説明

抗原提示ヒトγδT細胞の調製及び免疫療法における使用

本発明は、有効である抗原提示ヒトγδT細胞の調製方法、この方法によって調製されたγδT細胞、ならびに免疫療法、ワクチン接種、ワクチン開発及び診断におけるその使用に関する。本発明のヒトγδT細胞は、その能力及び効果において樹状細胞(DC)と同等であり、αβT細胞に抗原ペプチドを提示し、ナイーブなαβT細胞に抗原特異的な応答(増殖及び分化)を誘導する。γδT細胞は末梢血から簡単に精製することが可能であり、刺激下でin vitro培養を行うことで1日以内に「成熟」状態(接着分子、共刺激分子及び主要組織適合遺伝子複合体分子の発現)を獲得し、ヘルパーT細胞及び細胞障害性T細胞の強力な一次及び二次応答を誘導する。本発明のγδT細胞は、腫瘍や慢性または再発性感染症の治療方法、新たな腫瘍または病原体由来抗原の特定、及び患者の免疫能の診断に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効である抗原提示ヒトγδT細胞の調製方法、この方法によって調製されたγδT細胞、ならびに免疫療法、抗原特定および免疫能の診断におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
適応免疫系の細胞成分
免疫系の細胞は先天性免疫系の細胞と適応(後天性または特異的)免疫系の細胞とに分けられる。先天性免疫系の細胞には、末梢血中に存在する単球、顆粒球、ナチュラルキラー細胞や、皮膚、気道、消化管、尿生殖路などの末梢組織、各種内臓器、ならびに脾臓、リンパ節(LN)、パイエル板などの二次リンパ組織のような血管外コンパートメントに存在するマスト細胞、マクロファージ及び樹状細胞(DC)などがある。先天性免疫細胞の主な機能は、a)感染性粒子の伝播を中和、制限し、腫瘍細胞を除去することによる直接防御機構の提供、b)健康な組織の免疫監視機能、c)適応免疫応答の開始、である。適応免疫系の細胞としてはT細胞やB細胞などのリンパ球が挙げられる。これらの細胞にはT細胞抗原受容体(TCR)及びB細胞抗原受容体(BCR)と呼ばれるクロノタイプの細胞表面抗原受容体が存在することから先天性免疫細胞と区別される。各リンパ球は特定の抗原を認識する異なるTCRまたはBCRを有している。抗原認識の特異性は、T細胞及びB細胞の分化過程と、エフェクターT細胞及びB細胞が分化する際の抗原親和性の成熟過程(アフィニティーマチュレーション)において、多数のTCRまたはBCR可変遺伝子セグメントの再構成が起こることで決定される。抗原刺激を受けていない末梢血中のナイーブなT細胞は、それぞれのTCRの抗原選択性において互いに異なっており、ナイーブT細胞はそれぞれが特異的に認識する抗原を有する物質によって免疫活性化されることによって増殖する。その結果、適応性免疫応答においては、潜在的な感染性物質に対して特異的なTCRを有するナイーブT細胞群が細胞分裂によって増殖し、a)潜在的感染性物質に対する防御に直ちに参加するエフェクターT細胞へと分化するとともに、b)この特定の潜在的感染性物質に対する長期的な防御を与えるメモリーT細胞へと分化する。エフェクターT細胞の寿命は短く、免疫応答の消失期には消失するのに対し、メモリーT細胞は長寿命であり、初期にこれらの細胞が存在した組織や選択的再循環経路に応じてメモリーT細胞のサブセットへと分化する(Moser et al.,2004)。T細胞は、へテロ二量体であるTCRの構成要素によってαβT細胞とγδT細胞とに更に分けられる(下記参照)。αβ−TCRはα及びβタンパク鎖からなり、γδ−TCRはγ及びδタンパク鎖からなる。正常で健康なヒトでは、CD3T細胞の大半(>80%)はαβT細胞である。TCRには無変異のCD3分子が結合しており、これによってT細胞はB細胞や他のすべての免疫細胞と区別される。αβT細胞の多くは、いわゆる主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子拘束性により抗原を認識する。これは、わずかな抗原とMHC非拘束的に結合するB細胞のBCRとは対照的である。「MHC拘束」とは、TCRによる抗原の認識の形態をいい、抗原性ペプチドをMHC分子とともにいわゆるMHC−ペプチド複合体として、DCなどの抗原提示細胞(APC)上に提示することを含む(下記参照)。MHC分子はMHCクラスI(MHC−I)とMHCクラスII(MHC−II)に大別され、これらはαβT細胞の2つの主要なサブクラスであるCD8αβT細胞とCD4αβT細胞のTCRを活性化させる。CD4αβT細胞上のTCRがMHC−II−ペプチド複合体を認識するのに対し、CD8αβT細胞上のTCRはMHC−I−ペプチド複合体を認識する。これと大きく異なり、ヒトの末梢血中に存在する主要なサブセットであるγδT細胞はCD4、CD8のいずれも発現せず、また、そのTCRは、抗原認識についてMHC拘束を必要としない(下記参照)。
【0003】
γδT細胞
γδT細胞は、Vγ及びVδ遺伝子セグメントによってコードされるTCRを有するCD3細胞のサブセットである(Morita et al.,2000;Carding and Egan,2002)。それらは、初期にこれらの細胞が存在する血液または組織、細胞のVγVδ−TCRのタンパク鎖の構成や抗原選択性によって更に分類される。ヒトの皮膚の上皮組織や上皮関連/粘膜組織、気道、消化管、尿生殖路及び幾つかの内臓ではVδ1−TCR鎖を発現しているγδT細胞(Vδ1T細胞)が大部分を占めるが、末梢血のγδT細胞ではそのごく一部(<20%)がVδ1T細胞である。Vδ1T細胞のTCRはMHC関連CD1分子が提示する脂質抗原を認識する。更にVδ1T細胞は、MHC関連分子であるMICA、MICB、及びヒートショックタンパクなどのストレス関連タンパクに対して応答する。この細胞は、腫瘍やストレスを受けた細胞に対する最初の防御ラインとして機能すると考えられており、更には外傷の治癒、組織修復や自己免疫に関与しているものと考えられている。正常なヒトの末梢血では、γδT細胞は全CD3細胞の2〜10%程度であり、末梢血のγδT細胞の大半(>80%)はVγ2Vδ2−TCR鎖を発現しているγδT細胞(Vγ2Vδ2γδT細胞)である(Morita et al.,2000;Carding and Egan,2002)。この細胞は、ほとんどが微生物に由来する小型の非ペプチド抗原に対して高い選択性を示し、ペプチド選択的αβT細胞では一般的である(上記参照)古典的MHC分子による抗原提示を必要としない。Vγ2Vδ2γδT細胞の抗原としては、イソペンテニルピロリン酸(IPP)などのプレニルピロリン酸、アルキルアミン、ならびに多くのヒトの微生物病原体や共生細菌で新たに発見されたイソプレノイド生合成経路の代謝産物などがある(Morita et al.,2000;Eberl et al.,2003)。IPPやアルキルアミンなどのVγ2Vδ2γδT細胞の抗原の一部は壊死性組織細胞からも放出される。微生物由来の小型の非ペプチド抗原に対する選択性を有する相同的VγVδ−TCRを有するヒトVγ2Vδ2γδT細胞の相同タンパクは、アカゲザルなどの高等霊長類にも存在するが、マウスやウサギなどのげっ歯類には存在しない。Vγ2Vδ2γδT細胞の存在がなぜ高等霊長類に限定されているかは明らかではないが、こうした細胞は、微生物の特徴的な種特異的選択に対する細胞防御機構に対する特定の必要性を満たすべく進化したものと考えられる。Vγ2Vδ2γδT細胞は、in vitroでの末梢血Vγ2Vδ2γδT細胞の組織培養や、in vivoでのアカゲザルなどの高等霊長類におけるワクチン接種実験で、モデル抗原としてのIPPや微生物抽出物に応答して急速に増殖する(Chen and Letvin,2003)。また、ヒトにおける微生物感染では、末梢血中のVγ2Vδ2γδT細胞がしばしば急激に増殖し、末梢血中の全CD3細胞の60%以上を占めるレベルに達する。これらの知見は、ヒトVγ2Vδ2γδT細胞が微生物感染における免疫プロセスにおいて重要な役割を担っているという考え方を支持するものである(Morita et al,2000;Carding and Egan,2002;Chen and Letvin,2003)。病原体や共生細菌などの微生物に一般的に見られる非ペプチド抗原に対するVγ2Vδ2γδT細胞の特有の選択性は、Vγ2Vδ2γδT細胞のTCRが微生物由来の多様なリガンドに応答して、樹状細胞(DC)や他の抗原提示細胞(APC)の活性化及び成熟を引き起こすToll様受容体(TLR)と同様の機能を有すること、γδT細胞が先天性免疫系の細胞を動員するケモカインや、抗原提示細胞を刺激して顆粒球、マクロファージ、NK細胞による細菌への攻撃を促す炎症性サイトカインを速やかに分泌することによって病原体の除去に寄与していることを示唆するものである(Morita et al.,2000;Carding and Egan,2002;Chen and Letvin,2003)。Vγ2Vδ2γδT細胞はまた、感染または腫瘍性組織細胞を殺すナチュラルキラー細胞受容体を発現する。これらの知見は、TNF−αなどの炎症性サイトカインの分泌が局所的な適応免疫応答に寄与することも知られているが、γδT細胞は自然免疫機能を第一に行うものであるという考え方を支持するものである。これに対して、適応免疫応答におけるγδT細胞の直接的な関与を示す証拠は明らかなものではない。例えば、CD1拘束性T細胞はCD1−脂質複合体を提示する樹状細胞(DC)の成熟を誘導することが報告されている。また、更なる説明はなされていないものの、マウスでの実験によって、γδT細胞のB細胞応答における一定の役割が示され、加えて、ヒトγδT細胞はin vitroでの共培養でB細胞の応答を調節することが示された(Brandes et al.,2003)。更に、アカゲザルでの研究によってVγ2Vδ2γδT細胞はMycobacterium bovis 抗原に対してin vivoで記憶応答を起こすことが示された(Chen and Letvin,2003)。これらの知見は、γδT細胞がB細胞や樹状細胞といった適応免疫系の細胞と相互作用を行うことの根拠を与えるものである。こうした免疫調節機能の多くはγδT細胞によるサイトカイン産生によるものと結論づけられたか、あるいは説明がなされていない。これらの知見はいずれも、抗原提示におけるγδT細胞の役割を支持するものではない点は重要である。
【0004】
リンパ球の機能は、ケモカイン受容体及び接着分子の発現によって定義されるリンパ球の遊走能と密接に関連している(Moser et al.,2004)。すなわちαβT細胞は、a)リンパ節ホーミングケモカイン受容体CCR7を発現しているが、炎症性ケモカインの受容体は発現していないナイーブT細胞、b)異なる組合せのケモカイン受容体を有し、炎症部位での炎症状態を反映する接着分子を誘導可能な短寿命のエフェクター細胞、及びc)3つのサブセットからなる休眠状態の長寿命のメモリーT細胞に分けられる。T細胞の遊走能に基づいたT細胞サブセット間の相違(細胞表面におけるケモカイン受容体と接着分子の発現プロファイル)は、細胞の分化の状態と免疫プロセスにおける機能と密接に関係している。ケモカイン受容体及び接着分子の「プロファイリング」は、樹状細胞(DC)やT細胞、B細胞などの白血球サブセットの表現形及び機能的な定義に広く用いられている(Moser et al.,2004)。ヒト末梢血のγδT細胞の遊走能は、ヒト末梢血のαβT細胞の遊走能と大きく異なっている(Brandes et al.,2003)。最も特徴的な点として、大半(>80%)のVγ2Vδ2γδT細胞(以下、「γδT細胞」と呼ぶ)ではCCR7は発現しておらず、二次リンパ組織から排除されるが、炎症性遊走プロファイルは有している(Brandes et al.,2003)。対照的に、末梢血中のαβT細胞の大半(>70%)はCCR7を発現しており、このことは、αβT細胞が二次リンパ組織(脾臓、リンパ節、パイエル板)を常に再循環し、適当なMHC−ペプチド複合体の有無について抗原提示細胞のスキャニングを行うことと符合する。進行中の適応性免疫応答では、特定のαβT細胞群が同種抗原を提示している抗原提示細胞との接触によって活性化し、炎症部位へのホーミング能を有するCCR7ネガティブエフェクター細胞へと分化する。これに対し、末梢血のγδT細胞は、炎症部位で産生される炎症性ケモカインに応答して直ちに組織へと移動するための炎症部位遊走プログラムを有している。
【0005】
微生物抽出抗原や上述の小型の非ペプチド抗原(例、IPP)に対する応答のような活性化に際し、γδT細胞の遊走プロファイルは、炎症性ケモカインに対する受容体のダウンモジュレーションやCCR7の誘導に示されるように、炎症性からリンパ節ホーミングの表現型へと急速に変化する(Brandes et al.,2003)。αβT細胞と異なり、γδT細胞はリンパ節では比較的稀であり、このことはγδT細胞の活性化がこれらの部位に存在するMHC拘束を行う抗原提示細胞とは完全に独立して行われることと符合する(Brandes et al.,2003)。γδT細胞の存在頻度は、(特に胚中心における)疾病関連リンパ節において高く、γδT細胞の体液性(抗体)応答の開始ならびに他の適応性免疫プロセスに寄与している可能性を示唆するものである。
【0006】
要約すると、ヒトγδT細胞の遊走特性、及びリンパ節にしばしばγδT細胞が存在することは、適応免疫応答の開始におけるこの細胞の役割を示唆するものである。しかしながら、この役割についてはより明らかにはされておらず、また、γδT細胞が抗原提示細胞として機能していることを示す根拠も存在しない。
【0007】
樹状細胞(DC)
樹状細胞(DC)は白血球の一クラスであり、骨髄の造血前駆細胞から誘導され、上皮/粘膜組織(皮膚、気道、消化管、尿生殖路など)や二次リンパ組織(脾臓、リンパ節(LN)、パイエル板(PP)など)のような血管外部位に主に存在する(Banchereau and Steinman,1998;Steinman et al.,2003;Banchereau et al.,2004)。末梢血では、樹状細胞または樹状細胞の前駆細胞が単核白血球に占める割合は1%未満である。異なる樹状細胞のサブセットは、上皮の境界を形成する軟部組織に主として存在する間質性樹状細胞、真皮に存在するランゲルハンス細胞(LC)、及びリンパ節に対する選択的ホーミング能を有する形質細胞様樹状細胞などのように、組織における局在化の仕方が異なっている。これらの樹状細胞のサブセットは、完全に分化した非増殖性細胞であり、数日から数週間と限られた寿命を有するが、このことはこれらの細胞が安定的状態で骨髄由来の前駆細胞によって常に置き換えられていることを示している。対照的に、ヒトメモリーT細胞は何年にもわたって生き続け、安定的(恒常的)増殖によって維持されている。組織に存在する樹状細胞の主な機能は、局所での抗原の吸収とプロセシング、求心性リンパ管を介した流入領域リンパ節への抗原の移送、及び抗原特異的適応免疫応答の開始である(Banchereau and Steinman,1998;Steinman et al.,2003;Banchereau et al.,2004)。樹状細胞はまた、免疫寛容誘発的な条件下(炎症誘発性T細胞が共刺激されない)でT細胞に抗原が提示されると免疫寛容を誘導する。同様に抗原提示B細胞も免疫寛容を誘導することが示されている。自己抗原に対する免疫寛容の破綻はしばしば自己免疫疾患の原因となると考えられていることから、自己抗原を提示する免疫寛容誘発性樹状細胞は免疫恒常性の不可欠な調節因子である。正常な末梢組織では、樹状細胞は完全に分化しているが「未成熟」な状態で存在している。未成熟な樹状細胞は、局所的な感染、炎症または組織損傷部位へと速やかに動員されるように炎症性サイトカインに対する受容体を発現している。これらの細胞はそれ自体の免疫寛容誘発性は低い(一次適応免疫応答を誘導しない)が、(受容体を介したエンドサイトーシスや液相のピノサイトーシス機構による)抗原の取込み、抗原のプロセシング、細胞内のMHC−I/II分子へのペプチドの結合、及びその細胞表面への提示に特化している。未成熟樹状細胞はリンパ節ホーミング受容体であるCCR7を通常発現しておらず、このタイプの樹状細胞がどのようにして脾臓、リンパ節やパイエル板のT細胞領域に到達するかは現時点では解明されていない。Toll様受容体(TLR)を活性化するウイルスまたは細菌による刺激、ホスト細胞由来の炎症性メディエーター(特にインターフェロン[IFN]−g、腫瘍壊死因子[TNF]−a、インターロイキン[IL]−I、プロスタグランジンE2[PGE2]、組織増殖因子)、及びT細胞共刺激分子(CD40リガンド/CD154)など多くの成熟シグナルによって樹状細胞の「成熟」が誘導される(Banchereau and Steinman,1998;Steinman et al.,2003;Banchereau et al.,2004)。樹状細胞成熟の早期では、更なる樹状細胞や先天性免疫系の細胞(単核球、顆粒球、ナチュラルキラー細胞)の動員によって免疫応答を増強するために樹状細胞は高濃度の炎症性ケモカインを分泌する。この後、こうした炎症性遊走プログラムは、炎症性ケモカインに対する受容体がCCR7に置換されることを特徴とするリンパ節ホーミングプログラムに次第に移行していく。CCR7は、リンパ管及び脾臓、リンパ節やパイエル板のT細胞領域に存在する2種類のCCR7選択的ケモカインであるELC/CCL19及びSLC/CCL21に応答して、感作された樹状細胞が末梢組織から流入領域リンパ節へと有効に移動するうえで不可欠である。したがってCCR7の発現は成熟した、または成熟しつつある樹状細胞をマーキングするものである。リンパ節ホーミング能を有する以外に、成熟樹状細胞はその細胞表面に多数のMHC−I/II−ペプチド複合体と、ナイーブな(抗原刺激を受けていない)αβT細胞の適正な刺激に必要とされる多様な共刺激分子を安定的に発現している(Banchereau and Steinman,1998;Steinman et al.,2003;Banchereau et al.,2004)。樹状細胞は一次免疫応答においてナイーブαβT細胞を刺激する能力を有することから「プロフェッショナル」な抗原提示細胞とも呼ばれる。(抗原刺激を受けた)メモリーT細胞は活性化閾値が低く、弱い刺激レジメンに対しても応答する。a)末梢組織に存在する抗原プロセシングを行う未成熟樹状細胞と、b)組織からの流入領域リンパ節に移動した、抗原提示及び共刺激を行う成熟樹状細胞という2つの分化状態を区別する樹状細胞の機能的二重性は、樹状細胞の生理学における大きな特徴であり、局所の炎症、感染や組織損傷と密接な関連がある。最後に、適応免疫応答の結果(質及び量)は、主として応答開始の「モード」によって決定される。樹状細胞はリンパ節やパイエル板のT細胞領域内で、ナイーブT細胞に病原体の排除に必要な免疫応答のタイプについての「指示」を与えることが知られている(Banchereau and Steinman,1998;Steinman et al.,2003;Banchereau et al.,2004)。したがって組織の炎症環境は樹状細胞の成熟に直接影響し、樹状細胞が移動することから流入領域リンパ節内でのT細胞の分化も決定する。ナイーブT細胞は、特化したヘルパーT細胞のサブセット(特にIFN−g/TNF−aを産生する1型ヘルパーT(Th1)細胞、IL−4/IL−5/IL−13を産生する2型ヘルパーT(Th2)細胞)、調節性T細胞、細胞障害性T細胞(CTL)などのエフェクターへと分化する。エフェクターT細胞は炎症部位にホーミングし、迅速なエフェクター機能(サイトカイン分泌、感染/腫瘍細胞の溶解/障害)を行う細胞であって、その寿命は短い。一方、メモリーT細胞は一次免疫によって生じる長寿命の細胞であり、リコール抗原に対して優れた免疫応答を示す。
【0008】
免疫療法における樹状細胞
樹状細胞は、「天然の免疫賦活剤(アジュバント)」であり、言い換えれば、防御免疫応答の誘導を行う最も特化した細胞系を構成しているため、ヒトの免疫療法における使用が検討されている(Fong and Engleman,2000;Steinman et al.,2003;Schuler et al.,2003;Figdor et al.,2004)。考えられる応用領域としては、癌治療、病原体に対するワクチン接種(例えばヒト免疫不全ウイルス[HIV]−IやC型肝炎ウイルス)、自己免疫疾患の治療などがあげられる。現在用いられている樹状細胞療法のプロトコールでは以下の段階を行う。
【0009】

1.患者の血液からの前駆細胞の単離精製(骨髄由来CD34造血前駆細胞や末梢血のCD14またはCDHc細胞)。
【0010】

2.in vitro細胞培養による樹状細胞の生成。
【0011】

3.成熟樹状細胞にペプチドを提示させるためのin vitroでの抗原のローディング。
【0012】

4.ペプチド提示樹状細胞の単回または複数回注入による患者の治療。
【0013】
現在、免疫療法における樹状細胞の応用には幾つかの問題点がある(Fong and Engleman,2000;Steinman et al.,2003;Schuler et al.,2003;Figdor et al.,2004)。簡単に説明すると、樹状細胞の前駆細胞は、末梢血中において非常に少なく、また、in vitro培養で増殖しないため、患者から多量の血液サンプルを採取して繰り返し操作を行う必要がある。樹状細胞は機能的に不均一であり、反対の効果または望ましくない効果をもたらす場合がある(例えば、エフェクターT細胞の生成の代わりに免疫抑制を引き起こす)。さらに樹状細胞は機能的に不安定であり、不可逆的な一連の分化のステップを経て、免疫機能の低下(疲弊)を引き起こす場合がある。このため、in vitro操作による機能的に均一な樹状細胞製剤の調製は、極めて困難である。最後に、免疫療法で用いるためのペプチド提示樹状細胞の生成には高度な技術を要し、時間とコストが嵩む。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の概要
本発明は、抗原提示を行うヒトγδT細胞の簡便な単離方法及びin vitro調製方法、ならびに免疫療法における有効である抗原提示細胞(APC)としての当該細胞の使用を開示するものである。ヒトγδT細胞は、その能力と効果において樹状細胞と同様であり、抗原をプロセスして、抗原性ペプチドをαβT細胞に提示し、ナイーブαβT細胞に抗原特異的応答(増殖及び分化)を誘導する。γδT細胞は末梢血中に比較的高頻度で見出され(CD3T細胞の2〜10%)、多くの簡便な方法によって末梢血から容易に精製することが可能であり、簡単な刺激条件化でのin vitro培養で一日以内に「成熟」状態に達し(MHC−II及び基本的な接着分子及び共刺激分子の発現)、in vitro培養で7日間以上にわたって有効である抗原提示能を維持し、ヘルパーT細胞の強力な一次及び二次応答を誘導する。更に、γδT細胞は、保存して後に使用する目的でin vitro培養で容易に増殖させることができる。
【0015】
本発明は、有効である抗原提示ヒトγδT細胞の調製方法であって、ヒト末梢血の単核細胞からγδT細胞を選別し、選別された細胞を抗原提示能を誘導するための刺激で(抗原提示能の誘導の前、その間、または後に)処理し、抗原を細胞に投与することを行う方法、該方法によって調製された有効である抗原提示ヒトγδT細胞、免疫療法及び免疫療法で用いるための薬剤の製造における該細胞の使用、そうした有効である抗原提示ヒトγδT細胞による腫瘍、慢性または再発性感染症の治療方法、感染性または非感染性疾患を誘発する腫瘍または病原体に対するγδT細胞を標的としたワクチンによるワクチン接種方法ならびに薬剤の調製におけるそうしたγδT細胞標的化ワクチンの使用、新たな腫瘍または病原体由来抗原の特定方法、及びそうした有効である抗原提示ヒトγδT細胞を用いた患者の免疫能の診断方法に関する。
【0016】
発明の詳細な説明
「スキーム」に示したフロー図は、ヒト末梢血のγδT細胞を単離及びin vitro処理することによる、有効である抗原提示ヒトγδT細胞(Vγ2Vδ2γδT細胞、以下「γδT細胞」と称する)を調製するための本発明の方法を要約したものである。γδT細胞の単離及びin vitro増殖のプロトコールはそれ自体知られているものであるが、刺激と抗原の投与またはペプチドローディングとの特定の組合わせについてはこれまでに述べられていない。開始物質はヒト末梢血であり、これを分画遠心法または免疫吸着法を用いて処理することによって、それぞれ高純度の、増殖または新鮮単離γδT細胞を得る。抗原の投与、またはペプチドの負荷とともに短時間(例えば24時間)の刺激を加えることにより、免疫療法で使用するための有効である抗原提示能を有するγδT細胞が得ることができる。
【0017】
a)γδT細胞はイソペンテニルピロリン酸(IPP)または後述するγδT細胞に選択性を有する他の低分子量の非ペプチド化合物の存在下で末梢血リンパ球(PBL)を培養することで容易に増殖させることができる(Morita et al.,2000;Eberl et al.,2003)。IPPまたはγδT細胞に対して選択性を有する他の低分子量非ペプチド化合物を使用して後述するような選択されたγδT細胞に抗原提示能を誘導することもできる。10〜21日間の培養後には、増殖した生細胞の大半が(Vγ2Vδ2の)γδT細胞となる。これをFicoll−Paque遠心分離によって死細胞から分離し、直ちに抗原提示細胞(APC)生成に使用するか、あるいは液体窒素中で保存する。または実施例で述べるように、γδT細胞を末梢血単核細胞(PBMC)からポジティブ選択によって直接単離する。
(スキーム)

【0018】
b)抗原取り込み、抗原提示能、及び共刺激分子の発現を誘導するため、単離した新鮮または増殖γδT細胞を(Vγ2Vδ2)γδT細胞選択的化合物またはフィトヘマグルチニン(PHA)または後述する他の刺激因子で短時間(例えば、12〜96時間)刺激する。
【0019】
c)γδT細胞を刺激段階(b)の前、その間、または後に抗原で処理して抗原提示γδT細胞とする。この抗原投与段階は、例えば、腫瘍、微生物やウイルス感染細胞から得られるcomplex extractsや公知のタンパク質を添加したり、またはこれらの病原体由来のタンパク質をコードするDNA/RNAを、単離核酸物質として、または発現ベクターや弱毒ウイルスに組み込んだものとして添加して、γδT細胞にトランスフェクト/トランスダクトし、微生物、病原体または腫瘍細胞由来の抗原を内在的に発現させ、プロセスさせる、といった多くの異なる方法によって行うことができる。
【0020】
d)短時間の刺激段階の間にγδT細胞に抗原(タンパク質やDNA/RNA)を添加する(bとcの組み合わせ)代わりに、これらの段階を連続的に行ってもよい。その場合、刺激したγδT細胞に、タンパク分解によるプロセシングを必要としない公知のペプチド抗原を短時間「ロード」する。
【0021】
IPP以外にも、段階(a)での使用が考えられる(Vγ2Vδ2)γδT細胞に対する選択性を有する低分子量の非ペプチド抗原として、(E)−4−ヒドロキシ−3−メチル−ブト−2−エニルピロリン酸(HMB−PP)、エチルピロリン酸(EPP)、ファルネシルピロリン酸(FPP)、ジメチルアリルリン酸(DMAP)、ジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)、エチル−アデノシン三リン酸(EPPPA)、ゲラニルピロリン酸(GPP)、ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)、イソペンテニル−アデノシン三リン酸(IPPPA)、モノエチルリン酸(MEP)、モノエチルピロリン酸(MEPP)、3−ホルミル−1−ブチル−ピロリン酸(TUBAg1)、X−ピロリン酸(TUBAg2)、3−ホルミル−1−ブチル−ウリジン三リン酸(TUBAg3)、3−ホルミル−1−ブチル−デオキシチミジン三リン酸(TUBAg4)、モノエチルアルキルアミン、アリルピロリン酸、クロトイルピロリン酸、ジメチルアリル−γ−ウリジン三リン酸、クロトイル−γ−ウリジン三リン酸、アリル−γ−ウリジン三リン酸、エチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、イソ−アミルアミン、及び窒素含有ビスホスホネートが挙げられる。好ましくはB細胞や代替物によって提示されるIPPが投与される。
【0022】
ポジティブ選択は、例えばヒトVγ2Vδ2−TCRに対する抗体をヒト末梢血単核細胞に加えた(例、1〜3時間インキュベートする)後、磁気細胞分離にかけることによって行う。またポジティブ選択は、ヒトVγ2Vδ2−TCRに対する抗体をヒト末梢血単核細胞に加えた(Pan−γδT細胞選択)後、磁気細胞分離にかけることによっても行うことができる。
【0023】
段階(b)で抗原提示能を誘導するための刺激として有用な(Vγ2Vδ2)γδT細胞選択的化合物としては、IPPや段階(a)に関して上述した他の非ペプチド化合物(例、4−ヒドロキシ−3−メチル−ブト−2−エニルピロリン酸や関連する他の微生物代謝物)が挙げられる。また、抗原の取り込み、抗原提示能及び共刺激分子の発現を誘導するための刺激としてはPHAや他の置換物も有用である。
【0024】
刺激した細胞は、γδT細胞の増殖を阻害するために必要に応じて放射線照射する。
【0025】
段階(c)及び/または(d)でタンパク質として用いられる抗原の例としては、樹状細胞を抗原提示細胞として使用する免疫療法のプロトコールで今日用いられているもので、腫瘍細胞、感染性物質(ウイルス、細菌、酵母、寄生虫などの微生物)及び病原体毒素などの治療対象に関連するものが挙げられる。こうした抗原としては(これらに限定されるものではないが)、腫瘍関連抗原(腫瘍特異的な代謝性、構造性、及び細胞表面タンパク質など);ウイルス関連抗原(ウイルスによってコードされるエンベロープ、構造性、代謝性及び酵素タンパク質、例えば異なるウイルスクレードのHIVgp120タンパク質、HIV Tat、HIVプロテアーゼ、例えば肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、ヒトサイトメガロウイルス、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、ヘルペスウイルスなどに由来するエンベロープ、構造性、代謝性及び酵素タンパク質);細菌関連抗原(細菌によってコードされる細胞壁、構造性、代謝性及び酵素タンパク質など、例えばマイコバクテリア(例えば、M.tuberculosis、M.leprae)、リステリア菌、肺炎球菌、ブドウ球菌(例えば、S.aureus)、連鎖球菌(例えば、S.pyogenes、S.pneumoniae)、コレラ菌、破傷風菌などに由来するもの;酵母及び真菌類関連抗原(酵母/真菌によってコードされる細胞壁、構造性、代謝性及び酵素タンパク質など、例えばCandida albicans、Aspergillus fumigatusなどに由来するもの);及び病原体由来毒素(細菌のエンテロトキシン、例えばブドウ球菌エンテロトキシン、毒素性ショック症候群毒素、破傷風毒素など)が挙げられる。
【0026】
タンパク質として用いられる抗原の例としては更に、抗生物質による治療に対して高い耐性を示す細菌や世界的に生命に関わる疾病の原因となっている微生物(例えばマラリア原虫(例えば、P. falciparum, P. vivax, P. malariae)、リーシュマニア、トリパノソーマ、エントアメーバ、充血吸虫、フィラリアなど)に関連するものが挙げられる。
【0027】
段階(c)でRNA/DNAとして投与される抗原としては、血液や組織の細胞へのトランスフェクションプロトコールで今日用いられているものが挙げられ、上述したような腫瘍細胞、感染性物質(ウイルス、細菌、酵母、寄生虫などの微生物)や病原体関連毒素のタンパク質をコードするものが挙げられる(ただしこれらに限定されない)。
【0028】
「有効である抗原提示ヒトγδT細胞」において用いられる「有効である」とは、これらの細胞の抗原提示能が樹状細胞の抗原提示能と同等であることを意味する。「有効である」とは、例えば同様の条件下で樹状細胞の少なくとも10%の効果を有することを意味し、その差は細胞の形状や表面積といった細胞の形態の差にもとづくものである。
【0029】
短時間刺激したγδT細胞はケモカイン受容体であるCCR7を一様に発現する。このことは抗原提示細胞がリンパ節やパイエル板にホーミングするうえで必須条件であり、また、適応免疫応答の開始にとって重要な条件である。休眠状態の末梢血γδT細胞はMHC−II分子を発現していないことから、免疫寛容誘発的にペプチド抗原を提示することはできない。こうした「安全(safety)」を保障する仕組みがある点で、γδT細胞は免疫寛容誘導能を有する樹状細胞やB細胞などの他の抗原提示細胞とは異なっている。抗原提示γδT細胞の用途としては特に、腫瘍患者の治療における腫瘍に対する免疫応答の誘導及び/または改善、及び慢性感染症や不適当な免疫能を有する患者の治療における微生物やウイルスに対する免疫応答の誘導及び/または改善が挙げられる。更に抗原提示γδT細胞の免疫療法における有望な用途として、新たな腫瘍や強力な免疫原性を有する病原体由来の抗原の特定に用いることも可能である。また、免疫抑制患者の適応免疫能(免疫適格状態)を監視するためのγδT細胞の応用についても述べる。
【0030】
以下に本発明を、本発明の方法の効果を説明した付属の図面を参照して更に詳細に説明する。
【0031】
図1は末梢血から単離直後または刺激後に1日間または7日間培養したγδT細胞上の細胞表面分子の発現状態を示したものである。比較のため、1日間刺激したαβT細胞と単離したばかりの単核球上の同じ細胞表面分子についても調べた。図1に示した細胞表面分子には、MHC−II;ナイーブ及びメモリーT細胞上に存在する受容体CD28の2つの選択的リガンドである共刺激分子CD80及びCD86;CD27のリガンドであるCD70;CD154/CD40リガンドの受容体であるCD40、ならびに細胞同士の接触に関与する接着分子であるCD54/ICAM−1、CD11a/αLインテグリン及びCD18/β2インテグリンが含まれる。これらのデータは、新鮮単離γδT細胞はある程度の接着分子を有するが、ナイーブT細胞の活性化及び分化に不可欠なMHC−II分子及び共刺激分子を欠いていることを示している。これに対し、γδT細胞の短時間(1日間)刺激によってMHC−II及び共刺激分子が極めて高いレベルで発現し、接着分子の発現も更に増加した。注目すべき点として、CD40とCD54を例外としてこれらの細胞表面分子の発現レベルは7日間のγδT細胞の培養期間中一定に保たれるかまたは一層増加した。極めて対照的に、同じ分子(単核球上のCD86を除く)がαβT細胞及び単核球上では発現が中程度かあるいは発現しなかった。
【0032】
表1の数字は、γδT細胞及び比較のためαβT細胞、単核球、成熟樹状細胞上での細胞表面分子の発現を詳しく調べた結果をまとめたものである。表には図1に示した例以外に更なる細胞表面分子が含まれている。表中の数字は、平均蛍光強度(MFI)の平均値として表した平均の発現レベルと対応する標準偏差(SD)を示している。注目すべき点として、活性化γδT細胞上のMHC−II(HLA−DR)、共刺激分子及び接着分子の陽性度は成熟樹状細胞と同程度であるが、活性化αβT細胞及び単核球に見られる発現レベルよりは遥かに高い点である。図2及び表2はBrandes et al., 2003によって以前に報告された結果を示したものであり、本発明に関係する活性化ヒトγδT細胞の更なる特徴を説明するために示したものである。表2に示したケモカイン受容体の発現レベルでは、新鮮単離末梢血γδT細胞と刺激されたγδT細胞との間で、明らかな差異が認められる。末梢血中のγδT細胞は、炎症及び感染部位へ速やかに動員されるようにケモカイン受容体と接着分子(図1)を発現しているが、γδT細胞の短時間の活性化により、こうした炎症部位への遊走能は部分的に阻害され(CCR2及びCCR5のダウンレギュレーション)、代わりに、脾臓、リンパ節やパイエル板のT細胞領域に有効にホーミングされるようにCCR7の発現が速やかに誘導される。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
図2は、短時間活性化されたγδT細胞の遊走能をin vitroでの走化性分析によって評価した結果を示す(Brandes et al.,2003)。データは、活性化されたγδT細胞ではCCR7のリガンドであるSLC/CCL21に対する応答性が高く、CCR5(及びCCR1、CCR3)のリガンドであるRANTES/CCL5に対する応答性が大幅に低下していることを明らかに示している。このデータは更に、細胞表面の各ケモカイン受容体の発現レベルの変化は、対応するケモカインに対する遊走応答に直接反映されることを示している。
【0036】
まとめると、図1及び図2ならびに表1及び表2に示された結果は、刺激されているが休眠状態にない(新鮮単離)末梢血γδT細胞は、接着分子及び共刺激分子、ならびにリンパ節ホーミングやナイーブT細胞の刺激に必要とされるケモカイン受容体などの多くの不可欠因子を発現していることを示すものである。活性化によって誘導されるこうした遊走や抗原提示細胞関連のパラメータの調節は、活性化によって誘導される樹状細胞の変化とよく符合する(Banchereau and Steinman,1998;Steinman et al.,2003;Banchereau et al.,2004)。更にこれらのデータは、刺激されたヒトγδT細胞は樹状細胞に匹敵する強力な抗原提示細胞として機能することを示すものである。
【0037】
急速かつ多量な、抗原とは無関係の細胞クラスターの形成は、樹状細胞とT細胞の相互作用に特徴的であり、また、抗原とは無関係なナイーブT細胞の刺激及び分化にとっての必須条件である。図3は、刺激されたγδT細胞もまた、培養3時間以内にナイーブ(休眠)CD4αβT細胞と顕著な細胞クラスターを形成する様子を示したものである。注目すべき点としては、これらのクラスターが抗原の非存在下で形成される点であり、接着分子及び共刺激分子がこうした効果の原因となっている可能性を示唆するものである。γδT細胞は成熟樹状細胞と少なくとも同程度の有効性でクラスター形成を媒介する。対照的に、1日間の活性化を行ったαβT細胞や新鮮単離単核球(図示せず)ではその効果は大幅に低く、このことはこれらの細胞上での接着分子及び共刺激分子の発現レベルが低いことと符合する。これらのデータは、短時間の活性化を行ったγδT細胞が強力な抗原提示能を示すことの更なる証拠を与えるものである。
【0038】
活性化されたγδT細胞は更に、抗原特異的なCD4αβT細胞系の応答が引き起こされるよう、抗原を取り込み、プロセスして提示する能力を有する。図4は、短時間刺激した破傷風トキソイド(TT)提示γδT細胞、または対照としてのTT提示樹状細胞に応答してTT特異的CD4αβT細胞が増殖する様子を示したものである。TT特異的CD4αβT細胞系はγδT細胞と同じドナーから得られたものである。休眠状態のTT特異的CD4αβT細胞にCFSEをロードし、フローサイトメトリーによって培養細胞のCFSEシグナルの低下を測定することによって応答性細胞の増殖を調べた(実施例を参照)。細胞分裂の際、CFSEを含有する細胞質は2個の娘細胞に分割されることから毎回の細胞分裂によってCFSEシグナルは50%ずつ低下する。こうした分析によって、a)増殖細胞に対する非応答性細胞の割合(低下したCFSEシグナルに対するインプット/最大値)、b)異なる回毎の細胞分裂における細胞のサブセット、及びc)抗原提示細胞に応答した実験開始時の細胞の割合を決定することが可能である。こうした情報は、細胞増殖を調べるための別の方法であるH−チミジン取り込みアッセイでは得られないものである。図4は、γδT細胞がTT特異的CD4T細胞の増殖を誘導すること、及びTTの非存在下で刺激されたγδT細胞が不活性であることから、こうした応答が抗原に完全に依存していることを示している。CFSEシグナルが更に低下している(図4における蛍光シグナルの左方へのシフト)ことから、この結果は更に培養の4日目と6日目の間にもCD4T細胞が増殖し続けたことを示している。注目すべき点としては、こうした応答においてγδT細胞が成熟樹状細胞と同様の強力な効果を示す点であり、このことは短時間刺激されたγδT細胞が強力な抗原提示能を有することを示すものである。
【0039】
図5は、TT特異的増殖応答には、TT提示γδT細胞と応答性のTT特異的CD4αβT細胞(応答性細胞)との細胞接触が必要であることを示したものである。TT提示γδT細胞と応答性細胞を含む共培養から多孔質膜によって隔離されている応答性細胞は増殖しない。多孔質膜は、2個の培養区画間において、細胞の移動は阻止するが、可溶性メディエーターの移動は阻止しない。したがって図5の結果は、TT提示γδT細胞と応答性細胞の共培養で産生されたサイトカインや増殖因子は、別に培養された応答性細胞の増殖には何らの影響も及ぼさないことも示している。
【0040】
TCRが活性化されるとTCRの内在化が起こり、細胞表面のTCR及びCD3などのアクセサリー分子の発現が低下する。図6は、TT提示γδT細胞による、TT特異的応答性細胞におけるTCRの発現低下の誘導(図4参照)を細胞表面のCD3の発現量の低下によって評価した結果を示したものである。この結果、γδT細胞はTTを取り込んでプロセスし、TT由来のペプチドをMHC−II−ペプチド複合体として、TCRの結合に充分な態様でTT特異的応答性細胞に対して提示することが可能となる。活性化されているが休止状態にない末梢血γδT細胞は細胞表面にMHC−II分子を発現していることから、抗原提示能はγδT細胞の活性化と密接に関連していると考えられる。図6は更に、TCRの発現低下は刺激されたγδT細胞上のTTペプチドの密度の関数であることを示している。γδT細胞上のTTペプチドの密度は、γδT細胞を刺激する際に添加されるTTの量を変化させることによって制御される。明らかな点として、刺激されたγδT細胞上に存在するTT由来MHC−II−ペプチド複合体の量が多ければ多いほど、応答性細胞上のより多くのTCRが結合し、またその発現は低下する。γδT細胞と樹状細胞との間のTCRの発現低下(ダウンモジュレーション)に対する効果の差は、これらの細胞の形態が大きく異なることによるものであると考えられる。成熟した抗原提示樹状細胞の細胞表面積は、刺激されたγδT細胞の10倍以上である(Miller et al.,2004)。
【0041】
増殖に加えて、TT提示γδT細胞は、TT特異的CD4αβT細胞における活性化マーカーの発現を誘導する。図7は、応答性細胞の細胞表面での、CD25、ICOS及びCD134/OX40などのT細胞活性化マーカーのアップレギュレーションを示したものである。これらの活性化マーカーはTCR活性化に応答して新たに発現または増加する。これらの活性化マーカーがTTの非存在下で刺激されたγδT細胞によって誘導されることはないため、T細胞の増殖の誘導と同様、こうした活性化マーカーの高レベルの発現は、短時間刺激されたγδT細胞によるTT−ペプチドの提示に完全に依存していると考えられる。
【0042】
図8は、エプスタイン・バーウイルス(EVB)で不死化した異種B細胞及び自己応答性細胞はTT提示能を欠いていることを示している。γδT細胞を刺激するためのプロトコールの1つとして、自己のB細胞か、あるいはin vitro実験の便宜上、EBV−B細胞系(異種CP.EBV系)をIPP提示細胞として使用し、これを放射線照射したものを使用するものがある。図8は、TT処理したCP.EBV細胞はTT特異的CD4αβT細胞の増殖を誘導しなかったことを示しており、このことはCP.EBVの物質がTT−ペプチド提示γδT細胞で得られた強力な増殖応答と無関係であることを示している。更に図8は、αβT細胞系がそれ自体でTTを提示する能力は低いことを示している。
【0043】
TTについて図4〜8で示されたものと同様の効果が、複雑な未定義抗原であるMycobacterium tuberculosis精製タンパク質誘導体(PPD)でも得られる。図9は、抗原提示細胞としてのPPD−ペプチド提示γδT細胞またはPPD−ペプチド提示樹状細胞によって刺激した後、4日間または8日間培養した後のPPD特異的CD4αβT細胞の増殖応答を示したものである。この場合も実験は自己条件下で行った、すなわち抗原提示細胞(γδT細胞及び樹状細胞)及び応答性細胞(PPD特異的CD4αβT細胞系)は同じドナーから得た。TTに関して述べたのと同様に、増殖応答はPPD特異的であり、γδT細胞と樹状細胞との間で大きく異なることはなかった。またαβT細胞系自体はPPD特異的応答性細胞の増殖を誘導することはなかった。同じ抗原濃度では、γδT細胞及び樹状細胞はPPDと比較してより著明な応答をTTに対して誘導した。これはTT(Mr[TT]:150kDa)とPPD(Mr[PPD]:≧10,000kDa)との複雑さの差によるものと考えられる。PPDや微生物の全体のような複雑な抗原では、抗原性ペプチドのレパートリーが非常に多様であることから、各抗原提示細胞はまちまちなMHC−ペプチド複合体を低レベルで提示することになる。これと一致して、クローン化されたPPD特異的CD4αβT細胞のPPD提示抗原提示細胞との共培養では、TT系と比較して目立ったTCRの発現低下(downmodulation)は認められなかった(図6)。
【0044】
以上まとめると、TT特異的及びPPD特異的応答性細胞での実験によって、ヒト末梢血から得られる、刺激された(ただし休眠状態にはない)γδT細胞は、強力な抗原取り込み能、抗原提示能及びT細胞刺激能を有しているという本発明の知見が得られた。こうしたγδT細胞の能力及び効果は注目に値するものであり、樹状細胞に匹敵するものである。
【0045】
樹状細胞などの有効である抗原提示細胞の特徴は、ナイーブ(抗原刺激を受けていない)なT細胞が刺激され、そのT細胞がサイトカインを産生し、標的細胞を殺す能力を有する抗原特異的なエフェクターT細胞へと分化する一次適応免疫応答を誘導する能力にある(Banchereau and Steinman,1998;Steinman et al.,2003;Banchereau et al.,2004)。完全に分化したメモリーT細胞は活性化の閾値が低く、エフェクター細胞として機能するためには共刺激の非存在下でのTCR活性化で充分である。下記に示す図の実験結果は、刺激されたγδT細胞は樹状細胞に匹敵する抗原提示能を更に有することを示している。したがって抗原刺激を受けたCD4αβT細胞系(図4〜9)の代わりに単離したばかりの自己のナイーブCD4αβT細胞を応答性細胞として使用することが可能である。
【0046】
図10は、CFSE標識したナイーブCD4αβT細胞が、毒素性ショック症候群毒素(TSST−1)をロードした短時間刺激γδT細胞、及びTSST−1をロードした成熟樹状細胞に応答して増殖する場合の増殖度を、TSST−1をロードした刺激αβT細胞またはTSST−1をロードした新鮮単離単核球に対する応答と比較して示したものである。TSST−1は抗原提示細胞上のMHC−II分子に結合し、Vβ2鎖を有するαβTCRに対する選択性を有する。末梢血のCD3T細胞の4〜10%はVβ2であり、TSST−1提示抗原提示細胞に対して高い親和性で応答する。図10に示されるように、TSST−1をロードしたγδT細胞は、CFSEシグナルの低下によって示されるようにナイーブなVβ2T細胞の増殖の誘導に特化した抗原提示細胞であり、この応答は、Vβ2ネガティブTCRを有するナイーブCD4αβT細胞よりもVβ2TCRを有するナイーブCD4αβT細胞において顕著である。細胞増殖の終了後には、得られたメモリーT細胞の大半がVβ2TCRを発現している(表3も参照)。重要な点として、これらの増殖応答がTSST−1をロードした樹状細胞と同等である点である。こうした条件下では、TSST−1をロードしたαβT細胞または単核球は完全に不活性であり、このことはこれらの細胞におけるTSST−1の提示及び/または共刺激のレベルが有効であるT細胞の一次応答を誘導するには不十分であることを示している。
【0047】
【表3】

【0048】
ナイーブなCD4αβT細胞の増殖の速度論及び程度を決定する共刺激分子以外の主要なパラメータとして、抗原提示細胞上のMHC−II−TSST−1複合体の密度や抗原提示細胞と応答性細胞との比があげられる。図11は、異なる種類の抗原提示細胞に濃度を増大させてロードしたTSST−1に対して応答したVβ2ナイーブ応答性細胞の増殖の様子を示したものである。ナイーブCD4αβT細胞の添加に先立ち、抗原提示細胞を洗浄して過剰なTSST−1を除去した(実施例参照)。自己の抗原提示細胞としては、1日間または7日間刺激したγδT細胞、樹状細胞、新鮮単離単核球及び1日間刺激したαβT細胞を使用した。1日間刺激したγδT細胞は、1ng/ml程度の低いTSST−1濃度でT細胞の増殖応答を誘導し、最大応答に関しては樹状細胞と同程度の有効性であった。樹状細胞の約10倍高い効果は、樹状細胞の細胞表面積が大きいことに起因すると考えられる(Miller et al.,2004)。大きな表面積を有することにより、応答性細胞とのより高頻度かつ広範な接触が可能となる(図6も参照)。TSST−1をロードする前に7日間培養して増殖させた刺激γδT細胞においても顕著な増殖応答が見られた点は注目に値する。γδT細胞は明らかに長期にわたって抗原提示細胞の機能を維持したが、このことは、観察された接着分子及び共刺激分子の維持と符合する(図1及び表1も参照)。単核球及びαβT細胞はγδT細胞と比べて100倍以上効果が低かった。これらのデータは、刺激されたγδT細胞が高い抗原提示能を有することを示すものである。
【0049】
図12に示した実験では、抗原提示細胞をローディングする間にTSST−1の濃度を変化させる代わりに、TSST−1の濃度を100ng/mLまたは1ng/mLに維持し、ナイーブな応答性細胞に対する抗原提示細胞の比を1:5〜1:200の間で変化させた。ナイーブなVβ2CD4αβT細胞の増殖応答は図11と同様に分析を行った。1日間の刺激を行ったγδT細胞と樹状細胞との間には著明な差は認められず、抗原提示細胞の希釈度が最も高い場合(1:200)にも、増殖応答は最大応答の28%〜40%の範囲であった。これらのデータは更に有効である抗原提示細胞としてのγδT細胞の長所を示すものである。
【0050】
一次免疫応答では、ナイーブなCD4T細胞がそれぞれ1型(IFN−γ)、2型(IL−4)または0型(IFN−γ+IL−4)サイトカインを産生する分極化したTh1、Th2またはTh0細胞に分化する。ナイーブなCD4T細胞は、これらの分極化Th細胞のいずれかに分化する分化能を有する。T細胞の分極化は、ナイーブT細胞のプライミングのときに抗原提示細胞によって与えられる共刺激環境によって決定される。有効である抗原提示細胞は、ナイーブT細胞の増殖を誘導するばかりでなくナイーブT細胞のエフェクター細胞への分化も促進する。図13は、刺激されたγδT細胞は、エフェクターTh細胞を生成するための共刺激に関連して、有効にTSST−1を提示する能力を有することを示すものである。TSST−1をロードしたγδT細胞によるプライミングの4日後には、殆どのVβ2ナイーブCD4T細胞が増殖及びメモリーマーカーであるCD45ROの発現による応答を示している。培養21日後には、大半の細胞が休眠状態に戻り、CD45ROを均一に発現するVβ2T細胞となっている(表3)。重要な点として、大半の細胞がTh1、Th2またはTh0細胞に通常見られるサイトカインを産生しており、Th1への分極化がTSST−1をロードしたγδT細胞と応答性細胞との比を1:1に大きくすることで更に促進された点である。ここでもやはり樹状細胞の顕著な効果は、上述したような形態的な特徴によるものであると考えられる(Miller et al.,2004)(図6及び9も参照)。対照的に、抗原非特異的な活性化(フィトヘマグルチニン)はVβ2細胞の選択的増殖を引き起こさず(表3)、刺激したαβT細胞はCD45ROの発現及びナイーブなCD4αβT細胞の増殖を誘導しなかった(図13)。
【0051】
TT特異的及びPPD特異的CD4αβT細胞で見られたように(図5参照)、ナイーブなCD4αβT細胞の応答の誘導はTSST−1をロードしたγδT細胞との細胞接触に完全に依存している(図14)。刺激されたγδT細胞はナイーブCD4αβT細胞に強力な抗原特異的応答を誘導し、その増殖及び分化を有効である抗原提示細胞に一般的に見られる態様で促進する。
【0052】
CD4T細胞が抗原提示細胞上のMHCクラスII−ペプチド複合体を認識するのに対して、CD8T細胞は抗原提示細胞上のMHCクラスI−ペプチド複合体を認識する。MHCクラスI分子は、血液及び組織の細胞で広範に発現しているため、体内のすべての細胞はCD8T細胞の標的細胞となりうる。CD8T細胞はウイルス感染や腫瘍に対する防御において重要な役割を担っており、効果的なワクチン接種はしばしば抗原選択的な細胞障害性CD8T細胞の生成に依存する。図15は、Vδ2T細胞がCD8T細胞による一次応答を誘導するうえで極めて強力な抗原提示細胞として機能することを示したものである。抗原提示細胞としてIPPで刺激したγδT細胞、成熟樹状細胞またはスーパー抗原で刺激したαβT細胞(すべて同じドナーから得た)を用いた増殖アッセイにおいて応答性細胞としてナイーブな、抗原による刺激を受けていないCD8αβT細胞を使用した。γδT細胞はCD8αβT細胞の増殖を誘導するうえで樹状細胞と完全に同等またはこれを上回る効果を示したが、αβT細胞の抗原提示能は低かった。図16はγδT細胞が細胞障害性を有するエフェクターT細胞の分化を誘導することを示したものである。データは、ナイーブなCD8T細胞をアロ抗原特異的な細胞障害性T細胞へと分化させるうえでγδT細胞と樹状細胞とは同等の効果を有することを示している。以上まとめると、TCRによって刺激されたVδ2T細胞は、ナイーブなCD4及びCD8αβT細胞のいずれにおいても強力な炎症誘発性の応答を「プロフェッショナル」な抗原提示細胞と同様の態様で誘導することが示された。
【0053】
γδT細胞はまた、多くのタンパク質及び非タンパク質リガンドに対して選択性を有するC型レクチンDEC−205(CD205)やインテグリンサブユニットであるCD11bのようなエンドサイトーシス性の受容体も発現する。CD205及びCD11bは樹状細胞で高レベルで発現していることが知られている(Banchereau and Steinman,1998;Steinman et al.,2003;Banchereau et al.,2004)。図17は、γδT細胞が樹状細胞と同様、これらのエンドサイトーシス性受容体を高レベルで内在的に発現することを示したものである。樹状細胞に抗原を与えるための新規な方法と同様、これらのデータは、腫瘍や感染性物質に対するタンパク質ワクチンなどの抗原をγδT細胞に与えることによってin vivoで抗原プロセシング及び抗原提示させることが可能であることを示している。
【0054】
これらの実験結果は、ヒト末梢血の単核細胞からγδT細胞を選別し、選別された細胞を抗原提示能を誘導するための刺激で処理し、刺激された細胞に抗原を投与する、本発明の有効である抗原提示ヒトγδT細胞の調製方法によって、樹状細胞に匹敵する抗原提示細胞が提供されることを示している。
【0055】
特に、本発明は、γδT細胞の選別をヒトVγVδ−T細胞受容体に対する抗体を用いた磁気細胞分離によって行う、有効である抗原提示ヒトγδT細胞の調製方法に関するものである。また、γδT細胞の選別は、Vγ2Vδ2T細胞受容体鎖を発現しているγδT細胞の選択的増殖を誘導する、構造的に定義された低分子量の非ペプチド化合物の存在下(例えばB細胞や代替物によって提示されるようなIPPの存在下)で、新鮮単離された末梢血リンパ球を培養することによって行うことも可能である。
【0056】
本発明は更に、有効である抗原提示能を誘導するための刺激が低分子量の非ペプチド化合物または代替物またはフィトヘマグルチニンである前記方法、及び、前記抗原が、定義されたタンパク質、未定義のタンパク質混合物、または腫瘍や感染細胞からの粗抽出物または濃縮抽出物である前記方法に関する。投与される抗原としては例えば、病原体または腫瘍細胞由来のペプチド、または病原体由来タンパク質があげられる。病原体由来タンパク質は、病原体由来タンパク質の内在的な発現を可能とする条件下で病原体由来タンパク質をコードしたDNAまたはRNAとして、特に精製したDNAまたはRNA、またはDNAやRNAを含む導入ベクターとして投与される。抗原がDNAやRNAである場合、これらのDNAやRNAが適当に発現されるような条件が選択される。抗原はγδT細胞の刺激の前、その間、あるいは後に投与して抗原提示能を誘導する。抗原がペプチド(タンパク質断片)として投与される場合、抗原は「ペプチドローディング」と呼ばれる別の段階の後に投与することも可能である。
【0057】
本発明に基づいて調製される有効である抗原提示ヒトγδT細胞は本明細書で述べるように免疫療法に用いることが可能である。本発明のγδT細胞は公知の樹状細胞と同様に免疫療法に使用することが可能であり、末梢血中の存在が非常に少なく、in vitroで増殖できない、不均一かつ機能的に不安定であるといった樹状細胞の使用にともなう困難の解決を図ることができる。
【0058】
特に本明細書で述べる本発明に基づいて調製される有効である抗原提示ヒトγδT細胞は、免疫療法で用いるための薬剤(医薬組成物)の製造に使用することができる。
【0059】
本発明は更に、上述したような本発明に基づいて調製された有効である抗原提示ヒトγδT細胞を含み、特に前述または後述の疾患の治療に用いられる医薬組成物に関する。組成物は、静脈内、筋内、皮下、粘膜または粘膜下投与などのヒトに非経口投与されるものが特に好ましい。組成物は、薬学的に許容される担体とともに細胞を含んでいてもよい。本発明の細胞の用量は治療を要する疾患、年齢、体重、個々の患者の状態、個々の患者の薬物動態学的データ及び投与形態に応じて異なる。医薬組成物は、約0.01%〜約50%の本発明の細胞を含む。単位剤形としては、アンプルやバイアルが挙げられる。
【0060】
等張水性懸濁液で使用されることが好ましい。医薬組成物は、保存料、安定化剤、湿潤剤及び/または乳化剤、可溶化剤、浸透圧を調節するための塩類及び/または緩衝剤などの賦形剤を含んでいてもよく、従来の混合法などの公知の方法によって調製することができる。注射剤の製造、アンプルやバイアルなどへの充填、及び容器の密封は通常滅菌条件下で行われる。
【0061】
本発明は更に、治療を要する患者に有効である抗原提示ヒトγδT細胞を注射することを特徴とする腫瘍及び慢性または再発性感染症の治療方法に関する。本方法では特に、前記のγδT細胞、例えば当該細胞を含む医薬組成物を、皮内、皮下、筋内、静脈内、粘膜または粘膜下の投与経路によって単回または反復投与する。
【0062】
本発明の腫瘍の治療方法では、定義された腫瘍タンパクまたは腫瘍細胞の粗(未定義)抽出物の存在下で刺激したか、または生きた血液または組織細胞のトランスフェクション/トランスダクションに一般的に用いられる組み換えRNA/DNA技術で処理することによって得られたγδT細胞を使用する。細胞表面のMHC分子に直接ロードされる定義された腫瘍ペプチドが知られている場合、これらのペプチドを刺激したγδT細胞に添加、培養、洗浄した後、直ちに治療に用いることが好ましい。1回の投与で使用するγδT細胞の数、γδT細胞の投与の経路及び頻度は、使用される個々の腫瘍抗原による免疫応答誘導の有効性、及び個々の患者における腫瘍の種類や位置に応じて異なる点は重要である。好ましいプロトコールの例としては、1〜20×10細胞/0.5〜2mlの投与の後、同量もしくはそれ以下の量の細胞を2週間から2ヶ月の間隔で1回〜6回、追加投与する。
【0063】
本発明の慢性または再発性感染症の治療方法では、好ましくは弱毒化された、定義された感染性物質または感染細胞の粗(未定義)抽出物の存在下で刺激したか、または生きた血液または組織細胞のトランスフェクション/トランスダクションに一般的に用いられる組み換えRNA/DNA技術で処理することによって得られたγδT細胞を使用する。好ましい治療プロトコールは上述したものに準ずる。
【0064】
本発明は更に、非感染性または非腫瘍誘発性の抗原を投与した有効である抗原提示ヒトγδT細胞をワクチン接種が必要な患者に注射することを特徴とする腫瘍及び慢性または再発性感染症に対するワクチン接種方法に関する。ワクチン接種においては非感染性または非腫瘍誘発性の抗原を投与したγδT細胞を使用する点以外は上記と同様の方法を用いる。腫瘍抗原または感染性物質に対する患者のワクチン接種のための抗原提示γδT細胞ワクチンの調製ならびに当該細胞の投与は腫瘍免疫療法の説明に準ずる(上記参照)。好ましいプロトコールとしては、樹状細胞を用いたワクチン接種で現在用いられているプロトコールを用いることができる。こうした療法を受けた患者の免疫状態、言い換えればワクチン応答の質(効果、動態など)の評価方法については後述する。
【0065】
本発明は更に、γδT細胞標的化ワクチンを個体に投与することを特徴とする腫瘍に対する(予防または治療)ワクチン接種、及び感染性または非感染性疾患を誘発する病原体に対するワクチン接種の別の方法に関する。好ましくはこうしたγδT細胞標的化ワクチンは、ワクチン物質及びγδT細胞標的化分子からなるハイブリッド組成物である。γδT細胞標的化分子は、CD11bやCD205などのγδT細胞上のエンドサイトーシス性受容体に対して特異性を有する抗体またはリガンドである。ワクチン物質は、免疫防御されることが望ましいタンパク質や関連する分子である。
【0066】
γδT細胞標的化ワクチンの投与では、注射、経口投与や最適な免疫防御を誘導する他のワクチン接種プロトコールによってγδT細胞標的化ワクチンを個体に繰り返し処置する必要がある。
【0067】
本発明は更に、新たな腫瘍または病原体由来の抗原を特定するための方法であって、ヒト末梢血の単核細胞からγδT細胞を選別し、選別された細胞を高い抗原提示能を誘導するための刺激で処理し、未定義のタンパク質混合物の画分、腫瘍及び感染細胞からの粗または濃縮抽出物、または腫瘍及び感染性物質から得られたRNAまたはDNAライブラリーを投与し、自己ナイーブαβT細胞のin vitroでの活性化について試験し、異なる抗原の画分の活性化試験の結果を比較する方法に関する。
【0068】
この方法では、治療または予防ワクチン接種で使用するための新たな、または改良された抗原を特定するためのin vitroのスクリーニングツールとしてγδT細胞を利用する。γδT細胞の単離、選別及び刺激は有効である抗原提示ヒトγδT細胞の調製方法について述べたのと同様にして行う。抗原を投与する段階では、抗原の粗調製物(例、細胞抽出物や未定義混合物)や、腫瘍及び感染性物質から得られたRNA/DNAライブラリーを使用する。このように調製したγδT細胞を同じドナーから得たナイーブなαβT細胞(自己αβT細胞)の活性化について試験する。これらのin vitro免疫応答アッセイでは、αβT細胞の増殖、サイトカイン産生、またはαβT細胞の活性化を示す他の簡単な指標値を測定する。培養条件としては、図10〜14においてTSST−1提示γδT細胞に対するαβT細胞の応答に関して上述し、また実施例において述べるような条件が好ましい。異なる抗原の画分の活性化試験の結果と比較して、αβT細胞の応答が高ければその抗原源は免疫原性という点について、「活性有り(enriched)」であることを示す。該当する「活性有り」画分を更に処理し、更に分画された抗原について全実験サイクルを繰り返す。「活性有り」抗原源(タンパク質やDNAライブラリーの画分)を繰り返し分画することにより、最終的に、強い免疫刺激能を有する単一のタンパク質が得られる。こうした新たなタンパク質は、タンパク質切断によって更に処理し、抗原提示細胞に直接ロードすることが可能な(小型の)免疫原性ペプチドの生成について切断混合物を分析してもよい。
【0069】
本発明は更に、患者の免疫能を診断するための方法であって、ヒト末梢血の単核細胞からγδT細胞を選別し、選別された細胞を高い抗原提示能を誘導するための刺激で処理し、それに対する免疫能を決定すべき抗原を細胞に投与し、自己αβT細胞のin vitro活性化について試験する方法に関する。
【0070】
この方法では、γδT細胞及び同じドナーから得られた抗原特異的メモリーαβT細胞に対するその影響を、特定の抗原に関して患者の免疫能を診断するためのin vitroツールとして、またワクチン接種が有効であったかを判定するためのin vitroツールとして利用する。γδT細胞の単離、選別及び刺激は有効である抗原提示ヒトγδT細胞の調製方法について述べたのと同様にして行う。抗原を投与する段階では、それに対する免疫能を決定すべき特定の抗原を刺激したγδT細胞に投与する。培養条件及びαβT細胞の応答を調べる(in vitro免疫応答アッセイ)ための指標値としては、図10〜14ならびに実施例においてTSST−1提示γδT細胞に対するαβT細胞の応答に関して述べたようなものが好ましい。大きな相違点は、抗原提示γδT細胞による刺激の際に活性化した免疫応答(増殖、サイトカイン産生など)をナイーブなαβT細胞の代わりにメモリーT細胞を用いて調べる点である。免疫療法(ワクチン接種)が効果的である場合、抗原特異的なエフェクター/メモリーT細胞が産生されるが、これらの細胞は免疫状態のin vitroでの観察においてナイーブなαβT細胞と比較して数倍も高い免疫応答を示す。抗原特異的なメモリーαβT細胞は効果的なワクチン接種を受けた個体では高濃度で存在することから、これらのアッセイはバルク(分画化していない)αβT細胞を用いて行うことが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0071】
実施例
略号
DC:樹状細胞
LN:リンパ節
PP:パイエル板
TCR:T細胞抗原受容体
BCR:B細胞抗原受容体
MHC:主要組織適合遺伝子複合体
APC:抗原提示細胞
VδT細胞:VδTCR鎖を発現しているγδT細胞
Vγ2Vδ2T細胞:Vγ2Vδ2TCR鎖を発現しているγδT細胞
IPP:イソペンテニルピロリン酸
TT:破傷風菌毒素
PPD:結核菌精製タンパク質誘導体
TSST−1:毒素性ショック症候群毒素1
PHA:フィトヘマグルチニン
IFN−γ:インターフェロンγ
TNF−α:腫瘍壊死因子α
IL:インターロイキン
FACS:蛍光励起細胞分離装置
MFI:平均蛍光強度
SD:標準誤差
CFSE:カルボキシフルオロセイン・ジアセテート・スクシンイミジル・エステル
1.細胞の単離及び生成
γδT細胞
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を標準的プロトコールにしたがって、ヘパリン処理したドナー血液のバフィーコート、または新鮮血からFicoll−Paque遠心分離によって単離した(Brandes et al.,2003)。Miltenyi Biotec社の磁気細胞分離装置を用い、ヒトVγVδ−TCRに対する抗体によってPBMCからγδT細胞をポジティブ選択した。この方法によれば通常、50mlの新鮮血から2〜5×10個の細胞を98〜99%のγδT細胞の純度で得ることができる。
【0072】
ナイーブαβT細胞
抗原刺激を受けていないナイーブなCD4またはCD8αβT細胞(純度98〜99%)を、それぞれVγVδ−TCR、CD1c、CD14、CD16、CD19、CD25、CD45RO、CD56、HLA−DR及びCD4またはCD8に対する特異的抗原を用いたネガティブ磁気細胞分離によってPBMCから単離した後、これらのマーカーについて細胞をネガティブに染色する蛍光励起細胞分離を行った。
【0073】
αβT細胞系
ヒトCD4に対する抗体を用いて磁気細胞分離によりPBMCからCD4αβT細胞をポジティブ選択した。CD4αβT細胞を、TTまたはPPDを提示する放射線照射(30Gy)自己PBMCによって最初のサイクルで1:100、続くサイクルで1:10の比となるように刺激した後、IL−2含有培地で増殖させた。抗原性に基づく選択及び増殖を3サイクル繰り返した後、CFSEに基づく増殖アッセイ(後述)を行って抗原特異性を確認した。
【0074】
B細胞
ネガティブ磁気細胞分離によってPBMCからB細胞を単離した。B細胞はγδT細胞の刺激に直接用いるか(後述)、あるいは標準的なプロトコールにしたがったEBV誘発形質転換によりB細胞系を確立してからγδT細胞の刺激に用いた。
【0075】
単核球
ヒトCD14に対する抗体を用いたポジティブ磁気細胞分離によってPBMCから単核球を分離した。磁気的に捕集された細胞を分離カラムに流す前にカラムを厳密に洗浄することでCD14高発現(CD14high)単核球を高濃度で得た。
【0076】
樹状細胞
IL−4(10ng/ml)及びGM−CSF(25ng/ml)の存在下、10%FCSを含有する培地中でCD14高発現細胞を培養することによって単核球由来の樹状細胞を得た。6〜7日間の培養後、HLA■DR、CD1a、CD14、CD80、CD83、CD86及びCCR7に対する細胞表面の染色によって評価した結果、大半の細胞は未成熟であった。100ng/mlのLPS(Salmonella abortus equi由来)の存在下、更に8時間培養することによって樹状細胞の成熟を誘導した(Langenkamp et al.,2000)。細胞表面に存在する樹状細胞の成熟を示すマーカーであるHLA■DR、CD80、CD83、CD86及びCCR7についてフローサイトメトリー染色を行って樹状細胞の成熟を確認した。
【0077】
2.T細胞の刺激
γδT細胞
異種または自己のEBV形質転換B細胞系または初期B細胞によって提示されるイソペンテニルピロリン酸(IPP)50μMを1:10の希釈度で用い、前述したように(単離したばかりの)休眠状態γδT細胞を活性化した(Brandes et al.,2003)。γδT細胞を、8%ヒト血清を加えた培地中でIL−2(20または200IU/ml)の存在下培養した。
【0078】
αβT細胞
ポジティブ選択したαβT細胞を、10μg/mlの抗CD3抗体(OCT3)及び250ng/mlの抗CD28抗体(28.2)、または10ng/mlのフォルボール12−ミリスチン酸13−酢酸(PMA)及び1μg/mlのイオノマイシン、または1μg/mlのPHAでコーティングしたプレート上で活性化し、8%ヒト血清を加えた培地中でIL−2(200IU/ml)の存在下培養した。
【0079】
3.カルボキシフルオロセイン・ジアセテート・スクシンイミジル・エステル(CFSE)による標識
細胞をPBSで洗浄し、1%FCSを加えたPBS中で4分間、室温で2.5μMのCFSE(モレキュラー・プローブズ社、オレゴン州ユージーン)で標識した。5%FCSを加え、氷で冷やしたPBSで細胞を繰り返し洗浄することにより、標識を停止した。CFSE標識した細胞は直ちに細胞活性化及び増殖アッセイに使用した。
【0080】
4.In vitro抗原提示アッセイ
αβT細胞系に対する抗原提示
血液のγδT細胞を、10〜20μg/mlのTT(ベルナ・バイオテック社、ベルン、スイス)または20μg/mlのPPD(スタテンス・シーラム・インスティテュート社、コペンハーゲン、デンマーク)の存在下、IPPを提示する放射線照射(100Gy)異種EBV−B細胞系CP−EBV(上記参照)によって24〜60時間活性化した。単核球由来樹状細胞をTTまたはPPDと同じ時間培養し、最後の8時間に成熟させた(上記参照)。放射線照射(γδT細胞及び樹状細胞に対してそれぞれ26及び40Gy)及び集中的な洗浄の後、これらの抗原提示細胞を用いてTT及びPPD特異的CD4αβT細胞のクローンを(特に断らない限り)1:5の比で刺激した。培養中の異なる時点で、フローサイトメトリーで応答性細胞を活性化マーカー(HLA−DR、ICOS及びCD25)、TCRの内在化(細胞表面CD3の消失)及び細胞増殖(CFSEシグナルの低下)について調べた。
【0081】
ナイーブCD4αβT細胞のプライミング
γδT細胞及びαβT細胞の刺激後、または単核球由来樹状細胞の刺激後、またはPBMCからの単核球の単離後、これらの潜在的抗原提示細胞を異なる濃度の毒素性ショック症候群毒素(TSST−1)(トキシン・テクノロジー社、フロリダ州サラソタ)で1時間、37℃でパルスした。次いで潜在的抗原提示細胞を12Gy(樹状細胞は40Gy)で放射線照射し、よく洗浄してからCFSE標識したナイーブCD4αβT細胞と混合(通常1:5の比)した。一般的には96穴丸底プレートに外因性サイトカインを添加しない培地中、8×10個の抗原提示細胞と4×10個のCFSE標識した応答性細胞を入れる。4日後に細胞の増殖をフローサイトメトリーにより調べた。次いでTh細胞分化についてアッセイを行った。このアッセイでは、培養5日目に100IU/mlのIL−2を加えた後、10〜16日間、応答性細胞が増殖を停止して休眠状態に戻るまで細胞を増殖させた(Langenkamp et al.,2000)。21日目にTh細胞の分化を細胞内のサイトカイン産生を測定することによって調べた。細胞を10μg/mlのブレフェルジンA(シグマ・アルドリッチ社)の存在下、PMA/イオノマイシンで6時間刺激した後、2%パラホルムアルデヒドで固定し、2%FCSを加えたPBS中で0.5%サポニンによって透過性を与え、IL−2、IFN−γ、IL−4及びVβ2−TCRに対する抗体で染色してからフローサイトメトリーで分析を行った。
【0082】
CD8αβT細胞のプライミング
混合白血球応答において、放射線照射したIPP刺激γδT細胞、スーパー抗原で活性化したαβT細胞またはLPSで成熟させた樹状細胞を、CFSE標識した異種ナイーブCD8αβT細胞と共培養した。一般的には96穴丸底プレートに1穴当たり4×10個のCFSE標識した応答性細胞と、4×10個〜4個の抗原提示細胞を入れる。これにより抗原提示細胞:応答性細胞の比は1:1〜1:10,000となる。6日間の培養後、フローサイトメトリーで細胞の増殖を分析した。14日間のナイーブCD8αβT細胞との混合白血球応答後に、高濃度(1μM)及び低濃度(0.05μM)のCFSEでそれぞれ標識した異種(真の標的)及び自己(ネガティブコントロール)CD4T細胞の混合物と12時間共培養を行った後、フローサイトメトリーでCFSEシグナルを調べる細胞溶解アッセイを行ってCD8エフェクター細胞の生成を調べた。真の標的細胞のカウントの減少は、CD8エフェクター細胞による抗原特異的な細胞障害を示し、ネガティブコントロール細胞のカウントの減少はCD8エフェクター細胞による非特異的な細胞障害を示す。
【0083】
5.細胞培地
実験全体を通じて使用した培地は、2mMのL−グルタミン、1%非必須アミノ酸、1%ピルビン酸ナトリウム、50μg/mlペニシリン/ストレプトマイシン、5×10−5Mの2−メルカプトエタノール、及び10%FCS(ハイクローン・ラボラトリーズ社、ユタ州ローガン、またはギブコ ビー・アール・エル社)または8%ヒト血清(スイス・レッドクロス社、ベルン、スイス)を補ったRPMI1640培地である。ヒト組換えIL−2はミエローマ発現系を用いて産生されたものを使用した。
【0084】
6.フローサイトメトリー
細胞の調製
細胞を2%FCS及び0.01%ナトリウム−酸を補った氷冷PBS中で2回洗浄した。この細胞を10mg/mlヒト免疫グロブリンで10分間ブロックした後、多様な細胞タンパク質に対して特異性を有する一次抗体またはアイソタイプが一致したコントロール抗体とともに氷上で20分間インキュベートしてから、洗浄し、非標識一次抗体の場合には蛍光標識した二次試薬とともに更にインキュベートした。最後に洗浄した後、細胞の蛍光をFACSCaliburフローサイトメーター(ベクトン・ディキンソン社、カリフォルニア州サンホセ)によって測定し、記録されたデータをCellQuestProソフトウェア(ベクトン・ディキンソン)によって分析した。
【0085】
抗体
抗体は以下から入手した。マウスモノクローナル抗体である抗CD1a(HI149)、CD3(UCHT1)、CD4(RPA−T4)、CD8(HIT8α)、CD11b(D12)、CD14(MФP9)、CD16(3G8)、CD19(HIB19)、CD20(2H7)、CD25(M−A251)、CD40(5C3)、CD45RA(HI100)、CD45RO(UCHL−1)、CD50(TU41)、CD54(HA58)、CD56(B159)、CDw70(Ki−24)、CD80(L307.4)、CD83(HB15e)、CD86(2331;FUN1)、CD134(L106)、CD205(MG38)、HLA−DR(G46−6)、pan−VγVδ−TCR(11F2)、IL−2(MQ1−17H12)、IL−4(8D4−8)、IFNγ (B27)及びIL-10(No20705A)はBDファーミンゲン社(カリフォルニア州サンディエゴ)より;マウスモノクローナル抗体である抗CD1a(Nal/34−HLK)及びCD19(HD37)はダコ・ダイアグノスティクス社(グラストラップ、スウェーデン)より;マウスモノクローナル抗体である抗TCRVβ2(MPB2D5)はイミュノテック社(マルセーユ、フランス)より;マウスモノクローナル抗体である抗CD138(B−B4)はジアクローン社(ベサンコン、フランス)より;モノクローナル抗体である抗CD102(B−T1)はレインコ・テクノロジーズ社(ミズーリ州セントルイス)より;マウスモノクローナル抗体である抗CD11a(TS1−22)及びCD18(TS1−18)はR.パルディ社(ミラノ、イタリア)より;マウスモノクローナル抗体である抗ICOS(F44)は、R.A.クロツェック社(ベルリン、ドイツ)より;ラットモノクローナル抗体である抗CCR7(3D12)はM.リップ社(ベルリン、ドイツ)より入手した。これらの抗体をフローサイトメトリー分析または細胞の単離に使用した。また以下の二次抗体、接合体、及びコントロール抗体を使用した。RPE標識ヤギ抗マウスIgGはシグマ・アルドリッチ社(ミズーリ州セントルイス)より;RPE標識ロバ抗ラットIgGはジャクソン・イミュノリサーチ・ラボラトリーズ社(ペンシルベニア州ウエストグローブ)より;RPEならびにRPE−Cy5標識ストレプトアビジン(SA)はダコ社より;APC標識SAはBDファーミンゲン社より;マウスコントロールIgGI(MOPC21)はシグマ・アルドリッチ社より;他のアイソタイプコントロール抗体はBDファーミンゲン社より入手した。
【0086】
7.腫瘍または慢性/再発性感染症の免疫療法
刺激された腫瘍抗原提示γδT細胞を調製するため、腫瘍患者(または慢性/再発性感染症患者、下記参照)から50〜150mlの末梢血を採取し、γδT細胞の単離と抗原のロードを上述のようにして行った。また、単離したばかりのγδT細胞を20〜1000IU/mlのIL−2の存在下、Vγ2Vδ2TCR刺激条件下(前述のIPPによるγδT細胞の活性化の方法を参照)でin vitro培養することによって増殖させ、液体窒素中で保存し、後で腫瘍(またはワクチン、下記参照)抗原提示γδT細胞の調製に使用してもよい。定義された腫瘍/ワクチンタンパク質以外にも、腫瘍細胞の粗(未定義の)抽出物や感染細胞からの抽出物(下記参照)、あるいは生きた血液や組織細胞のトランスフェクションやトランスダクションに通常用いられる組換えRNA/DNA技術によるγδT細胞の処置など、γδT細胞に抗原を与える他の多くの方法が可能である点は重要である。また、細胞表面のMHC分子に直接ロードする腫瘍(またはワクチン、下記参照)ペプチドが既知のものである場合、こうしたペプチドを0.1〜10μg/mlの濃度で1〜10×10細胞/mlの細胞密度の刺激されたγδT細胞に添加し、この細胞を20〜37℃で短時間インキュベートしてから、等張リン酸緩衝溶液で2回洗浄し、直ちに治療に用いることも可能である。1回の投与で使用するγδT細胞の数、γδT細胞の投与の経路及び頻度は、使用される個々の腫瘍(またはワクチン、下記参照)抗原による免疫応答誘導の有効性、及び個々の患者における腫瘍の種類や位置に応じて異なる点は重要である。各プロトコールは樹状細胞による免疫療法で現在用いられているものにしたがう(Fong and Engleman,2000;Steinman et al.,2003;Schuler et al.,2003;Figdor et al.,2004)。すなわち、1〜20×10細胞/0.5〜2mlの投与の後、同量もしくはそれ以下の量の細胞を2週間から2ヶ月の間隔で1回〜6回、追加投与する。
【0087】
参考文献
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【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1A】刺激されたγδT細胞は多くの抗原提示分子、共刺激分子、接着分子を発現する。
【図1B】刺激されたγδT細胞は多くの抗原提示分子、共刺激分子、接着分子を発現する。
【0089】
末梢血から新鮮単離したか、IPPによる刺激後、1日間または7日間にわたってin vitro培養したγδT細胞(γδT)、抗CD3/CD28による1日間の刺激を行ったαβT細胞(αβT)、または新鮮単離末梢血単核球(M)について、フローサイトメトリーによる細胞表面分子の状態の観察を行った。各ドットブロットの上に示した数字は、in vitro培養の時間を示す。(0d)新鮮単離したもの、(1d)1日間、(7d)7日間。陽性度は、アイソタイプが一致したコントロール抗体による染色によって決定した。横線は、99%バックグラウンド染色のゲートを表す。
【図2】刺激されたγδT細胞は機能性CCR7を発現し、リンパ節ケモカインSLC/CCL21に応答する。
【0090】
これらのデータはBrandes et al.,2003より引用したものである。A)IPPで36時間刺激したγδT細胞の走化性応答を調べ、細胞中の比率(%)で示したもの(図に示したケモカインに応答して遊走した細胞の全細胞に対する%)。C=コントロール(ブランク)。B)CCR7の発現率をフローサイトメトリーによって調べた。n=細胞計数。実線及び破線はそれぞれIPP刺激した(走化性の図を参照)末梢血γδT細胞及び休眠状態の末梢血γδT細胞上のCCR7の発現率を示す。黒塗りのヒストグラムはアイソタイプ抗体によるコントロール染色を示す。
【図3】刺激されたγδT細胞とナイーブαβT細胞の急速かつ多量の凝集体の形成。
【0091】
1日間刺激したγδT細胞を自己ナイーブCD4αβT細胞と1:5の比率で3時間一緒に培養した(γδT、2例)。ポジティブ及びネガティブコントロールとして、成熟した単核球由来樹状細胞(DC)及び1日間刺激したαβT細胞(αβT)をそれぞれ自己ナイーブCD4αβT細胞と混合した。細胞は抗原性相互作用を排除するためすべて同一のドナーから単離した。蛍光顕微鏡法による特定を可能とするためナイーブCD4αβT細胞にCSFEをロードした。Zeiss−Axiovert35倒立顕微鏡を用いて生きた細胞の位相差顕微鏡写真と蛍光顕微鏡写真を撮影し、画像を重ねて合成した。
【図4】刺激されたγδT細胞は、休眠状態のCD4αβT細胞に強力なTT特異的増殖応答を誘導する。
【0092】
γδT細胞を20mg/mlのTTの存在下で1日刺激した後、洗浄し、CFSE標識したTT特異的αβT細胞に1:2の比で加えた。4日間(4d)及び6日間(6d)の培養の後、CD4細胞のCFSEシグナルをフローサイトメトリーで調べた(γδT(+TT))。ポジティブコントロールとして単核球由来の樹状細胞を20mg/mlのTTの存在下で成熟させ(DC(+TT))、この細胞を用いてTT提示γδT細胞と同じ条件下でαβT細胞を1:10の比で刺激した。ネガティブコントロールとして、αβT細胞をγδT細胞(γδT(−TT))及び樹状細胞(DC(−TT))と共培養し、TTの非存在下でそれぞれ刺激して成熟させた。ヒストグラムの上に示した横棒線は、非分裂(無応答)細胞のCFSEシグナルの位置を示す。n=細胞計数。
【図5】TT特異的CD4αβT細胞の増殖にはTT提示γδT細胞との接触が必要である。
【0093】
TT提示γδT細胞及びCFSE標識応答性細胞の調製ならびにデータ分析を図4と同様に行った。2室式組織培養システムを用い、TT提示γδT細胞及びTT特異的応答(CD4αβT)細胞を下室(B)に加え、応答性細胞のみを上室(A)に加えた。2室は多孔性膜で分離され、可溶性タンパク質は自由に通過できるが細胞は通過できなくなっている。ヒストグラムの上に示した横棒線は非分裂CFSE標識細胞のゲートを示す。
【図6】TT提示γδT細胞はTT特異的CD4αβT細胞にTCRダウンレギュレーションを誘導する。
【0094】
γδT細胞及び樹状細胞を0(TTを加えない)から1000mmg/mlまでTTの濃度を増加させてそれぞれ刺激し、成熟させ、休眠状態のTT特異的CD4αβT細胞と抗原提示細胞:応答性細胞の比が1:2となるように培養した。18時間後のαβT細胞上のCD3の発現レベルをフローサイトメトリーで調べ、TTを加えない細胞と比較した平均蛍光強度(MFI)の比率で示した。TT提示γδT細胞及び応答性細胞の調製ならびにデータ分析は図4と同様に行った。
【図7】TT提示γδT細胞はTT特異的CD4αβT細胞上に活性化マーカーの発現を誘導する。
【0095】
TT特異的CD4αβT細胞(応答性細胞)上における活性化マーカーCD25、ICOS及びOX40の発現レベルを、10mg/mlのTTの存在下(+TT)または非存在下(−TT)で刺激したγδT細胞と5日間培養した後にフローサイトメトリーで調べた(図4参照)。空白及び黒塗りのヒストグラムはそれぞれ特異的及びコントロールのアイソタイプ抗体による蛍光染色を示す。n=細胞計数。横棒線はマーカー陽性細胞のゲートを示し、各ヒストグラムの上に示した数字は陽性細胞の比率(%)で示した陽性度と平均蛍光強度(MFI)を示す。
【図8】異種EBV−B細胞及びTT特異的CDAαβT細胞はTT特異的応答性細胞に対してTTを機能的に提示しない。
【0096】
CP.EVB細胞、応答性細胞(TT特異的CD4αβT細胞)及びγδT細胞(ポジティブコントロール)を20mg/mlのTTの存在下で1日間培養した後、洗浄し、放射線照射してからTT特異的CD4αβT細胞に1:2の比率となるように加えた。3日間(3d)及び8日間(8d)の培養の後、CD4細胞のCFSEシグナルをフローサイトメトリーで調べた。CP.EVB細胞、応答性細胞の調製、CFSE標識及びフローサイトメトリーは実施例で述べたとおりである。
【図9】刺激されたγδT細胞は複合タンパク質抗原(PPD)のプロセス及び提示も有効に行うことができる。
【0097】
γδT細胞及び樹状細胞を20mg/mlのPPDの存在下(+PPD)または非存在下(−PPD)で刺激/成熟させ、休眠状態の自己PPD特異的CD4αβT細胞における増殖の誘導を調べた。更なるネガティブコントロールとして、PPD特異的CD4αβT細胞を、γδT細胞及び樹状細胞の非存在下かつ20mg/ml PPDの存在下で培養した。実験装置は図4と同じものを使用した。γδT細胞、樹状細胞の調製、PPD特異的CD4αβT細胞のCFSE標識、及びフローサイトメトリーは実施例で述べたとおりである。
【図10】TSST−1をロードしたγδT細胞は自己ナイーブCD4αβT細胞の増殖を誘導する。
【0098】
刺激したγδT細胞(γδT)、刺激したCD4αβT細胞(αβT)、成熟樹状細胞(DC)及び新鮮単離した血中単核球(M)に10ng/mlのTSST−1をロードし、新鮮単離したCFSE標識ナイーブCD4αβT細胞と1:5の比で混合した。4日間の培養後、Vb2αβT細胞(Vb2)の増殖応答をフローサイトメトリーで調べた。ドットブロット図中の縦線及び横線はVb2αβT細胞及び分割細胞のゲートを示す。左上及び左下の象限は、それぞれ分割Vb2細胞及び分割Vb2ネガティブ(Vb2neg)細胞を示し、右上及び右下の象限はそれぞれ非分割のVb2細胞及び非分割のVb2ネガティブ細胞を示す。数字は各象限内に存在する全細胞の比率を示す。細胞の調製、TSST−1のロード法及びフローサイトメトリーは実施例にもとづいて行った。
【図11】TSST−1をロードしたγδT細胞は、強力な抗原提示能を示す(TSST−1濃度の変化)。
【0099】
刺激したγδT細胞(γδT)及びαβT細胞(αβT)、樹状細胞(DC)及び単核球(M)にTSST−1の濃度を増加させてロードし、CFSE標識したナイーブCD4αβT細胞と1:5の比で混合した。4日間の培養の後、各培養ウェル毎に分裂したVb2αβT細胞の数(Vb2+T)をフローサイトメトリーによって調べた(図10の左上の象限)。試験を行った抗原提示細胞は図10に示したもの以外に、7日間の培養後、異なる濃度のTSST−1をロードした刺激γδT細胞(γδT7d)を用いた。各データポイントと誤差線は別々に行った2実験から得られた値の平均値±標準偏差(SD)を表す。データは別々に行った3実験の代表値である。細胞の調製、TSST−1のロード法及びフローサイトメトリーは実施例にもとづいて行った。
【図12】TSST−1をロードしたγδT細胞は、強力な抗原提示能を示す(抗原提示細胞濃度の変化)。
【0100】
刺激したγδT細胞と成熟樹状細胞に1mg/mlまたは100ng/mlのTSST−1をロードし、ナイーブCD4αβT細胞に増殖が誘導されるかについて異なる希釈度(1:5〜1:200)の抗原提示細胞:αβT細胞(抗原提示細胞:γδT細胞または成熟樹状細胞)を用いて試験を行った。細胞の調製、TSST−1のロード法及びフローサイトメトリーは実施例にもとづいて行った。
【図13A】TSST−1をロードしたγδT細胞は、ナイーブCD4αβT細胞のヘルパーT細胞への分化を誘導する。
【図13B】TSST−1をロードしたγδT細胞は、ナイーブCD4αβT細胞のヘルパーT細胞への分化を誘導する。
【0101】
10ng/mlのTSST−1をロードした刺激γδT細胞、αβT細胞または成熟樹状細胞をナイーブCD4αβT細胞と混合し、図10で述べたようにVb2応答性細胞の増殖について調べた。4日間の培養後、メモリーマーカーであるCD45ROの発現レベルと細胞の分裂度をVb2応答性細胞のフローサイトメトリーによって調べた。21日間の培養後に細胞が休眠した非増殖状態に戻った時点で、細胞をPMA/イオノマイシンで刺激して細胞内サイトカインであるIL−4及びIFN−γの産生についてフローサイトメトリーで調べた(図13B)。左上、右上及び右下の各象限の数字は、それぞれ生成したTh2、ThO及びTh1細胞の割合(全細胞の比率)を示す。各ドットブロット図の上に示した数字は、細胞培養の開始のときにおける応答性細胞に対する抗原提示細胞の比を示す。細胞の調製、TSST−1のロード法及びサイトカイン産生の判定法は実施例で述べたとおりである。
【図14】TSST−1をロードしたγδT細胞によるナイーブCD4αβT細胞の増殖の誘導は細胞接触に依存する。
【0102】
刺激したγδT細胞に100ng/mlのTSST−1をロードし、CFSE標識したナイーブCD4αβT細胞を、単独で(A)またはγδT細胞と(B)、抗原提示細胞:応答性細胞の比が1:5となるように培養した。2室式培養システムとCFSEフローサイトメトリーのデータ分析は図5に示した。
【図15】γδT細胞は一次CD8T細胞の応答を誘導する。
【0103】
ナイーブなCD8αβT細胞と、異種IPPで刺激したγδT細胞(丸)、LPSで成熟させた単核球由来樹状細胞(四角)、またはスーパー抗原で刺激したαβT細胞(三角)とを抗原提示細胞:応答性細胞の比を減少させて反応させた混合白血球応答(6重で行った実験の代表値)。CFSE標識したCD8応答性細胞の増殖応答を図5で述べたようなフローサイトメトリーデータ分析法によって評価した。
【図16A】γδT細胞はナイーブなCD8細胞の細胞障害性T細胞への分化を誘導する。
【図16B】γδT細胞はナイーブなCD8細胞の細胞障害性T細胞への分化を誘導する。
【0104】
図15で述べたような混合白血球応答から誘導されたCD8T細胞を14日間の培養後に細胞障害活性について調べた。細胞障害性アッセイでは、エフェクター細胞(混合白血球応答から誘導されたCD8T細胞)とCFSE標識した標的細胞を使用した。標的細胞の混合物として真の標的細胞(異種CD4αβT細胞)とネガティブコントロールの標的細胞(自己CD4αβT細胞)を1:1の比で含有するものを用いた。真の標的細胞及びネガティブコントロールの標的細胞は、これら2つの標的細胞のサブセットを区別するために混合前に異なる濃度のCFSEで標識した。
【0105】
(A)エフェクター細胞の非存在下での標的細胞混合物のフローサイトメトリー分析では、ネガティブコントロール(C)と真の標的細胞(T)の細胞集団が認められた。
【0106】
(B)CD8T細胞と標的細胞とを30:1、10:1、3:1及び1:1の比で12時間共培養した後、標的細胞の障害度を真の標的細胞集団の数の減少を測定することによって評価した(矢印)。各矢印の横に示した数字は特異的な細胞障害率を示し、CFSEによる蛍光が高い細胞計数(真の標的細胞)の減少を、CFSEによる蛍光が低いコントロール細胞計数と比較したものである。
【0107】
左列:抗原提示細胞としてIPPで刺激したγδT細胞を用いた混合白血球応答からCD8細胞が誘導された。
【0108】
右列:抗原提示細胞として成熟樹状細胞を用いた混合白血球応答からCD8細胞が誘導された。
【図17】γδT細胞はエンドサイトーシス性の細胞表面タンパク質DEC205(CD205)及びCD11bを高レベルで発現する。
【0109】
末梢血から新鮮単離したγδT細胞(γδT)及び成熟樹状細胞(DC)を図7で述べたようにフローサイトメトリーによってCD205及びCD11bの発現レベルについて分析した。ドットブロット図中の縦線及び横線はCD205またはCD11bを発現している細胞のゲートを示す。図の右上の象限は、CD205及びCD11bの双方について陽性を示した細胞を示す。数字は各象限内に存在する全細胞の比率を示す。陽性度は、アイソタイプが一致したコントロール抗体による染色によって決定した。横線または縦線は、99%バックグラウンド染色のゲートを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効である抗原提示ヒトγδT細胞の調製方法であって、
ヒト末梢血の単核細胞からγδT細胞を選別し、
前記選別された細胞を抗原提示能を誘導するための刺激で処理し、
該細胞によって取込み、提示されるための抗原を細胞に投与する調製方法。
【請求項2】
γδT細胞の選別を、標準的プロトコールにより、ヒトVγVδT細胞受容体に対する抗体を用いた磁気細胞分離によって行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
γδT細胞の選別を、Vγ2Vδ2T細胞受容体鎖を発現しているγδT細胞の選択的増殖を誘導する、構造的に定義された低分子量の非ペプチド化合物の存在下、新鮮単離末梢血リンパ球を培養することによって行う請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記構造的に定義された低分子量の非ペプチド化合物がイソペンテニルピロリン酸である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記抗原提示能を誘導するための刺激が低分子量の非ペプチド化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記構造的に定義された低分子量の非ペプチド化合物がイソペンテニルピロリン酸である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記構造的に定義された低分子量の非ペプチド化合物が4−ヒドロキシ−3−メチル−ブト−2−エニルピロリン酸である請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記抗原提示能を誘導するための刺激がフィトヘマグルチニンである請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記投与される抗原が、定義されたタンパク質、未定義のタンパク質混合物、または腫瘍もしくは感染細胞からの粗もしくは濃縮抽出物である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記投与される抗原が、病原体または腫瘍細胞由来のペプチドである請求項1に記載の方法。
【請求項11】
抗原が病原体由来のタンパク質であり、該タンパク質の内在的発現を可能とする条件下でそれをコードするDNAまたはRNAとして投与される請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記DNAまたはRNAが、精製されたDNAまたはRNA、またはDNAまたはRNAを含む導入ベクターである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1の方法によって調製された有効である抗原提示ヒトγδT細胞。
【請求項14】
有効である抗原提示ヒトγδT細胞の免疫療法における使用。
【請求項15】
免疫療法またはワクチン接種に用いる薬剤の製造における有効である抗原提示ヒトγδT細胞の使用。
【請求項16】
治療を要する患者に有効である抗原提示ヒトγδT細胞を注射することを特徴とする腫瘍または慢性もしくは再発性感染症の治療方法。
【請求項17】
前記注射が、皮内、皮下、筋内、静脈内、粘膜または粘膜下の投与経路から前記γδT細胞を単回または反復投与することによって行われる請求項16に記載の方法。
【請求項18】
慢性または再発性感染症を誘発する腫瘍または物質に対するワクチン接種法であって、細胞に取込み及び提示させるための非感染性かつ非腫瘍誘発性の抗原を投与した有効である抗原提示ヒトγδT細胞をワクチン接種が必要な患者に注射する方法。
【請求項19】
免疫療法またはワクチン接種に用いる薬剤を製造するためのγδT細胞標的化ワクチンの使用。
【請求項20】
ワクチン接種が必要な患者にγδT細胞標的化ワクチンを投与する感染性または非感染性疾患を誘発する腫瘍または物質に対するワクチン接種法。
【請求項21】
γδT細胞標的化ワクチンがワクチン物質及びγδT細胞標的化分子からなる請求項20に記載の方法。
【請求項22】
γδT細胞標的化分子がγδT細胞上のエンドサイトーシス性受容体に対する特異性を有する抗体またはリガンドである請求項21に記載の方法。
【請求項23】
γδT細胞標的化分子がCD11b及びCD205に対する特異性を有する抗体またはリガンドである請求項21に記載の方法。
【請求項24】
ワクチン物質が免疫防御することが望ましいタンパクである請求項21に記載の方法。
【請求項25】
γδT細胞標的化ワクチンの投与が反復注射または反復経口投与によって行われることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項26】
新たな腫瘍関連または病原体由来の抗原を特定するための方法であって、
ヒト末梢血の単核細胞からγδT細胞を選別し、
選別された細胞を高い抗原提示能を誘導するための刺激で処理し、
未定義のタンパク質混合物の画分、あるいは腫瘍及び感染細胞からの粗または濃縮抽出物、あるいは腫瘍及び感染性物質から得られたRNAまたはDNAライブラリーを投与し、
自己ナイーブαβT細胞のin vitroでの活性化について試験し、
高い抗原性を示したタンパク質試料を選別する方法。
【請求項27】
患者の免疫能を診断するための方法であって、
ヒト末梢血の単核細胞からγδT細胞を選別し、
前記選別された細胞を抗原提示能を誘導するための刺激で処理し、
免疫能が決定されるべき抗原を細胞に投与し、
自己αβT細胞のin vitro活性化について試験する方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【公表番号】特表2008−509683(P2008−509683A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−526161(P2007−526161)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【国際出願番号】PCT/CH2005/000469
【国際公開番号】WO2006/017954
【国際公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(507052337)ユニバーシティ オブ ベルン (1)
【Fターム(参考)】