説明

成長因子シグナル伝達の標的および治療方法

トランスグルタミナーゼに関連する疾患、障害および/または状態の治療に有効な治療薬をスクリーニングまたは設計する方法が提供される。該方法は、候補薬がトランスグルタミナーゼと、インスリン様成長因子およびIGF受容体ファミリーのメンバーのうちの少なくとも一方との間の相互作用を調節可能であるかどうか判断することを含む。医薬組成物およびかかる医薬組成物を使用した治療方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトランスグルタミナーゼに関連する疾患の予防および治療のうちの少なくとも一方に関する。詳細には、本発明は、治療薬の開発のためのトランスグルタミナーゼと、インスリン様成長因子およびインスリン様成長因子の受容体ファミリーのメンバーのうちの少なくとも一方との間の相互作用のターゲティングと、該治療薬を用いた治療方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
インスリン様成長因子(IGF)の軸は、IGF−IおよびIGF−IIという2つのリガンドの種々のアイソフォームと、一連の細胞膜受容体と、他の活性リガンドと順に結合する6つの高親和性可溶性結合タンパク質とから成る複雑なネットワークである3。こ
のネットワークは正常な成長および発達にとって重要であり、特に免疫系、リンパ系3
および筋骨格系の適切な発達および機能、ならびに創傷治癒7において特に重要である。
他方、IGF経路の調節の故障は、病理状態の中でも特に、癌8、粥状動脈硬化9および創傷治癒障害10に関与している。
これらの理由から、IGFネットワークは特に心疾患9、慢性創傷7,10、筋萎縮性側索硬
化症6、筋ジストロフィー11および癌8のような状態の治療の可能性に関して、多くの研究の主題となっている。さらに、IGF−I、ビトロネクチン(VN)およびIGF結合タンパク質(IGFBP)からなる複合体は、表皮再形成の有力な刺激物質として使用されており、該複合体はIGF−I受容体(IGF1R)およびビトロネクチン結合αvイン
テグリンの同時活性化を介して作用する12
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Epa, V.C. and CW. Ward, Model for the complex between the insulin-like growth factor I and its receptor: towards designing antアゴニスト for the IGF-I receptor. Protein country-regionplaceEng. Des. Sel, 2006. 19(8): 377-384.
【非特許文献2】Liu, S., et al., Structural basis for the guanine nucleotide-binding activity of tissue transglutaminase and its regulation of transamidation activity. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 2002. 99(5): 2743-2747.
【非特許文献3】Denley, A., et al., Molecular interactions of the IGF system. Cytokine Growth Factor. Rev., 2005. 16(4-5): 421-439.
【非特許文献4】placeAdams, G.R., Exercise Effects on Muscle Insulin Signaling and Action: Invited Review: Autocrine/paracrine IGF-I and skeletal muscle adaptation. J Appl Physiol, 2002. 93(3): 1159-1167.
【非特許文献5】Goldspink, G., Changes in muscle mass andphenotype and the expression of autocrine and systemic growth factors by muscle in response to stretch and overload J. Anat, 1999. 194(3): 323-334.
【非特許文献6】Dobrowolny, G., et al., Muscle Expression of a Local Igf-1 Isoform Protects Motor Neurons in an ALS Mouse Model. J. Cell Biol., 2005. 168(2): 193-199.
【非特許文献7】Hyde, C, et al., Insulin-like Growth Factors (IGF) and IGF-Binding Proteins Bound to Vitronectin Enhance Keratinocyte Protein Synthesis and Migration. J Investig Dermatol, 2004. 122(5): 1198-1206.
【非特許文献8】Saniani, A.A., et al., The Role of the IGF System in Cancer Growth and Metastasis: Overview and Recent Insights. Endocr Rev, 2007. 28(1): 20-47.
【非特許文献9】B ayes-Genis, A., et al., The Insulin-Like Growth Factor Axis : A Review of Atherosclerosis and Restenosis. Circ R.es, 2000. 86(2): 125-130.
【非特許文献10】Blakytny, R., et al., Lack of insulin-like growth factor 1 (IGFl) in the basal keratinocyte layer of diabetic skin and diabetic foot ulcers. J. Pathol., 2000. 190(5): 589-594.
【非特許文献11】Barton, E.R., The ABCs of IGF-I isoforms: impact on muscle hypertrophy and implications for repair. Appl. Physiol. Nutr. Metab., 2006. 31: 791-797.
【非特許文献12】CityplaceUpton, Z., et al., Vitronectin: Growth Factor Complexes Hold Potential as a Wound Therapy Approach. J Invest Dermatol, 2008. 128(6): 1535-1544.
【非特許文献13】Van Lonkhuyzen, D.R., et al., Chimeric vitronectin:insulin-like growth factor proteins enhance cell growth and migration through co-activation of receptors. Growth Factors, 2007. 25(5): 295 −308.
【非特許文献14】Ehrbar, M., et al., Biomolecular hydrogels formed and degraded via site- specific enzymatic reactions. Biomacromolecules, 2007. 8(10): 3000-3007.
【非特許文献15】Ehrbar, M., et al., Enzymatic formation of modular cell-instructive fibrin analogs for tissue engineering. Biomaterials, 2007. 28(26): 3856-3866.(発明の概要)第1態様において、本発明は、トランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つの治療に有効な治療薬をスクリーニング、設計、操作、または生産する方法であって、候補薬が、(i)トランスグルタミナーゼ(TG)とインスリン様成長因子(IGF)の間、および(ii)TGとIGF受容体ファミリーのメンバーの間のうちの少なくとも一方の間の相互作用を調節可能であるかどうか判断する工程を含む方法を提供する。
【0004】
第2の態様では、本発明は、第1態様の方法により設計、操作、スクリーニング、または生産されたトランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つの治療に有効な治療薬を提供する。
【0005】
第3の態様では、本発明は、第2態様の治療薬と、医薬として許容される希釈剤、担体または賦形剤とを含有する、トランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つを治療するための医薬組成物を提供する。
【0006】
第4の態様では、本発明は、トランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つを治療するための医薬組成物であって、
(i)単離トランスグルタミナーゼ(TG)またはその断片、
(ii)単離TG基質またはその断片、
(iii)単離インスリン様成長因子(IGF)のアミノ酸配列またはそのアナログ、もしくは細胞外マトリックスと結合または相互作用する単離ポリペプチドまたはその断片、および
(iv)TGとIGFの間の相互作用の調節因子
から成るグループから選択された治療薬と、
医薬として許容される希釈剤、担体または賦形剤と、
を含有する医薬組成物を提供する。
【0007】
好ましくは、単離TG基質は、アシルドナー基質およびアシルアクセプター基質から選択される。
好ましい実施形態では、アシルドナー基質はグルタミン残基を含む。
【0008】
別の好ましい実施形態では、アシルアクセプター基質はリジン残基を含む。
第5の態様では、本発明は、動物におけるトランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つを治療する方法であって、
前記第2の態様に記載のトランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つの治療に有効な治療薬および前記第3の態様または前記第4の態様に記載の医薬組成物のうちの少なくとも一方を前記動物に投与し、それによりトランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つを治療することからなる方法を提供する。
【0009】
第6の態様では、本発明は、トランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つを治療する方法であって、
(i)トランスグルタミナーゼ(TG)とインスリン様成長因子(IGF)の間、および(ii)TGとIGF受容体ファミリーのメンバーの間
のうちの少なくとも一方の間の相互作用を調節し、それによりトランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つを治療する工程を含む方法を提供する。
【0010】
第6の態様の好ましい実施形態では、本発明は、調節因子がTGとIGFの間およびTGとIGF受容体ファミリーのメンバーの間のうちの少なくとも一方の間の相互作用を調節しているときに細胞移動および細胞増殖の少なくとも一方を調節し、それにより細胞移動および細胞増殖の少なくとも一方を調節する方法を提供する。
【0011】
より好ましくは、細胞移動および細胞増殖の少なくとも一方を調節する方法は、細胞移動および細胞増殖の少なくとも一方を促進する方法である。
さらにより好ましくは、上記細胞移動および細胞増殖の少なくとも一方を促進する方法は、哺乳動物、好ましくはヒトにおける創傷治癒、潰瘍の治療、火傷等、および皮膚再生のうちの少なくとも一つを促進するための上皮細胞移動および上皮細胞増殖の少なくとも一方の促進または誘発に関する。
【0012】
別の好ましい実施形態では、細胞移動および細胞増殖の少なくとも一方を調節する方法は、細胞移動および細胞増殖の少なくとも一方を防止する方法である。
より好ましくは、細胞移動および細胞増殖の少なくとも一方を防止する方法は、癌細胞転移、瘢痕化等の肥厚性瘢痕、乾癬および粥状動脈硬化の予防または阻害に関する。
【0013】
さらに別の好ましい実施形態では、細胞移動および細胞増殖の少なくとも一方を調節する方法は、化学療法に抵抗性の腫瘍における細胞移動および/または増殖の調節に関する。
【0014】
好ましくは、第6の態様の方法は動物に関する。
第5の態様または第6の態様の好ましい実施形態では、動物は哺乳動物である。
さらにより好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0015】
第5の態様または第6の態様の好ましい実施形態は、予防方法および治療方法の少なくとも一方に関してもよい。
第7の態様では、本発明は単離タンパク質複合体であって、
(i)トランスグルタミナーゼ(TG)またはその断片と、インスリン様成長因子(IGF)またはその断片、および
(ii)TGまたはその断片と、IGF受容体ファミリーのメンバーまたはその断片
のうちの少なくとも一方を含む単離タンパク質複合体を提供する。
【0016】
上記態様のいずれか一つの好ましい実施形態では、IGFはIGF−IおよびIGF−IIから選択される。
より好ましくは、IGFはIGF−Iである。
【0017】
上記態様のいずれか一つの好ましい実施形態では、IGF受容体ファミリーは、IGF−1受容体、インスリン受容体、インスリン受容体関連受容体およびインスリン−IGF1ハイブリッド受容体から成るグループから選択される。
【0018】
より好ましくは、IGF受容体ファミリーは、IGF−1受容体、インスリン受容体およびインスリン−IGF1ハイブリッド受容体から選択される。
さらにより好ましくは、IGF受容体ファミリーはIGF−1受容体である。
【0019】
上記態様のいずれか一つの好ましい実施形態では、TGは、FXIII、TG1、TG2、TG3、TG4、TG5、TG6およびTG7から成るグループから選択される。
より好ましくは、TGはFXIIIおよびTG2から選択される。
【0020】
さらにより好ましくは、TGはTG2である。
上記態様のいずれか一つの好ましい実施形態では、調節因子は、単離ペプチド、単離ポリペプチド、単離核酸および小さな有機分子から成るグループから選択される。単離核酸は、タンパク質である調節因子をコードしてもよいし、または他の選択肢として、単離核酸はRNAi分子またはリボザイムを例えば含むがこれらに限定されない調節活性をそれ自体有してもよい。
【0021】
特に好ましい実施形態では、調節因子は抗体であり、より好ましくはモノクローナル抗体である。特定の好ましい実施形態では、抗体は、TGに結合する抗体かまたはTGに対して産生された抗体かの少なくとも一方である。別の好ましい実施形態では、抗体は、IGFまたはIGF受容体ファミリーのメンバーに結合する工程かまたはIGFまたはIGF受容体ファミリーのメンバーに対して産生された抗体かの少なくとも一方である。
【0022】
IGF受容体ファミリーのメンバーに関係する好ましい実施形態では、調節因子は抗体である。
別の好ましい実施形態では、調節因子は、IGFまたは同族のIGF受容体に結合可能な少なくともIGFのドメインと、ビトロネクチン(VN)もしくはフィブロネクチン(FN)またはVNもしくはFNの少なくともインテグリン結合ドメインとを含む単離タンパク質複合体である。
【0023】
上記態様のいずれか一つの好ましい実施形態では、調節因子は選択的な調節因子である。
上記態様のいずれか一つの好ましい実施形態では、調節因子は活性剤および阻害剤から選択される。
【0024】
好ましい実施形態では、活性剤はGDP阻害性TGの活性剤である。
別の好ましい実施形態では、活性剤は、ポリアニオンアミノ酸配列を含む単離ペプチド、単離ポリペプチドおよび単離タンパク質複合体から選択される。
【0025】
好ましくは、ポリアニオンアミノ酸配列は、VNのポリアニオンドメインである。
より好ましくは、VNのポリアニオンドメインは、成熟VN(配列番号2)の53−64位のアミノ酸に対応するポリアニオン部位である。
【0026】
上記態様のいずれか一つの好ましい実施形態では、調節因子は、TGの基質部位を調節する。より好ましくは、基質部位はリジン残基およびグルタミンの残基から選択されたアミノ酸残基を含む。
【0027】
特定の好ましい実施形態では、調節因子はTGの基質供与部位に対する阻害剤である。
特定の好ましい実施形態では、調節因子はTGの基質供与部位に対する阻害剤である。
好ましくは、調節因子は、単官能基の第一級アミン等の基質供与部位用の競合阻害剤である。
【0028】
さらにより好ましくは、単官能基の第一級アミンはモノダンシルカダベリンである。
別の好ましい実施形態では、阻害剤は、非架橋の単離IGFおよび非架橋のIGF受容体ファミリーのメンバーのうちの少なくとも一方である。
【0029】
好ましくは、非架橋の単離IGFはIGF−IおよびIGF−IIから選択される。
好ましい実施形態では、非架橋の単離IGFは、野生型IGF−Iのアミノ酸配列に対するリジン残基の突然変異を含む単離変異型IGF−Iである。好ましくは、リジン残基は、27位のリジン、65位のリジンおよび68位のリジンから成るグループから選択される。
【0030】
より好ましくは、リジン残基は68位のリジンである。
別の好ましい実施形態では、非架橋の単離IGF−Iは、野生型IGF−Iのアミノ酸配列に対するグルタミン残基の突然変異を含む単離変異型IGF−Iである。好ましくは、グルタミン残基は、野生型のIGFアミノ酸配列に対する15位のグルタミンおよび40位のグルタミンから成るグループから選択される。
【0031】
別の好ましい実施形態では、調節因子は非架橋のIGF受容体ファミリーのメンバーである。IGF1Rに関係する好ましい実施形態では、単離変異型IGF1Rはグルタミンドナー残基の突然変異を含む単離変異型である。より好ましくは、IGF1Rの中のグルタミン供与部位は、野生型のIGF1Rアミノ酸配列に対する14位のグルタミン、15位のグルタミン、399位のグルタミン、400位のグルタミン、287位のグルタミン、318位のグルタミン、321位のグルタミン、396位のグルタミン、511位のグルタミン、596位のグルタミン、619位のグルタミンおよび623位のグルタミンから成るグループから選択される。
【0032】
IGF1Rに関連する別の好ましい実施形態では、単離変異型IGF1Rはリジン残基の突然変異を含む単離変異型である。好ましくは、リジン残基は、野性型IGF1Rアミノ酸配列に対する159位のリジン、191位のリジン、498位のリジン、530位のリジンおよび600位のリジンから成るグループから選択される。
【0033】
上記のいずれか一つの好ましい実施形態では、突然変異は挿入、置換および欠失から選択される。より好ましくは、突然変異は置換である。
さらなる好ましい実施形態では、阻害剤はTG特異的阻害剤である。特に好ましい実施形態では、TG特異的阻害剤は3−ハロ−4,5−ジヒドロイソオキサゾール部分を含む。
【0034】
好ましい実施形態では、上記態様のいずれか一つの医薬組成物はさらにIGFを含む。より好ましくは、IGFはIGF−IおよびIGF−IIから選択される。さらにより好ましくは、IGFはIGF−Iである。
【0035】
好ましくは、上記態様のいずれか一つの医薬組成物は、トランスグルタミナーゼに関連
する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つを治療または予防することが可能である。
【0036】
上記態様のいずれか一つの好ましい実施形態では、トランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つは、細胞移動および細胞増殖の少なくとも一方に関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つである。
【0037】
好ましい実施形態では、細胞移動および細胞増殖の少なくとも一方に関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つは、創傷治癒、乾癬、粥状動脈硬化、癌、化学療法に抵抗性の腫瘍、火傷、潰瘍および肥厚性瘢痕から成るグループから選択される。
【0038】
別の好ましい実施形態では、トランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つは、自己免疫疾患である。
より好ましくは、自己免疫疾患は糖尿病であり、さらに好ましくはI型糖尿病である。
【0039】
本発明は好ましくはヒトを対象とするが、本発明は家畜、演技をする動物、飼い馴らされたペット等の他の哺乳動物にも適用可能であることが認識される。
本明細書を通して、文脈が他のことを必要としない限り、用語「含む(comprise)」およびその変化型(comprises, comprising)は、記載された整数または整数の群を含有する
ことを意味し、任意の他の整数または整数の群を排除しない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】(a)グルタミン(左レーン)またはリジンFXIII基質(右レーン)で誘導体化されたFXIIIおよびPEGとの60分の反応後のIGF−Iウエスタンブロット。この結果は、IGF−Iがトランスグルタミナーゼに対するリジンドナー基質を含むことを示している。(b)Dドメインの推定FXIII部位が、受容体結合にとって重要と識別された残基に対して示されている、IGF−Iの3D構造。
【図2】TG2媒介性IGF−Iシグナル伝達の仮説機構の概観。
【図3】(a)ヒトIGF1R(上部、配列番号5)、マウス(配列番号6)、ウズラ(配列番号7)およびカエル(配列番号8)、ならびにヒトIR(底部、配列番号9)との、N末端基配列のBLAST/CLUSTAL Wアライメント。ヒトIRはヒトIGF1Rと直接比較している。14位および15位のグルタミン残基は、哺乳動物と鳥の分岐後に生じた比較的最近の付加であると思われる。(b)IGF1R−IGF−I複合体1のモデルの表示。IGF−I DドメインのLys残基およびIGF1Rの14位および15位のグルタミン残基を空間充填型として示した。ヒトIRにおけるそれらの相当物と異なるIGF1RのN末端ドメイン内のすべての他の残基は、棒として示す。かなりの量の変異が14位および15位のグルタミン残基を囲む曲面パッチに生じている。
【図4】TG2により触媒されたグルカゴンとのIGF−Iの反応。レーン1:IGF−I対照、レーン2:IGF−I+TG2、レーン3:TG2対照、レーン4:Gn対照、レーン5:IGF−I+Gn、レーン6:TG2+Gn、レーン7:TG2+Gn+IGF−I(Gn=グルカゴン)。
【図5】TG2により触媒されたIGF−IとのIGF−1Rの反応のウエスタンブロット。レーンは左から右へ以下の通りである:分子量マーカー;IGF−Iのみ;TG2のないIGF−I+IGF1R;IGF−I+TG2;IGF−IのないIGF1R+TG2;IGF−I+IGF1R+TG2;TG2のみ;IGF1Rのみ;分子量マーカー。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明を容易に理解し、実用的な効果を得るために、一例として、好ましい実施形態を添付の図面を参照しながら説明する。
本発明のトランスグルタミナーゼタンパク質基質
本発明は、TGが酵素活性を発揮する元になっているTGと基質タンパク質との間の相互作用の調節による、インスリン様成長因子シグナル伝達径路の調節に一部関する。本発明は、最も広い形式では、TGと本発明の基質タンパク質との間の相互作用を調節する治療方法、および、TGに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つ(特には本明細書に記載した細胞移動および細胞増殖の少なくとも一方に関連する疾患)を治療するのに有効な治療薬を発見するための標的としてのかかる相互作用の使用方法を提供する。
インスリン様成長因子
IGFシグナル伝達経路の調節異常には、費用のかかる治療が必要な多数の臨床的に関連する障害が関与している。
【0042】
このため、IGFシグナル伝達経路内の新しいターゲットの解明は、薬剤開発のための従来実現されていなかった機会を提供し得る。そのようなものとして、本発明は一部で、IGFシグナル伝達経路の1つまたは複数の態様の調節または改変の代替ターゲットの必要を認識しており、したがって多数のIGF関連疾患の治療における使用に潜在的に効果的な治療薬を提供する。
【0043】
したがって、1つの形式では、本発明は、疾患の治療または予防用にIGFシグナル伝達経路を制御または調節するために、トランスグルタミナーゼを介してIGFが他のタンパク質に架橋される能力を利用または開発することを広く対象とする。
【0044】
広い形式では、本発明は、少なくとも一部で、IGF−Iがトランスグルタミナーゼ活性の基質であるという知見に基づいている。この知見は、IGF−Iを他のタンパク質、詳細には、細胞外マトリックスのタンパク質および/またはIGF−1Rに架橋するための重要な可能性を有し得る。TGとIGFの間の相互作用の調節は、臨床的に重要なIGFシグナル伝達経路を制御する別の手段を提供すると本願発明者により想定されている。
【0045】
さらに、本願発明者は、TGがIGF−IをIGF−I受容体であるIGF−1Rに架橋するよう作用することを実証した。IGF−IとIGF1Rの間の複合体のこの架橋形式は、細胞内へ内在化されると仮定され、IGF−Iシグナル伝達の重要なステップであり得る。
【0046】
したがって、本発明は、最も広い形式では、IGF−TG相互作用を調節する治療方法、および、TGに関連する疾患、障害、および症状(特には本明細書に記載した細胞移動および細胞増殖の少なくとも一方に関連する疾患)のうちの少なくとも一つを治療するのに有効な治療薬を発見するためのターゲットとしてIGF−TG相互作用を使用する方法を提供する。
【0047】
包括的な態様では、本発明は、医薬組成物、治療薬、およびTGとIGFの間の相互作用を調節するかかる治療薬をスクリーニングおよび/または使用する方法に関する。
好ましくは、IGFはIGF−IおよびIGF−IIから選択される。
【0048】
さらにより好ましくは、IGFはIGF−Iである。
インスリン様成長因子受容体ファミリー
別の広い形式では、本発明はトランスグルタミナーゼの基質としてのIGF受容体ファミリーを対象とする。いかなる特定の理論によって束縛されることも望まないが、本願発明者はTG−IGF受容体の相互作用がIGF受容体の運命を決定する制御スイッチであると過程し、そのため有糸分裂、移動または分化等の種々の反応に対するトリガーまたは制御スイッチを提供している。本発明は、少なくとも一部で、IGF1RがTG2の基質
であるという発見に基づいている。さらに、TG2はIGF1RをIGF−Iへ架橋することが可能である。
【0049】
インスリン様成長因子(IGF)受容体ファミリー(当該技術分野ではインスリン受容体ファミリーとしても周知)は、IGF1R(同義語:JTK13)、インスリン受容体、インスリン受容体関連受容体およびインスリン−IGFハイブリッド受容体を含む。好ましくは、インスリン−IGFハイブリッド受容体は、インスリン−IGF1ハイブリッド受容体である。IGF受容体ファミリーは高度に類似している。IGF受容体ファミリーのメンバーは細胞表面に共有結合された受容体の二量体として存在する。IGF受容体はホモダイマーとして存在してもよいし、代わりに2分の1があるIGF受容体ファミリーで、2分の1がそれとは異なるIGF受容体ファミリーから成るハイブリッド受容体として存在してもよい。
【0050】
好ましい実施形態では、IGF受容体ファミリーは、IGF1R、インスリン受容体、インスリン受容体関連受容体、およびインスリン−IGFハイブリッド受容体から成るグループから選択される。
【0051】
より好ましくは、IGF受容体は、IGF−1R、インスリン受容体、およびインスリン−IGFハイブリッド受容体から成るグループから選択される。
さらにより好ましくは、IGF受容体は、IGF−1Rおよびインスリン−IGFハイブリッド受容体から選択される。
【0052】
なおさらにより好ましくは、IGF受容体はIGF1Rである。
「トランスグルタミナーゼ」または「TG」は、当該技術分野で周知のように、特に、適切なタンパク質に結合したグルタミンのγ−カルボキサミド基と、タンパク質に結合したリジンのε−アミノ基との間のアシル転位反応によって1つまたは複数のタンパク質と架橋する触媒または酵素の能力を有する酵素を意味する。かかる反応により、あるタンパク質またはペプチド上のグルタミン(「アシルドナー(アシル供与体)」)残基と、別のタンパク質上のカダベリン、プトレシン、もしくはスペルミジン等の生物ポリアミンまたは適切なリジン残基に由来する第一級アミン(「アシルアクセプター(アシル受容体)」)との間にε−([γ]−グルタミル)リジンイソペプチド結合が生じるか、あるタンパク質の脱プロトン化リジンドナー残基と、別のタンパク質のアクセプターグルタミン残基との間のペプチド結合が生じる。トランスグルタミナーゼは、供与部位として作用するグルタミン残基によっても1つまたは複数のタンパク質と架橋することが可能である。適切なトランスグルタミナーゼの限定しない例を提供するGriffin et al Biochem J (2002) 368: 377-396 および Lorand and Graham (2003) Nature Reviews Molecular Cell Biology 4: 140-156を参照されたい。これらの文献は本明細書に援用する。
【0053】
適切には、本発明のTGは、FXIII、TGl、TG2、TG3、TG4、TG5、TG6およびTG7から成るグループから選択される。
好ましい実施形態では、TGはFXIIIおよびTG2から選択される。
【0054】
さらにより好ましくは、TGはTG2である。
IGF−Iに関する特に好ましい実施形態では、TGはTG2である。
上述に照らして、好ましい実施形態では、TGとその基質タンパク質の間の相互作用がリジン残基およびグルタミン残基のうちの少なくとも一方によることが理解される。
【0055】
IGF−Iに関する好ましい実施形態では、リジン残基は、野生型IGF−Iのアミノ酸配列に対する27位のリジン、65位のリジンおよび68位のリジンから成るグループから選択される。
【0056】
さらにより好ましくは、リジン残基は68位のリジンである。
TGグルタミン供与部位によるTGとIGF−Iの間の相互作用に関する別の実施例では、好ましくはグルタミン残基は、野生型IGF−Iのアミノ酸配列に対する15位のグルタミンおよび40位のグルタミンから成るグループから選択される。
【0057】
好ましい実施形態では、グルタミン残基は40位のグルタミンである。
IGF−IIに関する別の好ましい実施形態では、グルタミン残基およびリジン残基のうちの少なくとも一方は、野生型のIGF−IIアミノ酸配列に対するグルタミン18および65位のリジンから選択される。
【0058】
TGおよびIGF−1Rの間の相互作用に関する特に好ましい実施形態では、グルタミン供与部位は、野生型のIGF−1Rアミノ酸配列に対する14位のグルタミン、15位のグルタミン、399位のグルタミン、400位のグルタミン、287位のグルタミン、318位のグルタミン、321位のグルタミン、396位のグルタミン、511位のグルタミン、596位のグルタミン、619位のグルタミンおよび623位のグルタミンから成るグループから選択される。
【0059】
IGF1Rに関する好ましい実施形態では、リジン残基は、野生型のIGF−1Rアミノ酸配列に対する159位のリジン、191位のリジン、498位のリジン、530位のリジンおよび600位のリジンから成るグループから選択される。
【0060】
TGとインスリン受容体およびIGFインスリンハイブリッド受容体のうちの少なくとも一方との間の相互作用に関する好ましい実施形態では、グルタミン供与部位は、野生型のインスリン受容体のアミノ酸配列に対する177位のグルタミンおよび521位のグルタミンから成るグループから選択される。
【0061】
TGとインスリン受容体およびIGFインスリンハイブリッド受容体のうちの少なくとも一方との間の相互作用に関する別の好ましい実施形態では、リジン残基は、野生型のインスリン受容体のアミノ酸配列に対する164位のリジン、166位のリジン、265位のリジン、267位のリジン、460位のリジン、508位のリジン、649位のリジン、および652位のリジンから成るグループから選択される。
【0062】
IGF−インスリンハイブリッド受容体を想定する実施形態では、TGとの相互作用が、IGF−1Rのみに関して上述した残基によるか、インスリン受容体に関して上述した残基によるか、およびそれらの組み合わせによることが理解されよう、
スクリーニング方法および治療薬
特定の態様では、本発明は広く、トランスグルタミナーゼ(TG)に関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つの治療に有効な治療薬をスクリーニング、設計、操作、または生産する方法であって、TGと本発明の基質タンパク質との間の相互作用を調節する工程を含む方法を対象とする。
【0063】
用語「調節する」「変調」、「調節因子」または「調節している」は、その範囲内に、トランスグルタミナーゼ(TG)とインスリン様成長因子(IGF)の間の相互作用、および、TGとIGF受容体ファミリーのメンバーの間の相互作用、のうちの少なくとも一方に干渉し、それを予防し、破壊し、阻害し、遮断し、もしくは防止するか、または活性化し、促進し、増加させ、もしくは増大させる作用を包含する。調節因子は、TGと本発明の基質タンパク質との間の直接の調節因子であってもよいし、またはTGと本発明の基質タンパク質との間の相互作用の間接の調節因子であってもよいことが理解される。
【0064】
「阻害」または「阻害する」とは、生物活性の完全な遮断を含め、生物活性を遮断し、防止し、破壊し、または減少させることを意味する。例えば「阻害」は、生物活性の約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%の減少を指し得る。
【0065】
「活性化」または「活性化する」とは、生物活性を促進し、増強し、または増大させることを意味する。例えば「活性化」は、生物活性の約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%の増加を指し得る。
【0066】
好ましい実施形態では、調節因子は選択的な調節因子である。好ましい実施形態では、選択的な調節因子は選択的活性剤または選択的阻害薬である。「選択的な」または「選択的に」とは、本発明の調節因子が主には特定のTGと本発明の基質タンパク質との間の相互作用に影響を及ぼすが、他の相互作用にも影響を及ぼしてもよいことを意味すると想定される。例えばある実施形態は、調節因子が、主としてTG2を調節することによりTG2とIGF−Iの間の相互作用を選択的に調節し得るが、TGl、TG3、TG4、TG5、TG6および/またはFXIII等の別のTGにも影響を及ぼしてもよい状況を包含する。
【0067】
好ましい実施形態では、本発明の候補薬および/または治療薬は、TGに触媒反応を調節し、それによりIGFのIGF受容体ファミリーのメンバーに対する架橋、好ましくはIGF−IのIGF1Rへの架橋を調節する。これは、TG−IGF相互作用の調節によってもよいし、代わりにTG−IGF1R相互作用によってもよい。
【0068】
従って、本発明の適切な治療薬、候補薬および/または調節因子は、所望の生物活性と半減期を有する、ペプチド、抗体を含むタンパク質、核酸、タンパク質複合体、または他の有機分子(好ましくは小さな有機分子)であり得る。
【0069】
本発明の目的で、「単離」とは、天然状態から取り外されたか、人為操作を受けた物質を意味する。単離物質は、その天然状態で通常それに伴う成分を実質的にまたは本質的に含まなくてもよいし、またはその天然状態で通常それに伴う成分と共に人工状態で存在するように操作されてもよい。単離物質は、天然型、化学合成型、または組換え型であってよい。
【0070】
「タンパク質」とは、アミノ酸の重合体を意味する。アミノ酸は天然アミノ酸であってもよいし、または非天然アミノ酸であってもよく、D−アミノ酸またはL−アミノ酸でもよく、もしくは当該技術分野で周知のように化学誘導体化されたアミノ酸であってもよい。
【0071】
「ポリペプチド」は、50個以上のアミノ酸を有するタンパク質である。
「ペプチド」は、50個未満のアミノ酸を有するタンパク質である。
本発明は、例えば対立遺伝子変異型、オルソログ、ならびにホモログ等の天然変異型および人工変異型をその範囲内に包含するタンパク質変異型の使用と、その適用を想定している。オルソログは、ヒトおよび他の霊長類、マウス、ラット、ハムスターおよびモルモット等の実験用の哺乳動物、ウマ、ウシ、ラクダ、ブタおよびヒツジ等の商業的に重要な哺乳動物、ならびにイヌおよびネコ等の伴侶哺乳動物のオルソログを含む任意の哺乳類のオルソログも包含する。
【0072】
本発明に関連して、「〜から本質的に成る」とは、ポリペプチドおよび/またはペプチドがペプチドのN末端およびC末端の少なくとも一方で、そのポリペプチドおよび/またはペプチドの配列に加えて、1つ、2つまたは3つ以下のアミノ酸残基を有することを意
味する。追加のアミノ酸残基は、ポリペプチドおよび/またはペプチドの一端で生じても両端で生じてもよいが、それらに制限されない。
【0073】
タンパク質およびペプチドは、天然型、化学的合成型、または組換え合成型のいずれで有用であってもよく、化学合成、組換えDNA技術およびペプチドフラグメントを生産するタンパク質分解を含むがこれらに限定されない当該技術分野で周知の任意の手段によって生産されてもよい。
【0074】
組換え型タンパク質またはペプチドは、例えば、いずれも本明細書に援用するSambrook
et al, MOLECULAR CLONING. A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Press, 1989、詳細にはSections 16 and 17)、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY Eds. Ausubel
et al., (John Wiley & Sons, Inc. 1995-1999、詳細にはChapters 10 and 16)、およびCURRENT PROTOCOLS IN PROTEIN SCIENCE Eds. Coligan et al, (John Wiley & Sons, Inc. 1995-1999)、詳細にはChapters 1, 5 and 6)記載された標準プロトコルを使用して当
業者により便利に調製可能である。
【0075】
ペプチドを想定した実施形態では、かかるペプチドは、固相合成および液相合成を含む化学合成により調製されたペプチドの形をしていてもよい。かかる方法は当該技術分野で周知であるが、参考としてSYNTHETIC VACCINES Ed. Nicholson (Blackwell Scientific Publications) のChapter 9 およびCURRENT PROTOCOLS IN PROTEIN SCIENCE Eds. Coligan
et al, (John Wiley & Sons, Inc. NY USA 1995-2001)のChapter 15で提供されている化学合成技術の例が挙げられる。これに関し、国際公開第99/02550号および国際公開第97/45444号もまた参考として挙げられる。
【0076】
本発明は、本明細書で説明する単離タンパク質の断片および/または単離タンパク質の複合体の使用も想定している。
「断片」とは、完全長タンパク質すなわちタンパク質全体の100%未満を構成する、タンパク質または該タンパク質をコードしている核酸のセグメント、ドメイン、部分または領域である。
【0077】
断片は好ましくは、全タンパク質の99%未満、98%未満、97%未満、96%未満、95%未満、94%未満、93%未満、92%未満、91%未満、90%未満、85%未満、80%未満、75%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、またはさらには10%未満、5%未満、または3%未満という低さを構成する。
【0078】
特定の実施形態では、断片は「生物活性断片」である。「生物活性断片」とは、分子の活性の約0.1%以上、好ましくは約10%以上、より好ましくは約25%以上、さらにより好ましくは50%以上、さらにより好ましくはタンパク質全体すなわち完全長タンパク質の生物活性の70%以上、80%以上、または90%以上を有する、タンパク質または該タンパク質をコードしている核酸のセグメント、部分、または断片を意味する。好ましい実施形態では、生物活性断片は完全長タンパク質の生物活性、構造活性および物性のうちの少なくとも一つを保持している。別の好ましい実施形態では、生物活性断片は、タンパク質と架橋する酵素の能力(詳細にはIGFおよびIGFファミリーのメンバーのうちの少なくとも一方を基質として使用する)を示すTGの部分に相当する。特に好ましい実施形態では、TGの生物活性断片は、タンパク質に結合したグルタミンのγ−カルボキサミド基と、タンパク質に結合したリジンのε−アミノ基との間のアシル転位反応を触媒することが可能であり、これにより
あるタンパク質のグルタミン残基と、別のタンパク質の生物ポリアミンまたはリジン残基に由来するアクセプター第一級アミンとの間にε−([γ]−グルタミル)リジンイソペ
プチド結合が生じる。別の特に好ましい実施形態では、TGの生物活性断片は、1つまたは複数のタンパク質上に存在するグルタミンドナー残基と生物ポリアミンまたはリジン受容体残基との間にイソペプチド結合を形成する。
【0079】
一般的な実施形態では、本発明は、TGと本発明の基質タンパク質との間の相互作用の活性剤である治療薬および/または調節因子を想定している。これらの好ましい実施形態によれば、活性剤は、治療における細胞移動および/または細胞増殖、創傷治癒の促進、潰瘍、火傷等の治療、および/または哺乳動物における皮膚再生に有用であることが想定される。
【0080】
別の好ましい実施形態では、本発明の活性剤は、不活性TGからの活性状態TGの生成を促進することが可能である。
ある別の好ましい実施形態では、活性剤はGDP阻害性TGの活性剤である。これらの実施形態によれば、活性剤は、TGの結合ポケットを形成し、従ってTGのGDP結合ポケットから阻害GDPを除去することにより作用する、アミノ酸残基を模倣するかこれに非常によく類似する競合的結合因子として作用することにより、結合したGDPを除去することが可能である。理想的に想定されるのは、GDPは、グアニンの二リン酸の荷電相互作用と、疎水性およびファンデルワールス相互作用との組み合わせにより表面ポケットに結合される。したがって、そのような結合ポケットは主に正に荷電した疎水性アミノ酸残基を含む。TGのGDP結合ポケットの適切な非限定的な例は、TG2の173−174位、476位、478−479位、482−483位および583位のアミノ酸残基を含むことが理解される。
【0081】
上述に照らすと、競合的結合反応を通じてTG中の結合した阻害性GDPを除去可能な活性剤は、GDP結合ポケットを形成するアミノ酸残基と類似の電荷、配列および物理化学特性を有するため、阻害性GDPを競合的に結合および除去できることが理解される。そのような活性剤は、競合的結合因子であり、GDPをGDP結合ポケットから外すことが想定される。適切には、そのような活性剤は主に正に荷電したアミノ酸残基および疎水性アミノ酸残基を含む。
【0082】
別の好ましい実施形態では、GDPで阻害されたTGの活性剤は、GDP結合ポケット、すなわち結合したGDPの除去により引き起こされたコンホメーションの変化で露わになった裂け目で結合可能であり、さらなるGDPの結合を阻害し、従ってTGが永続的に活性状態にいることを可能にする。そのような活性剤はGDPをTGから外して維持し得、より好ましくはTG内のGDPを永続的に置き換えることを可能にするよう想定される。好ましい実施形態では、GDP阻害性TGのような活性剤はポリアニオンのアミノ酸配列を含み、より好ましくは成熟VNのポリアニオンドメインを含む。さらにより好ましくは、VNのポリアニオンドメインは、成熟VNの53−64位のアミノ酸に対応するポリアニオン部位である。
【0083】
以下アミノ酸配列は、VNの前記ポリアニオン配列を含むビトロネクチンのセグメントである。ポリアニオン配列を、アンダーライン(pT=ホスホスレオニン、sY=スルホチロシン、)で以下に示すが(注:国際出願ではイタリックかつアンダーラインであったが、電子化出願ではイタリックを表記できないため、アンダーラインのみを付している)、強く負に荷電した配列である:
QVTRGDVF(pT)MPEDE(sY)(pT)V(sY)DDGEEKNN ATVH(配列番号4)
いかなる特定の理論によって束縛されることも望まないが、GDP阻害性TG2は、一方では二リン酸との電荷相互作用により、および他方では疎水性/ファンデルワールス相互作用により、閉じたコンホメーションで維持されるものと想定される。活性TG2の結
晶構造(例えばPinkas et al (2007) PLoS Biology 5; e327: 2788-2796に記載)では、
GDP結合(不活性)TG2では接近不能な裂け目が存在する。この裂け目は多数の正に荷電した残基により結合され、その塩基で強い疎水性を有し、TGに結合されたVNのポリアニオン配列に基づくペプチドは、酵素が不活性状態に折り戻されるのを防ぐ形態である。
【0084】
想定されるのは、ポリアニオンアミノ酸配列はそれぞれ、IGFまたは同族IGF受容体に結合可能な少なくともIGFのドメインと、ビトロネクチン(VN)もしくはフィブロネクチン(FN)またはVNもしくはFNのインテグリン結合ドメインとを含む単離タンパク質複合体の構成要素であってよい。特に好ましい実施形態では、ポリアニオンアミノ酸配列は、成長因子のアミノ酸配列または同族の成長因子受容体に結合可能な少なくとも成長因子のドメインと、VNもしくはFNまたはVNもしくはFNの少なくともインテグリン結合ドメインとを含む合成キメラタンパク質の形をした単離タンパク質複合体の構成要素である。好ましい実施形態では、ポリアニオンアミノ酸配列は、成熟VNのポリアニオンドメインであることが理解される。
【0085】
本発明に適用可能な適切な単離タンパク質複合体と合成キメラタンパク質の非限定的な例を提供するクイーンズランド工科大学の国際公開第2004/069871号が参照される。この文献は本明細書に援用する。
【0086】
他の一般的な実施形態では、本発明は、TGと本発明の基質タンパク質との間の相互作用の阻害剤である治療薬および/または調節因子を提供する。本発明の阻害剤は、癌細胞転移、瘢痕化等の肥厚性瘢痕、乾癬および粥状動脈硬化等の細胞移動および/または細胞増殖を阻害または予防することが望ましい治療方法に使用するのに特に適している。
【0087】
特定の好ましい実施形態では、阻害剤は、可逆的でも不可逆的であってもよい、TG触媒活性を阻害するペプチドである。そのような阻害ペプチドは、TGタンパク質の活性部位中の1つまたは複数の残基に結合することによりTGを阻害し得る。TGの適切な阻害ペプチドの非限定的な例は、Pinkas et al (2007) PLoS Biology, 5, e327: 2788-2796に提供されているようなAc−P(DON)LPF−NH2(配列番号l)である。
【0088】
本発明はさらにその範囲に、本発明のTG基質上に存在するTG基質供与部位に作用し、標的化し、または競合する阻害剤を包含する。これらの実施形態によれば、リジン供与部位のような基質供与部位と競合するTGの競合阻害剤が想定される。好ましい実施形態では、そのような阻害剤は小さな有機分子であってよい。TG阻害剤の適切な非制限な例は、R−NH2型の単官能基の第一級アミンであり、Rは線形の炭化水素鎖である。適切
な第一級アミン阻害剤の非制限的な例はモノダンシルカダベリンである。
【0089】
本発明によって想定される他の阻害剤は、TGに特異的な阻害剤である。好ましい実施形態では、適切なTG特異的阻害剤は3−ハロ−4,5−ジヒドロイソオキサゾール部分を含む。3−ハロ−4,5−ジヒドロイソオキサゾール部分を含む適切なTG特異的阻害剤の非制限的な例を提供する米国特許出願出願番号第11/213,173号(米国特許出願公開第2006/0052308号)を参照する。この文献を本明細書に援用する。
【0090】
いかなる特定の理論によって束縛されることも望まないが、TGはグアニンヌクレオチドの結合により阻害されてもよく、詳細には、TGは結合したGDP分子によって不活性化され、GDPが結合した閉じたコンホメーションをとる。逆に、TGからの結合したGDPの除去により、TGは活性型のコンホメーションをとることが可能であってもよい。
【0091】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、TGとIGFの間の相互作用を破壊または阻
害する抗体または抗体断片である阻害剤もしくはその断片を想定している。
別の好ましい実施形態では、本発明の方法は、TGとIGF受容体ファミリーの間の相互作用を破壊または阻害する抗体または抗体断片である阻害剤もしくはその断片を想定している。好ましくは、IGF受容体ファミリーは、IGF1R、インスリン受容体、インスリン受容体関連受容体およびインスリン−IGFハイブリッド受容体から成るグループから選択される。さらにより好ましくは、IGF受容体は、IGF1R、インスリン受容体およびインスリン−IGFハイブリッド受容体から成るグループから選択される。さらに好ましくは、IGF受容体は、IGF1Rおよびインスリン−IGFハイブリッド受容体から選択される。特に好ましい実施形態では、IGF受容体はIGF1Rである。
【0092】
抗体阻害剤がTGとIGF受容体ファミリーの間の相互作用を阻害することを想定している特定の好ましい実施形態によれば、抗体阻害剤は、細胞移動および細胞増殖の少なくとも一方を阻害または防止することが望ましい癌の治療方法で使用するのに適している。また、そのような治療薬は、糖尿病等の自己免疫疾患の治療に使用するにも適している。
【0093】
好ましい実施形態では、抗体または抗体断片はトランスグルタミナーゼに結合するか、トランスグルタミナーゼに対して作製されたものである。本発明の使用に適したTG抗体およびその生産方法の非制限な例を記載したOsman et al (2002) Eur J Gastroenterol Hepatol. Nov;14(l l):1217-23を参照する。
【0094】
別の好ましい実施形態では、本発明は、IGFおよび/またはIGF受容体ファミリーのメンバー上の領域に対して作製されるか、および/またはかかる領域に結合する抗体または抗体断片である治療薬を想定している。これらの実施形態の特定の形式によれば、そのような抗体または抗体断片はTG基質タンパク質を非架橋にし得ることが理解される。
【0095】
本明細書に使用する場合、用語「抗体」または「免疫グロブリン」は、本明細書では互換的に使用されているように、抗体の全体と、その抗原結合断片または単一鎖とを包含する。用語「抗体」または「免疫グロブリン」は、免疫グロブリンアイソタイプであるIgA、IgD、IgM、IgG、およびIgEを含む免疫グロブリン遺伝子複合体の任意の抗原結合タンパク質産物をも包含し、かつその抗原結合断片も包含する。抗原結合断片の例にはFab、F(ab)2、Fv、scFv等が含まれるが、これらに限定されない。
【0096】
全体タンパク質またはその生物活性断片のいずれに対するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体も、適切な治療薬であると想定される。
上述したように、抗体はモノクローナルであってもポリクローナルであってもよく、例えば適切な生産動物(例えばマウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ニワトリ、ヤギ)を免疫にすることにより得ることが可能である。その後、ポリクローナル抗体が必要とされるかモノクローナル抗体が必要とされるかに従って、免疫化した動物から血清または脾臓細胞が単離され得る。
【0097】
モノクローナル抗体は例えばCURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY (Eds. Coligan et al.
John Wiley & Sons. 1995-2000) およびHarlow, E. & Lane, D. Antibodies: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbour, Cold Spring Harbour Laboratory, 1988)に記載されているような標準的方法により生産可能である。そのような方法は一般に、上述したように免疫化した動物から脾臓細胞等の抗体産生細胞を取得することや、脾臓細胞を不死化した融合パートナー細胞と融合することに関する。
【0098】
組換え抗体も想定される。適切な組換え抗体の選択は、例えばHoogenboom, 2005, Nature Biotechnol. 23 1105に論じられているようなファージディスプレー法、マイクロアレイまたはリボソームディスプレイ法を含む多くの方法のうちの任意の方法により達成する
ことが可能である。
【0099】
また、当該技術分野で周知のFab、F(ab)2、Fv、scFvおよびFc断片な
どの抗体断片も想定される。
やはり当該技術分野でよく理解されているように、抗体−抗原複合体の検出を支援するために、抗体は、色原体、触媒、酵素、蛍光団、化学発光分子、ビオチンおよび/または放射性同位元素を含むがこれらに限定されない標識と結合させてもよい。
【0100】
当業者には理解されるように、ヒトでの治療要とで使用される抗体は、これらの抗体をヒトでの使用に適したものとする特異性を有しなければならない。典型的には、治療用抗体は「ヒト化」され、抗体またはその少なくとも1つの鎖が、実質的にヒト抗体に由来する可変フレームワーク領域と、実質的に非ヒト(例えばげっ歯動物の抗体およびサメ抗体を含むがこれらに限定されない)由来の相補性決定領域とを有する。ヒト化抗体は、異物免疫反応を誘発する可能性が減少するため、医療用に特に有利である。
【0101】
想定されるのは、本発明は、はるかに小さなペプチド模倣体に到るまでの、抗体を模倣する抗体様のペプチド模倣体を包含する。
本発明はまた、その同族結合タンパク質に架橋する能力を失った非架橋IGFまたはIGF受容体ファミリーのメンバーの形式をした阻害剤を包含する。好ましい実施形態では、本発明の非架橋基質タンパク質は、TGにより媒介される架橋が排除されるように変異させられてもよい。いかなる特定の理論によって束縛されることも望まないが、本明細書に記載したIGF−I変異型は、その同族受容体と結合してもよい(そのため野生型IGF−Iと競合してもよい)が、トランスグルタミナーゼにより作用されず、従って内在化を引き起こさない。
【0102】
用語「変異型」、「変異」は、本明細書で使用される場合、一般に、単離タンパク質またはその断片に保守的または非保守的なアミノ酸の置換、欠失および/または挿入を導入することを包含する。
【0103】
当該技術分野においてよく理解されるように、いくつかのアミノ酸は、タンパク質の活性の性質またはタンパク質の構造を変化させずに広く同様の特性を有する他のものに交換され得る(保存的置換)。
【0104】
一般に、タンパク質の構造および機能に最大の変化を生じさせる可能性が高い非保存的置換は、(a)親水性残基(例えばSerまたはThr)が疎水性残基(例えばAla、Leu、His、PheまたはVal)からまたは疎水性残基により置換されるもの、(b)システインまたはプロリンが別の残基からまたは別の残基により置換されるもの、(c)電気陽性側鎖を有する残基(例えばArg、His、またはLys)が電気陰性残基を有する残基(例えばGIuまたはAsp)からまたは電気陰性残基を有する残基により置換されるもの、(d)嵩のある疎水性または芳香族側鎖を有する残基(例えばVaI、His、Phe、またはTrp)が、より小さな側鎖を有する残基(例えばAla、Ser)または側鎖のない残基(例えばGIy)からまたはそれらの残基により置換されるもの、である。
【0105】
変異型および/またはタンパク質変異型に関して、これらは、例えばランダム突然変異誘発、オリゴヌクレオチド媒介(すなわち部位特異的)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、およびカセット突然変異誘発により、タンパク質を変異させるか、またはかかるタンパク質をコードしている核酸を変異させることにより作成することが可能である。核酸の突然変異誘発方法の例は、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, Ausubel et al(
前掲)のChapter 9で提供されており、この文献を本明細書に援用する。商用キットは、S
tratagene社のQuick-Change部位特異的突然変異誘発キット等、容易に入手可能である。
【0106】
生物活性に寄与するアミノ酸残基についての知識が利用できる場合には、部位特異的突然変異誘発が最も良好に行なわれることが当業者には理解される。多くの場合、この情報は利用できないか、例えば分子モデル化の近似によって類推できるのみである。
【0107】
特に好ましい実施形態では、非架橋のIGFは、野生型IGFのアミノ酸配列に対してリジン残基およびグルタミン残基のうちの少なくとも一方の置換を含む単離変異型IGFである。
【0108】
好ましい実施形態では、単離変異型IGFは、野生型のIGFアミノ酸配列に対するグルタミン残基の突然変異および野生型のIGFアミノ酸配列に対するリジン残基の突然変異のうちの少なくとも一方を含む。これらの実施形態によれば、単離変異型IGF、好ましくは単離変異型IGF−Iは、細胞移動および細胞増殖の少なくとも一方を阻害または防止することが望ましい治療方法で使用するに適した阻害剤である。
【0109】
特に好ましい実施形態では、単離変異型IGFは、野生型のIGFアミノ酸配列に対するリジン残基の置換および野生型のIGFアミノ酸配列に対するグルタミン残基の置換のうちの少なくとも一方を含む。
【0110】
特定の好ましい実施形態では、単離変異型IGFまたは単離IGF受容体ファミリーのメンバーは、1つまたは複数のリジン残基および1つまたは複数のグルタミン残基のうちの少なくとも一方に、1つまたは複数の突然変異(好ましくは置換)を含んでもよいことが理解される。つまり、本発明は、1つまたは複数のリジン残基が変異されるか、1つまたは複数のグルタミン残基が変異されるか、またはリジン残基とグルタミン残基の組み合わせが変異された単離変異型IGFおよび単離IGF受容体ファミリーのメンバーを想定している。
【0111】
上記に照らすと、上記置換は、置換された残基の電荷が静電気トポロジー等の特定の特性を保持するよう保存されている保存的置換であることが理解される。例えばリジン残基の場合、適切なアミノ酸置換は、アルギニンのような正に荷電したアミノ酸残基であろう。
【0112】
さらにより好ましくは、リジン残基は、アラニン、アルギニン残基、およびヒスチジン残基から成るグループから選択された残基で置換される。さらにより好ましくは、リジン残基はアルギニン残基で置換られる。
【0113】
グルタミン残基の置換に関する実施形態では、グルタミン残基は、アラニン、アスパラギン、グルタミン酸およびアスパラギン酸から成るグループから選択された残基で置換される。
【0114】
単離IGF−I変異型に関する特定の実施形態では、単離変異型は27位のリジン、65位のリジン、68位のリジン、15位のグルタミンおよび40位のグルタミンから成るグループから選択された残基の1つまたは複数の複数の突然変異を含む。
【0115】
単離IGF−I変異型に関する好ましい実施形態では、リジン残基は、27位のリジン、65位のリジンおよび68位のリジンから成るグループから選択される。
より好ましくは、リジン残基は68位のリジンである。
【0116】
単離IGF−I変異型に関する別の好ましい実施形態では、グルタミン残基は15位の
グルタミンおよび40位のグルタミンから成るグループから選択される。好ましくは、グルタミン残基は40位のグルタミンである。
【0117】
単離IGF−I変異型に関する特定の好ましい実施形態では、1つまたは複数の置換は:
−15位のグルタミンからアスパラギンへ、
−40位のグルタミンからアスパラギンへ、
−15位のグルタミンからアスパラギンへ、および40位のグルタミンからアスパラギンへ(二重変異型)
−27位のリジンからアルギニンへ、
−65位のリジンからアルギニンへ、
−68位のリジンからアルギニンへ、
−27位のリジンからアルギニンへ、および65位のリジンからアルギニンへ、
−27位のリジンからアルギニンへ、および68位のリジンからアルギニンへ
−65位のリジンからアルギニンへ、および68位のリジンからアルギニンへ、および
−27位のリジンからアルギニンへ、65位のリジンからアルギニンへ、および68位のリジンからアルギニンへ(3重変異型)
から成るグループから選択される。
【0118】
別の好ましい実施形態によれば、本発明の阻害剤は、非架橋型のIGF受容体ファミリーのメンバーを含んでいる。非架橋型のIGF受容体ファミリーのメンバーは、制限されるわけではないが、癌等の細胞増殖の治療における特定の用途を有する。特に好ましい実施形態では、単離変異型IGF受容体ファミリーのメンバーは、野生型のIGF受容体ファミリーのメンバーのアミノ酸配列に対して、リジン残基およびグルタミン残基のうちの少なくとも一方に突然変異を含む。好ましくは、突然変異は置換である。
【0119】
IGF−1Rに関する実施形態では、単離変異型は、野生型のIGFIR配列に対して、159位のリジン、191位のリジン、498位のリジン、530位のリジン、600位のリジン、14位のグルタミン、15位のグルタミン、399位のグルタミン、400位のグルタミン、287位のグルタミン、318位のグルタミン、321位のグルタミン、396位のグルタミン、511位のグルタミン、596位のグルタミン、619位のグルタミンおよび623位のグルタミンから成るグループから選択された残基の1つまたは複数の突然変異を含む。
【0120】
本発明はさらに、本明細書で記載している単離ペプチド、単離タンパク質、および単離タンパク質複合体のうちの少なくとも一つをコードする単離核酸と、該単離核酸を備えた遺伝子構築物とを包含する。
【0121】
本発明はさらに、単離核酸である阻害剤を想定している。単離核酸は、タンパク質である調節因子をコードする発現構築物であってもよいし、または、別の選択肢として、単離核酸はそれ自体、RNAi分子またはリボザイムに限定されないがそれらのように調節活性を有してもよい。
【0122】
用語「核酸」は、本明細書に使用する場合、一本鎖または二本鎖のmRNA、RNA、cRNA、およびDNAを指し、DNAはcDNAおよびゲノムDNAを包含する。核酸は天然であってもよいし、組換えであってもよく、1つまたは複数の人工ヌクレオチド(例えば自然界で通常見出されないヌクレオチド)を含んでもよい。RNAは一本鎖または二本鎖のプロセシングされていないRNA、mRNA、siRNA、miRNA、RNAiおよびtRNAを含む。核酸はさらに、修飾プリン(例えばイノシン、メチルイノシンおよびメチルアデノシン)および修飾ピリミジン(チオウリジンおよびメチルシトシン)
を包含する。
【0123】
用語「単離核酸」は、本明細書に使用する場合、自然界で通常見出されない形にインビトロ操作された核酸を指す。単離核酸は天然核酸および組換え(非天然)核酸を両方含む。例えば、核酸はヒトから分離されてもよい。
【0124】
転写可能な核酸の転写コピーについて言及する場合、用語「mRNA」、「RNA」および「転写物」は、互換的に使用される。
本発明の治療方法に適した単離核酸の1つの特定の例は、阻害性RNA構築物であり、これは例えば二本鎖であるかまたは以下により詳細に説明する内部塩基対を有する阻害性RNAであるが、これに限定されない。治療に適した他の抑制性RNA構築物には、リボザイムおよびRNAアプタマー等の自己開裂RNA分子が含まれる。
【0125】
特定の実施形態では、阻害性RNA構築物には、TGタンパク質の発現をダウンレギュレートするsiRNAまたはshRNA構築物が含まれる。
本発明は、抑制性RNA構築物をコードするDNA構築物を提供することも理解される。
【0126】
上記に照らすと、RNAに基づいた方法は、TGとIFGの間の相互作用およびTGとIGF受容体ファミリーのメンバーとの間の相互作用のうちの少なくとも一方を阻害するために使用可能であることが理解されよう。RNA干渉、特には(限定ではないが)siRNAおよびshRNAは、同族mRNAの配列特異的開裂による治療する遺伝子標的をサイレンシングする魅力的な方法を提供する。Takeshita and Ochiya (Cancer Sci, 2006, 97: 689-696)は、癌に対するRNA干渉の治療可能性の多数の例を提供するが、この文献を本明細書に援用する。
【0127】
用語「遺伝子」は、本明細書で使用する場合、1または複数のイントロン、エキソン、スプライス部位、オープンリーディングフレーム、および5’および3’のうちの少なくとも一方の非コード調節配列(例えばプロモーター)、および/またはポリアデニル化配列を備え得る、ゲノム内の離散した核酸座、単位または領域を指す。
【0128】
したがって、本発明がRNA分子の合成を指令可能な1つまたは複数のヌクレオチド配列を備えた遺伝子構築物を想定していることが当業者には容易に理解される。かかるヌクレオチド配列は、
(i)対象のヌクレオチド配列によりコードされるRNA配列に実質的に相同なRNA配列を含むRNA分子に転写可能なヌクレオチド配列、
(ii)(i)のヌクレオチド配列の逆相補配列、
(iii)(i)のヌクレオチド配列と(ii)のヌクレオチド配列の組み合わせ、
(iv)任意選択でスペーサー配列により分離された、(i)、(ii)または(iii)のヌクレオチド配列の複数のコピー、
(v)スペーサー配列により分離された、(i)のヌクレオチド配列と(ii)のヌクレオチド配列の組み合わせであって、(ii)のヌクレオチド配列は(i)のヌクレオチド配列の逆の反復配列を表すもの、および
(vi)スペーサー配列が前記組み合わせからスプライシングされる介在配列(イントロン)を含む、(v)に記載の組み合わせ、
からなる列挙から選択される。
【0129】
ヌクレオチド配列がイントロンでないスペーサー配列により分離された逆反復配列を含む場合、転写されると、該イントロンでないスペーサー配列の存在は逆向きの反復配列の互いの結合によるステムループ構造の形成を促進する。イントロンでないスペーサー配列
の存在により、結果として形成される転写RNA配列(本明細書では「転写物」とも呼ぶ)は、本明細書で「ヘアピン」とも称される、実質的に一つの片に止まる。代わりに、ヌクレオチド配列が、スペーサー配列がイントロン配列を含む逆反復配列を含む場合、転写されると、イントロン配列の一方の側におけるイントロン/エキソンスプライス結合配列の存在は、ループ構造を生じさせるものの除去を促進する。生じた転写物は、任意選択で突出した3’配列を一方または両方の鎖に備えた二本鎖RNA分子を含む。そのような二本鎖RNA転写物は本明細書では「完全ヘアピン」と呼ばれる。RNA分子は、二本鎖DNA配列の領域で生じる一本鎖DNAの「膨らみ」を備えた単一のヘアピンまたは複数のヘアピンを有していてもよい。
【0130】
用途によって、RNA分子は単一の標的に向けられてもよいし、または代わりに複数の標的に向けられてもよい。
さらなる一般的な態様では、本発明は、TGと本発明の基質タンパク質との間の相互作用を調節する治療薬をスクリーニング、設計、操作、または生産する方法に関する。
【0131】
特定の実施形態は、「模倣体」であってもよい治療薬を識別、スクリーニング、設計、操作、または生産することを想定する。用語「模倣体」は、本明細書では、タンパク質またはペプチドの特定の機能的領域または構造的領域に似せるように設計された分子を指すために使用され、その範囲内には、当該技術分野でよく理解されている「アゴニスト」、「アナログ」および「アンタゴニスト」という用語が含まれる。したがって、特定の好ましい実施形態では、治療薬は阻害剤である。別の好ましい実施形態では、治療薬は活性剤である。
【0132】
1実施形態では、本発明のTGと基質タンパク質の間の相互作用を模倣するアゴニストが生産される。そのような分子は、創傷治癒および皮膚再生等に必要とされる細胞移動および/または細胞増殖の刺激剤としての有用性があり得る。
【0133】
別の実施形態では、本発明のTGと基質タンパク質の間の相互作用を防止または阻害するアンタゴニストが生産される。そのような分子は、細胞移動および/または細胞増殖の阻害剤としての有用性があり得る。そのため、有用な抗腫瘍剤を構成し、また、粥状動脈硬化、乾癬等の皮膚障害、および異常な細胞増殖によって生じる肥厚性瘢痕の治療にも有用である。
【0134】
特定の実施形態では、TGのGDP結合ポケットに結合されたGDPの構造的および分子的相互作用に基づいてGDPを除去する薬剤などの模倣体を設計することが望ましい可能性がある。これらの実施形態によれば、模倣体は、主に正に荷電し、天然では疎水性である。
【0135】
除去されたGDPのさらなる結合を防止することによりTGを永続的に活性にするよう模倣体が設計された別の好ましい実施形態では、そのような模倣体は、成熟VNの53−64位のアミノ酸に対応するポリアニオン部位に基づいて設計され得る。
【0136】
代わりに、模倣体は、TGの活性部位中の残基に不可逆的に結合するペプチドに基づいて設計されてもよい。適切なモデル阻害性ペプチドは、上述したAcP(DON)LPF−NH2であってもよい。
【0137】
当業者は、当該技術分野で周知の任意の数の方法を使用して、本発明の治療薬を識別し得ることに気づくだろう。
一般に、本発明の治療薬は、Nestler & Liu, 1998, Comb. Chem. High Throughput Screen. 1 113 およびKirkpatrick et al, 1999, Comb. Chem. High Throughput Screen 2 2
11に記載されているような方法により、コンビナトリアルライブラリーを含む合成化学ライブラリー等の分子ライブラリーをスクリーニングすることにより識別可能である。
【0138】
Kolb, 1998, Prog. Drug. Res. 51 185に検討されているような方法によって、天然分
子のライブラリーをスクリーニング可能であることも想定される。
治療薬の設計のより合理的なアプローチは、当該技術分野で周知であるように、放射線結晶学、NMR分光分析、コンピュータ支援の構造データベースのスクリーニング、コンピュータ支援のモデリング、または、分子結合の相互作用を検出するより伝統的な生物物理学的技術を使用することが可能である。
【0139】
創薬への構造的な生物情報科学アプローチの概説は、Fauman et al, 2003, Meth. Biochem. Anal. 44: 477に提供されている。
コンピュータ支援の構造データベースのスクリーニングおよび生物情報科学アプローチは、本発明の治療薬、特にアゴニストおよび/またはアンタゴニスト分子を識別および/または操作するための手順としてますます利用されるようになっている。データベースの検索方法の例は、いずれもタンパク質モデリングおよびタンパク質活性の構造的模倣へより一般的な計算アプローチに関する米国特許第5,752,019号ならびに国際公開第97/41526号(EPO模倣体の同定に関する)および米国特許第7,158,891号ならびに米国特許第5,680,331号に見出され得る。
【0140】
一般に、他の適用可能な方法には、分子相互作用を識別する任意の種々の生物物理学的技術が含まれる。例えば、競合放射性リガンド結合アッセイ、電気生理学、分析超遠心法、マイクロ熱量計測、表面プラズモン共鳴、および光学式バイオセンサに基づく方法等の、潜在的に有用な技術に適用可能な方法がCURRENT PROTOCOLS IN PROTEIN SCIENCE Eds. Coligan et al, (John Wiley & Sons, 1997)のChapter 20で提供され、この文献を本明細書に援用する。
【0141】
当業者には、調節因子、特には治療剤が、限定ではないが酵母2−ハイブリッド法等の相互作用アッセイで識別されるような、結合パートナーの形であってもよいことが理解される。2−ハイブリッド選別法は、上記のCURRENT PROTOCOLS IN PROTEIN SCIENCEのChapter 20で提供される、この文献を本明細書に援用する。
医薬組成物
本発明は、TGに関連する疾患、障害および状態のうちの少なくとも一つ、より好ましくは細胞移動および細胞増殖のうちの少なくとも一方に関連する疾患、障害および状態のうちの少なくとも一つの治療に特に有効または適切な医薬組成物を想定している。本発明の医薬組成物は、前記方法のいずれか一つによって識別された治療薬を含んでもよい。
【0142】
代わりに、本発明の医薬組成物は、
(i)単離TGまたはその断片、
(ii)単離TG基質またはその断片、
(iii)単離IGFアミノ酸配列、またはそのアナログ、もしくは細胞外マトリックスと結合または相互作用する単離ポリペプチドまたはその断片、
(iv) TGとIGFの間の相互作用の調節因子
から成るグループから選択された物質を含んでもよい。
【0143】
好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物はさらにIGFを含む。
好ましくは、単離TG基質は、グルタミンドナー基質およびリジンドナー基質から選択される。適切なグルタミンドナー基質の非制限的な例は、NQEQVSPL(配列番号10)およびEAQQIV(配列番号11)である。さらに、非制限な適切なリジンドナー基質はFKGG(配列番号12)である。
【0144】
単離TG基質およびIGFを含む医薬組成物を包含する実施形態では、IGFが相補的なトランスグルタミナーゼ基質に結合されてもよく、および/またはIGFが第2の「自由な」トランスグルタミナーゼ基質に結合されてもよいことがさらに想定される。
【0145】
IGFが第2の自由なTG基質に結合することを想定する実施形態では、自由なTG基質は、(Gly4Ser)nを含むがこれに限定されない可撓性リンカー配列を好ましく
は介してIGFのN末端に組み込まれ、他のタンパク質と自由に相互作用することが可能である。国際公開第04/069871号は、適切なリンカー配列の一般的な例を提供しており、本明細書に援用する。いかなる特定の理論によって束縛されることも望まないが、N末端の基質配列は、正常な局所のトランスグルタミナーゼ活性を介して1つまたは複数のECMタンパク質に結合し、ECMに対する比較的永続的な結合を形成することが想定される。その後、IGFは恐らくIGF−1Rに結合し、天然TG部位を介して取り付けられ、IGF−1RとECMの間に内在化しない複合体を形成するだろう。
【0146】
IGFに単離された相補的TG基質が結合されることを想定した一般的な実施形態では、好ましくは、例えばNQEQVSPL(配列番号10)を含むがこれには限定されない相補的TG基質はグルタミンドナー基質である。グルタミンドナー基質はIGFにおいて天然TG基質に結合し、その反応性を遮断すると想定される(IGFとIGF1R等のその同族受容体との間の非共有結合の相互作用は遮断しない)。いかなる特定の理論によって束縛されることも望まないが、結果は、IGFアナログがIGF1Rに結合するが、さらなるTGにより媒介される工程は受けないという能力を備える。これらの実施形態によれば、IGFに結合された単離された相補的TG基質は阻害剤として機能し得ることが理解される。
【0147】
好ましくは、IGFと相補的TG基質との間の結合は、TG活性により生じる。
本発明の医薬組成物の特定の実施形態では、細胞内へ内在化できないIGF含有複合体に相当する治療薬を含むことが望ましい場合があり得る。好ましい実施形態では、そのような内在化不能なIGF含有複合体すなわち治療薬は、IFGを、細胞外マトリックスタンパク質と結合または相互作用する単離ポリペプチドまたはその断片と共に含み得る。適切な単離ポリペプチドの非制限的な例は、FNからのコラーゲン結合配列を含む単離ポリペプチドである。特定の理論によって束縛されることは望まないが、これらの実施形態によれば、前記単離ポリペプチドへのIGF−Iの永続的な取り付けは、IGF−Iの取り付け位置においてインテグリン−TG2−IGF1R複合体を共に結合し、この複合体を細胞外コラーゲンマトリックスに取り付け、従ってこの複合体の内在化を阻害すると想定される。代替の好ましい実施形態では、内在化しないIGFは、そのN末端を介して、血流から離れて組織に止まるのに十分小さいが、細胞(0.5−10マイクロメートル程度)内に内在化されるには大きすぎる粒子に取り付け可能な、IGFの形をとることが可能である。これらの実施形態によれば、IGFは、大きすぎて内在化不能な合成粒子に結合されるだろう。IGFは、Hisタグを使用した金属親和性を介して、またはN末端システインを用いた天然の化学的ライゲーションを介して取り付けられ得ることが想定される。
【0148】
適切には、医薬組成物はさらに、医薬として許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む
「医薬として許容される担体、希釈剤、または賦形剤」とは、全身投与に安全に使用可能な固体または液体の充填剤、希釈剤、またはカプセル封入物質を意味する。特定の投与径路に基づいて、当該技術分野において周知の種々の担体が使用可能である。これらの担体は、糖、デンプン、セルロースおよびその誘導体、麦芽、ゼラチン、タルク、硫酸カルシウム、植物油、合成油、ポリオール、アルギン酸、リン酸緩衝溶液、乳化剤、等張生理
食塩水および塩、例えば無機酸塩(例えば塩酸塩、臭化物および硫酸塩)、有機酸、例えば酢酸、プロピオン酸およびマロン酸塩、ならびに発熱物質を含まない水、を含む群から選択され得る。
【0149】
医薬として許容される担体、希釈剤および賦形剤について記載されている有用な参考文献は、「レミントンの薬剤学(Remington's Pharmaceutical Sciences )」、(米国ニュージャージー州所在のマック出版(Mack Publishing Co. )、1991)である。この文献の記載内容は、本明細書に援用する。
【0150】
本発明の組成物を患者に提供するために、任意の安全な投与経路が用いられ得る。例えば、経口、直腸、非経口、舌下、口内、静脈内、関節内、筋肉内、皮内、皮下、吸入、眼内、腹腔内、脳室内、経皮投与等が用いられ得る。筋肉内および皮下注射は、例えば免疫治療組成物、タンパク質ワクチンおよび核酸ワクチンの投与に適している。遺伝子治療の場合、組織中へのエレクトロポレーションまたはリポソームトランスフェクションの使用を想定しているが、薬をDNAと共に細胞へトランスフェクトしてもよい。
【0151】
剤形としては、錠剤、分散液、懸濁液、注射液、溶液、シロップ、トローチ、カプセル、座薬、エアロゾル、経皮パッチ等が挙げられる。これらの剤形には、制御放出するために特別に設計された制御放出用デバイス、あるいは制御放出様式でも作用するように改良されたその他の型のインプラントを注入または植設することも含み得る。治療薬の制御放出は、疎水性ポリマー、例えばアクリル樹脂、蝋、高級脂肪族アルコール、ポリ乳酸およびポリグリコール酸、ならびにある種のセルロース誘導体、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースで治療薬を被覆することにより実行され得る。さらに制御放出は、その他のポリマーマトリックス、リポソームおよびミクロスフェアのうち少なくともいずれかを用いることにより実行され得る。
【0152】
経口または非経口投与に適した本発明の組成物は、各々が所定量の1つまたは複数の本発明の治療薬を含むカプセル、サシェ、または錠剤等の不連続な単位として示されてもよいし、または粉剤または顆粒として、または水性液の溶液もしくは懸濁液、非水性の液体、水中油滴型エマルジョン、または油中水滴型エマルジョンとして示されてもよい。そのような組成物は、どのような薬学の方法により調製されてもよいが、すべての方法は上述の1つまたは複数の薬を、1つまたは複数の必然成分を構成する担体と組み合わせる工程を含む。一般に、組成物は、本発明の薬を、液体担体または微粉固体担体もしくはその両方と均一かつ徹底的に混合し、次に、必要な場合には、生成物を所望の体裁に成形することにより調製される。
【0153】
上記の組成物は、薬剤の処方に適合する方法で、かつ薬学的に有効な量で投与されればよい。患者に投与される用量は、本発明に関しては、適切な期間に亘って、患者に有効な応答をもたらすのに十分なものであるべきである。投与されるべき作用物質の量は、治療を受ける対象者の年齢、性別、体重および全身健康状態など、対象者に応じて、かつ担当医の判断によって変わるであろう要因に応じて決めればよい。
治療方法
本発明は、本明細書に記載されている、上記方法のうちのいずれか一つに従ってトランスグルタミナーゼ(TG)に関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つの治療に有効な治療薬を投与することにより、TGに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つを治療する方法および医薬組成物を提供する。
【0154】
好ましくは、TGに関連する疾患、障害および症状のうちの少なくとも一つは、細胞移動および細胞増殖のうちの少なくとも一方に関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つである。
【0155】
好ましい実施形態では、細胞移動および細胞増殖の少なくとも一方に関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つは、創傷治癒、乾癬、粥状動脈硬化、癌、化学療法に抵抗性の腫瘍、火傷、潰瘍および肥厚性瘢痕から成るグループから選択される。
【0156】
別の好ましい実施形態では、トランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つは、自己免疫疾患である。
より好ましくは、自己免疫疾患は糖尿病であり、さらに好ましくはI型糖尿病である。
【0157】
上記治療方法および医薬組成物は、哺乳動物の予防または治療に適用可能であることが理解される。哺乳動物はヒトおよび非ヒト哺乳動物を含み、非ヒト哺乳動物は例えば家畜(例えばウマ、ウシおよびヒツジ)、伴侶動物(例えばイヌおよびネコ)、実験動物(例えばマウス、ラットおよびモルモット)および演技動物(例えば、競走馬、グレーハウンド犬およびラクダ)、異種間臓器移植用の細胞、臓器、および組織の供給源として使用される動物が含まれるが、これらに限定されない。
【0158】
本発明は、肌質または皮膚の外観を改善または向上するために、本発明の治療薬および医薬組成物のうちの少なくとも一方が投与される美容処理方法も想定している。
そのような治療は、異常な皮膚細胞増殖に起因する乾癬および肥厚性瘢痕等の皮膚障害の予防または治療を含み得る。
【0159】
代わりに、第2の部位への腫瘍細胞の移動を遮断することにより腫瘍転移が予防または阻害される治療法が想定される。さらに、細胞増殖の遮断による癌の治療方法も想定される。
【0160】
また、IGF媒介性のまたはIGFに関連する化学療法に抵抗性の腫瘍の治療における、TGとIGFの間の相互作用を調節する方法が想定される。
また、IGF−1R媒介性のまたはIGF−1Rに関連する化学療法に抵抗性の腫瘍の治療における、TGとIGF−1Rの間の相互作用を調節する方法が想定される。
【0161】
本明細書に記載されている細胞移動および細胞増殖のうちの少なくとも一方を促進する方法は、インビトロまたはエキソビボの細胞培養技術ならびに動物の予防方法および治療方法のうちの少なくとも一方にも関し得ることが理解される。
【0162】
本発明が容易に理解され、実際に実施できるように、以下の非制限的な実施例を提供する。
実施例
実施例1 IGF−Iはトランスグルタミナーゼ酵素により架橋する部位を含む
ヒトでは、トランスグルタミナーゼ(TG)は9つの密接に関連する酵素からなるファミリーであるが、そのうちの5つだけしか詳しく研究されていない。現在までに研究されたTGは非常に類似する基質選択性を共有し、相同性の研究は残りの4つも例外ではないことを示唆している。より正確に言えば、TGは主として、その時間的および空間的発現ならびにそれらの活性化機構が異なっている。
【0163】
TGの最も一般的な役割は、選択されたグルタミン残基とリジン残基の間のイソペプチド結合形成の触媒と、同時のアンモニウム放出である。しかしながら、TGは、グルタミン残基の加水分解による脱アミドも触媒することが見出されており、最近では、加水分解によるグルタミン酸およびリジン残基への架橋反応の部分的逆転も触媒することが分かっている。
TG2、すなわち組織TGは、XIII因子後の最もよく特徴付けられたTGである。T
G2は身体内に遍在し、細胞質内、細胞外マトリックス(ECM)内、および細胞表面に多量に見出される。細胞外TG2は正常な状況下では不活性であるが、組織が損傷すると直ちに活性化される。
本実験では、IGF−IをFXIIIおよびグルタミン(Q)またはリジン(K)のいずれかのドナーTG基質ペプチドで官能化したPEGとインキュベートした。IGF−I(図1a)に対するモノクローナル抗体を使用したウエスタンブロットは、1時間後にIGF−IがQドナーPEGに定量的に組み込まれたが、K−ドナーPEGはそうではなく、IGF−IがTG Kドナー部位を含むことを示している。
【0164】
IGF−IのC末端の「Dドメイン」は、溶液中で恐らく非常に柔軟であり、以下のアミノ酸配列−61CAPLKPAKSA70−OH(配列番号13)を有する。本願発明者は、このDドメインが、K68におけるTGの作用に関する従来知られていなかった部位を表し、IGF−IのECMおよび/または凝血への共有結合による組み込みにつながると見ている。
【0165】
この知見を確認するために、本願発明者はFXIIIではなくTG2と、プローブとしての公知のTG2Glnドナー基質グルカゴン(Gn)とを使用して、上記実験を繰り返した(図4)。驚いたことに、この反応(レーン7)は広範囲の分子量種を生産し、これは高次のIGF−I−Gnポリマーが形成されたことを示している。同様に、TG2(レーン2)と反応させると、IGF−IのみでIGF−Iオリゴマーに対応する一連のバンドを生じた。これはFXIIIについては見られず(図示しない)、IGF−IがTG2(FXIIIではない)に対するGlnドナー基質を含むことを実証している。レーン2の75kDaよりも大きいバンドは、見たところIGF−IとTG2自体の間の共有結合複合体の形成によるものであり、IGF−Iの重合も明白である。Gn(レーン7)とIGF−Iの反応も重合体種を生産した。(IGF−I)GnGnに一致する分子量のバンドを矢印で示す。
【0166】
これらの予備的知見に基づいて、本願発明者は、IGF−Iシグナル伝達経路の現在のモデルに対する多くの主な改変を提案する。これは図2に要約される。ステップ1:ホメオスタシスの状態下で、インテグリンがECM(例えばフィブロネクチン)に結合されるか、TG2は不活性であり、受容体は自由であるか固定化された成長因子に結合される。ステップ2:ビトロネクチンがフィブロネクチンを置き換えて、TG2を活性化する。ステップ3:TGが受容体を輸送媒体に結合する。ステップ4:脂質ラフトを介してクラスリン被覆ピットへと輸送する。ステップ5:初期のエンドソームでは、輸送媒介物質の同一性は、シグナル伝達の方向および性質を決定する。関連タンパク質に関する構造研究
IGF−IはIGF1Rの3つのN末端ドメインにより境界を形成されたポケットに結合することが知られている。EpaおよびWardは、この複合体の計算3Dモデルを生産し、この相互作用に関するすべての現時点での公知情報に適合させた1。興味深いこと
に、この構成では、DドメインのLys残基が露出され、それらをもたらす一連の可動性を有するように見える、IGF1RのN末端ドメイン上のGIn 14および15に非常に接近させる移動の範囲を有するように見える(図3b)。ExPASyプロテオミクスサーバ(図3a)に対する公知配列の比較は、これらの残基が、IRからのその分岐の次に、実際、鳥からの哺乳動物の分岐の後に続いて、哺乳類のIGF1Rにこれらの残基が現われたことを示すに本願発明者は、進化的に新しい残基が、哺乳動物におけるIGF−Iのシグナル電圧における本質的なステップとして、IGF−IにIGF1Rが架橋されてもよいことを示す。
【0167】
マトリックスに結合されたIGF−Iアイソフォームの役割
IGF−I遺伝子は、1−70位の慙愧が同一であるが、C末端の組織特異的「Eドメイン」ペプチドが幾分異なる少なくとも3つのアイソフォーム変異型を生じさせる11。循
環中で見出される優先種は肝臓で生産されたIGF−Iである。他の組織で生産されたIGF−Iアイソフォームは、元の組織に残る傾向を有する6。このhozi
の後ろの機構は不明である。
【0168】
ヒト肝臓癌とBリンパ球のインビトロ培養物中にスプライスproIGF−IAが見出される一方、proIGF−IC、すなわち加えられた「メカノ成長因子(MGF)」は、伸長または損害に応じて骨格筋細胞により分泌されることが分かっており、筋肥大34の潜在的刺激剤であり、明らかに損傷11の部位へ補充された衛星細胞に作用する。proIGF−Iから成熟IGF−Iへの処理は、セリンプロテアーゼによるR71での開裂により調節されると思われる。突然変異の研究は、この開裂が生じるのにK68が必要とされることを示したものである。本願発明者は、proIGF−IのTGにより触媒された架橋がECM内の生物活性のE−ドメインペプチドを保存し得るという見解である。
【0169】
IGF−I媒介性のIGF1Rの内在化および再利用におけるTG2の役割
本願発明者の見解によると、マトリックスにより結合された非内在性IGF−IによるIGF1Rの刺激は組織の恒常性に関連する一方、血流からのIGF−IのTG媒介性内在化は創傷治癒反応の開始および続行に関連し、悪性の癌で観察されたのと非常に類似の挙動である。
【0170】
しかしながら、このように内在化された大多数のIGF1Rは、活性型で細胞表面に再利用される必要があってもよい。したがって、本願発明者は、IGF−IとIGF1Rの間のTG媒介性の架橋が、元のLysおよびGln残基を産出するために、逆にされる必要を有すると仮定している。これは現在まで報告されていない現象である。しかしながら、本願発明者の見解は、TGにより形成されたイソペプチド結合が、エンドソーム内でTG2により開裂され得るというものである。
【0171】
実施例2
VNのポリアニオン配列からの配列PEDE(sY)(pT)V(sY)DDGEEKNNATVH(配列番号14)は、sYがスルホチロシンでpTがホスホスレオニンであるが、上記の図4のために記載されたようなAutodock Vinaを使用して、活性TG2(PDB ID 2Q3Z)の結晶構造に対して番号が付されている。結果は、ペプチドの最低エネルギーの結合モードが示された図7に示される。これは、GDP結合された不活性TG2内で閉塞された正に荷電した裂け目と、32 kJ/molの計算エネルギーで結合。この方法での結合により、TG2がその不活性状態に戻るのが防止されるだろう。
実施例3
TF2の基質としてのIGF1R
TG2(0.70μM)を、1mM CaCl2、pH7.5の存在下でR&D Systemsから入手可能なIGF−I(25μg/mL)および/またはIGF1Rの組み変え細胞外ドメイン(25μg/mL)と反応させた。この時点で、SDS−PAGEローディング緩衝液を加えることにより反応を停止させた。サンプルを4%−12% SDS−PAGEゲルにかけ、PFDF膜に移し、ヤギ抗ヒトIGF−I一時抗体(1:5000稀釈度)およびHRP結合ウサギ抗ヤギ(1:10,000)を使用してIGF−Iをプローブ化し、かかる化学発光を使用して視覚化している。
【0172】
この分析の論理的根拠は、TG2がIGF−IをIGF1Rへ架橋させ、したがって、IGF1RがTG基質であることを実証するかどうかを特異的に試験することであった。これを可能にするためには、IGF−IおよびIGF1Rの両方がトランスグルタミナーゼ基質を有するだろう。TG2は、ペプチド骨格結合と同程度に本質的に安定なイソペプチド結合を触媒するため、形成された複合体は還元SDS−PAGE状態でも別々に壊さ
れないだろう(ジスルフィドおよび非共有結合の相互作用は破壊される)。
したがって、この分析では、本願発明者はIGF−Iおよび受容体の可溶な組換え細胞外部分をTG2と反応させて、標準ウエスタン法アプローチを使用して、IGF−Iが終わるところでプローブした。反応の「決定的証拠」は、IGF1Rまたはその断片のうちの1つに対応する分子量で現われるIGF−Iの染色である。
【0173】
この分析に使用されたIGF1Rは、還元SDS−PAGEで35、40、125および160kDaという4つのバンドへ分割され、これらは順に、βドメインの2つの変異型、αドメイン、およびαドメインとβドメインが生産の間に互いからタンパク質が開裂されなかった場合の不適当に処理された種に対応する。IGF−Iのすべての公知の結合部位は、受容体のαドメイン上にあり、これは本願発明者は取り付けを予測している場所である。
【0174】
図5を参照すると、レーンが左から右の順に以下の通りに図面に現れる:
分子量マーカー
IGF−Iのみ(約8KDa周囲のバンドを与える)
IGF−I+IGF1R、TG2なし(IGF−Iのみのバンドが見られると予想される)
IGF−I+TG2(多量のIGF−Iポリマーを与える)
IGF1R+TG2、IGF−Iなし(多量のIGF−Iポリマーを与える)
IGF−I+IGF1R+TG2(TG2がIGF−Iを受容体に取り付ける場合は、受容体に対応する分子量にバンドが現われると予測される)
TG2だけ(何も見えないと予測される)、
IGF1Rだけ(何も見えないと予測される)、
分子量マーカー
から選択され、
従って、本願発明者がIGF−I+IGF1R+TG2レーンで確認するのは、他のレーンにも現われないバンドのセットであり、αドメイン、非開裂のα−β構築物および受容体ダイマーの分子量に相当する。これは、TG2がIGF1RおよびIGF−Iのいずれの部位も認識し、これら2つと互いに結合可能であることを強く実証している。
【0175】
実施例4
IGF−IおよびIGF−IIへのTG部位の配置
上記のデータは、IGF−IがリジンドナーTG部位を有すると共に、リジンドナーTG部位の候補であるK68、K27およびK65の3つのリジン残基を有することを示している。架橋における各リジン残基の役割を確認するために、以下の実験を試みる。
【0176】
Ehrbarら14, 15のヒドロゲルシステムで使用されるのと同様に、組み換えIGF−IおよびIGF−IIを、それぞれFXIIIまたはTG2と、合成ビオチン加グルタミンドナーペプチドであるNQEQVSPLK(ビオチン)−OH(配列番号15)と反応させる。反応混合物のトリプシン消化に続いて、ビオチン化断片を、必要ならば、ストレプトアビジンアフィニティにより精製し、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析(MALDI−MS)により識別する。
【0177】
さらに、特定のリジンドナーTGサイトを実証するために、一連のIGF−Iアナログを生成する。これは、IGF−Iの3つのリジン残基のアルギニンへの部位突然変異誘発または置換、ならびに変異型残基をTGに対して未反応としつつ電子トポロジーの変化を最小限にする保存的変異に関与する。組み換えIGFアナログの発現および精製には、cGMPグレードのIGF−Iの生産のために確立された有効な手順を使用する。ビオチン付加されたグルタミンドナーペプチドとの各IGF−Iアナログの反応性は、上述のアプ
ローチを使用して、rIGF−Iに対して評価される。
【0178】
エンドソーム環境と類似の環境でのTGの活性の調査
エンドサイトーシスおよび14または15位のGInでのIGF−Iの繰り返しの取り付けおよび放出により、TG2がIGF1Rの活性化、エンドサイトーシス、および再循環を媒介するか否かを評価するために、エンドソーム環境に似た酸性条件下でのTG媒介性架橋を決定すべく以下の実験を行う。
【0179】
IGF−I−Gln基質共役体を、FlllまたはGlnを用いて調製する。一旦反応が完了すると、アリコートはpHが5〜8の範囲のpH値に調節される。Gln基質からのIGF−Iの開裂は、SDA−PAGE、ウエスタンブロット、およびSDS高速液体クロマトグラフィによってモニタする(HPLC)。
加水分解したGlnがTGに対してなお反応性を有するかをどうかを決定するために、Gln基質同類体を、Gluにより置換された活性Glnと動作させる。標準的なウエスタンブロット法を介して、IGF−Iに対するその活性をスクリーニングする。
【0180】
相補的なアプローチでは、フォスター共鳴伝達(FRET)分析17に適した蛍光団または消光剤で官能化されたTG架橋基質の合成ペプチド類似体がミモトープから作製される。TGによる基質の開裂は、傾向マイクロプレートリーダを使用して、リアルタイムにおいてモニタされる。約6〜約7.4の間のpHの反復サイクリングにより、TG架橋が可逆サイクルであるという我々の仮説を直接試験することが可能となる。
【0181】
IGFシグナル伝達におけるT部位の役割の調査
TG部位でKからRへ置換したIGF−I変異型を、野生型のIGF−Iに対する競合アッセイにおけるモデル細胞培養物の活性について試験する。種々の濃度のIGF−IおよびKからRへ置換したIGF−I変異型で刺激した培養物を、標準プロトコルによる相対的な増殖および移動に関して分析する。
【0182】
細胞培養物上での固定化IGFおよび誘導体の効果の調査
上記実験で強く観察されたFXIIIに対するIGF−Iの高い反応性は、マトリックス結合IGFが、可溶性形とは異なる生物シグナル伝達の役割を果たしていることを強く示唆している。従って、マトリックス結合IGFおよびその誘導体に曝されたときの対象細胞型の挙動を調べた予備研究が行われる。
Ehrbar et al.14, 15により開発されると共に現在使用され、かつ本願発明者によりさら
に開発されたTG架橋ヒドロゲル系は、そのような活動を試験する理想的プラットフォームを示し、その構成が実験者により完全に定義されている分解構造内で細胞が便利にかつ温和にカプセル化される。IGF−I、IGF−II、キメラVN、およびIGF−I構築物、ならびに可能であればproIGF−Iの変異型が、追加インテグリンRGD結合ペプチドを含むか含まずに、ヒドロゲルに組み込まれる。
【0183】
これらのタンパク質の、少なくとも細胞治癒に関する効果、皮膚繊維芽細胞増殖の増殖および移動に関する効果が評価される。
結論
IGF−Iシグナリングネットワークは、最初のかつ最も研究されている生化学系のうちの一つであり、完全には理解できない多くの態様がある。詳細には、Dドメインは多年にわたる文献の論点であるため、距離的に関係する種間では比較的高い保存性が保たれるが、IGF−1のシグナル伝達における明確な役割は同定されていない。
【0184】
多くの異なる(病原)物性系の役割に関して、IGF−1軸は薬剤開発のポピュラーな標的である。IGF−IはECMに組み込まれる特異的部位を有するという本願発明者の
知見は、新しい研究の道を開き、いかにIgF−Iが創傷の治癒応答を調節するかの認識を変えさせるものである。
【0185】
本明細書全体を通して目的としたのは、本発明の好ましい実施形態を説明し、かつ本発明をいずれの一実施形態にも特定の特徴の集合体にも限定しないことであった。したがって、当業者には理解されることであるが、該開示にかんがみて、本発明の範囲を逸脱することなく、例示された特定の実施形態に種々の修正および変更をなすことができる。
【0186】
本明細書中で言及されたコンピュータプログラム、アルゴリズム、特許文献および科学文献は全て、参照により本明細書中で援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つの治療に有効な治療薬をスクリーニング、設計、操作、または生産する方法であって、
候補薬が、
(i)トランスグルタミナーゼ(TG)とインスリン様成長因子(IGF)の間、および(ii)TGとIGF受容体ファミリーのメンバーの間
のうちの少なくとも一方の間の相互作用を調節可能であるかどうか判断する工程を含む方法。
【請求項2】
IGFはIGF−IおよびIGF−IIから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
IGFはIGF−Iである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記IGF受容体ファミリーのメンバーは、IGF−1R、インスリン受容体、インスリン受容体関連受容体およびインスリン−IGFハイブリッド受容体から成るグループから選択される請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記IGF受容体ファミリーのメンバーは、IGF−1R、インスリン受容体およびインスリン−IGFハイブリッド受容体から成るグループから選択される請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記IGF受容体ファミリーのメンバーは、IGF−1Rおよびインスリン−IGFハイブリッド受容体から選択される請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記IGF受容体ファミリーのメンバーは、IGF−1Rである請求項1〜 のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記TGは、FXIII、TG1、TG2、TG3、TG4、TG5、TG6およびTG7から成るグループから選択される請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記TGは、FXIIIおよびTG2から選択される請求項1〜8 のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記TGは、TG2である請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記候補薬は調節因子であると共に、単離ペプチド、単離ポリペプチド、単離核酸および小さな有機分子から成るグループから選択される請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記抗体はモノクローナル抗体である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記調節因子は、アシルドナー基質およびアシルアクセプター基質から選択されたTGのための基質供与部位を調節する請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記基質供与部位はリジンおよびグルタミンから選択された残基を含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記候補薬は選択的な調節因子である請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記調節因子は活性剤および阻害剤から選択される請求項1〜 のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記活性剤は、GDP阻害性TGの活性剤である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記活性剤は、ポリアニオンアミノ酸配列を含む単離ペプチド、単離ポリペプチドおよび単離タンパク質複合体から選択される請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリアニオンアミノ酸配列は、成熟ビトロネクチン(VN)の53−64位のアミノ酸に対応するVNのポリアニオンドメインである請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記阻害剤は、抗体、単離核酸、非架橋の単離IGF、非架橋のIGF受容体ファミリーのメンバー、TG阻害剤、TGの基質供与部位の阻害剤、およびTGの基質供与部位の競合阻害剤から成るグループから選択される請求項16〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記非架橋の単離IGFは、野生型のIGFアミノ酸配列に対するリジン残基およびグルタミン残基のうちの少なくとも一方に突然変異を含む単離変異型IGFである請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記単離変異型IGFは単離IGF−I変異型であり、前記単離IGF−I変異型は、野生型IGF−Iのアミノ酸配列に対する27位のリジン、65位のリジン、68位のリジン、15位のグルタミンおよび40位のグルタミンからなるグループから選択された残基の1つまたは複数の突然変異を含む請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記非架橋のIGF受容体ファミリーは、野生型IGF受容体ファミリーのアミノ酸配列に対するリジン残基およびグルタミン残基のうちの少なくとも一方に突然変異を含む単離IGF受容体ファミリー変異型である請求項20〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記非架橋のIGF受容体ファミリーは、リジン残基およびグルタミン残基のうちの少なくとも一方に突然変異を含む単離IGF1R変異型である請求項20〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
単離IGF1R変異型は、野生型のIGFIR配列に対して159位のリジン、191位のリジン、498位のリジン、530位のリジン、600位のリジン、14位のグルタミン、15位のグルタミン、399位のグルタミン、400位のグルタミン、287位のグルタミン、318位のグルタミン、321位のグルタミン、396位のグルタミン、511位のグルタミン、596位のグルタミン、619位のグルタミンおよび623位のグルタミンから選択された残基の1つまたは複数の突然変異を含む請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記阻害剤はTG特異的阻害剤である請求項16〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
TG特異的阻害剤は3−ハロ−4,5−ジヒドロイソオキサゾール部分を含む請求項26に記載の方法。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれか一項に記載の方法により設計、操作、スクリーニング、または生産された、トランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つの治療に有効な治療薬。
【請求項29】
請求項28に記載の治療薬を含有する、トランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患お
よび症状のうちの少なくとも一つを治療するための医薬組成物。
【請求項30】
トランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つを治療するための医薬組成物であって、
(i)単離トランスグルタミナーゼ(TG)またはその断片、
(ii)単離TG基質またはその断片、
(iii)単離インスリン様成長因子(IGF)のアミノ酸配列またはそのアナログ、もしくは細胞外マトリックスと結合または相互作用する単離ポリペプチドまたはその断片、
(iv)TGとIGFの間の相互作用の調節因子、および
(v)TGとIGF受容体ファミリーのメンバーの間の相互作用の調節因子、
から成るグループから選択された治療薬と、
医薬として許容される希釈剤、担体または賦形剤と、
を含有する医薬組成物。
【請求項31】
単離TG基質は、アシルドナー基質およびアシルアクセプター基質から選択される請求項30に記載の医薬組成物。
【請求項32】
基質供与部位がリジンおよびグルタミンから選択された残基を含む請求項30または請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項33】
前記調節因子は、IGFまたは同族のIGF受容体に結合可能な少なくともIGFのドメインと、ビトロネクチン(VN)もしくはフィブロネクチン(FN)またはVNもしくはFNの少なくともインテグリン結合ドメインとを含む単離タンパク質複合体である請求項30から請求項32までのいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項34】
前記IGFはIGF−IおよびIGF−IIから選択される請求項30〜33のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項35】
IGFはIGF−IIである請求項30〜34のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項36】
前記調節因子は活性剤および阻害剤から選択される請求項30〜35のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項37】
前記活性剤はGDP阻害性TGの活性剤である請求項30〜36のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項38】
前記活性剤は、ポリアニオンアミノ酸配列を含む単離ペプチド、単離ポリペプチドおよび単離タンパク質複合体から選択される請求項30〜37のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項39】
前記ポリアニオンアミノ酸配列は、成熟VNの53−64位のアミノ酸に対応するVNのポリアニオンドメインである請求項30〜38のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項40】
動物におけるトランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つを治療する方法であって、
請求項28に記載の治療薬、請求項29に記載の医薬組成物、および30〜39のいずれか一項に記載の医薬組成物のいずれか一つを前記動物に投与し、それによりトランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つを治療することからなる方法。
【請求項41】
前記トランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つは、細胞の移動および細胞増殖の少なくとも一方に関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つ、および自己免疫疾患から選択される請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記細胞の移動および細胞増殖の少なくとも一方に関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つは、創傷治癒、乾癬、粥状動脈硬化、癌、化学療法に抵抗性の腫瘍、火傷、潰瘍および肥厚性瘢痕から成るグループから選択される請求項40または請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記自己免疫疾患は糖尿病である請求項40〜請求項42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記動物は哺乳動物である請求項40〜43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記哺乳動物はヒトである請求項40〜44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
トランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つを治療する方法であって、
(i)トランスグルタミナーゼ(TG)とインスリン様成長因子(IGF)の間、および(ii)TGとIGF受容体ファミリーのメンバーの間
のうちの少なくとも一方の間の相互作用を調節し、それによりトランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つを治療する工程を含む方法。
【請求項47】
IGFはIGF−IおよびIGF−IIから選択される請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記IGF受容体ファミリーのメンバーは、IGF−1R、インスリン受容体、インスリン受容体関連受容体およびインスリン−IGFハイブリッド受容体から成るグループから選択される請求項46または請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記IGF受容体ファミリーのメンバーは、IGF−1R、インスリン受容体およびインスリン−IGFハイブリッド受容体から選択される請求項46〜48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
IGF受容体はIGF1Rである請求項46〜49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
TGとIGFの間の相互作用を調節する工程は単離変異型IGFを介して行われる請求項46〜50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
TGとIGF受容体ファミリーのメンバーの間の相互作用を調節する工程は抗体を介して行われる請求項46〜51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記抗体はIGF1Rに対する抗体であるかまたはIGF1Rに対して産生された抗体である請求項46〜52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
トランスグルタミナーゼに関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つは、細胞の移動および細胞増殖の少なくとも一方に関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つ、および自己免疫疾患から選択される請求項46〜53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記細胞の移動および細胞増殖の少なくとも一方に関連する障害、疾患および症状のうちの少なくとも一つは、創傷治癒、乾癬、粥状動脈硬化、癌、化学療法に抵抗性の腫瘍、火
傷、潰瘍および肥厚性瘢痕から成るグループから選択される請求項46〜54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記自己免疫疾患は糖尿病である請求項46〜55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記方法は動物の治療方法である請求項46〜56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
単離タンパク質複合体であって、
(i)トランスグルタミナーゼ(TG)またはその断片と、インスリン様成長因子(IGF)またはその断片、および
(ii)TGまたはその断片と、IGF受容体ファミリーのメンバーまたはその断片
のうちの少なくとも一方を含む単離タンパク質複合体。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−520827(P2012−520827A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500005(P2012−500005)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000316
【国際公開番号】WO2010/105302
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(592253275)クイーンズランド ユニバーシティ オブ テクノロジー (13)
【Fターム(参考)】