抗体チップ、抗原測定装置及び液体排出方法
【課題】 測定の再現性および作業性に優れその実用化が容易になる抗体チップおよび光源測定装置を提供する。
【解決手段】 光源測定装置1は、主要構成として、濃度計測装置2、抗体チップ3、セル洗浄装置4を備える。濃度計測装置2は、抗体チップ3に採取される検体溶液中の抗原濃度を測定する。セル洗浄装置4は、注入ポンプ44、注入チューブ45、第1溶液槽46、第2溶液槽47、および溶液選択バルブ48から成る溶液注入手段と、複数の排出ポンプ51、排出チューブ52、および吸入端部52a等から成る溶液排出手段を有する。そして、容器蓋8が開かれた状態において、チップキャリア7上の基板37の主面に形成された抗体固定化層を有する抗体チップ3のセル39内を清浄にし、セル内に溶液等の残液がなく抗体固定化層上を安定化した状態にする。
【解決手段】 光源測定装置1は、主要構成として、濃度計測装置2、抗体チップ3、セル洗浄装置4を備える。濃度計測装置2は、抗体チップ3に採取される検体溶液中の抗原濃度を測定する。セル洗浄装置4は、注入ポンプ44、注入チューブ45、第1溶液槽46、第2溶液槽47、および溶液選択バルブ48から成る溶液注入手段と、複数の排出ポンプ51、排出チューブ52、および吸入端部52a等から成る溶液排出手段を有する。そして、容器蓋8が開かれた状態において、チップキャリア7上の基板37の主面に形成された抗体固定化層を有する抗体チップ3のセル39内を清浄にし、セル内に溶液等の残液がなく抗体固定化層上を安定化した状態にする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原抗体反応による生体物質の分析に関し、特に検体溶液中の極微量の生体物質を高感度で分析するための抗体チップ、抗原測定装置及び液体排出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗原と抗体の特異的な反応を利用した微量成分の測定方法として酵素免疫測定法(ELISA法)が知られている。そして、この方法を応用し光導波路を用いる抗原測定法が提案されている。この抗原測定法において用いられる免疫センサでは、基板表面の光の入射部及び出射部に一対のグレーティングが形成され、これらグレーティング間に位置する基板表面に単一の光導波路層が形成されている。そして、上記光導波路層上に抗体固定化膜が形成される構造になっている。
【0003】
このような構造の免疫センサにおいて、抗体固定化膜に測定対象抗原を含む検体溶液を接触させると抗体と測定対象抗原が結合する。更に、蛍光標識されている抗体を添加すると抗体/測定対象抗原/蛍光標識抗体からなる免疫複合体が基板表面に形成される。このような状態でレーザ光をグレーティングを介して光導波路層に入射させ、エバネッセント波を発生させ、エバネッセント波と上記免疫複合体との反応に起因する検体溶液の蛍光の光量を受光素子により検出して、検体溶液中の生体分子量を分析する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、従来の抗原測定法では面発光する蛍光の光量を検出する必要があり、検出感度に限界が生じて、極微量の検体溶液中の生体分子分析には不向きであった。そこで、本発明者等は、上記抗原測定法を高性能化し精度を大幅に向上させる技術について開示している(例えば、特許文献2参照)。この技術の要点は、以下のようなものである。すなわち、上記光導波路層で全反射する入射光(例えばレーザ光)により発生するエバネッセント波が上記抗体固定化膜において上記免疫複合体に一部吸収され、この抗体固定化膜に入射した光はその強度が減衰し全反射して反射光になる。ここで、この反射光強度の減衰量は上記免疫複合体の量と強い相関がある。そこで、上記反射光の強度を計測することにより免疫複合体量および抗原量を測定するものである。そして、極微量の検体溶液中の物質を高感度かつ高精度で分析することが可能な抗体チップ、抗原測定装置、抗原測定方法、及び抗体チップの取り扱いを容易にするパレットと抗体チップ梱包体について提案している。
【特許文献1】特開平8−285851号公報
【特許文献2】特開2005−99011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2に記載の技術に基づいた抗原測定法では、その実用化において、被測定物が溶液でありしかもその中の極微量の生態物質の分析となることから、抗原抗体反応により抗体チップのセル内で生成される免疫複合体が高い精度で再現性よく制御されることが重要になる。そこで、抗原測定における抗体固定化膜上の状態が安定化するように、抗体チップにおけるセル内に残液がなく清浄にすることが必須になってくる。
【0006】
また、上記実用化においては、その測定作業が簡便であり熟練を要しないようにすることが重要になる。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであって、測定の再現性および作業性に優れその実用化が容易になる抗体チップ、抗原測定装置及び液体排出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の抗体チップは、透光性を有する基板と、前記基板の主面に形成された抗体固定化層と、前記基板内に光を入射させ、前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素と、前記基板の主面に前記抗体固定化層を取り囲むように形成された撥水層と、一端が前記基板の主面に固着され前記撥水層を取り囲むようにしてセルを形成する枠体とからなり、前記枠体によって囲繞された基板表面が、前記抗体固定化層及び撥水層領域からなる構成になっている。
【0009】
そして、本発明の光源測定装置は、透光性を有する基板、前記基板の一方の主面に形成された抗体固定化層、前記基板内に光を入射させ前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素、および一端が前記基板の一方の主面に固着され前記抗体固定化層を囲うことによりセルを形成する枠体、を備える抗体チップと、前記基板の他方の主面から前記一対の光学要素の入射側光学要素に向けて前記光を入射させる発光素子と、前記基板の他方の主面から前記一対の光学要素の出射側光学要素を介して出射する前記光を検出する受光素子と、前記抗体チップのセル内部に所要の溶液を注入する溶液注入手段および前記溶液をセル外部に排出する溶液排出手段と、を有し、前記溶液排出手段を構成し前記セル内部の溶液を排出する排出チューブが前記セル内部に進入退出自在に構成されている。
【0010】
また、本発明の抗原測定装置からの液体排出方法は、透光性を有する基板と、前記基板の主面に形成された抗体固定化層と、前記基板内に光を入射させ、前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素と、前記基板の主面に前記抗体固定化層を取り囲むように形成された撥水層と、一端が前記基板の主面に固着され前記撥水層を取り囲むようにして円筒状のセルを形成する枠体と、前記枠体によって囲繞された基板表面が、前記抗体固定化層及び撥水層領域からなる抗体チップの前記セルから液体を排出する方法であって、
排出チューブを前記セル内部に、前記基板と接触しないように配置し、前記排出チューブに接続された減圧装置を駆動して前記セル内部に存在する液体を排出する。かかる際にセルの形状が円筒状である場合には、前記排出チューブは、セルの中央部に配置する。一方、セルの形状が平面部もしくは第1の曲面部と、前記曲面部より曲率半径が小さい第2の曲面部もしくは角部からセル壁面が形成されている場合には、この第2の曲面部もしくは角部に近接して前記排出チューブを配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の構成によれば、測定の再現性および作業性に優れその実用化が容易になる抗体チップおよび光源測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。なお、互いに同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略される。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なる。
【0013】
図1に示すように、光源測定装置1は、その主要構成として、濃度計測装置2、抗体チップ3、セル洗浄装置4を備えている。ここで、濃度計測装置2は、抗体チップ3に採取される検体溶液中の抗原濃度を測定する。そして、セル洗浄装置4は、基板37の主面上に形成された抗体固定化層を有する抗体チップ3のセル39内を清浄にし、セル内に溶液等の残液がなく抗体固定化層上を安定化した状態にする。以下に、上記濃度計測装置2、抗体チップ3、セル洗浄装置4の構造についてそれぞれに詳細に説明する。
【0014】
(濃度計測装置の構成)
濃度計測装置2は、図1に示すように一方の側面に設けられた光源モジュール5、他方の側面に設けられた検出器6を備える。そして、これらの上方にチップキャリア7が載置されるようになっており、このチップキャリア7に複数の抗体チップ3が収納される。ここで、チップキャリア7が載置されると、容器蓋8が閉じられようになっている。そして、光源モジュール5からレーザ光が出射し、入射光9として抗体チップ3内を全反射しその反射光10の強度が検出器6で計測されるようになっている。
【0015】
(抗体チップ)
本実施形態の抗体チップ3は、図2および図3に示すように、内部を光が全反射で伝播可能な光導波路層を構成する基板37と、この光導波路層の全反射させる表面の少なくとも一部に形成される抗体固定化層38と、を具備する抗体チップである。そして、好ましくは、上記抗体固定化層38はセル39内に形成されている。そして、このセル39は、枠体40に囲われた構造で上記基板37表面に固着されており、表面が抗体固定化層38よりも高くなるように、しかも抗体固定化層38の少なくとも一部が露出するように開口して反応ホール41を形成する撥水性膜42を具備する。この撥水性膜42は抗体固定化層38を取り囲んでいる。
【0016】
上記枠体40は、光導波路層を形成する基板37の全反射面を構成する主面の表面に、開口する一方の端部を塞ぐようにUV硬化性接着剤によって直接接着されている。なお、この枠体40は、後述するように反応ホール41内に投入される試薬・検体溶液・洗浄液等の薬液が意図しない時点において外部に漏出しないように、測定エリアを囲うものである。したがって、枠体40の上端部によって規定される基板表面からの高さは、撥水性膜42よりも高く形成されている。
【0017】
そして、光導波路層を構成する上記基板37の表面における、上記セル39の両側(抗体チップ3の長手方向の両側)には、入射側グレーティング43aと反射側グレーティング43bが形成されている。ここで、上記グレーティング43a、43bは上述した撥水性膜42で被覆されていると好適である。
【0018】
上記抗体チップ3において、基板37は、光透過性の材料からなるが例えば硼珪酸ガラスを用いると好適である。
【0019】
上記抗体固定化層38は、例えば抗体を架橋高分子で固定化した構造を有する。抗体固定化層38で用いられる架橋高分子としては、例えば光架橋性ポリビニルアルコールのような水素結合性の官能基を含む高分子を挙げることができる。
この抗体固定化層38は、たんぱく質からなり、後述するように検体と抗原抗体反応を起こす第1の抗体を固定化する物質膜である。なお、抗体は一般的に親水性であるので、抗体固定化層38も親水性を有しているものが好ましい。そして、その厚み(光導波路層表面から抗体固定化層の表面までの距離)は、好ましくは30nm〜500nm、更に好ましくは100nm以下、特に好ましくは80nm以下である。
【0020】
上記枠体40は、黒等の有色樹脂で形成することが好ましい。樹脂材料は、試薬、溶媒等との反応性、相溶性がなく、成形性が良いものであれば特に制限はなく、キットの構成に応じて、アクリル樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂等を選択し、使用することができる。
【0021】
そして、上記撥水性膜42は、基板37の全反射面を構成する主面の表面のうち、抗体固定化層38の少なくとも一部、及び枠体40が設けられている領域以外の部分をくまなく覆うようにスクリーン印刷等により張り付けられている。ここで、撥水性膜42は枠体40のセル内壁40aに密着している。この撥水性膜42には、基板37下方から入射される光を外部に漏らさないように、遮光性がある、黒等の有色樹脂を用いるのが好ましい。そして、撥水性膜42は、キットとの反応性、相溶性がなく、撥水性が良いものであれば特に制限はないが、特にフッ素系樹脂が好適である。
【0022】
上記入射側グレーティング43aおよび反射側グレーティング43bは、例えば酸化チタン(TiO2)、酸化錫(SnO2)、酸化亜鉛、ニオブ酸リチウム、ガリウム砒素(GaAs)、インジウム錫酸化物(ITO)、ポリイミド等で形成することが好ましい。これ等のグレーティング43aおよび43bは、抗体チップ3にレーザ光を導入し、また反射させるための光学的機能を有しているが、他の部材を用いて同様の機能を実現できるならば、特に備える必要はない。また、同様の機能を実現できるものであればプリズム等の他の光学要素が配置されていてもよい。
【0023】
上述したような抗体チップ3において、セル39は、その内部に抗体固定化層38が設けられ、後述するように内部の反応ホール41内に試薬・検体溶液・洗浄液等の溶液が注入される。また、このセル39から上記溶液の排出が行われる。ここで、上述したように、抗原測定におけるセル39内を清浄化し抗体固定化層38上の状態を安定化するために、セル39内を洗浄処理する工程において、上記溶液がセル39内に残存しないようにすることが重要である。そして、この洗浄処理の作業が熟練を要することなく簡便にできることが望まれる。
【0024】
このためには、上述したようにセル39内は、親水性の抗体固定化層38以外はすべて撥水性材料で構成すると共に、その内部の形状が重要となる。その好適で標準的な形状は、図2および図3に示したように、抗体固定化層38および枠体40のセル内壁40aの上面形状が同心円になり、撥水性膜42の上面形状がドーナツ状になっていることである。
【0025】
セル内部をこのような形状・配置とすることによって、セル内部には比較的溶液が残存する頻度が低く、また、溶液が残存したとしても、比較的中央領域に集中する傾向にあるため、洗浄工程における溶液の排出のための吸入端部はセル39の中央領域におかれ、効率的に排除することができる。
【0026】
上記実施の形態では、セル39の断面形状を円形としたが、これ以外にも種々の形状をとることが可能である。この変形例について図4および図5を参照して説明する。ここで、図4および図5はセル39の上面図となっている。
【0027】
図4(a)においては、セル内壁40aに1つの角隅部が形成される以外は図2と同様に円形の抗体固定化層38が形成され、それを取り囲むようにセル内壁40aに密着して撥水性膜42が基板37に接着して形成されている。
図4(b)においては、セル内壁40aの1箇所に円弧状の後退部、すなわちセル内壁が円弧状に引っ込んでいる部分が形成される場合である。
図4(c)においては、セル内壁40aの2箇所に円弧状の後退部が形成される場合である。
図4(d)においては、セル内壁40aの3箇所に円弧状の後退部が形成される場合である。
図5(a)においては、セル内壁40aの4箇所に円弧状の後退部が形成される場合である。
図5(b)においては、セル内壁40aが楕円形に形成される場合である。
図5(c)においては、セル内壁40aが抗体固定化層38を中心とした円形領域から放物曲線に類似した形状の後退部が形成される場合である。
更に、図5(d)においては、セル内壁40aが平面部と曲面部もしくは角部との組み合わせによって形成された形状となっている場合である。
【0028】
これらのセルにおいて、セル内部には、センシングエリア38と、撥水性膜42と、撥水性膜42より、親水性の高いセル内壁面40aが存在しており、このセル内部に残存する溶液は、溶液に加わる重力とセル内部の表面の材料との親和性とのバランスにおいて、疎水性膜との接触面積が最も少なくなる形状に集まることとなる。そして、セル内壁が、平面部もしくは曲面部と、前記曲面部より曲率半径が小さい曲面部もしくは角部が近接している場合、溶液は、曲率半径が小さい曲面部もしくは角部に集合する傾向にある。従って吸引用のピペット先端をこれらの曲率半径の小さな曲面部付近もしくは角部付近に近接させて溶液を吸引することにより効率的に吸引作業を行うことができる。
【0029】
(セル洗浄装置)
セル洗浄装置4は、上記抗体チップ3のセル39内に溶液を注入するための溶液注入手段として、図1に示すように、注入ポンプ44に接続された注入チューブ45を備えている。この注入ポンプ44としてはシリンジポンプ等が好適である。また、注入する溶液を選択するため、第1溶液槽46や第2溶液槽47と注入ポンプ44との間に接続された溶液選択バルブ48を有する。ここで、例えば、第1溶液槽46には界面活性剤を含む洗浄液49を入れ、第2溶液槽47には緩衝液50を入れ、測定手順の必要に応じてどちらの溶液をセル39の反応ホール41に注入するかを自動的に選択することができる。
ここで、注入チューブ45の注入口となる下端部の位置としては、セル39内において抗体固定化層38の真上近傍に位置することが好ましい。このようにすることで、注入する溶液が抗体固定化層38上に確実に滴下される。
【0030】
セル39内から溶液を排出するための溶液排出手段として、図1に示すように、排出ポンプ51に接続された排出チューブ52を備えている。この排出ポンプ51としては、バイモルフポンプ等を使用するのが好ましい。ここで、排出ポンプ51の排出量は、12L(リットル)/minが好適である。なお、上記排出ポンプ51あるいは排出チューブ52は、図1の点線で記したように複数個そなえるようになっていてもよい。
上記排出チューブ52の先端の例えばピペットのような吸入端部52aの位置としては、枠体40のセル内壁40aの近傍に位置することが好ましい。このようにすることで、反応ホール41から溢れた溶液は、撥水性膜42が撥水性のため、枠体40のセル内壁40a側へ流れ、セル内壁40aにある排出チューブ52から確実に排出される。
【0031】
上述したように、極微量の生体物質の測定における高い再現性および作業性を確保する上で、上記洗浄液等の溶液をセル39内に残存させないことがきわめて重要となる。そこで、上記排出チューブ52の吸入端部52aの形状が重要になる。この好適な態様について図6〜図8を参照して説明する。ここで、図6〜図8は吸入端部52aの縦断面図である。
【0032】
図6(a)〜図6(d)は標準的な吸入端部52aの構造を示す。この吸入端部52aはその横断面が円となる円柱状であって、その先端面は平面状の平坦面54を有している。ここで、図6(a)では、吸入孔53が吸入端部52aの中心軸に沿って穿設されている。図6(b)では、吸入孔53が吸入端部52aの外径側に偏芯して穿設されている。図6(c)では、2つの吸入孔53a、53bが穿設されている。そして、図6(d)では、3つの吸入孔53a、53b、53cが穿設されている。
【0033】
ここで、上記吸入端部52aの外径は、図2に示した枠体40のセル内壁40aの内径よりも小さい。そして、吸入端部52aの外径およびセル内壁40aの内径の寸法差が0.02mm〜10mmの範囲にあると好適である。但し、吸入端部52aの外径は反応ホール41の口径よりも大きくなるように設定する。このようにすることで、上記洗浄においてセル39内の溶液の排出が極めて容易になりその作業性が向上する。また、排出チューブ52を用いた排出作業において、吸入端部52aが抗体固定化層38に摺接することがなく、抗体固定化層38の機械的な損傷は全く生じない。
【0034】
また、上記吸入端部52aを有する排出チューブ52を用いた排出作業において、吸入端部52aの平坦面54は、好ましくは基板37の主面に平行にされ、抗体固定化層38の表面からの離間距離が0.01mm〜5mmになるように配置される。このような離間距離に配置することで、セル39内の溶液が完全に排出され残液がなく、セル39内が清浄になり抗体固定化層38の表面が安定化する。また、排出チューブ52が、セル39の表面に接触すると、セル39が移動してしまい、その結果測定精度が低下してしまう。そのために、排出チューブ52の先端は、セル39に接触しない程度に近接させることが好ましい。測定装置の位置制御の精度を考慮すると、上記離間距離は下限が0.01mm程度であることが好ましい。
【0035】
この吸入端部52aは、種々の形状をとることが可能である。図7(a)および図7(b)では、その下端部が例えば半球状に抉られた凹陥部55を有する構造になっている。また、場合によっては、図7(c)および図7(d)に示すように、吸入端部52aの下端部が僅かに凸状に形成された凸部56を有する構造になる。この場合、更に、上記変形例として、図8(a)および図8(b)では、吸入端部52aの下端部の外周部が面取りされ切り欠き部57を有する構造になっている。更には、図8(c)および図8(d)に示すように、その下端部がテーパ状にされてテーパ部58を有する構造になる。
ここで、上記吸入端部52aはその横断面が、図4および図5で示したセル39における枠体40のセル内壁40aの開口形状に対して相似形になるように形成されると好適である。
【0036】
(抗原測定方法)
次に、図9、図10および図11等を参照して、本発明の実施形態に係る抗体チップ3を用いた検体溶液中の特定物質の抗原測定方法について説明する。
【0037】
図9のステップS10:抗体チップ3の反応ホール41底部の基板37表面には、図10(a)に示すように、タンパク質、遺伝子等の測定対象となる抗原60aを特異的に認識する1次抗体38aからなる抗体固定化層38が形成されている。この反応ホール41内の抗体固定化層38上に抗原60aを含む検体溶液60を滴下すると、図10(b)に示すように、抗原60aが1次抗体38aと結合し、1次抗体−抗原複合体を形成する。
【0038】
ステップS11:次に、1次抗体38aに結合した抗原60a以外の検体溶液60を、界面活性剤を含むリン酸バッファ(PBS)等の洗浄液によって洗浄する。この洗浄工程では、図1に示した容器蓋8を開き、上述したセル洗浄装置4を用いて、図11(a)に示すように注入チューブ45を抗体チップ3の枠体40内に配置し、セル39から零れ出ない所定の量の洗浄液を注入する。引き続いて、上記注入チューブ45を枠体40から引き離した後に、図11(b)に示すように、今度は排出チューブ52の吸入端部52aを上記枠体40内に挿入し上記洗浄液を吸引して排出させる。ここで、吸入端部52aは、図6〜図8に示したような構造のものを、図2〜図5に示したセル39の構造に合わせて、適宜に使用する。このようにして、好適な洗浄が簡便な作業で行えるようにする。
なお、上記洗浄工程においては、セル洗浄装置4における注入チューブ45および排出チューブ52の移動配置は自動的に行えるようにするとよい。
【0039】
上記洗浄工程においては、抗体固定化層38上に形成された免疫複合体である上記1次抗体38aに結合している抗原60aが擾乱されないように洗浄液を吸引し排出することが極めて重要になる。そこで、セル洗浄装置4で説明したような洗浄方法をとり、セル39内に残液もなく清浄にして抗体固定化層38を安定化させる。
【0040】
ステップS12:次に、酵素標識されている2次抗体溶液61を滴下する。すると、図10(c)に示すように、2次抗体61aは、1次抗体38aとは別の部位で抗原60aにさらに結合する。その結果、1次抗体−抗原−2次抗体複合体が形成される。なお、2次抗体61aを標識している標識酵素として、例えば酸化還元酵素としてペルオキシダーゼ(POD)等を用いることができる。
【0041】
ステップS13:次に、複合体を形成しなかった2次抗体61aを含む2次抗体溶液61を、界面活性剤を含むPBS等の洗浄液によって再洗浄する。この洗浄工程においても、ステップS11で説明したのと同様な洗浄方法が取られる。
【0042】
ステップS14:次に、洗浄に使用した界面活性剤を取り除き、安定化させるためにPBS等のみを緩衝液としてセル39内に注入する。そして、この緩衝液をセル39から排出させる。この緩衝液の注入/排出は、ステップS11で説明したのと全く同様な方法で行えばよい。
【0043】
上記ステップS13の洗浄工程および上記緩衝液の注入/排出の工程において、抗体固定化層38上に形成された免疫複合体である上記1次抗体−抗原−2次抗体複合体が擾乱されないように洗浄液等の溶液を吸引し排出することができる。そして、セル39内に残液もなく清浄にして抗体固定化層38を安定化させることができる。
【0044】
ステップS15:この時点で、抗体チップ3の入射側グレーティング43aに向けて半導体レーザ25からレーザ光等を照射して、出射側グレーティング43bからの出射光を受光素子で受光し、基準光強度として測定する。
【0045】
ステップS16:次に、図10(d)に示すように、セル39に発色試薬溶液62を滴下する。発色試薬溶液62としては、例えばpH=4.9の緩衝液1リットル中に、酢酸80ミリモル、テトラメチルベンジジン(TMBZ)1.13ミリモル、過酸化水素(H2O2)1.91ミリモル、ジメチルスルホキシド(DMSO)1%未満を含むものを使用するのが好ましい。すると、POD等の標識酵素と、標識酵素の基質であるH2O2との酸化還元酵素反応によりラジカル酸素原子(O*)が生成される。この酵素反応により生成されるO*により発色試薬が発色する酵素反応産物62aを生成する。
【0046】
ステップS17:このような状態で、抗体チップの入射側グレーティング43aに向けて半導体レーザ25からレーザ光等を照射して、出射側グレーティング43bからの反射光を受光素子で受光し、発色後光強度を測定する。
【0047】
ステップS18:ステップS15で測定した基準光強度とステップS17で測定した発色後光強度との差により検体溶液60中の測定対象となる抗原60aの濃度を算出する。
【0048】
この測定方法を用いて光強度を連続して測定すると、ステップS14からステップS15までの間の所定の時点の値を基準光強度、ステップS16後の所定の時点の値を発色後光強度として採用して濃度を算出することができる。したがって、無抗原溶液を用いた対象実験等をして基準光強度を測定する必要がなくなる。
【0049】
本発明の抗体チップ3は、反応ホール41内で抗原抗体反応及び発色反応を起こさせるので、検体溶液60は1マイクロリットル程度あれば十分測定できる。
【0050】
本実施形態では、上述した構造の抗体チップ3を用い、また、上記セル洗浄装置4を使用して抗体チップ3のセル内を洗浄することにより、抗体固定化層に機械的な損傷を全く与えることなく、抗体安定化層上を安定化させることができる。そして、抗体チップにおけるセル内を残腋がなく清浄にすることにより、抗原抗体反応により抗体チップのセル内で生成される免疫複合体が高い精度で再現性よく制御されるようになる。このようにして、極微量の検体溶液中の生体物質を高感度、高精度でしかも高い再現性の下に分析することが可能になる。
また、濃度計測装置2による抗原濃度の測定が極めて簡便なり、しかも、抗体チップ3のセル内の溶液除去を含む洗浄作業が簡便になり、抗原測定の作業が熟練を要しないでルーチンワーク化できる。このようにして、本発明の抗原測定は、測定の再現性および作業性に優れ、その実用化が極めて容易になる。
そして、抗原抗体反応を用いる測定において、蛍光ではなく参照光の増減で検体の濃度測定を行なうことから、新生児・小動物に対する検査の場合など、検体の量を多く確保しにくい場合に活用できる。
【0051】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0052】
例えば、上記セル洗浄装置4を用いた抗体チップ3のセル39内の洗浄作業あるいは溶液の注入/排出作業は、本実施形態で説明した場合と異なり、濃度計測装置2外においてチップキャリア7に載置された複数の抗体チップ3に対し行うようにしてもよい。
【0053】
また、抗体チップ3を載置する部材はチップキャリア7に限定されるものでなく、例えば本発明者らが特許文献2において説明したパレット上に複数の抗体チップ3を載置して上述したような抗原測定を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態にかかる光源測定装置を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる抗体チップを示す上面図である。
【図3】図2のY−Y矢視図である。
【図4】本発明の実施形態にかかる抗体チップのセルを示す上面図である。
【図5】本発明の実施形態にかかる抗体チップの別のセルを示す上面図である。
【図6】本発明の実施形態にかかる排出チューブの先端を示す縦断面図である。
【図7】本発明の実施形態にかかる別の排出チューブの先端を示す縦断面図である。
【図8】本発明の実施形態にかかる更に別の排出チューブの先端を示す縦断面図である。
【図9】本発明の実施形態にかかる抗体チップによる抗原測定方法の工程を示すフロー図である。
【図10】本発明の実施の形態にかかる抗体チップによる抗原測定方法を説明する図である。
【図11】本発明の実施形態にかかる係る抗体チップのセル内の溶液の注入/排出方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1…光源測定装置、2…濃度計測装置、3…抗体チップ、4…セル洗浄装置、5…光源モジュール、6…検出器、7…チップキャリア、8…容器蓋、9…入射光、10…反射光、11…装置ケース、14…基板載置面、15…基板載置領域、16…光入射通路、16b…入射開口部、17…光反射通路、17b…反射開口部、18…非検出光除去通路、18a…非検出光反射開口部、19…保護ガラス、20…基板載置用突起、21…位置決め突起、22…キャリア位置決めピン、23…液溜め溝、24…水没シート、25…半導体レーザ、26…コリメートレンズ、37…基板、38…抗体固定化層、38a…1次抗体、39…セル、40…枠体、40a…セル内壁、41…反応ホール、42…撥水性膜、43a…入射側グレーティング、43b…反射側グレーティング、44…注入ポンプ、45…注入チューブ、46…第1溶液槽、47…第2溶液槽、48…溶液選択バルブ、49…洗浄液、50…緩衝液、51…排出ポンプ、52…排出チューブ、52a…吸入端部、53…吸入孔、54…平坦面、55…凹陥部、56…凸部、57…切り欠き部、58…テーパ部、60…検体溶液、60a…抗原、61…2次抗体溶液、61a…2次抗体、62…発色試薬溶液、62a…酵素反応産物
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原抗体反応による生体物質の分析に関し、特に検体溶液中の極微量の生体物質を高感度で分析するための抗体チップ、抗原測定装置及び液体排出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗原と抗体の特異的な反応を利用した微量成分の測定方法として酵素免疫測定法(ELISA法)が知られている。そして、この方法を応用し光導波路を用いる抗原測定法が提案されている。この抗原測定法において用いられる免疫センサでは、基板表面の光の入射部及び出射部に一対のグレーティングが形成され、これらグレーティング間に位置する基板表面に単一の光導波路層が形成されている。そして、上記光導波路層上に抗体固定化膜が形成される構造になっている。
【0003】
このような構造の免疫センサにおいて、抗体固定化膜に測定対象抗原を含む検体溶液を接触させると抗体と測定対象抗原が結合する。更に、蛍光標識されている抗体を添加すると抗体/測定対象抗原/蛍光標識抗体からなる免疫複合体が基板表面に形成される。このような状態でレーザ光をグレーティングを介して光導波路層に入射させ、エバネッセント波を発生させ、エバネッセント波と上記免疫複合体との反応に起因する検体溶液の蛍光の光量を受光素子により検出して、検体溶液中の生体分子量を分析する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、従来の抗原測定法では面発光する蛍光の光量を検出する必要があり、検出感度に限界が生じて、極微量の検体溶液中の生体分子分析には不向きであった。そこで、本発明者等は、上記抗原測定法を高性能化し精度を大幅に向上させる技術について開示している(例えば、特許文献2参照)。この技術の要点は、以下のようなものである。すなわち、上記光導波路層で全反射する入射光(例えばレーザ光)により発生するエバネッセント波が上記抗体固定化膜において上記免疫複合体に一部吸収され、この抗体固定化膜に入射した光はその強度が減衰し全反射して反射光になる。ここで、この反射光強度の減衰量は上記免疫複合体の量と強い相関がある。そこで、上記反射光の強度を計測することにより免疫複合体量および抗原量を測定するものである。そして、極微量の検体溶液中の物質を高感度かつ高精度で分析することが可能な抗体チップ、抗原測定装置、抗原測定方法、及び抗体チップの取り扱いを容易にするパレットと抗体チップ梱包体について提案している。
【特許文献1】特開平8−285851号公報
【特許文献2】特開2005−99011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2に記載の技術に基づいた抗原測定法では、その実用化において、被測定物が溶液でありしかもその中の極微量の生態物質の分析となることから、抗原抗体反応により抗体チップのセル内で生成される免疫複合体が高い精度で再現性よく制御されることが重要になる。そこで、抗原測定における抗体固定化膜上の状態が安定化するように、抗体チップにおけるセル内に残液がなく清浄にすることが必須になってくる。
【0006】
また、上記実用化においては、その測定作業が簡便であり熟練を要しないようにすることが重要になる。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであって、測定の再現性および作業性に優れその実用化が容易になる抗体チップ、抗原測定装置及び液体排出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の抗体チップは、透光性を有する基板と、前記基板の主面に形成された抗体固定化層と、前記基板内に光を入射させ、前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素と、前記基板の主面に前記抗体固定化層を取り囲むように形成された撥水層と、一端が前記基板の主面に固着され前記撥水層を取り囲むようにしてセルを形成する枠体とからなり、前記枠体によって囲繞された基板表面が、前記抗体固定化層及び撥水層領域からなる構成になっている。
【0009】
そして、本発明の光源測定装置は、透光性を有する基板、前記基板の一方の主面に形成された抗体固定化層、前記基板内に光を入射させ前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素、および一端が前記基板の一方の主面に固着され前記抗体固定化層を囲うことによりセルを形成する枠体、を備える抗体チップと、前記基板の他方の主面から前記一対の光学要素の入射側光学要素に向けて前記光を入射させる発光素子と、前記基板の他方の主面から前記一対の光学要素の出射側光学要素を介して出射する前記光を検出する受光素子と、前記抗体チップのセル内部に所要の溶液を注入する溶液注入手段および前記溶液をセル外部に排出する溶液排出手段と、を有し、前記溶液排出手段を構成し前記セル内部の溶液を排出する排出チューブが前記セル内部に進入退出自在に構成されている。
【0010】
また、本発明の抗原測定装置からの液体排出方法は、透光性を有する基板と、前記基板の主面に形成された抗体固定化層と、前記基板内に光を入射させ、前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素と、前記基板の主面に前記抗体固定化層を取り囲むように形成された撥水層と、一端が前記基板の主面に固着され前記撥水層を取り囲むようにして円筒状のセルを形成する枠体と、前記枠体によって囲繞された基板表面が、前記抗体固定化層及び撥水層領域からなる抗体チップの前記セルから液体を排出する方法であって、
排出チューブを前記セル内部に、前記基板と接触しないように配置し、前記排出チューブに接続された減圧装置を駆動して前記セル内部に存在する液体を排出する。かかる際にセルの形状が円筒状である場合には、前記排出チューブは、セルの中央部に配置する。一方、セルの形状が平面部もしくは第1の曲面部と、前記曲面部より曲率半径が小さい第2の曲面部もしくは角部からセル壁面が形成されている場合には、この第2の曲面部もしくは角部に近接して前記排出チューブを配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の構成によれば、測定の再現性および作業性に優れその実用化が容易になる抗体チップおよび光源測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。なお、互いに同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略される。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なる。
【0013】
図1に示すように、光源測定装置1は、その主要構成として、濃度計測装置2、抗体チップ3、セル洗浄装置4を備えている。ここで、濃度計測装置2は、抗体チップ3に採取される検体溶液中の抗原濃度を測定する。そして、セル洗浄装置4は、基板37の主面上に形成された抗体固定化層を有する抗体チップ3のセル39内を清浄にし、セル内に溶液等の残液がなく抗体固定化層上を安定化した状態にする。以下に、上記濃度計測装置2、抗体チップ3、セル洗浄装置4の構造についてそれぞれに詳細に説明する。
【0014】
(濃度計測装置の構成)
濃度計測装置2は、図1に示すように一方の側面に設けられた光源モジュール5、他方の側面に設けられた検出器6を備える。そして、これらの上方にチップキャリア7が載置されるようになっており、このチップキャリア7に複数の抗体チップ3が収納される。ここで、チップキャリア7が載置されると、容器蓋8が閉じられようになっている。そして、光源モジュール5からレーザ光が出射し、入射光9として抗体チップ3内を全反射しその反射光10の強度が検出器6で計測されるようになっている。
【0015】
(抗体チップ)
本実施形態の抗体チップ3は、図2および図3に示すように、内部を光が全反射で伝播可能な光導波路層を構成する基板37と、この光導波路層の全反射させる表面の少なくとも一部に形成される抗体固定化層38と、を具備する抗体チップである。そして、好ましくは、上記抗体固定化層38はセル39内に形成されている。そして、このセル39は、枠体40に囲われた構造で上記基板37表面に固着されており、表面が抗体固定化層38よりも高くなるように、しかも抗体固定化層38の少なくとも一部が露出するように開口して反応ホール41を形成する撥水性膜42を具備する。この撥水性膜42は抗体固定化層38を取り囲んでいる。
【0016】
上記枠体40は、光導波路層を形成する基板37の全反射面を構成する主面の表面に、開口する一方の端部を塞ぐようにUV硬化性接着剤によって直接接着されている。なお、この枠体40は、後述するように反応ホール41内に投入される試薬・検体溶液・洗浄液等の薬液が意図しない時点において外部に漏出しないように、測定エリアを囲うものである。したがって、枠体40の上端部によって規定される基板表面からの高さは、撥水性膜42よりも高く形成されている。
【0017】
そして、光導波路層を構成する上記基板37の表面における、上記セル39の両側(抗体チップ3の長手方向の両側)には、入射側グレーティング43aと反射側グレーティング43bが形成されている。ここで、上記グレーティング43a、43bは上述した撥水性膜42で被覆されていると好適である。
【0018】
上記抗体チップ3において、基板37は、光透過性の材料からなるが例えば硼珪酸ガラスを用いると好適である。
【0019】
上記抗体固定化層38は、例えば抗体を架橋高分子で固定化した構造を有する。抗体固定化層38で用いられる架橋高分子としては、例えば光架橋性ポリビニルアルコールのような水素結合性の官能基を含む高分子を挙げることができる。
この抗体固定化層38は、たんぱく質からなり、後述するように検体と抗原抗体反応を起こす第1の抗体を固定化する物質膜である。なお、抗体は一般的に親水性であるので、抗体固定化層38も親水性を有しているものが好ましい。そして、その厚み(光導波路層表面から抗体固定化層の表面までの距離)は、好ましくは30nm〜500nm、更に好ましくは100nm以下、特に好ましくは80nm以下である。
【0020】
上記枠体40は、黒等の有色樹脂で形成することが好ましい。樹脂材料は、試薬、溶媒等との反応性、相溶性がなく、成形性が良いものであれば特に制限はなく、キットの構成に応じて、アクリル樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂等を選択し、使用することができる。
【0021】
そして、上記撥水性膜42は、基板37の全反射面を構成する主面の表面のうち、抗体固定化層38の少なくとも一部、及び枠体40が設けられている領域以外の部分をくまなく覆うようにスクリーン印刷等により張り付けられている。ここで、撥水性膜42は枠体40のセル内壁40aに密着している。この撥水性膜42には、基板37下方から入射される光を外部に漏らさないように、遮光性がある、黒等の有色樹脂を用いるのが好ましい。そして、撥水性膜42は、キットとの反応性、相溶性がなく、撥水性が良いものであれば特に制限はないが、特にフッ素系樹脂が好適である。
【0022】
上記入射側グレーティング43aおよび反射側グレーティング43bは、例えば酸化チタン(TiO2)、酸化錫(SnO2)、酸化亜鉛、ニオブ酸リチウム、ガリウム砒素(GaAs)、インジウム錫酸化物(ITO)、ポリイミド等で形成することが好ましい。これ等のグレーティング43aおよび43bは、抗体チップ3にレーザ光を導入し、また反射させるための光学的機能を有しているが、他の部材を用いて同様の機能を実現できるならば、特に備える必要はない。また、同様の機能を実現できるものであればプリズム等の他の光学要素が配置されていてもよい。
【0023】
上述したような抗体チップ3において、セル39は、その内部に抗体固定化層38が設けられ、後述するように内部の反応ホール41内に試薬・検体溶液・洗浄液等の溶液が注入される。また、このセル39から上記溶液の排出が行われる。ここで、上述したように、抗原測定におけるセル39内を清浄化し抗体固定化層38上の状態を安定化するために、セル39内を洗浄処理する工程において、上記溶液がセル39内に残存しないようにすることが重要である。そして、この洗浄処理の作業が熟練を要することなく簡便にできることが望まれる。
【0024】
このためには、上述したようにセル39内は、親水性の抗体固定化層38以外はすべて撥水性材料で構成すると共に、その内部の形状が重要となる。その好適で標準的な形状は、図2および図3に示したように、抗体固定化層38および枠体40のセル内壁40aの上面形状が同心円になり、撥水性膜42の上面形状がドーナツ状になっていることである。
【0025】
セル内部をこのような形状・配置とすることによって、セル内部には比較的溶液が残存する頻度が低く、また、溶液が残存したとしても、比較的中央領域に集中する傾向にあるため、洗浄工程における溶液の排出のための吸入端部はセル39の中央領域におかれ、効率的に排除することができる。
【0026】
上記実施の形態では、セル39の断面形状を円形としたが、これ以外にも種々の形状をとることが可能である。この変形例について図4および図5を参照して説明する。ここで、図4および図5はセル39の上面図となっている。
【0027】
図4(a)においては、セル内壁40aに1つの角隅部が形成される以外は図2と同様に円形の抗体固定化層38が形成され、それを取り囲むようにセル内壁40aに密着して撥水性膜42が基板37に接着して形成されている。
図4(b)においては、セル内壁40aの1箇所に円弧状の後退部、すなわちセル内壁が円弧状に引っ込んでいる部分が形成される場合である。
図4(c)においては、セル内壁40aの2箇所に円弧状の後退部が形成される場合である。
図4(d)においては、セル内壁40aの3箇所に円弧状の後退部が形成される場合である。
図5(a)においては、セル内壁40aの4箇所に円弧状の後退部が形成される場合である。
図5(b)においては、セル内壁40aが楕円形に形成される場合である。
図5(c)においては、セル内壁40aが抗体固定化層38を中心とした円形領域から放物曲線に類似した形状の後退部が形成される場合である。
更に、図5(d)においては、セル内壁40aが平面部と曲面部もしくは角部との組み合わせによって形成された形状となっている場合である。
【0028】
これらのセルにおいて、セル内部には、センシングエリア38と、撥水性膜42と、撥水性膜42より、親水性の高いセル内壁面40aが存在しており、このセル内部に残存する溶液は、溶液に加わる重力とセル内部の表面の材料との親和性とのバランスにおいて、疎水性膜との接触面積が最も少なくなる形状に集まることとなる。そして、セル内壁が、平面部もしくは曲面部と、前記曲面部より曲率半径が小さい曲面部もしくは角部が近接している場合、溶液は、曲率半径が小さい曲面部もしくは角部に集合する傾向にある。従って吸引用のピペット先端をこれらの曲率半径の小さな曲面部付近もしくは角部付近に近接させて溶液を吸引することにより効率的に吸引作業を行うことができる。
【0029】
(セル洗浄装置)
セル洗浄装置4は、上記抗体チップ3のセル39内に溶液を注入するための溶液注入手段として、図1に示すように、注入ポンプ44に接続された注入チューブ45を備えている。この注入ポンプ44としてはシリンジポンプ等が好適である。また、注入する溶液を選択するため、第1溶液槽46や第2溶液槽47と注入ポンプ44との間に接続された溶液選択バルブ48を有する。ここで、例えば、第1溶液槽46には界面活性剤を含む洗浄液49を入れ、第2溶液槽47には緩衝液50を入れ、測定手順の必要に応じてどちらの溶液をセル39の反応ホール41に注入するかを自動的に選択することができる。
ここで、注入チューブ45の注入口となる下端部の位置としては、セル39内において抗体固定化層38の真上近傍に位置することが好ましい。このようにすることで、注入する溶液が抗体固定化層38上に確実に滴下される。
【0030】
セル39内から溶液を排出するための溶液排出手段として、図1に示すように、排出ポンプ51に接続された排出チューブ52を備えている。この排出ポンプ51としては、バイモルフポンプ等を使用するのが好ましい。ここで、排出ポンプ51の排出量は、12L(リットル)/minが好適である。なお、上記排出ポンプ51あるいは排出チューブ52は、図1の点線で記したように複数個そなえるようになっていてもよい。
上記排出チューブ52の先端の例えばピペットのような吸入端部52aの位置としては、枠体40のセル内壁40aの近傍に位置することが好ましい。このようにすることで、反応ホール41から溢れた溶液は、撥水性膜42が撥水性のため、枠体40のセル内壁40a側へ流れ、セル内壁40aにある排出チューブ52から確実に排出される。
【0031】
上述したように、極微量の生体物質の測定における高い再現性および作業性を確保する上で、上記洗浄液等の溶液をセル39内に残存させないことがきわめて重要となる。そこで、上記排出チューブ52の吸入端部52aの形状が重要になる。この好適な態様について図6〜図8を参照して説明する。ここで、図6〜図8は吸入端部52aの縦断面図である。
【0032】
図6(a)〜図6(d)は標準的な吸入端部52aの構造を示す。この吸入端部52aはその横断面が円となる円柱状であって、その先端面は平面状の平坦面54を有している。ここで、図6(a)では、吸入孔53が吸入端部52aの中心軸に沿って穿設されている。図6(b)では、吸入孔53が吸入端部52aの外径側に偏芯して穿設されている。図6(c)では、2つの吸入孔53a、53bが穿設されている。そして、図6(d)では、3つの吸入孔53a、53b、53cが穿設されている。
【0033】
ここで、上記吸入端部52aの外径は、図2に示した枠体40のセル内壁40aの内径よりも小さい。そして、吸入端部52aの外径およびセル内壁40aの内径の寸法差が0.02mm〜10mmの範囲にあると好適である。但し、吸入端部52aの外径は反応ホール41の口径よりも大きくなるように設定する。このようにすることで、上記洗浄においてセル39内の溶液の排出が極めて容易になりその作業性が向上する。また、排出チューブ52を用いた排出作業において、吸入端部52aが抗体固定化層38に摺接することがなく、抗体固定化層38の機械的な損傷は全く生じない。
【0034】
また、上記吸入端部52aを有する排出チューブ52を用いた排出作業において、吸入端部52aの平坦面54は、好ましくは基板37の主面に平行にされ、抗体固定化層38の表面からの離間距離が0.01mm〜5mmになるように配置される。このような離間距離に配置することで、セル39内の溶液が完全に排出され残液がなく、セル39内が清浄になり抗体固定化層38の表面が安定化する。また、排出チューブ52が、セル39の表面に接触すると、セル39が移動してしまい、その結果測定精度が低下してしまう。そのために、排出チューブ52の先端は、セル39に接触しない程度に近接させることが好ましい。測定装置の位置制御の精度を考慮すると、上記離間距離は下限が0.01mm程度であることが好ましい。
【0035】
この吸入端部52aは、種々の形状をとることが可能である。図7(a)および図7(b)では、その下端部が例えば半球状に抉られた凹陥部55を有する構造になっている。また、場合によっては、図7(c)および図7(d)に示すように、吸入端部52aの下端部が僅かに凸状に形成された凸部56を有する構造になる。この場合、更に、上記変形例として、図8(a)および図8(b)では、吸入端部52aの下端部の外周部が面取りされ切り欠き部57を有する構造になっている。更には、図8(c)および図8(d)に示すように、その下端部がテーパ状にされてテーパ部58を有する構造になる。
ここで、上記吸入端部52aはその横断面が、図4および図5で示したセル39における枠体40のセル内壁40aの開口形状に対して相似形になるように形成されると好適である。
【0036】
(抗原測定方法)
次に、図9、図10および図11等を参照して、本発明の実施形態に係る抗体チップ3を用いた検体溶液中の特定物質の抗原測定方法について説明する。
【0037】
図9のステップS10:抗体チップ3の反応ホール41底部の基板37表面には、図10(a)に示すように、タンパク質、遺伝子等の測定対象となる抗原60aを特異的に認識する1次抗体38aからなる抗体固定化層38が形成されている。この反応ホール41内の抗体固定化層38上に抗原60aを含む検体溶液60を滴下すると、図10(b)に示すように、抗原60aが1次抗体38aと結合し、1次抗体−抗原複合体を形成する。
【0038】
ステップS11:次に、1次抗体38aに結合した抗原60a以外の検体溶液60を、界面活性剤を含むリン酸バッファ(PBS)等の洗浄液によって洗浄する。この洗浄工程では、図1に示した容器蓋8を開き、上述したセル洗浄装置4を用いて、図11(a)に示すように注入チューブ45を抗体チップ3の枠体40内に配置し、セル39から零れ出ない所定の量の洗浄液を注入する。引き続いて、上記注入チューブ45を枠体40から引き離した後に、図11(b)に示すように、今度は排出チューブ52の吸入端部52aを上記枠体40内に挿入し上記洗浄液を吸引して排出させる。ここで、吸入端部52aは、図6〜図8に示したような構造のものを、図2〜図5に示したセル39の構造に合わせて、適宜に使用する。このようにして、好適な洗浄が簡便な作業で行えるようにする。
なお、上記洗浄工程においては、セル洗浄装置4における注入チューブ45および排出チューブ52の移動配置は自動的に行えるようにするとよい。
【0039】
上記洗浄工程においては、抗体固定化層38上に形成された免疫複合体である上記1次抗体38aに結合している抗原60aが擾乱されないように洗浄液を吸引し排出することが極めて重要になる。そこで、セル洗浄装置4で説明したような洗浄方法をとり、セル39内に残液もなく清浄にして抗体固定化層38を安定化させる。
【0040】
ステップS12:次に、酵素標識されている2次抗体溶液61を滴下する。すると、図10(c)に示すように、2次抗体61aは、1次抗体38aとは別の部位で抗原60aにさらに結合する。その結果、1次抗体−抗原−2次抗体複合体が形成される。なお、2次抗体61aを標識している標識酵素として、例えば酸化還元酵素としてペルオキシダーゼ(POD)等を用いることができる。
【0041】
ステップS13:次に、複合体を形成しなかった2次抗体61aを含む2次抗体溶液61を、界面活性剤を含むPBS等の洗浄液によって再洗浄する。この洗浄工程においても、ステップS11で説明したのと同様な洗浄方法が取られる。
【0042】
ステップS14:次に、洗浄に使用した界面活性剤を取り除き、安定化させるためにPBS等のみを緩衝液としてセル39内に注入する。そして、この緩衝液をセル39から排出させる。この緩衝液の注入/排出は、ステップS11で説明したのと全く同様な方法で行えばよい。
【0043】
上記ステップS13の洗浄工程および上記緩衝液の注入/排出の工程において、抗体固定化層38上に形成された免疫複合体である上記1次抗体−抗原−2次抗体複合体が擾乱されないように洗浄液等の溶液を吸引し排出することができる。そして、セル39内に残液もなく清浄にして抗体固定化層38を安定化させることができる。
【0044】
ステップS15:この時点で、抗体チップ3の入射側グレーティング43aに向けて半導体レーザ25からレーザ光等を照射して、出射側グレーティング43bからの出射光を受光素子で受光し、基準光強度として測定する。
【0045】
ステップS16:次に、図10(d)に示すように、セル39に発色試薬溶液62を滴下する。発色試薬溶液62としては、例えばpH=4.9の緩衝液1リットル中に、酢酸80ミリモル、テトラメチルベンジジン(TMBZ)1.13ミリモル、過酸化水素(H2O2)1.91ミリモル、ジメチルスルホキシド(DMSO)1%未満を含むものを使用するのが好ましい。すると、POD等の標識酵素と、標識酵素の基質であるH2O2との酸化還元酵素反応によりラジカル酸素原子(O*)が生成される。この酵素反応により生成されるO*により発色試薬が発色する酵素反応産物62aを生成する。
【0046】
ステップS17:このような状態で、抗体チップの入射側グレーティング43aに向けて半導体レーザ25からレーザ光等を照射して、出射側グレーティング43bからの反射光を受光素子で受光し、発色後光強度を測定する。
【0047】
ステップS18:ステップS15で測定した基準光強度とステップS17で測定した発色後光強度との差により検体溶液60中の測定対象となる抗原60aの濃度を算出する。
【0048】
この測定方法を用いて光強度を連続して測定すると、ステップS14からステップS15までの間の所定の時点の値を基準光強度、ステップS16後の所定の時点の値を発色後光強度として採用して濃度を算出することができる。したがって、無抗原溶液を用いた対象実験等をして基準光強度を測定する必要がなくなる。
【0049】
本発明の抗体チップ3は、反応ホール41内で抗原抗体反応及び発色反応を起こさせるので、検体溶液60は1マイクロリットル程度あれば十分測定できる。
【0050】
本実施形態では、上述した構造の抗体チップ3を用い、また、上記セル洗浄装置4を使用して抗体チップ3のセル内を洗浄することにより、抗体固定化層に機械的な損傷を全く与えることなく、抗体安定化層上を安定化させることができる。そして、抗体チップにおけるセル内を残腋がなく清浄にすることにより、抗原抗体反応により抗体チップのセル内で生成される免疫複合体が高い精度で再現性よく制御されるようになる。このようにして、極微量の検体溶液中の生体物質を高感度、高精度でしかも高い再現性の下に分析することが可能になる。
また、濃度計測装置2による抗原濃度の測定が極めて簡便なり、しかも、抗体チップ3のセル内の溶液除去を含む洗浄作業が簡便になり、抗原測定の作業が熟練を要しないでルーチンワーク化できる。このようにして、本発明の抗原測定は、測定の再現性および作業性に優れ、その実用化が極めて容易になる。
そして、抗原抗体反応を用いる測定において、蛍光ではなく参照光の増減で検体の濃度測定を行なうことから、新生児・小動物に対する検査の場合など、検体の量を多く確保しにくい場合に活用できる。
【0051】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0052】
例えば、上記セル洗浄装置4を用いた抗体チップ3のセル39内の洗浄作業あるいは溶液の注入/排出作業は、本実施形態で説明した場合と異なり、濃度計測装置2外においてチップキャリア7に載置された複数の抗体チップ3に対し行うようにしてもよい。
【0053】
また、抗体チップ3を載置する部材はチップキャリア7に限定されるものでなく、例えば本発明者らが特許文献2において説明したパレット上に複数の抗体チップ3を載置して上述したような抗原測定を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態にかかる光源測定装置を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる抗体チップを示す上面図である。
【図3】図2のY−Y矢視図である。
【図4】本発明の実施形態にかかる抗体チップのセルを示す上面図である。
【図5】本発明の実施形態にかかる抗体チップの別のセルを示す上面図である。
【図6】本発明の実施形態にかかる排出チューブの先端を示す縦断面図である。
【図7】本発明の実施形態にかかる別の排出チューブの先端を示す縦断面図である。
【図8】本発明の実施形態にかかる更に別の排出チューブの先端を示す縦断面図である。
【図9】本発明の実施形態にかかる抗体チップによる抗原測定方法の工程を示すフロー図である。
【図10】本発明の実施の形態にかかる抗体チップによる抗原測定方法を説明する図である。
【図11】本発明の実施形態にかかる係る抗体チップのセル内の溶液の注入/排出方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1…光源測定装置、2…濃度計測装置、3…抗体チップ、4…セル洗浄装置、5…光源モジュール、6…検出器、7…チップキャリア、8…容器蓋、9…入射光、10…反射光、11…装置ケース、14…基板載置面、15…基板載置領域、16…光入射通路、16b…入射開口部、17…光反射通路、17b…反射開口部、18…非検出光除去通路、18a…非検出光反射開口部、19…保護ガラス、20…基板載置用突起、21…位置決め突起、22…キャリア位置決めピン、23…液溜め溝、24…水没シート、25…半導体レーザ、26…コリメートレンズ、37…基板、38…抗体固定化層、38a…1次抗体、39…セル、40…枠体、40a…セル内壁、41…反応ホール、42…撥水性膜、43a…入射側グレーティング、43b…反射側グレーティング、44…注入ポンプ、45…注入チューブ、46…第1溶液槽、47…第2溶液槽、48…溶液選択バルブ、49…洗浄液、50…緩衝液、51…排出ポンプ、52…排出チューブ、52a…吸入端部、53…吸入孔、54…平坦面、55…凹陥部、56…凸部、57…切り欠き部、58…テーパ部、60…検体溶液、60a…抗原、61…2次抗体溶液、61a…2次抗体、62…発色試薬溶液、62a…酵素反応産物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する基板と、
前記基板の主面に形成された抗体固定化層と、
前記基板内に光を入射させ、前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素と、
前記基板の主面に前記抗体固定化層を取り囲むように形成された撥水層と、
一端が前記基板の主面に固着され前記撥水層を取り囲むようにしてセルを形成する枠体と、を備えた抗体チップであって、
前記枠体によって囲繞された基板表面が、前記抗体固定化層及び撥水層領域からなることを特徴とする抗体チップ。
【請求項2】
透光性を有する基板と、
前記基板の主面に形成された抗体固定化層と、
前記基板内に光を入射させ、前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素と、
前記基板の主面に前記抗体固定化層を取り囲むように形成された撥水層と、
一端が前記基板の主面に固着され前記撥水層を取り囲むようにしてセルを形成する枠体であって、前記枠体からなる前記セルの内壁が円筒状部分と、角部部分もしくは前記円筒状部分の曲率半径より小径の曲率半径を有する曲部部分とからなる枠体と、
前記枠体によって囲繞された基板表面が、前記抗体固定化層及び撥水層領域からなることを特徴とする抗体チップ。
【請求項3】
透光性を有する基板と、
前記基板の主面に形成された抗体固定化層と、
前記基板内に光を入射させ、前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素と、
前記基板の主面に前記抗体固定化層を取り囲むように形成された撥水層と、
一端が前記基板の主面に固着され前記撥水層を取り囲むようにしてセルを形成する枠体であって、前記枠体からなる前記セルの内壁が平面部分と、曲面部分とからなる枠体と、
前記枠体によって囲繞された基板表面が、前記抗体固定化層及び撥水層領域からなることを特徴とする抗体チップ。
【請求項4】
前記枠体は、遮光性のアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂あるいはアクリル樹脂から成ることを特徴とする請求項1に記載の抗体チップ。
【請求項5】
前記撥水層は、遮光性を有するフッ素系樹脂材料から成ることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の抗体チップ。
【請求項6】
透光性を有する基板、前記基板の一方の主面に形成された抗体固定化層、前記基板内に光を入射させ前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素、および一端が前記基板の一方の主面に固着され前記抗体固定化層を囲うことによりセルを形成する枠体、を備える抗体チップと、
前記基板の他方の主面から前記一対の光学要素の入射側光学要素に向けて前記光を入射させる発光素子と、
前記基板の他方の主面から前記一対の光学要素の出射側光学要素を介して出射する前記光を検出する受光素子と、
前記抗体チップのセル内部に所要の溶液を注入する溶液注入手段および前記溶液をセル外部に排出する溶液排出手段と、
を有し、
前記溶液排出手段を構成し前記セル内部の溶液を排出する排出チューブが前記セル内部に進入退出自在に構成されていることを特徴とする抗原測定装置。
【請求項7】
前記排出チューブの先端面は、平面状であり、前記セル内部に進入させて固定したとき、前記基板の一方の主面に平行に配置されることを特徴とする請求項6に記載の抗原測定装置。
【請求項8】
前記排出チューブの先端は円柱状であり、前記排出チューブの先端の外径が前記セルの内壁の径より0.02mm〜10mmの範囲で小さくなっていることを特徴とする請求項6に記載の抗原測定装置。
【請求項9】
透光性を有する基板と、
前記基板の主面に形成された抗体固定化層と、
前記基板内に光を入射させ、前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素と、
前記基板の主面に前記抗体固定化層を取り囲むように形成された撥水層と、
一端が前記基板の主面に固着され前記撥水層を取り囲むようにして円筒状のセルを形成する枠体と、を備えて抗体チップであって、
前記枠体によって囲繞された基板表面が、前記抗体固定化層及び撥水層領域からなることを特徴とする抗体チップの前記セルから液体を排出する方法であって、
排出チューブを前記円筒状セルの中央部に、前記基板と接触しないように配置し、前記排出チューブに接続された減圧装置を駆動して前記セル内部に存在する液体を排出することを特徴とする抗原測定装置からの液体の排出方法。
【請求項10】
透光性を有する基板と、
前記基板の主面に形成された抗体固定化層と、
前記基板内に光を入射させ、前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素と、
前記基板の主面に前記抗体固定化層を取り囲むように形成された撥水層と、
一端が前記基板の主面に固着され前記撥水層を取り囲むようにして平面部もしくは第1の曲面部と、前記曲面部より曲率半径が小さい第2の曲面部もしくは角部からセル壁面が形成されている枠体と、を備えて抗体チップであって、
前記枠体によって囲繞された基板表面が、前記抗体固定化層及び撥水層領域からなることを特徴とする抗体チップの前記セルから液体を排出する方法であって、
排出チューブを前記セルの第2の曲面部または角部に、前記基板と接触しないように配置し、前記排出チューブに接続された減圧装置を駆動して前記セル内部に存在する液体を排出することを特徴とする抗原測定装置からの液体の排出方法。
【請求項1】
透光性を有する基板と、
前記基板の主面に形成された抗体固定化層と、
前記基板内に光を入射させ、前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素と、
前記基板の主面に前記抗体固定化層を取り囲むように形成された撥水層と、
一端が前記基板の主面に固着され前記撥水層を取り囲むようにしてセルを形成する枠体と、を備えた抗体チップであって、
前記枠体によって囲繞された基板表面が、前記抗体固定化層及び撥水層領域からなることを特徴とする抗体チップ。
【請求項2】
透光性を有する基板と、
前記基板の主面に形成された抗体固定化層と、
前記基板内に光を入射させ、前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素と、
前記基板の主面に前記抗体固定化層を取り囲むように形成された撥水層と、
一端が前記基板の主面に固着され前記撥水層を取り囲むようにしてセルを形成する枠体であって、前記枠体からなる前記セルの内壁が円筒状部分と、角部部分もしくは前記円筒状部分の曲率半径より小径の曲率半径を有する曲部部分とからなる枠体と、
前記枠体によって囲繞された基板表面が、前記抗体固定化層及び撥水層領域からなることを特徴とする抗体チップ。
【請求項3】
透光性を有する基板と、
前記基板の主面に形成された抗体固定化層と、
前記基板内に光を入射させ、前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素と、
前記基板の主面に前記抗体固定化層を取り囲むように形成された撥水層と、
一端が前記基板の主面に固着され前記撥水層を取り囲むようにしてセルを形成する枠体であって、前記枠体からなる前記セルの内壁が平面部分と、曲面部分とからなる枠体と、
前記枠体によって囲繞された基板表面が、前記抗体固定化層及び撥水層領域からなることを特徴とする抗体チップ。
【請求項4】
前記枠体は、遮光性のアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂あるいはアクリル樹脂から成ることを特徴とする請求項1に記載の抗体チップ。
【請求項5】
前記撥水層は、遮光性を有するフッ素系樹脂材料から成ることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の抗体チップ。
【請求項6】
透光性を有する基板、前記基板の一方の主面に形成された抗体固定化層、前記基板内に光を入射させ前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素、および一端が前記基板の一方の主面に固着され前記抗体固定化層を囲うことによりセルを形成する枠体、を備える抗体チップと、
前記基板の他方の主面から前記一対の光学要素の入射側光学要素に向けて前記光を入射させる発光素子と、
前記基板の他方の主面から前記一対の光学要素の出射側光学要素を介して出射する前記光を検出する受光素子と、
前記抗体チップのセル内部に所要の溶液を注入する溶液注入手段および前記溶液をセル外部に排出する溶液排出手段と、
を有し、
前記溶液排出手段を構成し前記セル内部の溶液を排出する排出チューブが前記セル内部に進入退出自在に構成されていることを特徴とする抗原測定装置。
【請求項7】
前記排出チューブの先端面は、平面状であり、前記セル内部に進入させて固定したとき、前記基板の一方の主面に平行に配置されることを特徴とする請求項6に記載の抗原測定装置。
【請求項8】
前記排出チューブの先端は円柱状であり、前記排出チューブの先端の外径が前記セルの内壁の径より0.02mm〜10mmの範囲で小さくなっていることを特徴とする請求項6に記載の抗原測定装置。
【請求項9】
透光性を有する基板と、
前記基板の主面に形成された抗体固定化層と、
前記基板内に光を入射させ、前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素と、
前記基板の主面に前記抗体固定化層を取り囲むように形成された撥水層と、
一端が前記基板の主面に固着され前記撥水層を取り囲むようにして円筒状のセルを形成する枠体と、を備えて抗体チップであって、
前記枠体によって囲繞された基板表面が、前記抗体固定化層及び撥水層領域からなることを特徴とする抗体チップの前記セルから液体を排出する方法であって、
排出チューブを前記円筒状セルの中央部に、前記基板と接触しないように配置し、前記排出チューブに接続された減圧装置を駆動して前記セル内部に存在する液体を排出することを特徴とする抗原測定装置からの液体の排出方法。
【請求項10】
透光性を有する基板と、
前記基板の主面に形成された抗体固定化層と、
前記基板内に光を入射させ、前記抗体固定化層下を照射した後に前記基板外に前記光を出射させる一対の光学要素と、
前記基板の主面に前記抗体固定化層を取り囲むように形成された撥水層と、
一端が前記基板の主面に固着され前記撥水層を取り囲むようにして平面部もしくは第1の曲面部と、前記曲面部より曲率半径が小さい第2の曲面部もしくは角部からセル壁面が形成されている枠体と、を備えて抗体チップであって、
前記枠体によって囲繞された基板表面が、前記抗体固定化層及び撥水層領域からなることを特徴とする抗体チップの前記セルから液体を排出する方法であって、
排出チューブを前記セルの第2の曲面部または角部に、前記基板と接触しないように配置し、前記排出チューブに接続された減圧装置を駆動して前記セル内部に存在する液体を排出することを特徴とする抗原測定装置からの液体の排出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−248361(P2007−248361A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74597(P2006−74597)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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