説明

把持装置の制御装置及び把持装置の制御方法

【課題】高い把持力を維持しつつ、電動モータの消費エネルギーを低減し、高耐久化を実現させる。
【解決手段】CPUは、把持対象物を把持するのに必要な所定把持力Fを一対のフィンガーに発生させる第1の電流指令値Iを電源部に出力する。電源部は、第1の電流指令値Iに対応する第1の電流値Iの電流を電動モータに供給する。また、CPUは、電流指令を歯車減速機のヒステリシス特性に基づき、所定把持力Fが維持される第2の電流指令値Iに減少させる。電源部は、第2の電流指令値Iに対応する第2の電流値Iの電流を電動モータに供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動組立を行う産業用ロボットに適用される把持装置の制御装置及び把持装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ等の小型で複雑な構造をした製品に対する自動化の要求が高まっており、これらの製品に使用される部品は小物部品が多く、多種にわたっている。このような小物部品は、狭いスペースで高速かつ安定して組立が行われる必要があり、これに対応するための把持装置が提案されている(特許文献1参照)。この把持装置は、電動モータと、電動モータの出力軸に固定され、一対の半円形状のカム溝を有するカム部材と、カム部材のカム溝に嵌る駆動ピンを有する一対のフィンガーと、フィンガーをガイドするガイド部と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−233391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、把持装置では、フィンガーに外力が作用してもその外力でフィンガーが動かないように把持力を維持する必要がある。したがって、把持力を維持するために電動モータに大きな電流を供給する必要があるので、電動モータにより消費される電力が大きくなり、把持/組み付けの動作を繰り返し長時間に亘って行うと、消費エネルギー(消費電力量)が大きくなる問題があった。また、電動モータの消費エネルギーが大きいと、電動モータの発熱量も大きくなり、把持装置の耐久性が低下する可能性があった。
【0005】
そこで、本発明は、高い把持力を維持しつつ、電動モータの消費エネルギーを低減し、高耐久化を実現させる把持装置の制御装置及び把持装置の制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、電動モータと、前記電動モータの出力軸の回転を減速する歯車減速機と、前記歯車減速機の出力軸に設けられた回転直動変換機構により開閉動作して把持対象物を把持する一対のフィンガーと、を有する把持装置の制御装置において、入力した電流指令値に対応する電流値の電流を前記電動モータに供給する電流供給手段と、前記把持対象物を把持するのに必要な所定把持力を前記一対のフィンガーに発生させる第1の電流指令値を前記電流供給手段に出力する第1の電流制御手段と、前記一対のフィンガーに前記把持対象物を把持させた状態で、前記電流供給手段に出力する電流指令値を、前記第1の電流指令値よりも小さく、かつ、前記歯車減速機に起因する、前記電動モータに供給する電流に対する前記一対のフィンガーの把持力のヒステリシス特性に基づき、前記所定把持力が維持される第2の電流指令値に減少させる第2の電流制御手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明は、電動モータと、前記電動モータの出力軸の回転を減速する歯車減速機と、前記歯車減速機の出力軸に設けられた回転直動変換機構により開閉動作して把持対象物を把持する一対のフィンガーと、を有する把持装置の制御方法において、前記把持対象物を把持するのに必要な所定把持力を前記一対のフィンガーに発生させる第1の電流値の電流を、前記電動モータに供給する第1の工程と、前記第1の工程で前記一対のフィンガーに前記所定把持力を発生させて前記把持対象物を把持させた後、前記電動モータに供給する電流を、前記第1の電流値よりも小さく、かつ、前記歯車減速機に起因する、前記電動モータに供給する電流に対する前記一対のフィンガーの把持力のヒステリシス特性に基づき、前記所定把持力が維持される第2の電流値に減少させる第2の工程と、を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一対のフィンガーにより把持対象物を把持する際に、把持力を維持したまま、歯車減速機のヒステリシス特性に基づいて電動モータに供給する電流を低減させているので、電動モータの消費エネルギーが低減する。したがって、電動モータの発熱量も減り、高耐久化を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る把持装置及び制御装置の概略を示す斜視図である。
【図2】把持装置の概略構成を示す説明図であり、(a)は、図1に示すIIa−IIa線に沿う把持装置の断面図、(b)は、歯車減速機の斜視図である。
【図3】制御装置のブロック図である。
【図4】電動モータに供給する電流の電流値に対する、一対のフィンガーの把持力のヒステリシス特性を示す図である。
【図5】制御装置の制御部のCPUによる制御動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施形態に係る制御装置の制御部のCPUの制御動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第2実施形態における電動モータに供給する電流の電流値と、エンコーダの出力値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る把持装置及び制御装置の概略を示す斜視図である。図2は、把持装置の概略構成を示す説明図であり、図2(a)は、図1に示すIIa−IIa線に沿う把持装置の断面図、図2(b)は、歯車減速機の斜視図である。図1に示すように、把持装置1と制御装置2とは、ケーブル3によって接続されており、制御装置2は、ケーブル3を介して把持装置1に電流を供給する。図2(a)に示すように、把持装置1は、電動モータ12と、電動モータ12の出力軸の回転を減速する歯車減速機11と、を備えている。電動モータ12に対して歯車減速機11が配置される側とは反対側には、電動モータ12の出力軸の回転角度(回転位置)を検出するエンコーダ13が設けられている。これら電動モータ12、歯車減速機11及びエンコーダ13が筐体10の内部に収納されている。
【0012】
電動モータ12はACサーボモータである。歯車減速機11は、本第1実施形態では、遊星歯車減速機である。筐体10は、箱状に形成され、筐体10の一面が歯車減速機11の出力軸11aを外部に突出させる開口部9aが形成されたベース部材9で形成されている。
【0013】
また、把持装置1は、筐体10の外部に配置された一対(2つ)のフィンガー4,4と、歯車減速機11と一対のフィンガー4,4との間に配置されたラックアンドピニオン機構で構成される回転直動変換機構5と、を備えている。この回転直動変換機構5は、歯車減速機11の出力軸11aに設けられ、歯車減速機11の出力軸11aの回転運動を一対のフィンガー4,4の直線運動に変換して一対のフィンガー4,4を開閉動作させる。本第1実施形態では、把持対象物Wはカメラ等の生産に用いられる小さな部品であり、把持装置1の小型化を図るべく、小型の電動モータ12を用い、所定把持力を得るために、歯車減速機11を設けている。各フィンガー4は、ステンレス材や鉄等の弾性特性を有する材料で形成され、把持対象物Wを把持するときは、この弾性によって各フィンガー4が撓みつつ把持を行う。
【0014】
回転直動変換機構5は、図1に示すように、歯車減速機11の出力軸11aに固着されたピニオン6を有している。また、回転直動変換機構5は、一対のフィンガー4の基部にそれぞれ固定され、ピニオン6を間に挟んでピニオン6に噛み合い、ピニオン6の回転運動を直線運動に変換する一対のラック7,7を有している。つまり、一対のラック7,7は、出力軸11aの軸心を中心に点対称にピニオン6を挟んで互いに対向して配置されており、ピニオン6の回転運動により互いに反対方向に直線運動する。各ラック7,7とベース部材9との間には、リニアガイド8がそれぞれ配置されている。各リニアガイド8,8は、ラック7,7がピニオン6に噛み合うように、互いに平行にベース部材9に固定されたレール部8b,8bと、ラック7,7に固定され、レール部8b,8bに沿って摺動するスライダー部8a,8aとを有している。この回転直動変換機構5の構成により、歯車減速機11の出力軸11aの回転と共にピニオン6が回転運動すると、ピニオン6に噛合した一対のラック7,7がレール部8b,8bに沿って互いに反対方向に直線運動し、一対のフィンガー4,4が開閉動作する。本第1実施形態では、一対のフィンガー4,4の閉動作により把持対象物Wを把持することができ、開動作により把持対象物Wの把持を解除することができる。そして、本第1実施形態では、回転直動変換機構5をラックアンドピニオン機構としたので、一対のフィンガー4,4はスムーズに開閉動作し、これにより省電力化が図られている。
【0015】
エンコーダ13は、電動モータ12の出力軸の回転角度を検出し、回転角度に対応する数のパルス信号を出力するが、電動モータ12の出力軸の回転角度と、一対のフィンガー4,4の開閉位置とは対応関係にある。したがって、エンコーダ13は、電動モータ12の出力軸の回転角度を検出することで、一対のフィンガー4,4の開閉位置を検出する検出手段として機能する。
【0016】
歯車減速機11は、図2(b)に示すように、電動モータ12の出力軸に接続される入力軸24を有している。入力軸24には太陽歯車23が固着されており、太陽歯車23が回転することで、太陽歯車23に噛み合っている3つの遊星歯車21,21,21が、歯車減速機11の外装に固定された内歯車22と噛み合いつつ公転をする。これら3つの遊星歯車21,21,21は一体的に出力軸11aに軸受を介して接続されており、電動モータ12の回転はこれら機構にて減速され出力軸11aに出力される。なお、歯車減速機11は、設定する減速比によって、このような減速機構を複数段(例えば2段〜3段程度)組み合わせて構成してもよい。
【0017】
図3は、制御装置2のブロック図である。制御装置2は、上述したエンコーダ13と、エンコーダ13が出力したパルス信号Pを入力し、電流指令値Iを出力する制御部30と、を備えている。つまり、制御部30には、電動モータ12の回転角度の情報、つまり一対のフィンガー4,4の開閉位置に対応する数のパルス信号Pが入力され、これにより一対のフィンガー4,4の開閉位置が検出される。また、制御装置2は、制御部30より出力された電流指令値Iを入力して、電流指令値Iに対応する電流値Iの電流を電動モータ12に供給する電流供給手段としての電源部40を備えている。制御部30は、CPU31,ROM32及びRAM33を有している。ROM32は、CPU31に把持装置1全体を制御させるための制御プログラムと各種情報とを予めを記憶する記憶手段であり、CPU31は、ROM32に記憶された制御プログラムに基づいて動作する。なお、記憶手段としてのROM32は、EEPROM等の書き換え可能な不揮発性メモリであるが、記憶手段として、ROMの代わりにHDD等であってもよく、記憶媒体は特に限定するものではない。RAM33は、一時的にCPU31の演算結果等を記憶する作業領域である。
【0018】
ここで、一対のフィンガー4,4により把持対象物Wを把持したときに、多数の歯車の噛み合わせを持つ歯車減速機11には負荷がかかる。この負荷が歯車減速機11の多数の歯車にかかることで各歯車に歪や摩擦が生じ、電動モータ12に供給する電流の電流値Iと一対のフィンガー4,4による把持力Fとの関係は、図4に示すようなヒステリシス特性Hとなる。つまり、歯車減速機11に起因して、電動モータ12に供給する電流の電流値Iに対して、一対のフィンガー4,4による把持力Fは、図4に示すヒステリシス特性Hを持つ。そこで、本第1実施形態では、CPU31は、このヒステリシス特性Hに基づいて電源部40に出力する電流指令値Iを制御し、もって電動モータ12に供給する電流の電流値Iを制御する。
【0019】
以下、ROM32に記憶された制御プログラムに基づくCPU31の制御動作について、図5に示すフローチャートに沿って図4を参照しながら説明する。まず、CPU31は、把持対象物Wを把持するのに必要な所定把持力Fを一対のフィンガー4,4に発生させる第1の電流指令値(把持指令)Iを電源部40に出力する(第1の電流制御手段)。第1の電流指令値Iを入力した電源部40は、第1の電流指令値Iに対応する第1の電流値Iの電流を電動モータ12に供給する。つまり、所定把持力Fを一対のフィンガー4,4に発生させる第1の電流値Iの電流が電動モータ12に供給される(S1−1)。これにより、把持対象物Wは一対のフィンガー4,4により所定把持力Fで把持される(S1−2:図4中、点A)。以上のステップS1−1,S1−2が第1の工程である。
【0020】
次に、CPU31は、一対のフィンガー4,4に把持対象物Wを所定把持力Fで把持させた状態で、電源部40に出力する電流指令値Iを第1の電流指令値Iから徐々に下げていく。これにより、電源部40は、電動モータ12に供給する電流の電流値Iを、第1の電流値Iから徐々に下げていくこととなる(S2−1)。このとき、歯車減速機11に起因するヒステリシス特性Hにより、一対のフィンガー4,4の把持力Fは、電流値Iを下げても所定把持力Fに維持されている(点A−A’間)。次に、CPU31は、電源部40に出力する電流指令値Iを、第1の電流指令値Iよりも小さく、かつ、ヒステリシス特性Hに基づき所定把持力Fが維持される第2の電流指令値Iまで減少させ、電流指令値Iの減少を停止させる。つまり、電源部40は、電動モータ12に供給する電流を、第1の電流値Iよりも小さく、かつ、ヒステリシス特性Hに基づき所定把持力Fが維持される第2の電流値Iまで減少させ、電流値Iの減少を停止させている(S2−2:図4中、点A’)。これにより、電流指令値Iは、第2の電流指令値Iとなり、電動モータ12に供給する電流の電流値Iは、第2の電流値Iとなる。以上のステップS2−1,S2−2における制御プログラムに基づいて動作するCPU31が、第2の電流制御手段として機能し、これらS2−1,S2−2が第2の工程に対応する。
【0021】
ここで、第1の電流値I及び第2の電流値I、即ち第1の電流指令値I及び第2の電流指令値Iは、把持する部品(把持対象物W)に合わせて実験等により決める。第1の電流値I(第1の電流指令値I)は、実際に把持対象物Wを把持させるのに必要な所定把持力Fとなる電流値(電流指令値)として決定する。第2の電流値I(第2の電流指令値I)は、実験等によるヒステリシス特性Hの測定結果に基づいて決定される。具体的に説明すると、第1の電流指令値Iと第2の電流指令値Iとの関係が記憶手段であるROM32に予め記憶させている。つまり、第2の電流指令値Iは、予め測定したヒステリシス特性Hの情報を用いて設定した固定値である。なお、この第1の電流指令値Iと第2の電流指令値Iとの関係は、第1の電流指令値Iに対して第2の電流指令値Iが特定可能であればよく、例えば演算式やテーブル等としてROM32に予め記憶させておけばよい。このROM32に対する記憶動作は、組立の一連のジョブを繰り返し実行する前に、1回だけ行えばよい。また、把持対象物Wが特定のものであり、変更の予定がなければ、ROM32は電流指令値I,Iの書き換えが不能であってもよく、予め電流指令値I,Iを記憶させておけばよい。
【0022】
CPU31は、ステップS1−1において、ROM32を参照して、第1の電流指令値Iを読み出し、読み出した第1の電流指令値Iまで徐々に増加させて電源部40に出力する。また、ステップS2−1,S2−2において、ROM32を参照して、第1の電流指令値Iに対する第2の電流指令値IをROM32から読み出し、その読み出した第2の電流指令値Iまで電流指令値を徐々に減少させて電源部40に出力する。
【0023】
以上、本第1実施形態では、一対のフィンガー4,4により把持対象物Wを把持する際に、把持力Fを所定把持力Fに維持したまま、歯車減速機11のヒステリシス特性Hに基づいて電動モータ12に供給する電流の電流値IをΔIだけ低減させている。したがって、電動モータ12に供給する電流の電流値IがΔI(=I−I)低減する分、電動モータ12の消費電力が低減し、電動モータ12の消費エネルギー(消費電力量)が低減する。これにより、電動モータ12の発熱量も減り、把持装置1の高耐久化を実現することが可能となる。
【0024】
また、本第1実施形態では、電動モータ12に供給する電流の電流値Iを低減させるために、一対のフィンガー4,4が動かないように一対のフィンガー4,4をロックするロック機構を設ける必要がなく、構造が簡単である。したがって、把持装置1の小型化を実現することができる。
【0025】
[第2実施形態]
上記第1実施形態では、予めヒステリシス特性Wを測定し、記憶手段としてのROM32に第2の電流指令値Iを記憶する場合について説明したが、本第2実施形態では、第2の電流指令値Iを自動的に設定する場合について説明する。なお、把持装置の構成は、上記第1実施形態と同様であり、また、制御装置についても、ROMに記憶されている制御プログラムが異なる以外は、上記第1実施形態と同様の構成である。したがって、以下、装置の構成については、図1〜図3と同様であり、上記第1実施形態と同様の符号を付して説明する。
【0026】
図6は、本発明の第2実施形態に係る制御装置の制御部のCPUの制御動作を示すフローチャートである。また、図7は、本発明の第2実施形態における電動モータに供給する電流の電流値と、エンコーダの出力値との関係を示す図である。
【0027】
CPU31は、ROM32に記憶された制御プログラムに基づいて動作する。まず、CPU31は、把持対象物Wを把持するのに必要な所定把持力Fを一対のフィンガー4,4に発生させる第1の電流指令値(把持指令)Iを電源部40に出力する(第1の電流制御手段)。第1の電流指令値Iを入力した電源部40は、第1の電流指令値Iに対応する第1の電流値Iの電流を電動モータ12に供給する。つまり、所定把持力Fを一対のフィンガー4,4に発生させる第1の電流値Iの電流が電動モータ12に供給される(S1−1)。これにより、把持対象物Wは一対のフィンガー4,4により所定把持力Fで把持される(S1−2:図6中、点B)。以上のステップS1−1,S1−2が第1の工程である。なお、この点Bは、図4における点Aに相当する。
【0028】
次に、CPU31は、一対のフィンガー4,4に把持対象物Wを把持させた状態で、電源部40に出力する電流指令値Iを第1の電流指令値Iから徐々に下げていく。これにより、電源部40は、電動モータ12に供給する電流の電流値Iを、第1の電流値Iから徐々に下げていくこととなる(S2−1)。このとき、歯車減速機11に起因するヒステリシス特性Hにより、一対のフィンガー4,4の把持力Fは、電流値Iを下げても所定把持力Fに維持されている(点B−B’間)。
【0029】
ここで、電動モータ12の出力軸の回転角度、即ち一対のフィンガー4,4の開閉位置を検出するが(S2−2’:検出工程)、CPU31は、エンコーダ13の出力値が微小変化量ΔP動いたか否かを判断する(S2−3’)。つまり、このステップS2−3’でCPU31は、第1の電流指令値Iに対応する第1の電流値Iの電流を電動モータ12に供給したときのフィンガー4,4の開閉位置を基準にフィンガー4,4が予め定めた所定量開方向に変位したか否かを判断する。ここで、検出工程では、エンコーダ13により一対のフィンガー4,4の開閉位置が検出されるが、その検出結果として、パルスが出力される。したがって、CPU31は、エンコーダ13から出力値(パルス数)を得ることで、ステップS2−3’の判断をする。エンコーダ13による検出動作は、図6中、ステップS2−1の後としているが、常時又は所定のサンプリング間隔で行われる。そして、電流を下げていく過程で、エンコーダ13の出力値が監視されているが、ステップS2−3’の判断結果がNOの場合、エンコーダ13の出力値(パルス数)は値Pで、一対のフィンガー4,4が動かないままの状態となっている。したがって、ステップS2−1に戻り、電流値Iが下げられる。
【0030】
このように、CPU31は、第1の電流指令値Iから徐々に電流指令値Iを減少させて、電動モータ12に供給する電流の電流値を第1の電流値Iから徐々に減少させている。そして、エンコーダ13の出力値が微小変化量ΔP変動したとき(S2−3’:YES)、CPU31は、電動モータ12に供給する電流の電流値Iを第2の電流値Iとして(S2−4’)、電流を下げるのを止める(S2−5’)。このとき図7においては点B’’となる。つまり、ここで決められた第2の電流値Iは、図7におけるヒステリシス特性Hにおいて把持力Fで保持できる最小の電流値となる。
【0031】
具体的に説明すると、CPU31は、第1の電流指令値Iに対応する第1の電流値Iの電流を電動モータ12に供給したときのフィンガー4,4の開閉位置を基準位置としている。そして、CPU31は、第1の電流指令値Iから電流指令値Iを下げていき、電動モータ12に供給する電流の電流値Iを徐々に下げていく。そして、CPU31は、基準位置からフィンガー4,4が予め定めた所定量、開方向に変位したのをエンコーダ13が検出した場合に出力している電流指令値Iを第2の電流指令値Iとして、電流指令値の減少を停止する。ここで、フィンガー4,4の基準位置におけるエンコーダ13の出力値をPとすると、フィンガー4,4の変位する所定量は、エンコーダ13から出力される出力値(パルス数)Pからの微小変化量ΔPに対応する。これにより、電源部40は、一対のフィンガー4,4を所定把持力Fに維持したまま、電動モータ12に供給する電流を第2の電流値Iに低下させている。以上のステップS2−1,S2−3’,S2−4’,S2−5’における制御プログラムに基づいて動作するCPU31が、第2の電流制御手段として機能し、これらステップが第2の工程に対応する。
【0032】
ここで、エンコーダ13の出力値における微小変化量ΔPは数パルス程度であり、この数パルス程度の位置変化でフィンガー4,4での把持力Fは、ほとんど変化しない。例えば、歯車減速機11の減速比を1/100、エンコーダ13に200pprのエンコーダを構成したとする。4逓倍で使用したとすると、回転直動変換機構5のピニオン6の出力軸での検出分解能は80000pprとなる。ピニオン6のピッチ円直径Dpとすると、回転運動を直線運動に変換後の直線運動での分解能は、およそDp×π/80000となる。Dpが仮に10mmとすると、ラックアンドピニオンによる直線運動変換後の位置での分解能に換算すると約0.0004mmで、ΔPを5パルスとしても0.002mmとなる。フィンガー4,4の開閉位置で、把持力F=10Nで把持対象物Wを把持する場合、エンコーダ13の位置での5パルスは、フィンガー4,4で0.002mm程度にしかならず、把持力10Nはほぼ変化しない。したがって、一対のフィンガー4,4により把持対象物Wを把持する把持力Fは、所定把持力Fに維持される。但し、このΔPのパルス数は把持する把持対象物W(部品)や、把持装置1に構成される歯車減速機11、エンコーダ13の仕様によって変わり、前記数値によって限定されるものではない。
【0033】
以上説明したように、本第2実施形態では、このエンコーダ13の出力値の微小変化量ΔPを見ることで、予めヒステリシス特性Hを測定する必要がなく、最小となる第2の電流値Iを自動的に設定することができる。これにより、把持する把持対象物W(部品)が変わっても自動的に消費エネルギー(消費電力量)を最小化することが可能となる。
【0034】
なお、上記実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。上記実施形態では、歯車減速機11が遊星歯車減速機の場合について説明したが、これに限定するものではなく、波動歯車減速機(所謂、ハーモニックドライブ(登録商標))であってもよい。この波動歯車減速機でも上述したようなヒステリシス特性が発生するので、波動歯車減速機においても上記実施形態における制御が適用可能である。
【0035】
また、上記実施形態では、回転直動変換機構として、ラックアンドピニオン機構の場合について説明したが、これに限らず、回転運動を直線運動に変換できればよく、例えばカム機構であってもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 把持装置
2 制御装置
4 フィンガー
5 回転直動変換機構
6 ピニオン
7 ラック
11 歯車減速機
12 電動モータ
30 制御部
31 CPU(第1の電流制御手段,第2の電流制御手段)
32 ROM(記憶手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、前記電動モータの出力軸の回転を減速する歯車減速機と、前記歯車減速機の出力軸に設けられた回転直動変換機構により開閉動作して把持対象物を把持する一対のフィンガーと、を有する把持装置の制御装置において、
入力した電流指令値に対応する電流値の電流を前記電動モータに供給する電流供給手段と、
前記把持対象物を把持するのに必要な所定把持力を前記一対のフィンガーに発生させる第1の電流指令値を前記電流供給手段に出力する第1の電流制御手段と、
前記一対のフィンガーに前記把持対象物を把持させた状態で、前記電流供給手段に出力する電流指令値を、前記第1の電流指令値よりも小さく、かつ、前記歯車減速機に起因する、前記電動モータに供給する電流に対する前記一対のフィンガーの把持力のヒステリシス特性に基づき、前記所定把持力が維持される第2の電流指令値に減少させる第2の電流制御手段と、を備えたことを特徴とする把持装置の制御装置。
【請求項2】
前記ヒステリシス特性の測定結果に基づいた前記第1の電流指令値と前記第2の電流指令値との関係を予め記憶する記憶手段を備え、
前記第2の電流制御手段は、前記第1の電流制御手段が出力した前記第1の電流指令値に対する前記第2の電流指令値を前記記憶手段から読み出して出力することを特徴とする請求項1に記載の把持装置の制御装置。
【請求項3】
前記フィンガーの開閉位置を検出する検出手段を備え、
前記第2の電流制御手段は、前記第2の電流指令値を出力する際に、前記第1の電流指令値から徐々に電流指令値を減少させ、前記第1の電流指令値に対応する電流値の電流を前記電動モータに供給したときの前記フィンガーの開閉位置を基準に前記フィンガーが予め定めた所定量開方向に変位したのを前記検出手段が検出した場合に出力している電流指令値を前記第2の電流指令値として、電流指令値の減少を停止することを特徴とする請求項1に記載の把持装置の制御装置。
【請求項4】
電動モータと、前記電動モータの出力軸の回転を減速する歯車減速機と、前記歯車減速機の出力軸に設けられた回転直動変換機構により開閉動作して把持対象物を把持する一対のフィンガーと、を有する把持装置の制御方法において、
前記把持対象物を把持するのに必要な所定把持力を前記一対のフィンガーに発生させる第1の電流値の電流を、前記電動モータに供給する第1の工程と、
前記第1の工程で前記一対のフィンガーに前記所定把持力を発生させて前記把持対象物を把持させた後、前記電動モータに供給する電流を、前記第1の電流値よりも小さく、かつ、前記歯車減速機に起因する、前記電動モータに供給する電流に対する前記一対のフィンガーの把持力のヒステリシス特性に基づき、前記所定把持力が維持される第2の電流値に減少させる第2の工程と、を備えたことを特徴とする把持装置の制御方法。
【請求項5】
前記第2の電流値は、予め測定した前記ヒステリシス特性の情報を用いて設定した固定値であることを特徴とする請求項4に記載の把持装置の制御方法。
【請求項6】
前記フィンガーの開閉位置を検出する検出工程を備え、
前記第2の電流値は、前記フィンガーが前記第1の工程における開閉位置から予め定めた所定量開方向に変位したのを前記検出工程で検出されたときの電流値であることを特徴とする請求項4に記載の把持装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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