説明

抗動脈硬化剤

【課題】 継続的に摂取しても副作用の心配がない、優れた抗動脈硬化作用を有する物質を天然物の中から見出し、さらに、当該物質を機能性食品や健康食品に添加するための素材として、あるいは機能性食品や健康食品自体として利用すること。
【解決手段】 本発明は、緑豆蛋白分解物を含有する抗動脈硬化剤および血管肥厚抑制剤、およびこの抗動脈硬化剤または血管肥厚抑制剤を含有する食品および医薬品または医薬部外品を提供する。この緑豆蛋白分解物は、代表的には、緑豆由来の蛋白質をプロテアーゼにより加水分解することによって得られる。本発明の抗動脈硬化剤および血管肥厚抑制剤は、日常的および長期的な摂取に好適であり、特に、食品としての摂取に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑豆蛋白分解物を含有する抗動脈硬化剤および血管肥厚抑制剤、該抗動脈硬化剤または血管肥厚抑制剤を含む食品または医薬品および医薬部外品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本における食生活スタイルが欧米化スタイルに移行する傾向が高く、それに伴う食生活環境の変化によって、高カロリー食品を多く摂取する機会が著しく増えている。このような食品には、一般的に脂肪分やコレステロールが多く含まれているため、日常的に過剰摂取すると血管に悪影響が起こり、種々の疾患が誘発される。これは、喫煙、飲酒、ストレス、加齢などと相俟って、虚血性心疾患、脳血管障害、慢性閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化性疾患を増大させる要因となっている。これらの疾患を発症すると、命の危険に関わる場合もあれば、後遺症などによる障害で日常生活に支障をきたし、生活の質(Quality of Life:QOL)の低下が引き起こされる場合もある。また今後、加齢に伴う動脈硬化症などの疾患の増加が危惧される。このような疾患を発症させないためには、予防医学的見地から、抗動脈硬化作用を有する天然物由来の食品を、日常生活において継続的に摂取することが有効である。動脈硬化症ならびにそれに伴う疾患を予防することは、老後のQOL低下を抑制するための、さらには急増する保険医療費を縮小させるための最良の手段の中の1つである。
【0003】
動脈硬化を予防する目的で開発されている食品として、例えば、米糠、羅漢果、シメジ、キク、ライ麦、シラカバ、および月桃のうちの少なくとも1種から抽出された抽出物(特許文献1)、フコステロール−3ケト体および/またはフコステロールを含有する食品(特許文献2)、亜麻仁種子またはその圧搾物(特許文献3)、プテロカルパン(特許文献4)、ユーカリ属の植物から抽出した抽出物(特許文献5)、プロアントシアニジンとイソフラボンとを含有する食品(特許文献6)、プロシアニジンを含有する食品(特許文献7)、キトサンとペプチドとの混合物(特許文献8)などが挙げられる。また、動脈硬化を治療する目的で開発されているペプチドとして、例えば、アポリポ蛋白A−1のC末端領域ペプチド(特許文献9)、セリンプロテアーゼ阻害作用を有するペプチド(特許文献10)、ヘキサペプチド(特許文献11)などが挙げられる。しかし、これらの食品および抗動脈硬化作用を有する物質は、多くの場合、培養細胞における細胞増殖抑制効果、細胞から分泌されるホルモン量、動物の血中トリグリセリド濃度、血中コレステロール濃度などの血液パラメータを指標にしており、例えば、中膜/内腔比などを指標にして血管構造それ自体に対する抗動脈硬化作用を直接的に評価しているものは少ない。したがって、これらの食品または物質による動脈硬化抑制効果は必ずしも十分に満足できるものではない。さらに、これら発明の中には合成品のものもあり、動脈硬化の予防を目的に継続的に摂取する場合には副作用の発生が危惧されるので、より高い安全性を重視すれば、天然物由来の抗動脈硬化予防剤の開発が望ましい。
【0004】
ヒトの動脈硬化診断法として、頚動脈におけるエコー検査によって頚動脈の内膜中膜複合体厚(IMT)を測定し、それを診断の基準とする方法がある(特許文献12)。IMTが1.1mmを超えると脳血管障害や虚血性心疾患の発症率が高くなるといわれており、IMT計測を定期的に実施している施設もある。実験動物の場合、血管の中膜/内腔比を算出し、それを抗動脈硬化の指標とすることがある(非特許文献1)。この比は、値が小さいほど抗動脈硬化をもたらしていることを表す。
【0005】
ところで、冠状動脈の狭くなった部分あるいは詰まっている部分に対して、先端にバルーンの付いたカテーテルを用いて広げる治療がある。冠状動脈の狭くなった部分でバルーンを膨らませると、その圧力によって血管の壁面が押し広げられ、狭くなった血管が改善される。しかし、この治療方法には、治療部位が3〜6カ月後に再狭窄するという問題がある。これは、血管を拡張した刺激によって血管が次第に肥厚することが原因と考えられ、この再狭窄を防ぐための方法として、例えば、スラント(小さな金属製網状チューブ)を永久的に病変部に留まらせる方法など、種々検討が行われているが、これまでのところ、画期的な対策方法は見出されていない。
【特許文献1】特開2005−68132号公報
【特許文献2】特開2005−104887号公報
【特許文献3】特開2004−83428号公報
【特許文献4】特開2003−155236号公報
【特許文献5】特開2001−270833号公報
【特許文献6】特許第3510526号公報
【特許文献7】特開平9−291039号公報
【特許文献8】特許第3108675号公報
【特許文献9】特開平8−157492号公報
【特許文献10】特開2004−67583号公報
【特許文献11】特許第2803477号公報
【特許文献12】特開2005−390号公報
【非特許文献1】ケイ.エル.クリステンセン(K.L.Christensen)ら、「ジャーナル・オブ・ハイパーテンション(Journal of Hypertension)」,1989年,7巻,83−90頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、継続的に摂取しても副作用の心配がない、優れた抗動脈硬化作用を有する物質を食用豆の一種である、緑豆の蛋白分解物から見出し、さらに、当該物質を機能性食品や健康食品に添加するための素材として、あるいは機能性食品や健康食品自体として利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、緑豆蛋白分解物を含有する抗動脈硬化剤を提供する。
【0008】
1つの実施態様では、上記緑豆蛋白分解物は、緑豆由来の蛋白質をプロテアーゼにより加水分解することによって得られる。
【0009】
さらなる実施態様では、上記緑豆蛋白分解物の全ペプチド中のジペプチドまたはトリペプチドの割合は10%以上である。
【0010】
本発明はまた、緑豆蛋白分解物を含有する血管肥厚抑制剤を提供する。
【0011】
1つの実施態様では、上記緑豆蛋白分解物は、緑豆由来の蛋白質をプロテアーゼにより加水分解することによって得られる。
【0012】
さらなる実施態様では、上記緑豆蛋白分解物の全ペプチド中のジペプチドまたはトリペプチドの割合は10%以上である。
【0013】
本発明はさらに、上記のいずれかの抗動脈硬化剤または血管肥厚抑制剤を含む食品を提供する。
【0014】
本発明はさらに、上記のいずれかの抗動脈硬化剤または血管肥厚抑制剤を含む医薬品および医薬部外品を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた抗動脈硬化作用を有する抗動脈硬化剤ならびに血管肥厚抑制剤が提供される。本発明の抗動脈硬化剤および血管肥厚抑制剤は、機能性食品や健康食品に添加するための素材として、あるいは機能性食品や健康食品自体として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の抗動脈硬化剤および血管肥厚抑制剤に含まれる緑豆蛋白分解物の原料植物である緑豆は、マメ科植物に属する植物であり、そのマメの部分は緑色〜褐色であり、その大きさはアズキよりも小さい。緑豆は発芽させてもやしとして、そして緑豆のデンプンははるさめの原料として知られている。
【0017】
本発明の抗動脈硬化剤および血管肥厚抑制剤の調製に用いる緑豆由来の蛋白質を含む原料(以下、「原料」という)は、緑豆の破砕物またはその搾り汁、あるいはこれらの水、酸、またはアルカリによる抽出物であり得る。さらに、緑豆の加工処理における副産物も、原料として用いられ得る。例えば、緑豆のデンプンを主成分とするはるさめの製造過程で生じる緑豆由来の蛋白質を含む副産物が挙げられる。その形態は、液体、粉体、ペーストなど、いずれの形態でもよい。また、緑豆由来の蛋白質以外に、糖類、食物繊維類、塩分、水分、油脂類などが含まれていてもよい。原料中の蛋白質の含量(以下、「粗蛋白含量」という)は特に限定されないが、好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。
【0018】
ここで、粗蛋白含量とは、蛋白質中の窒素量に換算係数を乗じて算出される。窒素量は、例えば、セミミクロケルダール法にて測定する。具体的には、粗蛋白含量は以下のようにして算出される。まず、ケルダールフラスコに50mgの試料を正確に秤量する。次いで、硫酸カリウム10gと硫酸銅1gとを混合して分解促進剤とし、その1gをフラスコに入れ、さらに濃硫酸5mLを加える。一晩放置後、フラスコを徐々に加熱し、液が透明となり、フラスコの内壁に炭化物が認められなくなるまで加熱する。冷却後、蒸留水20mLを加えてよく混合した後、氷冷し、フラスコを、予め水蒸気を通じて洗浄した蒸留装置に連結する。留液を受ける受器には0.1N硫酸10mLおよび指示薬(メチルレッドとメチレンブルー試液との混合液)2〜3滴を入れ、この液に蒸留装置の冷却器の下端を浸す。蒸留装置に連結したロートから40%水酸化ナトリウム20mLをフラスコに添加し、水蒸気を通じて6〜7分間蒸留する。冷却器の下端を液面から離し、少量の水でその部分を洗い込み、0.1Nの水酸化ナトリウムで滴定する。また、試料を添加せずに同様の方法で測定したものをブランクとする。粗蛋白含量は下記の式により算出する:
粗蛋白含量(%(w/w))={([B]−[A])×F×1.4007×6.25/[C]}×100
式中、[A]は、試料を添加した時に滴定に要する0.1N水酸化ナトリウムの容量(mL)であり、そして[B]は、ブランクの滴定に要する0.1N水酸化ナトリウムの容量(mL)である。また、[C]は、試料の質量(mg)であり、そして「F」は、滴定に使用する水酸化ナトリウムのファクターである。「1.4007」は0.1N硫酸1mLに相当する窒素の質量(mg)に相当する。また、本発明においては、窒素の質量からの蛋白量換算係数として「6.25」を使用した。
【0019】
本発明において、緑豆蛋白分解物とは、緑豆由来の蛋白質をあらゆる手段で加水分解して得られる分解物、酸、あるいはプロテアーゼなどの酵素によって分解された分解物をいう。反応が温和であること、および副生成物が生じにくいという点から、蛋白質分解酵素であるプロテアーゼによる分解物が好ましい。
【0020】
プロテアーゼとしては、例えば、Rhizopus delemar、Rhizopus niveusなどのRhizopus属、Aspergillus niger、Aspergillus oryzaeなどのAspergillus属、Bacillus subtilis、Bacillus sp.などのBacillus属などの微生物由来の酵素;ペプシン、パンクレアチンなどの動物由来の酵素;パパイン、ブロメラインなどの植物由来の酵素が挙げられる。本発明においては、分解程度が調節しやすい点で、Aspergillus属由来の酸性プロテアーゼが望ましい。プロテアーゼは、市販の精製品または粗製品であってもよく、一種あるいは二種以上を用いてもよい。加水分解の反応条件(反応温度、pH、時間、酵素使用量など)については、使用するプロテアーゼの最適作用条件に応じて設定され得る。通常は、温度は10℃〜80℃、pHは2〜11、反応時間は2〜48時間、使用する酵素量は粗蛋白1g当たり10〜30000unitsである。好ましくは、反応温度は30℃〜60℃、pHは3〜8、反応時間は4〜20時間、酵素量は粗蛋白1g当たり100〜7000unitsである。
【0021】
上記プロテアーゼ処理後、得られたプロテアーゼ処理物から、濾過または遠心分離により不溶物を除去する。得られた上清液を、減圧濃縮、凍結乾燥、スプレー乾燥などの方法によって乾燥させて、緑豆蛋白分解物を得る。得られた緑豆蛋白分解物の形態は、液体、粉末、およびペーストのいずれでもよい。得られた緑豆蛋白分解物は、通常無臭であり、良好な風味を有する。
【0022】
上記緑豆蛋白分解物は、その全ペプチド中に、ジペプチドまたはトリペプチドの割合が10%以上であることが好ましい。ジペプチドまたはトリペプチドの割合は、40%以上であることがより好ましい。摂取した場合の吸収性に優れる点で、50%以上であることがさらに好ましい。なお、ジペプチドまたはトリペプチドとは、具体的には、以下に詳述する分子量分布の分析において、分子量が約130〜580の範囲に含まれるペプチドである。
【0023】
本発明において、緑豆蛋白分解物の分子量分布およびジペプチドもしくはトリペプチド含量の分析は、下記の方法で行った。
【0024】
分子量の測定はゲル濾過カラム(Superdex Peptide HR 10/30、ファルマシアバイオテック社)を用いて高速液体クロマトグラフィーにより測定した。移動相は0.1%トリフルオロ酢酸を含む30%アセトニトリル水溶液であり、流速0.3mL/分とし、紫外部(220nm)吸収により検出を行った。分子量は、グリシン(分子量75.07)分子量既知のオリゴペプチドであるアラニルプロリン(分子量186.2)、アンジオテンシンII(分子量1046.2)、およびサブスタンスP(分子量1347.7)を用いて標準線を作成して求めた。分子量分布は、データ処理装置(D-2500 Chromato-Integrator、日立製作所社製)を用いて積分チャートの面積比で示した。ジペプチドもしくはトリペプチド含量は、上記積分チャートから平均分子量が130〜580の範囲にあるペプチドの合計量を求め、これをジペプチドもしくはトリペプチド量とし、全体のペプチド量の合計に対する割合を求めた。
【0025】
上記緑豆蛋白分解物は、本発明の抗動脈硬化剤および血管肥厚抑制剤として用いることができる。ここで、抗動脈硬化剤および血管肥厚抑制剤とは、動脈硬化および血管肥厚を予防、治療、または改善し得る物質をいう。動脈硬化および血管肥厚の改善とは、動脈硬化および血管肥厚の進行を抑制することをいう。
【0026】
本発明の緑豆蛋白分解物を有効成分とする抗動脈硬化剤または血管肥厚抑制剤を含む医薬品の投与経路は、経口、直腸内、および静脈内のいずれでもよいが、経口投与が好ましい。
【0027】
本発明の抗動脈硬化剤および血管肥厚抑制剤は、投与経路に応じて、上記緑豆蛋白分解物をそのままの形態であるいは製剤化して投与され得る。本発明の抗動脈硬化剤および血管肥厚抑制剤の剤型は、投与経路に応じて適宜選択され、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、注射剤などが挙げられる。これらの製剤は、当業者が通常行う方法によって調製される。これらの製剤は、上記緑豆蛋白分解物を0.1質量%以上、好ましくは1〜100質量%の割合で含有する。
【0028】
この製剤は、製薬の分野で用いられる薬学的に受容可能なキャリアを含有し得る。薬学的に受容可能なキャリアとしては、ラクトース、デキストリン、スクロース、マンニトール、コーンスターチ、ソルビトールなどの賦形剤、結晶セルロース、ポリビニルピロリドンなどの補助剤が挙げられ、これらを単独または適宜組み合わせて使用することができる。さらに、緩衝剤、保存剤、酸化防止剤、香味料、着色料、甘味料などの添加剤も適宜使用できる。これらの添加剤の含有量は、当業者によって適切に決定され得る。あるいは、この製剤は、抗動脈硬化作用または血管肥厚抑制作用を阻害しない他の薬効成分を含んでいてもよい。
【0029】
本発明の抗動脈硬化剤および血管肥厚抑制剤の投与量は、投与方法や患者の症状、年齢などによって異なるが、上記緑豆蛋白分解物の粗蛋白含量として、通常は1日当たり1mg〜200000mg、好ましくは100mg〜20000mg、さらに好ましくは500mg〜10000mgである。
【0030】
本発明の抗動脈硬化剤および血管肥厚抑制剤はまた、食品として摂取することに特に適しており、種々の食品に含有され得る。これらの食品は、「動脈硬化度が高い方へ」、「動脈硬化が気になる方へ」などと表示して販売され得る。本発明の抗動脈硬化剤または血管肥厚抑制剤を含む食品は、上記緑豆蛋白分解物以外に、蛋白質、繊維(食物繊維を含む)、澱粉、糖、脂質、ミネラル、ビタミン、通常の食品に用いられる添加物などを含有し得る。この場合、食品中の緑豆蛋白分解物の割合は、好ましくは0.1〜100質量%、より好ましくは1〜100質量%である。このような食品としては、例えば、粥、パン、厚あげなどの穀物・豆類加工品;ソーセージ、ハムなどの畜産加工品;カマボコ、ちくわなどの水産加工品;ヨーグルト、豆乳などの乳製品;プリン、茶碗蒸しなどの卵加工品;ビスケット、せんべいなどの菓子類;冷凍コロッケ、冷凍エビフライなどの調理加工食品;ジュース、ココア粉などの飲料;カップ麺調味料、醤油、たれなどの調味料が挙げられる。これらの食品は、通常の食品だけでなく、健康飲食品、特定保健用食品などであってもよい。さらに、これらの食品は、液状、固体状、ブロック状、粉末状、半流動体状などのいかなる形態であってもよい。
【0031】
本発明の抗動脈硬化剤および血管肥厚抑制剤ならびに抗動脈硬化剤または血管肥厚抑制剤を含む食品あるいは医薬品または医薬部外品を摂取することにより、血管肥厚の進行が抑制され、すなわち動脈硬化が抑制される。例えば、このような食品を高血圧ラットに長期摂取させることにより、コントロールのラットと比較して、胸部大動脈の中膜/内腔比は有意に低く保たれ、さらに胸部大動脈および腹部大動脈の血管重量も重くならない。
【実施例】
【0032】
(製造例1:緑豆蛋白分解物の調製)
はるさめ製造工程で得られる副産物である、緑豆蛋白を含む排出液の乾燥物をミルで粉砕し、粗蛋白含量が6質量%となるように水道水を加えて分散させた。これを塩酸でpH3に調整した後、酸性プロテアーゼ(デナプシン、ナガセケムテックス社製)を粗蛋白1g当たり3000units加え、攪拌しながら40℃で16時間反応させた。反応終了後、80℃〜85℃で20分間加熱して、酵素を失活させた。その後、NaOHの添加により反応液をpH7に調整した。この酵素反応液を遠心分離して、上清を凍結乾燥し、緑豆蛋白分解物を得た。この分解物の分子量分布を、上記の手順により測定した。この分解物の全ペプチド中のジペプチドまたはトリペプチドの割合は59.3%であった。
【0033】
(製造例2:緑豆蛋白分解物含有飼料の調製)
以下の実施例1において使用するためのラットの試験飼料として、上記製造例1で得た緑豆蛋白分解物を粗蛋白としてそれぞれ0.25w/w%、1.25w/w%、および2.50w/w%含むように、CRF−1(オリエンタル酵母株式会社)の粉末飼料に混合し、打錠機にてペレット状に成形した。
【0034】
(実施例1:高血圧自然発症ラット(SHR)への継続的投与)
4週齢の雄の高血圧自然発症ラット(SHR)(日本エスエルシー株式会社)を、固形飼料(CRF−1:オリエンタル酵母株式会社)および水道水を自由摂取させて2週間馴化した。馴化後、SHRを1群6匹からなる4群に分け、試験群として低用量群、中用量群、および高用量群を設け、他の1群をコントロール群とした。各試験群には上記製造例2で得た各濃度の緑豆蛋白分解物含有飼料を、そしてコントロール群には普通食としてCRF−1固形飼料を、16週間にわたり自由摂取させた。
【0035】
(実施例2:高血圧自然発症ラット(SHR)への継続的投与における胸部および腹部大動脈の血管重量の測定)
投与開始16週間後、ネンブタール麻酔下でラットを解剖し、胸部大動脈および腹部大動脈を採取し、生理食塩水で洗浄して血液を十分に除去し、次いで余分な水分を除去して、各重量を測定した。測定した重量を、各ラットの体重あたりの重量に換算し(質量%)、統計学的解析(Bartlettの等分散性検定による分散分析後、Dunnett検定)を行った。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
緑豆蛋白分解物投与群は、コントロール群と比較して、胸部および腹部大動脈のラットの体重当たりの重量が軽い傾向が見られた。
【0038】
(実施例3:高血圧自然発症ラット(SHR)への継続的投与における胸部大動脈の中膜/内腔比の測定)
投与開始16週間後、採取した胸部大動脈のうち、中投与量群およびコントロール群の胸部大動脈を用いて、ヘマトキシリン−エオシン染色を行った。染色画像をコンピュータに取り込み、画像解析システム(WinROOF Ver.3.6 三谷商事株式会社)を用いて、中膜/内腔比の解析を行った。試験群およびコントロール群の比について、統計学的解析(F検定による分散分析後、t検定)を行った。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
緑豆蛋白分解物を継続的に摂取した試験群では、中膜/内腔比が有意に低かった。
【0041】
以上の結果より、緑豆蛋白分解物は、胸部および腹部大動脈の動脈硬化を抑制することが明らかであり、血管の肥厚および動脈硬化により引き起こされる血管疾患を予防することが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、優れた抗動脈硬化作用を有する抗動脈硬化剤ならびに血管肥厚抑制剤が提供される。本発明の抗動脈硬化剤および血管肥厚抑制剤は、機能性食品や健康食品に添加するための素材として、あるいは機能性食品や健康食品自体として、医薬品または医薬部外品として、あるいは健康飲食品、特定保健用食品などの食品素材として用いられ得る。本発明の抗動脈硬化剤および血管肥厚抑制剤は、従来食用に供されている天然物由来の材料から得られるため、副作用が少なく安全性が高い。さらに、はるさめ製造工程で得られる副産物から製造され得るので、廃物利用という点で環境にやさしく、循環型社会に貢献することが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑豆蛋白分解物を含有する抗動脈硬化剤。
【請求項2】
前記緑豆蛋白分解物が、緑豆由来の蛋白質をプロテアーゼにより加水分解することによって得られる、請求項1に記載の抗動脈硬化剤。
【請求項3】
前記緑豆蛋白分解物の全ペプチド中のジペプチドまたはトリペプチドの割合が10%以上である、請求項1または2に記載の抗動脈硬化剤。
【請求項4】
緑豆蛋白分解物を含有する血管肥厚抑制剤。
【請求項5】
前記緑豆蛋白分解物が、緑豆由来の蛋白質をプロテアーゼにより加水分解することによって得られる、請求項4に記載の血管肥厚抑制剤。
【請求項6】
前記緑豆蛋白分解物の全ペプチド中のジペプチドまたはトリペプチドの割合が10%以上である、請求項4または5に記載の血管肥厚抑制剤。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかの項に記載の抗動脈硬化剤または血管肥厚抑制剤を含む、食品。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかの項に記載の抗動脈硬化剤または血管肥厚抑制剤を含む、医薬品および医薬部外品。

【公開番号】特開2007−31364(P2007−31364A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218039(P2005−218039)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】