説明

抗ピロリ菌剤の探索方法

【課題】選択性の高い抗ピロリ菌剤を提供する。
【解決手段】Helicobacter pyloriに存在する新規メナキノン生合成経路上のアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素は、H. pyloriに特異的に存在する新規化合物であるアミノデオキシフタロシンを基質とするが、フタロシンを基質としないので、アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素を特異的に阻害する物質を選択することにより、H. pyloriの生育を特異的に阻害する物質を効率よく見出すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)の新規メナキノン生合成経路の中間体である新規化合物、該化合物と該化合物を特異的基質とする酵素を用いた、抗ピロリ菌活性を有する化合物の選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メナキノンの生合成は大腸菌や枯草菌では芳香族アミノ酸であるフェニルアラニン、チロシン、トリプトファンの生合成経路(シキミ酸経路)の中間体であるコリスミ酸を出発物質としてo-succinylbenzoateを経由する8段階の反応により生成することが知られている(図1、A)。
これに対して最近、メナキノンの生合成経路としては上記の既知経路以外に全く新しい別の生合成経路が存在することが報告されている(特許文献1)。この新規経路では、既知経路同様にコリスミ酸を出発物質とするが、その後全く別経路でメナキノンが生合成される。第一段階は、例えば放線菌Streptomyces coelicolorの遺伝子番号(locus tag)SCO4506の酵素(MqnA)やそのオルソログにより触媒され、詳細はまだ未解明であるが、コリスミ酸、ホスホエノールピルビン酸あるいはその類縁体、イノシンあるいはその類縁体からフタロシン(futalosine)が生成する。次いで、S. coelicolorの遺伝子番号SCO4327の酵素futalosine hydrolase(MqnB, EC 3.2.2.26)やそのオルソログが、フタロシンを脱ヒポキサンチン化し、デヒポキサンチニルフタロシン dehypoxanthinylfutalosine(以下、DHFLと略す場合がある)に変換する。DHFLは、S. coelicolorの遺伝子番号SCO4550の酵素(MqnC)やそのオルソログによりサイクリックデヒポキサンチンフタロシン(cyclic DHFL)へと変換され、次いでS. coelicolorの遺伝子番号SCO4326の酵素(MqnD)やそのオルソログにより、1,4-ジヒドロキシ-6-ナフトエ酸(1,4-dihydroxy-6-naphthoate)へと変換される。本化合物以降の生合成経路に関する報告例はないが、恐らく既知経路と同様にプレニル転移酵素、2-デメチルメナキノン メチル基転移酵素の触媒作用により最終的にメナキノンが生成すると考えられる(図1、B)。
【0003】
上記新規経路の酵素遺伝子群の各塩基配列をクエリーとして、遺伝情報データベースに対してこれらの配列を持っている生物を検索し生物中での分布を調べた結果、当該遺伝子群を有する生物群の中にヘリコバクター、カンピロバクター、クラミジア等一部の病原性菌や食中毒原因菌が含まれることが明らかとなった。
【0004】
上記の病原菌や食中毒菌に対して抗菌作用を示す薬剤はマクロライド系のクラリスロマイシンやセファム系のアモキシシリン等いくつか知られているが、抗菌スペクトルが広く、ほとんどの微生物に対して作用を示し有用な腸内細菌まで死滅させてしまうことから、選択性の高い薬剤が望まれている。メナキノンは、微生物にとって生育に必須であることから、新規メナキノン生合成経路の特異的阻害剤は、上記の病原菌や食中毒菌に対してより特異的抗菌薬剤として有用と考えられる。
しかしながら、最近、細菌の培養を必要としないメタゲノム解析により、健康な日本人の腸内細菌叢のゲノムDNAが解析された結果、約80%の細菌種がいまだ未解析(未発見)であることが報告されている(非特許文献1)。よって、腸内細菌叢に影響を与えず、上記の病原菌や食中毒菌に対してより特異的な抗菌剤の開発が望まれている。
【0005】
Helicobacter pyloriのlocus tag HP0089の塩基配列は知られているが(非特許文献2)、その機能は不明とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-114124号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】DNA Research, 2007, 14:169-181
【非特許文献2】Nature, 1997, 388: 539-547
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、病原菌や食中毒菌に対して、より特異的な抗菌剤の探索方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、Helicobacter pyloriが持つメナキノンの新規生合成経路の2番目の生合成中間体はフタロシンではなく、フタロシンのイノシンがアデニンに置き換わったアミノデオキシフタロシンであることを見い出した。さらに、H. pyloriにおいて、アミノデオキシフタロシンに作用し、アデニンとDHFLとを生成する酵素(アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素)であるMqnBオルソログ(locus tag HP0089にコードされる)は、フタロシンには全く作用せず、アミノデオキシフタロシンにのみ特異的に作用することがわかった。これらの知見に基づいて、本発明者らは当該酵素を阻害する化合物をスクリーニングすることにより、抗ピロリ菌剤の探索が可能であることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は以下の(1)〜(5)に関する。
(1)以下の式(I)で表される化合物。
【0011】
【化1】

【0012】
(2)式(I)で表される化合物、アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素、及び被検物質を水性媒体中で接触させ、該水性媒体中に生成するアデニン、またはdehypoxanthinylfutalosine(DHFL)の量を測定し、被検物質の中からアデニンまたはDHFLの生成を抑制する物質を選択することを特徴とする抗ピロリ菌活性を有する化合物の選択方法。
(3)アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素が、Helicobacter pylori 由来の蛋白質である上記(2)記載の方法。
(4)アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素が、以下の[1]〜[3]のいずれかに記載の蛋白質である、上記(2)の方法。
[1]配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質
[2]配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が欠失、置換、または付加したアミノ酸配列からなり、かつアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性を有する蛋白質
[3]配列番号2で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有し、かつアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性を有する蛋白質
(5)被検物質が、新規メナキノン生合成経路(MqnA、MqnB、MqnCおよびMqnDの酵素群を含む経路)を有するバチルス属に属する微生物の生育を阻害し、かつ従来のメナキノン生合成経路(MenF、MenD、MenC、MenE、MenB、MenAおよびMenGの酵素群を含む経路)を有するバチルス属に属する微生物の生育を阻害しない物質である、上記(2)〜(4)のいずれかに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は微生物における2種のメナキノン生合成経路を示す図である。Aは、既知のメナキノン合成経路、Bは新規なメナキノン合成経路を表す。
【図2】図2は、アミノデオキシフタロシンの合成反応スキームを示すものである。図2のa〜jの工程の反応条件は、以下のとおりである。(a) 2,2-dimethoxypropane, acetone, p-toluenesulfonic acid, 室温, over night(b) (1) trimethylsilyl chloride, pyridine, 室温, 30分; (2) Benzoyl chloride, 室温, 3時間(c) N'N'-dicyclohexylcarbodiimide, P2O5, DMSO, 室温, 24時間(d) MeOH, H2SO4, 室温, over night(e) CuBr2, EtOAc, reflex, 3時間(f) triphenylphosphine, benzene, 室温, over night(g) pyridine, 室温, 24時間(h) Pd/C, 室温, 3-7日間(i) MeOH, K2CO3, 室温, over night(j) 90% aq. TFA, 室温, 3時間
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.本発明の化合物
本発明の化合物であるメナキノンの新規生合成経路の中間体であるアミノデオキシフタロシンの合成及び構造決定等は、以下のように行うことができる。
(1)アミノデオキシフタロシンの合成
アデノシンを出発物質とし、アセトナイド化・ジベンゾエート化によって5'位の水酸基以外の官能基を保護した2',3'-O,O-Isopropylidene-6-N,N-dibenzoyladenosineを合成する(図2、(2)の化合物)。この化合物をPfitzner-Moffatt酸化にてアルデヒド化し、m-acetylbenzoic acidを出発物質としたWittig試薬(methyl-3-triphenylphosphoranylidene acetylbenzoate)と反応を行う。その後Wittig縮合で生じた二重結合を還元し、脱保護反応を行うことで式(II)に示されるアミノデオキシフタロシンを合成することができる。
本発明の化合物を合成するために用いる方法は、有機化学の一般的技術を適用できるものであり、適宜反応条件等を変更することも可能である。
【0015】
【化2】

【0016】
アミノデオキシフタロシンが生成したことの確認は、例えば以下の物理化学的性質を有していることを、公知の方法、および機器を用いて行うことができる。
性状:白色粉末
分子式:C19H20N5O6
分子量:obsd. 414.1397, calcd. 414.1414
溶解性:水に可溶、クロロホルム、ヘキサンに難溶である。
【0017】
【表1】

【0018】
2.本発明の方法で用いられるアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素
本発明の方法で用いられるアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素は、アミノデオキシフタロシンをアデニンとdehypoxanthinylfutalosine(DHFL)に分解する活性を有する限り特に限定されないが、フタロシンを基質として利用できないものであることが好ましく、より好ましくは、H. pylori由来のアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素、さらに好ましくは以下の[1]〜[3]のいずれかに記載の蛋白質、
[1]配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質
[2]配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が欠失、置換、または付加したアミノ酸配列からなり、かつアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性を有する蛋白質
[3]配列番号2で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有し、かつアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性を有する蛋白質
をあげることができる。
また、Epsilonproteobacteria属に属する非病原性のSulfurimonas denitrificans、Sulfurospirillum deleyianumNitratiruptor属細菌、Sulfurovum属細菌、またはNautilia属細菌由来のアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素も本発明の選択方法に用いることができる。
【0019】
上記[2]の、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性を有する蛋白質は、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)(以下、モレキュラー・クローニング第3版と略す)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)、Nucleic Acids Research, 10, 6487 (1982)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409(1982)、Gene, 34, 315 (1985)、Nucleic Acids Research, 13, 4431 (1985)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985)等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、例えば配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNAに部位特異的変異を導入することにより、取得することができる。
欠失、置換または付加されるアミノ酸残基の数は1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個である。
配列番号1で表されるアミノ酸配列において1〜20個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたとは、同一配列中の任意の位置において、1個または複数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されていてもよい。
【0020】
アミノ酸残基の欠失または付加が可能なアミノ酸の位置としては、例えば配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末端側およびC末端側の10アミノ酸残基をあげることができる。
【0021】
欠失、置換または付加は同時に生じてもよく、置換または付加されるアミノ酸は天然型と非天然型とを問わない。天然型アミノ酸としては、L−アラニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−アルギニン、L−グルタミン、L−グルタミン酸、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン、L−システインなどがあげられる。
以下に、相互に置換可能なアミノ酸の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸は相互に置換可能である。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、O-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸
C群:アスパラギン、グルタミン
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸
E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン
F群:セリン、スレオニン、ホモセリン
G群:フェニルアラニン、チロシン
【0022】
また、アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性を有する蛋白質としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる蛋白質であり、かつアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性を有する蛋白質をあげることができる。
【0023】
アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST [Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993)] やFASTA [Methods Enzymol., 183, 63 (1990)] を用いて決定することができる。このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXとよばれるプログラムが開発されている[J. Mol. Biol., 215, 403(1990)]。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメータは例えばScore=100、wordlength=12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=50、wordlength=3とする。gapped alignmentを得るために、Altschulら (1997, Nucleic Acids Res. 25:3389-3402) に記載されるようにGapped BLASTを利用することができる。あるいは、PSI-BlastまたはPHI-Blastを用いて、分子間の位置関係(Id.)および共通パターンを共有する分子間の関係を検出する繰返し検索を行うことができる。BLAST、Gapped BLAST、PSI-Blast、およびPHI-Blastプログラムを利用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメータを用いることができる(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.参照)。
【0024】
本発明においてアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性とは、アミノデオキシフタロシンをアデニンとDHFLとに分解する活性をいう。
【0025】
本発明の選択方法に用いられる上記[2]または[3]の蛋白質が、アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性を有する蛋白質であることを確認する手段としては、例えばDNA組換え法を用いて該蛋白質を発現する形質転換体を作製し、該形質転換体を用いて該蛋白質を精製した後、該精製蛋白質とアミノデオキシフタロシンを水性媒体中に存在せしめ、該水性媒体中にアデニンまたはDHFLが生成、蓄積するか否かをHPLC-マススペクトル解析により、アデニンに関しては市販の標品を用いて、DHFLに関しては公知の方法(特開2008-11854)で調製可能な標品を用いて確認することができる。
【0026】
3.アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素の製造方法
アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素は、該酵素をコードするDNAで形質転換した細胞を用いて製造することができる。該DNAとしては、
[4]配列番号1で表される塩基配列を有するDNA、
[5]配列番号1で表される塩基配列と80%以上の同一性を有する塩基配列を有し、かつアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA、および
[6]配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA、
をあげることができる。
【0027】
ここでいう「ハイブリダイズする」とは、特定の塩基配列を有するDNAまたは該DNAの一部にDNAがハイブリダイズする工程である。したがって、該特定の塩基配列を有するDNAまたは該DNAの一部の塩基配列は、ノーザンまたはサザンブロット解析のプローブとして有用であるか、またはPCR解析のオリゴヌクレオチドプライマーとして使用できる長さのDNAであってもよい。ノーザンまたはサザンブロット解析のプローブとして用いるDNAとしては、少なくとも100塩基以上、好ましくは200塩基以上、より好ましくは500塩基以上のDNAをあげることができ、オリゴヌクレオチドプライマーとして用いられるDNAとしては少なくとも10塩基以上、好ましくは15塩基以上のDNAをあげることができる。
【0028】
DNAのハイブリダイゼーション実験の方法はよく知られており、例えばモレキュラー・クローニング第2版、第3版(2001年)、Methods for General and Molecular Bacteriology, ASM Press(1994)、Immunology methods manual, Academic press(Molecular)に記載の他、多数の他の標準的な教科書に従ってハイブリダイゼーションの条件を決定し、実験を行うことができる。
【0029】
上記のストリンジェントな条件とは、例えばDNAを固定化したフィルターとプローブDNAとを50% ホルムアミド、5×SSC(750 mMの塩化ナトリウム、75 mmol/Lのクエン酸ナトリウム)、50 mmol/Lのリン酸ナトリウム(pH 7.6)、5×デンハルト溶液、10%の硫酸デキストラン、および20 μg/Lの変性させたサケ精子DNAを含む溶液中で42℃で一晩、インキュベートした後、例えば約65℃の0.2×SSC溶液中で該フィルターを洗浄する条件をあげることができるが、より低いストリンジェント条件を用いることもできる。ストリンジェントな条件の変更は、ホルムアミドの濃度調整(ホルムアミドの濃度を下げるほど低ストリンジェントになる)、塩濃度および温度条件の変更により可能である。低ストリンジェント条件としては、例えば6×SSCE(20×SSCEは、3 mol/Lの塩化ナトリウム、0.2 mol/Lのリン酸二水素ナトリウム、0.02 mol/LのEDTA、pH 7.4)、0.5%のSDS、30%のホルムアミド、100 μg/Lの変性させたサケ精子DNAを含む溶液中で、37℃で一晩インキュベートした後、50℃の1×SSC、0.1% SDS溶液を用いて洗浄する条件をあげることができる。また、さらに低いストリンジェントな条件としては、上記した低ストリンジェント条件において、高塩濃度(例えば5×SSC)の溶液を用いてハイブリダイゼーションを行った後、洗浄する条件をあげることができる。
【0030】
ハイブリダイゼーション実験のバックグラウンドを抑えるために用いるブロッキング試薬を添加、または変更することにより、上記した様々な条件を設定することもできる。上記したブロッキング試薬の添加には、条件を適合させるために、ハイブリダイゼーション条件の変更を伴ってもよい。
【0031】
上記したストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAとしては、例えば上記したBLASTおよびFASTA等のプログラムを用いて、上記パラメータに基づいて計算したときに、上記した[4]に記載のDNAの塩基配列と少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有するDNAをあげることができる。
塩基配列の同一性は、上記したBLASTまたはFASTA等のプログラムを用いて決定することができる。
【0032】
上記したDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが、アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性を有する蛋白質をコードするDNAであることは、該DNAを発現する組換え体DNAを作製し、該組換え体DNAを宿主細胞に導入して得られる形質転換体を培養して得られる培養物から該蛋白質を精製し、該精製蛋白質とアミノデオキシフタロシンを水性媒体中に存在せしめ、該水性媒体中にアデニンまたはDHFLが生成、蓄積するか否かをHPLC等により分析する方法によって確認することができる。
【0033】
上記したアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素を生産する形質転換体としては、アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素を生産することができる限り、形質転換体であれば特に限定されないが、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の蛋白質を発現する形質転換体、および上記[4]〜[6]のいずれかに記載のDNAを含む組換え体DNAを用い、宿主細胞を公知の方法で形質転換して得られる形質転換体をあげることができる。宿主細胞としては、細菌等の原核生物をあげることができ、好ましくはエシェリヒア(Escherichia)属に属する微生物をあげることができる。
【0034】
アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素をコードするDNAは、配列番号1で表される塩基配列に基づき設計することができるプローブやプライマーを用い、Helicobacter属に属する微生物、好ましくはHelicobacter pylori、より好ましくはH. pylori 26695株の染色体に対するサザンハイブリダイゼーション、または染色体を鋳型としたPCR [PCR Protocols, Academic Press (1990)] 等の手法により取得することができる。
【0035】
また、各種の遺伝子配列データベースに対して配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有する配列を検索し、該検索によって得られた塩基配列に基づき、該塩基配列を有する生物の染色体DNA、cDNAライブラリー等から上記した方法により本発明の製造法に用いられるDNAを取得することもできる。
【0036】
取得したDNAをそのまま、あるいは適当な制限酵素などで切断し、常法によりベクターに組み込み、得られた組換え体DNAを宿主細胞に導入した後、通常用いられる塩基配列解析方法、例えばジデオキシ法[Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 74, 5463 (1977)] あるいはABI3700DNAアナライザー(アプライド・バイオシステムズ社製)等の塩基配列分析装置を用いて分析することにより、該DNAの塩基配列を決定することができる。
塩基配列を決定した結果、取得されたDNAが部分長であった場合は、該部分長DNAをプローブに用いた、染色体DNAライブラリーに対するサザンハイブリダイゼーション法等により、全長DNAを取得することができる。
【0037】
更に、決定されたDNAの塩基配列に基づいて、パーセプティブ・バイオシステムズ社製8905型DNA合成装置等を用いて化学合成することにより目的とするDNAを調製することもできる。
【0038】
上記のようにして取得されるDNAとして、例えば、配列番号1で表される塩基配列を有するDNAをあげることができる。
【0039】
アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素をコードするDNAを組み込むベクターとしては、pBluescriptII KS(+)(ストラタジーン社製)、pDIRECT [Nucleic Acids Res., 18, 6069 (1990)]、pCR-Script Amp SK(+)(ストラタジーン社製)、pT7Blue(ノバジェン社製)、pCR II(インビトロジェン社製)およびpCR-TRAP(ジーンハンター社製)などをあげることができる。
【0040】
宿主細胞としては、エシェリヒア属に属する微生物などをあげることができる。エシェリヒア属に属する微生物としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli) XL1-Blue、エシェリヒア・コリ XL2-Blue、エシェリヒア・コリ DH1、エシェリヒア・コリMC1000、エシェリヒア・コリ ATCC 12435、エシェリヒア・コリ W1485、エシェリヒア・コリ JM109、エシェリヒア・コリ HB101、エシェリヒア・コリ No.49、エシェリヒア・コリ W3110、エシェリヒア・コリ NY49、エシェリヒア・コリ MP347、エシェリヒア・コリ NM522、エシェリヒア・コリ BL21、エシェリヒア・コリ ME8415等をあげることができる。
【0041】
アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素を発現する組換え体DNAの作製は、例えば以下のように行うことができる。まず該酵素蛋白質をコードするDNAをもとにして、必要に応じて、蛋白質をコードする部分を含む適当な長さのDNA断片を調製する。また、該蛋白質をコードする部分の塩基配列を、宿主の発現に最適なコドンとなるように、塩基を置換することにより、該蛋白質の生産率が向上した形質転換体を取得することができる。
該DNA断片を適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、組換え体DNAを作製する。
【0042】
該組換え体DNAを、該発現ベクターに適合した宿主細胞に導入することにより、アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素を生産する形質転換体を得ることができる。
発現ベクターとしては、上記宿主細胞において自律複製可能ないしは染色体中への組込みが可能で、本発明のDNAを転写できる位置にプロモーターを含有しているものが用いられる。
【0043】
形質転換体の取得に用いる組換え体DNAは、原核生物中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、ペプチド合成活性を有する蛋白質をコードするDNA、転写終結配列より構成された組換え体DNAであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0044】
発現ベクターとしては、pBTrp2、pBTac1、pBTac2、pHelix1(いずれもロシュ・ダイアグノスティクス社製)、pKK233-2(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)、pSE280(インビトロジェン社製)、pGEMEX-1(プロメガ社製)、pQE-8(キアゲン社製)、pET-3(ノバジェン社製)、pKYP10(特開昭58-110600)、pKYP200 [Agric. Biol. Chem., 48,669 (1984)]、pLSA1 [Agric. Biol. Chem., 53, 277 (1989)]、pGEL1 [Proc. Natl. Acad.Sci., USA, 82, 4306 (1985)]、pBluescriptII SK(+)、pBluescript II KS(-)(ストラタジーン社製)、pTrS30 [エシェリヒア・コリ JM109/pTrS30(FERM BP-5407)より調製]、pTrS32 [エシェリヒア・コリ JM109/pTrS32(FERM BP-5408)より調製]、pPAC31 (WO98/12343)、pUC19 [Gene, 33, 103 (1985)]、pSTV28(タカラバイオ社製)、pUC118(タカラバイオ社製)、pPA1(特開昭63-233798)等を例示することができる。
【0045】
プロモーターとしては、エシェリヒア・コリ等の宿主細胞中で機能するものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、PLプロモーター、PRプロモーター、PSEプロモーター等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーター、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等をあげることができる。またPtrpを2つ直列させたプロモーター、tacプロモーター、lacT7プロモーター、let Iプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。
【0046】
さらにバチルス属に属する微生物中で発現させるためのxylAプロモーター[Appl. Microbiol. Biotechnol., 35, 594-599 (1991)]やコリネバクテリウム(Corynebacterium)属に属する微生物中で発現させるためのP54-6プロモーター[Appl. Microbiol. Biotechnol., 53, 674-679 (2000)]なども用いることができる。
【0047】
また、リボソーム結合配列であるシャイン−ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6〜18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。
【0048】
アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素をコードするDNAを発現ベクターに結合させた組換え体DNAにおいては、転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
【0049】
宿主細胞としては、細菌等の原核生物であればいずれも用いることができる。原核生物としては、エシェリヒア属、バチルス属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリウム属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、セラチア(Serratia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、アリシクロバチルス(Alicyclobacillus)属、アナベナ(Anabena)属、アナシスティス(Anacystis)属、アースロバクター(Arthrobacter)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、クロマチウム(Chromatium)属、エルビニア(Erwinia)属、メチロバクテリウム(Methylobacterium)属、フォルミディウム(Phormidium)属、ロドバクター(Rhodobacter)属、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属、ロドスピリウム(Rhodospirillum)属、セネデスムス(Scenedesmus)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、シネコッカス(Synechoccus)属、ザイモモナス(Zymomonas)属等に属する微生物、例えば、エシェリヒア・コリXL1-Blue、エシェリヒア・コリ XL2-Blue、エシェリヒア・コリ DH1、エシェリヒア・コリ DH5α、エシェリヒア・コリ MC1000、エシェリヒア・コリ KY3276、エシェリヒア・コリ W1485、エシェリヒア・コリ JM109、エシェリヒア・コリ HB101、エシェリヒア・コリ No.49、エシェリヒア・コリ W3110、エシェリヒア・コリ NY49、エシェリヒア・コリ MP347 、エシェリヒア・コリ NM522、エシェリヒア・コリ BL21、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis) ATCC33712、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)、ブレビバクテリウム・イマリオフィルム(Brevibacterium immariophilum) ATCC14068、ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum) ATCC14066、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum) ATCC14067、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum) ATCC13869、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum) ATCC13032、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14297、コリネバクテリウム・アセトアシドフィルム(Corynebacterium acetoacidophilum)ATCC13870、ミクロバクテリウム・アンモニアフィルム(Microbacterium ammoniaphilum) ATCC15354、セラチア・フィカリア(Serratia ficaria)、セラチア・フォンチコラ(Serratia fonticola)、セラチア・リケファシエンス(Serratia liquefaciens)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)D-0110、アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)、アグロバクテリウム・リゾジーンズ(Agrobacterium rhizogenes)、アグロバクテリウム・ルビ(Agrobacterium rubi)、アナベナ・シリンドリカ(Anabaena cylindrica)、アナベナ・ドリオルム(Anabaena doliolum)、アナベナ・フロスアクア(Anabaena flos-aquae)、アースロバクター・オーレッセンス(Arthrobacter aurescens)、アースロバクター・シトレウス(Arthrobacter citreus)、アースロバクター・グロブフォルミス(Arthrobacter globformis)、アースロバクター・ヒドロカーボグルタミカス(Arthrobacter hydrocarboglutamicus)、アースロバクター・ミソレンス(Arthrobacter mysorens)、アースロバクター・ニコチアナ(Arthrobacter nicotianae)、アースロバクター・パラフィネウス(Arthrobacter paraffineus)、アースロバクター・プロトフォルミエ(Arthrobacter protophormiae)、アースロバクター・ロセオパラフィナス(Arthrobacter roseoparaffinus)、アースロバクター・スルフレウス(Arthrobacter sulfureus)、アースロバクター・ウレアファシエンス(Arthrobacter ureafaciens)、クロマチウム・ブデリ(Chromatium buderi)、クロマチウム・テピダム(Chromatium tepidum)、クロマチウム・ビノサム(Chromatium vinosum)、クロマチウム・ワーミンギ(Chromatium warmingii)、クロマチウム・フルビアタティレ(Chromatium fluviatile)、エルビニア・ウレドバラ(Erwinia uredovora)、エルビニア・カロトバラ(Erwinia carotovora)、エルビニア・アナス(Erwinia ananas)、エルビニア・ヘリコラ(Erwinia herbicola)、エルビニア・パンクタタ(Erwinia punctata)、エルビニア・テレウス(Erwinia terreus)、メチロバクテリウム・ロデシアナム(Methylobacterium rhodesianum)、メチロバクテリウム・エクソトルクエンス(Methylobacterium extorquens)、フォルミディウム・エスピー(Phormidium sp.)ATCC29409、ロドバクター・カプスラタス(Rhodobacter capsulatus)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、ロドシュードモナス・ブラスチカ(Rhodopseudomonas blastica)、ロドシュードモナス・マリナ(Rhodopseudomonas marina)、ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)、ロドスピリウム・リブラム(Rhodospirillum rubrum)、ロドスピリウム・サレキシゲンス(Rhodospirillum salexigens)、ロドスピリウム・サリナラム(Rhodospirillum salinarum)、ストレプトマイセス・アンボファシエンス(Streptomyces ambofaciens)、ストレプトマイセス・オーレオファシエンス(Streptomyces aureofaciens) 、ストレプトマイセス・アウレウス(Streptomyces aureus)、ストレプトマイセス・フンジシディカス(Streptomyces fungicidicus)、ストレプトマイセス・グリセオクロモゲナス(Streptomyces griseochromogenes)、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans、ストレプトマイセス・オリボグリセウス(Streptomyces olivogriseus)、ストレプトマイセス・ラメウス(Streptomyces rameus)、ストレプトマイセス・タナシエンシス(Streptomyces tanashiensis)、ストレプトマイセス・ビナセウス(Streptomyces vinaceus)、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)等をあげることができる。
【0050】
組換え体DNAの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法[Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69, 2110 (1972)]、プロトプラスト法(特開昭63-248394)、エレクトロポレーション法[Nucleic Acids Res., 16, 6127 (1988)]等をあげることができる。
【0051】
また、アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性を有する蛋白質をコードするDNAを染色体DNAの任意の位置に組み込むことにより、アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性を有する蛋白質を発現する形質転換体を取得することもできる。
アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性を有する蛋白質をコードするDNAを微生物の染色体DNAの任意の位置に組み込む方法としては、相同組換えを利用した方法をあげることができ、宿主、すなわち親株としてE. coliを用いる場合にはProc. Natl. Acad. Sci. U S A., 97, 6640 (2000) に記載の方法をあげることができる。
【0052】
アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素は、上記の方法で得られる形質転換体を培地に培養し、培養物から該蛋白質を単離することにより取得することができる。
【0053】
形質転換体の培養は、該形質転換体が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、該形質転換体の培養を効率的に行える天然培地または合成培地を用いて培養することができる。
炭素源としては、該微生物が資化し得るものであればよく、グルコース、フラクトース、スクロース、キシロース、アラビノースこれらを含有する糖蜜、セルロース系バイオマスの糖化液、グリセロール、デンプンあるいはデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類等を用いることができる。
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕および大豆粕加水分解物、各種発酵菌体、およびその消化物等を用いることができる。
無機塩としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を用いることができる。
【0054】
培養は、通常振盪培養または深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行う。培養温度は15〜40℃がよく、培養時間は、通常5時間〜7日間である。培養中pHは3.0〜9.0に保持する。pHの調整は、無機または有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行う。
また、培養中必要に応じて、アンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0055】
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターを有する形質転換体を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターを有する形質転換体を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターを有する形質転換体を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0056】
組換えアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素蛋白質の生産方法としては、宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、あるいは宿主細胞外膜上に生産させる方法があり、選択した方法に応じて、生産させる蛋白質の構造を変えることができる。
アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素蛋白質が、生来宿主細胞内あるいは宿主細胞外膜上に生産される場合、ポールソンらの方法 [J. Biol. Chem.,264, 17619 (1989)]、ロウらの方法 [Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 86, 8227 (1989) 、Genes Develop., 4, 1288(1990)]、または特開平05-336963、WO94/23021等に記載の方法を準用することにより、該蛋白質を宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。
すなわち、遺伝子組換えの手法を用いて、該蛋白質の活性部位を含む蛋白質の手前にシグナルペプチドを付加した形で生産させることにより、該蛋白質を宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。
【0057】
また、特開平2-227075に記載されている方法に準じて、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等を用いた遺伝子増幅系を利用して生産量を上昇させることもできる。
【0058】
該形質転換体を用いて製造された上記2のアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性を有する蛋白質を単離・精製する方法としては、通常の酵素の単離、精製法を用いることができる。
例えば、該蛋白質が、細胞内に溶解状態で生産された場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液にけん濁後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。
該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、通常の酵素の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等レジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、精製標品を得ることができる。
【0059】
また、上記2の蛋白質が細胞内に不溶体を形成して生産された場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより得られた沈殿画分より、通常の方法により該蛋白質を回収後、該蛋白質の不溶体を蛋白質変性剤で可溶化する。
該可溶化液を、蛋白質変性剤を含まないあるいは蛋白質変性剤の濃度が蛋白質が変性しない程度に希薄な溶液に希釈、あるいは透析し、該蛋白質を正常な立体構造に構成させた後、上記と同様の単離精製法により精製標品を得ることができる。
【0060】
上記2の蛋白質が細胞外に分泌された場合には、培養上清に該蛋白質またはその糖付加体等の誘導体を回収することができる。
即ち、該培養物を上記と同様の遠心分離等の手法により処理することにより可溶性画分を取得し、該可溶性画分から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0061】
このようにして取得される蛋白質として、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質をあげることができる。
【0062】
また、上記2の蛋白質を他の蛋白質との融合蛋白質として生産し、融合した蛋白質に親和性をもつ物質を用いたアフィニティークロマトグラフィーを利用して精製することもできる。例えば、ロウらの方法 [Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 86, 8227 (1989) 、Genes Develop., 4, 1288 (1990)]、特開平5-336963、WO94/23021に記載の方法に準じて、上記2の蛋白質をプロテインAとの融合タンパク質として生産し、イムノグロブリンGを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。
また、上記2の蛋白質をFlagペプチドとの融合蛋白質として生産し、抗Flag抗体を用いるアフィニティークロマトグラフィー [Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 86, 8227 (1989) 、Genes Develop., 4, 1288(1990)] や、ポリヒスチジンとの融合蛋白質として生産し、ポリヒスチジンと高親和性を有する金属配位レジンを用いるアフィニティークロマトグラフィーによって精製することもできる。更に、該蛋白質自身に対する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製することもできる。
【0063】
上記で取得された蛋白質のアミノ酸配列情報を基に、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法により、本発明の蛋白質を製造することができる。また、Advanced ChemTech社、パーキン・エルマー社、Pharmacia社、Protein Technology Instrument社、Synthecell-Vega社、PerSeptive社、島津製作所等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。
【0064】
4.本発明の抗ピロリ菌剤の選択方法
本発明のアミノデオキシフタロシンを利用した、ピロリ菌に対する選択性の高い抗菌剤の選択方法としては、アミノデオキシフタロシン、アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素、及び被検物質を水性媒体中で接触させ、該水性媒体中に生成するアデニン、またはDHFLの量を測定し、被検物質の中からアデニンまたはDHFLの生成を抑制する物質をアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素の阻害剤活性がある物質として選択する方法をあげることができる。
【0065】
被検物質としては、人工的に合成されたもの、天然物のどちらであっても良く、人工的に合成されたものとしては、アミノデオキシフタロシンの構造類似物質が好ましい。
【0066】
被検物質として用いられるアミノデオキシフタロシンの構造類似物質の設計は、アミノデオキシフタロシンを構成する元素を置き換えた化合物、例えば炭素を酸素への置き換え(-CH2-を-O-等)、窒素を炭素への置き換え(-NH-を-CH2-等)、窒素を酸素への置き換え(-NH-を-O-等)、これらの逆の置換等、実施可能な全ての元素置換を含む。また、官能基の置換や導入、例えば、メチレン基((-CH2-)の水酸化(-CHOH-)、アミノ化(-CHNH2-)、カルボニル化(-CO-)、水素のメチル基への置換、等を行ってもよい。このような構造類似化合物を適当な方法、例えば化学合成や微生物変換等、任意の方法で調製しスクリーニングに供する。
【0067】
反応液中の酵素の量としては、基質1 mgあたり0.01-100 mg、好ましくは0.1 mg-10 mgをあげることができる。
被検物質の濃度としては、0.001-10000 μg/ml、好ましくは0.002-1000 μg/mlをあげることができる。
【0068】
水性媒体は、被検物質を含まない状態において酵素反応を阻害しないものであれば、いずれの水性媒体であってもよく、例えば水、リン酸緩衝液、ほう酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液などをあげることがでる。
また、水性媒体中にはアルコール類、ケトン類などの有機溶媒が含まれていてもよい。
【0069】
反応時間は、1-30分間、好ましくは2-15分間、より好ましくは3-10分間をあげることができ、反応温度としては、酵素活性が維持できる限りにおいて限定されないが、20-45℃、好ましくは30-40℃、より好ましくは37℃をあげることができる。
【0070】
生成するアデニンおよびDHFLは、逆相クロマトグラフィー等で測定することができる。
抗ピロリ菌活性を有する化合物は、比較対象である被検物質を含まない反応液に比べ、アデニンおよびDHFLの生成量が少ない被検物質を選択することにより行うことができる。
【0071】
ピロリ菌に特異性の高い抗菌剤を提供するという本発明の目的に照らせば、被検物質は従来公知のメナキノン生合成経路(MenF、MenD、MenC、MenE、MenB、MenAおよびMenGの酵素群を含む経路)を阻害しないものであることが望ましい。また、最近発見された新規メナキノン生合成経路(MqnA、MqnB、MqnCおよびMqnDの酵素群を含む経路)、特にMqnBを阻害する物質は、アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素も阻害し得る可能性がある。従って、新規メナキノン生合成経路を有するバチルス属に属する微生物の生育を阻害し、かつ従来のメナキノン生合成経路を有するバチルス属に属する微生物の生育を阻害しない化合物を被検物質とすることにより、従来のメナキノン生合成経路を有する微生物の生育に影響を与えることなく、H. pyloriに対して抗菌活性を示す化合物を効率的に選択することができる。
したがって、本発明はまた、新規メナキノン生合成経路を有するバチルス属に属する微生物、および従来のメナキノン生合成経路を有するバチルス属に属する微生物と被検物質とをそれぞれ接触させ、新規メナキノン生合成経路を有するバチルス属に属する微生物を阻害し、かつ従来のメナキノン生合成経路を有するバチルス属に属する微生物の生育を阻害しない被検物質を選択した後、選択された被検物質を、アミノデオキシフタロシンおよびアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素と水性媒体中で接触させ、上記と同様に水性媒体中に生成するアデニンまたはDHFL量を測定することによる、抗ピロリ菌活性を有する化合物の選択方法を提供する。
新規メナキノン生合成経路を有するバチルス属に属する微生物としては、例えば、Basillus clausiiBacillus haloduransなどをあげることができる。一方、従来のメナキノン生合成経路を有するバチルス属に属する微生物としては、Bacillus subtilisなどをあげることができるが、それらに限定されるものではない。これらのバチルス属に属する微生物は非病原性であるため、H. pylori等の病原性微生物に比べて安全かつ取り扱いが容易であるので、被検物質の一次スクリーニング系としての利用に適している。
【0072】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例で示した遺伝子組換え実験は、特に言及しない限りモレキュラー・クローニング第2版、およびPractical Streptomyces Genetics, T. Kieser et al., The John Innes Foundation, Norwichに記載の方法(以下、常法と呼ぶ)を用いて行った。
【実施例1】
【0073】
アミノデオキシフタロシンの合成、及び構造決定
アミノデオキシフタロシンの合成スキームは、図2に示す通りであり、以下の化合物名と番号は図2と一致するものである。
(a)2’,3’-O-isopropylidene adenosine (1) の合成
アデノシン(1 g, 3.7 mmol)、2,2-ジメトキシプロパン(1.5 g, 14.8 mmol)を入れてアセトン(70 mL)に溶かし、p-トルエンスルホン酸(1.4 g, 7.4 mmol)を加えて室温にて一晩攪拌した。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウムで中和、エバポレーターにて有機層を蒸発させ、クロロホルムで抽出した。その後メタノールによる再結晶を行い、白色針状結晶を得た。収率79%。
分子式:C13H17N5O4
1H-NMR(400 MHz, CD3Cl)δ(ppm):8.29 (s, 1H), 7.81 (s, 1H), 6.53 (d, J = 11.5 Hz, 1H), 5.93 (br s, 2H), 5.83 (d, J = 4.9 Hz, 1H), 5.19 (t, J= 5.3 Hz, 1H), 5.09 (dd, J = 5.3 Hz, 1.0 Hz, 1H), 4.52 (m, 1H), 3.95 (m, 2H), 3.77(m, 1H), 1.62 (s, 3H) , 1.35 (s, 3H)
【0074】
(b)2',3'-O,O-Isopropylidene-N6,N6-dibenzoyladenosine (2)の合成
(1)をピリジンに溶かして5モル等量のTMS-Clを加え、室温で30分攪拌した。その後2.6モル等量の塩化ベンゾイルを加え室温で3時間攪拌した後、塩化ベンゾイルの半分の容積ほどの水を加え、エバポレーターにて有機層を蒸発させた。クロロホルムを添加し、冷やした2 N 硫酸水と飽和炭酸水素ナトリウム水で分液し、さらに水で洗浄、シリカゲルカラム(CHCl3:MeOH=50:1)にて単離した。収率75%。
分子式:C27H25N5O6
1H-NMR(400 MHz, CD3Cl)δ(ppm):8.50 (s, 1H), 8.06 (s, 1H), 7.79 (d, J = 7.2 Hz, 4H), 7.43 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 7.30 (m, 4H), 5.87 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 5.19 (m, 1H), 5.04 (t, J = 3.0 Hz), 4.48 (m, 1H), 3.80 (m, 2H), 3.73(m, 1H), 1.58 (s, 3H) , 1.32 (s, 3H)
【0075】
(c)(3)の合成
200 mL容ナス型フラスコに凍結乾燥法で乾燥させた(2) 1g をモレキュラーシーブス4Aにて乾燥させたDMSO(15 mL)に溶かし、1 mMの無水リン酸(1.5 mL)を加え、凍結乾燥法で乾燥させたDCC(3.4 g, 16.25 mmol)を加えて24時間撹拌した。生産物は不安定なため、反応終了後の反応液はTLCにて反応進行を確認後、そのまま次の段階へと用いた。
【0076】
(d)methyl 3-acetylbenzoate (4) の合成
200 mL容ナス型フラスコに3-アセチル安息香酸(5 g, 30.5 mmol)を入れてメタノール(70 mL)に溶かし、濃硫酸(0.3 mL)を加えて一晩還流した。反応終了後、反応液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にて中和、減圧濃縮したのち水で薄めてから酢酸エチルで3回抽出、有機層を減圧乾固して白色の針状結晶を得た。収率93.2%。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.56 (m, 1H, Ar2H), 8.20 and 8.13 (2ddd, 2H, Ar4 and Ar6H), 7.53 (ddd, 1H, Ar5H), 3.93 (s, 3H, COOMe), 2.63 (s, 3H, COMe)
13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ(ppm): 197.4(s), 167.5(s),166.5(s), 137.5(s), 134.1(d), 132.5(d), 130.9(s), 129.8(d), 129.1(d), 52.6(q), 27.0(q)
C10H11O3 by TOF-MS 179.0703 [M+H]+ (calcd. 179.0708)
IR (KBr) cm-1= 1700
【0077】
(e)methyl 3-bromoacetylbenzoate (5) の合成
200 mL容ナス型フラスコに3-アセチル安息香酸メチル((4), 1 g, 5.62 mmol)、臭化銅(II)(2.5 g, 11.2 mmol; 2 eq.)を入れて酢酸エチル(50 mL)に溶かし3時間還流した。反応終了後、析出した沈殿をろ過し、ろ液を水で洗浄した。有機層は減圧乾固し白色固体を得た。収率90.4%。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.61 (m, 1H, Ar2H), 8.28 and 8.19 (2ddd, 2H, Ar4 and Ar6H), 7.60 (ddd, 1H, Ar5H), 4.49 (s, 2H, CH2Br), 3.97 (s, 3H, COOMe)
13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ(ppm): 190.5(s), 165.9(s), 135.0(s), 134.6(d), 132.9(d), 130.8(s), 129.9(d), 129.1(d), 52.5(q), 30.7(q)
IR (KBr) cm-1 = 1700
【0078】
(f)methyl 3-(triphenylphosphoranylidene)acetyl benzoate (6) の合成
200 mL容ナス型フラスコにトリフェニルホスフィン(M.W. = 262)(1 g, 3.82 mmol; ca. 1 eq.)を入れ、モレキュラーシーブス3Aにて乾燥させたベンゼン(5 mL)に溶かした。それに、同じく乾燥させたベンゼン(5 mL)に溶かした3-ブロモアセチル安息香酸メチル((5), 1 g, 3.89 mmol)を入れ、禁水条件下・室温で一晩撹拌した。反応終了後、反応液をろ過し、白紫色の沈殿を得た。沈殿は水:メタノール=1:1混液に溶かし、0.5 N 水酸化ナトリウム水溶液で中和し、生じる濁りが消えなくなってから10分間撹拌した。これを減圧濃縮し、酢酸エチルにて抽出、有機層を減圧乾固して黄色粉末を得た。収率89.5%。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ(ppm): 9.01-7.50 (m, 19H, 4Ar), 6.53 (d, J = 12 Hz, 1H, CH), 3.90 (s, 3H, COOMe)
C28H24O3P by TOF-MS 439.1462 [M+H]+ (calcd. 439.1463)
【0079】
(g)(7) の合成
(c)の反応フラスコにピリジン(1 mL)を加え、(6)(850 mg, 1.63 mmol; 0.5 eq.)を入れて一晩撹拌した。反応終了後、反応液をセライトろ過してDCUを除去し、ろ液を酢酸エチルで希釈し、氷水、1 N 塩酸水溶液、飽和食塩水にて洗浄した。分液中生じる沈殿はセライトろ過にて除去した。有機層は無水硫酸ナトリウムで乾燥させ減圧濃縮、ヘキサン:酢酸エチル=1:2を移動溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで単離した。収率24%。(TLCはヘキサン:酢酸エチル=2:5で、Rf 0.66)。
分子式:C37H31N5O8
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.60 (1.0H, s), 8.47 (1.0H, t, J = 1.69 Hz), 8.20 (1.0H, dt, J = 7.77, 1.39 Hz), 8.15 (1.0H, s), 7.95 (1.1H, dt, J = 7.83, 1.46 Hz), 7.81 (5.0H, dd, J = 8.33, 1.19 Hz), 7.52-7.47 (1.2H, m), 7.45 (2.3H, ddd, J = 9.91, 5.06, 2.18 Hz), 7.32 (5.0H, t, J = 7.73 Hz), 7.10 (1.0H, dd, J = 15.42, 5.01 Hz), 7.01 (1.0H, dd, J = 15.46, 1.29 Hz), 6.21 (1.0H, d, J = 2.28 Hz), 5.50 (1.0H, dd, J = 6.34, 2.28 Hz), 5.15 (1.0H, dd, J = 6.34, 3.97 Hz), 4.94 (1.0H, t, J = 3.97 Hz), 3.91 (3.0H, s), 1.65 (3.2H, s), 1.40 (3.2H, s)
13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ: 188.7, 172.1, 166.1, 152.4, 152.2, 144.0, 143.5, 137.4, 133.9, 133.1, 132.7, 130.8, 130.0, 129.6, 129.4, 129.0, 128.8, 128.4, 127.9, 127.7, 125.8, 115.3, 90.6, 86.3, 84.0, 83.8, 52.4, 29.7, 27.2, 25.4
【0080】
(h)(8) の合成
縮合物(7) 1 gに対して100 mlのエタノールで溶解し、25 mgのPtO2を添加し、Parrの水素添加装置で4 atmにて3日振盪し、その後セライト濾過とエバポレーターによって乾固した。収率65%
分子式:C37H33N5O8
1H-NMR (CDCl3) δ(ppm): 8.64 (0.9H, s), 8.54 (1.0H, t, J = 1.54 Hz), 8.20 (1.0H, dt, J = 7.73, 1.44 Hz), 8.12 (1.0H, s), 8.07 (0.9H, dt, J = 7.83, 1.51 Hz), 7.83 (3.9H, dd, J = 8.33, 1.29 Hz), 7.50 (1.0H, t, J = 7.78 Hz), 7.45 (2.2H, tt, J = 7.44, 1.42 Hz), 7.33 (4.2H, t, J = 7.73 Hz), 6.06 (1.0H, d, J = 2.68 Hz), 5.45 (1.0H, dd, J = 6.54, 2.68 Hz), 4.89 (1.0H, dd, J = 6.54, 4.06 Hz), 4.32-4.28 (1.0H, m), 3.92 (3.1H, s), 3.19-3.04 (2.0H, m), 2.28-2.10 (2.0H, m), 1.59 (3.1H, s), 1.37 (3.1H, s)
13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ(ppm): 197.9, 172.2, 166.2, 152.4, 152.1, 144.0, 136.9, 134.0, 134.0, 133.0, 132.1, 130.7, 130.1, 129.5, 129.1, 128.9, 128.7, 128.4, 128.0, 115.1, 90.4, 85.9, 83.9, 52.4, 34.4, 27.3, 27.2, 25.4
【0081】
(i)(8)の脱ベンゾイル体である(9) の合成
(8) に90%メタノール水を加え、(8) 1 gに対してK2OCO3815mgを加え、室温にて一昼夜攪拌した。その後エバポレーターにて乾固し、LH-20(MeOH)にて単離した。収率38%。
1H-NMR (400MHz, CD3OD) δ(ppm): 8.42 (1.0H, d, J = 1.19 Hz), 8.16 (1.0H, s), 8.09 (1.1H, s), 8.04 (1.0H, dd, J = 7.53, 1.19 Hz), 7.82 (1.0H, dd, J = 7.93, 1.19 Hz), 7.34 (1.0H, t, J = 7.73 Hz), 6.03 (1.0H, t, J = 1.19 Hz), 5.41-5.39 (1.0H, m), 4.87 (0.9H, dd, J = 6.34, 3.57 Hz), 4.18 (1.0H, dd, J = 10.31, 6.74 Hz), 3.04 (2.0H, td, J = 6.84, 2.64 Hz), 2.04-1.98 (2.0H, m), 1.47 (3.0H, s), 1.27 (3.1H, s)
13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ(ppm): 201.2, 173.3, 157.3, 154.0, 150.3, 141.8, 138.6, 137.8, 134.9, 130.9, 130.1, 129.3, 120.5, 115.8, 91.0, 87.2, 85.4, 85.2, 35.5, 28.8, 27.5, 25.6
【0082】
(j)アミノデオキシフタロシンの合成
(9) を10% TFA水に溶解させ、室温にて4時間攪拌した。その後エバポレーターで濃縮し、再結晶した場合はそれを濾過して単離した。再結晶しなかった場合は乾固させてLH-20(MeOH)にて単離した。収率43%。
【実施例2】
【0083】
H. pyloriのHP0089の発現
大腸菌を宿主細胞に用い、以下のとおりHP0089を発現させた。
まず、H. pyloriのゲノム情報(GenBank accession No. AE000511.1)に基づき、HP0089の5’側のプライマー (配列番号3で表される塩基配列からなるDNA) および3’側のプライマー (配列番号4で表される塩基配列からなるDNA) を作製した。市販のH. pylori HB8株染色体DNA(宝酒造社製、Code 3071)を鋳型として、これらプライマーと、TaKaRa LA-PCRTM Kit Ver.2 (宝酒造社製)、ExpandTM High-Fidelity PCR System (ロシュ社製) またはTaq DNA polymerase(Promega社製)を用い、DNA増幅装置 (MJ Research社製) でPCRを行った。PCRは、95℃で30秒間、60℃で1分間、72℃で2分間からなる反応工程を1サイクルとして、30サイクル行った後、72℃で10分間反応させる条件で行った。
PCR終了後、増幅断片をBamHIとPstIで切断し、アガロースゲル電気泳動後、約700 bpのDNA断片を精製、取得した。上記で取得したDNA断片を、BamHIとPstIで切断したpUC118ベクターと混合した後、エタノール沈殿を行い、得られたDNA沈殿物を5 μlの蒸留水に溶解し、ライゲーション反応を行うことにより組換え体DNAを取得した。
該組換え体DNAを用い、E. coli DH5α株(東洋紡より購入)を常法に従って形質転換後、該形質転換体をアンピシリン50 μg/mlを含むLB寒天培地に塗布し、37℃で一晩培養した。生育してきたアンピシリン耐性の形質転換体のコロニー数個について、アンピシリン50 μg/mlを含むLB液体培地5 mlで37℃、16時間振盪培養した。得られた培養液を遠心分離することにより菌体を取得した。該菌体より常法に従ってプラスミドを単離した。該方法により単離したプラスミドを各種制限酵素で切断して構造を調べ、さらに塩基配列を決定することにより、目的のDNA断片が挿入されているプラスミドであることを確認した。
得られたプラスミドベクターに挿入された目的の遺伝子断片を、pMAL system (New England Biolabs、カタログNo. N8076S)を用いて大腸菌に発現させて得られた融合蛋白質を、さらにpMAL systemに従い融合部分を切断することで、HP0089遺伝子の産物である酵素蛋白質の精製品を得た。
【実施例3】
【0084】
組換えHP0089を用いたアミノデオキシフタロシンからアデニンとdehypoxanthinylfutalosine(DHFL)への変換反応
実施例1で合成したアミノデオキシフタロシンと、実施例2で調製したH. pyloriのHP0089の酵素蛋白質を下記の反応系に供し、37 ℃、10分間酵素反応を行った。

アミノデオキシフタロシン (10 mM) 5 μL
精製酵素 (0.1 mg/ml) 5 μL
100 mM リン酸カリウム buffer (pH 6.0) 25 μL
蒸留水 15 μL
合計 50 μL
【0085】
上記反応系により調製した反応液を逆相HPLC、すなわちカラムとしてODS (Mightysil RP-18GP Aqua 250-4.6、関東化学製)、移動層として20 mM リン酸カリウム緩衝液 (pH 2.5)/アセトニトリル(アセトニトリル濃度 0 min/0% → 12 min/40% → 13 min/80% → 14 min/0% → 25 min/0%) を用いて流速0.8 ml/min、温度30℃で分離し、250 nmの吸光度を測定することで酵素反応により生成した2つの新たなピーク(物質)を確認した。これらのピークをLC-MSにより分析することで、アデニンに関しては市販の標品を用いて、DHFLに関しては公知の方法(特開2008-11854)で調製可能な標品を用いて、各々分子イオンピーク (M+1) を比較し、精製した化合物はアデニンとDHFLであると結論した。
【0086】
また、公知の方法(特開2008-11854)で調製したフタロシンを用いて同様の反応を行った。

フタロシン (10 mM) 5 μL
精製酵素 (0.1 mg/ml) 5 μL
100 mM リン酸カリウム buffer (pH 6.0) 25 μL
蒸溜水 15 μL
合計 50 μL
【0087】
上記反応系により調製した反応液を上記逆相HPLCで分析を行ったが、基質がそのまま存在し、ヒポキサンチンもDHFLも生成しなかった。
以上より、H. pyloriでは、フタロシンではなく、新規化合物であるアミノデオキシフタロシンが新規メナキノン生合成経路の中間体であることが明らかとなった。
【実施例4】
【0088】
抗ピロリ菌剤の探索(1)
実施例2で調製したHP0089の酵素蛋白質、実施例1で調製したアミノデオキシフタロシン、及び被検物質を各々0、5、10、20 μg下記の反応系に供し、37℃で10分間酵素反応を行った。

アミノデオキシフタロシン (10 mM) 20 μL
精製酵素 (0.1 mg/ml) 40 μL
100 mM リン酸カリウム buffer (pH 6.0) 100 μL
被検物質 0〜20 μg
蒸溜水 残量
合計 200 μL
【0089】
反応液のフタロシン生成量を、実施例3に従いHPLCにより分析し、コントロールと比較してフタロシンの生成量が少ない試験区を特定することにより、被検物質の中からHP0089産物であるアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素の阻害活性を示す化合物をスクリーニングすることができる。
【実施例5】
【0090】
抗ピロリ菌剤の探索(2)
本来、その抗菌活性を評価するために用いるべきH. pyloriは、病原性の高い菌であることから、その取り扱いには細心の注意が必要である。そこで、スクリーニング段階での安全な環境の維持という観点から、病原性が知られておらず、かつメナキノン生合成の新規経路を有するBacillus haloduransと既知経路のみを持つBacillus subtilisを用いて一次スクリーニングを行うことができる。
新規経路保持菌であるB. haloduransと既知経路保持菌であるBacillus subtilisとを各々シャーレに軟寒天を用いて重層する。その培地上に放線菌やカビの培養液、化学合成天然物、非天然物などを塗布したペーパーディスクを載せて30℃で一晩培養し、新規経路保持菌であるB. haloduransにのみ特異的にハロー形成したサンプルをスクリーニングし候補化合物を取得する。
次いで、新規経路保持菌であるB. haloduransを、候補化合物のみの添加、もう一方は、候補化合物とメナキノンの両方を添加した培地で液体培養する。この実験において、候補化合物のみの添加で生育が阻害され、その阻害が、メナキノンの添加により回復した候補化合物を以下の二次スクリーニングに供する。
上記のスクリーニングでは、候補化合物が新規メナキノン生合成経路を阻害していることは確認できるが、目的とするアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素を阻害しているかは不明である。そこで、実施例4で示した方法によりin vitroの酵素アッセイを行い、実際にアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素を阻害しているかを調べることにより、目的とする物質をスクリーニングすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の化合物を用いた抗ピロリ菌の探索方法により、ピロリ菌に対する特異性が高い薬剤を選択することが可能となる。
【配列表フリーテキスト】
【0092】
配列番号3:人工配列の説明−合成DNA
配列番号4:人工配列の説明−合成DNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)で表される化合物。
【化1】

【請求項2】
式(I)で表される化合物、アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素、及び被検物質を水性媒体中で接触させ、該水性媒体中に生成するアデニン、またはdehypoxanthinylfutalosine(DHFL)の量を測定し、被検物質の中からアデニンまたはDHFLの生成を抑制する物質を選択することを特徴とする抗ピロリ菌活性を有する化合物の選択方法。
【請求項3】
アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素が、Helicobacter pylori 由来の蛋白質である請求項2記載の方法。
【請求項4】
アミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素が、以下の(1)〜(3)のいずれかに記載の蛋白質である、請求項2記載の方法。
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が欠失、置換、または付加したアミノ酸配列からなり、かつアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性を有する蛋白質
(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有し、かつアミノデオキシフタロシン脱アデニン酵素活性を有する蛋白質
【請求項5】
被検物質が、MqnA、MqnB、MqnCおよびMqnDの酵素群を含むメナキノン生合成経路を有するバチルス属に属する微生物の生育を阻害し、かつMenF、MenD、MenC、MenE、MenB、MenAおよびMenGの酵素群を含むメナキノン生合成経路を有するバチルス属に属する微生物の生育を阻害しない物質である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−56899(P2012−56899A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202504(P2010−202504)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【出願人】(308032666)協和発酵バイオ株式会社 (41)
【Fターム(参考)】