抗ウイルス性を有する硫酸化セルロースを担持させた繊維集合体
【課題】抗ウイルス剤が長期間にわたって化学的に安定に担持されていて、かつ人体に優しい、抗ウイルス性繊維集合体を提供する。硫酸化セルロースを担持させた繊維集合体であって、長期にわたって充分な抗ウイルス活性を発揮することができる繊維集合体を提供する。さらに、そのような繊維集合体を用いて得られた繊維製品を提供する。
【解決手段】硫酸化セルロースを担持し、ヒアルロニダーゼ阻害活性が50%以上である、繊維集合体;繊維集合体を硫酸化セルロース水溶液で処理し乾燥した後、pH緩衝液で処理し乾燥することを含む、硫酸化セルロースを担持した繊維集合体の製造方法。
【解決手段】硫酸化セルロースを担持し、ヒアルロニダーゼ阻害活性が50%以上である、繊維集合体;繊維集合体を硫酸化セルロース水溶液で処理し乾燥した後、pH緩衝液で処理し乾燥することを含む、硫酸化セルロースを担持した繊維集合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性を発揮する繊維集合体に関し、より詳しくは抗ウイルス性を有する硫酸化セルロースを付着させた繊維集合体に関する。本発明はさらに、そのような繊維集合体を用いて得られた繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗ウイルス性を持たせた繊維集合体がいくつか提案されている。
例えば、特許文献1には銀塩やヨード錯体の塩といった抗菌剤を含有する繊維が提案されており、特許文献2には合成繊維の表面に銀をメッキもしくは蒸着した製品(マスク)が提案されている。特許文献3には抗菌剤としてフェノール性水酸基を有するものを使用した例が挙げられている。特許文献4には含窒素型ノニオン界面活性剤や安息香酸のエステルを抗菌剤として繊維等に使用した例が挙げられている。
【0003】
抗ウイルス性を有する繊維集合体には金属イオンを使用したものがあるが、これらの繊維集合体の中には金属アレルギーを起こす可能性のあるものも存在する。このため、誰が使用してもアレルギーを起こさず、細胞毒性の低い抗ウイルス剤を使用した、人体にやさしい抗ウイルス性繊維集合体の開発が必要である。
また、抗ウイルス剤を繊維集合体に付着させただけでは、均一に付着されず、また安定に保持することができないことがあるため、このような問題点の解決も必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−338481号公報
【特許文献2】特開平11−019238号公報
【特許文献3】特開2005−112748号公報
【特許文献4】特開2006−187508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、抗ウイルス剤が長期間にわたって化学的に安定に担持されていて、かつ人体に優しい、抗ウイルス性繊維集合体を提供することである。本発明の目的はまた、硫酸化セルロースを担持させた繊維集合体であって、長期にわたって充分な抗ウイルス活性を発揮することができる繊維集合体を提供することである。本発明の目的はさらに、上記の繊維集合体を用いて得られた、長期にわたって充分な抗ウイルス活性を発揮することができる繊維製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、硫酸化セルロースが効率良く担持され、充分な抗ウイルス活性を長期にわたって発揮できる繊維集合体を完成させるに至った。
従って、本発明は以下の構成を有する。
(1)硫酸化セルロースを担持し、ヒアルロニダーゼ阻害活性が50%以上である、繊維集合体。
(2)上記繊維集合体を構成する繊維が親水性繊維又は親水化繊維である上記(1)の繊維集合体。
(3)該親水化繊維が疎水性繊維を親水化処理して得られた繊維である上記(2)の繊維集合体。
(4)親水化処理を施した繊維集合体に硫酸化セルロースが担持されている上記(1)の繊維集合体。
(5)該親水化処理が界面活性剤処理である上記(2)〜(4)のいずれかの繊維集合体。
(6)pH緩衝液による処理がなされている、上記(1)〜(5)のいずれかの繊維集合体。
(7)繊維集合体を構成する繊維がポリオレフィン及び/又はポリエステルで構成されている、前記(1)〜(6)のいずれかの繊維集合体。
(8)前記(1)〜(7)のいずれかの繊維集合体を用いて得られた繊維製品。
(9)繊維集合体を硫酸化セルロース水溶液で処理し乾燥した後、pH緩衝液で処理し乾燥することを含む、硫酸化セルロースを担持した繊維集合体の製造方法。
(10)硫酸化セルロース水溶液で処理する前に、繊維集合体を界面活性剤で処理することを含む上記(9)の繊維集合体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の繊維集合体には、硫酸化セルロールが均一に且つ充分に担持されていて、よって、本発明の繊維集合体は硫酸化セルロースによる抗ウイルス活性を発揮することができる。本発明の繊維集合体は人体にやさしい抗ウイルス性繊維集合体である。
また、本発明の繊維集合体はpH緩衝剤で処理されていることによって、硫酸化セルロースを長期間にわたって化学的に安定に繊維集合体に保持することが可能となり、長期にわたって抗ウイルス活性を発揮することができる。また、本発明の繊維集合体は、繊維又は繊維集合体が親水性であるか、あるいは例えば界面活性剤で処理されていることによって、親水性が付与されているため、硫酸化セルロース及びpH緩衝液を均一に担持することが可能となり、均一に且つ充分な抗ウイルス活性を発揮することができる。
本発明の硫酸化セルロースを担持した繊維集合体の製造方法によれば、硫酸化セルロースを均一に繊維集合体に担持させることができ、且つ硫酸化セルロースを長期にわたって化学的に安定に繊維集合体に担持させることができる。よって、本発明の繊維集合体の製造方法によれば、繊維集合体に硫酸化セルロースを均一に且つ長期間安定に担持させることができ、充分な抗ウイルス活性を発揮する繊維集合体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明でいう繊維集合体とは、ウェブ、不織布、織布、トウなどを意味する。このような繊維集合体は、常法によって繊維から製造することができるものである。
繊維集合体への最適な硫酸化セルロース付着量は、ヒアルロニダーゼ阻害活性法を用いることで間接的に決定できる。ヒアルロニダーゼ阻害活性法とは硫酸基の存在を確認する方法である。本発明では、繊維集合体の示す抗ウイルス活性を、ヒアルロニダーゼ阻害活性法によって測定するヒアルロニダーゼ阻害活性値を指標として評価する。
本発明において、硫酸化セルロースによる効果を有効に発現するためには、繊維集合体のヒアルロニダーゼ阻害活性値が50%以上であることが好ましい。硫酸化セルロースは抗ウイルス性を有することが知られており、硫酸化セルロースを有効量担持している繊維集合体は、良好な抗ウイルス活性を奏することが期待される。ここでいう硫酸化セルロースの有効量とは、ヒアルロニダーゼ阻害活性値が50%以上を意味する。
【0009】
上記不織布の例として、スルーエア不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布などがある。硫酸化セルロースが不織布に均一に付着しやすいという点で、スパンボンド不織布が特に好ましい。この理由として、スパンボンド不織布は、スルーエア不織布やメルトブロー不織布より厚みが小さく、繊維間距離も両者の中間程度であることから、硫酸化セルロース水溶液が浸透しやすくまた脱落しにくいと考えられる。
硫酸化セルロースを繊維集合体へ担持させるに当たって、繊維集合体が親水性繊維もしくは親水化繊維で構成されているか、又は繊維集合体が親水化処理されていることが好ましい。また、硫酸化セルロースを繊維集合体へ担持させるに当たって、該繊維集合体は、親水性繊維もしくは親水化繊維で構成されている上に、さらに親水化処理が施されたものであってもよく、あるいは、疎水性繊維で構成された繊維集合体であって、そこへ親水化処理が施された繊維集合体であってもよい。
【0010】
本発明の繊維集合体が親水性繊維で構成されているとき、そのような親水性繊維の例として綿、パルプ、及びティッシュなどが挙げられる。
本発明の繊維集合体はまた、親水化繊維で構成されていてもよい。親水化繊維とは、親水化処理された疎水性繊維を意味する。
疎水性繊維への親水化処理及び繊維集合体への親水化処理の例として、スルホン化処理、フッ素ガス処理、及び界面活性化処理などが挙げられる。
該疎水性繊維に用いられる成分の例としてポリオレフィンやポリエステルといった結晶性の熱可塑性樹脂が例示でき、またはこれらの混合物などを例示できる。結晶性の熱可塑性樹脂の中でも加工しやすさ、強度の点で、該疎水性繊維は、ポリオレフィン及び/又はポリエステルで構成されている繊維が好ましい。繊維は単一成分繊維であっても良く、または2種以上の成分を含む多成分繊維であっても構わない。多成分繊維としては、複合繊維を例示することができる。複合繊維としては、同心鞘芯型、偏心鞘芯型、並列型、放射状形などを例示でき、円形断面,異形断面であっても良い。具体的な樹脂構成としては、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、低密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレートなどの組み合わせを例示できる。
疎水性繊維への親水化処理、例えば界面活性剤による界面活性化処理は、紡糸後の繊維に、通常用いられる界面活性剤を含む繊維処理剤(油剤とも呼ばれている)を付着させることで実施することができる。界面活性剤による処理はまた、界面活性剤の水溶液中に繊維集合体を浸漬したり、該溶液を繊維及び/又は繊維集合体に塗布又は噴霧したりすることにより、界面活性剤を付着させることで実施できる。
【0011】
界面活性化処理に用いる界面活性剤として、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤などを挙げることができる。
これらの界面活性剤の中で、硫酸化セルロールを効率良く付着させることができ、ヒアルロニダーゼ阻害活性を増強させる点から、アニオン系界面活性剤が好ましい。アニオン系界面活性剤として、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩及びリン酸エステル塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のアニオン系界面活性剤を例示できる。特に、リン酸エステル塩、具体的には高級アルコールリン酸エステル塩が好ましい。さらに、高級アルコールリン酸モノエステル塩(例えば高級アルコールリン酸モノエステルジナトリウム塩)、高級アルコールリン酸ジエステル塩(例えば高級アルコールリン酸ジエステルナトリウム塩)、高級アルコールエチレンオキサイド付加物のリン酸エステル塩などがある。
さらに具体的に炭素原子数8〜12のリン酸エステル塩、例えばオクチルホスフェート塩(C8)、ドデシルホスフェート塩(C12)などを例示できる。好ましいホスフェート金属塩として、カリウム塩、ナトリウム塩などが挙げられる。
【0012】
繊維集合体の全量に対して、界面活性剤が0.2〜2.0質量%の範囲で付着されていることが好ましく、さらに好ましくは0.3〜0.6質量%の範囲で付着されていることが、繊維集合体の親水性を付与する点で好ましい。
特に、アニオン系界面活性剤が、0.2〜2.0質量%の範囲で付着されているのが好ましく、0.3〜0.6質量%の範囲で含まれているのが尚好ましい。このとき、アニオン系界面活性剤のほかに、ノニオン系界面活性剤などの、他の界面活性剤を併用してもよい。繊維に付着させる界面活性剤として、本発明の効果を損なわない範囲でカチオン系界面活性剤を併用しても構わない。
界面活性剤としては、油剤として市販されているものの中から、上記条件を満たすものを選択し、通常行われている方法によって繊維に付着させることができる。
界面活性剤の水溶液を用いて、繊維集合体を浸漬したり、該溶液を繊維及び/又は繊維集合体に塗布又は噴霧したりするとき、該水溶液における界面活性剤の濃度は、上記条件をみたすように、適宜選択することができる。
繊維又は繊維集合体を界面活性剤溶液で処理した後、適宜の条件(温度、時間等)で乾燥させることが好ましい。
【0013】
上記のような親水性繊維から構成された繊維集合体、親水化処理された繊維から構成された繊維集合体、あるいは又は親水化処理された(例えば界界面活性剤により処理された)繊維集合体を、硫酸化セルロースで処理し、繊維集合体に硫酸化セルロースを担持させることができる。
本発明で使用する硫酸化セルロースは、特に限定されないが、例えば、特開2008−266265号公報に記載の硫酸化セルロースなどを使用することができる。例えば、チッソ(株)から「SS-セルロース」として、Acros(株)から「Cellulose sulfate, sodium salt」として市販されているものなどを使用できる。前者の硫酸化セルロースは特開2008−266265号公報に細胞毒性が低減されていると記載されており、これを使用することは安全に人体に適用できるという点で好ましい。使用する硫酸化セルロースは水に易溶であれば、粒子の大きさ、形態に制限はなく、粉末状でもよく、性状は特に限定されない。セルロースの水酸基の6〜100%が硫酸エステル化され、重量平均分子量(Mw)が1KDa〜1000KDaの範囲にある硫酸化セルロースが好ましい。このような硫酸化セルロース硫酸のエステル化の程度は、硫酸化セルロース全体に対するS濃度として13〜17質量%である。重量平均分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフィー(GPC)にて測定され、さらに好ましくは50,000〜100,000(50KDa〜100KDa)である。一例として、無色の粉末であって、硫黄含有量14質量%、重量平均分子量66,000程度の硫酸化セルロースがある。
【0014】
本発明の繊維集合体において、硫酸化セルロースは少なくともその一部が、繊維表面に露出して担持されているのが好ましい。このような構成は、繊維集合体の繊維表面に硫酸化セルロースを担持させる方法によって好適に得られる。
繊維集合体に硫酸化セルロースを担持させる方法としては、繊維集合体を硫酸化セルロース水溶液に浸漬したり、繊維集合体に硫酸化セルロースをスプレーで噴霧するなどして付着させたりする方法などを例示できる。繊維集合体の内部にまで均一に硫酸化セルロースを担持させるという点で、硫酸化セルロース水溶液に繊維集合体を浸漬し、その水溶液のすべてを繊維集合体へ含浸させた状態で乾燥させるのが好ましい。乾燥温度は、特に硫酸化セルロースの性能が損なわれない温度範囲であればよく、乾燥時間にもよるが、80〜100℃で好適に乾燥できる。使用する硫酸化セルロース水溶液における硫酸化セルロース濃度は、目的とする繊維集合体の抗ウイルス活性に応じて、また。上記のように好ましくは該水溶液のすべてを繊維集合体に含浸させるという態様を考慮して、適宜設定することができる。
【0015】
本発明において、繊維集合体に硫酸化セルロースを長期間、安定に担持させる観点から、繊維集合体にpH緩衝液を付着させることが好ましい。pH緩衝剤を付着させるには、繊維集合体をpH緩衝液で処理する手法が挙げられる。
pH緩衝液の固形分(以下、緩衝成分ともいう)が繊維集合体に付着することによって、硫酸化セルロースによる効果が良好に維持される。pH緩衝液は、pHの安定作用を奏するもので、具体的にpH6.4前後のpH緩衝液が挙げられる。
繊維集合体へのpH緩衝液の付着は、硫酸化セルロースを加水分解から保護する作用を発揮する。pH緩衝液の例としてクエン酸緩衝液、リン酸緩衝液などを例示できる。クエン酸緩衝液の緩衝成分は、クエン酸1水和物+クエン酸3ナトリウム2水和物が一般的であり、また、リン酸緩衝液の緩衝成分は、リン酸2水素ナトリウム+リン酸水素2ナトリウムが一般的である。
pH緩衝液(水溶液)は、噴霧又は浸漬などの方法で繊維集合体に付着させることができる。pH緩衝液の固形分の濃度は限定されないが、0.1〜0.5質量%の範囲が適当である。繊維集合体への緩衝成分の付着量は、繊維集合体の全量に対し0.1〜0.2質量%の範囲が適当である。
【0016】
pH緩衝液を繊維集合体へ付着させるタイミングは、硫酸化セルロースと同時、又は、硫酸化セルロースを担持させる前、又は後であってもよい。硫酸化セルロースを加水分解から保護する点で、硫酸化セルロースを担持させた後にpH緩衝液を付着させるのが好ましい。pH緩衝液を硫酸化セルロースと同時に付着させる場合には、緩衝成分と硫酸化セルロースの質量比(緩衝成分の質量/硫酸化セルロースの質量)が、10〜40の範囲であることが、硫酸化セルロースを加水分解から保護できる点で好ましい。
pH緩衝液を付着させるに当たって、好ましくは、所定量計量したpH緩衝液のすべてを繊維集合体へ含浸させる態様を採用することで、緩衝成分を均一に繊維集合体へ含ませることができると考えられる。pH緩衝液を付着させた後の乾燥温度は特に限定されず、硫酸化セルロースが既に付着されている場合には、その性能が損なわれない温度であればよい。
【0017】
上述のとおり、本発明の硫酸化セルロースを担持した繊維集合体を製造することができる。
従って、本発明はまた、硫酸化セルロースを担持した繊維集合体の製造方法にも向けられていて、その方法は、繊維集合体を硫酸化セルロース水溶液で処理し乾燥した後、pH緩衝液で処理し乾燥することを含む。その方法において、硫酸化セルロース水溶液で処理する前に、繊維集合体を界面活性剤で処理することを含む態様がある。
本発明の繊維集合体は、温度50℃、相対湿度65%の環境下に1ヶ月静置する保存試験によっても、ヒアルロニダーゼ阻害活性値を50%以上に維持、さらに好ましくは60%以上に維持することが可能である。
【0018】
本発明の繊維集合体は、硫酸化セルロースによる効果を阻害しない範囲で、銀や酸化チタンなどの添加剤を含んでいてもよい。
繊維集合体の少なくとも一方の表面に、通気性層が積層されていてもよい。通気性層としては、繊維ウェブや不織布などを例示できる。積層体とすることで、繊維集合体からの硫酸化セルロースの脱落を阻止することが可能となる。積層する通気性層は、繊維集合体よりも繊維間距離が小さいことが好ましい。通気性層に求められる物性として、目付25〜35g/m2、比容積が10cm3/g前後の繊維層が望ましい。
【0019】
また、本発明の繊維集合体を構成する繊維が、硫酸化セルロースを吸着していてもよく、または硫酸化セルロースを接着する成分を含んでいてもよい。このような成分を含む繊維材料として、不飽和カルボン酸、若しくは不飽和カルボン酸無水物から選ばれた少なくとも1種を含むビニルモノマー(以下これらを変性剤と云うことがある)でグラフト重合された変性ポリオレフィン(変性剤含量は0.05〜2モル/kg)を例示できる。変性剤が、無水マレイン酸、アクリル酸若しくはメタクリル酸の1種以上を含むのが好ましい。繊維がこのような成分を、少なくとも繊維の表面層側に含むことによって、繊維集合体からの硫酸化セルロースの脱落を改善することができる。
【0020】
また、本発明の繊維集合体を構成する繊維は無捲縮であっても捲縮を有していてもよい。捲縮の形態は限定されないが、特に、繊維が螺旋捲縮を有することによって、繊維集合体中への、硫酸化セルロースの閉じ込め効果が増し、硫酸化セルロースの脱落が抑制されるので好ましい。繊維が、10〜30山/インチの範囲の捲縮を有しているのが好ましい。捲縮付与は、硫酸化セルロール付着後の繊維集合体へ行うのが好ましい。
【0021】
本発明の繊維集合体は、種々の繊維製品に加工することができる。本発明の繊維集合体は、硫酸化セルロースによる効果、特にその抗ウイルス活性を活用し、マスク、ガウン、術衣等の医療用衛生材などの用途に好適に使用される。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、各例の評価は以下に示す方法で行った。
(ヒアルロニダーゼ阻害活性試験)
試料繊維又は繊維集合体5±0.2mgが入ったねじ口試験管に、イオン交換水100μLと、2.83mg/mLに調整したヒアルロニダーゼ-0.1M酢酸緩衝液と0.1M酢酸緩衝液-0.3M NaClとの混合液225μLを加えて振り混ぜ、37℃で20分静置した。ヒアルロニダーゼ-0.1M酢酸緩衝液と0.1M酢酸緩衝液-0.3M NaClとの混合液の容量比は1:8であった。ヒアルロン酸-0.1M酢酸緩衝液200μLを加えて振り混ぜ、37℃で20分静置した。0.4N NaOH水溶液と0.8Mホウ酸Na溶液を各100μL加えて振り混ぜ、ふたを閉め100℃で3分静置した。約30秒冷却した後、p-ジメチルアミノベンズアルデヒド液3mLを加えて振り混ぜ、37℃で20分静置した。試料繊維または繊維集合体を除去し、吸光度計で585nmの吸光度を測定した。
【0023】
ヒアルロニダーゼ阻害活性は以下の式により算出した。
ヒアルロニダーゼ阻害活性(%)={(γ−α)−(β−α)/(γ−α)}×100
α:試料である繊維又は繊維集合体を添加せず、ヒアルロニダーゼ−0.1M酢酸緩衝液と0.1M酢酸緩衝液−0.3M NaClとの混合液の代わりに、イオン交換水225μlを加え、ヒアルロン酸-0.1M酢酸緩衝液を加えて、上記のように操作して測定した吸光度。
β:試料である繊維又は繊維集合体を用いて、上記のとおり操作して測定された吸光度。
γ:試料である繊維又は繊維集合体を添加せず、その他は上記のように操作して測定した吸光度。
なお、上述の試験は、さらに保存試験として、繊維集合体を温度50℃、相対湿度65%の環境下に1ヶ月静置した後の試料にも行った。
【0024】
[繊維の不織布化]−硫酸化セルロースを担持させるための繊維集合体の調製−
以下の方法と条件によって、2種類の不織布を作成した。
(1)スルーエア加工(略称TA):高密度ポリエチレン及びポリプロピレンを使用して作成されたカット長51mmの短繊維を試料繊維として用いた。使用した試料繊維は複合繊維でありその形状は同心鞘芯型の円形断面であった。試料繊維をローラーカード試験機にてカードウェブとし、このカードウェブをサクションドライヤーにて、目付22g/m2、比容積54cm3/g程度の不織布に加工し用いた。加工条件は加工温度130℃で行った。
(2)スパンボンド加工(略称SB):スパンボンド加工されたチッソポロプロ繊維(株)製のEB3020を使用した。EB3020は高密度ポリエチレン及びポリプロピレンが使用された、目付20g/m2、比容積11cm3/gの不織布である。
【0025】
[処理剤]
処理例1〜5で用いる各種処理剤の組成(単位:質量%)を、親水化処理のために用いる界面活性剤含有油剤(A)、及びpH緩衝液(B)に分けて、以下の表1に示す。なお、界面活性剤含有油剤(A)とpH緩衝剤(B)とは後述のように別々に用いるが、表1は、界面活性剤含有油剤とpH緩衝剤との合計を100質量%として記載している。
なお、処理剤1,2は界面活性剤含有油剤(A)、pH緩衝剤(B)を両方使用した例であり、(A)と(B)を合わせた総量に対する各成分の質量%を示した。処理剤3〜5は界面活性剤含有油剤(A)のみ使用した例である。以下の[不織布への処理]では不織布への処理方法として、(A)と(B)の両方をそれぞれ別々に順次付着させた方法を記す(処理剤1、2)。処理剤3〜5は、(A)のみを使用した場合であり、(A)に対する各成分の質量%を示した。
【0026】
【表1】
*) 混合ホスフェートK塩は、トリデカン−1−イルホスフェートの二カリウム塩
**) リン酸緩衝液:pH6.4(試薬ビン記載値)、リン酸2水素カリウム:10g/L、リン酸水素2カリウム:3.76g/Lを混合した試薬。固形分としての質量%を示す。
***) クエン酸緩衝液:クエン酸1水和物とクエン酸3ナトリウム2水和物を1:10の質量比で混合したものをイオン交換水に溶解し、pH6.2になるよう調整したもの。固形分としての質量%を示す。
【0027】
[不織布への処理]
上記のように作成した不織布へ、次の手順により、親水化処理、硫酸化セルロースによる処理(処理例1〜5)を行い、及びさらにpH緩衝液による処理(処理例1及び2)を実施した。なお、処理例6として、不織布へ硫酸化セルロースによる処理のみを行った。
固形分として0.4質量%になるように希釈した表1の油剤(A)を、3g計量した不織布の質量に対し0.4質量%となるよう、ビーカーに3g計量し、不織布が浸漬する程度の量までイオン交換水を加えて増量し、別容器に置いた不織布に浸漬付着させた。ゴム手袋を着用し手で不織布を押し付けることにより、不織布に均一に付着させた。ビーカーの壁面に付着した界面活性剤も不織布に付着させるため、さらにビーカーの内壁に少量のイオン交換水を回しかけ前述と同様に不織布に付着させた。この操作を2回程度繰り返すことで計量した界面活性剤のほぼ全量を不織布に付着させることができた。界面活性剤を付着させた不織布をテフロン(登録商標)膜の上に載せ90℃の恒温槽内で40分間乾燥した。20分経過後に不織布を上下反転させた。
次に固形分として0.01質量%になるように希釈した硫酸化セルロースを、不織布の質量に対して0.01質量%となるようビーカーに3g計量し、上記油剤と同様の方法でその全量を付着・乾燥させた。使用した硫酸化セルロースはチッソ(株)製(Lot No.A07070101)である。この硫酸化セルロースは無色の粉末であって、硫黄含有量14質量%、重量平均分子量66,000(GPC測定値)であった。GPSの測定は、GPC装置:Waters2695、RI検出器:Waters2487、カラム:Shodex製 OHpak SB-G + OHpak SB-805 HQ + OHpak SB-802.5 HQを使用して行った。
最後にイオン交換水で固形分として0.1質量%になるように希釈したpH緩衝液(B)を不織布の質量に対して0.1質量%(pH緩衝液の固形分として)となるようにビーカーに3g計量し、上記油剤及び硫酸化セルロースと同様の方法でその全量を付着・乾燥させた。
【0028】
以下に処理例1〜6とその試験結果について説明する。
〔処理例1〕
スパンボンド不織布に対して、アニオン系界面活性剤としてドデシルホスフェートK塩と混合ホスフェートK塩、ノニオン系界面活性剤として、ソルビタンモノパルミネートとソルビタン牛脂肪酸エステルを含む油剤で処理し、硫酸化セルロースを付着させた後、リン酸緩衝液で処理した。
ヒアルロニダーゼ阻害活性試験の結果、保存試験の前後で阻害活性が50%以上あった。本発明が目的とする繊維集合体が得られた。
【0029】
〔処理例2〕
スパンボンド不織布に対して、アニオン系界面活性剤としてラウリルホスフェートK塩と混合ホスフェートK塩、ノニオン系界面活性剤として、ソルビタンモノパルミネートとソルビタン牛脂肪酸エステルを含む油剤で処理し、硫酸化セルロースを付着させた後、クエン酸緩衝液で処理した。
ヒアルロニダーゼ阻害活性試験の結果、保存試験の前後で阻害活性が50%以上あった。本発明が目的とする繊維集合体が得られた。
【0030】
〔処理例3〕
スルーエア不織布に対して、アニオン系界面活性剤として、ラウリルホスフェートK塩と混合ホスフェートK塩、ノニオン系界面活性剤として、ソルビタンモノパルミネートとソルビタン牛脂肪酸エステルを含む油剤で処理し、その後、硫酸化セルロースを付着させた。
ヒアルロニダーゼ阻害活性試験の結果、保存試験前には阻害活性が50%以上であったが、保存試験後に阻害活性は50%未満に低下した。
【0031】
〔処理例4〕
スルーエア不織布に対して、アニオン系界面活性剤としてオクチルホスフェートK塩とドデシルホスフェートK塩、ノニオン系界面活性剤として、エチレングリコールモノブチルエーテルを含む油剤で処理し、その後、硫酸化セルロースを付着させた。
ヒアルロニダーゼ阻害活性試験の結果、保存試験前には阻害活性が50%以上であったが、保存試験後に阻害活性は50%未満に低下した。
【0032】
〔処理例5〕
スルーエア不織布に対して、カチオン系界面活性剤としてアルキルイミダゾリウムアルキルサルフェート、ノニオン系界面活性剤としてポリ脂肪酸グリセリンエステル、ポリエーテル、ポリエーテルエステル及びアルカノールアミドのエチレンオキサイド付加物を含む油剤で処理し、その後、硫酸化セルロースを付着させた。
ヒアルロニダーゼ阻害活性試験の結果、保存試験前においても阻害活性は50%未満であった。
【0033】
〔処理例6〕
本処理例では、スルーエア不織布に対して硫酸化セルロースを付着させた以外は、他の処理を行わなかった。
ヒアルロニダーゼ阻害活性試験の結果、保存試験前においても阻害活性は50%未満であった。
【0034】
上記処理例1〜6で得られたヒアルロニダーゼ阻害活性試験の結果(阻害活性%)を、以下の表2に示す。
表2
【産業上の利用可能性】
【0035】
硫酸化セルロースは抗ウイルス性を有することから、これを担持させた繊維集合体は抗ウイルスを目的としたマスク、ガウン、術衣等の医療用衛生材やナプキン等の衛生材料などへ利用可能である。本発明の繊維集合体は、ここに記載した例だけでなく、抗ウイルスを目的とするところに多彩に利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性を発揮する繊維集合体に関し、より詳しくは抗ウイルス性を有する硫酸化セルロースを付着させた繊維集合体に関する。本発明はさらに、そのような繊維集合体を用いて得られた繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗ウイルス性を持たせた繊維集合体がいくつか提案されている。
例えば、特許文献1には銀塩やヨード錯体の塩といった抗菌剤を含有する繊維が提案されており、特許文献2には合成繊維の表面に銀をメッキもしくは蒸着した製品(マスク)が提案されている。特許文献3には抗菌剤としてフェノール性水酸基を有するものを使用した例が挙げられている。特許文献4には含窒素型ノニオン界面活性剤や安息香酸のエステルを抗菌剤として繊維等に使用した例が挙げられている。
【0003】
抗ウイルス性を有する繊維集合体には金属イオンを使用したものがあるが、これらの繊維集合体の中には金属アレルギーを起こす可能性のあるものも存在する。このため、誰が使用してもアレルギーを起こさず、細胞毒性の低い抗ウイルス剤を使用した、人体にやさしい抗ウイルス性繊維集合体の開発が必要である。
また、抗ウイルス剤を繊維集合体に付着させただけでは、均一に付着されず、また安定に保持することができないことがあるため、このような問題点の解決も必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−338481号公報
【特許文献2】特開平11−019238号公報
【特許文献3】特開2005−112748号公報
【特許文献4】特開2006−187508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、抗ウイルス剤が長期間にわたって化学的に安定に担持されていて、かつ人体に優しい、抗ウイルス性繊維集合体を提供することである。本発明の目的はまた、硫酸化セルロースを担持させた繊維集合体であって、長期にわたって充分な抗ウイルス活性を発揮することができる繊維集合体を提供することである。本発明の目的はさらに、上記の繊維集合体を用いて得られた、長期にわたって充分な抗ウイルス活性を発揮することができる繊維製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、硫酸化セルロースが効率良く担持され、充分な抗ウイルス活性を長期にわたって発揮できる繊維集合体を完成させるに至った。
従って、本発明は以下の構成を有する。
(1)硫酸化セルロースを担持し、ヒアルロニダーゼ阻害活性が50%以上である、繊維集合体。
(2)上記繊維集合体を構成する繊維が親水性繊維又は親水化繊維である上記(1)の繊維集合体。
(3)該親水化繊維が疎水性繊維を親水化処理して得られた繊維である上記(2)の繊維集合体。
(4)親水化処理を施した繊維集合体に硫酸化セルロースが担持されている上記(1)の繊維集合体。
(5)該親水化処理が界面活性剤処理である上記(2)〜(4)のいずれかの繊維集合体。
(6)pH緩衝液による処理がなされている、上記(1)〜(5)のいずれかの繊維集合体。
(7)繊維集合体を構成する繊維がポリオレフィン及び/又はポリエステルで構成されている、前記(1)〜(6)のいずれかの繊維集合体。
(8)前記(1)〜(7)のいずれかの繊維集合体を用いて得られた繊維製品。
(9)繊維集合体を硫酸化セルロース水溶液で処理し乾燥した後、pH緩衝液で処理し乾燥することを含む、硫酸化セルロースを担持した繊維集合体の製造方法。
(10)硫酸化セルロース水溶液で処理する前に、繊維集合体を界面活性剤で処理することを含む上記(9)の繊維集合体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の繊維集合体には、硫酸化セルロールが均一に且つ充分に担持されていて、よって、本発明の繊維集合体は硫酸化セルロースによる抗ウイルス活性を発揮することができる。本発明の繊維集合体は人体にやさしい抗ウイルス性繊維集合体である。
また、本発明の繊維集合体はpH緩衝剤で処理されていることによって、硫酸化セルロースを長期間にわたって化学的に安定に繊維集合体に保持することが可能となり、長期にわたって抗ウイルス活性を発揮することができる。また、本発明の繊維集合体は、繊維又は繊維集合体が親水性であるか、あるいは例えば界面活性剤で処理されていることによって、親水性が付与されているため、硫酸化セルロース及びpH緩衝液を均一に担持することが可能となり、均一に且つ充分な抗ウイルス活性を発揮することができる。
本発明の硫酸化セルロースを担持した繊維集合体の製造方法によれば、硫酸化セルロースを均一に繊維集合体に担持させることができ、且つ硫酸化セルロースを長期にわたって化学的に安定に繊維集合体に担持させることができる。よって、本発明の繊維集合体の製造方法によれば、繊維集合体に硫酸化セルロースを均一に且つ長期間安定に担持させることができ、充分な抗ウイルス活性を発揮する繊維集合体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明でいう繊維集合体とは、ウェブ、不織布、織布、トウなどを意味する。このような繊維集合体は、常法によって繊維から製造することができるものである。
繊維集合体への最適な硫酸化セルロース付着量は、ヒアルロニダーゼ阻害活性法を用いることで間接的に決定できる。ヒアルロニダーゼ阻害活性法とは硫酸基の存在を確認する方法である。本発明では、繊維集合体の示す抗ウイルス活性を、ヒアルロニダーゼ阻害活性法によって測定するヒアルロニダーゼ阻害活性値を指標として評価する。
本発明において、硫酸化セルロースによる効果を有効に発現するためには、繊維集合体のヒアルロニダーゼ阻害活性値が50%以上であることが好ましい。硫酸化セルロースは抗ウイルス性を有することが知られており、硫酸化セルロースを有効量担持している繊維集合体は、良好な抗ウイルス活性を奏することが期待される。ここでいう硫酸化セルロースの有効量とは、ヒアルロニダーゼ阻害活性値が50%以上を意味する。
【0009】
上記不織布の例として、スルーエア不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布などがある。硫酸化セルロースが不織布に均一に付着しやすいという点で、スパンボンド不織布が特に好ましい。この理由として、スパンボンド不織布は、スルーエア不織布やメルトブロー不織布より厚みが小さく、繊維間距離も両者の中間程度であることから、硫酸化セルロース水溶液が浸透しやすくまた脱落しにくいと考えられる。
硫酸化セルロースを繊維集合体へ担持させるに当たって、繊維集合体が親水性繊維もしくは親水化繊維で構成されているか、又は繊維集合体が親水化処理されていることが好ましい。また、硫酸化セルロースを繊維集合体へ担持させるに当たって、該繊維集合体は、親水性繊維もしくは親水化繊維で構成されている上に、さらに親水化処理が施されたものであってもよく、あるいは、疎水性繊維で構成された繊維集合体であって、そこへ親水化処理が施された繊維集合体であってもよい。
【0010】
本発明の繊維集合体が親水性繊維で構成されているとき、そのような親水性繊維の例として綿、パルプ、及びティッシュなどが挙げられる。
本発明の繊維集合体はまた、親水化繊維で構成されていてもよい。親水化繊維とは、親水化処理された疎水性繊維を意味する。
疎水性繊維への親水化処理及び繊維集合体への親水化処理の例として、スルホン化処理、フッ素ガス処理、及び界面活性化処理などが挙げられる。
該疎水性繊維に用いられる成分の例としてポリオレフィンやポリエステルといった結晶性の熱可塑性樹脂が例示でき、またはこれらの混合物などを例示できる。結晶性の熱可塑性樹脂の中でも加工しやすさ、強度の点で、該疎水性繊維は、ポリオレフィン及び/又はポリエステルで構成されている繊維が好ましい。繊維は単一成分繊維であっても良く、または2種以上の成分を含む多成分繊維であっても構わない。多成分繊維としては、複合繊維を例示することができる。複合繊維としては、同心鞘芯型、偏心鞘芯型、並列型、放射状形などを例示でき、円形断面,異形断面であっても良い。具体的な樹脂構成としては、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、低密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレートなどの組み合わせを例示できる。
疎水性繊維への親水化処理、例えば界面活性剤による界面活性化処理は、紡糸後の繊維に、通常用いられる界面活性剤を含む繊維処理剤(油剤とも呼ばれている)を付着させることで実施することができる。界面活性剤による処理はまた、界面活性剤の水溶液中に繊維集合体を浸漬したり、該溶液を繊維及び/又は繊維集合体に塗布又は噴霧したりすることにより、界面活性剤を付着させることで実施できる。
【0011】
界面活性化処理に用いる界面活性剤として、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤などを挙げることができる。
これらの界面活性剤の中で、硫酸化セルロールを効率良く付着させることができ、ヒアルロニダーゼ阻害活性を増強させる点から、アニオン系界面活性剤が好ましい。アニオン系界面活性剤として、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩及びリン酸エステル塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のアニオン系界面活性剤を例示できる。特に、リン酸エステル塩、具体的には高級アルコールリン酸エステル塩が好ましい。さらに、高級アルコールリン酸モノエステル塩(例えば高級アルコールリン酸モノエステルジナトリウム塩)、高級アルコールリン酸ジエステル塩(例えば高級アルコールリン酸ジエステルナトリウム塩)、高級アルコールエチレンオキサイド付加物のリン酸エステル塩などがある。
さらに具体的に炭素原子数8〜12のリン酸エステル塩、例えばオクチルホスフェート塩(C8)、ドデシルホスフェート塩(C12)などを例示できる。好ましいホスフェート金属塩として、カリウム塩、ナトリウム塩などが挙げられる。
【0012】
繊維集合体の全量に対して、界面活性剤が0.2〜2.0質量%の範囲で付着されていることが好ましく、さらに好ましくは0.3〜0.6質量%の範囲で付着されていることが、繊維集合体の親水性を付与する点で好ましい。
特に、アニオン系界面活性剤が、0.2〜2.0質量%の範囲で付着されているのが好ましく、0.3〜0.6質量%の範囲で含まれているのが尚好ましい。このとき、アニオン系界面活性剤のほかに、ノニオン系界面活性剤などの、他の界面活性剤を併用してもよい。繊維に付着させる界面活性剤として、本発明の効果を損なわない範囲でカチオン系界面活性剤を併用しても構わない。
界面活性剤としては、油剤として市販されているものの中から、上記条件を満たすものを選択し、通常行われている方法によって繊維に付着させることができる。
界面活性剤の水溶液を用いて、繊維集合体を浸漬したり、該溶液を繊維及び/又は繊維集合体に塗布又は噴霧したりするとき、該水溶液における界面活性剤の濃度は、上記条件をみたすように、適宜選択することができる。
繊維又は繊維集合体を界面活性剤溶液で処理した後、適宜の条件(温度、時間等)で乾燥させることが好ましい。
【0013】
上記のような親水性繊維から構成された繊維集合体、親水化処理された繊維から構成された繊維集合体、あるいは又は親水化処理された(例えば界界面活性剤により処理された)繊維集合体を、硫酸化セルロースで処理し、繊維集合体に硫酸化セルロースを担持させることができる。
本発明で使用する硫酸化セルロースは、特に限定されないが、例えば、特開2008−266265号公報に記載の硫酸化セルロースなどを使用することができる。例えば、チッソ(株)から「SS-セルロース」として、Acros(株)から「Cellulose sulfate, sodium salt」として市販されているものなどを使用できる。前者の硫酸化セルロースは特開2008−266265号公報に細胞毒性が低減されていると記載されており、これを使用することは安全に人体に適用できるという点で好ましい。使用する硫酸化セルロースは水に易溶であれば、粒子の大きさ、形態に制限はなく、粉末状でもよく、性状は特に限定されない。セルロースの水酸基の6〜100%が硫酸エステル化され、重量平均分子量(Mw)が1KDa〜1000KDaの範囲にある硫酸化セルロースが好ましい。このような硫酸化セルロース硫酸のエステル化の程度は、硫酸化セルロース全体に対するS濃度として13〜17質量%である。重量平均分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフィー(GPC)にて測定され、さらに好ましくは50,000〜100,000(50KDa〜100KDa)である。一例として、無色の粉末であって、硫黄含有量14質量%、重量平均分子量66,000程度の硫酸化セルロースがある。
【0014】
本発明の繊維集合体において、硫酸化セルロースは少なくともその一部が、繊維表面に露出して担持されているのが好ましい。このような構成は、繊維集合体の繊維表面に硫酸化セルロースを担持させる方法によって好適に得られる。
繊維集合体に硫酸化セルロースを担持させる方法としては、繊維集合体を硫酸化セルロース水溶液に浸漬したり、繊維集合体に硫酸化セルロースをスプレーで噴霧するなどして付着させたりする方法などを例示できる。繊維集合体の内部にまで均一に硫酸化セルロースを担持させるという点で、硫酸化セルロース水溶液に繊維集合体を浸漬し、その水溶液のすべてを繊維集合体へ含浸させた状態で乾燥させるのが好ましい。乾燥温度は、特に硫酸化セルロースの性能が損なわれない温度範囲であればよく、乾燥時間にもよるが、80〜100℃で好適に乾燥できる。使用する硫酸化セルロース水溶液における硫酸化セルロース濃度は、目的とする繊維集合体の抗ウイルス活性に応じて、また。上記のように好ましくは該水溶液のすべてを繊維集合体に含浸させるという態様を考慮して、適宜設定することができる。
【0015】
本発明において、繊維集合体に硫酸化セルロースを長期間、安定に担持させる観点から、繊維集合体にpH緩衝液を付着させることが好ましい。pH緩衝剤を付着させるには、繊維集合体をpH緩衝液で処理する手法が挙げられる。
pH緩衝液の固形分(以下、緩衝成分ともいう)が繊維集合体に付着することによって、硫酸化セルロースによる効果が良好に維持される。pH緩衝液は、pHの安定作用を奏するもので、具体的にpH6.4前後のpH緩衝液が挙げられる。
繊維集合体へのpH緩衝液の付着は、硫酸化セルロースを加水分解から保護する作用を発揮する。pH緩衝液の例としてクエン酸緩衝液、リン酸緩衝液などを例示できる。クエン酸緩衝液の緩衝成分は、クエン酸1水和物+クエン酸3ナトリウム2水和物が一般的であり、また、リン酸緩衝液の緩衝成分は、リン酸2水素ナトリウム+リン酸水素2ナトリウムが一般的である。
pH緩衝液(水溶液)は、噴霧又は浸漬などの方法で繊維集合体に付着させることができる。pH緩衝液の固形分の濃度は限定されないが、0.1〜0.5質量%の範囲が適当である。繊維集合体への緩衝成分の付着量は、繊維集合体の全量に対し0.1〜0.2質量%の範囲が適当である。
【0016】
pH緩衝液を繊維集合体へ付着させるタイミングは、硫酸化セルロースと同時、又は、硫酸化セルロースを担持させる前、又は後であってもよい。硫酸化セルロースを加水分解から保護する点で、硫酸化セルロースを担持させた後にpH緩衝液を付着させるのが好ましい。pH緩衝液を硫酸化セルロースと同時に付着させる場合には、緩衝成分と硫酸化セルロースの質量比(緩衝成分の質量/硫酸化セルロースの質量)が、10〜40の範囲であることが、硫酸化セルロースを加水分解から保護できる点で好ましい。
pH緩衝液を付着させるに当たって、好ましくは、所定量計量したpH緩衝液のすべてを繊維集合体へ含浸させる態様を採用することで、緩衝成分を均一に繊維集合体へ含ませることができると考えられる。pH緩衝液を付着させた後の乾燥温度は特に限定されず、硫酸化セルロースが既に付着されている場合には、その性能が損なわれない温度であればよい。
【0017】
上述のとおり、本発明の硫酸化セルロースを担持した繊維集合体を製造することができる。
従って、本発明はまた、硫酸化セルロースを担持した繊維集合体の製造方法にも向けられていて、その方法は、繊維集合体を硫酸化セルロース水溶液で処理し乾燥した後、pH緩衝液で処理し乾燥することを含む。その方法において、硫酸化セルロース水溶液で処理する前に、繊維集合体を界面活性剤で処理することを含む態様がある。
本発明の繊維集合体は、温度50℃、相対湿度65%の環境下に1ヶ月静置する保存試験によっても、ヒアルロニダーゼ阻害活性値を50%以上に維持、さらに好ましくは60%以上に維持することが可能である。
【0018】
本発明の繊維集合体は、硫酸化セルロースによる効果を阻害しない範囲で、銀や酸化チタンなどの添加剤を含んでいてもよい。
繊維集合体の少なくとも一方の表面に、通気性層が積層されていてもよい。通気性層としては、繊維ウェブや不織布などを例示できる。積層体とすることで、繊維集合体からの硫酸化セルロースの脱落を阻止することが可能となる。積層する通気性層は、繊維集合体よりも繊維間距離が小さいことが好ましい。通気性層に求められる物性として、目付25〜35g/m2、比容積が10cm3/g前後の繊維層が望ましい。
【0019】
また、本発明の繊維集合体を構成する繊維が、硫酸化セルロースを吸着していてもよく、または硫酸化セルロースを接着する成分を含んでいてもよい。このような成分を含む繊維材料として、不飽和カルボン酸、若しくは不飽和カルボン酸無水物から選ばれた少なくとも1種を含むビニルモノマー(以下これらを変性剤と云うことがある)でグラフト重合された変性ポリオレフィン(変性剤含量は0.05〜2モル/kg)を例示できる。変性剤が、無水マレイン酸、アクリル酸若しくはメタクリル酸の1種以上を含むのが好ましい。繊維がこのような成分を、少なくとも繊維の表面層側に含むことによって、繊維集合体からの硫酸化セルロースの脱落を改善することができる。
【0020】
また、本発明の繊維集合体を構成する繊維は無捲縮であっても捲縮を有していてもよい。捲縮の形態は限定されないが、特に、繊維が螺旋捲縮を有することによって、繊維集合体中への、硫酸化セルロースの閉じ込め効果が増し、硫酸化セルロースの脱落が抑制されるので好ましい。繊維が、10〜30山/インチの範囲の捲縮を有しているのが好ましい。捲縮付与は、硫酸化セルロール付着後の繊維集合体へ行うのが好ましい。
【0021】
本発明の繊維集合体は、種々の繊維製品に加工することができる。本発明の繊維集合体は、硫酸化セルロースによる効果、特にその抗ウイルス活性を活用し、マスク、ガウン、術衣等の医療用衛生材などの用途に好適に使用される。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、各例の評価は以下に示す方法で行った。
(ヒアルロニダーゼ阻害活性試験)
試料繊維又は繊維集合体5±0.2mgが入ったねじ口試験管に、イオン交換水100μLと、2.83mg/mLに調整したヒアルロニダーゼ-0.1M酢酸緩衝液と0.1M酢酸緩衝液-0.3M NaClとの混合液225μLを加えて振り混ぜ、37℃で20分静置した。ヒアルロニダーゼ-0.1M酢酸緩衝液と0.1M酢酸緩衝液-0.3M NaClとの混合液の容量比は1:8であった。ヒアルロン酸-0.1M酢酸緩衝液200μLを加えて振り混ぜ、37℃で20分静置した。0.4N NaOH水溶液と0.8Mホウ酸Na溶液を各100μL加えて振り混ぜ、ふたを閉め100℃で3分静置した。約30秒冷却した後、p-ジメチルアミノベンズアルデヒド液3mLを加えて振り混ぜ、37℃で20分静置した。試料繊維または繊維集合体を除去し、吸光度計で585nmの吸光度を測定した。
【0023】
ヒアルロニダーゼ阻害活性は以下の式により算出した。
ヒアルロニダーゼ阻害活性(%)={(γ−α)−(β−α)/(γ−α)}×100
α:試料である繊維又は繊維集合体を添加せず、ヒアルロニダーゼ−0.1M酢酸緩衝液と0.1M酢酸緩衝液−0.3M NaClとの混合液の代わりに、イオン交換水225μlを加え、ヒアルロン酸-0.1M酢酸緩衝液を加えて、上記のように操作して測定した吸光度。
β:試料である繊維又は繊維集合体を用いて、上記のとおり操作して測定された吸光度。
γ:試料である繊維又は繊維集合体を添加せず、その他は上記のように操作して測定した吸光度。
なお、上述の試験は、さらに保存試験として、繊維集合体を温度50℃、相対湿度65%の環境下に1ヶ月静置した後の試料にも行った。
【0024】
[繊維の不織布化]−硫酸化セルロースを担持させるための繊維集合体の調製−
以下の方法と条件によって、2種類の不織布を作成した。
(1)スルーエア加工(略称TA):高密度ポリエチレン及びポリプロピレンを使用して作成されたカット長51mmの短繊維を試料繊維として用いた。使用した試料繊維は複合繊維でありその形状は同心鞘芯型の円形断面であった。試料繊維をローラーカード試験機にてカードウェブとし、このカードウェブをサクションドライヤーにて、目付22g/m2、比容積54cm3/g程度の不織布に加工し用いた。加工条件は加工温度130℃で行った。
(2)スパンボンド加工(略称SB):スパンボンド加工されたチッソポロプロ繊維(株)製のEB3020を使用した。EB3020は高密度ポリエチレン及びポリプロピレンが使用された、目付20g/m2、比容積11cm3/gの不織布である。
【0025】
[処理剤]
処理例1〜5で用いる各種処理剤の組成(単位:質量%)を、親水化処理のために用いる界面活性剤含有油剤(A)、及びpH緩衝液(B)に分けて、以下の表1に示す。なお、界面活性剤含有油剤(A)とpH緩衝剤(B)とは後述のように別々に用いるが、表1は、界面活性剤含有油剤とpH緩衝剤との合計を100質量%として記載している。
なお、処理剤1,2は界面活性剤含有油剤(A)、pH緩衝剤(B)を両方使用した例であり、(A)と(B)を合わせた総量に対する各成分の質量%を示した。処理剤3〜5は界面活性剤含有油剤(A)のみ使用した例である。以下の[不織布への処理]では不織布への処理方法として、(A)と(B)の両方をそれぞれ別々に順次付着させた方法を記す(処理剤1、2)。処理剤3〜5は、(A)のみを使用した場合であり、(A)に対する各成分の質量%を示した。
【0026】
【表1】
*) 混合ホスフェートK塩は、トリデカン−1−イルホスフェートの二カリウム塩
**) リン酸緩衝液:pH6.4(試薬ビン記載値)、リン酸2水素カリウム:10g/L、リン酸水素2カリウム:3.76g/Lを混合した試薬。固形分としての質量%を示す。
***) クエン酸緩衝液:クエン酸1水和物とクエン酸3ナトリウム2水和物を1:10の質量比で混合したものをイオン交換水に溶解し、pH6.2になるよう調整したもの。固形分としての質量%を示す。
【0027】
[不織布への処理]
上記のように作成した不織布へ、次の手順により、親水化処理、硫酸化セルロースによる処理(処理例1〜5)を行い、及びさらにpH緩衝液による処理(処理例1及び2)を実施した。なお、処理例6として、不織布へ硫酸化セルロースによる処理のみを行った。
固形分として0.4質量%になるように希釈した表1の油剤(A)を、3g計量した不織布の質量に対し0.4質量%となるよう、ビーカーに3g計量し、不織布が浸漬する程度の量までイオン交換水を加えて増量し、別容器に置いた不織布に浸漬付着させた。ゴム手袋を着用し手で不織布を押し付けることにより、不織布に均一に付着させた。ビーカーの壁面に付着した界面活性剤も不織布に付着させるため、さらにビーカーの内壁に少量のイオン交換水を回しかけ前述と同様に不織布に付着させた。この操作を2回程度繰り返すことで計量した界面活性剤のほぼ全量を不織布に付着させることができた。界面活性剤を付着させた不織布をテフロン(登録商標)膜の上に載せ90℃の恒温槽内で40分間乾燥した。20分経過後に不織布を上下反転させた。
次に固形分として0.01質量%になるように希釈した硫酸化セルロースを、不織布の質量に対して0.01質量%となるようビーカーに3g計量し、上記油剤と同様の方法でその全量を付着・乾燥させた。使用した硫酸化セルロースはチッソ(株)製(Lot No.A07070101)である。この硫酸化セルロースは無色の粉末であって、硫黄含有量14質量%、重量平均分子量66,000(GPC測定値)であった。GPSの測定は、GPC装置:Waters2695、RI検出器:Waters2487、カラム:Shodex製 OHpak SB-G + OHpak SB-805 HQ + OHpak SB-802.5 HQを使用して行った。
最後にイオン交換水で固形分として0.1質量%になるように希釈したpH緩衝液(B)を不織布の質量に対して0.1質量%(pH緩衝液の固形分として)となるようにビーカーに3g計量し、上記油剤及び硫酸化セルロースと同様の方法でその全量を付着・乾燥させた。
【0028】
以下に処理例1〜6とその試験結果について説明する。
〔処理例1〕
スパンボンド不織布に対して、アニオン系界面活性剤としてドデシルホスフェートK塩と混合ホスフェートK塩、ノニオン系界面活性剤として、ソルビタンモノパルミネートとソルビタン牛脂肪酸エステルを含む油剤で処理し、硫酸化セルロースを付着させた後、リン酸緩衝液で処理した。
ヒアルロニダーゼ阻害活性試験の結果、保存試験の前後で阻害活性が50%以上あった。本発明が目的とする繊維集合体が得られた。
【0029】
〔処理例2〕
スパンボンド不織布に対して、アニオン系界面活性剤としてラウリルホスフェートK塩と混合ホスフェートK塩、ノニオン系界面活性剤として、ソルビタンモノパルミネートとソルビタン牛脂肪酸エステルを含む油剤で処理し、硫酸化セルロースを付着させた後、クエン酸緩衝液で処理した。
ヒアルロニダーゼ阻害活性試験の結果、保存試験の前後で阻害活性が50%以上あった。本発明が目的とする繊維集合体が得られた。
【0030】
〔処理例3〕
スルーエア不織布に対して、アニオン系界面活性剤として、ラウリルホスフェートK塩と混合ホスフェートK塩、ノニオン系界面活性剤として、ソルビタンモノパルミネートとソルビタン牛脂肪酸エステルを含む油剤で処理し、その後、硫酸化セルロースを付着させた。
ヒアルロニダーゼ阻害活性試験の結果、保存試験前には阻害活性が50%以上であったが、保存試験後に阻害活性は50%未満に低下した。
【0031】
〔処理例4〕
スルーエア不織布に対して、アニオン系界面活性剤としてオクチルホスフェートK塩とドデシルホスフェートK塩、ノニオン系界面活性剤として、エチレングリコールモノブチルエーテルを含む油剤で処理し、その後、硫酸化セルロースを付着させた。
ヒアルロニダーゼ阻害活性試験の結果、保存試験前には阻害活性が50%以上であったが、保存試験後に阻害活性は50%未満に低下した。
【0032】
〔処理例5〕
スルーエア不織布に対して、カチオン系界面活性剤としてアルキルイミダゾリウムアルキルサルフェート、ノニオン系界面活性剤としてポリ脂肪酸グリセリンエステル、ポリエーテル、ポリエーテルエステル及びアルカノールアミドのエチレンオキサイド付加物を含む油剤で処理し、その後、硫酸化セルロースを付着させた。
ヒアルロニダーゼ阻害活性試験の結果、保存試験前においても阻害活性は50%未満であった。
【0033】
〔処理例6〕
本処理例では、スルーエア不織布に対して硫酸化セルロースを付着させた以外は、他の処理を行わなかった。
ヒアルロニダーゼ阻害活性試験の結果、保存試験前においても阻害活性は50%未満であった。
【0034】
上記処理例1〜6で得られたヒアルロニダーゼ阻害活性試験の結果(阻害活性%)を、以下の表2に示す。
表2
【産業上の利用可能性】
【0035】
硫酸化セルロースは抗ウイルス性を有することから、これを担持させた繊維集合体は抗ウイルスを目的としたマスク、ガウン、術衣等の医療用衛生材やナプキン等の衛生材料などへ利用可能である。本発明の繊維集合体は、ここに記載した例だけでなく、抗ウイルスを目的とするところに多彩に利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸化セルロースを担持し、ヒアルロニダーゼ阻害活性が50%以上である、繊維集合体。
【請求項2】
該繊維集合体を構成する繊維が親水性繊維又は親水化繊維である請求項1記載の繊維集合体。
【請求項3】
該親水化繊維が疎水性繊維を親水化処理して得られた繊維である請求項2記載の繊維集合体。
【請求項4】
親水化処理を施した繊維集合体に硫酸化セルロースが担持されている請求項1記載の繊維集合体。
【請求項5】
該親水化処理が界面活性剤処理である請求項2〜4のいずれか1項記載の繊維集合体。
【請求項6】
pH緩衝液による処理がなされている、請求項1〜5のいずれか1項記載の繊維集合体。
【請求項7】
繊維集合体を構成する繊維がポリオレフィン及び/又はポリエステルで構成されている、請求項1〜6のいずれか1項記載の繊維集合体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の繊維集合体を用いて得られた繊維製品。
【請求項9】
繊維集合体を硫酸化セルロース水溶液で処理し乾燥した後、pH緩衝液で処理し乾燥することを含む、硫酸化セルロースを担持した繊維集合体の製造方法。
【請求項10】
硫酸化セルロース水溶液で処理する前に、繊維集合体を界面活性剤で処理することを含む請求項9記載の繊維集合体の製造方法。
【請求項1】
硫酸化セルロースを担持し、ヒアルロニダーゼ阻害活性が50%以上である、繊維集合体。
【請求項2】
該繊維集合体を構成する繊維が親水性繊維又は親水化繊維である請求項1記載の繊維集合体。
【請求項3】
該親水化繊維が疎水性繊維を親水化処理して得られた繊維である請求項2記載の繊維集合体。
【請求項4】
親水化処理を施した繊維集合体に硫酸化セルロースが担持されている請求項1記載の繊維集合体。
【請求項5】
該親水化処理が界面活性剤処理である請求項2〜4のいずれか1項記載の繊維集合体。
【請求項6】
pH緩衝液による処理がなされている、請求項1〜5のいずれか1項記載の繊維集合体。
【請求項7】
繊維集合体を構成する繊維がポリオレフィン及び/又はポリエステルで構成されている、請求項1〜6のいずれか1項記載の繊維集合体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の繊維集合体を用いて得られた繊維製品。
【請求項9】
繊維集合体を硫酸化セルロース水溶液で処理し乾燥した後、pH緩衝液で処理し乾燥することを含む、硫酸化セルロースを担持した繊維集合体の製造方法。
【請求項10】
硫酸化セルロース水溶液で処理する前に、繊維集合体を界面活性剤で処理することを含む請求項9記載の繊維集合体の製造方法。
【公開番号】特開2010−261115(P2010−261115A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111204(P2009−111204)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(506276907)ESファイバービジョンズ株式会社 (16)
【出願人】(506276712)イーエス ファイバービジョンズ ホンコン リミテッド (16)
【出願人】(506275575)イーエス ファイバービジョンズ リミテッド パートナーシップ (16)
【出願人】(506276332)イーエス ファイバービジョンズ アーペーエス (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(506276907)ESファイバービジョンズ株式会社 (16)
【出願人】(506276712)イーエス ファイバービジョンズ ホンコン リミテッド (16)
【出願人】(506275575)イーエス ファイバービジョンズ リミテッド パートナーシップ (16)
【出願人】(506276332)イーエス ファイバービジョンズ アーペーエス (16)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]