抗原結合速度の大きい抗体変異体
抗原会合速度を増大させた抗体変異体を開示する。本抗体変異体は、その少なくとも1つの高頻度可変領域の内部又は近傍に、抗体変異体とそれが結合する抗原の間の電荷相補性を増大させる1又は複数のアミノ酸の変更を有する。
【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
(発明の背景)
(発明の分野)
ここに開示する本発明は、抗原会合速度(抗原結合速度)の大きい抗体変異体に関する。本抗体変異体は、その少なくとも1つの高頻度可変領域の内部又は近傍に、一又は複数の変更(変化)を有し、この変更により抗体変異体とそれが結合する抗原の間の電荷相補性が増大する。
【0002】
(関連技術の説明)
抗体はタンパク質であり、特定の抗原に対する結合特異性を持つ。未変性の抗体はふつう約150000ダルトンのヘテロ4量体の糖タンパクであり、2つの同一の軽(L)鎖と2つの同一の重(H)鎖から構成される。それぞれの軽鎖は1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に結合されるが、ジスルフィド結合の数は異なる免疫グロブリンのアイソタイプの重鎖によって変化する。それぞれの重鎖と軽鎖はまた規則的な間隔を持った鎖内ジスルフィド結合を持つ。それぞれの重鎖は一端に複数の定常ドメインを伴った可変ドメイン(VH)を持つ。それぞれの軽鎖は一端に可変ドメイン(VL)と他端に定常ドメインを持ち、軽鎖の定常ドメインは重鎖の第1定常ドメインとアラインメントされ、軽鎖可変ドメインは重鎖可変ドメインとアラインメントされる。特定のアミノ酸残基が軽鎖と重鎖の可変ドメインの界面を形成すると考えられている。
【0003】
「可変」という用語は、可変ドメインのある部分が抗体の間で配列が広範囲に異なり、特定の抗原に対してそれぞれの特定の抗体の結合特異性が生じる原因となっていることを意味する。しかし、可変性は抗体の可変ドメインを通して必ずしも均等には分布していない。可変性は軽鎖及び重鎖可変ドメインの双方の相補性決定領域(CDRs)と呼ばれる3つのセグメントにおいて強くなっている。可変ドメインのより高度に保存された部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。未変性の重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、その大部分はβシート構造をとり、βシート構造を繋ぎ、ある場合にはβシート構造の一部を形成するループを形成する、3つのCDRsによって結合された4つのFR領域を含む。それぞれの鎖にあるCDRsはFR領域により互いに近接して保たれ、他の鎖からのCDRsと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat等, Sequences of Proteins of Immnological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991)を参照)。
定常ドメインは抗原に抗体を結合させるのに直接には関係しないが、様々なエフェクター機能を示す。その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、抗体又は免疫グロブリンは異なったクラスに分けられる。IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMという免疫グロブリンの5つの主要なクラスがあり、これらの幾つかは、例えばIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4;IgA1及びIgA2のようなサブクラス(アイソタイプ)に更に分割できる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常領域はそれぞれα、δ、ε、γ及びμと呼ばれている。様々なヒト免疫グロブリンのうち、ヒトIgG1、IgG2、IgG3及びIgMだけが補体を活性化することが知られている。
【0004】
ヒトの疾病の治療を目的とした抗体の使用は急速に増加している。そのような治療関連抗体の1つは、血管内皮成長因子(VEGF)を標的として構築されている(Chen等, Journal of Molecular Biology 293(4): 865-81 (1999); Kim等, Nature 362(6423):841-4(1993); Muller等, Structure 5(10):1325-38 (1997); WO96/30046; WO98/45331; 及びWO00/29584)。VEGFは膜貫通レセプターFlt−1及びKDRを刺激することにより血管増殖を開始させる(Ferrara, N. Current Topics in Microbiology & Immunology 237:1-30 (1999))。VEGFのアンタゴニストは、制御できなくなった血管形成が病態の原因となっている、癌を含む疾病を抑制することが実証されている(Kim等, Nature 362 (6423): 841-4(1993))。
【0005】
インビボにおいて、抗体の親和性成熟は主に体細胞の高度突然変異誘発により作られる高度親和性抗体突然変異体の抗原選択によって進む。また2次又は3次反応の優勢生殖系遺伝子が1次、2次反応のそれらとは異なる「レパートリーシフト」がしばしば起こる。
様々な研究グループが、インビトロで突然変異を抗体遺伝子に導入し、親和性を向上させた突然変異体を単離するためにアフィニティ選択を使用することによって、免疫系の親和性成熟プロセスの模倣を試みている。そのような突然変異抗体は繊維状バクテリオファージの表面にディスプレイすることができ、抗体は抗原に対するそれらの親和性によって、又は抗原からの解離(オフレート)の速度によって選択することができる。Hawkins 等 J. Mol. Biol. 226:889-896(1992)。CDRウォーキング(walking)突然変異誘発が、ヒト免疫不全ウィルスタイプ1(HIV−1)(Barbas III 等, PNAS (USA) 91: 3809-3813(1994); 及びYang 等 J. Mol. Biol. 254:392-403 (1995))のヒト外被糖タンパク質gp120と抗c−erbB−2単鎖FV断片(Schier 等 J. Mol. Biol. 263:551567(1996))に結合するヒト抗体を親和性成熟させるのに用いられている。抗体チェーンシャフリングとCDR突然変異誘発は、HIVの3次高度可変ループに対して産生される高度親和性ヒト抗体(Thompson 等 J. Mol. Biol. 256:77-88(1996))を親和性成熟させるのに使用された。Balint 及びLarrick Gene 137:109-118(1993)は、彼らが「倹約突然変異(parsimonious mutagenesis)」と呼び、コンピュータ支援オリゴデオキシリボヌクレオチドスキャニング突然変異誘発を含む技術を記載しており、それにより可変領域遺伝子の3つ全てのCDRsが改良された変異体について一斉にかつ十分に検索される。Wu等 は、アフィニティは、6つ全てのCDRsの全ての部位が変異され、最も高い親和性を持つ突然変異体を含むコンビナトリアルライブラリの発現とスクリーニングが続く最初の制限突然変異誘発法を使用してαvβ3-特異的ヒト化抗体を親和性成熟させた(Wu 等 PANS (USA) 95 :6037-6-42(1998))。ファージ抗体はChiswell及びMcCafferty TIBTECH 10:80-84(1992))とRader及びBarbas III Current Opinion in Biotech. 8:503 -508(1997)の中で概説されている。
【0006】
タンパク質−リガンド対の親和性は、解離定数(Kd)で表され、溶液中における未結合分子の結合分子に対する平衡分布として定義される(式1)。この関係は、会合速度定数(オンレート定数k1)に対する解離速度定数(オフレート定数k−1)の割合と定義することもできる。
式1
多くのタンパク質−タンパク質相互作用の突然変異体の間に存在する親和性の差異(Voss, E.W. Journal of Molecular Recognition 6(2):51-8 (1993))は、主にそれらの解離速度により規定される。この知見は、突然変異がタンパク質−タンパク質界面(接合点)における直接的に接触に関与する親和性を上昇させ、解離速度定数が好ましい短距離相互作用の中断に依存していることと符合する。対照的に、会合速度定数(k1)は2分子間の衝突の頻度(Z)、及び各衝突が複合体を形成する効率に依存している。さらに、前記効率は、2分子の配向要件を決める立体因子(p)と、十分な熱活性化エネルギーを有する分子の数に依存する(Fersht, A. R. (1985). Enzyme Structure and Mechanism, W. H. Freeman and Company, New York, NY)(式2)。
式2
ここで、Eaは複合体形成のための活性化エネルギーを、Rは普遍気体定数を、Tは温度(絶対温度)をそれぞれ表す。
【0007】
理論的には、衝突頻度又は衝突効率を増大させる突然変異により会合速度を上昇させることが可能である。結合界面の周縁において残基を変異させて好ましい静電気的ステアリング力を発生させることにより、結合界面を有する短距離接触を分断することなくこれを達成できることを前提とした(Berg 及び von Hippel (1996) Nat. Struct. Biol. 3:427-31; Radic等 (1997) J. Biol. Chem. 272:23265-77; Selzer等 (2000) Nat. Struct. Biol. 7:537-41)。この現象の研究は、ブラウン動力学シミュレーション及びコンプレックスコンピュータ解析に焦点を当て、粘度及び塩分濃度の異なる溶液中での会合速度を予測するために完全な非線形ポアソン−ボルツマンの式を解こうとした(Slagle等 (1994) J. Biomolec. Struct. Dynam. 12:439-56; Kozack等 (1995) Biophys. J. 68-807-14; Fogolari等 (2000) Eur J Biochem. 267:4861-9; Gabdoulline及びWade (2001) J Mol. Biol. 306:1139-55)。しかしながら、最近になって、バーナーゼ(barnase)−バースター(barstar)複合体(Schreiber及びFersht (1996) Nat. Struct. Biol. 3:427-31; Vijayakumar等 (1998) J. Mol. Biol. 278:1015-24)、TEM−ラクタマーゼ−BLIPインヒビター複合体(Selzer等 (2000) Nat. Struct. Biol. 7:537-41)、アセチルコリンエステラーゼ−ファシキュリン(fasciculin)複合体(Radic等 (1997) J. Biol. Chem. 272:23265-77)、及びヒルジン−トロンビン複合体(Jackman等 (1992) J. Biol. Chem. 267:15375-83; Betz等 (1991) Biochem. J. 275:801-3)について均一比誘電率80で相互作用の静電気的エネルギーを計算することにより、会合速度の予測が可能であることが分かった。
【0008】
(発明の概要)
本発明は、a)親抗体の可変ドメイン内において、1)溶液に露出しており、2)高頻度可変領域の内部又は近傍にあり、且つ3)親抗体が結合したときの抗原の約20Å以内にある標的アミノ酸残基を同定する工程と、b)工程a)の標的残基を、異なる置換アミノ酸残基で置換することにより、抗体と抗原の間の電荷相補性を上昇させる工程を含む、親抗体の抗体変異体の作成方法を提供する。一態様においては、本発明の方法により、抗原との会合速度が親抗体の会合速度よりも大きい抗体変異体が作成される。本発明は、前記方法に従って産生された抗体変異体をさらに提供する。
加えて、本発明はその高頻度可変領域の内部又は近傍に、抗体変異体とそれが結合する抗原の間の電荷相補性を増大させるアミノ酸変更を有する抗体変異体を提供する。
【0009】
抗体変異体の様々な形態がここでは考えられる。例えば、抗体変異体は完全長抗体(例えばヒト免疫グロブリン定常領域を持つ)又は抗体断片(例えばFab又はF(ab')2)であり得る。更に、抗体変異体は、固相上に固定され、及び/又は異種化合物(例えば細胞障害剤)とコンジュゲートされた検出可能な標識で標識されうる。
【0010】
抗体変異体の診断及び治療用途が考えられる。一つの診断用途では、本発明は、抗原を含むと推測される試料を抗体変異体にさらし、試料への抗体の結合を測定することを含んでなる、対象の抗原の存在を決定する方法を提供する。この用途に対しては、本発明は抗体変異体とその抗体変異体を抗原を検出するために使用するための指示書を含むキットを提供する。
本発明は、更に、抗体変異体をコードしている単離された核酸;場合によってはベクターを用いて形質転換された宿主細胞によって認識される調節配列に作用可能に結合した、核酸を含むベクター;核酸で形質転換された宿主細胞;核酸が発現するように該宿主細胞を培養し、場合によっては宿主細胞培養物から(例えば、宿主細胞培養培地から)抗体変異体を回収することを含んでなる抗体変異体の産生方法を提供する。回収した抗体変異体は、細胞障害剤又は標識などの異種分子と抱合されてもよい。
【0011】
本発明はまた抗体変異体と製薬的に許容可能な担体又は希釈剤を含んでなる組成物を提供する。この治療用途のための組成物は殺菌し、凍結乾燥してもよい。
本発明は、有効量の抗体変異体を哺乳動物に投与することを含んでなる哺乳動物を治療する方法をまた提供する。
【0012】
本発明は、抗体の抗原会合速度を測定する方法をさらに提供するものであり、本方法は:
(1)溶液中で抗体と抗原を組み合わせた後、
(2)経時的に抗体−抗原複合体の生成を測定すること
を含む。
【0013】
(好ましい実施態様の詳細な記載)
I.定義
「抗体」という用語は最も広義に使用され、具体的には、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及びそれらが所望の生物活性を示す限り抗体断片も含む。
ここで使用される場合の「高頻度可変領域」なる用語は、構造的に明確化されたループを形成する及び/又は配列が高度に可変である抗体可変ドメインの領域を指す。高頻度可変領域は「相補性決定領域」すなわち「CDR」からのアミノ酸残基(すなわち、軽鎖可変ドメインの残基24−34(CDR L1)、50−65(CDR L2)及び89−97(CDR L3)、及び重鎖可変ドメインの31−35(CDR H1)、50−56(CDR H2)及び95−102(CDR H3);Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991))、及び/又は「高頻度可変ループ」からの残基(すなわち、軽鎖可変ドメインの残基26−32(ループL1)、50−52(ループL2)及び91−96(ループL3)、及び重鎖可変ドメインにおいては26−32(ループH1)、53−55(ループH2)及び96−101(ループH3);Chothia及びLesk J. Mol. Biol. 196:901-917(1987))を含んでなる。両方の場合において、可変ドメイン残基は上掲のKabat等によって番号付けされる。「フレームワーク」すなわち「FR」残基は、ここで定義した高頻度可変領域の残基以外の可変ドメイン残基である。
【0014】
「Kabatで番号付けした可変ドメイン残基」という表現は、Kabat等, Sequence of Proteins of Immunological Interest 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991)における抗体の編集物の重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメインに使用される番号付けシステムを意味する。この番号付けシステムを使用して、実際の線形アミノ酸配列は可変ドメインのFR又はCDRの短縮又はその中への挿入に相当する更に少ない又は更なるアミノ酸を含み得る。例えば、重鎖可変ドメインは、CDR H2の残基52の後に単一のアミノ酸挿入(Kabatによる残基52a)及び重鎖FR残基82の後に挿入残基(例えばKabatによる残基82a、82b、及び82c等)を含有し得る。残基のKabat番号付けは、「基準の」Kabat番号付け配列との抗体の配列の相同性の領域でのアラインメントによって、与えられた抗体に対して決定することができる。
【0015】
「抗体断片」には、全長抗体の一部、一般にはその抗原結合又は可変領域が含まれる。抗体断片の例には、Fab、Fab'、F(ab')2及びFv断片;ダイアボディー(diabodies);線状抗体;単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。
ここで使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質上均一な抗体の集団から得られる抗体を指す、すなわち集団を構成する個々の抗体は、少量で存在しうる自然に生じうる可能な突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、一つの抗原部位に対応する。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対応する異なる抗体を典型的には含む通常の(ポリクローナル)抗体調製物とは異なり、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対応する。「モノクローナル」という形容は、実質上均一な抗体集団から得られているという抗体の性質を示し、抗体を何らかの特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、本発明において使用されるモノクローナル抗体は、Kohlerら, Nature 256:495(1975)によって初めて記載されたハイブリドーマ法によって作製することができ、あるいは組換えDNA法(例えば、米国特許第4816567号を参照)によって作製することができる。「モノクローナル抗体」は、Clackson等, Nature, 352:624-628 (1991)及びMarks等, J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991)に記載された方法を使用してファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。
【0016】
ここで、モノクローナル抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の種から由来するか特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一であるか相同である一方、鎖の残りが他の種から由来するか他の抗体のクラスあるいはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一であるか相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、並びにそれが所望の生物的活性を有する限りそれら抗体の断片を特に含む(米国特許第4816567号;Morrison 等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984))。
非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」型は、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小配列を含むキメラ抗体である。大抵は、ヒト化抗体は、レシピエントの高頻度可変領域の残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類のような非ヒト種(ドナー抗体)の高頻度可変領域の残基によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換されている。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、ドナー抗体にも見出されない残基を含んでいてもよい。これらの修飾は抗体の性能を更に洗練するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、全てあるいはほとんど全ての高頻度可変ループが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てあるいはほとんど全てのFR領域がヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含む。ヒト化抗体は、場合によっては免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒトの免疫グロブリンの少なくとも一部をさらに含んでなる。更なる詳細については、Jones等, Nature 321:522-525(1986); Riechmann等, Nature 332:323-329(1988);及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)参照。
【0017】
「単鎖Fv」すなわち「sFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含有するもので、これらのドメインはポリペプチド単鎖に存在する。一般的に、Fvポリペプチドは、sFvが抗原結合のための所望の構造を形成できるように、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーを更に含んでいる。sFvの概説は、例えば、Pluckthun, The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol.113, Rosenburg及びMoore編 Springer-Verlag, New York, pp.269-315(1994)を参照されたい。
「ダイアボディー」という用語は、2つの抗原結合部位を有する抗体小断片を指すもので、断片は同じポリペプチド鎖(VH-VL)に、軽鎖可変ドメイン(VL)に結合した重鎖可変ドメイン(VH)を含む。同じ鎖において二つのドメイン間の対形成が許されないほど短いリンカーを使用することにより、他の鎖の相補的ドメインとの対形成を強制し、二つの抗原結合部位が形成される。ダイアボディーは、例えば欧州特許第404097号;国際公開第93/11161号;及びHollinger等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)に詳しく記載されている。
本出願を通して使用される「線状抗体」という表現は、Zapata等, Protein Eng. 8(10):1057-1062(1995)に記載されている抗体を指す。簡単に述べると、これらの抗体は、一対の抗原結合領域を形成する一対の直列型Fdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む。線状抗体は二重特異性又は単一特異性であり得る。
【0018】
「親抗体」はここで開示される抗体変異体と比較した場合に、一又は複数のアミノ酸配列の変更を欠いているアミノ酸配列を含んでなる抗体である。しかして、親抗体は、一般には、ここで開示された抗体変異体の対応する高頻度可変領域のアミノ酸配列とはアミノ酸配列が異なる少なくとも1つの高頻度可変領域を有する。親ポリペプチドは未変性配列(例えば天然に生じる)抗体(天然に生じる対立遺伝子変異体を含む)又は天然に生じる配列の前もって存在しているアミノ酸配列の修飾(例えば他の挿入、欠失及び/又は他の置換)を持つ抗体を含みうる。好ましくは親抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体である。
ここで使用される「抗体変異体」とは親抗体のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を持つ抗体を意味する。好適には、抗体変異体は天然には見出されないアミノ酸配列を持つ重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメインを含む。そのような変異体は必ず100%未満の親抗体との配列同一性又は類似性を持つ。好適な実施態様では、抗体変異体は、親抗体の重鎖又は軽鎖可変ドメインの何れかのアミノ酸配列と約75%から100%未満、より好ましくは約80%から100%未満、より好ましくは約85%から100%未満、より好ましくは約90%から100%未満、最も好ましくは95%から100%未満のアミノ酸配列同一性又は類似性であるアミノ酸配列を持つ。この配列に対する同一性又は類似性は、配列を整列させ、必要ならば間隙を導入して、最大のパーセント配列同一性を達成した後の、親抗体残基と同一である(すなわち、同じ残基)候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとしてここで定義される。可変ドメインの外側の抗体配列中へのN末端、C末端又は内部伸長、欠失又は挿入は何れも配列同一性と類似性に影響を与えるものとはみなされない。抗体変異体は一般にその1つ以上の高頻度可変領域の内部又は近傍に1つ以上のアミノ変更を持つものである。
【0019】
「アミノ酸変更」とは、予め定まったアミノ酸配列のアミノ酸配列における変化を意味する。例示的な変更は、挿入、置換及び欠失を含む。
「アミノ酸置換」とは、予め定まったアミノ酸配列中に存在するアミノ酸残基を他の異なったアミノ酸残基で置換することを意味する。
「置換」アミノ酸残基とは、アミノ酸配列中の別のアミノ酸残基を置換又は置き換えるアミノ酸残基を意味する。置換残基は天然に生じるアミノ酸残基又は天然には生じないアミノ酸残基でよい。
【0020】
「アミノ酸挿入」とは、予め定まったアミノ酸配列中への1又はそれ以上のアミノ酸残基の導入を意味する。
アミノ酸挿入はペプチド結合によって結合した2又はそれ以上のアミノ酸残基を含むペプチドが予め定まったアミノ酸配列に導入される「ペプチド挿入」を含んでいてもよい。アミノ酸挿入がペプチド挿入を含む場合、挿入されたペプチドは天然には存在しないアミノ酸配列を持つようにランダム突然変異によって産生され得る。
【0021】
「高頻度可変領域の近傍」におけるアミノ酸変更は、挿入又は置換されたアミノ酸残基の少なくとも1つが当該高頻度可変領域のN末端又はC末端アミノ酸残基とペプチド結合を形成するような、高頻度可変領域のN末端及び/又はC末端への一又は複数のアミノ酸残基の導入を意味する。
「天然に生じるアミノ酸残基」は、通常、アラニン(Ala);アルギニン(Arg);アスパラギン(Asn);アスパラギン酸(Asp);システイン(Cys);グルタミン(Gln);グルタミン酸(Glu);グリシン(Gly);ヒスチジン(His);イソロイシン(Ile):ロイシン(Leu);リジン(Lys);メチオニン(Met);フェニルアラニン(Phe);プロリン(Pro);セリン(Ser);トレオニン(Thr);トリプトファン(Trp);チロシン(Tyr);及びバリン(Val)からなる群から選択される、遺伝子暗号にコードされたものである。
【0022】
ここでの「天然に生じないアミノ酸残基」とは、上に列挙した天然に生じるアミノ酸残基以外のアミノ酸残基を意味し、ポリペプチド鎖中の隣接アミノ酸残基(群)に共有的に結合可能である。天然に生じないアミノ酸残基の例としては、ノルロイシン、オルニチン、ノルバリン、ホモセリン及びEllman等, Meth. Enzym. 202:301-336(1991)に記載のもののような他のアミノ酸残基類似体が含まれる。そのような天然に生じないアミノ酸残基を産生するには、Noren 等. Science 244:182(1989)と上掲のEllman等の手順を使用することができる。簡単にいうと、これらの手順は、天然に生じないアミノ酸残基でサプレッサーtRNAを化学的に活性させ、ついでインビトロのRNA転写と翻訳を行うことを含む。
「露出した(exposed)」アミノ酸残基は、その表面の少なくとも一部が、溶液中のポリペプチド(例えば抗体又はポリペプチド抗原)中に存在する場合、ある程溶媒に曝されている残基である。好ましくは、露出したアミノ酸残基は、その側鎖表面積の少なくとも約3分の1が溶媒に露出している残基である。残基が露出しているか否かを決定するために様々な方法が利用可能で、ポリペプチドの分子モデル又は構造の解析もその1つである。
「電荷を持つ」アミノ酸残基とは、最終的に全体で正の正味の電荷を有しているか、又は最終的に全体で負の正味の電荷を有しているアミノ酸残基である。正の電荷を有するアミノ酸残基には、アルギニン、リジン及びヒスチジンが含まれる。負の電荷を有するアミノ酸残基には、アスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれる。
【0023】
ここでの「標的抗原」なる用語は、ここで定義するような親抗体及び抗体変異体の両方が結合する予め定まった抗原を意味する。標的抗原は、ポリペプチド、炭水化物、核酸、脂質、ハプテン又はその他の天然に生じるか合成の化合物であり得る。好ましくは、標的抗原はポリペプチドである。抗体変異体が一般に標的抗原と親抗体よりもより好ましい結合親和性で結合する一方、親抗体は通常約1x10−5M以下、好ましくは約1x10−6M以下の結合親和性(Kd)を標的抗原に対して有する。
ここでの「会合速度」とは、抗体が溶液中で抗原と複合体を形成するときのオンレート定数(k1)を意味する。
ここでの「解離速度」とは、オフレート定数(k−1)、又は抗体と抗原間の短距離相互作用の中断を意味する。
【0024】
「電荷相補性」という用語により、ここでは、抗体のアミノ酸残基と抗原のアミノ酸残基の間の静電的相互作用を意味する。ここで電荷は抗体が抗原に結合する際の抗体のアミノ酸残基の近傍における抗原の局所的電荷を指す。例えば、負の電荷を有する抗原に対して正の電荷を有する抗体の電荷相補性を増大させるには、抗体中の負の電荷を有する特定のアミノ酸残基(例えばD又はE)を天然残基(例えばN又はT)あるいは正の電荷を有する残基(R又はK)で置換することにより、負の電荷を中和するか、又は逆転させて負の電荷を有する抗原の相補性を補完する。
【0025】
「単離された」抗体は、その自然環境の成分から同定され、分離及び/又は回収されたものである。その自然環境の汚染成分は、抗体の診断又は治療での使用を妨げる物質であり、酵素、ホルモン、その他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質を含みうる。好適な実施態様では、抗体は(1)ローリー法で測定して95重量%を越え、最も好ましくは99重量%を越える抗体まで、(2)スピニングカップシークエネーターを使ってN末端又は内在するアミノ酸配列の少なくとも15残基を取り出すのに十分な程度まで、又は(3)カーマシーブルー又は好ましくは銀染色を用いた還元又は非還元状態の下でのSDS−PAGEにより均一になるまで、精製される。単離された抗体は、抗体の自然な環境の少なくとも一成分が存在しないことから、組換え細胞中にインサイツで抗体を含む。しかしながら、通常は、単離された抗体は少なくとも1つの精製工程によって調製される。
【0026】
「治療」とは治療的処置及び予防的あるいは防護的措置の双方を意味する。治療を要するものには、障害を既に持つもの並びに障害を防止すべきものが含まれる。
「疾患」とは抗体変異体による治療の恩恵を受けるであろう任意の症状である。これには、哺乳動物が問題とする疾患になる素因になる病理的症状を含む慢性及び急性の疾患又は障害が含まれる。
治療目的で「哺乳動物」と言うときは、ヒト、家庭及び牧場の動物、非ヒト霊長類、及び動物園の動物、運動用の動物、愛玩用動物、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ウシ等々を含む哺乳動物に分類されるあらゆる動物を意味する。
【0027】
「単離された」核酸分子は、同定され、抗体核酸の天然源に通常付随している少なくとも1つの汚染核酸分子から分離された核酸分子である。単離された核酸分子は、天然に見出される形態あるいは設定以外のものである。ゆえに、単離された核酸分子は、天然の細胞中に存在する核酸分子から区別される。しかしながら、単離された核酸分子は、通常抗体(例えば核酸分子が天然の細胞の核酸分子と異なる染色体位置に在るような)を発現する細胞内に含まれる核酸分子を包含する。
「コントロール配列」という表現は、特定の宿主生物において作用可能に結合したコード配列を発現するために必要なDNA配列を指す。例えば原核生物に好適なコントロール配列は、プロモーター、場合によってはオペレータ配列、及びリボソーム結合部位を含む。真核生物の細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーを利用することが知られている。
【0028】
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係に置かれるときに「作用可能に結合し」ている。例えば、プレ配列あるいは分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現されているなら、そのポリペプチドのDNAに作用可能に結合している;プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼすならば、コード配列に作用可能に結合している;又はリボソーム結合部位は、もしそれが翻訳を容易にするような位置にあるなら、コード配列と作用可能に結合している。一般的に、「作用可能に結合している」とは、結合しているDNA配列が近接しており、分泌リーダーの場合には近接していて読みフェーズにあることを意味する。しかし、エンハンサーは必ずしも近接している必要はない。結合は簡便な制限部位でのライゲーションにより達成される。そのような部位が存在しない場合は、従来の手法に従って、合成オリゴヌクレオチドアダプターあるいはリンカーが使用される。
ここで使用されるところでは、「細胞」、「株化細胞」及び「細胞培養物」という表現は相互に交換可能な意味で用いられ、その全ての用語は子孫を含む。従って、「形質転換体」及び「形質転換細胞」は、最初の対象細胞及び何度培養が継代されたかに関わらず最初のものから誘導された培養を含む。また、全ての子孫が、意図的な変異あるいは意図しない変異の影響で、正確に同一のDNAを有するわけではないことも理解すべきである。本来の形質転換細胞についてスクリーニングしたものと同じ機能又は生物活性を有する変異体子孫が含まれる。命名を区別することが意図されている場合は、文脈から明らかであろう。
【0029】
II.本発明の実施の形態
ここで言う発明は、少なくとも部分的に、抗体変異体の作成方法に関する。親抗体又は出発抗体は、かかる抗体を産生するために当該分野で利用可能な技術を使用して調製されうる。抗体産生のための例示的な方法は次のセクションでより詳細に記載する。更に、本出願では、対象とする抗体について入手可能な情報(例えばアミノ酸配列データ)を使用して本発明の抗体変異体を産生させることができるので、実際に親抗体を実際に製造することを必要としない。
親抗体は所望の標的抗原に対するものである。好適には、標的抗原は生物学的に重要なポリペプチドであり、病気や疾患を被っている哺乳動物に抗体を投与することによって該哺乳動物に治療的恩恵をもたらしうる。しかしながら、非ポリペプチド抗原(例えば腫瘍に関連した糖脂質抗原;米国特許第5,091,178号参照)に対する抗体もまた考えられる。
【0030】
抗原がポリペプチドである場合、それは膜貫通分子(例えば、レセプター)あるいはリガンド、例えば成長因子でありうる。抗原の例には、例えば、レニン;ヒト成長ホルモン、ウシ成長ホルモンを含む成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク;α-1-アンチトリプシン;インシュリンA鎖;インシュリンB鎖;プロインシュリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;VIIIC因子、IX因子、組織因子、及びフォン・ヴィレブランド因子等の凝固因子;プロテインC等の抗凝固因子;心房性ナトリウム利尿因子;肺表面活性剤;ウロキナーゼ又はヒト尿又は組織型プラスミノーゲン活性化剤(t−PA)等のプラスミノーゲン活性化剤;ボンベシン;トロンビン;造血性成長因子;腫瘍壊死因子-α及び-β;エンケファリナーゼ;RANTES(regulated on activation normally T-cell expressed and secreted);ヒトマクロファージ炎症タンパク質(MIP-1-α);ヒト血清アルブミン等の血清アルブミン;ミューラー阻害物質;リラキシンA鎖;リラキシンB鎖;プロレラキシン;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;βラクタマーゼ等の微生物タンパク質;DNアーゼ;IgE;CTLA-4のような細胞毒性Tリンパ球関連抗原(CTLA);インヒビン;アクチビン;血管内皮成長因子(VEGF);ホルモン又は成長因子のレセプター;プロテインA又はD;リウマチ因子;神経栄養因子、例えば脳誘導神経向性因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3、-4、-5又は-6(NT-3、NT-4、NT-5、又はNT-6)、又は神経成長因子;血小板誘導成長因子(PDGF);aFGF及びbFGF等の線維芽細胞成長因子;表皮成長因子(EGF);TGF-α及びTGF-βのようなトランスフォーミング成長因子(TGF);インシュリン様成長因子-I及び-II(IGF-I及びIGF-II);des(1-3)-IGF-I(脳IGF-I)、インシュリン様成長因子結合タンパク質;CD3、CD4、CD8、CD19及びCD20等のCDタンパク質;エリスロポエチン;骨誘導因子;免疫毒素;骨形成タンパク質(BMP);インターフェロン-α、-β、及び-γ等のインターフェロン;コロニー刺激因子(CSFs)、例えば、M-CSF、GM-SCF、及びG-CSF;インターロイキン(ILs)、例えば、IL-1からIL-10;スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞レセプター;表面膜タンパク質;崩壊促進因子;ウイルス性抗原、例えばAIDSエンベロープの一部等;輸送タンパク質;ホーミングレセプター;アドレシン(addressins);調節タンパク質;インテグリン、例えばCD11a、CD11b、CD11c、CD18、ICAM、VLA-4及びVCAM;腫瘍関連抗原、例えばHER2、HER3又はHER4レセプター;及び上に列挙したポリペプチドの何れかの断片が含まれる。
【0031】
本発明により包含される抗体に対する好適な分子標的には、CDタンパク質、例えばCD3、CD4、CD8、CD19、CD20及びCD34;ErbBレセプターファミリーのメンバー、例えばEGFレセプター、HER2、HER3又はHER4レセプター;細胞接着分子、例えばLFA-1、Mac1、p150.95、VLA-4、ICAM-1、VCAM及びそのα又はβサブユニットを何れか含むαv/β3インテグリン(例えば、抗CD11a、抗CD18又は抗CD11b抗体);成長因子、例えばVEGF及びTF;IgE;血液型抗原;flk2/flt3レセプター;肥満(OB)レセプター;mplレセプター;CTLA-4;プロテインC等々が含まれる。
【0032】
抗体を生成するのに使用される抗原はその天然源のものから単離されるか、又は組み換えて生成されるか、他の合成法を用いて作成され得る。もう1つの方法としては、天然の又は合成の抗原を含有する細胞が、抗体を作る免疫原として使用できる。
親抗体は標的抗原に対する予め存在する強い結合親和性を持ちうる。例えば、親抗体は約1x10−7M、好ましくは約1x10−8M及び最も好ましくは約1x10−9Mを越えない結合親和性(Kd)値で、対象の抗原に結合しうる。
【0033】
親抗体は好ましくはキメラ(例えばヒト化)又はヒト抗体である。キメラ、ヒト化又はヒト抗体はまた場合によっては「親和成熟」抗体である。抗体を親和成熟させる技術については、本明細書の「関連技術の説明」と題した部分を参照のこと。一実施形態では、親抗体が抗体断片であるか、又は組換え的に生成された変異体のスクリーニングの容易化のために、完全抗体の抗体断片(例えばFab断片)が調製される。好ましくは、親抗体及び抗体変異体は血管内皮成長因子(VEGF)に結合する。例示的親抗体は、抗VEGF抗体の軽鎖及び重鎖可変ドメイン、例えばY0101(図1A−B);Y0317(出典明示により本明細書に包含する国際公開第98/45331号);ヒト化抗VEGF F(ab)−12(出典明示により本明細書に包含する国際公開第98/45331号);Y0192(出典明示により本明細書に包含する国際公開第98/45331号);Y0238−3(出典明示により本明細書に包含する国際公開第98/45331号);Y0239−19(出典明示により本明細書に包含する国際公開第00/29584号);Y0313−2(出典明示により本明細書に包含する国際公開第00/29584号)又はVNERK変異体(出典明示により本明細書に包含する国際公開第00/29584号)を含む。
【0034】
ここでの抗体変異体は、好ましくは親抗体と比較してより大きい抗原会合速度を示す。会合速度は、複合体の形成を時間の経過と共に観察することが可能な任意の方法により測定可能である。最も広く使用されている方法はBIAcore(登録商標)解析法であり、この方法では、バイオセンサー表面上に固定化された抗原に対する抗体の会合を測定する(Rich及びMyszkaによる概説, Curr. Opin. Biotechnol. 11:54-61 (2000))。あるいは、本明細書の実施例で行っているように、抗原と抗体を混合し、抗原の濃度を変化させて複合体の生成速度を測定することにより、(固体表面ではなく)溶液中において会合速度を測定する。この場合、内因的又は人工的フルオロフォアによる蛍光度の測定(Linthicum等による概説、Comb. Chem. High Throughput Screen 4:439-449 (2001))を含む、様々な検出法が使用可能である。好ましくは、本明細書の実施例の方法に従って会合速度を測定する。最も好ましくは、抗体変異体の会合速度は、親抗体の約5倍、又は約10倍以上(例えば約1000倍、又は約10000倍まで)である。
【0035】
更に、抗体変異体の標的抗原に対する結合親和性は通常親抗体よりも強い。抗体「結合親和性」は平衡法(例えば酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)又は放射線免疫測定法(RIA))、又は速度法(kinetics)(例えば商品名BIACORE解析)によって決定され得る。好ましくは、抗体変異体の標的抗原に対する結合親和性は、親抗体の同じ抗原に対する結合親和性より、少なくとも約2倍、好ましくは少なくとも約5倍、さらに好ましくは少なくとも約10倍又は100倍(例えば約1000倍まで又は10000倍まで)強力である。所望の又は必要とされる結合親和性の増強は、親抗体の最初の結合親和性に依存しうる。
【0036】
また、抗体は、治療剤としてのその「効能」又は薬理活性及び潜在的効果を評価するため他の「生物学的活性アッセイ」等にかけることができる。このようなアッセイは当該分野において公知であり、標的抗原と抗体の意図される用途に依存する。例としては、ケラチノサイト単層付着アッセイ及びCD11aに対する混合リンパ球反応(MFR)アッセイ(WO98/23761参照);腫瘍細胞成長阻害アッセイ(例えば、WO89/06692号に記載されているもの);抗体依存性細胞障害活性(ADCC)及び補体媒介障害活性(CDC)アッセイ(米国特許第5500362号);アゴニスト活性又は造血アッセイ(WO95/27062参照);トリチウム化チミジン取込みアッセイ;及びVEGFのような分子に応答する細胞の代謝活性を測定するアラマーブルーアッセイが含まれる。抗体変異体は好ましくは、選択された生物活性アッセイにおいて、該アッセイにおける親抗体の生物活性より、少なくとも約2倍大きく(例えば約2倍から約1000倍又は約10000倍までさえ改善された効能)、好ましくは少なくとも約20倍大きく、より好ましくは約50倍大きく、時には少なくとも約100倍又は200倍大きい効能を有する。
【0037】
本発明は、機能の改善(例えば会合速度及び/又は親和性の向上)のスクリーニングが可能な抗体変異体の系統的な作成方法を提供する。好ましくは、入手できる抗体−抗原関連情報を評価し、抗体と抗原間の電荷相補性を増大させる抗体中の候補アミノ酸変更を決定する。この複合体の核磁気共鳴(NMR)構造又はX線結晶から分子モデルを取得できる。例えば、Amit等 Science 233:747-753 (1986); 及びMuller等 Structure 6(9):1153-1167 (1998)を参照されたい。あるいは、例えば結晶構造が入手できない場合などにおいて、コンピュータープログラムを使用して抗体/抗原複合体の分子モデルを作成できる(例えば、Levy等 Biochemistry 28:7168-7175 (1989); Bruccoleri等 Nature 335:564-568 (1998); 及びChothia等 Science 233:755-758 (1986))を参照)。
一実施態様では、変更は1以上の電荷アミノ酸残基の、親抗体の1以上の高頻度可変領域の内部又は近傍への挿入を含む。本実施態様では、抗体−抗原複合体の分析によれば、挿入された残基が通常抗原には通常結合しない。一般には、約1から約20まで、又は約40までの電荷相補性を増大させるアミノ酸残基を挿入することができる。
【0038】
最も好ましい実施態様では、変更は1又は複数の高頻度可変領域の内部又は近傍での1以上の標的残基の置換を含む。本発明のこの実施態様では、標的残基を以下のようにして選択する:
1) 好ましくは、残基は溶液中に露出しており、例えばその側鎖表面積の少なくとも3分の1が溶媒に露出している。如何なる理論に制約されるものではないが、これは、埋没残基の突然変異により抗体の不安定化の恐れが排除されたためと考えられる。
2) 静電引力は距離の関数として減衰するため、望ましくは残基は結合状態において抗原の少なくとも約20Å以内(好ましくは約16Å以内)にある。
3) 直接接触残基の突然変異は結合複合体を不安定化させる可能性があるため、好ましくは残基は結合状態の抗原と直接接触していない。
4) 高頻度可変領域又は相補性決定領域(CDRs)は患者に免疫原性反応を引き起こしにくい徴候があるため、それら領域内にある残基の方がそうでない残基よりも好ましい。
5) 通常、変更について、抗体と抗原の間の電荷相補性を増大させることができる残基のみを考慮する。
【0039】
したがって、実施例でさらに詳述する本発明の好ましい実施態様では、親抗体が結合した抗原の約20Å以内に1以上の露出した高頻度可変領域アミノ酸残基が同定され、それら露出残基の1以上が中和した又は逆に荷電した置換アミノ酸残基で置き換えられている。
本発明では、本発明の基準に従った1回のアミノ酸置換を考慮しているが、好ましくは2以上の置換、例えば1つの可変領域につき約2から約10又は約20の置換(つまり、両方の可変ドメインについてそれぞれ約20又は約40までのアミノ酸置換)を組み合わせる。ここでの抗体と抗原の間の電荷相補性を増大させる変更は、高頻度可変領域における別のアミノ酸配列変更又は抗体の他の領域におけるアミノ酸配列変更と組み合わせることができる。
【0040】
一実施態様では、本発明による変更を持つ高頻度可変領域は、CDR L1、CDR L2、ループH1及びCDR H3からなる群から選択され、最も好ましくはCDR L1が選択される。更に、2以上の高頻度可変領域、例えばCDR L1、CDR L2、ループH1及びCDR H3の2以上における変更を組み合わせることができる。例えば、抗体変異体は、CDR L1に1以上の変更を有する軽鎖可変ドメイン及びループH1及び/又はCDR H3に1以上の変更を有する重鎖可変ドメインを含んでもよい。
【0041】
本発明の一態様によれば、抗体変異体又は抗体可変ドメインは、抗体の軽鎖可変ドメインのアミノ酸位26L、27L、28L、30L、31L、32L、49L、50L、52L、53L、54L、56L、93L又は94Lの1つ以上、及び/又は抗体の重鎖可変ドメインのアミノ酸位25H、28H、30H、54H、56H、61H、62H、64H、97H、98H、99H及び/又は100aHの1つ以上に本発明による1以上の置換を有している。更に、これらの位置における置換を組み合わせることができる。例えば、抗体の軽鎖可変ドメインアミノ酸位26L、27L、28L又は30Lの2、3又は4つを組み合わせてもよい。変更された重鎖可変ドメイン(例えば28H及び/又は100aHにおける置換を含む)を変更された軽鎖可変ドメイン(例えば26L、27L、28L及び/又は30Lにおける置換を含む)と組み合わせてもよい。本明細書では、残基の番号付けはKabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991)に従った。
【0042】
本発明はまたここに記載した方法により取得可能な抗体変異体又は変更された抗体可変ドメインを提供する。好ましくは、抗体変異体又は変更抗体可変ドメインは、その高頻度可変領域の内部又は近傍に、抗体変異体とそれが結合する抗原との間の電荷相補性を増大させるアミノ酸変更を有する。このような変更可変ドメインの例には、SATKKIKNYLN(配列番号6)又はSATKKITNYLN(配列番号7)から選択されたCDR L1配列を含む軽鎖可変ドメイン、例えば配列番号3又は配列番号4のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメイン;並びにT28D及びS100aRの置換を有する重鎖可変ドメイン、例えば配列番号5、配列番号8、配列番号9又は配列番号10のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインが含まれる。場合によっては、これら軽鎖及び重鎖可変ドメインの配列は抗体変異体内で組み合わされてもよく、例えば、抗体変異体が配列番号4の軽鎖可変ドメインと、配列番号5、8、9又は10の重鎖可変ドメインを有してもよい。好ましくは、抗体変異体は、その軽鎖可変ドメインに配列番号7のCDR L1配列を有し、その重鎖可変ドメインに(T28D、S100aR)置換を有し、この置換の組み合わせを、本明細書の実施例では「34−TKKT」変異体と呼ぶ。このような置換(VH−(T28、S100aR)+VL−(S26T、Q27K、D28K、S30T))は様々な親抗体において作成可能で、親抗体は、それらに限定するものではないが、Y0101、Y0317、ヒト化抗VEGF F(ab)−12、Y0192、Y0238−3、Y0239−19、Y0313−2、及びVNERK変異体からなる群から選択された抗VEGF抗体を含む。例えば、「34−TKKT+VNERK+H97Y」変異体は、「34−TKKT」、「H97Y」及びVNERK変異体(軽鎖及び重鎖可変ドメインについてはそれぞれ配列番号4及び8)の変更を組み合わせることにより生成される。
【0043】
アミノ酸配列変異体をコードしている核酸分子は当該分野で知られている様々な方法により調製される。これらの方法は、限定されるものではないが、親抗体の先に調製された変異体又は非変異体型のオリゴヌクレオチド媒介(又は部位特異的)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、カセット突然変異誘発を含む。変異体を作成するための好ましい方法は部位特異的突然変異誘発(例えばKunkel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:488 (1985)を参照)である。更に、ひとたび所望のアミノ酸配列に概念的に到達すれば、核酸配列は合成的に作成されうる。ペプチド合成、ペプチドライゲーション又は他の方法により抗体変異体を作成することもできる。
抗体変異体の生産に続いて、親抗体に対する該分子の活性が決定されうる。上に記載したように、これは抗体の会合速度、及び/又は結合親和性、及び/又は他の生物活性を決定することを含みうる。本発明の好適な実施態様では、抗体変異体のパネルが調製され、一又は複数のアッセイにおいて会合速度及び/又は抗原への結合親和性及び/又は効能についてスクリーニングされる。最初のスクリーニングから選択された抗体変異体の一又は複数を場合によっては一又は複数の更なる機能アッセイにかけて、抗体変異体が一を越えるアッセイで改善された活性を有することが確認される。
【0044】
親抗体の高頻度可変領域内における上記の変更とは別に、高頻度可変領域の一又は複数のアミノ酸配列内において他の変更をなしてもよい。例えば、上記のアミノ酸変更は他の高頻度可変領域残基の欠失、挿入又は置換と組み合わせてもよい。更に、FR残基の一又は複数の変更(例えば置換)を親抗体に導入してもよく、その場合、抗原に対する抗体変異体の結合親和性が改善される結果になる。変更するフレームワーク領域残基の例は、非共有的に抗原に直接結合する(Amit等, Science 233:747-753 (1986));CDRの高次構造と相互作用/形成する(Chothia等, J.Mol.Biol. 196:901-917 (1987));及び/又はVL−VH界面に関与する(EP239400B1)ものを含む。かかるアミノ酸配列の変更は親抗体に存在し得、ここでのアミノ酸挿入と同時に行い得、又は本発明によるアミノ酸変更を持つ変異体が産生された後に作成しうる。本発明において、親抗体又は抗体変異体の定常ドメイン配列の変更は、例えば抗体エフェクター機能を向上又は減少させるものを考慮することもできる。例えば、米国特許第6194551号;国際公開第99/51642号;Idusogie等J. Immunol. 164:4178-4184 (2000);国際公開第00/42072号(Presta); 及びShields等J. Biol. Chem. 9(2):6591-6604 (2001)を参照のこと。これら文献は出典明示によりここに明示的に包含する。
【0045】
抗体変異体は、しばしば抗体の意図された用途に応じて、他の修飾を受けてもよい。そのような修飾はアミノ酸配列の更なる変化、異種ポリペプチドへの融合及び/又は共有結合修飾を含みうる。アミノ酸配列変化に関しては、例示的な修飾は上に詳細に説明した。例えば、抗体変異体の正しい高次構造を維持することに関連しない任意のシステイン残基をまた、一般にセリンと置換して、分子の酸化安定性を改善し異常な架橋を防止してもよい。逆に、システイン残基を抗体に加えてその安定性を改善してもよい(特に抗体がFv断片のような抗体断片である場合)。アミノ酸変異体の他のタイプは変化したグリコシル化パターンを有している。これは、抗体に見いだされる一又は複数の炭水化物部分(糖鎖)を欠失し、及び/又は抗体中に存在しない一又は複数のグリコシル化部位を付加することにより、達成されうる。抗体のグリコシル化は典型的にはN結合又はO結合の何れかである。N結合とはアスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の付着を意味する。アスパラギン-X-セリン及びアスパラギン-X-スレオニンというトリペプチド配列(ここで、Xはプロリンを除く任意のアミノ酸である)はアスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素的付着のための認識配列である。よって、ポリペプチドにおけるこれらのトリペプチド配列の何れかの存在が潜在的なグリコシル化部位をつくりだす。O結合グリコシル化は、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリン又はスレオニンへの糖N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、又はキシロースの一つの付着を意味するが、5-ヒドロキシプロリン又は5-ヒドロキシリジンもまた使用してもよい。抗体へのグリコシル化部位の付加は、簡便には、(N結合グリコシル化部位に対する)上述のトリペプチド配列の一又は複数を含むようにアミノ酸配列を改変することにより、なされる。変更はまた(O結合グリコシル化部位に対する)元の抗体の配列への一又は複数のセリン又はスレオニン残基の付加又は置換により、なしてもよい。
親抗体であり得、よってここに詳細に説明した技術による修飾を必要とする抗体を産生する技術は以下の通りである。
【0046】
A.抗体の調製
(i) 抗原の調製
場合によっては他の分子に抱合されていてもよい可溶性抗原又はその断片を、抗体を産生するための免疫原として使用することができる。例えばレセプターのような膜貫通型分子では、これらの断片(例えばレセプターの細胞外ドメイン)を免疫原として使用することができる。あるいは、膜貫通型分子を発現する細胞を免疫原として使用することができる。このような細胞は天然源(例えばガン株化細胞)から引き出すことができ、あるいは膜貫通型分子を発現する組換え技術により形質転換した細胞であってもよい。抗体を調製するために有用な他の抗原及びその型は当業者には明らかであろう。
【0047】
(ii) ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、好ましくは、関連する抗原とアジュバントを複数回皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射することにより動物に産生される。免疫化される種において免疫原性であるタンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、又は大豆トリプシンインヒビターに関連抗原を、二官能性又は誘導体形成剤、例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基による抱合)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基による)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl2、又はRとR1が異なったアルキル基であるR1N=C=NRにより抱合させることが有用である。
【0048】
動物を、例えばタンパク質又はコンジュゲート100μg又は5μg(それぞれウサギ又はマウスの場合)を完全フロイントアジュバント3容量と併せ、この溶液を複数部位に皮内注射することによって、抗原、免疫原性コンジュゲート、又は誘導体に対して免疫化する。1ヶ月後、該動物を、完全フロイントアジュバントに入れた初回量の1/5ないし1/10のペプチド又はコンジュゲートを用いて複数部位に皮下注射することにより、追加免疫する。7ないし14日後に動物を採血し、抗体価について血清を検定する。動物は、力価がプラトーに達するまで追加免疫する。好ましくは、動物は、同じ抗原のコンジュゲートであるが、異なったタンパク質にコンジュゲートさせた、及び/又は異なった架橋剤によってコンジュゲートさせたコンジュゲートで追加免疫する。コンジュゲートはまたタンパク融合として組換え細胞培養中で作製することもできる。また、ミョウバンのような凝集化剤が、免疫反応の増強のために好適に使用される。
【0049】
(iii) モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、Kohlerら, Nature, 256:495 (1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法を用いて作製でき、又は組換えDNA法(米国特許第4816567号)によって作製することができる。
ハイブリドーマ法においては、マウス又はその他の適当な宿主動物、例えばハムスターを上記したようにして免疫し、免疫化に用いられるタンパク質と特異的に結合する抗体を生産するか又は生産することのできるリンパ球を導き出す。別法として、リンパ球をインビトロで免疫することもできる。次に、リンパ球を、ポリエチレングリコールのような適当な融剤を用いて骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice,59-103(Academic Press, 1986))。
【0050】
このようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、融合していない親の骨髄腫細胞の増殖または生存を阻害する一又は複数の物質を好ましくは含む適当な培地に蒔き、増殖させる。例えば、親の骨髄腫細胞が酵素ヒポキサンチングアニジンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠失するならば、ハイブリドーマのための培地は、典型的には、HGPRT欠失細胞の増殖を妨げる物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含有するであろう(HAT培地)。
【0051】
好ましい骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定な高レベルの生産を支援し、HAT培地のような培地に対して感受性である細胞である。これらの中でも、好ましい骨髄腫株化細胞は、マウス骨髄腫系、例えば、ソーク・インスティテュート・セル・ディストリビューション・センター、サンディエゴ、カリフォルニア、USAから入手し得るMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍、及びアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、マサチューセッツ、バージニア、USAから入手し得るSP-2又はX63-Ag8-653細胞から誘導されたものである。ヒト骨髄腫及びマウス−ヒトヘテロ骨髄腫株化細胞もまたヒトモノクローナル抗体の産生のために開示されている(Kozbor, J.Immunol., 133:3001 (1984);Brodeurら, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp51-63(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0052】
ハイブリドーマ細胞が生育している培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の産生についてアッセイする。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降又はインビトロ結合アッセイ、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって測定する。
【0053】
所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が確定された後、該クローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法により増殖させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, 59-103(cademic Press, 1986))。この目的に対して好適な培地には、例えば、D-MEM又はRPMI-1640培地が包含される。加えて、該ハイブリドーマ細胞は、動物において腹水腫瘍としてインビボで増殖させることができる。
【0054】
サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体は、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィーのような常套的な免疫グロブリン精製法により、培地、腹水、又は血清から好適に分離される。
モノクローナル抗体をコードしているDNAは、常法を用いて(例えば、モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードしている遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)即座に分離され配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAの好ましい供給源となる。ひとたび分離されたならば、DNAを発現ベクター中に入れ、ついでこれを、そうしないと免疫グロブリンタンパク質を産生しない大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は骨髄腫細胞のような宿主細胞中にトランスフェクトし、組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体の合成を達成することができる。抗体の組み換え体作成は以下に更に詳しく記載する。
【0055】
更なる実施態様では、抗体又は抗体断片は、McCaffertyら, Nature, 348:552-554 (1990)に記載された技術を使用して産生される抗体ファージライブラリーから分離することができる。Clacksonら, Nature, 352:624-628 (1991)及び Marksら, J.Mol.Biol., 222:581-597 (1991)は、ファージライブラリーを使用したマウス及びヒト抗体の分離を記述している。続く刊行物は、鎖混合による高親和性(nM範囲)のヒト抗体の生産(Marksら, Bio/Technology, 10:779-783(1992))、並びに非常に大きなファージライブラリーを構築するための方策としてコンビナトリアル感染とインビボ組換え(Waterhouseら, Nuc.Acids.Res., 21:2265-2266(1993))を記述している。従って、これらの技術はモノクローナル抗体の分離に対する伝統的なモノクローナル抗体ハイブリドーマ法に対する実行可能な別法である。
【0056】
DNAはまた、例えば、ヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード化配列を、相同的マウス配列に代えて置換することにより(米国特許第4816567号;Morrisonら, Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81:6851(1984))、又は免疫グロブリンコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全部又は一部を共有結合させることにより、修飾できる。
典型的には、このような非免疫グロブリンポリペプチドは、抗体の定常ドメインに置換され、又は抗体の1つの抗原結合部位の可変ドメインに置換されて、抗原に対する特異性を有する1つの抗原結合部位と異なる抗原に対する特異性を有するもう一つの抗原結合部位とを含むキメラ二価抗体を作り出す。
【0057】
(iv) ヒト化又はヒト抗体
ヒト化抗体には非ヒトである供給源由来の一又は複数のアミノ酸残基がそこに導入されている。これら非ヒトアミノ酸残基は、しばしば、典型的には「移入」可変ドメインから得られる「移入」残基と呼ばれる。ヒト化は、本質的には齧歯動物のCDR又はCDR配列でヒト抗体の該当する配列を置換することにより、ウィンターと共同研究者の方法(Jonesほか, Nature, 321:522-525 (1986)、Riechmannほか, Nature, 332:323-327 (1988)、Verhoeyenほか, Science, 239:1534-1536(1988))を使用して実施することができる。よって、このような「ヒト化」抗体は、無傷のヒト可変ドメインより実質的に少ない分が非ヒト種由来の該当する配列で置換されたキメラ抗体(米国特許第4816567号)である。実際には、ヒト化抗体は、典型的にはいくらかのCDR残基及び場合によってはいくらかのFR残基が齧歯類抗体の類似部位からの残基によって置換されているヒト抗体である。
【0058】
抗原性を低減するには、ヒト化抗体を生成する際に使用するヒトの軽重両方の可変ドメインの選択が非常に重要である。「ベストフィット法」では、齧歯動物抗体の可変ドメインの配列を既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。次に齧歯動物のものと最も近いヒト配列をヒト化抗体のヒトFRとして受け入れる(Simsほか, J. Immunol., 151:2296 (1993);Chothiaら, J. Mol. Biol., 196:901(1987))。他の方法では、ヒト抗体配列の特定のサブグループに基づく「コンセンサス」フレームワークを使用する。同じコンセンサスフレームワークを幾つかの異なるヒト化抗体に使用できる(Carterほか, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992);Prestaほか, J. Immunol., 151:2623(1993))。
【0059】
更に、抗体を、抗原に対する高親和性や他の好ましい生物学的性質を保持してヒト化することが重要である。この目標を達成するべく、好ましい方法では、親及びヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列及び様々な概念的ヒト化産物の分析工程を経てヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルは一般的に入手可能であり、当業者にはよく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の推測三次元立体配座構造を図解し、表示するコンピュータプログラムは購入可能である。これら表示を見ることで、候補免疫グロブリン配列の機能における残基のありそうな役割の分析、すなわち候補免疫グログリンの抗原との結合能力に影響を及ぼす残基の分析が可能になる。このようにして、例えば標的抗原に対する親和性が向上するといった、望ましい抗体特性が達成されるように、FR残基をレシピエント及び移入配列から選択し、組み合わせることができる。一般的に、CDR残基は、直接かつ最も実質的に抗原結合性に影響を及ぼしている。
【0060】
別法として、内因性の免疫グロブリン産生がなくともヒト抗体の全レパートリーを免疫化することで産生することのできるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作ることが今は可能である。例えば、キメラ及び生殖系列突然変異体マウスにおける抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子の同型接合除去が内因性抗体産生の完全な阻害をもたらすことが記載されている。このような生殖系列突然変異体マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子列の転移は、抗原投与時にヒト抗体の産生をもたらす。Jakobovitsら, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 90:2551 (1993);Jakobovitsら, Nature 362:255-258 (1993); Bruggermanら, Year in Immuno., 7:33 (1993);Duchosalら, Nature 355:258(1992)を参照されたい。ヒト抗体は、ファージディスプレーライブラリーから取り出すこともできる(Hoogenboomら, J.Mol.Biol., 227:381(1991);Marksら, J.Mol.Biol. 222:581-597(1991);Vaughanら, Nature Biotech 14:309(1996))。
【0061】
(v) 抗体断片
抗体断片を生産するために様々な技術が開発されている。伝統的には、これらの断片は、無傷の抗体のタンパク分解性消化を介して誘導された(例えば、Morimotoら, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992)及びBrennanら, Science, 229:81(1985)を参照されたい)。しかし、これらの断片は現在は組換え宿主細胞により直接生産することができる。例えば、抗体断片は上において検討した抗体ファージライブラリーから分離することができる。別法として、Fab'-SH断片は大腸菌から直接回収することができ、化学的に結合させてF(ab')2断片を形成することができる(Carterら, Bio/Technology 10:163-167(1992))。他のアプローチ法では、F(ab')2断片を組換え宿主細胞培養から直接分離することができる。抗体断片の生産のための他の方法は当業者には明らかであろう。他の実施態様では、選択抗体は単鎖Fv断片(scFv)である。国際公開第93/16185号を参照のこと。
【0062】
(vi) 多重特異性抗体
多重特異性抗体は、少なくとも二つの異なる抗原に対する結合特異性を有する。このような分子は通常は二つの抗原を結合させるのみであるが(すなわち、二重特異性抗体、BsAbs)、三重特異性抗体のような更なる特異性を持つ抗体もここで使用される場合この表現に包含される。BsAbの例には、一方の腕が腫瘍細胞抗原に対し他方の腕が細胞毒性トリガー分子に対するもの、例えば抗FcγRI/抗CD15、抗p185HER2/FcγRIII(CD16)、抗CD3/抗悪性B細胞(1D10)、抗CD3/抗p185HER2、抗CD3/抗p97、抗CD3/抗腎臓細胞癌腫、抗CD3/抗OVCAR-3、抗CD3/L-D1(抗大腸ガン腫)、抗CD3/抗メラニン細胞刺激ホルモン類似体、抗EGFレセプター/抗CD3、抗CD3/抗CAMA1、抗CD3/抗CD19、抗CD3/MoV18、抗神経細胞接着分子(NCAM)/抗CD3、抗葉酸塩結合タンパク質(FBP)/抗CD3、抗全癌腫随伴抗原(AMOC-31)/抗CD3;腫瘍抗原に特異的に結合する一つの腕と毒素に結合する一つの腕を持つBsAb、例えば、抗サポリン/抗Id-1、抗CD22/抗サポリン、抗CD7/抗サポリン、抗CD38/抗サポリン、抗CEA/抗リシンA鎖、抗CEA/抗ビンカアルカロイド;(マイトマイシンホスフェートのマイトマイシンアルコールへの転換を触媒する)抗CD30/抗アルカリホスファターゼのような酵素活性化プロドラッグを転換するためのBsAb;抗フィブリン/抗組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、抗フィブリン/抗ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)のような線維素溶解剤として使用することができるBsAb;抗低密度リポタンパク質(LDL)/抗Fcレセプター(例えばFcγRI、FcγRII又はFcγRIII)のような細胞表面レセプターへ免疫複合体をターゲティングするためのBsAb;抗CD3/抗単純ヘルペスウィルス(HSV)、抗T細胞レセプター:CD3複合体/抗インフルエンザ、抗FcγR/抗HIVのような感染性疾患の治療に使用されるBsAb;抗CEA/抗EOTUBE、抗CEA/抗DPTA、抗p185HER2/抗ハプテンのようなインビトロ又はインビボでの腫瘍検出のためのBsAb;ワクチンアジュバントとしてのBsAb;及び抗ウサギIgG/抗フェリチン、抗セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)/抗ホルモン、抗ソマトスタチン/抗サブスタンスP、抗HRP/抗FITCのような診断ツールとしてのBsAbが含まれる。三重特異性抗体の例には、抗CD3/抗CD4/抗CD37、抗CD3/抗CD5/抗CD37及び抗CD3/抗CD8/抗CD37が含まれる。二重特異性抗体は全長抗体又は抗体断片(例えばF(ab')2二重特異性抗体)として調製することができる。
【0063】
二重特異性抗体を作成する方法は当該分野において既知である。全長二重特異性抗体の伝統的な組換え産生は二つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の同時発現に基づき、ここで二つの該鎖は異なる特異性を持っている(Millstein等, Nature, 305:537-539 (1983))。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖が無作為に取り揃えられているため、これらのハイブリドーマ(四部雑種)は10個の異なる抗体分子の可能性ある混合物を産生し、そのうちただ一つが正しい二重特異性構造を有する。通常、アフィニティークロマトグラフィー工程により行われる正しい分子の精製は、かなり煩わしく、生成物収率は低い。同様の方法が国際公開第WO 93/08829号及びTraunecker等,EMBO J., 10:3655-3659 (1991)に開示されている。
異なったアプローチ法によると、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗原−抗体結合部位)を、免疫グロブリン定常ドメイン配列と融合させる。該融合は好ましくは、少なくともヒンジの一部、CH2及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖定常部との融合である。軽鎖の結合に必要な部位を含む第一の重鎖定常領域(CH1)を、融合の少なくとも一つに存在させることが望ましい。免疫グロブリン重鎖の融合、そして、望まれるならば免疫グロブリン軽鎖をコードしているDNAを、別個の発現ベクター中に挿入し、適当な宿主生物に同時トランスフェクトする。これにより、作成に使用される三つのポリペプチド鎖の等しくない比率が最適な収率を提供する態様において、三つのポリペプチド断片の相互の割合の調節に大きな融通性が与えられる。しかし、少なくとも二つのポリペプチド鎖の等しい比率での発現が高収率をもたらすとき、又は、その比率が特に重要性を持たないときは、2または3個全てのポリペプチド鎖のためのコード化配列を一つの発現ベクターに挿入することが可能である。
このアプローチ法の好適な実施態様では、二重特異性抗体は、第一の結合特異性を有する一方の腕のハイブリッド免疫グロブリン重鎖、及び他方の腕のハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)で構成される。二重特異性分子の半分しか免疫グロブリン軽鎖がないことで容易な分離法が提供されるため、この非対称的構造は、所望の二重特異性化合物を不要な免疫グロブリン鎖の組み合わせから分離することを容易にすることが分かった。このアプローチ法は、国際公開第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体を作製する更なる詳細については、例えばSureshら, Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照されたい。
【0064】
国際公開第96/27011号に記載された他のアプローチ法によれば、一対の抗体分子間の界面を操作して組換え細胞培養から回収されるヘテロダイマーのパーセントを最大にすることができる。好適な界面は抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第1抗体分子の界面からの一又は複数の小さいアミノ酸側鎖がより大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)と置き換えられる。大きな側鎖と同じ又は類似のサイズの相補的「キャビティ」を、大きなアミノ酸側鎖を小さいもの(例えばアラニン又はスレオニン)と置き換えることにより第2の抗体分子の界面に作り出す。これにより、ホモダイマーのような不要の他の最終産物に対してヘテロダイマーの収量を増大させるメカニズムが提供される。
【0065】
二重特異性抗体は、架橋した又は「ヘテロコンジュゲート」抗体もまた含む。例えば、ヘテロコンジュゲートの抗体の一方はアビジンに結合され、他方はビオチンに結合され得る。そのような抗体は、例えば、不要の細胞に対する免疫系細胞をターゲティングするため(米国特許第4676980号)、及びHIV感染の治療のために提案された(国際公開91/00360号、同92/200373号、及び欧州特許第03089号)。ヘテロコンジュゲート抗体は、あらゆる簡便な架橋法を用いて作製することができる。好適な架橋剤は当該分野において良く知られており、幾つかの架橋技術と共に米国特許第4676980号に開示されている。
【0066】
抗体断片から二重特異性抗体を産生する技術もまた文献に記載されている。例えば、化学結合を使用して二重特異性抗体を調製することができる。Brennanら, Science, 229:81 (1985) は無傷の抗体をタンパク分解性に切断してF(ab')2断片を産生する手順を記述している。これらの断片は、ジチオール錯体形成剤亜砒酸ナトリウムの存在下で還元して近接ジチオールを安定化させ、分子間ジスルフィド形成を防止する。産生されたFab'断片はついでチオニトロベンゾアート(TNB)誘導体に転換される。Fab'-TNB誘導体の一つをついでメルカプトエチルアミンでの還元によりFab'-チオールに再転換し、他のFab'-TNB誘導体の等モル量と混合して二重特異性抗体を形成する。作られた二重特異性抗体は酵素の選択的固定化用の薬剤として使用することができる。
【0067】
最近の進歩により、大腸菌からのFab'-SH断片の直接の回収が容易になり、これは化学的に結合して二重特異性抗体を形成することができる。Shalabyら,J.Exp.Med., 175:217-225 (1992)は完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab')2分子の製造を記述している。各Fab'断片は大腸菌から別個に分泌され、インビトロで定方向化学共役を受けて二重特異性抗体を形成する。このようにして形成された二重特異性抗体は、正常なヒトT細胞及びErbB2レセプターを過剰発現する細胞に結合可能で、ヒト乳房腫瘍標的に対するヒト細胞障害性リンパ球の細胞溶解活性の誘因となる。
【0068】
組換え細胞培養から直接的に二重特異性抗体断片を作成し分離する様々な方法もまた記述されている。例えば、二重特異性抗体はロイシンジッパーを使用して生産されている。Kostelnyら, J.Immunol. 148(5):1547-1553 (1992)。Fos及びJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドを遺伝子融合により二つの異なった抗体のFab'部分に結合させる。抗体ホモダイマーをヒンジ領域で還元してモノマーを形成し、ついで再酸化して抗体ヘテロダイマーを形成する。この方法はまた抗体ホモダイマーの生産に対して使用することができる。Hollingerら, Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)により記述された「ダイアボディ」技術は二重特異性抗体断片を作成する別のメカニズムを提供した。断片は、同一鎖上の2つのドメイン間の対形成を可能にするには十分に短いリンカーにより軽鎖可変ドメイン(VL)に重鎖可変ドメイン(VH)を結合してなる。従って、一つの断片のVH及びVLドメインは他の断片の相補的VL及びVHドメインと強制的に対形成させられ、2つの抗原結合部位を形成する。単鎖Fv(sFv)ダイマーの使用により二重特異性抗体断片を製造する他の方策もまた報告されている。Gruberら, J.Immunol. 152:5368 (1994)を参照されたい。
二価より多い抗体も考えられる。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tuttら J.Immunol. 147:60(1991)。
【0069】
(vii) 例示的抗体
本発明の範囲において好ましい抗体には、rhuMAb 4D5(HERCEPTIN(登録商標))を含む抗HER2抗体(Carter等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285-4289 (1992), 米国特許第5725856号);米国特許第5736137号のキメラ抗CD20「C2B8」等の抗CD20抗体(RITUXAN(登録商標))、米国特許第5721108号に記載の2H7のキメラ変異体又はヒト化変異体又はトシツモマブ(BEXXAR(登録商標);抗IL−8(St John等, Chest, 103:932 (1993)、及び国際公開第95/23865号);ヒト化抗VEGF抗体huA4.6.1アバスチン(登録商標)等のヒト化及び/又は親和成熟抗VEGF抗体を含む抗VEGF抗体(Kim等, Growth Factors, 7:53-64 (1992), 国際公開第96/30046号及び1998年10月15日公開の国際公開第98/45331号);D3H44(WO01/70984)等のヒト化及び/又は親和成熟抗VEGF抗体を含む抗組織因子(TF)抗体(1994年11月9日付与の欧州特許第0420937B1);抗PSCA抗体(WO01/40309);S2C6及びそのヒト化変異体を含む抗CD40抗体(WO00/75348);抗CD11a(米国特許第5622700号、国際公開第98/23761号、Steppe等, Transplant Intl. 4:3-7 (1991), 及びHourmant等, Transplantation 58:377-380 (1994));抗CD18(1997年4月22日発行の米国特許第5622700号、又は1997年7月31日公開の国際公開第97/26912号);抗IgE(1998年2月3日発行の米国特許第5714338号又は1992年2月25日発行の同第5091313号、1993年3月4日公開の国際公開第03/04173号、1998年6月30日出願の国際出願番号PCT/US98/13410、米国特許第5714338、Presta等, J. Immunol. 151:2623-2632 (1993)、及び国際公開第95/19181号);抗Apo−2レセプター抗体(1998年11月19日公開の国際公開第98/51793号);cA2(レミケード(登録商標))、CDP571及びMAK−195を含む抗TNFα抗体(1997年9月30日発行の米国特許第5,672,347号、Lorenz等 J. Immunol. 156(4):1646-1653 (1996)、及びDhainaut等 Crit. Care Med. 23(9):1461-1469 (1995));抗ヒトα4β7インテグリン(1998年2月19日公開の国際公開第98/06248号);抗EGFR(1996年12月19日公開の国際公開第96/40210号に開示のキメラ又はヒト化225抗体);OKT3等の抗CD3抗体(1985年5月7日発行の米国特許第4515893号);CHI−621(シムレクト(登録商標))及び(ゼナパックス(登録商標))等の抗CD25又は抗tac抗体(1997年12月2日発行の米国特許第5693762号参照);cM−7412抗体等の抗CD4抗体(Choy等 Arthritis Rheum 39(1):52-56 (1996);CAMPATH-1H等の抗CD52抗体(Riechmann等 Nature 332:323-337 (1988);Graziano等 J. Immunol. 155(10):4996-5002 (1995)に開示されているFcγRIに対するM22抗体などの抗Fcレセプター抗体;hMN−14等の抗癌胎児性抗原(CEA)抗体(Sharkey等 Cancer Res. 55(23Suppl):5935s-5945s (1995));huBrE−3、hu−Mc3及びCHL6を含む胸部上皮細胞に対する抗体(Ceriani等 Cancer Res. 55(23):5852s-5856s (1995);及びRichman等 Cancer Res. 55 (23 Supp):5916s-5920s (1995));C242のように大腸癌細胞に結合する抗体(Litton等 Eur J. Immunol. 26(1):1-9 (1996);抗CD38抗体、例えばAT13/5(Ellis等 J. Immunol. 155(2):925-937 (1995));Hu M195等の抗CD33抗体(Jurcic等 Cancer Res 55 (23 Suppl):5908s-5910s (1995))及びCMA−676又はCDP771;LL2又はLymphoCideなどの抗CD22抗体(Juweid等 Cancer Res 55 (23 Suppl)5899s-5907s (1995));17−1A等の抗EpCAM抗体(PANOREX(登録商標));アブシキシマブ又はc7E3Fab等の抗GpIIb/IIIa抗体(レオプロ(登録商標));MEDI−493等の抗RSV抗体(シナジス(登録商標));PROTOVIR(登録商標)等の抗CMV抗体;PRO542等の抗HIV抗体;抗Hep B抗体OSTAVIR(登録商標)等の抗肝炎抗体;抗CA125抗体オバレックス;抗イディオタイプGD3エピトープ抗体BEC2;抗αvβ3抗体バイタクシン(登録商標);ch−G250等の抗ヒト腎細胞癌抗体;ING−1;抗ヒト17−1A抗体(3622W94);抗ヒト結腸直腸腫瘍抗体(A33);GD3ガングリオシドに対する抗ヒト黒色腫抗体R24;抗ヒト扁平細胞癌(SF−25);及び、Smart ID10等の抗ヒト白血球抗原(HLA)抗体又は抗HLA DR抗体Oncolym(Lym−1)が含まれる。
【0070】
(viii) 免疫コンジュゲート
また本発明はここで記載され、細胞障害剤、例えば化学療法剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物または動物由来の酵素活性毒又はそれらの断片)、又は放射性アイソトープ(すなわち、放射性コンジュゲート)に抱合した抗体を含有する免疫コンジュゲートに関する。
【0071】
このような免疫コンジュゲートの生成に有用な化学療法剤は上述している。使用可能な酵素活性毒及びその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性断片、外毒素A鎖(シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa))、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシン(modeccin)A鎖、アルファ-サルシン(sarcin)、アレウライツ・フォルディイ(Aleurites fordii)プロテイン、ジアンシン(dianthin)プロテイン、フィトラッカ・アメリカーナ(Phytolaca americana)プロテイン(PAPI、PAPII及びPAP-S)、モモルディカ・キャランティア(momordica charantia)インヒビター、クルシン(curcin)、クロチン、サパオナリア(sapaonaria)オフィシナリスインヒビター、ゲロニン(gelonin)、マイトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン、エノマイシン及びトリコセセンス(tricothecenes)が含まれる。種々の放射性核種も放射性コンジュゲート抗体の産生に利用できる。具体例には212Bi、131I、131In、90Y及び186Reが含まれる。
【0072】
抗体と細胞障害剤のコンジュゲートは、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオール)プロピオナート(SPDP)、イミノチオラン(IT)、イミドエステル類の二官能性誘導体(例えばジメチルアジピミダートHCL)、活性エステル類(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド類(例えば、グルタルアルデヒド)、ビスアジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トリエン-2,6-ジイソシアネート)、及び二活性フッ素化合物(例えば、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を使用して作製することができる。例えば、リシン免疫毒素は、Vitettaら, Science 238:1098(1987)に記載されているようにして調製することができる。炭素-14標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレン-トリアミン五酢酸(MX-DTPA)が抗体に放射性ヌクレオチドをコンジュゲートするためのキレート剤の例である。国際公開第94/11026号を参照されたい。
【0073】
B.ベクター、宿主細胞及び組換え方法
本発明はまたここに開示した抗体変異体をコードしている単離された核酸、該核酸を含むベクター及び宿主細胞、及び抗体変異体の生産に対する組換え技術を提供する。
抗体変異体の組換え生産のために、それをコードする核酸が単離され、さらなるクローニング(DNAの増幅)又は発現のために、複製可能なベクター内に挿入される。抗体変異体をコードするDNAは直ぐに単離され、通常の手法(例えば、抗体変異体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドプローブを使用するもの)を用いて配列決定される。多くのベクターが公的に入手可能である。ベクター成分としては、一般に、これらに制限されるものではないが、次のものの一又は複数が含まれる:シグナル配列、複製開始点、一又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列である。このようなベクター成分は国際公開第00/29584号に開示されており、ここに出典明示ににより同開示内容を本明細書に包含する。
【0074】
ここに記載のベクターにDNAをクローニングあるいは発現するために適切な宿主細胞は、上述の原核生物、酵母、又は高等真核生物細胞である。この目的にとって適切な原核生物は、限定するものではないが、真正細菌、例えばグラム陰性又はグラム陽性生物体、例えばエシェリチアのような腸内菌科、例えば大腸菌、エンテロバクター、エルウィニア(Erwinia)、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えばネズミチフス菌、セラチア属、例えばセラチア・マルセスキャンス及び赤痢菌属、並びに桿菌、例えば枯草菌及びバシリ・リチェニフォルミス(licheniformis)(例えば、1989年4月12日に公開されたDD266710に開示されたバシリ・リチェニフォルミス41P)、シュードモナス属、例えば緑膿菌及びストレプトマイセス属を含む。一つの好適な大腸菌クローニング宿主は大腸菌294(ATCC31446)であるが、他の大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC31537)及び大腸菌W3110(ATCC27325)のような株も好適である。これらの例は限定するものではなく例示的なものである。
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母菌のような真核微生物は、抗体をコードするベクターの宿主をクローニング又は発現するのに適している。サッカロミセス・セレヴィシア、又は一般的なパン酵母は下等真核生物宿主微生物のなかで最も一般的に用いられる。しかしながら、多数の他の属、種及び菌株も、一般的に入手可能でここで使用でき、例えば、シゾサッカロマイセスポンベ;クルイベロマイセス宿主、例えばK.ラクティス、K.フラギリス(ATCC12424)、K.ブルガリカス(ATCC16045)、K.ウィッケラミイ(ATCC24178)、K.ワルチイ(ATCC56500)、K.ドロソフィラルム(ATCC36906)、K.サーモトレランス、及びK.マルキシアナス;ヤローウィア(EP402226);ピチアパストリス(EP183070);カンジダ;トリコデルマ・リーシア(EP244234);アカパンカビ;シュワニオマイセス、例えばシュワニオマイセスオクシデンタリス;及び糸状真菌、例えばパンカビ属、アオカビ属、トリポクラジウム、及びコウジカビ属宿主、例えば偽巣性コウジ菌及びクロカビが使用できる。
【0075】
グリコシル化抗体の発現に適切な宿主細胞は、多細胞生物から誘導される。無脊椎動物細胞の例としては植物及び昆虫細胞が含まれる。多数のバキュロウィルス株及び変異体及び対応する許容可能な昆虫宿主細胞、例えばスポドプテラ・フルギペルダ(毛虫)、アエデス・アエジプティ(蚊)、アエデス・アルボピクトゥス(蚊)、ドゥロソフィラ・メラノガスター(ショウジョウバエ)、及びボンビクス・モリが同定されている。トランスフェクションのための種々のウィルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカNPVのL-1変異体とボンビクス・モリ NPVのBm-5株が公に利用でき、そのようなウィルスは本発明においてここに記載したウィルスとして使用でき、特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞の形質転換に使用できる。綿花、コーン、ジャガイモ、大豆、ペチュニア、トマト、及びタバコのような植物細胞培養を宿主として利用することもできる。
【0076】
しかしながら、脊椎動物細胞におけるものが最も興味深く、培養(組織培養)中での脊椎動物細胞の増殖は常套的な手順になった。有用な哺乳動物宿主株化細胞の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株 (COS-7, ATCC CRL 1651);ヒト胚腎臓株(293又は懸濁培養での増殖のためにサブクローン化された293細胞、Grahamほか, J. Gen Virol., 36:59 (1977));ハムスター乳児腎細胞(BHK, ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO, Urlaub等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216 (1980));マウスのセルトリ細胞(TM4, Mather, Biol. Reprod., 23:243-251 (1980));サルの腎細胞 (CV1 ATCC CCL 70); アフリカミドリザルの腎細胞(VERO-76, ATCC CRL-1587); ヒト子宮頸癌細胞 (HELA, ATCC CCL 2); イヌ腎細胞 (MDCK, ATCC CCL 34); バッファローラット肝細胞 (BRL 3A, ATCC CRL 1442); ヒト肺細胞 (W138, ATCC CCL 75); ヒト肝細胞 (Hep G2, HB 8065); マウス乳房腫瘍細胞 (MMT 060562, ATCC CCL51);TRI細胞(Motherほか, Annals N.Y. Acad. Sci., 383:44-68 (1982));MRC5細胞;FS4細胞;及びヒト肝癌株(HepG2)である。
宿主細胞は、抗体生成のための前記発現又はクローニングベクターで形質転換し、プロモーターを誘導し、形質転換体を選択し、又は所望の配列をコードしている遺伝子を増幅するために適当に修飾された常套的栄養培地で培養する。
【0077】
本発明の抗体変異体を生成するために用いられる宿主細胞は種々の培地において培養することができる。市販培地の例としては、ハム(Ham)のF10(シグマ)、最小必須培地(「MEM」,シグマ)、RPMI-1640(シグマ)及びダルベッコの改良イーグル培地(「DMEM」,シグマ)が宿主細胞の培養に好適である。また、Ham等, Meth. Enz. 58:44 (1979), Barnes等, Anal. Biochem. 102:255 (1980), 米国特許第4767704号;同4657866号;同4927762号;4560655号;又は同5122469号;国際公開第90/03430号;国際公開第87/00195号;又は米国再発行特許第30985号に記載された任意の培地も宿主細胞に対する培地として使用できる。これらの培地はいずれも、ホルモン及び/又は他の成長因子(例えばインスリン、トランスフェリン、又は表皮成長因子)、塩類(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩)、バッファー(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えば、ゲンタマイシン(商標)薬)、微量元素(最終濃度がマイクロモル範囲で通常存在する無機化合物として定義される)及びグルコース又は同等のエネルギー源を必要に応じて補充することができる。任意の他の必要な補充物質もまた当業者に知られている適当な濃度で含むことができる。培養条件、例えば温度、pH等々は、発現のために選ばれた宿主細胞について以前から用いられているものであり、当業者には明らかであろう。
【0078】
組換え技術を用いる場合、抗体変異体は細胞内、細胞膜周辺腔に生成され、又は培地内に直接分泌される。抗体変異体は細胞内に生成された場合、第1の工程として、粒子状の細片、宿主細胞又は溶解された断片のいずれかが、例えば遠心分離又は限外濾過によって除去される。抗体変異体が培地に分泌された場合、そのような発現系からの上清は、一般的には第1に市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAmicon又はMillipore Pelliconの限外濾過ユニットを用いて濃縮する。PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を上記工程の何れかに含めてタンパク質分解を阻害してもよく、抗生物質を含めて外来性の汚染物の成長を防止してもよい。
細胞から調製した抗体組成物は、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及びアフィニティクロマトグラフィを用いて精製でき、ここで、アフィニティクロマトグラフィが好ましい精製技術である。アフィニティリガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体変異体に存在する免疫グロブリンFc領域の種及びアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖に基づく抗体の精製に用いることができる(Lindmark等, J. immunol. Meth. 62: 1-13 (1983))。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプ及びヒトγ3に推奨されている(Guss等, EMBO J. 5: 15671575 (1986))。アフィニティリガンドが結合されるマトリクスはアガロースであることが最も多いが、他の材料も使用可能である。孔制御ガラスやポリ(スチレンジビニル)ベンゼン等の機械的に安定なマトリクスは、アガロースで達成できるものより早い流速及び短い処理時間を可能にする。抗体変異体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX(商品名)樹脂(J.T. Baker, Phillipsburg, NJ)が精製に有用である。イオン交換膜での分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ上のクロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換樹脂(ポリアスパラギン酸カラム)上でのヘパリンSEPHAROSE(商品名)クロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS−PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿も、回収される抗体変異体に応じて利用可能である。
【0079】
C.製薬製剤
抗体変異体の治療用製剤は、所定の純度を持つ抗体変異体と、場合によっては製薬的に許容される担体、賦形剤又は安定化剤を混合することにより(Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. 編, (1980))、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で調製されて保存される。許容される担体、賦形剤又は安定化剤は、用いられる用量及び濃度でレシピエントに非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸等のバッファー;アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ヘキサメトニウムクロリド、ベンズアルコニウムクロリド、ベンズエトニウムクロリド、フェノール、ブチル又はベンジルアルコール、メチル又はプロピルパラベン等のアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、及びm-クレゾール等);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート化剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール等の糖;ナトリウム等の塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);及び/又はTWEEN(商品名)、PLURONICS(商品名)又はポリエチレングリコール(PEG)のような非イオン性界面活性剤を含む。
ここでの製剤は、治療される特定の徴候のために必要ならば1以上の活性化合物も含んでよく、好ましくは互いに悪影響を与えない相補的活性を持つものである。例えば、免疫抑制剤を提供することが望ましい場合がある。そのような分子は、意図する目的のために有効な量で組み合わされて存在する。
また活性成分は、各々例えばコアセルベーション技術又は界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えばヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリ(メタクリル酸メチル)マイクロカプセル、コロイド状ドラッグデリバリー系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルション中に捕捉させてもよい。このような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. 編, (1980)に開示されている。
インビボ投与に使用される製剤は無菌でなければならない。これは、滅菌濾過膜を通して濾過することにより容易に達成される。
徐放性製剤を調製してもよい。徐放性製剤の好ましい例は、抗体変異体を含む疎水性固体ポリマーの半透性マトリクスを含み、そのマトリクスは成形物、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態である。徐放性マトリクスの例は、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)又はポリ(ビニルアルコール)、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号))、L-グルタミン酸及びエチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOT(商品名)(分解性乳酸グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドからなる注射可能なミクロスフィア)、及びポリ-D-(−)-3-ヒドロキシブチル酸を含む。エチレン-酢酸ビニル及び乳酸-グリコール酸等のポリマーは、分子を100日以上かけて放出することを可能にするが、ある種のヒドロゲルはタンパク質をより短い時間で放出する。カプセル化された抗体が体内に長時間止まると、37℃の水分に暴露された結果として変性又は凝集し、生物学的活性及び免疫原性における可能な変化を喪失させる。合理的な戦略は、含まれるメカニズムに応じて安定化のために考案できる。例えば、凝集メカニズムがチオ−ジスルフィド交換を通した分子間S-S結合であることが見いだされた場合、安定化はスルフヒドリル残基の修飾、酸性溶液からの凍結乾燥、水分含有量の制御、適当な添加剤の使用、及び特定のポリマーマトリクス組成物の開発によって達成される。
【0080】
D.抗体変異体の非治療的用途
本発明の抗体変異体は、アフィニティ精製剤として使用することができる。このプロセスでは、抗体変異体は、この分野で良く知られた方法を用いてセファデックス樹脂又は濾紙などの固相上に固定化される。固定化された抗体変異体を精製すべき抗原を含有する試料と接触させ、その後支持体を適当な溶媒で洗浄し、その溶媒は、固定化抗体変異体に結合した精製すべき抗原を除く試料中の実質的に全ての物質を除去する。最後に、支持体をグリシンバッファー、pH5.0等の他の適当な溶媒で洗浄して、抗原を抗体変異体から放出させる。
また抗体変異体は、例えば、対象とする抗原の特定細胞、組織、又は血清における発現を検出するための診断アッセイにおいても有用である。
診断的応用においては、抗体変異体は典型的に検出可能な部分で標識される。多数の標識は利用可能であり、それらは一般的に以下の範疇にグループ分けされる:
(a)放射性同位体、例えば、35S、14C、125I、3H及び131I等。抗体変異体は、例えばCurrent Protocols in Immunology, Volumes 1 and 2, Coligen等, 編, Wiley-Interscience, New York, New York, Pubs. (1991)に記載された技術を用いて放射性同位体で標識され、放射活性はシンチレーションカウンティングにより測定できる。
(b)蛍光標識、例えば希土類キレート(ユーロピウムキレート類)又はフルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、リサミン(Lissamine)、フィコエリトリン及びテキサスレッド等が使用できる。蛍光標識は、例えば上掲のCurrent Protocols in Immunologyに開示された技術を用いて抗体変異体に抱合させることができる。蛍光は蛍光計によって定量可能である。
(c)種々の酵素−基質標識が利用でき、米国特許第4275149号は、それらの幾つかの概説を提供している。酵素は一般に、種々の技術を用いて測定可能な色素原基質の化学変換を触媒する。例えば、酵素は基質における色変化を触媒視、それは分光学的に測定可能である。あるいは、酵素は基質の蛍光又は化学発光を変化させることもある。蛍光変化を定量化する技術は上述した。化学発光基質は化学反応によって電子的に励起され、次いで(例えば化学発光計を用いて)測定可能な光を放出する、または蛍光受容体にエネルギーを供与する。酵素標識の例は、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ;米国特許第4737456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、リンゴ酸塩デヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRPO)等のペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リソザイム、糖類オキシダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ)、ヘテロ環オキシダーゼ(ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ等)、ラクトペルオキシダーゼ、ミクロペルオキシダーゼ等を含む。酵素を抗体に抱合させる技術は、O'Sullivan等, Methods for Preparation of Enzyme-Antibody Conjugates for use in Enzyme Immunoassay, in Methods in Enzym. (編J. Langone & H. Van Vunakis)Academic press, New York, 73: 147-166 (1981)に記載されている。
【0081】
酵素−基質の組み合わせは、例えば以下を含む:
(i)基質としての過酸化水素と併用するセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRPO)、ここで、過酸化水素が染料前駆物質(例えば、オルトフェニレンジアミン(OPD)又は3,3',5,5'-テトラメチルベンジジンヒドロクロリド(TMB))を酸化する;
(ii)色素原基質としてのパラ-ニトロフェニルホスフェートと併用するアルカリホスファターゼ(AP);
(iii)色素原基質(例えば、p-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシダーゼ)又は蛍光原基質4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトシダーゼと併用するβ-D-ガラクトシダーゼ(β-D-Gal)。
当業者には、多くの他の酵素−基質の組み合わせが利用可能である。これらの一般的な概説は、米国特許第4275149号及び同第4318980号を参照。
標識は抗体変異体に間接的に抱合されるときもある。当業者であれば、これを達成するための種々の技術が分かるであろう。例えば、抗体変異体にビオチンを抱合し、上記3つの範疇の標識の任意のものにアビジンを抱合する、又はその逆が可能である。ビオチンはアビジンに選択的に結合し、よってこの間接的な方式で抗体変異体に標識を抱合させることができる。あるいは、抗体変異体での標識の間接的抱合を達成するために、抗体変異体に小さなハプテン(例えばジゴキシン)を抱合させ、上記した異なる型の標識を抗ハプテン抗体変異体(例えば抗ジゴキシン抗体)に抱合させる。よって抗体変異体での標識の間接的抱合が達成できる。
本発明の他の実施態様では、抗体変異体を標識する必要はなく、その存在を、抗体変異体に結合する標識抗体を用いて検出することができる。
本発明の抗体変異体は任意の公知のアッセイ方法、例えば競合結合アッセイ、直接及び間接サンドウィッチアッセイ、及び免疫沈降アッセイ等で用いられうる。Zola, Monoclonal Antibodies: A Manual of Techniques, pp. 147-158 (CRC Press, Inc. 1987)。
【0082】
競合的結合アッセイは、限定された量の抗体変異体との結合について被験サンプル分析物と競合する標識された標準物質の能力に依存する。被験サンプル内の抗原の量は抗体に結合する標準物質の量と反比例する。結合する標準物質の量を測定し易くするため、一般的に競合前又は競合後に抗体を不溶化させて、抗体に結合しなかった標準物質及び分析物から、抗体に結合した標準物質及び分析物を簡便に分離できるようにする。
サンドイッチアッセイでは、検出するべきタンパク質の異なる免疫原性部分又はエピトープにそれぞれ結合する二つの抗体を用いる。サンドイッチアッセイでは、被試験分析物を固体支持体に固定される第一抗体と結合させ、その後分析物に第二抗体を結合させ、不溶性の三部複合体を形成する。例えば、米国特許第4376110号を参照。第二抗体は、それ自体を検出可能部分で標識する(直接サンドイッチアッセイ)か、検出可能部分で標識される抗イムノグロブリン抗体を使用して測定する(間接サンドイッチアッセイ)。例えば、サンドイッチアッセイの一種はELISAアッセイであり、この場合には検出可能部分は酵素である。
免疫組織化学では、例えば腫瘍標本は生又は冷凍であるか、又はパラフィンに埋め込まれたり、ホルマリンのようなもので固定され得る。
また抗体変異体は、インビボ診断アッセイでも使用できる。一般的に、抗体変異体は放射性核種(111In、99Tc、14C、131I、125I、3H、32P又は35P等)で標識され、抗原又はそれを発現する細胞が免疫シンチオグラフィーによって局在化できる。
【0083】
E.診断用キット
便宜上、本発明の抗体変異体はキット、すなわち診断アッセイを実施するための使用説明書と、予め定められた量の試薬を組合せて包装したもので提供されうる。抗体変異体が酵素で標識される場合は、キットは基質と酵素に必要な補因子を含有する(例えば、検出可能な発色団又は蛍光団を提供する基質先駆物質)。加えて、他の添加剤、例えば安定剤、バッファー(例えばブロックバッファー又は溶菌バッファー)等も含まれる。種々の試薬の相対量は広範囲で変えることができ、アッセイの感度を実質的に最適にするような試薬溶液中の濃度が提供される。特に、試薬は、通常は凍結乾燥され、溶解時に適切な濃度を有する試薬溶液を提供する賦形剤を含む乾燥パウダーとして提供される。
【0084】
F.抗体変異体のインビボ用途
治療への応用としては、本発明の抗体変異体は、哺乳動物、好ましくはヒトに、製薬的に許容できる前記したような投与形態、例えば、ボーラスとして又は所定時間に渡る連続注入によるヒト静脈内投与、筋肉内、腹膜内、脳脊髄内、皮下、関節間、滑膜内、鞘内、経口、局所、又は吸入経路などにより、投与される。抗体はまた、腫瘍内、腫瘍周囲、又は傷内、傷周囲経路などによって、局部並びに全身的治療効果を生じるように、適切に投与される。腹膜内経路は、例えば卵巣腫瘍の治療等に、特に有用であることが期待される。加えて、抗体変異体は特に減少させた抗体変異体用量で、パルス注入によって適切に投与される。好ましくは、投与は注射によって、最も好ましくは、部分的には投与が簡潔か慢性的かに応じて、静脈内又は皮下注射によってなされる。
疾患の予防又は治療のために、抗体変異体の適切な用量は、治療すべき疾患の型、疾患の重篤さ及び経路、抗体変異体投与が予防的か治療目的か、従前の治療、患者の臨床履歴及び抗体変異体に対する反応、及び担当医師の裁量に依存する。抗体変異体は、一時に又は一連の治療を通じて適切に患者に投与される。
【0085】
ここでの例は抗VEGF抗体に関係する。抗VEGF抗体は様々な新生物及び非新生物の病気や疾患の治療に有用である。治療できる新生物及び関係病状は乳癌、肺癌、胃癌、食道癌、結腸直腸癌、肝臓癌、卵巣癌、テコーマ、男性化腫瘍、頸癌、子宮内膜癌、子宮内膜増殖症、子宮内膜症、線維内腫、絨毛癌、頭部及び頸部の癌、鼻咽腔癌、喉頭癌、肝芽腫、カポジ肉腫、黒色腫、皮膚癌、血管腫、海綿状血管腫、血管芽細胞腫、膵臓癌、網膜芽腫、星状細胞腫、膠芽細胞腫、鞘細胞腫、乏突起膠腫、髄芽細胞腫、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫、尿路癌、甲状腺癌、ウィルム腫瘍、腎細胞癌、前立腺癌、母斑症に関する異常血管増殖、(脳腫瘍に関係するような)水腫、メーグス症候群を含む。
処置すべき非新生物の症状は、リウマチ様関節炎、乾癬、アテローム性動脈硬化、未熟網膜症を含む糖尿病やその他の増殖網膜症、水晶体後線維増殖症、血管新生緑内障、老人性黄斑変性、(グレーブス症を含む)甲状腺過形成、角膜やその他の組織の移植、慢性炎症、肺炎、ネフローゼ症候群、子癇前症、腹水症、(心膜症のような)心外膜液、胸水を含む。
加齢性黄斑変性(AMD)は老齢者における深刻な視力喪失の主たる原因である。AMDの滲出形態は脈絡膜新生血管症や網膜色素上皮細胞剥離が特徴的である。脈絡膜新生血管症は前兆において急激な悪化を伴うので、本発明のVEGF抗体はAMDの重症度の軽減に特に有用であることが期待される。
【0086】
疾患の重篤さに応じて、約1μg/kgから15mg/kg(例えば、0.1−20mg/kg)の抗体変異体が、患者への候補となる初期投与であり、例えば一又は複数の別々の投与、あるいは連続注入のいずれかによる。典型的な1日の用量は、約1μg/kgから100mg/kg以上の範囲であるが、上記の要因に依存する。数日間以上に渡る繰り返し投与については、状態に応じて、望まれる疾患状態の抑制が起こるまで治療を続ける。しかしながら、他の用量計画も有用である場合もある。この療法の進行は、従来の技術及びアッセイで容易に監視できる。抗体変異体の会合速度に向上が見られれば、抗体変異体の投与量を(親抗体と比較して)減らしてもよい。
抗体変異体組成物が処方され、用量決定(dose)され、良好な医学的実務に適合する方式で投与される。ここで考慮すべき因子は、治療される特定の疾患、治療される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床的状態、疾患の原因、薬剤の輸送部位、投与方法、投与計画、及び医学実務者に知られた他の因子を含む。投与すべき抗体変異体の「治療的有効量」は、それらを考慮して決定され、疾患又は障害を予防、改善、又は治療するのに必要な最小量である。抗体変異体は、問題とする疾患の予防又は治療に現在使用されている一又は複数の他の薬剤とともに製剤する必要はないが、場合によってはそのようにされる。そのような他の薬剤の有効量は、製剤中に存在する抗体変異体の量、疾患又は治療の型、及び上述した他の因子に依存する。これらは、一般的にはこれまでに使用されたのと同じ用量かつ投与経路で、あるいはこれまでに使用された用量の1から99%で用いられる。
【0087】
G. 製造品
本発明の他の実施態様では、前述したような疾患の治療に有用な製品を含む製造品が提供される。製造品は容器とラベルを含む。好適な容器には、例えば、ビン、バイアル、シリンジ及び試験管が含まれる。容器はガラス又はプラスチックのような様々な材料で形成することができる。容器は病状を治療するのに効果的な組成物を収容し、殺菌されたアクセスポート(例えば、容器は皮下注射針により穿孔可能な栓を持つバイアル又は静脈注射用溶液袋でありうる)を持ちうる。組成物中の活性剤は抗体変異体である。容器のラベル、または容器に伴うラベルには、組成物が選択される症状を処置するのに使用されることが示されている。製造物は、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー液及びデキストロース溶液のような製薬的に許容される緩衝液を含む第2の容器を更に含みうる。更に商業的に又は利用者の立場から好ましい他の材料(他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、使用説明書が備わったパッケージ挿入物)を含み得る。
【0088】
H.抗原会合速度アッセイ
本出願は、また、抗体(例えば上述したような抗体変異)の抗原会合速度を測定するのに使用できるアッセイ法も開示する。本方法は、会合速度が遅いため、抗体−抗原複合体の形成を経時的に定量化できる抗体(抗原に対する結合定数が、例えば約105M−1秒−1より遅いか、又は106M−1秒−1より遅い抗体)に特に適している。抗原会合定数の遅い抗体の一例は、VEGFに結合する抗VEGF抗体であり、本明細書に記載の様々な抗VEGF抗体により実証される。
ここでのアッセイ法は、(1)抗体と抗原を溶液中で組み合わせる(混合する)工程と、次いで(2)経時的に抗体−抗原複合体の生成を測定する工程とを含む。つまり、複合体生成の測定は抗体と抗原を組み合わせた後に行う。経時的な複合体の生成は、蛍光度の測定又は複合体の吸収の測定といった様々な方法の使用、あるいはNMRの使用により測定することができる。しかしながら、好ましい実施態様によれば、本方法の第二の工程は、抗体−抗原複合体の蛍光発光強度を経時的に測定することを含む。これは、抗体又は抗原が、抗原−抗体の結合界面にトリプトファン残基を有する場合、トリプトファン残基の蛍光発光強度(トリプトファン残基が結合界面上に埋没している場合に変化する)を測定することができるので、達成可能である。蛍光発光強度は、約280−310nm(例えば295nm)の励起波長を使用し、約330−360nm(例えば約340nm)の波長における発光を検出することにより測定可能である。
以下の実施例は、本発明の実施の単なる例示であり、限定的な意味は有していない。本明細書で引用する全ての特許及び科学文献は、ここに出典明示により本明細書に包含する。
【0089】
実施例1
本実施例では、標的部位のリストを実験的に取り扱い可能な数まで減らす一連の基準を用いて潜在的オンレート増幅部位を同定することにより、大がかりな演算を実施することなく、静電ステアリングの原理を適用して、抗体のその抗原に対する結合のオンレートを上昇させることができることを実証する。特定の実施例は、抗VEGF Y0101抗体Fab断片の修飾である(図1A−B)。同定された標的部位に突然変異を生じているFab Y0101は、蛍光に基づくアッセイにより特徴付けられ、マグニチュードのオーダーに近い会合速度の上昇を示した。更に、Fab−VEGF複合体について観察された会合速度は、相互作用のDebye−Huckelエネルギーの計算から予測されたものと何ら相関関係を示さなかった。より速いオンレートを有するFab Y0101の変異体は、その親和性が高いことから、VEGFのより有力なアンタゴニストと予測されるだけでなく、結合の速さによりさらに効力が大きいとも予測される。後者のこのような重要性は、Fab Y0101−VEGF複合体の会合及び解離速度が典型的なタンパク質−タンパク質相互作用と比較してマグニチュードのオーダーの差異を生じるほど遅いため、判らない(Chen等 Journal of Molecular Biology 293(4):865-81 (1999); Gabdoulline等 Journal of Molecular Biology 306(5):1139-55 (2001))。本明細書に記載したON−RAMPSの同定のための基準は、その抗原との会合及び全体的結合親和性を向上させるための抗体断片の再設計を導くのに十分である。
【0090】
材料及び方法
オンレート増幅部位(On−RAMPS)の同定
抗体断片(Fab)には約445の残基が存在するため、リガンドとのその会合速度を向上させる1つの工程は、電荷相補性を上昇させるように変異させたときに2つのタンパク質間の静電的相互作用エネルギーを有意に変更する残基の同定を含む。これらの「オンレート増幅部位」(On−RAMPS)を同定するため、次の基準を適用した:
1)埋没残基の変異はFabを不安定化しうるので、残基の側鎖表面積の少なくとも3分の1が溶媒に露出している。
2)静電引力が距離の関数として減衰するので、残基は結合状態でVEGFの少なくとも16Å以内である。
3)直接接触残基の変異は結合複合体を不安定化しうるので、残基は結合状態でVEGFに直接接触しなかった。
4)患者に免疫原性反応を誘発する可能性が低い徴候があるので、相補性決定領域(CDR)内に存在した残基の方をそうでない残基より優先的に使用した。
5)Fabと抗原との間の電荷相補性を増大させることが可能な残基のみを考慮した。例えば、Y0101のVL−D28を変異させてその電荷を中和する(D28N)か又は逆転(D28K)し、負の電荷を有する抗原の相補性を向上させることができるが、一方、残基VH−K64はその正の電荷が増大するように変異させることはできない。
【0091】
突然変異生成、タンパク質の発現及び精製
VEGFの短いアイソフォーム(8−109)を過去に記載されているようにして作成した(Christinger等 Proteins 26(3):353-7 (1996))。Fabの突然変異による変異体を構築及び精製するための方法はこれまでに開示されている(Muller等 Structure 6(9):1153-67 (1998))。簡単に説明すると、Kunkelにより開発された方法を使用してオリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発により点突然変異を行わせた(Kunkel, T.A. Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA 82(2):488-92 (1985))。Fabを、非サプレッサー大腸菌細胞系34B8内での誘導により発現させ(Baca等 Journal of Biological Chemistry 272(16):10678-84 (1997))、回収した細胞に浸透圧度ショックをかけた後、タンパク質G樹脂(Amersham)を用いた親和性クロマトグラフィーにより精製した。典型的な収率は、成長1リットルにつきFab2ナノモルであった。
【0092】
会合速度アッセイ
ここに記載した実験では、25mMのTris、pH7.2中に約10nMのFabを含む37℃に保たれた攪拌されたキュベットにVEGFを加えてから、SLM−アミンコ社製の8000シリーズの分光光度計(THERMOSPECTRONIC(登録商標))を使用して(蛍光発光強度(λexcitation=295nm;λemission=340nm、16nmバンドパス)を測定した。
【0093】
解離速度アッセイ
上述したように(Muller等 Structure 6(9):1153-67 (1998))、BIACORE-2000(登録商標)機器(BIAcore, Inc.)を用いて表面プラズモ共鳴により解離速度を測定した。共鳴−応答単位約10におけるB1チップへのアミンカップリングによりVEGFを固定化した。Fab結合を、1μM、500nM、250nM、125nM、62.5nM及び31.3nMにおいて測定した。解離の計算においては1対1の結合モデルを仮定した。全ての実験は、Tween−20を0.05%、NaN3を0.01%含み、流速20μL分−1、pH7.2の、37℃のリン酸緩衝食塩水中において行った。
【0094】
結果
会合速度アッセイの開発
表面プラズモ共鳴技術は親和性の測定に適していることが実証されているが、特定の結合相互作用を持つ変異体間のわずかな差異は、流動力学の複雑性(Fivash等 Current Opinion in Biotechnology 9(1):97-101 (1998))及び非特異的アミンカップリング(Kortt等 Analytical Biochemistry 253(1):103-11 (1997))から、単純に、適切に畳み込まれた活性のあるタンパク質の濃度を正確に測定することができないことにわたる、複数の原因により、認知されない可能性がある。
ここで行われた研究は抗VEGF Fabの変異体間の会合速度の差異に関しているので、Fab変異体の濃度に関係なく、溶液中での相互作用を表すオンレートの微妙な差異を検出するのに十分な感度を有するアッセイを開発した。
【0095】
トリプトファン残基の蛍光特性はそれらの局所的環境に感受性である(Lakowicz, J. R. (1999) Principles of fluorescence spectroscopy. 2nd edit, Kluwer Academic Press, New York, N. Y.)。本研究で使用するVEGF及び抗VEGF Fabの共通構造によって明らかであるように(Muller等 Structure 6(9):1153-67 (1998))、Fabには、結合状態でVEGFとの直接接触を形成し、且つ非結合状態から結合状態に移行すると変化すると思われる蛍光特性を有するトリプトファンが3つ含まれる。VEGFには、トリプトファンが含まれていないが、Fabと結合界面を形成し、励起された場合に蛍光スペクトルに寄与する可能性のあるそのような2つのチロシンと1つのフェニルアラニンを含む(Muller等 Structure 6(9):1153-67 (1998))。このようなエラーの潜在的発生源を排除するため、波長295nmの励起を使用して、蛍光アッセイを実施する。この波長は、チロシン及びフェニルアラニンの励起スペクトルとの重複が最小である(Lakowicz, J. R. Princeples of Fluorescence spectroscopy. 2nd edit, Kluwer Academic Press, New York, N. Y. (1999))。
Fab−VEGF複合体の蛍光強度は、成分の個々の蛍光強度の合計よりも大きい(図2)。蛍光強度の上昇率は単一の指数関数曲線に一致し得る(図3)。VEGF濃度の関数として観察された速度をプロットすることにより、擬似一次解析が可能であり、傾斜は反応のk1、y切片はk−1である(図4)(Johnson, K. A. Transient-state kinetic analysis of enzyme reaction pathways. In The Enzymes, Vol. 20:pp.1-61. Academic Press, Inc. (1992))。
【0096】
On−RAMPSの同定
上述の基準を適用することにより、突然変異誘発の可能性のある部位の数は445残基から22に減少した(表1)。溶媒への露出という第一の基準により、その数は173に減少した。VEGFが16Å以内にあるという第二の基準により、その数は47に減少した。VEGFに直接接触していないという第三の基準により、その数は31に減少した。残基がCDR内に存在するという第四の基準により、その数は23に減少した。最後に、負の電荷を有するVEGFにより相補性を増大させることはできないので、最後の基準により更に1つの残基(VH−K64)を排除した。これら残基のそれぞれの変異に予測されるオンレートを、Schreiber等 (2000) Nat. Struct. Biol. 7:537-41に従って計算した。
表1 Fab Y0101の潜在的On−RAMPS
【0097】
Kabatシステムに従って残基に番号を付した(Kabat等 Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Edition., National Institute of Health, Bethesda, MD. (1991))。%SASAを1.4Åのプローブ半径を使用して計算した。
【0098】
観察された会合速度
VEGF上の正味の形式的電荷は−10である(N末端、リジン、及びアルギニンには+1を割り当て、C末端、アスパラギン酸及びグルタミン酸には−1を割り当てることにより計算)ので、結合界面の周縁においてFab(野生型=+2)の正の正味の電荷を増大させるように突然変異を生じさせた。これら残基の突然変異により、会合速度がY0101の2倍まで増大した(表2)。一方、溶媒に露出しているがVEGFが16Å以内でない残基の突然変異(表2、不適格)は殆ど変化を示さず、よってON−RAMPS基準の有用性が示された。抗VEGF Fabの会合速度の更なる増加が複数残基を変異させることにより達成でき(表3)、最速の結合変異体「34−TKKT」(VH−(T28D、S100aR)+VL−(S26T、Q27K、D28K、S30T))はY0101の6倍高い会合速度を有している。逆に、電荷の反発を増大させる突然変異は会合速度を減少させた(表3:変異体VL−S26E、Q27E、D28E、S30E及び変異体VL−T51E、S52E、S53E、L54E)。
表2:単一突然変異の結合定数
【0099】
Kabatシステムに従って残基に番号を付した(Kabat等 Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Edition., National Institute of Health, Bethesda, MD. (1991))。k1は蛍光度に基づくアッセイにより決定した(±3回の実験の標準偏差、野生型のみ)。k−1は表面プラズモ共鳴により決定した(±12回の実験の標準偏差、野生型のみ)。k1及びk−1(NaCl 0M)の実験を、37℃のTris 25mM、pH7.2で行った。k−1(NaCl 0.15M)の実験を、25℃のTris 25mM、NaCl150mMで行った。KdをNaCl 0Mのデータから計算した。「*」で記した残基はON−RAMPS基準に合致しないものである。LEはFab限定分析の低発現;BGは、SPRデータのコントロールフロー細胞限定分析でのバックグラウンド結合である。
表3:複数突然変異の結合定数
【0100】
Kabatシステムに従って残基に番号を付した(Kabat等 Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Edition., National Institute of Health, Bethesda, MD. (1991))。k1は蛍光度に基づくアッセイにより決定した(±3回の実験の標準偏差)。k−1は表面プラズモ共鳴により決定した(±12回の実験の標準偏差)。k1及びk−1(NaCl 0M)の実験を、37℃のTris 25mM、pH7.2で行った。k−1(NaCl 0.15M)の実験を、25℃のTris 25mM、NaCl150mMで行った。KdをNaCl 0Mのデータから計算した。34−TKKTは、突然変異のVH−(T28、S100aR)+VL−(S26T、Q27K、D28K、S30T)である。LEはFab限定分析の低発現;BGは、SPRデータのコントロールフロー細胞限定分析でのバックグラウンド結合である。
【0101】
観察された会合速度と計算された会合速度の比較
静電的相互作用のDebye−Huckelエネルギーの計算値は、会合速度の強力で正確な予測値であることが示唆されている(Selzer, T.及びSchreiber, G. Journal of Molecular Biology 287(2):409-19 (1999))。Selzer及びSchreiberが使用したプログラムはインターネット上のウェブサイトを通じて公に使用可能である(http://www.weizmann.ac.il/home/bcges/PARE.html)。このプログラムを使用し、そのガイドラインに従って、本研究において作成された様々な変異体の会合速度を計算し、実験的に決定された値と比較した。kcalcに対するkobsはそれほど相関を示さず、R値は0.46であった(図5)。
【0102】
会合速度の塩依存性
変異体間の会合速度の差異が結合界面の一般的な構造の再配列よりもFabとVEGFの間の静電的相互作用に起因し得るということを説明するため、塩分濃度を変化させて野生型Fab Y0101と34−TKKTの会合速度を測定した(図7)。NaCl 150mM中における最速結合変異体とY0101の間の会合速度の差異は2倍未満であった。
重要なことは、複合体(Y0101=0.28kcal mol−1、34−TKKT=−1.07kcal mol−1)の構造から計算したFabとVEGF間の相互作用の静電エネルギーが図7の傾きから決定された値を有し、(大きさは異なるが)その符号は正しいということである。(Y0101=0.86kcal mol−1、34−TKKT=−4.0kcal mol−1)。
【0103】
高速オンレート変異体とその他親和成熟変異体の組み合わせ
上述の高速オンレート変異体を他の同定された変異体と組み合わせ、結合親和性を更に増大させることができる。例えば、最速結合変異体である「34−TKKT」をFab−12、VNERK又はY0317等の抗VEGF変異体と組み合わせることができる。それ以外の配列変更を行って、結合親和性、並びに分子のその他物理的又は化学的特性をさらに最適化することができる。図6A及び6Bに3つのそのように「組み合わせた」変異体のアラインメントを示す。図中、「34−TKKT」の置換は、VNERK挿入、又はH97Y置換、又はVNERK挿入とH97Y置換の双方によりなされている。得られた変異体のVEGFに対する結合親和性は増大しており、よってVEGFに対する治療的アンタゴニストとして使用された場合の効果が向上していると思われる。
【0104】
実施例2
抗VEGF抗体の観点から上述した、ON−RAMPSを同定しより速いオンレート変異体を生成させる原理は同様に他の抗体変異体にも適用することができ、そのような他の抗体変異体には、限定されないが、抗TF及び抗HER2抗体変異体が含まれる。
第一の工程として、親抗TF抗体D3H44(図8;軽鎖及び重鎖可変ドメインについてそれぞれ配列番号11及び12)及び親抗HER2抗体4D5(図9;軽鎖及び重鎖可変ドメインについてそれぞれ配列番号13及び14)を使用して、実施例1に記載したものと同様の基準及び計算により想定されるON−RAMPSを同定した。表4及び表5に抗TFのD3H44及び抗HER2の4D5それぞれの想定されるON−RAMPSとして残基の第1群、並びにこれら残基の各々の単一突然変異とその野生型に対するオンレート計算値を列挙する。オンレートの計算値は、Schreiber等 (2000) Nat. Struct. Biol. 7:537-41の方法に従って計算した。付加的なON−RAMPSを同様の方法と計算を使用して更にフィルタリングし、突然変異させ、同定した。
【0105】
表4:D3H44の想定されるON−RAMPSと単一突然変異
Kabatシステムに従って残基に番号を付した(Kabat等 Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Edition., National Institute of Health, Bethesda, MD. (1991))。
表5:4D5の想定されるON−RAMPSと単一突然変異
Kabatシステムに従って残基に番号を付した(Kabat等 Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Edition., National Institute of Health, Bethesda, MD. (1991))。
【0106】
ON−RAMPSの同定及びそれに従う単一又は多重突然変異の設計に続き、得られた変異体の会合速度、解離速度及び全体の結合親和性を、実施例1に記載の方法に従って実測しまた計算することができる。
しかしながら、特に抗TF変異体については、TFと抗TFの会合があまりにも急速に起こることにより攪拌キュベット中での観察が不可能であるので、ストップトフロー分光計(Aviv)を用いて蛍光発光強度(λexcitation=280nm、バンドパス2nm;λemission>320nm)を測定した。pH7.0、25℃のHEPES10mM中の抗TF溶液100nMのうち50μLを0nM、100nM、200nM、300nM、400nM、500nM、600nM、700nM、800nM、又は900nMのTFと素早く混合し、2秒間蛍光度の変化を観察した。蛍光強度の変化速度は単一の指数関数曲線に一致した。観察された速度をTF濃度の関数としてプロットすることにより会合速度を決定した。その傾斜が会合速度(M−1秒−1)である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1A】親抗体Y0101Fabの軽鎖アミノ酸配列(配列番号1);変更された軽鎖「S26T−Q27K−D28K−S30K」配列(配列番号3);及び変更された軽鎖「S26T−Q27K−D28K−S30T」配列(配列番号4)のアラインメントを示す。採番はKabat番号付けシステムによらず連続的に行った。
【図1B】親抗体Y0101Fabの重鎖アミノ酸配列(配列番号2);及び変更された重鎖「T28D−S100aR」配列(配列番号5)のアラインメントを示す。採番はKabat番号付けシステムによらず連続的に行った。従って、重鎖変異体のS100aR変異体(Kabat番号付けシステム)は変異体S105R(連続的番号付けシステム)である。
【図2】蛍光スペクトルを表す。〜10nMのFab Y0101の発光スペクトル(破線)、〜120nMのVEGFの発光スペクトル(薄線)、及び10nMのFabと120nMのVEGFの混合物の発光スペクトル(実線)が示されている。FabとVEGFの個々のスペクトルの合計は薄い破線で示す。
【図3】生の動力学的データを示す。VEGFの濃度(グレーから黒になる程、濃度が上昇)を変化させて複合体の形成速度(Δ蛍光度)を経時的に測定し、一重指数関数に一致させて測定速度(kobs)を決定することができた。
【図4】k1の計算に関するグラフである。使用したVEGF濃度に対する複合体の生成速度の測定値(kobs)をグラフ化することにより、擬一次解析が可能となり、グラフによって与えられる傾斜によりk1を決定した。ここに示すデータは重鎖変異体T28Eのものである。
【図5】Fab Y0101変異体のkobsとkcalcの比較を明らかにする。
【図6A】抗VEGF変異体「34−TKKT+H97Y+VNERK」の軽鎖配列(配列番号4);「34−TKKT+H97Y」の軽鎖配列(配列番号4);及び「34−TKKT+VNERK」の軽鎖配列(配列番号4)のアラインメントを示す。比較のために親抗体Y0101の配列を示した。太字及び下線で示す残基は置換を示す。
【図6B】抗VEGF変異体「34−TKKT+H97Y+VNERK」の重鎖配列(配列番号8);「34−TKKT+H97Y」の重鎖配列(配列番号9);及び「34−TKKT+VNERK」の重鎖配列(配列番号10)のアラインメントを示す。比較のために親抗体Y0101の配列を示した。太字及び下線で示す残基は置換を示す。
【図7】会合速度のイオン強度に対する依存性を示す。塩分濃度を変化させて、Y0101の会合速度(黒丸)と高速結合変異体「34−TKKT」((VH−(T28D、S100aR)+VL−(S26T、Q27K、D28K、S30T))の会合速度(白四角)を測定した。傾斜(−U/RT)はそれぞれ−1.4及び6.5であり、Y0101に対して+0.86kcal mol−1のU、最速結合変異体に対して−4.0kcal mol−1に相当する。
【図8】ヒト化抗TF抗体D3H44の軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインのアミノ酸配列を示す。想定されるOn−RAMPSとして同定された残基を太字及び下線で示す。
【図9】ヒト化抗HER2抗体4D5の軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインのアミノ酸配列を示す。想定されるOn−RAMPSとして同定された残基を太字及び下線で示す。
【発明の開示】
【0001】
(発明の背景)
(発明の分野)
ここに開示する本発明は、抗原会合速度(抗原結合速度)の大きい抗体変異体に関する。本抗体変異体は、その少なくとも1つの高頻度可変領域の内部又は近傍に、一又は複数の変更(変化)を有し、この変更により抗体変異体とそれが結合する抗原の間の電荷相補性が増大する。
【0002】
(関連技術の説明)
抗体はタンパク質であり、特定の抗原に対する結合特異性を持つ。未変性の抗体はふつう約150000ダルトンのヘテロ4量体の糖タンパクであり、2つの同一の軽(L)鎖と2つの同一の重(H)鎖から構成される。それぞれの軽鎖は1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に結合されるが、ジスルフィド結合の数は異なる免疫グロブリンのアイソタイプの重鎖によって変化する。それぞれの重鎖と軽鎖はまた規則的な間隔を持った鎖内ジスルフィド結合を持つ。それぞれの重鎖は一端に複数の定常ドメインを伴った可変ドメイン(VH)を持つ。それぞれの軽鎖は一端に可変ドメイン(VL)と他端に定常ドメインを持ち、軽鎖の定常ドメインは重鎖の第1定常ドメインとアラインメントされ、軽鎖可変ドメインは重鎖可変ドメインとアラインメントされる。特定のアミノ酸残基が軽鎖と重鎖の可変ドメインの界面を形成すると考えられている。
【0003】
「可変」という用語は、可変ドメインのある部分が抗体の間で配列が広範囲に異なり、特定の抗原に対してそれぞれの特定の抗体の結合特異性が生じる原因となっていることを意味する。しかし、可変性は抗体の可変ドメインを通して必ずしも均等には分布していない。可変性は軽鎖及び重鎖可変ドメインの双方の相補性決定領域(CDRs)と呼ばれる3つのセグメントにおいて強くなっている。可変ドメインのより高度に保存された部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。未変性の重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、その大部分はβシート構造をとり、βシート構造を繋ぎ、ある場合にはβシート構造の一部を形成するループを形成する、3つのCDRsによって結合された4つのFR領域を含む。それぞれの鎖にあるCDRsはFR領域により互いに近接して保たれ、他の鎖からのCDRsと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat等, Sequences of Proteins of Immnological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991)を参照)。
定常ドメインは抗原に抗体を結合させるのに直接には関係しないが、様々なエフェクター機能を示す。その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、抗体又は免疫グロブリンは異なったクラスに分けられる。IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMという免疫グロブリンの5つの主要なクラスがあり、これらの幾つかは、例えばIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4;IgA1及びIgA2のようなサブクラス(アイソタイプ)に更に分割できる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常領域はそれぞれα、δ、ε、γ及びμと呼ばれている。様々なヒト免疫グロブリンのうち、ヒトIgG1、IgG2、IgG3及びIgMだけが補体を活性化することが知られている。
【0004】
ヒトの疾病の治療を目的とした抗体の使用は急速に増加している。そのような治療関連抗体の1つは、血管内皮成長因子(VEGF)を標的として構築されている(Chen等, Journal of Molecular Biology 293(4): 865-81 (1999); Kim等, Nature 362(6423):841-4(1993); Muller等, Structure 5(10):1325-38 (1997); WO96/30046; WO98/45331; 及びWO00/29584)。VEGFは膜貫通レセプターFlt−1及びKDRを刺激することにより血管増殖を開始させる(Ferrara, N. Current Topics in Microbiology & Immunology 237:1-30 (1999))。VEGFのアンタゴニストは、制御できなくなった血管形成が病態の原因となっている、癌を含む疾病を抑制することが実証されている(Kim等, Nature 362 (6423): 841-4(1993))。
【0005】
インビボにおいて、抗体の親和性成熟は主に体細胞の高度突然変異誘発により作られる高度親和性抗体突然変異体の抗原選択によって進む。また2次又は3次反応の優勢生殖系遺伝子が1次、2次反応のそれらとは異なる「レパートリーシフト」がしばしば起こる。
様々な研究グループが、インビトロで突然変異を抗体遺伝子に導入し、親和性を向上させた突然変異体を単離するためにアフィニティ選択を使用することによって、免疫系の親和性成熟プロセスの模倣を試みている。そのような突然変異抗体は繊維状バクテリオファージの表面にディスプレイすることができ、抗体は抗原に対するそれらの親和性によって、又は抗原からの解離(オフレート)の速度によって選択することができる。Hawkins 等 J. Mol. Biol. 226:889-896(1992)。CDRウォーキング(walking)突然変異誘発が、ヒト免疫不全ウィルスタイプ1(HIV−1)(Barbas III 等, PNAS (USA) 91: 3809-3813(1994); 及びYang 等 J. Mol. Biol. 254:392-403 (1995))のヒト外被糖タンパク質gp120と抗c−erbB−2単鎖FV断片(Schier 等 J. Mol. Biol. 263:551567(1996))に結合するヒト抗体を親和性成熟させるのに用いられている。抗体チェーンシャフリングとCDR突然変異誘発は、HIVの3次高度可変ループに対して産生される高度親和性ヒト抗体(Thompson 等 J. Mol. Biol. 256:77-88(1996))を親和性成熟させるのに使用された。Balint 及びLarrick Gene 137:109-118(1993)は、彼らが「倹約突然変異(parsimonious mutagenesis)」と呼び、コンピュータ支援オリゴデオキシリボヌクレオチドスキャニング突然変異誘発を含む技術を記載しており、それにより可変領域遺伝子の3つ全てのCDRsが改良された変異体について一斉にかつ十分に検索される。Wu等 は、アフィニティは、6つ全てのCDRsの全ての部位が変異され、最も高い親和性を持つ突然変異体を含むコンビナトリアルライブラリの発現とスクリーニングが続く最初の制限突然変異誘発法を使用してαvβ3-特異的ヒト化抗体を親和性成熟させた(Wu 等 PANS (USA) 95 :6037-6-42(1998))。ファージ抗体はChiswell及びMcCafferty TIBTECH 10:80-84(1992))とRader及びBarbas III Current Opinion in Biotech. 8:503 -508(1997)の中で概説されている。
【0006】
タンパク質−リガンド対の親和性は、解離定数(Kd)で表され、溶液中における未結合分子の結合分子に対する平衡分布として定義される(式1)。この関係は、会合速度定数(オンレート定数k1)に対する解離速度定数(オフレート定数k−1)の割合と定義することもできる。
式1
多くのタンパク質−タンパク質相互作用の突然変異体の間に存在する親和性の差異(Voss, E.W. Journal of Molecular Recognition 6(2):51-8 (1993))は、主にそれらの解離速度により規定される。この知見は、突然変異がタンパク質−タンパク質界面(接合点)における直接的に接触に関与する親和性を上昇させ、解離速度定数が好ましい短距離相互作用の中断に依存していることと符合する。対照的に、会合速度定数(k1)は2分子間の衝突の頻度(Z)、及び各衝突が複合体を形成する効率に依存している。さらに、前記効率は、2分子の配向要件を決める立体因子(p)と、十分な熱活性化エネルギーを有する分子の数に依存する(Fersht, A. R. (1985). Enzyme Structure and Mechanism, W. H. Freeman and Company, New York, NY)(式2)。
式2
ここで、Eaは複合体形成のための活性化エネルギーを、Rは普遍気体定数を、Tは温度(絶対温度)をそれぞれ表す。
【0007】
理論的には、衝突頻度又は衝突効率を増大させる突然変異により会合速度を上昇させることが可能である。結合界面の周縁において残基を変異させて好ましい静電気的ステアリング力を発生させることにより、結合界面を有する短距離接触を分断することなくこれを達成できることを前提とした(Berg 及び von Hippel (1996) Nat. Struct. Biol. 3:427-31; Radic等 (1997) J. Biol. Chem. 272:23265-77; Selzer等 (2000) Nat. Struct. Biol. 7:537-41)。この現象の研究は、ブラウン動力学シミュレーション及びコンプレックスコンピュータ解析に焦点を当て、粘度及び塩分濃度の異なる溶液中での会合速度を予測するために完全な非線形ポアソン−ボルツマンの式を解こうとした(Slagle等 (1994) J. Biomolec. Struct. Dynam. 12:439-56; Kozack等 (1995) Biophys. J. 68-807-14; Fogolari等 (2000) Eur J Biochem. 267:4861-9; Gabdoulline及びWade (2001) J Mol. Biol. 306:1139-55)。しかしながら、最近になって、バーナーゼ(barnase)−バースター(barstar)複合体(Schreiber及びFersht (1996) Nat. Struct. Biol. 3:427-31; Vijayakumar等 (1998) J. Mol. Biol. 278:1015-24)、TEM−ラクタマーゼ−BLIPインヒビター複合体(Selzer等 (2000) Nat. Struct. Biol. 7:537-41)、アセチルコリンエステラーゼ−ファシキュリン(fasciculin)複合体(Radic等 (1997) J. Biol. Chem. 272:23265-77)、及びヒルジン−トロンビン複合体(Jackman等 (1992) J. Biol. Chem. 267:15375-83; Betz等 (1991) Biochem. J. 275:801-3)について均一比誘電率80で相互作用の静電気的エネルギーを計算することにより、会合速度の予測が可能であることが分かった。
【0008】
(発明の概要)
本発明は、a)親抗体の可変ドメイン内において、1)溶液に露出しており、2)高頻度可変領域の内部又は近傍にあり、且つ3)親抗体が結合したときの抗原の約20Å以内にある標的アミノ酸残基を同定する工程と、b)工程a)の標的残基を、異なる置換アミノ酸残基で置換することにより、抗体と抗原の間の電荷相補性を上昇させる工程を含む、親抗体の抗体変異体の作成方法を提供する。一態様においては、本発明の方法により、抗原との会合速度が親抗体の会合速度よりも大きい抗体変異体が作成される。本発明は、前記方法に従って産生された抗体変異体をさらに提供する。
加えて、本発明はその高頻度可変領域の内部又は近傍に、抗体変異体とそれが結合する抗原の間の電荷相補性を増大させるアミノ酸変更を有する抗体変異体を提供する。
【0009】
抗体変異体の様々な形態がここでは考えられる。例えば、抗体変異体は完全長抗体(例えばヒト免疫グロブリン定常領域を持つ)又は抗体断片(例えばFab又はF(ab')2)であり得る。更に、抗体変異体は、固相上に固定され、及び/又は異種化合物(例えば細胞障害剤)とコンジュゲートされた検出可能な標識で標識されうる。
【0010】
抗体変異体の診断及び治療用途が考えられる。一つの診断用途では、本発明は、抗原を含むと推測される試料を抗体変異体にさらし、試料への抗体の結合を測定することを含んでなる、対象の抗原の存在を決定する方法を提供する。この用途に対しては、本発明は抗体変異体とその抗体変異体を抗原を検出するために使用するための指示書を含むキットを提供する。
本発明は、更に、抗体変異体をコードしている単離された核酸;場合によってはベクターを用いて形質転換された宿主細胞によって認識される調節配列に作用可能に結合した、核酸を含むベクター;核酸で形質転換された宿主細胞;核酸が発現するように該宿主細胞を培養し、場合によっては宿主細胞培養物から(例えば、宿主細胞培養培地から)抗体変異体を回収することを含んでなる抗体変異体の産生方法を提供する。回収した抗体変異体は、細胞障害剤又は標識などの異種分子と抱合されてもよい。
【0011】
本発明はまた抗体変異体と製薬的に許容可能な担体又は希釈剤を含んでなる組成物を提供する。この治療用途のための組成物は殺菌し、凍結乾燥してもよい。
本発明は、有効量の抗体変異体を哺乳動物に投与することを含んでなる哺乳動物を治療する方法をまた提供する。
【0012】
本発明は、抗体の抗原会合速度を測定する方法をさらに提供するものであり、本方法は:
(1)溶液中で抗体と抗原を組み合わせた後、
(2)経時的に抗体−抗原複合体の生成を測定すること
を含む。
【0013】
(好ましい実施態様の詳細な記載)
I.定義
「抗体」という用語は最も広義に使用され、具体的には、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及びそれらが所望の生物活性を示す限り抗体断片も含む。
ここで使用される場合の「高頻度可変領域」なる用語は、構造的に明確化されたループを形成する及び/又は配列が高度に可変である抗体可変ドメインの領域を指す。高頻度可変領域は「相補性決定領域」すなわち「CDR」からのアミノ酸残基(すなわち、軽鎖可変ドメインの残基24−34(CDR L1)、50−65(CDR L2)及び89−97(CDR L3)、及び重鎖可変ドメインの31−35(CDR H1)、50−56(CDR H2)及び95−102(CDR H3);Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991))、及び/又は「高頻度可変ループ」からの残基(すなわち、軽鎖可変ドメインの残基26−32(ループL1)、50−52(ループL2)及び91−96(ループL3)、及び重鎖可変ドメインにおいては26−32(ループH1)、53−55(ループH2)及び96−101(ループH3);Chothia及びLesk J. Mol. Biol. 196:901-917(1987))を含んでなる。両方の場合において、可変ドメイン残基は上掲のKabat等によって番号付けされる。「フレームワーク」すなわち「FR」残基は、ここで定義した高頻度可変領域の残基以外の可変ドメイン残基である。
【0014】
「Kabatで番号付けした可変ドメイン残基」という表現は、Kabat等, Sequence of Proteins of Immunological Interest 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991)における抗体の編集物の重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメインに使用される番号付けシステムを意味する。この番号付けシステムを使用して、実際の線形アミノ酸配列は可変ドメインのFR又はCDRの短縮又はその中への挿入に相当する更に少ない又は更なるアミノ酸を含み得る。例えば、重鎖可変ドメインは、CDR H2の残基52の後に単一のアミノ酸挿入(Kabatによる残基52a)及び重鎖FR残基82の後に挿入残基(例えばKabatによる残基82a、82b、及び82c等)を含有し得る。残基のKabat番号付けは、「基準の」Kabat番号付け配列との抗体の配列の相同性の領域でのアラインメントによって、与えられた抗体に対して決定することができる。
【0015】
「抗体断片」には、全長抗体の一部、一般にはその抗原結合又は可変領域が含まれる。抗体断片の例には、Fab、Fab'、F(ab')2及びFv断片;ダイアボディー(diabodies);線状抗体;単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。
ここで使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質上均一な抗体の集団から得られる抗体を指す、すなわち集団を構成する個々の抗体は、少量で存在しうる自然に生じうる可能な突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、一つの抗原部位に対応する。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対応する異なる抗体を典型的には含む通常の(ポリクローナル)抗体調製物とは異なり、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対応する。「モノクローナル」という形容は、実質上均一な抗体集団から得られているという抗体の性質を示し、抗体を何らかの特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、本発明において使用されるモノクローナル抗体は、Kohlerら, Nature 256:495(1975)によって初めて記載されたハイブリドーマ法によって作製することができ、あるいは組換えDNA法(例えば、米国特許第4816567号を参照)によって作製することができる。「モノクローナル抗体」は、Clackson等, Nature, 352:624-628 (1991)及びMarks等, J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991)に記載された方法を使用してファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。
【0016】
ここで、モノクローナル抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の種から由来するか特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一であるか相同である一方、鎖の残りが他の種から由来するか他の抗体のクラスあるいはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一であるか相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、並びにそれが所望の生物的活性を有する限りそれら抗体の断片を特に含む(米国特許第4816567号;Morrison 等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984))。
非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」型は、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小配列を含むキメラ抗体である。大抵は、ヒト化抗体は、レシピエントの高頻度可変領域の残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類のような非ヒト種(ドナー抗体)の高頻度可変領域の残基によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換されている。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、ドナー抗体にも見出されない残基を含んでいてもよい。これらの修飾は抗体の性能を更に洗練するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、全てあるいはほとんど全ての高頻度可変ループが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てあるいはほとんど全てのFR領域がヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含む。ヒト化抗体は、場合によっては免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒトの免疫グロブリンの少なくとも一部をさらに含んでなる。更なる詳細については、Jones等, Nature 321:522-525(1986); Riechmann等, Nature 332:323-329(1988);及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)参照。
【0017】
「単鎖Fv」すなわち「sFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含有するもので、これらのドメインはポリペプチド単鎖に存在する。一般的に、Fvポリペプチドは、sFvが抗原結合のための所望の構造を形成できるように、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーを更に含んでいる。sFvの概説は、例えば、Pluckthun, The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol.113, Rosenburg及びMoore編 Springer-Verlag, New York, pp.269-315(1994)を参照されたい。
「ダイアボディー」という用語は、2つの抗原結合部位を有する抗体小断片を指すもので、断片は同じポリペプチド鎖(VH-VL)に、軽鎖可変ドメイン(VL)に結合した重鎖可変ドメイン(VH)を含む。同じ鎖において二つのドメイン間の対形成が許されないほど短いリンカーを使用することにより、他の鎖の相補的ドメインとの対形成を強制し、二つの抗原結合部位が形成される。ダイアボディーは、例えば欧州特許第404097号;国際公開第93/11161号;及びHollinger等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)に詳しく記載されている。
本出願を通して使用される「線状抗体」という表現は、Zapata等, Protein Eng. 8(10):1057-1062(1995)に記載されている抗体を指す。簡単に述べると、これらの抗体は、一対の抗原結合領域を形成する一対の直列型Fdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む。線状抗体は二重特異性又は単一特異性であり得る。
【0018】
「親抗体」はここで開示される抗体変異体と比較した場合に、一又は複数のアミノ酸配列の変更を欠いているアミノ酸配列を含んでなる抗体である。しかして、親抗体は、一般には、ここで開示された抗体変異体の対応する高頻度可変領域のアミノ酸配列とはアミノ酸配列が異なる少なくとも1つの高頻度可変領域を有する。親ポリペプチドは未変性配列(例えば天然に生じる)抗体(天然に生じる対立遺伝子変異体を含む)又は天然に生じる配列の前もって存在しているアミノ酸配列の修飾(例えば他の挿入、欠失及び/又は他の置換)を持つ抗体を含みうる。好ましくは親抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体である。
ここで使用される「抗体変異体」とは親抗体のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を持つ抗体を意味する。好適には、抗体変異体は天然には見出されないアミノ酸配列を持つ重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメインを含む。そのような変異体は必ず100%未満の親抗体との配列同一性又は類似性を持つ。好適な実施態様では、抗体変異体は、親抗体の重鎖又は軽鎖可変ドメインの何れかのアミノ酸配列と約75%から100%未満、より好ましくは約80%から100%未満、より好ましくは約85%から100%未満、より好ましくは約90%から100%未満、最も好ましくは95%から100%未満のアミノ酸配列同一性又は類似性であるアミノ酸配列を持つ。この配列に対する同一性又は類似性は、配列を整列させ、必要ならば間隙を導入して、最大のパーセント配列同一性を達成した後の、親抗体残基と同一である(すなわち、同じ残基)候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとしてここで定義される。可変ドメインの外側の抗体配列中へのN末端、C末端又は内部伸長、欠失又は挿入は何れも配列同一性と類似性に影響を与えるものとはみなされない。抗体変異体は一般にその1つ以上の高頻度可変領域の内部又は近傍に1つ以上のアミノ変更を持つものである。
【0019】
「アミノ酸変更」とは、予め定まったアミノ酸配列のアミノ酸配列における変化を意味する。例示的な変更は、挿入、置換及び欠失を含む。
「アミノ酸置換」とは、予め定まったアミノ酸配列中に存在するアミノ酸残基を他の異なったアミノ酸残基で置換することを意味する。
「置換」アミノ酸残基とは、アミノ酸配列中の別のアミノ酸残基を置換又は置き換えるアミノ酸残基を意味する。置換残基は天然に生じるアミノ酸残基又は天然には生じないアミノ酸残基でよい。
【0020】
「アミノ酸挿入」とは、予め定まったアミノ酸配列中への1又はそれ以上のアミノ酸残基の導入を意味する。
アミノ酸挿入はペプチド結合によって結合した2又はそれ以上のアミノ酸残基を含むペプチドが予め定まったアミノ酸配列に導入される「ペプチド挿入」を含んでいてもよい。アミノ酸挿入がペプチド挿入を含む場合、挿入されたペプチドは天然には存在しないアミノ酸配列を持つようにランダム突然変異によって産生され得る。
【0021】
「高頻度可変領域の近傍」におけるアミノ酸変更は、挿入又は置換されたアミノ酸残基の少なくとも1つが当該高頻度可変領域のN末端又はC末端アミノ酸残基とペプチド結合を形成するような、高頻度可変領域のN末端及び/又はC末端への一又は複数のアミノ酸残基の導入を意味する。
「天然に生じるアミノ酸残基」は、通常、アラニン(Ala);アルギニン(Arg);アスパラギン(Asn);アスパラギン酸(Asp);システイン(Cys);グルタミン(Gln);グルタミン酸(Glu);グリシン(Gly);ヒスチジン(His);イソロイシン(Ile):ロイシン(Leu);リジン(Lys);メチオニン(Met);フェニルアラニン(Phe);プロリン(Pro);セリン(Ser);トレオニン(Thr);トリプトファン(Trp);チロシン(Tyr);及びバリン(Val)からなる群から選択される、遺伝子暗号にコードされたものである。
【0022】
ここでの「天然に生じないアミノ酸残基」とは、上に列挙した天然に生じるアミノ酸残基以外のアミノ酸残基を意味し、ポリペプチド鎖中の隣接アミノ酸残基(群)に共有的に結合可能である。天然に生じないアミノ酸残基の例としては、ノルロイシン、オルニチン、ノルバリン、ホモセリン及びEllman等, Meth. Enzym. 202:301-336(1991)に記載のもののような他のアミノ酸残基類似体が含まれる。そのような天然に生じないアミノ酸残基を産生するには、Noren 等. Science 244:182(1989)と上掲のEllman等の手順を使用することができる。簡単にいうと、これらの手順は、天然に生じないアミノ酸残基でサプレッサーtRNAを化学的に活性させ、ついでインビトロのRNA転写と翻訳を行うことを含む。
「露出した(exposed)」アミノ酸残基は、その表面の少なくとも一部が、溶液中のポリペプチド(例えば抗体又はポリペプチド抗原)中に存在する場合、ある程溶媒に曝されている残基である。好ましくは、露出したアミノ酸残基は、その側鎖表面積の少なくとも約3分の1が溶媒に露出している残基である。残基が露出しているか否かを決定するために様々な方法が利用可能で、ポリペプチドの分子モデル又は構造の解析もその1つである。
「電荷を持つ」アミノ酸残基とは、最終的に全体で正の正味の電荷を有しているか、又は最終的に全体で負の正味の電荷を有しているアミノ酸残基である。正の電荷を有するアミノ酸残基には、アルギニン、リジン及びヒスチジンが含まれる。負の電荷を有するアミノ酸残基には、アスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれる。
【0023】
ここでの「標的抗原」なる用語は、ここで定義するような親抗体及び抗体変異体の両方が結合する予め定まった抗原を意味する。標的抗原は、ポリペプチド、炭水化物、核酸、脂質、ハプテン又はその他の天然に生じるか合成の化合物であり得る。好ましくは、標的抗原はポリペプチドである。抗体変異体が一般に標的抗原と親抗体よりもより好ましい結合親和性で結合する一方、親抗体は通常約1x10−5M以下、好ましくは約1x10−6M以下の結合親和性(Kd)を標的抗原に対して有する。
ここでの「会合速度」とは、抗体が溶液中で抗原と複合体を形成するときのオンレート定数(k1)を意味する。
ここでの「解離速度」とは、オフレート定数(k−1)、又は抗体と抗原間の短距離相互作用の中断を意味する。
【0024】
「電荷相補性」という用語により、ここでは、抗体のアミノ酸残基と抗原のアミノ酸残基の間の静電的相互作用を意味する。ここで電荷は抗体が抗原に結合する際の抗体のアミノ酸残基の近傍における抗原の局所的電荷を指す。例えば、負の電荷を有する抗原に対して正の電荷を有する抗体の電荷相補性を増大させるには、抗体中の負の電荷を有する特定のアミノ酸残基(例えばD又はE)を天然残基(例えばN又はT)あるいは正の電荷を有する残基(R又はK)で置換することにより、負の電荷を中和するか、又は逆転させて負の電荷を有する抗原の相補性を補完する。
【0025】
「単離された」抗体は、その自然環境の成分から同定され、分離及び/又は回収されたものである。その自然環境の汚染成分は、抗体の診断又は治療での使用を妨げる物質であり、酵素、ホルモン、その他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質を含みうる。好適な実施態様では、抗体は(1)ローリー法で測定して95重量%を越え、最も好ましくは99重量%を越える抗体まで、(2)スピニングカップシークエネーターを使ってN末端又は内在するアミノ酸配列の少なくとも15残基を取り出すのに十分な程度まで、又は(3)カーマシーブルー又は好ましくは銀染色を用いた還元又は非還元状態の下でのSDS−PAGEにより均一になるまで、精製される。単離された抗体は、抗体の自然な環境の少なくとも一成分が存在しないことから、組換え細胞中にインサイツで抗体を含む。しかしながら、通常は、単離された抗体は少なくとも1つの精製工程によって調製される。
【0026】
「治療」とは治療的処置及び予防的あるいは防護的措置の双方を意味する。治療を要するものには、障害を既に持つもの並びに障害を防止すべきものが含まれる。
「疾患」とは抗体変異体による治療の恩恵を受けるであろう任意の症状である。これには、哺乳動物が問題とする疾患になる素因になる病理的症状を含む慢性及び急性の疾患又は障害が含まれる。
治療目的で「哺乳動物」と言うときは、ヒト、家庭及び牧場の動物、非ヒト霊長類、及び動物園の動物、運動用の動物、愛玩用動物、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ウシ等々を含む哺乳動物に分類されるあらゆる動物を意味する。
【0027】
「単離された」核酸分子は、同定され、抗体核酸の天然源に通常付随している少なくとも1つの汚染核酸分子から分離された核酸分子である。単離された核酸分子は、天然に見出される形態あるいは設定以外のものである。ゆえに、単離された核酸分子は、天然の細胞中に存在する核酸分子から区別される。しかしながら、単離された核酸分子は、通常抗体(例えば核酸分子が天然の細胞の核酸分子と異なる染色体位置に在るような)を発現する細胞内に含まれる核酸分子を包含する。
「コントロール配列」という表現は、特定の宿主生物において作用可能に結合したコード配列を発現するために必要なDNA配列を指す。例えば原核生物に好適なコントロール配列は、プロモーター、場合によってはオペレータ配列、及びリボソーム結合部位を含む。真核生物の細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーを利用することが知られている。
【0028】
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係に置かれるときに「作用可能に結合し」ている。例えば、プレ配列あるいは分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現されているなら、そのポリペプチドのDNAに作用可能に結合している;プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼすならば、コード配列に作用可能に結合している;又はリボソーム結合部位は、もしそれが翻訳を容易にするような位置にあるなら、コード配列と作用可能に結合している。一般的に、「作用可能に結合している」とは、結合しているDNA配列が近接しており、分泌リーダーの場合には近接していて読みフェーズにあることを意味する。しかし、エンハンサーは必ずしも近接している必要はない。結合は簡便な制限部位でのライゲーションにより達成される。そのような部位が存在しない場合は、従来の手法に従って、合成オリゴヌクレオチドアダプターあるいはリンカーが使用される。
ここで使用されるところでは、「細胞」、「株化細胞」及び「細胞培養物」という表現は相互に交換可能な意味で用いられ、その全ての用語は子孫を含む。従って、「形質転換体」及び「形質転換細胞」は、最初の対象細胞及び何度培養が継代されたかに関わらず最初のものから誘導された培養を含む。また、全ての子孫が、意図的な変異あるいは意図しない変異の影響で、正確に同一のDNAを有するわけではないことも理解すべきである。本来の形質転換細胞についてスクリーニングしたものと同じ機能又は生物活性を有する変異体子孫が含まれる。命名を区別することが意図されている場合は、文脈から明らかであろう。
【0029】
II.本発明の実施の形態
ここで言う発明は、少なくとも部分的に、抗体変異体の作成方法に関する。親抗体又は出発抗体は、かかる抗体を産生するために当該分野で利用可能な技術を使用して調製されうる。抗体産生のための例示的な方法は次のセクションでより詳細に記載する。更に、本出願では、対象とする抗体について入手可能な情報(例えばアミノ酸配列データ)を使用して本発明の抗体変異体を産生させることができるので、実際に親抗体を実際に製造することを必要としない。
親抗体は所望の標的抗原に対するものである。好適には、標的抗原は生物学的に重要なポリペプチドであり、病気や疾患を被っている哺乳動物に抗体を投与することによって該哺乳動物に治療的恩恵をもたらしうる。しかしながら、非ポリペプチド抗原(例えば腫瘍に関連した糖脂質抗原;米国特許第5,091,178号参照)に対する抗体もまた考えられる。
【0030】
抗原がポリペプチドである場合、それは膜貫通分子(例えば、レセプター)あるいはリガンド、例えば成長因子でありうる。抗原の例には、例えば、レニン;ヒト成長ホルモン、ウシ成長ホルモンを含む成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク;α-1-アンチトリプシン;インシュリンA鎖;インシュリンB鎖;プロインシュリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;VIIIC因子、IX因子、組織因子、及びフォン・ヴィレブランド因子等の凝固因子;プロテインC等の抗凝固因子;心房性ナトリウム利尿因子;肺表面活性剤;ウロキナーゼ又はヒト尿又は組織型プラスミノーゲン活性化剤(t−PA)等のプラスミノーゲン活性化剤;ボンベシン;トロンビン;造血性成長因子;腫瘍壊死因子-α及び-β;エンケファリナーゼ;RANTES(regulated on activation normally T-cell expressed and secreted);ヒトマクロファージ炎症タンパク質(MIP-1-α);ヒト血清アルブミン等の血清アルブミン;ミューラー阻害物質;リラキシンA鎖;リラキシンB鎖;プロレラキシン;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;βラクタマーゼ等の微生物タンパク質;DNアーゼ;IgE;CTLA-4のような細胞毒性Tリンパ球関連抗原(CTLA);インヒビン;アクチビン;血管内皮成長因子(VEGF);ホルモン又は成長因子のレセプター;プロテインA又はD;リウマチ因子;神経栄養因子、例えば脳誘導神経向性因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3、-4、-5又は-6(NT-3、NT-4、NT-5、又はNT-6)、又は神経成長因子;血小板誘導成長因子(PDGF);aFGF及びbFGF等の線維芽細胞成長因子;表皮成長因子(EGF);TGF-α及びTGF-βのようなトランスフォーミング成長因子(TGF);インシュリン様成長因子-I及び-II(IGF-I及びIGF-II);des(1-3)-IGF-I(脳IGF-I)、インシュリン様成長因子結合タンパク質;CD3、CD4、CD8、CD19及びCD20等のCDタンパク質;エリスロポエチン;骨誘導因子;免疫毒素;骨形成タンパク質(BMP);インターフェロン-α、-β、及び-γ等のインターフェロン;コロニー刺激因子(CSFs)、例えば、M-CSF、GM-SCF、及びG-CSF;インターロイキン(ILs)、例えば、IL-1からIL-10;スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞レセプター;表面膜タンパク質;崩壊促進因子;ウイルス性抗原、例えばAIDSエンベロープの一部等;輸送タンパク質;ホーミングレセプター;アドレシン(addressins);調節タンパク質;インテグリン、例えばCD11a、CD11b、CD11c、CD18、ICAM、VLA-4及びVCAM;腫瘍関連抗原、例えばHER2、HER3又はHER4レセプター;及び上に列挙したポリペプチドの何れかの断片が含まれる。
【0031】
本発明により包含される抗体に対する好適な分子標的には、CDタンパク質、例えばCD3、CD4、CD8、CD19、CD20及びCD34;ErbBレセプターファミリーのメンバー、例えばEGFレセプター、HER2、HER3又はHER4レセプター;細胞接着分子、例えばLFA-1、Mac1、p150.95、VLA-4、ICAM-1、VCAM及びそのα又はβサブユニットを何れか含むαv/β3インテグリン(例えば、抗CD11a、抗CD18又は抗CD11b抗体);成長因子、例えばVEGF及びTF;IgE;血液型抗原;flk2/flt3レセプター;肥満(OB)レセプター;mplレセプター;CTLA-4;プロテインC等々が含まれる。
【0032】
抗体を生成するのに使用される抗原はその天然源のものから単離されるか、又は組み換えて生成されるか、他の合成法を用いて作成され得る。もう1つの方法としては、天然の又は合成の抗原を含有する細胞が、抗体を作る免疫原として使用できる。
親抗体は標的抗原に対する予め存在する強い結合親和性を持ちうる。例えば、親抗体は約1x10−7M、好ましくは約1x10−8M及び最も好ましくは約1x10−9Mを越えない結合親和性(Kd)値で、対象の抗原に結合しうる。
【0033】
親抗体は好ましくはキメラ(例えばヒト化)又はヒト抗体である。キメラ、ヒト化又はヒト抗体はまた場合によっては「親和成熟」抗体である。抗体を親和成熟させる技術については、本明細書の「関連技術の説明」と題した部分を参照のこと。一実施形態では、親抗体が抗体断片であるか、又は組換え的に生成された変異体のスクリーニングの容易化のために、完全抗体の抗体断片(例えばFab断片)が調製される。好ましくは、親抗体及び抗体変異体は血管内皮成長因子(VEGF)に結合する。例示的親抗体は、抗VEGF抗体の軽鎖及び重鎖可変ドメイン、例えばY0101(図1A−B);Y0317(出典明示により本明細書に包含する国際公開第98/45331号);ヒト化抗VEGF F(ab)−12(出典明示により本明細書に包含する国際公開第98/45331号);Y0192(出典明示により本明細書に包含する国際公開第98/45331号);Y0238−3(出典明示により本明細書に包含する国際公開第98/45331号);Y0239−19(出典明示により本明細書に包含する国際公開第00/29584号);Y0313−2(出典明示により本明細書に包含する国際公開第00/29584号)又はVNERK変異体(出典明示により本明細書に包含する国際公開第00/29584号)を含む。
【0034】
ここでの抗体変異体は、好ましくは親抗体と比較してより大きい抗原会合速度を示す。会合速度は、複合体の形成を時間の経過と共に観察することが可能な任意の方法により測定可能である。最も広く使用されている方法はBIAcore(登録商標)解析法であり、この方法では、バイオセンサー表面上に固定化された抗原に対する抗体の会合を測定する(Rich及びMyszkaによる概説, Curr. Opin. Biotechnol. 11:54-61 (2000))。あるいは、本明細書の実施例で行っているように、抗原と抗体を混合し、抗原の濃度を変化させて複合体の生成速度を測定することにより、(固体表面ではなく)溶液中において会合速度を測定する。この場合、内因的又は人工的フルオロフォアによる蛍光度の測定(Linthicum等による概説、Comb. Chem. High Throughput Screen 4:439-449 (2001))を含む、様々な検出法が使用可能である。好ましくは、本明細書の実施例の方法に従って会合速度を測定する。最も好ましくは、抗体変異体の会合速度は、親抗体の約5倍、又は約10倍以上(例えば約1000倍、又は約10000倍まで)である。
【0035】
更に、抗体変異体の標的抗原に対する結合親和性は通常親抗体よりも強い。抗体「結合親和性」は平衡法(例えば酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)又は放射線免疫測定法(RIA))、又は速度法(kinetics)(例えば商品名BIACORE解析)によって決定され得る。好ましくは、抗体変異体の標的抗原に対する結合親和性は、親抗体の同じ抗原に対する結合親和性より、少なくとも約2倍、好ましくは少なくとも約5倍、さらに好ましくは少なくとも約10倍又は100倍(例えば約1000倍まで又は10000倍まで)強力である。所望の又は必要とされる結合親和性の増強は、親抗体の最初の結合親和性に依存しうる。
【0036】
また、抗体は、治療剤としてのその「効能」又は薬理活性及び潜在的効果を評価するため他の「生物学的活性アッセイ」等にかけることができる。このようなアッセイは当該分野において公知であり、標的抗原と抗体の意図される用途に依存する。例としては、ケラチノサイト単層付着アッセイ及びCD11aに対する混合リンパ球反応(MFR)アッセイ(WO98/23761参照);腫瘍細胞成長阻害アッセイ(例えば、WO89/06692号に記載されているもの);抗体依存性細胞障害活性(ADCC)及び補体媒介障害活性(CDC)アッセイ(米国特許第5500362号);アゴニスト活性又は造血アッセイ(WO95/27062参照);トリチウム化チミジン取込みアッセイ;及びVEGFのような分子に応答する細胞の代謝活性を測定するアラマーブルーアッセイが含まれる。抗体変異体は好ましくは、選択された生物活性アッセイにおいて、該アッセイにおける親抗体の生物活性より、少なくとも約2倍大きく(例えば約2倍から約1000倍又は約10000倍までさえ改善された効能)、好ましくは少なくとも約20倍大きく、より好ましくは約50倍大きく、時には少なくとも約100倍又は200倍大きい効能を有する。
【0037】
本発明は、機能の改善(例えば会合速度及び/又は親和性の向上)のスクリーニングが可能な抗体変異体の系統的な作成方法を提供する。好ましくは、入手できる抗体−抗原関連情報を評価し、抗体と抗原間の電荷相補性を増大させる抗体中の候補アミノ酸変更を決定する。この複合体の核磁気共鳴(NMR)構造又はX線結晶から分子モデルを取得できる。例えば、Amit等 Science 233:747-753 (1986); 及びMuller等 Structure 6(9):1153-1167 (1998)を参照されたい。あるいは、例えば結晶構造が入手できない場合などにおいて、コンピュータープログラムを使用して抗体/抗原複合体の分子モデルを作成できる(例えば、Levy等 Biochemistry 28:7168-7175 (1989); Bruccoleri等 Nature 335:564-568 (1998); 及びChothia等 Science 233:755-758 (1986))を参照)。
一実施態様では、変更は1以上の電荷アミノ酸残基の、親抗体の1以上の高頻度可変領域の内部又は近傍への挿入を含む。本実施態様では、抗体−抗原複合体の分析によれば、挿入された残基が通常抗原には通常結合しない。一般には、約1から約20まで、又は約40までの電荷相補性を増大させるアミノ酸残基を挿入することができる。
【0038】
最も好ましい実施態様では、変更は1又は複数の高頻度可変領域の内部又は近傍での1以上の標的残基の置換を含む。本発明のこの実施態様では、標的残基を以下のようにして選択する:
1) 好ましくは、残基は溶液中に露出しており、例えばその側鎖表面積の少なくとも3分の1が溶媒に露出している。如何なる理論に制約されるものではないが、これは、埋没残基の突然変異により抗体の不安定化の恐れが排除されたためと考えられる。
2) 静電引力は距離の関数として減衰するため、望ましくは残基は結合状態において抗原の少なくとも約20Å以内(好ましくは約16Å以内)にある。
3) 直接接触残基の突然変異は結合複合体を不安定化させる可能性があるため、好ましくは残基は結合状態の抗原と直接接触していない。
4) 高頻度可変領域又は相補性決定領域(CDRs)は患者に免疫原性反応を引き起こしにくい徴候があるため、それら領域内にある残基の方がそうでない残基よりも好ましい。
5) 通常、変更について、抗体と抗原の間の電荷相補性を増大させることができる残基のみを考慮する。
【0039】
したがって、実施例でさらに詳述する本発明の好ましい実施態様では、親抗体が結合した抗原の約20Å以内に1以上の露出した高頻度可変領域アミノ酸残基が同定され、それら露出残基の1以上が中和した又は逆に荷電した置換アミノ酸残基で置き換えられている。
本発明では、本発明の基準に従った1回のアミノ酸置換を考慮しているが、好ましくは2以上の置換、例えば1つの可変領域につき約2から約10又は約20の置換(つまり、両方の可変ドメインについてそれぞれ約20又は約40までのアミノ酸置換)を組み合わせる。ここでの抗体と抗原の間の電荷相補性を増大させる変更は、高頻度可変領域における別のアミノ酸配列変更又は抗体の他の領域におけるアミノ酸配列変更と組み合わせることができる。
【0040】
一実施態様では、本発明による変更を持つ高頻度可変領域は、CDR L1、CDR L2、ループH1及びCDR H3からなる群から選択され、最も好ましくはCDR L1が選択される。更に、2以上の高頻度可変領域、例えばCDR L1、CDR L2、ループH1及びCDR H3の2以上における変更を組み合わせることができる。例えば、抗体変異体は、CDR L1に1以上の変更を有する軽鎖可変ドメイン及びループH1及び/又はCDR H3に1以上の変更を有する重鎖可変ドメインを含んでもよい。
【0041】
本発明の一態様によれば、抗体変異体又は抗体可変ドメインは、抗体の軽鎖可変ドメインのアミノ酸位26L、27L、28L、30L、31L、32L、49L、50L、52L、53L、54L、56L、93L又は94Lの1つ以上、及び/又は抗体の重鎖可変ドメインのアミノ酸位25H、28H、30H、54H、56H、61H、62H、64H、97H、98H、99H及び/又は100aHの1つ以上に本発明による1以上の置換を有している。更に、これらの位置における置換を組み合わせることができる。例えば、抗体の軽鎖可変ドメインアミノ酸位26L、27L、28L又は30Lの2、3又は4つを組み合わせてもよい。変更された重鎖可変ドメイン(例えば28H及び/又は100aHにおける置換を含む)を変更された軽鎖可変ドメイン(例えば26L、27L、28L及び/又は30Lにおける置換を含む)と組み合わせてもよい。本明細書では、残基の番号付けはKabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991)に従った。
【0042】
本発明はまたここに記載した方法により取得可能な抗体変異体又は変更された抗体可変ドメインを提供する。好ましくは、抗体変異体又は変更抗体可変ドメインは、その高頻度可変領域の内部又は近傍に、抗体変異体とそれが結合する抗原との間の電荷相補性を増大させるアミノ酸変更を有する。このような変更可変ドメインの例には、SATKKIKNYLN(配列番号6)又はSATKKITNYLN(配列番号7)から選択されたCDR L1配列を含む軽鎖可変ドメイン、例えば配列番号3又は配列番号4のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメイン;並びにT28D及びS100aRの置換を有する重鎖可変ドメイン、例えば配列番号5、配列番号8、配列番号9又は配列番号10のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインが含まれる。場合によっては、これら軽鎖及び重鎖可変ドメインの配列は抗体変異体内で組み合わされてもよく、例えば、抗体変異体が配列番号4の軽鎖可変ドメインと、配列番号5、8、9又は10の重鎖可変ドメインを有してもよい。好ましくは、抗体変異体は、その軽鎖可変ドメインに配列番号7のCDR L1配列を有し、その重鎖可変ドメインに(T28D、S100aR)置換を有し、この置換の組み合わせを、本明細書の実施例では「34−TKKT」変異体と呼ぶ。このような置換(VH−(T28、S100aR)+VL−(S26T、Q27K、D28K、S30T))は様々な親抗体において作成可能で、親抗体は、それらに限定するものではないが、Y0101、Y0317、ヒト化抗VEGF F(ab)−12、Y0192、Y0238−3、Y0239−19、Y0313−2、及びVNERK変異体からなる群から選択された抗VEGF抗体を含む。例えば、「34−TKKT+VNERK+H97Y」変異体は、「34−TKKT」、「H97Y」及びVNERK変異体(軽鎖及び重鎖可変ドメインについてはそれぞれ配列番号4及び8)の変更を組み合わせることにより生成される。
【0043】
アミノ酸配列変異体をコードしている核酸分子は当該分野で知られている様々な方法により調製される。これらの方法は、限定されるものではないが、親抗体の先に調製された変異体又は非変異体型のオリゴヌクレオチド媒介(又は部位特異的)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、カセット突然変異誘発を含む。変異体を作成するための好ましい方法は部位特異的突然変異誘発(例えばKunkel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:488 (1985)を参照)である。更に、ひとたび所望のアミノ酸配列に概念的に到達すれば、核酸配列は合成的に作成されうる。ペプチド合成、ペプチドライゲーション又は他の方法により抗体変異体を作成することもできる。
抗体変異体の生産に続いて、親抗体に対する該分子の活性が決定されうる。上に記載したように、これは抗体の会合速度、及び/又は結合親和性、及び/又は他の生物活性を決定することを含みうる。本発明の好適な実施態様では、抗体変異体のパネルが調製され、一又は複数のアッセイにおいて会合速度及び/又は抗原への結合親和性及び/又は効能についてスクリーニングされる。最初のスクリーニングから選択された抗体変異体の一又は複数を場合によっては一又は複数の更なる機能アッセイにかけて、抗体変異体が一を越えるアッセイで改善された活性を有することが確認される。
【0044】
親抗体の高頻度可変領域内における上記の変更とは別に、高頻度可変領域の一又は複数のアミノ酸配列内において他の変更をなしてもよい。例えば、上記のアミノ酸変更は他の高頻度可変領域残基の欠失、挿入又は置換と組み合わせてもよい。更に、FR残基の一又は複数の変更(例えば置換)を親抗体に導入してもよく、その場合、抗原に対する抗体変異体の結合親和性が改善される結果になる。変更するフレームワーク領域残基の例は、非共有的に抗原に直接結合する(Amit等, Science 233:747-753 (1986));CDRの高次構造と相互作用/形成する(Chothia等, J.Mol.Biol. 196:901-917 (1987));及び/又はVL−VH界面に関与する(EP239400B1)ものを含む。かかるアミノ酸配列の変更は親抗体に存在し得、ここでのアミノ酸挿入と同時に行い得、又は本発明によるアミノ酸変更を持つ変異体が産生された後に作成しうる。本発明において、親抗体又は抗体変異体の定常ドメイン配列の変更は、例えば抗体エフェクター機能を向上又は減少させるものを考慮することもできる。例えば、米国特許第6194551号;国際公開第99/51642号;Idusogie等J. Immunol. 164:4178-4184 (2000);国際公開第00/42072号(Presta); 及びShields等J. Biol. Chem. 9(2):6591-6604 (2001)を参照のこと。これら文献は出典明示によりここに明示的に包含する。
【0045】
抗体変異体は、しばしば抗体の意図された用途に応じて、他の修飾を受けてもよい。そのような修飾はアミノ酸配列の更なる変化、異種ポリペプチドへの融合及び/又は共有結合修飾を含みうる。アミノ酸配列変化に関しては、例示的な修飾は上に詳細に説明した。例えば、抗体変異体の正しい高次構造を維持することに関連しない任意のシステイン残基をまた、一般にセリンと置換して、分子の酸化安定性を改善し異常な架橋を防止してもよい。逆に、システイン残基を抗体に加えてその安定性を改善してもよい(特に抗体がFv断片のような抗体断片である場合)。アミノ酸変異体の他のタイプは変化したグリコシル化パターンを有している。これは、抗体に見いだされる一又は複数の炭水化物部分(糖鎖)を欠失し、及び/又は抗体中に存在しない一又は複数のグリコシル化部位を付加することにより、達成されうる。抗体のグリコシル化は典型的にはN結合又はO結合の何れかである。N結合とはアスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の付着を意味する。アスパラギン-X-セリン及びアスパラギン-X-スレオニンというトリペプチド配列(ここで、Xはプロリンを除く任意のアミノ酸である)はアスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素的付着のための認識配列である。よって、ポリペプチドにおけるこれらのトリペプチド配列の何れかの存在が潜在的なグリコシル化部位をつくりだす。O結合グリコシル化は、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリン又はスレオニンへの糖N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、又はキシロースの一つの付着を意味するが、5-ヒドロキシプロリン又は5-ヒドロキシリジンもまた使用してもよい。抗体へのグリコシル化部位の付加は、簡便には、(N結合グリコシル化部位に対する)上述のトリペプチド配列の一又は複数を含むようにアミノ酸配列を改変することにより、なされる。変更はまた(O結合グリコシル化部位に対する)元の抗体の配列への一又は複数のセリン又はスレオニン残基の付加又は置換により、なしてもよい。
親抗体であり得、よってここに詳細に説明した技術による修飾を必要とする抗体を産生する技術は以下の通りである。
【0046】
A.抗体の調製
(i) 抗原の調製
場合によっては他の分子に抱合されていてもよい可溶性抗原又はその断片を、抗体を産生するための免疫原として使用することができる。例えばレセプターのような膜貫通型分子では、これらの断片(例えばレセプターの細胞外ドメイン)を免疫原として使用することができる。あるいは、膜貫通型分子を発現する細胞を免疫原として使用することができる。このような細胞は天然源(例えばガン株化細胞)から引き出すことができ、あるいは膜貫通型分子を発現する組換え技術により形質転換した細胞であってもよい。抗体を調製するために有用な他の抗原及びその型は当業者には明らかであろう。
【0047】
(ii) ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、好ましくは、関連する抗原とアジュバントを複数回皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射することにより動物に産生される。免疫化される種において免疫原性であるタンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、又は大豆トリプシンインヒビターに関連抗原を、二官能性又は誘導体形成剤、例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基による抱合)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基による)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl2、又はRとR1が異なったアルキル基であるR1N=C=NRにより抱合させることが有用である。
【0048】
動物を、例えばタンパク質又はコンジュゲート100μg又は5μg(それぞれウサギ又はマウスの場合)を完全フロイントアジュバント3容量と併せ、この溶液を複数部位に皮内注射することによって、抗原、免疫原性コンジュゲート、又は誘導体に対して免疫化する。1ヶ月後、該動物を、完全フロイントアジュバントに入れた初回量の1/5ないし1/10のペプチド又はコンジュゲートを用いて複数部位に皮下注射することにより、追加免疫する。7ないし14日後に動物を採血し、抗体価について血清を検定する。動物は、力価がプラトーに達するまで追加免疫する。好ましくは、動物は、同じ抗原のコンジュゲートであるが、異なったタンパク質にコンジュゲートさせた、及び/又は異なった架橋剤によってコンジュゲートさせたコンジュゲートで追加免疫する。コンジュゲートはまたタンパク融合として組換え細胞培養中で作製することもできる。また、ミョウバンのような凝集化剤が、免疫反応の増強のために好適に使用される。
【0049】
(iii) モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、Kohlerら, Nature, 256:495 (1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法を用いて作製でき、又は組換えDNA法(米国特許第4816567号)によって作製することができる。
ハイブリドーマ法においては、マウス又はその他の適当な宿主動物、例えばハムスターを上記したようにして免疫し、免疫化に用いられるタンパク質と特異的に結合する抗体を生産するか又は生産することのできるリンパ球を導き出す。別法として、リンパ球をインビトロで免疫することもできる。次に、リンパ球を、ポリエチレングリコールのような適当な融剤を用いて骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice,59-103(Academic Press, 1986))。
【0050】
このようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、融合していない親の骨髄腫細胞の増殖または生存を阻害する一又は複数の物質を好ましくは含む適当な培地に蒔き、増殖させる。例えば、親の骨髄腫細胞が酵素ヒポキサンチングアニジンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠失するならば、ハイブリドーマのための培地は、典型的には、HGPRT欠失細胞の増殖を妨げる物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含有するであろう(HAT培地)。
【0051】
好ましい骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定な高レベルの生産を支援し、HAT培地のような培地に対して感受性である細胞である。これらの中でも、好ましい骨髄腫株化細胞は、マウス骨髄腫系、例えば、ソーク・インスティテュート・セル・ディストリビューション・センター、サンディエゴ、カリフォルニア、USAから入手し得るMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍、及びアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、マサチューセッツ、バージニア、USAから入手し得るSP-2又はX63-Ag8-653細胞から誘導されたものである。ヒト骨髄腫及びマウス−ヒトヘテロ骨髄腫株化細胞もまたヒトモノクローナル抗体の産生のために開示されている(Kozbor, J.Immunol., 133:3001 (1984);Brodeurら, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp51-63(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0052】
ハイブリドーマ細胞が生育している培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の産生についてアッセイする。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降又はインビトロ結合アッセイ、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって測定する。
【0053】
所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が確定された後、該クローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法により増殖させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, 59-103(cademic Press, 1986))。この目的に対して好適な培地には、例えば、D-MEM又はRPMI-1640培地が包含される。加えて、該ハイブリドーマ細胞は、動物において腹水腫瘍としてインビボで増殖させることができる。
【0054】
サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体は、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィーのような常套的な免疫グロブリン精製法により、培地、腹水、又は血清から好適に分離される。
モノクローナル抗体をコードしているDNAは、常法を用いて(例えば、モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードしている遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)即座に分離され配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAの好ましい供給源となる。ひとたび分離されたならば、DNAを発現ベクター中に入れ、ついでこれを、そうしないと免疫グロブリンタンパク質を産生しない大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は骨髄腫細胞のような宿主細胞中にトランスフェクトし、組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体の合成を達成することができる。抗体の組み換え体作成は以下に更に詳しく記載する。
【0055】
更なる実施態様では、抗体又は抗体断片は、McCaffertyら, Nature, 348:552-554 (1990)に記載された技術を使用して産生される抗体ファージライブラリーから分離することができる。Clacksonら, Nature, 352:624-628 (1991)及び Marksら, J.Mol.Biol., 222:581-597 (1991)は、ファージライブラリーを使用したマウス及びヒト抗体の分離を記述している。続く刊行物は、鎖混合による高親和性(nM範囲)のヒト抗体の生産(Marksら, Bio/Technology, 10:779-783(1992))、並びに非常に大きなファージライブラリーを構築するための方策としてコンビナトリアル感染とインビボ組換え(Waterhouseら, Nuc.Acids.Res., 21:2265-2266(1993))を記述している。従って、これらの技術はモノクローナル抗体の分離に対する伝統的なモノクローナル抗体ハイブリドーマ法に対する実行可能な別法である。
【0056】
DNAはまた、例えば、ヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード化配列を、相同的マウス配列に代えて置換することにより(米国特許第4816567号;Morrisonら, Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81:6851(1984))、又は免疫グロブリンコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全部又は一部を共有結合させることにより、修飾できる。
典型的には、このような非免疫グロブリンポリペプチドは、抗体の定常ドメインに置換され、又は抗体の1つの抗原結合部位の可変ドメインに置換されて、抗原に対する特異性を有する1つの抗原結合部位と異なる抗原に対する特異性を有するもう一つの抗原結合部位とを含むキメラ二価抗体を作り出す。
【0057】
(iv) ヒト化又はヒト抗体
ヒト化抗体には非ヒトである供給源由来の一又は複数のアミノ酸残基がそこに導入されている。これら非ヒトアミノ酸残基は、しばしば、典型的には「移入」可変ドメインから得られる「移入」残基と呼ばれる。ヒト化は、本質的には齧歯動物のCDR又はCDR配列でヒト抗体の該当する配列を置換することにより、ウィンターと共同研究者の方法(Jonesほか, Nature, 321:522-525 (1986)、Riechmannほか, Nature, 332:323-327 (1988)、Verhoeyenほか, Science, 239:1534-1536(1988))を使用して実施することができる。よって、このような「ヒト化」抗体は、無傷のヒト可変ドメインより実質的に少ない分が非ヒト種由来の該当する配列で置換されたキメラ抗体(米国特許第4816567号)である。実際には、ヒト化抗体は、典型的にはいくらかのCDR残基及び場合によってはいくらかのFR残基が齧歯類抗体の類似部位からの残基によって置換されているヒト抗体である。
【0058】
抗原性を低減するには、ヒト化抗体を生成する際に使用するヒトの軽重両方の可変ドメインの選択が非常に重要である。「ベストフィット法」では、齧歯動物抗体の可変ドメインの配列を既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。次に齧歯動物のものと最も近いヒト配列をヒト化抗体のヒトFRとして受け入れる(Simsほか, J. Immunol., 151:2296 (1993);Chothiaら, J. Mol. Biol., 196:901(1987))。他の方法では、ヒト抗体配列の特定のサブグループに基づく「コンセンサス」フレームワークを使用する。同じコンセンサスフレームワークを幾つかの異なるヒト化抗体に使用できる(Carterほか, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992);Prestaほか, J. Immunol., 151:2623(1993))。
【0059】
更に、抗体を、抗原に対する高親和性や他の好ましい生物学的性質を保持してヒト化することが重要である。この目標を達成するべく、好ましい方法では、親及びヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列及び様々な概念的ヒト化産物の分析工程を経てヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルは一般的に入手可能であり、当業者にはよく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の推測三次元立体配座構造を図解し、表示するコンピュータプログラムは購入可能である。これら表示を見ることで、候補免疫グロブリン配列の機能における残基のありそうな役割の分析、すなわち候補免疫グログリンの抗原との結合能力に影響を及ぼす残基の分析が可能になる。このようにして、例えば標的抗原に対する親和性が向上するといった、望ましい抗体特性が達成されるように、FR残基をレシピエント及び移入配列から選択し、組み合わせることができる。一般的に、CDR残基は、直接かつ最も実質的に抗原結合性に影響を及ぼしている。
【0060】
別法として、内因性の免疫グロブリン産生がなくともヒト抗体の全レパートリーを免疫化することで産生することのできるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作ることが今は可能である。例えば、キメラ及び生殖系列突然変異体マウスにおける抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子の同型接合除去が内因性抗体産生の完全な阻害をもたらすことが記載されている。このような生殖系列突然変異体マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子列の転移は、抗原投与時にヒト抗体の産生をもたらす。Jakobovitsら, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 90:2551 (1993);Jakobovitsら, Nature 362:255-258 (1993); Bruggermanら, Year in Immuno., 7:33 (1993);Duchosalら, Nature 355:258(1992)を参照されたい。ヒト抗体は、ファージディスプレーライブラリーから取り出すこともできる(Hoogenboomら, J.Mol.Biol., 227:381(1991);Marksら, J.Mol.Biol. 222:581-597(1991);Vaughanら, Nature Biotech 14:309(1996))。
【0061】
(v) 抗体断片
抗体断片を生産するために様々な技術が開発されている。伝統的には、これらの断片は、無傷の抗体のタンパク分解性消化を介して誘導された(例えば、Morimotoら, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992)及びBrennanら, Science, 229:81(1985)を参照されたい)。しかし、これらの断片は現在は組換え宿主細胞により直接生産することができる。例えば、抗体断片は上において検討した抗体ファージライブラリーから分離することができる。別法として、Fab'-SH断片は大腸菌から直接回収することができ、化学的に結合させてF(ab')2断片を形成することができる(Carterら, Bio/Technology 10:163-167(1992))。他のアプローチ法では、F(ab')2断片を組換え宿主細胞培養から直接分離することができる。抗体断片の生産のための他の方法は当業者には明らかであろう。他の実施態様では、選択抗体は単鎖Fv断片(scFv)である。国際公開第93/16185号を参照のこと。
【0062】
(vi) 多重特異性抗体
多重特異性抗体は、少なくとも二つの異なる抗原に対する結合特異性を有する。このような分子は通常は二つの抗原を結合させるのみであるが(すなわち、二重特異性抗体、BsAbs)、三重特異性抗体のような更なる特異性を持つ抗体もここで使用される場合この表現に包含される。BsAbの例には、一方の腕が腫瘍細胞抗原に対し他方の腕が細胞毒性トリガー分子に対するもの、例えば抗FcγRI/抗CD15、抗p185HER2/FcγRIII(CD16)、抗CD3/抗悪性B細胞(1D10)、抗CD3/抗p185HER2、抗CD3/抗p97、抗CD3/抗腎臓細胞癌腫、抗CD3/抗OVCAR-3、抗CD3/L-D1(抗大腸ガン腫)、抗CD3/抗メラニン細胞刺激ホルモン類似体、抗EGFレセプター/抗CD3、抗CD3/抗CAMA1、抗CD3/抗CD19、抗CD3/MoV18、抗神経細胞接着分子(NCAM)/抗CD3、抗葉酸塩結合タンパク質(FBP)/抗CD3、抗全癌腫随伴抗原(AMOC-31)/抗CD3;腫瘍抗原に特異的に結合する一つの腕と毒素に結合する一つの腕を持つBsAb、例えば、抗サポリン/抗Id-1、抗CD22/抗サポリン、抗CD7/抗サポリン、抗CD38/抗サポリン、抗CEA/抗リシンA鎖、抗CEA/抗ビンカアルカロイド;(マイトマイシンホスフェートのマイトマイシンアルコールへの転換を触媒する)抗CD30/抗アルカリホスファターゼのような酵素活性化プロドラッグを転換するためのBsAb;抗フィブリン/抗組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、抗フィブリン/抗ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)のような線維素溶解剤として使用することができるBsAb;抗低密度リポタンパク質(LDL)/抗Fcレセプター(例えばFcγRI、FcγRII又はFcγRIII)のような細胞表面レセプターへ免疫複合体をターゲティングするためのBsAb;抗CD3/抗単純ヘルペスウィルス(HSV)、抗T細胞レセプター:CD3複合体/抗インフルエンザ、抗FcγR/抗HIVのような感染性疾患の治療に使用されるBsAb;抗CEA/抗EOTUBE、抗CEA/抗DPTA、抗p185HER2/抗ハプテンのようなインビトロ又はインビボでの腫瘍検出のためのBsAb;ワクチンアジュバントとしてのBsAb;及び抗ウサギIgG/抗フェリチン、抗セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)/抗ホルモン、抗ソマトスタチン/抗サブスタンスP、抗HRP/抗FITCのような診断ツールとしてのBsAbが含まれる。三重特異性抗体の例には、抗CD3/抗CD4/抗CD37、抗CD3/抗CD5/抗CD37及び抗CD3/抗CD8/抗CD37が含まれる。二重特異性抗体は全長抗体又は抗体断片(例えばF(ab')2二重特異性抗体)として調製することができる。
【0063】
二重特異性抗体を作成する方法は当該分野において既知である。全長二重特異性抗体の伝統的な組換え産生は二つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の同時発現に基づき、ここで二つの該鎖は異なる特異性を持っている(Millstein等, Nature, 305:537-539 (1983))。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖が無作為に取り揃えられているため、これらのハイブリドーマ(四部雑種)は10個の異なる抗体分子の可能性ある混合物を産生し、そのうちただ一つが正しい二重特異性構造を有する。通常、アフィニティークロマトグラフィー工程により行われる正しい分子の精製は、かなり煩わしく、生成物収率は低い。同様の方法が国際公開第WO 93/08829号及びTraunecker等,EMBO J., 10:3655-3659 (1991)に開示されている。
異なったアプローチ法によると、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗原−抗体結合部位)を、免疫グロブリン定常ドメイン配列と融合させる。該融合は好ましくは、少なくともヒンジの一部、CH2及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖定常部との融合である。軽鎖の結合に必要な部位を含む第一の重鎖定常領域(CH1)を、融合の少なくとも一つに存在させることが望ましい。免疫グロブリン重鎖の融合、そして、望まれるならば免疫グロブリン軽鎖をコードしているDNAを、別個の発現ベクター中に挿入し、適当な宿主生物に同時トランスフェクトする。これにより、作成に使用される三つのポリペプチド鎖の等しくない比率が最適な収率を提供する態様において、三つのポリペプチド断片の相互の割合の調節に大きな融通性が与えられる。しかし、少なくとも二つのポリペプチド鎖の等しい比率での発現が高収率をもたらすとき、又は、その比率が特に重要性を持たないときは、2または3個全てのポリペプチド鎖のためのコード化配列を一つの発現ベクターに挿入することが可能である。
このアプローチ法の好適な実施態様では、二重特異性抗体は、第一の結合特異性を有する一方の腕のハイブリッド免疫グロブリン重鎖、及び他方の腕のハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)で構成される。二重特異性分子の半分しか免疫グロブリン軽鎖がないことで容易な分離法が提供されるため、この非対称的構造は、所望の二重特異性化合物を不要な免疫グロブリン鎖の組み合わせから分離することを容易にすることが分かった。このアプローチ法は、国際公開第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体を作製する更なる詳細については、例えばSureshら, Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照されたい。
【0064】
国際公開第96/27011号に記載された他のアプローチ法によれば、一対の抗体分子間の界面を操作して組換え細胞培養から回収されるヘテロダイマーのパーセントを最大にすることができる。好適な界面は抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第1抗体分子の界面からの一又は複数の小さいアミノ酸側鎖がより大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)と置き換えられる。大きな側鎖と同じ又は類似のサイズの相補的「キャビティ」を、大きなアミノ酸側鎖を小さいもの(例えばアラニン又はスレオニン)と置き換えることにより第2の抗体分子の界面に作り出す。これにより、ホモダイマーのような不要の他の最終産物に対してヘテロダイマーの収量を増大させるメカニズムが提供される。
【0065】
二重特異性抗体は、架橋した又は「ヘテロコンジュゲート」抗体もまた含む。例えば、ヘテロコンジュゲートの抗体の一方はアビジンに結合され、他方はビオチンに結合され得る。そのような抗体は、例えば、不要の細胞に対する免疫系細胞をターゲティングするため(米国特許第4676980号)、及びHIV感染の治療のために提案された(国際公開91/00360号、同92/200373号、及び欧州特許第03089号)。ヘテロコンジュゲート抗体は、あらゆる簡便な架橋法を用いて作製することができる。好適な架橋剤は当該分野において良く知られており、幾つかの架橋技術と共に米国特許第4676980号に開示されている。
【0066】
抗体断片から二重特異性抗体を産生する技術もまた文献に記載されている。例えば、化学結合を使用して二重特異性抗体を調製することができる。Brennanら, Science, 229:81 (1985) は無傷の抗体をタンパク分解性に切断してF(ab')2断片を産生する手順を記述している。これらの断片は、ジチオール錯体形成剤亜砒酸ナトリウムの存在下で還元して近接ジチオールを安定化させ、分子間ジスルフィド形成を防止する。産生されたFab'断片はついでチオニトロベンゾアート(TNB)誘導体に転換される。Fab'-TNB誘導体の一つをついでメルカプトエチルアミンでの還元によりFab'-チオールに再転換し、他のFab'-TNB誘導体の等モル量と混合して二重特異性抗体を形成する。作られた二重特異性抗体は酵素の選択的固定化用の薬剤として使用することができる。
【0067】
最近の進歩により、大腸菌からのFab'-SH断片の直接の回収が容易になり、これは化学的に結合して二重特異性抗体を形成することができる。Shalabyら,J.Exp.Med., 175:217-225 (1992)は完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab')2分子の製造を記述している。各Fab'断片は大腸菌から別個に分泌され、インビトロで定方向化学共役を受けて二重特異性抗体を形成する。このようにして形成された二重特異性抗体は、正常なヒトT細胞及びErbB2レセプターを過剰発現する細胞に結合可能で、ヒト乳房腫瘍標的に対するヒト細胞障害性リンパ球の細胞溶解活性の誘因となる。
【0068】
組換え細胞培養から直接的に二重特異性抗体断片を作成し分離する様々な方法もまた記述されている。例えば、二重特異性抗体はロイシンジッパーを使用して生産されている。Kostelnyら, J.Immunol. 148(5):1547-1553 (1992)。Fos及びJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドを遺伝子融合により二つの異なった抗体のFab'部分に結合させる。抗体ホモダイマーをヒンジ領域で還元してモノマーを形成し、ついで再酸化して抗体ヘテロダイマーを形成する。この方法はまた抗体ホモダイマーの生産に対して使用することができる。Hollingerら, Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)により記述された「ダイアボディ」技術は二重特異性抗体断片を作成する別のメカニズムを提供した。断片は、同一鎖上の2つのドメイン間の対形成を可能にするには十分に短いリンカーにより軽鎖可変ドメイン(VL)に重鎖可変ドメイン(VH)を結合してなる。従って、一つの断片のVH及びVLドメインは他の断片の相補的VL及びVHドメインと強制的に対形成させられ、2つの抗原結合部位を形成する。単鎖Fv(sFv)ダイマーの使用により二重特異性抗体断片を製造する他の方策もまた報告されている。Gruberら, J.Immunol. 152:5368 (1994)を参照されたい。
二価より多い抗体も考えられる。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tuttら J.Immunol. 147:60(1991)。
【0069】
(vii) 例示的抗体
本発明の範囲において好ましい抗体には、rhuMAb 4D5(HERCEPTIN(登録商標))を含む抗HER2抗体(Carter等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285-4289 (1992), 米国特許第5725856号);米国特許第5736137号のキメラ抗CD20「C2B8」等の抗CD20抗体(RITUXAN(登録商標))、米国特許第5721108号に記載の2H7のキメラ変異体又はヒト化変異体又はトシツモマブ(BEXXAR(登録商標);抗IL−8(St John等, Chest, 103:932 (1993)、及び国際公開第95/23865号);ヒト化抗VEGF抗体huA4.6.1アバスチン(登録商標)等のヒト化及び/又は親和成熟抗VEGF抗体を含む抗VEGF抗体(Kim等, Growth Factors, 7:53-64 (1992), 国際公開第96/30046号及び1998年10月15日公開の国際公開第98/45331号);D3H44(WO01/70984)等のヒト化及び/又は親和成熟抗VEGF抗体を含む抗組織因子(TF)抗体(1994年11月9日付与の欧州特許第0420937B1);抗PSCA抗体(WO01/40309);S2C6及びそのヒト化変異体を含む抗CD40抗体(WO00/75348);抗CD11a(米国特許第5622700号、国際公開第98/23761号、Steppe等, Transplant Intl. 4:3-7 (1991), 及びHourmant等, Transplantation 58:377-380 (1994));抗CD18(1997年4月22日発行の米国特許第5622700号、又は1997年7月31日公開の国際公開第97/26912号);抗IgE(1998年2月3日発行の米国特許第5714338号又は1992年2月25日発行の同第5091313号、1993年3月4日公開の国際公開第03/04173号、1998年6月30日出願の国際出願番号PCT/US98/13410、米国特許第5714338、Presta等, J. Immunol. 151:2623-2632 (1993)、及び国際公開第95/19181号);抗Apo−2レセプター抗体(1998年11月19日公開の国際公開第98/51793号);cA2(レミケード(登録商標))、CDP571及びMAK−195を含む抗TNFα抗体(1997年9月30日発行の米国特許第5,672,347号、Lorenz等 J. Immunol. 156(4):1646-1653 (1996)、及びDhainaut等 Crit. Care Med. 23(9):1461-1469 (1995));抗ヒトα4β7インテグリン(1998年2月19日公開の国際公開第98/06248号);抗EGFR(1996年12月19日公開の国際公開第96/40210号に開示のキメラ又はヒト化225抗体);OKT3等の抗CD3抗体(1985年5月7日発行の米国特許第4515893号);CHI−621(シムレクト(登録商標))及び(ゼナパックス(登録商標))等の抗CD25又は抗tac抗体(1997年12月2日発行の米国特許第5693762号参照);cM−7412抗体等の抗CD4抗体(Choy等 Arthritis Rheum 39(1):52-56 (1996);CAMPATH-1H等の抗CD52抗体(Riechmann等 Nature 332:323-337 (1988);Graziano等 J. Immunol. 155(10):4996-5002 (1995)に開示されているFcγRIに対するM22抗体などの抗Fcレセプター抗体;hMN−14等の抗癌胎児性抗原(CEA)抗体(Sharkey等 Cancer Res. 55(23Suppl):5935s-5945s (1995));huBrE−3、hu−Mc3及びCHL6を含む胸部上皮細胞に対する抗体(Ceriani等 Cancer Res. 55(23):5852s-5856s (1995);及びRichman等 Cancer Res. 55 (23 Supp):5916s-5920s (1995));C242のように大腸癌細胞に結合する抗体(Litton等 Eur J. Immunol. 26(1):1-9 (1996);抗CD38抗体、例えばAT13/5(Ellis等 J. Immunol. 155(2):925-937 (1995));Hu M195等の抗CD33抗体(Jurcic等 Cancer Res 55 (23 Suppl):5908s-5910s (1995))及びCMA−676又はCDP771;LL2又はLymphoCideなどの抗CD22抗体(Juweid等 Cancer Res 55 (23 Suppl)5899s-5907s (1995));17−1A等の抗EpCAM抗体(PANOREX(登録商標));アブシキシマブ又はc7E3Fab等の抗GpIIb/IIIa抗体(レオプロ(登録商標));MEDI−493等の抗RSV抗体(シナジス(登録商標));PROTOVIR(登録商標)等の抗CMV抗体;PRO542等の抗HIV抗体;抗Hep B抗体OSTAVIR(登録商標)等の抗肝炎抗体;抗CA125抗体オバレックス;抗イディオタイプGD3エピトープ抗体BEC2;抗αvβ3抗体バイタクシン(登録商標);ch−G250等の抗ヒト腎細胞癌抗体;ING−1;抗ヒト17−1A抗体(3622W94);抗ヒト結腸直腸腫瘍抗体(A33);GD3ガングリオシドに対する抗ヒト黒色腫抗体R24;抗ヒト扁平細胞癌(SF−25);及び、Smart ID10等の抗ヒト白血球抗原(HLA)抗体又は抗HLA DR抗体Oncolym(Lym−1)が含まれる。
【0070】
(viii) 免疫コンジュゲート
また本発明はここで記載され、細胞障害剤、例えば化学療法剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物または動物由来の酵素活性毒又はそれらの断片)、又は放射性アイソトープ(すなわち、放射性コンジュゲート)に抱合した抗体を含有する免疫コンジュゲートに関する。
【0071】
このような免疫コンジュゲートの生成に有用な化学療法剤は上述している。使用可能な酵素活性毒及びその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性断片、外毒素A鎖(シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa))、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシン(modeccin)A鎖、アルファ-サルシン(sarcin)、アレウライツ・フォルディイ(Aleurites fordii)プロテイン、ジアンシン(dianthin)プロテイン、フィトラッカ・アメリカーナ(Phytolaca americana)プロテイン(PAPI、PAPII及びPAP-S)、モモルディカ・キャランティア(momordica charantia)インヒビター、クルシン(curcin)、クロチン、サパオナリア(sapaonaria)オフィシナリスインヒビター、ゲロニン(gelonin)、マイトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン、エノマイシン及びトリコセセンス(tricothecenes)が含まれる。種々の放射性核種も放射性コンジュゲート抗体の産生に利用できる。具体例には212Bi、131I、131In、90Y及び186Reが含まれる。
【0072】
抗体と細胞障害剤のコンジュゲートは、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオール)プロピオナート(SPDP)、イミノチオラン(IT)、イミドエステル類の二官能性誘導体(例えばジメチルアジピミダートHCL)、活性エステル類(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド類(例えば、グルタルアルデヒド)、ビスアジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トリエン-2,6-ジイソシアネート)、及び二活性フッ素化合物(例えば、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を使用して作製することができる。例えば、リシン免疫毒素は、Vitettaら, Science 238:1098(1987)に記載されているようにして調製することができる。炭素-14標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレン-トリアミン五酢酸(MX-DTPA)が抗体に放射性ヌクレオチドをコンジュゲートするためのキレート剤の例である。国際公開第94/11026号を参照されたい。
【0073】
B.ベクター、宿主細胞及び組換え方法
本発明はまたここに開示した抗体変異体をコードしている単離された核酸、該核酸を含むベクター及び宿主細胞、及び抗体変異体の生産に対する組換え技術を提供する。
抗体変異体の組換え生産のために、それをコードする核酸が単離され、さらなるクローニング(DNAの増幅)又は発現のために、複製可能なベクター内に挿入される。抗体変異体をコードするDNAは直ぐに単離され、通常の手法(例えば、抗体変異体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドプローブを使用するもの)を用いて配列決定される。多くのベクターが公的に入手可能である。ベクター成分としては、一般に、これらに制限されるものではないが、次のものの一又は複数が含まれる:シグナル配列、複製開始点、一又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列である。このようなベクター成分は国際公開第00/29584号に開示されており、ここに出典明示ににより同開示内容を本明細書に包含する。
【0074】
ここに記載のベクターにDNAをクローニングあるいは発現するために適切な宿主細胞は、上述の原核生物、酵母、又は高等真核生物細胞である。この目的にとって適切な原核生物は、限定するものではないが、真正細菌、例えばグラム陰性又はグラム陽性生物体、例えばエシェリチアのような腸内菌科、例えば大腸菌、エンテロバクター、エルウィニア(Erwinia)、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えばネズミチフス菌、セラチア属、例えばセラチア・マルセスキャンス及び赤痢菌属、並びに桿菌、例えば枯草菌及びバシリ・リチェニフォルミス(licheniformis)(例えば、1989年4月12日に公開されたDD266710に開示されたバシリ・リチェニフォルミス41P)、シュードモナス属、例えば緑膿菌及びストレプトマイセス属を含む。一つの好適な大腸菌クローニング宿主は大腸菌294(ATCC31446)であるが、他の大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC31537)及び大腸菌W3110(ATCC27325)のような株も好適である。これらの例は限定するものではなく例示的なものである。
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母菌のような真核微生物は、抗体をコードするベクターの宿主をクローニング又は発現するのに適している。サッカロミセス・セレヴィシア、又は一般的なパン酵母は下等真核生物宿主微生物のなかで最も一般的に用いられる。しかしながら、多数の他の属、種及び菌株も、一般的に入手可能でここで使用でき、例えば、シゾサッカロマイセスポンベ;クルイベロマイセス宿主、例えばK.ラクティス、K.フラギリス(ATCC12424)、K.ブルガリカス(ATCC16045)、K.ウィッケラミイ(ATCC24178)、K.ワルチイ(ATCC56500)、K.ドロソフィラルム(ATCC36906)、K.サーモトレランス、及びK.マルキシアナス;ヤローウィア(EP402226);ピチアパストリス(EP183070);カンジダ;トリコデルマ・リーシア(EP244234);アカパンカビ;シュワニオマイセス、例えばシュワニオマイセスオクシデンタリス;及び糸状真菌、例えばパンカビ属、アオカビ属、トリポクラジウム、及びコウジカビ属宿主、例えば偽巣性コウジ菌及びクロカビが使用できる。
【0075】
グリコシル化抗体の発現に適切な宿主細胞は、多細胞生物から誘導される。無脊椎動物細胞の例としては植物及び昆虫細胞が含まれる。多数のバキュロウィルス株及び変異体及び対応する許容可能な昆虫宿主細胞、例えばスポドプテラ・フルギペルダ(毛虫)、アエデス・アエジプティ(蚊)、アエデス・アルボピクトゥス(蚊)、ドゥロソフィラ・メラノガスター(ショウジョウバエ)、及びボンビクス・モリが同定されている。トランスフェクションのための種々のウィルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカNPVのL-1変異体とボンビクス・モリ NPVのBm-5株が公に利用でき、そのようなウィルスは本発明においてここに記載したウィルスとして使用でき、特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞の形質転換に使用できる。綿花、コーン、ジャガイモ、大豆、ペチュニア、トマト、及びタバコのような植物細胞培養を宿主として利用することもできる。
【0076】
しかしながら、脊椎動物細胞におけるものが最も興味深く、培養(組織培養)中での脊椎動物細胞の増殖は常套的な手順になった。有用な哺乳動物宿主株化細胞の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株 (COS-7, ATCC CRL 1651);ヒト胚腎臓株(293又は懸濁培養での増殖のためにサブクローン化された293細胞、Grahamほか, J. Gen Virol., 36:59 (1977));ハムスター乳児腎細胞(BHK, ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO, Urlaub等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216 (1980));マウスのセルトリ細胞(TM4, Mather, Biol. Reprod., 23:243-251 (1980));サルの腎細胞 (CV1 ATCC CCL 70); アフリカミドリザルの腎細胞(VERO-76, ATCC CRL-1587); ヒト子宮頸癌細胞 (HELA, ATCC CCL 2); イヌ腎細胞 (MDCK, ATCC CCL 34); バッファローラット肝細胞 (BRL 3A, ATCC CRL 1442); ヒト肺細胞 (W138, ATCC CCL 75); ヒト肝細胞 (Hep G2, HB 8065); マウス乳房腫瘍細胞 (MMT 060562, ATCC CCL51);TRI細胞(Motherほか, Annals N.Y. Acad. Sci., 383:44-68 (1982));MRC5細胞;FS4細胞;及びヒト肝癌株(HepG2)である。
宿主細胞は、抗体生成のための前記発現又はクローニングベクターで形質転換し、プロモーターを誘導し、形質転換体を選択し、又は所望の配列をコードしている遺伝子を増幅するために適当に修飾された常套的栄養培地で培養する。
【0077】
本発明の抗体変異体を生成するために用いられる宿主細胞は種々の培地において培養することができる。市販培地の例としては、ハム(Ham)のF10(シグマ)、最小必須培地(「MEM」,シグマ)、RPMI-1640(シグマ)及びダルベッコの改良イーグル培地(「DMEM」,シグマ)が宿主細胞の培養に好適である。また、Ham等, Meth. Enz. 58:44 (1979), Barnes等, Anal. Biochem. 102:255 (1980), 米国特許第4767704号;同4657866号;同4927762号;4560655号;又は同5122469号;国際公開第90/03430号;国際公開第87/00195号;又は米国再発行特許第30985号に記載された任意の培地も宿主細胞に対する培地として使用できる。これらの培地はいずれも、ホルモン及び/又は他の成長因子(例えばインスリン、トランスフェリン、又は表皮成長因子)、塩類(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩)、バッファー(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えば、ゲンタマイシン(商標)薬)、微量元素(最終濃度がマイクロモル範囲で通常存在する無機化合物として定義される)及びグルコース又は同等のエネルギー源を必要に応じて補充することができる。任意の他の必要な補充物質もまた当業者に知られている適当な濃度で含むことができる。培養条件、例えば温度、pH等々は、発現のために選ばれた宿主細胞について以前から用いられているものであり、当業者には明らかであろう。
【0078】
組換え技術を用いる場合、抗体変異体は細胞内、細胞膜周辺腔に生成され、又は培地内に直接分泌される。抗体変異体は細胞内に生成された場合、第1の工程として、粒子状の細片、宿主細胞又は溶解された断片のいずれかが、例えば遠心分離又は限外濾過によって除去される。抗体変異体が培地に分泌された場合、そのような発現系からの上清は、一般的には第1に市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAmicon又はMillipore Pelliconの限外濾過ユニットを用いて濃縮する。PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を上記工程の何れかに含めてタンパク質分解を阻害してもよく、抗生物質を含めて外来性の汚染物の成長を防止してもよい。
細胞から調製した抗体組成物は、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及びアフィニティクロマトグラフィを用いて精製でき、ここで、アフィニティクロマトグラフィが好ましい精製技術である。アフィニティリガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体変異体に存在する免疫グロブリンFc領域の種及びアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖に基づく抗体の精製に用いることができる(Lindmark等, J. immunol. Meth. 62: 1-13 (1983))。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプ及びヒトγ3に推奨されている(Guss等, EMBO J. 5: 15671575 (1986))。アフィニティリガンドが結合されるマトリクスはアガロースであることが最も多いが、他の材料も使用可能である。孔制御ガラスやポリ(スチレンジビニル)ベンゼン等の機械的に安定なマトリクスは、アガロースで達成できるものより早い流速及び短い処理時間を可能にする。抗体変異体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX(商品名)樹脂(J.T. Baker, Phillipsburg, NJ)が精製に有用である。イオン交換膜での分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ上のクロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換樹脂(ポリアスパラギン酸カラム)上でのヘパリンSEPHAROSE(商品名)クロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS−PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿も、回収される抗体変異体に応じて利用可能である。
【0079】
C.製薬製剤
抗体変異体の治療用製剤は、所定の純度を持つ抗体変異体と、場合によっては製薬的に許容される担体、賦形剤又は安定化剤を混合することにより(Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. 編, (1980))、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で調製されて保存される。許容される担体、賦形剤又は安定化剤は、用いられる用量及び濃度でレシピエントに非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸等のバッファー;アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ヘキサメトニウムクロリド、ベンズアルコニウムクロリド、ベンズエトニウムクロリド、フェノール、ブチル又はベンジルアルコール、メチル又はプロピルパラベン等のアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、及びm-クレゾール等);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート化剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール等の糖;ナトリウム等の塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);及び/又はTWEEN(商品名)、PLURONICS(商品名)又はポリエチレングリコール(PEG)のような非イオン性界面活性剤を含む。
ここでの製剤は、治療される特定の徴候のために必要ならば1以上の活性化合物も含んでよく、好ましくは互いに悪影響を与えない相補的活性を持つものである。例えば、免疫抑制剤を提供することが望ましい場合がある。そのような分子は、意図する目的のために有効な量で組み合わされて存在する。
また活性成分は、各々例えばコアセルベーション技術又は界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えばヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリ(メタクリル酸メチル)マイクロカプセル、コロイド状ドラッグデリバリー系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルション中に捕捉させてもよい。このような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. 編, (1980)に開示されている。
インビボ投与に使用される製剤は無菌でなければならない。これは、滅菌濾過膜を通して濾過することにより容易に達成される。
徐放性製剤を調製してもよい。徐放性製剤の好ましい例は、抗体変異体を含む疎水性固体ポリマーの半透性マトリクスを含み、そのマトリクスは成形物、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態である。徐放性マトリクスの例は、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)又はポリ(ビニルアルコール)、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号))、L-グルタミン酸及びエチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOT(商品名)(分解性乳酸グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドからなる注射可能なミクロスフィア)、及びポリ-D-(−)-3-ヒドロキシブチル酸を含む。エチレン-酢酸ビニル及び乳酸-グリコール酸等のポリマーは、分子を100日以上かけて放出することを可能にするが、ある種のヒドロゲルはタンパク質をより短い時間で放出する。カプセル化された抗体が体内に長時間止まると、37℃の水分に暴露された結果として変性又は凝集し、生物学的活性及び免疫原性における可能な変化を喪失させる。合理的な戦略は、含まれるメカニズムに応じて安定化のために考案できる。例えば、凝集メカニズムがチオ−ジスルフィド交換を通した分子間S-S結合であることが見いだされた場合、安定化はスルフヒドリル残基の修飾、酸性溶液からの凍結乾燥、水分含有量の制御、適当な添加剤の使用、及び特定のポリマーマトリクス組成物の開発によって達成される。
【0080】
D.抗体変異体の非治療的用途
本発明の抗体変異体は、アフィニティ精製剤として使用することができる。このプロセスでは、抗体変異体は、この分野で良く知られた方法を用いてセファデックス樹脂又は濾紙などの固相上に固定化される。固定化された抗体変異体を精製すべき抗原を含有する試料と接触させ、その後支持体を適当な溶媒で洗浄し、その溶媒は、固定化抗体変異体に結合した精製すべき抗原を除く試料中の実質的に全ての物質を除去する。最後に、支持体をグリシンバッファー、pH5.0等の他の適当な溶媒で洗浄して、抗原を抗体変異体から放出させる。
また抗体変異体は、例えば、対象とする抗原の特定細胞、組織、又は血清における発現を検出するための診断アッセイにおいても有用である。
診断的応用においては、抗体変異体は典型的に検出可能な部分で標識される。多数の標識は利用可能であり、それらは一般的に以下の範疇にグループ分けされる:
(a)放射性同位体、例えば、35S、14C、125I、3H及び131I等。抗体変異体は、例えばCurrent Protocols in Immunology, Volumes 1 and 2, Coligen等, 編, Wiley-Interscience, New York, New York, Pubs. (1991)に記載された技術を用いて放射性同位体で標識され、放射活性はシンチレーションカウンティングにより測定できる。
(b)蛍光標識、例えば希土類キレート(ユーロピウムキレート類)又はフルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、リサミン(Lissamine)、フィコエリトリン及びテキサスレッド等が使用できる。蛍光標識は、例えば上掲のCurrent Protocols in Immunologyに開示された技術を用いて抗体変異体に抱合させることができる。蛍光は蛍光計によって定量可能である。
(c)種々の酵素−基質標識が利用でき、米国特許第4275149号は、それらの幾つかの概説を提供している。酵素は一般に、種々の技術を用いて測定可能な色素原基質の化学変換を触媒する。例えば、酵素は基質における色変化を触媒視、それは分光学的に測定可能である。あるいは、酵素は基質の蛍光又は化学発光を変化させることもある。蛍光変化を定量化する技術は上述した。化学発光基質は化学反応によって電子的に励起され、次いで(例えば化学発光計を用いて)測定可能な光を放出する、または蛍光受容体にエネルギーを供与する。酵素標識の例は、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ;米国特許第4737456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、リンゴ酸塩デヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRPO)等のペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リソザイム、糖類オキシダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ)、ヘテロ環オキシダーゼ(ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ等)、ラクトペルオキシダーゼ、ミクロペルオキシダーゼ等を含む。酵素を抗体に抱合させる技術は、O'Sullivan等, Methods for Preparation of Enzyme-Antibody Conjugates for use in Enzyme Immunoassay, in Methods in Enzym. (編J. Langone & H. Van Vunakis)Academic press, New York, 73: 147-166 (1981)に記載されている。
【0081】
酵素−基質の組み合わせは、例えば以下を含む:
(i)基質としての過酸化水素と併用するセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRPO)、ここで、過酸化水素が染料前駆物質(例えば、オルトフェニレンジアミン(OPD)又は3,3',5,5'-テトラメチルベンジジンヒドロクロリド(TMB))を酸化する;
(ii)色素原基質としてのパラ-ニトロフェニルホスフェートと併用するアルカリホスファターゼ(AP);
(iii)色素原基質(例えば、p-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシダーゼ)又は蛍光原基質4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトシダーゼと併用するβ-D-ガラクトシダーゼ(β-D-Gal)。
当業者には、多くの他の酵素−基質の組み合わせが利用可能である。これらの一般的な概説は、米国特許第4275149号及び同第4318980号を参照。
標識は抗体変異体に間接的に抱合されるときもある。当業者であれば、これを達成するための種々の技術が分かるであろう。例えば、抗体変異体にビオチンを抱合し、上記3つの範疇の標識の任意のものにアビジンを抱合する、又はその逆が可能である。ビオチンはアビジンに選択的に結合し、よってこの間接的な方式で抗体変異体に標識を抱合させることができる。あるいは、抗体変異体での標識の間接的抱合を達成するために、抗体変異体に小さなハプテン(例えばジゴキシン)を抱合させ、上記した異なる型の標識を抗ハプテン抗体変異体(例えば抗ジゴキシン抗体)に抱合させる。よって抗体変異体での標識の間接的抱合が達成できる。
本発明の他の実施態様では、抗体変異体を標識する必要はなく、その存在を、抗体変異体に結合する標識抗体を用いて検出することができる。
本発明の抗体変異体は任意の公知のアッセイ方法、例えば競合結合アッセイ、直接及び間接サンドウィッチアッセイ、及び免疫沈降アッセイ等で用いられうる。Zola, Monoclonal Antibodies: A Manual of Techniques, pp. 147-158 (CRC Press, Inc. 1987)。
【0082】
競合的結合アッセイは、限定された量の抗体変異体との結合について被験サンプル分析物と競合する標識された標準物質の能力に依存する。被験サンプル内の抗原の量は抗体に結合する標準物質の量と反比例する。結合する標準物質の量を測定し易くするため、一般的に競合前又は競合後に抗体を不溶化させて、抗体に結合しなかった標準物質及び分析物から、抗体に結合した標準物質及び分析物を簡便に分離できるようにする。
サンドイッチアッセイでは、検出するべきタンパク質の異なる免疫原性部分又はエピトープにそれぞれ結合する二つの抗体を用いる。サンドイッチアッセイでは、被試験分析物を固体支持体に固定される第一抗体と結合させ、その後分析物に第二抗体を結合させ、不溶性の三部複合体を形成する。例えば、米国特許第4376110号を参照。第二抗体は、それ自体を検出可能部分で標識する(直接サンドイッチアッセイ)か、検出可能部分で標識される抗イムノグロブリン抗体を使用して測定する(間接サンドイッチアッセイ)。例えば、サンドイッチアッセイの一種はELISAアッセイであり、この場合には検出可能部分は酵素である。
免疫組織化学では、例えば腫瘍標本は生又は冷凍であるか、又はパラフィンに埋め込まれたり、ホルマリンのようなもので固定され得る。
また抗体変異体は、インビボ診断アッセイでも使用できる。一般的に、抗体変異体は放射性核種(111In、99Tc、14C、131I、125I、3H、32P又は35P等)で標識され、抗原又はそれを発現する細胞が免疫シンチオグラフィーによって局在化できる。
【0083】
E.診断用キット
便宜上、本発明の抗体変異体はキット、すなわち診断アッセイを実施するための使用説明書と、予め定められた量の試薬を組合せて包装したもので提供されうる。抗体変異体が酵素で標識される場合は、キットは基質と酵素に必要な補因子を含有する(例えば、検出可能な発色団又は蛍光団を提供する基質先駆物質)。加えて、他の添加剤、例えば安定剤、バッファー(例えばブロックバッファー又は溶菌バッファー)等も含まれる。種々の試薬の相対量は広範囲で変えることができ、アッセイの感度を実質的に最適にするような試薬溶液中の濃度が提供される。特に、試薬は、通常は凍結乾燥され、溶解時に適切な濃度を有する試薬溶液を提供する賦形剤を含む乾燥パウダーとして提供される。
【0084】
F.抗体変異体のインビボ用途
治療への応用としては、本発明の抗体変異体は、哺乳動物、好ましくはヒトに、製薬的に許容できる前記したような投与形態、例えば、ボーラスとして又は所定時間に渡る連続注入によるヒト静脈内投与、筋肉内、腹膜内、脳脊髄内、皮下、関節間、滑膜内、鞘内、経口、局所、又は吸入経路などにより、投与される。抗体はまた、腫瘍内、腫瘍周囲、又は傷内、傷周囲経路などによって、局部並びに全身的治療効果を生じるように、適切に投与される。腹膜内経路は、例えば卵巣腫瘍の治療等に、特に有用であることが期待される。加えて、抗体変異体は特に減少させた抗体変異体用量で、パルス注入によって適切に投与される。好ましくは、投与は注射によって、最も好ましくは、部分的には投与が簡潔か慢性的かに応じて、静脈内又は皮下注射によってなされる。
疾患の予防又は治療のために、抗体変異体の適切な用量は、治療すべき疾患の型、疾患の重篤さ及び経路、抗体変異体投与が予防的か治療目的か、従前の治療、患者の臨床履歴及び抗体変異体に対する反応、及び担当医師の裁量に依存する。抗体変異体は、一時に又は一連の治療を通じて適切に患者に投与される。
【0085】
ここでの例は抗VEGF抗体に関係する。抗VEGF抗体は様々な新生物及び非新生物の病気や疾患の治療に有用である。治療できる新生物及び関係病状は乳癌、肺癌、胃癌、食道癌、結腸直腸癌、肝臓癌、卵巣癌、テコーマ、男性化腫瘍、頸癌、子宮内膜癌、子宮内膜増殖症、子宮内膜症、線維内腫、絨毛癌、頭部及び頸部の癌、鼻咽腔癌、喉頭癌、肝芽腫、カポジ肉腫、黒色腫、皮膚癌、血管腫、海綿状血管腫、血管芽細胞腫、膵臓癌、網膜芽腫、星状細胞腫、膠芽細胞腫、鞘細胞腫、乏突起膠腫、髄芽細胞腫、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫、尿路癌、甲状腺癌、ウィルム腫瘍、腎細胞癌、前立腺癌、母斑症に関する異常血管増殖、(脳腫瘍に関係するような)水腫、メーグス症候群を含む。
処置すべき非新生物の症状は、リウマチ様関節炎、乾癬、アテローム性動脈硬化、未熟網膜症を含む糖尿病やその他の増殖網膜症、水晶体後線維増殖症、血管新生緑内障、老人性黄斑変性、(グレーブス症を含む)甲状腺過形成、角膜やその他の組織の移植、慢性炎症、肺炎、ネフローゼ症候群、子癇前症、腹水症、(心膜症のような)心外膜液、胸水を含む。
加齢性黄斑変性(AMD)は老齢者における深刻な視力喪失の主たる原因である。AMDの滲出形態は脈絡膜新生血管症や網膜色素上皮細胞剥離が特徴的である。脈絡膜新生血管症は前兆において急激な悪化を伴うので、本発明のVEGF抗体はAMDの重症度の軽減に特に有用であることが期待される。
【0086】
疾患の重篤さに応じて、約1μg/kgから15mg/kg(例えば、0.1−20mg/kg)の抗体変異体が、患者への候補となる初期投与であり、例えば一又は複数の別々の投与、あるいは連続注入のいずれかによる。典型的な1日の用量は、約1μg/kgから100mg/kg以上の範囲であるが、上記の要因に依存する。数日間以上に渡る繰り返し投与については、状態に応じて、望まれる疾患状態の抑制が起こるまで治療を続ける。しかしながら、他の用量計画も有用である場合もある。この療法の進行は、従来の技術及びアッセイで容易に監視できる。抗体変異体の会合速度に向上が見られれば、抗体変異体の投与量を(親抗体と比較して)減らしてもよい。
抗体変異体組成物が処方され、用量決定(dose)され、良好な医学的実務に適合する方式で投与される。ここで考慮すべき因子は、治療される特定の疾患、治療される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床的状態、疾患の原因、薬剤の輸送部位、投与方法、投与計画、及び医学実務者に知られた他の因子を含む。投与すべき抗体変異体の「治療的有効量」は、それらを考慮して決定され、疾患又は障害を予防、改善、又は治療するのに必要な最小量である。抗体変異体は、問題とする疾患の予防又は治療に現在使用されている一又は複数の他の薬剤とともに製剤する必要はないが、場合によってはそのようにされる。そのような他の薬剤の有効量は、製剤中に存在する抗体変異体の量、疾患又は治療の型、及び上述した他の因子に依存する。これらは、一般的にはこれまでに使用されたのと同じ用量かつ投与経路で、あるいはこれまでに使用された用量の1から99%で用いられる。
【0087】
G. 製造品
本発明の他の実施態様では、前述したような疾患の治療に有用な製品を含む製造品が提供される。製造品は容器とラベルを含む。好適な容器には、例えば、ビン、バイアル、シリンジ及び試験管が含まれる。容器はガラス又はプラスチックのような様々な材料で形成することができる。容器は病状を治療するのに効果的な組成物を収容し、殺菌されたアクセスポート(例えば、容器は皮下注射針により穿孔可能な栓を持つバイアル又は静脈注射用溶液袋でありうる)を持ちうる。組成物中の活性剤は抗体変異体である。容器のラベル、または容器に伴うラベルには、組成物が選択される症状を処置するのに使用されることが示されている。製造物は、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー液及びデキストロース溶液のような製薬的に許容される緩衝液を含む第2の容器を更に含みうる。更に商業的に又は利用者の立場から好ましい他の材料(他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、使用説明書が備わったパッケージ挿入物)を含み得る。
【0088】
H.抗原会合速度アッセイ
本出願は、また、抗体(例えば上述したような抗体変異)の抗原会合速度を測定するのに使用できるアッセイ法も開示する。本方法は、会合速度が遅いため、抗体−抗原複合体の形成を経時的に定量化できる抗体(抗原に対する結合定数が、例えば約105M−1秒−1より遅いか、又は106M−1秒−1より遅い抗体)に特に適している。抗原会合定数の遅い抗体の一例は、VEGFに結合する抗VEGF抗体であり、本明細書に記載の様々な抗VEGF抗体により実証される。
ここでのアッセイ法は、(1)抗体と抗原を溶液中で組み合わせる(混合する)工程と、次いで(2)経時的に抗体−抗原複合体の生成を測定する工程とを含む。つまり、複合体生成の測定は抗体と抗原を組み合わせた後に行う。経時的な複合体の生成は、蛍光度の測定又は複合体の吸収の測定といった様々な方法の使用、あるいはNMRの使用により測定することができる。しかしながら、好ましい実施態様によれば、本方法の第二の工程は、抗体−抗原複合体の蛍光発光強度を経時的に測定することを含む。これは、抗体又は抗原が、抗原−抗体の結合界面にトリプトファン残基を有する場合、トリプトファン残基の蛍光発光強度(トリプトファン残基が結合界面上に埋没している場合に変化する)を測定することができるので、達成可能である。蛍光発光強度は、約280−310nm(例えば295nm)の励起波長を使用し、約330−360nm(例えば約340nm)の波長における発光を検出することにより測定可能である。
以下の実施例は、本発明の実施の単なる例示であり、限定的な意味は有していない。本明細書で引用する全ての特許及び科学文献は、ここに出典明示により本明細書に包含する。
【0089】
実施例1
本実施例では、標的部位のリストを実験的に取り扱い可能な数まで減らす一連の基準を用いて潜在的オンレート増幅部位を同定することにより、大がかりな演算を実施することなく、静電ステアリングの原理を適用して、抗体のその抗原に対する結合のオンレートを上昇させることができることを実証する。特定の実施例は、抗VEGF Y0101抗体Fab断片の修飾である(図1A−B)。同定された標的部位に突然変異を生じているFab Y0101は、蛍光に基づくアッセイにより特徴付けられ、マグニチュードのオーダーに近い会合速度の上昇を示した。更に、Fab−VEGF複合体について観察された会合速度は、相互作用のDebye−Huckelエネルギーの計算から予測されたものと何ら相関関係を示さなかった。より速いオンレートを有するFab Y0101の変異体は、その親和性が高いことから、VEGFのより有力なアンタゴニストと予測されるだけでなく、結合の速さによりさらに効力が大きいとも予測される。後者のこのような重要性は、Fab Y0101−VEGF複合体の会合及び解離速度が典型的なタンパク質−タンパク質相互作用と比較してマグニチュードのオーダーの差異を生じるほど遅いため、判らない(Chen等 Journal of Molecular Biology 293(4):865-81 (1999); Gabdoulline等 Journal of Molecular Biology 306(5):1139-55 (2001))。本明細書に記載したON−RAMPSの同定のための基準は、その抗原との会合及び全体的結合親和性を向上させるための抗体断片の再設計を導くのに十分である。
【0090】
材料及び方法
オンレート増幅部位(On−RAMPS)の同定
抗体断片(Fab)には約445の残基が存在するため、リガンドとのその会合速度を向上させる1つの工程は、電荷相補性を上昇させるように変異させたときに2つのタンパク質間の静電的相互作用エネルギーを有意に変更する残基の同定を含む。これらの「オンレート増幅部位」(On−RAMPS)を同定するため、次の基準を適用した:
1)埋没残基の変異はFabを不安定化しうるので、残基の側鎖表面積の少なくとも3分の1が溶媒に露出している。
2)静電引力が距離の関数として減衰するので、残基は結合状態でVEGFの少なくとも16Å以内である。
3)直接接触残基の変異は結合複合体を不安定化しうるので、残基は結合状態でVEGFに直接接触しなかった。
4)患者に免疫原性反応を誘発する可能性が低い徴候があるので、相補性決定領域(CDR)内に存在した残基の方をそうでない残基より優先的に使用した。
5)Fabと抗原との間の電荷相補性を増大させることが可能な残基のみを考慮した。例えば、Y0101のVL−D28を変異させてその電荷を中和する(D28N)か又は逆転(D28K)し、負の電荷を有する抗原の相補性を向上させることができるが、一方、残基VH−K64はその正の電荷が増大するように変異させることはできない。
【0091】
突然変異生成、タンパク質の発現及び精製
VEGFの短いアイソフォーム(8−109)を過去に記載されているようにして作成した(Christinger等 Proteins 26(3):353-7 (1996))。Fabの突然変異による変異体を構築及び精製するための方法はこれまでに開示されている(Muller等 Structure 6(9):1153-67 (1998))。簡単に説明すると、Kunkelにより開発された方法を使用してオリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発により点突然変異を行わせた(Kunkel, T.A. Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA 82(2):488-92 (1985))。Fabを、非サプレッサー大腸菌細胞系34B8内での誘導により発現させ(Baca等 Journal of Biological Chemistry 272(16):10678-84 (1997))、回収した細胞に浸透圧度ショックをかけた後、タンパク質G樹脂(Amersham)を用いた親和性クロマトグラフィーにより精製した。典型的な収率は、成長1リットルにつきFab2ナノモルであった。
【0092】
会合速度アッセイ
ここに記載した実験では、25mMのTris、pH7.2中に約10nMのFabを含む37℃に保たれた攪拌されたキュベットにVEGFを加えてから、SLM−アミンコ社製の8000シリーズの分光光度計(THERMOSPECTRONIC(登録商標))を使用して(蛍光発光強度(λexcitation=295nm;λemission=340nm、16nmバンドパス)を測定した。
【0093】
解離速度アッセイ
上述したように(Muller等 Structure 6(9):1153-67 (1998))、BIACORE-2000(登録商標)機器(BIAcore, Inc.)を用いて表面プラズモ共鳴により解離速度を測定した。共鳴−応答単位約10におけるB1チップへのアミンカップリングによりVEGFを固定化した。Fab結合を、1μM、500nM、250nM、125nM、62.5nM及び31.3nMにおいて測定した。解離の計算においては1対1の結合モデルを仮定した。全ての実験は、Tween−20を0.05%、NaN3を0.01%含み、流速20μL分−1、pH7.2の、37℃のリン酸緩衝食塩水中において行った。
【0094】
結果
会合速度アッセイの開発
表面プラズモ共鳴技術は親和性の測定に適していることが実証されているが、特定の結合相互作用を持つ変異体間のわずかな差異は、流動力学の複雑性(Fivash等 Current Opinion in Biotechnology 9(1):97-101 (1998))及び非特異的アミンカップリング(Kortt等 Analytical Biochemistry 253(1):103-11 (1997))から、単純に、適切に畳み込まれた活性のあるタンパク質の濃度を正確に測定することができないことにわたる、複数の原因により、認知されない可能性がある。
ここで行われた研究は抗VEGF Fabの変異体間の会合速度の差異に関しているので、Fab変異体の濃度に関係なく、溶液中での相互作用を表すオンレートの微妙な差異を検出するのに十分な感度を有するアッセイを開発した。
【0095】
トリプトファン残基の蛍光特性はそれらの局所的環境に感受性である(Lakowicz, J. R. (1999) Principles of fluorescence spectroscopy. 2nd edit, Kluwer Academic Press, New York, N. Y.)。本研究で使用するVEGF及び抗VEGF Fabの共通構造によって明らかであるように(Muller等 Structure 6(9):1153-67 (1998))、Fabには、結合状態でVEGFとの直接接触を形成し、且つ非結合状態から結合状態に移行すると変化すると思われる蛍光特性を有するトリプトファンが3つ含まれる。VEGFには、トリプトファンが含まれていないが、Fabと結合界面を形成し、励起された場合に蛍光スペクトルに寄与する可能性のあるそのような2つのチロシンと1つのフェニルアラニンを含む(Muller等 Structure 6(9):1153-67 (1998))。このようなエラーの潜在的発生源を排除するため、波長295nmの励起を使用して、蛍光アッセイを実施する。この波長は、チロシン及びフェニルアラニンの励起スペクトルとの重複が最小である(Lakowicz, J. R. Princeples of Fluorescence spectroscopy. 2nd edit, Kluwer Academic Press, New York, N. Y. (1999))。
Fab−VEGF複合体の蛍光強度は、成分の個々の蛍光強度の合計よりも大きい(図2)。蛍光強度の上昇率は単一の指数関数曲線に一致し得る(図3)。VEGF濃度の関数として観察された速度をプロットすることにより、擬似一次解析が可能であり、傾斜は反応のk1、y切片はk−1である(図4)(Johnson, K. A. Transient-state kinetic analysis of enzyme reaction pathways. In The Enzymes, Vol. 20:pp.1-61. Academic Press, Inc. (1992))。
【0096】
On−RAMPSの同定
上述の基準を適用することにより、突然変異誘発の可能性のある部位の数は445残基から22に減少した(表1)。溶媒への露出という第一の基準により、その数は173に減少した。VEGFが16Å以内にあるという第二の基準により、その数は47に減少した。VEGFに直接接触していないという第三の基準により、その数は31に減少した。残基がCDR内に存在するという第四の基準により、その数は23に減少した。最後に、負の電荷を有するVEGFにより相補性を増大させることはできないので、最後の基準により更に1つの残基(VH−K64)を排除した。これら残基のそれぞれの変異に予測されるオンレートを、Schreiber等 (2000) Nat. Struct. Biol. 7:537-41に従って計算した。
表1 Fab Y0101の潜在的On−RAMPS
【0097】
Kabatシステムに従って残基に番号を付した(Kabat等 Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Edition., National Institute of Health, Bethesda, MD. (1991))。%SASAを1.4Åのプローブ半径を使用して計算した。
【0098】
観察された会合速度
VEGF上の正味の形式的電荷は−10である(N末端、リジン、及びアルギニンには+1を割り当て、C末端、アスパラギン酸及びグルタミン酸には−1を割り当てることにより計算)ので、結合界面の周縁においてFab(野生型=+2)の正の正味の電荷を増大させるように突然変異を生じさせた。これら残基の突然変異により、会合速度がY0101の2倍まで増大した(表2)。一方、溶媒に露出しているがVEGFが16Å以内でない残基の突然変異(表2、不適格)は殆ど変化を示さず、よってON−RAMPS基準の有用性が示された。抗VEGF Fabの会合速度の更なる増加が複数残基を変異させることにより達成でき(表3)、最速の結合変異体「34−TKKT」(VH−(T28D、S100aR)+VL−(S26T、Q27K、D28K、S30T))はY0101の6倍高い会合速度を有している。逆に、電荷の反発を増大させる突然変異は会合速度を減少させた(表3:変異体VL−S26E、Q27E、D28E、S30E及び変異体VL−T51E、S52E、S53E、L54E)。
表2:単一突然変異の結合定数
【0099】
Kabatシステムに従って残基に番号を付した(Kabat等 Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Edition., National Institute of Health, Bethesda, MD. (1991))。k1は蛍光度に基づくアッセイにより決定した(±3回の実験の標準偏差、野生型のみ)。k−1は表面プラズモ共鳴により決定した(±12回の実験の標準偏差、野生型のみ)。k1及びk−1(NaCl 0M)の実験を、37℃のTris 25mM、pH7.2で行った。k−1(NaCl 0.15M)の実験を、25℃のTris 25mM、NaCl150mMで行った。KdをNaCl 0Mのデータから計算した。「*」で記した残基はON−RAMPS基準に合致しないものである。LEはFab限定分析の低発現;BGは、SPRデータのコントロールフロー細胞限定分析でのバックグラウンド結合である。
表3:複数突然変異の結合定数
【0100】
Kabatシステムに従って残基に番号を付した(Kabat等 Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Edition., National Institute of Health, Bethesda, MD. (1991))。k1は蛍光度に基づくアッセイにより決定した(±3回の実験の標準偏差)。k−1は表面プラズモ共鳴により決定した(±12回の実験の標準偏差)。k1及びk−1(NaCl 0M)の実験を、37℃のTris 25mM、pH7.2で行った。k−1(NaCl 0.15M)の実験を、25℃のTris 25mM、NaCl150mMで行った。KdをNaCl 0Mのデータから計算した。34−TKKTは、突然変異のVH−(T28、S100aR)+VL−(S26T、Q27K、D28K、S30T)である。LEはFab限定分析の低発現;BGは、SPRデータのコントロールフロー細胞限定分析でのバックグラウンド結合である。
【0101】
観察された会合速度と計算された会合速度の比較
静電的相互作用のDebye−Huckelエネルギーの計算値は、会合速度の強力で正確な予測値であることが示唆されている(Selzer, T.及びSchreiber, G. Journal of Molecular Biology 287(2):409-19 (1999))。Selzer及びSchreiberが使用したプログラムはインターネット上のウェブサイトを通じて公に使用可能である(http://www.weizmann.ac.il/home/bcges/PARE.html)。このプログラムを使用し、そのガイドラインに従って、本研究において作成された様々な変異体の会合速度を計算し、実験的に決定された値と比較した。kcalcに対するkobsはそれほど相関を示さず、R値は0.46であった(図5)。
【0102】
会合速度の塩依存性
変異体間の会合速度の差異が結合界面の一般的な構造の再配列よりもFabとVEGFの間の静電的相互作用に起因し得るということを説明するため、塩分濃度を変化させて野生型Fab Y0101と34−TKKTの会合速度を測定した(図7)。NaCl 150mM中における最速結合変異体とY0101の間の会合速度の差異は2倍未満であった。
重要なことは、複合体(Y0101=0.28kcal mol−1、34−TKKT=−1.07kcal mol−1)の構造から計算したFabとVEGF間の相互作用の静電エネルギーが図7の傾きから決定された値を有し、(大きさは異なるが)その符号は正しいということである。(Y0101=0.86kcal mol−1、34−TKKT=−4.0kcal mol−1)。
【0103】
高速オンレート変異体とその他親和成熟変異体の組み合わせ
上述の高速オンレート変異体を他の同定された変異体と組み合わせ、結合親和性を更に増大させることができる。例えば、最速結合変異体である「34−TKKT」をFab−12、VNERK又はY0317等の抗VEGF変異体と組み合わせることができる。それ以外の配列変更を行って、結合親和性、並びに分子のその他物理的又は化学的特性をさらに最適化することができる。図6A及び6Bに3つのそのように「組み合わせた」変異体のアラインメントを示す。図中、「34−TKKT」の置換は、VNERK挿入、又はH97Y置換、又はVNERK挿入とH97Y置換の双方によりなされている。得られた変異体のVEGFに対する結合親和性は増大しており、よってVEGFに対する治療的アンタゴニストとして使用された場合の効果が向上していると思われる。
【0104】
実施例2
抗VEGF抗体の観点から上述した、ON−RAMPSを同定しより速いオンレート変異体を生成させる原理は同様に他の抗体変異体にも適用することができ、そのような他の抗体変異体には、限定されないが、抗TF及び抗HER2抗体変異体が含まれる。
第一の工程として、親抗TF抗体D3H44(図8;軽鎖及び重鎖可変ドメインについてそれぞれ配列番号11及び12)及び親抗HER2抗体4D5(図9;軽鎖及び重鎖可変ドメインについてそれぞれ配列番号13及び14)を使用して、実施例1に記載したものと同様の基準及び計算により想定されるON−RAMPSを同定した。表4及び表5に抗TFのD3H44及び抗HER2の4D5それぞれの想定されるON−RAMPSとして残基の第1群、並びにこれら残基の各々の単一突然変異とその野生型に対するオンレート計算値を列挙する。オンレートの計算値は、Schreiber等 (2000) Nat. Struct. Biol. 7:537-41の方法に従って計算した。付加的なON−RAMPSを同様の方法と計算を使用して更にフィルタリングし、突然変異させ、同定した。
【0105】
表4:D3H44の想定されるON−RAMPSと単一突然変異
Kabatシステムに従って残基に番号を付した(Kabat等 Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Edition., National Institute of Health, Bethesda, MD. (1991))。
表5:4D5の想定されるON−RAMPSと単一突然変異
Kabatシステムに従って残基に番号を付した(Kabat等 Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Edition., National Institute of Health, Bethesda, MD. (1991))。
【0106】
ON−RAMPSの同定及びそれに従う単一又は多重突然変異の設計に続き、得られた変異体の会合速度、解離速度及び全体の結合親和性を、実施例1に記載の方法に従って実測しまた計算することができる。
しかしながら、特に抗TF変異体については、TFと抗TFの会合があまりにも急速に起こることにより攪拌キュベット中での観察が不可能であるので、ストップトフロー分光計(Aviv)を用いて蛍光発光強度(λexcitation=280nm、バンドパス2nm;λemission>320nm)を測定した。pH7.0、25℃のHEPES10mM中の抗TF溶液100nMのうち50μLを0nM、100nM、200nM、300nM、400nM、500nM、600nM、700nM、800nM、又は900nMのTFと素早く混合し、2秒間蛍光度の変化を観察した。蛍光強度の変化速度は単一の指数関数曲線に一致した。観察された速度をTF濃度の関数としてプロットすることにより会合速度を決定した。その傾斜が会合速度(M−1秒−1)である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1A】親抗体Y0101Fabの軽鎖アミノ酸配列(配列番号1);変更された軽鎖「S26T−Q27K−D28K−S30K」配列(配列番号3);及び変更された軽鎖「S26T−Q27K−D28K−S30T」配列(配列番号4)のアラインメントを示す。採番はKabat番号付けシステムによらず連続的に行った。
【図1B】親抗体Y0101Fabの重鎖アミノ酸配列(配列番号2);及び変更された重鎖「T28D−S100aR」配列(配列番号5)のアラインメントを示す。採番はKabat番号付けシステムによらず連続的に行った。従って、重鎖変異体のS100aR変異体(Kabat番号付けシステム)は変異体S105R(連続的番号付けシステム)である。
【図2】蛍光スペクトルを表す。〜10nMのFab Y0101の発光スペクトル(破線)、〜120nMのVEGFの発光スペクトル(薄線)、及び10nMのFabと120nMのVEGFの混合物の発光スペクトル(実線)が示されている。FabとVEGFの個々のスペクトルの合計は薄い破線で示す。
【図3】生の動力学的データを示す。VEGFの濃度(グレーから黒になる程、濃度が上昇)を変化させて複合体の形成速度(Δ蛍光度)を経時的に測定し、一重指数関数に一致させて測定速度(kobs)を決定することができた。
【図4】k1の計算に関するグラフである。使用したVEGF濃度に対する複合体の生成速度の測定値(kobs)をグラフ化することにより、擬一次解析が可能となり、グラフによって与えられる傾斜によりk1を決定した。ここに示すデータは重鎖変異体T28Eのものである。
【図5】Fab Y0101変異体のkobsとkcalcの比較を明らかにする。
【図6A】抗VEGF変異体「34−TKKT+H97Y+VNERK」の軽鎖配列(配列番号4);「34−TKKT+H97Y」の軽鎖配列(配列番号4);及び「34−TKKT+VNERK」の軽鎖配列(配列番号4)のアラインメントを示す。比較のために親抗体Y0101の配列を示した。太字及び下線で示す残基は置換を示す。
【図6B】抗VEGF変異体「34−TKKT+H97Y+VNERK」の重鎖配列(配列番号8);「34−TKKT+H97Y」の重鎖配列(配列番号9);及び「34−TKKT+VNERK」の重鎖配列(配列番号10)のアラインメントを示す。比較のために親抗体Y0101の配列を示した。太字及び下線で示す残基は置換を示す。
【図7】会合速度のイオン強度に対する依存性を示す。塩分濃度を変化させて、Y0101の会合速度(黒丸)と高速結合変異体「34−TKKT」((VH−(T28D、S100aR)+VL−(S26T、Q27K、D28K、S30T))の会合速度(白四角)を測定した。傾斜(−U/RT)はそれぞれ−1.4及び6.5であり、Y0101に対して+0.86kcal mol−1のU、最速結合変異体に対して−4.0kcal mol−1に相当する。
【図8】ヒト化抗TF抗体D3H44の軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインのアミノ酸配列を示す。想定されるOn−RAMPSとして同定された残基を太字及び下線で示す。
【図9】ヒト化抗HER2抗体4D5の軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインのアミノ酸配列を示す。想定されるOn−RAMPSとして同定された残基を太字及び下線で示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原に特異的な親抗体の抗体変異体を産生する方法において、
a)親抗体の可変ドメイン内に、1)溶媒に露出しており、2)高頻度可変領域の内部又は近傍にあり、且つ3)親抗体が結合したときに抗原の約20Å以内にある標的アミノ酸残基を同定する工程と、
b)抗体と抗原の間の電荷相補性が増大するように、工程a)の標的残基を異なる置換アミノ酸残基で置き換える工程と
を含んでなる方法。
【請求項2】
標的残基は、抗原に結合するとき抗原に直接接触しない請求項1に記載の方法。
【請求項3】
標的残基の側鎖表面積の少なくとも3分の1が溶媒に露出している請求項1に記載の方法。
【請求項4】
標的残基は、抗原に結合しているとき抗原の少なくとも約16Å以内にある請求項1に記載の方法。
【請求項5】
親抗体がヒト化抗体、ヒト抗体又はキメラ抗体である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
親抗体が抗体断片である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
抗体断片がFab断片である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
抗体変異体の抗原に対する結合親和性が親抗体の結合親和性よりも大きい請求項1に記載の方法。
【請求項9】
抗体変異体の結合親和性の大きさが親抗体の結合親和性の少なくとも約2倍である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
抗体変異体の抗原との会合速度が親抗体の会合速度よりも大きい請求項1に記載の方法。
【請求項11】
抗体変異体の会合速度の大きさが親抗体の会合速度の少なくとも約5倍である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
抗体変異体の会合速度の大きさが親抗体の会合速度の少なくとも約10倍である請求項10に記載の方法。
【請求項13】
抗体変異体は、親抗体と比較した場合その高頻度可変領域に約1〜約20の置換を有する請求項1に記載の方法。
【請求項14】
置換の各々が抗体と抗原の間の電荷相補性を増大させる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
抗原が血管内皮成長因子(VEGF)である請求項1に記載の方法。
【請求項16】
親抗体が、Y0101、Y0317、F(ab)−12、Y0192、Y0238−3、Y0239−19、Y0313−2、及びVNERKからなる群から選択されたヒト化抗VEGF抗体の重鎖及び軽鎖可変ドメインを有する請求項15に記載の方法。
【請求項17】
置換が、CDR L1、CDR L2、ループH1及びCDR H3からなる群から選択された高頻度可変領域内にある請求項1に記載の方法。
【請求項18】
置換が、Kabatによる残基番号付けシステムを使用した場合の、親抗体の軽鎖可変ドメインのアミノ酸位26L、27L、28L、30L、31L、32L、50L、52L、53L、54L、56L、93L又は94Lの1つ以上で行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
置換が、Kabatによる残基番号付けシステムを使用した場合の、親抗体の軽鎖可変ドメインのアミノ酸位26L、27L、28L又は30Lの2つ以上で行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
置換が、Kabatによる残基番号付けシステムを使用した場合の、親抗体の軽鎖可変ドメインのアミノ酸位26L、27L、28L又は30Lのうち3又は4箇所で行われる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
置換が、Kabatによる残基番号付けシステムを使用した場合の、親抗体の重鎖可変ドメインのアミノ酸位25H、28H、30H、54H、56H、61H、62H、99H又は及び100aHの1つ以上で行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
抗原が組織因子(TF)である請求項1に記載の方法。
【請求項23】
親抗体がヒト化抗TF抗体の重鎖及び軽鎖可変ドメインを有する請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ヒト化抗TF抗体がD3H44である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
置換が、Kabatによる残基番号付けシステムを使用した場合の、親抗体の軽鎖可変ドメインのアミノ酸位30L、49L、50L、53Lの1つ以上で行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
親抗体の軽鎖可変ドメインが配列番号11である請求項25に記載の方法。
【請求項27】
置換が、Kabatによる残基番号付けシステムを使用した場合の、親抗体の重鎖可変ドメインのアミノ酸位30H、54H、56H、62H、64H、又は97Hの少なくとも1つ以上で行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
親抗体の重鎖可変ドメインが配列番号12である請求項27に記載の方法。
【請求項29】
抗原がHER2である請求項1に記載の方法。
【請求項30】
親抗体がヒト化HER2抗体の重鎖及び軽鎖可変ドメインを有する請求項29に記載の方法。
【請求項31】
ヒト化抗HER2抗体がrhuMAb 4D5である請求項30に記載の方法。
【請求項32】
置換が、Kabatによる残基番号付けシステムを使用した場合の、親抗体の軽鎖可変ドメインのアミノ酸位27L、28L、52L又は56Lの少なくとも1つ以上で行われる、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
親抗体の軽鎖可変ドメインが配列番号13である請求項32の方法。
【請求項34】
置換が、Kabatによる残基番号付けシステムを使用した場合の、親抗体の重鎖可変ドメインの少なくともアミノ酸位98Hで行われる、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
親抗体の重鎖可変ドメインが配列番号14である請求項34に記載の方法。
【請求項36】
抗体変異体をコードする核酸を有する宿主細胞中で抗体変異体を生成させる工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項37】
宿主細胞により産生された抗体変異体を非相同分子と抱合させる工程を含む請求項36に記載の方法。
【請求項38】
請求項36に記載の方法に従って産生された抗体変異体。
【請求項39】
親抗体の高頻度可変領域の内部又は近傍に、抗体変異体とそれが結合する抗原の間の電荷相補性を増大させるアミノ酸変更を有する、親抗体の抗体変異体。
【請求項40】
変更が親抗体の高頻度可変領域におけるアミノ酸置換である請求項39に記載の抗体変異体。
【請求項41】
変更が、親抗体の高頻度可変領域の内部又は近傍におけるアミノ酸挿入であり、挿入されたアミノ酸が抗原に結合しない、請求項39に記載の抗体変異体。
【請求項42】
抗原が血管内皮成長因子(VEGF)である請求項39に記載の抗体変異体。
【請求項43】
SATKKIKNYLN(配列番号6)又はSATKKITNYLN(配列番号7)から選択されたCDR L1配列を有する軽鎖可変ドメインを持つ、請求項42に記載の抗体変異体。
【請求項44】
配列番号3又は配列番号4のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインを持つ請求項43に記載の抗体変異体。
【請求項45】
配列番号5、配列番号8、配列番号9又は配列番号10のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインを持つ請求項42に記載の抗体変異体。
【請求項46】
抗原が組織因子(TF)である請求項39に記載の抗体変異体。
【請求項47】
親抗体がD3H44である請求項46に記載の抗体変異体。
【請求項48】
抗原がHER2である請求項39に記載の抗体変異体。
【請求項49】
親抗体が4D5である請求項48に記載の抗体変異体。
【請求項50】
請求項39の抗体変異体と製薬的に許容可能な担体とを含んでなる組成物。
【請求項51】
請求項39の抗体変異体をコードする単離された核酸。
【請求項52】
請求項51の核酸を有するベクター。
【請求項53】
請求項51の核酸で形質転換した宿主細胞。
【請求項54】
核酸が発現するように請求項53の宿主細胞を培養する工程を含む抗体変異体の産生方法。
【請求項55】
宿主細胞培養物から抗体変異体を回収する工程をさらに含む請求項54に記載の方法。
【請求項56】
抗体変異体が宿主細胞の培養培地から回収される請求項55に記載の方法。
【請求項57】
抗体の抗原会合速度を測定する方法において、
(1)抗体と抗原を溶液中で組み合わせる工程と、
(2)次いで経時的に抗体−抗原複合体の生成を測定する工程
を含んでなる方法。
【請求項58】
工程(2)が抗体−抗原複合体の蛍光発光強度を測定する工程を含む請求項57に記載の方法。
【請求項59】
抗体又は抗原が抗体−抗原結合界面にトリプトファン残基を有しており、工程(2)においてトリプトファン残基が埋没している場合に変化するトリプトファン残基の蛍光発光強度を測定する請求項57に記載の方法。
【請求項60】
抗原が血管内皮成長因子である請求項57に記載の方法。
【請求項61】
抗体の抗原との会合速度が105M−1秒−1よりも遅い請求項57に記載の方法。
【請求項1】
抗原に特異的な親抗体の抗体変異体を産生する方法において、
a)親抗体の可変ドメイン内に、1)溶媒に露出しており、2)高頻度可変領域の内部又は近傍にあり、且つ3)親抗体が結合したときに抗原の約20Å以内にある標的アミノ酸残基を同定する工程と、
b)抗体と抗原の間の電荷相補性が増大するように、工程a)の標的残基を異なる置換アミノ酸残基で置き換える工程と
を含んでなる方法。
【請求項2】
標的残基は、抗原に結合するとき抗原に直接接触しない請求項1に記載の方法。
【請求項3】
標的残基の側鎖表面積の少なくとも3分の1が溶媒に露出している請求項1に記載の方法。
【請求項4】
標的残基は、抗原に結合しているとき抗原の少なくとも約16Å以内にある請求項1に記載の方法。
【請求項5】
親抗体がヒト化抗体、ヒト抗体又はキメラ抗体である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
親抗体が抗体断片である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
抗体断片がFab断片である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
抗体変異体の抗原に対する結合親和性が親抗体の結合親和性よりも大きい請求項1に記載の方法。
【請求項9】
抗体変異体の結合親和性の大きさが親抗体の結合親和性の少なくとも約2倍である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
抗体変異体の抗原との会合速度が親抗体の会合速度よりも大きい請求項1に記載の方法。
【請求項11】
抗体変異体の会合速度の大きさが親抗体の会合速度の少なくとも約5倍である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
抗体変異体の会合速度の大きさが親抗体の会合速度の少なくとも約10倍である請求項10に記載の方法。
【請求項13】
抗体変異体は、親抗体と比較した場合その高頻度可変領域に約1〜約20の置換を有する請求項1に記載の方法。
【請求項14】
置換の各々が抗体と抗原の間の電荷相補性を増大させる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
抗原が血管内皮成長因子(VEGF)である請求項1に記載の方法。
【請求項16】
親抗体が、Y0101、Y0317、F(ab)−12、Y0192、Y0238−3、Y0239−19、Y0313−2、及びVNERKからなる群から選択されたヒト化抗VEGF抗体の重鎖及び軽鎖可変ドメインを有する請求項15に記載の方法。
【請求項17】
置換が、CDR L1、CDR L2、ループH1及びCDR H3からなる群から選択された高頻度可変領域内にある請求項1に記載の方法。
【請求項18】
置換が、Kabatによる残基番号付けシステムを使用した場合の、親抗体の軽鎖可変ドメインのアミノ酸位26L、27L、28L、30L、31L、32L、50L、52L、53L、54L、56L、93L又は94Lの1つ以上で行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
置換が、Kabatによる残基番号付けシステムを使用した場合の、親抗体の軽鎖可変ドメインのアミノ酸位26L、27L、28L又は30Lの2つ以上で行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
置換が、Kabatによる残基番号付けシステムを使用した場合の、親抗体の軽鎖可変ドメインのアミノ酸位26L、27L、28L又は30Lのうち3又は4箇所で行われる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
置換が、Kabatによる残基番号付けシステムを使用した場合の、親抗体の重鎖可変ドメインのアミノ酸位25H、28H、30H、54H、56H、61H、62H、99H又は及び100aHの1つ以上で行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
抗原が組織因子(TF)である請求項1に記載の方法。
【請求項23】
親抗体がヒト化抗TF抗体の重鎖及び軽鎖可変ドメインを有する請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ヒト化抗TF抗体がD3H44である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
置換が、Kabatによる残基番号付けシステムを使用した場合の、親抗体の軽鎖可変ドメインのアミノ酸位30L、49L、50L、53Lの1つ以上で行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
親抗体の軽鎖可変ドメインが配列番号11である請求項25に記載の方法。
【請求項27】
置換が、Kabatによる残基番号付けシステムを使用した場合の、親抗体の重鎖可変ドメインのアミノ酸位30H、54H、56H、62H、64H、又は97Hの少なくとも1つ以上で行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
親抗体の重鎖可変ドメインが配列番号12である請求項27に記載の方法。
【請求項29】
抗原がHER2である請求項1に記載の方法。
【請求項30】
親抗体がヒト化HER2抗体の重鎖及び軽鎖可変ドメインを有する請求項29に記載の方法。
【請求項31】
ヒト化抗HER2抗体がrhuMAb 4D5である請求項30に記載の方法。
【請求項32】
置換が、Kabatによる残基番号付けシステムを使用した場合の、親抗体の軽鎖可変ドメインのアミノ酸位27L、28L、52L又は56Lの少なくとも1つ以上で行われる、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
親抗体の軽鎖可変ドメインが配列番号13である請求項32の方法。
【請求項34】
置換が、Kabatによる残基番号付けシステムを使用した場合の、親抗体の重鎖可変ドメインの少なくともアミノ酸位98Hで行われる、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
親抗体の重鎖可変ドメインが配列番号14である請求項34に記載の方法。
【請求項36】
抗体変異体をコードする核酸を有する宿主細胞中で抗体変異体を生成させる工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項37】
宿主細胞により産生された抗体変異体を非相同分子と抱合させる工程を含む請求項36に記載の方法。
【請求項38】
請求項36に記載の方法に従って産生された抗体変異体。
【請求項39】
親抗体の高頻度可変領域の内部又は近傍に、抗体変異体とそれが結合する抗原の間の電荷相補性を増大させるアミノ酸変更を有する、親抗体の抗体変異体。
【請求項40】
変更が親抗体の高頻度可変領域におけるアミノ酸置換である請求項39に記載の抗体変異体。
【請求項41】
変更が、親抗体の高頻度可変領域の内部又は近傍におけるアミノ酸挿入であり、挿入されたアミノ酸が抗原に結合しない、請求項39に記載の抗体変異体。
【請求項42】
抗原が血管内皮成長因子(VEGF)である請求項39に記載の抗体変異体。
【請求項43】
SATKKIKNYLN(配列番号6)又はSATKKITNYLN(配列番号7)から選択されたCDR L1配列を有する軽鎖可変ドメインを持つ、請求項42に記載の抗体変異体。
【請求項44】
配列番号3又は配列番号4のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインを持つ請求項43に記載の抗体変異体。
【請求項45】
配列番号5、配列番号8、配列番号9又は配列番号10のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインを持つ請求項42に記載の抗体変異体。
【請求項46】
抗原が組織因子(TF)である請求項39に記載の抗体変異体。
【請求項47】
親抗体がD3H44である請求項46に記載の抗体変異体。
【請求項48】
抗原がHER2である請求項39に記載の抗体変異体。
【請求項49】
親抗体が4D5である請求項48に記載の抗体変異体。
【請求項50】
請求項39の抗体変異体と製薬的に許容可能な担体とを含んでなる組成物。
【請求項51】
請求項39の抗体変異体をコードする単離された核酸。
【請求項52】
請求項51の核酸を有するベクター。
【請求項53】
請求項51の核酸で形質転換した宿主細胞。
【請求項54】
核酸が発現するように請求項53の宿主細胞を培養する工程を含む抗体変異体の産生方法。
【請求項55】
宿主細胞培養物から抗体変異体を回収する工程をさらに含む請求項54に記載の方法。
【請求項56】
抗体変異体が宿主細胞の培養培地から回収される請求項55に記載の方法。
【請求項57】
抗体の抗原会合速度を測定する方法において、
(1)抗体と抗原を溶液中で組み合わせる工程と、
(2)次いで経時的に抗体−抗原複合体の生成を測定する工程
を含んでなる方法。
【請求項58】
工程(2)が抗体−抗原複合体の蛍光発光強度を測定する工程を含む請求項57に記載の方法。
【請求項59】
抗体又は抗原が抗体−抗原結合界面にトリプトファン残基を有しており、工程(2)においてトリプトファン残基が埋没している場合に変化するトリプトファン残基の蛍光発光強度を測定する請求項57に記載の方法。
【請求項60】
抗原が血管内皮成長因子である請求項57に記載の方法。
【請求項61】
抗体の抗原との会合速度が105M−1秒−1よりも遅い請求項57に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2006−506943(P2006−506943A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−567927(P2003−567927)
【出願日】平成15年2月11日(2003.2.11)
【国際出願番号】PCT/US2003/004184
【国際公開番号】WO2003/068801
【国際公開日】平成15年8月21日(2003.8.21)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年2月11日(2003.2.11)
【国際出願番号】PCT/US2003/004184
【国際公開番号】WO2003/068801
【国際公開日】平成15年8月21日(2003.8.21)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】
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