抗ウイルス組成物およびその利用
【課題】効果的にウイルスを不活性化することができる抗ウイルス組成物およびその利用を提供する。
【解決手段】竹抽出物を含有し、当該竹抽出物は、下記の(a)〜(c)の工程を含む方法によって得られることを特徴とする抗ウイルス組成物:(a)竹植物を水系溶剤によって抽出することによって抽出液を得る工程;(b)上記抽出液から上記水系溶剤を除去して乾固物を得る工程;および(c)上記乾固物を水に溶解させて水溶性画分を得る工程。
【解決手段】竹抽出物を含有し、当該竹抽出物は、下記の(a)〜(c)の工程を含む方法によって得られることを特徴とする抗ウイルス組成物:(a)竹植物を水系溶剤によって抽出することによって抽出液を得る工程;(b)上記抽出液から上記水系溶剤を除去して乾固物を得る工程;および(c)上記乾固物を水に溶解させて水溶性画分を得る工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス活性を有する組成物およびその利用に関し、具体的には竹抽出物を含有する抗ウイルス組成物およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、これまでに多くの生命の存続を脅かしてきた。例えば、新型インフルエンザウイルスのパンデミックの発生は、常に危惧されている事態であるとともに、一度パンデミックが生じれば、多くの生命が失われることが予測されている。また、食中毒の原因の半数はノロウイルスによるものであって、食中毒が原因で生命が失われることも多々あることである。
【0003】
インフルエンザウイルスやノロウイルスのように感染力が高いウイルスは集団感染を引き起こし易く、しかも、これらのウイルスが感染したときには重症化する傾向にある。それ故に、これらのウイルスの感染をいかに予防するかが重要な課題となっている。そして、このような状況の下、様々な抗ウイルス薬の開発が進められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、フェノール誘導体を含有する薬学組成物が記載されている。更に具体的には、特許文献1には、化学合成によって人為的に製造されたn−オクチルガレートが、単純ヘルペスウイルス1型、インフルエンザウイルスAおよびポリオウイルス1型等に対して抗ウイルス効果を示すことが記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているような化学合成によって人為的に製造される抗ウイルス薬は、即効性を示す反面、長期に渡って使用した場合には当該抗ウイルス薬に対して耐性を示すウイルスが発生し易いという問題点を有している。また、上述したような抗ウイルス薬は、主として宿主細胞に感染したウイルスを殺傷することを目的として開発されたものである。このため、このような抗ウイルス薬を使用した場合には、ウイルスのみならずウイルスが感染した宿主細胞まで殺傷してしまい、副作用が生じるという問題点を有している。
【0006】
そこで、化学合成によって人為的に製造された抗ウイルス薬を用いるのではなく、自然界に元々存在する物質群の中から抗ウイルス効果を示す物質をスクリーニングしようという試みがなされている。
【0007】
例えば、特許文献2には、竹の抽出成分であるp−ベンゾキノン誘導体が、抗カビ性、抗菌性および抗ウイルス性を示すことが記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、イネ科植物の抽出成分が、抗菌性および抗ウイルス性を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−306836号公報(2006年11月9日公開)
【特許文献2】特開2003−290613号公報(2003年10月14日公開)
【特許文献3】特開2006−320310号公報(2006年11月30日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、自然界からスクリーニングされた上記従来の抗ウイルス薬は、効果的にウイルスを不活性化することができないという問題点を有している。
【0011】
例えば、特許文献2には、竹の抽出成分であるp−ベンゾキノン誘導体が抗ウイルス性を有することが記載されているが、実施例では、p−ベンゾキノン誘導体の大腸菌O−81に対する増殖抑止効果しか検討されていない。しかしながら、細菌とウイルスとでは増殖等のメカニズムが全く異なるため、細菌に対する増殖抑止効果があったからといって、p−ベンゾキノン誘導体にウイルスを同様に不活性化する効果があると結論付けることは不可能である。
【0012】
また、特許文献3には、イネ科植物の抽出成分が抗ウイルス性を有することが記載されているが、実施例では原虫に対する効果しか検討されていない。原虫とウイルスとは全く異なるものであるため、原虫に対して効果があったからといって、当該抽出成分がウイルスに対しても同様に効果があるか否かはわからない。
【0013】
つまり、上記特許文献2および3のように、従来、抗ウイルス効果を有するとされる天然由来の成分について、抗ウイルス活性が実証されているものはほとんど存在しないといえる。
【0014】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、効果的にウイルスを不活性化することができる抗ウイルス組成物およびその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
モウソウチクの表皮および竹如の抽出物に抗菌効果があることは以前から知られていた(例えば、A. Nishina, K. Hasegawa, et al. :J. Agric. Food Chem. 1991;39:266-269、または、A. Nishina, T. Uchibori, :Agric. Biol. Chem. 1991;55(9):2395-2398参照)。しかしながら、上述したように、竹植物の抽出物が抗ウイルス効果を示すか否かに関しては、全く不明な状況にあった。
【0016】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、水系溶剤によって抽出されるとともに、水に対して溶解性を示す竹抽出物中に抗ウイルス活性が存在することを見出し、本発明を完成させるに至った。さらに、当該竹抽出物は、インフルエンザウイルスのみならず、ネコカリシウイルス(ノロウイルスの近縁種)に対しても幅広い抗ウイルス活性を有するものであることも見出した。
【0017】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【0018】
本発明の抗ウイルス組成物は、上記課題を解決するために、竹抽出物を含有し、当該竹抽出物は、下記の(a)〜(c)の工程を含む方法によって得られる(または得られた、あるいは得られうる)ものであることを特徴としている。つまり、
(a)竹植物を水系溶剤によって抽出することによって抽出液を得る工程;
(b)上記抽出液から上記水系溶剤を除去して乾固物を得る工程;および、
(c)上記乾固物を水に溶解させて水溶性画分を得る工程。
【0019】
本発明の抗ウイルス組成物では、上記(c)工程では、60℃以上の温度の水に上記乾固物を溶解させることが好ましい。
【0020】
本発明の抗ウイルス組成物では、pHが、3.0以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の抗ウイルス組成物では、上記乾固物が、1重量%以上含まれていることが好ましい。
【0022】
本発明の抗ウイルス組成物では、上記竹植物は、イネ科タケ亜科のマダケ属、ナリヒラダケ属、トウチク属、オカメザサ属、ササ属、アズマザサ属、ヤダケ属、メダケ属、カンチク属、ホウライチク属に属する竹または笹であることが好ましい。
【0023】
本発明の抗ウイルス組成物では、上記水系溶剤は、エタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノールまたはn−ブタノールであることが好ましい。
【0024】
本発明の抗ウイルス組成物は、インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルスまたはノロウイルスに対して用いられることが好ましい。
【0025】
本発明のウイルスを不活性化する方法は、上記課題を解決するために、上記抗ウイルス組成物の何れかをウイルスに対して投与する工程を含むことを特徴としている。
【0026】
本発明のウイルスを不活性化するためのキットは、上記課題を解決するために、下記の(a)〜(c)の工程を含む方法によって得られる竹抽出物を備えていることを特徴としている。つまり、
(a)竹植物を水系溶剤によって抽出することによって抽出液を得る工程;
(b)上記抽出液から上記水系溶剤を除去して乾固物を得る工程;および、
(c)上記乾固物を水に溶解させて水溶性画分を得る工程。
【発明の効果】
【0027】
本発明の抗ウイルス組成物は、インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス、ノロウイルス等の多様なウイルスを不活性化することができる。
【0028】
また、本発明の抗ウイルス組成物は、有効成分として天然の竹抽出成分を含むため、被験体に対して非常に安全である。すなわち、本発明であれば、安全性が高く且つ効果的な抗ウイルス組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。尚、本明細書において特記しない限り、数値範囲を示す「A〜B」は、「A以上、B以下」であることを示す。
【0030】
〔1.抗ウイルス組成物〕
本実施形態の抗ウイルス組成物は、有効成分として後述する方法によって得られる竹抽出物を含有するものである。本明細書中において、上記「抗ウイルス」とは、ウイルスを不活性化することが意図され、例えば、ウイルスを傷害することによってウイルスの宿主への感染を抑制することが意図される。したがって、本明細書において「抗ウイルス活性がある」とは、ウイルスの宿主への感染を予防、抑制する活性を有することが意図される。「抗ウイルス活性がある」か否かは、例えば、TCID50法のような従来公知の方法を用いて測定したウイルス感染価を指標として確認することができる。
【0031】
本実施形態の抗ウイルス組成物が不活性化する対象とし得るウイルスは特に限定されないが、例えば、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス、バクロウイルス、ピコナルウイルス、トガウイルス、レトロウイルス、オルトミクソウイルス、パラミクソウイルス、ラブドウイルス、レオウイルス、コロナウイルス、SARSコロナウイルス、エイズウイルス、インフルエンザウイルス、タバコモザイクウイルス、ポチウイルス、コモウイルス、カウリモウイルス、ネコカリシウイルスまたはノロウイルスを挙げることができる。これらの中では、インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス、またはノロウイルスであることが更に好ましいが、これらに限定されない。なお、ネコカリシウイルスは、ノロウイルスの近縁種であって、ノロウイルスの代替ウイルスとして実験に用いられることが多いウイルスである。
【0032】
また、本実施形態の抗ウイルス組成物は、有効成分以外に他の成分(例えば、薬学的に受容可能なキャリア等)を含有してもよい。有効成分以外の他の成分は、本実施形態の抗ウイルス組成物の適用部位や適用形態などに応じて、当業者が適宜設計し得る。本実施形態の抗ウイルス組成物は、単独で使用されても、他の物質または組成物と併用されてもよい。
【0033】
本実施形態の抗ウイルス組成物は竹抽出物を含有するものである。そして、当該竹抽出物は、(a)竹植物を水系溶剤によって抽出することによって抽出液を得る工程と、(b)上記抽出液から上記水系溶剤を除去して乾固物を得る工程と、(c)上記乾固物を水に溶解させて水溶性画分を得る工程と、を含む方法によって得られる。以下に、各工程(a)〜(c)について説明する。
【0034】
(1−1.工程(a))
工程(a)は、竹植物を水系溶剤によって抽出することによって抽出液を得る工程である。
【0035】
上記「竹植物」としては、例えば、イネ科タケ亜科のマダケ属、ナリヒラダケ属、トウチク属、オカメザサ属、ササ属、アズマザサ属、ヤダケ属、メダケ属、カンチク属、ホウライチク属等に属する竹または笹を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。中でも、マダケ属に属するモウソウチク、マダケ、またはハチクであることが好ましく、モウソウチクであることが最も好ましい。
【0036】
竹抽出物の原料としては、上述した竹植物の全体を用いるよりは、当該竹植物の表皮および/または竹如を用いることが更に好ましい。ここで、「竹如」とは、表皮から約0.1〜0.5mmの範囲にあり、緑色をした竹の表皮層と、白またはクリーム色の肉質部との間に位置した黄緑色の部位を指す。竹植物の表皮および竹如には、多くの生理活性物質が含まれている。そして、これらの部位を用いれば、より効率的に、本実施形態の抗ウイルス組成物を作製することができる。
【0037】
なお、茎が細い竹植物の場合には、表皮のみまたは竹如のみを分離することは実用的でない。このため、表皮と竹如と肉質部とを含んだ茎全体、あるいは茎と葉を含めた竹全体を竹抽出物の原料として用いることもできる。
【0038】
工程(a)では、水系溶剤によって上述した竹植物または当該竹植物の部分が抽出される。なお、本明細書において「水系溶剤」とは、水のように極性が高い極性溶剤が意図される。
【0039】
上記水系溶剤の具体的な構成としては特に限定されないが、炭素数1〜4のアルコール、または炭素数1〜4のアルコールと水との混合溶液であることが好ましい。炭素数1〜4のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等を挙げることができる。炭素数1〜4のアルコールは、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。炭素数1〜4のアルコールは、エタノールであることが最も好ましい。上記構成であれば、抗ウイルス効果を示す物質を効果的に抽出することができるとともに、抽出液から容易に水系溶剤を除去することができる。
【0040】
水系溶剤として炭素数1〜4のアルコールと水との混合溶液を用いる場合は、水系溶剤全体におけるアルコールの割合は限定されない。例えば、水系溶剤に含まれるアルコールの割合が、60容量%以上であることが好ましく、80容量%以上であることが更に好ましい。
【0041】
炭素数1〜4のアルコール、または炭素数1〜4のアルコールと水との混合溶液を用いた場合、クロロホルム、酢酸エチル等の非水溶性溶剤またはアセトン等の水溶性溶剤を用いた場合と比較して、得られる竹抽出物における抗ウイルス性に優れている。炭素数1〜4のアルコール、または炭素数1〜4のアルコールと水との混合溶液は、他の溶剤と比較して竹植物繊維組織の中への浸透性がよく、且つ抗ウイルス成分に対して溶解性が高いので、抽出効果を向上させることができる。
【0042】
上記竹植物を水系溶剤によって抽出して抽出液を得る方法としては特に限定されず、適宜公知の方法に基づいて抽出することが可能である。なお、上記抽出液の中には、竹植物の残渣が混入していても混入していなくてもよいが、抗ウイルス組成物のウイルスへの投与のし易さ等を考慮すれば、残渣が混入していない方が好ましいといえる。以下に当該方法の一例を示すが、本発明は、これに限定されない。
【0043】
例えば、竹植物を抽出する方法には、竹植物を水系溶剤に浸漬させる浸漬工程、および、当該浸漬工程の後で抽出液から竹植物の残渣を除去する除去工程が含まれていることが好ましい。
【0044】
上記浸漬工程は、竹植物を水系溶剤中に浸漬する工程である。この工程によって、竹植物(表皮および/または竹如)に含有されている抗ウイルス成分が、竹植物繊維組織から水系溶剤に移動して抽出される。
【0045】
上記浸漬工程を行う温度は特に限定されないが、例えば室温〜70℃で行うことが好ましい。上記浸漬工程を行う時間も特に限定されないが、例えば30分以上行うことが好ましく、1時間〜2時間行うことが更に好ましい。抽出効率を向上させる観点から、浸漬工程は、攪拌しつつ行われることが好ましい。浸漬工程に用いられる水系溶剤の量は、竹植物を完全に浸漬できる量であればよく特に限定されないが、例えば、粉体状の被抽出物100g〜200gであれば、水系溶剤1000mL程度を用いることが好ましいといえる。
【0046】
上記除去工程は、浸漬工程の後に得られる抽出液から、竹植物の残渣を除去する工程である。当該除去工程は抽出液から竹植物の残渣を除去できる工程であればよく、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、フィルターによるろ過または遠心分離等によって、抽出液から竹植物の残渣(換言すれば、不溶物)を除去することができる。こうして得られた抽出液はそのまま次の工程(b)に供されてもよいが、当該抽出液中に例えば活性炭を投入してさらに撹拌した後、ろ過または遠心分離を行って活性炭を除去することによって、竹植物独特の着色成分や臭気成分などの不純物を抽出液からさらに除去することも可能である。
【0047】
上述したように、竹植物を抽出する方法は、浸漬工程および除去工程を含み得るが、浸漬工程の前に、更に水蒸気処理工程および/または断片化工程を含むことが好ましい。以下に、水蒸気処理工程および断片化工程について説明する。
【0048】
上記水蒸気処理工程は、竹植物を水蒸気によって処理する工程であって、当該工程によって、竹植物の硬い繊維組織が分解または膨張される。そして、その結果、抗ウイルス成分の抽出効率を高めることができる。
【0049】
例えば揮発性の物質や蛋白質などが抗ウイルス成分である場合には、熱処理を行えば、その抗ウイルス活性が失われることになる。しかしながら、実施例にて発明者らが明らかにしたように、本実施形態の抗ウイルス組成物は、高温においても安定であって、抗ウイルス効果が損なわれることがない。したがって、当該水蒸気処理工程では、抗ウイルス効果が損なわれることなく、抗ウイルス成分の抽出効果を高めることができる。
【0050】
上記水蒸気処理工程の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、竹植物を耐圧容器に入れ、当該耐圧容器を密封するとともに、その中へ水蒸気を吹き込んで行われることが好ましい。水蒸気処理工程の処理温度は特に限定されないが、例えば、120℃〜180℃であることが好ましく、130℃〜170℃であることが更に好ましい。上記耐圧容器内の圧力は特に限定されないが、例えば、3〜7kg/cm2であることが好ましい。また、水蒸気処理工程の処理時間は特に限定されないが、例えば、30分〜5時間行うことが好ましく、1〜4時間行うことが更に好ましい。当該水蒸気処理工程が終わった後の竹植物は、例えば室温まで冷却された後に、次の工程に供されることが好ましい。
【0051】
上記断片化工程は、竹植物から抗ウイルス成分を抽出し易くするために、竹植物をチップ状または粉末状に断片化する工程である。なお、断片化工程は、水蒸気処理の前に行うことも可能であり、水蒸気処理の後に行うことも可能である。
【0052】
上記断片化工程の具体的な構成としては特に限定されないが、例えば、表皮のみを抽出原料として用いる場合は、円筒研磨機の切削刃に対して、竹を回転させながら接触させ、これによって茎の外周囲部分を研磨することによって達成され得る。竹如のみを抽出原料として用いる場合は、例えば、竹の表皮をはぎ取り、竹如の部位を鉋で削って小片状に切断した後乾燥し、さらに微粉砕機で粉末化することによって達成され得る。
【0053】
以上のようにして得られた抽出液は、次の工程である工程(b)に供される。
【0054】
(1−2.工程(b))
工程(b)は、上記工程(a)で得られた抽出液から上記水系溶剤を除去して乾固物を得る工程である。ここで「乾固物」とは、液体状の水系溶剤が除去されることによって固体化または半固体化した抽出物が意図される。
【0055】
上記工程(b)は、抽出液から水系溶剤を除去し得る工程であればよく、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、減圧溜去法、凍結乾燥法、噴霧乾燥法等を用いることが可能であるが、これらに限定されない。中でも、減圧溜去法または凍結乾燥法を好適に用いることができる。
【0056】
上記構成によれば、本実施形態の抗ウイルス組成物から水系溶剤が除去されるので、生体にとって安全性の高い抗ウイルス組成物を作製することができる。また、上記構成によれば確実に水系溶剤を除去することができるので、後述する工程(c)において、水への溶解性が高い物質を、より選択性高く水に溶解することができる。
【0057】
(1−3.工程(c))
工程(c)は、工程(b)によって得られた乾固物を水に溶解させた後に、水に溶解した画分(水溶性画分)を得る工程である。当該工程(c)によって、水への溶解度が低い物質は、本実施形態の抗ウイルス組成物から除去されることになる。つまり、当該工程(c)によって、本実施形態の抗ウイルス組成物中に含まれる物質を、主として水溶性物質にすることができる。
【0058】
工程(c)は、工程(b)にて得られた乾固物を水に溶解し得る工程であればよく、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、工程(c)は、乾固物に対して水を加えた後、攪拌する工程であることが好ましい。
【0059】
乾固物に対して加える水の量としては特に限定されないが、例えば、乾固物の質量の20倍以上の質量の水を加えることが好ましい。上記構成であれば、水への溶解性が高い乾固物の物質を、確実に水に溶解させることができる。なお、加える水の上限値は特に限定されず、単位体積あたりの抗ウイルス活性が低くなりすぎないように設定すればよい。
【0060】
乾固物に加える水の温度は特に限定されないが、例えば、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることが更に好ましく、80℃以上であることが更に好ましく、85℃以上であることが更に好ましく、90℃以上であることが最も好ましい。換言すれば、工程(c)は、上記温度の水に乾固物を溶解させる工程であることが好ましい。上記構成によれば、抗ウイルス組成物の抗ウイルス活性を上昇させることができる。また、上記構成によれば、高温によって揮発し易い物質を抗ウイルス組成物から除去することができる。また、上記構成によれば、高温によって変性し易い物質を変性させることができる。すなわち、上記構成によれば、抗ウイルス組成物中に含まれる不要な物質の望まれない効果を、抑制することも可能となる。
【0061】
上述したように、乾固物に対して水を加えた後に、当該水・乾固物の混合物を攪拌することが好ましい。上記構成によれば、乾固物に含まれる水溶性物質を、より容易に水に溶解することができる。なお、攪拌は、適宜公知の構成を用いて行えばよい。
【0062】
工程(c)は、得られた水・乾固物の混合物から非水溶性物質(換言すれば、不溶性物質)を除去する工程を含んでいることが更に好ましい。当該工程の具体的な構成としては特に限定されないが、例えば、ろ過または遠心分離によって水・乾固物の混合物から非水溶性物質を除去することが好ましい。上記構成によれば、本実施形態の抗ウイルス組成物中に含まれる物質を、主として水溶性物質にすることができる。換言すれば、抗ウイルス組成物から、抗ウイルス活性と関連の無い非水溶性物質を除去することができるので、本実施形態の抗ウイルス組成物の抗ウイルス効果を上昇させることができる。また、上記構成によれば、非水溶性物質が除去されるので、本実施形態の抗ウイルス組成物を生体等へ投与し易くなる。
【0063】
以上のようにして得られた竹抽出物は、そのまま本実施形態の抗ウイルス組成物として用いることも可能であるし、他の物質を加えた後に本実施形態の抗ウイルス組成物として用いることも可能である。
【0064】
本実施形態の抗ウイルス組成物は、pH3.0以下であることが好ましく、pH2.5以下であることが更に好ましい。上記構成であれば、pHを調整しない場合と比較して、抗ウイルス組成物の抗ウイルス活性をより向上させることができる。
【0065】
抗ウイルス組成物のpHを調節する方法としては特に限定されないが、例えば、pHを酸性に調節し得る緩衝液を竹抽出物に対して加えることによって行うことが好ましい。上記緩衝液としては特に限定されないが、例えば、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、酒石酸緩衝液、または乳酸緩衝液であることが好ましい。上記構成によれば、容易かつ安定に、抗ウイルス組成物のpHを所望の値に調節することができる。なお、生体等への毒性が低く、且つ取り扱いが容易であるという観点からは、上記緩衝液の中では、クエン酸緩衝液または乳酸緩衝液が好ましいといえる。
【0066】
本実施形態の抗ウイルス組成物は、上記乾固物を1重量%以上含有することが好ましく、2重量%以上含有することが更に好ましく、3重量%以上含有することが更に好ましく、4重量%以上が含有することが更に好ましく、5.0%以上含有することが最も好ましい。上記構成であれば、効果的にウイルスを不活性化することができる。なお、上述した工程(c)では、このような濃度になるように乾固物に対して水を加えることが好ましいといえる。
【0067】
以上のようにして、本実施形態の抗ウイルス組成物を作製することができる。
【0068】
なお、実施例(例えば、実験例6参照)でも示しているように、本実施の形態の抗ウイルス組成物は、p−ベンゾキノン誘導体単独よりも抗ウイルス効果が高い。従って、本実施の形態の抗ウイルス組成物は、新規の抗ウイルス成分を含んだものであると考えられる。
【0069】
また、一般的に、薬剤を用いてウイルスを不活性化する場合には、ウイルスがエンベロープを有するか否かによって薬剤に対する感受性が異なると考えられている。具体的には、エンベロープは薬剤によって比較的簡単に破壊されるため、インフルエンザウイルスのようなエンベロープを有するウイルスは不活性化されやすい傾向があり、ノロウイルスのようなエンベロープを有さないウイルスはインフルエンザウイルスに比べて不活性化されにくいと考えられている。しかしながら、実施例にも明確に示していることではあるが、本発明の抗ウイルス組成物であれば、このような多様なウイルスを不活性化することができる。
【0070】
本実施形態の抗ウイルス組成物は、竹抽出成分を主成分として含むため、被験体(例えば、ウイルスの宿主など)に対して非常に安全である。このため、本実施形態の抗ウイルス組成物は、被検体に対して経口的に投与されてもよいし、非経口的に投与されてもよい。勿論、本実施形態の抗ウイルス組成物は、ウイルスに対して直接投与されてもよい。
【0071】
本実施形態の抗ウイルス組成物は、非経口的に皮膚または粘膜に投与するための外用剤であることが好ましい。ここで、上記「外用剤」は、皮膚または粘膜に投与されるものが意図され、皮膚としては、顔、首、胸、背中、腕、脚、手、および頭皮の皮膚などが意図され、粘膜としては、鼻腔内粘膜、口腔内粘膜などが意図される。
【0072】
外用剤としては、固体、半固体または液状の製剤などが挙げられ、例えば、軟膏剤(例えば油性軟膏、親水性軟膏など)、乳濁剤(例えば乳液、ローションなど)などとして提供され得る。さらに、外用剤は、エアロゾルの形態であってもよい。
【0073】
本実施形態の抗ウイルス組成物は、いわゆる薬浴に用いられてもよく、この場合は液状製剤の形態であることが好ましい。また、全身に容易に塗布するために、本実施形態の抗ウイルス組成物は、乳濁剤の形態であることが好ましい。
【0074】
軟膏剤は、その基剤成分として、例えば、脂肪類、多価アルコール、炭化水素等が使用され得、界面活性剤等が添加され得る。過酸化水素による抗菌活性をも利用するためには、軟膏剤は親水性であることが好ましいが、本発明はこれに限定されない。尚、油性軟膏としては、油性基剤をベースとするもの、油/水、水/油型の乳化系基剤をベースとするもののいずれであってもよい。上記油性基剤としては、特に限定されず、例えば、植物油、動物油、合成油、脂肪酸、および天然または合成のグリセライド等が挙げられる。
【0075】
また、本実施形態の抗ウイルス組成物は、例えば、ハサミ、メス、カテーテル等の医療器具の消毒液または洗浄液としても用いることができる。
【0076】
〔2.ウイルスを不活性化する方法〕
本実施形態のウイルスを不活性化する方法は、上述した本発明の抗ウイルス組成物をウイルスに対して投与する工程を含んでいる。
【0077】
本発明の抗ウイルス組成物をウイルスに対して投与する方法は特に限定されず、抗ウイルス組成物を直接ウイルスへ投与してもよく、抗ウイルス組成物をウイルスの宿主へ投与してもよい。なお、上記宿主としては特に限定されず、生物の個体であってもよく、生物の組織であってもよく、細胞であってもよい。
【0078】
例えば、本発明の抗ウイルス組成物が液状製剤の形態であれば、塗布、噴霧、吸引等によって被験体の皮膚または粘膜に投与してもよく、本発明の抗ウイルス組成物が軟膏剤の形態であれば、塗布等によって被験体の皮膚または粘膜に投与してもよいが、本発明は、これらに限定されない。
【0079】
本実施形態のウイルスを不活性化する方法は、上述した工程以外の工程を含んでいてもよい。これらの工程の具体例としては特に限定されないが、例えば、不活性化されなかったウイルスの数および種類を検出する工程などを挙げることが可能であるが、これらに限定されない。なお、不活性化されなかったウイルスの数および種類を検出する工程は、適宜公知の方法に従って行うことが可能である。
【0080】
〔3.ウイルスを不活性化するためのキット〕
本実施形態のウイルスを不活性化するためのキットは、竹抽出物を備えていることを特徴としている。尚、上記「竹抽出物」の具体的な構成については、上記「1.抗ウイルス組成物」で説明したとおりであるので、ここでは省略する。
【0081】
本実施形態のキットは、竹抽出物以外にも、例えば、竹抽出物を溶解するための溶媒等の他の成分が備えられていてもよい。本実施形態のキットは、竹抽出物や他の成分を同一の容器に混合して備えられていてもよいし、別々の容器に備えられていてもよい。また上記キットを構成する成分を格納するための1つ以上の容器(例えば、バイアル、管、アンプル、ビン等)を含んでいてもよい。また、本実施形態のキットを使用するための指示書を備えていてもよい。
【0082】
本実施形態のキットは、上述したように竹抽出物を備えている。そのため、本実施形態のキットを用いれば、ウイルスを簡便に不活性化することができる。
【0083】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0084】
実施例においてモウソウチク抽出水の濃度を表す%は、溶解させる精製水の重量に対する乾固物の重量の割合(重量%)を表している。また、それぞれの試験は独立して3回行い、再現性を確認した。
【0085】
〔1.モウソウチク抽出水の調製〕
(1)モウソウチクの表皮および竹如を、円筒研磨機(製品名:SKC−10、アミテック(株))を用いて研磨して研磨粉を集めた。研磨粉の粒径は約355μm(42メッシュ)以下であった。
(2)モウソウチクの研磨粉30gを、抽出溶剤200gに浸漬し、室温〜60℃で3時間以上攪拌した。抽出溶剤としては、エタノールを用いた。
(3)上記工程(2)で得られた浸漬液を、遠心分離法によって固液分離して、残渣を取り除いた。
(4)上記工程(3)で得られたエタノール抽出溶液からエタノールを減圧溜去し、ペースト状の乾固物(モウソウチク抽出物)を得た。
(5)上記工程(4)で得られた乾固物5.00gに精製水100gを加え、85℃に加温しながら1時間攪拌して乾固物を完全に溶解し、乾固物5%溶液を得た。
(6)上記工程(5)で得られた溶液を室温まで冷却した後、遠心分離(3000rpm,10分)を行い、更に、遠心分離によって得られた上清を0.45μmメンブレンフィルター(製品名:Minisart、Sartorius Stedim biotech社製)を用いてろ過して、モウソウチク抽出水を得た。
【0086】
得られたモウソウチク抽出水は、黄色透明の液体であり、pH3.8〜4.2、比重1.000(15℃)であった。得られたモウソウチク抽出水において、モウソウチク抽出物の主成分である2,6−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノンの含有量をHPLCによって分析したところ、30μg/mlであった。
【0087】
HPLCの分析条件を以下に示す。
【0088】
カラム:直径6.0mm、長さ200mmのステンレス管にシアノプロピル化学結合型シリカゲルが充填されたもの(横浜理化株式会社製ERC CN−1171)
移動相:ヘキサン/エタノール混合溶液(容積比49:1)
検出波長:286nm。
【0089】
〔2.ネコカリシウイルスに対する効果試験〕
試験品として、上記で得られたモウソウチク抽出水を用いた。ノロウイルスは培養方法が確立されていないため、米国環境保護局推奨のノロウイルスの近縁種であるネコカリシウイルス(F9株)を用いてモウソウチク抽出水の効果を調べた。
【0090】
まず、培養用ボトルにおいて、DMEM(F10)を用いてネコ腎臓細胞(CRFK細胞)を単層培養した。ボトル内の培養液を除去し、ネコカリシウイルス(FCV)を接種し、37℃で1時間、ネコ腎臓細胞に吸着させた。接種液を除去し、FCS Free DMEMを加え、37℃、CO2インキュベーター(5%CO2)内でネコ腎臓細胞を5日間培養した。細胞変性効果(CPE)を顕微鏡下で確認後、培養用ボトルを2回凍結融解し、遠心分離(2,500rpm,5min)した。得られた上清をさらに遠心分離(15,000rpm,20min)し、粗精製ウイルス液とした。得られた粗精製ウイルス液を30%スクロースに重層後、遠心分離(35,000rpm,4℃,1.5hr)し、上清を除去した。沈渣を滅菌水に再浮遊させ、精製ウイルス液とした。
【0091】
試験方法の詳細を以下に示す。
【0092】
(1)ネコカリシウイルスを0.1%牛血清アルブミン(BSA)を含む滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて10倍に希釈した。
【0093】
(2)CRFK細胞の浮遊液(2.5×105cell/ml)0.1mlを96穴マイクロプレート(300μl/well)の各ウエルに播種し、37℃のCO2インキュベーターにて一晩培養した。培養後、培養液を取り除き、MEM(F0)(和光純薬製)を0.2ml/wellずつ添加してCRFK細胞のリンスを2回行い、さらに、培養液0.2ml/wellを各ウエルに加えて、宿主細胞の単層培養プレートとした。
【0094】
(3)試験品(モウソウチク抽出水)0.9mlとウイルス液0.1mlとを試験管内で混合し、25℃で一定時間反応させた。陰性対照としては、試験品の代わりに滅菌PBSを用いて同様の試験を行った。
【0095】
(4)試験品−ウイルス混合液を、抗生物質を含む滅菌MEM(F1)培地を用いて10倍、100倍、1000倍・・・と10倍段階希釈し、これら各希釈液0.1mlを上記工程(2)で調製した宿主細胞に接種した(各希釈段階について4ウエルずつ接種した)。
【0096】
(5)上記工程(4)でウイルスを接種したプレートを、37℃のCO2インキュベーターにて5日培養した後、CRFK細胞の変性を顕微鏡で観察してウイルスの増殖の有無を確認した。そして、反応液中の50%組織培養感染量(50% tissue culture infectious dose:TCID50)を、Reed and Muenchらの方法(Am. J. Hyg., 27, 493−497, 1938を参照)に基づいて算出した。
【0097】
〔3.鳥インフルエンザウイルスに対する効果試験〕
試験品として、上記で得られたモウソウチク抽出水を用いた。鳥インフルエンザウイルスとして、H5N3型の鳥インフルエンザウイルス(A/whistling swan/Shimane/499/83)を用いた。この鳥インフルエンザウイルスは、1983年に島根県において野生のコハクチョウから分離されたウイルスである。
【0098】
上記ウイルスを10日齢発育鶏卵の漿尿膜腔に接種し、37℃で2日間培養後、無菌的に回収した漿尿液をウイルス液として試験に用いた。
【0099】
試験方法の詳細を以下に示す。
(1)鳥インフルエンザウイルスを滅菌PBSを用いて10倍に希釈し、次工程におけるウイルス液として用いた。
(2)試験品0.5mlとウイルス液0.5mlとを試験管内で混合し、室温で一定時間反応させた。陰性対照として試験品の代わりに滅菌蒸留水を用いて同様の試験を行った。
(3)試験品−ウイルス混合液を、抗生物質を含む滅菌PBSを用いて10倍、100倍、1000倍・・・と10倍段階希釈し、そのうち0.1mlを10日齢発育鶏卵の漿尿膜腔内に接種した(各希釈段階につき5個ずつ接種した)。
(4)発育鶏卵を37℃で2日間培養した後、赤血球凝集(HA)試験(Server, J. L.: Application of microtechnique to viral serological investigations. J. Immunol., 88: 320-329を参照)により漿尿膜腔でのウイルス増殖の有無を確認した。また、反応液中の50%発育鶏卵感染量(50% egg-infectious dose:EID50)をReed and Muenchらの方法(Am. J. Hyg., 27, 493−497, 1938を参照)を用いて算出した。
【0100】
(実験例1)
上記〔1.モウソウチク抽出水の調製〕にて得られた5%モウソウチク抽出水(pH4.0)を用いて、ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性の有無を確認した。モウソウチク抽出水とウイルス液との反応時間は24時間、反応温度は25℃とした。結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1に示すように、5%モウソウチク抽出水(pH4.0)とウイルス液とを混合して24時間反応させた後のウイルス感染価を調べたところ、ウイルス感染価は検出限界以下となった。一方、陰性対照として5%モウソウチク抽出水(pH4.0)の代わりに滅菌PBSを用いた場合は、ネコカリシウイルスの感染が認められた。
【0103】
(実験例2)
モウソウチク抽出水のpHが、ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性に及ぼす影響を調べた。乾固物の濃度が5%のモウソウチク抽出水を用い、モウソウチク抽出水のpHは、クエン酸緩衝液を用いて調整した。また、モウソウチク抽出水とウイルス液との反応時間は30分、反応温度は25℃とした。陰性対照として、モウソウチク抽出水の代わりにpH3.0のクエン酸緩衝液または滅菌PBSを用いた。結果を表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
表2に示すように、pH3.0以下のモウソウチク抽出水を用いた場合に強い抗ウイルス効果が認められた。陰性対照としてpH3.0のクエン酸緩衝液を用いた場合は、ネコカリシウイルスの感染が認められたことから、抗ウイルス効果はモウソウチク抽出水に由来するものであるといえる。一般に消毒用アルコール製剤はpHを下げることでネコカリシウイルスに対して抗ウイルス効果があるとされているが、モウソウチク抽出水と併用することでさらに強い抗ウイルス活性が得られることが推察された。
【0106】
(実験例3)
ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性を発揮するためのモウソウチク抽出水における乾固物の最適濃度を調べた。モウソウチク抽出水は、pH3.0に調整した。また、モウソウチク抽出水とウイルス液との反応時間は30分、反応温度は25℃とした。結果を表3に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
乾固物の濃度1%の場合も、陰性対照と比べてネコカリシウイルスに対する抗ウイルス効果が認められた。また、乾固物の濃度5%の場合に、ウイルス感染価は検出限界以下となった。
【0109】
(実験例4)
ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性を発揮するためのモウソウチク抽出水の最適な作用時間を調べた。5%モウソウチク抽出水(pH3.0)を用いた。陰性対照としてモウソウチク抽出水の代わりに滅菌PBSを用い、滅菌PBSとウイルス液とを0.5分〜30分間反応させた。モウソウチク抽出水とウイルス液との反応温度は25℃とした。結果を表4に示す。
【0110】
【表4】
【0111】
表4に示すように、モウソウチク抽出水とウイルス液とを30分間作用させた時に、ウイルス感染価は検出限界以下となった。
【0112】
(実験例5)
乾固物を精製水に溶解するときの温度がネコカリシウイルスに対する抗ウイルス効果に与える影響を調べた。濃度5%、pH3.0となるように乾固物を精製水に溶解した。モウソウチク抽出水とウイルス液との反応時間は30分、反応温度は25℃とした。結果を表5に示す。
【0113】
【表5】
【0114】
乾固物を精製水に90℃で溶解した時、感染価は検出限界以下まで低下した。これは、高温の精製水に乾固物を溶解することによって、乾固物に含まれている難水溶性の有効成分が水に溶けやすくなり、且つ高温によって揮発し易い物質が除去されたり高温によって変性し易い物質が変性したりすることによって乾固物に含まれている不要な物質の望まれない効果が抑制されるためであると考えられた。
【0115】
(実験例6)
モウソウチク抽出水には主成分として2,6−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノンが含まれている。そして、当該2,6−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノンが、抗ウイルス効果を示す成分である可能性がある。そこで、化合物2,6−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノン(以下、「DMBQ」と略す)とモウソウチク抽出水とについて、ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス効果を比較した。モウソウチク抽出水としては、乾固物濃度5%のものを用いた。モウソウチク抽出水またはDMBQ溶液のpHは3.0とし、ウイルス液との反応時間は30分間、反応温度は25℃とした。結果を表6に示す。
【0116】
【表6】
【0117】
5%モウソウチク抽出水には30μg/mlの濃度のDMBQが含まれている。しかし、表6に示すように、同濃度のDMBQ溶液を用いた場合のウイルス感染価と比較して、5%モウソウチク抽出水の方がより強い抗ウイルス活性を示した。これは、モウソウチク抽出水に含まれるDMBQと共に、その他の物質も抗ウイルス活性を有していることを示している。
【0118】
(実験例7)
pHを調製していない5%モウソウチク抽出水を用いて、鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス活性の有無を確認した。結果を表7に示す。
【0119】
【表7】
【0120】
表7に示すように、pHを調製していない5%モウソウチク抽出水と鳥インフルエンザウイルスとを2時間反応させることで、ウイルス感染価が検出限界以下となるまで鳥インフルエンザウイルスを不活化することができた。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、人体に対しても非常に安全であり、且つ優れた抗ウイルス活性を有している。従って、本発明は医薬品、衛生用品の分野において利用可能である。更に具体的には、抗ウイルス薬、消毒薬等として利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス活性を有する組成物およびその利用に関し、具体的には竹抽出物を含有する抗ウイルス組成物およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、これまでに多くの生命の存続を脅かしてきた。例えば、新型インフルエンザウイルスのパンデミックの発生は、常に危惧されている事態であるとともに、一度パンデミックが生じれば、多くの生命が失われることが予測されている。また、食中毒の原因の半数はノロウイルスによるものであって、食中毒が原因で生命が失われることも多々あることである。
【0003】
インフルエンザウイルスやノロウイルスのように感染力が高いウイルスは集団感染を引き起こし易く、しかも、これらのウイルスが感染したときには重症化する傾向にある。それ故に、これらのウイルスの感染をいかに予防するかが重要な課題となっている。そして、このような状況の下、様々な抗ウイルス薬の開発が進められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、フェノール誘導体を含有する薬学組成物が記載されている。更に具体的には、特許文献1には、化学合成によって人為的に製造されたn−オクチルガレートが、単純ヘルペスウイルス1型、インフルエンザウイルスAおよびポリオウイルス1型等に対して抗ウイルス効果を示すことが記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているような化学合成によって人為的に製造される抗ウイルス薬は、即効性を示す反面、長期に渡って使用した場合には当該抗ウイルス薬に対して耐性を示すウイルスが発生し易いという問題点を有している。また、上述したような抗ウイルス薬は、主として宿主細胞に感染したウイルスを殺傷することを目的として開発されたものである。このため、このような抗ウイルス薬を使用した場合には、ウイルスのみならずウイルスが感染した宿主細胞まで殺傷してしまい、副作用が生じるという問題点を有している。
【0006】
そこで、化学合成によって人為的に製造された抗ウイルス薬を用いるのではなく、自然界に元々存在する物質群の中から抗ウイルス効果を示す物質をスクリーニングしようという試みがなされている。
【0007】
例えば、特許文献2には、竹の抽出成分であるp−ベンゾキノン誘導体が、抗カビ性、抗菌性および抗ウイルス性を示すことが記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、イネ科植物の抽出成分が、抗菌性および抗ウイルス性を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−306836号公報(2006年11月9日公開)
【特許文献2】特開2003−290613号公報(2003年10月14日公開)
【特許文献3】特開2006−320310号公報(2006年11月30日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、自然界からスクリーニングされた上記従来の抗ウイルス薬は、効果的にウイルスを不活性化することができないという問題点を有している。
【0011】
例えば、特許文献2には、竹の抽出成分であるp−ベンゾキノン誘導体が抗ウイルス性を有することが記載されているが、実施例では、p−ベンゾキノン誘導体の大腸菌O−81に対する増殖抑止効果しか検討されていない。しかしながら、細菌とウイルスとでは増殖等のメカニズムが全く異なるため、細菌に対する増殖抑止効果があったからといって、p−ベンゾキノン誘導体にウイルスを同様に不活性化する効果があると結論付けることは不可能である。
【0012】
また、特許文献3には、イネ科植物の抽出成分が抗ウイルス性を有することが記載されているが、実施例では原虫に対する効果しか検討されていない。原虫とウイルスとは全く異なるものであるため、原虫に対して効果があったからといって、当該抽出成分がウイルスに対しても同様に効果があるか否かはわからない。
【0013】
つまり、上記特許文献2および3のように、従来、抗ウイルス効果を有するとされる天然由来の成分について、抗ウイルス活性が実証されているものはほとんど存在しないといえる。
【0014】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、効果的にウイルスを不活性化することができる抗ウイルス組成物およびその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
モウソウチクの表皮および竹如の抽出物に抗菌効果があることは以前から知られていた(例えば、A. Nishina, K. Hasegawa, et al. :J. Agric. Food Chem. 1991;39:266-269、または、A. Nishina, T. Uchibori, :Agric. Biol. Chem. 1991;55(9):2395-2398参照)。しかしながら、上述したように、竹植物の抽出物が抗ウイルス効果を示すか否かに関しては、全く不明な状況にあった。
【0016】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、水系溶剤によって抽出されるとともに、水に対して溶解性を示す竹抽出物中に抗ウイルス活性が存在することを見出し、本発明を完成させるに至った。さらに、当該竹抽出物は、インフルエンザウイルスのみならず、ネコカリシウイルス(ノロウイルスの近縁種)に対しても幅広い抗ウイルス活性を有するものであることも見出した。
【0017】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【0018】
本発明の抗ウイルス組成物は、上記課題を解決するために、竹抽出物を含有し、当該竹抽出物は、下記の(a)〜(c)の工程を含む方法によって得られる(または得られた、あるいは得られうる)ものであることを特徴としている。つまり、
(a)竹植物を水系溶剤によって抽出することによって抽出液を得る工程;
(b)上記抽出液から上記水系溶剤を除去して乾固物を得る工程;および、
(c)上記乾固物を水に溶解させて水溶性画分を得る工程。
【0019】
本発明の抗ウイルス組成物では、上記(c)工程では、60℃以上の温度の水に上記乾固物を溶解させることが好ましい。
【0020】
本発明の抗ウイルス組成物では、pHが、3.0以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の抗ウイルス組成物では、上記乾固物が、1重量%以上含まれていることが好ましい。
【0022】
本発明の抗ウイルス組成物では、上記竹植物は、イネ科タケ亜科のマダケ属、ナリヒラダケ属、トウチク属、オカメザサ属、ササ属、アズマザサ属、ヤダケ属、メダケ属、カンチク属、ホウライチク属に属する竹または笹であることが好ましい。
【0023】
本発明の抗ウイルス組成物では、上記水系溶剤は、エタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノールまたはn−ブタノールであることが好ましい。
【0024】
本発明の抗ウイルス組成物は、インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルスまたはノロウイルスに対して用いられることが好ましい。
【0025】
本発明のウイルスを不活性化する方法は、上記課題を解決するために、上記抗ウイルス組成物の何れかをウイルスに対して投与する工程を含むことを特徴としている。
【0026】
本発明のウイルスを不活性化するためのキットは、上記課題を解決するために、下記の(a)〜(c)の工程を含む方法によって得られる竹抽出物を備えていることを特徴としている。つまり、
(a)竹植物を水系溶剤によって抽出することによって抽出液を得る工程;
(b)上記抽出液から上記水系溶剤を除去して乾固物を得る工程;および、
(c)上記乾固物を水に溶解させて水溶性画分を得る工程。
【発明の効果】
【0027】
本発明の抗ウイルス組成物は、インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス、ノロウイルス等の多様なウイルスを不活性化することができる。
【0028】
また、本発明の抗ウイルス組成物は、有効成分として天然の竹抽出成分を含むため、被験体に対して非常に安全である。すなわち、本発明であれば、安全性が高く且つ効果的な抗ウイルス組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。尚、本明細書において特記しない限り、数値範囲を示す「A〜B」は、「A以上、B以下」であることを示す。
【0030】
〔1.抗ウイルス組成物〕
本実施形態の抗ウイルス組成物は、有効成分として後述する方法によって得られる竹抽出物を含有するものである。本明細書中において、上記「抗ウイルス」とは、ウイルスを不活性化することが意図され、例えば、ウイルスを傷害することによってウイルスの宿主への感染を抑制することが意図される。したがって、本明細書において「抗ウイルス活性がある」とは、ウイルスの宿主への感染を予防、抑制する活性を有することが意図される。「抗ウイルス活性がある」か否かは、例えば、TCID50法のような従来公知の方法を用いて測定したウイルス感染価を指標として確認することができる。
【0031】
本実施形態の抗ウイルス組成物が不活性化する対象とし得るウイルスは特に限定されないが、例えば、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス、バクロウイルス、ピコナルウイルス、トガウイルス、レトロウイルス、オルトミクソウイルス、パラミクソウイルス、ラブドウイルス、レオウイルス、コロナウイルス、SARSコロナウイルス、エイズウイルス、インフルエンザウイルス、タバコモザイクウイルス、ポチウイルス、コモウイルス、カウリモウイルス、ネコカリシウイルスまたはノロウイルスを挙げることができる。これらの中では、インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス、またはノロウイルスであることが更に好ましいが、これらに限定されない。なお、ネコカリシウイルスは、ノロウイルスの近縁種であって、ノロウイルスの代替ウイルスとして実験に用いられることが多いウイルスである。
【0032】
また、本実施形態の抗ウイルス組成物は、有効成分以外に他の成分(例えば、薬学的に受容可能なキャリア等)を含有してもよい。有効成分以外の他の成分は、本実施形態の抗ウイルス組成物の適用部位や適用形態などに応じて、当業者が適宜設計し得る。本実施形態の抗ウイルス組成物は、単独で使用されても、他の物質または組成物と併用されてもよい。
【0033】
本実施形態の抗ウイルス組成物は竹抽出物を含有するものである。そして、当該竹抽出物は、(a)竹植物を水系溶剤によって抽出することによって抽出液を得る工程と、(b)上記抽出液から上記水系溶剤を除去して乾固物を得る工程と、(c)上記乾固物を水に溶解させて水溶性画分を得る工程と、を含む方法によって得られる。以下に、各工程(a)〜(c)について説明する。
【0034】
(1−1.工程(a))
工程(a)は、竹植物を水系溶剤によって抽出することによって抽出液を得る工程である。
【0035】
上記「竹植物」としては、例えば、イネ科タケ亜科のマダケ属、ナリヒラダケ属、トウチク属、オカメザサ属、ササ属、アズマザサ属、ヤダケ属、メダケ属、カンチク属、ホウライチク属等に属する竹または笹を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。中でも、マダケ属に属するモウソウチク、マダケ、またはハチクであることが好ましく、モウソウチクであることが最も好ましい。
【0036】
竹抽出物の原料としては、上述した竹植物の全体を用いるよりは、当該竹植物の表皮および/または竹如を用いることが更に好ましい。ここで、「竹如」とは、表皮から約0.1〜0.5mmの範囲にあり、緑色をした竹の表皮層と、白またはクリーム色の肉質部との間に位置した黄緑色の部位を指す。竹植物の表皮および竹如には、多くの生理活性物質が含まれている。そして、これらの部位を用いれば、より効率的に、本実施形態の抗ウイルス組成物を作製することができる。
【0037】
なお、茎が細い竹植物の場合には、表皮のみまたは竹如のみを分離することは実用的でない。このため、表皮と竹如と肉質部とを含んだ茎全体、あるいは茎と葉を含めた竹全体を竹抽出物の原料として用いることもできる。
【0038】
工程(a)では、水系溶剤によって上述した竹植物または当該竹植物の部分が抽出される。なお、本明細書において「水系溶剤」とは、水のように極性が高い極性溶剤が意図される。
【0039】
上記水系溶剤の具体的な構成としては特に限定されないが、炭素数1〜4のアルコール、または炭素数1〜4のアルコールと水との混合溶液であることが好ましい。炭素数1〜4のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等を挙げることができる。炭素数1〜4のアルコールは、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。炭素数1〜4のアルコールは、エタノールであることが最も好ましい。上記構成であれば、抗ウイルス効果を示す物質を効果的に抽出することができるとともに、抽出液から容易に水系溶剤を除去することができる。
【0040】
水系溶剤として炭素数1〜4のアルコールと水との混合溶液を用いる場合は、水系溶剤全体におけるアルコールの割合は限定されない。例えば、水系溶剤に含まれるアルコールの割合が、60容量%以上であることが好ましく、80容量%以上であることが更に好ましい。
【0041】
炭素数1〜4のアルコール、または炭素数1〜4のアルコールと水との混合溶液を用いた場合、クロロホルム、酢酸エチル等の非水溶性溶剤またはアセトン等の水溶性溶剤を用いた場合と比較して、得られる竹抽出物における抗ウイルス性に優れている。炭素数1〜4のアルコール、または炭素数1〜4のアルコールと水との混合溶液は、他の溶剤と比較して竹植物繊維組織の中への浸透性がよく、且つ抗ウイルス成分に対して溶解性が高いので、抽出効果を向上させることができる。
【0042】
上記竹植物を水系溶剤によって抽出して抽出液を得る方法としては特に限定されず、適宜公知の方法に基づいて抽出することが可能である。なお、上記抽出液の中には、竹植物の残渣が混入していても混入していなくてもよいが、抗ウイルス組成物のウイルスへの投与のし易さ等を考慮すれば、残渣が混入していない方が好ましいといえる。以下に当該方法の一例を示すが、本発明は、これに限定されない。
【0043】
例えば、竹植物を抽出する方法には、竹植物を水系溶剤に浸漬させる浸漬工程、および、当該浸漬工程の後で抽出液から竹植物の残渣を除去する除去工程が含まれていることが好ましい。
【0044】
上記浸漬工程は、竹植物を水系溶剤中に浸漬する工程である。この工程によって、竹植物(表皮および/または竹如)に含有されている抗ウイルス成分が、竹植物繊維組織から水系溶剤に移動して抽出される。
【0045】
上記浸漬工程を行う温度は特に限定されないが、例えば室温〜70℃で行うことが好ましい。上記浸漬工程を行う時間も特に限定されないが、例えば30分以上行うことが好ましく、1時間〜2時間行うことが更に好ましい。抽出効率を向上させる観点から、浸漬工程は、攪拌しつつ行われることが好ましい。浸漬工程に用いられる水系溶剤の量は、竹植物を完全に浸漬できる量であればよく特に限定されないが、例えば、粉体状の被抽出物100g〜200gであれば、水系溶剤1000mL程度を用いることが好ましいといえる。
【0046】
上記除去工程は、浸漬工程の後に得られる抽出液から、竹植物の残渣を除去する工程である。当該除去工程は抽出液から竹植物の残渣を除去できる工程であればよく、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、フィルターによるろ過または遠心分離等によって、抽出液から竹植物の残渣(換言すれば、不溶物)を除去することができる。こうして得られた抽出液はそのまま次の工程(b)に供されてもよいが、当該抽出液中に例えば活性炭を投入してさらに撹拌した後、ろ過または遠心分離を行って活性炭を除去することによって、竹植物独特の着色成分や臭気成分などの不純物を抽出液からさらに除去することも可能である。
【0047】
上述したように、竹植物を抽出する方法は、浸漬工程および除去工程を含み得るが、浸漬工程の前に、更に水蒸気処理工程および/または断片化工程を含むことが好ましい。以下に、水蒸気処理工程および断片化工程について説明する。
【0048】
上記水蒸気処理工程は、竹植物を水蒸気によって処理する工程であって、当該工程によって、竹植物の硬い繊維組織が分解または膨張される。そして、その結果、抗ウイルス成分の抽出効率を高めることができる。
【0049】
例えば揮発性の物質や蛋白質などが抗ウイルス成分である場合には、熱処理を行えば、その抗ウイルス活性が失われることになる。しかしながら、実施例にて発明者らが明らかにしたように、本実施形態の抗ウイルス組成物は、高温においても安定であって、抗ウイルス効果が損なわれることがない。したがって、当該水蒸気処理工程では、抗ウイルス効果が損なわれることなく、抗ウイルス成分の抽出効果を高めることができる。
【0050】
上記水蒸気処理工程の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、竹植物を耐圧容器に入れ、当該耐圧容器を密封するとともに、その中へ水蒸気を吹き込んで行われることが好ましい。水蒸気処理工程の処理温度は特に限定されないが、例えば、120℃〜180℃であることが好ましく、130℃〜170℃であることが更に好ましい。上記耐圧容器内の圧力は特に限定されないが、例えば、3〜7kg/cm2であることが好ましい。また、水蒸気処理工程の処理時間は特に限定されないが、例えば、30分〜5時間行うことが好ましく、1〜4時間行うことが更に好ましい。当該水蒸気処理工程が終わった後の竹植物は、例えば室温まで冷却された後に、次の工程に供されることが好ましい。
【0051】
上記断片化工程は、竹植物から抗ウイルス成分を抽出し易くするために、竹植物をチップ状または粉末状に断片化する工程である。なお、断片化工程は、水蒸気処理の前に行うことも可能であり、水蒸気処理の後に行うことも可能である。
【0052】
上記断片化工程の具体的な構成としては特に限定されないが、例えば、表皮のみを抽出原料として用いる場合は、円筒研磨機の切削刃に対して、竹を回転させながら接触させ、これによって茎の外周囲部分を研磨することによって達成され得る。竹如のみを抽出原料として用いる場合は、例えば、竹の表皮をはぎ取り、竹如の部位を鉋で削って小片状に切断した後乾燥し、さらに微粉砕機で粉末化することによって達成され得る。
【0053】
以上のようにして得られた抽出液は、次の工程である工程(b)に供される。
【0054】
(1−2.工程(b))
工程(b)は、上記工程(a)で得られた抽出液から上記水系溶剤を除去して乾固物を得る工程である。ここで「乾固物」とは、液体状の水系溶剤が除去されることによって固体化または半固体化した抽出物が意図される。
【0055】
上記工程(b)は、抽出液から水系溶剤を除去し得る工程であればよく、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、減圧溜去法、凍結乾燥法、噴霧乾燥法等を用いることが可能であるが、これらに限定されない。中でも、減圧溜去法または凍結乾燥法を好適に用いることができる。
【0056】
上記構成によれば、本実施形態の抗ウイルス組成物から水系溶剤が除去されるので、生体にとって安全性の高い抗ウイルス組成物を作製することができる。また、上記構成によれば確実に水系溶剤を除去することができるので、後述する工程(c)において、水への溶解性が高い物質を、より選択性高く水に溶解することができる。
【0057】
(1−3.工程(c))
工程(c)は、工程(b)によって得られた乾固物を水に溶解させた後に、水に溶解した画分(水溶性画分)を得る工程である。当該工程(c)によって、水への溶解度が低い物質は、本実施形態の抗ウイルス組成物から除去されることになる。つまり、当該工程(c)によって、本実施形態の抗ウイルス組成物中に含まれる物質を、主として水溶性物質にすることができる。
【0058】
工程(c)は、工程(b)にて得られた乾固物を水に溶解し得る工程であればよく、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、工程(c)は、乾固物に対して水を加えた後、攪拌する工程であることが好ましい。
【0059】
乾固物に対して加える水の量としては特に限定されないが、例えば、乾固物の質量の20倍以上の質量の水を加えることが好ましい。上記構成であれば、水への溶解性が高い乾固物の物質を、確実に水に溶解させることができる。なお、加える水の上限値は特に限定されず、単位体積あたりの抗ウイルス活性が低くなりすぎないように設定すればよい。
【0060】
乾固物に加える水の温度は特に限定されないが、例えば、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることが更に好ましく、80℃以上であることが更に好ましく、85℃以上であることが更に好ましく、90℃以上であることが最も好ましい。換言すれば、工程(c)は、上記温度の水に乾固物を溶解させる工程であることが好ましい。上記構成によれば、抗ウイルス組成物の抗ウイルス活性を上昇させることができる。また、上記構成によれば、高温によって揮発し易い物質を抗ウイルス組成物から除去することができる。また、上記構成によれば、高温によって変性し易い物質を変性させることができる。すなわち、上記構成によれば、抗ウイルス組成物中に含まれる不要な物質の望まれない効果を、抑制することも可能となる。
【0061】
上述したように、乾固物に対して水を加えた後に、当該水・乾固物の混合物を攪拌することが好ましい。上記構成によれば、乾固物に含まれる水溶性物質を、より容易に水に溶解することができる。なお、攪拌は、適宜公知の構成を用いて行えばよい。
【0062】
工程(c)は、得られた水・乾固物の混合物から非水溶性物質(換言すれば、不溶性物質)を除去する工程を含んでいることが更に好ましい。当該工程の具体的な構成としては特に限定されないが、例えば、ろ過または遠心分離によって水・乾固物の混合物から非水溶性物質を除去することが好ましい。上記構成によれば、本実施形態の抗ウイルス組成物中に含まれる物質を、主として水溶性物質にすることができる。換言すれば、抗ウイルス組成物から、抗ウイルス活性と関連の無い非水溶性物質を除去することができるので、本実施形態の抗ウイルス組成物の抗ウイルス効果を上昇させることができる。また、上記構成によれば、非水溶性物質が除去されるので、本実施形態の抗ウイルス組成物を生体等へ投与し易くなる。
【0063】
以上のようにして得られた竹抽出物は、そのまま本実施形態の抗ウイルス組成物として用いることも可能であるし、他の物質を加えた後に本実施形態の抗ウイルス組成物として用いることも可能である。
【0064】
本実施形態の抗ウイルス組成物は、pH3.0以下であることが好ましく、pH2.5以下であることが更に好ましい。上記構成であれば、pHを調整しない場合と比較して、抗ウイルス組成物の抗ウイルス活性をより向上させることができる。
【0065】
抗ウイルス組成物のpHを調節する方法としては特に限定されないが、例えば、pHを酸性に調節し得る緩衝液を竹抽出物に対して加えることによって行うことが好ましい。上記緩衝液としては特に限定されないが、例えば、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、酒石酸緩衝液、または乳酸緩衝液であることが好ましい。上記構成によれば、容易かつ安定に、抗ウイルス組成物のpHを所望の値に調節することができる。なお、生体等への毒性が低く、且つ取り扱いが容易であるという観点からは、上記緩衝液の中では、クエン酸緩衝液または乳酸緩衝液が好ましいといえる。
【0066】
本実施形態の抗ウイルス組成物は、上記乾固物を1重量%以上含有することが好ましく、2重量%以上含有することが更に好ましく、3重量%以上含有することが更に好ましく、4重量%以上が含有することが更に好ましく、5.0%以上含有することが最も好ましい。上記構成であれば、効果的にウイルスを不活性化することができる。なお、上述した工程(c)では、このような濃度になるように乾固物に対して水を加えることが好ましいといえる。
【0067】
以上のようにして、本実施形態の抗ウイルス組成物を作製することができる。
【0068】
なお、実施例(例えば、実験例6参照)でも示しているように、本実施の形態の抗ウイルス組成物は、p−ベンゾキノン誘導体単独よりも抗ウイルス効果が高い。従って、本実施の形態の抗ウイルス組成物は、新規の抗ウイルス成分を含んだものであると考えられる。
【0069】
また、一般的に、薬剤を用いてウイルスを不活性化する場合には、ウイルスがエンベロープを有するか否かによって薬剤に対する感受性が異なると考えられている。具体的には、エンベロープは薬剤によって比較的簡単に破壊されるため、インフルエンザウイルスのようなエンベロープを有するウイルスは不活性化されやすい傾向があり、ノロウイルスのようなエンベロープを有さないウイルスはインフルエンザウイルスに比べて不活性化されにくいと考えられている。しかしながら、実施例にも明確に示していることではあるが、本発明の抗ウイルス組成物であれば、このような多様なウイルスを不活性化することができる。
【0070】
本実施形態の抗ウイルス組成物は、竹抽出成分を主成分として含むため、被験体(例えば、ウイルスの宿主など)に対して非常に安全である。このため、本実施形態の抗ウイルス組成物は、被検体に対して経口的に投与されてもよいし、非経口的に投与されてもよい。勿論、本実施形態の抗ウイルス組成物は、ウイルスに対して直接投与されてもよい。
【0071】
本実施形態の抗ウイルス組成物は、非経口的に皮膚または粘膜に投与するための外用剤であることが好ましい。ここで、上記「外用剤」は、皮膚または粘膜に投与されるものが意図され、皮膚としては、顔、首、胸、背中、腕、脚、手、および頭皮の皮膚などが意図され、粘膜としては、鼻腔内粘膜、口腔内粘膜などが意図される。
【0072】
外用剤としては、固体、半固体または液状の製剤などが挙げられ、例えば、軟膏剤(例えば油性軟膏、親水性軟膏など)、乳濁剤(例えば乳液、ローションなど)などとして提供され得る。さらに、外用剤は、エアロゾルの形態であってもよい。
【0073】
本実施形態の抗ウイルス組成物は、いわゆる薬浴に用いられてもよく、この場合は液状製剤の形態であることが好ましい。また、全身に容易に塗布するために、本実施形態の抗ウイルス組成物は、乳濁剤の形態であることが好ましい。
【0074】
軟膏剤は、その基剤成分として、例えば、脂肪類、多価アルコール、炭化水素等が使用され得、界面活性剤等が添加され得る。過酸化水素による抗菌活性をも利用するためには、軟膏剤は親水性であることが好ましいが、本発明はこれに限定されない。尚、油性軟膏としては、油性基剤をベースとするもの、油/水、水/油型の乳化系基剤をベースとするもののいずれであってもよい。上記油性基剤としては、特に限定されず、例えば、植物油、動物油、合成油、脂肪酸、および天然または合成のグリセライド等が挙げられる。
【0075】
また、本実施形態の抗ウイルス組成物は、例えば、ハサミ、メス、カテーテル等の医療器具の消毒液または洗浄液としても用いることができる。
【0076】
〔2.ウイルスを不活性化する方法〕
本実施形態のウイルスを不活性化する方法は、上述した本発明の抗ウイルス組成物をウイルスに対して投与する工程を含んでいる。
【0077】
本発明の抗ウイルス組成物をウイルスに対して投与する方法は特に限定されず、抗ウイルス組成物を直接ウイルスへ投与してもよく、抗ウイルス組成物をウイルスの宿主へ投与してもよい。なお、上記宿主としては特に限定されず、生物の個体であってもよく、生物の組織であってもよく、細胞であってもよい。
【0078】
例えば、本発明の抗ウイルス組成物が液状製剤の形態であれば、塗布、噴霧、吸引等によって被験体の皮膚または粘膜に投与してもよく、本発明の抗ウイルス組成物が軟膏剤の形態であれば、塗布等によって被験体の皮膚または粘膜に投与してもよいが、本発明は、これらに限定されない。
【0079】
本実施形態のウイルスを不活性化する方法は、上述した工程以外の工程を含んでいてもよい。これらの工程の具体例としては特に限定されないが、例えば、不活性化されなかったウイルスの数および種類を検出する工程などを挙げることが可能であるが、これらに限定されない。なお、不活性化されなかったウイルスの数および種類を検出する工程は、適宜公知の方法に従って行うことが可能である。
【0080】
〔3.ウイルスを不活性化するためのキット〕
本実施形態のウイルスを不活性化するためのキットは、竹抽出物を備えていることを特徴としている。尚、上記「竹抽出物」の具体的な構成については、上記「1.抗ウイルス組成物」で説明したとおりであるので、ここでは省略する。
【0081】
本実施形態のキットは、竹抽出物以外にも、例えば、竹抽出物を溶解するための溶媒等の他の成分が備えられていてもよい。本実施形態のキットは、竹抽出物や他の成分を同一の容器に混合して備えられていてもよいし、別々の容器に備えられていてもよい。また上記キットを構成する成分を格納するための1つ以上の容器(例えば、バイアル、管、アンプル、ビン等)を含んでいてもよい。また、本実施形態のキットを使用するための指示書を備えていてもよい。
【0082】
本実施形態のキットは、上述したように竹抽出物を備えている。そのため、本実施形態のキットを用いれば、ウイルスを簡便に不活性化することができる。
【0083】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0084】
実施例においてモウソウチク抽出水の濃度を表す%は、溶解させる精製水の重量に対する乾固物の重量の割合(重量%)を表している。また、それぞれの試験は独立して3回行い、再現性を確認した。
【0085】
〔1.モウソウチク抽出水の調製〕
(1)モウソウチクの表皮および竹如を、円筒研磨機(製品名:SKC−10、アミテック(株))を用いて研磨して研磨粉を集めた。研磨粉の粒径は約355μm(42メッシュ)以下であった。
(2)モウソウチクの研磨粉30gを、抽出溶剤200gに浸漬し、室温〜60℃で3時間以上攪拌した。抽出溶剤としては、エタノールを用いた。
(3)上記工程(2)で得られた浸漬液を、遠心分離法によって固液分離して、残渣を取り除いた。
(4)上記工程(3)で得られたエタノール抽出溶液からエタノールを減圧溜去し、ペースト状の乾固物(モウソウチク抽出物)を得た。
(5)上記工程(4)で得られた乾固物5.00gに精製水100gを加え、85℃に加温しながら1時間攪拌して乾固物を完全に溶解し、乾固物5%溶液を得た。
(6)上記工程(5)で得られた溶液を室温まで冷却した後、遠心分離(3000rpm,10分)を行い、更に、遠心分離によって得られた上清を0.45μmメンブレンフィルター(製品名:Minisart、Sartorius Stedim biotech社製)を用いてろ過して、モウソウチク抽出水を得た。
【0086】
得られたモウソウチク抽出水は、黄色透明の液体であり、pH3.8〜4.2、比重1.000(15℃)であった。得られたモウソウチク抽出水において、モウソウチク抽出物の主成分である2,6−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノンの含有量をHPLCによって分析したところ、30μg/mlであった。
【0087】
HPLCの分析条件を以下に示す。
【0088】
カラム:直径6.0mm、長さ200mmのステンレス管にシアノプロピル化学結合型シリカゲルが充填されたもの(横浜理化株式会社製ERC CN−1171)
移動相:ヘキサン/エタノール混合溶液(容積比49:1)
検出波長:286nm。
【0089】
〔2.ネコカリシウイルスに対する効果試験〕
試験品として、上記で得られたモウソウチク抽出水を用いた。ノロウイルスは培養方法が確立されていないため、米国環境保護局推奨のノロウイルスの近縁種であるネコカリシウイルス(F9株)を用いてモウソウチク抽出水の効果を調べた。
【0090】
まず、培養用ボトルにおいて、DMEM(F10)を用いてネコ腎臓細胞(CRFK細胞)を単層培養した。ボトル内の培養液を除去し、ネコカリシウイルス(FCV)を接種し、37℃で1時間、ネコ腎臓細胞に吸着させた。接種液を除去し、FCS Free DMEMを加え、37℃、CO2インキュベーター(5%CO2)内でネコ腎臓細胞を5日間培養した。細胞変性効果(CPE)を顕微鏡下で確認後、培養用ボトルを2回凍結融解し、遠心分離(2,500rpm,5min)した。得られた上清をさらに遠心分離(15,000rpm,20min)し、粗精製ウイルス液とした。得られた粗精製ウイルス液を30%スクロースに重層後、遠心分離(35,000rpm,4℃,1.5hr)し、上清を除去した。沈渣を滅菌水に再浮遊させ、精製ウイルス液とした。
【0091】
試験方法の詳細を以下に示す。
【0092】
(1)ネコカリシウイルスを0.1%牛血清アルブミン(BSA)を含む滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて10倍に希釈した。
【0093】
(2)CRFK細胞の浮遊液(2.5×105cell/ml)0.1mlを96穴マイクロプレート(300μl/well)の各ウエルに播種し、37℃のCO2インキュベーターにて一晩培養した。培養後、培養液を取り除き、MEM(F0)(和光純薬製)を0.2ml/wellずつ添加してCRFK細胞のリンスを2回行い、さらに、培養液0.2ml/wellを各ウエルに加えて、宿主細胞の単層培養プレートとした。
【0094】
(3)試験品(モウソウチク抽出水)0.9mlとウイルス液0.1mlとを試験管内で混合し、25℃で一定時間反応させた。陰性対照としては、試験品の代わりに滅菌PBSを用いて同様の試験を行った。
【0095】
(4)試験品−ウイルス混合液を、抗生物質を含む滅菌MEM(F1)培地を用いて10倍、100倍、1000倍・・・と10倍段階希釈し、これら各希釈液0.1mlを上記工程(2)で調製した宿主細胞に接種した(各希釈段階について4ウエルずつ接種した)。
【0096】
(5)上記工程(4)でウイルスを接種したプレートを、37℃のCO2インキュベーターにて5日培養した後、CRFK細胞の変性を顕微鏡で観察してウイルスの増殖の有無を確認した。そして、反応液中の50%組織培養感染量(50% tissue culture infectious dose:TCID50)を、Reed and Muenchらの方法(Am. J. Hyg., 27, 493−497, 1938を参照)に基づいて算出した。
【0097】
〔3.鳥インフルエンザウイルスに対する効果試験〕
試験品として、上記で得られたモウソウチク抽出水を用いた。鳥インフルエンザウイルスとして、H5N3型の鳥インフルエンザウイルス(A/whistling swan/Shimane/499/83)を用いた。この鳥インフルエンザウイルスは、1983年に島根県において野生のコハクチョウから分離されたウイルスである。
【0098】
上記ウイルスを10日齢発育鶏卵の漿尿膜腔に接種し、37℃で2日間培養後、無菌的に回収した漿尿液をウイルス液として試験に用いた。
【0099】
試験方法の詳細を以下に示す。
(1)鳥インフルエンザウイルスを滅菌PBSを用いて10倍に希釈し、次工程におけるウイルス液として用いた。
(2)試験品0.5mlとウイルス液0.5mlとを試験管内で混合し、室温で一定時間反応させた。陰性対照として試験品の代わりに滅菌蒸留水を用いて同様の試験を行った。
(3)試験品−ウイルス混合液を、抗生物質を含む滅菌PBSを用いて10倍、100倍、1000倍・・・と10倍段階希釈し、そのうち0.1mlを10日齢発育鶏卵の漿尿膜腔内に接種した(各希釈段階につき5個ずつ接種した)。
(4)発育鶏卵を37℃で2日間培養した後、赤血球凝集(HA)試験(Server, J. L.: Application of microtechnique to viral serological investigations. J. Immunol., 88: 320-329を参照)により漿尿膜腔でのウイルス増殖の有無を確認した。また、反応液中の50%発育鶏卵感染量(50% egg-infectious dose:EID50)をReed and Muenchらの方法(Am. J. Hyg., 27, 493−497, 1938を参照)を用いて算出した。
【0100】
(実験例1)
上記〔1.モウソウチク抽出水の調製〕にて得られた5%モウソウチク抽出水(pH4.0)を用いて、ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性の有無を確認した。モウソウチク抽出水とウイルス液との反応時間は24時間、反応温度は25℃とした。結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1に示すように、5%モウソウチク抽出水(pH4.0)とウイルス液とを混合して24時間反応させた後のウイルス感染価を調べたところ、ウイルス感染価は検出限界以下となった。一方、陰性対照として5%モウソウチク抽出水(pH4.0)の代わりに滅菌PBSを用いた場合は、ネコカリシウイルスの感染が認められた。
【0103】
(実験例2)
モウソウチク抽出水のpHが、ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性に及ぼす影響を調べた。乾固物の濃度が5%のモウソウチク抽出水を用い、モウソウチク抽出水のpHは、クエン酸緩衝液を用いて調整した。また、モウソウチク抽出水とウイルス液との反応時間は30分、反応温度は25℃とした。陰性対照として、モウソウチク抽出水の代わりにpH3.0のクエン酸緩衝液または滅菌PBSを用いた。結果を表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
表2に示すように、pH3.0以下のモウソウチク抽出水を用いた場合に強い抗ウイルス効果が認められた。陰性対照としてpH3.0のクエン酸緩衝液を用いた場合は、ネコカリシウイルスの感染が認められたことから、抗ウイルス効果はモウソウチク抽出水に由来するものであるといえる。一般に消毒用アルコール製剤はpHを下げることでネコカリシウイルスに対して抗ウイルス効果があるとされているが、モウソウチク抽出水と併用することでさらに強い抗ウイルス活性が得られることが推察された。
【0106】
(実験例3)
ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性を発揮するためのモウソウチク抽出水における乾固物の最適濃度を調べた。モウソウチク抽出水は、pH3.0に調整した。また、モウソウチク抽出水とウイルス液との反応時間は30分、反応温度は25℃とした。結果を表3に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
乾固物の濃度1%の場合も、陰性対照と比べてネコカリシウイルスに対する抗ウイルス効果が認められた。また、乾固物の濃度5%の場合に、ウイルス感染価は検出限界以下となった。
【0109】
(実験例4)
ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性を発揮するためのモウソウチク抽出水の最適な作用時間を調べた。5%モウソウチク抽出水(pH3.0)を用いた。陰性対照としてモウソウチク抽出水の代わりに滅菌PBSを用い、滅菌PBSとウイルス液とを0.5分〜30分間反応させた。モウソウチク抽出水とウイルス液との反応温度は25℃とした。結果を表4に示す。
【0110】
【表4】
【0111】
表4に示すように、モウソウチク抽出水とウイルス液とを30分間作用させた時に、ウイルス感染価は検出限界以下となった。
【0112】
(実験例5)
乾固物を精製水に溶解するときの温度がネコカリシウイルスに対する抗ウイルス効果に与える影響を調べた。濃度5%、pH3.0となるように乾固物を精製水に溶解した。モウソウチク抽出水とウイルス液との反応時間は30分、反応温度は25℃とした。結果を表5に示す。
【0113】
【表5】
【0114】
乾固物を精製水に90℃で溶解した時、感染価は検出限界以下まで低下した。これは、高温の精製水に乾固物を溶解することによって、乾固物に含まれている難水溶性の有効成分が水に溶けやすくなり、且つ高温によって揮発し易い物質が除去されたり高温によって変性し易い物質が変性したりすることによって乾固物に含まれている不要な物質の望まれない効果が抑制されるためであると考えられた。
【0115】
(実験例6)
モウソウチク抽出水には主成分として2,6−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノンが含まれている。そして、当該2,6−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノンが、抗ウイルス効果を示す成分である可能性がある。そこで、化合物2,6−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノン(以下、「DMBQ」と略す)とモウソウチク抽出水とについて、ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス効果を比較した。モウソウチク抽出水としては、乾固物濃度5%のものを用いた。モウソウチク抽出水またはDMBQ溶液のpHは3.0とし、ウイルス液との反応時間は30分間、反応温度は25℃とした。結果を表6に示す。
【0116】
【表6】
【0117】
5%モウソウチク抽出水には30μg/mlの濃度のDMBQが含まれている。しかし、表6に示すように、同濃度のDMBQ溶液を用いた場合のウイルス感染価と比較して、5%モウソウチク抽出水の方がより強い抗ウイルス活性を示した。これは、モウソウチク抽出水に含まれるDMBQと共に、その他の物質も抗ウイルス活性を有していることを示している。
【0118】
(実験例7)
pHを調製していない5%モウソウチク抽出水を用いて、鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス活性の有無を確認した。結果を表7に示す。
【0119】
【表7】
【0120】
表7に示すように、pHを調製していない5%モウソウチク抽出水と鳥インフルエンザウイルスとを2時間反応させることで、ウイルス感染価が検出限界以下となるまで鳥インフルエンザウイルスを不活化することができた。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、人体に対しても非常に安全であり、且つ優れた抗ウイルス活性を有している。従って、本発明は医薬品、衛生用品の分野において利用可能である。更に具体的には、抗ウイルス薬、消毒薬等として利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
竹抽出物を含有し、当該竹抽出物は、下記の(a)〜(c)の工程を含む方法によって得られるものであることを特徴とする抗ウイルス組成物:
(a)竹植物を水系溶剤によって抽出することによって抽出液を得る工程;
(b)上記抽出液から上記水系溶剤を除去して乾固物を得る工程;および
(c)上記乾固物を水に溶解させて水溶性画分を得る工程。
【請求項2】
上記(c)工程において、60℃以上の温度の水に上記乾固物を溶解させることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項3】
pHが、3.0以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項4】
上記乾固物が、1重量%以上含まれていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項5】
上記竹植物は、イネ科タケ亜科のマダケ属、ナリヒラダケ属、トウチク属、オカメザサ属、ササ属、アズマザサ属、ヤダケ属、メダケ属、カンチク属、ホウライチク属に属する竹または笹であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項6】
上記水系溶剤は、エタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノールまたはn−ブタノールであることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項7】
インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルスまたはノロウイルスに対して用いられることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項8】
ウイルスを不活性化する方法であって、
請求項1〜7の何れか1項に記載の抗ウイルス組成物をウイルスに対して投与する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
ウイルスを不活性化するためのキットであって、
下記の(a)〜(c)の工程を含む方法によって得られる竹抽出物を備えていることを特徴とするキット:
(a)竹植物を水系溶剤によって抽出することによって抽出液を得る工程;
(b)上記抽出液から上記水系溶剤を除去して乾固物を得る工程;および
(c)上記乾固物を水に溶解させて水溶性画分を得る工程。
【請求項1】
竹抽出物を含有し、当該竹抽出物は、下記の(a)〜(c)の工程を含む方法によって得られるものであることを特徴とする抗ウイルス組成物:
(a)竹植物を水系溶剤によって抽出することによって抽出液を得る工程;
(b)上記抽出液から上記水系溶剤を除去して乾固物を得る工程;および
(c)上記乾固物を水に溶解させて水溶性画分を得る工程。
【請求項2】
上記(c)工程において、60℃以上の温度の水に上記乾固物を溶解させることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項3】
pHが、3.0以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項4】
上記乾固物が、1重量%以上含まれていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項5】
上記竹植物は、イネ科タケ亜科のマダケ属、ナリヒラダケ属、トウチク属、オカメザサ属、ササ属、アズマザサ属、ヤダケ属、メダケ属、カンチク属、ホウライチク属に属する竹または笹であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項6】
上記水系溶剤は、エタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノールまたはn−ブタノールであることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項7】
インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルスまたはノロウイルスに対して用いられることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項8】
ウイルスを不活性化する方法であって、
請求項1〜7の何れか1項に記載の抗ウイルス組成物をウイルスに対して投与する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
ウイルスを不活性化するためのキットであって、
下記の(a)〜(c)の工程を含む方法によって得られる竹抽出物を備えていることを特徴とするキット:
(a)竹植物を水系溶剤によって抽出することによって抽出液を得る工程;
(b)上記抽出液から上記水系溶剤を除去して乾固物を得る工程;および
(c)上記乾固物を水に溶解させて水溶性画分を得る工程。
【公開番号】特開2011−46636(P2011−46636A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195721(P2009−195721)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「日本食品化学学会第15回 総会・学術大会 講演要旨集」発行日 平成21年5月21日 発行所 日本食品化学学会事務局
【出願人】(304049075)株式会社タケックス・ラボ (8)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「日本食品化学学会第15回 総会・学術大会 講演要旨集」発行日 平成21年5月21日 発行所 日本食品化学学会事務局
【出願人】(304049075)株式会社タケックス・ラボ (8)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】
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