抗原的に標識した非感染性レトロウィルス様粒子
【課題】 HIVまたは別のレトロウィルスによる感染と、免疫原性製剤による免疫感作との間を識別することを可能とする非感染性レトロウィルス様粒子の提供
【解決手段】 非感染性レトロウィルス様粒子は、env遺伝子産物、pol遺伝子産物およびgag遺伝子産物のアセンブリを有し、非レトロウィルス性または非HIVレトロウィルス性である抗原マーカーを有する。該マーカーは、抗原的に活性な挿入部位のgag遺伝子産物に挿入されたエピトープを有するアミノ酸配列、あるいは、内因性アンカー形成機能部分に置換するenv遺伝子産物に操作的に連結された抗原性アンカー配列である。さらには、env遺伝子産物の免疫優性領域の修飾により、実質的に免疫優性領域の認識を防止する。抗原マーカーに特異的な抗体の存在は、抗レトロウィルス抗体を有する抗血清が、非感染性レトロウィルス様粒子による免疫感作よって生じたことを証する。
【解決手段】 非感染性レトロウィルス様粒子は、env遺伝子産物、pol遺伝子産物およびgag遺伝子産物のアセンブリを有し、非レトロウィルス性または非HIVレトロウィルス性である抗原マーカーを有する。該マーカーは、抗原的に活性な挿入部位のgag遺伝子産物に挿入されたエピトープを有するアミノ酸配列、あるいは、内因性アンカー形成機能部分に置換するenv遺伝子産物に操作的に連結された抗原性アンカー配列である。さらには、env遺伝子産物の免疫優性領域の修飾により、実質的に免疫優性領域の認識を防止する。抗原マーカーに特異的な抗体の存在は、抗レトロウィルス抗体を有する抗血清が、非感染性レトロウィルス様粒子による免疫感作よって生じたことを証する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫学の分野に関するものであり、詳細には、抗原的に標識した非感染性レトロウィルス様粒子(シュードウィルス粒子(pseudovirion)と称される場合もある)に関する。
【0002】
関連出願の引用
本願は、1994年8月15日出願の米国特許出願08/290105号の一部継続出願である。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ヒト免疫不全ウィルスはヒトレトロウィルスであり、後天性免疫不全症候群(AIDS)の病原体である。1981年に米国でAIDSが最初に報告されて以来、194000名を超える人がAIDSによって死亡し、米国のみで330000例を超えるHIV感染が報告されている。世界的には、1400万人を超える人々がHIVに感染していると推定されている。
【0004】
100種類を超えるAIDS関連の医薬品がヒトでの治験中であるか、あるいはFDA承認を待っているが、現在この疾患に対する治療法はない。
【0005】
従って、ワクチン候補剤として、診断アッセイおよびキットにおける抗原として有用な免疫原性製剤や、HIVその他のレトロウィルス性の疾患および感染の診断用の免疫試薬の登場が必要とされていることは明らかである。
【0006】
特定の先行技術の免疫原性製剤には、非感染性非複製性HIV様粒子などがある。そこで、1993年10月14日公開のPCT出願WO93/20220号および1990年5月2日公開のWO91/05860号(Whitehead Institute for Biomedical Research)では、ゲノムRNAパッケージング(packaging)に必須のヌクレオチド配列に変化を有するHIVゲノムを有してなる構造体と、哺乳動物細胞でのこれら構造体の発現によって得られる非感染性免疫原性HIV粒子の製造が記載されている。
【0007】
1991年5月30日公開のPCT出願WO91/07425号(Oncogen Limited Partnership)には、発現レトロウィルス蛋白が発生するレトロウィルス粒子中にアセンブリされるような形で成熟レトロウィルスコアおよびエンベロープ構造蛋白の同時発現(coexpression)によって得られる非複製性レトロウィルス粒子について記載されている。特定の非複製性HIV−1様粒子は、HIV−1gag遺伝子とプロテアーゼ遺伝子を有する組換えワクシニアウィルスとHIV−1env遺伝子を有する組換えワクシニアウィルスにより哺乳動物宿主細胞を同時に感染(coinfecting)させることで得られている。
【0008】
本願譲受人の名前で公開されたPCT出願WO91/05864号(本願の引用出願に含まれている)には、天然コンホメーションに少なくともgag、polおよびenvの蛋白を有し、長い末端反復を欠失し、その天然ゲノム配置にgag、polおよびenv遺伝子を有する修飾レトロウィルスゲノムによってコードされた特定の非感染性非複製性レトロウィルス様粒子が記載されている。
【0009】
AIDSに対してはワクチンも有効な治療法もなく、しかもそのような先行技術のHIV様粒子はその天然コンホメーションに多くのHIV蛋白を有することから、それによって免疫感作された宿主は、HIVによる感染とは免疫的に識別できない免疫応答を起こす可能性がある。現在は、HIV感染者から得た熱失活抗HIV抗血清と失活HIVが多くの診断法の成分として市販されている。安全性、取り扱い易さ、輸送、保管および使用のため、そのような熱失活抗血清および抗原を、上述のような非感染性HIV粒子を用いた免疫感作によって生じる非感染性HIVおよび抗血清に切り換えることが好ましいと考えられる。さらに、これらの非感染性HIV粒子を用いた免疫感作によって生じる抗血清は、熱失活による感染性HIV除去を行う必要がない。しかしながら、HIV感染は重大であることから、失活HIVとビルレントHIV粒子および非感染性非複製性HIV粒子によって得られた非感染性非複製性HIV粒子および抗血清とを区別できることが望ましい。そこで、AIDSワクチン候補剤、免疫原性製剤ならびに診断法および診断キットの開発において、免疫的その他の方法でビルレントHIVと識別可能なHIV様粒子を提供することは有用であると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明の概要
本発明は、HIVまたは別のレトロウィルス、特にヒトレトロウィルスによる感染と免疫原性製剤による免疫感作との間を識別する能力に関するものである。
【0011】
本発明はさらに、失活ビルレントHIV粒子と非感染性非複製性HIV様粒子とを識別する能力に関するものでもある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、非感染性レトロウィルス様粒子にマーカーを組み込むものである。
【0013】
従って1態様において、本発明は、
(a)env遺伝子産物、(b)pol遺伝子産物、(c)gag遺伝子産物のアセンブリ、ならびに
(d)非レトロウィルス性または非HIVレトロウィルス性である少なくとも1個の抗原マーカーを含んでなる非感染性レトロウィルス様粒子を提供する。
【0014】
少なくとも1個の抗原マーカーは約5〜約100個のアミノ酸残基、特には約10〜約75のアミノ酸残基を有することができる。抗原マーカーは、別のウィルスからの抗原性エピトープを少なくとも1個有することができる。1実施態様において本発明は、タバコモザイクウィルス(TMV)コート蛋白からの少なくとも1個の抗原性エピトープ、具体的にはアミノ酸配列AFDTRNRIIEVEN(配列番号1)、あるいはこの配列を認識する抗体を誘導することができる、該配列の一部、変化体もしくは突然変異体、またはそのようなアミノ酸配列の複数(具体的には1〜4個)のコピーなどによって説明される。
【0015】
抗原マーカーには、いずれか簡便な方法で、env、polおよびgag遺伝子産物のアセンブリ中に組み込むことができる。
【0016】
本発明の1実施態様においては、マーカー配列をgag遺伝子産物内に持たせて、未修飾gag遺伝子産物の粒子形成性を有するハイブリッドgag遺伝子産物を形成する。マーカー配列は、抗原的に活性な挿入部位でgag遺伝子産物に抗原マーカーを挿入することでgag遺伝子産物中に入れることができる。
【0017】
本発明の具体的な1実施態様においては、挿入部位は、HIV−1 LAI単離物のgag遺伝子産物のアミノ酸残基210と211の間に位置する部位あるいは他のレトロウィルスgag遺伝子産物の相当する箇所とすることができる。
【0018】
マーカー配列は、レトロウィルス蛋白のエピトープに相当するアミノ酸配列の産生を欠失させるかあるいは防止することで得ることもできる。例えばそのようなエピトープは、内因性アンカー形成機能部分(function)を与える免疫優性領域gp41を有することができる。そのような内因性アンカー形成機能部分をこのようにして除く場合、別の抗原性アンカー配列によってアンカー形成機能部分を与える。別法として、env遺伝子産物の免疫優性領域を、その領域からの少なくとも1個のアミノ酸を置換または除去することで修飾して、レトロウィルス感染宿主からの血清によって生じる突然変異において免疫優性領域の認識を実質的に防止することができる。
【0019】
本発明のこの実施態様においては、レトロウィルスをHIVとすることができ、その免疫優性領域はアミノ酸配列LGIWGCSGKLIC(配列番号27)を含むものとなる。そこにおいてもたらされる変異の具体的なアミノ酸配列には、LGIWGCTGRKILC(配列番号28)、LGIWGCAFRLIC(配列番号29)およびLGIWGCTLELIC(配列番号30)が含まれる。
【0020】
従って、本発明の別の態様においては、
(a)内因性アンカー形成機能部分が、レトロウィルス様粒子に当該env遺伝子産物をアンカーする機能を果すように、当該env遺伝子産物に対して連結しされている異種のアンカー配列によって置換されてなる、修飾env遺伝子産物、
(b)pol遺伝子産物、
(c)gag遺伝子産物のアセンブリを有してなる非感染性レトロウィルス様粒子が提供される。
【0021】
アンカー配列は抗原性であることができ、約5〜約100のアミノ酸残基、好ましくは約10〜約75のアミノ酸残基を有することができる。アンカー配列は、膜スパニング(spanning)蛋白のトランスメンブラン成分の一部、特には糖蛋白を少なくとも有することができる。そのような糖蛋白はインフルエンザウィルス蛋白、特にはヒトインフルエンザウィルス蛋白もしくはトリインフルエンザウィルス蛋白などの簡便な糖蛋白であることができる。
【0022】
アンカー配列には、
アミノ酸配列WILWISFAISCFLLCVVLLGFIMW(配列番号2)またはその配列を認識する抗体を産生する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体、
アミノ酸配列STVASSLALAIMIAGLSFWMCSNGSLQ(配列番号3)またはその配列を認識する抗体を産生する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体、あるいは
アミノ酸配列WILWISFAISCFLLCVVCWGSSCGPAKKATLGATFAFDSKEEWCREKKEQWE(配列番号4)またはその配列を認識する抗体を産生する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体などがあり得る。
【0023】
好ましくは、アンカー配列は、env遺伝子産物の機能性開裂部位の上流で、かつ隣接させて、env遺伝子産物内に挿入する。挿入部位は好ましくは、HIV−1 LAI単離物のenv遺伝子産物のアミノ酸残基507および508の間あるいは他のレトロウィルスenv遺伝子産物の相当する箇所とする。
【0024】
本発明のいずれかの態様に従って提供されるレトロウィルス様粒子は好ましくは、env、polおよびgag遺伝子産物がヒトレトロウィルスのenv、polおよびgag遺伝子産物に相当するもの、特にはHIV−1、HIV−2、HTLV−1またはHTLV−2とする。具体的には、ヒトレトロウィルスをHIV−1とすることができ、env遺伝子産物をLAIenv遺伝子産物、MNenv遺伝子産物、一次HIV−1単離物からのenv遺伝子産物または抗原的にそれに等価なenv遺伝子産物とすることができる。gagおよびpol遺伝子産物は、env遺伝子産物を誘導するHIV−1単離物とは異なるHIV−1単離物から誘導することができる。特に、そのような粒子では、env遺伝子産物を一次HIV−1単離物から誘導することができる。
【0025】
本発明はさらに、本発明の非感染性レトロウィルス様粒子をコードする核酸分子をも含むものである。従って、本発明の別の態様においては、長い末端反復を欠失し、その天然ゲノム配置のgag、polおよびenv遺伝子ならびに、非レトロウィルス性もしくは非HIVウィルス性である少なくとも1個の抗原マーカーをコードする断片とを含んでなる修飾レトロウィルスゲノムからなる、非感染性レトロウィルス様粒子をコードする核酸分子が提供される。その核酸分子は、HIV−ILAI単離物のゲノムのSacIからXhoI断片に存在する特徴的な遺伝要素を有するDNA分子を有することができる。修飾ゲノムも、プライマー結合部位を欠失するものとすることができる。
【0026】
本発明のこの態様の具体的な1実施態様例においては、少なくとも1個の抗原マーカーをコードした配列をgag遺伝子、具体的にはHIV−1 LAI単離物のgag遺伝子のヌクレオチド1415におけるPatI部位または他のレトロウィルスgag遺伝子の相当する箇所に挿入する。一つの具体的部分は、
【0027】
【化1】
【0028】
(c)厳しい条件下に(a)または(b)とハイブリッド形成するDNA配列、特には(a)または(b)の配列と少なくとも約90%配列が同一である配列からなる群から選択されるDNA配列のコピー1〜4個を有するものである。
【0029】
各種ハイブリッド形成条件を用いて、ハイブリッド形成の選択性の程度を変化させることができる。選択性を高度なものとする場合、例えば約50〜70℃の温度で0.02M〜0.15MのNaClという低塩濃度および/または高温条件のような厳しい条件を用いて、二本鎖を形成する。適用場面によっては、温度範囲約20℃〜55℃、塩濃度0.15M〜0.9Mのように、ハイブリッド形成条件をそれほど厳しくする必要がない場合もある。加えるホルムアミドを増量することによってハイブリッド形成条件をより厳しくして、ハイブリッド二本鎖を不安定にすることもできる。
【0030】
本発明のさらに別の態様においては、長い末端反復を欠失し、かつ天然ゲノム配置のgag、polおよびenv遺伝子を含んでなり、レトロウィルス様粒子にenv遺伝子産物をアンカーする機能を果たす抗原性アンカー配列をコードする断片をその内に擁する修飾env遺伝子を持ち、それによって、この修飾env遺伝子は、envの内因性アンカー機能を抗原性のアンカー配列により置き換えられている改変env遺伝子産物をコードしている、修飾レトロウイルスゲノムからなる非感染性レトロウィルス様粒子をコードする核酸分子を提供される。
【0031】
本発明のこの態様の具体的な1実施態様例においては、抗原マーカー配列をコードした部分は、env遺伝子、具体的にはHIV−1 LAI単離物のenv遺伝子のヌクレオチド7777と7778との間または他のレトロウィルスenv遺伝子の相当する箇所に挿入する。アンカー配列をコードした一つの具体的部分は、
【0032】
【化2】
【0033】
(c)厳しい条件下に(a)または(b)とハイブリッド形成するDNA配列、特には(a)または(b)の配列と少なくとも約90%配列が同一である配列からなる群から選択されるDNA配列などがある。
【0034】
アンカー配列をコードした別の具体的部分は、
【0035】
【化3】
【0036】
(c)厳しい条件下に(a)または(b)とハイブリッド形成するDNA配列、特には(a)または(b)の配列と少なくとも約90%配列が同一である配列からなる群から選択されるDNA配列などがある。アンカー配列をコードしたさらに別の具体的部分は、
【0037】
【化4】
【0038】
(c)厳しい条件下に(a)または(b)とハイブリッド形成するDNA配列、特には(a)または(b)の配列と少なくとも約90%配列が同一である配列からなる群から選択されるDNA配列などがある。
【0039】
本発明はさらに、別の態様において、本発明で提供されるレトロウィルス様粒子または核酸分子およびそれらに対する担体とを含む、レトロウィルス特異的免疫応答および非レトロウィルスマーカーに対する特異的免疫応答を誘発することができる免疫原性組成物をも含むものである。そのような組成物は、粘膜投与または非経口投与用に製剤して、経口的、経肛門的、経膣的もしくは鼻腔内経路で投与することができる。その免疫原性組成物は、少なくとも1個の他の免疫原性物もしくは免疫刺激性物、具体的にはリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、QS21、Quil A、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、糖脂質類縁体、アミノ酸のオクタデニルエステル、ムラミルジペプチド、リポ蛋白または不完全フロイントアジュバントなどのアジュバントを含むことができる。
【0040】
さらに別の態様において、本発明には、宿主を免疫感作してレトロウィルス特異的免疫応答および抗原マーカーに対する特異的非レトロウィルス性免疫応答を起こす方法であって、宿主に対して本発明で提供される免疫原性組成物を免疫的に有効な量で投与する段階を有する方法が含まれる。
【0041】
本発明はさらに、これら材料を利用する診断方法および診断キットをも含むものである。具体的には、本発明の別の態様においては、検体中のレトロウィルス抗原と特異的に反応する抗体の存在を確認する方法であって、
(a)検体を本発明で提供される非感染性レトロウィルス様粒子と接触させて、非感染性レトロウィルス様粒子および該粒子との特異的反応性を有する検体中に存在するそのような抗体を有してなる錯体を生成する段階、ならびに
(b)該錯体の生成を確認する段階を有してなる方法が提供される。
【0042】
本発明のさらに別の態様においては、検体中のレトロウィルス抗原の存在を確認する方法であって、
(a)宿主を本発明で提供される免疫原性組成物で免疫感作してレトロウィルス性抗原特異的抗体を生成する段階、
(b)検体を前記レトロウィルス性抗原特異的抗体と接触させて、検体中のレトロウィルス抗原と前記レトロウィルス性抗原特異的抗体とを有してなる錯体を生成する段階、および
(c)該錯体の生成を確認する段階を有してなる方法が提供される。
【0043】
本発明のさらに別の態様は、
(a)本発明で提供されるそのような少なくとも1個のレトロウィルス性抗原特異的抗体、
(b)検体と該少なくとも1個の抗体とを接触させて検体中のレトロウィルス性抗原とレトロウィルス性抗原特異的抗体とを有してなる錯体を生成する手段、および
(c)該錯体の生成を確認する手段を有してなる、検体中のレトロウィルス性抗原の存在を検出するための診断キットを提供するものである。
【0044】
さらに、本発明のさらに別の態様においては、本発明で提供される免疫原性組成物による免疫感作によって生じる抗血清を確認する方法であって、抗原マーカーに特異的な抗血清中の抗体を検出する段階を有してなる方法が提供される。
【0045】
本発明の利点には、
−非感染性および非複製性となっている、天然コンホメーションにgag、polおよびenv遺伝子産物を有してなる免疫原性レトロウィルス様粒子、および
−ビルレントレトロウィルスと免疫的に識別可能な免疫原性レトロウィルス様粒子などがある。
【0046】
図面の簡単な説明
図面を参照しながら、以下の説明により、本発明についての理解を深めることができる。
【0047】
図1は、本発明の1実施態様によるレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIV−A)の構造図式である。
【0048】
図2は、本発明の別の実施態様によるレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIVBRU)の構造図式である。
【0049】
図3は、本発明のさらに別の実施態様によるレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(p83−19)の構造図式である。
【0050】
図4は、本発明の1実施態様によるプラスミド(pSeBS−HA2)の構造図式である。
【0051】
図5は、遺伝子アセンブリを用いた突然変異誘発の工程系統図である。
【0052】
図6は、本発明のさらに別の実施態様によるヒトインフルエンザヘマグルチニン糖蛋白のトランスメンブラン成分の一部を有する抗原マーカー配列を有するレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIVHA2−701)の構造図式である。
【0053】
図7は、本発明のさらに別の実施態様による非天然マーカーを有するレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIVmHA2)の構造図式である。
【0054】
図8は、本発明のさらに別の実施態様による非天然マーカーを有するレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIVMNmHA2−5)の構造図式である。
【0055】
図9は、本発明のさらに別の実施態様による非感染性非複製性レトロウィルス様粒子のgag遺伝子産物に挿入されたタバコモザイクウィルスからの抗原性エピトープをコードするオリゴヌクレオチドの詳細図である。
【0056】
図10は、タバコモザイクウィルスからの抗原性エピトープを有するレトロウィルス様粒子をコードするプラスミドの構造図式である。
【0057】
図11は、本発明の抗原的に標識されたレトロウィルス様粒子(シュードウィルス粒子)のイムノブロット分析を示す図である。
【0058】
図12は、抗原的に標識されたレトロウィルス様粒子のイムノブロット分析を示して、gag遺伝子産物に抗原マーカーが含まれていることを示す図である。
【0059】
図13は、mHA2配列を有することによって抗原的に標識されたレトロウィルス様粒子で免疫感作したモルモットにおける免疫応答を示す図である。
【0060】
図14は、TMVマーカー配列を有することによって抗原的に標識されたレトロウィルス様粒子で免疫感作したモルモットにおける免疫応答を示す図である。
【0061】
図15は、HIV−1のエンベロープ糖蛋白gp120中の、HIV−1と抗原的に識別できる非感染性レトロウィルス様粒子を提供する修飾を行う免疫優性領域の位置を示す図である。
【0062】
図16は、HIV−1の臨床的一次単離物のエンベロープ糖蛋白gp120を有するレトロウィルス様粒子のイムノブロット分析を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
発明の一般的説明
本発明の各種実施態様が予防接種、診断、HIV感染治療、および免疫試薬生成の分野において多くの利用場面を有することは当業者には明らかである。そのような用途についての考察を以下に行うが、本発明はその記載内容に限定されるものではない。
【0064】
図1および図2に関しては、長い末端反復、プライマー結合部位ならびにRNAパッケージング(packaging)配列を欠失する修飾レトロウィルスゲノムを有し、しかもその天然ゲノム配置にgag、polおよびenv遺伝子を有するベクターpMTHIVBRU(ATCC名称75852)の構造が図示してある。pMTHIVBRUのpol遺伝子は、それの一部の欠失による修飾を受けて、それの逆転写酵素活性およびインテグラーゼ活性を実質的に失っている。さらに、本発明のこの特定の実施態様例においては、欠失pol遺伝子内にオリゴヌクレオチドが挿入されていることで、3つの異なる読み枠に3つの終止コドンを導入して、インテグラーゼの残りの配列が翻訳されるのを防ぐようになっている。pMTHIVBRUのgag遺伝子も修飾されて、最初のCys−Hisボックスにおける2つのシステイン残基(Cys387およびCys395)がセリンに置き換えられている。
【0065】
そうして、プラスミドpMTHIVBRUは、HIVの感染性および/または複製に必要であるがウィルス様粒子生成に必須ではない複数の要素が欠失しているHIV様粒子をコードする。
【0066】
プラスミドpMTHIVBRUは、HIV−1LAI単離物のものに相当するエンベロープ蛋白を有するHIV様粒子をコードする。図3に関しては、pMTHIVBRUのLAIエンベロープが実質的にMNエンベロープ配列によって置き換わっているプラスミドp83−19が示してある。そうして、プラスミドp83−19は、HIVの感染性および/または複製に必要であるがウィルス様粒子生成に必須ではない複数の要素が欠失しているHIV様粒子をコードし、HIV−1単離物MNのエンベロープを実質的にenv遺伝子産物として有する。HIV様粒子は、他のenv産物、特には特異的単離物bx08などのクレードA、B、C、D、EおよびOからの一次HIV−1単離物などのHIV−1感染患者からの臨床的単離物からのものを有することができる。env遺伝子産物はさらに、MN/LAI、bx08/LAIおよびクレード−LAIキメラ(chimer)などのように、ある発生源からのgp120蛋白と別の起源からの残りの部分とのキメラであることもできる。
【0067】
図4〜6に関しては、長い末端反復、プライマー結合部位ならびにRNAパッケージング(packaging)配列を欠失している修飾HIVゲノムを有し、しかもその天然ゲノム配置にgag、polおよびenv遺伝子を有するベクターpMTHIVHA2−701の構造が図示してある。pMTHIVHA2−701のenv遺伝子は修飾されて、その中で異なったアンカー配列をコードする遺伝子を提供して、レトロウィルス様産物にenv遺伝子産物をアンカーすることで、修飾env遺伝子がenvの内因性アンカー形成機能部分がその異なったアンカー配列によって置換されている修飾env遺伝子産物をコードするようにしたものである。pMTHIVHA2−701によってコードされたレトロウィルス様粒子においては、gp41の免疫優性エピトープ(内因性アンカー形成機能部分を提供するもの)は発現されなくなっている。そこで、そのようなレトロウィルス様粒子は、レトロウィルス蛋白のエピトープに相当するアミノ酸配列がないことにより、陰性の形で抗原的に標識される。その異なったアンカー配列自体を抗原性として、レトロウィルス様粒子についての陽性の非レトロウィルス性または非HIVレトロウィルス性抗原マーカーを提供することができる。
【0068】
本発明のこの特定の実施態様例においては、ヒトインフルエンザウィルスHA2遺伝子からのコード化DNA断片と終止コドンを有する135−bp配列が、HIV−1LAIエンベロープ遺伝子のヌクレオチド7777(G)と7778(A)の間に挿入されて、HIV−1LAIgp41トランスメンブレン糖蛋白の合成を防止している。そうして、プラスミドpMTHUVHA2−701は、gp41トランスメンブレン糖蛋白アンカー形成機能部分がヒトインフルエンザHA2蛋白からのアンカー配列によって置換され、HA2蛋白がさらに抗原マーカーを提供するHIV様粒子をコードする。
【0069】
図7に関しては、pMTHIVHA2−701と類似しているが、envの内因性アンカー形成機能部分に置換する抗原マーカー配列として、公知の天然蛋白とは相同性を持たないアミノ酸配列を有するプラスミドpMTHIVmHA2を図示している。
【0070】
図8に関しては、長い末端反復、プライマー結合部位ならびにRNAパッケージング(packaging)配列を欠失している修飾HIVゲノムを有し、その天然配置にgag、polおよびenv遺伝子を有するベクターpMTHIVMNmHA2−5(ATCC名称75853)を図示している。pMTHIVMNmHA2−5のpol遺伝子は、その一部の欠失によって修飾されて、その逆転写酵素活性およびインデグラーゼ活性を実質的に失っている。さらに、欠失pol遺伝子内にオリゴヌクレオチドを挿入して、3つの異なる読み枠に3つの終止コドンを導入して、インテグラーゼの残りの配列が翻訳されるのを防ぐようになっている。pMTHIVMNmHA2−5のgag遺伝子も修飾されて、gagの最初のCys−Hisボックスにおける2つのシステイン残基がセリンに置き換えられている。pMTHIVMNmHA2−5では、envの内因性アンカー形成機能部分は、天然蛋白と相同性を持つことが知られていないアミノ酸配列によって置換されている。プラスミドpMTHIVMNmHA2−5でトランスフェクションされたベロ細胞から産生されるHIV様粒子を精製して、モルモットの免疫感作に使用した。抗血清を回収し、表1に示したような抗V3(すなわち抗エンベロープ)抗体および抗mHA2(すなわち抗抗原マーカー)抗体についてのELISAによるアッセイを行った。これらの実験を、他のモルモットで繰り返し、抗gag抗体についてのアッセイにも拡大し、得られた結果を図13に示してある。この結果は、gagおよびenv遺伝子産物が実質的にその生コンホメーションに存在すること、ならびに抗原マーカーが免疫原性であることを示している。
【0071】
以上、envの内因性アンカー形成機能部分が特定の天然および非天然蛋白の抗原性アンカー配列によって置換された特定のレトロウィルス様粒子について説明したが、本発明の本質を逸脱しなければ、内因性アンカー形成機能部分を置換できる特定の手段に対して多くの変更、調節および改良を施すことができることは明らかである。
【0072】
図9および10に関しては、TMVからの抗原性エピトープをコードするDNA配列のコピー1〜4個を有するプラスミド(pHIV−T1;pHIV−T2(ATCC名称75851);pHIV−T3およびpHIV−T4)を図示している。この図示した特定の実施態様では、HIVのgag遺伝子にTMVエピトープが挿入されてハイブリッドのgag遺伝子産物を生成し、前述のようにプラスミドはHIVの感染性および/または複製に必要であるがウィルス様粒子生成には必須ではない複数の要素が欠失している。プラスミドpHIV−T1、pHIV−T2(ATCC名称)、pHIV−T3およびpHIV−T4(それぞれ、1、2、3および4個の抗原エピトープコピーを有する)を用いて安定な細胞系を形成し、それによってgag蛋白に挿入された抗原マーカーを有するHIV様粒子を得た。これらのHIV様粒子を精製し、その抗HIVモノクローナル抗体(図11)および抗TMVマーカー抗血清(図12)との反応性を求めた。結果を図11および図12に示してある。その結果は、HIV様粒子が、実質的にその天然コンホメーションにgp120、gp41およびp24を有し、抗マーカー抗体がTMVマーカーを認識することができることを示している。
【0073】
プラスミドpHIV−T2によって産生された精製HIV様粒子を用いて、モルモットの免疫感作を行った。抗血清を回収し、図14に示したように、抗gag抗体抗V3(すなわち、抗エンベロープ)抗体および抗TMV(すなわち抗抗原マーカー)抗体についてELISAによるアッセイを行った。これらの結果は、gagおよびenv遺伝子産物が実質的にその生コンホメーションに存在し、抗原マーカーが免疫原性であることを示している。
【0074】
さらに、これらの免疫感作から得られたモルモット血清について、ウィルス感染阻害アッセイを実施した。表2に示したように、中和抗体を形成した。そのような中和抗体の形成は、ワクチン候補剤としておよび診断的利用場面でこのレトロウィルス様粒子が有用性を有することを示している。
【0075】
図16に関しては、臨床(一次)単離物bx08からのエンベロープ糖蛋白を発現するレトロウィルス様粒子(シュードウィルス粒子)のイムノブロット分析を図示している。HIV−1 bx08は、フランスで単離されたクレードBからの臨床的単離物である。この分析は、非臨床単離物gag蛋白を有する分子における臨床単離物からのエンベロープ糖蛋白の発現を示している。
【0076】
本明細書においては、アンカー配列でもあり得るマーカー配列の具体的実施態様について説明しているが、レトロウィルス蛋白のエピトープに相当するアミノ酸配列不在など、マーカーおよび/またはアンカー形成機能部分を提供する他のいかなる簡便なアミノ酸配列も本発明に用いることができることは明らかである。レトロウィルス蛋白のエピトープに相当するアミノ酸配列の不在は、表3に示したように、env遺伝子産物の免疫優性領域からの1以上のアミノ酸の突然変異誘発が関与することで、レトロウィルス感染宿主からの血清による得られた突然変異における免疫優性領域の認識が実質的に防止されると考えられる。マーカー機能部分を与えるアミノ酸配列は、公知の蛋白とは相同性を持たない非天然抗原配列を有するものとすることができる。そのような配列の例としては、上記の突然変異体HA2配列である。他の例には、非ヒトまたは非哺乳動物病原性または共生性微生物などの非ヒトまたは非哺乳動物蛋白の抗原性領域などがあり得る。
【0077】
そのような配列の例としては、前述のTMVがある。
【0078】
本発明の各種実施態様は、予防接種、診断、HIV感染治療および免疫試薬生成の分野で多くの利用場面を有することは当業者には明らかである。そのような用途についての考察を以下に行うが、本発明はその記載に限定されるものではない。
ワクチンの製造および用途
本発明による免疫原性製剤が免疫応答を誘発し得ることは上記で示した。従って、本発明の用途で可能性のあるものとしては、AIDSおよびAIDS関連状態を含めたレトロウィルス疾患に対するワクチンの基礎としてのものである。そこで別の態様において本発明は、本発明による免疫原性組成物を有してなるAIDSおよびAIDS関連状態に対するワクチンを提供するものである。
【0079】
ワクチンとして使用するのに適した免疫原性組成物は、本願で開示のような非感染性レトロウィルス様粒子から得ることができる。免疫原性組成物は、抗ウィルス性の抗体を産生する免疫応答を誘発する。ワクチン形成者に対してHIVなどのレトロウィルスによる攻撃があっても、抗体がウィルスに結合し、それによってウィルスが失活する。
【0080】
ワクチンは注射剤として、すなわち液剤または乳剤として製剤することができる。非感染性レトロウィルス様粒子は、レトロウィルス様粒子と適合する医薬的に許容される賦形剤と混合することができる。賦形剤には、水、生理食塩水、ブドウ糖、グリセリン、エタノールおよびこれらを組み合わせたものなどがある。
【0081】
ワクチンにはさらに、湿展剤または乳化剤、pH緩衝剤あるいはアジュバントなどの補助物質を含有させて、ワクチンの有効性を高めることができる。ワクチンに対するアジュバント効果を得る方法には、水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウム(アルム)などの試薬を使用し、一般的にはそれをリン酸緩衝生理食塩水と他のアジュバント(Q821およびフロイント不完全アジュバントなど)の0.05〜0.1%溶液として使用する方法などがある。ワクチンは、皮下注射または筋肉注射により、非経口的に投与することができる。別法として、本発明によって形成される免疫原性組成物を、粘膜表面で免疫応答を起こすような形で製剤・運搬することができる。そこで、免疫原性組成物を、例えば経鼻的または経口的(胃内)に粘膜に投与することができる。別法として、坐剤および経口投与製剤などの他の投与形態が望ましい場合がある。坐剤の場合、結合剤および担体には例えば、ポリアルカレングリコールまたはトリグリセリドなどがあり得る。経口製剤には、医薬用のサッカリン、セルロースおよび炭酸マグネシウムなどの通常使用されるインシピエント(incipient)などがあり得る。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、錠剤、丸薬、カプセル、徐放性製剤または粉剤の形を取り、本発明のレトロウィルス様粒子を10〜95%で含有する。
【0082】
ワクチンは、製剤に適合した方法と、治療上有効性、予防性かつ免疫原性を有する量で投与する。投与量は、例えば抗体を合成し細胞介在免疫応答を生じる免疫系の個人的能力など、治療を受ける患者によって決まる。投与に必要な有効成分の正確な量は、医師の判断によって決まるものである。しかしながら、好適な用量範囲は当業者には容易に決定できるものであり、μg単位のレトロウィルス様粒子になると考えられる。初回投与用量および補助投量についての好適な投与方法も変動し得るが、初回投与後に以降の投与を行う方法などがあり得る。免疫感作スケジュールの1例としては、本発明によるレトロウィルス様粒子で少なくとも1回の予備免疫感作を行ってから、本願の譲受人に譲渡された欧州特許公開番号0570980号に記載の合成ペプチドによって少なくとも1回免疫感作を行うものがある。ワクチンの用量も投与経路によって決まり得るものであり、宿主の大きさによっても変動する。
【0083】
本発明のレトロウィルス様粒子をコードする核酸分子は、例えば宿主に対する注射による直接の核酸分子投与によって、免疫感作に直接用いることもできる。
【0084】
遺伝的免疫感作の被験者にDNAを直接注射する方法は、例えばウルマーらの文献(Ulmer et al,1993;本開示の最後に引用文献リストがあり、掲載の各引用文献については言及してあるのみで、それ以上の記載は行っていない)に記載されている。
【0085】
本発明による分子にはさらに、HIVウィルスのヒト細胞もしくは動物細胞への結合に取って代わる作用を行うか、あるいはウィルスの3次元構成を攪乱することで、AIDSもしくは関連状態の治療(予防的または治療的)での用途もあり得る。
【0086】
そこで、本発明のさらに別の態様は、有効量の本発明による免疫原性組成物を投与する段階を有してなるAIDSまたは関連状態の予防方法または治療方法を提供するものである。
イムノアッセイ
本発明のレトロウィルス様粒子は、免疫原として、すなわち、酵素結合性免疫吸着剤アッセイ(ELISA)、RIAおよび他の非酵素結合性抗体結合アッセイなどのイムノアッセイ、あるいは抗レトロウィルス(例:HIV)HIV抗体およびレトロウィルス抗原(例:HIV)の検出に関して当業界で公知の方法における抗原として有用である。ELISAアッセイでは、レトロウィルス様粒子を、ポリスチレン微量力価測定プレート孔などの蛋白を結合する能力を有する表面などの所定の表面に固定化する。洗浄によって吸着が不完全なレトロウィルス様粒子を除去した後、ウシ血清アルブミン(BSA)またはカゼインの溶液などの被験検体に関して抗原的に中性であることが知られている非特異的蛋白を所定の表面に結合させることができる。それにより、固定化表面上の非特異的吸着部位の遮断ができ、従ってその表面への抗血清の非特異的結合によって生じるバックグラウンドが低下する。
【0087】
次に固定化表面を、免疫錯体(抗原/抗体)形成ができるような形で、試験対象の臨床検体または生物検体などの検体と接触させる。それには、検体をBSA溶液、ウシγ−グロブリン(BGG)溶液および/またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)/Tweenなどの希釈剤で希釈する方法などがあり得る。次に検体を、約25℃〜37℃程度などの温度で約2〜4時間インキュベーションする。
【0088】
インキュベーション後、検体に接触した表面を洗浄して、免疫錯体形成していない材料を除去する。洗浄方法には、PBS/Tweenまたはホウ酸緩衝液などの溶液で洗浄する方法などがあり得る。
【0089】
被験検体と結合したレトロウィルス様粒子との間で特異的免疫錯体を形成してから洗浄を行った後、免疫錯体形成が起こったか否かおよびその量も、第1の抗体に対する特異性を有する第2の抗体にその免疫錯体を曝露することで確認することができる。被験検体がヒト起源のものである場合、第2の抗体はヒト免疫グロブリン(一般にはIgGと表記される)に対する特異性を有する抗体である。
【0090】
検出手段を提供するため、第2の抗体には、例えば適切な色原性基質とともにインキュベーションすることで発色する酵素活性などの活性を持たせることができる。次に、例えば可視スペクトル分光光度計を用いて発色程度を測定することで、定量を行うことができる。
【0091】
複数のHIV単離物を識別する抗体を確認することが望ましい診断の1実施態様においては、本発明の免疫的に区別される複数のレトロウィルス様粒子を所定の表面に固定化する。別法として、抗HIV抗体が各種HIV単離物中でかなり保存された(conserved)エピトープ(例:gagまたはgp41からのB細胞エピトープ)を認識する場合、単一または限られた数のレトロウィルス様粒子を固定化することができる。単一のHIV単離物(例:LAI、MN、SF2またはHXB2)を認識する抗体を特異的に確認することが望ましい診断のさらに別の実施態様においては、本発明の単一の特定レトロウィルス様粒子を固定化することができる。その別の診断実施態様は、医学、臨床試験、法律および法科学という、抗体応答などの免疫応答を発生させた特定のHIV単離物を測定することが必須である分野において特に有用である。
【0092】
さらに別の実施態様においては、異なったクレードに属するHIV単離物などの免疫的に区別されるレトロウィルスを特異的に確認することが望ましい場合がある。免疫的に区別されるHIV単離物には例えば、LAI、MN、SF2、HXB2または一次HIV−1単離物などがある。この診断実施態様においては、本発明の特定のレトロウィルス様粒子は、免疫的に区別されるHIV単離物を特異的に認識するモノクローナル抗体などの抗体を生成する上で有用である。
【0093】
免疫的に区別されるレトロウィルス様粒子の混合物を、ワクチンなどにおける免疫原としてあるいは診断試薬として用いることができることは明らかである。
【0094】
レトロウィルス様粒子の混合物を用いて交差単離物の保護および/または診断を行うような状況があり得る。その場合、免疫原の混合物は通常、「カクテル」製剤と称される。
【0095】
本発明は、その利点として、天然コンホメーションに実質的にgag、polおよびenv遺伝子産物を有するレトロウィルス様粒子を提供する。そうして、そのようなレトロウィルス粒子は、変性形のHIV抗原またはそのようなMIV抗原に相当する合成ペプチドを認識することができないコンホメーションの抗HIV抗体(例:抗env抗体)によって認識される。従って、本発明のレトロウィルス様粒子は、抗原としておよび診断実施態様における抗レトロウィルス抗体(モノクローナル抗体を含む)の形成での免疫原として特に有用である。
【0096】
さらに、マーカーが存在することで、それに対する特異的免疫応答を発生させ、それを前述の方法によって検出することで、本発明で提供される免疫原性組成物による宿主の免疫感作と、ビルレントレトロウィルスによる実際の(material)感染とを容易に識別することができる。そのような診断および鑑別が可能であることは、疫学、臨床試験、法科学および免疫学の分野で非常に有用である。
他の用途
本発明の基礎となるレトロウィルス様粒子に結合する分子、特には抗体、抗体関連分子およびそれらの構造的類縁体も、AIDSおよび関連状態の治療および診断に試薬として有用である可能性がある。
【0097】
本発明のレトロウィルス様粒子に対して特異的であるキメラ抗体、人体に適応させた(humanized)抗体、合体させた(veneered)抗体および人為的に形成した(engineered)抗体などの抗体の変化したもの(抗原結合部位の変化したものを含む)は、本発明の範囲に含まれる。
【0098】
本発明のレトロウィルス様粒子に結合する抗体および他の分子は、以下に記載のような多くの各種形態で治療(予防および治療)および診断目的に使用することができる。
【0099】
−抗体(恐らくは人体に適応させた抗体)をHIV感染患者に対して適切に投与することにより受動感作を行う。
【0100】
−好適なサブクラスまたはイソタイプ(恐らくは適切な抗体の形成によって得られる)の抗体を用いることで抗体依存性細胞毒性(ADCC)を活性化、補足または媒介することにより、所望の機能を行うことができるようにする。
【0101】
−例えば、抗体および細胞毒性部分の接合体を有するイムノトキシンを使用することで毒物その他の試薬を標的部分に運搬し、HIV感染細胞(例:gp120)の細胞表面に露出したHIV蛋白に直接または間接的に結合させる。
【0102】
−免疫原性の高い材料をHIV感染細胞の表面を標的として運搬し、宿主の体液または細胞の免疫系のいずれかによってそのような細胞の除去を行う。
【0103】
−各種イムノアッセイ法を用いてHIVの検出を行う。
【0104】
そこで、さらに別の診断実施態様においては、本発明の免疫原性組成物(個別に、またはカクテル製剤などの混合物として)は、生体検体などの検体中のHIVまたは抗原の検出またはHIVの中和を行うのに使用することができるHIV抗原特異的抗体(モノクローナル抗体を含む)の形成に有用である。
【0105】
別の診断実施態様においては、本発明のレトロウィルス様粒子を用いて、例えばHIV感染者から得た生体検体中のHIV特異的T細胞を特異的に刺激して診断または治療を行うのに使用することができる。
生物寄託
本明細書において記載・言及される本発明の各種態様によるレトロウィルス様粒子をコードするある種のプラスミドは、ブダペスト条約に従い、本願出願に先だって、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection(ATCC),12301 Parklawn Drive,Rockville,Maryland,USA,20852)に寄託した。寄託プラスミドのサンプルは、本米国特許出願に基づく特許交付時に公表される。寄託した実施態様は、単に本発明の例とすることを意図したものであることから、本願で説明され特許請求される発明は、寄託したプラスミドに限定されるものではない。本願に記載のものと類似または等価なレトロウィルス様粒子をコードする等価もしくは類似のプラスミドは、本発明の範囲に含まれる。
【0106】
寄託の要旨
【0107】
【化5】
【0108】
上記の開示内容は、本発明の概要を説明するものであり、以下の具体的実施例を参照することで、本発明をより完全に理解することができる。これら実施例は、単に例示を目的としたものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0109】
本明細書においては具体的な用語を使用しているが、そのような用語は説明のためのものであり、限定を目的としたものではない。免疫法および組換えDNA法は本開示に明瞭に記載されていない場合があるが、当業者の能力の範囲内に十分入るものである。
【実施例】
【0110】
実施例
本開示および以下の実施例に明瞭には記載されていないが使用した分子遺伝学、蛋白生化学および免疫学の方法は、科学文献中に数多く報告されており、当業者の能力の範囲内のものである。
【0111】
実施例1
本実施例は、プラスミドpMTHIVBRUの構造を説明するものである。
【0112】
プラスミドpMTHIVBRUは、図1および図2に示したような構造を持っていた。
【0113】
このプラスミドは、ロビンスキーらの報告(Rovinski et al,1992;この引用文献は、明細書末にある)に記載され、RNAパッケージング欠失を有し、一連の突然変異/欠失を有するよう形成した発現ベクターpMTHIVd25の修飾物である。
【0114】
そこで、Cys−Hisボックス突然変異においては、図1に示したように、gag蛋白の最初のCys−Hisボックス(配列番号14)で、2個のコドン(配列番号13中)が2個のセリンコドンによって置換されている。これは、PCRに基づく突然変異誘発法によって行った。2個のプライマーを合成し、
上流プライマーは5’−GGACTAGTACCCTTCAGGAACAAATAGGATGGATGACAAATAATCCACCTATCCCAGTAGGAG−3’(配列番号15)の配列を持ち、5’末端にSpeI部位を有するHIV−1LAIのヌクレオチド1507〜1567を有し(ヌクレオチドの番号付けは、ウエイン−ホブソンら(Wain−Hobson;1985)による)、
下流のプライマーは5’−CTCGGGCCCTGCAATTTCTGGCTATGTGCCCTTCTTTGCCACTATTGAAACTCTTAACAATC−3’(配列番号16)の配列を持ち、5’末端にApaI部位を持つヌクレオチド2011〜1953の逆補体である。下流側プライマーでは、ヌクレオチド1963および1972(Wain Hobson et al.,1985; Myers et al.,1990)の逆補体を表す2個のアデノシン残基がチミジンに変わって、gag遺伝子産物のアミノ酸位置392および395の2個のシステインが2個のセリンによって置換されている(図1)。これら2つのプライマーを用いて、pMTHIVのSpeI−ApaI DNA断片(ヌクレオチド1507〜2008)(Rovinski et al.,1992)を増幅し、それを鋳型として用いた。PCR増幅SpeI−ApaI断片をアガロースゲル電気泳動によって精製し、制限酵素SpeIおよびApaIで消化させた。この断片を用いて、pMTHIVd25の相当する断片を置換した(Rovinski et al,1992)。得られたプラスミドはpMTHIV−Aと称し、RNAパッケージング配列欠失およびCys−Hisボックス突然変異の両方を有している。
【0115】
逆転写酵素およびインテグラーゼの欠失を行うため、HIV−1LAIのヌクレオチド2655および4587の2個のBalI認識部位を用いた(図3)。その2個のBalI部位の間の1.9−kbp断片は、逆転写酵素の95%以上およびインテグラーゼの最初の10%のアミノ酸をコードするDNA配列を有する。プラスミドpMTHIV−AをBalIで消化させた。ゲル電気泳動によって1.9−kbpBalI断片を除去した後、プラスミドの残りの部分を、3つの異なる読み枠に3個の終止コドンを有してインテグラーゼの残りの配列が翻訳されるのを防止する二本鎖オリゴヌクレオチド:5’−GTATAAGTGAGT
AGCGGCCGCAC−3’(1本鎖のみを示した−配列番号17)と連結し
た。得られたプラスミドは、pMTHIVBRUと名付けた。
【0116】
実施例2 本実施例は、抗原的に標識されたエンベロープアンカーを有するHIV様粒子をコードするプラスミドの構造を説明するものである。
【0117】
プラスミドp83−19を、図3に示したように、発現ベクターpMTHIVBRUから構成した。このプラスミドは、gp120LAIのほとんどをコードするDNAをgp120MNをコードする同起源のDNAで置換することで形成したハイブリッドエンベロープ遺伝子を有している。これは、HIV−1LAIからのKpnI/BalIIDNA断片(ヌクレオチド6379〜7668)をHIV−1MNからのKpnI/BalIIDNA断片(ヌクレオチド6358〜7641)で置換することで行った。
【0118】
図4〜6に示したように、プラスミドpMTHIVHA2−701を、発現ベクターpBT1(Alizon et al,1984)およびpMTHIVd25(Rovinski et al,1992)から構成した。
【0119】
pMTHIVHA2−701ベクターは、ヒトインフルエンザウィルスHA2遺伝子(Min Jou et al,1980)からのコード化DNA断片と終止コドンとを有する135−bp配列を有し、HIV−1LAIエンベロープ遺伝子(Wain−Hobson et al,1985; Myers et al,1990)のヌクレオチド7777(G)および7778(A)の間に挿入されている。停止コドンは、HIV−1LAIgp41トランスメンブラン糖蛋白の合成を防止するために挿入したものである。pBT1からのSalI(ヌクレオチド5821)/BamHI(ヌクレオチド8522)DNA断片をpSelect(Promega)にサブクローニングして、pSeBsを得た(図4)。本願において「遺伝子アセンブリを用いる突然変異誘発(GAAM)」と称した方法により、後者のプラスミドを135−bpの挿入に用いた。ヒトインフルエンザウィルスHA2遺伝子からのコード化DNA断片を有する135−bp配列を有するよう設計された突然変異誘発性プライマー(Min Jou et al,1980)を、図5に示したようにアセンブリした。オリゴヌクレオチドIはHIV−1LAIのヌクレオチド7748〜7777(Wain−Hobson et al,1985)と相補的な30個の塩基とHA2蛋白のアミノ酸180〜202をコードするHA2遺伝子配列(Min Jou et al,1980)と相補的な69個の塩基を有する(3’から5’)99マーである。オリゴヌクレオチドIIは、i)HA2蛋白のアミノ酸203〜221をコードし、HA2終止コドンを有するHA2遺伝子配列(Min Jou et al,1980)と相補的な60個の塩基、ii)さらに2個の終止コドンを決定する6個の塩基(ATCATT −配列番号18)およびiii)HIV−1LAIのヌクレオチド7778〜7807(Wain−Hobson et al,1985)と相補的な30個の塩基を有する(3’から5’)96マーである。オリゴヌクレオチドIIIは、オリゴヌクレオチドIの5’末端と相補的な15個のヌクレオチドとオリゴヌクレオチドIIの3’末端と相補的な15個のヌクレオチドを有する架橋30マーである。オリゴヌクレオチドIおよびオリゴヌクレオチドII 10pmolを、オリゴヌクレオチドIII 20pmolと混合し、T4ポリヌクレオチドキナーゼ2単位を含むキナーゼ緩衝液(50mMトリス−HCl、pH7.5、10mM MgCl2、10mM KCl、5mM DTTおよび0.5mM ATP)20μL中で、37℃で1.5時間リン酸化した。混合物を95℃で5分間加熱し、次にゆっくり冷却して室温とすることで、オリゴヌクレオチドをアニーリングした。この混合物に、10×リガーゼ緩衝液(0.5Mトリス−HCl、pH7.4、0〜1M MgCl2、0.1M DTT、10mM スペルミジンおよび1mg/mL BSA)3μL、10mM ATP3μLおよびT4 DNAリガーゼ5単位を加え、得られた連結混合物を16℃で終夜インキュベーションして、突然変異誘発性プライマーのアセンブリを完了させた(図5)。このプライマーをそれ以上精製せずに、突然変異誘発法に使用した。
【0120】
突然変異誘発は、プロメガ(Promega;Madison,WI)の突然変異誘発系(Altered Sites in vitro Mutagenesis System)を用いて行った。突然変異誘発の鋳型は、突然変異キットで提供されるpSelectファーゲミド(phagemid)ベクターにクローニングされたHIV−1LAIエンベロープ遺伝子(ヌクレオチド5821〜8522)の2.7−kbpSalI/BamHIDNA断片を有するpSeBSプラスミドから成るものであった(図4)。突然変異誘発法後、32P標識オリゴヌクレオチドIIIプローブを用いたコロニーハイブリッド形成によって、推定されるクローンを確認した。陽性クローンを、DNA配列決定によって確認した。これらのクローンのうちの一つをpSeBS−HA2と称し、最終ベクターの構成に使用した。
【0121】
そのため、pSeBS−HA2からの修飾BalI/BamHI挿入物をpMTHIVd25−dSalIにサブクローニングした。後者は、SalIによる部分消化とそれに続くクレノウ処理によりプラスミド骨格中のSalI部位を除去することでpMTHIVd25(Rovinski et al,1992)から誘導されたプラスミドである。最終発現構造は、pMTHIVHA2−701と称した。
【0122】
HIV−1LAIエンベロープ遺伝子(Rovinski et al,1992; Wain−Hobson et al,1985)のヌクレオチド7777(G)および7778(A)の間に挿入した異種DNA配列を有する発現ベクターpMTHIVmHA2(図7に示してある)を上記のように形成した。この場合、ヒトインフルエンザウィルスHA2遺伝子(Min Jou et al,1990)からのコード化DNA断片と、HA2配列に融合した場合に、公知の天然蛋白とは相同性を持たないアミノ酸配列をコードする68個のヌクレオチドを有する134−bp配列を、HIV−1LAIのヌクレオチド7777の下流に挿入した(図7)。その挿入により、HIV−1LAIコード化配列のトランスロケーションにおけるフレームシフトと終止コドン(TAG)形成が生じて、HIV−1LAIのgp41トランスメンブラン糖蛋白の合成が防止された。最終発現構造は、pMTHIVmHA2と称した(図7)。
【0123】
図8に示したように、発現ベクターp83−19およびpMTHIVmHA2からプラスミドpMTHIVMNmHA2−5を構成した。このプラスミドは、p83−19の感染性および/または複製に必要な要素の突然変異を全て有し、pMTHIVmHA2の134−bp挿入物配列を有するように設計した(図7)。そのために、p83−19をBalII(ヌクレオチド7641)およびXhoI(ヌクレオチド8944)によって消化させて、1276−bp DNA断片を除去し、pMTHIVmHA2の同起源BalII/XhoI断片によって置換した。
【0124】
実施例3
本実施例は、TMVからの抗原性エピトープを有するHIV様粒子をコードするプラスミドの構成について説明する。
【0125】
プラスミドpHIV−T1、pHIV−T2、pHIV−T3およびpHIV−T4は、TMVコート蛋白からの少なくとも1個の抗原性エピトープ(Westhof et al,1984; Trifilleff et al,1991)を有してなる二本鎖オリゴヌクレオチド(図9、10および11)のコピーをそれぞれ1個、2個、3個または4個有するp83−19構造体の修飾版を表す。これら4つのベクターの構成は、図9および図10に図示してある。全ての構造体を形成するには、プラスミドpMTHIV−A(図1)を最初にSacIIおよびApaIによって消化させて、1328−bp DNA断片を単離し、それを次にpBluescript(Stratagene)にサブクローニングした。次にその組換えプラスミドを、gag遺伝子中のヌクレオチド1415でHIV−1LAIDNAを開裂させるPstIで消化させた。次に、図9に示した二本鎖オリゴヌクレオチド(コード化鎖:配列番号19、相補鎖:配列番号20、コードされたアミド酸:配列番号21)の1個、2個、3個または4個のコピーのいずれかをこの制限部位に挿入した。最後に、得られた組換えプラスミドをSacIIおよびApaIによって消化させて、修飾挿入物を放出し、次にそれを、プラスミドp83−19の同起源領域にクローニングした(図10)。
【0126】
mHA2エピトープまたはTMVエピトープの各種コピーのいずれかを有するレトロウィルス様粒子の発現を図11に示してある。ベロ細胞を集密度80%まで成長させ、トランスフィニティ(transfinity)(BRL)リン酸カルシウム法によりプラスミドDNA20μgでトランスフェクションした。トランスフェクション48時間後に、培養上清について、蛋白発現を分析した。個々の発現構造体でトランスフェクションした細胞からの培地(10mL)を回収し、4℃で15分間の2000×gでの遠心(sorvall RT 6000B;Dupont Company,Wilmington,Del.)を行って透明とした。超遠心によってレトロウィルス様粒子を単離した。ペレット化した粒子をTNE40μLに懸濁し、5×レムリ(Laemmli)サンプル緩衝液10μLと混和し、3分間沸騰させた。次に、SDS PAGEによってウィルス蛋白を分離し、イモビロン(Immobilon)膜(Millipore,Bedford,Mass.)に移した。膜をブロット(BLOTTO)緩衝液(カーネイション(Carnation)インスタント脱脂乾燥乳5%、チメロサール0.0001%(重量/容量)および消泡剤A乳剤0.01%(容量/容量)を含むPBS)で25℃にて2時間遮断し、抗体の適切な希釈液とともに4℃で終夜のインキュベーションを行った。次にフィルターを、アルカリ性ホスファターゼ(Promega,Madison,Wis.)に接合したヤギ抗マウス免疫グロブリンG抗体とインキュベーションし、アルカリ性ホスファターゼ色原性基質ニトロブルー(nitroblue)テトラゾリウムクロライドおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェートp−トルイジン塩(BRL)と反応させた。パネル(Panel)Aでは抗gp120、抗gp41および抗p24の混合物を用い、パネルBでは抗gp120および抗p24抗体の混合物を用いた。
【0127】
図11に示した結果は、抗原的に標識したHIV様粒子が、実質的にその天然コンホメーションにgp120、gp41およびp24を形成することを示している。
【0128】
実施例4
本実施例は、抗原的に標識したHIV様粒子の免疫原性および免疫反応性を説明するものである。
【0129】
プラスミドpHIV−T1、pHIV−T2、pHIV−T3またはpHIV−T4のいずれか(図10)を、プラスミドpSV2neoによりベロ細胞に同時トランスフェクションし、HIV様粒子を産生する安定な細胞系を得た。HIV様粒子を精製し、gag遺伝子産物に挿入されたTMVマーカーに相当するペプチドで免疫感作したモルモットからの免疫血清に対するその反応性をイムノブロット分析によって測定した。免疫血清を得るため、KLHに接合したTMVマーカーからなるペプチド100μgでモルモットを免疫感作し、完全フロイントアジュバント中でアジュバント(adjuvant)した。いずれの動物も、3週間間隔で3回、不完全フロイントアジュバントでアジュバントした同じペプチドで追加免疫した。最終追加免疫から2週間後に、免疫血清を回収した。図12に示した結果は、各種HIV様粒子に存在する各種形態のgag遺伝子産物に対する免疫血清の反応性を図示し、修飾HIV−1様粒子に関するTMVマーカーの抗原性を示したものである。
【0130】
さらに別の試験で、gag10μgに等価な量のHIV様粒子でTMVマーカー配列(GAFDTRNRIIEVENGA:配列番号21)のコピー2個を有するものでモルモットを免疫感作し、3週間間隔で同じHIV様粒子5μgで追加免疫した。HIV様粒子を完全フロイントアジュバント(追加免疫用量は、不完全フロイントアジュバントでアジュバントした)またはQS21でアジュバントした。最初の免疫感作から11週間後に血清検体を採り、HIV−1 MNのV3中和エピトープ(TRPNYNKRKRIHIGPGRAFYTTKNIIGTIRQAHC:配列番号31)、TMVマーカー配列(AFDTRNRIIEVEN:配列番号1)および組換え源から産生されたp24(gag)蛋白を有するアミノ酸配列に相当するペプチドとの反応性を、ELISAによって調べた。結果を図14に示しているが、この結果は、TMVマーカー配列を有するHIV様粒子が免疫応答を生じて、p24(gag)、gp120(および特異的にV3中和エピトープ)およびTMVマーカー配列を特異的に認識する抗体を産生することができることを示している。スキナーらの報告(Skinner et al.,1988)に記載の方法に従って、ウィルス感染阻害アッセイを用いて、モルモット抗血清についてのウィルス中和も調べた。表2に終点力価を示したが、この結果は、TMVマーカー配列を発現するレトロウィルス様粒子を用いる免疫感作によって産生される抗体がHIVによる細胞感染を阻害することができることを示している。
【0131】
プラスミドpMTHIVMNmHA2−5をプラスミドpSV2neoとともにベロ細胞に同時トランスフェクションし、HIV様粒子を産生する安定な細胞系を得た。次に、HIV様粒子を精製し、完全フロイントアジュバントでアジュバントしたgagP2410μgに等価な量のHIV様粒子でモルモットを免疫感作した。いずれの動物も、3週間間隔で3回、不完全フロイントアジュバントでアジュバントしたHIV様粒子で追加免疫した。最終追加免疫から2週間後に、免疫血清を回収し、それについて、ELISAによって抗V3および抗mHA2マーカー反応性のアッセイを行った。以下の表1に示した結果は、mHA2マーカーを有するHIV様粒子で免疫感作したモルモットが、mHA2マーカー(MHA−1)およびV3ループ中和ドメイン(CLTB56、CLTB71およびCLTB73)を表すペプチドを認識することができる抗体を産生したことを示している。
【0132】
さらに別の試験で、gagp24 10μgに等価な量のHIV様粒子でmHA抗原マーカー配列を有するものでモルモットを免疫感作し、3週間間隔で3回、同じHIV様粒子5μgで追加免疫した。HIV様粒子を完全フロイントアジュバント(追加免疫用量は、不完全フロイントアジュバントでアジュバントした)、QS21またはリン酸アルミニウム(ALUM)でアジュバントした。最初の免疫感作から11週間後に動物から血清検体を採り、HIV−1MNのV3中和エピトープ(TRPNYNKRKRIHIGPGRAFYTTKNIIGTIRQAHC:配列番号31)、mHA2配列(GPAKKATLGATFAFDSKEEWCREKKEQWE:配列番号22)および組換え源から産生されたp24(gag)蛋白を有するアミノ酸配列に相当するペプチドとの反応性を、ELISAによって調べた。結果を図13に示しているが、この結果は、mHA2マーカー配列を有するHIV様粒子が免疫応答を生じて、p24(gag)、gp120(具体的にはV3中和エピトープ)およびmHA2マーカー配列を特異的に認識する抗体を形成することができることを示している。スキナーらの報告(Skinner et al.,1988)に記載の方法に従って、モルモット抗血清について、HIVMNによる感染を防止する能力も調べた。表2に終点力価を示したが、この結果は、mHA2マーカー配列を発現するレトロウィルス様粒子を用いる免疫感作によって産生される抗体がHIVによる細胞感染を阻害することができることを示している。従ってこれらのデータは、HIV様粒子に関して提供された場合に、mHA2マーカーが免疫原性であり、各種HIV単離物からのV3ループの主要中和決定基に対しても抗体が産生されることを示している。
【0133】
実施例5
本実施例は、gp41の免疫優性領域に対する突然変異によって抗体的に標識されたHIV様粒子の形成について説明するものである。
【0134】
アミノ酸配列LGIWGCSGKLIC(配列番号28)を有する免疫優性領域を有するgp160(gp41)のトランスメンブランドメインとこの配列を認識する抗体は全てのHIV−1感染者に存在する。実際、この免疫優性領域に特異的な抗体の検出が、HIV−1感染の臨床診断に利用される。そのようなこの免疫優性領域に特異的な抗体はHIV−1感染の臨床診断に利用される。しかしながら、そのような抗体はHIV−1を中和しないのが普通である。そこで、免疫優性領域の突然変異誘発によって、野生型HIV−1と抗原的に識別可能なHIV様粒子を形成した。HIV感染患者からの血清によって認識されない免疫優性領域の突然変異体を、表3に示したような血清で突然変異体配列を有するペプチドを認識することによって確認した。アマシャム・ライフサイエンス(Amersham Life Science,Amersham International PLC)製造のスカルプチャー(Sculpture:登録商標)in vitro突然変異誘発系キットを用いる部位特異的突然変異誘発によって突然変異を導入した。エンベロープをコードする配列を有するp83−19からのSalI BamHIDNA断片をK13にサブクローニングし、表3に示した突然変異を指定するDNAを有するオリゴヌクレオチドを用いて、gp41内の免疫優性領域に対して適切な突然変異を起こして、構造体smIDR、クローン4およびクローン16を得た。これら構造体のそれぞれをベロ細胞にトランスフェクションし、イムノブロッティングによってレトロウィルス様粒子を得た。これらのレトロウィルス様粒子について、エンベロープ糖蛋白gp120およびgp160およびgp41の発現を分析した。これらの糖蛋白はいずれも、各種レトロウィルス様粒子に存在していた。特に、gp41の免疫優性領域にアミノ酸置換SGK→AFRを有するクローン4を選択した。
【0135】
開示の要旨
本開示をまとめると、本発明は、例えば予防接種すなわちレトロウィルス特異的抗血清の形成に有用な免疫原性製剤ならびに診断法・診断キットにおける抗原としてのある種の非感染性非複製性レトロウィルス様粒子およびそれをコードする核酸分子を提供する。レトロウィルス様粒子は、polおよび/またはgag遺伝子産物に対する修飾によって非感染性になったと考えられる。特定のレトロウィルス様粒子は、非レトロウィルス性非抗原マーカーを有する。本発明の範囲内での改良は可能である。
【0136】
【表1】
【0137】
【表2】
【0138】
【表3】
【0139】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】図1は、本発明の1実施態様によるレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIV−A)の構造図式である。
【図2】図2は、本発明の別の実施態様によるレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIVBRU)の構造図式である。
【図3】図3は、本発明のさらに別の実施態様によるレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(p83−19)の構造図式である。
【図4】図4は、本発明の1実施態様によるプラスミド(pSeBS−HA2)の構造図式である。
【図5】図5は、遺伝子アセンブリを用いた突然変異誘発の工程系統図である。
【図6】図6は、本発明のさらに別の実施態様によるヒトインフルエンザヘマグルチニン糖蛋白のトランスメンブラン成分の一部を有する抗原マーカー配列を有するレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIVHA2−701)の構造図式である。
【図7】図7は、本発明のさらに別の実施態様による非天然マーカーを有するレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIVmHA2)の構造図式である。
【図8】図8は、本発明のさらに別の実施態様による非天然マーカーを有するレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIVMNmHA2−5)の構造図式である。
【図9】図9は、本発明のさらに別の実施態様による非感染性非複製性レトロウィルス様粒子のgag遺伝子産物に挿入されたタバコモザイクウィルスからの抗原性エピトープをコードするオリゴヌクレオチドの詳細図である。
【図10】図10は、タバコモザイクウィルスからの抗原性エピトープを有するレトロウィルス様粒子をコードするプラスミドの構造図式である。
【図11】図11は、本発明の抗原的に標識されたレトロウィルス様粒子(シュードウィルス粒子)のイムノブロット分析を示す図である。
【図12】図12は、抗原的に標識されたレトロウィルス様粒子のイムノブロット分析を示して、gag遺伝子産物に抗原マーカーが含まれていることを示す図である。
【図13】図13は、mHA2配列を有することによって抗原的に標識されたレトロウィルス様粒子で免疫感作したモルモットにおける免疫応答を示す図である。
【図14】図14は、TMVマーカー配列を有することによって抗原的に標識されたレトロウィルス様粒子で免疫感作したモルモットにおける免疫応答を示す図である。
【図15】図15は、HIV−1のエンベロープ糖蛋白gp120中の、HIV−1と抗原的に識別できる非感染性レトロウィルス様粒子を提供する修飾を行う免疫優性領域の位置を示す図である。
【図16】図16は、HIV−1の臨床的一次単離物のエンベロープ糖蛋白gp120を有するレトロウィルス様粒子のイムノブロット分析を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫学の分野に関するものであり、詳細には、抗原的に標識した非感染性レトロウィルス様粒子(シュードウィルス粒子(pseudovirion)と称される場合もある)に関する。
【0002】
関連出願の引用
本願は、1994年8月15日出願の米国特許出願08/290105号の一部継続出願である。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ヒト免疫不全ウィルスはヒトレトロウィルスであり、後天性免疫不全症候群(AIDS)の病原体である。1981年に米国でAIDSが最初に報告されて以来、194000名を超える人がAIDSによって死亡し、米国のみで330000例を超えるHIV感染が報告されている。世界的には、1400万人を超える人々がHIVに感染していると推定されている。
【0004】
100種類を超えるAIDS関連の医薬品がヒトでの治験中であるか、あるいはFDA承認を待っているが、現在この疾患に対する治療法はない。
【0005】
従って、ワクチン候補剤として、診断アッセイおよびキットにおける抗原として有用な免疫原性製剤や、HIVその他のレトロウィルス性の疾患および感染の診断用の免疫試薬の登場が必要とされていることは明らかである。
【0006】
特定の先行技術の免疫原性製剤には、非感染性非複製性HIV様粒子などがある。そこで、1993年10月14日公開のPCT出願WO93/20220号および1990年5月2日公開のWO91/05860号(Whitehead Institute for Biomedical Research)では、ゲノムRNAパッケージング(packaging)に必須のヌクレオチド配列に変化を有するHIVゲノムを有してなる構造体と、哺乳動物細胞でのこれら構造体の発現によって得られる非感染性免疫原性HIV粒子の製造が記載されている。
【0007】
1991年5月30日公開のPCT出願WO91/07425号(Oncogen Limited Partnership)には、発現レトロウィルス蛋白が発生するレトロウィルス粒子中にアセンブリされるような形で成熟レトロウィルスコアおよびエンベロープ構造蛋白の同時発現(coexpression)によって得られる非複製性レトロウィルス粒子について記載されている。特定の非複製性HIV−1様粒子は、HIV−1gag遺伝子とプロテアーゼ遺伝子を有する組換えワクシニアウィルスとHIV−1env遺伝子を有する組換えワクシニアウィルスにより哺乳動物宿主細胞を同時に感染(coinfecting)させることで得られている。
【0008】
本願譲受人の名前で公開されたPCT出願WO91/05864号(本願の引用出願に含まれている)には、天然コンホメーションに少なくともgag、polおよびenvの蛋白を有し、長い末端反復を欠失し、その天然ゲノム配置にgag、polおよびenv遺伝子を有する修飾レトロウィルスゲノムによってコードされた特定の非感染性非複製性レトロウィルス様粒子が記載されている。
【0009】
AIDSに対してはワクチンも有効な治療法もなく、しかもそのような先行技術のHIV様粒子はその天然コンホメーションに多くのHIV蛋白を有することから、それによって免疫感作された宿主は、HIVによる感染とは免疫的に識別できない免疫応答を起こす可能性がある。現在は、HIV感染者から得た熱失活抗HIV抗血清と失活HIVが多くの診断法の成分として市販されている。安全性、取り扱い易さ、輸送、保管および使用のため、そのような熱失活抗血清および抗原を、上述のような非感染性HIV粒子を用いた免疫感作によって生じる非感染性HIVおよび抗血清に切り換えることが好ましいと考えられる。さらに、これらの非感染性HIV粒子を用いた免疫感作によって生じる抗血清は、熱失活による感染性HIV除去を行う必要がない。しかしながら、HIV感染は重大であることから、失活HIVとビルレントHIV粒子および非感染性非複製性HIV粒子によって得られた非感染性非複製性HIV粒子および抗血清とを区別できることが望ましい。そこで、AIDSワクチン候補剤、免疫原性製剤ならびに診断法および診断キットの開発において、免疫的その他の方法でビルレントHIVと識別可能なHIV様粒子を提供することは有用であると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明の概要
本発明は、HIVまたは別のレトロウィルス、特にヒトレトロウィルスによる感染と免疫原性製剤による免疫感作との間を識別する能力に関するものである。
【0011】
本発明はさらに、失活ビルレントHIV粒子と非感染性非複製性HIV様粒子とを識別する能力に関するものでもある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、非感染性レトロウィルス様粒子にマーカーを組み込むものである。
【0013】
従って1態様において、本発明は、
(a)env遺伝子産物、(b)pol遺伝子産物、(c)gag遺伝子産物のアセンブリ、ならびに
(d)非レトロウィルス性または非HIVレトロウィルス性である少なくとも1個の抗原マーカーを含んでなる非感染性レトロウィルス様粒子を提供する。
【0014】
少なくとも1個の抗原マーカーは約5〜約100個のアミノ酸残基、特には約10〜約75のアミノ酸残基を有することができる。抗原マーカーは、別のウィルスからの抗原性エピトープを少なくとも1個有することができる。1実施態様において本発明は、タバコモザイクウィルス(TMV)コート蛋白からの少なくとも1個の抗原性エピトープ、具体的にはアミノ酸配列AFDTRNRIIEVEN(配列番号1)、あるいはこの配列を認識する抗体を誘導することができる、該配列の一部、変化体もしくは突然変異体、またはそのようなアミノ酸配列の複数(具体的には1〜4個)のコピーなどによって説明される。
【0015】
抗原マーカーには、いずれか簡便な方法で、env、polおよびgag遺伝子産物のアセンブリ中に組み込むことができる。
【0016】
本発明の1実施態様においては、マーカー配列をgag遺伝子産物内に持たせて、未修飾gag遺伝子産物の粒子形成性を有するハイブリッドgag遺伝子産物を形成する。マーカー配列は、抗原的に活性な挿入部位でgag遺伝子産物に抗原マーカーを挿入することでgag遺伝子産物中に入れることができる。
【0017】
本発明の具体的な1実施態様においては、挿入部位は、HIV−1 LAI単離物のgag遺伝子産物のアミノ酸残基210と211の間に位置する部位あるいは他のレトロウィルスgag遺伝子産物の相当する箇所とすることができる。
【0018】
マーカー配列は、レトロウィルス蛋白のエピトープに相当するアミノ酸配列の産生を欠失させるかあるいは防止することで得ることもできる。例えばそのようなエピトープは、内因性アンカー形成機能部分(function)を与える免疫優性領域gp41を有することができる。そのような内因性アンカー形成機能部分をこのようにして除く場合、別の抗原性アンカー配列によってアンカー形成機能部分を与える。別法として、env遺伝子産物の免疫優性領域を、その領域からの少なくとも1個のアミノ酸を置換または除去することで修飾して、レトロウィルス感染宿主からの血清によって生じる突然変異において免疫優性領域の認識を実質的に防止することができる。
【0019】
本発明のこの実施態様においては、レトロウィルスをHIVとすることができ、その免疫優性領域はアミノ酸配列LGIWGCSGKLIC(配列番号27)を含むものとなる。そこにおいてもたらされる変異の具体的なアミノ酸配列には、LGIWGCTGRKILC(配列番号28)、LGIWGCAFRLIC(配列番号29)およびLGIWGCTLELIC(配列番号30)が含まれる。
【0020】
従って、本発明の別の態様においては、
(a)内因性アンカー形成機能部分が、レトロウィルス様粒子に当該env遺伝子産物をアンカーする機能を果すように、当該env遺伝子産物に対して連結しされている異種のアンカー配列によって置換されてなる、修飾env遺伝子産物、
(b)pol遺伝子産物、
(c)gag遺伝子産物のアセンブリを有してなる非感染性レトロウィルス様粒子が提供される。
【0021】
アンカー配列は抗原性であることができ、約5〜約100のアミノ酸残基、好ましくは約10〜約75のアミノ酸残基を有することができる。アンカー配列は、膜スパニング(spanning)蛋白のトランスメンブラン成分の一部、特には糖蛋白を少なくとも有することができる。そのような糖蛋白はインフルエンザウィルス蛋白、特にはヒトインフルエンザウィルス蛋白もしくはトリインフルエンザウィルス蛋白などの簡便な糖蛋白であることができる。
【0022】
アンカー配列には、
アミノ酸配列WILWISFAISCFLLCVVLLGFIMW(配列番号2)またはその配列を認識する抗体を産生する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体、
アミノ酸配列STVASSLALAIMIAGLSFWMCSNGSLQ(配列番号3)またはその配列を認識する抗体を産生する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体、あるいは
アミノ酸配列WILWISFAISCFLLCVVCWGSSCGPAKKATLGATFAFDSKEEWCREKKEQWE(配列番号4)またはその配列を認識する抗体を産生する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体などがあり得る。
【0023】
好ましくは、アンカー配列は、env遺伝子産物の機能性開裂部位の上流で、かつ隣接させて、env遺伝子産物内に挿入する。挿入部位は好ましくは、HIV−1 LAI単離物のenv遺伝子産物のアミノ酸残基507および508の間あるいは他のレトロウィルスenv遺伝子産物の相当する箇所とする。
【0024】
本発明のいずれかの態様に従って提供されるレトロウィルス様粒子は好ましくは、env、polおよびgag遺伝子産物がヒトレトロウィルスのenv、polおよびgag遺伝子産物に相当するもの、特にはHIV−1、HIV−2、HTLV−1またはHTLV−2とする。具体的には、ヒトレトロウィルスをHIV−1とすることができ、env遺伝子産物をLAIenv遺伝子産物、MNenv遺伝子産物、一次HIV−1単離物からのenv遺伝子産物または抗原的にそれに等価なenv遺伝子産物とすることができる。gagおよびpol遺伝子産物は、env遺伝子産物を誘導するHIV−1単離物とは異なるHIV−1単離物から誘導することができる。特に、そのような粒子では、env遺伝子産物を一次HIV−1単離物から誘導することができる。
【0025】
本発明はさらに、本発明の非感染性レトロウィルス様粒子をコードする核酸分子をも含むものである。従って、本発明の別の態様においては、長い末端反復を欠失し、その天然ゲノム配置のgag、polおよびenv遺伝子ならびに、非レトロウィルス性もしくは非HIVウィルス性である少なくとも1個の抗原マーカーをコードする断片とを含んでなる修飾レトロウィルスゲノムからなる、非感染性レトロウィルス様粒子をコードする核酸分子が提供される。その核酸分子は、HIV−ILAI単離物のゲノムのSacIからXhoI断片に存在する特徴的な遺伝要素を有するDNA分子を有することができる。修飾ゲノムも、プライマー結合部位を欠失するものとすることができる。
【0026】
本発明のこの態様の具体的な1実施態様例においては、少なくとも1個の抗原マーカーをコードした配列をgag遺伝子、具体的にはHIV−1 LAI単離物のgag遺伝子のヌクレオチド1415におけるPatI部位または他のレトロウィルスgag遺伝子の相当する箇所に挿入する。一つの具体的部分は、
【0027】
【化1】
【0028】
(c)厳しい条件下に(a)または(b)とハイブリッド形成するDNA配列、特には(a)または(b)の配列と少なくとも約90%配列が同一である配列からなる群から選択されるDNA配列のコピー1〜4個を有するものである。
【0029】
各種ハイブリッド形成条件を用いて、ハイブリッド形成の選択性の程度を変化させることができる。選択性を高度なものとする場合、例えば約50〜70℃の温度で0.02M〜0.15MのNaClという低塩濃度および/または高温条件のような厳しい条件を用いて、二本鎖を形成する。適用場面によっては、温度範囲約20℃〜55℃、塩濃度0.15M〜0.9Mのように、ハイブリッド形成条件をそれほど厳しくする必要がない場合もある。加えるホルムアミドを増量することによってハイブリッド形成条件をより厳しくして、ハイブリッド二本鎖を不安定にすることもできる。
【0030】
本発明のさらに別の態様においては、長い末端反復を欠失し、かつ天然ゲノム配置のgag、polおよびenv遺伝子を含んでなり、レトロウィルス様粒子にenv遺伝子産物をアンカーする機能を果たす抗原性アンカー配列をコードする断片をその内に擁する修飾env遺伝子を持ち、それによって、この修飾env遺伝子は、envの内因性アンカー機能を抗原性のアンカー配列により置き換えられている改変env遺伝子産物をコードしている、修飾レトロウイルスゲノムからなる非感染性レトロウィルス様粒子をコードする核酸分子を提供される。
【0031】
本発明のこの態様の具体的な1実施態様例においては、抗原マーカー配列をコードした部分は、env遺伝子、具体的にはHIV−1 LAI単離物のenv遺伝子のヌクレオチド7777と7778との間または他のレトロウィルスenv遺伝子の相当する箇所に挿入する。アンカー配列をコードした一つの具体的部分は、
【0032】
【化2】
【0033】
(c)厳しい条件下に(a)または(b)とハイブリッド形成するDNA配列、特には(a)または(b)の配列と少なくとも約90%配列が同一である配列からなる群から選択されるDNA配列などがある。
【0034】
アンカー配列をコードした別の具体的部分は、
【0035】
【化3】
【0036】
(c)厳しい条件下に(a)または(b)とハイブリッド形成するDNA配列、特には(a)または(b)の配列と少なくとも約90%配列が同一である配列からなる群から選択されるDNA配列などがある。アンカー配列をコードしたさらに別の具体的部分は、
【0037】
【化4】
【0038】
(c)厳しい条件下に(a)または(b)とハイブリッド形成するDNA配列、特には(a)または(b)の配列と少なくとも約90%配列が同一である配列からなる群から選択されるDNA配列などがある。
【0039】
本発明はさらに、別の態様において、本発明で提供されるレトロウィルス様粒子または核酸分子およびそれらに対する担体とを含む、レトロウィルス特異的免疫応答および非レトロウィルスマーカーに対する特異的免疫応答を誘発することができる免疫原性組成物をも含むものである。そのような組成物は、粘膜投与または非経口投与用に製剤して、経口的、経肛門的、経膣的もしくは鼻腔内経路で投与することができる。その免疫原性組成物は、少なくとも1個の他の免疫原性物もしくは免疫刺激性物、具体的にはリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、QS21、Quil A、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、糖脂質類縁体、アミノ酸のオクタデニルエステル、ムラミルジペプチド、リポ蛋白または不完全フロイントアジュバントなどのアジュバントを含むことができる。
【0040】
さらに別の態様において、本発明には、宿主を免疫感作してレトロウィルス特異的免疫応答および抗原マーカーに対する特異的非レトロウィルス性免疫応答を起こす方法であって、宿主に対して本発明で提供される免疫原性組成物を免疫的に有効な量で投与する段階を有する方法が含まれる。
【0041】
本発明はさらに、これら材料を利用する診断方法および診断キットをも含むものである。具体的には、本発明の別の態様においては、検体中のレトロウィルス抗原と特異的に反応する抗体の存在を確認する方法であって、
(a)検体を本発明で提供される非感染性レトロウィルス様粒子と接触させて、非感染性レトロウィルス様粒子および該粒子との特異的反応性を有する検体中に存在するそのような抗体を有してなる錯体を生成する段階、ならびに
(b)該錯体の生成を確認する段階を有してなる方法が提供される。
【0042】
本発明のさらに別の態様においては、検体中のレトロウィルス抗原の存在を確認する方法であって、
(a)宿主を本発明で提供される免疫原性組成物で免疫感作してレトロウィルス性抗原特異的抗体を生成する段階、
(b)検体を前記レトロウィルス性抗原特異的抗体と接触させて、検体中のレトロウィルス抗原と前記レトロウィルス性抗原特異的抗体とを有してなる錯体を生成する段階、および
(c)該錯体の生成を確認する段階を有してなる方法が提供される。
【0043】
本発明のさらに別の態様は、
(a)本発明で提供されるそのような少なくとも1個のレトロウィルス性抗原特異的抗体、
(b)検体と該少なくとも1個の抗体とを接触させて検体中のレトロウィルス性抗原とレトロウィルス性抗原特異的抗体とを有してなる錯体を生成する手段、および
(c)該錯体の生成を確認する手段を有してなる、検体中のレトロウィルス性抗原の存在を検出するための診断キットを提供するものである。
【0044】
さらに、本発明のさらに別の態様においては、本発明で提供される免疫原性組成物による免疫感作によって生じる抗血清を確認する方法であって、抗原マーカーに特異的な抗血清中の抗体を検出する段階を有してなる方法が提供される。
【0045】
本発明の利点には、
−非感染性および非複製性となっている、天然コンホメーションにgag、polおよびenv遺伝子産物を有してなる免疫原性レトロウィルス様粒子、および
−ビルレントレトロウィルスと免疫的に識別可能な免疫原性レトロウィルス様粒子などがある。
【0046】
図面の簡単な説明
図面を参照しながら、以下の説明により、本発明についての理解を深めることができる。
【0047】
図1は、本発明の1実施態様によるレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIV−A)の構造図式である。
【0048】
図2は、本発明の別の実施態様によるレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIVBRU)の構造図式である。
【0049】
図3は、本発明のさらに別の実施態様によるレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(p83−19)の構造図式である。
【0050】
図4は、本発明の1実施態様によるプラスミド(pSeBS−HA2)の構造図式である。
【0051】
図5は、遺伝子アセンブリを用いた突然変異誘発の工程系統図である。
【0052】
図6は、本発明のさらに別の実施態様によるヒトインフルエンザヘマグルチニン糖蛋白のトランスメンブラン成分の一部を有する抗原マーカー配列を有するレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIVHA2−701)の構造図式である。
【0053】
図7は、本発明のさらに別の実施態様による非天然マーカーを有するレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIVmHA2)の構造図式である。
【0054】
図8は、本発明のさらに別の実施態様による非天然マーカーを有するレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIVMNmHA2−5)の構造図式である。
【0055】
図9は、本発明のさらに別の実施態様による非感染性非複製性レトロウィルス様粒子のgag遺伝子産物に挿入されたタバコモザイクウィルスからの抗原性エピトープをコードするオリゴヌクレオチドの詳細図である。
【0056】
図10は、タバコモザイクウィルスからの抗原性エピトープを有するレトロウィルス様粒子をコードするプラスミドの構造図式である。
【0057】
図11は、本発明の抗原的に標識されたレトロウィルス様粒子(シュードウィルス粒子)のイムノブロット分析を示す図である。
【0058】
図12は、抗原的に標識されたレトロウィルス様粒子のイムノブロット分析を示して、gag遺伝子産物に抗原マーカーが含まれていることを示す図である。
【0059】
図13は、mHA2配列を有することによって抗原的に標識されたレトロウィルス様粒子で免疫感作したモルモットにおける免疫応答を示す図である。
【0060】
図14は、TMVマーカー配列を有することによって抗原的に標識されたレトロウィルス様粒子で免疫感作したモルモットにおける免疫応答を示す図である。
【0061】
図15は、HIV−1のエンベロープ糖蛋白gp120中の、HIV−1と抗原的に識別できる非感染性レトロウィルス様粒子を提供する修飾を行う免疫優性領域の位置を示す図である。
【0062】
図16は、HIV−1の臨床的一次単離物のエンベロープ糖蛋白gp120を有するレトロウィルス様粒子のイムノブロット分析を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
発明の一般的説明
本発明の各種実施態様が予防接種、診断、HIV感染治療、および免疫試薬生成の分野において多くの利用場面を有することは当業者には明らかである。そのような用途についての考察を以下に行うが、本発明はその記載内容に限定されるものではない。
【0064】
図1および図2に関しては、長い末端反復、プライマー結合部位ならびにRNAパッケージング(packaging)配列を欠失する修飾レトロウィルスゲノムを有し、しかもその天然ゲノム配置にgag、polおよびenv遺伝子を有するベクターpMTHIVBRU(ATCC名称75852)の構造が図示してある。pMTHIVBRUのpol遺伝子は、それの一部の欠失による修飾を受けて、それの逆転写酵素活性およびインテグラーゼ活性を実質的に失っている。さらに、本発明のこの特定の実施態様例においては、欠失pol遺伝子内にオリゴヌクレオチドが挿入されていることで、3つの異なる読み枠に3つの終止コドンを導入して、インテグラーゼの残りの配列が翻訳されるのを防ぐようになっている。pMTHIVBRUのgag遺伝子も修飾されて、最初のCys−Hisボックスにおける2つのシステイン残基(Cys387およびCys395)がセリンに置き換えられている。
【0065】
そうして、プラスミドpMTHIVBRUは、HIVの感染性および/または複製に必要であるがウィルス様粒子生成に必須ではない複数の要素が欠失しているHIV様粒子をコードする。
【0066】
プラスミドpMTHIVBRUは、HIV−1LAI単離物のものに相当するエンベロープ蛋白を有するHIV様粒子をコードする。図3に関しては、pMTHIVBRUのLAIエンベロープが実質的にMNエンベロープ配列によって置き換わっているプラスミドp83−19が示してある。そうして、プラスミドp83−19は、HIVの感染性および/または複製に必要であるがウィルス様粒子生成に必須ではない複数の要素が欠失しているHIV様粒子をコードし、HIV−1単離物MNのエンベロープを実質的にenv遺伝子産物として有する。HIV様粒子は、他のenv産物、特には特異的単離物bx08などのクレードA、B、C、D、EおよびOからの一次HIV−1単離物などのHIV−1感染患者からの臨床的単離物からのものを有することができる。env遺伝子産物はさらに、MN/LAI、bx08/LAIおよびクレード−LAIキメラ(chimer)などのように、ある発生源からのgp120蛋白と別の起源からの残りの部分とのキメラであることもできる。
【0067】
図4〜6に関しては、長い末端反復、プライマー結合部位ならびにRNAパッケージング(packaging)配列を欠失している修飾HIVゲノムを有し、しかもその天然ゲノム配置にgag、polおよびenv遺伝子を有するベクターpMTHIVHA2−701の構造が図示してある。pMTHIVHA2−701のenv遺伝子は修飾されて、その中で異なったアンカー配列をコードする遺伝子を提供して、レトロウィルス様産物にenv遺伝子産物をアンカーすることで、修飾env遺伝子がenvの内因性アンカー形成機能部分がその異なったアンカー配列によって置換されている修飾env遺伝子産物をコードするようにしたものである。pMTHIVHA2−701によってコードされたレトロウィルス様粒子においては、gp41の免疫優性エピトープ(内因性アンカー形成機能部分を提供するもの)は発現されなくなっている。そこで、そのようなレトロウィルス様粒子は、レトロウィルス蛋白のエピトープに相当するアミノ酸配列がないことにより、陰性の形で抗原的に標識される。その異なったアンカー配列自体を抗原性として、レトロウィルス様粒子についての陽性の非レトロウィルス性または非HIVレトロウィルス性抗原マーカーを提供することができる。
【0068】
本発明のこの特定の実施態様例においては、ヒトインフルエンザウィルスHA2遺伝子からのコード化DNA断片と終止コドンを有する135−bp配列が、HIV−1LAIエンベロープ遺伝子のヌクレオチド7777(G)と7778(A)の間に挿入されて、HIV−1LAIgp41トランスメンブレン糖蛋白の合成を防止している。そうして、プラスミドpMTHUVHA2−701は、gp41トランスメンブレン糖蛋白アンカー形成機能部分がヒトインフルエンザHA2蛋白からのアンカー配列によって置換され、HA2蛋白がさらに抗原マーカーを提供するHIV様粒子をコードする。
【0069】
図7に関しては、pMTHIVHA2−701と類似しているが、envの内因性アンカー形成機能部分に置換する抗原マーカー配列として、公知の天然蛋白とは相同性を持たないアミノ酸配列を有するプラスミドpMTHIVmHA2を図示している。
【0070】
図8に関しては、長い末端反復、プライマー結合部位ならびにRNAパッケージング(packaging)配列を欠失している修飾HIVゲノムを有し、その天然配置にgag、polおよびenv遺伝子を有するベクターpMTHIVMNmHA2−5(ATCC名称75853)を図示している。pMTHIVMNmHA2−5のpol遺伝子は、その一部の欠失によって修飾されて、その逆転写酵素活性およびインデグラーゼ活性を実質的に失っている。さらに、欠失pol遺伝子内にオリゴヌクレオチドを挿入して、3つの異なる読み枠に3つの終止コドンを導入して、インテグラーゼの残りの配列が翻訳されるのを防ぐようになっている。pMTHIVMNmHA2−5のgag遺伝子も修飾されて、gagの最初のCys−Hisボックスにおける2つのシステイン残基がセリンに置き換えられている。pMTHIVMNmHA2−5では、envの内因性アンカー形成機能部分は、天然蛋白と相同性を持つことが知られていないアミノ酸配列によって置換されている。プラスミドpMTHIVMNmHA2−5でトランスフェクションされたベロ細胞から産生されるHIV様粒子を精製して、モルモットの免疫感作に使用した。抗血清を回収し、表1に示したような抗V3(すなわち抗エンベロープ)抗体および抗mHA2(すなわち抗抗原マーカー)抗体についてのELISAによるアッセイを行った。これらの実験を、他のモルモットで繰り返し、抗gag抗体についてのアッセイにも拡大し、得られた結果を図13に示してある。この結果は、gagおよびenv遺伝子産物が実質的にその生コンホメーションに存在すること、ならびに抗原マーカーが免疫原性であることを示している。
【0071】
以上、envの内因性アンカー形成機能部分が特定の天然および非天然蛋白の抗原性アンカー配列によって置換された特定のレトロウィルス様粒子について説明したが、本発明の本質を逸脱しなければ、内因性アンカー形成機能部分を置換できる特定の手段に対して多くの変更、調節および改良を施すことができることは明らかである。
【0072】
図9および10に関しては、TMVからの抗原性エピトープをコードするDNA配列のコピー1〜4個を有するプラスミド(pHIV−T1;pHIV−T2(ATCC名称75851);pHIV−T3およびpHIV−T4)を図示している。この図示した特定の実施態様では、HIVのgag遺伝子にTMVエピトープが挿入されてハイブリッドのgag遺伝子産物を生成し、前述のようにプラスミドはHIVの感染性および/または複製に必要であるがウィルス様粒子生成には必須ではない複数の要素が欠失している。プラスミドpHIV−T1、pHIV−T2(ATCC名称)、pHIV−T3およびpHIV−T4(それぞれ、1、2、3および4個の抗原エピトープコピーを有する)を用いて安定な細胞系を形成し、それによってgag蛋白に挿入された抗原マーカーを有するHIV様粒子を得た。これらのHIV様粒子を精製し、その抗HIVモノクローナル抗体(図11)および抗TMVマーカー抗血清(図12)との反応性を求めた。結果を図11および図12に示してある。その結果は、HIV様粒子が、実質的にその天然コンホメーションにgp120、gp41およびp24を有し、抗マーカー抗体がTMVマーカーを認識することができることを示している。
【0073】
プラスミドpHIV−T2によって産生された精製HIV様粒子を用いて、モルモットの免疫感作を行った。抗血清を回収し、図14に示したように、抗gag抗体抗V3(すなわち、抗エンベロープ)抗体および抗TMV(すなわち抗抗原マーカー)抗体についてELISAによるアッセイを行った。これらの結果は、gagおよびenv遺伝子産物が実質的にその生コンホメーションに存在し、抗原マーカーが免疫原性であることを示している。
【0074】
さらに、これらの免疫感作から得られたモルモット血清について、ウィルス感染阻害アッセイを実施した。表2に示したように、中和抗体を形成した。そのような中和抗体の形成は、ワクチン候補剤としておよび診断的利用場面でこのレトロウィルス様粒子が有用性を有することを示している。
【0075】
図16に関しては、臨床(一次)単離物bx08からのエンベロープ糖蛋白を発現するレトロウィルス様粒子(シュードウィルス粒子)のイムノブロット分析を図示している。HIV−1 bx08は、フランスで単離されたクレードBからの臨床的単離物である。この分析は、非臨床単離物gag蛋白を有する分子における臨床単離物からのエンベロープ糖蛋白の発現を示している。
【0076】
本明細書においては、アンカー配列でもあり得るマーカー配列の具体的実施態様について説明しているが、レトロウィルス蛋白のエピトープに相当するアミノ酸配列不在など、マーカーおよび/またはアンカー形成機能部分を提供する他のいかなる簡便なアミノ酸配列も本発明に用いることができることは明らかである。レトロウィルス蛋白のエピトープに相当するアミノ酸配列の不在は、表3に示したように、env遺伝子産物の免疫優性領域からの1以上のアミノ酸の突然変異誘発が関与することで、レトロウィルス感染宿主からの血清による得られた突然変異における免疫優性領域の認識が実質的に防止されると考えられる。マーカー機能部分を与えるアミノ酸配列は、公知の蛋白とは相同性を持たない非天然抗原配列を有するものとすることができる。そのような配列の例としては、上記の突然変異体HA2配列である。他の例には、非ヒトまたは非哺乳動物病原性または共生性微生物などの非ヒトまたは非哺乳動物蛋白の抗原性領域などがあり得る。
【0077】
そのような配列の例としては、前述のTMVがある。
【0078】
本発明の各種実施態様は、予防接種、診断、HIV感染治療および免疫試薬生成の分野で多くの利用場面を有することは当業者には明らかである。そのような用途についての考察を以下に行うが、本発明はその記載に限定されるものではない。
ワクチンの製造および用途
本発明による免疫原性製剤が免疫応答を誘発し得ることは上記で示した。従って、本発明の用途で可能性のあるものとしては、AIDSおよびAIDS関連状態を含めたレトロウィルス疾患に対するワクチンの基礎としてのものである。そこで別の態様において本発明は、本発明による免疫原性組成物を有してなるAIDSおよびAIDS関連状態に対するワクチンを提供するものである。
【0079】
ワクチンとして使用するのに適した免疫原性組成物は、本願で開示のような非感染性レトロウィルス様粒子から得ることができる。免疫原性組成物は、抗ウィルス性の抗体を産生する免疫応答を誘発する。ワクチン形成者に対してHIVなどのレトロウィルスによる攻撃があっても、抗体がウィルスに結合し、それによってウィルスが失活する。
【0080】
ワクチンは注射剤として、すなわち液剤または乳剤として製剤することができる。非感染性レトロウィルス様粒子は、レトロウィルス様粒子と適合する医薬的に許容される賦形剤と混合することができる。賦形剤には、水、生理食塩水、ブドウ糖、グリセリン、エタノールおよびこれらを組み合わせたものなどがある。
【0081】
ワクチンにはさらに、湿展剤または乳化剤、pH緩衝剤あるいはアジュバントなどの補助物質を含有させて、ワクチンの有効性を高めることができる。ワクチンに対するアジュバント効果を得る方法には、水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウム(アルム)などの試薬を使用し、一般的にはそれをリン酸緩衝生理食塩水と他のアジュバント(Q821およびフロイント不完全アジュバントなど)の0.05〜0.1%溶液として使用する方法などがある。ワクチンは、皮下注射または筋肉注射により、非経口的に投与することができる。別法として、本発明によって形成される免疫原性組成物を、粘膜表面で免疫応答を起こすような形で製剤・運搬することができる。そこで、免疫原性組成物を、例えば経鼻的または経口的(胃内)に粘膜に投与することができる。別法として、坐剤および経口投与製剤などの他の投与形態が望ましい場合がある。坐剤の場合、結合剤および担体には例えば、ポリアルカレングリコールまたはトリグリセリドなどがあり得る。経口製剤には、医薬用のサッカリン、セルロースおよび炭酸マグネシウムなどの通常使用されるインシピエント(incipient)などがあり得る。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、錠剤、丸薬、カプセル、徐放性製剤または粉剤の形を取り、本発明のレトロウィルス様粒子を10〜95%で含有する。
【0082】
ワクチンは、製剤に適合した方法と、治療上有効性、予防性かつ免疫原性を有する量で投与する。投与量は、例えば抗体を合成し細胞介在免疫応答を生じる免疫系の個人的能力など、治療を受ける患者によって決まる。投与に必要な有効成分の正確な量は、医師の判断によって決まるものである。しかしながら、好適な用量範囲は当業者には容易に決定できるものであり、μg単位のレトロウィルス様粒子になると考えられる。初回投与用量および補助投量についての好適な投与方法も変動し得るが、初回投与後に以降の投与を行う方法などがあり得る。免疫感作スケジュールの1例としては、本発明によるレトロウィルス様粒子で少なくとも1回の予備免疫感作を行ってから、本願の譲受人に譲渡された欧州特許公開番号0570980号に記載の合成ペプチドによって少なくとも1回免疫感作を行うものがある。ワクチンの用量も投与経路によって決まり得るものであり、宿主の大きさによっても変動する。
【0083】
本発明のレトロウィルス様粒子をコードする核酸分子は、例えば宿主に対する注射による直接の核酸分子投与によって、免疫感作に直接用いることもできる。
【0084】
遺伝的免疫感作の被験者にDNAを直接注射する方法は、例えばウルマーらの文献(Ulmer et al,1993;本開示の最後に引用文献リストがあり、掲載の各引用文献については言及してあるのみで、それ以上の記載は行っていない)に記載されている。
【0085】
本発明による分子にはさらに、HIVウィルスのヒト細胞もしくは動物細胞への結合に取って代わる作用を行うか、あるいはウィルスの3次元構成を攪乱することで、AIDSもしくは関連状態の治療(予防的または治療的)での用途もあり得る。
【0086】
そこで、本発明のさらに別の態様は、有効量の本発明による免疫原性組成物を投与する段階を有してなるAIDSまたは関連状態の予防方法または治療方法を提供するものである。
イムノアッセイ
本発明のレトロウィルス様粒子は、免疫原として、すなわち、酵素結合性免疫吸着剤アッセイ(ELISA)、RIAおよび他の非酵素結合性抗体結合アッセイなどのイムノアッセイ、あるいは抗レトロウィルス(例:HIV)HIV抗体およびレトロウィルス抗原(例:HIV)の検出に関して当業界で公知の方法における抗原として有用である。ELISAアッセイでは、レトロウィルス様粒子を、ポリスチレン微量力価測定プレート孔などの蛋白を結合する能力を有する表面などの所定の表面に固定化する。洗浄によって吸着が不完全なレトロウィルス様粒子を除去した後、ウシ血清アルブミン(BSA)またはカゼインの溶液などの被験検体に関して抗原的に中性であることが知られている非特異的蛋白を所定の表面に結合させることができる。それにより、固定化表面上の非特異的吸着部位の遮断ができ、従ってその表面への抗血清の非特異的結合によって生じるバックグラウンドが低下する。
【0087】
次に固定化表面を、免疫錯体(抗原/抗体)形成ができるような形で、試験対象の臨床検体または生物検体などの検体と接触させる。それには、検体をBSA溶液、ウシγ−グロブリン(BGG)溶液および/またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)/Tweenなどの希釈剤で希釈する方法などがあり得る。次に検体を、約25℃〜37℃程度などの温度で約2〜4時間インキュベーションする。
【0088】
インキュベーション後、検体に接触した表面を洗浄して、免疫錯体形成していない材料を除去する。洗浄方法には、PBS/Tweenまたはホウ酸緩衝液などの溶液で洗浄する方法などがあり得る。
【0089】
被験検体と結合したレトロウィルス様粒子との間で特異的免疫錯体を形成してから洗浄を行った後、免疫錯体形成が起こったか否かおよびその量も、第1の抗体に対する特異性を有する第2の抗体にその免疫錯体を曝露することで確認することができる。被験検体がヒト起源のものである場合、第2の抗体はヒト免疫グロブリン(一般にはIgGと表記される)に対する特異性を有する抗体である。
【0090】
検出手段を提供するため、第2の抗体には、例えば適切な色原性基質とともにインキュベーションすることで発色する酵素活性などの活性を持たせることができる。次に、例えば可視スペクトル分光光度計を用いて発色程度を測定することで、定量を行うことができる。
【0091】
複数のHIV単離物を識別する抗体を確認することが望ましい診断の1実施態様においては、本発明の免疫的に区別される複数のレトロウィルス様粒子を所定の表面に固定化する。別法として、抗HIV抗体が各種HIV単離物中でかなり保存された(conserved)エピトープ(例:gagまたはgp41からのB細胞エピトープ)を認識する場合、単一または限られた数のレトロウィルス様粒子を固定化することができる。単一のHIV単離物(例:LAI、MN、SF2またはHXB2)を認識する抗体を特異的に確認することが望ましい診断のさらに別の実施態様においては、本発明の単一の特定レトロウィルス様粒子を固定化することができる。その別の診断実施態様は、医学、臨床試験、法律および法科学という、抗体応答などの免疫応答を発生させた特定のHIV単離物を測定することが必須である分野において特に有用である。
【0092】
さらに別の実施態様においては、異なったクレードに属するHIV単離物などの免疫的に区別されるレトロウィルスを特異的に確認することが望ましい場合がある。免疫的に区別されるHIV単離物には例えば、LAI、MN、SF2、HXB2または一次HIV−1単離物などがある。この診断実施態様においては、本発明の特定のレトロウィルス様粒子は、免疫的に区別されるHIV単離物を特異的に認識するモノクローナル抗体などの抗体を生成する上で有用である。
【0093】
免疫的に区別されるレトロウィルス様粒子の混合物を、ワクチンなどにおける免疫原としてあるいは診断試薬として用いることができることは明らかである。
【0094】
レトロウィルス様粒子の混合物を用いて交差単離物の保護および/または診断を行うような状況があり得る。その場合、免疫原の混合物は通常、「カクテル」製剤と称される。
【0095】
本発明は、その利点として、天然コンホメーションに実質的にgag、polおよびenv遺伝子産物を有するレトロウィルス様粒子を提供する。そうして、そのようなレトロウィルス粒子は、変性形のHIV抗原またはそのようなMIV抗原に相当する合成ペプチドを認識することができないコンホメーションの抗HIV抗体(例:抗env抗体)によって認識される。従って、本発明のレトロウィルス様粒子は、抗原としておよび診断実施態様における抗レトロウィルス抗体(モノクローナル抗体を含む)の形成での免疫原として特に有用である。
【0096】
さらに、マーカーが存在することで、それに対する特異的免疫応答を発生させ、それを前述の方法によって検出することで、本発明で提供される免疫原性組成物による宿主の免疫感作と、ビルレントレトロウィルスによる実際の(material)感染とを容易に識別することができる。そのような診断および鑑別が可能であることは、疫学、臨床試験、法科学および免疫学の分野で非常に有用である。
他の用途
本発明の基礎となるレトロウィルス様粒子に結合する分子、特には抗体、抗体関連分子およびそれらの構造的類縁体も、AIDSおよび関連状態の治療および診断に試薬として有用である可能性がある。
【0097】
本発明のレトロウィルス様粒子に対して特異的であるキメラ抗体、人体に適応させた(humanized)抗体、合体させた(veneered)抗体および人為的に形成した(engineered)抗体などの抗体の変化したもの(抗原結合部位の変化したものを含む)は、本発明の範囲に含まれる。
【0098】
本発明のレトロウィルス様粒子に結合する抗体および他の分子は、以下に記載のような多くの各種形態で治療(予防および治療)および診断目的に使用することができる。
【0099】
−抗体(恐らくは人体に適応させた抗体)をHIV感染患者に対して適切に投与することにより受動感作を行う。
【0100】
−好適なサブクラスまたはイソタイプ(恐らくは適切な抗体の形成によって得られる)の抗体を用いることで抗体依存性細胞毒性(ADCC)を活性化、補足または媒介することにより、所望の機能を行うことができるようにする。
【0101】
−例えば、抗体および細胞毒性部分の接合体を有するイムノトキシンを使用することで毒物その他の試薬を標的部分に運搬し、HIV感染細胞(例:gp120)の細胞表面に露出したHIV蛋白に直接または間接的に結合させる。
【0102】
−免疫原性の高い材料をHIV感染細胞の表面を標的として運搬し、宿主の体液または細胞の免疫系のいずれかによってそのような細胞の除去を行う。
【0103】
−各種イムノアッセイ法を用いてHIVの検出を行う。
【0104】
そこで、さらに別の診断実施態様においては、本発明の免疫原性組成物(個別に、またはカクテル製剤などの混合物として)は、生体検体などの検体中のHIVまたは抗原の検出またはHIVの中和を行うのに使用することができるHIV抗原特異的抗体(モノクローナル抗体を含む)の形成に有用である。
【0105】
別の診断実施態様においては、本発明のレトロウィルス様粒子を用いて、例えばHIV感染者から得た生体検体中のHIV特異的T細胞を特異的に刺激して診断または治療を行うのに使用することができる。
生物寄託
本明細書において記載・言及される本発明の各種態様によるレトロウィルス様粒子をコードするある種のプラスミドは、ブダペスト条約に従い、本願出願に先だって、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection(ATCC),12301 Parklawn Drive,Rockville,Maryland,USA,20852)に寄託した。寄託プラスミドのサンプルは、本米国特許出願に基づく特許交付時に公表される。寄託した実施態様は、単に本発明の例とすることを意図したものであることから、本願で説明され特許請求される発明は、寄託したプラスミドに限定されるものではない。本願に記載のものと類似または等価なレトロウィルス様粒子をコードする等価もしくは類似のプラスミドは、本発明の範囲に含まれる。
【0106】
寄託の要旨
【0107】
【化5】
【0108】
上記の開示内容は、本発明の概要を説明するものであり、以下の具体的実施例を参照することで、本発明をより完全に理解することができる。これら実施例は、単に例示を目的としたものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0109】
本明細書においては具体的な用語を使用しているが、そのような用語は説明のためのものであり、限定を目的としたものではない。免疫法および組換えDNA法は本開示に明瞭に記載されていない場合があるが、当業者の能力の範囲内に十分入るものである。
【実施例】
【0110】
実施例
本開示および以下の実施例に明瞭には記載されていないが使用した分子遺伝学、蛋白生化学および免疫学の方法は、科学文献中に数多く報告されており、当業者の能力の範囲内のものである。
【0111】
実施例1
本実施例は、プラスミドpMTHIVBRUの構造を説明するものである。
【0112】
プラスミドpMTHIVBRUは、図1および図2に示したような構造を持っていた。
【0113】
このプラスミドは、ロビンスキーらの報告(Rovinski et al,1992;この引用文献は、明細書末にある)に記載され、RNAパッケージング欠失を有し、一連の突然変異/欠失を有するよう形成した発現ベクターpMTHIVd25の修飾物である。
【0114】
そこで、Cys−Hisボックス突然変異においては、図1に示したように、gag蛋白の最初のCys−Hisボックス(配列番号14)で、2個のコドン(配列番号13中)が2個のセリンコドンによって置換されている。これは、PCRに基づく突然変異誘発法によって行った。2個のプライマーを合成し、
上流プライマーは5’−GGACTAGTACCCTTCAGGAACAAATAGGATGGATGACAAATAATCCACCTATCCCAGTAGGAG−3’(配列番号15)の配列を持ち、5’末端にSpeI部位を有するHIV−1LAIのヌクレオチド1507〜1567を有し(ヌクレオチドの番号付けは、ウエイン−ホブソンら(Wain−Hobson;1985)による)、
下流のプライマーは5’−CTCGGGCCCTGCAATTTCTGGCTATGTGCCCTTCTTTGCCACTATTGAAACTCTTAACAATC−3’(配列番号16)の配列を持ち、5’末端にApaI部位を持つヌクレオチド2011〜1953の逆補体である。下流側プライマーでは、ヌクレオチド1963および1972(Wain Hobson et al.,1985; Myers et al.,1990)の逆補体を表す2個のアデノシン残基がチミジンに変わって、gag遺伝子産物のアミノ酸位置392および395の2個のシステインが2個のセリンによって置換されている(図1)。これら2つのプライマーを用いて、pMTHIVのSpeI−ApaI DNA断片(ヌクレオチド1507〜2008)(Rovinski et al.,1992)を増幅し、それを鋳型として用いた。PCR増幅SpeI−ApaI断片をアガロースゲル電気泳動によって精製し、制限酵素SpeIおよびApaIで消化させた。この断片を用いて、pMTHIVd25の相当する断片を置換した(Rovinski et al,1992)。得られたプラスミドはpMTHIV−Aと称し、RNAパッケージング配列欠失およびCys−Hisボックス突然変異の両方を有している。
【0115】
逆転写酵素およびインテグラーゼの欠失を行うため、HIV−1LAIのヌクレオチド2655および4587の2個のBalI認識部位を用いた(図3)。その2個のBalI部位の間の1.9−kbp断片は、逆転写酵素の95%以上およびインテグラーゼの最初の10%のアミノ酸をコードするDNA配列を有する。プラスミドpMTHIV−AをBalIで消化させた。ゲル電気泳動によって1.9−kbpBalI断片を除去した後、プラスミドの残りの部分を、3つの異なる読み枠に3個の終止コドンを有してインテグラーゼの残りの配列が翻訳されるのを防止する二本鎖オリゴヌクレオチド:5’−GTATAAGTGAGT
AGCGGCCGCAC−3’(1本鎖のみを示した−配列番号17)と連結し
た。得られたプラスミドは、pMTHIVBRUと名付けた。
【0116】
実施例2 本実施例は、抗原的に標識されたエンベロープアンカーを有するHIV様粒子をコードするプラスミドの構造を説明するものである。
【0117】
プラスミドp83−19を、図3に示したように、発現ベクターpMTHIVBRUから構成した。このプラスミドは、gp120LAIのほとんどをコードするDNAをgp120MNをコードする同起源のDNAで置換することで形成したハイブリッドエンベロープ遺伝子を有している。これは、HIV−1LAIからのKpnI/BalIIDNA断片(ヌクレオチド6379〜7668)をHIV−1MNからのKpnI/BalIIDNA断片(ヌクレオチド6358〜7641)で置換することで行った。
【0118】
図4〜6に示したように、プラスミドpMTHIVHA2−701を、発現ベクターpBT1(Alizon et al,1984)およびpMTHIVd25(Rovinski et al,1992)から構成した。
【0119】
pMTHIVHA2−701ベクターは、ヒトインフルエンザウィルスHA2遺伝子(Min Jou et al,1980)からのコード化DNA断片と終止コドンとを有する135−bp配列を有し、HIV−1LAIエンベロープ遺伝子(Wain−Hobson et al,1985; Myers et al,1990)のヌクレオチド7777(G)および7778(A)の間に挿入されている。停止コドンは、HIV−1LAIgp41トランスメンブラン糖蛋白の合成を防止するために挿入したものである。pBT1からのSalI(ヌクレオチド5821)/BamHI(ヌクレオチド8522)DNA断片をpSelect(Promega)にサブクローニングして、pSeBsを得た(図4)。本願において「遺伝子アセンブリを用いる突然変異誘発(GAAM)」と称した方法により、後者のプラスミドを135−bpの挿入に用いた。ヒトインフルエンザウィルスHA2遺伝子からのコード化DNA断片を有する135−bp配列を有するよう設計された突然変異誘発性プライマー(Min Jou et al,1980)を、図5に示したようにアセンブリした。オリゴヌクレオチドIはHIV−1LAIのヌクレオチド7748〜7777(Wain−Hobson et al,1985)と相補的な30個の塩基とHA2蛋白のアミノ酸180〜202をコードするHA2遺伝子配列(Min Jou et al,1980)と相補的な69個の塩基を有する(3’から5’)99マーである。オリゴヌクレオチドIIは、i)HA2蛋白のアミノ酸203〜221をコードし、HA2終止コドンを有するHA2遺伝子配列(Min Jou et al,1980)と相補的な60個の塩基、ii)さらに2個の終止コドンを決定する6個の塩基(ATCATT −配列番号18)およびiii)HIV−1LAIのヌクレオチド7778〜7807(Wain−Hobson et al,1985)と相補的な30個の塩基を有する(3’から5’)96マーである。オリゴヌクレオチドIIIは、オリゴヌクレオチドIの5’末端と相補的な15個のヌクレオチドとオリゴヌクレオチドIIの3’末端と相補的な15個のヌクレオチドを有する架橋30マーである。オリゴヌクレオチドIおよびオリゴヌクレオチドII 10pmolを、オリゴヌクレオチドIII 20pmolと混合し、T4ポリヌクレオチドキナーゼ2単位を含むキナーゼ緩衝液(50mMトリス−HCl、pH7.5、10mM MgCl2、10mM KCl、5mM DTTおよび0.5mM ATP)20μL中で、37℃で1.5時間リン酸化した。混合物を95℃で5分間加熱し、次にゆっくり冷却して室温とすることで、オリゴヌクレオチドをアニーリングした。この混合物に、10×リガーゼ緩衝液(0.5Mトリス−HCl、pH7.4、0〜1M MgCl2、0.1M DTT、10mM スペルミジンおよび1mg/mL BSA)3μL、10mM ATP3μLおよびT4 DNAリガーゼ5単位を加え、得られた連結混合物を16℃で終夜インキュベーションして、突然変異誘発性プライマーのアセンブリを完了させた(図5)。このプライマーをそれ以上精製せずに、突然変異誘発法に使用した。
【0120】
突然変異誘発は、プロメガ(Promega;Madison,WI)の突然変異誘発系(Altered Sites in vitro Mutagenesis System)を用いて行った。突然変異誘発の鋳型は、突然変異キットで提供されるpSelectファーゲミド(phagemid)ベクターにクローニングされたHIV−1LAIエンベロープ遺伝子(ヌクレオチド5821〜8522)の2.7−kbpSalI/BamHIDNA断片を有するpSeBSプラスミドから成るものであった(図4)。突然変異誘発法後、32P標識オリゴヌクレオチドIIIプローブを用いたコロニーハイブリッド形成によって、推定されるクローンを確認した。陽性クローンを、DNA配列決定によって確認した。これらのクローンのうちの一つをpSeBS−HA2と称し、最終ベクターの構成に使用した。
【0121】
そのため、pSeBS−HA2からの修飾BalI/BamHI挿入物をpMTHIVd25−dSalIにサブクローニングした。後者は、SalIによる部分消化とそれに続くクレノウ処理によりプラスミド骨格中のSalI部位を除去することでpMTHIVd25(Rovinski et al,1992)から誘導されたプラスミドである。最終発現構造は、pMTHIVHA2−701と称した。
【0122】
HIV−1LAIエンベロープ遺伝子(Rovinski et al,1992; Wain−Hobson et al,1985)のヌクレオチド7777(G)および7778(A)の間に挿入した異種DNA配列を有する発現ベクターpMTHIVmHA2(図7に示してある)を上記のように形成した。この場合、ヒトインフルエンザウィルスHA2遺伝子(Min Jou et al,1990)からのコード化DNA断片と、HA2配列に融合した場合に、公知の天然蛋白とは相同性を持たないアミノ酸配列をコードする68個のヌクレオチドを有する134−bp配列を、HIV−1LAIのヌクレオチド7777の下流に挿入した(図7)。その挿入により、HIV−1LAIコード化配列のトランスロケーションにおけるフレームシフトと終止コドン(TAG)形成が生じて、HIV−1LAIのgp41トランスメンブラン糖蛋白の合成が防止された。最終発現構造は、pMTHIVmHA2と称した(図7)。
【0123】
図8に示したように、発現ベクターp83−19およびpMTHIVmHA2からプラスミドpMTHIVMNmHA2−5を構成した。このプラスミドは、p83−19の感染性および/または複製に必要な要素の突然変異を全て有し、pMTHIVmHA2の134−bp挿入物配列を有するように設計した(図7)。そのために、p83−19をBalII(ヌクレオチド7641)およびXhoI(ヌクレオチド8944)によって消化させて、1276−bp DNA断片を除去し、pMTHIVmHA2の同起源BalII/XhoI断片によって置換した。
【0124】
実施例3
本実施例は、TMVからの抗原性エピトープを有するHIV様粒子をコードするプラスミドの構成について説明する。
【0125】
プラスミドpHIV−T1、pHIV−T2、pHIV−T3およびpHIV−T4は、TMVコート蛋白からの少なくとも1個の抗原性エピトープ(Westhof et al,1984; Trifilleff et al,1991)を有してなる二本鎖オリゴヌクレオチド(図9、10および11)のコピーをそれぞれ1個、2個、3個または4個有するp83−19構造体の修飾版を表す。これら4つのベクターの構成は、図9および図10に図示してある。全ての構造体を形成するには、プラスミドpMTHIV−A(図1)を最初にSacIIおよびApaIによって消化させて、1328−bp DNA断片を単離し、それを次にpBluescript(Stratagene)にサブクローニングした。次にその組換えプラスミドを、gag遺伝子中のヌクレオチド1415でHIV−1LAIDNAを開裂させるPstIで消化させた。次に、図9に示した二本鎖オリゴヌクレオチド(コード化鎖:配列番号19、相補鎖:配列番号20、コードされたアミド酸:配列番号21)の1個、2個、3個または4個のコピーのいずれかをこの制限部位に挿入した。最後に、得られた組換えプラスミドをSacIIおよびApaIによって消化させて、修飾挿入物を放出し、次にそれを、プラスミドp83−19の同起源領域にクローニングした(図10)。
【0126】
mHA2エピトープまたはTMVエピトープの各種コピーのいずれかを有するレトロウィルス様粒子の発現を図11に示してある。ベロ細胞を集密度80%まで成長させ、トランスフィニティ(transfinity)(BRL)リン酸カルシウム法によりプラスミドDNA20μgでトランスフェクションした。トランスフェクション48時間後に、培養上清について、蛋白発現を分析した。個々の発現構造体でトランスフェクションした細胞からの培地(10mL)を回収し、4℃で15分間の2000×gでの遠心(sorvall RT 6000B;Dupont Company,Wilmington,Del.)を行って透明とした。超遠心によってレトロウィルス様粒子を単離した。ペレット化した粒子をTNE40μLに懸濁し、5×レムリ(Laemmli)サンプル緩衝液10μLと混和し、3分間沸騰させた。次に、SDS PAGEによってウィルス蛋白を分離し、イモビロン(Immobilon)膜(Millipore,Bedford,Mass.)に移した。膜をブロット(BLOTTO)緩衝液(カーネイション(Carnation)インスタント脱脂乾燥乳5%、チメロサール0.0001%(重量/容量)および消泡剤A乳剤0.01%(容量/容量)を含むPBS)で25℃にて2時間遮断し、抗体の適切な希釈液とともに4℃で終夜のインキュベーションを行った。次にフィルターを、アルカリ性ホスファターゼ(Promega,Madison,Wis.)に接合したヤギ抗マウス免疫グロブリンG抗体とインキュベーションし、アルカリ性ホスファターゼ色原性基質ニトロブルー(nitroblue)テトラゾリウムクロライドおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェートp−トルイジン塩(BRL)と反応させた。パネル(Panel)Aでは抗gp120、抗gp41および抗p24の混合物を用い、パネルBでは抗gp120および抗p24抗体の混合物を用いた。
【0127】
図11に示した結果は、抗原的に標識したHIV様粒子が、実質的にその天然コンホメーションにgp120、gp41およびp24を形成することを示している。
【0128】
実施例4
本実施例は、抗原的に標識したHIV様粒子の免疫原性および免疫反応性を説明するものである。
【0129】
プラスミドpHIV−T1、pHIV−T2、pHIV−T3またはpHIV−T4のいずれか(図10)を、プラスミドpSV2neoによりベロ細胞に同時トランスフェクションし、HIV様粒子を産生する安定な細胞系を得た。HIV様粒子を精製し、gag遺伝子産物に挿入されたTMVマーカーに相当するペプチドで免疫感作したモルモットからの免疫血清に対するその反応性をイムノブロット分析によって測定した。免疫血清を得るため、KLHに接合したTMVマーカーからなるペプチド100μgでモルモットを免疫感作し、完全フロイントアジュバント中でアジュバント(adjuvant)した。いずれの動物も、3週間間隔で3回、不完全フロイントアジュバントでアジュバントした同じペプチドで追加免疫した。最終追加免疫から2週間後に、免疫血清を回収した。図12に示した結果は、各種HIV様粒子に存在する各種形態のgag遺伝子産物に対する免疫血清の反応性を図示し、修飾HIV−1様粒子に関するTMVマーカーの抗原性を示したものである。
【0130】
さらに別の試験で、gag10μgに等価な量のHIV様粒子でTMVマーカー配列(GAFDTRNRIIEVENGA:配列番号21)のコピー2個を有するものでモルモットを免疫感作し、3週間間隔で同じHIV様粒子5μgで追加免疫した。HIV様粒子を完全フロイントアジュバント(追加免疫用量は、不完全フロイントアジュバントでアジュバントした)またはQS21でアジュバントした。最初の免疫感作から11週間後に血清検体を採り、HIV−1 MNのV3中和エピトープ(TRPNYNKRKRIHIGPGRAFYTTKNIIGTIRQAHC:配列番号31)、TMVマーカー配列(AFDTRNRIIEVEN:配列番号1)および組換え源から産生されたp24(gag)蛋白を有するアミノ酸配列に相当するペプチドとの反応性を、ELISAによって調べた。結果を図14に示しているが、この結果は、TMVマーカー配列を有するHIV様粒子が免疫応答を生じて、p24(gag)、gp120(および特異的にV3中和エピトープ)およびTMVマーカー配列を特異的に認識する抗体を産生することができることを示している。スキナーらの報告(Skinner et al.,1988)に記載の方法に従って、ウィルス感染阻害アッセイを用いて、モルモット抗血清についてのウィルス中和も調べた。表2に終点力価を示したが、この結果は、TMVマーカー配列を発現するレトロウィルス様粒子を用いる免疫感作によって産生される抗体がHIVによる細胞感染を阻害することができることを示している。
【0131】
プラスミドpMTHIVMNmHA2−5をプラスミドpSV2neoとともにベロ細胞に同時トランスフェクションし、HIV様粒子を産生する安定な細胞系を得た。次に、HIV様粒子を精製し、完全フロイントアジュバントでアジュバントしたgagP2410μgに等価な量のHIV様粒子でモルモットを免疫感作した。いずれの動物も、3週間間隔で3回、不完全フロイントアジュバントでアジュバントしたHIV様粒子で追加免疫した。最終追加免疫から2週間後に、免疫血清を回収し、それについて、ELISAによって抗V3および抗mHA2マーカー反応性のアッセイを行った。以下の表1に示した結果は、mHA2マーカーを有するHIV様粒子で免疫感作したモルモットが、mHA2マーカー(MHA−1)およびV3ループ中和ドメイン(CLTB56、CLTB71およびCLTB73)を表すペプチドを認識することができる抗体を産生したことを示している。
【0132】
さらに別の試験で、gagp24 10μgに等価な量のHIV様粒子でmHA抗原マーカー配列を有するものでモルモットを免疫感作し、3週間間隔で3回、同じHIV様粒子5μgで追加免疫した。HIV様粒子を完全フロイントアジュバント(追加免疫用量は、不完全フロイントアジュバントでアジュバントした)、QS21またはリン酸アルミニウム(ALUM)でアジュバントした。最初の免疫感作から11週間後に動物から血清検体を採り、HIV−1MNのV3中和エピトープ(TRPNYNKRKRIHIGPGRAFYTTKNIIGTIRQAHC:配列番号31)、mHA2配列(GPAKKATLGATFAFDSKEEWCREKKEQWE:配列番号22)および組換え源から産生されたp24(gag)蛋白を有するアミノ酸配列に相当するペプチドとの反応性を、ELISAによって調べた。結果を図13に示しているが、この結果は、mHA2マーカー配列を有するHIV様粒子が免疫応答を生じて、p24(gag)、gp120(具体的にはV3中和エピトープ)およびmHA2マーカー配列を特異的に認識する抗体を形成することができることを示している。スキナーらの報告(Skinner et al.,1988)に記載の方法に従って、モルモット抗血清について、HIVMNによる感染を防止する能力も調べた。表2に終点力価を示したが、この結果は、mHA2マーカー配列を発現するレトロウィルス様粒子を用いる免疫感作によって産生される抗体がHIVによる細胞感染を阻害することができることを示している。従ってこれらのデータは、HIV様粒子に関して提供された場合に、mHA2マーカーが免疫原性であり、各種HIV単離物からのV3ループの主要中和決定基に対しても抗体が産生されることを示している。
【0133】
実施例5
本実施例は、gp41の免疫優性領域に対する突然変異によって抗体的に標識されたHIV様粒子の形成について説明するものである。
【0134】
アミノ酸配列LGIWGCSGKLIC(配列番号28)を有する免疫優性領域を有するgp160(gp41)のトランスメンブランドメインとこの配列を認識する抗体は全てのHIV−1感染者に存在する。実際、この免疫優性領域に特異的な抗体の検出が、HIV−1感染の臨床診断に利用される。そのようなこの免疫優性領域に特異的な抗体はHIV−1感染の臨床診断に利用される。しかしながら、そのような抗体はHIV−1を中和しないのが普通である。そこで、免疫優性領域の突然変異誘発によって、野生型HIV−1と抗原的に識別可能なHIV様粒子を形成した。HIV感染患者からの血清によって認識されない免疫優性領域の突然変異体を、表3に示したような血清で突然変異体配列を有するペプチドを認識することによって確認した。アマシャム・ライフサイエンス(Amersham Life Science,Amersham International PLC)製造のスカルプチャー(Sculpture:登録商標)in vitro突然変異誘発系キットを用いる部位特異的突然変異誘発によって突然変異を導入した。エンベロープをコードする配列を有するp83−19からのSalI BamHIDNA断片をK13にサブクローニングし、表3に示した突然変異を指定するDNAを有するオリゴヌクレオチドを用いて、gp41内の免疫優性領域に対して適切な突然変異を起こして、構造体smIDR、クローン4およびクローン16を得た。これら構造体のそれぞれをベロ細胞にトランスフェクションし、イムノブロッティングによってレトロウィルス様粒子を得た。これらのレトロウィルス様粒子について、エンベロープ糖蛋白gp120およびgp160およびgp41の発現を分析した。これらの糖蛋白はいずれも、各種レトロウィルス様粒子に存在していた。特に、gp41の免疫優性領域にアミノ酸置換SGK→AFRを有するクローン4を選択した。
【0135】
開示の要旨
本開示をまとめると、本発明は、例えば予防接種すなわちレトロウィルス特異的抗血清の形成に有用な免疫原性製剤ならびに診断法・診断キットにおける抗原としてのある種の非感染性非複製性レトロウィルス様粒子およびそれをコードする核酸分子を提供する。レトロウィルス様粒子は、polおよび/またはgag遺伝子産物に対する修飾によって非感染性になったと考えられる。特定のレトロウィルス様粒子は、非レトロウィルス性非抗原マーカーを有する。本発明の範囲内での改良は可能である。
【0136】
【表1】
【0137】
【表2】
【0138】
【表3】
【0139】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】図1は、本発明の1実施態様によるレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIV−A)の構造図式である。
【図2】図2は、本発明の別の実施態様によるレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIVBRU)の構造図式である。
【図3】図3は、本発明のさらに別の実施態様によるレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(p83−19)の構造図式である。
【図4】図4は、本発明の1実施態様によるプラスミド(pSeBS−HA2)の構造図式である。
【図5】図5は、遺伝子アセンブリを用いた突然変異誘発の工程系統図である。
【図6】図6は、本発明のさらに別の実施態様によるヒトインフルエンザヘマグルチニン糖蛋白のトランスメンブラン成分の一部を有する抗原マーカー配列を有するレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIVHA2−701)の構造図式である。
【図7】図7は、本発明のさらに別の実施態様による非天然マーカーを有するレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIVmHA2)の構造図式である。
【図8】図8は、本発明のさらに別の実施態様による非天然マーカーを有するレトロウィルス様粒子をコードするプラスミド(pMTHIVMNmHA2−5)の構造図式である。
【図9】図9は、本発明のさらに別の実施態様による非感染性非複製性レトロウィルス様粒子のgag遺伝子産物に挿入されたタバコモザイクウィルスからの抗原性エピトープをコードするオリゴヌクレオチドの詳細図である。
【図10】図10は、タバコモザイクウィルスからの抗原性エピトープを有するレトロウィルス様粒子をコードするプラスミドの構造図式である。
【図11】図11は、本発明の抗原的に標識されたレトロウィルス様粒子(シュードウィルス粒子)のイムノブロット分析を示す図である。
【図12】図12は、抗原的に標識されたレトロウィルス様粒子のイムノブロット分析を示して、gag遺伝子産物に抗原マーカーが含まれていることを示す図である。
【図13】図13は、mHA2配列を有することによって抗原的に標識されたレトロウィルス様粒子で免疫感作したモルモットにおける免疫応答を示す図である。
【図14】図14は、TMVマーカー配列を有することによって抗原的に標識されたレトロウィルス様粒子で免疫感作したモルモットにおける免疫応答を示す図である。
【図15】図15は、HIV−1のエンベロープ糖蛋白gp120中の、HIV−1と抗原的に識別できる非感染性レトロウィルス様粒子を提供する修飾を行う免疫優性領域の位置を示す図である。
【図16】図16は、HIV−1の臨床的一次単離物のエンベロープ糖蛋白gp120を有するレトロウィルス様粒子のイムノブロット分析を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)env遺伝子産物、
(b)pol遺伝子産物、
(c)gag遺伝子産物、ならびに
(d)非レトロウィルス性または非HIVレトロウィルス性である少なくとも1個の抗原マーカーのアセンブリを有する非感染性レトロウィルス様粒子。
【請求項2】
前記少なくとも1個の抗原マーカーが約5〜約100個のアミノ酸残基を有する請求項1記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項3】
前記少なくとも1個の抗原マーカーが約10〜約75個のアミノ酸残基を有する請求項2記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項4】
前記少なくとも1個の抗原マーカーが、タバコモザイクウィルスコート蛋白からの少なくとも1個の抗原性エピトープを有する請求項2または3記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項5】
前記少なくとも1個の抗原性エピトープが、アミノ酸配列AFDTRNRIIEVENあるいは配列AFDTRNRIIEVENを認識する抗体を誘導することができる該配列の一部、変化体もしくは突然変異体を含む請求項4記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項6】
前記少なくとも1個の抗原マーカーが、gag遺伝子産物内にあり、未修飾gag遺伝子産物の粒子形成性を有するハイブリッドgag遺伝子産物を形成する請求項2記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項7】
前記少なくとも1個の抗原マーカーが、抗原的に活性な挿入部位でgag遺伝子産物に挿入される請求項6記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項8】
前記挿入部位が、HIV−1 LAI単離物のgag遺伝子産物のアミノ酸残基210と211の間に位置するか、あるいは他のレトロウィルスgag遺伝子産物の相当する箇所に位置する請求項7記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項9】
前記少なくとも1個の抗原マーカーが、アミノ酸配列AFDTRNRIIEVENあるいは配列AFDTRNRIIEVENを認識する抗体を誘導することができる該配列の一部、変化体もしくは突然変異体の1〜4個の直列のコピーを有する請求項8記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項10】
1 前記少なくとも1個の抗原マーカーが、レトロウィルス蛋白のエピトープに相当するアミノ酸配列の欠失によって提供される請求項1記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項11】
env遺伝子産物の免疫優性領域を、その領域からの少なくとも1個のアミノ酸を置換または除去することで修飾して、レトロウィルス感染宿主からの血清によって生じる突然変異において免疫優性領域の認識を実質的に防止する請求項10記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項12】
レトロウィルスがHIVであり、免疫優性領域がアミノ酸配列LGIWGCSGKLIC(配列番号27)を有する請求項10記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項13】
前記突然変異における修飾アミノ酸配列が、LGIWGCTGRILC(配列番号28)、LGIWGCAFRLIC(配列番号29)およびLGIWGCTLELIC(配列番号30)からなる群から選択される請求項12記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項14】
(a)内因性アンカー形成機能部分をenv遺伝子産物に操作によって連結した異なるアンカー配列によって置換することで、該env遺伝子産物をレトロウィルス様粒子をアンカーするようにした修飾env遺伝子産物、
(b)pol遺伝子産物、および
(c)gag遺伝子産物のアセンブリを有してなる非感染性レトロウィルス様粒子。
【請求項15】
前記アンカー配列が抗原性である請求項14記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項16】
アンカー配列が、約5〜約100のアミノ酸残基を有する請求項14記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項17】
アンカー配列が、約10〜約75のアミノ酸残基を有する請求項16記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項18】
アンカー配列が、膜スパニング蛋白のトランスメンブラン成分の一部を少なくとも有する請求項16記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項19】
膜スパニング蛋白が糖蛋白である請求項18記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項20】
糖蛋白がインフルエンザウィルス蛋白である請求項19記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項21】
インフルエンザウィルス蛋白がヒトインフルエンザウィルス蛋白である請求項20記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項22】
アンカー配列が、アミノ酸配列WILWISFAISCFLLCVVLLGFIMWまたは配列WILWISFAISCFLLCVVLLGFIMWを認識する抗体を誘発する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体を含む請求項21記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項23】
インフルエンザウィルス蛋白がトリインフルエンザウィルス蛋白である請求項20記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項24】
アンカー配列が、アミノ酸配列STVASSLALAIMIAGLSFWMCSNGSLQまたは配列STVASSLALAIMIAGLSFWMCSNGSLQを認識する抗体を誘発する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体を含む請求項23記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項25】
前記アンカー配列が、env遺伝子産物の機能性開裂部位の上流の隣接するenv遺伝子産物に挿入されている請求項14記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項26】
前記アンカー配列が、HIV−1 LAI単離物のenv遺伝子産物のアミノ酸残基507および508の間あるいは他のレトロウィルスenv遺伝子産物の相当する箇所に挿入されている請求項25記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項27】
アンカー配列が、
アミノ酸配列WILWISFAISCFLLCVVCWGSSCGPAKKATLGATFAFDSKEEWCREKKEQWEまたは
配列WILWISFAISCFLLCVVCWGSSCGPAKKATLGATFAFDSKEEWCREKKEQWEを認識する抗体を誘発する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体を含む請求項14記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項28】
env、polおよびgag遺伝子産物がヒトレトロウィルスのenv、polおよびgag遺伝子産物に相当する請求項1記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項29】
ヒトレトロウィルスが、HIV−1、HIV−2、HTLV−1およびHTLV−2からなる群から選択される請求項28記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項30】
ヒトレトロウィルスがHIV−1であり、env遺伝子産物がLAIenv遺伝子産物、MNenv遺伝子産物、一次HIV−1単離物からのenv遺伝子産物または抗原的にそれに等価なenv遺伝子産物である請求項29記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項31】
前記のgagおよびpol遺伝子産物が、env遺伝子産物を誘導するHIV−1単離物とは異なるHIV−1単離物から誘導される請求項30記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項32】
前記のenv遺伝子産物が、初期HIV−1単離物由来である請求項31記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項33】
長い末端反復を欠失し、その天然ゲノム配置にgag、polおよびenv遺伝子を有する修飾レトロウィルスゲノムと非レトロウィルス性もしくは非HIVウィルス性である少なくとも1個の抗原マーカーをコードする部分とを有してなる、非感染性レトロウィルス様粒子をコードする核酸分子。
【請求項34】
前記少なくとも1個の抗原マーカーをコードする部分が約15〜約300個のヌクレオチドを有する請求項33記載の核酸分子。
【請求項35】
前記少なくとも1個の抗原マーカーをコードする部分が約30〜約225個のヌクレオチドを有する請求項34記載の核酸分子。
【請求項36】
前記少なくとも1個の抗原マーカーをコードする部分が、タバコモザイクウィルスコート蛋白からの少なくとも1個の抗原性エピトープをコードしている請求項34記載の核酸分子。
【請求項37】
タバコモザイクウィルスコート蛋白からの少なくとも1個の抗原性エピトープが、アミノ酸配列AFDTRNRIIEVENあるいは配列AFDTRNRIIEVENを認識する抗体を誘導することができる該配列の一部、変化体もしくは突然変異体を含む請求項36記載の核酸分子。
【請求項38】
前記少なくとも1個の抗原マーカーをコードする部分が、gag遺伝子産物内にあり、未修飾gag遺伝子産物の粒子形成性を有するハイブリッドgag遺伝子産物をコードする修飾gag遺伝子を提供する請求項33記載の核酸分子。
【請求項39】
前記少なくとも1個の抗原マーカーをコードする部分が、gag遺伝子に挿入されて、ハイブリッドgag遺伝子産物の抗原的に活性な挿入部位で抗原マーカーを提供する請求項38記載の核酸分子。
【請求項40】
前記少なくとも1個の抗原マーカーをコードする部分が、HIV−1LAI単離物のgag遺伝子のヌクレオチド1415にあるPstI部位に位置する挿入部位で挿入される請求項39記載の核酸分子。
【請求項41】
前記少なくとも1個の抗原マーカーをコードする部分が、
【化1】
(c)厳しい条件下に(a)または(b)とハイブリッド形成するDNA配列からなる群から選択されるDNA配列のコピー1〜4個を有する請求項36または40記載の核酸分子。
【請求項42】
(c)におけるDNA配列が、(a)または(b)の配列と少なくとも約90%配列が同一である請求項41記載のDNA分子。
【請求項43】
前記核酸分子が、HIV−1LAI単離物のゲノムのSacIからXhoI断片に存在する特徴的な遺伝要素を有するDNA分子を有する請求項33記載の核酸分子。
【請求項44】
長い末端反復を欠失し、その天然ゲノム配置にgag、polおよびenv遺伝子を有する修飾レトロウィルスゲノムを有してなり、該env遺伝子が修飾されて、env遺伝子産物をレトロウィルス様粒子にアンカーするためのアンカー配列をコードする部分をそこに提供することで、該修飾env遺伝子がenvの内因性アンカー形成機能部分を抗原性アンカー配列によって置換した修飾env遺伝子産物をコードしている、非感染性レトロウィルス様粒子をコードする核酸分子。
【請求項45】
前記部分が、抗原性アンカー配列をコードしている請求項44記載の核酸分子。
【請求項46】
アンカー配列をコードする部分が、約15〜約300個のヌクレオチドを有する請求項44記載の核酸分子。
【請求項47】
アンカー配列をコードする部分が約30〜約225個のヌクレオチドを有する請求項46記載の核酸分子。
【請求項48】
アンカー配列をコードする部分が、膜スパニング蛋白のトランスメンブレン成分の少なくとも一部をコードしている請求項45記載の核酸分子。
【請求項49】
膜スパニング蛋白が糖蛋白である請求項48記載の核酸分子。
【請求項50】
糖蛋白が、インフルエンザウィルス蛋白である請求項49記載の核酸分子。
【請求項51】
インフルエンザウィルス蛋白が、ヒトインフルエンザウィルス蛋白である請求項50記載の核酸分子。
【請求項52】
アンカー配列が、アミノ酸配列WILWISFAISCFLLCVVLLGFIMWまたは配列WILWISFAISCFLLCVVLLGFIMWを認識する抗体を誘発する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体を含む請求項50記載の核酸分子。
【請求項53】
アンカー配列をコードする部分が、
【化2】
(c)厳しい条件下に(a)または(b)とハイブリッド形成するDNA配列から成る群から選択されるDNA配列を有する請求項44記載の核酸分子。
【請求項54】
(c)における配列が、(a)または(b)の配列と少なくとも約90%配列が同一である請求項53記載のDNA分子。
【請求項55】
インフルエンザウィルス蛋白が、トリインフルエンザウィルス蛋白である請求項50記載の核酸分子。
【請求項56】
アンカー配列が、アミノ酸配列STVASSLALAIMIAGLSFWMCSNGSLQまたは配列STVASSLALAIMIAGLSFWMCSNGSLQを認識する抗体を認識する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体を含む請求項55記載の核酸分子。
【請求項57】
アンカー配列をコードする部分が、
【化3】
(c)厳しい条件下に(a)または(b)とハイブリッド形成するDNA配列からなる群から選択されるDNA配列を含む請求項55記載の核酸分子。
【請求項58】
(c)における配列が、(a)または(b)の配列と少なくとも約90%配列が同一である請求項57記載のDNA分子。
【請求項59】
アンカー配列が、
アミノ酸配列WILWISFAISCFLLCVVCWGSSCGPAKKATLGATFAFDSKEEWCREKKEQWEまたは配列WILWISFAISCFLLCVVCWGSSCGPAKKATLGATFAFDSKEEWCREKKEQWEを認識する抗体を誘発する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体を含む請求項44記載の核酸分子。
【請求項60】
アンカー配列をコードする部分が、
【化4】
(c)厳しい条件下に(a)または(b)とハイブリッド形成するDNA配列からなる群から選択されるDNA配列を含む請求項44記載の核酸分子。
【請求項61】
(c)における配列が、(a)および(b)の配列と少なくとも約90%配列が同一である請求項60記載のDNA分子。
【請求項62】
アンカー配列をコードする部分が、env遺伝子産物の機能性開裂部位をコードするヌクレオチドの上流の隣接するenv遺伝子に位置する請求項44記載の核酸分子。
【請求項63】
アンカー配列をコードする前記部分が、HIV−1 LAI単離物のenv遺伝子のヌクレオチド7777と7778との間または他のレトロウィルスenv遺伝子の相当する箇所に位置している請求項62記載の核酸分子。
【請求項64】
前記修飾レトロウィルスゲノムが、プライマー結合部位を欠失している請求項28または44記載の核酸分子。
【請求項65】
前記修飾レトロウィルスゲノムが、ヒトレトロウィルスからの修飾レトロウィルスゲノムである請求項28または44記載の核酸分子。
【請求項66】
ヒトレトロウィルスが、HIV−1、HIV−2、HILV−1およびHILV−2から成る群から選択される請求項65記載の核酸分子。
【請求項67】
ヒトレトロウィルスがHIV−1であり、env遺伝子がLAIenv遺伝子、MNenv遺伝子、一次HIV−1単離物からのenv遺伝子または抗原的にそれに等価なenv遺伝子である請求項65記載の核酸分子。
【請求項68】
前記のgagおよびpol遺伝子が、env遺伝子を誘導するHIV−1単離物とは異なるHIV−1単離物から誘導される請求項67記載の核酸分子。
【請求項69】
前記env遺伝子が、一次HIV−1単離物から誘導される請求項68記載の核酸分子。
【請求項70】
請求項1もしくは14記載のレトロウィルス様粒子または請求項33もしくは44記載の核酸分子およびそれらに対する担体を有してなる、レトロウィルス特異性免疫応答および非レトロウィルスマーカーに対する特異的免疫応答を誘発することができる免疫原性組成物。
【請求項71】
粘膜投与または非経口投与用に製剤される請求項70記載の免疫原性組成物。
【請求項72】
経口的、経肛門的、経膣的または鼻腔内投与用に製剤される請求項70記載の免疫原性組成物。
【請求項73】
さらに、少なくとも1個の他の免疫原性物または免疫刺激性物を有してなる請求項71記載の免疫原性組成物。
【請求項74】
少なくとも1個の他の免疫刺激物がアジュバントである請求項73記載の組成物。
【請求項75】
アジュバントが、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、QS21、Quil A、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、糖脂質類縁体、アミノ酸のオクタデニルエステル、ムラミルジペプチド、リボ蛋白および不完全フロイントアジュバントからなる群から選択される請求項74記載の組成物。
【請求項76】
宿主に、免疫的に有効な量の請求項70記載の免疫原性組成物を投与する段階を有してなる、宿主を免疫感作して、レトロウィルス特異的免疫応答および抗原マーカーに対する特異的免疫応答を起こす方法。
【請求項77】
検体中のレトロウィルス抗原と特異的に反応する抗体の存在を測定する方法であって、 (a)請求項1または14に記載の非感染性レトロウィルス様粒子と検体とを接触させて、非感染性レトロウィルス様粒子および該粒子と特異的に反応する検体中に存在する前記抗体とを有する錯体を形成する段階、ならびに (b)前記錯体の形成を確認する段階を有する方法。
【請求項78】
検体中のレトロウィルス抗原の存在を確認する方法であって、
(a)請求項70記載の免疫原性組成物で宿主を免疫感作して、レトロウィルス抗原特異的抗体を産生する段階、
(b)レトロウィルス抗原特異的抗体と検体とを接触させて、検体中のレトロウィルス抗原とレトロウィルス抗原特異的抗体を有してなる錯体を形成する段階、ならびに
(c)前記錯体の形成を確認する段階を有してなる方法。
【請求項79】
検体中のレトロウィルス抗原の存在を検出する診断キットであって、
(a)請求項78で産生されるような、少なくとも1個のレトロウィルス抗原特異的抗体、
(b)前記少なくとも1個の抗体を検体と接触させて、検体中のレトロウィルス抗原および前記レトロウィルス抗原特異的抗体を有してなる錯体を形成する手段、ならびに
(c)前記錯体の形成を確認する手段を有してなるキット。
【請求項80】
請求項70に記載の免疫原性組成物を用いる免疫感作によって生じる抗血清を確認する方法であって、前記抗血清中の前記抗原マーカーに特異的な抗体を検出する段階を有してなる方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIVのゲノムに相当する一本鎖RNAを有していない非感染性HIV様粒子であって、
前記粒子は、
(a)env遺伝子産物、
(b)pol遺伝子産物、 および
(c)gag遺伝子産物のアセンブリを有し、 かつ
(d)非レトロウイルス性または非HIVレトロウイルス性である少なくとも1個の抗原マーカーを有しており、
該gag遺伝子産物は、HIVの野生型gag遺伝子産物の粒子形成性を保持し;
該env遺伝子産物は、少なくとも、HIVの野生型env遺伝子産物中のgp120の部分を含んでおり;
該少なくとも1個の抗原マーカーは、該gag遺伝子産物あるいは該env遺伝子産物中に含まれている
ことを特徴とする非感染性HIV様粒子。
【請求項2】
前記少なくとも1個の抗原マーカーは、gag遺伝子産物内に含まれ、未修飾gag遺伝子産物の粒子形成性を保持するハイブリッドgag遺伝子産物を構成する請求項1に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項3】
前記少なくとも1個の抗原マーカーは、抗原的に活性な挿入部位において、未修飾gag遺伝子産物中に挿入されている請求項2に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項4】
前記挿入部位は、HIV−1 LAI単離物のgag遺伝子産物のアミノ酸残基210と211の間、あるいは他のHIVのgag遺伝子産物中の相当する箇所に位置する請求項3に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項5】
HIVのゲノムに相当する一本鎖RNAを有していない非感染性HIV様粒子であって、
前記粒子は、
(a)env遺伝子産物、
(b)pol遺伝子産物、 および
(c)gag遺伝子産物のアセンブリを有し、 かつ
(d)非レトロウイルス性または非HIVレトロウイルス性である少なくとも1個の抗原マーカーを有しており、
該gag遺伝子産物は、HIVの野生型gag遺伝子産物の粒子形成性を保持し;
該env遺伝子産物は、少なくとも、HIVの野生型env遺伝子産物中のgp120の部分を含んでおり;
該HIVの野生型env遺伝子産物のエピトープに相当するアミノ酸配列を除去して、該少なくとも1個の抗原マーカーが、与えられている
ことを特徴とする非感染性HIV様粒子。
【請求項6】
HIVの野生型env遺伝子産物の免疫優性領域は、その領域の少なくとも1個のアミノ酸の置換または削除による修飾がなされ、HIV感染宿主からの血清による、この変異を施した前記免疫優性領域の認識を実質的に防いでいる請求項5に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項7】
HIVのゲノムに相当する一本鎖RNAを有していない非感染性HIV様粒子であって、
前記粒子は、
(a)修飾env遺伝子産物、
(b)pol遺伝子産物、 および
(c)gag遺伝子産物のアセンブリを有し、 かつ
(d)非レトロウイルス性または非HIVレトロウイルス性である少なくとも1個の抗原マーカーを有しており、
該gag遺伝子産物は、HIVの野生型gag遺伝子産物の粒子形成性を保持し;
該修飾env遺伝子産物中では、その内因性のアンカー形成機能部分が、該HIV様粒子に当該env遺伝子産物をアンカーする機能を果たすように、少なくとも、HIVの野生型env遺伝子産物のgp120の部分に対して連結されている、非レトロウイルス性または非HIVレトロウイルス由来の異種のアンカー配列により置換され;かつ
該非レトロウイルス性または非HIVレトロウイルス由来の異種のアンカー配列による置換によって、該少なくとも1個の抗原マーカーが与えられている
ことを特徴とする非感染性HIV様粒子。
【請求項8】
前記非レトロウイルスかつ非HIVレトロウイルス由来の異種のアンカー配列が抗原性である請求項7に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項9】
前記非レトロウイルスかつ非HIVレトロウイルス由来の異種のアンカー配列は、少なくとも、該非レトロウイルスかつ非HIVレトロウイルス由来の膜スパニング蛋白のトランスメンブラン部分の一部を含んでいる請求項7または8に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項10】
膜スパニング蛋白が糖蛋白である請求項9に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項11】
前記異種のアンカー配列は、HIVの野生型env遺伝子産物のgp120タンパク質とgp41タンパク質との間の機能性開裂部位の上流で、かつ隣接させて、該野生型env遺伝子産物内に挿入されている請求項7または8に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項12】
前記異種のアンカー配列は、HIV−1 LAI単離物の野生型env遺伝子産物のアミノ酸残基507と508の間、あるいは他のHIVのgag遺伝子産物中の相当する箇所に挿入されている請求項11に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項13】
該HIVは、HIV−1またはHIV−2から選択されている請求項1〜12のいずれかに記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項14】
該HIVは、HIV−1である請求項13に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項15】
下記
(a)HIVのgag遺伝子産物のgag依存性RNAパッケージングを抑制する、
(b)HIVのpol遺伝子産物の逆転写酵素活性を実質的に除去する、
(c)HIVのpol遺伝子産物のインテグラーゼ活性を実質的に除去する、
(d)HIVのpol遺伝子産物のRNアーゼ H活性を実質的に除去する、
のうち、少なくとも1つの作用を果たすように、該polおよび/またはgag遺伝子産物に対して、少なくとも1つの更なる改変が施されている請求項1〜14のいずれかに記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項16】
gag依存性RNAパッケージングの抑制が、HIVのgag遺伝子産物中のgag依存性RNAパッケージングに関与する少なくとも1個のアミノ酸残基の置換または欠失により果たされている請求項15に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項17】
HIVのpol遺伝子産物の逆転写酵素活性の実質的な除去が、少なくともその逆転写酵素活性に関与する一部分の欠失により果たされている請求項15に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項18】
HIVのpol遺伝子産物のインテグラーゼ活性の実質的な除去が、少なくともそのインテグラーゼ活性に関与する一部分の欠失により果たされている請求項15に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項19】
HIVのpol遺伝子産物のRNアーゼ H活性の実質的な除去が、少なくともそのRNアーゼ H活性に関与する一部分の欠失により果たされている請求項15に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項20】
HIVのゲノムに相当する一本鎖RNAを有していない非感染性HIV様粒子をコードする核酸分子であって、
前記核酸分子は、長い末端反復ならびにRNAパッケージングシグナルを欠失し、かつ
(a)env遺伝子;
(b)pol遺伝子;
(c)gag遺伝子;ならびに
(d)非レトロウイルス性または非HIVウイルス性の少なくとも1個の抗原マーカーをコードする断片
を含んでいる、HIVの修飾ウイルスゲノムを含んでなり、
該gag、polおよびenv遺伝子は、HIVのゲノムRNA中に存在する際の天然ゲノム配置で含まれており、
該gag遺伝子は、少なくとも、HIVの野生型gag遺伝子産物の粒子形成性を保持する該gag遺伝子産物部分をコードしており、
該env遺伝子は、少なくとも、HIVの野生型env遺伝子産物のgp120部分をコードしており、かつ
少なくとも1個の抗原マーカーをコードする断片は、該gag遺伝子またはenv遺伝子中に含まれている
ことを特徴とする非感染性HIV様粒子をコードする核酸分子。
【請求項21】
少なくとも1個の抗原マーカーをコードする断片が、該gag遺伝子中に含まれ、HIVの未修飾gag遺伝子産物の粒子形成性を保持するハイブリッドgag遺伝子産物をコードする修飾gag遺伝子とされている請求項20に記載の核酸分子。
【請求項22】
少なくとも1個の抗原マーカーをコードする断片が、該gag遺伝子中に挿入されており、未修飾gag遺伝子産物中に、その抗原的に活性な挿入部位において、少なくとも1個の抗原マーカーが挿入されている、ハイブリッドgag遺伝子産物を与えている、請求項21に記載の核酸分子。
【請求項23】
HIV−1 LAI単離物のgag遺伝子の核酸塩基1415のPstIサイト、あるいは他のHIVのgag遺伝子中の相当する部位に位置する挿入部位において、少なくとも1個の抗原マーカーをコードする断片が、該gag遺伝子中に挿入されている請求項22に記載の核酸分子。
【請求項24】
HIVのゲノムに相当する一本鎖RNAを有していない非感染性HIV様粒子をコードする核酸分子であって、
前記核酸分子は、長い末端反復ならびにRNAパッケージングシグナルを欠失し、かつ
(a)修飾env遺伝子;
(b)pol遺伝子;
(c)gag遺伝子;ならびに
(d)非レトロウイルス性または非HIVウイルス性の少なくとも1個の抗原マーカーをコードする断片
を含んでいる、HIVの修飾ウイルスゲノムを含んでなり、
該gag、polおよびenv遺伝子は、HIVのゲノムRNA中に存在する際の天然ゲノム配置で含まれており、
該gag遺伝子は、少なくとも、HIVの野生型gag遺伝子産物の粒子形成性を保持する該gag遺伝子産物部分をコードしており、
少なくとも1個の抗原マーカーをコードする断片は、非レトロウイルスかつ非HIVウイルス由来の抗原性アンカー配列をコードする断片であり、かつ
該修飾env遺伝子は、少なくとも、HIVの野生型env遺伝子産物のgp120部分を保持し、また、少なくとも、野生型env遺伝子のgp120のコード領域に対して、機能的に連結されている、非レトロウイルスかつ非HIVウイルス由来の抗原性アンカー配列をコードする断片を含んでおり、それによって、該修飾env遺伝子は、その内因性アンカー機能が、少なくとも、HIVの野生型env遺伝子産物のgp120部分に対して、該HIV様粒子に該改変env遺伝子産物をアンカーするように機能的に連結されている、非レトロウイルスかつ非HIVウイルス由来の抗原性のアンカー配列により置き換えられている改変env遺伝子産物をコードしている
ことを特徴とする非感染性HIV様粒子をコードする核酸分子。
【請求項25】
非レトロウイルスかつ非HIVレトロウイルス由来の抗原性のアンカー配列による置換は、HIVの野生型env遺伝子産物中のgp41タンパク質のエピトープに対応するアミノ酸配列の欠失を引き起こす請求項24に記載の核酸分子。
【請求項26】
アンカー配列をコードする断片は、少なくとも、非レトロウイルスかつ非HIVレトロウイルス由来の膜スパニング蛋白のトランスメンブラン部分の一部をコードする請求項24または25に記載の核酸分子。
【請求項27】
非レトロウイルスかつ非HIVレトロウイルス由来の膜スパニング蛋白が糖蛋白である請求項26に記載の核酸分子。
【請求項28】
アンカー配列をコードする断片は、HIVの野生型env遺伝子産物中のgp120タンパク質とgp41タンパク質の間の機能性開裂部位をコードする核酸塩基の上流で、かつ隣接して、該修飾env遺伝子内に位置している請求項24または25に記載の核酸分子。
【請求項29】
該HIV−1 LAI単離物のenv遺伝子の塩基7777と7778の間、あるいは他のHIVのenv遺伝子中の相当する部位に、前記アンカー配列をコードする断片が位置している請求項28に記載の核酸分子。
【請求項30】
前記修飾レトロウイルスゲノムは、さらにプライマー結合部位を欠失している請求項20〜29のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項31】
前記修飾レトロウイルスゲノムは、HIV−1またはHIV−2由来の修飾レトロウイルスゲノムである請求項20〜30のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項32】
前記修飾HIVウイルスゲノムは、HIV−1由来の修飾HIVウイルスゲノムである請求項31に記載の核酸分子。
【請求項33】
下記
(a)HIVのgag遺伝子産物のgag依存性RNAパッケージングを抑制する、
(b)HIVのpol遺伝子産物の逆転写酵素活性を実質的に除去する、
(c)HIVのpol遺伝子産物のインテグラーゼ活性を実質的に除去する、
(d)HIVのpol遺伝子産物のRNアーゼ H活性を実質的に除去する、
のうち、少なくとも1つの作用を果たすように、該polまたはgag遺伝子中の少なくとも1つの更なる改変が施されている請求項20〜32のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項34】
前記修飾HIVウイルスゲノムは、HIV−1 LAI単離物の遺伝子のSacI(678)からXhoI(8944)断片中に存在する特徴的な遺伝子要素を保持する修飾DNA分子である請求項20〜33のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項35】
前記修飾HIVウイルスゲノムは、プライマー結合部位および/またはRNAパッケージングシグナルを欠く請求項20〜34のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項36】
請求項1〜19のいずれかに記載するHIV様粒子または請求項20〜35のいずれかに記載する核酸分子、ならびに担体を含む、HIV特異的な免疫反応ならびに非レトロウイルスかつ非HIVレトロウイルスマーカーに対して特異的な免疫反応を誘発することができる免疫原組成物。
【請求項37】
抗血清中の、前記HIV様粒子の抗原性マーカーに対する特異的な抗体を検出することを特徴とする、請求項36に記載の免疫原組成物を用いる免疫感作により生成された抗血清の同定方法。
【請求項1】
(a)env遺伝子産物、
(b)pol遺伝子産物、
(c)gag遺伝子産物、ならびに
(d)非レトロウィルス性または非HIVレトロウィルス性である少なくとも1個の抗原マーカーのアセンブリを有する非感染性レトロウィルス様粒子。
【請求項2】
前記少なくとも1個の抗原マーカーが約5〜約100個のアミノ酸残基を有する請求項1記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項3】
前記少なくとも1個の抗原マーカーが約10〜約75個のアミノ酸残基を有する請求項2記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項4】
前記少なくとも1個の抗原マーカーが、タバコモザイクウィルスコート蛋白からの少なくとも1個の抗原性エピトープを有する請求項2または3記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項5】
前記少なくとも1個の抗原性エピトープが、アミノ酸配列AFDTRNRIIEVENあるいは配列AFDTRNRIIEVENを認識する抗体を誘導することができる該配列の一部、変化体もしくは突然変異体を含む請求項4記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項6】
前記少なくとも1個の抗原マーカーが、gag遺伝子産物内にあり、未修飾gag遺伝子産物の粒子形成性を有するハイブリッドgag遺伝子産物を形成する請求項2記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項7】
前記少なくとも1個の抗原マーカーが、抗原的に活性な挿入部位でgag遺伝子産物に挿入される請求項6記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項8】
前記挿入部位が、HIV−1 LAI単離物のgag遺伝子産物のアミノ酸残基210と211の間に位置するか、あるいは他のレトロウィルスgag遺伝子産物の相当する箇所に位置する請求項7記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項9】
前記少なくとも1個の抗原マーカーが、アミノ酸配列AFDTRNRIIEVENあるいは配列AFDTRNRIIEVENを認識する抗体を誘導することができる該配列の一部、変化体もしくは突然変異体の1〜4個の直列のコピーを有する請求項8記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項10】
1 前記少なくとも1個の抗原マーカーが、レトロウィルス蛋白のエピトープに相当するアミノ酸配列の欠失によって提供される請求項1記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項11】
env遺伝子産物の免疫優性領域を、その領域からの少なくとも1個のアミノ酸を置換または除去することで修飾して、レトロウィルス感染宿主からの血清によって生じる突然変異において免疫優性領域の認識を実質的に防止する請求項10記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項12】
レトロウィルスがHIVであり、免疫優性領域がアミノ酸配列LGIWGCSGKLIC(配列番号27)を有する請求項10記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項13】
前記突然変異における修飾アミノ酸配列が、LGIWGCTGRILC(配列番号28)、LGIWGCAFRLIC(配列番号29)およびLGIWGCTLELIC(配列番号30)からなる群から選択される請求項12記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項14】
(a)内因性アンカー形成機能部分をenv遺伝子産物に操作によって連結した異なるアンカー配列によって置換することで、該env遺伝子産物をレトロウィルス様粒子をアンカーするようにした修飾env遺伝子産物、
(b)pol遺伝子産物、および
(c)gag遺伝子産物のアセンブリを有してなる非感染性レトロウィルス様粒子。
【請求項15】
前記アンカー配列が抗原性である請求項14記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項16】
アンカー配列が、約5〜約100のアミノ酸残基を有する請求項14記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項17】
アンカー配列が、約10〜約75のアミノ酸残基を有する請求項16記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項18】
アンカー配列が、膜スパニング蛋白のトランスメンブラン成分の一部を少なくとも有する請求項16記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項19】
膜スパニング蛋白が糖蛋白である請求項18記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項20】
糖蛋白がインフルエンザウィルス蛋白である請求項19記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項21】
インフルエンザウィルス蛋白がヒトインフルエンザウィルス蛋白である請求項20記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項22】
アンカー配列が、アミノ酸配列WILWISFAISCFLLCVVLLGFIMWまたは配列WILWISFAISCFLLCVVLLGFIMWを認識する抗体を誘発する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体を含む請求項21記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項23】
インフルエンザウィルス蛋白がトリインフルエンザウィルス蛋白である請求項20記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項24】
アンカー配列が、アミノ酸配列STVASSLALAIMIAGLSFWMCSNGSLQまたは配列STVASSLALAIMIAGLSFWMCSNGSLQを認識する抗体を誘発する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体を含む請求項23記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項25】
前記アンカー配列が、env遺伝子産物の機能性開裂部位の上流の隣接するenv遺伝子産物に挿入されている請求項14記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項26】
前記アンカー配列が、HIV−1 LAI単離物のenv遺伝子産物のアミノ酸残基507および508の間あるいは他のレトロウィルスenv遺伝子産物の相当する箇所に挿入されている請求項25記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項27】
アンカー配列が、
アミノ酸配列WILWISFAISCFLLCVVCWGSSCGPAKKATLGATFAFDSKEEWCREKKEQWEまたは
配列WILWISFAISCFLLCVVCWGSSCGPAKKATLGATFAFDSKEEWCREKKEQWEを認識する抗体を誘発する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体を含む請求項14記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項28】
env、polおよびgag遺伝子産物がヒトレトロウィルスのenv、polおよびgag遺伝子産物に相当する請求項1記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項29】
ヒトレトロウィルスが、HIV−1、HIV−2、HTLV−1およびHTLV−2からなる群から選択される請求項28記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項30】
ヒトレトロウィルスがHIV−1であり、env遺伝子産物がLAIenv遺伝子産物、MNenv遺伝子産物、一次HIV−1単離物からのenv遺伝子産物または抗原的にそれに等価なenv遺伝子産物である請求項29記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項31】
前記のgagおよびpol遺伝子産物が、env遺伝子産物を誘導するHIV−1単離物とは異なるHIV−1単離物から誘導される請求項30記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項32】
前記のenv遺伝子産物が、初期HIV−1単離物由来である請求項31記載のレトロウィルス様粒子。
【請求項33】
長い末端反復を欠失し、その天然ゲノム配置にgag、polおよびenv遺伝子を有する修飾レトロウィルスゲノムと非レトロウィルス性もしくは非HIVウィルス性である少なくとも1個の抗原マーカーをコードする部分とを有してなる、非感染性レトロウィルス様粒子をコードする核酸分子。
【請求項34】
前記少なくとも1個の抗原マーカーをコードする部分が約15〜約300個のヌクレオチドを有する請求項33記載の核酸分子。
【請求項35】
前記少なくとも1個の抗原マーカーをコードする部分が約30〜約225個のヌクレオチドを有する請求項34記載の核酸分子。
【請求項36】
前記少なくとも1個の抗原マーカーをコードする部分が、タバコモザイクウィルスコート蛋白からの少なくとも1個の抗原性エピトープをコードしている請求項34記載の核酸分子。
【請求項37】
タバコモザイクウィルスコート蛋白からの少なくとも1個の抗原性エピトープが、アミノ酸配列AFDTRNRIIEVENあるいは配列AFDTRNRIIEVENを認識する抗体を誘導することができる該配列の一部、変化体もしくは突然変異体を含む請求項36記載の核酸分子。
【請求項38】
前記少なくとも1個の抗原マーカーをコードする部分が、gag遺伝子産物内にあり、未修飾gag遺伝子産物の粒子形成性を有するハイブリッドgag遺伝子産物をコードする修飾gag遺伝子を提供する請求項33記載の核酸分子。
【請求項39】
前記少なくとも1個の抗原マーカーをコードする部分が、gag遺伝子に挿入されて、ハイブリッドgag遺伝子産物の抗原的に活性な挿入部位で抗原マーカーを提供する請求項38記載の核酸分子。
【請求項40】
前記少なくとも1個の抗原マーカーをコードする部分が、HIV−1LAI単離物のgag遺伝子のヌクレオチド1415にあるPstI部位に位置する挿入部位で挿入される請求項39記載の核酸分子。
【請求項41】
前記少なくとも1個の抗原マーカーをコードする部分が、
【化1】
(c)厳しい条件下に(a)または(b)とハイブリッド形成するDNA配列からなる群から選択されるDNA配列のコピー1〜4個を有する請求項36または40記載の核酸分子。
【請求項42】
(c)におけるDNA配列が、(a)または(b)の配列と少なくとも約90%配列が同一である請求項41記載のDNA分子。
【請求項43】
前記核酸分子が、HIV−1LAI単離物のゲノムのSacIからXhoI断片に存在する特徴的な遺伝要素を有するDNA分子を有する請求項33記載の核酸分子。
【請求項44】
長い末端反復を欠失し、その天然ゲノム配置にgag、polおよびenv遺伝子を有する修飾レトロウィルスゲノムを有してなり、該env遺伝子が修飾されて、env遺伝子産物をレトロウィルス様粒子にアンカーするためのアンカー配列をコードする部分をそこに提供することで、該修飾env遺伝子がenvの内因性アンカー形成機能部分を抗原性アンカー配列によって置換した修飾env遺伝子産物をコードしている、非感染性レトロウィルス様粒子をコードする核酸分子。
【請求項45】
前記部分が、抗原性アンカー配列をコードしている請求項44記載の核酸分子。
【請求項46】
アンカー配列をコードする部分が、約15〜約300個のヌクレオチドを有する請求項44記載の核酸分子。
【請求項47】
アンカー配列をコードする部分が約30〜約225個のヌクレオチドを有する請求項46記載の核酸分子。
【請求項48】
アンカー配列をコードする部分が、膜スパニング蛋白のトランスメンブレン成分の少なくとも一部をコードしている請求項45記載の核酸分子。
【請求項49】
膜スパニング蛋白が糖蛋白である請求項48記載の核酸分子。
【請求項50】
糖蛋白が、インフルエンザウィルス蛋白である請求項49記載の核酸分子。
【請求項51】
インフルエンザウィルス蛋白が、ヒトインフルエンザウィルス蛋白である請求項50記載の核酸分子。
【請求項52】
アンカー配列が、アミノ酸配列WILWISFAISCFLLCVVLLGFIMWまたは配列WILWISFAISCFLLCVVLLGFIMWを認識する抗体を誘発する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体を含む請求項50記載の核酸分子。
【請求項53】
アンカー配列をコードする部分が、
【化2】
(c)厳しい条件下に(a)または(b)とハイブリッド形成するDNA配列から成る群から選択されるDNA配列を有する請求項44記載の核酸分子。
【請求項54】
(c)における配列が、(a)または(b)の配列と少なくとも約90%配列が同一である請求項53記載のDNA分子。
【請求項55】
インフルエンザウィルス蛋白が、トリインフルエンザウィルス蛋白である請求項50記載の核酸分子。
【請求項56】
アンカー配列が、アミノ酸配列STVASSLALAIMIAGLSFWMCSNGSLQまたは配列STVASSLALAIMIAGLSFWMCSNGSLQを認識する抗体を認識する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体を含む請求項55記載の核酸分子。
【請求項57】
アンカー配列をコードする部分が、
【化3】
(c)厳しい条件下に(a)または(b)とハイブリッド形成するDNA配列からなる群から選択されるDNA配列を含む請求項55記載の核酸分子。
【請求項58】
(c)における配列が、(a)または(b)の配列と少なくとも約90%配列が同一である請求項57記載のDNA分子。
【請求項59】
アンカー配列が、
アミノ酸配列WILWISFAISCFLLCVVCWGSSCGPAKKATLGATFAFDSKEEWCREKKEQWEまたは配列WILWISFAISCFLLCVVCWGSSCGPAKKATLGATFAFDSKEEWCREKKEQWEを認識する抗体を誘発する能力を有するその配列の一部、変化体もしくは突然変異体を含む請求項44記載の核酸分子。
【請求項60】
アンカー配列をコードする部分が、
【化4】
(c)厳しい条件下に(a)または(b)とハイブリッド形成するDNA配列からなる群から選択されるDNA配列を含む請求項44記載の核酸分子。
【請求項61】
(c)における配列が、(a)および(b)の配列と少なくとも約90%配列が同一である請求項60記載のDNA分子。
【請求項62】
アンカー配列をコードする部分が、env遺伝子産物の機能性開裂部位をコードするヌクレオチドの上流の隣接するenv遺伝子に位置する請求項44記載の核酸分子。
【請求項63】
アンカー配列をコードする前記部分が、HIV−1 LAI単離物のenv遺伝子のヌクレオチド7777と7778との間または他のレトロウィルスenv遺伝子の相当する箇所に位置している請求項62記載の核酸分子。
【請求項64】
前記修飾レトロウィルスゲノムが、プライマー結合部位を欠失している請求項28または44記載の核酸分子。
【請求項65】
前記修飾レトロウィルスゲノムが、ヒトレトロウィルスからの修飾レトロウィルスゲノムである請求項28または44記載の核酸分子。
【請求項66】
ヒトレトロウィルスが、HIV−1、HIV−2、HILV−1およびHILV−2から成る群から選択される請求項65記載の核酸分子。
【請求項67】
ヒトレトロウィルスがHIV−1であり、env遺伝子がLAIenv遺伝子、MNenv遺伝子、一次HIV−1単離物からのenv遺伝子または抗原的にそれに等価なenv遺伝子である請求項65記載の核酸分子。
【請求項68】
前記のgagおよびpol遺伝子が、env遺伝子を誘導するHIV−1単離物とは異なるHIV−1単離物から誘導される請求項67記載の核酸分子。
【請求項69】
前記env遺伝子が、一次HIV−1単離物から誘導される請求項68記載の核酸分子。
【請求項70】
請求項1もしくは14記載のレトロウィルス様粒子または請求項33もしくは44記載の核酸分子およびそれらに対する担体を有してなる、レトロウィルス特異性免疫応答および非レトロウィルスマーカーに対する特異的免疫応答を誘発することができる免疫原性組成物。
【請求項71】
粘膜投与または非経口投与用に製剤される請求項70記載の免疫原性組成物。
【請求項72】
経口的、経肛門的、経膣的または鼻腔内投与用に製剤される請求項70記載の免疫原性組成物。
【請求項73】
さらに、少なくとも1個の他の免疫原性物または免疫刺激性物を有してなる請求項71記載の免疫原性組成物。
【請求項74】
少なくとも1個の他の免疫刺激物がアジュバントである請求項73記載の組成物。
【請求項75】
アジュバントが、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、QS21、Quil A、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、糖脂質類縁体、アミノ酸のオクタデニルエステル、ムラミルジペプチド、リボ蛋白および不完全フロイントアジュバントからなる群から選択される請求項74記載の組成物。
【請求項76】
宿主に、免疫的に有効な量の請求項70記載の免疫原性組成物を投与する段階を有してなる、宿主を免疫感作して、レトロウィルス特異的免疫応答および抗原マーカーに対する特異的免疫応答を起こす方法。
【請求項77】
検体中のレトロウィルス抗原と特異的に反応する抗体の存在を測定する方法であって、 (a)請求項1または14に記載の非感染性レトロウィルス様粒子と検体とを接触させて、非感染性レトロウィルス様粒子および該粒子と特異的に反応する検体中に存在する前記抗体とを有する錯体を形成する段階、ならびに (b)前記錯体の形成を確認する段階を有する方法。
【請求項78】
検体中のレトロウィルス抗原の存在を確認する方法であって、
(a)請求項70記載の免疫原性組成物で宿主を免疫感作して、レトロウィルス抗原特異的抗体を産生する段階、
(b)レトロウィルス抗原特異的抗体と検体とを接触させて、検体中のレトロウィルス抗原とレトロウィルス抗原特異的抗体を有してなる錯体を形成する段階、ならびに
(c)前記錯体の形成を確認する段階を有してなる方法。
【請求項79】
検体中のレトロウィルス抗原の存在を検出する診断キットであって、
(a)請求項78で産生されるような、少なくとも1個のレトロウィルス抗原特異的抗体、
(b)前記少なくとも1個の抗体を検体と接触させて、検体中のレトロウィルス抗原および前記レトロウィルス抗原特異的抗体を有してなる錯体を形成する手段、ならびに
(c)前記錯体の形成を確認する手段を有してなるキット。
【請求項80】
請求項70に記載の免疫原性組成物を用いる免疫感作によって生じる抗血清を確認する方法であって、前記抗血清中の前記抗原マーカーに特異的な抗体を検出する段階を有してなる方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIVのゲノムに相当する一本鎖RNAを有していない非感染性HIV様粒子であって、
前記粒子は、
(a)env遺伝子産物、
(b)pol遺伝子産物、 および
(c)gag遺伝子産物のアセンブリを有し、 かつ
(d)非レトロウイルス性または非HIVレトロウイルス性である少なくとも1個の抗原マーカーを有しており、
該gag遺伝子産物は、HIVの野生型gag遺伝子産物の粒子形成性を保持し;
該env遺伝子産物は、少なくとも、HIVの野生型env遺伝子産物中のgp120の部分を含んでおり;
該少なくとも1個の抗原マーカーは、該gag遺伝子産物あるいは該env遺伝子産物中に含まれている
ことを特徴とする非感染性HIV様粒子。
【請求項2】
前記少なくとも1個の抗原マーカーは、gag遺伝子産物内に含まれ、未修飾gag遺伝子産物の粒子形成性を保持するハイブリッドgag遺伝子産物を構成する請求項1に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項3】
前記少なくとも1個の抗原マーカーは、抗原的に活性な挿入部位において、未修飾gag遺伝子産物中に挿入されている請求項2に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項4】
前記挿入部位は、HIV−1 LAI単離物のgag遺伝子産物のアミノ酸残基210と211の間、あるいは他のHIVのgag遺伝子産物中の相当する箇所に位置する請求項3に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項5】
HIVのゲノムに相当する一本鎖RNAを有していない非感染性HIV様粒子であって、
前記粒子は、
(a)env遺伝子産物、
(b)pol遺伝子産物、 および
(c)gag遺伝子産物のアセンブリを有し、 かつ
(d)非レトロウイルス性または非HIVレトロウイルス性である少なくとも1個の抗原マーカーを有しており、
該gag遺伝子産物は、HIVの野生型gag遺伝子産物の粒子形成性を保持し;
該env遺伝子産物は、少なくとも、HIVの野生型env遺伝子産物中のgp120の部分を含んでおり;
該HIVの野生型env遺伝子産物のエピトープに相当するアミノ酸配列を除去して、該少なくとも1個の抗原マーカーが、与えられている
ことを特徴とする非感染性HIV様粒子。
【請求項6】
HIVの野生型env遺伝子産物の免疫優性領域は、その領域の少なくとも1個のアミノ酸の置換または削除による修飾がなされ、HIV感染宿主からの血清による、この変異を施した前記免疫優性領域の認識を実質的に防いでいる請求項5に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項7】
HIVのゲノムに相当する一本鎖RNAを有していない非感染性HIV様粒子であって、
前記粒子は、
(a)修飾env遺伝子産物、
(b)pol遺伝子産物、 および
(c)gag遺伝子産物のアセンブリを有し、 かつ
(d)非レトロウイルス性または非HIVレトロウイルス性である少なくとも1個の抗原マーカーを有しており、
該gag遺伝子産物は、HIVの野生型gag遺伝子産物の粒子形成性を保持し;
該修飾env遺伝子産物中では、その内因性のアンカー形成機能部分が、該HIV様粒子に当該env遺伝子産物をアンカーする機能を果たすように、少なくとも、HIVの野生型env遺伝子産物のgp120の部分に対して連結されている、非レトロウイルス性または非HIVレトロウイルス由来の異種のアンカー配列により置換され;かつ
該非レトロウイルス性または非HIVレトロウイルス由来の異種のアンカー配列による置換によって、該少なくとも1個の抗原マーカーが与えられている
ことを特徴とする非感染性HIV様粒子。
【請求項8】
前記非レトロウイルスかつ非HIVレトロウイルス由来の異種のアンカー配列が抗原性である請求項7に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項9】
前記非レトロウイルスかつ非HIVレトロウイルス由来の異種のアンカー配列は、少なくとも、該非レトロウイルスかつ非HIVレトロウイルス由来の膜スパニング蛋白のトランスメンブラン部分の一部を含んでいる請求項7または8に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項10】
膜スパニング蛋白が糖蛋白である請求項9に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項11】
前記異種のアンカー配列は、HIVの野生型env遺伝子産物のgp120タンパク質とgp41タンパク質との間の機能性開裂部位の上流で、かつ隣接させて、該野生型env遺伝子産物内に挿入されている請求項7または8に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項12】
前記異種のアンカー配列は、HIV−1 LAI単離物の野生型env遺伝子産物のアミノ酸残基507と508の間、あるいは他のHIVのgag遺伝子産物中の相当する箇所に挿入されている請求項11に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項13】
該HIVは、HIV−1またはHIV−2から選択されている請求項1〜12のいずれかに記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項14】
該HIVは、HIV−1である請求項13に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項15】
下記
(a)HIVのgag遺伝子産物のgag依存性RNAパッケージングを抑制する、
(b)HIVのpol遺伝子産物の逆転写酵素活性を実質的に除去する、
(c)HIVのpol遺伝子産物のインテグラーゼ活性を実質的に除去する、
(d)HIVのpol遺伝子産物のRNアーゼ H活性を実質的に除去する、
のうち、少なくとも1つの作用を果たすように、該polおよび/またはgag遺伝子産物に対して、少なくとも1つの更なる改変が施されている請求項1〜14のいずれかに記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項16】
gag依存性RNAパッケージングの抑制が、HIVのgag遺伝子産物中のgag依存性RNAパッケージングに関与する少なくとも1個のアミノ酸残基の置換または欠失により果たされている請求項15に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項17】
HIVのpol遺伝子産物の逆転写酵素活性の実質的な除去が、少なくともその逆転写酵素活性に関与する一部分の欠失により果たされている請求項15に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項18】
HIVのpol遺伝子産物のインテグラーゼ活性の実質的な除去が、少なくともそのインテグラーゼ活性に関与する一部分の欠失により果たされている請求項15に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項19】
HIVのpol遺伝子産物のRNアーゼ H活性の実質的な除去が、少なくともそのRNアーゼ H活性に関与する一部分の欠失により果たされている請求項15に記載の非感染性HIV様粒子。
【請求項20】
HIVのゲノムに相当する一本鎖RNAを有していない非感染性HIV様粒子をコードする核酸分子であって、
前記核酸分子は、長い末端反復ならびにRNAパッケージングシグナルを欠失し、かつ
(a)env遺伝子;
(b)pol遺伝子;
(c)gag遺伝子;ならびに
(d)非レトロウイルス性または非HIVウイルス性の少なくとも1個の抗原マーカーをコードする断片
を含んでいる、HIVの修飾ウイルスゲノムを含んでなり、
該gag、polおよびenv遺伝子は、HIVのゲノムRNA中に存在する際の天然ゲノム配置で含まれており、
該gag遺伝子は、少なくとも、HIVの野生型gag遺伝子産物の粒子形成性を保持する該gag遺伝子産物部分をコードしており、
該env遺伝子は、少なくとも、HIVの野生型env遺伝子産物のgp120部分をコードしており、かつ
少なくとも1個の抗原マーカーをコードする断片は、該gag遺伝子またはenv遺伝子中に含まれている
ことを特徴とする非感染性HIV様粒子をコードする核酸分子。
【請求項21】
少なくとも1個の抗原マーカーをコードする断片が、該gag遺伝子中に含まれ、HIVの未修飾gag遺伝子産物の粒子形成性を保持するハイブリッドgag遺伝子産物をコードする修飾gag遺伝子とされている請求項20に記載の核酸分子。
【請求項22】
少なくとも1個の抗原マーカーをコードする断片が、該gag遺伝子中に挿入されており、未修飾gag遺伝子産物中に、その抗原的に活性な挿入部位において、少なくとも1個の抗原マーカーが挿入されている、ハイブリッドgag遺伝子産物を与えている、請求項21に記載の核酸分子。
【請求項23】
HIV−1 LAI単離物のgag遺伝子の核酸塩基1415のPstIサイト、あるいは他のHIVのgag遺伝子中の相当する部位に位置する挿入部位において、少なくとも1個の抗原マーカーをコードする断片が、該gag遺伝子中に挿入されている請求項22に記載の核酸分子。
【請求項24】
HIVのゲノムに相当する一本鎖RNAを有していない非感染性HIV様粒子をコードする核酸分子であって、
前記核酸分子は、長い末端反復ならびにRNAパッケージングシグナルを欠失し、かつ
(a)修飾env遺伝子;
(b)pol遺伝子;
(c)gag遺伝子;ならびに
(d)非レトロウイルス性または非HIVウイルス性の少なくとも1個の抗原マーカーをコードする断片
を含んでいる、HIVの修飾ウイルスゲノムを含んでなり、
該gag、polおよびenv遺伝子は、HIVのゲノムRNA中に存在する際の天然ゲノム配置で含まれており、
該gag遺伝子は、少なくとも、HIVの野生型gag遺伝子産物の粒子形成性を保持する該gag遺伝子産物部分をコードしており、
少なくとも1個の抗原マーカーをコードする断片は、非レトロウイルスかつ非HIVウイルス由来の抗原性アンカー配列をコードする断片であり、かつ
該修飾env遺伝子は、少なくとも、HIVの野生型env遺伝子産物のgp120部分を保持し、また、少なくとも、野生型env遺伝子のgp120のコード領域に対して、機能的に連結されている、非レトロウイルスかつ非HIVウイルス由来の抗原性アンカー配列をコードする断片を含んでおり、それによって、該修飾env遺伝子は、その内因性アンカー機能が、少なくとも、HIVの野生型env遺伝子産物のgp120部分に対して、該HIV様粒子に該改変env遺伝子産物をアンカーするように機能的に連結されている、非レトロウイルスかつ非HIVウイルス由来の抗原性のアンカー配列により置き換えられている改変env遺伝子産物をコードしている
ことを特徴とする非感染性HIV様粒子をコードする核酸分子。
【請求項25】
非レトロウイルスかつ非HIVレトロウイルス由来の抗原性のアンカー配列による置換は、HIVの野生型env遺伝子産物中のgp41タンパク質のエピトープに対応するアミノ酸配列の欠失を引き起こす請求項24に記載の核酸分子。
【請求項26】
アンカー配列をコードする断片は、少なくとも、非レトロウイルスかつ非HIVレトロウイルス由来の膜スパニング蛋白のトランスメンブラン部分の一部をコードする請求項24または25に記載の核酸分子。
【請求項27】
非レトロウイルスかつ非HIVレトロウイルス由来の膜スパニング蛋白が糖蛋白である請求項26に記載の核酸分子。
【請求項28】
アンカー配列をコードする断片は、HIVの野生型env遺伝子産物中のgp120タンパク質とgp41タンパク質の間の機能性開裂部位をコードする核酸塩基の上流で、かつ隣接して、該修飾env遺伝子内に位置している請求項24または25に記載の核酸分子。
【請求項29】
該HIV−1 LAI単離物のenv遺伝子の塩基7777と7778の間、あるいは他のHIVのenv遺伝子中の相当する部位に、前記アンカー配列をコードする断片が位置している請求項28に記載の核酸分子。
【請求項30】
前記修飾レトロウイルスゲノムは、さらにプライマー結合部位を欠失している請求項20〜29のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項31】
前記修飾レトロウイルスゲノムは、HIV−1またはHIV−2由来の修飾レトロウイルスゲノムである請求項20〜30のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項32】
前記修飾HIVウイルスゲノムは、HIV−1由来の修飾HIVウイルスゲノムである請求項31に記載の核酸分子。
【請求項33】
下記
(a)HIVのgag遺伝子産物のgag依存性RNAパッケージングを抑制する、
(b)HIVのpol遺伝子産物の逆転写酵素活性を実質的に除去する、
(c)HIVのpol遺伝子産物のインテグラーゼ活性を実質的に除去する、
(d)HIVのpol遺伝子産物のRNアーゼ H活性を実質的に除去する、
のうち、少なくとも1つの作用を果たすように、該polまたはgag遺伝子中の少なくとも1つの更なる改変が施されている請求項20〜32のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項34】
前記修飾HIVウイルスゲノムは、HIV−1 LAI単離物の遺伝子のSacI(678)からXhoI(8944)断片中に存在する特徴的な遺伝子要素を保持する修飾DNA分子である請求項20〜33のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項35】
前記修飾HIVウイルスゲノムは、プライマー結合部位および/またはRNAパッケージングシグナルを欠く請求項20〜34のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項36】
請求項1〜19のいずれかに記載するHIV様粒子または請求項20〜35のいずれかに記載する核酸分子、ならびに担体を含む、HIV特異的な免疫反応ならびに非レトロウイルスかつ非HIVレトロウイルスマーカーに対して特異的な免疫反応を誘発することができる免疫原組成物。
【請求項37】
抗血清中の、前記HIV様粒子の抗原性マーカーに対する特異的な抗体を検出することを特徴とする、請求項36に記載の免疫原組成物を用いる免疫感作により生成された抗血清の同定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−20635(P2006−20635A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−211860(P2005−211860)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【分割の表示】特願平8−506883の分割
【原出願日】平成7年8月15日(1995.8.15)
【出願人】(500096994)アヴェンティス パスツール リミテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】AVENTIS PASTEUR LIMITED
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【分割の表示】特願平8−506883の分割
【原出願日】平成7年8月15日(1995.8.15)
【出願人】(500096994)アヴェンティス パスツール リミテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】AVENTIS PASTEUR LIMITED
【Fターム(参考)】
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