説明

手動変速機の坂道発進補助装置

【課題】 リバースアイドルギヤでワンウエイクラッチを管理することにより、ワンウエイクラッチの作動を後退段で免除してワンウエイクラッチへの負担を軽減できる手動変速機の坂道発進補助装置の提供を図る。
【解決手段】 出力軸側から入力される逆回転に対してギヤトレーン1をロックするワンウエイクラッチ30のクラッチ断続をリバースアイドルギヤ21に連動させて行うことにより、前進段でリバースアイドルギヤ21をワンウエイクラッチ30に接続状態とし、後退段でリバースアイドルギヤ21をワンウエイクラッチ30から切離することにより、後退段ではワンウエイクラッチ30の作動を免除できるため、ワンウエイクラッチ30の負担を軽減して耐久性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力軸から入力される逆回転に対してギヤトレーンをロックして、坂道での発進時にブレーキングを不要とする手動変速機の坂道発進補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の手動変速機の坂道発進補助装置としては、ワンウエイクラッチをクラッチとインプットシャフトとの間の動力入力軸に配置して構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このように動力入力軸にワンウエイクラッチを設けることにより、出力軸側から入力される逆回転に対してギヤトレーンをロックすることが可能となり、坂道の途中で停止した場合にも車両が自然に下降するのを阻止でき、ひいてはブレーキングが不要となる。
【特許文献1】特開平8−188065号公報(第2頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、かかる従来の坂道発進補助装置では、クラッチの接続状態、つまり車両の走行状態では前進および後退にかかわらず常にワンウエイクラッチが回転する状況にあり、また、動力入力軸に設けたことにより、ワンウエイクラッチの回転数が高いためワンウエイクラッチの摩耗が促進されて耐久性が低下してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、出力側のギヤに常時噛合するも、後退段でトルク伝達するリバースアイドルギヤに着目し、このリバースアイドルギヤでワンウエイクラッチを断続することにより、ワンウエイクラッチの作動を後退段で免除してワンウエイクラッチへの負担を軽減できる手動変速機の坂道発進補助装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にあっては、ギヤトレーンにワンウエイクラッチを設けて、出力軸側から入力される逆回転に対してギヤトレーンをロックする手動変速機の坂道発進補助装置において、ワンウエイクラッチのクラッチ断続をリバースアイドルギヤに連動させて行うことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ワンウエイクラッチのクラッチ断続が、リバースアイドルギヤに連動させて行われることにより、前進段でリバースアイドルギヤをワンウエイクラッチに接続状態とし、後退段でリバースアイドルギヤをワンウエイクラッチから切離することにより、後退段ではワンウエイクラッチの作動を無くすことができるため、ワンウエイクラッチの負担を軽減して耐久性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面と共に詳述する。
【0009】
図1〜図3は本発明にかかる手動変速機の坂道発進補助装置の一実施形態を示し、図1はギヤトレーンの分解斜視図、図2は前進段でのワンウエイクラッチの作動状態を示す要部構成図、図3は後退段でのワンウエイクラッチの作動状態を示す要部構成図である。
【0010】
本実施形態の坂道発進補助装置が適用される手動変速機のギヤトレーン1は、図1に示すように動力入力軸となるクラッチシャフト2に4速ギヤを兼ねたメーンドライブギヤ3が一体(若しくはスプラインを介して)に結合されており、そのクラッチシャフト2と同軸に配置されるメーンシャフト4には、順に3速ギヤ5、2速ギヤ6、1速ギヤ7、リバースギヤ8および5速ギヤ9が回転自在に担持される。
【0011】
そして、メーンドライブギヤ3と3速ギヤ5との間に、これらギヤ3,5のいずれかをメーンシャフト4に接続する4−3速切換え用シンクロメッシュ機構10が配置されるとともに、2速ギヤ6と1速ギヤ7との間に、これらギヤ6,7のいずれかをメーンシャフト4に接続する1−2速切換え用シンクロメッシュ機構11が配置され、かつ、リバースギヤ8と5速ギヤ9との間に、5速ギヤ9を選択的にメーンシャフト4に接続する5速切換え用シンクロメッシュ機構12が配置される。
【0012】
前記メーンシャフト4と平行にカウンタシャフト13が配置され、このカウンタシャフト13には上述したメーンドライブギヤ3、3速ギヤ5、2速ギヤ6、1速ギヤ7および5速ギヤ9にそれぞれ常時噛合する4速カウンタギヤ14、3速カウンタギヤ15、2速カウンタギヤ16、1速カウンタギヤ17および5速カウンタギヤ18と、前記リバースギヤ8とは非噛合状態となるカウンタリバースギヤ19が一体に(若しくはスプラインを介して)結合される。
【0013】
また、前記メーンシャフト4および前記カウンタシャフト13のそれぞれに平行にリバースアイドルギヤシャフト20が配置され、このリバースアイドルギヤシャフト20にはリバースアイドルギヤ21が相対回転自在かつ軸方向移動自在に担持され、そのリバースアイドルギヤ21は前記リバースギヤ8に常時噛合するとともに、前記リバースカウンタギヤ19とはリバースアイドルギヤ21の軸方向移動によって係脱自在に噛合される。
【0014】
そして、前記ギヤトレーン1では、前進段では第1〜第3シンクロメッシュ機構10〜12のいずれかを作動してメーンドライブギヤ3、3速ギヤ5、2速ギヤ6,1速ギヤ7または5速ギヤ9のいずれかをメーンシャフト4と接続することにより、選択したいずれかの前進変速段の回転を出力軸としての図外のドライブシャフトに出力する。
【0015】
この前進段では、図2に示すようにリバースアイドルギヤ21はカウンタリバースギヤ19から離脱した状態にある。
【0016】
また、後退段では図3に示すように、リバースアイドルギヤ21をリバースアイドルギヤシャフト20に沿って図中右方に軸方向移動して、リバースギヤ8とカウンタリバースギヤ19の双方に噛合させることにより、クラッチシャフト2から入力される回転を逆転してドライブシャフトに出力する。
【0017】
つまり、後退段では、クラッチシャフト2から入力されたエンジン回転は、メーンドライブギヤ3から4速カウンタギヤ14に入力されてカウンタシャフト13とともにリバースカウンタギヤ19を回転し、このリバースカウンタギヤ19からリバースアイドルギヤ21を経由して逆転した回転をリバースギヤ8に入力してメーンシャフト4を回転し、このメーンシャフト4からドライブシャフトへと出力するようになっている。
【0018】
ここで、本実施形態の坂道発進補助装置は、ギヤトレーン1にドライブシャフト側から入力される逆回転に対してギヤトレーン1をロックするワンウエイクラッチ30を設けて構成してあり、そのワンウエイクラッチ30のクラッチ断続を前記リバースアイドルギヤ21に連動させて行うようにしてある。
【0019】
前記ワンウエイクラッチ30は図2,図3に示すように、相対回転自在に嵌合されるインナレース31およびアウタレース32と、これらインナ・アウタレース31,32間にローラ33を配置して構成され、これらインナ・アウタレース31,32間の間隔変化により一方向の回転には両レース31,32間の相対回転が許容されるとともに、他方の回転には両レース31,32の相対回転がロックされる。
【0020】
そして、前記ワンウエイクラッチ30のインナレース31をリバースアイドルギヤシャフト20に相対回転自在に嵌合するとともに、アウタレース32をミッションハウジングHに固定し、インナレース31とリバースアイドルギヤ21との間に係脱部分34を設けてある。
【0021】
勿論、前記ワンウエイクラッチ30は、ドライブシャフトから逆回転が入力された際にロックされる。
【0022】
前記係脱部分34は、リバースアイドルギヤ21とインナレース32のそれぞれの対向面21a,32a間に形成され、リバースアイドルギヤ21の対向面21aから突設する凸部34aと、インナレース32の対向面32aに形成した凹部34bとからなり、図2に示すように凸部34aが凹部34bに嵌合することによりリバースアイドルギヤ21とインナレース32とが回転方向に係合する一方、図3に示すように凸部34aが凹部34bから離脱することによりリバースアイドルギヤ21とインナレース32との係合が解除される。
【0023】
以上の構成により本実施形態の坂道発進補助装置にあっては、ワンウエイクラッチ30のクラッチ断続をリバースアイドルギヤ21に連動させて行うようにしたので、前進段でリバースアイドルギヤ21をワンウエイクラッチ30に接続し、後退段でリバースアイドルギヤ21をワンウエイクラッチ30から切離することにより、ワンウエイクラッチ30を前進段で作動させる一方、後退段では作動を免除できるので、その後退段への投入時にワンウエイクラッチ30の負担を軽減して耐久性を向上することができる。
【0024】
また、このようにワンウエイクラッチ30をリバースアイドルギヤ21で断続するにあたって、本実施形態ではワンウエイクラッチ30のインナレース31をリバースアイドルギヤシャフト20に相対回転自在に嵌合するとともに、アウタレース32をミッションハウジングHに固定し、インナレース31とリバースアイドルギヤ21との間に係脱部分34を設けたので、前進段選択時と後退段選択時でリバースアイドルギヤシャフト20上を軸方向移動するリバースアイドルギヤ21でワンウエイクラッチ30を断続させることができるようになる。
【0025】
従って、前進段選択時に係脱部分34を介してリバースアイドルギヤ21とワンウエイクラッチ30とを接続することにより、その前進段でワンウエイクラッチ30を作動させてドライブシャフトから入力される逆回転をロックし、ひいては、坂道途中での後退を阻止できるためブレーキング無しでの発進が可能となる。
【0026】
一方、後退段選択時にはリバースアイドルギヤ21の軸方向移動に伴って係脱部分34の係合が解除されるので、その後退段でワンウエイクラッチ30の作動が免除されるためワンウエイクラッチ30の負担を軽減できる。
【0027】
特に、前進段でワンウエイクラッチ30が作動されるにしても、リバースアイドルギヤ21から入力される回転数は低くなっているため、ワンウエイクラッチ30の負担を更に軽減することができ、耐久性の更なる向上を図ることができる。
【0028】
また、前記ワンウエイクラッチ30は前進段と後退段で軸方向移動するリバースアイドルギヤ21を利用して断続させるようにしたので、ワンウエイクラッチ30を作動させるための他の制御装置が不要となり、安価な坂道発進補助装置を提供することができる。
【0029】
ところで、本発明は前記実施形態に例をとって説明したが、この実施形態に限ることなく本発明の要旨を逸脱しない範囲で他の実施形態を各種採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に適用されるギヤトレーンの分解斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態における前進段でのワンウエイクラッチの作動状態を示す要部構成図である。
【図3】本発明の一実施形態における後退段でのワンウエイクラッチの作動状態を示す要部構成図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ギヤトレーン
20 リバースアイドルギヤシャフト
21 リバースアイドルギヤ
30 ワンウエイクラッチ
31 インナレース
32 アウタレース
34 係脱部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤトレーンにワンウエイクラッチを設けて、出力軸側から入力される逆回転に対してギヤトレーンをロックする手動変速機の坂道発進補助装置において、
ワンウエイクラッチのクラッチ断続をリバースアイドルギヤに連動させて行うことを特徴とする手動変速機の坂道発進補助装置。
【請求項2】
ワンウエイクラッチは、そのインナレースをリバースアイドルギヤシャフトに相対回転自在に嵌合するとともに、アウタレースをミッションハウジングに固定し、インナレースとリバースアイドルギヤとの間に係脱部分を設けたことを特徴とする請求項1に記載の手動変速機の坂道発進補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−250168(P2006−250168A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−63985(P2005−63985)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】