説明

把手付き合成樹脂製壜体

【課題】 本発明は、インサート材である把手の、2軸延伸ブロー成形中の壜本体に対する軸方向の接触抵抗をできる限り発生させないことにより、引っ掻き状の傷のない、PET製2軸延伸ブロー成形壜体を提供することを目的とする。
【解決手段】 把手8をインサート材とした把手付き合成樹脂製2軸延伸ブロー成形壜体において、壜本体1に2軸延伸ブロー成形されるプリフォームPの延伸軸心に対し、把手8のインサート部の上方領域よりも下方領域を離して位置させることにより、軸方向への延伸成形途中でのプリフォームPと把手8のインサート部との不要な接触の発生を無くし、もって製品である把手付き合成樹脂製壜体の表面に、引っ掻き状の傷の発生を無くす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、把手付き合成樹脂製壜体、特には合成樹脂製の把手をインサート材としてポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PETと記す)製の壜本体を2軸延伸ブロー成形することにより、壜本体に把手を強固に組付け固定した大型の把手付き合成樹脂製壜体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
予め一定形状に射出成形された把手をインサート材として、PET製壜本体を2軸延伸ブロー成形して構成される把手付き合成樹脂製壜体が、取扱いの便利な大型壜体として知られているが、この種の把手付き合成樹脂製壜体に使用される把手としては、特許第2998820号公報に示された把手、あるいはこの把手を改良した特開2001−328636号公報に示された把手が、壜本体と安定して強固に組付くこと、インサート材としての取扱いが容易であること等の理由によって、多数利用されている。
【0003】
この従来技術である特開2001−328636号公報に示された把手は、縦長板状の把手板の前方の先端面に嵌合突片を突設すると共に、相互に対向した側面に縦条状の係合突条を設けることにより、壜本体との係合組付き機能部を形成した縦棒状の一対の組付き梁片を平行に配置し、把手板の上下端間に、両組付き梁片を、湾曲棒状の連結脚片により、それぞれ架設状に連結した構成となっている。
【0004】
この従来技術である特許文献1に示された把手は、一対の組付き梁片が、壜本体の把手組付き部分である凹部に形成された縦突部を挟持するので、壜本体に対する把手の組付きが、安定して強固にそして確実に達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−328636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したような把手付き壜体は、PETを射出成形したプリフォームをブロー成形型により壜本体にブロー成形する際に、予め射出成形により別体として成形された、たとえばポリプロピレン、PET等からなる把手を壜本体の胴部上部側壁面に形成される把手組付け部分の主体部分である凹部に、インサート成形を行って組付けることにより得ることができる。
【0007】
上記インサート成形に際し、加熱により軟化したプリフォームを形成するPETを、特には把手のインサート部であり、壜本体との組付きを発揮する組付き梁片の形状に沿ってスムーズに変形させ、このインサート部の外周に沿って隙間なく回り込むようさせることにより、壜本体と把手の高い組付き強度が得られる。
【0008】
また、プリフォームをある程度延伸した段階ではPETにはかなり高い応力が発生し、上記したスムーズな変形がし難くなるので、インサート部をプリフォームのできる限り近傍に配置して、延伸の初期段階で壜本体へのインサートを達成するようにしている。この際、インサート部の主体部は、仮想される延伸軸心と平行する直立姿勢に設定される。
【0009】
しかしながら、(以下、図5参照)プリフォームPの壜本体への2軸延伸ブロー成形する際に、延伸軸心Oに沿った強制的な引き伸ばし成形である軸方向への延伸成形と同時にブロー成形(径方向への膨らまし変形)を行う場合、プリフォームPのブロー成形によりわずかに拡径したプリフォーム胴部Paの中央部分が、軸方向への延伸成形の途中の位置である延伸途中位置N1で、把手の組付き梁片の主体部11(図5中、二点鎖線図示)の下方領域に接触してしまう。
【0010】
このように、軸方向への延伸成形の途中でプリフォームPが主体部11に接触してしまうと、この接触抵抗が、プリフォームPの軸方向への延伸成形に対して強い抵抗力として作用するが、この状態のまま軸方向への延伸成形を強制的に完了させている。
【0011】
このため、成形された壜本体1の把手組付き部分の直下の胴部の外表面部分には、接触した主体部11を乗り越える際の引っ掛かりにより、縦に伸びた引っ掻き状の傷が付形されてしまうことがある、と云う不満があった。
【0012】
そこで本発明は、上記した従来技術における不満を解消すべく創案されたもので、インサート材である把手の、2軸延伸ブロー成形中の壜本体に対する軸方向の接触抵抗をできる限り発生させないことを技術的課題とし、もって引っ掻き状の傷のない、PET製2軸延伸ブロー成形壜体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記技術的課題を解決するための、本発明の主たる構成は、
合成樹脂製の射出成形品である把手をインサート材として、ポリエチレンテレフタレート樹脂製の壜本体を2軸延伸ブロー成形して、把手を壜本体に組付き固定する把手付き合成樹脂製壜体であること、
壜本体の胴部に把手組付き部分を形成し、この把手組付き部分を、胴部の後部に陥没設された凹部を有し、この凹部の凹部底面の中央部に縦突部を突出設して構成すること、
把手を、起立姿勢で平行に配置された一対の組付き梁片の上下端間に把手板を一体設して構成すること、
この組付き梁片の主体部を、壜本体の把手組付き部分の縦突部側近の凹部底面部分にインサート組付きする部分とすること、
この組付き梁片の主体部の上方領域よりも下方領域を、延伸軸心から離して位置させること、
にある。
なお、「主体部の上方領域および下方領域」とは、主体部の中央を境として、上側部分および下側部分を意味している。
【0014】
把手は、その両組付き梁片の主体部で、壜本体の把手組付き部分の縦突部を両側から抱え込むようにして、インサート組付けされ、壜本体の凹部内に位置することになる。
【0015】
壜本体の2軸延伸ブロー成形時に、組付き梁片の主体部の上方領域よりも下方領域を、延伸軸心から離れるように位置させているので、(以下、図5参照)プリフォームPのブロー成形によりわずかに拡径したプリフォーム胴部Paの中央部分が、軸方向への延伸成形の途中の段階の延伸途中位置N1で、把手の組付き梁片の主体部11(図5中に実線図示)の下方領域に接触することがなく、プリフォームPの2軸延伸ブロー成形は、スムーズに継続される。
【0016】
それゆえ、下側間隔S2を、延伸完了位置N2に達したところ、またはその付近で、プリフォーム胴部Paが、把手の組付き梁片の主体部11に接触するように設定することにより、軸方向への延伸成形中にプリフォーム胴部Paと組付き梁片の主体部11の接触を皆無、もしくは殆ど無くすことが可能となる。
【0017】
また、延伸軸心Oに沿った延伸成形の終了と略同時にプリフォーム胴部Paが把手の組付き梁片の主体部11に接触するので、主体部11には延伸による肉薄化の程度が小さいプリフォーム胴部Pa部分、すなわち比較的肉厚が大きいプリフォーム胴部Pa部分が接触することになり、これにより把手組付き部分が肉付きのよい状態で成形されることになる。
【0018】
本発明の別の構成は、上記した主たる構成において、組付き梁片の主体部の上方領域よりも下方領域を延伸軸心から離して位置させるべく、把手を傾斜させた、ものである。
【0019】
把手を傾斜させたものにあっては、「傾斜」と云うきわめて単純な構成(処理)により、主体部の上方領域よりも下方領域を延伸軸心から離して位置させることができると共に、その傾斜角度の設定に従って、主体部の下方領域の部分と延伸軸心との間隔の値を、簡単に設定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、上記した構成となっているので、以下に示す効果を奏する。
本発明の主たる構成にあっては、下側間隔S2を、延伸完了位置N2に達したところ、またはその付近で、プリフォーム胴部Paが、把手の組付き梁片の主体部11に接触するように設定することにより、軸方向への延伸成形中にプリフォーム胴部Paと組付き梁片の主体部11の接触を皆無、もしくは殆ど無くすことが可能となるので、壜本体表面に把手との接触による引っ掻き状の傷の発生を無くすことができ、これにより外観体裁の良い、商品価値の高い把手付き壜体を得ることができる。
【0021】
また、把手組付き部分を肉付きのよい状態で成形することができるので、壜本体と把手の組付き強度の高い把手付き合成樹脂製壜体を得ることができる。
【0022】
把手を、延伸軸心に対して傾斜させたものにあっては、きわめて単純な構成(処理)により、組付き梁片の主体部の下方領域部分と延伸軸心の下側間隔S2を、簡単に設定することができるので、把手をインサート材とした壜本体の2軸延伸ブロー成形操作を簡単に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の把手付き合成樹脂製壜体の一実施例を示す、全体側面図である。
【図2】図1中、A−A線に沿って切断矢視した、一部除去した横断平面図である。
【図3】図1に示した実施例に使用した把手の、背面図である。
【図4】図1に示した実施例に使用した把手の、側面図である。
【図5】把手とプリフォームの軸方向への延伸成形動作時の、動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施例を、図面を参照しながら説明する。
本実施例による壜体は、大型(4リットル)なPET製2軸延伸ブロー成形品である壜本体1と、この壜本体1の有底円筒形状をし、上端に上方に縮径した肩部を介して口筒部7を連設した胴部2の後部に、陥没形成された凹部4を主体として構成された把手組付き部分3に、インサート成形手段により組付け固定された、PET製射出成形品である把手8とから構成されている。
【0025】
この壜本体1の把手組付き部分3を構成する凹部4は、その上下両端部を除く中央部分を直立した平坦面とした凹部底面5の中央に、上下方向に沿って比較的幅広な突条状の縦突部6を、ほぼ一定した高さで、凹部4の全高さ範囲にわたって膨出状に突設して構成されている(図1および図2参照)。
【0026】
把手8は、縦板状の把手板9の上下両端間に、上下両端部を湾曲させた連結脚片17を介して、一対の組付き梁片10を平行に架設状に設け、この一対の組付き梁片10の、直線棒状をした部分を主体部11としており、この主体部11は、相対向する内側面13と先端面12とで形成されるコーナー部近傍に、断面が略直角3角形状の嵌合突条15を、直角を形成する一方の辺が内側面13から略垂直に、他方の辺が組付き梁片10の先端面12から略垂直に突出するように突設して構成されており(図2参照)、この把手8は把手組付き部分3に対して、その組付き梁片10の主体部11を、壜本体1の中心軸心である延伸軸心Oに対して、傾斜角t(図1、図4参照)だけ傾斜させて組付けられている。
【0027】
それゆえ、プリフォームPの壜本体1への2軸延伸ブロー成形に際して、プリフォームP側に突出する主体部11部分は嵌合突条15となり、2軸延伸成形に際しては、この嵌合突条15が真っ先にプリフォームPに接触することになる。
【0028】
また、嵌合突条15の断面形状の斜辺に相当する突条先端面は緩やかな円弧状に形成し、嵌合突条15の表面に複数の横細溝を刻設することにより、ブロー成形時における壜本体1のPET材料の滑り性を良好にしている。
【0029】
また、本実施例では、嵌合突条15を二山状に形成しており、両嵌合突条15の中間部には、組付き梁片12の内側面13に突出設された構成の係合突条16が位置している(図3参照)。この嵌合突条15の2山状の形状は、把手8の軽量化と、成形時における壜本体1のPETを、この係合突条16部分に回り込ませることによる、さらなる組付き強度の向上を目的としたものである。なお、係合突条16を形成しない構成でも充分な組付き強度を有するので、嵌合突条15を2山状にするかどうかは成形性等も考慮して選択して、設計することができる。さらに、この嵌合突条15の形状は目的に応じて、3山以上の形状とすることもできる。
【0030】
把手8の壜本体1に対する組付きは、把手8をインサート材として、壜本体1を2軸延伸ブロー成形することにより達成されるが、ブロー成形時には、嵌合突条15の突条先端面がプリフォームPの外周面近傍に位置するように配置される(図2参照)。
【0031】
2軸延伸ブロー成形時には、プリフォームPは、まず主体部11の嵌合突条15の突条先端面に当接し、この突条先端面を覆い、両角部で曲り込み、一方では嵌合突条15の側面に沿って変形して内側面13に至り、また他方では嵌合突条15の他方の側面および先端面12に沿って変形し外側面14先端部に至り、壜本体1への把手8のインサートが達成されるが、嵌合突条15の断面形状が略直角3角形であり、この嵌合突条15の外周面沿ってPETを隙間なく回り込ませることができる。(図2参照)
【0032】
上記のような把手8をインサートしたブロー成形により、組付き梁片10の主体部11の一部は壜本体1の縦突部6の両側縁の凹部底面5に陥没するようにインサートされ、把手8と壜本体1との組付き固定が確実に達成される(図2参照)。
【0033】
図示実施例の場合、延伸軸心Oに対して把手8を傾斜角度tで傾斜させる把手8の傾斜中心位置Tは、把手8の中央(図4参照)に位置しているので、組付き梁片10の主体部11は、その上方領域が延伸軸心Oに接近し、下方領域が延伸軸心Oから遠くなっている。
【0034】
これにより、主体部11の下方領域を延伸軸心に沿った延伸成形に際して、延伸成形中のプリフォームPから離すことができるので、延伸完了位置N2に達するまで、プリフォームPを主体部11の下方領域に接触させずに済み、これにより成形される壜本体1に引っ掻き状の傷が付かない。
【0035】
また、延伸軸心Oに沿った軸方向の延伸成形の終了と略同時にプリフォーム胴部Paが組付け梁片11に接触するので、主体部11には延伸による肉薄化の程度が小さいプリフォーム胴部Pa部分、すなわち比較的肉厚が大きいプリフォーム胴部Pa部分が接触することになり、これにより把手組付き部分3が肉付きの良い状態で成形されることになり、把手組付き部分3の把手8に対する組付き強度を高めることができる。
【0036】
図示実施例の場合、壜本体1全体のPETの重量は134gで、把手8を傾斜させない場合の把手組付き部分3全体のPET重量が27gであったのに対して、把手8を傾斜させた場合の把手組付き部分3全体のPET重量は、31gと増加しており、把手8を傾斜させることにより、把手組付き部分3におけるPET材料の肉付きの改善されており、これにより壜本体1に対する把手8の組付き強度が高められ、その結果、落下強度は、把手8を傾斜させない場合の平均が102cmであったのに対し、把手8を傾斜させた場合の平均は109cmとなり、落下強度が高められた。
【0037】
なお、本発明の実施例として4リットルの壜体を示したが、本発明の実施はこれに限定されることはなく、他の大きさの壜体に実施することが可能であることは言うまでも無く、この場合把手付きであることから、2リットル以上の大型壜体が適している。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の把手付き合成樹脂製壜体は、上記したように、インサート材として組付けられる把手による引っ掻き状の傷の発生を無くすことにより、把手付き合成樹脂製壜体の商品価値を高めることができるので、別個に成形された把手をインサート材として組付ける把手付き合成樹脂製壜体として幅広い利用展開が期待される。
【符号の説明】
【0039】
1 ;壜本体
2 ;胴部
3 ;把手組付き部分
4 ;凹部
5 ;凹部底面
6 ;縦突部
7 ;口筒部
8 ;把手
9 ;把手板
10;組付き梁片
11;主体部
12;先端面
13;内側面
14;外側面
15;嵌合突条
16;係合突条
17;連結脚片
P ;プリフォーム
Pa;プリフォーム胴部
N1;延伸途中位置
N2;延伸完了位置
S1;上側間隔
S2;下側間隔
O ;延伸軸心
t ;傾斜角
T ;傾斜中心位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の射出成形品である把手をインサート材として、ポリエチレンテレフタレート樹脂製の壜本体を2軸延伸ブロー成形して、前記把手を壜本体に組付き固定する把手付き合成樹脂製壜体であって、前記壜本体の胴部に把手組付き部分を形成し、該把手組付き部分を、前記胴部の後部に陥没設された凹部を有し、該凹部の凹部底面の中央部に縦突部を突出設して構成し、前記把手を、起立姿勢で平行に配置された一対の組付き梁片の上下端間に把手板を一体設して構成し、前記把手組付き部分の縦突部側近の凹部底面部分にインサート組付きする部分を組付き梁片の主体部とし、該主体部の上方領域よりも下方領域を延伸軸心から離して位置させた把手付き合成樹脂製壜体。
【請求項2】
組付き梁片の主体部の上方領域よりも下方領域を延伸軸心から離して位置させるべく、把手を傾斜させた請求項1に記載の把手付き合成樹脂製壜体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−12068(P2012−12068A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149779(P2010−149779)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】