説明

手術用吊上げ装置

【課題】 乳房等の内視鏡下外科手術を円滑に行うことができるようにする。
【解決手段】 手術用吊上げ装置が、体壁の創口(B)から体内に閉じた状態で挿入され、体内で広げられる指片(1a,1b,2,3)の束と、指片(1a,1b,2,3)の束を保持する吊下げアーム(4)とを具備する。指片(1a,1b,2,3)の束の輪郭が体壁の原形に倣うように、各指片(1a,1b,2,3)が湾曲形成される。これにより、患者の乳房(A)等に対し吊り上げ法により内視鏡手術を行う際に、乳房(A)等の内部により広いワーキングスペースを確保して手術を効率的に行うことができ、また、乳房(A)等に形成した創口(B)を適度な開度で開いて術野を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鏡視下乳腺外科手術等に使用される吊上げ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、腹腔内を内視鏡で手術する場合、腹壁を切開した小切開孔から腹腔内に吊上げ装置の複数本の指片を挿入し、腹腔内で複数本の指片を拡開すると共に吊上げ装置を引き上げ、これにより腹腔内に内視鏡手術のための作業空間を作るようにしている(例えば、特許文献1参照。)。この吊上げ装置により構築された作業空間に腹腔鏡が挿入され、腹腔内で各種の内視鏡手術が可能となる。
【0003】
【特許文献1】特開平8−33630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乳癌等の乳腺外科手術において、患者のQOL(quality of life)をより高め、乳房に大きな傷が残るという極めて残酷な精神的負担を軽減するためには整容性は非常に重要な因子となる。そのため、腹腔に比べて作業空間が存在しない乳腺外科領域にも、内視鏡手術が採用されつつあるが、その場合従来の腹腔内視鏡手術用の吊上げ装置をそのまま使用することは困難であり、かえって大きな傷を作ってしまう。
【0005】
したがって、本発明は鏡視下乳腺手術等に適した吊上げ装置を新規に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、体壁の創口(B)から体内に閉じた状態で挿入され、体内で広げられる指片(1a,1b,2,3)の束と、指片(1a,1b,2,3)の束を保持する吊下げアーム(4)とを具備した手術用吊上げ装置において、指片(1a,1b,2,3)の束の輪郭が体壁の原形に倣うように、各指片(1a,1b,2,3)が湾曲形成された手術用吊上げ装置を採用する。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の手術用吊上げ装置において、少なくとも一対の指片(2,3)を対称的に拡縮する拡縮手段(8,9,12等)を備えた手術用吊上げ装置を採用する。
【0008】
また、請求項3に係る発明は、請求項1に記載の手術用吊上げ装置において、指片(1a,1b,2,3)の束が吊下げアーム(4)に対し屈曲手段(17,18)を介して連結された手術用吊上げ装置を採用する。
【0009】
また、請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の手術用吊上げ装置において、所望の指片(1b)に創内部の煙を排出する吸引管(20)が取り付けられた手術用吊上げ装置を採用する。
【0010】
また、請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の手術用吊上げ装置において、所望の指片(1a)に創内部を照明する照明手段(21)が取り付けられた手術用吊上げ装置を採用する。
【0011】
また、請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の手術用吊上げ装置において、創縁部(B1)を保護するプロテクタ(22)が指片(1a,1b,2,3)上に取り付けられた手術用吊上げ装置を採用する。
【0012】
また、請求項7に係る発明は、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の手術用吊上げ装置において、上側の創縁部(B1)に当接する術野展開手段(24)が指片(1a,1b,2,3)の束の付け根部(R)近傍に設けられた手術用吊上げ装置を採用する。
【0013】
また、請求項8に係る発明は、請求項7に記載の手術用吊上げ装置において、術野展開手段(24)が上側の創縁部(B1)を支える樋状部材(25)を備え、樋状部材(25)の創内側の樋壁(25b)には鋸歯状突起(27)が形成された手術用吊上げ装置を採用する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、体壁の創口(B)から体内に閉じた状態で挿入され、体内で広げられる指片(1a,1b,2,3)の束と、指片(1a,1b,2,3)の束を保持する吊下げアーム(4)とを具備した手術用吊上げ装置において、指片(1a,1b,2,3)の束の輪郭が体壁の原形に倣うように、各指片(1a,1b,2,3)が湾曲形成された手術用吊上げ装置であるから、患者の乳房(A)等に対して、吊り上げ法により内視鏡手術を行う際に、乳房(A)等の内部に、非常に広いワーキングスペースを確保して手術を効率的に行うことができ、また、乳房(A)等に形成した創口(B)を適度な開度で開いて手術空間を確保することができる。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、請求項1に記載の手術用吊上げ装置において、少なくとも一対の指片(2,3)を対称的に拡縮する拡縮手段(8,9,12等)を備えた手術用吊上げ装置であるから、乳房(A)等小部位に形成した小さい創口(B)から指片(1a,1b,2,3)の縮んだ束を挿入した後、拡縮手段(8,9,12等)によって、少なくとも一対の指片(2,3)を対称的に広げることができるので、乳房(A)等小部位にその乳腺内視鏡手術に適した形状の手術空間と創口(B)を簡易に形成することができる。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、請求項1に記載の手術用吊上げ装置において、指片(1a,1b,2,3)の束が吊下げアーム(4)に対し屈曲手段(17,18)を介して連結された手術用吊上げ装置であるから、吊下げアーム(4)に対し指片(1a,1b,2,3)の角度を自在に変更することができ、これにより乳房(A)内に形成した手術空間と創口(B)の形状および大きさを適宜変更することができる。したがって、この技術により、少し角度を変更するだけで乳房内の全空間を自由自在に観察することが可能となる。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の手術用吊上げ装置において、所望の指片(1b)に創内部に手術によって発生する煙、ガス、血液などを排出する吸引管(20)が取り付けられた手術用吊上げ装置であるから、電気メス等により発生する白煙や血液等を吸引管(20)により手術空間外に排出することができ、内視鏡の視野を常に確保することができ、安全にすべての手術操作を行うことができる。
【0018】
請求項5に係る発明によれば、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の手術用吊上げ装置において、所望の指片(1a)に創内部を照明する照明手段(21)が取り付けられた手術用吊上げ装置であるから、乳房(A)等に構築された手術空間を全視野にわたって照明することが可能となるので、乳腺内視鏡手術を円滑かつ安全に、術者の意図した通り正確に行うことができる。
【0019】
請求項6に係る発明によれば、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の手術用吊上げ装置において、創縁部(B1)を保護するプロテクタ(22)が指片(1a,1b,2,3)上に取り付けられた手術用吊上げ装置であるから、創縁部(B1)に指片(1a,1b,2,3)の金属部分が直に接触するのを防止することができると同時に、創縁部(B1)を指片(1a,1b,2,3)による圧迫壊死や電気メスによる不意の熱傷等から保護することができる。
【0020】
請求項7に係る発明によれば、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の手術用吊上げ装置において、上側の創縁部(B1)に当接する術野展開手段(24)が指片(1a,1b,2,3)の束の付け根部(R)近傍に設けられたことから、乳房(A)等が吊り上げられる際に上側の創縁部(B1)が均一に持ち上げられ、このため創口(B)が大きな開口面積で開き、術者が視認しやすい術野が展開される。また、手術中に創口(B)に係止し創口(B)を開放状態に維持するための開創鈎(23c,23d)の使用本数、開創鈎(23c,23d)を保持する補助者等を低減することができる。
【0021】
請求項8に係る発明によれば、請求項7に記載の手術用吊上げ装置において、術野展開手段(24)が上側の創縁部(B1)を支える樋状部材(25)を備え、樋状部材(25)の創内側の樋壁(25b)には鋸歯状突起(27)が形成されたことから、上側の創縁部(B1)を確実に持ち上げ、創口(B)を適正な開放状態に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0023】
<実施の形態1>
図1〜図3、図6に示すように、この手術用吊上げ装置は、乳房A等小部位の体壁に形成された小切開口である創口Bから体内に閉じた状態で挿入され、体内で広げられる指片1a,1b,2,3の束と、指片1a,1b,2,3の束を保持する吊下げアーム4とを具備する。
【0024】
指片1a,1b,2,3の束は、少なくとも中央の指片1a,1bと、中央の指片1a,1bの左右両側に配置される左右の指片2,3とを備える。すべての指片1a,1b,2,3は拡開状態で乳房A等の体壁の原形に倣うように湾曲形成される。これにより、乳房A等に創口Bから指片1a,1b,2,3の束を挿入した後、指片1a,1b,2,3の束を広げると乳房A等の内部に内視鏡手術に適した形状と大きさの手術空間が形成され、創口Bが適度な大きさの開口となって広がる。
【0025】
中央の指片1a,1bは、一本ものであってもよいが、望ましくは図示例のごとく左右対称形に二股に分けられる。中央の指片1a,1bはその付け根が起立壁状の胴部5に固定され、付け根から先が胴部5より前方に山形に湾曲して突出する。図示しないが中央の指片1a,1bの付け根には凹溝が形成され、胴部5の下端がこの凹溝に嵌り込んでいる。これにより、中央の指片1a,1bが胴部5に連結されたとき中央の指片1a,1bの胴部5に対する水平面上での回転が阻止される。
【0026】
左右の指片2,3は中央の指片1a,1b間を通る中心線を対称軸にして左右対称形に形成される。左右の指片2,3も中央の指片1a,1bと同様に胴部5から山形に湾曲して突出するが、胴部5の後方にも少しばかり突出し、その突出箇所にレバー2a,3aが連結される。左右の指片2,3における胴部5の直下には、図5に示すように、ヒンジ片6が形成される。図5は左側の指片2のヒンジ片6のみを示し、右側の指片3のヒンジ片は図示していないが、右側の指片3のヒンジ片は左側のヒンジ片6と対称形に形成される。左右のヒンジ片6が上下に重ねられ、垂直な枢軸7を介し胴部5の下側に取り付けられることで、左右の指片2,3およびレバー2a,3aが胴部5の下面に枢支される。図4に示すように、胴部5にはこの枢軸7が螺合するネジ孔7aが形成される。これにより、左右のレバー2a,3aが互いに引き寄せられると、枢軸7を支点にして左右の指片2,3が左右方向に拡開し、左右のレバー2a,3aが離反すると、枢軸7を支点にして左右の指片2,3が閉じる。左右の指片2,3が拡開すると、指片1a,1b,2,3の束は乳房A等の体壁の原形に倣うような輪郭を呈する。
【0027】
この手術用吊上げ装置は、左右の指片2,3を対称形に拡縮する拡縮手段を備える。
【0028】
図1乃至図3に示すように、拡縮手段は、左右の指片2,3における枢軸7を後方に越えた箇所に左右対称形にピン結合される左右のリンク8,9を備えたリンク機構を有する。左右のリンク8,9は相互間および左右の指片2,3との間がピン結合される。また、このリンク機構を介し左右のレバー2a,3aを拡縮動作させる操作機構を有する。操作機構は、胴部5の後面から後方へとリンク機構に平行に突出するガイド棒10と、左右のリンク8,9同士を連結する図示しない枢ピンの上端に取り付けられたスライダ11と、ガイド棒10における胴部5とスライダ11との間に形成された雄ネジに螺合する摘み12と、スライダ11を摘み12に対し常時付勢するスライダ11とガイド棒10後端の鍔10aとの間に設けられた弾性体である圧縮コイルバネ13とを有する。図5中、符号16はガイド棒10を連結固定するための胴部5に形成されたネジ孔を示す。レバー2a,3aを握る手の指で摘み12をいずれかの向きに回してガイド棒10上で螺進退させると、スライダ11を介してリンク機構の左右のリンク8,9が左右対称形に拡縮動作し、左右の指片2,3も同様に対称形に拡縮動作する。
【0029】
指片1a,1b,2,3の束は胴部5を介し吊下げアーム4に連結される。吊下げアーム4は、略前後方向に伸びる水平部4aと、水平部4aの略中央から垂下する垂下部4bとを備える。胴部5は垂下部4bの下端に連結される。水平部4aの前端には図6に示すごとく吊り下げ用のフック14を掛けるための孔15が形成される。
【0030】
胴部5は吊下げアーム4に固着してもよいが、望ましくは角度調整手段である水平ピン17と、調整ネジ装置18とを介して連結される。水平ピン17は胴部5の上端と吊下げアーム4の垂下部4bの下端との重畳部に挿通される。図4中、符号17aは水平ピン17を通す胴部5側の孔を示す。調整ネジ装置18は、吊下げアーム4の水平部4aの後端に枢ピン18aで連結される右ネジ棒18bと、胴部5の上端に枢ピン18cで連結される左ネジ棒18dと、左右ネジの両ネジ棒18d,18bに螺合するナット18eと、ナット18eと一体の摘み18fとを具備する。図5中、符号19は胴部5に形成された枢ピン18cを通す孔を示す。レバー2a,3aを握る手の指を摘み18fに掛けてナット18eをいずれかの向きに回すと、ナット18eが両ネジ棒18d,18bを引き寄せ又は離反させるので、胴部5および指片1a,1b,2,3の束が吊下げアーム4に対して所望の角度で傾斜することになる。
【0031】
図1乃至図3に示すように、所望の指片例えば中央の指片内の右側の指片1bには、創内部で発生した煙や血液を排出するための吸引管20が取り付けられる。吸引管20は指片1bの裏面の先端近傍から指片1bを伝って後方に伸び、吊下げアーム4の垂下部4bを伝って上方に伸びる。吸引管20の末端側には排気ポンプ20aが配置され、この排気ポンプ20aにより吸引管20内が負圧となり、創内部で発生した白煙等が創外に排出される。これにより、創内部の視界が明瞭となる。
【0032】
また、図1乃至図3に示すように、所望の指片例えば中央の指片内の左側の指片1aには、創内部を照明する照明手段として例えば光ファイバー21が取り付けられる。光ファイバー21は複数本束ねられ、それらの先端は指片1aの裏面において前後方向にずれるように配置される。光ファイバー21は指片1aを伝って後方に伸び、吊下げアーム4の垂下部4bを伝って上方に伸びる。光ファイバー21の末端側には発光ダイオード等の発光体21aが配置され、この発光体21aからの光が光ファイバー21内を伝わり各光ファイバー21の先端から出射し、創内部を照明する。
【0033】
また、図6に示すように、指片1a,1b,2,3の付け根近傍には、創縁部B1を保護するためのプロテクタ22が取り付けられる。プロテクタ22は例えばシリコンゴムにより板状に形成され、指片1a,1b等に接着剤等の固定手段により固定される。このプロテクタ22により、創縁部B1への指片1a,1b,2,3の接触と圧挫減が防止され、創縁部B1が指片1a,1b,2,3による圧迫等から保護される。
【0034】
次に、上記構成の手術用吊上げ装置の作用について説明する。
【0035】
図6に示すように、乳房Aに対し乳腺外科手術、特に乳癌に対する手術を行う場合、まず、乳房Aの外側部の中腋窩線上に創口Bを形成し、体軸に沿って約8cmの切開を置く。その後、切除予定範囲の乳腺の前・後面を超音波メスで広く剥離しておく。
【0036】
次に、図示しないが手術台頭部のフレームに吊下げ用梁を取り付け、吊下げ用梁からリールを介しフック14を下げる。この時点で、手術用吊上げ装置を用意し、拡縮手段の摘み12を回し、左右の指片2,3を中心側に窄めておく。
【0037】
この窄まった指片1a,1b,2,3の束を創口Bから乳房A内の乳腺前面に挿入し、拡縮手段の摘み12を逆向きに回し、左右の指片2,3を拡開する。また、吊下げアーム4の孔15に上記フック14を掛け、この手術用吊上げ装置を吊り上げる。吊下げ用梁上のリールを操作してフック14を巻き上げ又は降下させ、指片1a,1b,2,3の束の輪郭が乳房Aの体壁の原形に倣うように展開し、乳房A内に乳腺に沿って手術空間を形成すると同時に、創口Bを適度な開度で開く。
【0038】
創縁部B1にはプロテクタ22が当たって指片1a,1b,2,3が創縁部B1に直に接触するのを防止する。これにより、創縁部B1が熱と圧力から保護される。
【0039】
必要に応じて調整ネジ装置18の摘み18fを回し、指片1a,1b,2,3の束の吊下げアーム4に対する角度を調整する。これにより、上記乳房A内の手術空間および創口Bの形状、さらには手術視野が更に好適に調整される。
【0040】
次に、図示しない内視鏡を創口Bから手術空間内に挿入し、外部モニターに写し出される乳腺腫瘍の大きさ、位置を確実に把握しながら、各種の内視鏡手術器具を用いて、正確に腫瘍を摘出する。
【0041】
手術中、手術空間内では電気メスや超音波メス等により白煙や出血等が発生するが、この白煙や血液等は吸引管20から手術空間外に常時排出される。また、光ファイバー21により創内部が広範囲に、全視野にわたって照明される。これにより、創内部での内視鏡手術の視野が常に確保され、内視鏡手術が円滑かつ正確、安全に行われる。
【0042】
<実施の形態2>
実施の形態1に係る手術用吊上げ装置によれば、手術用吊上げ装置を吊り上げた際に、図9(A)に示すように、上記指片1a,1b,2,3の束の付け根部Rが乳房Aの創口Bにおける上側の創縁部B1の中央部に当るので、創口Bが破線で示すように略山形に開口し、そのままでは術野を確保し難い。そこで、術者、補助者、看護婦等が開創鈎23a,23b,23c,23dを創縁に引っ掛けて創口Bを実線で示すように大きく開き、手術が終了するまでその状態を維持し術野を確保する必要があり、従って術野確保の作業が面倒であり、多くの開創鈎23a,23b,23c,23dや開創鈎23a,23b,23c,23dを保持する複数の補助者を必要とする。
【0043】
図7に示すように、この実施の形態2に係る手術用吊上げ装置は、このような問題を解消する手段として、上側の創縁部B1に当接する術野展開装置24を指片1a,1b,2,3の束の付け根部近傍に備える。
【0044】
術野展開装置24は、図7、図8(A)(B)及び図9(B)に示すように、創口Bにおける上側の創縁部B1を支える樋状部材25を備える。樋状部材25は、上側の創縁部B1に当りやすくするため、望ましくは上側が凸となるように湾曲形成される。樋状部材25の創外側の樋壁25aには、フォーク片からなる連結部26が設けられる。図7に示すように、連結部26のフォーク片で手術用吊上げ装置の胴部5を挟むようにすることで、樋状部材25が指片1a,1b,2,3の束の付け根部近傍に固定される。図8(A)(B)に示すように、樋状部材25の創内側の樋壁25bには、鋸歯状突起27が形成される。鋸歯状突起27の尖端は望ましくは丸く形成される。鋸歯状突起27が上側の創縁部B1に食い込むことで、上側の創縁部B1が樋状部材25上に適正に保持される。その他、図示しないが術野展開装置24における各種角部、隅部等には湾曲面が付与される。
【0045】
次に、上記構成の手術用吊上げ装置の作用について説明する。
【0046】
図7に示す乳房Aに対し乳腺外科手術、特に乳癌に対する手術を行う場合、まず、乳房Aの外側部の中腋窩線上に創口Bを線状に形成し、体軸に沿って約8cmの切開を置く。その後、切除予定範囲の乳腺の前・後面を超音波メスで広く剥離しておく。
【0047】
次に、図示しないが手術台頭部のフレームに吊下げ用梁を取り付け、吊下げ用梁からリールを介し図7に示すフック14を下げる。この時点で、図7に示す手術用吊上げ装置を用意し、拡縮手段の摘み12を回し、左右の指片2,3を中心側に窄めておく。
【0048】
この窄まった指片1a,1b,2,3の束を創口Bから乳房A内の乳腺前面に挿入し、拡縮手段の摘み12を逆向きに回し、図7に示すように左右の指片2,3を拡開する。また、吊下げアーム4の孔15に上記フック14を掛け、この手術用吊上げ装置を吊り上げる。
【0049】
図7に示すように、手術用吊上げ装置の胴部5に連結部26を介し術野展開装置24を連結し固定する。
【0050】
吊下げ用梁上のリールを操作してフック14を巻き上げ又は降下させ、指片1a,1b,2,3の束の輪郭が乳房Aの体壁の原形に倣うように展開する。
【0051】
乳房Aが吊り上げられる際、図9(B)に示すように、上側の創縁部B1が均一に持ち上げられ、このため創口Bが大きな開口面積で開き、術者が視認しやすい術野が展開される。このとき、樋状部材25の創内側の樋壁25bにおける鋸歯状突起27が上側の創縁部B1に食い込み、創縁部B1を確実に保持する。
【0052】
術野の展開の時、必要に応じて、開創鈎23c,23dが創口Bにおける下側の創縁部B2の両端に掛けられ、創口Bの開放状態が維持される。これらの開創鈎23c,23dは通常の場合一人の補助者により保持される。図9(A)に示す場合は、手術中に創口Bに係止し創口Bを開放状態に維持するための開創鈎23a,23b,23c,23dが少なくとも創口Bの上下に二本ずつ使用され、上側の二本の創口鈎23a,23bを保持する補助者と、下側の二本の開創鈎23c,23dを保持する他の補助者とが必要とされるが、この実施の形態2によれば、開創鈎の本数、補助者の員数のいずれも低減する。
【0053】
かくして、乳房A内に乳腺に沿って手術空間が形成されると同時に、創口Bが適度な開度で拡開されるが、必要に応じて調整ネジ装置18の摘み18fを回し、指片1a,1b,2,3の束の吊下げアーム4に対する角度を調整する。これにより、上記乳房A内の手術空間および創口Bの形状、さらには手術視野が更に好適に調整される。
【0054】
次に、図示しない内視鏡を創口Bから手術空間内に挿入し、外部モニターに写し出される乳腺腫瘍の大きさ、位置を確実に把握しながら、各種の内視鏡手術器具を用いて、正確に腫瘍を摘出する。
【0055】
その他、図7において図1乃至図6における部分と同じ部分は同じ参照符号を付して示すこととし、重複した説明を省略する。
【0056】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば上記実施の形態では患者の乳房の手術について説明したが他の部位の手術についても適用可能である。また、指片の本数、形状等も適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る手術用吊上げ装置の斜視図である。
【図2】図1に示す手術用吊上げ装置の平面図である。
【図3】図1に示す手術用吊上げ装置の側面図である。
【図4】胴部の斜視図である。
【図5】指片の部分切欠平面図である。
【図6】本発明に係る手術用吊上げ装置を使用した外科手術の一例を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る手術用吊上げ装置をその使用状態と共に示す斜視図である。
【図8】図7に示す術野展開装置の拡大図であり、(A)(B)は夫々異なる向きから見た術野展開装置の斜視図である。
【図9】術野展開状態を示す説明図であり、(A)は実施の形態1による場合の説明図、(B)は実施の形態2による場合の説明図である。
【符号の説明】
【0058】
A…乳房
B…体壁の創口
B1…創縁部
1a,1b,2,3…指片
4…吊下げアーム
8,9…リンク
12…摘み
17…水平ピン
18…調整ネジ装置
20…吸引管
21…光ファイバー
22…プロテクタ
24…術野展開装置
25…樋状部材
25b…創内側の樋壁
27…鋸歯状突起
R…指片の束の付け根部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体壁の創口から体内に閉じた状態で挿入され、体内で広げられる指片の束と、指片の束を保持する吊下げアームとを具備した手術用吊上げ装置において、指片の束の輪郭が体壁の原形に倣うように、各指片が湾曲形成されたことを特徴とする手術用吊上げ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の手術用吊上げ装置において、少なくとも一対の指片を対称的に拡縮する拡縮手段を備えたことを特徴とする手術用吊上げ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の手術用吊上げ装置において、指片の束が吊下げアームに対し屈曲手段を介して連結されたことを特徴とする手術用吊上げ装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の手術用吊上げ装置において、所望の指片に創内部の煙を排出する吸引管が取り付けられたことを特徴とする手術用吊上げ装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の手術用吊上げ装置において、所望の指片に創内部を照明する照明手段が取り付けられたことを特徴とする手術用吊上げ装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の手術用吊上げ装置において、創縁部を保護するプロテクタが所定箇所に取り付けられたことを特徴とする手術用吊上げ装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の手術用吊上げ装置において、上側の創縁部に当接する術野展開手段が指片の束の付け根部近傍に設けられたことを特徴とする手術用吊上げ装置。
【請求項8】
請求項7に記載の手術用吊上げ装置において、術野展開手段が上側の創縁部を支える樋状部材を備え、樋状部材の創内側の樋壁には鋸歯状突起が形成されたことを特徴とする手術用吊上げ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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