説明

手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置

【課題】 被験者の体調を簡便にモニタリングすることができる手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置を提供する。
【解決手段】 手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置において、プローブ装置1と、このプローブ装置1を用いた手のひらの血管データ処理装置4とを備え、前記血管データ処理装置4は、静脈走行パターン3による個人認証部5と、前記静脈走行パターン3から被験者の静脈の形態及び直径を計測する静脈測定部6と、この静脈測定部6で計測された前記被験者の静脈の形態及び直径を記憶する第1の記憶装置7と、過去に計測された前記被験者の静脈の形態及び直径を記憶している第2の記憶装置8と、前記第1の記憶装置7と前記第2の記憶装置8に記憶されている前記被験者の静脈の形態及び直径を比較する比較装置9と、この比較装置9からの結果に基づいて、静脈運動を支配する自律神経機能の状態を自動診断する自動診断装置10とを備え、前記被験者の体調をモニタリングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波、あるいは近赤外線光を用いた手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、血管及び自律神経診断には、心電図やレントゲン写真、ホルター心電図による自律神経機能解析などの診断法が用いられていた。これは、病院で記録される24時間の心電図記録のRR間隔の揺らぎから自律神経機能を診断するもので、高価で大掛かりな装置が必要となる。
【0003】
このような技術は、例えば、下記特許文献1及び非特許文献1,2などに開示されている。心拍数や血圧の揺らぎを用いれば、循環系を支配する自律神経機能の診断が可能になり、体調のモニタリングを具現化することができる。しかしながら、これらの診断装置は病院で用いる大掛かりな装置なので、一般の会社で使うことができないという問題がある。
【0004】
また、下記特許文献2には近赤外線光を用いた血糖特定が、下記非特許文献3には近赤外線光を用いた酸化ヘモグロビン濃度の計測を介した酸素代謝の診断が開示されており、これらは既に臨床で行われているが、これらの装置も同じく病院で使用するものであり、大掛かりな装置が必要である。
【0005】
さらに、下記特許文献3には、指静脈の走行パターンを認識する個人認証装置が開示されている。この特許文献3は静脈の走行パターンを用いた個人認証のみに注目したものであり、人体の診断に結びつける情報を取得するための方法に関しての開示はなされていない。
【0006】
また、下記特許文献4には動脈の脈波計測による血管年齢の算出法が開示されているが、動脈圧波形の時系列記録には、動脈を穿刺するか、動脈圧センサーで動脈圧波形時系列曲線を記録する必要があり、身体への侵襲の面からも問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2007−517553号公報
【特許文献2】特表2005−519682号公報
【特許文献3】特開2007−287080号公報
【特許文献4】特開2002−238867号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Yambe T, Yoshizawa M, Fukudo S, Fukuda H, Kawashima R, Shizuka K, Nanka S, Tanaka A, Abe K, Shouji T, Hongo M, Tabayashi K, Nitta S. “Can personality traits predict pathological responses to audiovisual stimulation?”,Biomed Pharmacother. , 2003 Oct;57 Suppl 1:83s−86s.
【非特許文献2】Park S, Rink LD, Wallace JP. “Accumulation of physical activity:blood pressure reduction between 10−min walking sessions”,J Hum Hypertens. ,2008 Jul;22(7):475−82.
【非特許文献3】Wolf T, Lindauer U, Reuter U, Back T, Villringer A, Einhaupl K, Dirnagl U. “Noninvasive near infrared spectroscopy monitoring of regional cerebral blood oxygenation changes during peri−infarct depolarizations in focal cerebral ischemia in the rat”. ,J Cereb Blood Flow Metab. , 1997 Sep;17(9):950−954.
【非特許文献4】Primer to Autonomic Nervous System,ed by Robertson D.,Elservier,2007
【非特許文献5】Haruko Takada,“Proposal of aging score method by acceleration plethysmography.”,Health Evaluation and Promotion,29(5),pp.855−861,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、従来の技術では、血管運動にかかわる自律神経機能診断で体調をモニタリングするには大掛かりな装置が必要であるという問題があった。また、近赤外線光を用いる診断法も大規模装置が必要である。さらに、近赤外線光、あるいは超音波を用いた個人認証技術は過去に開示されているが、血管年齢や自律神経機能の定量診断に結びつける方法論の報告は過去にない。
【0010】
本発明は、上記状況に鑑みて、簡便に被験者の体調をモニタリングすることができる、手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置を提供することを目的とする。
【0011】
より詳細には、個人認証にかかわる静脈走行パターンの認証の際に、静脈との位置関係、及び拍動によって動脈を同定することで、生体認証と同時に静脈の直径および動脈の直径を計算し、それを過去の被験者記録と比較することによって被験者の体調を診断することができる。また、動脈直径の一心拍波形の二次微分波形から血管年齢を計算することができる。更に、長時間計測によって血管径の揺らぎも計測することができ、その計測結果を過去のデータと比較参照することで現在の被験者の自律神経の状態を診断することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置において、プローブ装置と、このプローブ装置を用いた手のひらの血管データ処理装置とを備え、前記血管データ処理装置は、静脈走行パターンによる個人認証部と、前記静脈走行パターンから被験者の静脈の形態及び直径を計測する静脈測定部と、この静脈測定部で計測された前記被験者の静脈の形態及び直径を記憶する第1の記憶装置と、過去に計測された前記被験者の静脈の形態及び直径を記憶している第2の記憶装置と、前記第1の記憶装置と前記第2の記憶装置に記憶されている前記被験者の静脈の形態及び直径を比較する比較装置と、この比較装置からの結果に基づいて、静脈運動を支配する自律神経機能の状態を自動診断する自動診断装置とを備え、前記被験者の体調をモニタリングすることを特徴とする。
【0013】
〔2〕手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置において、プローブ装置と、このプローブ装置を用いた手のひらの血管データ処理装置とを備え、前記血管データ処理装置は、静脈走行パターンによる個人認証部と、前記静脈走行パターンから被験者の静脈の形態及び直径を計測する静脈測定部と、前記個人認証部で得られた静脈走行パターンとの位置関係と拍動から動脈を同定し、この動脈の形態及び直径を測定する動脈測定部と、前記静脈測定部と前記動脈測定部で計測された前記被験者の静脈と動脈の形態及び直径を記憶する第3の記憶装置と、過去に計測された前記被験者の静脈と動脈の形態及び直径を記憶している第4の記憶装置と、前記第3の記憶装置と前記第4の記憶装置に記憶されている前記被験者の静脈と動脈の形態及び直径を比較する比較装置と、この比較装置からの結果に基づいて、静脈運動及び動脈運動を支配する自律神経機能の状態を自動診断する自動診断装置とを備え、前記被験者の体調をモニタリングすることを特徴とする。
【0014】
〔3〕手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置において、プローブ装置と、このプローブ装置を用いた手のひらの血管データ処理装置とを備え、前記血管データ処理装置は、静脈走行パターンによる個人認証部と、この個人認証部で得られた静脈を同定し、この静脈のヘモグロビン飽和度を測定する静脈酸化ヘモグロビン飽和度測定部と、前記個人認証部で得られた静脈走行パターンとの位置関係と拍動から動脈を同定し、この動脈のヘモグロビン飽和度を計測する動脈酸化ヘモグロビン飽和度測定部と、前記測定部で計測した被験者の静脈及び動脈の酸化ヘモグロビン飽和度を記憶する第5の記憶装置と、過去に計測された前記被験者の静脈及び動脈の酸化ヘモグロビン飽和度を記憶している第6の記憶装置と、前記第5の記憶装置と前記第6の記憶装置に記憶されている静脈及び動脈の酸化ヘモグロビン飽和度を比較する比較装置と、この比較装置からの結果に基づいて、臓器末梢循環や呼吸機能の状態を自動診断する自動診断装置とを備え、前記被験者の体調をモニタリングすることを特徴とする。
【0015】
〔4〕上記〔2〕記載の手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置において、測定した動脈直径の一心拍分の時系列変化を記録することで、解析された血行動態時系列曲線から心機能及び血管機能を診断し、更に、動脈直径時系列変化曲線の一次微分波形、二次微分波形を計算して血管年齢を推定することで、体調をモニタリングすることを特徴とする。
【0016】
〔5〕上記〔1〕、〔2〕又は〔3〕記載の手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置において、前記個人認証時に前記被験者の体表の計測部位を前記プローブ装置に長時間接触させて保持することで、動脈直径の揺らぎ、静脈直径の揺らぎ、ヘモグロビン濃度の揺らぎを計測し、これらの揺らぎの計測結果に基づいて自律神経機能を診断することで、体調をモニタリングすることを特徴とする。
【0017】
〔6〕上記〔1〕、〔2〕又は〔3〕記載の手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置において、同時に心電図を計測することで、心電図R波のピークから動脈脈波の立ち上がりまでの遅れ時間を計算し、動脈の脈波伝播速度を計算することで、血管弾性を計算して体調をモニタリングすることを特徴とする。
【0018】
〔7〕上記〔1〕、〔2〕又は〔3〕記載の手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置において、同時に心電図を計測することで、心電図RR間隔と脈波伝播速度のゆらぎを計算し、動脈圧反射機能を定量診断することで、体調をモニタリングすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
【0020】
(1)手のひらの静脈走行パターンによる生体認証と同時に、動脈・静脈の血管の直径の計測を行うことにより、血管運動支配の自律神経機能解析を介した体調モニタリングを行うことができる。
【0021】
本発明では、手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を行っているため、指の静脈走行パターンによる生体認証に比べて計測する静脈の数が多く、また太さも大きいことから、より安定した認証を行うことができる。また、指の血管は数が少なく細いので、寒さで収縮した時などに認証の信頼性に影響があるが、手のひらの血管を用いた場合はそのような影響が低減される。
【0022】
(2)手のひらの静脈走行パターンによる生体認証と同時に酸化ヘモグロビン飽和度を測定することにより、臓器末梢循環や呼吸機能の状態を自動診断して、被験者の体調をモニタリングすることができる。
【0023】
(3)動脈の形態及び直径を測定し、その一心拍分の時系列変化を記録することによって得られた血行動態時系列曲線から、心機能や血管機能を診断し、更に、動脈直径時系列変化曲線の一次微分波形、二次微分波形を計算して血管年齢を推定することで、体調をモニタリングすることができる。
【0024】
(4)生体認証を行う際、体調診断装置に体表の計測部位を長時間(例えば、10秒周期のマイヤー波成分をチェックする場合、安全域を考えて10回分の100秒)接触させておくことで、動脈の直径の揺らぎ、静脈の直径の揺らぎ、ヘモグロビン濃度の揺らぎを計測し、それらの計測結果に基づいて自律神経機能を診断することで、体調をモニタリングすることができる。
【0025】
また、その周期性の揺らぎ成分だけでなく、フラクタル次元などの非線形要素も計算することで、体調の全体論的な診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施例を示す手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置のブロック図である。
【図2】本発明の第2実施例を示す手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置の血管のデータ処理装置のブロック図である。
【図3】本発明の第2実施例を示す手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置の概略構成を示す図である。
【図4】本発明の第3実施例を示す手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置の血管データ処理装置のブロック図である。
【図5】本発明に係る近赤外線光による静脈認証時に得られた静脈走行パターン画像の一例を示す図である。
【図6】本発明に係る超音波による静脈認証時の動脈直径推定法の一例を示す図である。
【図7】本発明に係る超音波による静脈認証時の動脈直径の時間変化の時系列曲線の一例を示す図である。
【図8】本発明で計測した動脈直径の時間変化の時系列曲線において、末梢を変動させて反射波を変化させた時の一心拍分の時系列変動波形を示す図である。
【図9】本発明で計測した動脈直径の時間変化の時系列曲線とその二次微分波形を示す図である。
【図10】本発明に係る動脈直径の時間変化の時系列曲線の二次微分波形におけるa波、b波、d波から計算されたパラメータと、年齢との相関を示す一次回帰相関直線の近似値を示す図である。
【図11】本発明の手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置の診断概要を示す図である。
【図12】本発明で計測した心電図波形と脈波の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置は、プローブ装置と、このプローブ装置を用いた手のひらの血管データ処理装置とを備え、前記血管データ処理装置は、静脈走行パターンによる個人認証部と、前記静脈走行パターンから被験者の静脈の形態及び直径を計測する静脈測定部と、この静脈測定部で計測された前記被験者の静脈の形態及び直径を記憶する第1の記憶装置と、過去に計測された前記被験者の静脈の形態及び直径を記憶している第2の記憶装置と、前記第1の記憶装置と前記第2の記憶装置に記憶されている前記被験者の静脈の形態及び直径を比較する比較装置と、この比較装置からの結果に基づいて、静脈運動を支配する自律神経機能の状態を自動診断する自動診断装置とを備え、前記被験者の体調をモニタリングする。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0029】
図1は本発明の第1実施例を示す手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置のブロック図であり、図1(a)はその体調診断装置の全体構成図、図1(b)はその体調診断装置のプローブ装置のブロック図である。
【0030】
これらの図において、1は超音波を用いたプローブ装置であり、超音波計測装置1a、超音波信号発生器1b、受信回路1c、プローブ1dからなる。2は診断の対象となる手のひらであり、2aは被験者の手のひらの皮膚、2bはその皮膚2a内の血管である。
【0031】
超音波計測装置1aは、超音波信号発生器1bからの信号により、被験者の手のひらの皮膚2aにあてられたプローブ1dから超音波パルスを送出する。送出された超音波は、血管2bで反射されたエコー信号となり、プローブ1dを介して受信回路1cで受信され増幅処理されて、後述する血管データ処理装置4に送られる。なお、ここでは、超音波を用いたプローブ装置1としたが、近赤外線光の光源(図示なし)から近赤外線を手のひら2の血管2bに照射し、反射された光信号を受光素子で受信して血管データ処理装置4に取り込むようにしてもよい。
【0032】
また、3はプローブ装置1で計測された手のひら2の静脈走行パターン、4は血管データ処理装置であり、この血管データ処理装置4は、手のひら2の静脈走行パターンによる個人認証部5と、認証と同時に被験者の静脈の形態及び直径を計測する静脈測定部6と、この静脈測定部6で計測された被験者の静脈の形態及び直径を記憶する第1の記憶装置7と、過去に計測された被験者の静脈の形態及び直径を記憶している第2の記憶装置8と、比較装置9と、自動診断装置10とを備えている。比較装置9では、第1の記憶装置7と第2の記憶装置8に記憶されている被験者の静脈の形態及び直径を比較し、自動診断装置10では、この比較装置9からの結果に基づいて、静脈運動を支配する自律神経機能の状態を自動診断する。上記した非特許文献4に開示されているように、静脈の血管運動は、自律神経系の制御のうち主として交感神経系のアルファアドレナリン作動性神経の支配を受けており、特に皮膚の静脈床は豊富な神経支配を受けていることが知られている。つまり、皮膚の静脈の直径の変動は自律神経機能の状態を鋭敏に反映する。よって、静脈の形態及び直径を過去の記録と比較することで、被験者の体調をモニタリングすることができる。
【0033】
図2は本発明の第2実施例を示す手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置の血管のデータ処理装置のブロック図である。
【0034】
この実施例では、静脈だけでなく動脈の計測も同時に行うことによって体調診断を行う。血管データ処理装置11は、静脈走行パターンによる個人認証部12と、静脈測定部13と、個人認証部12で得られた静脈走行パターンとの位置関係と拍動から動脈を同定し、その動脈の形態及び直径を計測する動脈測定部14と、静脈測定部13と動脈測定部14で計測された被験者の静脈と動脈の形態及び直径を記憶する第3の記憶装置15と、過去に計測された被験者の静脈と動脈の形態及び直径を記憶している第4の記憶装置16と、比較装置17と、自動診断装置18とを備えている。比較装置17では、第3の記憶装置15と第4の記憶装置16に記憶されている被験者の静脈と動脈の形態及び直径を比較する。また、自動診断装置18では、比較装置17からの結果に基づいて、被験者の自律神経機能の状態を自動診断する。このように、第1実施例における静脈の比較診断に加えて動脈も比較診断することで、動脈運動を支配する自律神経機能を診断し、被験者の体調をモニタリングすることができる。
【0035】
図3は本発明の第2実施例を示す手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置の概略構成を示す図であり、図3(a)は手のひらをプローブ装置上にセットした状態を示す図、図3(b)はプローブ装置によって得られた手のひらの静脈走行パターンを示す図である。
【0036】
被験者は、図3(a)に示すように、手のひら2を超音波、あるいは近赤外線光を用いたプローブ装置1上にセットする。すると、プローブ装置1によって手のひら2の静脈走行パターン3が得られる。この静脈走行パターン3の認識により個人認証を行い、同時に、静脈走行パターン3との位置関係と拍動から動脈の位置を同定する。そして、計測した静脈・動脈の形態及び直径を過去の記録と比較することにより、自律神経機能を診断し、体調モニタリングを行うことができる。
【0037】
図4は本発明の第3実施例を示す手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置の血管データ処理装置のブロック図である。
【0038】
この実施例では、血管データ処理装置21は、静脈走行パターンによる個人認証部22と、個人認証部22で得られた静脈を同定し、その静脈のヘモグロビン飽和度を測定する静脈酸化ヘモグロビン飽和度測定部23と、個人認証部22で得られた静脈走行パターンとの位置関係と拍動から動脈を同定し、そのヘモグロビン飽和度を計測する動脈酸化ヘモグロビン飽和度測定部24と、測定部23,24で計測した静脈及び動脈の酸化ヘモグロビン飽和度を記憶する第5の記憶装置25と、過去に計測された被験者の静脈及び動脈の酸化ヘモグロビン飽和度を記憶している第6の記憶装置26と、比較装置27と、自動診断装置28とを備えている。比較装置27では、第5の記憶装置25と第6の記憶装置26に記憶されている静脈及び動脈の酸化ヘモグロビン飽和度を比較し、自動診断装置28では、この比較装置27からの結果に基づいて、臓器末梢循環や呼吸機能の状態を診断し、被験者の体調をモニタリングすることができる。
【0039】
なお、この第3実施例では、酸化ヘモグロビン飽和度のみから体調診断を行うようにしたが、第2実施例と組み合わせて、同時に静脈及び動脈の形態及び直径を計測し、自律神経解析機能を介した体調診断を行うようにしてもよい。
【0040】
図5は本発明に係る近赤外線光による静脈認証時に得られた静脈走行パターン画像の一例を示す図である。ここでは、小指静脈(コントラスト調整後)が示されている。この静脈走行パターン画像から静脈の直径を推定することができるので、これを過去の記録と比較することで計測時における自律神経機能の状態を診断することができ、被験者の体調のモニタリングを行うことができる。
【0041】
図6は本発明に係る超音波による静脈認証時の動脈直径推定法の一例を示す図である。静脈走行パターンとの位置関係と拍動から動脈の位置を同定し、動脈内径を自動解析することができるので、リアルタイムで動脈直径の時系列変化曲線を得ることができる。
【0042】
また、近赤外線光、あるいは超音波を用いて、ある程度の長時間継続して計測を行うことによって血管系の運動を直接測定し、周期性の揺らぎ、非線形の揺らぎの解析を行ってもよい。ここで、計測時間は10秒周期のマイヤー波成分をチェックすると、安全域を考え、10回分の100秒あると正確に計測できる。しかし、原理的には、1回分の10秒でも計測は可能である。
【0043】
図7は本発明に係る超音波による静脈認証時の動脈直径の時間変化の時系列曲線の一例を示す図である。動脈圧波形とほぼ同様の時系列変化が得られており、静脈認証時の動脈直径計測によって動脈圧波形とほぼ同様の時系列曲線が得られることがわかる。従って、原理的には、一心拍分の記録があれば、動脈直径の時系列変化を推定することができる。
【0044】
図8は本発明で計測した動脈直径の時間変化の時系列曲線において、末梢を変動させて反射波を変化させた時の一心拍分の時系列変動波形を示す図である。tidal wave(潮浪波)の増大が観測されており、末梢の変化が動脈直径の時系列曲線に鋭敏に反映されていることがわかる。従って、体調変化による血行動態の変動を、本発明の生体認証を用いた体調診断装置で計測できることがわかる。
【0045】
図9は本発明で計測した動脈直径の時間変化の時系列曲線とその二次微分波形を示す図、図10は動脈直径の時間変化の時系列曲線の二次微分波形におけるa波、b波、d波から計算されたパラメータと年齢との相関を示す上記非特許文献5における一次回帰相関直線の近似値を示す図である。
【0046】
図9において、a波は動脈の脈波の波形を二回微分して得られた加速度脈波の波形の収縮初期陽性波で、b波は収縮初期の陰性波であり、二つ合わせて心臓の収縮を示すパラメータになる。aとbの比(a/b)を取って、このa/bのパラメータは、収縮を受ける血管側の動脈の伸展性を示す。c波は収縮中期の再上昇波で、加齢によって低下する。d波は収縮後期の再下降波で、動脈の抹消からの反射波の影響を示すので、動脈硬化の悪化を示す。e波は拡張初期の陽性波で、血管が柔らかであれば若年層で高い値を示す。医学文献によれば、b,c,d波とも正常値はなく、a波との比で定量化される。
【0047】
本発明で得られた動脈直径の時間変化の時系列曲線の二次微分波形を計算することで、反射波の影響や血管弾性の変動を鋭敏に定量化することができるので、静脈認証時に血管年齢指数で表される体調の評価を行うことができる。
【0048】
図11は本発明の手のひら静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置の診断概要を示す図である。
【0049】
図4に示したように、超音波又は近赤外線光を用いたプローブ装置による手のひらの静脈認証時に、同時に静脈直径及び動脈直径を測定し、自律神経機能を診断する。また、動脈直径の時系列変化から、一心拍分の動脈直径の変化を計算し、図7に示したように、動脈直径の時系列曲線を得て心機能及び血管機能の診断を行う。さらに、動脈直径の時系列曲線(動脈直径の時間変化)の二次微分波形を計算し、その波形解析から血管年齢指数を計算する。また、静脈認証時に手のひらをプローブ装置に長時間接触させておくことで、動脈直径の時系列変化の揺らぎを計測し、自律神経機能を診断し、被験者の体調のモニタリングを可能とすることができる。
【0050】
同様に、静脈直径の揺らぎ、ヘモグロビン濃度の揺らぎからも、被験者の体調を診断することができる。
【0051】
図12は本発明で計測した心電図波形と脈波の一例を示す図である。
【0052】
上記第1〜第3実施例に示した手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置において、同時に心電図を計測することで、図12(b)に示される心電図R波のピークから、図12(a)に示される動脈脈波の立ち上がりまでの遅れ時間を計算して脈波伝播時間(PTT)を得ることができる。この脈波伝播時間から動脈の脈波伝播速度を計算することで、血管弾性を計算して被験者の体調をモニタリングするようにすることができる。つまり、血管が緊張していれば脈波は速く、血管が緩んでいれば脈波はゆっくりと伝わるので、心電図〔図12(b)〕と脈波〔図12(a)〕とから体調を診断することができる。
【0053】
また、図12(b)に示される心電図RR間隔と脈波伝播速度のゆらぎを計算して、動脈圧反射機能を定量診断することにより、被験者の体調をモニタリングするようにすることもできる。
【0054】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置は、被験者本人の体調管理、会社における個人認証時の労務管理だけでなく、病院における診断やフォロー、外来診療管理、スポーツクラブや老人ホームにおける体調管理に用いても良い。
【符号の説明】
【0056】
1 超音波を用いたプローブ装置
1a 超音波計測装置
1b 超音波信号発生器
1c 受信回路
1d プローブ
2 診断の対象となる手のひら
2a 被験者の手のひらの皮膚
2b 血管
3 静脈走行パターン
4,11,21 血管データ処理装置
5,12,22 個人認証部
6,15 静脈測定部
7 第1の記憶装置
8 第2の記憶装置
9,17,27 比較装置
10,18,28 自動診断装置
14 動脈測定部
15 第3の記憶装置
16 第4の記憶装置
23 静脈酸化ヘモグロビン飽和度測定部
24 動脈酸化ヘモグロビン飽和度測定部
25 第5の記憶装置
26 第6の記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブ装置と、該プローブ装置を用いた手のひらの血管データ処理装置とを備え、前記血管データ処理装置は、静脈走行パターンによる個人認証部と、前記静脈走行パターンから被験者の静脈の形態及び直径を計測する静脈測定部と、該静脈測定部で計測された前記被験者の静脈の形態及び直径を記憶する第1の記憶装置と、過去に計測された前記被験者の静脈の形態及び直径を記憶している第2の記憶装置と、前記第1の記憶装置と前記第2の記憶装置に記憶されている前記被験者の静脈の形態及び直径を比較する比較装置と、該比較装置からの結果に基づいて、静脈運動を支配する自律神経機能の状態を自動診断する自動診断装置とを備え、前記被験者の体調をモニタリングすることを特徴とする手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置。
【請求項2】
プローブ装置と、該プローブ装置を用いた手のひらの血管データ処理装置とを備え、前記血管データ処理装置は、静脈走行パターンによる個人認証部と、前記静脈走行パターンから被験者の静脈の形態及び直径を計測する静脈測定部と、前記個人認証部で得られた静脈走行パターンとの位置関係と拍動から動脈を同定し、該動脈の形態及び直径を測定する動脈測定部と、前記静脈測定部と前記動脈測定部で計測された前記被験者の静脈と動脈の形態及び直径を記憶する第3の記憶装置と、過去に計測された前記被験者の静脈と動脈の形態及び直径を記憶している第4の記憶装置と、前記第3の記憶装置と前記第4の記憶装置に記憶されている前記被験者の静脈と動脈の形態及び直径を比較する比較装置と、該比較装置からの結果に基づいて、静脈運動及び動脈運動を支配する自律神経機能の状態を自動診断する自動診断装置とを備え、前記被験者の体調をモニタリングすることを特徴とする手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置。
【請求項3】
プローブ装置と、該プローブ装置を用いた手のひらの血管データ処理装置とを備え、前記血管データ処理装置は、静脈走行パターンによる個人認証部と、該個人認証部で得られた静脈を同定し、該静脈のヘモグロビン飽和度を測定する静脈酸化ヘモグロビン飽和度測定部と、前記個人認証部で得られた静脈走行パターンとの位置関係と拍動から動脈を同定し、該動脈のヘモグロビン飽和度を計測する動脈酸化ヘモグロビン飽和度測定部と、前記測定部で計測した被験者の静脈及び動脈の酸化ヘモグロビン飽和度を記憶する第5の記憶装置と、過去に計測された前記被験者の静脈及び動脈の酸化ヘモグロビン飽和度を記憶している第6の記憶装置と、前記第5の記憶装置と前記第6の記憶装置に記憶されている静脈及び動脈の酸化ヘモグロビン飽和度を比較する比較装置と、該比較装置からの結果に基づいて、臓器末梢循環や呼吸機能の状態を自動診断する自動診断装置とを備え、前記被験者の体調をモニタリングすることを特徴とする手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置。
【請求項4】
請求項2記載の手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置において、測定した動脈直径の一心拍分の時系列変化を記録することで、解析された血行動態時系列曲線から心機能及び血管機能を診断し、更に、動脈直径時系列変化曲線の一次微分波形、二次微分波形を計算して血管年齢を推定することで、体調をモニタリングすることを特徴とする手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置。
【請求項5】
請求項1、2又は3記載の手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置において、前記個人認証時に前記被験者の体表の計測部位を前記プローブ装置に長時間接触させて保持することで、動脈直径の揺らぎ、静脈直径の揺らぎ、ヘモグロビン濃度の揺らぎを計測し、該揺らぎの計測結果に基づいて自律神経機能を診断することで、体調をモニタリングすることを特徴とする手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置。
【請求項6】
請求項1、2又は3記載の手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置において、同時に心電図を計測することで、心電図R波のピークから動脈脈波の立ち上がりまでの遅れ時間を計算し、動脈の脈波伝播速度を計算することで、血管弾性を計算して体調をモニタリングすることを特徴とする手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置。
【請求項7】
請求項1、2又は3記載の手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置において、同時に心電図を計測することで、心電図RR間隔と脈波伝播速度のゆらぎを計算し、動脈圧反射機能を定量診断することで、体調をモニタリングすることを特徴とする手のひらの静脈走行パターンによる生体認証を用いた体調診断装置。

【図2】
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【図4】
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【図10】
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【図12】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−279651(P2010−279651A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137518(P2009−137518)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】