慢性的増加及び高インスリン状態は、肥満症におけるGH不足の原因となる重要な役割を有している可能性がある。(Maccario M.、Tassone F.、Grottoli S.、Rossetto R.、Gauna C.、Ghigo E.(2002)、「肥満症に対するGH/IGF−I軸の適用を決定する神経内分泌的及び代謝的因子(Neuroendocrine and metabolic determinants of the adaptation of GH/IGF−I axis to obesity)」、Ann Endocrinol(Paris)、63(2 パート1)、140〜144)。
【0030】
グレリンは脂肪を生成し食欲を促進することが確認されているので、これを肥満治療のための阻害対象とすることを検討し得るが、このような拮抗作用は結果としてGH分泌を低下させ体脂肪量増加を伴う。(Jorgensen J.O.、Vahl N.(1996)、「成長ホルモン及びアンドロゲンが成人の体組成に及ぼす影響(Influence of growth hormone and androgens on body composition in adults)」、Horm Res、45、94〜98)。グレリンの作動物質又は拮抗物質を長期投与すれば、その2つの効果のいずれがエネルギーバランスへの影響を支配し決定するかが明らかになろう。
【0031】
肥満者においては、グレリンの循環濃度は低下しており体脂肪組織並びにインスリン及びレプチンの循環濃度と負に相関する(Tschop M.、Weyer C.ら(2001)、「グレリンの循環濃度は肥満のヒトにおいて減少している(Circulating ghrelin levels are decreased in human obesity)」、Diabetes、50、707〜9)。
【0032】
GH/IGF−I軸は、心臓の発達期間中、又、心臓の構造及び機能の維持にとって非常に重要な役割を担っている。心血管の機能低下はGH療法によって元に戻る可能性があるGH欠損症の症状の1つである。(Sacca L、Cittadini A、Fazio S(1994)、「成長ホルモンと心臓(Growth hormone and the heart)」、Endocr Rev 15、555〜573;Caidahl K,Eden S,Bengtsson BÅ 1994 「心血管及び腎臓に対する成長ホルモンの効果(Cardiovascular and renal effects of growth hormone)」、Clin Endocrinol(Oxf)40、393〜400)。
【0033】
GHによる心筋の機能改善を示す実験データがあり、その中で多くの試験がラットの心筋梗塞(MI)モデルを用いているが、MI後にGH処置した結果、収縮期の駆出量、心拍出量及び他の収縮期の値の増加、加えてGH/IGF−Iによる顕著な血管拡張及び総末梢抵抗の低下がもたらされており、おそらくそれは心筋収縮能の向上に寄与していると考えられる。(Timsit J、 Riou Bら、1990、「慢性的な成長ホルモン過分泌がラットの左心室の内因性収縮能、エネルギー代謝、イソミオシンパターン及びミオシンアデノシン三リン酸活性に及ぼす影響(Effects of chronic growth hormone hypersecretion on intrinsic contractility,energetics,isomyosin pattern and myosin adenosine triphosphate activity of rat left ventricle)」、J Clin Invest 86、507〜515;Tajima Mら(1999)、「成長ホルモンを用いた処置は、梗塞後心不全のラットの筋細胞における収縮予備能及び細胞内カルシウム貯留量を高める(Treatment with growth hormone enhances contractile reserve and intracellular calcium transients in myocytes from rats with post infarction heart failure)」、Circulation 99、127〜134)。
【0034】
一方、GH過剰の動物モデルでは、アデノシントリホスファターゼ活性の低いミオシンアイソフォームへの移行が示されており、GHは収縮過程に必要なエネルギーを低く抑えると考えられる。(Timsit J、Riou Bら(1990)、「慢性的な成長ホルモン過分泌がラットの左心室の内因性収縮能、エネルギー代謝、イソミオシンパターン及びミオシンアデノシン三リン酸活性に及ぼす影響(Effects of chronic growth hormone hypersecretion on intrinsic contractility,energetics,isomyosin pattern and myosin adenosine triphosphate activity of rat left ventricle)」、J Clin Invest 86、507〜515)。
【0035】
GH及び/又はIGF−Iの心臓及び末梢への効果についての研究がいくつかあり、その中の良好な臨床データは心血管療法におけるGH/IGF−Iの将来的な役割を示唆している。(Fazio S.、Sabatini D.ら(1996)、「拡張型心筋症の治療における成長ホルモンの予備的研究(A preliminary study of growth hormone in the treatment of dilated cardiomyopathy)」、N Engl J Med、334、809〜814)。
【0036】
いくつかの心機能値を向上させているいくつかのin vivo試験において数種の合成GHS及びグレリンが心保護特性を有しており、GHの心保護特性に匹敵する効果を有している。ヘキサレリンの血行動態プロファイルのGHのプロファイルとの類似性は、GHSの作用はGHが媒介していることを示唆している可能性があるが、最近の研究は心臓に対する直接的な作用を支持している。(Locatelli V.、Rossoni G.、(1999)、「ラットにおけるヘキサレリンの成長ホルモン非依存性心保護効果(Growth Hormone independent cardioprotective effects of hexarelin in the rat)」、Endocrinology、140、4024〜4031;Tivesten Å.、Bollano E.、(2000)、「成長ホルモン分泌促進物質のヘキサレリンは実験的心筋梗塞後のラットの心機能を改善する(The growth hormone secretagogue hexarelin improves cardiac function in rats after experimental myocardial infarction)」、Endocrinology、141、60〜66)。
【0037】
GHS−R1aのmRNAは大動脈及び心臓で発見されており、又、それはヘキサレリンでプレインキュベーションした後の心筋細胞培養物中で増加もしている(Gnanapavan S.、Kola B.ら(2002)、「グレリン及びその受容体GHS−RのサブタイプのmRNAの、ヒトにおける組織分布(The tissue distribution of the mRNA of ghrelin and subtypes of its receptor,GHS−R,in humans)」、J Clin Endocrinol Metab、87、2988〜2991;Nagoya N.、Kojima M.ら(2001)、「健常志願者におけるヒトのグレリンの血行動態効果及びホルモン効果(Hemodynamic and hormonal effects of human ghrelin in healthy volunteers)」、Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol、280、R1483〜R1487;Pang J.−J.、Xu R.−K.ら(2004)、「in vitroにおいてヘキサレリンはアンジオテンシンII誘導性のアポトーシスからラットの心筋細胞を保護する(Hexarelin protects rat cardiomyocytes from angiotensin II−induced apoptosis in vitro)」、Am J Physiol Heart Circ Physiol、286(3)、H1063〜1069)。
【0038】
受容体の密度がアテローム性動脈硬化症により上昇しているラットの心臓及びヒトの動脈において、特異的なグレリン結合部位が同定されており、又、ラットの心筋細胞及びヒトの心血管組織のいくつか(心室、心耳、大動脈、冠動脈、頚動脈、心内膜及び大静脈)に下垂体への結合と比べ大規模で特異的に結合する放射性標識したペプチド性GHSが発見された(Katugampola S.D.(2001)「ヒト及びラットの組織におけるGHSのオーファン受容体の局在を特定するための新規の放射性リガンド[125I−His(9)]−グレリン:アテローム性動脈硬化症での受容体の発現増加([125I−His(9)]−ghrelin,a novel radioligand for localising GHS orphan receptors in human and rat tissue:up−regulation of receptors with atherosclerosis)」、Br J Pharmacol、134、143〜149;Ong H.、McNicoll N.ら(1998)、「光親和性標識法による下垂体の成長ホルモン放出ペプチド(GHRP)受容体サブタイプの同定(Identification of a pituitary growth hormone−releasing peptide(GHRP)receptor subtype by photo affinity labeling)」、Endocrinology、139、432〜435;Bodart V.、McNicoll N.ら(1999)、「心臓における新規GHRP受容体の同定及び特徴付け(Identification and characterization of a new GHRP receptor in the heart)」、Circ Res、85、796〜808;Papotti M.、Ghe C.ら(2000)、「ヒトの末梢組織における成長ホルモン分泌促進物質の結合部位(Growth hormone secretagogue binding site in periferical human tissues)」、J Clin Endocrinol Metab、85、3803〜3807)。
【0039】
GHRHでの免疫化によりGH欠乏症を誘導した若齢のラットを用いたラットの心臓標本において、薬理学的に高用量のペプチド性GHSの投与により、明らかではあるが一時的な血管狭窄が引き起こされるものの、ヘキサレリンは虚血及び再灌流により誘導される心筋損傷を防ぐことができ、このような保護活性はプロスタサイクリン放出及びアンジオテンシンIIの昇圧活性の回復を伴うことも確認されている。(Bodart V.、Febbario M.ら(2000)、「CD36は心臓において成長ホルモン放出ペプチドの心血管作用を媒介する(CD36 mediates the cardiovascular action of growth hormone−releasing peptides in the heart)」、Circ Res、90、844〜849;de Gennaro Colonna V.、Rossoni G.ら(1997)、「成長ホルモン放出ペプチドのヘキサレリンは遊離成長ホルモン欠損ラットにおいて心血管損傷に対する保護剤活性を示す(Hexarelin,a growth hormone−releasing peptide,discloses protectant activity against cardiovascular damage in rats with isolated growth hormone deficiency)」、Cardiologia、42、1165〜1172;de Gennaro Colonna V.ら(1997)、「成長ホルモン欠損ラットの心臓における心虚血及び血管内皮機能障害:ヘキサレリンによる保護(Cardiac ischemia and impairment of vascular endothelium function in hearts from growth hormone−deficient rats:protection by hexarelin)」、Eur J Pharmacol、334、201〜207)。
【0040】
同様の結果が老齢のラットにおいて得られており、このケースでは、ヘキサレリンでの処置が虚血後の心室機能障害に対する強力な保護をもたらした。再灌流すると心機能の完全な回復が観察され、同時にクレアチンキナーゼ濃度が低下していることから、心膜は完全な状態であり酸素供給再開後も収縮力が弱い状態が維持されていることが実証された。ヘキサレリンの保護作用は、6−ケト−PGF1aの産生及びアンジオテンシンIIに対する冠血管の反応性の回復によっても示された(Rossoni G.、de Gennaro Colonna V.ら(1998)、「老齢のラットの心臓における虚血後の心室機能障害に対するヘキサレリン又は成長ホルモンの保護剤活性(Protectant activity of hexarelin or growth hormone against post ischemic ventricular dysfunction in hearts from aged rats)」、J Cardiovasc Pharmacol、32、260〜265;Rossoni G.、de Gennaro Colonna V.ら(1998)、「老齢のラットの心臓における虚血後の心室機能障害に対するヘキサレリン又は成長ホルモンの保護剤活性(Protectant activity of hexarelin or growth hormone against post ischemic ventricular dysfunction in hearts from aged rats)」、J Cardiovasc Pharmacol、32、260〜265;Locatelli V.、Rossoni G.ら(1999)、「ラットにおけるヘキサレリンの成長ホルモン非依存性心保護効果(Growth hormone−independent cardioprotective effects of hexarelin in the rat)」、Endocrinology、140、4024〜4031)。下垂体切除ラットの試験では、GHに依存しておらず特異的な心筋受容体が媒介するGHSの心保護効果が示された。(Locatelli V.、Rossoni G.ら(1999)、「ラットにおけるヘキサレリンの成長ホルモン非依存性心保護効果(Growth hormone−independent cardioprotective effects of hexarelin in the rat)」、Endocrinology、140、4024〜4031;Bodart V.、McNicoll N.ら(1999)、「心臓における新しいGHRP受容体の同定及び特徴付け(Identification and characterization of a new GHRP receptor in the heart)」、Circ Res、85、796〜808)。
【0041】
ヘキサレリンは、心筋梗塞誘導後の4週齢のラットモデルにおいて、収縮期の駆出量及び心拍出量を増加させ、総末梢抵抗を低下させる。合成GHSの変力活性の機序は明らかではないが、内皮細胞に対する作用又は神経終末における作用により乳頭筋の収縮力が増加する証拠がある(Tivesten A.、Bollanoら(2000)、「成長ホルモン分泌促進物質のヘキサレリンは実験的心筋梗塞後のラットの心機能を改善する(The growth hormone secretagogue Hexarelin improve cardiac function in rats after experimental myocardial infarction)」、Endocrinology、141、60〜66;Bedendi I.、Gallo M.P.ら(2001)、「ラットの心室においてヘキサレリンにより誘導された収縮力の調節における内皮細胞の役割(Role of endothelial cells in modulation of contractility induced by hexarelin in rat ventricle)」、Life Sci、69、2189〜2201)。
【0042】
グレリンは合成GHSの全ての心血管作用を共有してはおらず、グレリンは心臓に対する保護作用には乏しいが、このことは合成GHSの効果はGHSの特定部位の結合及び活性化によるものであることを示唆しており、[125I]Tyr−Ala−ヘキサレリンを用いた試験ではラットの心筋中及びヒトの心血管組織中においてGHSR−1aとは異なる多くの結合部位が明らかになっており、このことは、CD36に類似した配列を有し合成GHSの冠動脈作用を媒介する別の受容体の存在を示唆している(Torsello A.、Bresciani E.ら(2003)、「ラットの心機能の生理的制御においてグレリンはあまり重要な役割を果たさない(Ghrelin plays a minor role in the physiological control of cardiac function in the rat)」、Endocrinology、144、1787〜1792;Muccioli G.、Broglio F.ら(2000)、「成長ホルモン放出ペプチドと心血管系(Growth hormone−releasing peptides and the cardiovascular system)」、Ann Endocrinol(Paris)61、27〜31;Bodart V.、Febbraio Mら(2002)、「CD36は心臓において成長ホルモン放出ペプチドの心血管作用を媒介する(CD36 mediates the cardiovascular action of growth hormone−releasing peptides in the heart)」、Circ Res、90、844〜849)。グレリンは冠動脈レベルではほとんど不活性であるが他の心血管作用は明確に示されている。グレリンはin vivo及びin vitroにおいて非常に強力な血管拡張作用を有しており、このようなグレリンの作用は、ナトリウム利尿ペプチドに匹敵する作用強度で非横紋筋に向けられる。ヒトのアテローム性動脈硬化症患者においてはグレリン受容体が増加しており、このことはグレリンがそのような状態において観察される血管狭窄の増加を補う役割を果たしていることを示唆している。(Okumura H.、Nagaya N.ら(2002)、「胃から分泌する内因性ペプチドであるグレリンの血管拡張作用(Vasodilatory effect of ghrelin,an endogenous peptide from the stomach)」、J Cardiovasc Pharmacol、39、779〜783;Wiley K.E.、Davenport A.P.(2002)、「ヒトの内胸動脈における血管拡張物質の比較:グレリンはエンドセリン−1の強力な生理的拮抗物質である(Comparison of vasodilators in human internal mammary artery:ghrelin is a potent physiological antagonist of endothelin−1)」、Br.J.Pharmacol、136、1146〜1152;Katugampola S.D.(2001)、「ヒト及びラットの組織におけるGHSのオーファン受容体の局在を特定するための新規の放射性リガンド[125I−His(9)]−グレリン:アテローム性動脈硬化症での受容体の発現増加([125I−His(9)]−ghrelin,a novel radioligand for localising GHS orphan receptors in human and rat tissue:up−regulation of receptors with atherosclerosis)」、Br J Pharmacol、134、143〜149)。
【0043】
その他の試験では、ヘキサレリン、アシル化グレリン及びアシル化修飾のないグレリンはH9c2心筋細胞及び内皮細胞のドキソルビシン誘導性細胞死を防止できることが示されており、おそらくERK1/2及びPI3キナーゼ/AKTの活性化などの細胞内シグナル伝達を刺激しているものと思われる(Baldanzi G.、Filigheddu N.ら(2002)、「グレリン及びデスアシルグレリンはERK1/2及びPI3キナーゼ/AKTを介して心筋細胞及び内皮細胞における細胞死を抑制する(Ghrelin and des−acyl ghrelin inhibit cell death in cardiomyocytes and endothelial cells through ERK1/2 and PI3−kinase/AKT)」、J Cell Biol、159、1029〜1037;Filigheddu N.、Fubini A.ら(2001)、「ヘキサレリンはドキソルビシン誘導性細胞死からH9c2心筋細胞を保護する(Hexarelin protects H9c2 cardiomyocytes from doxorubicin−induced cell death)」、Endocrine、14、113〜119)。
【0044】
心筋細胞及び内皮細胞についてのin vivo試験では、GHSの抗アポトーシス作用はERK及びAKTの活性化により、又、カスパーゼ3の活性化の阻害及びBCL−2の発現を促進するBAXの発現により媒介されていることが示唆される(Pang J.J.、Xu R.K.ら(2004)、「in vitroにおいてヘキサレリンはアンジオテンシンII誘導性のアポトーシスからラットの心筋細胞を保護する(Hexarelin protects rat cardiomyocytes from angiotensin II−induced apoptosis in vitro)」、Am J Physiol Heart Circ Physiol、286、H1063〜H1069)。非アシル化グレリンはGHS−R1aを活性化しないため、このようなデータは、別のGHS−Rサブタイプが存在するという仮説を強化する。
【0045】
グレリン及びGHSは、ヒトにおける心血管活性を確かに有しており、健常志願者及び慢性心不全患者へのその投与は、体血管抵抗を低下させ、心拍出量及び収縮期の駆出量を増加させ、平均動脈圧の低下を伴うが、心拍数、内側の肺動脈にかかる圧力又は肺毛細血管圧においては何ら変化を示さない。(Nagaya N.、Kojima M.ら(2001)、「健常志願者におけるヒトのグレリンの血行動態効果及びホルモン効果(Hemodynamic and hormonal effects of human ghrelin in healthy volunteers)」、Am J Physiol Regul lntegr Comp Physiol、280、R1483〜R1487;Enomoto M.、Nagaya N.ら(2003)、「新規の成長ホルモン放出ペプチドであるグレリンの健常者における皮下投与の心血管効果及びホルモン効果(Cardiovascular and hormonal effects of subcutaneous administration of ghrelin,a novel growth hormone−releasing peptide, in healthy humans)」、Clin Sci(Lond)、105、431〜435)
【0046】
又、GH及びIGF−Iを含むいくつかの栄養因子がin vivoでの低酸素虚血(HI)の第2段階中において神経保護特性を有することも観察されており、さらに、AKTリン酸化を伴うPI3K経路の活性化は成長因子により誘導されるin vitroでのニューロンの生存率を媒介するものであり、リン酸化したAKTは細胞生存を促進し、Bad、グリコーゲン合成酵素3β(GSK3β)、カスパーゼ9など抗アポトーシスのためのいくつかの標的の不活性化又は転写因子の改変によりアポトーシスを抑制できることが示されている。(Kulik G、Klippel A.、Weber M.J.(1997)、「インスリン様成長因子I受容体、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ及びAktによる抗アポトーシスシグナル伝達(Antiapoptotic signalling by the insulin−like growth factor I receptor,phosphatidylinositol 3−kinase,and Akt)」、Mol Cell Biol、17、1595〜1606)。
【0047】
成長因子により活性化される別の経路は、MAPK p42/44 ERKである。ERKの活性化は低酸素誘導性アポトーシスを抑制することが確認されているほか、新生ラットにおける神経を保護するBDNFはMAPK/ERKの活性化により媒介されていることが示されており、又、HI後のIGF−I処置はAkt及びEKRを活性化する(Buckley S.、Driscoll B.ら(1999)、「ERK活性化は低酸素ラットAEC2におけるDNA損傷及びアポトーシスを防ぐ(ERK activation protects against DNA damage and apoptosis in hyperoxic rat AEC2)」、Am J Physiol、277、159〜166;Han B.H.、Holtzman D.M.(2000)、「BDNFはERK経路経由でin vivoでの低酸素虚血傷害から新生児脳を保護する(BDNF protects the neonatal brain from hypoxic−ischemic injury in vivo via the ERK pathway)」、J Neurosci、20、5775〜5781)。
【0048】
ヘキサレリンは、HIのin vivoモデルにおける脳損傷を軽減する。この保護はAKT及びGSK3βリン酸化と関連があり、PI3K経路の関与の可能性を示しており、皮質、海馬、視床に対するその保護作用を観察しているが線条体においては観察しておらず、保護の空間分布はGH受容体及びヘキサレリンの局在と相関している(Brywe K.G.、Leverin A.−L.ら(2005)、「成長ホルモン放出ペプチドのヘキサレリンは新生児脳傷害を軽減し、Akt/グリコーゲン合成酵素キナーゼ3βのリン酸化を変化させる(Growth Hormone Releasing Peptide Hexarelin reduces neonatal brain injury and alters Akt/Glycogen Synthase Kinase−3β phosphorylation)」、Endocrinology、146、4665〜4672;Lobie P.E.、Garcia−Aragon J.ら(1993)、「中枢神経系における成長ホルモン受容体遺伝子発現の局在及び発生(Localization and ontogeny of growth hormone receptor gene expression in the central nervous system)」、Dev Brain Res、74、225〜233;Scheepens A.、Sirimanne E.S.ら(2001)、「CNS傷害からの回復期間中におけるニューロンの救済因子としての成長ホルモン(Growth hormone as a neuronal rescue factor during recovery from CNS injury)」、Neuroscience、104、677〜687)。このような知見は、ヘキサレリンの保護作用がGH媒介性であるか、又はGH及びヘキサレリンが細胞保護のための共通の経路を共有している可能性があることを示唆しているが、その理由は、GHS−RのmRNAが脳の構成部位のいくつかにおいて発見されていることである。生理的条件下の成体ラットに対しGHRP−6を投与すると、視床下部、小脳、海馬におけるIGF−I濃度の増加が示されたが皮質においては示されず、このことはIGF−I発現の増加につながった可能性もあるが、同様の効果はHIの24時間後にヘキサレリン処置したラットにおいては確認されておらず、その一方で、IGF−Iがヘキサレリン作用の重要な媒介物質であるとすれば、IGF−I受容体はその場所に存在するのだから、脳の線条体損傷が軽減されることも期待し得る。(Frago L.M.、Paneda C.、Dickson S.L.ら(2002)、「成長ホルモン(GH)及びGH放出ペプチド−6は、脳のインスリン様成長因子Iの発現を増加させ神経保護に関与する細胞内シグナル伝達経路を活性化する(Growth hormone(GH)and GH−releasing peptide−6 increase brain insulin−like growth factor−I expression and activate intracellular signalling pathways involved in neuroprotection)」、Endocrinology、143、4113〜4122;Guan J.、Williams C.ら(1993)、「成体ラットにおける低酸素虚血脳傷害後のIGF−1処置の効果(The effects of IGF−1 treatment after hypoxic−ischemic brain injury in adult rats)」、J Cereb Blood Flow Metab、13、609〜616)。ヘキサレリンは、HI後の中枢神経系(CNS)におけるPI3K経路も活性化するがERKのリン酸化には影響せず、対照的にIGF−Iは、ERK及びPI3K経路の両方を活性化する。
【0049】
ヘキサレリンは、IGF−Iがそれほど誘導されていない場合にはIGF−I受容体のリン酸化を促進するが、このリン酸化の促進は、ヘキサレリン又は内因性リガンドによる受容体のトランス活性化が原因である可能性がある。すでに、アンジオテンシン−II、トロンビン及びエンドセリンなどのGPCR作動物質がIGF−I及び/又はAKTを刺激し得ることが報告されている(Sumitomo M.、Milowsky M.I.ら(2001)、「天然のエンドペプチダーゼは、インスリン様成長因子受容体−Aktの細胞生存経路のニューロペプチド媒介性トランス活性化を抑制する(Neutral endopeptidase inhibits neuropeptide−mediated transactivation of the insulin−like growth factor receptor−Akt cell survival pathway)」、Cancer Res、61、3294〜3298;Zahradka P.、Litchie B.ら(2004)、「アンジオテンシンIIによるインスリン様成長因子I受容体のトランス活性化は、アンジオテンシンIIの1型受容体からホスファチジルイノシトール3キナーゼへの下流シグナル伝達を媒介する(Transactivation of the insulin−like growth factor−I receptor by angiotensin II mediates downstream signalling from the angiotensin II type 1 receptor to phosphatidylinositol 3−kinase)」、Endocrinology、145、2978〜2987)。
【0050】
IGF−I受容体に対するシグナル伝達の増加は脳損傷の軽減に寄与している可能性があるが、ヘキサレリンの神経保護作用は主にGH/IGF−I軸の誘導により媒介されてはいるわけではないと思われる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0051】
最先端技術について記載されたこの分野における膨大な研究にもかかわらず、それでも全てのグレリン擬似化合物及び非ペプチド性のグレリンは、生体におけるグレリンに本来備わっている可能性のある全ての機能を発揮することができないことは明白であって、ペプチド性化合物の好ましい使用法があり、比較的大きな構造的類似性を有してはいても、しかしそのようなペプチド性アナログの記載は、組成物の一部として非天然のD体(立体化学構造)のアミノ酸の使用に限定されている。
【課題を解決するための手段】
【0052】
これまでに記載されてきた機能におけるこのペプチド性分泌促進物質の重要性、並びに多種多様な生体、系及び細胞における内分泌及び非内分泌機能に対するこのような化合物の能力を考慮して、本発明は、内部環を有し、不斉炭素に対してL立体化学構造を有するアミノ酸のみから成り、その化学構造によりグレリン、デスアシルグレリン及び他のペプチド性GHSに本来備わる機能と同様の機能を発揮することが可能な、ペプチド性化学分子を事実上初めて記載するものであり、先に記載の機能には、GH放出能、心保護並びに心筋及び細網内皮系の機能向上全般、脳だけでなく全ての神経系細胞を含む神経保護、並びに脂肪代謝及びエネルギー代謝の調節を含む食欲の制御及び調節が挙げられるが、これらに限定されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
本発明に記載のペプチド性化合物は、該化合物にグレリン特異的な受容体を結合させるための要件を満たさせ、同時に、他の分泌促進物質を結合させるものとして記載した受容体に上述の全ての機能を果たさせる構造を有する。
【0054】
特定の一実施形態では、本発明は、以下の構造を有する化学分子をいう。
I.[Aa・・・Aa]X[Ab・・・Ab]X[Ac・・・Ac]Ad
(式中、Aaは[Cys、Gly、Ser、His、Ala、Leu、Met又はThr]の群から選択されるLアミノ酸であって、1から4個の残基の組合せで変化し、Abは[Pro、Ile、Ala、Phe、Trp、Lys、Asp、Asn、Glu、Gln、Gly、Leu、Met、Tyr又はThr]の群から選択されるLアミノ酸であって、1から4個の残基の組合せで変化し、Acは[Arg、Leu、Pro、Val、Thr、Glu、His、Gln、Asn、Asp、Trp、Tyr、Phe、Ser、Ala、Gly又はIle]の群から選択されるLアミノ酸であって、1から5個の組合せで変化し、及びAdは数の制限のない天然又はそうでないLアミノ酸であり、X及びXは、直接連結のための任意の化学反応を用いるか、又は橋としての結合用化合物を用いることにより、共有結合的に結合して内部環を形成する側鎖を有する天然又はそうでないLアミノ酸である)。
【0055】
この構造クラスに属する化合物を以下に示す。
【化1】


下線を引いたアミノ酸には側鎖が連結するものとする。
【0056】
上述の分子は、ホモロジーモデリング、分子動力学及び網羅的なコンフォメーションサーチ法の複合手法を用いたヒトのグレリン受容体の網羅的な分子モデリングによる機能のために記載したものである。
【0057】
受容体のモデルを一度作製してから、グレリン及び他の分泌促進物質のモデリングを元に結合モデルを構築し、受容体−リガンド相互作用に基づいて配座解析を実施するために、上述の性質を有する何千種の構造から成るバーチャルライブラリーを構築してから、受容体モデルに対して大規模な結合実験を実施した。
【0058】
この解析に基づき、化学合成してからいくつかのin vivo及びin vitro系で試験した数種の構造群を代表する一連の化合物を選択し、生物学的アッセイの後、化合物を再び最適化し新しいライブラリーを作り、より特異的な構造規則性を有し生物系に対しより大きな作用を及ぼす化合物を求めて構造解析を繰り返した。
【0059】
又、本発明は、上述の化合物の任意のホモログ変異体も含む。「ホモログ変異体」として理解されるのは、本発明に記載(21ページ)の化合物にアミノ酸配列の70%以上で類似する化学的性質を有し、本明細書に記載の化合物と同様の効果を該化合物に実行させる構造を有する、非天然のアミノ酸を含めた任意の分子である。
【0060】
本発明の別の好ましい実施形態では、医薬組成物は、記載の化合物のうちの1種若しくは複数種、又は許容されるその塩、加えて本出願の適用上受入可能な添加剤又は媒体を含有する。又、水産養殖又は他の繁殖又は動物の改良行為においてin vivoで、in vitroで、身体関連機器中で、又は培地への制御放出用の機器中でヒト若しくは動物が使用する、それらの内分泌作用に直接関係した又はしていない他のGHSに類似した作用に関連する薬剤、栄養補助食品、又は他の配合物を製造するための本化合物の使用は、本発明の一部である。
【0061】
ヒトのグレリン受容体に相互作用する能力によって本明細書に記載の分子を定義したが、類似の構造又はアミノ酸配列を有してはいなくてもこの種の化合物を結合する能力を有しており、活性化、増強、抑制、競合若しくは他の基質との相乗効果により、又は記載の有無にかかわらず実験的に実証されている任意の機序により、何らかの形でそれらの生物学的作用に影響する別のタンパク質を除外することはしかねる。
【0062】
本発明に記載の化合物を定義するために、ホモロジーモデリング、分子動力学及び網羅的なコンフォメーションサーチ法の複合手法を用いてヒトのグレリン受容体の分子モデリングを実施した。受容体のモデルを一度作製してから、グレリン及び他の分泌促進物質のモデリングを元に結合モデルを構築し、受容体−リガンド相互作用に基づいて配座解析を実施するために、上述の性質を有する何千種の構造から成るバーチャルライブラリーを構築してから、受容体モデルに対して大規模な結合実験を実施した。
【0063】
この解析に基づき、化学合成してからいくつかのin vivo及びin vitro系で試験した数種の構造群を代表する一連の化合物を選択し、生物学的アッセイの後、化合物を再び最適化し新しいライブラリーを作り、構造規則性を抽出するための受容体との分子結合をさらに1ラウンド加えた構造解析を繰り返し、第2ラウンドの化学的性質を最適化することで−58と−32KJ/molの間の範囲の、より高い結合エネルギー計算値に到達し、次いで、より特異的な構造規則性を有し生物系に対しより大きな作用を及ぼす化合物を求めて再度分析した。−40KJ/molより良好な結合エネルギーを有する該化合物の代表選択物18種を合成し、高速液体クロマトグラフィーを用いて精製し、質量分析法により分析を行い、in vivo及びin vitroでの有効性について評価した。
【実施例】
【0064】
本発明を以下の実施例において説明する。
【0065】
(実施例1)
コンピューターでの(in silico)分子モデリングによる化合物の選択。
上述のようにコンピューターによる評価の第2サイクルで得られた化合物を、より良好なエネルギー値及び受容体結合についてのより特異的な規則性を得るために最適化し、−40KJ/molより良好なエネルギーを有する18種の代表化合物を表1に示すとおり選択した。
表1.成長ホルモン分泌促進物質受容体モデルとの相互作用を示す、分子結合後の相互作用エネルギー計算値。
【表1】

【0066】
(実施例2)
NGF欠乏誘導性のPC12細胞死の防止。
75cmの培養フラスコ中に、5%ウシ胎児血清及び10%ウマ血清をゲンタマイシン50μg/mlと共に含有するDMEMを入れ、その上でPC12細胞を保存した。細胞は、5%CO中で37℃でインキュベートした。分化を誘導するため、NGFを加えたDMEM培地中の、ポリリシンを入れた96個のウェルプレートに1×10の密度で細胞を7日間移し、2〜3日ごとに培地を交換した。分化後、異なる濃度で72時間、ペプチド性のGHSアナログ化合物で細胞をインキュベートした。Promega製の非放射性細胞毒性増殖アッセイ、Cell Titer96を用い、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)を分光測定で検出可能な生成物に転換することに基づいて細胞生存数及び増殖数を測定した。NGFの欠乏後、培地を取り除いてから、DMEMに溶解させた色素15μlを加え、37℃で4時間のインキュベーションの後、反応停止溶液100μlを加え、570nmで吸光度を測定する。
【0067】
この化合物は濃度依存性の神経保護作用を示しており、それぞれの化合物についてのIC50を表2に示す。
表2.NGF欠乏誘導性ニューロン死が生じている間の各化合物のIC50値。
【表2】

【0068】
(実施例3)
ニューロンの初代培養物への過酸化水素添加によるニューロン損傷誘導の防止。
小脳顆粒細胞の初代培養物を7〜9日齢のウィスターラットから得た。速やかに切離後、ラットの小脳を冷溶液中に浸して髄膜を除去し、各器官を新鮮な培地溶液2〜3mlに移動し薄くスライスした。パスツールピペットを使って細胞を分離し、40mu.Mのナイロン膜(Falcon,Franklin Lakes,N.J.)を通して濾過した。マーカーとしてトリパンブルーを用いた血球計数器での細胞計数により生存細胞数を測定した。細胞は、ポリリシンを入れた96個のウェルプレート上で、最終量200ml中6250細胞の密度で培養した。培養物は5%CO中で、37℃に維持し、24時間後に10μMのシトシンアラビノフラノース(AraC;Sigma)を加えて非ニューロン細胞の増殖を抑制した。
【0069】
異なる濃度のペプチド性GHSアナログ化合物中に500μM過酸化水素を加えて、神経損傷を防止する能力を試験した。Promega製の非放射性細胞毒性増殖アッセイ、Cell Titer96(Promega)を用いて細胞生存数を測定した。
【0070】
この化合物は濃度依存性の神経保護作用を示しており、それぞれの化合物についてのIC50を表3に示す。
表3.ニューロンの初代培養物への過酸化水素添加によりニューロン損傷が誘導されている間の各化合物のIC50値。
【表3】

【0071】
(実施例4)
魚におけるペプチド性GHSアナログ化合物の生物活性の実証。
IGF−IのmRNAを腹腔内に注入されたティラピアの肝臓中で測定し、GH濃度も経時的にモニターしたところ、ペプチド性GHSアナログ化合物は魚の血流中のGH濃度を促進させ、表4に示すように化合物の注射後のIGF−IのmRNA濃度を増加させ得ることが示された。
表4.正規化したIGF−IのmRNA濃度の、無関係な合成ペプチドの対照群に対する比。
【表4】

【0072】
(実施例5)
ペプチド性GHSアナログ化合物で処置した若齢ティラピアにおける実験。
5.1 腹腔内に(ip)ペプチド性GHSアナログ化合物を処置したティラピアにおける成長加速。
この化合物をリン酸ナトリウム(PBS)緩衝液中に溶解させ、0.1μg/g魚の湿体重(gbw)で1週間に2回、3週間注射した。化合物は、平均体重60.41±10.36gのオスのティラピア10匹の群に個別に適用し、平均体重60.58±19.67gの対照群には対照としてPBSのみ投与し、正確な同定のために全ての被験動物にマイクロチップ(Stoelting Co.Wood Dale,USA.)で標識して平均体重を毎週測定した。処置群では、表5に示すように対照群に対し最高165%の体重増加が得られた。
表5.対照群の成長を100%とした場合の処置群の体重増加比(%)。
【表5】

【0073】
同じ実験においてわれわれは、処置群における病原体の侵入の拡大を観察及び比較するために、アッセイに用いた動物における単性生殖のトリコジニクス(Trichodinics)及び蠕虫の存在について試験していた。表6は、平均で十字印(+)6個を示した非処置動物との比較を示す。
表6.処置動物におけるトリコジニクス及び蠕虫での病原体感染の強度。
【表6】

【0074】
5.2 ペプチド性GHSアナログを用いたティラピア(オレオクロミス種)の稚魚の成長の、浸漬投与による刺激。
ティラピアのオレオクロミス種の稚魚における成長刺激実験を実施し、1週間に2回1時間の浸漬時間を使い、濃度100μg/Lのペプチド性GHSアナログを使用して平均0.01gの稚魚100匹の群を評価した。3週間のコースでは、表7に示すように、PBS浸漬投与を受けている対照群に比べ平均体重が最高で155%という成長刺激結果が得られた。
表7.対照群の成長を100%とした場合の処置群の体重増加比(%)。
【表7】

【0075】
この実験期間中、リゾチーム濃度もモニターしたところ、表8に示すように、処置動物においてこの免疫マーカーの増加が得られた。
表8.対照群に対する処置動物のリゾチーム濃度の比。
【表8】

【0076】
(実施例6)
ペプチド性GHSアナログの溶液中での浸漬によるエビ、リトペネウス・バナメイ(Litopenaeus vanamei)の成長。
エビの幼生を、3日ごとに1時間、異なるペプチド性GHSアナログ0.1g/L入りの浸漬に4回供した。対照群はBSA1mg/Lを用いた浸漬に同じ頻度で供した。
【0077】
結果として、表9に示すように処置群において体重が120〜150%増えサイズが10〜25%増えて幼生の品質が向上することが観察され、エラの枝分かれ及び頭部の一時変異も多数示された。それに加え、全般に処置群においては動物の筋肉の水分含有量が少なく、RNA/DNA、タンパク質/DNAの値がより良好であることが確認され、処置群の幼生の方が代謝の活性化が高いことが示された。
表9.対照群の成長を100%とした場合の処置群の体重及びサイズの増加比(%)。
【表9】

【0078】
又、この実験を化合物A221、A228及びA233について製造条件でも実施したところ、対照群と比較して20%高い生存率で、体重で110%及びサイズで30%の促進を維持しており、体重及びサイズの変動係数が非処置群では77%及び30%であったのに対し、処置動物ではそれぞれわずか30%及び8%でありサイズ分布の均一性の向上が示された。
【0079】
(実施例7)
ペプチド性GHSアナログを用いた食餌補給によるエビの成長刺激。
ペプチド性GHSアナログを幼生期後の甲殻動物用の食餌中に1%含ませた。幼生期後のリトペネウス・バナメイに上述の食餌を与え、平行して対照群には1%BSAを添加した食餌を与えた。効果を光学マイクロメーターで測定し、0.1mgの精密スケールで動物の体重を測定した。
【0080】
添加した化合物は、表10に示すように対照群に比べ30〜40%のサイズ増加をもたらした。
表10.対照群の成長を100%とした場合の処置群のサイズの増加比(%)。
【表10】

【0081】
7.1:アルテミア・サリナ(Artemia salina)のカプセル封入。
ペプチド性GHSアナログを幼生期後のリトペネウス・バナメイに与えるためにアルテミアの中に生体封入した。生体封入のために、化合物を10mh/L加え1時間放置した後、取り出して洗浄した。動物に1日4回1か月間与え、一方、対照群にはBSAを生体封入したアルテミアを与えた。
【0082】
効果を光学マイクロメーターで測定し、0.1mgの精密スケールで動物の体重を測定した。生体封入した化合物は、表11に示すように対照群に対し30〜40%、高い有意差(p<0.001)で動物の成長を促進した。
表11.対照群の成長を100%とした場合の処置群のサイズの増加比(%)。
【表11】

【0083】
(実施例8)
ラットにおけるペプチド性GHSアナログの心保護効果。
拡張型心筋症(DCM)の生理的病因作用を再現するために、160gのメスのウィスターラットをドキソルビシン(Dx)2mg/kgで8週間処置した。このラット群には、Dx処置の8週間の間、同時に化合物A221、A228又はA233の500μg/Kgでの腹腔内投与処置も行い、別のDx処置群にもプラセボとして生理食塩溶液を投与し、実験の健常対照として別の同齢ウィスターラットの非処置群を使用した。8週間の処置後、心室の機能性を検査し心室駆出率(VEF)を評価するために、全てのラットを心エコー図で検査した。図1に見られるように、Dxと化合物A221(1a)、A228(1b)又はA233(1c)とを平行投与されているラットは、健常対照に対しVEFがわずかに変化したが(p>0.05)、これに対しプラセボ投与群は健常対照群と比較して約40%VEFが低下する(p<0.01)結果に見舞われた。VEF低下のストレス応答に対する機能的意味合いを実証するために、ラットを4℃の水中で30分間の強制水泳に供したところ、図2に示すようにDxと化合物A221(2a)、A228(2b)又はA233(2c)とで処置を受けている動物の生存率は100%であり、Dx−生理食塩溶液投与群の生存率は45%となった(p=0.0043)。
【0084】
この結果により、化合物A221、A228及びA233による保護は、VEFを維持するだけでなく、強制ストレスに対する心臓の抵抗力ももたらすことが示唆された。
【0085】
(実施例9)
ラットにおけるペプチド性GHSアナログの心保護効果及び拡張型心筋症(DCM)の回復。
何らかの容量応答効果及びDCMの回復の有無を評価するため、ウィスターラットをドキソルビシン(Dx)2mg/kgでの8週間の処置に供し、処置後、40%を超えるVEF低下を示した全てのラットを選んでn=8の群に分け、以下のように異なる用量の化合物A221、A228又はA233で処置した。
・500μg/kg、
・250μg/kg、
・100μg/kg、
・50μg/kg、
・25μg/kg、
・10μg/kg、
・生理食塩溶液。
A221の用量に基づき群を定義してある。
【0086】
図3に示すように、化合物A221(3a)、A228(3b)又はA233(3c)での処置の2週間後、50μg/kgから500μg/kgの範囲の濃度ではDCMが一部回復しているが、処置の4週間後時点では、100から500μg/kgの範囲で化合物A221、A228又はA233の投与を受けている群におけるDCMの回復は止まり、50μg/kg用量は総VEFの回復には有効でないものの、この群における死亡率の低下にはいくらか有効であり、これに対しプラセボ投与を受けている動物又はさらに低い濃度で処置を受けている群ではVEFは回復せず、処置が終了した後の生存日数はこれらの群の方が低い。(図4a:A221、図4b:A228、図4c:A233)。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】ドキソルビシン(Dx)誘導性の心筋障害の防止における化合物A221(a)、A228(b)及びA233(c)での処置の効果を示すグラフである。
【図2】Dx処置ラットにおける強制ストレスに対する化合物A221(a)、A228(b)及びA233(c)の保護効果を示すグラフである。
【図3】100から500μg/kg動物体重の範囲の用量での処置群において、化合物A221(a)、A228(b)及びA233(c)での処置の時間的効果及びドキソルビシン誘導性の拡張型心筋症の回復に及ぼす効果を示すグラフである。
【図4】化合物A221(a)、A228(b)及びA233(c)での処置がドキソルビシン(Dx)誘導性の拡張型心筋症に罹患した動物の生存に及ぼす効果を示すグラフである。
【図1a】

【図1b】

【図1c】

【図2a】

【図2b】

【図2c】

【図3a】

【図3b】

【図3c】

【図4a】

【図4b】

【図4c】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
その化学構造によりグレリン、デスアシルグレリン及び他のペプチド性成長ホルモン分泌促進物質に本来備わる機能と同様の機能を発揮することが可能である、内部環及びLアミノ酸を有するペプチド性化学分子並びにそのホモログ変異体であって、化学構造が以下のアミノ酸配列により定義され、アミノ酸側鎖又は橋としての結合用化合物を用いた環化部分を含み、以下の構造規則性
[Aa・・・Aa]X[Ab・・・Ab]X[Ac・・・Ac]Ad
(式中、Aaは[Cys、Gly、Ser、His、Ala、Leu、Met又はThr]の群から選択されるLアミノ酸であって、1から4個の残基の組合せで変化し、Abは[Pro、Ile、Ala、Phe、Trp、Lys、Asp、Asn、Glu、Gln、Gly、Leu、Met、Tyr又はThr]の群から選択されるLアミノ酸であって、1から4個の残基の組合せで変化し、Acは[Arg、Leu、Pro、Val、Thr、Glu、His、Gln、Asn、Asp、Trp、Tyr、Phe、Ser、Ala、Gly又はIle]の群から選択されるLアミノ酸であって、1から5個の組合せで変化し、及びAdは数に制限のない天然又はそうでないLアミノ酸であり、X及びXは、直接連結のための任意の化学反応を用いるか、又は橋としての結合用化合物を用いることにより、共有結合的に結合して内部環を形成する側鎖を有する天然又はそうでないLアミノ酸である)
を用いて選択できる、ペプチド性化学分子並びにそのホモログ変異体。
【請求項2】
1種又は複数種の請求項1に記載の化合物、医薬として許容される任意のその塩、及び賦形剤又は媒体を含む、医薬組成物。
【請求項3】
溶液として調製されるか、又はさらに凍結乾燥粉末として使用される場合に、1ml当り化合物2から100μgの範囲で前記ペプチド性化合物を有することを特徴とする、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
1種又は複数種の請求項1に記載の化合物、動物用として許容される任意のその塩、及び他の賦形剤又は媒体を含む、水産養殖又は他の動物の生産若しくは改良のための動物用組成物。
【請求項5】
魚又は甲殻動物における成長刺激及び/又は疾患抵抗性誘導を目的とした、食料としての、栄養補助食品中、定期注射中又は浸漬浴中の前記化合物の投与を特徴とする、請求項4に記載の動物用組成物。
【請求項6】
成長ホルモンの誘導を当該治療が必要な患者において行う方法であって、1種若しくは複数種の請求項1に記載の化合物、又は医薬として受け入れられる任意のその塩を投与することによる方法。
【請求項7】
心保護、及び/又は神経保護、及び/又は脂肪代謝及びエネルギー代謝を含む食欲制御の誘導を当該治療が必要な患者において行う方法であって、1種若しくは複数種の請求項1に記載の化合物、又は医薬として受け入れられる任意のその塩を投与することによる方法。
【請求項8】
1種若しくは複数種の請求項1に記載の化合物、又はその塩を使用する、魚又は甲殻動物における成長刺激及び/又は疾患抵抗性誘導の方法。
【請求項9】
食料として投与される場合は0.01から1%の範囲で、定期注射中で投与される場合は動物の湿体重1グラム当り化合物0.05から10μgの範囲で、又は浸漬浴中で投与される場合は1リットル当り化合物10から500μgの範囲で前記ペプチド性化合物を使用することを特徴とする、請求項8に記載の魚又は甲殻動物における成長刺激及び/又は疾患抵抗性誘導の方法。

【公表番号】特表2009−528303(P2009−528303A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556643(P2008−556643)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【国際出願番号】PCT/CU2007/000007
【国際公開番号】WO2007/098716
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(304012895)セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア (46)
【Fターム(参考)】