抗体ライブラリーをスクリーニングする方法
本願発明は、一つまたは一つ以上のリガンドに関する結合パートナー候補である一つまたは一つ以上のメンバーを同定および/または選択するために、分子ライブラリーをスクリーニングする方法であって、以下の工程、すなわち;(a) 溶液内の発現ライブラリーと、一つまたは一つ以上のリガンドとを接触させ、(b) 当該発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーに結合したリガンドを固相上に固定し、および(c) リガンドの存在を検出し、それにより、当該リガンドに関する結合パートナー候補である当該発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーの存在を検出する、工程を含む方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、そのリガンドを介してアフィニティーライブラリーのメンバーを単離するための新規の方法に関する。 具体的には、本発明は、一つまたは一つ以上のリガンドに関する結合パートナー候補、特に、細胞の表面に関する結合パートナー候補である一つまたは一つ以上のメンバーを同定または選択するために、分子のライブラリー(アフィニティーライブラリーのメンバー)をスクリーニングする方法に関する。 本願発明の好ましい実施態様は、固相選択工程とリガンドの存在を検出するためのPCRとの組み合わせを利用した、ライブラリーの改善されたスクリーニング方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ライブラリーのスクリーニングは、今や、創薬やバイオテクノロジーの分野において、日常的に利用されている手法である(Emili, A. Q, and Cagney, G. (2000) Nat. Biotechnol. 18, 393-397; Li, M. (2000) Nature Biotechnol. 18, pp.1251-1256)。 その主な利用目的の一つに、臨床的に関心のあるタンパク質の同定がある(Burton, D. R. (2002) Nature Rev. Immunol. 2, pp.706-713)。 そのために、数百万個もの異なるメンバー分子(通常は、タンパクまたはペプチドのメンバー)を擁するライブラリーが、関心のあるリガンドに対する親和性についてスクリーニングされる(Winter, G. P. et al, WO 90/05144; McCafferty, J. et al., WO 92/01047; Breitling, F. et al, WO 93/01288)。 このリガンドそれ自身として、細胞(または細胞表面分子)、分子または分子のライブラリー、例えば、生体の真核細胞、タンパク質、ペプチドまたは低分子化合物などを用いることができる。
【0003】
これまでに幾つかのスクリーニング法が紹介されているにもかかわらず、見込みのある薬剤候補、特に、試行するリガンドを作出するために、速度、信頼性、処理量および再現性に関して新規の方法または改善された方法を開発する必要がある。 加えて、スクリーニング法を評価する上で、費用効果は重要な要素である。 目下のところ、in vivoおよびin vitroのライブラリーからメンバーを直接的に同定するために利用可能な幾つかの選択システムがある。 薬学的に重要な分子を同定するためにデザインされた選択システムの多くは、共通した特徴点、すなわち、ライブラリーの各メンバーの表現型とその特異的な遺伝子型との連関性を特徴としている。 このシステムは、ファージコートタンパク質、細胞膜またはリボ核酸-タンパク質複合体のいずれかを介する。 この連関性は、これらスクリーニングシステムの作用を引き出す上で必須であり、例えば、ファージ (Winter, G. P. et al, WO 90/05144; McCafferty, J. et al, WO 92/01047; Breitling, F. et al, WO 93/01288; Ladner, R. C, et al, WO90/02809; Markland, W. et al, WO 92/15679; Harrison, J. L. et al (1996) Meth. Enzymol. 267, 83-109)、細菌 (Samuelson, P. et al (2002) J. Biotechnol. 96, 129-154)、酵母 (Wittrup, K. D. et al, WO 99/36569; Wittrup, K. D. (2001) Curr. Opin. Biotechnol. 12, 395-399; Lee, S. Y. et al (2003) Trends in Biotechnol. 21, 45-52)、または、リボソームディスプレイ (Kawasaki, G., WO91/05058; Mattheakis, L. C. etal, WO95/11922; Pluckthun, A. et al., WO 98/48008; Schaffitzel, C. et al (1999) J. Immunol. Meth. 231, 119-135; Coia, G. et al. (2001) J. Immunol. Meth. 254, 191-197)、コバレントディスプレイ (Szostak, J. W. et al. WO 98/31700; Szostak, J. W. et al. WO 00/47775; Lindqvist, B. H. et al. WO 98/37186; Amstutz, P. et al. (2001) Curr. Opin. Biotechnol. 12, 400-405; Wilson, D. S. et al. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 3750-3755)、シス-ディスプレイ (McGregor, D. et al. WO 04/022746; Odegrip, R. et al. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 2806-2810)、および細菌ツーハイブリッドシステム (Chien etal. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88, 9578)などのライブラリーディスプレイに適合するように、多様に構築することができる。 しかしながら、これらすべての方法の背後にある技術思想とは、ライブラリーのメンバーの拡充、単離および同定を可能ならしめるシステムを用いて、アフィニティー分子を翻訳および表示することに他ならない。
【0004】
候補物を単離するために、対象とするライブラリーを、抗体の発見を抗原に委ねるリガンドに対して露出する。 通常、リガンドは、固体支持体に固定化されている。 この支持体として、ビーズ、マイクロプレートまたはイムノチューブのプラスチック表面を利用することがよくある。 あるいは、(例えば、ビオチンによって)タグが付された標的リガンドの溶液内で相互作用が生じる場合もある。 この手順には、非特異的および非反応性のライブラリーのメンバー(パンニング)を除外するための幾つかの洗浄工程が関与する。溶液内の複合体を精製するために、固定化または遠心分離のいずれかの工程によって、それらを定着させる。 伝統的な方法として、可溶性のビオチン化リガンドにアフィニティーメンバーを定着させる方法や、ストレプトアビジンビーズにアフィニティー複合体(アフィニティーメンバーおよびリガンド)を固定させる方法などがある。 固体支持体としてビーズを用いる手法として、例えば、磁性体ビーズ(例えば、Bangs Laboratories社、Polysciences社、Dynal Biotech社、Miltenyi Biotech社またはQuantum Magnetic社から入手可能なビーズ)、非磁性体ビーズ(例えば、Pierce社およびUpstate technology社から入手可能なビーズ)、単分散ビーズ(例えば、Dynal Biotech社およびMicroparticle Gmbh社から入手可能なビーズ)、および多分散ビーズ(例えば、Chemagen社から入手可能なビーズ)を用いる手法などがある。 磁性体ビーズの使用については幾多もの文献で報告がされており、一般的には、タンパク質、DNA、ウィルス、細菌および真核細胞を固定するための使用方法に言及されている(Uhlen, M, et al (1994) in Advances in Biomagnetic Separation, BioTechniques press, Westborough, MA)。 前出のUhlen et al,の文献は、直接的かつポジティブな単離工程に言及している。 ネガティブな単離工程、つまり、混合物から不要なライブラリーメンバーを除外するための工程についても言及されている。
【0005】
これらすべての従来技術は、そこに出現したメンバー分子がリガンドを特異的に認識するという事実に基づいて、拡充されたライブラリーのメンバーを直接的に同定しようとするものである。 通常、この方法では、ポリクローナルELISAに続いて、クローニング、DNAの配列決定、それに、他のシステム(例えば、大腸菌、酵母またはin vitro翻訳キットを利用したシステム)で拡充された単一ライブラリーのメンバーの発現、そしてさらに、例えば、BiaCore、ELISAおよび/またはアフィニティー測定によって、ライブラリーのメンバーの追跡分析が続く。 場合によっては、パンニングを経て得られたライブラリーのメンバーのプールが、アフィニティーの異なる幾つかの候補メンバーを含んでいたり、あるいは、非反応性のメンバーのプールを具備していることもある。 単一種のものを単離するために、別のスクリーニング手法を用いて、拡充された集団をサブスクリーニングすることもできる。
【0006】
フィルタースクリーニング法は、小さな連鎖シャッフルライブラリー(105個までのメンバー)に対して、よく利用されている。 小さな細菌ライブラリーを、バイオ検定用プレートに置き、そして、各クローンを、ロボットで回収してハイスループットスクリーニングに供する (Walter, G. et al. (2002) Trends Mol. Medicine 8, 250-253)。 このような細菌ライブラリーとして、lacプロモーターによって制御され、かつタグ-標識が付されたscFv抗体発現ライブラリーがある。 この手法は、支持体フィルターでのクローンの特異的な格子状パターンと、固定用フィルターでのフィルターリフトの格子状パターンとの組み合わせが関係している。 この固定用フィルターは、対象とするアフィニティーリガンド(抗原)でコーティングすることができ、また、発現のためのIPTGバイオ検定プレートに装着することもできる。 このライブラリーのメンバーは、ウェスターンブロティング法を用いて、それらのタグの固定用フィルターでの独特の格子状パターンによって同定される (Stacy, J. E., et al. (2003) J. Immunol. Meth. 283, 247-259)。 この方法は、小規模の患者ライブラリーを直接的にスクリーニングする上で非常に好適であることが証明されている (Brekke, O. H., et al., WO 03/095491)。
【0007】
しかしながら、前述してきた文献記載のパンニング法やスクリーニング法のいずれもが、対象とするライブラリーのメンバーを、ライブラリーそれ自体に取り込まれた構成要素によって、検出および単離するものでしかない。 それら要素として、フィルタースクリーニング法での特異的な格子状パターン、ファージディスプレイ法でのファージの伝染、あるいは、in vitroディスプレイ方式のライブラリースクリーニング技術でのライブラリーメンバーの拡充DNAのPCRシグナルなどがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ライブラリーのメンバーのリガンドを用いて、ライブラリーのメンバーを同定する方法は未だ実現されていない。 これまでのすべての検出方法は、ライブラリーのメンバーのアフィニティー分子を検出するものでしかない。 これに対して、本願発明は、ライブラリーのメンバーのリガンドを検出することによって(あるいは、少なくともそれらリガンドが関係している物質を検出することによって)、ライブラリーのメンバーを間接的に同定する新規の技術を提供するものである。 この技術は、生体細胞のような複雑なリガンドに対して小さなライブラリーをスクリーニングを行う上で特に利用価値があるが、本願発明の方法の利用態様は、これらに限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このように、概して、本願発明は、一つまたは一つ以上のリガンドに関する結合パートナー候補である一つまたは一つ以上のメンバーを同定および/または選択するために、分子ライブラリーをスクリーニングする方法であって、(a)溶液内の発現ライブラリーと、一つまたは一つ以上のリガンドとを接触させ、(b)当該発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーに結合したリガンドを固相上に固定し、および(c)リガンドの存在を検出し、それにより、当該リガンドに関する結合パートナー候補である当該発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーの存在を検出する、工程を含む、分子ライブラリーをスクリーニングする方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本願発明に従ってスクリーニングされる分子ライブラリーとして、タンパク質発現ライブラリー、すなわち、公知あるいは新規のペプチドまたはポリペプチド発現ライブラリーなどがある。 好適な発現ライブラリーは、当業者に周知の事項であり(前出の説明を参照されたい)、例えば、ファージディスプレイライブラリー(前出のWinter et al.,など)、細菌ディスプレイライブラリー(前出のSamuelson et al.,)または酵母ディスプレイライブラリー(前出のWittrup et al.,など)、リボソームディスプレイライブラリー(例えば、The Regents of the University of Coloradoの国際公開公報第WO92/02536号公報、University Research Corporationの国際公開公報第WO93/03172号公報、およびKawasakiの国際公開公報第WO91/05058号公報)などのコバレントディスプレイライブラリーまたは非コバレントディスプレイライブラリーなどのディスプレイライブラリー、または、発現したタンパク質が、それをコードするmRNAに結合しているPRO融合ライブラリー(Phylos社)、または、発現したタンパク質が、(例えば、Actinova社の国際公開公報第WO98/37186号に記載のシステムでの共有結合、または、国際公開公報第WO04/022746号に記載のシス-ディスプレイシステムでのシス作用性タンパク質を介して)それをコードするDNAに結合しているコバレントディスプレイシステムまたは非コバレントディスプレイシステム、または細菌二ハイブリッドシステム(前出のChien et al.,)などがある。 利用可能なその他のタイプの発現ライブラリーとして、細菌発現ライブラリーまたは、タンパク質が可溶性断片として発現および分泌されるその他のライブラリー(可溶性発現ライブラリー)も容易に調製することができる。 化学ライブラリー、例えば、合成ペプチドライブラリーまたは化学分子ライブラリーもスクリーニングすることができる。 このように、本願発明は、タンパク質発現ライブラリー(生物学的ライブラリー)のスクリーニングのみならず、化学ライブラリーのスクリーニングにまで及ぶ。 本願発明の使用に適したライブラリーは、ファージディスプレイライブラリーまたは細菌発現ライブラリーである。
【0011】
この発現ライブラリーによって発現されたタンパク質は、そのタンパク質が、リガンドについての結合パートナーとして作用を奏する(または、潜在的に作用を奏する)に十分な長さであれば、適切な長さに調整することができる。 したがって、このタンパク質は、(例えば、5個〜50個または7個〜30個のアミノ酸の長さで表される)短い線状のペプチド、あるいは、線状構造というよりはむしろ、折り畳み構造の長鎖のペプチドまたはポリペプチドとすることができる。 したがって、発現ライブラリーのタンパク質が、全遺伝子またはその断片によるコード産物とすることができ、例えば、発現ライブラリーのメンバーをコードする核酸として、cDNAまたはmRNAライブラリーまたはその断片、例えば、特定のタイプの細胞から得られる核酸またはゲノミックDNAライブラリーまたはその断片などがある。
【0012】
好適な発現ライブラリーは、結合パートナー、すなわち、候補リガンド、受容体、酵素、基質、抗原、抗体などや、それらの断片であるポリペプチド結合パートナーを発現するものであって、好適な発現ライブラリーとして、アフィニティーライブラリー、特に好ましくは、抗体分子または抗体断片を発現し、とりわけ、一つまたは一つ以上の公知または未知の抗原(リガンド)に結合する候補物についてスクリーニングすることができる発現ライブラリーがある。 これら抗体発現ライブラリーは、好適な態様で抗体を発現することができ、そして、一本鎖抗体(例えば、scFv)、Fab、Fv、Fab'2、ダイアボディ、二重特異性抗体、ミニボディ、H鎖またはL鎖、トリアボディ、テトラボディ、キャメロイド抗体、単一ドメインなどの全抗体分子または抗体断片を含む。 好ましい抗体断片の態様として、scFv断片がある。
【0013】
これら抗体の分子または断片は、IgG、IgMまたはIgAなどのいずれのIgイソタイプでもよく、また、発現ライブラリーは、これらサブタイプの一つまたは一つ以上の抗体を含むことができる。 数多くの抗体ライブラリーが知られており、また、当該技術分野で発表がされており、そして、これらライブラリーや新たに得られたライブラリーを、本願発明の方法を用いてスクリーニングすることができる。
【0014】
本明細書で言及する発現ライブラリーとは、核酸レベルまたはタンパク質レベルのライブラリー、すなわち、コードしたタンパク質の発現の前後でのライブラリーを指す。 しかしながら、リガンドとの相互作用性を引き出すためには、それら発現ライブラリーが、タンパク質レベルで存在しなければならないことは明らかである。 よって、接触工程(a)を首尾良く実施するためには、発現ライブラリーを、(当初は核酸レベルで存在しているであろうものを)タンパク質レベルで存在させる必要がある。
【0015】
本願発明の方法で用いている発現ライブラリーに対する主たる要求事項の一つとして、スクリーニングしようとしているリガンドに対して初めて接触させる時に、当該ライブラリーを溶液内に置くことが挙げられる。 「溶液内」の用語は、スクリーニングしようとしているリガンドに対して初めて接触させる時に、発現ライブラリーを、固相に接着させないこと、すなわち、当初の発現ライブラリーが、固定されていない発現ライブラリーであることを意味するものである。
【0016】
このような発現ライブラリーとそれをコードする核酸を構築する方法は、当業者に周知の事項であり、また、この点に関連して、公知の発現ライブラリーでも、新たに調製または構築された発現ライブラリーでも使用することができる。 例えば、このようなライブラリーは、天然のポリペプチドまたはその断片を含んでいてもよく、あるいは、その全体または一部が、任意または合成のものであってもよい。 例えば、抗体発現ライブラリーの場合では、ライブラリーは、健常者から得たリンパ球のナイーブ集団、またはリンパ球の濃縮集団、例えば、抗原に曝された患者またはワクチンで免疫処置された患者から得たリンパ球、または腫瘍細胞(例えば、Affitech AS社の国際公開公報第WO03/095491号に記載のもの)、または特定の抗原に関するパンニング処理を行って濃縮されたリンパ球集団から核酸をクローニングして調製することができる。
【0017】
発現ライブラリー、特に、抗体発現ライブラリーは、好適な供給源、好ましくは、哺乳動物、より好ましくはヒトから調製することができる。 キメラ発現ライブラリーまたはヒト型化発現ライブラリーも使用することができる。 また、天然の骨格を選択し、そして、適切な位置に任意の配列を取り込むことで、このライブラリーを作出することもできる。 あるいは、この骨格を、多様な天然の枠組みから得た一つまたは一つ以上のコンセンサス配列に基づいたものとすることもできる。
【0018】
一般的に、ライブラリー構築物を調製するために用いる技術は、公知の遺伝子工学的技術に基づくものである。 この点に関して、発現ライブラリーにおいて発現され、また、異なるライブラリーのメンバー間で通常は変化し、これにより、ライブラリーに多様性を付与する真正なタンパク質またはペプチドまたはその断片をコードする核酸配列は、使用する発現系のタイプに適した発現ベクターに組み込まれる。 ファージディスプレイ、コバレントおよび非コバレントディスプレイ、細菌発現などに用いる好適な発現ベクターは、当業者に周知の事項である(例えば、本願発明において用いる発現ライブラリーの好適なタイプに関して先に言及した参照文献を参照されたい)。 発現ライブラリーに関してファージディスプレイを選択した場合には、ファージベクターまたはファージミドベクターを使用することができるが、ファージミドベクターの方が好ましい。 抗体断片のライブラリーを発現ライブラリーとする本願発明の実施態様に関して、当業者であれば、所望の形態での抗体断片の発現を可能にする好適な発現ベクターを容易にデザインすることができる。
【0019】
異なるライブラリーのメンバーをコードする(すなわち、ライブラリーのメンバー間、すなわち、発現ペプチドの間で変化するタンパク質またはペプチドをコードする)核酸分子は、一旦生成してしまうと、標準的な手法、例えば、制御的(例えば、部位特異的突然変異)または無作為的な一つまたは一つ以上のヌクレオチドの付加、削除および/または置換が関係する変位、またはドメイン交換、カセット変位、チェインシャフリングなどによって、さらに多様化を図ることができる。 多様な核酸配列を得るために、合成ヌクレオチドを用いることもできる。 このように、発現ペプチドをコードする核酸の全部または一部を、化学的に合成することができ、あるいは、多様な生物または様々なタイプの細胞から得ることもできる。
【0020】
加えて、本願発明の方法で用いる発現ライブラリーは、例えば、標的リガンドまたは非標的リガンド (ネガティブパンニング)に対して一回または一回以上のパンニングまたは選択を行うことで、予めその複雑度が緩和されている。 複雑度が緩和された発現ライブラリーについて、本願発明の方法でスクリーニングする以前に、例えば、上述した方法を用いて、任意に、さらに多様化を図ることができる。
【0021】
この発現ライブラリー構築物は、他の適切な成分、例えば、複製開始点、転写を開始する誘導性または非誘導性のプロモーター、エンハンサー、抗生物質耐性遺伝子およびマーカー、一般的なタグまたはレポーター分子、例えば、PCRによって当該構築物の増幅を可能にするプライマー結合部位、またはその他の所望の配列要素を任意に含むことができる。 所望の作用の発現に関与するこれらライブラリー構築物に用いる追加成分の好適な供給源や位置は、当業者に周知の事項である。
【0022】
ライブラリー構築物および発現したライブラリーのメンバーへの一般的なタグやマーカーの取り込みは、本願発明で用いる発現ライブラリーにおいて特に重要であり、また、本願発明の方法の固定工程での固相へのライブラリーのメンバーの結合を促すために、すなわち、固定工程の進行を促すために、それらタグは利用されている。 固相へのライブラリーのメンバーの結合を促すものであれば、いずれの好適なタグでも利用することができる。 しかしながら、好都合なことに、これらタグは、固相に直接的または間接的に固定されたパートナーアフィニティー分子に結合させることで、固相への結合を促すことができるアフィニティー分子である。 これらタグの例として、c-mycタグ(例えば、抗c-myc抗体を介して固定できるタグ)またはHisタグ(例えば、ニッケル表面を介して固定できるタグ)またはビオチン(例えば、ストレプトアビジン分子を介して固定できるタグ)、またはgp8のようなファージ表面タンパク質(例えば、抗gp8抗体を介して固定できるタグ)、または、抗体によって認識されるFLAGまたはHAのような抗原ペプチドタグなどがある。 このようなタグまたはマーカーは、好都合なことに、直接的または間接的に検出することもできる。 このようなタグまたはマーカーは、通常、すべてのライブラリー構築物において存在する一般的なタグまたはマーカーであり(すなわち、発現ライブラリーの各メンバーは、同じタグまたはマーカーを有しており)、そして、ライブラリーのメンバーを固相に固定するために利用することができる。 このようなタグまたはマーカーは、(以下に詳述するように、検出工程は、ライブラリーのメンバーよりもむしろ、リガンドの検出を介して進行するので)本願発明の方法での検出工程において必要とされていない。 しかしながら、これらタグは、必要に応じて、ライブラリーのメンバーの存在を検出するために利用することができる。 それらの存在は、ライブラリーのメンバーに対するリガンドの親和性を決定する上で非常に有用なことを証明するものである。
【0023】
好適な発現ライブラリー構築物が、一旦、核酸レベルで取得されれば、ライブラリー構築物の性質、例えば、ファージディスプレイ、in vitroディスプレイまたは細菌発現といったシステムの選択に応じて、好適な発現系において、本願発明のスクリーニングおよび工程(a)のために発現することができる。 発現のための好適な条件や方法は、当業者に周知の事項である。
【0024】
本明細書で使用する「リガンド」の用語は、発現ライブラリーからタンパク質性の結合パートナーを同定することが所望されている物質(「標的リガンド」と称する場合もある)または分子を指す。 したがって、これらリガンドは、スクリーニングしようとするタンパク質発現ライブラリーのメンバーに対して結合するか相互作用を示すものでなくてはならず、例えば、タンパク質/ペプチド、グリコペプチド、炭水化物、脂質、糖脂質、低分子化合物などが利用できる。
【0025】
このようなリガンドとして、全細胞成分に接着する細胞表面分子または全細胞成分である細胞表面分子、あるいは、遊離、裸出、単離または精製された分子などがある。 単一のリガンドまたは複数のリガンド(例えば、リガンドのライブラリー)が利用できる。 タンパク質またはペプチド、例えば、抗原が、好適なリガンドである。 さらに好適なリガンドとして、細胞表面分子(すなわち、細胞の表面にin situで存在する分子)、とりわけ、細胞表面タンパク質またはペプチド、例えば、細胞表面抗原などがある。 このようなリガンドとして、結合パートナー候補を同定する際に所望される公知または未知の分子がある。 本願発明の方法において利用するために、検出工程の進行を促し、および/またはリガンドの取り扱い、例えば、洗浄工程などでの取り扱いを容易ならしめるために、一般的に、このようなリガンドは、適切な箇所に接着させられる。 細胞表面分子が、リガンドである場合には、細胞それ自体が、かような接着箇所を提供する。 しかしながら、リガンドが、裸出、単離または精製された分子である場合には、好都合なことに、それら分子は、固相に結合して、かような接着箇所を提供する。
【0026】
本明細書で使用する「細胞」の用語は、いかなるタイプの生物学的粒子を指すものであって、細菌、ウィルスおよび(酵母細胞などの下等真核細胞や、哺乳動物細胞、特に、ヒト細胞などの高等真核細胞を含む)真核細胞などを含む。 これら細胞として、自然界に由来する細胞または細胞の混合物(例えば、生検材料由来の細胞または哺乳動物から得た試料に含まれる細胞)、または(固定された細胞および遺伝子工学的に加工された細胞系、例えば、特定のリガンドをコードする核酸で形質転換またはトランスフェクトされた細胞、またはリガンドのライブラリー、例えば、cDNAライブラリーで形質転換またはトランスフェクトされた複数の細胞を含む)細胞系などがある。 そのようなリガンドを過剰発現する細胞も使用することができる。 この用語の範囲には、細胞の断片、例えば、膜画分、細胞壁画分、細胞壁タンパク質、膜タンパク質なども含まれている。
【0027】
本願発明において好適な「細胞」は、真核細胞またはその膜画分である。 先に言及したように、分子のライブラリー(リガンド)でトランスフェクトされている真核細胞(または、全く別のタイプの細胞)は、細胞の表面で発現され、そして、発現した分子についての結合パートナー候補を同定するために、本願発明の方法に供することができる。 このようにして、本願発明は、ライブラリー対ライブラリーでスクリーニングする方法、すなわち、特に好都合な方法を提供する。 リガンドの好適なライブラリーとして、疾患関連物、例えば、疾患関連細胞や、ウィルスまたは細菌などの病理学的病原体などから得たライブラリーがある。 リガンドの特に好ましいライブラリーとして、パートナー候補と、同定しようとする腫瘍またはウィルス関連タンパク質との結合を可能にする腫瘍細胞ライブラリー(例えば、cDNAライブラリー)やウィルス細胞ライブラリー(例えば、cDNAライブラリー)がある。 トランスフェクションに好適な真核細胞(および、その他のタイプの細胞)、例えば、COS細胞などは、当業者に周知のものであり、これらのいずれのものでも使用することができる。
【0028】
その他の好適な真核細胞として、疾患状態に関連する細胞、例えば、癌細胞まはた癌細胞系、例えば、乳癌または肺癌細胞またはこれらの細胞系、または患者由来のリンパ球(例えば、末梢血リンパ球)、またはウィルスに感染した細胞、つまり、その表面にウィルスタンパク質を生成する細胞などがある。 このような細胞は、分子/リガンド、例えば、疾患関連細胞の表面に発現した腫瘍関連分子または感染関連分子の結合パートナー候補を同定するために、本願発明のスクリーニング法に供することができる。
【0029】
本願発明の方法で用いる細胞は、適切な供給源から得ることができ、例えば、細胞を、天然供給源、例えば、哺乳動物から直接に得ることができ、または、形質転換細胞を用いるのであれば、in vitro培養物から得ることもできる。 In vitro培養物を利用するのであれば、それら細胞は、懸濁液または単一層で培養することができ、そして、生存した状態または固定した状態で本願発明の方法に用いることができる。 一般的に、生体細胞(特に生体の真核細胞)を用いるのが好ましい。 これはすなわち、細胞表面のリガンドは、本来の形態で存在しており、つまり、本願発明の方法で選択した結合パートナー候補が、本来の形態の標的リガンドを認識し、それにより、治療用途または診断用途でのこれら結合パートナー候補の利用可能性の改善につながることによる。 本願発明の方法で用いる細胞は、通常、凍結または貯蔵した細胞よりも、新たに単離した細胞の方が好ましい。
【0030】
なお、固定した細胞については、そのものが溶液内にある限りは、本願発明の方法において利用することができる。
【0031】
固相の表面に接着した分子をリガンドとする本願発明の実施態様によれば、この分子として、好適な供給源、すなわち、天然のタンパク質、炭水化物、脂質、糖脂質などの自然界から単離または精製した物質や、組換分子または合成分子、例えば、組換タンパク質またはペプチドまたは合成物を利用することもできる。 この点に着目すれば、単離、精製または組み換えを行った抗原は、特に好ましいリガンドである。
【0032】
任意で、しかも実際のところ好ましくは、このようなリガンドは、それをコードする核酸とも関連し、あるいは、その後にリガンドの同定を可能にするその他の形態の分子タグとも関連する。 リガンドのライブラリーを使用する場合に、結合パートナー候補に結合したリガンドをその後に同定できる便利な方法が待望されているために、このことは特に重要である。 このようなリガンドと、それをコードする核酸とを関連づける方法は、当業者に周知の事項であり、また、好都合なことに、これら方法は、例えば、前述したシスディスプレイなどの、リボソームディスプレイまたはコバレントまたは非コバレントディスプレイ技術のようなin vitroディスプレイシステムを用いて実施することができる。 あるいは、かような結合性は、例えば、ストレプトアビジン-ビオチン結合などの他の形態のアフィニティー結合を利用して媒介することもできる。 この点に関して、リガンドライブラリーのメンバーの核酸に対してビオチン分子をタグ付けすることができ、また、ストレプトアビジン分子をコードするようにデザインすることもできる。 ライブラリーのメンバーのタンパク質が発現されれば、ストレプトアビジン分子は、DNAのビオチン分子に結合して、コードしたタンパク質とそれをコードする核酸との結合を実効的なものにする。
【0033】
あるいは、このようなリガンドは、例えば、異なる大きさのオリゴヌクレオチドや特定の配列を有するタグなどのDNAタグで標識付けすることができ、これらは、その後に、リガンドを同定するために、例えば、Brenner et al., 2000, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97: 1665-1670の記載に従って、復元および使用することができる。
【0034】
リガンドが、細胞膜において発現した分子ではなく、むしろ、裸出、単離または精製した分子である場合には、本願発明の方法に従ってスクリーニングする前に、それらは固相に接着されてしまう。 好適な固相は、当業者に周知の事項であり、また、本願発明の方法において用いる最も好適な固相の選択も、当業者が日常的に行っている範囲内のものである。 しかしながら、そこにリガンドが接着する好適な固相とは、微粒子および非磁性体、例えば、ポリマービーズである。 本明細書に記載の方法において用いることができる非磁性体ビーズの例として、5μmのメタクリル酸グリシジルマイクロビーズ(Bangs Laboratories社、カーメル、インディアナ州)がある。 このように、好適なリガンドとは、微粒子、非磁性体、固相に接着されたポリペプチドである。 リガンドが、固相に接着されば、この固相は、検出工程の進行を促す要素および/またはリガンドの操作、例えば、洗浄工程などを容易ならしめる要素として用いられる。 これらの固相を、リガンドと発現ライブラリーのメンバーとの複合体を固定するために用いる固相とを区別するために、これらの固相を「リガンド結合固相」と称する。
【0035】
裸出、単離または精製した分子をリガンドとした実施態様では、これら分子は、好適な方法によって、好適な固相の表面に接着または固定される。 実際のところ、ポリペプチドやその他の生体成分を固体支持体に結合させるための好適な方法は、当業者に周知の事項である。 好都合なことに、そのような接着は、例えば、ストレプトアビジンをコートしたビーズ、好ましくは、例えば、市販されている非磁性体ストレプトアビジンビーズに接着することができるビオチン分子を組み込む加工が施されたポリペプチドまたはその他のリガンドがもたらすアフィニティー相互作用性を利用して実現できる。
【0036】
リガンドが、好適な固相に接着した細胞表面分子であるか、対象分子であるかにかかわらず、これらリガンドは、本願発明の方法においてリガンドの検出を可能にするレポーター部分を含み、あるいはレポーター部分に結合する。 このようなレポーター部分は、好ましくは、核酸分子であり、さらに好ましくは、核酸を利用した方法で検出することができるDNA分子である。 好ましい検出方法は、PCRによるものであるが、例えば、標識付けしたプローブを用いたハイブリダイゼーションなどの適切な方法も利用することができる。 あるいは、リガンドを、非磁性体蛍光ビーズや、顕微鏡またはCoulter Counter ZM(Coulter Electronics社)によって計測/検出できる識別可能な大きさのビーズに対して接着することもできる。 このように、レポーター部分としては、その検出が可能であれば、多種多様な形態のものを利用することができる。
【0037】
そのようなレポーター部分は、本質的に、リガンドに対して結合性を示す。 例えば、リガンドが細胞表面分子であれば、検出される好適なレポーター部分は、DNA分子、例えば、リガンドが発現/出現している細胞内に存在する(例えば、細胞に対して内因性である)遺伝子(すなわち、レポーター遺伝子)である。 したがって、好適かつ好ましいレポーター部分は、すべての細胞型に存在する部分、例えば、β-アクチンのようなハウスキーピング遺伝子である。
【0038】
外因性レポーター部分は、リガンドと関連することもできる。 例えば、細胞の場合、外因性レポーター部分(例えば、レポーター遺伝子)は、標準的な方法によって細胞内に導入され、その導入方法としては、例えば、リポフェクション、レトロウィルス法または電気穿孔法などのトランスフェクションがあるが、これらに限定されない。
【0039】
裸出分子をリガンドとする場合、例えば、裸出ポリペプチドには、タグが付けられ、あるいは、裸出ポリペプチドは、当業者に周知の方法を用いて好適なレポーター部分に結合され、例えば、リガンドが、それをコードする核酸またはその他の核酸から形成されたタグ、例えば、上述したタグに結合している場合には、そのレポーター部分は、好都合なことに、この核酸分子内に存在することとなる。 例えば、微粒子固相に接着したポリペプチドなどの分子をリガンドとする場合、これらレポーター部分は、例えば、上記した方法と同様の方法を用いて、それぞれ個別に固相に、そして、ポリペプチドに接着する。 特に、ストレプトアビジンビーズを用いる場合には、レポーター部分としては、好ましくは、例えば、レポーター遺伝子の断片またはプローブ結合部位のPCR増幅を可能にするプライマー部位の検出を促す部位または領域を含むビオチン化DNA断片を用いる。 また、各ビーズは、ビオチン化レポーター部分とビオチン化ポリペプチド(または、その他のリガンド)の混合物を保有している。
【0040】
したがって、レポーター部分とリガンドとの間の「結合性」は、レポーター部分とリガンドとの間の直接的な相互作用性、すなわち、レポーター部分およびリガンドが、同じ分子の一部であること、例えば、リガンドタンパク質およびレポーター部分が、同じ分子の一部として、互いに結合する相互作用性を含む。 あるいは、「結合性」が、間接的である場合、例えば、レポーター部分が、リガンドが接着する箇所に接着または包含されていたり、例えば、レポーター部分が、リガンドが発現または出現している細胞内に包含されていたり、あるいは、リガンドが接着している固相に固定されている場合もある。
【0041】
好ましくは、このようなレポーター部分とは、出現しているすべてのリガンドと結合し、そして、標的リガンドの一部または全部の存在(つまり、結合パートナー候補の存在)を検出する一般的な試薬である。
【0042】
「リガンド」の用語に関連して本明細書で用いられている「一つまたは一つ以上」の表現は、一つまたは一つ以上の別異のリガンド、例えば、一つまたは一つ以上の異なる細胞表面分子またはポリペプチドを指す。 換言すれば、本願発明の方法は、一つのリガンド、または複数のリガンドのライブラリーをスクリーニングするために(例えば、特に好都合なライブラリー対ライブラリースクリーニングにおいて)使用することができる。 このスクリーニングに一つを超える標的リガンドが関係する場合には、これらリガンドは、同一または異なる箇所に接着または結合することができる。 例えば、標的リガンドが細胞表面分子であると考えられる場合には、幾つかの異なる細胞表面分子についての結合パートナー候補は、本願発明の方法を用いて同定されるであろう。 もちろん、必要に応じて、例えば、免疫優性標的物を有する細胞、対象となるリガンドを過剰発現することが公知の細胞、あるいは過剰発現性に基づいて選択された細胞、またはリガンドを過剰発現するように加工された細胞など、特定の細胞表面分子についての結合パートナー候補を選択するために、この手法を改良することもできる。 もちろん、このスクリーニング反応において、各リガンドは複数のコピー数で存在しており(実際のところ、そうであることが好都合なのであるが)、例えば、細胞表面分子がリガンドである場合には、このリガンドの複数のコピーは、好ましくは、同一のタイプまたは異なるタイプの同一の細胞および/または複数の細胞において存在している。
【0043】
リガンドを発現ライブラリーと接触せしめる工程またはその逆の工程は、発現ライブラリーでの好適な結合パートナーが、そこに存在するリガンドに対して相互作用または結合できる条件下で、適切な手法によって実施することができる。 通常、このような条件は、発現ライブラリー、リガンド、およびそれらリガンドが結合する箇所の性質に応じて変化する。 しかしながら、当業者であれば、結合の形成を促す好適な条件を容易に決定することができる。 このような「接触」工程は、通常、適切な溶液または水性媒体において行われるであろう。 よって、単一層として培養されている細胞、または哺乳動物、例えば、哺乳動物の臓器または組織から得た細胞にリガンドが存在している場合には、それらリガンドは、通常、発現ライブラリーと接触せしめる以前に、適切な手法によって、水性培地において回収および再懸濁される。
【0044】
重要なことに、接触工程は、Lブロスのような細菌発現用培地やPBSなどの標準的な水性培地において実施することができる。 このことは、ライブラリーのメンバーが、(例えば、Lブロスのような細菌発現用培地で培養することで)細菌で発現することができ、そして、本願発明のスクリーニング法のために用いる発現用プレートからクローンを直接に取得できることを意味するものに他ならず、重要かつ驚くべき事項である。 好ましくは、リガンドの添加前で、しかもライブラリーのメンバーを発現した後に、これら細菌発現用培地は、例えば、滅菌水またはその他の好適な水性培地で等張状態(例えば、約140mMのNaCl、(LBは、通常、約171mMのNaClである))にする。 リガンドが、ビーズ上の分子ではなく、生体細胞に関する細胞表面分子である場合には、細菌用培地を等張状態にするためのこの工程は特に好ましい。
【0045】
「接触」条件の例として、氷上または4度で、30分〜4時間のインキュベーションがある。 しかしながら、これらの条件は、リガンドや発現ライブラリーなどの性状に応じて適切に加減することができる。 発現ライブラリーとリガンドの混合物は、任意にかつ好ましくは、緩慢な揺動、混合または回動に供することができる。 さらに、非特異的な結合を排除するブロッキング剤などのその他の適切な試薬も加えることができる。 例えば、1〜4%のBSAや、その他の適切なブロッキング剤(例えば、ミルク)を加えることもできる。 しかしながら、当業者であれば、スクリーニング法の目的に応じて、接触条件を変更および調整できることは明らかであろう。 例えば、インキュベーション温度を、例えば、室温にまで昇温すれば、異なるサブセットのリガンドについてのバインダー、例えば、容易に取り込まれてしまう細胞表面タンパク質についてのバインダーの同定率を高めることになる。 つまり、このような条件の調整は、当業者にとって自明の範囲内の事項である。
【0046】
好ましくは、この接触工程は、分析用プレートまたはその他の好適な反応用コンパートメントまたは反応用容器において実施される。 好都合なことに、単一のタイプのライブラリーのメンバー(すなわち、単一の発現ライブラリーのメンバー)は、各ウェルまたは各容器内に置かれる。 しかしながら、複数のタイプのライブラリーのメンバー(すなわち、複数の発現ライブラリーのメンバー)も、(以下に詳述するようにして)各ウェルまたは各容器内に置かれる。
【0047】
本願発明の方法(および、つまりは接触工程)で用いる発現ライブラリーの大きさおよび複雑度は、接触工程に含まれる標的リガンドのコピー数の総数に応じて変化させることができる。 例えば、本願発明の方法は、500,000個までの異なるメンバーを擁するライブラリーや、1×106個、1×108個またはそれ以上のメンバーを擁するライブラリーをスクリーニングするために利用することができる。 スクリーニングのための好適なライブラリーは、1,000個〜50,000個のメンバーを有しているが、本願発明の方法が、遙かに少数のメンバーを有するライブラリー、例えば、50個〜1,000個や100個〜500個のメンバーを有するライブラリーのスクリーニングにも利用できることは明らかである。
【0048】
好都合なことに、リガンドのコピー数は、そのリガンドが関係する箇所の数を変更することで加減することができる。 例えば、リガンドが、細胞表面分子であるか、あるいは固体支持体に接着した分子である場合には、接触混合物に含まれる細胞や固体支持体の数を増減することによって、標的リガンドの数を調整することができる。 また、必要とするリガンドの数は、試行錯誤を経て容易に決定することができるが、例えば、リガンドが、細胞表面分子である場合には、5,000個〜200,000個の細胞が好適に利用されている。 実際のところ、本願発明のスクリーニング法は、5000個または1000個程度の細胞、すなわち、5000個または1000個に満たない細胞(あるいは、例えば、検出方法としてPCRを用いることで、単一細胞の検出が可能であれば、さらに少ない個数の細胞)に対して十分な感度を示すことが、本願発明のスクリーニング法での利点である。 この点に関して、特に、哺乳動物、例えば、ヒト由来の生体細胞をスクリーニングする場合、それらの入手源が極めて限定されていたり、また、それらを大量に確保することができないことがよくある。 従って、かように少ない個数の細胞でもスクリーニングできることは、重要な利点であるといえる。 本願実施例では、PCRで検出を行い、かつ抗体ライブラリーを発現ライブラリーとして用いた好適な実施態様において、検出を実施する上で必要な抗体の量がほんの40pgであることを示している。 このことは、本願発明の方法が、例えば、1000分子にも満たない低レベルで発現しているリガンド分子に関するライブラリーのメンバーを単離する上で好適であることを示すものに他ならない。
【0049】
発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーとリガンドとが結合できる条件下で、発現ライブラリーとリガンドとを一旦接触させると、そこで結合したリガンドは、固相に固定され、そして、未結合リガンドのような反応混合物でのその他の成分からの当該リガンドの単離または除去または精製が促される。 換言すれば、固定工程にあっては、発現ライブラリーのメンバーに結合したリガンドだけが、固相に固定されるのである。
【0050】
この点に関して、取り扱いと洗浄が容易な微粒子固相が好適である。 磁性体固相、具体的には、磁性体粒子/ビーズが特に好ましい。 このような固相と(前述したような)リガンドが接着した固相とを区別するために、そのような固相を、「固定固相」と称することができる。 好適な磁性体ビーズは、Dynal Biotech ASA社や、ノルウェーのリレストロームに所在のDyno Specialty Polymers AS社から市販されている。 本明細書に記載の方法で用いることができる磁性体ビーズの例として、ノルウェーのDynal Biotech ASA社から市販されているM-450、M-270またはM-280ビーズがある。
【0051】
リガンドライブラリーのメンバーの複合体は、適切な方法によって、固相上に固定することができる。 本願発明の方法に従った好適な方法は、固相上に固定した分子と、発現ライブラリーのメンバーに結合するパートナー分子またはタグとの間の相互作用性に関係する。 こうすることで、発現ライブラリーのメンバーに結合したリガンドだけが、固相上に固定される。 必要に応じて、発現ライブラリーのメンバーに結合していないすべてのリガンドを、固相を洗浄するための一つまたは一つ以上の工程、または、固定を終えた後に反応混合物から単に固相を分離することによって除去することができる。 こうして、リガンドよりもむしろ、発現ライブラリーのメンバーによって固定工程の進行は促され、そして、残存する混合物から固相を単離することで、ライブラリーのメンバーに結合していないリガンドが除去されるのである。
【0052】
固相上に固定した分子と、発現ライブラリーのメンバーに関するパートナー分子またはタグとの間の相互作用性は、好都合なことに、アフィニティー相互作用性に基づくものであるが、他の反応を利用することもできる。 例えば、アフィニティー相互作用性に関与するある特定の成分を発現させるために発現ライブラリーのメンバーを加工することができ、そして、好適な方法によって、その他の成分を固相に接着することもできる。 好適なアフィニティー相互作用性の例として、抗体-抗原間の相互作用性、ストレプトアビジン-ビオチン間の相互作用性がある。
【0053】
ストレプトアビジンをコートしたビーズは市販されており、そして、このビーズは、リガンドとライブラリーのメンバーとの複合体を構成するライブラリーのメンバーに含まれるビオチン分子の存在下で、当該複合体を固定するために用いることができる。 あるいは、ファージライブラリーを発現ライブラリーとして用いる場合には、ファージ表面タンパク質に対する抗体、例えば、抗gp8が結合した固相を用いることで、容易に固定を行うことができる。 さらに、固相への結合を促すアフィニティーパートナーによって認識されるタグを発現させるためにライブラリーのメンバーを加工することもできる。 好適なタグとして、抗c-myc抗体(または、その他の好適な抗体)によって認識が可能なc-myc(または、その他の抗原ペプチドタグ)またはHisタグ、それに、金属イオン(例えば、Ni2+)などがあり、その各々が、固相への固定を交互に促す。
【0054】
固定を促すために抗体を用いる場合には、例えば、抗IgG抗体のような適切な二次抗体または三次抗体を介して、それら抗体を、直接的または間接的に固相に接着することができる。 使用する試薬に応じた適切な手法によって、固定を効率化ならしめることができる。 このように、抗体を固相に接着し、そして、リガンドとライブラリーのメンバーとの複合体を含む混合物との接触に供することができる。 あるいは、リガンドおよびライブラリーのメンバーの固定を促すために、(例えば、二次抗体を介して)抗体を固相に結合する以前に、この抗体を、反応混合物内のライブラリーのメンバーに対して結合することができる。 実際のところ、このやり方は、本願発明の方法での好ましい実施態様にもなっている。 当業者であれば、固定のための温度および時間の条件を容易に決定することができる。 しかしながら、固定条件の例として、(リガンドまたはライブラリーのメンバーの安定性に応じて決定された)室温または4℃で、10分間〜2時間のインキュベーションを含み、好ましくは、緩慢な揺動、混合または回動をも行う。 当業者であれば、リガンドとライブラリーのメンバーとの複合体の固定を促すために取り込む固相の量や、固相とリガンドとの比率を容易に決定することができる。
【0055】
本願発明のスクリーニング法の適当な段階で、一つまたはそれ以上の洗浄工程を実施することができる。 例えば、上述したように、発現ライブラリーのメンバーに結合していないリガンドを除去するために、工程(b)の後に、洗浄工程(あるいは、少なくとも一つの分離工程)を実施する。 リガンドが結合していない発現ライブラリーのメンバーを除去するために、リガンドが結合している箇所を洗浄する(例えば、リガンドが結合している細胞または固相を洗浄する)ための一つまたはそれ以上の工程も、工程(a)の後に実施することができる。 実際のところ、それら洗浄工程は、好ましい工程である。 さらに、例えば、非結合物を除去するために、本願発明の方法の実施過程での適切な時期に、リガンドが結合している箇所または固相に対して一つまたは一つ以上の洗浄工程を実施することができる。 当業者であれば、洗浄工程の回数を容易に決定することができる。
【0056】
リガンドを直接に検出したり、あるいは、少なくともリガンドが結合している(ライブラリーのメンバー以外の)物質を検出することによって、リガンドの存在を検出するための工程が実施される。 この工程は、リガンドの検出というよりも、むしろ、リガンドに結合しているライブラリーのメンバーを検出している点で、従来の方法とは一線を画している。
【0057】
好都合なことに、リガンドの存在(ひいては、リガンドとライブラリーのメンバーとの複合体の存在、これはすなわち、複合体に関与しないリガンドは固相に結合しないため、この固定工程で除去する必要があることによる)の検出は、リガンドに関するレポーター部分またはリガンドに結合したレポーター部分の存在を検出して行われている。 好適なレポーター部分として、上述した通りのものがある。 上述した通り、レポーター部分は、通常、すべてのリガンドにおいて存在しており、あるいはすべてのリガンドに対して結合しており、すなわち、すべてのリガンドについての一般的な標識であるといえる。 このように、同じレポーター部分が、各リガンドに存在して(または結合して)いるので、ポジティブシグナルの存在は、リガンドとライブラリーのメンバーとの複合体の存在を指し示すものであり、したがって、リガンドに対する結合パートナー候補であるライブラリーのメンバーの存在を指し示すものに他ならない。 しかしながら、細胞内にレポーター部分が存在する場合、すなわち、細胞表面分子がリガンドである実施態様では、検出を行う以前に、例えば、細胞の溶解やその他の細胞破壊の手段によって、レポーター部分を露出しなくてはならないことに留意すべきである。
【0058】
例えば、細胞内の核酸に含まれているレポーター部分を露出するために、細胞を溶解/破壊する方法は、当業者に周知の事項である。 本願発明の実施態様において用いる真核細胞用の好適な溶解緩衝液として、タンパク質を消化して、検出工程に先駆けてDNAからヒストンを除去するプロテイナーゼKがある。 その他のプロテアーゼも、本願発明の方法で用いる溶解緩衝液に使うことができる。
【0059】
上述したように、PCRは、好ましい検出方法である。 しかしながら、レポーター部分の検出のためのその他の好適な検出方法、例えば、プローブハイブリダイゼーション、蛍光ビーズ、異形ビーズなど(上記を参照のこと)も利用することができる。 PCRは、その感度の高さが故に好ましく(たった一つのリガンド(または細胞)でもPCRで検出することができる)、また、リガンドに関する情報、例えば、(例えば、リガンドが、それをコードする核酸と結合している場合の)配列情報や、(例えば、リガンドが、それを同定することができるタグ付きのDNA分子である場合、例えば、異なるサイズのDNA分子でタグが付されたリガンド、またはリガンドを特異的に同定するために用いることができる特異的な配列のタグを有するDNA分子でタグが付されたリガンドの場合の)リガンドの同定情報が得られる点からも好ましい。
【0060】
好都合なことに、このPCR反応は、(固相でも実施可能であるが)溶液内で実施することができ、そして、PCR産物の存在は、アガロースゲル法(例えば、Invitrogen社のE-gel 96 システムは、20〜30分の内に、96個もの試料の分析を行うことができる)のような標準的な方法によって検出することができる。 一般的に、PCR(または、その他の検出工程)に先駆けて、試料の入念な混合が行われる。
【0061】
レポーター部分の全部または一部を増幅するための好適なPCRプライマーは、当業者に周知の方法によって、レポーター部分の配列にに従って選択される。 分析用ウェルまたはその他の検定区画に置かれた核酸の量が適切である場合、例えば、リガンドが、(好適なレポーター部分を含んでいる)適切な発現ベクターを用いて細胞内にトランスフェクトされた核酸によってコードされている場合、あるいは、リガンドが、それをコードするDNAに結合している場合などは、リガンド配列ならびにレポーター部分をコードする核酸を増幅するPCRプライマーが選択される。 この方法によれば、配列決定のために、好適なベクターにPCR産物を直接にクローニングすることができ、それにより、リガンド配列の解明に至る点で有利である。
【0062】
PCRなどで検出されたポジティブシグナルは、さらに検査を要する固相(固定固相)の存在を示すものである。 例えば、分析用プレートのウェル内の溶液で行ったPCRにて出現したポジティブシグナルは、リガンドに対する少なくとも一つの注意を要する結合パートナーの存在を示すものであり、そのようなリガンドは、別の分析や検査に供することとなる。 例えば、分析用プレートのウェルに置かれた細菌コロニー(または、その他のライブラリーのメンバー)は、リガンドに対する結合パートナー候補を発現したコロニー(ライブラリーのメンバー)を同定するために、例えば、細胞-ELISAを利用するスクリーニング法に供することができる。
【0063】
PCRなどから出現したポジティブシグナルは、好都合なことに、バックグラウンドシグナルや公知のネガティブシグナルとの比較によって決定される。 ポジティブシグナル、バックグラウンドシグナル、および/またはネガティブシグナルを測定および比較するための手段および方法は、当業者に周知の事項である。
【0064】
よって、本願発明の好ましい実施態様によれば、発現ライブラリーのメンバーに結合したリガンドは、微粒子および磁性体固相に固定され、そして、検出工程は、PCRによって実施される。 特に好ましい実施態様によれば、リガンドとして、細胞膜、特に、生体細胞膜に結合した細胞表面分子を用いている。
【0065】
比較実験(実施例3を参照されたい)では、scFvでコートされ、かつ磁性体ビーズに接着した細胞(特に、癌細胞)を利用し、しかも、リガンドがPCRで検出される好適な方法が記載されており、リガンドの検出ではなく、発現ライブラリーのメンバーの検出に基づいた検出工程を利用するこの方法では、標準的な細胞-ELISA法よりも感度が格段に改善されている。 本明細書に記載の本願発明の方法(「AffiSelect法」と称する場合もある)は、僅かな数の細胞で、バックグラウンドシグナルを上回る良好なシグナルを示し、また、そのようなシグナルそれ自体は、細胞-ELISA法で得られるシグナルよりも強力かつ明瞭である。
【0066】
本願発明の方法は、さらに別の工程と関係することもできる。 例えば、すでに簡単に言及したように、不要な発現ライブラリーのメンバーを除外したり、あるいは、ライブラリーの複雑度を緩和するために、発現ライブラリーに対して予めパンニング処理を行うことができる。 このプレパンニング処理を、本願発明の方法の工程(a)に先駆けて、発現ライブラリーを、一つまたは一つ以上の無関係の物質と接触させるネガティブのパンニング工程とすることができる。 例えば、所望のリガンドを発現しない細胞、あるいは所望のリガンドを低レベルでしか発現しない細胞またはこれら細胞の膜画分を用いて、発現ライブラリーのプレパンニング処理を行うことができる。 例えば、この方法が、特定のタイプの癌細胞に結合する発現ライブラリーのメンバーを同定するようにデザインされているのであれば、発現ライブラリーのメンバーと、一つまたは一つ以上の異なるタイプの細胞または無関係のタイプの細胞、例えば、異なるタイプの腫瘍細胞またはリンパ球や内皮細胞などの非腫瘍細胞、あるいは対象外の細胞とを接触させることで、プレパンニング処理を行うことができる。 このネガティブなプレパンニング工程の目的は、対象とするリガンドに結合しない発現ライブラリーのメンバーの一部を除去することにある。
【0067】
あるいは、標的リガンドに結合する発現ライブラリーのメンバーを拡充し、そうすることで、本願発明の方法に従ってスクリーニングされるライブラリーの複雑度を緩和するために、このプレパンニング工程を、標的リガンドで発現ライブラリーをパンニング処理/接触処理させるポジティブパンニング工程とすることができる。 一つまたは一つ以上のプレパンニング工程を、同一の物質または関連性のある別異の物質または無関連の物質に対して実施することができる。
【0068】
発現ライブラリーの拡充のためにポジティブパンニングを用いる本願発明の実施態様にあっては、発現ライブラリーの拡充と共に、スクリーニングするライブラリーの複雑度を緩和するために、適切な回数、好ましくは、1回、2回、3回または4回のパンニング処理を、標的リガンドを用いて行われる。 適切なパンニング方法、例えば、固相への標的リガンドの接着や、ライブラリー全体のパンニング処理などを利用することができる。 しかしながら、好ましいパンニングの方法(特に、ファージディスプレイライブラリーを発現ライブラリーとしている方法)では、標的リガンドに発現ライブラリーのメンバーが結合できる条件下で、(例えば、細胞にて)発現ライブラリーと標的リガンドとを接触する工程が含まれており、次いで、ファージが結合した標的リガンド(例えば、ファージが結合した細胞)から遊離ファージを分離するために、Giordano et al. (2001, Nature Med., 11: 1249-1253)に記載の有機相分離に関するBRASIL法の変法が用いられている(このような変法は、本明細書の実施例5に記載されている)。 かようなBRASIL法の変法は、発現ライブラリーのメンバーに結合した標的リガンドと発現ライブラリーの未結合メンバー(例えば、未結合ファージ)とを、有機相を介した分離法によって分離する以前に、標的リガンド(例えば、細胞上のリガンド)を、少なくとも一つ、好ましくは、一つ、二つまたは三つの洗浄工程に供することを含んでおり、これにより、他のライブラリーのメンバーから、当該標的リガンドについての結合パートナー候補を分離することができる。 上述したように、本願発明の方法を用いて拡充したライブラリーをスクリーニングする以前に、1回または1回以上のパンニング処理(接触と分離)、例えば、1回、2回、3回または4回のパンニング処理を行うことができる。
【0069】
本願発明の方法に従って、リガンドについての結合パートナー候補である一つまたは一つ以上の発現ライブラリーのメンバーの存在が一旦検出されれば、これらは、さらに別の分析または用途に供することができる。 このような別の分析には、リガンド(すなわち、結合パートナー候補)に結合した発現ライブラリーのメンバーまたはリガンドそれ自体の一方または双方に関する分析が含まれる。 よって、本願発明の方法は、新規の発現ライブラリーのメンバー(新規の結合パートナー)および新規のリガンドの双方、例えば、新規の細胞表面分子や新規抗原などのタンパク質を、ポリペプチドおよび核酸の双方のレベルでスクリーニングおよび同定することを可能にする。
【0070】
このような別の分析は、一般的には、本願発明の方法の工程(c)で検出される単一クローンに対する分析の形態で実施される。 本願発明の方法の工程(c)でのポジティブシグナルは、例えば、検出が行われるアッセイ用ウェルまたは検定区画に、リガンドについての一つまたは一つ以上の結合パートナー候補が含まれていることを示唆している。 好都合なことに、前記結合パートナー候補が当初に採取されたマスタープレートにそれらを戻し、そして、標準的な方法によって、マスタープレートに戻されたクローン(ライブラリーのメンバー)の分析を行うことで、これら結合パートナー候補に対してさらに別の分析が実施される。 このようにして、好都合なことに、結合パートナー候補は、リガンドから単離されて発現または産生される。
【0071】
例えば、コードしたポリペプチドが比較的大きいファージ発現ライブラリーやその他の発現ライブラリーの場合、前出の分析は、必要に応じて、結合パートナー候補をコードするDNAを、コードしたポリペプチドを可溶性の形態で発現することができる好適な発現系にクローニングする工程を(必要に応じて、RNAライブラリーのメンバーをDNAに変換するPCRの後に)含む。 例えば、本願発明のスクリーニング法に供される発現ライブラリーが、例えば、細菌発現ライブラリーを用いるなどして、すでに発現システムに組み込まれているのであれば、この工程が不要であることは明らかである。
【0072】
結合パートナー候補をコードするDNAが、適切な発現ベクターで一旦クローニングされれば、結合パートナー候補をコードするDNAの配列決定をすることができ、さらに、候補タンパク質を可溶性の形態で発現し、そして、タンパク質レベルで候補物をさらに同定するために(リガンドを標的として用いる)適切な結合性検定に供することができる。 好適な結合性試験は、結合パートナー候補およびリガンドの性状に応じて選択されるものであって、ELISA、フィルタースクリーニングアッセイ、FACSまたは免疫蛍光アッセイ、BiaCoreアフィニティー測定または結合定数を定量するためのその他の方法、組織スライドまたは細胞の染色や、その他の免疫組織学的方法などがあるが、これらに限定されない。 このような方法は、文献発表によって公知であり、また、結合パートナー候補を分析するために、これらの内の一つまたは一つ以上を利用することもできる。
【0073】
ペプチドライブラリーに関しては、結合ペプチド候補に結合したタグを、選択したペプチドの配列を同定するために使用することができ、そして、これらをin vitroで合成し、次いで、上記したようにして分析することも、あるいは、それらペプチドをコードするDNA配列を決定し、次いで、適切な発現ベクターに挿入し、その後、発現したペプチドを上記したように分析することもできる。
【0074】
ネガティブコントロールとして、好都合なことに、結合パートナー候補は、非リガンド、例えば、無関係のタイプの細胞またはその表面にリガンドを発現しないタイプの細胞、またはリガンドを低レベルでしか発現しないタイプの細胞、あるいは裸出または精製した無関係の分子などの好適なものに対してもスクリーニングすることができる。
【0075】
結合状態にある結合パートナー候補に関するすべての検出方法は、発現ライブラリーのメンバーについてのある種のタグや標識を認識する試薬を用いることで、その進行が促される。 好適なタグの取り付け方や検出システムは、当業者に周知の事項である。
【0076】
未知の分子、例えば、未知の細胞表面分子、特に、未知の腫瘍表面分子をリガンドとした本願発明の実施態様によれば、これらの性質も容易に分析することができ、そして、特定の結合パートナーを用いて同定されたリガンドは、同定手段として、発現ライブラリーから同定される。 結合パートナーが、抗体分子、特に、例えば、上述したようなscFv分子である場合に、特に好都合であって、発現ライブラリーに由来する結合パートナーは、通常、検出を円滑にするのみならず、例えば、組織片に結合させることで、例えば、未知の分子の組織分布を分析するために利用することができるタグや標識を取り込むように加工されている(Pereira et al, J. Immunol. Methods, 1997, 203: 11-24)。 あるいは、結合パートナーを固相に結合して、例えば、アフィニティークロマトグラフィーによって、未知の分子を精製するために用いることができる。 精製を終えてから、分子の性質を利用した適切な試験を行うことで、未知の分子の正体を突き止めることができる。 例えば、未知の分子が、タンパク質である場合には、精製したタンパク質は、ペプチドの配列決定または質量分析法によって同定することができ、また、そのタンパク質をコードするDNA配列は、当業者に周知の方法を用いてクローニングとDNAの配列決定を行うことで決定することができる。 あるいは、未知のタンパク質をコードするDNAは、同定した結合パートナーを用いてcDNAライブラリーをスクリーニングすることによって、容易に決定することができる。 この点に関して、適切な供給源に由来する多様性に富んだcDNAライブラリーも使用することができる。 しかしながら、好ましくは、規模の小さな制限cDNAライブラリーが使用できる。 例えば、未知のタンパク質が、特定のタイプの細胞、例えば、腫瘍細胞の表面に発現した場合には、cDNAライブラリー(例えば、ファージディスプレイライブラリーのようなcDNAディスプレイライブラリー)は、好都合なことに、これら細胞から作成することができ、そして、例えば、同定した結合パートナーが接着している固体支持体についてディスプレイライブラリーをパンニング処理することで、結合パートナー(例えば、前出のRidgway et al.,を参照されたい)を用いたスクリーニングを行うことができる。 加えて、発現ライブラリーから同定した結合パートナーが抗体である場合には、リガンドを単離または同定するために、免疫沈降法、ウェスターンブロット、発現プロファイリング、免疫組織化学などの抗体を利用したその他のアッセイを行うことができる。
【0077】
このように、本願発明の方法は、適切な発現ライブラリーからリガンドに対する結合パートナーを選択および同定するため利用できるだけではなく、新規かつ未確認のリガンドを同定するために用いることもできるのである。 つまり、このことは、治療や診断の用途に供する新規の細胞標的の同定や、治療や診断への利用が可能な新規の要素、すなわち、結合パートナーの同定に直結しうる点で重要であると言える。
【0078】
このように、本願発明は、以下の工程、すなわち、上述した工程(a)〜(c)(および、任意の追加工程)、(d)前記未確認リガンドに結合する一つまたは一つ以上の発現ライブラリーのメンバーを単離し、および(e)前記ライブラリーのメンバーが結合しているリガンドを単離および/または同定するために前記ライブラリーのメンバーを用いる、工程を含む、未確認リガンドを単離および/または同定する方法も提供する。
【0079】
本願発明の好ましい実施態様によれば、本願発明のAffiSelect法、すなわち、本明細書に記載の方法は、未確認リガンドを単離および同定するために用いることができる。 この実施態様において、本願発明の工程(a)で用いられるリガンドとして、真核細胞(例えば、COS細胞)またはその他の好適な細胞において発現したリガンドのライブラリー(好ましくは、cDNAライブラリー、さらに好ましくは、未確認リガンドを発現した標的細胞から得たcDNAライブラリー)があり、そして、その発現ライブラリーとして、未確認リガンドについての一つまたは一つ以上の結合パートナー、好ましくは、一つまたは一つ以上の抗体分子がある。
【0080】
よって、本願発明のさらに他の態様によれば、本願発明は、以下の工程、すなわち;
(a) 未確認リガンドに対して特異的な一つまたは一つ以上の結合パートナーを、溶液中で、細胞(好ましくは、真核細胞)内で発現した潜在的なリガンドをコードするライブラリー(好ましくは、cDNA ライブラリー、さらに好ましくは、未確認リガンドを発現した標的細胞から得たcDNAライブラリー)と接触させ、
(b) 一つまたは一つ以上の特異的な結合パートナーに結合したリガンドを固相に固定し、および
(c) リガンドの存在を検出し、それにより、未確認リガンドの候補である一つまたは一つ以上のリガンドの存在を検出する、
工程を含む、未確認リガンドを単離および/または同定する方法を提供する。
【0081】
接触工程、固定工程および検出工程は、本明細書で言及したようにして実施する。 特に好ましい検出方法は、PCRであり、特に、特定の結合パートナーによって認識されるリガンドの配列の迅速な増幅を許容するために、(例えば、ハウスホールド遺伝子よりもむしろ)リガンドライブラリーベクター配列に由来するプライマーを用いる。 このPCR産物は、DNAの配列決定のためや、コードされたタンパク質をさらに同定するために、好適なベクターに直接にクローニングすることができる。
【0082】
したがって、本願発明の方法は、リガンドの結合パートナー、または新規なリガンドそれ自体、すなわち、以後の種々の用途のために単離、産生または製造することができるリガンドを選択、同定または単離するために使用することができる。 そのため、本願発明の方法を用いて同定または選択される結合パートナー/タンパク質またはリガンドは、本願発明のその他の実施態様を構成する。 したがって、本願発明のその他の実施態様は、リガンドの特異的結合パートナーであるライブラリーメンバーを選択、同定および/または単離する方法、または発現ライブラリーからリガンドそれ自体を選択、同定および/または単離する方法を提供し、これら方法は、上記した工程(a)〜(c)(および任意に付加できる工程)を用いて発現ライブラリーをスクリーニングし、ある特定の性質を示す分子を選択する工程、そして、任意に、(e)リガンドの特異的結合パートナーである一つまたは複数の関連ライブラリーメンバーを同定および/または単離する工程、および任意に、(f)結合対象のリガンドを同定するために前記したライブラリーメンバーを用いる工程を含む。
【0083】
特定の性質を有する結合パートナーまたはリガンドをコードする適切な核酸断片が一旦同定されると、例えば、さらに改善された性質を有する結合パートナーを試しに同定するために、これらポリペプチドをコードする核酸を、所望により、親和性成熟に供することができる。 この親和性成熟は、スクリーニングサイクルを反復する前に、任意の従来の形態の変異誘発、例えば、制御された様式(例えば、部位特異的変異誘発)またはランダム様式での一つまたは一つ以上のヌクレオチドの付加、欠失および/または置換、エラープローンPCR、ドメインスワッピング、カセット変異誘発および鎖シャッフルなどを行うことにより行われるが、これらに限定されない。 この親和性成熟は、所望により、上記した確認工程の後に、単一のクローン解析を行う以前に実施される。
【0084】
一つまたは一つ以上の結合パートナーまたはリガンドが、本願発明の方法を用いて選択、同定、単離されおよび/または精製されると、これらの候補またはその成分、断片、変異体または誘導体を製造してもよく、所望により、少なくとも一種類の薬学的に許容可能な担体または賦形剤と共に製剤化することができる。 このようにして製造された分子、またはその成分、断片、変異体または誘導体もまた、本願発明に包含される。 あるいは、これらの分子は、前記したタンパク質分子をコードする核酸の形態をとる場合がある。
【0085】
この核酸を、今度は、適切な発現ベクター内に組み込むか、および/または、適当な宿主細胞内に含める。 したがって、前記した結合パートナーまたはリガンドをコードする核酸分子、または前記した核酸分子を含有する発現ベクターは、本願発明のその他の実施態様を構成する。
【0086】
ある特定の結合パートナーまたはリガンド、またはその成分、断片、変異体または誘導体が、本願発明に従って、一旦選択や同定などがされると、選択された結合パートナーまたはリガンドをコードする発現ベクターは、適切な宿主細胞または系内で発現され、そして、結合分子を宿主細胞または系、または、成長培地またはその上清から単離することによって、充分な量の分子を生成させるために容易に使用(または使用のために改変)することができる。 あるいは、前記した結合分子またはリガンドは、その他の適切な方法によって、例えば、結合分子をコードする核酸の化学合成および適当な宿主内またはin vitro転写系内での発現によって生成させることができる。
【0087】
したがって、本願発明のその他の実施態様は、上記した本願発明の方法に従って特異的リガンドの結合パートナーまたはリガンドそれ自体を同定または選択する工程、前記したような同定された結合パートナーまたはリガンド、またはその成分、断片、変異体または誘導体を製造する工程、および、任意に、前記したような製造された結合パートナーまたはリガンドを、少なくとも一種類の薬学的に許容可能な担体または賦形剤と共に製剤化する工程を含む、特異的結合パートナーまたはリガンドを製造する方法を提供する。
【0088】
結合パートナーまたはリガンドに関する前記した変異体または誘導体としては、ペプトイド等価物、非ペプチド合成主鎖を有する分子、および起源となる同定ポリペプチドと関連するか、これに由来するものであって、そのアミノ酸配列が、単一または多数のアミノ酸の置換、付加および/または欠失によって修飾されたポリペプチド、あるいは、例えば、脱グリコシル化またはグリコシル化によって化学的にさらに修飾されたアミノ酸との置換または該アミノ酸の付加を受けたものなども挙げられる。 好ましくは、このような誘導体または変異体は、このものを誘導した起源のポリペプチドに対して少なくとも60、70、80、90、95または99%の配列同一性を有する。
【0089】
結合パートナーが抗体分子である場合、前記した変異体または誘導体は、抗体分子のある形式からその他の形式への変換(例えば、FabからscFvへの変換(またはその逆)、または本明細書に記載している抗体分子の任意の形式間での変換)、または、ある特定のクラスの抗体分子への抗体分子の変換、例えば、IgGまたはそのサブクラス、例えば、IgG1またはIgG3(これらは治療用抗体に特に好適である)への抗体分子の変換をさらに含む。
【0090】
前記変異体または誘導体は、結合パートナー分子またはリガンドと、例えば、前記結合パートナーまたはリガンドのその後の適用において有用であるその他の機能的成分との会合をさらに含む。 例えば、結合パートナーまたはリガンドは、これを身体内のある特定の部位に標的化する成分、または、例えば、イメージングまたはその他の診断用途に有用な検出可能な部分と会合することができる。
【0091】
明らかに、これら成分、断片、変異体または誘導体結合パートナー分子またはリガンドとしての主たる要件は、これらが、結合能力に関して、その本来の機能的活性を保持しているか、または改善された機能的活性を有していることである。
【0092】
本願発明の方法を用いて単離、検出、選択、同定または製造される結合パートナー分子(好ましくは、抗体分子)またはリガンドは、リガンドに特異的な結合パートナー(例えば、ある特定の抗原に特異的な抗体)が必要とする任意の方法において使用することができる。 したがって、結合パートナー(好ましくは、抗体分子)またはリガンドは、分子ツールとして使用することができ、本願発明のその他の実施態様は、本明細書に記載のそれら結合パートナー分子またはリガンド分子を含む試薬を提供する。 また、このような分子は、in vivoでの治療的または予防的適用、in vivoまたはin vitro診断用途、またはin vitroアッセイに使用することができる。
【0093】
結合パートナーは、発現ライブラリーから単離された形態、または、操作または変換された形態のいずれかで治療的用途に適用することができ、例えば、scFv分子をIgGまたは多量体ペプチドに変換することが望ましい。 治療効果は、リガンド/リガンドに対して作用薬的または拮抗薬的結合を示す治療的分子に対して生物学的活性を誘導させること、例えば、アポトーシス(例えば、癌またはウィルス感染細胞のアポトーシス)を誘導すること、天然リガンドの結合をブロックする(それにより、腫瘍の成長および/または播種を阻害する)ことによって成長を阻害したり、またはマトリックスからの離脱を刺激することにより奏することができる。 このような治療効果は、リガンド/リガンド自体、または、その多量体(これが架橋することにより、一部のレセプターが活性化される)の性質によって達成することができる。
【0094】
選択または同定された結合パートナーが、抗体ポリペプチドである場合には、これらは、in vivoでの治療的および予防的用途に供することができ、例えば、特に、易罹患性の個体(例えば、免疫力の無い患者、小児、妊娠女性の胎児、疾患が流行している地域の人々など)に、受動免疫を付与するために使用することができる。 例えば、抗体が、感染性因子または疾患関連因子を中和できる場合、このものは、疾患に対処するために適切な被験体に投与することができる。 あるいは、抗体(またはその他の形態の結合パートナー)を、その他の治療上有効な分子、例えば、細胞傷害性因子(小分子またはタンパク質)、プレトキシンまたはその他の薬物に結合させ、疾患組織または特異的細胞型、例えば、腫瘍細胞またはウィルス感染細胞に標的化させることもできる。 さらに他の治療効果は、投与される因子に、操作されたその他の機能、例えば、scFvのIgへの変更、二重特異性分子、例えば、腫瘍細胞およびキラー細胞に結合する機能を調製後に付与するマクロファージ、補体または細胞傷害性T細胞を活性化する能力などによって達成することができる。
【0095】
あるいは、それら抗体(または、実際には、特定の組織または身体部位、または細胞のタイプ、例えば、腫瘍細胞またはウィルス感染細胞と関連するリガンドと相互作用するその他のタイプのポリペプチド)は、標識、例えば、色素、蛍光または放射能標識または酵素的に検出可能な標識にコンジュゲートさせて、in vitroまたはin vivoでの診断において、例えば、イメージングまたは標準的な免疫組織化学的手順に従って用いることができる。 その他の好ましい用途として、テラノスティック的使用形態(すなわち、診断および治療の双方において使用される抗体または結合パートナー)が挙げられる。 また、このような抗体分子またはその他の結合パートナーは、リガンドを単離するためにアフィニティークロマトグラフィーで使用することができる。
【0096】
特に、細胞表面発現タンパク質に対する抗体は、新規の診断用薬物および治療用薬物を成功裏に開発するための出発点を提供する。 これは、特異的細胞表面マーカーならびにこれに対する抗体結合の知識が、薬物開発の明確な障害となっている癌の分野で、特にそうであり、本願発明の方法は、新規な細胞表面マーカー(リガンド)および抗体(結合パートナー)の双方を同定および選択するために使用することができる。 現在、細胞表面に発現される腫瘍関連または腫瘍特異的エピトープは、非常に僅かな数しか知られていない。したがって、このようなタイプの新たなエピトープのいずれも(および、当然ながら、これに対する特異的抗体結合も)癌の処置において新たな可能性を提示する。 考えられる用途は、ADCC系治療用の裸出した完全体のIgG抗体産物から、組換えオリゴ特異的/オリゴ価構築物や、組織特異的および標的治療用の融合タンパク質免疫毒素および放射能標識抗体断片や、in vitroおよびin vivo診断用色素/放射能カップリング抗体にも至る。
【0097】
リガンドまたはその断片は、ワクチン、特に、(当然ながら、問題のリガンドに応じた)癌および感染性疾患の処置のための用途のためのワクチンとして使用することができる。
【0098】
リガンドは、作用薬および拮抗薬の標的として、ペプチド、タンパク質または小分子薬物の形態で使用することができ、これらは、例えば、アポトーシスまたは細胞成長の調節などの機能をブロックまたは誘導することができる。 また、リガンドは、別のスクリーニングのための標的として使用することができ、上記した内の幾つかを行うことが可能なその他の多くの分子を同定することができる。 場合によっては、リガンドまたはその断片は、それ自体が、天然状態でそれらに結合する分子に対して競合的に結合するなどの効果を奏することができる。
【0099】
必要であれば、そのような抗体分子の用途での適切な利用、例えば、治療用のIgG1またはIgG3クラスへの変換、イメージングのための適切な標識の組込みまたは付加などは、当業者に周知のものである。
【0100】
上記したような種々の用途において最も好適な抗体は、当業者が設計可能な適切な試験を用いて容易に同定することができる。 例えば、抗体または結合パートナーの高い親和性または親和力が重要となる用途では、これらの基準は、候補抗体に関して、標準的なアッセイ方法(例えば、Biacoreアッセイ)を用いて容易に検証することができる。 また、ある特定の感染因子(例えば、細菌、ウィルスなど)に対する抗体が同定された場合、どの抗体が感染因子を中和する上で最も有効であるかを評価するための適切な試験を行うことができる。 例えば、細菌の場合、問題の細菌に対する殺菌活性およびオプソニン化食作用活性が評価することができる。 同様に、ウィルスの場合は、ウィルス中和試験を行って、最良の候補を同定することができる。
【0101】
したがって、本願発明のさらに他の実施態様では、一つまたは一つ以上の標的抗原、例えば、特定の疾患、細胞、組織または外来因子と関連する一つまたは一つ以上の標的抗原に特異的に結合する一つまたは一つ以上の抗体分子を単離、検出、同定、選択または製造するための、本明細書に記載の抗体発現ライブラリーの使用を提供する。 このことは、例えば、標的抗原を用いて抗体発現ライブラリーをスクリーニングすることによって実施される。
【0102】
本願発明のさらに別の実施態様では、治療またはin vivo診断での用途、または、上記した任意のその他の用途での利用に供される上記の単離、検出、同定、選択または製造される抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドが提供される。 また、治療(特に、癌または感染性疾患の治療)またはin vivo診断での用途、または、上記した任意のその他の用途での利用に供される医薬または組成物の製造に供される上記の抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドの使用も含まれる。 適切な用量のそれら抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドを投与することを含む、患者の処置方法も提供される。
【0103】
前記した抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドが、上記した用途および方法で利用される場合、これらは、任意の適切な様式で投与することができる。 例えば、これら抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドは、作用が必要とされている部位に局所的に投与することができ、または、抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドを、身体内の適切な位置への標的化を促す物質に対して結合または会合させることができる。
【0104】
本明細書に記載の抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドを、一つまたは一つ以上の薬学的に許容可能な担体または賦形剤と共に含む医薬組成物は、本願発明のさらに他の実施態様を構成する。
【0105】
また、さらにその他の実施態様によれば、適切な量の本明細書に記載の抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドを患者に投与すること、および、患者内の抗体分子の存在、位置および/または量を検出することを含む、患者の診断またはイメージング方法が提供される。
【0106】
本願発明の発現ライブラリーから同定、選択などされた抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドは、in vitroで行われる診断方法、例えば、組織試料または幾つかのその他の種類の試料、例えば、患者から採取または誘導した血液に関して適切に行われる診断方法において、同様に使用することができる。
【0107】
処置または診断される疾患は、好ましくは、癌、感染因子によって引き起こされる感染性疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患または変性疾患である。
【0108】
「治療」または「処置」の用語は、本明細書で用いる場合、予防的治療を含む。 「治療」および「処置」の用語は、疾患または感染の対処または治癒を含むだけでなく、疾患または感染またはこれらと関連する症状の抑制または軽減も含む。
【0109】
本願発明の方法は、大規模なスクリーニング、すなわち、500,000個までの異なるメンバーを擁する発現ライブラリー、または、1×106個またはそれ以上のメンバーを擁するライブラリーを同時にスクリーニングするために利用することができる。 好都合なことに、かような大規模スクリーニングを行うために、発現ライブラリーを、フィルターやプレートのような一つまたは一つ以上の固体支持体に置かれた細菌コロニー、および/または、一つまたは一つ以上の分析用プレート(例えば、一つまたは一つ以上の384-ウェルまたは96-ウェルの分析用プレート)の各ウェルで増殖せしめたコロニーの形態で提供することができる。 例えば、当業者に周知の方法を用いて、30,000個〜300,000個のコロニーをフィルターで容易に増殖させることができ、次いで、これらコロニー(または、その一部)を回収して、そして、コロニーを懸濁液にてさらに増殖し、次いで、本願発明の方法に従って容易にスクリーニングできるポリペプチドレベルにまでライブラリーのメンバーを発現せしめるために誘発あるいは処理を行った分析用プレートにコロニー移すことができる。 ライブラリーのメンバーが内部発現する場合、すなわち、発現ライブラリーが、ディスプレイライブラリーでない場合には、発現したライブラリーのメンバーを入手して、スクリーニングに供するためには、細胞の溶解、例えば、細菌細胞の溶解も必要となってくる。
【0110】
一つのコロニー(または一つの発現ライブラリーのメンバー)を、分析用プレート(またはその他の適切な検定区画)の一つのウェルに加えたり、あるいは存在させることができ、実際のところ、通常は、後続の再スクリーニングプロセスを簡略化するために、当初より各ウェルに単一のクローン(単一のライブラリーのメンバー)だけを擁する分析用プレートを準備することが望ましい。 しかしながら、大規模なスクリーニングの進行を円滑ならしめるために、複数のコロニー(複数の発現ライブラリーのメンバー)を、分析用プレート(またはその他の適切な検定区画)の同じウェルに加えたり、あるいは存在させることができ、そして、複数のライブラリーのメンバーを、分析用プレートの同じウェルで発現させることもできる。 例えば、100個、300個、500個または1000個までのコロニーから得た細菌を、分析用プレートの一つのウェルにプールし、そして、ライブラリーのメンバーを発現するために誘発することができる。 溶解を行った後に、必要に応じて、発現ライブラリーを、本願発明に従ってリガンドと接触させるための準備を行う。 あるいは、好ましくは、コロニーを個別のウェルに置き、そして、同じウェルにライブラリーのメンバーをプールする前に、ライブラリーのメンバーの発現と(必要に応じた)溶解を行うこともできる。 同じウェルに置かれた複数のコロニーを増幅および発現させることで、例えば、優勢なライブラリーのメンバーまたは毒性のライブラリーのメンバーが存在している場合には、不都合な問題を引き起こしかねないので、この対処は好ましい処置であるといえる。
【0111】
同じウェルに複数のコロニーが存在する場合には、好都合なことに、分析用プレート全体またはフィルターの特定の箇所から得たコロニーを、単一のウェルに置くことが望ましい。 例えば、各細菌コロニーを、384-ウェルプレート(例えば、プレートの枚数が、90枚〜100枚にもなると、35,000個〜38,000個のコロニーを収容できる)にて、採取、増殖および誘発(そして、任意の溶解)することができる。 細菌用培地(事後に溶解することが可能な培地)または発現したポリペプチドを有するペリプラズム溶解物の1〜3μlを各ウェルから取得し、これらを、その他のウェルから得た試料と同じ体積でもってして、96-ディープウェルプレートの単一のディープウェルにプールする(プールした体積は768μlとなる)。 他の384-ウェルプレートで、この処理を繰り返すと、最終的に、一つの96-ディープウェルプレートでの分析に供される384×96個(36,864個)のクローンが得られる。
【0112】
実際のところ、本願実施例では、プールした384個のウェルからの単一のポジティブウェルの検出を可能にする手法を紹介している。 加えて、370,000個(384×96×10)にまで拡大した異なるコロニーを、比較的に短期間(1〜2週間)の内に、容易にスクリーニングできる手法についても紹介されている。
【0113】
発現のために細菌コロニーを利用しない本願発明の実施態様、例えば、リボソームまたはコバレントまたは非コバレントのディスプレイライブラリーのようなin vitroディスプレイライブラリーを発現ライブラリーとして用いる場合には、同じ技術思想の適用、つまり、理想的には、個別のクローンとして誘発およびスクリーニングすることができ、または、スクリーニングのために誘発およびプールすることができ、または、スクリーニングのためにプールし、次いで、誘発することができる分析用プレートの単一のウェルに、各ライブラリーのメンバーを存在せしめる点に留意すべきである。
【0114】
スクリーニングに用いる可溶性/不溶性タンパク質を取得するために用いる適切な誘発/発現および溶解の方法は、本願発明で利用するために選択された特定の発現ライブラリーの性質に応じて決定され、また、当業者に周知の事項でもある。 例えば、Relay(商品名)96タンパク質スクリーニングシステム(Invitrogen社)は、30分以内に同じ試料から可溶性タンパク質(および、必要であれば、不溶性タンパク質)を抽出することができるため、96-ウェルまたは384-ウェル形態での利用に特に適している。
【0115】
発現ライブラリーが、一旦は、分析に適した形態、例えば、分析用プレートの複数のウェルに発現ライブラリーが分注され、そして、結合可能な形態でポリペプチドが発現されるに至っておれば、発現ライブラリーのポリペプチドとリガンドとの間の結合を促す好適な条件下で、本願明細書でこれまでに説明してきたようにして、発現ライブラリーと、一つまたは一つ以上のリガンドとを接触せしめる。
【0116】
適切な条件下で、ウェル内の発現ライブラリーと好適なリガンドとを接触させ、そして、本願明細書でこれまでに説明してきたようにして、例えば、磁性体ビーズを用いて、ウェル内の固相にリガンド-発現ライブラリー複合体を固定した後に、潜在的なポジティブを検知するために、レポーター部分のPCRを行うことができる。 一つの96-ウェルプレートでポジティブシグナルが検知されれば、それは、384個のクローンの内の少なくとも一つがポジティブであることを意味する。 これらの(一つの384-ウェルプレートに対応する)クローンは、再度分析(サブスクリーニング)しなくてはならない。 しかしながら、これにより、潜在的なクローンの数を、36,864個から384個にまで減少するに至っている。
【0117】
96-ウェルプレートの各ウェルに10個〜100個のコロニーをプールする本願発明の小規模な方法の概略は、図7に示した通りであり、これにより、1000個〜10,000個のコロニー/96-ウェルプレートのスクリーニングが可能となる。 この特定の実施例(この方法を汎用化することは可能である)によれば、scFv誘発/溶解培地は等張状態となり、そして、50,000個の癌細胞/ウェルが接種された96-ウェルプレートに移される。 これら細胞は、4℃で、1時間かけて、scFvでコーティングされる。 抗体をコーティングした磁性体ビーズ、すなわち、scFvタグに対するビーズが加えられ、そして、ビーズ-細胞の複合体は単離される。 細胞に結合する抗体が存在しておれば、対応する癌細胞が単離され、そして、PCRによって検出される。 このようにして、ポジティブなPCRシグナルは、さらに別の検査に供されるscFv候補物(10個〜100個)の小集団を同定する。 後に詳述する通り、スクリーニングを必要とするコロニーの数(すなわち、スクリーニングしようとする発現ライブラリーの大きさ)に基づいて、また、任意に、発現ライブラリーに含まれているであろうポジティブの見込値に基づいて、本願発明の方法の規模を適切に選択することができる。
【0118】
本願発明のさらに他の態様によれば、一つまたは一つ以上のリガンドに関する結合パートナー候補である一つまたは一つ以上のメンバーを同定および/または選択するために、分子ライブラリーをスクリーニングする方法であって、以下の工程、すなわち;
(i) 発現ライブラリーのメンバーを発現することができる幾つかの細菌クローンをプールし、または、分析用プレートの単一ウェル(または、その他の好適な検定区画)において幾つかの細菌クローンによって生産された発現ライブラリーの幾つかのメンバーをプールし;
(ii) 工程(i)で幾つかの細菌クローンがプールされておれば、前記発現ライブラリーのメンバーの発現に向けて当該細菌クローンを誘発し;
(iii) 前記発現ライブラリーのメンバーと、一つまたは一つ以上のリガンドとを接触させ;
(iv) 発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーがリガンドに結合しているポジティブの分析用ウェル(または、その他の好適な検定区画)を決定し;
(v) 必要に応じて、当該ポジティブの分析用ウェルに存在するクローンの選択的増幅を行い、そして、工程(iii)および(iv)を反復し;
(vi) 前記リガンドに関する結合パートナーを発現する一つまたは一つ以上の細菌クローンを同定する、工程を含む方法が提供される。
【0119】
これらスクリーニング法(クロススクリーニング法とも称される)は、ポジティブクローンを低率でしか含有していないライブラリーのスクリーニングに特に適している。 以下に詳述するように、これらプール処理(「集約」とも称される)や選択的増幅法は、200万個の細菌クローンや、その10倍量のクローンをスクリーニングする上で好都合に利用することができる。
【0120】
これら方法で用いる発現ライブラリーとして、本明細書に記載のいずれのタンパク質発現ライブラリーでも利用可能である。 発現ライブラリーとして、抗体発現ライブラリーが好ましく、また、scFvライブラリーがさらに好ましい。 本願発明の方法でのこの態様にあっては、好ましくは、すでに発現しているライブラリーのメンバーをプール(集約)する。
【0121】
決定の(決定する)工程は、好ましくは、上述した本願発明の方法の工程(b)および工程(c)、すなわち、発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーが結合したリガンドを固相に固定し、そして、リガンドの存在を検出することによって実施することができ、そうすることにより、それらリガンドについての結合パートナー候補である発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーの存在が検出される。 つまり、この方法は、前述した工程(a)〜工程(c)に記載のスクリーニング法(すなわち、AffiSelect法)が実施可能であることを実証する事例であるといえる。 前述した工程(b)および工程(c)を利用するのであれば、これら工程を実施するにあたって好適なすべての態様および詳細事項までをも、細菌コロニーまたは発現ライブラリーのメンバーのプール処理を利用する上記スクリーニング法に対しても等しく適用される。
【0122】
このスクリーニング法とは、固相での固定とリガンドの検出とが関係する前述した工程(a)〜工程(c)によって規定されるスクリーニング法だけに限定されるものではなく、可溶性ポリペプチドを発現する幾つかの細菌コロニーをスクリーニングするための一般的な方法にまで及ぶ。 よって、前記した決定工程は、発現ライブラリーのメンバーとリガンドとの結合を決定するための好適な方法、例えば、Biacore、ELISA、(8200系検出システム(Applied Biosystems社)を用いる)FMATなどのその他の分析方法を利用している方法を含むことができる。
【0123】
選択的増幅工程(v)では、通常、ポジティブを示す分析用ウェル(コンパートメント)内のクローンを、やや集約した(プール規模の小さい)形態、例えば、分析用ウェル(コンパートメント)の数を増大した形態へと移行させるプレートの移し替えを行う。 前記した拡大工程によって、好ましくは、各クローンが、単一の分析用ウェル(コンパートメント)内に個別に存在することとなる。 前記した選択的増幅工程は、好都合なことに、ポジティブウェルにあるクローンを当初の(事前プール、事前集約)供給源に戻し、そして、これらクローンを、やや集約した形態へとプレートの移し替えをすることによって行われる。
【0124】
選択的増幅工程(v)(および、工程(iii)および工程(iv)の反復)の回数は、当業者であれば、必要に応じて、容易に決定することができる。 例えば、これら工程は、同定工程(vi)の円滑な進行を促すために、各クローンが、単一の分析用ウェル内に個別に存在するまで行うことができる。
【0125】
この同定工程(vi)は、好都合なことに、ポジティブウェル(例えば、図9Dに記載の交差箇所のウェルを参照されたい)にあるクローンを当初の(事前プール、事前集約)供給源に戻し、そして、本明細書において言及した標準的な方法を用いて、結合パートナーを、核酸レベルおよびタンパク質レベルで同定するために、単一クローンの分析をすることによって行われる。
【0126】
本願発明での本実施態様でのスクリーニング法においてプールおよびスクリーニングされる(または、プールおよびスクリーニングされる発現ライブラリーのメンバーを産生する)細菌クローンは、どのような供給源からも取得することができるが、好都合なことに、それらは、細菌の集密層の一部として、あるいは、プレートまたはフィルターでの個別の細菌のコロニーとして、当初から存在している。 あるいは、スクリーニングするコロニーの数が比較的に小さい場合には、これらコロニーを、好適な分析用プレートの個別のウェルに存在せしめることができる。 クローンが、集密層、またはプレートまたはフィルターでの個別のコロニーとして増殖する場合には、好都合なことに、このスクリーニング法で試験されるクローンは、適切なロボット技術(例えば、Qpix)または手作業によって回収することができる。
【0127】
一例として、細菌の集密層を用いる場合には、自動回収ヘッドの各ピンは、5個〜50個のコロニーを回収し、そして、好適な分析用プレート、例えば、96-ウェル分析用プレートまたは384-ウェル分析用プレートの単一ウェルに移すことができる。 384-ウェルプレートの単一ウェルにクローンを移して、それを増幅することによって、その384-ウェルプレートにおいて、3,800個〜19,000個のクローンを同時にスクリーニングすることが可能となる。 例えば、100枚〜200枚の384-ウェルプレートを用いることで、400万個までのクローンをスクリーニングすることが可能となる。
【0128】
これら384-ウェルプレートを、細菌コロニーの表面として使用することで、単一の384-ウェルプレートの各ウェルから得たコロニーを、96-ウェルプレートの一つの単一ウェルにプールして、1個〜2個の単一の96-ディープウェルプレートに、これらクローンをプール(集約)することによって(図8)、本願発明の方法の工程(i)を行うことができる。 次に、本願発明の方法の工程(ii)〜工程(vi)を実施することができる。 本願発明の方法の工程(iv)で決定されたポジティブウェルは、19,000個までのクローンまたはある特定の一枚の384-ウェルプレートに対応する。 この特定の384-ウェルプレートは、((本実施例での選択的増幅工程である)縦列および横列の選択的集約を行うことで)図9Gに記載されたようにしてクロススクリーニングすることができ、そして、(交差箇所にある6個のウェルの再スクリーニングを必要とする)本願方法発明の工程(iii)および工程(iv)を実施することによってサブスクリーニングを行う。 384-ウェルプレートの単一ウェルを同定した後もなお、50個までのクローンをスクリーニングしなければならない。 スクリーニングの最終段階では、ウェル内のすべての細菌を排出し、そして、個別に回収したコロニーのサブスクリーニングを改めて実施することができる。 1×106個のクローンをスクリーニングするために要する時間は、約1〜2週間である。
【0129】
このスクリーニング法を実施する上で最も効率的な方法を決定するために、好ましくは、ポジティブクローンの存在率を評価するためのプレスクリーニング工程を実施する。 この評価作業は、どのような方法によっても実施できる。 しかしながら、好都合なことに、無作為に選択したクローン、例えば、10個、100個または100,000個までのクローンを一つの分析用ウェル内にプールし、そして、ヒット率を予測するために、(本明細書に記載の)AffiSelect法を実施することで、この評価作業を行うことができる。
【0130】
ポジティブの存在率が、0.0001%(または、1個のクローン/1,000,000個のコロニー〜1×106個のコロニー)、または、それ以下の場合には、本明細書(図8)に記載したようにして、各プレートの各ウェルから得た384個の全試料をプールすることが好ましい。 例えば、細菌の集密層から100万個〜200万個のクローンが採取され、そして、384-ウェルプレート(100×384プレートの各ウェルには、約50個の細菌が含まれている)において誘発される。 次いで、各384-プレートは、ディープウェルプレートの一つのウェルに集約され、そして、磁性体ビーズとPCRを用いて標的に対する分析が行われる。 ポジティブ部分(約20,000個のクローンを含んでいる部分)を再度復元し、次いで、個別に排出とスクリーニングをすることができる50個のクローンの単一ウェルを均等に同定するために、二つの横列と三つの縦列(再スクリーニングを必要とする6個の交差箇所)をプールして、図9Gに関する記載に従ってサブクローニングを行う。
【0131】
ポジティブ率が、0.01%〜0.1%(または、それ以下)の場合には、理想的には、幾つかの384-プレートをスクリーニングし、図9Gに関する記載に従って横二列と縦三列をプールする。
【0132】
ポジティブ率が、0.1%〜3%の場合には、横列と縦列(16列+24列)の各列をプールして、384-プレートの全体をスクリーニングすることが賢明である。 この場合、再スクリーニングは不要である。 しかしながら、384-プレートが、106個のクローンについての大規模スクリーニングに由来している場合には、384-プレートの各ウェルには、複数個のコロニーが含まれているので、単一クローンを同定するために、改めて培養を行う必要がある。
【0133】
ポジティブ率が、0.5%〜3%の場合には、(図9のパネル(A)〜(C)に記載されているようにして)96-ウェルプレートの横列と縦列をすべてプールして、20箇所の分析を行う手法が好都合な対処法といえる。
【0134】
ポジティブ率が、2%〜10%の場合には、図9のパネル(F)に記載されているようにして、ある特定の箇所についてスクリーニングを行うことが望ましい。 例えば、一つのスクリーニング用の96-ウェルプレートを、その各々が、七つの横列と縦列をカバーしている八つの箇所に分割して、試験に供する候補物の数を56にまで絞り込む。
【0135】
ポジティブ率が、10%を超える場合には、クローンの集約を行わずに、すべてのクローンを個別にスクリーニングすべきである。
【0136】
上記したように、接触工程および決定工程の好ましい実施方法は、本願明細書においてこれまでに説明したものと基本的には同じである。 例えば、真核細胞または抗原(リガンド)を、発現したscFvおよび細菌用培地に分泌されたscFvで(1〜2時間かけて)コーティングされる。 このリガンド(細胞またはDNAで標識付けされた抗原)は洗浄され、そして、scFv(二次抗体)に発現したcMyc-タグに対する抗体が添加される。 タグに対する抗体(cMyc)を具備した磁性体ビーズを用いることで、標的物に対してscFvが結合する場合についてのみ、磁性体ビーズで単離および精製されたリガンド(真核細胞またはDNAで標識付けされた抗原)とscFvとの複合体が形成される。 標的物に対してscFvが結合しない場合には、いなかる複合体も単離されず、また、PCRもネガティブな結果を示すであろう。 しかしながら、洗浄しても除去されない単一のポジティブscFv(20,000個までのその他のscFv)が存在する場合には、scFv-標的物の複合体に関するPCRは、ポジティブの増幅結果をもたらすDNAを示すであろう。 真核細胞のハウスホールド遺伝子のPCRは、抗原に結合するscFvを発現しているウェルに抗体が存在していることを指し示すレポーターである。 一つの96-ウェルプレートでポジティブシグナルが検知されれば、それは、384個のクローンの内の少なくとも一つがポジティブであることを意味する。 これらの(一つの384-ウェルプレートに対応する)クローンは、再度分析(サブスクリーニング)しなくてはならない。
【0137】
本願発明を、図面を参照しつつ、以下の実施例に沿って詳細に説明するが、本願発明は、これら開示に基づいて限定的に解釈されるべきではない。
【実施例】
【0138】
実施例1:
免疫磁性体分離法と真核細胞のレポーター遺伝子のPCRとを使用したモノクローナル抗体、scFv、および真核細胞リガンドの表面エピトープに結合するファージ(ライブラリーのメンバー)の固定および検出。
【0139】
要 約
本実施例は、選択プロセスと検出プロセスを例示するものである。 A-549真核細胞(ATCC CCL-185;Viventia社からの贈与物)またはPM-1真核細胞(ザ ノルウェジアン ラジウム病院からの贈与物)(細胞表面リガンドを具備している細胞)は、モノクローナル抗体、scFv、またはファージ(アフィニティーメンバー)のいずれかでコーティングされていた。 このアフィニティーメンバーが細胞表面リガンドに結合していると、このアフィニティーメンバーによって結合部分を調製することができ、これにより、アフィニティーメンバーと結合したリガンドの固定と検出が容易となる。 このことは、試験を行ったすべてのアフィニティーメンバーにおいて認められた。
【0140】
物質および方法
38kDaのトランスメンブランEGP-2上皮細胞接着分子に結合するマウスMoc-31抗体(De Leij, L., Helfrich, W., Stein, R., and Mattes, M. J. (1994) SCLC-cluster-2 antibodies detect the pancarcinoma/epithelial glycoprotein EGP-2. Int. J. Cancer Suppl., 8, pp.60-63.)は、ザ ノルウェジアン ラジウム病院からの贈与物である。 マウス抗-ヒトHLA-ABC(MHCクラスI)は、Dako社から購入し、また、プロテイナーゼK、BSA(画分V)、Tween 20およびNP-40は、Sigma社から購入した。 プロテイナーゼKストック溶液は、1.5mM CaCl2を20mg/mlの濃度になるまで添加した50 mM Tris-HCl pH 8.0を用いて調製し、そして、それらを−20℃で貯蔵した。 すべての溶液に対して滅菌ミリQ精製水を使用し、また、オートクレープ処理または濾過処理(0.22μm)のいずれかで、すべての溶液を殺菌した。
【0141】
真核細胞であるヒト乳癌細胞系PM-1を、ビュルカーの血球計数器で計数を行い、そして、3%BSAを含むPBSで、3.2×106細胞/mlに調整した。 細胞を、3%BSAで洗浄し、そして、その個々のウェルに50,000個〜100,000個のPM-1細胞を収容しているグレイナーの96-ウェル U-プレートを用いて、5分間、400〜500×gで遠心分離した。 次いで、PBS/3%BSAに含まれている(細胞エピトープに結合している)一次抗体を、細胞(100μlの体積)に対して加えて、沈降を避けるために280rpmで遠心分離しながら、ハイドルフユニマックス1010プレートシェーカーを用いて、4℃で、60分間かけてインキュベーションした。 そして、細胞を、200μlのPBS /3%BSAで、二度の洗浄を行った。 一次抗体も、タグを有する抗体(例えば、cMycタグおよびHis6タグを具備したscFv抗体)である場合には、二次抗体は、PBS/3%BSAで希釈され、そして、細胞に対して加えられ、次いで、前述したようにして、さらに60分間かけてインキュベーションされる(例えば、マウス抗-cmyc(Invitrogen社、1:500)やマウス抗-His(Invitrogen社、1:500)などがある)。
【0142】
細胞表面エピトープ(A-549細胞)に対して異なるscFv抗体を示すM13ファージを用いて細胞がインキュベーションされている場合、その結合部分は、マウス抗gp8抗体であった。 これら抗体は、ファージ表面のM13ファージgp8タンパク質に結合する。 一次抗体および/または二次抗体を添加し、そして、3%PBS/BSAで細胞を二度にわたって洗浄をした後に、パンマウスIgGでコーティングした常磁性体ダイナルビーズM-450ビーズ(500,000個)(Dynal Biotech社、オスロ)を加え、そして、プレートシェーカー(400rpm、4℃)にて、20〜30分間かけてインキュベーションした。 その表面にアフィニティーメンバーを具備しているリガンド/細胞を、磁性体分離法を用いて、ダイナルビーズに固定し、そして、PBS/BSAで三度の洗浄を行って、非結合性リガンドを除去した。 プロテイナーゼK溶解緩衝液(30μl)を、0.45%(v/v)のNP-40、0.45%(v/v)のTween 20および200μg/mlのプロテイナーゼKを加えた、1×ダイナザイムII PCR反応用緩衝液(10mM Tris-HCl pH 8.8、1.5mM MgCl2、50mM KClおよび0.15 Triton X-100)から調製された)細胞-ビーズのローゼットに導入した。 これら試料は、55℃で、少なくとも60分間はインキュベーションを行うが、通常は、エッペンドルフマスターサイクラー勾配PCR装置に装着される(エッペンドルフの「穴あき軽量」ホイルで)密閉された96-ウェルPCRプレートで、55℃で、一晩かけてインキュベーションし、次いで、酵素を失活させるために、95℃で、30分間かけてインキュベーションした。
【0143】
PM-1細胞の検出を介してリガンドを検出するために、PCRを行った。 真核細胞内部のハウスホールドβ-アクチン遺伝子の短い領域(〜400bp)を増幅するためのプライマー、すなわち、β-アクトセンス、caagagatggccacggctgct、および、β-アクトアンチセンス、tccttctgcatcctgtcggcaは、MWG Biotech社から購入した。 ダイナザイムIIポリメラーゼ(0.8U/反応、Finnzymes社)を、その10倍量の緩衝液と一緒に使用した。 通常は、30μlの反応液に対して200μMのdNTPミックス(Fermentas社)および77μMのプライマーを用いて、反応ごとに、5μlのテンプレート(プロテイナーゼKで処理した細胞)を利用した。 標準的なTaqポリメラーゼPCRプログラム、すなわち、最初に、94℃で、5分間、次いで、94℃(1分)、66℃(1分)および72℃(1分)からなるサイクルを35サイクル、そして、最後に、72℃(5分)および4℃(保存)というプログラムを、(前述した)PCR装置において実行した。 得られた産物を、2%アガロースゲルに試料を適用する電気泳動を用いて分析した。
【0144】
結果/考察
PM-1細胞を、Moc-31抗体または抗ヒトHLA-ABCのいずれかでコーティングした。 図1は、異なる量のMoc31 IgG抗体でコーティングされたPM-1細胞を示している。 細胞に対して添加するIgGの量を0.1ngにまで低減してもなお、シグナル(400bpでのPCRバンド)が認められている。 これは、40pgのscFv抗体、または、0.8μg/lの濃度の大腸菌発現培養物から得た50μlに相当する。 また、これは、16,000個のMoc31分子/PM-1細胞の密度に等しい。 関連するHLA-ABC実験から得たデータを記録したところ、同じ結果が得られた(結果を示さず)。 これらの実験は、(アフィニティーメンバーを模倣する)IgG結合箇所を間接的に検出する目的でPCRを利用するにあたって、細胞を抗体でコーティングすることが可能であることを如実に示している。 細胞とビーズとが結合さえしておれば、細胞を単離すること、そして、その存在をPCRを用いて検出することが可能となるのである。
【0145】
細菌発現用培地にて抗体で真核細胞のPM-1細胞をコーティングすることの可否を試験するために、その他の試験も実施した。 細菌発現用培地の使用にあたっては、滅菌水で培地を等張状態にしておく必要がある。 (等張性のPBSは、138mMのNaClを含んでおり、また、LBブロス細菌用発現培地は、高濃度のNaCl(171 mM)を含んでいる)。 PM-1細胞に関して試験したLB発現/培地も、100μMのIPTG、100μg/mlのアンピシリン、および、2mg/mlのリソチームを含んでおり、また、PM-1細胞への添加に先駆けて、0.3(w/v)%のBSA(最終濃度)が添加される。 ゲルで分析を行ったPM-1細胞のPCR産物に関する分析結果は、真核細胞をコーティングするために等張性のLBを用いることが可能であることを如実に示している(図2)。 これによって、多数の細菌クローンを発現プレートから直接的にスクリーニングすることが可能になるので、これは重要である。 ネガティブコントロールでのβ-アクチンPCR産物のレベルが、図1に記載のものよりも高レベルであることは、本実験での1ng以上の良好な検出を困難にしていることに留意されたい。
【0146】
マウスIgG抗体について認められたのと同様の結果が、c-mycタグおよびHis6タグを有するscFv抗体でコーティングされた真核細胞の固定においても認められた(本明細書で結果は示していないが、実施例2において例示してある)。 しかしながら、一次抗体としてのscFv抗体でコーティングした細胞は、c-mycタグおよびHisタグに結合するために、細胞に対するマウスIgG二次抗体の添加を必要としていた。 こうすることで、コーティングした細胞を固定するにあたって、パンマウスIgGでコーティングした磁性体ビーズを引き続き使用することができる。
【0147】
加えて、細胞表面エピトープ(A-549細胞)に対して異なるscFv抗体を示すM13ファージで真核細胞をコーティングすることも可能となった。 この実験では、A-549細胞は、まずM13ファージで覆われ、そして、洗浄してから、マウス抗体gp8抗体が加えられている。 これら抗体は、ファージの表面にあるM13ファージgp8タンパク質に結合している。 このA-549-ファージ-抗体の複合体は、改めて洗浄がされてから、ダイナビーズM-450パンマウスIgGを用いて、ファージ- 抗体間の結合を介して固定されている。 ここでの検出も、A-549細胞内部のβ-アクチン遺伝子のPCRによるものである(図3)。 一旦、ビーズと細胞との間の結合(ファージ-gp8抗体-パンマウスIgG)が形成されると、PCRによって、A-549細胞の検出ができるようになる。 これら結果は、ここで示した試験に供したscFvを具備しているM13ファージの大半(16個の試料の内の15個)が、A-549細胞に結合していることを示した。
【0148】
結論として、IgG抗体、scFv抗体、およびscFvが結合したバクテリオファージM13などのライブラリーのメンバーを、そこに結合しているリガンドの検出を介して間接的に検出する方法は、首尾良く成功に至った。 検出工程が、リガンド分子(または、少なくともリガンド分子に直接的に結合する物質)に関するものであるので、生物学的ライブラリーのみならず、化学的ライブラリーをも検出することが可能となる。
【0149】
実施例2:
リガンドの最適化のために使用することができる細胞数の減少。
【0150】
要 約
細胞(リガンド)の数を、5,000個/反応にまで低減しても、細胞表面エピトープに結合するscFv抗体抗体を間接的に検出することは可能か。 理論的には、リガンドDNAの単一細胞PCR増幅を行ってもなおバックグラウンドが消失する場合には、異なる二つのPCRを行うことが必要となる。
【0151】
物質および方法
実施例1を参照されたい。
【0152】
通常は、96U-プレートにおいて、1,000個〜100,000個の細胞/ELISAウェルで試験を行った。 5μlの発現scFvを、50μlのコーティング量(3%BSAを含むPBS)にまで希釈したものを用いた。 ビーズの数は、10,000個〜100,000個の細胞については5:1の比率で維持したが、1,000個〜5,000個の細胞については、10:1の比率にまで増やした。
【0153】
結果/考察
AffiSelection法に使用することができるリガンドを発現する細胞の数を減らすことは重要である。 培養による真核細胞の増殖は、時間を要するのみならず、余分な供給源も必要とする。 この技術に利用可能なA-549癌細胞の最少量を突き止めるために、細胞の数を、100,000個から1,000個にまで変化させた。 リガンドを発現する細胞の数を5,000個にまで減少することができ、また、そうしてもなお、scFvでコーティングした細胞が検出されることを、図4は示唆している。
【0154】
このことは、余計な(単一細胞に対する)PCR最適化処理を行わずとも、たった一回のPCR操作でもってして、5,000個の細胞をなおも検出できるなど、非常に経済的な手法であることを指し示すものである。
【0155】
実施例3:
通常の細胞ELISA法とAffiSelect法での検出レベルの比較。
【0156】
要 約
AffiSelect法は、通常の細胞ELISA法と比較して、格段に優れた感度を示した。 通常の細胞ELISA法では検出されなかった幾つかのscFv メンバーは、A-549細胞への結合に関するAffiSelect法で同定された。
【0157】
物質および方法
AffiSelect法の詳細に関する実施例1を参照されたい。
【0158】
細胞-ELISAは、A-549細胞に関する標準的プロトコールを用いて実施した。 96-ウェルマイクロプレートを、4℃で、一晩、PBS/3%BSAを用いてブロックした。 各ウェルに、細胞(200,000個)を加えた。 細胞を再懸濁し、そして、PBS/3%BSAで洗浄(3度)を行い、一次抗体または抗体HLA ABC(MHCクラスI)IgGと共にインキュベーションし、次いで、プレートシェーカー(280rpm)にて、4℃で、60分間、インキュベーションを行い、PBS/3%BSAで洗浄し、そして、抗-cmyc(1:4000)を加え、次いで、4℃(280rpm)で、さらに60分間、インキュベーションした。 PBS/3%BSAで(4℃で、その100μlで3度)洗浄を行った後に、細胞を、4℃(280rpm)で、60分間、3%BSAを含むPBSで希釈した抗マウスIgG-西洋ワサビペルオキシダーゼで再懸濁した。 前述したようにして再度の洗浄を行った後に、最後に、TMB基質溶液(100μl)を加え、そして、室温で、15分間、インキュベーションを行った。 上清(75μl)を除去してから、450nmにて分析を行った。
【0159】
結果/考察
図5では、細胞ELISAで得られるシグナルと、AffiSelectで得られるシグナルとを比較している。 主要な相違点として、直接的にリガンド表面のアフィニティーメンバーを細胞ELISAが検出するのに対して、アフィニティー精製工程を終えた後に、リガンド(細胞)だけをAffiSelectが検出する点が挙げられる。 バックグラウンドよりも十分に鮮明なシグナルを得るために必要とされる細胞ELISAでの細胞数(200,000個)は、AffiSelectで必要とされる細胞数(100,000個)よりも多くならざるを得ない。 そして、AffiSelectで得られるシグナルの強度は大きく、また、鮮明である。
【0160】
実施例4:
小規模ライブラリーのスクリーニングを刺激することで、細菌において発現した微量のscFv抗体は、A-549細胞への結合を介して検出することができる。
【0161】
要 約
本実施例では、希釈した試料に関する選択プロセスと検出プロセスを例示している。 真核細胞であるA-549細胞を回収し、そして、ポジティブコントロールscFv:ネガティブコントロールscFv=1:384の比率で、スパイク処理したポジティブコントロールscFvと共にインキュベーションした。 ビーズ:細胞=20:1または30:1という異なる比率を用いたところ、β-アクチン遺伝子由来のDNAについて良好なPCRシグナルを得ることが可能となり、これらが、多数のA-549細胞に対応しているものであり、また、細胞表面エピトープにscFvが結合していることが改めて示された。
【0162】
物質および方法
実施例1を参照されたい。 しかしながら、実施例1に記載の方法と実施例4に記載の方法との間の相違点は、本実施例では、大規模のスクリーニングが可能なことにある。 つまり、96-Uウェルプレートに代えて、10ml容のプラスチック管を用いて、1mlのインキュベーション体積(細胞+モノクローナル抗体/scFv抗体)および0.5ml〜1mlの固定体積(細胞+ビーズ)とし、そして、4℃で、1時間(固定工程の場合は30分間)かけて混合し、また、インキュベーション期間を通じて、緩慢に傾斜させながら回転(ロックンロール)させることを意味する。 また、すべての工程において、多量(1ml〜2.5ml)の洗浄液を用いた。 インキュベーション体積を大きくした場合、試料をプールすることによって、幾分大きなクローンに対するスクリーニングの実施が円滑になる。 一つのプラスチック管当たりのA-549細胞(リガンド)の数は、100,000個を維持し、そして、異なる量のビーズを加えた(10倍過剰量〜30倍過剰量のビーズ)。
【0163】
結果および考察
scFv抗体、すなわち、A-549細胞の表面マーカーに結合するscFv抗体を、非結合性scFv抗体PhOxで1:384の比率に希釈し、そして、A-549細胞と共にインキュベーションした。 この比率は、384-プレートでの383個のネガティブウェルの一つから一つのポジティブクローンを拾い出す確率に相当する。 この比率は、低頻度のポジティブ率(例えば、1,000個または10,000個に一つ)で行われる多数のクローン(40,000個のクローン=105×384-ウェルプレート)に対するスクリーニングを刺激する上で重要である。 個別のウェルに対するスクリーニングに代えて、リガンドの精製方法を用いることで、単一の管に384-プレートの全ウェルをプールすることが可能となるのみならず、同時に幾つかのクローンを迅速にスクリーニングすることも可能となる。 リガンドに対してアフィニティーを示さない抗体を(先の実施例に記載したようにして)洗浄して除去し、そして、リガンドに結合するポジティブ抗体だけが存在しておれば、リガンドとビーズとの間の連関性、すなわち、精製を促す連関性が形成されることとなる。
【0164】
ビーズ:細胞の異なる比率を用いた。 10:1の比率では、細胞に結合するscFvを間接的に検出することはできなかった(図6、0.5mlおよび1mlのスパイク液)。 しかしながら、20:1および30:1の比率では、スパイク処理した試料に対して良好なPCRシグナルが認められた。 ネガティブコントロールscFv PhOxについて記録された同様のバックグラウンド結合は、非常に小さなものでしかなかった。 ネガティブスクリーニングコントロールであるLBとBSAに加えて、すべてのポジティブスクリーニングコントロール(未希釈のscFv抗体、MHCおよびポジティブPCRコントロール(+))も正常であった(図6)。 このことは、希釈したscFv抗体であっても、良好なPCRシグナルを認めることができることを示唆している。 このことは、実施例1に記載の結果に沿ったものとなっている。
【0165】
癌細胞表面のエピトープの数に対するscFv抗体の検出限界は、表1を用いて比較することができる。 非常に低濃度のscFvタンパク質を含む発現培養物由来の50μlであっても、scFv:50,000個の癌細胞での発現性に乏しい表面エピトープ(1,000個のエピトープ/細胞)が、200:1の過剰モル数で存在していても試験することができる。 したがって、この方法は、僅かしか発現されていないリガンドエピトープ(1,000個にも満たない)分子に関するライブラリーのメンバーの単離に非常に適しているといえる。 わずか一つの細胞でも検出できる可能性があるので、このようなクローンを拾い出す性質は、理想的であるといえる。
【0166】
【表1】
実施例5:
肺癌細胞系に対する拡大したヒト抗体ライブラリーに関与するファージディスプレイに由来する標的scFvクローンを取得するためのAffiSelect法の使用。
【0167】
要 約
ヒト抗体ファージライブラリーを、独自のC.B.A.S.パンニング処理技術に従って、肺癌細胞系に関する潜在的な表面抗原に対してパンニング処理した。 癌細胞系に対する個々のscFvクローンを、癌細胞系のPCRパターンとHUVECとPBLの二つのネガティブ細胞系でのPCRパターンとを比較することで、scFvクローンに富んだファージディスプレイより単離されたポリクローナル混合物(「ライブラリー」)から同定した。 ここで同定されたポジティブクローンを、FACSを用いて検証した。 そして、標的の細胞表面エピトープに結合する各クローンの同定に際して、拡大した抗体ライブラリーをスクリーニングするために、AffiSelect法が使用できることが示された。
【0168】
物質および方法
細 胞
肺癌細胞系(A-549、ATCC CCL-185;Viventia社からの贈与物)および内皮細胞系(HUVEC、ATCC CRL-1730;Viventia社からの贈与物)を、パンニング実験とスクリーニング実験に用いた。 A-549を、10%FCSと2mMグルタミンを補充したハムのF12(Bio Whittaker社)で培養し、同様に、内皮細胞系は、10%FCS、15 mg/1の内皮成長因子補給剤(Sigma社)、および50mg/1のヘパリン(Sigma社)を補充したRPMI-1640培地で培養した。 培養は、37℃で、5%二酸化炭素と湿潤雰囲気を維持しながら行った。 その前後にPBSによる洗浄工程を行いつつも、1mMのEDTAを含むPBSで細胞を回収し、そして、ビュルカーの血球計数器で計数を行った。 末梢血リンパ球(PBL)を、新鮮なヒトの血液またはリンホプレップ(Axis-Shield)を含むバフィーコートから単離した。 これら細胞は、3%BSA(Sigma社)を加えたPBSまたは4%スキムミルク(Merck社)を加えたPBSのいずれかで再懸濁した。
【0169】
レクチンをコーティングした磁性体ビーズ
製造業者の指示に従って、レクチン(WGA:小麦麦芽、小麦胚芽;Calbiochem社)を、M-450エポキシビーズ(ダイナル)に固定した。 このダイナルビーズを洗浄してから、0.1Mのホウ酸緩衝液、pH 8.5に移して、lOμgのレクチン/107個のビーズと共に、室温下で、一晩かけて、緩慢に傾斜させながら回転させてインキュベーションを行った。 次いで、PBS/0.1%BSAでこれらの洗浄を三度行い、そして、4×108個のビーズ/mlの濃度で、4℃で、PBS/0.1%BSA/0.02%アジ化ナトリウムにて保存した。
【0170】
ファージscFvディスプレイの拡張
六名の健常者から得たPBLから構築され、かつpSEX 81(Welschof et al., 1997, PNAS 94: pp.1902-1907, Loset, et al., 2O05, J. Immunol. Methods 299: pp.47-62)に基づいたファージミドディスプレイシステムにクローニングしたIgMのscFvライブラリーを、パンニング実験に用いた。
【0171】
3.75×1012個のファージ(2.5×1013cfu/mlの濃度の150μlのライブラリー)を、プレブロックした試験管(3%BSAまたは4%ミルクを含むPBS)内で、2×105個〜2×106個/mlの非腫瘍細胞と共にインキュベーションし、4℃で、1時間かけて回転させる(すなわち、ネガティブプレパンニング処理する)ことで、共通の細胞タンパク質に結合するファージを除去した。
【0172】
二つのネガティブプレパンニング工程を、交互に実施した。 最初に、このライブラリーを、PBL細胞を用いてインキュベーションし、次いで、パンニング処理を終えた後に、ブロック溶液でPBLの洗浄を二度行った。 次に、このプレパンニング処理したファージライブラリーと二つの洗浄済上清とを、プレブロックした試験管にてHUVEC細胞と共に、4℃で、1〜2時間かけて回転させてインキュベーションした。 第二のネガティブプレパンニング処理物の洗浄を二度行った後に、この上清と洗浄済の上清とを、前述したように(パンニング処理)して、標的肺腫瘍細胞と共にインキュベーションした。
【0173】
細胞に結合したファージと遊離ファージとを分離するために、以下の洗浄工程を続けて実施した。 有機相分離を行う以前に一回または二回の洗浄を行うBRASIL法(Giordano et al., 2001, Nature Med. 11; pp.1249-1253)に従った有機相分離法の変法、または、レクチンでコーティングした磁性体ビーズのいずれかによる方法がある。 BRASIL法の変法の場合では、300μlのPBS/0.4%BSAでそれを再懸濁させる以前に、パンニング処理を行った2×l50μlの腫瘍細胞懸濁液を、1mlのPBS/0.4%BSAでもってして、一度または二度の洗浄を行った。 次に、これら細胞(2×150μl)の層を、2×300μlの有機相溶液(フタル酸ジブチル:シクロヘキサン 9:1[v:v];d=1.03g ml-1)の頂面に形成し、次いで、室温(RT)下、10,000rpmで、10分間かけて遠心分離した。 その底部を切り欠いた試験管を液体窒素で急速凍結させ、次いで、その他の(ブロック処理した)試験管に細胞ペレットを移した。 磁性体ビーズの洗浄にあっては、パンニング処理を終えた腫瘍細胞を、スピンダウンし(500×g、5分間、4℃)、5×lO6個の細胞/mlの濃度でPBS/0.1%BSAで再懸濁し、そして、レクチンをコーティングしたビーズ(1:4の細胞:ビーズの比率)と共に、4℃で、20分間、回転させながらインキュベーションした。 これらビーズを、磁石を用いて、1mlのPBS/0.1%BSAで洗浄を10度行い、そして、200μlのPBS/0.1%BSAに再懸濁した。
【0174】
感染させるために、細胞ペレットまたはビーズを、対数増殖期にある10mlの大腸菌XL1ブルーに添加し、そして、37℃、60rpmで、15分間かけて遠心分離し、次いで、200rpmで、45分間かけて遠心分離を行った。 評価を行うために、小さなLB-TAGプレート(100μg/mlのアンピシリン、30μg/mlのテトラサイクリン、100mMのグルコースを加えたLB)に細菌を異なる濃度で置き、また、同様の大きさの二つの矩形のプレート(243×243×18mm;Nunc社)にも置いて、以後の細菌の取り込みに備えた。 すべてのプレートを、37℃で、一晩かけてインキュベーションした。
【0175】
二つの大きなプレートを掻爬して細菌を回収した。 これら細菌を液体培養によって増殖させ、そして、これら細胞のファージミドを、M13ヘルパーファージ(Stratagne社)を有するファージ粒子に、30℃で、一晩かけて取り込んだ。 翌日に、PEG/NaClを用いて、これらファージを沈降させ、そして、1mlのPBSに再懸濁させ、そのlOOμlのファージ(約1013cfu)を新たなパンニング処理において用いた。
【0176】
ポリクローナルファージELISA
腫瘍細胞およびPBL細胞を、プレブロッキング(PBS/3%BSA)ELISAウェルでの各パンニング処理物から得たlOOμlのファージ(1:10〜1:106希釈液)を用いて、4℃で、1時間かけてインキュベーションした。 次いで、これら細胞を、lOOμlのウサギ抗Fd(Sigma社;1:4000)抗体を用いて、4℃で、1時間かけてインキュベーションした。 ELISAによって、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRO)複合ヤギ抗ウサギIgG抗体(Dako社;1:4000)およびABTS基質(Calbiochem社)がもたらされた。 405nmでの吸光度を測定した。 各インキュベーション工程の間に、PBSでの洗浄を三度行った。
【0177】
大腸菌でのscFvの発現と精製
腫瘍に対して特異的な結合の増大が認められるパンニング処理(ポリクローナルファージELISA)は、分泌ベクターpHOG21に対するクローニング法(Kipriyanov et al., 1997, J. Immunol. Methods, 2O0: pp.67-77)の候補である。 これらscFv DNAのポリクローナル集団で、コンピテントXL-1ブルー大腸菌細胞を形質転換した後に、22cm×22cmのLB-TAGバイオアッセイ用トレイ(Corning社)に移した。 そうして得られた各クローンを、QPix2ロボット(Genetix社、英国)を用いて、4%までのグリセロールが補充されたLB-TAG成長培地[100μg/mlのアンピシリン(A)、30μg/mlのテトラサイクリン(T)、1%(w/v)のグルコース(G)]を含む384-ウェルプレートに移し、そして、37℃で、一晩かけて増殖させた。 発現用のLB-TAG培地を、384-ウェルプレート[グリセロールを含むLB-TAG]から取り出し、そして、前述した手法(Dorsam et al., 1997, FEBS Letters, 414:pp.7-13)に従った発現、あるいは、96-ディープウェル(100〜200μl)を用いた発現を実施した。 LB-TAにおいて、100μMのIPTG(Sigma社)を用いて、30℃で、一晩かけて発現を行った。 細菌細胞の懸濁液に対してPBS/3%BSAを加え、そして、−20℃で凍結させて保存した。 それを改めて解凍してから、4℃、4000rpmで、10分間かけて遠心分離を行い、そして、(発現したscFvを含む)上清を後続の実験に用いた。
【0178】
AffSelect法
実施例1を参照されたい。
【0179】
しかしながら、この実験では、AffiSelect法を用いて、腫瘍細胞(A-549)、PBLおよびHUVECに関して、96ディープウェルscFv発現物の5μlの画分についての試験を行った。 そのために、2.2×104個の細胞をペレット化(1600rpm、4℃、5分)して、そして、5μlの発現試料と4〜5μlのPBS/3%BSAと共に、4℃で、1時間かけて震盪しながらインキュベーションをした。 これら細胞を、150μlのPBS/3%BSAで洗浄し、次いで、遠心分離(1600rpm、4℃、5分)を行った。 ペレットに50μlの抗c-myc抗体(Invitrogen社;1:500)を加えた後に、それらプレートを、4℃で、さらに1時間かけて震盪しながらインキュベーションをした。
【0180】
細胞の洗浄を、上記したようにして二度行い、そして、5×lO6個のビーズ/mlの25μlのM-450パンマウスIgGビーズ(ダイナル)懸濁液(細胞:ビーズの比率=1:5)と共に、4℃で、1時間かけて震盪しながらインキュベーションをした。 磁石下で100μlのPBS/3%BSAでビーズの洗浄を二度行った後に、それらをlOOμlのPBSで再懸濁して、次いで、PCRプレートに移した。
【0181】
これらビーズ試料を、プロテイナーゼK(200μg/ml)、0.45%のTween 20および0.45%のNP40を含む30μlのPCR緩衝液にて、55℃で、一晩かけてインキュベーションし、次いで、使用時まで、−20℃で保存した。 プロテイナーゼKを、95℃で、30分間かけて加熱して不活性化した後に、試料を磁石上に置き、そして、5μlの懸濁液を、ヒトのβ-アクチンに特異的なプライマーを利用するPCRに適用した。
【0182】
PCR条件は、実施例1に記載の通りである。
【0183】
FACS
1〜5×105個の細胞を、50μlのscFvディープウェル発現を用いて、4℃で、1時間かけて染色した。 150μlのPBSで三度の洗浄と遠心分離(1600rpm、5分間、4℃)を行った後に、これら細胞を、50μlのFITCが結合した抗-c-myc抗体(Invitrogen社;1:30)を用いて、4℃で、1時間かけてインキュベーションした。 細胞の洗浄を、上記したようにして三度行い、そして、細胞を、200μlのPBS/1〜2%ホルマリン(Sigma社)で固定し、次いで、FACS装置(Coulter社)での測定に供するまで、4℃で保存した。
【0184】
結果/考察
ポリクローナルファージELISAの結果は、いずれの洗浄方法(ビーズ法またはBRASILの変法)を用いた場合でも、二度のパンニング処理を経ただけで、腫瘍細胞に結合しているファージの増大を示すものであった。 これとは対照的に、BRASILの変法を用いた場合では、三度および四度のパンニング処理を行うことで、ビーズ法と比較しても、ファージの増大が(ファージを希釈した後に)認められた(図10)。
【0185】
二度の洗浄と有機相の遠心分離を行った後に、三度のパンニング処理をして認められたscFv発現のPBL、HUVECおよび腫瘍細胞系A-549に対する特異性をAffiSelect法で試験した(図11)。 図11に記載の結果から明らかなように、腫瘍細胞系に対して試験した八つのscFv発現試料は、PCR増幅したβ-アクチンDNAを示したが、HUVECおよびPBLではかような産物は認められなかった。 このことは、この事例において、試験した八つのscFv試料は、腫瘍細胞系には結合したものの、HUVECまたはPBLに対しては結合しなかったことを示している。
【0186】
FACS測定によって腫瘍細胞系に特異的な結合性を確認した後に(図12に具体的なクローンを示している)、10個の独特な腫瘍細胞系に特異的なクローンが認められた。
【0187】
本実施例は、AffiSelect法が、小規模の抗体ライブラリーから候補物を採取するための感受的方法であることを示している。 FACSによって証明されたAffiSelect法で同定されたポジティブクローンは、この選択方法が、細胞表面エピトープに結合するscFv候補物の回収に非常に適していることを確認している。
【図面の簡単な説明】
【0188】
【図1】PM-1細胞に結合しているマウスIgG Moc31の溶液内での固定と検出。 この図は、Moc31と強化磁性体で細胞をコーティングした後の最終工程でPM-1細胞から得たPCR産物であるβ-アクチン断片の2%アガロースゲル分析を示している。 50,000個のPM-1細胞と3%BSAを含む50μlのPBSを用いて、4℃で、30分間、震盪器に適用して、ビーズ:細胞の比率を、10:1に維持した。
【図2】PM-1細胞に結合しているマウスIgG Moc31のPBS/3%BSAまたは等張状態の細菌発現用培地内での固定と検出。 この図は、図1の説明でも言及した通り、Moc31と強化磁性体で細胞をコーティングした後の最終工程でPM-1細胞から得たPCR産物であるβ-アクチン断片の2%アガロースゲル分析を示している。 Moc31は、3%BSA/PBSまたは発現/溶解用培地(100μMのIPTG、100μg/mlのアンピシリンおよび2mg/mlのリソチームを含み、滅菌水とそこに添加した0.3%BSAで等張状態(〜140mM NaCl)にしたLB培地)のいずれかに添加されている。
【図3】PBS/3%BSA内のA-549細胞の表面エピトープに対する異種のscFvを保有しているM13ファージの固定と検出。 この図は、A-549細胞から得たPCR産物であるβ-アクチン断片のゲル分析(2%アガロース)を示している。 この工程は、M-13ファージと抗gp8抗体(1:1000)を用いたA-549細胞(100,000個)のコーティング処理と洗浄のための連続的処理の後に行う最終工程である。 ポジティブコントロールには、MHCクラスI抗体(MHC Cl.Iポジティブコントロール、1:25)も細胞に添加し、また、抗体を全く添加しなかった(PBS BSAネガティブコントロール)。 ポジティブPCRコントロール(β-アクチン遺伝子)とネガティブPCRコントロール(DNAなし)も用いた。
【図4】細胞表面エピトープに対するscFv抗体を間接的に検出するために用いるA-549細胞の個数下限値。 この図は、A-549細胞から得たPCR産物であるβ-アクチン断片のゲル分析(2%アガロース)を示している。 この工程は、scFvと抗cMyc抗体を用いたA-549細胞(1,000個から100,000個まで)のコーティング処理と洗浄、それに、コーティングしたA-549細胞をパンマウスIgGダイナビーズへの固定を行った後に行う最終工程である。 この実験では、細胞への結合が認められていないPhOx scFvをネガティブコントロールとして用いている。
【図5】AffiSelectを用いた細胞-ELISAの比較。 上方の図(AffiSelect)は、A-549細胞から得たPCR産物であるβ-アクチン断片のゲル分析(2%アガロース)を示している。 この工程は、scFvと抗cMyc抗体を用いたA-549細胞(100,000個)の連続的コーティング処理と洗浄、それに、コーティングしたA-549細胞をパンマウスIgGダイナビーズへの固定を行った後に行う最終工程である。 下方の図(方法)は、同じクローンを用いた細胞-ELISAであるが、細胞の数を200,000個に調整している。
【図6】A-549細胞に結合するスパイクscFv抗体のAffiSelectによる検出。 この図(AffiSelect)は、A-549細胞から得たPCR産物であるβ-アクチン断片のゲル分析(2%アガロース)を示している。 この工程は、scFvと抗-cMyc抗体を用いたA-549細胞(100,000個)のコーティング処理と洗浄のための連続的処理、それに、コーティングしたA-549細胞をパンマウスIgGダイナビーズへの固定を行った後に行う最終工程である。 図に示したように、固定の際のビーズ:細胞の比率は、10:1〜30:1の間で変化させた。 「スパイク」の表示が付いた試料は、1:384の比率のポジティブコントロールscFvA(「A」;2μl)およびネガティブコントロールPhOx(768μl)であり、それらは、等張状態にするために、ミリQウォーターで調整されている。 固定体積(ビーズと細胞の合計体積)も、そこに示してある。
【図7】真核細胞に対するscFvクローンをスクリーニングするための本願発明の方法の概略図である。
【図8】384-ウェルを用いた大量のクローンのクロススクリーニング。 (ポジティブ率が、1/500,000または1/1,000,000と低率であるライブラリー)。 この図は、クローンの選択的集約および拡大を示している。 96×384-プレートから単一の96-ディープウェルプレートへ試料を移すことで、180万個ものクローンを採取することが可能となる。 アッセイプレートでのポジティブウェルは、19,000個までのクローンまたはある特定の384-プレートに対応する。 このプレートは、図9Gについて記載したように(縦列および横列の選択的集約を)して、クロススクリーニングしなければならない。 384-プレートの単一ウェルが同定されてもなお、50個以下のクローンをスクリーニングしなければならない。 スクリーニングの最終段階は、ウェル内のすべての細菌の培養を終えて、個別に採取したコロニーのサブクローニングを行うことで実施される。 106個のクローンをスクリーニングするために要する時間は、約1〜2週間である。
【図9】96-ウェルプレートおよび384-ウェルプレートを利用したクロススクリーニング。 (A)スクリーニング用プレートの横列Aの各ウェルから得た少量(1〜5μl)の試料を、アッセイ用プレートの一つのウェル(A1)にプールする。 (B)横列A-Hのすべてについて、(A)にて言及したようにして、少量の試料をプールする。 スクリーニング用プレートの八つの横列を、アッセイ用プレートの八つのウェルに対応させることができる。 (C)スクリーニング用プレートの12本の異なる縦列を、アッセイ用プレートの12個の個別のウェル(A2-H2およびA3-D3のウェル)にプールする。 (D)スクリーニング用プレートでのクローンの同定に関して、アッセイ用プレートでは、その3番目と6番目の横列で二つのポジティブ位置が出現し、また、11番目の縦列で一つのポジティブ位置が出現しており(すなわち、C1、F1およびC3のウェルがポジティブであったことが示されており)、このことは、スクリーニング用プレートでの(C11とF11のウェルで認められる)二つの真正なポジティブ結果を示すものである。 しかしながら、(E)で示したような複数のポジティブ結果が認められる場合でも、スクリーニング用プレートは、(C2、C11、E5、Ell、F2およびF5のウェルで認められる)疑似ポジティブも示す場合があり、このような時には、真正なポジティブクローンを選択するために、すべての候補物についてサブクローニングを行う必要がある。 この事例では、(F)で示したように、アッセイ用プレートでの八つの領域をスクリーニングすることが望ましい。 各領域での4番目の横列と3番目の縦列の試料を、アッセイ用プレートでの七つのウェルにプールすることができる。 そして、(G)には、横列と縦列をプールして、384-ウェルプレートをスクリーニングする方法が記載されている。 各々の384-プレートが、アッセイ用プレートでのわずか16個のウェルに集約されることになる。 しかしながら、この手法は、中央部での六つの位置(交差箇所)にある試料について再スクリーニングを行う必要がある。
【図10】遠心分離して得られた有機相(org、BRASIL変法)およびレクチンをコートした磁性体ビーズ(beads)とを用いて4度の(R1〜R4の)パンニング処理を行った後に、ファージ希釈液を用いて実施した肺癌細胞系A-549についてのポリクローナルファージELISAを示している。
【図11】試験したscFv発現が細胞(A-549、HUVECおよびPBL)に結合している事例において増幅されたβ-アクチンDNAを示すAffiSelect PCRの結果の一例を示している。 同じscFv発現試料についての結果が、三つの細胞のタイプに関して(同じ縮尺で)示されている。 腫瘍に特異的なDNA増幅を示しているscFv発現試料に矢印を付している。
【図12】二度の洗浄と遠心分離して得られた有機相とを用いたパンニング処理を経て得られたscFvの一つに関するFACSの結果を示している。 パンニング処理とプレパンニング処理工程で用いた細胞(A-549、HUVECおよびPBL)と同じタイプの細胞に関して、scFvの試験を行った。
【技術分野】
【0001】
本発明は、そのリガンドを介してアフィニティーライブラリーのメンバーを単離するための新規の方法に関する。 具体的には、本発明は、一つまたは一つ以上のリガンドに関する結合パートナー候補、特に、細胞の表面に関する結合パートナー候補である一つまたは一つ以上のメンバーを同定または選択するために、分子のライブラリー(アフィニティーライブラリーのメンバー)をスクリーニングする方法に関する。 本願発明の好ましい実施態様は、固相選択工程とリガンドの存在を検出するためのPCRとの組み合わせを利用した、ライブラリーの改善されたスクリーニング方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ライブラリーのスクリーニングは、今や、創薬やバイオテクノロジーの分野において、日常的に利用されている手法である(Emili, A. Q, and Cagney, G. (2000) Nat. Biotechnol. 18, 393-397; Li, M. (2000) Nature Biotechnol. 18, pp.1251-1256)。 その主な利用目的の一つに、臨床的に関心のあるタンパク質の同定がある(Burton, D. R. (2002) Nature Rev. Immunol. 2, pp.706-713)。 そのために、数百万個もの異なるメンバー分子(通常は、タンパクまたはペプチドのメンバー)を擁するライブラリーが、関心のあるリガンドに対する親和性についてスクリーニングされる(Winter, G. P. et al, WO 90/05144; McCafferty, J. et al., WO 92/01047; Breitling, F. et al, WO 93/01288)。 このリガンドそれ自身として、細胞(または細胞表面分子)、分子または分子のライブラリー、例えば、生体の真核細胞、タンパク質、ペプチドまたは低分子化合物などを用いることができる。
【0003】
これまでに幾つかのスクリーニング法が紹介されているにもかかわらず、見込みのある薬剤候補、特に、試行するリガンドを作出するために、速度、信頼性、処理量および再現性に関して新規の方法または改善された方法を開発する必要がある。 加えて、スクリーニング法を評価する上で、費用効果は重要な要素である。 目下のところ、in vivoおよびin vitroのライブラリーからメンバーを直接的に同定するために利用可能な幾つかの選択システムがある。 薬学的に重要な分子を同定するためにデザインされた選択システムの多くは、共通した特徴点、すなわち、ライブラリーの各メンバーの表現型とその特異的な遺伝子型との連関性を特徴としている。 このシステムは、ファージコートタンパク質、細胞膜またはリボ核酸-タンパク質複合体のいずれかを介する。 この連関性は、これらスクリーニングシステムの作用を引き出す上で必須であり、例えば、ファージ (Winter, G. P. et al, WO 90/05144; McCafferty, J. et al, WO 92/01047; Breitling, F. et al, WO 93/01288; Ladner, R. C, et al, WO90/02809; Markland, W. et al, WO 92/15679; Harrison, J. L. et al (1996) Meth. Enzymol. 267, 83-109)、細菌 (Samuelson, P. et al (2002) J. Biotechnol. 96, 129-154)、酵母 (Wittrup, K. D. et al, WO 99/36569; Wittrup, K. D. (2001) Curr. Opin. Biotechnol. 12, 395-399; Lee, S. Y. et al (2003) Trends in Biotechnol. 21, 45-52)、または、リボソームディスプレイ (Kawasaki, G., WO91/05058; Mattheakis, L. C. etal, WO95/11922; Pluckthun, A. et al., WO 98/48008; Schaffitzel, C. et al (1999) J. Immunol. Meth. 231, 119-135; Coia, G. et al. (2001) J. Immunol. Meth. 254, 191-197)、コバレントディスプレイ (Szostak, J. W. et al. WO 98/31700; Szostak, J. W. et al. WO 00/47775; Lindqvist, B. H. et al. WO 98/37186; Amstutz, P. et al. (2001) Curr. Opin. Biotechnol. 12, 400-405; Wilson, D. S. et al. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 3750-3755)、シス-ディスプレイ (McGregor, D. et al. WO 04/022746; Odegrip, R. et al. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 2806-2810)、および細菌ツーハイブリッドシステム (Chien etal. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88, 9578)などのライブラリーディスプレイに適合するように、多様に構築することができる。 しかしながら、これらすべての方法の背後にある技術思想とは、ライブラリーのメンバーの拡充、単離および同定を可能ならしめるシステムを用いて、アフィニティー分子を翻訳および表示することに他ならない。
【0004】
候補物を単離するために、対象とするライブラリーを、抗体の発見を抗原に委ねるリガンドに対して露出する。 通常、リガンドは、固体支持体に固定化されている。 この支持体として、ビーズ、マイクロプレートまたはイムノチューブのプラスチック表面を利用することがよくある。 あるいは、(例えば、ビオチンによって)タグが付された標的リガンドの溶液内で相互作用が生じる場合もある。 この手順には、非特異的および非反応性のライブラリーのメンバー(パンニング)を除外するための幾つかの洗浄工程が関与する。溶液内の複合体を精製するために、固定化または遠心分離のいずれかの工程によって、それらを定着させる。 伝統的な方法として、可溶性のビオチン化リガンドにアフィニティーメンバーを定着させる方法や、ストレプトアビジンビーズにアフィニティー複合体(アフィニティーメンバーおよびリガンド)を固定させる方法などがある。 固体支持体としてビーズを用いる手法として、例えば、磁性体ビーズ(例えば、Bangs Laboratories社、Polysciences社、Dynal Biotech社、Miltenyi Biotech社またはQuantum Magnetic社から入手可能なビーズ)、非磁性体ビーズ(例えば、Pierce社およびUpstate technology社から入手可能なビーズ)、単分散ビーズ(例えば、Dynal Biotech社およびMicroparticle Gmbh社から入手可能なビーズ)、および多分散ビーズ(例えば、Chemagen社から入手可能なビーズ)を用いる手法などがある。 磁性体ビーズの使用については幾多もの文献で報告がされており、一般的には、タンパク質、DNA、ウィルス、細菌および真核細胞を固定するための使用方法に言及されている(Uhlen, M, et al (1994) in Advances in Biomagnetic Separation, BioTechniques press, Westborough, MA)。 前出のUhlen et al,の文献は、直接的かつポジティブな単離工程に言及している。 ネガティブな単離工程、つまり、混合物から不要なライブラリーメンバーを除外するための工程についても言及されている。
【0005】
これらすべての従来技術は、そこに出現したメンバー分子がリガンドを特異的に認識するという事実に基づいて、拡充されたライブラリーのメンバーを直接的に同定しようとするものである。 通常、この方法では、ポリクローナルELISAに続いて、クローニング、DNAの配列決定、それに、他のシステム(例えば、大腸菌、酵母またはin vitro翻訳キットを利用したシステム)で拡充された単一ライブラリーのメンバーの発現、そしてさらに、例えば、BiaCore、ELISAおよび/またはアフィニティー測定によって、ライブラリーのメンバーの追跡分析が続く。 場合によっては、パンニングを経て得られたライブラリーのメンバーのプールが、アフィニティーの異なる幾つかの候補メンバーを含んでいたり、あるいは、非反応性のメンバーのプールを具備していることもある。 単一種のものを単離するために、別のスクリーニング手法を用いて、拡充された集団をサブスクリーニングすることもできる。
【0006】
フィルタースクリーニング法は、小さな連鎖シャッフルライブラリー(105個までのメンバー)に対して、よく利用されている。 小さな細菌ライブラリーを、バイオ検定用プレートに置き、そして、各クローンを、ロボットで回収してハイスループットスクリーニングに供する (Walter, G. et al. (2002) Trends Mol. Medicine 8, 250-253)。 このような細菌ライブラリーとして、lacプロモーターによって制御され、かつタグ-標識が付されたscFv抗体発現ライブラリーがある。 この手法は、支持体フィルターでのクローンの特異的な格子状パターンと、固定用フィルターでのフィルターリフトの格子状パターンとの組み合わせが関係している。 この固定用フィルターは、対象とするアフィニティーリガンド(抗原)でコーティングすることができ、また、発現のためのIPTGバイオ検定プレートに装着することもできる。 このライブラリーのメンバーは、ウェスターンブロティング法を用いて、それらのタグの固定用フィルターでの独特の格子状パターンによって同定される (Stacy, J. E., et al. (2003) J. Immunol. Meth. 283, 247-259)。 この方法は、小規模の患者ライブラリーを直接的にスクリーニングする上で非常に好適であることが証明されている (Brekke, O. H., et al., WO 03/095491)。
【0007】
しかしながら、前述してきた文献記載のパンニング法やスクリーニング法のいずれもが、対象とするライブラリーのメンバーを、ライブラリーそれ自体に取り込まれた構成要素によって、検出および単離するものでしかない。 それら要素として、フィルタースクリーニング法での特異的な格子状パターン、ファージディスプレイ法でのファージの伝染、あるいは、in vitroディスプレイ方式のライブラリースクリーニング技術でのライブラリーメンバーの拡充DNAのPCRシグナルなどがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ライブラリーのメンバーのリガンドを用いて、ライブラリーのメンバーを同定する方法は未だ実現されていない。 これまでのすべての検出方法は、ライブラリーのメンバーのアフィニティー分子を検出するものでしかない。 これに対して、本願発明は、ライブラリーのメンバーのリガンドを検出することによって(あるいは、少なくともそれらリガンドが関係している物質を検出することによって)、ライブラリーのメンバーを間接的に同定する新規の技術を提供するものである。 この技術は、生体細胞のような複雑なリガンドに対して小さなライブラリーをスクリーニングを行う上で特に利用価値があるが、本願発明の方法の利用態様は、これらに限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このように、概して、本願発明は、一つまたは一つ以上のリガンドに関する結合パートナー候補である一つまたは一つ以上のメンバーを同定および/または選択するために、分子ライブラリーをスクリーニングする方法であって、(a)溶液内の発現ライブラリーと、一つまたは一つ以上のリガンドとを接触させ、(b)当該発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーに結合したリガンドを固相上に固定し、および(c)リガンドの存在を検出し、それにより、当該リガンドに関する結合パートナー候補である当該発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーの存在を検出する、工程を含む、分子ライブラリーをスクリーニングする方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本願発明に従ってスクリーニングされる分子ライブラリーとして、タンパク質発現ライブラリー、すなわち、公知あるいは新規のペプチドまたはポリペプチド発現ライブラリーなどがある。 好適な発現ライブラリーは、当業者に周知の事項であり(前出の説明を参照されたい)、例えば、ファージディスプレイライブラリー(前出のWinter et al.,など)、細菌ディスプレイライブラリー(前出のSamuelson et al.,)または酵母ディスプレイライブラリー(前出のWittrup et al.,など)、リボソームディスプレイライブラリー(例えば、The Regents of the University of Coloradoの国際公開公報第WO92/02536号公報、University Research Corporationの国際公開公報第WO93/03172号公報、およびKawasakiの国際公開公報第WO91/05058号公報)などのコバレントディスプレイライブラリーまたは非コバレントディスプレイライブラリーなどのディスプレイライブラリー、または、発現したタンパク質が、それをコードするmRNAに結合しているPRO融合ライブラリー(Phylos社)、または、発現したタンパク質が、(例えば、Actinova社の国際公開公報第WO98/37186号に記載のシステムでの共有結合、または、国際公開公報第WO04/022746号に記載のシス-ディスプレイシステムでのシス作用性タンパク質を介して)それをコードするDNAに結合しているコバレントディスプレイシステムまたは非コバレントディスプレイシステム、または細菌二ハイブリッドシステム(前出のChien et al.,)などがある。 利用可能なその他のタイプの発現ライブラリーとして、細菌発現ライブラリーまたは、タンパク質が可溶性断片として発現および分泌されるその他のライブラリー(可溶性発現ライブラリー)も容易に調製することができる。 化学ライブラリー、例えば、合成ペプチドライブラリーまたは化学分子ライブラリーもスクリーニングすることができる。 このように、本願発明は、タンパク質発現ライブラリー(生物学的ライブラリー)のスクリーニングのみならず、化学ライブラリーのスクリーニングにまで及ぶ。 本願発明の使用に適したライブラリーは、ファージディスプレイライブラリーまたは細菌発現ライブラリーである。
【0011】
この発現ライブラリーによって発現されたタンパク質は、そのタンパク質が、リガンドについての結合パートナーとして作用を奏する(または、潜在的に作用を奏する)に十分な長さであれば、適切な長さに調整することができる。 したがって、このタンパク質は、(例えば、5個〜50個または7個〜30個のアミノ酸の長さで表される)短い線状のペプチド、あるいは、線状構造というよりはむしろ、折り畳み構造の長鎖のペプチドまたはポリペプチドとすることができる。 したがって、発現ライブラリーのタンパク質が、全遺伝子またはその断片によるコード産物とすることができ、例えば、発現ライブラリーのメンバーをコードする核酸として、cDNAまたはmRNAライブラリーまたはその断片、例えば、特定のタイプの細胞から得られる核酸またはゲノミックDNAライブラリーまたはその断片などがある。
【0012】
好適な発現ライブラリーは、結合パートナー、すなわち、候補リガンド、受容体、酵素、基質、抗原、抗体などや、それらの断片であるポリペプチド結合パートナーを発現するものであって、好適な発現ライブラリーとして、アフィニティーライブラリー、特に好ましくは、抗体分子または抗体断片を発現し、とりわけ、一つまたは一つ以上の公知または未知の抗原(リガンド)に結合する候補物についてスクリーニングすることができる発現ライブラリーがある。 これら抗体発現ライブラリーは、好適な態様で抗体を発現することができ、そして、一本鎖抗体(例えば、scFv)、Fab、Fv、Fab'2、ダイアボディ、二重特異性抗体、ミニボディ、H鎖またはL鎖、トリアボディ、テトラボディ、キャメロイド抗体、単一ドメインなどの全抗体分子または抗体断片を含む。 好ましい抗体断片の態様として、scFv断片がある。
【0013】
これら抗体の分子または断片は、IgG、IgMまたはIgAなどのいずれのIgイソタイプでもよく、また、発現ライブラリーは、これらサブタイプの一つまたは一つ以上の抗体を含むことができる。 数多くの抗体ライブラリーが知られており、また、当該技術分野で発表がされており、そして、これらライブラリーや新たに得られたライブラリーを、本願発明の方法を用いてスクリーニングすることができる。
【0014】
本明細書で言及する発現ライブラリーとは、核酸レベルまたはタンパク質レベルのライブラリー、すなわち、コードしたタンパク質の発現の前後でのライブラリーを指す。 しかしながら、リガンドとの相互作用性を引き出すためには、それら発現ライブラリーが、タンパク質レベルで存在しなければならないことは明らかである。 よって、接触工程(a)を首尾良く実施するためには、発現ライブラリーを、(当初は核酸レベルで存在しているであろうものを)タンパク質レベルで存在させる必要がある。
【0015】
本願発明の方法で用いている発現ライブラリーに対する主たる要求事項の一つとして、スクリーニングしようとしているリガンドに対して初めて接触させる時に、当該ライブラリーを溶液内に置くことが挙げられる。 「溶液内」の用語は、スクリーニングしようとしているリガンドに対して初めて接触させる時に、発現ライブラリーを、固相に接着させないこと、すなわち、当初の発現ライブラリーが、固定されていない発現ライブラリーであることを意味するものである。
【0016】
このような発現ライブラリーとそれをコードする核酸を構築する方法は、当業者に周知の事項であり、また、この点に関連して、公知の発現ライブラリーでも、新たに調製または構築された発現ライブラリーでも使用することができる。 例えば、このようなライブラリーは、天然のポリペプチドまたはその断片を含んでいてもよく、あるいは、その全体または一部が、任意または合成のものであってもよい。 例えば、抗体発現ライブラリーの場合では、ライブラリーは、健常者から得たリンパ球のナイーブ集団、またはリンパ球の濃縮集団、例えば、抗原に曝された患者またはワクチンで免疫処置された患者から得たリンパ球、または腫瘍細胞(例えば、Affitech AS社の国際公開公報第WO03/095491号に記載のもの)、または特定の抗原に関するパンニング処理を行って濃縮されたリンパ球集団から核酸をクローニングして調製することができる。
【0017】
発現ライブラリー、特に、抗体発現ライブラリーは、好適な供給源、好ましくは、哺乳動物、より好ましくはヒトから調製することができる。 キメラ発現ライブラリーまたはヒト型化発現ライブラリーも使用することができる。 また、天然の骨格を選択し、そして、適切な位置に任意の配列を取り込むことで、このライブラリーを作出することもできる。 あるいは、この骨格を、多様な天然の枠組みから得た一つまたは一つ以上のコンセンサス配列に基づいたものとすることもできる。
【0018】
一般的に、ライブラリー構築物を調製するために用いる技術は、公知の遺伝子工学的技術に基づくものである。 この点に関して、発現ライブラリーにおいて発現され、また、異なるライブラリーのメンバー間で通常は変化し、これにより、ライブラリーに多様性を付与する真正なタンパク質またはペプチドまたはその断片をコードする核酸配列は、使用する発現系のタイプに適した発現ベクターに組み込まれる。 ファージディスプレイ、コバレントおよび非コバレントディスプレイ、細菌発現などに用いる好適な発現ベクターは、当業者に周知の事項である(例えば、本願発明において用いる発現ライブラリーの好適なタイプに関して先に言及した参照文献を参照されたい)。 発現ライブラリーに関してファージディスプレイを選択した場合には、ファージベクターまたはファージミドベクターを使用することができるが、ファージミドベクターの方が好ましい。 抗体断片のライブラリーを発現ライブラリーとする本願発明の実施態様に関して、当業者であれば、所望の形態での抗体断片の発現を可能にする好適な発現ベクターを容易にデザインすることができる。
【0019】
異なるライブラリーのメンバーをコードする(すなわち、ライブラリーのメンバー間、すなわち、発現ペプチドの間で変化するタンパク質またはペプチドをコードする)核酸分子は、一旦生成してしまうと、標準的な手法、例えば、制御的(例えば、部位特異的突然変異)または無作為的な一つまたは一つ以上のヌクレオチドの付加、削除および/または置換が関係する変位、またはドメイン交換、カセット変位、チェインシャフリングなどによって、さらに多様化を図ることができる。 多様な核酸配列を得るために、合成ヌクレオチドを用いることもできる。 このように、発現ペプチドをコードする核酸の全部または一部を、化学的に合成することができ、あるいは、多様な生物または様々なタイプの細胞から得ることもできる。
【0020】
加えて、本願発明の方法で用いる発現ライブラリーは、例えば、標的リガンドまたは非標的リガンド (ネガティブパンニング)に対して一回または一回以上のパンニングまたは選択を行うことで、予めその複雑度が緩和されている。 複雑度が緩和された発現ライブラリーについて、本願発明の方法でスクリーニングする以前に、例えば、上述した方法を用いて、任意に、さらに多様化を図ることができる。
【0021】
この発現ライブラリー構築物は、他の適切な成分、例えば、複製開始点、転写を開始する誘導性または非誘導性のプロモーター、エンハンサー、抗生物質耐性遺伝子およびマーカー、一般的なタグまたはレポーター分子、例えば、PCRによって当該構築物の増幅を可能にするプライマー結合部位、またはその他の所望の配列要素を任意に含むことができる。 所望の作用の発現に関与するこれらライブラリー構築物に用いる追加成分の好適な供給源や位置は、当業者に周知の事項である。
【0022】
ライブラリー構築物および発現したライブラリーのメンバーへの一般的なタグやマーカーの取り込みは、本願発明で用いる発現ライブラリーにおいて特に重要であり、また、本願発明の方法の固定工程での固相へのライブラリーのメンバーの結合を促すために、すなわち、固定工程の進行を促すために、それらタグは利用されている。 固相へのライブラリーのメンバーの結合を促すものであれば、いずれの好適なタグでも利用することができる。 しかしながら、好都合なことに、これらタグは、固相に直接的または間接的に固定されたパートナーアフィニティー分子に結合させることで、固相への結合を促すことができるアフィニティー分子である。 これらタグの例として、c-mycタグ(例えば、抗c-myc抗体を介して固定できるタグ)またはHisタグ(例えば、ニッケル表面を介して固定できるタグ)またはビオチン(例えば、ストレプトアビジン分子を介して固定できるタグ)、またはgp8のようなファージ表面タンパク質(例えば、抗gp8抗体を介して固定できるタグ)、または、抗体によって認識されるFLAGまたはHAのような抗原ペプチドタグなどがある。 このようなタグまたはマーカーは、好都合なことに、直接的または間接的に検出することもできる。 このようなタグまたはマーカーは、通常、すべてのライブラリー構築物において存在する一般的なタグまたはマーカーであり(すなわち、発現ライブラリーの各メンバーは、同じタグまたはマーカーを有しており)、そして、ライブラリーのメンバーを固相に固定するために利用することができる。 このようなタグまたはマーカーは、(以下に詳述するように、検出工程は、ライブラリーのメンバーよりもむしろ、リガンドの検出を介して進行するので)本願発明の方法での検出工程において必要とされていない。 しかしながら、これらタグは、必要に応じて、ライブラリーのメンバーの存在を検出するために利用することができる。 それらの存在は、ライブラリーのメンバーに対するリガンドの親和性を決定する上で非常に有用なことを証明するものである。
【0023】
好適な発現ライブラリー構築物が、一旦、核酸レベルで取得されれば、ライブラリー構築物の性質、例えば、ファージディスプレイ、in vitroディスプレイまたは細菌発現といったシステムの選択に応じて、好適な発現系において、本願発明のスクリーニングおよび工程(a)のために発現することができる。 発現のための好適な条件や方法は、当業者に周知の事項である。
【0024】
本明細書で使用する「リガンド」の用語は、発現ライブラリーからタンパク質性の結合パートナーを同定することが所望されている物質(「標的リガンド」と称する場合もある)または分子を指す。 したがって、これらリガンドは、スクリーニングしようとするタンパク質発現ライブラリーのメンバーに対して結合するか相互作用を示すものでなくてはならず、例えば、タンパク質/ペプチド、グリコペプチド、炭水化物、脂質、糖脂質、低分子化合物などが利用できる。
【0025】
このようなリガンドとして、全細胞成分に接着する細胞表面分子または全細胞成分である細胞表面分子、あるいは、遊離、裸出、単離または精製された分子などがある。 単一のリガンドまたは複数のリガンド(例えば、リガンドのライブラリー)が利用できる。 タンパク質またはペプチド、例えば、抗原が、好適なリガンドである。 さらに好適なリガンドとして、細胞表面分子(すなわち、細胞の表面にin situで存在する分子)、とりわけ、細胞表面タンパク質またはペプチド、例えば、細胞表面抗原などがある。 このようなリガンドとして、結合パートナー候補を同定する際に所望される公知または未知の分子がある。 本願発明の方法において利用するために、検出工程の進行を促し、および/またはリガンドの取り扱い、例えば、洗浄工程などでの取り扱いを容易ならしめるために、一般的に、このようなリガンドは、適切な箇所に接着させられる。 細胞表面分子が、リガンドである場合には、細胞それ自体が、かような接着箇所を提供する。 しかしながら、リガンドが、裸出、単離または精製された分子である場合には、好都合なことに、それら分子は、固相に結合して、かような接着箇所を提供する。
【0026】
本明細書で使用する「細胞」の用語は、いかなるタイプの生物学的粒子を指すものであって、細菌、ウィルスおよび(酵母細胞などの下等真核細胞や、哺乳動物細胞、特に、ヒト細胞などの高等真核細胞を含む)真核細胞などを含む。 これら細胞として、自然界に由来する細胞または細胞の混合物(例えば、生検材料由来の細胞または哺乳動物から得た試料に含まれる細胞)、または(固定された細胞および遺伝子工学的に加工された細胞系、例えば、特定のリガンドをコードする核酸で形質転換またはトランスフェクトされた細胞、またはリガンドのライブラリー、例えば、cDNAライブラリーで形質転換またはトランスフェクトされた複数の細胞を含む)細胞系などがある。 そのようなリガンドを過剰発現する細胞も使用することができる。 この用語の範囲には、細胞の断片、例えば、膜画分、細胞壁画分、細胞壁タンパク質、膜タンパク質なども含まれている。
【0027】
本願発明において好適な「細胞」は、真核細胞またはその膜画分である。 先に言及したように、分子のライブラリー(リガンド)でトランスフェクトされている真核細胞(または、全く別のタイプの細胞)は、細胞の表面で発現され、そして、発現した分子についての結合パートナー候補を同定するために、本願発明の方法に供することができる。 このようにして、本願発明は、ライブラリー対ライブラリーでスクリーニングする方法、すなわち、特に好都合な方法を提供する。 リガンドの好適なライブラリーとして、疾患関連物、例えば、疾患関連細胞や、ウィルスまたは細菌などの病理学的病原体などから得たライブラリーがある。 リガンドの特に好ましいライブラリーとして、パートナー候補と、同定しようとする腫瘍またはウィルス関連タンパク質との結合を可能にする腫瘍細胞ライブラリー(例えば、cDNAライブラリー)やウィルス細胞ライブラリー(例えば、cDNAライブラリー)がある。 トランスフェクションに好適な真核細胞(および、その他のタイプの細胞)、例えば、COS細胞などは、当業者に周知のものであり、これらのいずれのものでも使用することができる。
【0028】
その他の好適な真核細胞として、疾患状態に関連する細胞、例えば、癌細胞まはた癌細胞系、例えば、乳癌または肺癌細胞またはこれらの細胞系、または患者由来のリンパ球(例えば、末梢血リンパ球)、またはウィルスに感染した細胞、つまり、その表面にウィルスタンパク質を生成する細胞などがある。 このような細胞は、分子/リガンド、例えば、疾患関連細胞の表面に発現した腫瘍関連分子または感染関連分子の結合パートナー候補を同定するために、本願発明のスクリーニング法に供することができる。
【0029】
本願発明の方法で用いる細胞は、適切な供給源から得ることができ、例えば、細胞を、天然供給源、例えば、哺乳動物から直接に得ることができ、または、形質転換細胞を用いるのであれば、in vitro培養物から得ることもできる。 In vitro培養物を利用するのであれば、それら細胞は、懸濁液または単一層で培養することができ、そして、生存した状態または固定した状態で本願発明の方法に用いることができる。 一般的に、生体細胞(特に生体の真核細胞)を用いるのが好ましい。 これはすなわち、細胞表面のリガンドは、本来の形態で存在しており、つまり、本願発明の方法で選択した結合パートナー候補が、本来の形態の標的リガンドを認識し、それにより、治療用途または診断用途でのこれら結合パートナー候補の利用可能性の改善につながることによる。 本願発明の方法で用いる細胞は、通常、凍結または貯蔵した細胞よりも、新たに単離した細胞の方が好ましい。
【0030】
なお、固定した細胞については、そのものが溶液内にある限りは、本願発明の方法において利用することができる。
【0031】
固相の表面に接着した分子をリガンドとする本願発明の実施態様によれば、この分子として、好適な供給源、すなわち、天然のタンパク質、炭水化物、脂質、糖脂質などの自然界から単離または精製した物質や、組換分子または合成分子、例えば、組換タンパク質またはペプチドまたは合成物を利用することもできる。 この点に着目すれば、単離、精製または組み換えを行った抗原は、特に好ましいリガンドである。
【0032】
任意で、しかも実際のところ好ましくは、このようなリガンドは、それをコードする核酸とも関連し、あるいは、その後にリガンドの同定を可能にするその他の形態の分子タグとも関連する。 リガンドのライブラリーを使用する場合に、結合パートナー候補に結合したリガンドをその後に同定できる便利な方法が待望されているために、このことは特に重要である。 このようなリガンドと、それをコードする核酸とを関連づける方法は、当業者に周知の事項であり、また、好都合なことに、これら方法は、例えば、前述したシスディスプレイなどの、リボソームディスプレイまたはコバレントまたは非コバレントディスプレイ技術のようなin vitroディスプレイシステムを用いて実施することができる。 あるいは、かような結合性は、例えば、ストレプトアビジン-ビオチン結合などの他の形態のアフィニティー結合を利用して媒介することもできる。 この点に関して、リガンドライブラリーのメンバーの核酸に対してビオチン分子をタグ付けすることができ、また、ストレプトアビジン分子をコードするようにデザインすることもできる。 ライブラリーのメンバーのタンパク質が発現されれば、ストレプトアビジン分子は、DNAのビオチン分子に結合して、コードしたタンパク質とそれをコードする核酸との結合を実効的なものにする。
【0033】
あるいは、このようなリガンドは、例えば、異なる大きさのオリゴヌクレオチドや特定の配列を有するタグなどのDNAタグで標識付けすることができ、これらは、その後に、リガンドを同定するために、例えば、Brenner et al., 2000, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97: 1665-1670の記載に従って、復元および使用することができる。
【0034】
リガンドが、細胞膜において発現した分子ではなく、むしろ、裸出、単離または精製した分子である場合には、本願発明の方法に従ってスクリーニングする前に、それらは固相に接着されてしまう。 好適な固相は、当業者に周知の事項であり、また、本願発明の方法において用いる最も好適な固相の選択も、当業者が日常的に行っている範囲内のものである。 しかしながら、そこにリガンドが接着する好適な固相とは、微粒子および非磁性体、例えば、ポリマービーズである。 本明細書に記載の方法において用いることができる非磁性体ビーズの例として、5μmのメタクリル酸グリシジルマイクロビーズ(Bangs Laboratories社、カーメル、インディアナ州)がある。 このように、好適なリガンドとは、微粒子、非磁性体、固相に接着されたポリペプチドである。 リガンドが、固相に接着されば、この固相は、検出工程の進行を促す要素および/またはリガンドの操作、例えば、洗浄工程などを容易ならしめる要素として用いられる。 これらの固相を、リガンドと発現ライブラリーのメンバーとの複合体を固定するために用いる固相とを区別するために、これらの固相を「リガンド結合固相」と称する。
【0035】
裸出、単離または精製した分子をリガンドとした実施態様では、これら分子は、好適な方法によって、好適な固相の表面に接着または固定される。 実際のところ、ポリペプチドやその他の生体成分を固体支持体に結合させるための好適な方法は、当業者に周知の事項である。 好都合なことに、そのような接着は、例えば、ストレプトアビジンをコートしたビーズ、好ましくは、例えば、市販されている非磁性体ストレプトアビジンビーズに接着することができるビオチン分子を組み込む加工が施されたポリペプチドまたはその他のリガンドがもたらすアフィニティー相互作用性を利用して実現できる。
【0036】
リガンドが、好適な固相に接着した細胞表面分子であるか、対象分子であるかにかかわらず、これらリガンドは、本願発明の方法においてリガンドの検出を可能にするレポーター部分を含み、あるいはレポーター部分に結合する。 このようなレポーター部分は、好ましくは、核酸分子であり、さらに好ましくは、核酸を利用した方法で検出することができるDNA分子である。 好ましい検出方法は、PCRによるものであるが、例えば、標識付けしたプローブを用いたハイブリダイゼーションなどの適切な方法も利用することができる。 あるいは、リガンドを、非磁性体蛍光ビーズや、顕微鏡またはCoulter Counter ZM(Coulter Electronics社)によって計測/検出できる識別可能な大きさのビーズに対して接着することもできる。 このように、レポーター部分としては、その検出が可能であれば、多種多様な形態のものを利用することができる。
【0037】
そのようなレポーター部分は、本質的に、リガンドに対して結合性を示す。 例えば、リガンドが細胞表面分子であれば、検出される好適なレポーター部分は、DNA分子、例えば、リガンドが発現/出現している細胞内に存在する(例えば、細胞に対して内因性である)遺伝子(すなわち、レポーター遺伝子)である。 したがって、好適かつ好ましいレポーター部分は、すべての細胞型に存在する部分、例えば、β-アクチンのようなハウスキーピング遺伝子である。
【0038】
外因性レポーター部分は、リガンドと関連することもできる。 例えば、細胞の場合、外因性レポーター部分(例えば、レポーター遺伝子)は、標準的な方法によって細胞内に導入され、その導入方法としては、例えば、リポフェクション、レトロウィルス法または電気穿孔法などのトランスフェクションがあるが、これらに限定されない。
【0039】
裸出分子をリガンドとする場合、例えば、裸出ポリペプチドには、タグが付けられ、あるいは、裸出ポリペプチドは、当業者に周知の方法を用いて好適なレポーター部分に結合され、例えば、リガンドが、それをコードする核酸またはその他の核酸から形成されたタグ、例えば、上述したタグに結合している場合には、そのレポーター部分は、好都合なことに、この核酸分子内に存在することとなる。 例えば、微粒子固相に接着したポリペプチドなどの分子をリガンドとする場合、これらレポーター部分は、例えば、上記した方法と同様の方法を用いて、それぞれ個別に固相に、そして、ポリペプチドに接着する。 特に、ストレプトアビジンビーズを用いる場合には、レポーター部分としては、好ましくは、例えば、レポーター遺伝子の断片またはプローブ結合部位のPCR増幅を可能にするプライマー部位の検出を促す部位または領域を含むビオチン化DNA断片を用いる。 また、各ビーズは、ビオチン化レポーター部分とビオチン化ポリペプチド(または、その他のリガンド)の混合物を保有している。
【0040】
したがって、レポーター部分とリガンドとの間の「結合性」は、レポーター部分とリガンドとの間の直接的な相互作用性、すなわち、レポーター部分およびリガンドが、同じ分子の一部であること、例えば、リガンドタンパク質およびレポーター部分が、同じ分子の一部として、互いに結合する相互作用性を含む。 あるいは、「結合性」が、間接的である場合、例えば、レポーター部分が、リガンドが接着する箇所に接着または包含されていたり、例えば、レポーター部分が、リガンドが発現または出現している細胞内に包含されていたり、あるいは、リガンドが接着している固相に固定されている場合もある。
【0041】
好ましくは、このようなレポーター部分とは、出現しているすべてのリガンドと結合し、そして、標的リガンドの一部または全部の存在(つまり、結合パートナー候補の存在)を検出する一般的な試薬である。
【0042】
「リガンド」の用語に関連して本明細書で用いられている「一つまたは一つ以上」の表現は、一つまたは一つ以上の別異のリガンド、例えば、一つまたは一つ以上の異なる細胞表面分子またはポリペプチドを指す。 換言すれば、本願発明の方法は、一つのリガンド、または複数のリガンドのライブラリーをスクリーニングするために(例えば、特に好都合なライブラリー対ライブラリースクリーニングにおいて)使用することができる。 このスクリーニングに一つを超える標的リガンドが関係する場合には、これらリガンドは、同一または異なる箇所に接着または結合することができる。 例えば、標的リガンドが細胞表面分子であると考えられる場合には、幾つかの異なる細胞表面分子についての結合パートナー候補は、本願発明の方法を用いて同定されるであろう。 もちろん、必要に応じて、例えば、免疫優性標的物を有する細胞、対象となるリガンドを過剰発現することが公知の細胞、あるいは過剰発現性に基づいて選択された細胞、またはリガンドを過剰発現するように加工された細胞など、特定の細胞表面分子についての結合パートナー候補を選択するために、この手法を改良することもできる。 もちろん、このスクリーニング反応において、各リガンドは複数のコピー数で存在しており(実際のところ、そうであることが好都合なのであるが)、例えば、細胞表面分子がリガンドである場合には、このリガンドの複数のコピーは、好ましくは、同一のタイプまたは異なるタイプの同一の細胞および/または複数の細胞において存在している。
【0043】
リガンドを発現ライブラリーと接触せしめる工程またはその逆の工程は、発現ライブラリーでの好適な結合パートナーが、そこに存在するリガンドに対して相互作用または結合できる条件下で、適切な手法によって実施することができる。 通常、このような条件は、発現ライブラリー、リガンド、およびそれらリガンドが結合する箇所の性質に応じて変化する。 しかしながら、当業者であれば、結合の形成を促す好適な条件を容易に決定することができる。 このような「接触」工程は、通常、適切な溶液または水性媒体において行われるであろう。 よって、単一層として培養されている細胞、または哺乳動物、例えば、哺乳動物の臓器または組織から得た細胞にリガンドが存在している場合には、それらリガンドは、通常、発現ライブラリーと接触せしめる以前に、適切な手法によって、水性培地において回収および再懸濁される。
【0044】
重要なことに、接触工程は、Lブロスのような細菌発現用培地やPBSなどの標準的な水性培地において実施することができる。 このことは、ライブラリーのメンバーが、(例えば、Lブロスのような細菌発現用培地で培養することで)細菌で発現することができ、そして、本願発明のスクリーニング法のために用いる発現用プレートからクローンを直接に取得できることを意味するものに他ならず、重要かつ驚くべき事項である。 好ましくは、リガンドの添加前で、しかもライブラリーのメンバーを発現した後に、これら細菌発現用培地は、例えば、滅菌水またはその他の好適な水性培地で等張状態(例えば、約140mMのNaCl、(LBは、通常、約171mMのNaClである))にする。 リガンドが、ビーズ上の分子ではなく、生体細胞に関する細胞表面分子である場合には、細菌用培地を等張状態にするためのこの工程は特に好ましい。
【0045】
「接触」条件の例として、氷上または4度で、30分〜4時間のインキュベーションがある。 しかしながら、これらの条件は、リガンドや発現ライブラリーなどの性状に応じて適切に加減することができる。 発現ライブラリーとリガンドの混合物は、任意にかつ好ましくは、緩慢な揺動、混合または回動に供することができる。 さらに、非特異的な結合を排除するブロッキング剤などのその他の適切な試薬も加えることができる。 例えば、1〜4%のBSAや、その他の適切なブロッキング剤(例えば、ミルク)を加えることもできる。 しかしながら、当業者であれば、スクリーニング法の目的に応じて、接触条件を変更および調整できることは明らかであろう。 例えば、インキュベーション温度を、例えば、室温にまで昇温すれば、異なるサブセットのリガンドについてのバインダー、例えば、容易に取り込まれてしまう細胞表面タンパク質についてのバインダーの同定率を高めることになる。 つまり、このような条件の調整は、当業者にとって自明の範囲内の事項である。
【0046】
好ましくは、この接触工程は、分析用プレートまたはその他の好適な反応用コンパートメントまたは反応用容器において実施される。 好都合なことに、単一のタイプのライブラリーのメンバー(すなわち、単一の発現ライブラリーのメンバー)は、各ウェルまたは各容器内に置かれる。 しかしながら、複数のタイプのライブラリーのメンバー(すなわち、複数の発現ライブラリーのメンバー)も、(以下に詳述するようにして)各ウェルまたは各容器内に置かれる。
【0047】
本願発明の方法(および、つまりは接触工程)で用いる発現ライブラリーの大きさおよび複雑度は、接触工程に含まれる標的リガンドのコピー数の総数に応じて変化させることができる。 例えば、本願発明の方法は、500,000個までの異なるメンバーを擁するライブラリーや、1×106個、1×108個またはそれ以上のメンバーを擁するライブラリーをスクリーニングするために利用することができる。 スクリーニングのための好適なライブラリーは、1,000個〜50,000個のメンバーを有しているが、本願発明の方法が、遙かに少数のメンバーを有するライブラリー、例えば、50個〜1,000個や100個〜500個のメンバーを有するライブラリーのスクリーニングにも利用できることは明らかである。
【0048】
好都合なことに、リガンドのコピー数は、そのリガンドが関係する箇所の数を変更することで加減することができる。 例えば、リガンドが、細胞表面分子であるか、あるいは固体支持体に接着した分子である場合には、接触混合物に含まれる細胞や固体支持体の数を増減することによって、標的リガンドの数を調整することができる。 また、必要とするリガンドの数は、試行錯誤を経て容易に決定することができるが、例えば、リガンドが、細胞表面分子である場合には、5,000個〜200,000個の細胞が好適に利用されている。 実際のところ、本願発明のスクリーニング法は、5000個または1000個程度の細胞、すなわち、5000個または1000個に満たない細胞(あるいは、例えば、検出方法としてPCRを用いることで、単一細胞の検出が可能であれば、さらに少ない個数の細胞)に対して十分な感度を示すことが、本願発明のスクリーニング法での利点である。 この点に関して、特に、哺乳動物、例えば、ヒト由来の生体細胞をスクリーニングする場合、それらの入手源が極めて限定されていたり、また、それらを大量に確保することができないことがよくある。 従って、かように少ない個数の細胞でもスクリーニングできることは、重要な利点であるといえる。 本願実施例では、PCRで検出を行い、かつ抗体ライブラリーを発現ライブラリーとして用いた好適な実施態様において、検出を実施する上で必要な抗体の量がほんの40pgであることを示している。 このことは、本願発明の方法が、例えば、1000分子にも満たない低レベルで発現しているリガンド分子に関するライブラリーのメンバーを単離する上で好適であることを示すものに他ならない。
【0049】
発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーとリガンドとが結合できる条件下で、発現ライブラリーとリガンドとを一旦接触させると、そこで結合したリガンドは、固相に固定され、そして、未結合リガンドのような反応混合物でのその他の成分からの当該リガンドの単離または除去または精製が促される。 換言すれば、固定工程にあっては、発現ライブラリーのメンバーに結合したリガンドだけが、固相に固定されるのである。
【0050】
この点に関して、取り扱いと洗浄が容易な微粒子固相が好適である。 磁性体固相、具体的には、磁性体粒子/ビーズが特に好ましい。 このような固相と(前述したような)リガンドが接着した固相とを区別するために、そのような固相を、「固定固相」と称することができる。 好適な磁性体ビーズは、Dynal Biotech ASA社や、ノルウェーのリレストロームに所在のDyno Specialty Polymers AS社から市販されている。 本明細書に記載の方法で用いることができる磁性体ビーズの例として、ノルウェーのDynal Biotech ASA社から市販されているM-450、M-270またはM-280ビーズがある。
【0051】
リガンドライブラリーのメンバーの複合体は、適切な方法によって、固相上に固定することができる。 本願発明の方法に従った好適な方法は、固相上に固定した分子と、発現ライブラリーのメンバーに結合するパートナー分子またはタグとの間の相互作用性に関係する。 こうすることで、発現ライブラリーのメンバーに結合したリガンドだけが、固相上に固定される。 必要に応じて、発現ライブラリーのメンバーに結合していないすべてのリガンドを、固相を洗浄するための一つまたは一つ以上の工程、または、固定を終えた後に反応混合物から単に固相を分離することによって除去することができる。 こうして、リガンドよりもむしろ、発現ライブラリーのメンバーによって固定工程の進行は促され、そして、残存する混合物から固相を単離することで、ライブラリーのメンバーに結合していないリガンドが除去されるのである。
【0052】
固相上に固定した分子と、発現ライブラリーのメンバーに関するパートナー分子またはタグとの間の相互作用性は、好都合なことに、アフィニティー相互作用性に基づくものであるが、他の反応を利用することもできる。 例えば、アフィニティー相互作用性に関与するある特定の成分を発現させるために発現ライブラリーのメンバーを加工することができ、そして、好適な方法によって、その他の成分を固相に接着することもできる。 好適なアフィニティー相互作用性の例として、抗体-抗原間の相互作用性、ストレプトアビジン-ビオチン間の相互作用性がある。
【0053】
ストレプトアビジンをコートしたビーズは市販されており、そして、このビーズは、リガンドとライブラリーのメンバーとの複合体を構成するライブラリーのメンバーに含まれるビオチン分子の存在下で、当該複合体を固定するために用いることができる。 あるいは、ファージライブラリーを発現ライブラリーとして用いる場合には、ファージ表面タンパク質に対する抗体、例えば、抗gp8が結合した固相を用いることで、容易に固定を行うことができる。 さらに、固相への結合を促すアフィニティーパートナーによって認識されるタグを発現させるためにライブラリーのメンバーを加工することもできる。 好適なタグとして、抗c-myc抗体(または、その他の好適な抗体)によって認識が可能なc-myc(または、その他の抗原ペプチドタグ)またはHisタグ、それに、金属イオン(例えば、Ni2+)などがあり、その各々が、固相への固定を交互に促す。
【0054】
固定を促すために抗体を用いる場合には、例えば、抗IgG抗体のような適切な二次抗体または三次抗体を介して、それら抗体を、直接的または間接的に固相に接着することができる。 使用する試薬に応じた適切な手法によって、固定を効率化ならしめることができる。 このように、抗体を固相に接着し、そして、リガンドとライブラリーのメンバーとの複合体を含む混合物との接触に供することができる。 あるいは、リガンドおよびライブラリーのメンバーの固定を促すために、(例えば、二次抗体を介して)抗体を固相に結合する以前に、この抗体を、反応混合物内のライブラリーのメンバーに対して結合することができる。 実際のところ、このやり方は、本願発明の方法での好ましい実施態様にもなっている。 当業者であれば、固定のための温度および時間の条件を容易に決定することができる。 しかしながら、固定条件の例として、(リガンドまたはライブラリーのメンバーの安定性に応じて決定された)室温または4℃で、10分間〜2時間のインキュベーションを含み、好ましくは、緩慢な揺動、混合または回動をも行う。 当業者であれば、リガンドとライブラリーのメンバーとの複合体の固定を促すために取り込む固相の量や、固相とリガンドとの比率を容易に決定することができる。
【0055】
本願発明のスクリーニング法の適当な段階で、一つまたはそれ以上の洗浄工程を実施することができる。 例えば、上述したように、発現ライブラリーのメンバーに結合していないリガンドを除去するために、工程(b)の後に、洗浄工程(あるいは、少なくとも一つの分離工程)を実施する。 リガンドが結合していない発現ライブラリーのメンバーを除去するために、リガンドが結合している箇所を洗浄する(例えば、リガンドが結合している細胞または固相を洗浄する)ための一つまたはそれ以上の工程も、工程(a)の後に実施することができる。 実際のところ、それら洗浄工程は、好ましい工程である。 さらに、例えば、非結合物を除去するために、本願発明の方法の実施過程での適切な時期に、リガンドが結合している箇所または固相に対して一つまたは一つ以上の洗浄工程を実施することができる。 当業者であれば、洗浄工程の回数を容易に決定することができる。
【0056】
リガンドを直接に検出したり、あるいは、少なくともリガンドが結合している(ライブラリーのメンバー以外の)物質を検出することによって、リガンドの存在を検出するための工程が実施される。 この工程は、リガンドの検出というよりも、むしろ、リガンドに結合しているライブラリーのメンバーを検出している点で、従来の方法とは一線を画している。
【0057】
好都合なことに、リガンドの存在(ひいては、リガンドとライブラリーのメンバーとの複合体の存在、これはすなわち、複合体に関与しないリガンドは固相に結合しないため、この固定工程で除去する必要があることによる)の検出は、リガンドに関するレポーター部分またはリガンドに結合したレポーター部分の存在を検出して行われている。 好適なレポーター部分として、上述した通りのものがある。 上述した通り、レポーター部分は、通常、すべてのリガンドにおいて存在しており、あるいはすべてのリガンドに対して結合しており、すなわち、すべてのリガンドについての一般的な標識であるといえる。 このように、同じレポーター部分が、各リガンドに存在して(または結合して)いるので、ポジティブシグナルの存在は、リガンドとライブラリーのメンバーとの複合体の存在を指し示すものであり、したがって、リガンドに対する結合パートナー候補であるライブラリーのメンバーの存在を指し示すものに他ならない。 しかしながら、細胞内にレポーター部分が存在する場合、すなわち、細胞表面分子がリガンドである実施態様では、検出を行う以前に、例えば、細胞の溶解やその他の細胞破壊の手段によって、レポーター部分を露出しなくてはならないことに留意すべきである。
【0058】
例えば、細胞内の核酸に含まれているレポーター部分を露出するために、細胞を溶解/破壊する方法は、当業者に周知の事項である。 本願発明の実施態様において用いる真核細胞用の好適な溶解緩衝液として、タンパク質を消化して、検出工程に先駆けてDNAからヒストンを除去するプロテイナーゼKがある。 その他のプロテアーゼも、本願発明の方法で用いる溶解緩衝液に使うことができる。
【0059】
上述したように、PCRは、好ましい検出方法である。 しかしながら、レポーター部分の検出のためのその他の好適な検出方法、例えば、プローブハイブリダイゼーション、蛍光ビーズ、異形ビーズなど(上記を参照のこと)も利用することができる。 PCRは、その感度の高さが故に好ましく(たった一つのリガンド(または細胞)でもPCRで検出することができる)、また、リガンドに関する情報、例えば、(例えば、リガンドが、それをコードする核酸と結合している場合の)配列情報や、(例えば、リガンドが、それを同定することができるタグ付きのDNA分子である場合、例えば、異なるサイズのDNA分子でタグが付されたリガンド、またはリガンドを特異的に同定するために用いることができる特異的な配列のタグを有するDNA分子でタグが付されたリガンドの場合の)リガンドの同定情報が得られる点からも好ましい。
【0060】
好都合なことに、このPCR反応は、(固相でも実施可能であるが)溶液内で実施することができ、そして、PCR産物の存在は、アガロースゲル法(例えば、Invitrogen社のE-gel 96 システムは、20〜30分の内に、96個もの試料の分析を行うことができる)のような標準的な方法によって検出することができる。 一般的に、PCR(または、その他の検出工程)に先駆けて、試料の入念な混合が行われる。
【0061】
レポーター部分の全部または一部を増幅するための好適なPCRプライマーは、当業者に周知の方法によって、レポーター部分の配列にに従って選択される。 分析用ウェルまたはその他の検定区画に置かれた核酸の量が適切である場合、例えば、リガンドが、(好適なレポーター部分を含んでいる)適切な発現ベクターを用いて細胞内にトランスフェクトされた核酸によってコードされている場合、あるいは、リガンドが、それをコードするDNAに結合している場合などは、リガンド配列ならびにレポーター部分をコードする核酸を増幅するPCRプライマーが選択される。 この方法によれば、配列決定のために、好適なベクターにPCR産物を直接にクローニングすることができ、それにより、リガンド配列の解明に至る点で有利である。
【0062】
PCRなどで検出されたポジティブシグナルは、さらに検査を要する固相(固定固相)の存在を示すものである。 例えば、分析用プレートのウェル内の溶液で行ったPCRにて出現したポジティブシグナルは、リガンドに対する少なくとも一つの注意を要する結合パートナーの存在を示すものであり、そのようなリガンドは、別の分析や検査に供することとなる。 例えば、分析用プレートのウェルに置かれた細菌コロニー(または、その他のライブラリーのメンバー)は、リガンドに対する結合パートナー候補を発現したコロニー(ライブラリーのメンバー)を同定するために、例えば、細胞-ELISAを利用するスクリーニング法に供することができる。
【0063】
PCRなどから出現したポジティブシグナルは、好都合なことに、バックグラウンドシグナルや公知のネガティブシグナルとの比較によって決定される。 ポジティブシグナル、バックグラウンドシグナル、および/またはネガティブシグナルを測定および比較するための手段および方法は、当業者に周知の事項である。
【0064】
よって、本願発明の好ましい実施態様によれば、発現ライブラリーのメンバーに結合したリガンドは、微粒子および磁性体固相に固定され、そして、検出工程は、PCRによって実施される。 特に好ましい実施態様によれば、リガンドとして、細胞膜、特に、生体細胞膜に結合した細胞表面分子を用いている。
【0065】
比較実験(実施例3を参照されたい)では、scFvでコートされ、かつ磁性体ビーズに接着した細胞(特に、癌細胞)を利用し、しかも、リガンドがPCRで検出される好適な方法が記載されており、リガンドの検出ではなく、発現ライブラリーのメンバーの検出に基づいた検出工程を利用するこの方法では、標準的な細胞-ELISA法よりも感度が格段に改善されている。 本明細書に記載の本願発明の方法(「AffiSelect法」と称する場合もある)は、僅かな数の細胞で、バックグラウンドシグナルを上回る良好なシグナルを示し、また、そのようなシグナルそれ自体は、細胞-ELISA法で得られるシグナルよりも強力かつ明瞭である。
【0066】
本願発明の方法は、さらに別の工程と関係することもできる。 例えば、すでに簡単に言及したように、不要な発現ライブラリーのメンバーを除外したり、あるいは、ライブラリーの複雑度を緩和するために、発現ライブラリーに対して予めパンニング処理を行うことができる。 このプレパンニング処理を、本願発明の方法の工程(a)に先駆けて、発現ライブラリーを、一つまたは一つ以上の無関係の物質と接触させるネガティブのパンニング工程とすることができる。 例えば、所望のリガンドを発現しない細胞、あるいは所望のリガンドを低レベルでしか発現しない細胞またはこれら細胞の膜画分を用いて、発現ライブラリーのプレパンニング処理を行うことができる。 例えば、この方法が、特定のタイプの癌細胞に結合する発現ライブラリーのメンバーを同定するようにデザインされているのであれば、発現ライブラリーのメンバーと、一つまたは一つ以上の異なるタイプの細胞または無関係のタイプの細胞、例えば、異なるタイプの腫瘍細胞またはリンパ球や内皮細胞などの非腫瘍細胞、あるいは対象外の細胞とを接触させることで、プレパンニング処理を行うことができる。 このネガティブなプレパンニング工程の目的は、対象とするリガンドに結合しない発現ライブラリーのメンバーの一部を除去することにある。
【0067】
あるいは、標的リガンドに結合する発現ライブラリーのメンバーを拡充し、そうすることで、本願発明の方法に従ってスクリーニングされるライブラリーの複雑度を緩和するために、このプレパンニング工程を、標的リガンドで発現ライブラリーをパンニング処理/接触処理させるポジティブパンニング工程とすることができる。 一つまたは一つ以上のプレパンニング工程を、同一の物質または関連性のある別異の物質または無関連の物質に対して実施することができる。
【0068】
発現ライブラリーの拡充のためにポジティブパンニングを用いる本願発明の実施態様にあっては、発現ライブラリーの拡充と共に、スクリーニングするライブラリーの複雑度を緩和するために、適切な回数、好ましくは、1回、2回、3回または4回のパンニング処理を、標的リガンドを用いて行われる。 適切なパンニング方法、例えば、固相への標的リガンドの接着や、ライブラリー全体のパンニング処理などを利用することができる。 しかしながら、好ましいパンニングの方法(特に、ファージディスプレイライブラリーを発現ライブラリーとしている方法)では、標的リガンドに発現ライブラリーのメンバーが結合できる条件下で、(例えば、細胞にて)発現ライブラリーと標的リガンドとを接触する工程が含まれており、次いで、ファージが結合した標的リガンド(例えば、ファージが結合した細胞)から遊離ファージを分離するために、Giordano et al. (2001, Nature Med., 11: 1249-1253)に記載の有機相分離に関するBRASIL法の変法が用いられている(このような変法は、本明細書の実施例5に記載されている)。 かようなBRASIL法の変法は、発現ライブラリーのメンバーに結合した標的リガンドと発現ライブラリーの未結合メンバー(例えば、未結合ファージ)とを、有機相を介した分離法によって分離する以前に、標的リガンド(例えば、細胞上のリガンド)を、少なくとも一つ、好ましくは、一つ、二つまたは三つの洗浄工程に供することを含んでおり、これにより、他のライブラリーのメンバーから、当該標的リガンドについての結合パートナー候補を分離することができる。 上述したように、本願発明の方法を用いて拡充したライブラリーをスクリーニングする以前に、1回または1回以上のパンニング処理(接触と分離)、例えば、1回、2回、3回または4回のパンニング処理を行うことができる。
【0069】
本願発明の方法に従って、リガンドについての結合パートナー候補である一つまたは一つ以上の発現ライブラリーのメンバーの存在が一旦検出されれば、これらは、さらに別の分析または用途に供することができる。 このような別の分析には、リガンド(すなわち、結合パートナー候補)に結合した発現ライブラリーのメンバーまたはリガンドそれ自体の一方または双方に関する分析が含まれる。 よって、本願発明の方法は、新規の発現ライブラリーのメンバー(新規の結合パートナー)および新規のリガンドの双方、例えば、新規の細胞表面分子や新規抗原などのタンパク質を、ポリペプチドおよび核酸の双方のレベルでスクリーニングおよび同定することを可能にする。
【0070】
このような別の分析は、一般的には、本願発明の方法の工程(c)で検出される単一クローンに対する分析の形態で実施される。 本願発明の方法の工程(c)でのポジティブシグナルは、例えば、検出が行われるアッセイ用ウェルまたは検定区画に、リガンドについての一つまたは一つ以上の結合パートナー候補が含まれていることを示唆している。 好都合なことに、前記結合パートナー候補が当初に採取されたマスタープレートにそれらを戻し、そして、標準的な方法によって、マスタープレートに戻されたクローン(ライブラリーのメンバー)の分析を行うことで、これら結合パートナー候補に対してさらに別の分析が実施される。 このようにして、好都合なことに、結合パートナー候補は、リガンドから単離されて発現または産生される。
【0071】
例えば、コードしたポリペプチドが比較的大きいファージ発現ライブラリーやその他の発現ライブラリーの場合、前出の分析は、必要に応じて、結合パートナー候補をコードするDNAを、コードしたポリペプチドを可溶性の形態で発現することができる好適な発現系にクローニングする工程を(必要に応じて、RNAライブラリーのメンバーをDNAに変換するPCRの後に)含む。 例えば、本願発明のスクリーニング法に供される発現ライブラリーが、例えば、細菌発現ライブラリーを用いるなどして、すでに発現システムに組み込まれているのであれば、この工程が不要であることは明らかである。
【0072】
結合パートナー候補をコードするDNAが、適切な発現ベクターで一旦クローニングされれば、結合パートナー候補をコードするDNAの配列決定をすることができ、さらに、候補タンパク質を可溶性の形態で発現し、そして、タンパク質レベルで候補物をさらに同定するために(リガンドを標的として用いる)適切な結合性検定に供することができる。 好適な結合性試験は、結合パートナー候補およびリガンドの性状に応じて選択されるものであって、ELISA、フィルタースクリーニングアッセイ、FACSまたは免疫蛍光アッセイ、BiaCoreアフィニティー測定または結合定数を定量するためのその他の方法、組織スライドまたは細胞の染色や、その他の免疫組織学的方法などがあるが、これらに限定されない。 このような方法は、文献発表によって公知であり、また、結合パートナー候補を分析するために、これらの内の一つまたは一つ以上を利用することもできる。
【0073】
ペプチドライブラリーに関しては、結合ペプチド候補に結合したタグを、選択したペプチドの配列を同定するために使用することができ、そして、これらをin vitroで合成し、次いで、上記したようにして分析することも、あるいは、それらペプチドをコードするDNA配列を決定し、次いで、適切な発現ベクターに挿入し、その後、発現したペプチドを上記したように分析することもできる。
【0074】
ネガティブコントロールとして、好都合なことに、結合パートナー候補は、非リガンド、例えば、無関係のタイプの細胞またはその表面にリガンドを発現しないタイプの細胞、またはリガンドを低レベルでしか発現しないタイプの細胞、あるいは裸出または精製した無関係の分子などの好適なものに対してもスクリーニングすることができる。
【0075】
結合状態にある結合パートナー候補に関するすべての検出方法は、発現ライブラリーのメンバーについてのある種のタグや標識を認識する試薬を用いることで、その進行が促される。 好適なタグの取り付け方や検出システムは、当業者に周知の事項である。
【0076】
未知の分子、例えば、未知の細胞表面分子、特に、未知の腫瘍表面分子をリガンドとした本願発明の実施態様によれば、これらの性質も容易に分析することができ、そして、特定の結合パートナーを用いて同定されたリガンドは、同定手段として、発現ライブラリーから同定される。 結合パートナーが、抗体分子、特に、例えば、上述したようなscFv分子である場合に、特に好都合であって、発現ライブラリーに由来する結合パートナーは、通常、検出を円滑にするのみならず、例えば、組織片に結合させることで、例えば、未知の分子の組織分布を分析するために利用することができるタグや標識を取り込むように加工されている(Pereira et al, J. Immunol. Methods, 1997, 203: 11-24)。 あるいは、結合パートナーを固相に結合して、例えば、アフィニティークロマトグラフィーによって、未知の分子を精製するために用いることができる。 精製を終えてから、分子の性質を利用した適切な試験を行うことで、未知の分子の正体を突き止めることができる。 例えば、未知の分子が、タンパク質である場合には、精製したタンパク質は、ペプチドの配列決定または質量分析法によって同定することができ、また、そのタンパク質をコードするDNA配列は、当業者に周知の方法を用いてクローニングとDNAの配列決定を行うことで決定することができる。 あるいは、未知のタンパク質をコードするDNAは、同定した結合パートナーを用いてcDNAライブラリーをスクリーニングすることによって、容易に決定することができる。 この点に関して、適切な供給源に由来する多様性に富んだcDNAライブラリーも使用することができる。 しかしながら、好ましくは、規模の小さな制限cDNAライブラリーが使用できる。 例えば、未知のタンパク質が、特定のタイプの細胞、例えば、腫瘍細胞の表面に発現した場合には、cDNAライブラリー(例えば、ファージディスプレイライブラリーのようなcDNAディスプレイライブラリー)は、好都合なことに、これら細胞から作成することができ、そして、例えば、同定した結合パートナーが接着している固体支持体についてディスプレイライブラリーをパンニング処理することで、結合パートナー(例えば、前出のRidgway et al.,を参照されたい)を用いたスクリーニングを行うことができる。 加えて、発現ライブラリーから同定した結合パートナーが抗体である場合には、リガンドを単離または同定するために、免疫沈降法、ウェスターンブロット、発現プロファイリング、免疫組織化学などの抗体を利用したその他のアッセイを行うことができる。
【0077】
このように、本願発明の方法は、適切な発現ライブラリーからリガンドに対する結合パートナーを選択および同定するため利用できるだけではなく、新規かつ未確認のリガンドを同定するために用いることもできるのである。 つまり、このことは、治療や診断の用途に供する新規の細胞標的の同定や、治療や診断への利用が可能な新規の要素、すなわち、結合パートナーの同定に直結しうる点で重要であると言える。
【0078】
このように、本願発明は、以下の工程、すなわち、上述した工程(a)〜(c)(および、任意の追加工程)、(d)前記未確認リガンドに結合する一つまたは一つ以上の発現ライブラリーのメンバーを単離し、および(e)前記ライブラリーのメンバーが結合しているリガンドを単離および/または同定するために前記ライブラリーのメンバーを用いる、工程を含む、未確認リガンドを単離および/または同定する方法も提供する。
【0079】
本願発明の好ましい実施態様によれば、本願発明のAffiSelect法、すなわち、本明細書に記載の方法は、未確認リガンドを単離および同定するために用いることができる。 この実施態様において、本願発明の工程(a)で用いられるリガンドとして、真核細胞(例えば、COS細胞)またはその他の好適な細胞において発現したリガンドのライブラリー(好ましくは、cDNAライブラリー、さらに好ましくは、未確認リガンドを発現した標的細胞から得たcDNAライブラリー)があり、そして、その発現ライブラリーとして、未確認リガンドについての一つまたは一つ以上の結合パートナー、好ましくは、一つまたは一つ以上の抗体分子がある。
【0080】
よって、本願発明のさらに他の態様によれば、本願発明は、以下の工程、すなわち;
(a) 未確認リガンドに対して特異的な一つまたは一つ以上の結合パートナーを、溶液中で、細胞(好ましくは、真核細胞)内で発現した潜在的なリガンドをコードするライブラリー(好ましくは、cDNA ライブラリー、さらに好ましくは、未確認リガンドを発現した標的細胞から得たcDNAライブラリー)と接触させ、
(b) 一つまたは一つ以上の特異的な結合パートナーに結合したリガンドを固相に固定し、および
(c) リガンドの存在を検出し、それにより、未確認リガンドの候補である一つまたは一つ以上のリガンドの存在を検出する、
工程を含む、未確認リガンドを単離および/または同定する方法を提供する。
【0081】
接触工程、固定工程および検出工程は、本明細書で言及したようにして実施する。 特に好ましい検出方法は、PCRであり、特に、特定の結合パートナーによって認識されるリガンドの配列の迅速な増幅を許容するために、(例えば、ハウスホールド遺伝子よりもむしろ)リガンドライブラリーベクター配列に由来するプライマーを用いる。 このPCR産物は、DNAの配列決定のためや、コードされたタンパク質をさらに同定するために、好適なベクターに直接にクローニングすることができる。
【0082】
したがって、本願発明の方法は、リガンドの結合パートナー、または新規なリガンドそれ自体、すなわち、以後の種々の用途のために単離、産生または製造することができるリガンドを選択、同定または単離するために使用することができる。 そのため、本願発明の方法を用いて同定または選択される結合パートナー/タンパク質またはリガンドは、本願発明のその他の実施態様を構成する。 したがって、本願発明のその他の実施態様は、リガンドの特異的結合パートナーであるライブラリーメンバーを選択、同定および/または単離する方法、または発現ライブラリーからリガンドそれ自体を選択、同定および/または単離する方法を提供し、これら方法は、上記した工程(a)〜(c)(および任意に付加できる工程)を用いて発現ライブラリーをスクリーニングし、ある特定の性質を示す分子を選択する工程、そして、任意に、(e)リガンドの特異的結合パートナーである一つまたは複数の関連ライブラリーメンバーを同定および/または単離する工程、および任意に、(f)結合対象のリガンドを同定するために前記したライブラリーメンバーを用いる工程を含む。
【0083】
特定の性質を有する結合パートナーまたはリガンドをコードする適切な核酸断片が一旦同定されると、例えば、さらに改善された性質を有する結合パートナーを試しに同定するために、これらポリペプチドをコードする核酸を、所望により、親和性成熟に供することができる。 この親和性成熟は、スクリーニングサイクルを反復する前に、任意の従来の形態の変異誘発、例えば、制御された様式(例えば、部位特異的変異誘発)またはランダム様式での一つまたは一つ以上のヌクレオチドの付加、欠失および/または置換、エラープローンPCR、ドメインスワッピング、カセット変異誘発および鎖シャッフルなどを行うことにより行われるが、これらに限定されない。 この親和性成熟は、所望により、上記した確認工程の後に、単一のクローン解析を行う以前に実施される。
【0084】
一つまたは一つ以上の結合パートナーまたはリガンドが、本願発明の方法を用いて選択、同定、単離されおよび/または精製されると、これらの候補またはその成分、断片、変異体または誘導体を製造してもよく、所望により、少なくとも一種類の薬学的に許容可能な担体または賦形剤と共に製剤化することができる。 このようにして製造された分子、またはその成分、断片、変異体または誘導体もまた、本願発明に包含される。 あるいは、これらの分子は、前記したタンパク質分子をコードする核酸の形態をとる場合がある。
【0085】
この核酸を、今度は、適切な発現ベクター内に組み込むか、および/または、適当な宿主細胞内に含める。 したがって、前記した結合パートナーまたはリガンドをコードする核酸分子、または前記した核酸分子を含有する発現ベクターは、本願発明のその他の実施態様を構成する。
【0086】
ある特定の結合パートナーまたはリガンド、またはその成分、断片、変異体または誘導体が、本願発明に従って、一旦選択や同定などがされると、選択された結合パートナーまたはリガンドをコードする発現ベクターは、適切な宿主細胞または系内で発現され、そして、結合分子を宿主細胞または系、または、成長培地またはその上清から単離することによって、充分な量の分子を生成させるために容易に使用(または使用のために改変)することができる。 あるいは、前記した結合分子またはリガンドは、その他の適切な方法によって、例えば、結合分子をコードする核酸の化学合成および適当な宿主内またはin vitro転写系内での発現によって生成させることができる。
【0087】
したがって、本願発明のその他の実施態様は、上記した本願発明の方法に従って特異的リガンドの結合パートナーまたはリガンドそれ自体を同定または選択する工程、前記したような同定された結合パートナーまたはリガンド、またはその成分、断片、変異体または誘導体を製造する工程、および、任意に、前記したような製造された結合パートナーまたはリガンドを、少なくとも一種類の薬学的に許容可能な担体または賦形剤と共に製剤化する工程を含む、特異的結合パートナーまたはリガンドを製造する方法を提供する。
【0088】
結合パートナーまたはリガンドに関する前記した変異体または誘導体としては、ペプトイド等価物、非ペプチド合成主鎖を有する分子、および起源となる同定ポリペプチドと関連するか、これに由来するものであって、そのアミノ酸配列が、単一または多数のアミノ酸の置換、付加および/または欠失によって修飾されたポリペプチド、あるいは、例えば、脱グリコシル化またはグリコシル化によって化学的にさらに修飾されたアミノ酸との置換または該アミノ酸の付加を受けたものなども挙げられる。 好ましくは、このような誘導体または変異体は、このものを誘導した起源のポリペプチドに対して少なくとも60、70、80、90、95または99%の配列同一性を有する。
【0089】
結合パートナーが抗体分子である場合、前記した変異体または誘導体は、抗体分子のある形式からその他の形式への変換(例えば、FabからscFvへの変換(またはその逆)、または本明細書に記載している抗体分子の任意の形式間での変換)、または、ある特定のクラスの抗体分子への抗体分子の変換、例えば、IgGまたはそのサブクラス、例えば、IgG1またはIgG3(これらは治療用抗体に特に好適である)への抗体分子の変換をさらに含む。
【0090】
前記変異体または誘導体は、結合パートナー分子またはリガンドと、例えば、前記結合パートナーまたはリガンドのその後の適用において有用であるその他の機能的成分との会合をさらに含む。 例えば、結合パートナーまたはリガンドは、これを身体内のある特定の部位に標的化する成分、または、例えば、イメージングまたはその他の診断用途に有用な検出可能な部分と会合することができる。
【0091】
明らかに、これら成分、断片、変異体または誘導体結合パートナー分子またはリガンドとしての主たる要件は、これらが、結合能力に関して、その本来の機能的活性を保持しているか、または改善された機能的活性を有していることである。
【0092】
本願発明の方法を用いて単離、検出、選択、同定または製造される結合パートナー分子(好ましくは、抗体分子)またはリガンドは、リガンドに特異的な結合パートナー(例えば、ある特定の抗原に特異的な抗体)が必要とする任意の方法において使用することができる。 したがって、結合パートナー(好ましくは、抗体分子)またはリガンドは、分子ツールとして使用することができ、本願発明のその他の実施態様は、本明細書に記載のそれら結合パートナー分子またはリガンド分子を含む試薬を提供する。 また、このような分子は、in vivoでの治療的または予防的適用、in vivoまたはin vitro診断用途、またはin vitroアッセイに使用することができる。
【0093】
結合パートナーは、発現ライブラリーから単離された形態、または、操作または変換された形態のいずれかで治療的用途に適用することができ、例えば、scFv分子をIgGまたは多量体ペプチドに変換することが望ましい。 治療効果は、リガンド/リガンドに対して作用薬的または拮抗薬的結合を示す治療的分子に対して生物学的活性を誘導させること、例えば、アポトーシス(例えば、癌またはウィルス感染細胞のアポトーシス)を誘導すること、天然リガンドの結合をブロックする(それにより、腫瘍の成長および/または播種を阻害する)ことによって成長を阻害したり、またはマトリックスからの離脱を刺激することにより奏することができる。 このような治療効果は、リガンド/リガンド自体、または、その多量体(これが架橋することにより、一部のレセプターが活性化される)の性質によって達成することができる。
【0094】
選択または同定された結合パートナーが、抗体ポリペプチドである場合には、これらは、in vivoでの治療的および予防的用途に供することができ、例えば、特に、易罹患性の個体(例えば、免疫力の無い患者、小児、妊娠女性の胎児、疾患が流行している地域の人々など)に、受動免疫を付与するために使用することができる。 例えば、抗体が、感染性因子または疾患関連因子を中和できる場合、このものは、疾患に対処するために適切な被験体に投与することができる。 あるいは、抗体(またはその他の形態の結合パートナー)を、その他の治療上有効な分子、例えば、細胞傷害性因子(小分子またはタンパク質)、プレトキシンまたはその他の薬物に結合させ、疾患組織または特異的細胞型、例えば、腫瘍細胞またはウィルス感染細胞に標的化させることもできる。 さらに他の治療効果は、投与される因子に、操作されたその他の機能、例えば、scFvのIgへの変更、二重特異性分子、例えば、腫瘍細胞およびキラー細胞に結合する機能を調製後に付与するマクロファージ、補体または細胞傷害性T細胞を活性化する能力などによって達成することができる。
【0095】
あるいは、それら抗体(または、実際には、特定の組織または身体部位、または細胞のタイプ、例えば、腫瘍細胞またはウィルス感染細胞と関連するリガンドと相互作用するその他のタイプのポリペプチド)は、標識、例えば、色素、蛍光または放射能標識または酵素的に検出可能な標識にコンジュゲートさせて、in vitroまたはin vivoでの診断において、例えば、イメージングまたは標準的な免疫組織化学的手順に従って用いることができる。 その他の好ましい用途として、テラノスティック的使用形態(すなわち、診断および治療の双方において使用される抗体または結合パートナー)が挙げられる。 また、このような抗体分子またはその他の結合パートナーは、リガンドを単離するためにアフィニティークロマトグラフィーで使用することができる。
【0096】
特に、細胞表面発現タンパク質に対する抗体は、新規の診断用薬物および治療用薬物を成功裏に開発するための出発点を提供する。 これは、特異的細胞表面マーカーならびにこれに対する抗体結合の知識が、薬物開発の明確な障害となっている癌の分野で、特にそうであり、本願発明の方法は、新規な細胞表面マーカー(リガンド)および抗体(結合パートナー)の双方を同定および選択するために使用することができる。 現在、細胞表面に発現される腫瘍関連または腫瘍特異的エピトープは、非常に僅かな数しか知られていない。したがって、このようなタイプの新たなエピトープのいずれも(および、当然ながら、これに対する特異的抗体結合も)癌の処置において新たな可能性を提示する。 考えられる用途は、ADCC系治療用の裸出した完全体のIgG抗体産物から、組換えオリゴ特異的/オリゴ価構築物や、組織特異的および標的治療用の融合タンパク質免疫毒素および放射能標識抗体断片や、in vitroおよびin vivo診断用色素/放射能カップリング抗体にも至る。
【0097】
リガンドまたはその断片は、ワクチン、特に、(当然ながら、問題のリガンドに応じた)癌および感染性疾患の処置のための用途のためのワクチンとして使用することができる。
【0098】
リガンドは、作用薬および拮抗薬の標的として、ペプチド、タンパク質または小分子薬物の形態で使用することができ、これらは、例えば、アポトーシスまたは細胞成長の調節などの機能をブロックまたは誘導することができる。 また、リガンドは、別のスクリーニングのための標的として使用することができ、上記した内の幾つかを行うことが可能なその他の多くの分子を同定することができる。 場合によっては、リガンドまたはその断片は、それ自体が、天然状態でそれらに結合する分子に対して競合的に結合するなどの効果を奏することができる。
【0099】
必要であれば、そのような抗体分子の用途での適切な利用、例えば、治療用のIgG1またはIgG3クラスへの変換、イメージングのための適切な標識の組込みまたは付加などは、当業者に周知のものである。
【0100】
上記したような種々の用途において最も好適な抗体は、当業者が設計可能な適切な試験を用いて容易に同定することができる。 例えば、抗体または結合パートナーの高い親和性または親和力が重要となる用途では、これらの基準は、候補抗体に関して、標準的なアッセイ方法(例えば、Biacoreアッセイ)を用いて容易に検証することができる。 また、ある特定の感染因子(例えば、細菌、ウィルスなど)に対する抗体が同定された場合、どの抗体が感染因子を中和する上で最も有効であるかを評価するための適切な試験を行うことができる。 例えば、細菌の場合、問題の細菌に対する殺菌活性およびオプソニン化食作用活性が評価することができる。 同様に、ウィルスの場合は、ウィルス中和試験を行って、最良の候補を同定することができる。
【0101】
したがって、本願発明のさらに他の実施態様では、一つまたは一つ以上の標的抗原、例えば、特定の疾患、細胞、組織または外来因子と関連する一つまたは一つ以上の標的抗原に特異的に結合する一つまたは一つ以上の抗体分子を単離、検出、同定、選択または製造するための、本明細書に記載の抗体発現ライブラリーの使用を提供する。 このことは、例えば、標的抗原を用いて抗体発現ライブラリーをスクリーニングすることによって実施される。
【0102】
本願発明のさらに別の実施態様では、治療またはin vivo診断での用途、または、上記した任意のその他の用途での利用に供される上記の単離、検出、同定、選択または製造される抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドが提供される。 また、治療(特に、癌または感染性疾患の治療)またはin vivo診断での用途、または、上記した任意のその他の用途での利用に供される医薬または組成物の製造に供される上記の抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドの使用も含まれる。 適切な用量のそれら抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドを投与することを含む、患者の処置方法も提供される。
【0103】
前記した抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドが、上記した用途および方法で利用される場合、これらは、任意の適切な様式で投与することができる。 例えば、これら抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドは、作用が必要とされている部位に局所的に投与することができ、または、抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドを、身体内の適切な位置への標的化を促す物質に対して結合または会合させることができる。
【0104】
本明細書に記載の抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドを、一つまたは一つ以上の薬学的に許容可能な担体または賦形剤と共に含む医薬組成物は、本願発明のさらに他の実施態様を構成する。
【0105】
また、さらにその他の実施態様によれば、適切な量の本明細書に記載の抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドを患者に投与すること、および、患者内の抗体分子の存在、位置および/または量を検出することを含む、患者の診断またはイメージング方法が提供される。
【0106】
本願発明の発現ライブラリーから同定、選択などされた抗体分子(またはその他の結合パートナー)またはリガンドは、in vitroで行われる診断方法、例えば、組織試料または幾つかのその他の種類の試料、例えば、患者から採取または誘導した血液に関して適切に行われる診断方法において、同様に使用することができる。
【0107】
処置または診断される疾患は、好ましくは、癌、感染因子によって引き起こされる感染性疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患または変性疾患である。
【0108】
「治療」または「処置」の用語は、本明細書で用いる場合、予防的治療を含む。 「治療」および「処置」の用語は、疾患または感染の対処または治癒を含むだけでなく、疾患または感染またはこれらと関連する症状の抑制または軽減も含む。
【0109】
本願発明の方法は、大規模なスクリーニング、すなわち、500,000個までの異なるメンバーを擁する発現ライブラリー、または、1×106個またはそれ以上のメンバーを擁するライブラリーを同時にスクリーニングするために利用することができる。 好都合なことに、かような大規模スクリーニングを行うために、発現ライブラリーを、フィルターやプレートのような一つまたは一つ以上の固体支持体に置かれた細菌コロニー、および/または、一つまたは一つ以上の分析用プレート(例えば、一つまたは一つ以上の384-ウェルまたは96-ウェルの分析用プレート)の各ウェルで増殖せしめたコロニーの形態で提供することができる。 例えば、当業者に周知の方法を用いて、30,000個〜300,000個のコロニーをフィルターで容易に増殖させることができ、次いで、これらコロニー(または、その一部)を回収して、そして、コロニーを懸濁液にてさらに増殖し、次いで、本願発明の方法に従って容易にスクリーニングできるポリペプチドレベルにまでライブラリーのメンバーを発現せしめるために誘発あるいは処理を行った分析用プレートにコロニー移すことができる。 ライブラリーのメンバーが内部発現する場合、すなわち、発現ライブラリーが、ディスプレイライブラリーでない場合には、発現したライブラリーのメンバーを入手して、スクリーニングに供するためには、細胞の溶解、例えば、細菌細胞の溶解も必要となってくる。
【0110】
一つのコロニー(または一つの発現ライブラリーのメンバー)を、分析用プレート(またはその他の適切な検定区画)の一つのウェルに加えたり、あるいは存在させることができ、実際のところ、通常は、後続の再スクリーニングプロセスを簡略化するために、当初より各ウェルに単一のクローン(単一のライブラリーのメンバー)だけを擁する分析用プレートを準備することが望ましい。 しかしながら、大規模なスクリーニングの進行を円滑ならしめるために、複数のコロニー(複数の発現ライブラリーのメンバー)を、分析用プレート(またはその他の適切な検定区画)の同じウェルに加えたり、あるいは存在させることができ、そして、複数のライブラリーのメンバーを、分析用プレートの同じウェルで発現させることもできる。 例えば、100個、300個、500個または1000個までのコロニーから得た細菌を、分析用プレートの一つのウェルにプールし、そして、ライブラリーのメンバーを発現するために誘発することができる。 溶解を行った後に、必要に応じて、発現ライブラリーを、本願発明に従ってリガンドと接触させるための準備を行う。 あるいは、好ましくは、コロニーを個別のウェルに置き、そして、同じウェルにライブラリーのメンバーをプールする前に、ライブラリーのメンバーの発現と(必要に応じた)溶解を行うこともできる。 同じウェルに置かれた複数のコロニーを増幅および発現させることで、例えば、優勢なライブラリーのメンバーまたは毒性のライブラリーのメンバーが存在している場合には、不都合な問題を引き起こしかねないので、この対処は好ましい処置であるといえる。
【0111】
同じウェルに複数のコロニーが存在する場合には、好都合なことに、分析用プレート全体またはフィルターの特定の箇所から得たコロニーを、単一のウェルに置くことが望ましい。 例えば、各細菌コロニーを、384-ウェルプレート(例えば、プレートの枚数が、90枚〜100枚にもなると、35,000個〜38,000個のコロニーを収容できる)にて、採取、増殖および誘発(そして、任意の溶解)することができる。 細菌用培地(事後に溶解することが可能な培地)または発現したポリペプチドを有するペリプラズム溶解物の1〜3μlを各ウェルから取得し、これらを、その他のウェルから得た試料と同じ体積でもってして、96-ディープウェルプレートの単一のディープウェルにプールする(プールした体積は768μlとなる)。 他の384-ウェルプレートで、この処理を繰り返すと、最終的に、一つの96-ディープウェルプレートでの分析に供される384×96個(36,864個)のクローンが得られる。
【0112】
実際のところ、本願実施例では、プールした384個のウェルからの単一のポジティブウェルの検出を可能にする手法を紹介している。 加えて、370,000個(384×96×10)にまで拡大した異なるコロニーを、比較的に短期間(1〜2週間)の内に、容易にスクリーニングできる手法についても紹介されている。
【0113】
発現のために細菌コロニーを利用しない本願発明の実施態様、例えば、リボソームまたはコバレントまたは非コバレントのディスプレイライブラリーのようなin vitroディスプレイライブラリーを発現ライブラリーとして用いる場合には、同じ技術思想の適用、つまり、理想的には、個別のクローンとして誘発およびスクリーニングすることができ、または、スクリーニングのために誘発およびプールすることができ、または、スクリーニングのためにプールし、次いで、誘発することができる分析用プレートの単一のウェルに、各ライブラリーのメンバーを存在せしめる点に留意すべきである。
【0114】
スクリーニングに用いる可溶性/不溶性タンパク質を取得するために用いる適切な誘発/発現および溶解の方法は、本願発明で利用するために選択された特定の発現ライブラリーの性質に応じて決定され、また、当業者に周知の事項でもある。 例えば、Relay(商品名)96タンパク質スクリーニングシステム(Invitrogen社)は、30分以内に同じ試料から可溶性タンパク質(および、必要であれば、不溶性タンパク質)を抽出することができるため、96-ウェルまたは384-ウェル形態での利用に特に適している。
【0115】
発現ライブラリーが、一旦は、分析に適した形態、例えば、分析用プレートの複数のウェルに発現ライブラリーが分注され、そして、結合可能な形態でポリペプチドが発現されるに至っておれば、発現ライブラリーのポリペプチドとリガンドとの間の結合を促す好適な条件下で、本願明細書でこれまでに説明してきたようにして、発現ライブラリーと、一つまたは一つ以上のリガンドとを接触せしめる。
【0116】
適切な条件下で、ウェル内の発現ライブラリーと好適なリガンドとを接触させ、そして、本願明細書でこれまでに説明してきたようにして、例えば、磁性体ビーズを用いて、ウェル内の固相にリガンド-発現ライブラリー複合体を固定した後に、潜在的なポジティブを検知するために、レポーター部分のPCRを行うことができる。 一つの96-ウェルプレートでポジティブシグナルが検知されれば、それは、384個のクローンの内の少なくとも一つがポジティブであることを意味する。 これらの(一つの384-ウェルプレートに対応する)クローンは、再度分析(サブスクリーニング)しなくてはならない。 しかしながら、これにより、潜在的なクローンの数を、36,864個から384個にまで減少するに至っている。
【0117】
96-ウェルプレートの各ウェルに10個〜100個のコロニーをプールする本願発明の小規模な方法の概略は、図7に示した通りであり、これにより、1000個〜10,000個のコロニー/96-ウェルプレートのスクリーニングが可能となる。 この特定の実施例(この方法を汎用化することは可能である)によれば、scFv誘発/溶解培地は等張状態となり、そして、50,000個の癌細胞/ウェルが接種された96-ウェルプレートに移される。 これら細胞は、4℃で、1時間かけて、scFvでコーティングされる。 抗体をコーティングした磁性体ビーズ、すなわち、scFvタグに対するビーズが加えられ、そして、ビーズ-細胞の複合体は単離される。 細胞に結合する抗体が存在しておれば、対応する癌細胞が単離され、そして、PCRによって検出される。 このようにして、ポジティブなPCRシグナルは、さらに別の検査に供されるscFv候補物(10個〜100個)の小集団を同定する。 後に詳述する通り、スクリーニングを必要とするコロニーの数(すなわち、スクリーニングしようとする発現ライブラリーの大きさ)に基づいて、また、任意に、発現ライブラリーに含まれているであろうポジティブの見込値に基づいて、本願発明の方法の規模を適切に選択することができる。
【0118】
本願発明のさらに他の態様によれば、一つまたは一つ以上のリガンドに関する結合パートナー候補である一つまたは一つ以上のメンバーを同定および/または選択するために、分子ライブラリーをスクリーニングする方法であって、以下の工程、すなわち;
(i) 発現ライブラリーのメンバーを発現することができる幾つかの細菌クローンをプールし、または、分析用プレートの単一ウェル(または、その他の好適な検定区画)において幾つかの細菌クローンによって生産された発現ライブラリーの幾つかのメンバーをプールし;
(ii) 工程(i)で幾つかの細菌クローンがプールされておれば、前記発現ライブラリーのメンバーの発現に向けて当該細菌クローンを誘発し;
(iii) 前記発現ライブラリーのメンバーと、一つまたは一つ以上のリガンドとを接触させ;
(iv) 発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーがリガンドに結合しているポジティブの分析用ウェル(または、その他の好適な検定区画)を決定し;
(v) 必要に応じて、当該ポジティブの分析用ウェルに存在するクローンの選択的増幅を行い、そして、工程(iii)および(iv)を反復し;
(vi) 前記リガンドに関する結合パートナーを発現する一つまたは一つ以上の細菌クローンを同定する、工程を含む方法が提供される。
【0119】
これらスクリーニング法(クロススクリーニング法とも称される)は、ポジティブクローンを低率でしか含有していないライブラリーのスクリーニングに特に適している。 以下に詳述するように、これらプール処理(「集約」とも称される)や選択的増幅法は、200万個の細菌クローンや、その10倍量のクローンをスクリーニングする上で好都合に利用することができる。
【0120】
これら方法で用いる発現ライブラリーとして、本明細書に記載のいずれのタンパク質発現ライブラリーでも利用可能である。 発現ライブラリーとして、抗体発現ライブラリーが好ましく、また、scFvライブラリーがさらに好ましい。 本願発明の方法でのこの態様にあっては、好ましくは、すでに発現しているライブラリーのメンバーをプール(集約)する。
【0121】
決定の(決定する)工程は、好ましくは、上述した本願発明の方法の工程(b)および工程(c)、すなわち、発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーが結合したリガンドを固相に固定し、そして、リガンドの存在を検出することによって実施することができ、そうすることにより、それらリガンドについての結合パートナー候補である発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーの存在が検出される。 つまり、この方法は、前述した工程(a)〜工程(c)に記載のスクリーニング法(すなわち、AffiSelect法)が実施可能であることを実証する事例であるといえる。 前述した工程(b)および工程(c)を利用するのであれば、これら工程を実施するにあたって好適なすべての態様および詳細事項までをも、細菌コロニーまたは発現ライブラリーのメンバーのプール処理を利用する上記スクリーニング法に対しても等しく適用される。
【0122】
このスクリーニング法とは、固相での固定とリガンドの検出とが関係する前述した工程(a)〜工程(c)によって規定されるスクリーニング法だけに限定されるものではなく、可溶性ポリペプチドを発現する幾つかの細菌コロニーをスクリーニングするための一般的な方法にまで及ぶ。 よって、前記した決定工程は、発現ライブラリーのメンバーとリガンドとの結合を決定するための好適な方法、例えば、Biacore、ELISA、(8200系検出システム(Applied Biosystems社)を用いる)FMATなどのその他の分析方法を利用している方法を含むことができる。
【0123】
選択的増幅工程(v)では、通常、ポジティブを示す分析用ウェル(コンパートメント)内のクローンを、やや集約した(プール規模の小さい)形態、例えば、分析用ウェル(コンパートメント)の数を増大した形態へと移行させるプレートの移し替えを行う。 前記した拡大工程によって、好ましくは、各クローンが、単一の分析用ウェル(コンパートメント)内に個別に存在することとなる。 前記した選択的増幅工程は、好都合なことに、ポジティブウェルにあるクローンを当初の(事前プール、事前集約)供給源に戻し、そして、これらクローンを、やや集約した形態へとプレートの移し替えをすることによって行われる。
【0124】
選択的増幅工程(v)(および、工程(iii)および工程(iv)の反復)の回数は、当業者であれば、必要に応じて、容易に決定することができる。 例えば、これら工程は、同定工程(vi)の円滑な進行を促すために、各クローンが、単一の分析用ウェル内に個別に存在するまで行うことができる。
【0125】
この同定工程(vi)は、好都合なことに、ポジティブウェル(例えば、図9Dに記載の交差箇所のウェルを参照されたい)にあるクローンを当初の(事前プール、事前集約)供給源に戻し、そして、本明細書において言及した標準的な方法を用いて、結合パートナーを、核酸レベルおよびタンパク質レベルで同定するために、単一クローンの分析をすることによって行われる。
【0126】
本願発明での本実施態様でのスクリーニング法においてプールおよびスクリーニングされる(または、プールおよびスクリーニングされる発現ライブラリーのメンバーを産生する)細菌クローンは、どのような供給源からも取得することができるが、好都合なことに、それらは、細菌の集密層の一部として、あるいは、プレートまたはフィルターでの個別の細菌のコロニーとして、当初から存在している。 あるいは、スクリーニングするコロニーの数が比較的に小さい場合には、これらコロニーを、好適な分析用プレートの個別のウェルに存在せしめることができる。 クローンが、集密層、またはプレートまたはフィルターでの個別のコロニーとして増殖する場合には、好都合なことに、このスクリーニング法で試験されるクローンは、適切なロボット技術(例えば、Qpix)または手作業によって回収することができる。
【0127】
一例として、細菌の集密層を用いる場合には、自動回収ヘッドの各ピンは、5個〜50個のコロニーを回収し、そして、好適な分析用プレート、例えば、96-ウェル分析用プレートまたは384-ウェル分析用プレートの単一ウェルに移すことができる。 384-ウェルプレートの単一ウェルにクローンを移して、それを増幅することによって、その384-ウェルプレートにおいて、3,800個〜19,000個のクローンを同時にスクリーニングすることが可能となる。 例えば、100枚〜200枚の384-ウェルプレートを用いることで、400万個までのクローンをスクリーニングすることが可能となる。
【0128】
これら384-ウェルプレートを、細菌コロニーの表面として使用することで、単一の384-ウェルプレートの各ウェルから得たコロニーを、96-ウェルプレートの一つの単一ウェルにプールして、1個〜2個の単一の96-ディープウェルプレートに、これらクローンをプール(集約)することによって(図8)、本願発明の方法の工程(i)を行うことができる。 次に、本願発明の方法の工程(ii)〜工程(vi)を実施することができる。 本願発明の方法の工程(iv)で決定されたポジティブウェルは、19,000個までのクローンまたはある特定の一枚の384-ウェルプレートに対応する。 この特定の384-ウェルプレートは、((本実施例での選択的増幅工程である)縦列および横列の選択的集約を行うことで)図9Gに記載されたようにしてクロススクリーニングすることができ、そして、(交差箇所にある6個のウェルの再スクリーニングを必要とする)本願方法発明の工程(iii)および工程(iv)を実施することによってサブスクリーニングを行う。 384-ウェルプレートの単一ウェルを同定した後もなお、50個までのクローンをスクリーニングしなければならない。 スクリーニングの最終段階では、ウェル内のすべての細菌を排出し、そして、個別に回収したコロニーのサブスクリーニングを改めて実施することができる。 1×106個のクローンをスクリーニングするために要する時間は、約1〜2週間である。
【0129】
このスクリーニング法を実施する上で最も効率的な方法を決定するために、好ましくは、ポジティブクローンの存在率を評価するためのプレスクリーニング工程を実施する。 この評価作業は、どのような方法によっても実施できる。 しかしながら、好都合なことに、無作為に選択したクローン、例えば、10個、100個または100,000個までのクローンを一つの分析用ウェル内にプールし、そして、ヒット率を予測するために、(本明細書に記載の)AffiSelect法を実施することで、この評価作業を行うことができる。
【0130】
ポジティブの存在率が、0.0001%(または、1個のクローン/1,000,000個のコロニー〜1×106個のコロニー)、または、それ以下の場合には、本明細書(図8)に記載したようにして、各プレートの各ウェルから得た384個の全試料をプールすることが好ましい。 例えば、細菌の集密層から100万個〜200万個のクローンが採取され、そして、384-ウェルプレート(100×384プレートの各ウェルには、約50個の細菌が含まれている)において誘発される。 次いで、各384-プレートは、ディープウェルプレートの一つのウェルに集約され、そして、磁性体ビーズとPCRを用いて標的に対する分析が行われる。 ポジティブ部分(約20,000個のクローンを含んでいる部分)を再度復元し、次いで、個別に排出とスクリーニングをすることができる50個のクローンの単一ウェルを均等に同定するために、二つの横列と三つの縦列(再スクリーニングを必要とする6個の交差箇所)をプールして、図9Gに関する記載に従ってサブクローニングを行う。
【0131】
ポジティブ率が、0.01%〜0.1%(または、それ以下)の場合には、理想的には、幾つかの384-プレートをスクリーニングし、図9Gに関する記載に従って横二列と縦三列をプールする。
【0132】
ポジティブ率が、0.1%〜3%の場合には、横列と縦列(16列+24列)の各列をプールして、384-プレートの全体をスクリーニングすることが賢明である。 この場合、再スクリーニングは不要である。 しかしながら、384-プレートが、106個のクローンについての大規模スクリーニングに由来している場合には、384-プレートの各ウェルには、複数個のコロニーが含まれているので、単一クローンを同定するために、改めて培養を行う必要がある。
【0133】
ポジティブ率が、0.5%〜3%の場合には、(図9のパネル(A)〜(C)に記載されているようにして)96-ウェルプレートの横列と縦列をすべてプールして、20箇所の分析を行う手法が好都合な対処法といえる。
【0134】
ポジティブ率が、2%〜10%の場合には、図9のパネル(F)に記載されているようにして、ある特定の箇所についてスクリーニングを行うことが望ましい。 例えば、一つのスクリーニング用の96-ウェルプレートを、その各々が、七つの横列と縦列をカバーしている八つの箇所に分割して、試験に供する候補物の数を56にまで絞り込む。
【0135】
ポジティブ率が、10%を超える場合には、クローンの集約を行わずに、すべてのクローンを個別にスクリーニングすべきである。
【0136】
上記したように、接触工程および決定工程の好ましい実施方法は、本願明細書においてこれまでに説明したものと基本的には同じである。 例えば、真核細胞または抗原(リガンド)を、発現したscFvおよび細菌用培地に分泌されたscFvで(1〜2時間かけて)コーティングされる。 このリガンド(細胞またはDNAで標識付けされた抗原)は洗浄され、そして、scFv(二次抗体)に発現したcMyc-タグに対する抗体が添加される。 タグに対する抗体(cMyc)を具備した磁性体ビーズを用いることで、標的物に対してscFvが結合する場合についてのみ、磁性体ビーズで単離および精製されたリガンド(真核細胞またはDNAで標識付けされた抗原)とscFvとの複合体が形成される。 標的物に対してscFvが結合しない場合には、いなかる複合体も単離されず、また、PCRもネガティブな結果を示すであろう。 しかしながら、洗浄しても除去されない単一のポジティブscFv(20,000個までのその他のscFv)が存在する場合には、scFv-標的物の複合体に関するPCRは、ポジティブの増幅結果をもたらすDNAを示すであろう。 真核細胞のハウスホールド遺伝子のPCRは、抗原に結合するscFvを発現しているウェルに抗体が存在していることを指し示すレポーターである。 一つの96-ウェルプレートでポジティブシグナルが検知されれば、それは、384個のクローンの内の少なくとも一つがポジティブであることを意味する。 これらの(一つの384-ウェルプレートに対応する)クローンは、再度分析(サブスクリーニング)しなくてはならない。
【0137】
本願発明を、図面を参照しつつ、以下の実施例に沿って詳細に説明するが、本願発明は、これら開示に基づいて限定的に解釈されるべきではない。
【実施例】
【0138】
実施例1:
免疫磁性体分離法と真核細胞のレポーター遺伝子のPCRとを使用したモノクローナル抗体、scFv、および真核細胞リガンドの表面エピトープに結合するファージ(ライブラリーのメンバー)の固定および検出。
【0139】
要 約
本実施例は、選択プロセスと検出プロセスを例示するものである。 A-549真核細胞(ATCC CCL-185;Viventia社からの贈与物)またはPM-1真核細胞(ザ ノルウェジアン ラジウム病院からの贈与物)(細胞表面リガンドを具備している細胞)は、モノクローナル抗体、scFv、またはファージ(アフィニティーメンバー)のいずれかでコーティングされていた。 このアフィニティーメンバーが細胞表面リガンドに結合していると、このアフィニティーメンバーによって結合部分を調製することができ、これにより、アフィニティーメンバーと結合したリガンドの固定と検出が容易となる。 このことは、試験を行ったすべてのアフィニティーメンバーにおいて認められた。
【0140】
物質および方法
38kDaのトランスメンブランEGP-2上皮細胞接着分子に結合するマウスMoc-31抗体(De Leij, L., Helfrich, W., Stein, R., and Mattes, M. J. (1994) SCLC-cluster-2 antibodies detect the pancarcinoma/epithelial glycoprotein EGP-2. Int. J. Cancer Suppl., 8, pp.60-63.)は、ザ ノルウェジアン ラジウム病院からの贈与物である。 マウス抗-ヒトHLA-ABC(MHCクラスI)は、Dako社から購入し、また、プロテイナーゼK、BSA(画分V)、Tween 20およびNP-40は、Sigma社から購入した。 プロテイナーゼKストック溶液は、1.5mM CaCl2を20mg/mlの濃度になるまで添加した50 mM Tris-HCl pH 8.0を用いて調製し、そして、それらを−20℃で貯蔵した。 すべての溶液に対して滅菌ミリQ精製水を使用し、また、オートクレープ処理または濾過処理(0.22μm)のいずれかで、すべての溶液を殺菌した。
【0141】
真核細胞であるヒト乳癌細胞系PM-1を、ビュルカーの血球計数器で計数を行い、そして、3%BSAを含むPBSで、3.2×106細胞/mlに調整した。 細胞を、3%BSAで洗浄し、そして、その個々のウェルに50,000個〜100,000個のPM-1細胞を収容しているグレイナーの96-ウェル U-プレートを用いて、5分間、400〜500×gで遠心分離した。 次いで、PBS/3%BSAに含まれている(細胞エピトープに結合している)一次抗体を、細胞(100μlの体積)に対して加えて、沈降を避けるために280rpmで遠心分離しながら、ハイドルフユニマックス1010プレートシェーカーを用いて、4℃で、60分間かけてインキュベーションした。 そして、細胞を、200μlのPBS /3%BSAで、二度の洗浄を行った。 一次抗体も、タグを有する抗体(例えば、cMycタグおよびHis6タグを具備したscFv抗体)である場合には、二次抗体は、PBS/3%BSAで希釈され、そして、細胞に対して加えられ、次いで、前述したようにして、さらに60分間かけてインキュベーションされる(例えば、マウス抗-cmyc(Invitrogen社、1:500)やマウス抗-His(Invitrogen社、1:500)などがある)。
【0142】
細胞表面エピトープ(A-549細胞)に対して異なるscFv抗体を示すM13ファージを用いて細胞がインキュベーションされている場合、その結合部分は、マウス抗gp8抗体であった。 これら抗体は、ファージ表面のM13ファージgp8タンパク質に結合する。 一次抗体および/または二次抗体を添加し、そして、3%PBS/BSAで細胞を二度にわたって洗浄をした後に、パンマウスIgGでコーティングした常磁性体ダイナルビーズM-450ビーズ(500,000個)(Dynal Biotech社、オスロ)を加え、そして、プレートシェーカー(400rpm、4℃)にて、20〜30分間かけてインキュベーションした。 その表面にアフィニティーメンバーを具備しているリガンド/細胞を、磁性体分離法を用いて、ダイナルビーズに固定し、そして、PBS/BSAで三度の洗浄を行って、非結合性リガンドを除去した。 プロテイナーゼK溶解緩衝液(30μl)を、0.45%(v/v)のNP-40、0.45%(v/v)のTween 20および200μg/mlのプロテイナーゼKを加えた、1×ダイナザイムII PCR反応用緩衝液(10mM Tris-HCl pH 8.8、1.5mM MgCl2、50mM KClおよび0.15 Triton X-100)から調製された)細胞-ビーズのローゼットに導入した。 これら試料は、55℃で、少なくとも60分間はインキュベーションを行うが、通常は、エッペンドルフマスターサイクラー勾配PCR装置に装着される(エッペンドルフの「穴あき軽量」ホイルで)密閉された96-ウェルPCRプレートで、55℃で、一晩かけてインキュベーションし、次いで、酵素を失活させるために、95℃で、30分間かけてインキュベーションした。
【0143】
PM-1細胞の検出を介してリガンドを検出するために、PCRを行った。 真核細胞内部のハウスホールドβ-アクチン遺伝子の短い領域(〜400bp)を増幅するためのプライマー、すなわち、β-アクトセンス、caagagatggccacggctgct、および、β-アクトアンチセンス、tccttctgcatcctgtcggcaは、MWG Biotech社から購入した。 ダイナザイムIIポリメラーゼ(0.8U/反応、Finnzymes社)を、その10倍量の緩衝液と一緒に使用した。 通常は、30μlの反応液に対して200μMのdNTPミックス(Fermentas社)および77μMのプライマーを用いて、反応ごとに、5μlのテンプレート(プロテイナーゼKで処理した細胞)を利用した。 標準的なTaqポリメラーゼPCRプログラム、すなわち、最初に、94℃で、5分間、次いで、94℃(1分)、66℃(1分)および72℃(1分)からなるサイクルを35サイクル、そして、最後に、72℃(5分)および4℃(保存)というプログラムを、(前述した)PCR装置において実行した。 得られた産物を、2%アガロースゲルに試料を適用する電気泳動を用いて分析した。
【0144】
結果/考察
PM-1細胞を、Moc-31抗体または抗ヒトHLA-ABCのいずれかでコーティングした。 図1は、異なる量のMoc31 IgG抗体でコーティングされたPM-1細胞を示している。 細胞に対して添加するIgGの量を0.1ngにまで低減してもなお、シグナル(400bpでのPCRバンド)が認められている。 これは、40pgのscFv抗体、または、0.8μg/lの濃度の大腸菌発現培養物から得た50μlに相当する。 また、これは、16,000個のMoc31分子/PM-1細胞の密度に等しい。 関連するHLA-ABC実験から得たデータを記録したところ、同じ結果が得られた(結果を示さず)。 これらの実験は、(アフィニティーメンバーを模倣する)IgG結合箇所を間接的に検出する目的でPCRを利用するにあたって、細胞を抗体でコーティングすることが可能であることを如実に示している。 細胞とビーズとが結合さえしておれば、細胞を単離すること、そして、その存在をPCRを用いて検出することが可能となるのである。
【0145】
細菌発現用培地にて抗体で真核細胞のPM-1細胞をコーティングすることの可否を試験するために、その他の試験も実施した。 細菌発現用培地の使用にあたっては、滅菌水で培地を等張状態にしておく必要がある。 (等張性のPBSは、138mMのNaClを含んでおり、また、LBブロス細菌用発現培地は、高濃度のNaCl(171 mM)を含んでいる)。 PM-1細胞に関して試験したLB発現/培地も、100μMのIPTG、100μg/mlのアンピシリン、および、2mg/mlのリソチームを含んでおり、また、PM-1細胞への添加に先駆けて、0.3(w/v)%のBSA(最終濃度)が添加される。 ゲルで分析を行ったPM-1細胞のPCR産物に関する分析結果は、真核細胞をコーティングするために等張性のLBを用いることが可能であることを如実に示している(図2)。 これによって、多数の細菌クローンを発現プレートから直接的にスクリーニングすることが可能になるので、これは重要である。 ネガティブコントロールでのβ-アクチンPCR産物のレベルが、図1に記載のものよりも高レベルであることは、本実験での1ng以上の良好な検出を困難にしていることに留意されたい。
【0146】
マウスIgG抗体について認められたのと同様の結果が、c-mycタグおよびHis6タグを有するscFv抗体でコーティングされた真核細胞の固定においても認められた(本明細書で結果は示していないが、実施例2において例示してある)。 しかしながら、一次抗体としてのscFv抗体でコーティングした細胞は、c-mycタグおよびHisタグに結合するために、細胞に対するマウスIgG二次抗体の添加を必要としていた。 こうすることで、コーティングした細胞を固定するにあたって、パンマウスIgGでコーティングした磁性体ビーズを引き続き使用することができる。
【0147】
加えて、細胞表面エピトープ(A-549細胞)に対して異なるscFv抗体を示すM13ファージで真核細胞をコーティングすることも可能となった。 この実験では、A-549細胞は、まずM13ファージで覆われ、そして、洗浄してから、マウス抗体gp8抗体が加えられている。 これら抗体は、ファージの表面にあるM13ファージgp8タンパク質に結合している。 このA-549-ファージ-抗体の複合体は、改めて洗浄がされてから、ダイナビーズM-450パンマウスIgGを用いて、ファージ- 抗体間の結合を介して固定されている。 ここでの検出も、A-549細胞内部のβ-アクチン遺伝子のPCRによるものである(図3)。 一旦、ビーズと細胞との間の結合(ファージ-gp8抗体-パンマウスIgG)が形成されると、PCRによって、A-549細胞の検出ができるようになる。 これら結果は、ここで示した試験に供したscFvを具備しているM13ファージの大半(16個の試料の内の15個)が、A-549細胞に結合していることを示した。
【0148】
結論として、IgG抗体、scFv抗体、およびscFvが結合したバクテリオファージM13などのライブラリーのメンバーを、そこに結合しているリガンドの検出を介して間接的に検出する方法は、首尾良く成功に至った。 検出工程が、リガンド分子(または、少なくともリガンド分子に直接的に結合する物質)に関するものであるので、生物学的ライブラリーのみならず、化学的ライブラリーをも検出することが可能となる。
【0149】
実施例2:
リガンドの最適化のために使用することができる細胞数の減少。
【0150】
要 約
細胞(リガンド)の数を、5,000個/反応にまで低減しても、細胞表面エピトープに結合するscFv抗体抗体を間接的に検出することは可能か。 理論的には、リガンドDNAの単一細胞PCR増幅を行ってもなおバックグラウンドが消失する場合には、異なる二つのPCRを行うことが必要となる。
【0151】
物質および方法
実施例1を参照されたい。
【0152】
通常は、96U-プレートにおいて、1,000個〜100,000個の細胞/ELISAウェルで試験を行った。 5μlの発現scFvを、50μlのコーティング量(3%BSAを含むPBS)にまで希釈したものを用いた。 ビーズの数は、10,000個〜100,000個の細胞については5:1の比率で維持したが、1,000個〜5,000個の細胞については、10:1の比率にまで増やした。
【0153】
結果/考察
AffiSelection法に使用することができるリガンドを発現する細胞の数を減らすことは重要である。 培養による真核細胞の増殖は、時間を要するのみならず、余分な供給源も必要とする。 この技術に利用可能なA-549癌細胞の最少量を突き止めるために、細胞の数を、100,000個から1,000個にまで変化させた。 リガンドを発現する細胞の数を5,000個にまで減少することができ、また、そうしてもなお、scFvでコーティングした細胞が検出されることを、図4は示唆している。
【0154】
このことは、余計な(単一細胞に対する)PCR最適化処理を行わずとも、たった一回のPCR操作でもってして、5,000個の細胞をなおも検出できるなど、非常に経済的な手法であることを指し示すものである。
【0155】
実施例3:
通常の細胞ELISA法とAffiSelect法での検出レベルの比較。
【0156】
要 約
AffiSelect法は、通常の細胞ELISA法と比較して、格段に優れた感度を示した。 通常の細胞ELISA法では検出されなかった幾つかのscFv メンバーは、A-549細胞への結合に関するAffiSelect法で同定された。
【0157】
物質および方法
AffiSelect法の詳細に関する実施例1を参照されたい。
【0158】
細胞-ELISAは、A-549細胞に関する標準的プロトコールを用いて実施した。 96-ウェルマイクロプレートを、4℃で、一晩、PBS/3%BSAを用いてブロックした。 各ウェルに、細胞(200,000個)を加えた。 細胞を再懸濁し、そして、PBS/3%BSAで洗浄(3度)を行い、一次抗体または抗体HLA ABC(MHCクラスI)IgGと共にインキュベーションし、次いで、プレートシェーカー(280rpm)にて、4℃で、60分間、インキュベーションを行い、PBS/3%BSAで洗浄し、そして、抗-cmyc(1:4000)を加え、次いで、4℃(280rpm)で、さらに60分間、インキュベーションした。 PBS/3%BSAで(4℃で、その100μlで3度)洗浄を行った後に、細胞を、4℃(280rpm)で、60分間、3%BSAを含むPBSで希釈した抗マウスIgG-西洋ワサビペルオキシダーゼで再懸濁した。 前述したようにして再度の洗浄を行った後に、最後に、TMB基質溶液(100μl)を加え、そして、室温で、15分間、インキュベーションを行った。 上清(75μl)を除去してから、450nmにて分析を行った。
【0159】
結果/考察
図5では、細胞ELISAで得られるシグナルと、AffiSelectで得られるシグナルとを比較している。 主要な相違点として、直接的にリガンド表面のアフィニティーメンバーを細胞ELISAが検出するのに対して、アフィニティー精製工程を終えた後に、リガンド(細胞)だけをAffiSelectが検出する点が挙げられる。 バックグラウンドよりも十分に鮮明なシグナルを得るために必要とされる細胞ELISAでの細胞数(200,000個)は、AffiSelectで必要とされる細胞数(100,000個)よりも多くならざるを得ない。 そして、AffiSelectで得られるシグナルの強度は大きく、また、鮮明である。
【0160】
実施例4:
小規模ライブラリーのスクリーニングを刺激することで、細菌において発現した微量のscFv抗体は、A-549細胞への結合を介して検出することができる。
【0161】
要 約
本実施例では、希釈した試料に関する選択プロセスと検出プロセスを例示している。 真核細胞であるA-549細胞を回収し、そして、ポジティブコントロールscFv:ネガティブコントロールscFv=1:384の比率で、スパイク処理したポジティブコントロールscFvと共にインキュベーションした。 ビーズ:細胞=20:1または30:1という異なる比率を用いたところ、β-アクチン遺伝子由来のDNAについて良好なPCRシグナルを得ることが可能となり、これらが、多数のA-549細胞に対応しているものであり、また、細胞表面エピトープにscFvが結合していることが改めて示された。
【0162】
物質および方法
実施例1を参照されたい。 しかしながら、実施例1に記載の方法と実施例4に記載の方法との間の相違点は、本実施例では、大規模のスクリーニングが可能なことにある。 つまり、96-Uウェルプレートに代えて、10ml容のプラスチック管を用いて、1mlのインキュベーション体積(細胞+モノクローナル抗体/scFv抗体)および0.5ml〜1mlの固定体積(細胞+ビーズ)とし、そして、4℃で、1時間(固定工程の場合は30分間)かけて混合し、また、インキュベーション期間を通じて、緩慢に傾斜させながら回転(ロックンロール)させることを意味する。 また、すべての工程において、多量(1ml〜2.5ml)の洗浄液を用いた。 インキュベーション体積を大きくした場合、試料をプールすることによって、幾分大きなクローンに対するスクリーニングの実施が円滑になる。 一つのプラスチック管当たりのA-549細胞(リガンド)の数は、100,000個を維持し、そして、異なる量のビーズを加えた(10倍過剰量〜30倍過剰量のビーズ)。
【0163】
結果および考察
scFv抗体、すなわち、A-549細胞の表面マーカーに結合するscFv抗体を、非結合性scFv抗体PhOxで1:384の比率に希釈し、そして、A-549細胞と共にインキュベーションした。 この比率は、384-プレートでの383個のネガティブウェルの一つから一つのポジティブクローンを拾い出す確率に相当する。 この比率は、低頻度のポジティブ率(例えば、1,000個または10,000個に一つ)で行われる多数のクローン(40,000個のクローン=105×384-ウェルプレート)に対するスクリーニングを刺激する上で重要である。 個別のウェルに対するスクリーニングに代えて、リガンドの精製方法を用いることで、単一の管に384-プレートの全ウェルをプールすることが可能となるのみならず、同時に幾つかのクローンを迅速にスクリーニングすることも可能となる。 リガンドに対してアフィニティーを示さない抗体を(先の実施例に記載したようにして)洗浄して除去し、そして、リガンドに結合するポジティブ抗体だけが存在しておれば、リガンドとビーズとの間の連関性、すなわち、精製を促す連関性が形成されることとなる。
【0164】
ビーズ:細胞の異なる比率を用いた。 10:1の比率では、細胞に結合するscFvを間接的に検出することはできなかった(図6、0.5mlおよび1mlのスパイク液)。 しかしながら、20:1および30:1の比率では、スパイク処理した試料に対して良好なPCRシグナルが認められた。 ネガティブコントロールscFv PhOxについて記録された同様のバックグラウンド結合は、非常に小さなものでしかなかった。 ネガティブスクリーニングコントロールであるLBとBSAに加えて、すべてのポジティブスクリーニングコントロール(未希釈のscFv抗体、MHCおよびポジティブPCRコントロール(+))も正常であった(図6)。 このことは、希釈したscFv抗体であっても、良好なPCRシグナルを認めることができることを示唆している。 このことは、実施例1に記載の結果に沿ったものとなっている。
【0165】
癌細胞表面のエピトープの数に対するscFv抗体の検出限界は、表1を用いて比較することができる。 非常に低濃度のscFvタンパク質を含む発現培養物由来の50μlであっても、scFv:50,000個の癌細胞での発現性に乏しい表面エピトープ(1,000個のエピトープ/細胞)が、200:1の過剰モル数で存在していても試験することができる。 したがって、この方法は、僅かしか発現されていないリガンドエピトープ(1,000個にも満たない)分子に関するライブラリーのメンバーの単離に非常に適しているといえる。 わずか一つの細胞でも検出できる可能性があるので、このようなクローンを拾い出す性質は、理想的であるといえる。
【0166】
【表1】
実施例5:
肺癌細胞系に対する拡大したヒト抗体ライブラリーに関与するファージディスプレイに由来する標的scFvクローンを取得するためのAffiSelect法の使用。
【0167】
要 約
ヒト抗体ファージライブラリーを、独自のC.B.A.S.パンニング処理技術に従って、肺癌細胞系に関する潜在的な表面抗原に対してパンニング処理した。 癌細胞系に対する個々のscFvクローンを、癌細胞系のPCRパターンとHUVECとPBLの二つのネガティブ細胞系でのPCRパターンとを比較することで、scFvクローンに富んだファージディスプレイより単離されたポリクローナル混合物(「ライブラリー」)から同定した。 ここで同定されたポジティブクローンを、FACSを用いて検証した。 そして、標的の細胞表面エピトープに結合する各クローンの同定に際して、拡大した抗体ライブラリーをスクリーニングするために、AffiSelect法が使用できることが示された。
【0168】
物質および方法
細 胞
肺癌細胞系(A-549、ATCC CCL-185;Viventia社からの贈与物)および内皮細胞系(HUVEC、ATCC CRL-1730;Viventia社からの贈与物)を、パンニング実験とスクリーニング実験に用いた。 A-549を、10%FCSと2mMグルタミンを補充したハムのF12(Bio Whittaker社)で培養し、同様に、内皮細胞系は、10%FCS、15 mg/1の内皮成長因子補給剤(Sigma社)、および50mg/1のヘパリン(Sigma社)を補充したRPMI-1640培地で培養した。 培養は、37℃で、5%二酸化炭素と湿潤雰囲気を維持しながら行った。 その前後にPBSによる洗浄工程を行いつつも、1mMのEDTAを含むPBSで細胞を回収し、そして、ビュルカーの血球計数器で計数を行った。 末梢血リンパ球(PBL)を、新鮮なヒトの血液またはリンホプレップ(Axis-Shield)を含むバフィーコートから単離した。 これら細胞は、3%BSA(Sigma社)を加えたPBSまたは4%スキムミルク(Merck社)を加えたPBSのいずれかで再懸濁した。
【0169】
レクチンをコーティングした磁性体ビーズ
製造業者の指示に従って、レクチン(WGA:小麦麦芽、小麦胚芽;Calbiochem社)を、M-450エポキシビーズ(ダイナル)に固定した。 このダイナルビーズを洗浄してから、0.1Mのホウ酸緩衝液、pH 8.5に移して、lOμgのレクチン/107個のビーズと共に、室温下で、一晩かけて、緩慢に傾斜させながら回転させてインキュベーションを行った。 次いで、PBS/0.1%BSAでこれらの洗浄を三度行い、そして、4×108個のビーズ/mlの濃度で、4℃で、PBS/0.1%BSA/0.02%アジ化ナトリウムにて保存した。
【0170】
ファージscFvディスプレイの拡張
六名の健常者から得たPBLから構築され、かつpSEX 81(Welschof et al., 1997, PNAS 94: pp.1902-1907, Loset, et al., 2O05, J. Immunol. Methods 299: pp.47-62)に基づいたファージミドディスプレイシステムにクローニングしたIgMのscFvライブラリーを、パンニング実験に用いた。
【0171】
3.75×1012個のファージ(2.5×1013cfu/mlの濃度の150μlのライブラリー)を、プレブロックした試験管(3%BSAまたは4%ミルクを含むPBS)内で、2×105個〜2×106個/mlの非腫瘍細胞と共にインキュベーションし、4℃で、1時間かけて回転させる(すなわち、ネガティブプレパンニング処理する)ことで、共通の細胞タンパク質に結合するファージを除去した。
【0172】
二つのネガティブプレパンニング工程を、交互に実施した。 最初に、このライブラリーを、PBL細胞を用いてインキュベーションし、次いで、パンニング処理を終えた後に、ブロック溶液でPBLの洗浄を二度行った。 次に、このプレパンニング処理したファージライブラリーと二つの洗浄済上清とを、プレブロックした試験管にてHUVEC細胞と共に、4℃で、1〜2時間かけて回転させてインキュベーションした。 第二のネガティブプレパンニング処理物の洗浄を二度行った後に、この上清と洗浄済の上清とを、前述したように(パンニング処理)して、標的肺腫瘍細胞と共にインキュベーションした。
【0173】
細胞に結合したファージと遊離ファージとを分離するために、以下の洗浄工程を続けて実施した。 有機相分離を行う以前に一回または二回の洗浄を行うBRASIL法(Giordano et al., 2001, Nature Med. 11; pp.1249-1253)に従った有機相分離法の変法、または、レクチンでコーティングした磁性体ビーズのいずれかによる方法がある。 BRASIL法の変法の場合では、300μlのPBS/0.4%BSAでそれを再懸濁させる以前に、パンニング処理を行った2×l50μlの腫瘍細胞懸濁液を、1mlのPBS/0.4%BSAでもってして、一度または二度の洗浄を行った。 次に、これら細胞(2×150μl)の層を、2×300μlの有機相溶液(フタル酸ジブチル:シクロヘキサン 9:1[v:v];d=1.03g ml-1)の頂面に形成し、次いで、室温(RT)下、10,000rpmで、10分間かけて遠心分離した。 その底部を切り欠いた試験管を液体窒素で急速凍結させ、次いで、その他の(ブロック処理した)試験管に細胞ペレットを移した。 磁性体ビーズの洗浄にあっては、パンニング処理を終えた腫瘍細胞を、スピンダウンし(500×g、5分間、4℃)、5×lO6個の細胞/mlの濃度でPBS/0.1%BSAで再懸濁し、そして、レクチンをコーティングしたビーズ(1:4の細胞:ビーズの比率)と共に、4℃で、20分間、回転させながらインキュベーションした。 これらビーズを、磁石を用いて、1mlのPBS/0.1%BSAで洗浄を10度行い、そして、200μlのPBS/0.1%BSAに再懸濁した。
【0174】
感染させるために、細胞ペレットまたはビーズを、対数増殖期にある10mlの大腸菌XL1ブルーに添加し、そして、37℃、60rpmで、15分間かけて遠心分離し、次いで、200rpmで、45分間かけて遠心分離を行った。 評価を行うために、小さなLB-TAGプレート(100μg/mlのアンピシリン、30μg/mlのテトラサイクリン、100mMのグルコースを加えたLB)に細菌を異なる濃度で置き、また、同様の大きさの二つの矩形のプレート(243×243×18mm;Nunc社)にも置いて、以後の細菌の取り込みに備えた。 すべてのプレートを、37℃で、一晩かけてインキュベーションした。
【0175】
二つの大きなプレートを掻爬して細菌を回収した。 これら細菌を液体培養によって増殖させ、そして、これら細胞のファージミドを、M13ヘルパーファージ(Stratagne社)を有するファージ粒子に、30℃で、一晩かけて取り込んだ。 翌日に、PEG/NaClを用いて、これらファージを沈降させ、そして、1mlのPBSに再懸濁させ、そのlOOμlのファージ(約1013cfu)を新たなパンニング処理において用いた。
【0176】
ポリクローナルファージELISA
腫瘍細胞およびPBL細胞を、プレブロッキング(PBS/3%BSA)ELISAウェルでの各パンニング処理物から得たlOOμlのファージ(1:10〜1:106希釈液)を用いて、4℃で、1時間かけてインキュベーションした。 次いで、これら細胞を、lOOμlのウサギ抗Fd(Sigma社;1:4000)抗体を用いて、4℃で、1時間かけてインキュベーションした。 ELISAによって、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRO)複合ヤギ抗ウサギIgG抗体(Dako社;1:4000)およびABTS基質(Calbiochem社)がもたらされた。 405nmでの吸光度を測定した。 各インキュベーション工程の間に、PBSでの洗浄を三度行った。
【0177】
大腸菌でのscFvの発現と精製
腫瘍に対して特異的な結合の増大が認められるパンニング処理(ポリクローナルファージELISA)は、分泌ベクターpHOG21に対するクローニング法(Kipriyanov et al., 1997, J. Immunol. Methods, 2O0: pp.67-77)の候補である。 これらscFv DNAのポリクローナル集団で、コンピテントXL-1ブルー大腸菌細胞を形質転換した後に、22cm×22cmのLB-TAGバイオアッセイ用トレイ(Corning社)に移した。 そうして得られた各クローンを、QPix2ロボット(Genetix社、英国)を用いて、4%までのグリセロールが補充されたLB-TAG成長培地[100μg/mlのアンピシリン(A)、30μg/mlのテトラサイクリン(T)、1%(w/v)のグルコース(G)]を含む384-ウェルプレートに移し、そして、37℃で、一晩かけて増殖させた。 発現用のLB-TAG培地を、384-ウェルプレート[グリセロールを含むLB-TAG]から取り出し、そして、前述した手法(Dorsam et al., 1997, FEBS Letters, 414:pp.7-13)に従った発現、あるいは、96-ディープウェル(100〜200μl)を用いた発現を実施した。 LB-TAにおいて、100μMのIPTG(Sigma社)を用いて、30℃で、一晩かけて発現を行った。 細菌細胞の懸濁液に対してPBS/3%BSAを加え、そして、−20℃で凍結させて保存した。 それを改めて解凍してから、4℃、4000rpmで、10分間かけて遠心分離を行い、そして、(発現したscFvを含む)上清を後続の実験に用いた。
【0178】
AffSelect法
実施例1を参照されたい。
【0179】
しかしながら、この実験では、AffiSelect法を用いて、腫瘍細胞(A-549)、PBLおよびHUVECに関して、96ディープウェルscFv発現物の5μlの画分についての試験を行った。 そのために、2.2×104個の細胞をペレット化(1600rpm、4℃、5分)して、そして、5μlの発現試料と4〜5μlのPBS/3%BSAと共に、4℃で、1時間かけて震盪しながらインキュベーションをした。 これら細胞を、150μlのPBS/3%BSAで洗浄し、次いで、遠心分離(1600rpm、4℃、5分)を行った。 ペレットに50μlの抗c-myc抗体(Invitrogen社;1:500)を加えた後に、それらプレートを、4℃で、さらに1時間かけて震盪しながらインキュベーションをした。
【0180】
細胞の洗浄を、上記したようにして二度行い、そして、5×lO6個のビーズ/mlの25μlのM-450パンマウスIgGビーズ(ダイナル)懸濁液(細胞:ビーズの比率=1:5)と共に、4℃で、1時間かけて震盪しながらインキュベーションをした。 磁石下で100μlのPBS/3%BSAでビーズの洗浄を二度行った後に、それらをlOOμlのPBSで再懸濁して、次いで、PCRプレートに移した。
【0181】
これらビーズ試料を、プロテイナーゼK(200μg/ml)、0.45%のTween 20および0.45%のNP40を含む30μlのPCR緩衝液にて、55℃で、一晩かけてインキュベーションし、次いで、使用時まで、−20℃で保存した。 プロテイナーゼKを、95℃で、30分間かけて加熱して不活性化した後に、試料を磁石上に置き、そして、5μlの懸濁液を、ヒトのβ-アクチンに特異的なプライマーを利用するPCRに適用した。
【0182】
PCR条件は、実施例1に記載の通りである。
【0183】
FACS
1〜5×105個の細胞を、50μlのscFvディープウェル発現を用いて、4℃で、1時間かけて染色した。 150μlのPBSで三度の洗浄と遠心分離(1600rpm、5分間、4℃)を行った後に、これら細胞を、50μlのFITCが結合した抗-c-myc抗体(Invitrogen社;1:30)を用いて、4℃で、1時間かけてインキュベーションした。 細胞の洗浄を、上記したようにして三度行い、そして、細胞を、200μlのPBS/1〜2%ホルマリン(Sigma社)で固定し、次いで、FACS装置(Coulter社)での測定に供するまで、4℃で保存した。
【0184】
結果/考察
ポリクローナルファージELISAの結果は、いずれの洗浄方法(ビーズ法またはBRASILの変法)を用いた場合でも、二度のパンニング処理を経ただけで、腫瘍細胞に結合しているファージの増大を示すものであった。 これとは対照的に、BRASILの変法を用いた場合では、三度および四度のパンニング処理を行うことで、ビーズ法と比較しても、ファージの増大が(ファージを希釈した後に)認められた(図10)。
【0185】
二度の洗浄と有機相の遠心分離を行った後に、三度のパンニング処理をして認められたscFv発現のPBL、HUVECおよび腫瘍細胞系A-549に対する特異性をAffiSelect法で試験した(図11)。 図11に記載の結果から明らかなように、腫瘍細胞系に対して試験した八つのscFv発現試料は、PCR増幅したβ-アクチンDNAを示したが、HUVECおよびPBLではかような産物は認められなかった。 このことは、この事例において、試験した八つのscFv試料は、腫瘍細胞系には結合したものの、HUVECまたはPBLに対しては結合しなかったことを示している。
【0186】
FACS測定によって腫瘍細胞系に特異的な結合性を確認した後に(図12に具体的なクローンを示している)、10個の独特な腫瘍細胞系に特異的なクローンが認められた。
【0187】
本実施例は、AffiSelect法が、小規模の抗体ライブラリーから候補物を採取するための感受的方法であることを示している。 FACSによって証明されたAffiSelect法で同定されたポジティブクローンは、この選択方法が、細胞表面エピトープに結合するscFv候補物の回収に非常に適していることを確認している。
【図面の簡単な説明】
【0188】
【図1】PM-1細胞に結合しているマウスIgG Moc31の溶液内での固定と検出。 この図は、Moc31と強化磁性体で細胞をコーティングした後の最終工程でPM-1細胞から得たPCR産物であるβ-アクチン断片の2%アガロースゲル分析を示している。 50,000個のPM-1細胞と3%BSAを含む50μlのPBSを用いて、4℃で、30分間、震盪器に適用して、ビーズ:細胞の比率を、10:1に維持した。
【図2】PM-1細胞に結合しているマウスIgG Moc31のPBS/3%BSAまたは等張状態の細菌発現用培地内での固定と検出。 この図は、図1の説明でも言及した通り、Moc31と強化磁性体で細胞をコーティングした後の最終工程でPM-1細胞から得たPCR産物であるβ-アクチン断片の2%アガロースゲル分析を示している。 Moc31は、3%BSA/PBSまたは発現/溶解用培地(100μMのIPTG、100μg/mlのアンピシリンおよび2mg/mlのリソチームを含み、滅菌水とそこに添加した0.3%BSAで等張状態(〜140mM NaCl)にしたLB培地)のいずれかに添加されている。
【図3】PBS/3%BSA内のA-549細胞の表面エピトープに対する異種のscFvを保有しているM13ファージの固定と検出。 この図は、A-549細胞から得たPCR産物であるβ-アクチン断片のゲル分析(2%アガロース)を示している。 この工程は、M-13ファージと抗gp8抗体(1:1000)を用いたA-549細胞(100,000個)のコーティング処理と洗浄のための連続的処理の後に行う最終工程である。 ポジティブコントロールには、MHCクラスI抗体(MHC Cl.Iポジティブコントロール、1:25)も細胞に添加し、また、抗体を全く添加しなかった(PBS BSAネガティブコントロール)。 ポジティブPCRコントロール(β-アクチン遺伝子)とネガティブPCRコントロール(DNAなし)も用いた。
【図4】細胞表面エピトープに対するscFv抗体を間接的に検出するために用いるA-549細胞の個数下限値。 この図は、A-549細胞から得たPCR産物であるβ-アクチン断片のゲル分析(2%アガロース)を示している。 この工程は、scFvと抗cMyc抗体を用いたA-549細胞(1,000個から100,000個まで)のコーティング処理と洗浄、それに、コーティングしたA-549細胞をパンマウスIgGダイナビーズへの固定を行った後に行う最終工程である。 この実験では、細胞への結合が認められていないPhOx scFvをネガティブコントロールとして用いている。
【図5】AffiSelectを用いた細胞-ELISAの比較。 上方の図(AffiSelect)は、A-549細胞から得たPCR産物であるβ-アクチン断片のゲル分析(2%アガロース)を示している。 この工程は、scFvと抗cMyc抗体を用いたA-549細胞(100,000個)の連続的コーティング処理と洗浄、それに、コーティングしたA-549細胞をパンマウスIgGダイナビーズへの固定を行った後に行う最終工程である。 下方の図(方法)は、同じクローンを用いた細胞-ELISAであるが、細胞の数を200,000個に調整している。
【図6】A-549細胞に結合するスパイクscFv抗体のAffiSelectによる検出。 この図(AffiSelect)は、A-549細胞から得たPCR産物であるβ-アクチン断片のゲル分析(2%アガロース)を示している。 この工程は、scFvと抗-cMyc抗体を用いたA-549細胞(100,000個)のコーティング処理と洗浄のための連続的処理、それに、コーティングしたA-549細胞をパンマウスIgGダイナビーズへの固定を行った後に行う最終工程である。 図に示したように、固定の際のビーズ:細胞の比率は、10:1〜30:1の間で変化させた。 「スパイク」の表示が付いた試料は、1:384の比率のポジティブコントロールscFvA(「A」;2μl)およびネガティブコントロールPhOx(768μl)であり、それらは、等張状態にするために、ミリQウォーターで調整されている。 固定体積(ビーズと細胞の合計体積)も、そこに示してある。
【図7】真核細胞に対するscFvクローンをスクリーニングするための本願発明の方法の概略図である。
【図8】384-ウェルを用いた大量のクローンのクロススクリーニング。 (ポジティブ率が、1/500,000または1/1,000,000と低率であるライブラリー)。 この図は、クローンの選択的集約および拡大を示している。 96×384-プレートから単一の96-ディープウェルプレートへ試料を移すことで、180万個ものクローンを採取することが可能となる。 アッセイプレートでのポジティブウェルは、19,000個までのクローンまたはある特定の384-プレートに対応する。 このプレートは、図9Gについて記載したように(縦列および横列の選択的集約を)して、クロススクリーニングしなければならない。 384-プレートの単一ウェルが同定されてもなお、50個以下のクローンをスクリーニングしなければならない。 スクリーニングの最終段階は、ウェル内のすべての細菌の培養を終えて、個別に採取したコロニーのサブクローニングを行うことで実施される。 106個のクローンをスクリーニングするために要する時間は、約1〜2週間である。
【図9】96-ウェルプレートおよび384-ウェルプレートを利用したクロススクリーニング。 (A)スクリーニング用プレートの横列Aの各ウェルから得た少量(1〜5μl)の試料を、アッセイ用プレートの一つのウェル(A1)にプールする。 (B)横列A-Hのすべてについて、(A)にて言及したようにして、少量の試料をプールする。 スクリーニング用プレートの八つの横列を、アッセイ用プレートの八つのウェルに対応させることができる。 (C)スクリーニング用プレートの12本の異なる縦列を、アッセイ用プレートの12個の個別のウェル(A2-H2およびA3-D3のウェル)にプールする。 (D)スクリーニング用プレートでのクローンの同定に関して、アッセイ用プレートでは、その3番目と6番目の横列で二つのポジティブ位置が出現し、また、11番目の縦列で一つのポジティブ位置が出現しており(すなわち、C1、F1およびC3のウェルがポジティブであったことが示されており)、このことは、スクリーニング用プレートでの(C11とF11のウェルで認められる)二つの真正なポジティブ結果を示すものである。 しかしながら、(E)で示したような複数のポジティブ結果が認められる場合でも、スクリーニング用プレートは、(C2、C11、E5、Ell、F2およびF5のウェルで認められる)疑似ポジティブも示す場合があり、このような時には、真正なポジティブクローンを選択するために、すべての候補物についてサブクローニングを行う必要がある。 この事例では、(F)で示したように、アッセイ用プレートでの八つの領域をスクリーニングすることが望ましい。 各領域での4番目の横列と3番目の縦列の試料を、アッセイ用プレートでの七つのウェルにプールすることができる。 そして、(G)には、横列と縦列をプールして、384-ウェルプレートをスクリーニングする方法が記載されている。 各々の384-プレートが、アッセイ用プレートでのわずか16個のウェルに集約されることになる。 しかしながら、この手法は、中央部での六つの位置(交差箇所)にある試料について再スクリーニングを行う必要がある。
【図10】遠心分離して得られた有機相(org、BRASIL変法)およびレクチンをコートした磁性体ビーズ(beads)とを用いて4度の(R1〜R4の)パンニング処理を行った後に、ファージ希釈液を用いて実施した肺癌細胞系A-549についてのポリクローナルファージELISAを示している。
【図11】試験したscFv発現が細胞(A-549、HUVECおよびPBL)に結合している事例において増幅されたβ-アクチンDNAを示すAffiSelect PCRの結果の一例を示している。 同じscFv発現試料についての結果が、三つの細胞のタイプに関して(同じ縮尺で)示されている。 腫瘍に特異的なDNA増幅を示しているscFv発現試料に矢印を付している。
【図12】二度の洗浄と遠心分離して得られた有機相とを用いたパンニング処理を経て得られたscFvの一つに関するFACSの結果を示している。 パンニング処理とプレパンニング処理工程で用いた細胞(A-549、HUVECおよびPBL)と同じタイプの細胞に関して、scFvの試験を行った。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つまたは一つ以上のリガンドに関する結合パートナー候補である一つまたは一つ以上のメンバーを同定および/または選択するために、分子ライブラリーをスクリーニングする方法であって、以下の工程、すなわち;
(a) 溶液内の発現ライブラリーと、一つまたは一つ以上のリガンドとを接触させ、
(b) 当該発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーに結合したリガンドを固相上に固定し、および
(c) リガンドの存在を検出し、それにより、当該リガンドに関する結合パートナー候補である当該発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーの存在を検出する、
工程を含む、分子ライブラリーをスクリーニングする方法。
【請求項2】
前記発現ライブラリーが、ファージディスプレイライブラリーまたは細菌発現ライブラリーである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記発現ライブラリーが、抗体発現ライブラリーである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体発現ライブラリーが、scF-v抗体を含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記発現ライブラリーのメンバーが、固定工程(b)の進行を促すタグまたはマーカーを含む請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記リガンドが、細胞表面分子であるか、または固相に付着している請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記細胞表面分子が、全細胞の成分または細胞の膜画分として提供される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞が、真核細胞である請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞が、疾患状態と関連している請求項6乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記細胞が、癌細胞である請求項6乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、前記リガンドをコードする核酸で形質転換またはトランスフェクトされているか、または、リガンドのライブラリーをコードする核酸で形質転換またはトランスフェクトされているか、あるいは、前記リガンドを過剰発現する細胞である請求項6乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記ライブラリーが、腫瘍細胞またはウィルス細胞に由来する請求項11に記載の方法。
【請求項13】
固相に付着した前記リガンドが、それをコードする核酸に関連しているか、または分子タグに関連している請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記リガンドが付着している前記固相が、微粒子であり、かつ非磁性体である請求項6または13に記載の方法。
【請求項15】
前記リガンドが、前記リガンドの検出を可能にするレポーター部分を含んでいるか、または当該レポーター部分と関連している請求項1乃至14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記レポーター部分が、DNA分子である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記リガンドが、細胞表面分子であり、かつ前記レポーター部分が、前記リガンドを発現している細胞内に存在するDNA分子である請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記DNA分子が、内因性ハウスキーピング遺伝子または外因性レポーター部分である請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
一つ以上のリガンドが、工程(a)で供給される請求項1乃至18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記接触工程が、細菌発現用培地の存在下で行われる請求項1乃至19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
5000個または1000個に満たない個数の細胞が供給される請求項6乃至12または請求項15乃至20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
工程(b)の前記固相が、 磁性体であり、好ましくは、微粒子である請求項1乃至21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記固定工程が、発現ライブラリーのメンバーと関連するタグまたは分子と、固相での固定分子との間の相互作用によって進行が促される請求項1乃至22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記検出工程が、リガンドに対するレポーター部分または当該リガンドが関連するレポーター部分の存在を検出することによって行われる請求項1乃至23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記検出工程が、PCRによって行われる請求項24に記載の方法。
【請求項26】
発現ライブラリーの複数のメンバーを、同一の検定区画に置き、次いで、一つまたは一つ以上のリガンドと接触させる請求項1乃至25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
工程(a)で用いる発現ライブラリーの複雑度を、標的リガンドを用いて当該ライブラリーをパンニングすることによって緩和するための一つまたは一つ以上のパンニング工程をさらに含む請求項1乃至26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記パンニング工程が、(i)発現ライブラリーと標的リガンドとの接触、(ii)少なくとも一つの洗浄工程への当該標的リガンドの適用、および(iii)それによって、当該標的リガンドに対する結合パートナー候補とその他のライブラリーのメンバーとを分離する、有機相を介した分離による、発現ライブラリーの非結合メンバーからの発現ライブラリーのメンバーに結合した標的リガンドの分離に関与する請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記結合パートナー候補またはリガンドを、さらに分析に供する請求項1乃至28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記結合パートナー候補を、前記リガンドから単離して発現または生産する工程をさらに含む請求項1乃至29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
未確認リガンドを単離および/または同定する方法であって、請求項1乃至30のいずれかに記載の工程を含み、かつ(d)当該未確認リガンドに結合した一つまたは一つ以上の発現ライブラリーのメンバーを単離し、および(e)当該ライブラリーのメンバーを用いて、そこに結合しているリガンドを単離および/または同定する、ことを含む方法。
【請求項32】
リガンドに対して特異的な結合パートナーであるライブラリーのメンバーを選択、同定および/または単離する方法、または発現ライブラリーからリガンドを選択、同定および/または単離する方法であって、当該方法が、特定の性状を示す分子を選択するための請求項1乃至30のいずれかに記載の工程を含み、かつ、(e)リガンドに対して特異的な結合パートナーである関連するライブラリーのメンバーを同定および/または単離することを任意に含み、および、(f)当該ライブラリーのメンバーを用いて、そこに結合しているリガンドを同定することを任意に含む方法。
【請求項33】
請求項31の工程(e)または請求項32の工程(f)が、未確認リガンドを発現している細胞から調製したcDNAライブラリーをスクリーニングするための前記ライブラリーのメンバーを用いることを含む請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
未確認リガンドを単離および/または同定するための方法であって、当該方法が、以下の工程、すなわち;
(a) 未確認リガンドに対して特異的な一つまたは一つ以上の結合パートナーを、溶液中で、細胞内で発現した潜在的なリガンドのライブラリーと接触させ、
(b) 一つまたは一つ以上の特異的な結合パートナーに結合したリガンドを固相に固定し、および
(c) リガンドの存在を検出し、それにより、未確認リガンドの候補である一つまたは一つ以上のリガンドの存在を検出する、工程を含む方法。
【請求項35】
一つまたは一つ以上の前記特異的な結合パートナーが、請求項1乃至26のいずれかに記載の方法を用いて同定または選択される請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記ライブラリーが、未確認リガンドを発現した細胞由来のものである請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
同定した前記結合パートナーまたはリガンド、またはその成分、断片、変異体または誘導体を製造または発現する工程をさらに含み、また、前記結合パートナーまたはリガンドを、少なくとも一つの薬学的に許容される担体または賦形剤で製剤する工程を任意に含む請求項1乃至36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
請求項1乃至37のいずれかに記載の方法を用いて同定、選択、単離、製造、発現または製剤した結合性タンパク質またはリガンド。
【請求項39】
In vitro検定またはin vivo診断検定のための請求項1乃至37のいずれかに記載の方法を用いて同定、選択、単離、製造、発現または製剤した結合性パートナーまたはリガンドの使用。
【請求項40】
治療またはin vivo診断に用いる薬物または組成物を製造するための請求項1乃至37のいずれかに記載の方法を用いて同定、選択、単離、製造、発現または製剤した結合性パートナーまたはリガンドの使用。
【請求項41】
請求項1乃至37のいずれかに記載の方法を用いて同定、選択、単離、製造、発現または製剤した結合性パートナーまたはリガンドを適切な用量で投与することを含む、患者を処置する方法。
【請求項42】
一つまたは一つ以上のリガンドに関する結合パートナー候補である一つまたは一つ以上のメンバーを同定および/または選択するために、分子ライブラリーをスクリーニングする方法であって、以下の工程、すなわち;
(i) 発現ライブラリーのメンバーを発現することができる幾つかの細菌クローンをプールし、または、単一の検定区画において幾つかの細菌クローンを生産した発現ライブラリーの幾つかのメンバーをプールし;
(ii) 工程(i)で幾つかの細菌クローンがプールされておれば、前記発現ライブラリーのメンバーの発現に向けて当該細菌クローンを誘発し;
(iii) 前記発現ライブラリーのメンバーと、一つまたは一つ以上のリガンドとを接触させ;
(iv) 発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーがリガンドに結合しているポジティブの検定区画を決定し;
(v) 必要に応じて、当該ポジティブ検定区画に存在するクローンの選択的増幅を行い、そして、工程(iii)および(iv)を反復し;
(vi) 前記リガンドに関する結合パートナーを発現する一つまたは一つ以上の細菌クローンを同定する、工程を含む方法。
【請求項43】
前記決定工程(iv)が、請求項1乃至25のいずれかに記載の工程(b)および(c)に従って行われる請求項42に記載の方法。
【請求項1】
一つまたは一つ以上のリガンドに関する結合パートナー候補である一つまたは一つ以上のメンバーを同定および/または選択するために、分子ライブラリーをスクリーニングする方法であって、以下の工程、すなわち;
(a) 溶液内の発現ライブラリーと、一つまたは一つ以上のリガンドとを接触させ、
(b) 当該発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーに結合したリガンドを固相上に固定し、および
(c) リガンドの存在を検出し、それにより、当該リガンドに関する結合パートナー候補である当該発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーの存在を検出する、
工程を含む、分子ライブラリーをスクリーニングする方法。
【請求項2】
前記発現ライブラリーが、ファージディスプレイライブラリーまたは細菌発現ライブラリーである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記発現ライブラリーが、抗体発現ライブラリーである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体発現ライブラリーが、scF-v抗体を含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記発現ライブラリーのメンバーが、固定工程(b)の進行を促すタグまたはマーカーを含む請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記リガンドが、細胞表面分子であるか、または固相に付着している請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記細胞表面分子が、全細胞の成分または細胞の膜画分として提供される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞が、真核細胞である請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞が、疾患状態と関連している請求項6乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記細胞が、癌細胞である請求項6乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、前記リガンドをコードする核酸で形質転換またはトランスフェクトされているか、または、リガンドのライブラリーをコードする核酸で形質転換またはトランスフェクトされているか、あるいは、前記リガンドを過剰発現する細胞である請求項6乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記ライブラリーが、腫瘍細胞またはウィルス細胞に由来する請求項11に記載の方法。
【請求項13】
固相に付着した前記リガンドが、それをコードする核酸に関連しているか、または分子タグに関連している請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記リガンドが付着している前記固相が、微粒子であり、かつ非磁性体である請求項6または13に記載の方法。
【請求項15】
前記リガンドが、前記リガンドの検出を可能にするレポーター部分を含んでいるか、または当該レポーター部分と関連している請求項1乃至14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記レポーター部分が、DNA分子である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記リガンドが、細胞表面分子であり、かつ前記レポーター部分が、前記リガンドを発現している細胞内に存在するDNA分子である請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記DNA分子が、内因性ハウスキーピング遺伝子または外因性レポーター部分である請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
一つ以上のリガンドが、工程(a)で供給される請求項1乃至18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記接触工程が、細菌発現用培地の存在下で行われる請求項1乃至19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
5000個または1000個に満たない個数の細胞が供給される請求項6乃至12または請求項15乃至20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
工程(b)の前記固相が、 磁性体であり、好ましくは、微粒子である請求項1乃至21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記固定工程が、発現ライブラリーのメンバーと関連するタグまたは分子と、固相での固定分子との間の相互作用によって進行が促される請求項1乃至22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記検出工程が、リガンドに対するレポーター部分または当該リガンドが関連するレポーター部分の存在を検出することによって行われる請求項1乃至23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記検出工程が、PCRによって行われる請求項24に記載の方法。
【請求項26】
発現ライブラリーの複数のメンバーを、同一の検定区画に置き、次いで、一つまたは一つ以上のリガンドと接触させる請求項1乃至25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
工程(a)で用いる発現ライブラリーの複雑度を、標的リガンドを用いて当該ライブラリーをパンニングすることによって緩和するための一つまたは一つ以上のパンニング工程をさらに含む請求項1乃至26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記パンニング工程が、(i)発現ライブラリーと標的リガンドとの接触、(ii)少なくとも一つの洗浄工程への当該標的リガンドの適用、および(iii)それによって、当該標的リガンドに対する結合パートナー候補とその他のライブラリーのメンバーとを分離する、有機相を介した分離による、発現ライブラリーの非結合メンバーからの発現ライブラリーのメンバーに結合した標的リガンドの分離に関与する請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記結合パートナー候補またはリガンドを、さらに分析に供する請求項1乃至28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記結合パートナー候補を、前記リガンドから単離して発現または生産する工程をさらに含む請求項1乃至29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
未確認リガンドを単離および/または同定する方法であって、請求項1乃至30のいずれかに記載の工程を含み、かつ(d)当該未確認リガンドに結合した一つまたは一つ以上の発現ライブラリーのメンバーを単離し、および(e)当該ライブラリーのメンバーを用いて、そこに結合しているリガンドを単離および/または同定する、ことを含む方法。
【請求項32】
リガンドに対して特異的な結合パートナーであるライブラリーのメンバーを選択、同定および/または単離する方法、または発現ライブラリーからリガンドを選択、同定および/または単離する方法であって、当該方法が、特定の性状を示す分子を選択するための請求項1乃至30のいずれかに記載の工程を含み、かつ、(e)リガンドに対して特異的な結合パートナーである関連するライブラリーのメンバーを同定および/または単離することを任意に含み、および、(f)当該ライブラリーのメンバーを用いて、そこに結合しているリガンドを同定することを任意に含む方法。
【請求項33】
請求項31の工程(e)または請求項32の工程(f)が、未確認リガンドを発現している細胞から調製したcDNAライブラリーをスクリーニングするための前記ライブラリーのメンバーを用いることを含む請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
未確認リガンドを単離および/または同定するための方法であって、当該方法が、以下の工程、すなわち;
(a) 未確認リガンドに対して特異的な一つまたは一つ以上の結合パートナーを、溶液中で、細胞内で発現した潜在的なリガンドのライブラリーと接触させ、
(b) 一つまたは一つ以上の特異的な結合パートナーに結合したリガンドを固相に固定し、および
(c) リガンドの存在を検出し、それにより、未確認リガンドの候補である一つまたは一つ以上のリガンドの存在を検出する、工程を含む方法。
【請求項35】
一つまたは一つ以上の前記特異的な結合パートナーが、請求項1乃至26のいずれかに記載の方法を用いて同定または選択される請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記ライブラリーが、未確認リガンドを発現した細胞由来のものである請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
同定した前記結合パートナーまたはリガンド、またはその成分、断片、変異体または誘導体を製造または発現する工程をさらに含み、また、前記結合パートナーまたはリガンドを、少なくとも一つの薬学的に許容される担体または賦形剤で製剤する工程を任意に含む請求項1乃至36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
請求項1乃至37のいずれかに記載の方法を用いて同定、選択、単離、製造、発現または製剤した結合性タンパク質またはリガンド。
【請求項39】
In vitro検定またはin vivo診断検定のための請求項1乃至37のいずれかに記載の方法を用いて同定、選択、単離、製造、発現または製剤した結合性パートナーまたはリガンドの使用。
【請求項40】
治療またはin vivo診断に用いる薬物または組成物を製造するための請求項1乃至37のいずれかに記載の方法を用いて同定、選択、単離、製造、発現または製剤した結合性パートナーまたはリガンドの使用。
【請求項41】
請求項1乃至37のいずれかに記載の方法を用いて同定、選択、単離、製造、発現または製剤した結合性パートナーまたはリガンドを適切な用量で投与することを含む、患者を処置する方法。
【請求項42】
一つまたは一つ以上のリガンドに関する結合パートナー候補である一つまたは一つ以上のメンバーを同定および/または選択するために、分子ライブラリーをスクリーニングする方法であって、以下の工程、すなわち;
(i) 発現ライブラリーのメンバーを発現することができる幾つかの細菌クローンをプールし、または、単一の検定区画において幾つかの細菌クローンを生産した発現ライブラリーの幾つかのメンバーをプールし;
(ii) 工程(i)で幾つかの細菌クローンがプールされておれば、前記発現ライブラリーのメンバーの発現に向けて当該細菌クローンを誘発し;
(iii) 前記発現ライブラリーのメンバーと、一つまたは一つ以上のリガンドとを接触させ;
(iv) 発現ライブラリーの一つまたは一つ以上のメンバーがリガンドに結合しているポジティブの検定区画を決定し;
(v) 必要に応じて、当該ポジティブ検定区画に存在するクローンの選択的増幅を行い、そして、工程(iii)および(iv)を反復し;
(vi) 前記リガンドに関する結合パートナーを発現する一つまたは一つ以上の細菌クローンを同定する、工程を含む方法。
【請求項43】
前記決定工程(iv)が、請求項1乃至25のいずれかに記載の工程(b)および(c)に従って行われる請求項42に記載の方法。
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公表番号】特表2008−515419(P2008−515419A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535242(P2007−535242)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003865
【国際公開番号】WO2006/038021
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(507116743)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003865
【国際公開番号】WO2006/038021
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(507116743)
【Fターム(参考)】
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