説明

抄紙機用ロール及び紙の製造方法

【課題】ロール間のスペースを有効に利用することにより、抄紙速度の高速化に伴うフラッタリングの有効な防止を図ることのできる抄紙機用ロールを提案する。
【解決手段】炭素繊維複合材を用いてなるロールセル部の表面が、サーメットとアルミナとの混合物からなる溶射皮膜にて被覆されている抄紙機用ロールと、このロールを抄紙機のドライヤパートに設置して、フラッタリングの防止を図りながら抄紙するという紙の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙(抄紙)工程で用いられる抄紙機用ロール、とくに高温雰囲気になるドライヤパート(乾燥工程)で用いられる抄紙機用ロールと、この抄紙機用ロールを使って紙を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙工場の抄紙工程では、ドライヤパートにおいて搬送されるペーパー(ウエブ)のフラッタリング(ウエブが気流によりあおられる現象)を防止することが生産性を向上させる上で非常に重要である。一般に、ドライヤパートの多筒ドライヤーロール間には、キャンバスが配設されるが、これらの狭隘部ではそのキャンバスと湿紙(ウエブ)とが接触しない区間があり、この区間(フリーラン)ではフラッタリングが発生しやすいことが知られている。従って、生産性の向上には、上記区間でのフラッタリングを防止し、該ウエブの搬送速度の上昇を図ることが有効であると考えられる。そのために、従来、この部位でのフラッタリング防止をはかる技術が種々提案されてきた。
【0003】
従来のフラッタリング防止技術としては、例えば、多筒ドライヤーロール間の前記区間(フリーラン)のいずれか一方にのみ鋼製駆動ロールを配置して搬送ペーパー(ウエブ)に張力を付与する方法がある。しかし、この方法では、十分なフラッタリング防止にはならず、しかもロールを増設して一対にして用いることは、スペースの上からも不可能な状態である。
【0004】
このような状況に鑑み、従来、例えば特許文献1では、搬送ペーパーのフラッタリング防止方法として、多筒ドライヤーロール間の全てのフリーラン区間に搬送ペーパーの両側から片持ち支持した無駆動ロールにより張力を与えることにより、フラタッリングを防止する方法が、また、特許文献2では、多筒ドライヤーロール間に搬送ペーパーの両縁部をガイドする機構を設け、さらにこの機構にエアーノズルを設ける方法が提案されている。
【特許文献1】特開平6−341088号公報
【特許文献2】特開平1−145967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の片持ち無駆動ロール設置による紙フラッタリングの防止方式は、ペーパー幅方向に均等なテンションをかけ難いこと、ロールどうしのバランス調整が難しいこと等によって、ペーパーに皺が発生しやすいという問題がある。また、鋼製ロールは慣性モーメントが大きく、ペーパーとロールとの接触部では、起動停止時におけるペーパーとの間で相対滑りが発生し、安定した操業を確保できないという問題などもある。
【0006】
一方、特許文献2に開示の技術では、ペーパー(ウエブ)の両縁部にエアーノズルにてガイドする機構を設ける方法を提案しているが、ペーパーの幅方向に均等なテンションを付与することが困難である。しかも、この機構では、エアーによりテンション調整を図っているが、このドライヤパートでのペーパー(ウエブ)の含水率は数十%以上であり、エアー圧によるテンション調整ではペーパー切れを起す危険がある。
【0007】
本発明の主たる目的は、フラッタリングを防止して抄紙速度の向上を図ることによって、製紙工場の生産性を向上させることができるペーパーロールの構造を提案する。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、ロール本体の軽量化によって慣性モーメントの低減を果すことで、無駆動化ロールにすることができるロールの構造を提案する。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、優れた表面特性を示す皮膜を形成してロールの寿命を向上させる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来技術が抱えている上記課題を解決し上記目的を達成するため、発明者らは鋭意研究を重ねた。その結果、発明者らは、現状の多筒ドライヤーロール間のスペースを有効に利用して抄紙速度の高速化に伴うフラッタリング防止を図るためには、少なくとも下記要旨構成を有する抄紙機用ロールにすることが有効であるとの知見を得た。
【0011】
即ち、本発明は、炭素繊維複合材を用いてなるロールセルにより軽量化するとともに、ロールセル部の表面が、サーメットとアルミナとの混合物からなる溶射皮膜にて被覆されていること特徴とする抄紙機用ロールである。
【0012】
本発明において、前記溶射皮膜は、サーメットとアルミナとを、質量比率で50:50〜80:20の割合で配合した皮膜であること、前記サーメットは、3〜10質量%のBNと、1〜5質量%のAl、5〜10質量%のFe、10〜20質量%のCr、2質量%以下の不可避的不純物および残部がNiからなるもの(Ni基合金系サーメットの一種)であること、前記溶射皮膜は、ヤング率が100GPaを越えない特性を有すること、抄紙機のドライヤパートに設置されるフラッタリング防止用ロールであること、前記抄紙機用ロールは、非駆動ロールとして使用されることが好ましい。
【0013】
本発明はまた、前記抄紙機用ロールを抄紙機のドライヤパートに設置して、フラッタリングの防止を図りながら抄紙することを特徴とする紙の製造方法を提案する。
【0014】
なお、上記の製造方法において、前記抄紙機用ロールは、非駆動ロールとして使用されるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上記のように構成された本発明の抄紙機用ロールは、つぎのような効果を奏する。
(1)抄紙速度を上げることができるようになるため、製紙工場の生産性を向上させることができる。
(2)ロールセル(シリンダー)を軽量な炭素繊維複合材を主成分とする材料にしたことで、軽量化、小型化ならびに無駆動ロール化を容易に実現することができ、現状の抄紙機にも容易に適用(増設)できる。
(3)Ni基合金系サーメットとセラミック(Al)からなる溶射皮膜によってロールセルの表面を被覆するので、この皮膜の弾性率を低下させることができ、急激な熱応力がかかるような場合でも、皮膜の割れや剥離などが少なく、ロールの寿命を大きく向上させることができる。
(4)Ni基合金系サーメットの構成元素として、耐摩耗性対策としてCr、Feを添加し、溶射皮膜と搬送ペーパーの摺動抵抗による双方の損傷防止を図れるため、固体潤滑剤であるBNを添加したので、抄紙作業性の向上が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
既設の製紙(抄紙)機械は各ロールが混み合った状態であり、例えば、フラッタリングを防止するためにペーパーに張力を与えるためのロールを増設するのは困難な状況にある。それは、既設の抄紙ラインにおいて、高速運転に耐えるための鋼製ロールを増設するには、剛性の面からロール径を大きくすることが必要になると共に鋼製ロールは慣性モーメントが大きいので、ペーパーとの速度差を小さくするためにはどうしても駆動ロールにする必要がある。しかし、現状の抄紙ラインでは、改造スペースが確保できないという問題があり、このような対応は不可能に近い状況にある。
【0017】
そこで本発明者らは、フラッタリング防止のために、現状の抄紙ライン内に小型でコンパクトな無駆動ロールを増設するための条件、ロール構造について検討した。
【0018】
こうした検討の中で、発明者らは、ロール本体、即ちロールセル(シリンダー)を軽量、高剛性、低慣性モーメントを満足する炭素繊維複合材を主体とする材料で構成すると共に、さらにその表面には、耐摩耗性およびペーパーとの優れたグリッピング性(耐すべり性)を有する皮膜を溶射法により形成してなる抄紙機用ロールを開発することができたので、以下にその構成の詳細を説明する。
【0019】
本発明のロールセル用材料として採用する前記炭素繊維複合材は、高弾性のピッチ系炭素繊維を成形したものであり、成形後のヤング率が240GPa以上である。これは鋼製ロールのヤング率:210GPaに比較して、高いヤング率を有するものである。このことは、稼働時のロール撓みを考慮すると、鋼製ロールに比較して、ロールセルの直径を小さくすることができると共に、セルの厚みも薄くすることができることを意味している。例えば、ロール長が4760mmの場合の稼働時の全撓み量を約0.5mmとした場合、鋼製ロールの場合、セル外径:245mm、シェル厚:13.3mmになるのに対し、炭素繊維複合材製ロールの場合は、セル外径:200mm、シェル厚:9.7mmで済む。
【0020】
また、炭素繊維複合材製ロールのもう一つの特徴は慣性モーメントが小さいということである。例えば、鋼製ロールの慣性モーメントは21kg・mであるのに対し、炭素繊維複合材製ロールの場合は3.3Kg・mと非常に小さい。このことは、起動、停止が瞬時であることと、無駆動ロールとして使用した場合に、ペーパーとの接触(ペーパーの巻き付け角度)が小さくても、ペーパーとの相対滑りも少なく、ペーパーの速度に瞬時に追従させることができることを意味している。
【0021】
次に、本発明では、前記炭素繊維複合材製ロール本体、即ちロールセルの表面に耐摩耗性およびグリッピグ性を付与する目的で溶射皮膜を被覆形成することにした。ただし、ロールセルの表面に被覆する皮膜の構成については検討が必要である。それは、抄紙機に適用されるこれらロールは、抄紙ラインの各セクション、とくにドライヤパートにおいて高温に曝されることが多く、しかも、一方では非定常的に冷水が飛散し、皮膜のみならずロール本体に熱衝撃が加わる場合がある。このような環境では炭素繊維複合材製ロール本体(ロールセル)およびその表面に被覆した溶射皮膜は、ともに加熱により膨張した状態から急冷されることになり、とりわけ前記溶射皮膜には割れや剥離等のトラブルが発生しやすくなる。
【0022】
そこで、発明者らは、抄紙ラインの中でも最も厳しい環境であるドライヤパート内で使用されるロールとして用いることのできる皮膜の条件について研究した。それは、このドライヤパートの環境温度は約130℃であり、この温度の溶射被覆炭素繊維複合材製ロールが急冷された時を想定した熱応力計算により、前記溶射皮膜の割れや剥離が発生しない溶射材料および溶射方法を見出すためである。
【0023】
発明者らが着目した溶射材料とは、溶射後の皮膜のヤング率が100GPaを越えないように調整された溶射材料、即ち、3〜10質量%のBNと、1〜5質量%のAl、5〜10質量%のFe、10〜20質量%のCrと、不可避的不純物を2質量%以下、そして残部がNiからなるサーメット(Ni基合金サーメット)と、高温域で安定で耐摩耗性のあるアルミナとを、重量比率で50:50〜80:20に配合した材料(溶射皮膜B)を用いることである。このような材料を用いて炭素繊維複合材製ロールの表面に溶射被覆したものでは、高温から急冷環境(冷水)に置いても、溶射皮膜の割れや剥離は発生しないことがわかった。
【0024】
抄紙ラインの中で常温近辺で使用されるロール、すなわち、熱衝撃のかからない部位で使用されるロールは、耐摩耗性を重視して硬くかつ弾性率の高い溶射材料で被覆するのが普通である。しかし、ドライヤパートで使用されるペーパーロールは、操業時や停止時に高温状態から急冷されることがあり、その急冷による熱応力で溶射皮膜が割れるおそれがある。このような場合、その熱応力を緩和する手法として、ロールセル表面に被覆する溶射皮膜の弾性率を低下させることが有効であると考えられる。
【0025】
そこで、本発明では、溶射材料の組成として、溶射による粒子間結合力が比較的弱いものの、それなりに耐摩耗性を示すサーメットとして、Cr−Fe−Alを含むNi基合金とBNとの混合物に着目し、このサーメットに高温域で安定であり、耐摩耗性のあるアルミナを混合した材料を用いることにしたのである。
【0026】
本発明で用いる前記溶射皮膜Bに対し、高温域(急冷されない部位)での耐摩耗目的で使用されている既存のクロム炭化物サーメット溶射皮膜Aを比較材とし、これら2種類の溶射材料を、50mm×50mm×10mm厚の鋼板に溶射被覆を行い、皮膜のみを採取して熱応力計算に必要な物性値を計算した。
【0027】
表1に、熱応力計算に使用した2種類の溶射皮膜A、Bおよび基材である炭素繊維複合材成形材(CFRP)の物性値を示した。これら物性値を使用して有限要素法による熱応力計算を行った。解析モデルとしては、図1に示す実機ロール形状の対称性を考慮して、全体の1/8を解析モデルとした。解析としては、全体の温度が均一に120℃となったロール表面を、シャワー水によって急冷した時に溶射皮膜中に生じる応力(非定常熱応力)を計算した。急冷条件としては、80℃、60℃、40℃、25℃のシャワー水を噴霧した場合について計算を行った。また、急冷温度差と溶射皮膜表面に生じるピーク応力の関係を求めた。
【0028】
【表1】

【0029】
上記試験の結果、急冷過程においてロール内部に生じる過渡的な温度分布を、非定常熱伝導解析によって求めた。境界条件は、ロール表面のみで熱伝達による冷却が行われるものとして、その他の表面は熱の出入りがない断熱条件とした。ロール一流水間の熱伝達係数は、5000W/mKとした。時間ステップは、急冷開始から0.01秒後から20秒後までの温度分布の変化を計算した。そして、それぞれの温度分布を用いて熱応力解析を行い、非定常熱応力の経時変化を調査した。なお、溶射皮膜中に周方向に生じる最大引張応力の、急冷開始直後から20秒間の経時変化を図2、図3に示した。
【0030】
これらの結果からわかるように、例えば、図2に示すように、クロム炭化物サーメット溶射皮膜(A)を25℃の流水で急冷した場合の皮膜中の非定常熱応力の値は、急冷開始直後の定常応力の値58MPaから急激に増大し、約8秒後に最大値255MPaをとった後、徐々に減少することがわかる。
【0031】
一方、図3に示すように、本発明に適合する溶射皮膜(B)を25℃の流水で急冷した場合は、急冷直後の定常応力の値7MPaから約8秒後の最大値が82MPaと、クロム炭化物サーメット溶射皮膜(A)の場合と比較して、応力が小さくなっている。
【0032】
また、シャワー流水の温度25℃の場合に限らず、シャワー流水の温度が40℃、60℃、80℃の場合においても本発明に適合する溶射皮膜(B)中に生じる応力は、クロム炭化物サーメット溶射皮膜(A)と比較して小さくなっている。図4は、急冷温度差と皮膜表面に生じるピーク応力の関係を示すものである。
【0033】
これらの結果、冷水にて急冷されるような部位での炭素繊維複合材製ロール(セル)表面に形成した溶射皮膜のヤング率は、100GPaを越えないこと、望ましくは80GPaを超えないようにすることが有効であると考えられる。
【0034】
本発明において、弾性率の低い材料(低ヤング率材料)として、Cr−Fe−Al−BNを含有するNi基合金系サーメットとアルミナセラミックとの複合材を選定した理由は、常に水が飛散するため耐食性の付与のためNi基合金を使用することとし、耐摩耗性付与のために、10〜20質量%のCrおよび5〜10質量%のFeを添加し、そして、BNは、ペーパーとの摩擦係数をある程度低下することによる双方の損傷を防止する目的で3〜10質量%を添加し、また、Alは複合するアルミナ粒子との親和性を考慮して1〜5質量%配合した。さらに、これらサーメットの配合については、溶射用粉末として製造する上で実用的な成分組成の範囲である。
【0035】
本発明において、炭素繊維複合材からなるロール基材の表面に、溶射皮膜を被覆形成する方法については、特に限定はないが、複合するセラミック粒子を溶融することが重要であり、プラズマ溶射法の適用が好ましい。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
熱応力検討結果を検証するため、以下の試験を行った。すなわち、実際の操業環境が130℃であることから、この環境に曝されたロールが冷水により常温近くまで急冷されることを想定して、図5に示す形状のテストロールを2種類を試作して熱衝撃試験を実施した。
【0037】
試作ロールの一つは、炭素繊維複合材で成形された直径:200mm、胴部の長さ:300mmのロ−ルセル1の表面に、プラズマ溶射法により、耐摩耗性のあるクロム炭化物サーメット材料を0.3mmの厚みに溶射被覆した。他の一つは、前者と同様にロールセル1の表面に、プラズマ溶射により、本発明に適合する溶射材料、8質量%BNと、3質量%Al、7質量%Fe、15質量%Cr、不可避的不純物2質量%以下および残部NiからなるNi基合金系サーメットとアルミナとを重量比率で70:30に配合した溶射材料を、0.3mmの厚みに溶射被覆した。
【0038】
このようにして試作したテストロールを簡易加熱炉内でロール全体を130℃まで加熱し、30分間保持した後、図6に示す冷却パターンで、水冷(シャワー)による熱衝撃試験を実施した。
【0039】
試験方法としては、各テストロールを常温から全体が130℃になるまで徐々に加熱した。この時に要した時間は約40分である。その後、130℃に30分間保持した後、あらかじめ各温度に加温された湯(80℃〜25℃)を上部よりシャワー放水してテストロールに散布した。手順としては、80℃、60℃、40℃、25℃の順とし、各温度の温水を散布し、常温まで冷却した後に表面観察を行い、割れや剥離発生の有無を確かめた。その結果、クロム炭化物サーメット溶射皮膜は、25℃の水を散布した時点で、図7に示す写真に明らかなように、微細な割れが発生した。しかし、本発明に適合する溶射材料を被覆した溶射皮膜の例では、25℃の水散布においても、図7に示すように、割れは全く認められなかった。
【0040】
試験後、このテストロール1、2について、これらを切断して断面組織を観察した。その結果を図8に示す。
図8に示すように、クロム炭化物サーメット皮膜4は基材である炭素繊維複合材3との密着性が優れており、かつ、組織的にも微細で緻密であることが確認される。一方、本発明に適合する溶射皮膜は、基材である炭素繊維複合材3との密着状況はクロム炭化物サーメットと同様であるが、溶射皮膜の形成にCr−Fe−Al−BNのNi基合金系サーメットの相5とアルミナの相6が複雑な層構成を示していることが確認される。すなわち、このCr−Fe−Al−BNのNi基合金系サーメットとアルミナとの複合により皮膜全体の弾性率(ヤング率)が低減されたものと推察される。
【0041】
(実施例2)
次に、抄紙ラインの実機ロールに適用した例について説明する。
実機ロールの対象としては、抄紙ラインで最も過酷な図9に示すドライ工程内、すなわち雰囲気温度120℃〜130℃、相対湿度100%の環境である多筒ドライヤーロール間に本発明の溶射皮膜を被覆した炭素繊維複合材製ロールで評価することとした。ここで、図10において、図示の7は多筒ドライヤーロール、図示の8はペーパー(ウエブ)であり、該多筒ドライヤーロ−ル7間のフリーランの位置に、ペーパーのフラッタリングを防止する目的の本発明に係るロール9を設置し、抄紙速度約1000m/min.で1年間の連続操業したときの評価を行った。なお、操業中でのライン停止は、1〜2回/月である。
【0042】
また、実機ペーパーロールの形状としては、図11に示すように、炭素繊維複合材製ロールセル11の大きさは、直径200mm、ロールセル胴部の長さは4,760mmであり、そのセル外表面に本発明に係る溶射皮膜12を被覆形成した。13はロール軸を示す。
【0043】
1年間の操業の結果、ロール表面を点検したが、溶射皮膜の摩耗は全くなく、割れ等の欠陥も全く確認されなかった。また、従来、抄紙速度は950m/min.が最大であったが、本発明のペーパーロールを増設することにより、1000m/min.まで速度が上げることができるようになり、生産性が大幅に向上した。
【0044】
さらに、炭素繊維複合材製ロールは、慣性モーメントが従来より使用している鋼製ロ−ルに比較して非常に小さいため、ペーパーとロールの巻き付け角(抱角)が小さくても無駆動ロ−ルとして抄紙速度に充分追従させることができるようになり、駆動系が不要であることが立証できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る抄紙機用ロールは、ドライヤパートのフラッタリング防止用ロールの他、塗工機におけるフラッタリング防止用ロール、比較的高温の環境において用いられる抄紙機、塗工機、平判カッター等のその他のペーパーロールなどとしても適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】解析モデルの説明図である。
【図2】急冷開始後の皮膜最大主応力の変化を示すグラフである。
【図3】急冷開始後の皮膜最大主応力の変化を示すグラフである。
【図4】皮膜表面ピーク応力の比較グラフである。
【図5】熱応力計算結果を検証するためのテストロールの概略図である。
【図6】テストロールによる熱衝撃試験パターンを示す図である。
【図7】テストロールによる熱衝撃試験後のテストロールの外観および表面の拡大写真である。
【図8】従来皮膜および本発明の皮膜の断面組織を示す写真である。
【図9】本発明の実施例におけるペーパーロールの組み込み位置を示す略線図である。
【図10】実施例で用いたペーパーロールの断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 ロールセル
2 溶射皮膜
3 基材(炭素繊錐複合材)
4 クロム炭化物サーメット皮膜
5 Ni基合金系サーメット
6 アルミナ
7 多筒ドライヤーロール
8 ペーパー(ウエブ)
9 ペーパーロール(フラッタリング防止用ロール)
10 既設鋼製ペーパーロール
11 炭素繊維複合材製ロールセル
12 溶射皮膜
13 ロール軸
14 ロールボス部
15 キャンバス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維複合材を用いてなるロールセル部の表面が、サーメットとアルミナとの混合物からなる溶射皮膜にて被覆されていること特徴とする抄紙機用ロール。
【請求項2】
前記溶射皮膜は、サーメットとアルミナとを、質量比率で50:50〜80:20の割合で配合した皮膜であることを特徴とする請求項1に記載の抄紙機用ロール。
【請求項3】
前記サーメットは、3〜10質量%のBNと、1〜5質量%のAl、5〜10質量%のFe、10〜20質量%のCr、2質量%以下の不可避的不純物および残部がNiからなるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の抄紙機用ロール。
【請求項4】
前記溶射皮膜は、ヤング率が100GPaを越えない特性を有することを特徴とする請求項1または2記載の抄紙機用ロール。
【請求項5】
抄紙機のドライヤパートに設置されるフラッタリング防止用ロールであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の抄紙機用ロール。
【請求項6】
前記抄紙機用ロールは、非駆動ロールとして使用されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに1項に記載の抄紙機用ロール。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の抄紙機用ロールを、抄紙機のドライヤパートに設置して、フラッタリングの防止を図りながら抄紙することを特徴とする紙の製造方法。
【請求項8】
前記抄紙機用ロールは、非駆動ロールとして使用されることを特徴とする請求項7に記載の紙の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−208472(P2008−208472A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43713(P2007−43713)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000109875)トーカロ株式会社 (127)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】