説明

抗ヘリコバクター・ピロリ飲食品

【課題】 糖とタンパク質との褐変反応生成物の抗ヘリコバクター・ピロリ作用をさらに向上させ、ヘリコバクター・ピロリを効果的に排除しうる飲食品を提供する。
【解決手段】 糖とタンパク質との褐変反応生成物および粘質多糖類を含む、抗ヘリコバクター・ピロリ飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化性潰瘍の発生に関与するヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)を効果的に除菌しうる抗ヘリコバクター・ピロリ飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリコバクター・ピロリは、一端に数本の鞭毛(flagella)を持つ、螺旋型をしたグラム陰性桿菌で、ヒトの胃粘膜に生息する。ヘリコバクター・ピロリは、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の起因菌であり、さらに胃癌などの疾患と関連があるとされている。ヘリコバクター・ピロリが一旦胃粘膜に定着すると、感染に対する免疫応答が強いにもかかわらず、除菌されず胃内に生息し続け、しかも胃内は塩酸によってpHが非常に低く保たれているので、多くの抗生物質は不活化される。このような理由で、ヘリコバクター・ピロリの除菌には、抗生物質と胃酸分泌を強力に抑制するプロトンポンプインヒビターが併用の形で使用されている。しかしながら、抗生物質の長期間投与においては、その副作用に加え、耐性菌の増加という非常に重大な問題が危惧される。
【0003】
一般に細菌の感染が成立するためには細菌が宿主細胞に接着し、そこで増殖することによって定着することが感染の第一歩となる。細菌の宿主細胞への接着には、接着因子の宿主細胞表面の受容体への結合が必要であるが、ヘリコバクター・ピロリでは、この菌が産生するウレアーゼが接着因子であり、牛乳から乳脂肪およびカゼインを除去して得られる乳清由来のムチンやこれに含まれる糖タンパク質がウレアーゼを介したヘリコバクター・ピロリの消化管への定着を阻害しうることが報告されている(例えば特許文献1を参照)。また、本発明者等は、種々の糖とタンパク質との褐変反応生成物が、接着因子であるウレアーゼを介したヘリコバクター・ピロリの胃粘膜への接着を阻害することを報告している(特許文献2を参照)。
【特許文献1】特許第3255161号公報
【特許文献2】WO03/63886国際公開公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、糖とタンパク質との褐変反応生成物の抗ヘリコバクター・ピロリ作用をさらに向上させ、ヘリコバクター・ピロリを効果的に除菌しうる飲食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、糖とタンパク質との褐変反応生成物に粘質多糖類を配合して飲食品を調製することで、ヘリコバクター・ピロリの胃粘膜への接着および定着をより効果的に阻止しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、糖とタンパク質との褐変反応生成物および粘質多糖類を含む、抗ヘリコバクター・ピロリ飲食品に関する。
【0007】
一実施形態において、上記タンパク質は、乳由来タンパク質ならびに豆類由来のアルブミンおよびグロブリンからなる群から選択される1種以上であり、特に、カゼインまたはその塩である。
【0008】
一実施形態において、上記糖は、D−グルコース、D−フラクトース、D−マンノース、D−ガラクトース、D−キシロース、L−アラビノース、D−リボース、乳糖およびマルトースからなる群から選択される1種以上であり、特に、乳糖である。
【0009】
一実施形態において、上記粘質多糖類は、ペクチン、アラビアガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グアーガム、アルギン酸ナトリウム、寒天、タマリンドシードガム、サイリュームシードガム、タラガム、ファーセレランおよびカルボキシメチルセルロースからなる群から選択される1種以上である。
【0010】
一実施形態において、上記粘質多糖類の量は、褐変反応生成物の質量に対して0.01〜200質量%の範囲である。
【0011】
一実施形態において、本発明の上記抗ヘリコベクター・ピロリ飲食品は、ヘリコバクター・ピロリに関連する疾患の予防または改善に用いられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抗ヘリコバクター・ピロリ飲食品は、ヘリコバクター・ピロリに対して優れた除菌作用を有し、かつ安全性が高い。さらに、短期間で除菌効果が得られる。従って、ヘリコバクター・ピロリの除菌、ヘリコバクター・ピロリに関連する疾患の予防または改善に非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、糖とタンパク質との褐変反応生成物および粘質多糖類を含む抗ヘリコバクター・ピロリ飲食品に関する。本発明において、抗ヘリコバクター・ピロリ飲食品とは、ヘリコバクター・ピロリに対し、接着阻害、定着阻害、増殖抑制もしくは防止、減菌または除菌などの作用を有する飲食品を意味する。本発明の飲食品は、ヘリコバクター・ピロリに関連する疾患、具体的には、胃潰瘍および十二指腸潰瘍等の消化性潰瘍、胃炎ならびに胃癌等の予防または改善のために用いることができる。
【0014】
本発明における糖とタンパク質との褐変反応生成物は、糖とタンパク質のアミノ−カルボニル反応の生成物である。褐変反応は、各種糖と、各種タンパク質とを混合して水溶液中で加熱処理することにより実施できる。
【0015】
褐変反応は中性水溶液またはアルカリ水溶液中で行うのが好ましい。アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどの種々のアルカリ水溶液が使用できる。添加するアルカリ水溶液の濃度は特に限定されないが、例えば0.05〜0.5Nの炭酸水素ナトリウムを用いることができる。水溶液の量は、糖とタンパク質の混合物、または糖とタンパク質を含む食品を十分に均一に懸濁できる量であればよく、例えば1〜100倍量、好ましくは5〜20倍量とする。
【0016】
褐変反応は、糖とタンパク質の混合物の5%水溶液における405nmの吸光度が0.01、好ましくは0.1以上になるまで行う。405nmの吸光度が0.01以上であることは褐変反応が進行していることを意味する。吸光度は、例えば5%水溶液100μlをミクロプレートリーダーで測定する。
【0017】
褐変反応の条件としては、中性水溶液中で行う場合、反応温度は100℃以上、特に120℃以上が好ましく、反応時間は通常20分間以上であり、好ましくは30分〜10時間である。また、アルカリ水溶液中で褐変反応を行う場合は、反応温度は室温から100℃、特に40〜90℃が好ましく、反応時間は通常1〜20時間、好ましくは2〜8時間である。
【0018】
得られた褐変反応生成物は、そのまま飲食品に配合してもよいが、慣用の手段、例えば限外濾過、イオン交換樹脂などを用いて未反応の糖の除去、脱塩を施してもよい。また、等電点沈殿、塩析、有機溶媒沈殿など、タンパク質の選択的沈殿に用いられる通常の手段により褐変反応生成物を沈殿させてもよい。褐変反応生成物は、製剤化や食品などへの添加を容易にするため、慣用の手段、例えば凍結乾燥または噴霧乾燥などの手段により乾燥させるのが好ましい。褐変反応を中性水溶液中で行った場合には、そのまま乾燥してもよいが、上述の手段により未反応の糖の除去、脱塩の後に乾燥させ粉末化するのが好ましい。褐変反応をアルカリ水溶液中で行った場合には、反応溶液を酸(無機酸および/または有機酸)により中和してもよい。また、中和後、そのまま乾燥してもよいが、上述の手段により未反応の糖の除去、脱塩の後に乾燥させ粉末化してもよい(特許文献2参照)。
【0019】
褐変反応生成物に用いるタンパク質としては、経口摂取しうる任意のタンパク質、例えば豆、小麦、トウモロコシ、大麦または米等由来の植物性タンパク質、ならびに乳、卵、魚または肉由来の動物性タンパク質が含まれる。豆由来のタンパク質として、アルブミンおよびグロブリン等が挙げられ、小麦由来のタンパク質として、グルテニンおよびアルブミン等が挙げられ、トウモロコシ由来のタンパク質のとして、ゼイン等が挙げられ、乳由来のタンパク質として、カゼインまたはその塩、ラクトグロブリン、ラクトアルブミン、ラクトフェリン、アルブミンおよび免疫グロブリン等が挙げられ、卵由来のタンパク質として、オボアルブミン、オボトランスフェリン、オボムコイド、オボムシンおよびリゾチーム等が挙げられ、魚または肉由来のタンパク質として、ミオシンおよびアクチン等が挙げられる。本発明においては、好ましくは乳由来、特に牛乳由来のタンパク質、より好ましくはカゼインまたはその塩、または好ましくは豆由来のタンパク質、より好ましくはアルブミンおよびグロブリンを用いる。カゼインの塩としては、飲食品分野で通常用いられるものを使用でき、特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩等が挙げられ、好ましくはナトリウム塩を用いる。
【0020】
これらの各種タンパク質は、常法により精製したものを使用してもよいし、また市販のものをそのまま用いることもできる。これらのタンパク質は単独でも、また2種以上を組合わせて使用してもよい。あるいは、これらタンパク質を含有する食品素材、例えば牛乳由来タンパク質を含む牛生乳、牛乳粉、脱脂粉乳、乳清や練乳などのタンパク質混合物をそのまま用いてもよい。
【0021】
褐変反応生成物に用いる糖としては、タンパク質と褐変反応生成物を生じうるものであれば特に制限されず、単糖類、二糖類、オリゴ糖類および多糖類のいずれでもよい。例えば、D−グルコース、D−フラクトース、D−マンノース、D−ガラクトース、D−キシロース、L−アラビノース、D−リボース、マルトースおよび乳糖などの種々の還元糖が挙げられる。本発明においては、好ましくは二糖類、より好ましくは乳糖を用いる。これらの糖は、単独でも、また2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0022】
褐変反応生成物における糖とタンパク質の質量比は任意であるが、通常は1:100〜10:1の範囲であり、好ましくは1:9〜1:1の範囲である。
【0023】
本発明において、褐変反応生成物は、糖とタンパク質とを混合して水溶液中で褐変反応させる代わりに、糖およびタンパク質を含有する食品、好ましくは糖およびタンパク質を上記の質量比で含有する食品、例えば牛生乳、牛粉乳、脱脂粉乳、乳清および練乳などをそのまま水溶液中で加熱処理などにより褐変反応を起こさせて得ることもできる。
【0024】
脱脂粉乳は、カゼインを主体とする各種牛乳タンパク質、および乳糖などの糖を含有している。脱脂粉乳は、常法により生乳より遠心分離により脂肪分を分離除去し、生じた脱脂乳を粉末化して得ることができるが、市販の脱脂粉乳を使用してもよい。
【0025】
乳清は、脱脂乳よりカゼインを除去したものであり、乳糖などの糖、およびβ-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、血清アルブミン、免疫グロブリン、ラクトフェリンなどの乳清タンパク質を含有している。本発明において使用する乳清としては、常法により牛乳汁から調製してもよいし、市販の乳清(濃縮液、粉末など)をそのまま使用してもよい。
【0026】
また、本発明の飲食品においては、褐変反応生成物の成人1日当たり摂取量が、通常0.01〜10.0g(乾物量)、好ましくは0.5〜5.0gの範囲になるように調節する。通常、飲食品中の褐変反応生成物の量は、飲食品の形態により異なるが、錠剤(タブレット)、チュアブル錠、顆粒、カプセル(例えば、ハードカプセル)等の形態の固形食品の場合は、飲食品の総質量に対して0.01〜50質量%の範囲、好ましくは1〜40質量%の範囲であり、その他の飲食品の場合は、0.01〜10質量%の範囲、好ましくは0.1〜6質量%の範囲である。
【0027】
本発明における粘質多糖類は、増粘多糖類と称される場合もある。本発明において粘質多糖類は、天然のものでも合成のものでもよく、特に制限されない。例えば、ペクチン、アラビアガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グアーガム、アルギン酸ナトリウム、寒天、タマリンドシードガム、サイリュームシードガム、タラガム、ファーセレラン、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。好ましくはグアーガム、ローカストビーンガム、アラビアガム、ペクチンおよびアルギン酸ナトリウムを用いる。これらの粘質多糖類は、単独でも、また2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0028】
粘質多糖類の量は、飲食品の形態により異なるが、錠剤(タブレット)、チュアブル錠、顆粒、カプセル(例えば、ハードカプセル)等の形態の固形食品の場合は、飲食品の総質量に対して1〜80質量%の範囲、好ましくは1〜50質量%の範囲であり、その他の飲食品の場合は、飲食品の総質量に対して0.01〜10質量%である。また、粘質多糖類は、褐変反応生成物の質量に対して通常は0.01〜200質量%の範囲、好ましくは0.1〜100質量%の範囲で用いる。
【0029】
本発明の飲食品の形態としては、錠剤(タブレット)、チュアブル錠、顆粒、カプセル(例えば、ハードカプセル)等の固形食品および流動食等の各種形態、さらにスープ類、ジュース類、茶飲料、乳飲料、発酵乳飲料、豆乳、ココア飲料およびゼリー状飲料などの液状飲料食品、プリンおよびヨーグルト等の半固形食品、パン類、うどんなどの麺類、クッキー、チョコレート、キャンディおよびせんべいなどの菓子、ふりかけ、バターおよびジャムなどのスプレッド類等の形態が挙げられる。また、本発明の食品は、保健用食品または医療用食品とすることもでき、特に形態は限定されないが、錠剤(タブレット)、チュアブル錠、顆粒、カプセル等のほかに、菓子類、スープ、飲料および流動食等、継続して摂取できる形態とするのが好ましい。
【0030】
また、本発明の飲食品に、ヘリコバクター・ピロリに対して除菌作用を有する他の物質をさらに配合することで、ヘリコバクター・ピロリの除菌作用をさらに向上させることができる。そのような他の物質には、例えば、ポリフェノール、ヘリコバクター・ピロリに対する抗体、ヘリコバクター・ピロリの接着因子であるウレアーゼに結合しうる多糖類および糖タンパク質などが包含される。
【0031】
そのようなポリフェノールの例には、カテキン、ガロカテキン、ガロカテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、遊離型テアフラビン、テアフラビンモノガレート、テアフラビンガレート、レズベラトロール、プロアントシアニジン、ケルセチン、アントシアニン、スルフォラファン、イソフラボンなどが挙げられる。本発明の飲食品に、これらのポリフェノールを混合してもよいし、これらのポリフェノールを含有する茶、カカオ、果実などの食品素材またはこれらの抽出物を混合してもよい。
【0032】
ヘリコバクター・ピロリに対する抗体としては、ヘリコバクター・ピロリの全菌体に対する抗体、菌表面分子に対する抗体が挙げられるが、入手の容易さ・除菌作用の向上などから菌表面分子に対する鶏卵抗体、特にヘリコバクター・ピロリの接着に関与するウレアーゼまたは鞭毛に対する鶏卵抗体(特開平10−28758)が好ましい。
【0033】
ヘリコバクター・ピロリのウレアーゼに結合しうる糖タンパク質の例としては、哺乳動物の消化管由来のムチン、乳精由来のムチン、鶏卵卵白由来ムチン等のムチン、これらムチンを構成する糖タンパク質が挙げられる。該ウレアーゼに結合しうる多糖類の例としては、硫酸デキストラン(Antimicrobiol Agents and Chemotherapy, Vol. 44, No. 9, pp.2492-2497, 2000)、フコダイン(Gastroenteroligy, Vol. 119, pp.358-367, 2000)などが挙げられる。また該ウレアーゼの活性を抑制するものとしてプロポリス抽出物があり、特に超臨界抽出法にて抽出したプロポリスが有効であることが報告されている(Medical Nutrition, 2003年1月1日号)。
【0034】
さらに本発明の飲食品には種々の食品添加物、例えば各種栄養素、種々のビタミン、ミネラル、食物繊維、多価不飽和脂肪酸、分散剤および乳化剤等の安定剤、甘味料、呈味成分、フレーバー等を配合することができる。また、液状食品は、最初から液状食品として調製してもよいが、粉末またはペースト状で調製し、所定量の水性液体に溶解するものでもよい。
【0035】
本発明の飲食品は、ヘリコバクター・ピロリを効果的に除菌する作用を有する。本発明の飲食品は、褐変反応生成物のみを含む飲食品と比べて優れた除菌効果を有する。例えば、褐変反応生成物のみを含む飲食品では十分な除菌効果が得られないような短期間であっても、十分な除菌効果を得ることができる。
【0036】
本発明の飲食品は、ヘリコバクター・ピロリの胃腸内への接着および定着を阻害し、ヘリコバクター・ピロリを除菌できることから、ヘリコバクター・ピロリに関連する疾患を予防または改善するための飲食品とすることができる。ヘリコバクター・ピロリに関連する疾患としては、ヘリコバクター・ピロリが胃腸内に接着および定着することにより引き起こされる疾患が含まれ、ヘリコバクター・ピロリの定着および定着により直接引き起こされる疾患だけでなく、二次的に引き起こされる疾患も含まれる。具体的には、胃潰瘍および十二指腸潰瘍等の消化性潰瘍、胃炎ならびに胃癌等が含まれる(Infection and Immunity, May 1993, p.1601-1610;Helocobacter pylori感染の診断と治療のガイドライン(改訂版)、2003年2月24日発行、日本ヘリコバクター学会)。
【0037】
本発明の飲食品の原料となる糖、タンパク質および粘質多糖類は、食品または食品素材に由来するなど経口摂取可能なものであり、褐変反応生成物も非常に安全性が高く、副作用などの心配がないことから、本発明の飲食品は安全性も高い。
【0038】
本発明を下記の実施例により詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるわけではない。
【実施例】
【0039】
[製造例1] カゼインナトリウムと乳糖の炭酸水素ナトリウムを用いた褐変反応
蒸留水1Lにカゼインナトリウム60gと乳糖40gと炭酸水素ナトリウム42gを加え、攪拌により溶解した。温度90℃、5時間褐変反応を行った。限外ろ過(Biomax-50,ミリポア社製)により脱塩を行った後、凍結乾燥を行い褐色の粉末を得た。
【0040】
[製造例2] カゼインナトリウムと乳糖の水酸化ナトリウムを用いた褐変反応
0.2N NaOH水溶液1Lに、乳糖40gとカゼインナトリウム60gを添加し、試験管ミキサーで均一な懸濁液となるまで振とうした。50℃の水浴で4時間加温し、褐変反応を行った。次いで、0.2N HClを反応液のpHが7.0になるまで添加した。中和した反応液を凍結乾燥して褐色の粉末を得た。
【0041】
[実施例1] 錠剤(タブレット)
製造例1の褐変反応生成物200g、結晶セルロース210g、乳糖50g、粘質多糖類としてアラビアガム20g、ヒドロキシプロピルセルロース20gを混合し、エタノール130mLを練合機に添加し、通常の方法により5分間練合する。練合終了後、16メッシュで篩過し、乾燥機中にて50℃で乾燥する。乾燥後、整粒して顆粒を得た。
この顆粒に、クエン酸30g、ショ糖脂肪酸エステル10gを添加し、約1分混合した後、通常の打錠機を用い1錠あたり300mgの錠剤(タブレット)を調製した。
【0042】
[実施例2] 錠剤およびカプセル
製造例1の褐変反応生成物250g、結晶セルロース580g、還元麦芽糖118g、粘質多糖類としてペクチン12.5gを混合し、そこにショ糖脂肪酸エステル(三菱化学製)40gを添加してさらに混合し、粉末を調製した。この粉末を、打錠機を用いて打錠し、1錠当たり500mgの錠剤を調製した。また、この粉末を2号ハードカプセルに充填し、カプセル剤を調製した。
【0043】
[実施例3] 発酵乳飲料
温湯(40℃)7kgに、脱脂粉乳800g、バター100g、そして粘質多糖類としてグアーガム25g、製造例1の褐変反応生成物150gを溶解後、全体量が10kgになるようさらに温湯(40℃)を加えた。その溶液を均質処理(均質圧100kg/cm)し、90℃で3分加熱殺菌後、再度均質処理(均質圧150kg/cm)し、40℃まで冷却した。その溶液にヨーグルトスターターカルチャーを1質量%添加し、乳酸酸度1%になるまで攪拌しながら40℃に保持した。乳酸酸度1%になったところで、均質処理(均質圧200kg/cm)し、10℃まで冷却し、200mlづつ個包装して乳酸菌飲料を調製した。
【0044】
[実施例4] 豆乳飲料
温湯(40℃)2.5kgに、粘質多糖類としてカラギーナン10gおよびアラビアガム50g、ならびに製造例1の褐変反応生成物150gを溶解した。また、大豆より得た豆乳(固形11%)6.4kgに米油300g、砂糖200g、食塩50gを加え溶解した。その後それら2つの溶液を混合し全体量が10kgになるよう温湯を加えた。その溶液を均質処理(均質圧200kg/cm)し、140℃で5秒加熱殺菌した後、再度均質処理(均質圧350kg/cm)し、10℃まで冷却し、200mlづつ個包装して豆乳を調製した。
【0045】
[実施例5] ココア飲料
製造例1の褐変反応生成物50gに、粘質多糖類としてローカストビーンズガム0.5g、ココア(森永乳業製)50gを加え攪拌した。水(約80℃)700mlを加え、攪拌および懸濁した。懸濁後、牛乳200mlを加え、ココア飲料を調製した。
【0046】
[実施例6] ゼリー飲料
熱湯(90℃以上)5kgに、粘質多糖類としてキサンタンガム10g、カラギーナン5gおよびタマリンドシードガム20g、乳酸カルシウム50g、塩化カリウム20g、クエン酸三ナトリウム4gを攪拌しながら順に加え溶解した。溶解確認後、その溶液に製造例1の褐変反応生成物166gを溶解した。また温湯(40℃)3kgに、濃縮バナナ果汁100g、クエン酸30gを溶解させた。これら2つの溶液を混合し、砂糖500gを溶解し、バナナフレーバー15gを加え、全体量が10kgとなるまで温湯(40℃)を加えた。この溶液を120℃で30秒加熱殺菌し、180mlづつ個包装して冷蔵し、ゼリー飲料を調製した。
【0047】
[実施例7] チュアブルタブレット
製造例1の褐変反応生成物210g、乳糖453g、粘質多糖類としてローカストビーンズガム200g、ココア130g、グリセリン6g、スクロース1gを混合し、粉末を調製した。この粉末を、打錠機を用いて打錠し、1錠当たり1200mgのチュアブルタブレットを調製した。
【0048】
[比較例1] チュアブルタブレット
製造例1の褐変反応生成物210g、乳糖653g、ココア130g、グリセリン6g、スクロース1gを混合し、粉末を調製した。この粉末を、打錠機を用いて打錠し、1錠当たり1200mgの粘質多糖類を含まないチュアブルタブレットを調製した。
【0049】
[試験例1]
褐変反応生成物と粘質多糖類の併用効果を動物モデルを用いて以下のように評価した。
7〜8週齢のNS:Hr/ICR系ヘアレスマウス(財団法人動物繁殖研究所、受託番号IAR−NHI−9701;ATCC#72024)24匹のそれぞれに、ヘリコバクター・ピロリ NSP335株(臨床分離株、タイプI型)10CFUを経口摂取させ、その後、粉末飼料(MF,オリエンタル酵母)3gを毎日7日間連続して与え、ヘリコバクター・ピロリを胃内に定着させた。菌摂取8日目に、各群の平均体重が等しくなるように4群に群分けし(1群6匹)、第1群には粉末飼料のみ(3g/日)、第2群には製造例1の褐変反応生成物0.25%を含む粉末飼料(3g/日)、第3群には製造例1の褐変反応生成物0.25%とアルギン酸ナトリウム0.25%を含む粉末飼料(3g/日)、第4群には製造例1の褐変反応生成物0.25%とペクチン0.25%を含む粉末飼料(3g/日)を与えた。そして、4週間後に、マウス胃内のヘリコバクター・ピロリの生菌数を測定した。結果を図1に示す。
【0050】
その結果、褐変反応生成物を4週間摂取すると、ヘアレスマウスの胃内のヘリコバクター・ピロリ生菌数は有意に減少した(Tukeyの多重比較検定 p<0.001、第1群vs第2群)。一方、褐変反応生成物とアルギン酸ナトリウムまたはペクチンを同時に摂取させると、褐変反応生成物のみ摂取した場合と比較して、胃内のヘリコバクター・ピロリの生菌数は著しく減少した(p<0.05、第2群vs第3群;p<0.05、第2群vs第4群)。これらの結果から、褐変反応生成物と粘質多糖類を組み合わせて摂取させると、褐変反応生成物のみではヘリコバクター・ピロリに対する除菌効果が十分に得られない短期間でも、十分な除菌効果が得られることが確認された。
【0051】
[試験例2]
さらに、褐変反応生成物と粘質多糖類の併用効果をヒトにおいて評価した。
尿素呼気試験(13C−UBT)によりヘリコバクター・ピロリ陽性と診断され、その13C−UBT値が25以上の被験者40名をA群、B群の2グループに分けた。A群には比較例1のチュアブルタブレットを1日合計10粒、B群には実施例7のチュアブルタブレットを1日合計10粒、8週間連続摂取させた。また、各被験者について、試験開始前、試験開始後4週間目、8週間目に13C−UBTを行った。
【0052】
なお、13C−UBTは、Helocobacter pylori感染の診断と治療のガイドライン(日本ヘリコバクター学会、2000年7月)に従って行った。13C−UBTは、13Cで標識した尿素がヘリコバクター・ピロリによってアンモニアと二酸化炭素に変わることを利用し、呼気のなかの13Cを測定することにより検査する方法である。具体的には、試験前に呼気を採取し、次いで13Cで標識した尿素を服用した後の呼気を採取し、尿素服用前後の呼気中の13Cを分析・測定した。
【0053】
A群とB群について、摂取前、4週間後、8週間後の13C−UBT値を表1に示す。
各群の経時的変化を比較すると、A群では、摂取開始後8週目になって始めて13C−UBT値が有意に低下したが、B群では4週目、8週目とも13C−UBT値が有意に低下した。A群とB群の摂取後4週目と8週目の13C−UBT値を比較すると、4週目、8週目ともに、B群の13C−UBT値が有意に低かった。
【0054】
これらの結果から、褐変反応生成物と粘質多糖類を併用した飲食品は、褐変反応生成物のみを含む飲食品と比較して、明らかに強力なヘリコバクター・ピロリ除菌活性を持つことが確認された。
【0055】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】褐変反応生成物と粘質多糖類の併用による抗ヘリコバクター・ピロリ作用を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖とタンパク質との褐変反応生成物および粘質多糖類を含む、抗ヘリコバクター・ピロリ飲食品。
【請求項2】
タンパク質が、乳由来タンパク質ならびに豆類由来のアルブミンおよびグロブリンからなる群から選択される1種以上であり、糖が、D−グルコース、D−フラクトース、D−マンノース、D−ガラクトース、D−キシロース、L−アラビノース、D−リボース、乳糖およびマルトースからなる群から選択される1種以上である、請求項1記載の飲食品。
【請求項3】
粘質多糖類が、ペクチン、アラビアガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グアーガム、アルギン酸ナトリウム、寒天、タマリンドシードガム、サイリュームシードガム、タラガム、ファーセレランおよびカルボキシメチルセルロースからなる群から選択される1種以上である、請求項1または2記載の飲食品。
【請求項4】
粘質多糖類の量が、褐変反応生成物の質量に対して0.01〜200質量%の範囲である、請求項1〜3のいずれか1項記載の飲食品。
【請求項5】
タンパク質がカゼインまたはその塩であり、糖が乳糖である、請求項1〜4のいずれか1項記載の飲食品。
【請求項6】
ヘリコバクター・ピロリに関連する疾患の予防または改善に用いる、請求項1〜5のいずれか1項記載の飲食品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−325447(P2006−325447A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151424(P2005−151424)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(301049744)日清ファルマ株式会社 (61)
【出願人】(000129976)株式会社ゲン・コーポレーション (11)
【Fターム(参考)】