説明

抗微生物性ポリマー化合物およびその繊維

式(I):


を有する抗微生物性ポリマー化合物が提供され、Rは、化合物に許容可能な特性を与えるように選択される。Rは、好ましくは、炭素数1〜15(一般に炭素数4または6以下)の単純アルキル鎖;炭素数1〜15(一般に炭素数4または6以下)の短鎖アルキル基を有する第3アミン基;水酸化物などの1または複数の単純置換基を持つ芳香環を1つのみ有する芳香族化合物;および置換基が炭素数1〜15(一般に炭素数4または6以下)の短鎖アルキル基である第4アンモニウム塩(好ましくは臭化物またはヨウ化物)から選択される。抗微生物性ポリマー化合物は、繊維、特にナノファイバーに形成されてもよい。繊維は、フィルタエレメント、特に空気または水用のフィルタエレメントに形成されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗微生物性ポリマー化合物に関し、特に、限定するものではないが、該抗微生物性化合物からなる繊維およびフィルタエレメント、ならびに該抗微生物性化合物からなる膜およびコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
出願人が知る既存の技術では、抗微生物性化合物を提供するには2つの異なる手法のうちの1つが採用される。第1の手法では、抗微生物性化合物が、繊維状ポリマー構造に具現化され、フィルタ、膜、またはコーティングに抗微生物特性を付与するために繊維から浸出する。
【0003】
第2の手法では、ポリマー自体が抗微生物特性を有する。このようなポリマーは、出願人がこれまでに立証し得た限りでは、周知例であるポリ(N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)の1−ブロモ−オクタン系第4アンモニウム塩などの、全ての第4アンモニウム塩である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、抗微生物特性を示す代替的なポリマー化合物を提供することである。
【0005】
本発明の別の目的は、フィルタエレメント、膜、もしくはコーティング、またはこれらのうちのいずれかの2つもしくは全てを製造可能な繊維(特にナノファイバー)に形成され得るポリマー化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、下式:
【0007】
【化1】

【0008】
を有する抗微生物性ポリマー化合物が提供され、Rは、化合物に許容可能な特性を与えるように選択される。
【0009】
本発明のさらなる特徴によれば、以下が提供される。Rは、炭素数1〜15(一般に炭素数4または6以下)の単純アルキル鎖;炭素数1〜15(一般に炭素数4または6以下)の短鎖アルキル基を有する第3アミン基;水酸化物などの1または複数の単純置換基を持つ芳香環を1つのみ有する芳香族化合物;および置換基が炭素数1〜15(一般に炭素数4または6以下)の短鎖アルキル基である第4アンモニウム塩(典型的には臭化物アニオン、塩化物アニオンまたはヨウ化物アニオンとの塩)から選択される。Rは、最も好ましくは、下記:
【0010】
【化2】

【0011】
から選択される式を有する。
【0012】
本出願の出願時においては、最も好適な置換基Rは、アニオンが臭素またはヨウ素である第4アンモニウム化合物、フェノール、および第3アミンである。
【0013】
化合物は、ポリスチレン−マレイミド系共重合体として分類され得る。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、上記に定義する化合物は、繊維状で提供される。
【0015】
本発明の本態様のさらなる特徴によれば、以下が提供される。繊維は、ナノファイバーである。繊維は、エレクトロスピニングによって形成される。エレクトロスピニングは、繊維を基材上に形成させることによって実施され、特に、繊維をナイロン支持体などの支持体上にスピニングする、または好適なナイロンなどの好適な支持体材料を用いて同軸スピニングすることによって実施される。繊維は、空気浄化または水浄化に用いる抗微生物性フィルタエレメントに形成される。
【0016】
本発明の第3の態様によれば、上記に定義される化合物は、抗微生物性の膜またはコーティングとして用いるフィルムに形成されてもよい。
【0017】
本発明はまた、上記に定義される化合物を製造する方法を提供し、この方法は、スチレンと無水マレイン酸とを共重合してスチレン−無水マレイン酸共重合体を形成することを含む。次いで、スチレン−無水マレイン酸共重合体を、化合物のいずれかの繊維またはフィルムを形成する前または後のいずれかにおいて、スチレン−N−(N’,N’−ジメチルアミノプロピル)マレイミドへと修飾してもよい。
【0018】
本発明をさらに完全に理解することを可能にするために、本発明の広範な記述と各種実施形態を、添付の図面を参照して以下に示す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(A)SMA、(B)無水開環生成物、および(C)SMI(スチレン−ジメチルアミノプロピルマレイミド)−P(50:50 スチレン:無水マレイン酸)のフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを示す。
【図2】生成された共重合体から繊維を作り出すのに使用されるエレクトロスピニング設備の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
中間体であるスチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA)を調製するために、20g(mol)のスチレンおよび18.78g(mol)の無水マレイン酸を、250mlのメチルエチルケトン(MEK)を溶媒として含有する500mlの三つ口フラスコに入れた。0.65gのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(モノマーに対して1mol%)を窒素(N)気流下でフラスコに加えた。
【0021】
15分間のパージ後、温度制御器で60℃の温度に設定した予熱済の油浴に、フラスコを浸した。15時間後に反応を停止させた。共重合体がメタノールに沈殿し、約39gのスチレン−無水マレイン酸共重合体が得られた。
【0022】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて、数平均分子量および多分散度(PDI)を得た。結果は、M=220,000g/mol、PDI=3.9であった。
【0023】
重合の化学反応は以下の通りであった。
【0024】
【化3】

【0025】
次いで、生成された中間体であるスチレン−無水マレイン酸を3−ジメチルアミノプロピルアミン(DMAPA)で処理することによって、対応するスチレン−ジメチルアミノプロピルマレイミド(SMI)を調製した。
【0026】
15gのスチレン−無水マレイン酸を1リットルの三角フラスコに入れ、400mlのテトラヒドロフラン(THF)を加えて共重合体を溶解させた。30mlのDMAPAを100mlのテトラヒドロフランとともに滴下漏斗に入れた。DMAPA溶液を室温で30分にわたって滴下し、次いで、さらに2時間撹拌した。本工程では、以下の反応に基づき、無水物基がDMAPAの遊離アミンと急速に反応し、開環してアミド結合を形成する。
【0027】
【化4】

【0028】
白色沈殿物をろ過して除き、ペンタンで洗浄し、100℃で48時間、真空下で乾燥させ、17gのSMIを得た。
【0029】
もしくは、THFで実施された場合と同様の方法で、ジメチルホルムアミド(DMF)中、DMAPAでSMAを処理することによってSMIを調製してもよい。
【0030】
70℃でDMAPAを添加完了後、ポリマー懸濁液を還流状態となるまで徐々に加熱した。温度の上昇に伴い懸濁液が徐々に透明となり、懸濁液を2時間還流した。溶液を冷却し、300mlの蒸留水を含有するボウルに加え、沈殿させた。淡色沈殿物をろ過して除き、50℃で24時間、真空下で乾燥させた。
【0031】
どちらの事例においても、閉環は以下の通り表し得る。
【0032】
【化5】

【0033】
(ポリマー特性評価)
修飾ポリマーを、減衰全反射フーリエ変換赤外(ATR−FTIR)および核磁気共鳴(NMR)分光法によって分析した。SMAから調製されたSMI−PのATR−FTIRスペクトルを図面の図1に示す。イミドC=O伸縮の特性吸収ピークの証拠が1689cm−1に検出された。このピークは、環状無水物のC=O伸縮の1770cm−1の吸収からシフトした。
【0034】
(SMI−Pのエレクトロスピニング)
図面の図2を参照し、SMI−Pの7〜15重量%無水エタノール溶液を調製し、エレクトロスピニング用の5mlシリンジ(1)に移した。26ゲージの針を備えた5mlのガラス製シリンジ(2)(Hamilton)にポリマー溶液を流し込み、電気制御ポンプ(3)(ポンプ33、Harvard Apparatus)を用いて供給速度を0.01〜0.015ml/分に制御した。高圧電源(4)を用いて、針と、その針の先端部から15cmの距離のアルミホイル接地コレクタ(5)との間に、10kVの電位差を生じさせた。
【0035】
(繊維形態)
エレクトロスピニングした繊維を、走査電子顕微鏡(SEM)分析し、形態的評価を実施した。これによって、繊維の平均直径は約470nmであることが示された。
【0036】
本発明の一実施形態では、エレクトロスピニングした繊維を上記に示された構造を有する共重合体から製造した。合成された化合物を使用して繊維を形成し、その繊維の抗微生物活性を評価した。結果によると、繊維は、各種細菌の菌株、特に、とりわけ黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)およびペスト菌(Yersinia pestis)などのグラム陽性菌と、これに加えてグラム陰性菌に対しても、良好な抗菌活性を有することが示されている。したがって、化合物は、コレラ、炭疸病、およびペストなどの病気に対して有効であり得る。
【0037】
(抗微生物性評価)
エレクトロスピニングした繊維を、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)および黄色ブドウ球菌を含む種々のグラム陰性菌株およびグラム陽性菌株に対する活性を試験することによって、抗微生物性評価した。抗微生物性評価に用いた菌株は、フォトラブダス・ルミネッセンスのlux ABCDEオペロン(lux遺伝子)を有しており、生物発光する。Xenogen IVIS−200光学的撮像システムをツールとして用い、繊維との接触有りおよび接触無しの細菌培養物によって生じた生物発光強度の変化を監視した。
【0038】
手順:予め秤量した繊維マットを特定の細菌培養物とともにペトリ皿に置き、室温で数時間静置した。この期間中、時間ゼロから開始する異なる時間点で、IVISシステムを用いてサンプルを撮像した。たとえば、繊維の抗微生物性試験を、(グラム陽性)黄色ブドウ球菌(菌株名(Bioware(商標)MicroorganismsのXen36))に対して行った。
【0039】
結果によると、繊維は、黄色ブドウ球菌に対して活性を有することが示されている。繊維が何らかの方法で細菌細胞を破壊し、生物発光強度を減少させているようである。
【0040】
各画像に関して経時的に、細菌状態に対応する物質の生物発光強度を観察することによって、細菌細胞の生存率の指標が得られる。ここで、高強度は多数の細胞が存在することを示し、その逆も同様である。しかしながら、この段階では、生物発光していない培養物が完全死に関連するのかまたは細菌細胞を単に抑制しているのかについて確かな証拠はない。それでも、細菌培養物に接触した繊維の影響に関する情報が、繊維を含まないサンプルと比較して提供される。
【0041】
繊維の抗菌特性をさらに確認するために、繊維の抗微生物活性を以下の細菌成長培地において試験した。
【0042】
繊維サンプルを、10mlのBHI(ブレインハートインフュージョン)培地を含有する試験管に加えた。100μlの前培養培地をBHI溶液に加え、次いで37℃でインキュベートした。繊維を含有しない「対照」試験管も比較のためにインキュベートした。抗菌性評価として、これら溶液の外観が透明の淡黄色であることに注目した。
【0043】
インキュベーション5時間後、対照試験管(繊維を含まない)は、溶液が不透明になり、有意な細胞成長の兆候を示した。これは、成長細胞数が既に非常に多いことを示す強力な証拠であった。
【0044】
一方で、繊維含有試験管の溶液はほぼ透明であった。これにより、繊維が細胞の成長を抑制していることが示された。なお、本実験を3回行ったが、全ての試験管でこの知見は一貫していた。インキュベーションを一晩続け、次いで希釈物を作成して寒天プレート上に播種し、1mlあたりのコロニー形成単位(CFU)を推定した。
【0045】
また、光学密度を600nmで測定し、CFU/mlを推定した。20倍希釈後の対照試験管に10個の細胞が存在することが分かった。また、繊維含有試験管の光学密度を非希釈溶液中で測定すると、細胞数が略同じであることが分かった。つまり、繊維含有サンプルは対照と比較して細胞数が1/20であることを示している。これは、繊維が実際に抗微生物特性を有し、細菌にとって最適な栄養素を備えた生育環境においても細胞成長を抑制することができることを示す非常に良い指標である。
【0046】
(蛍光顕微鏡法を用いた評価)
蛍光顕微鏡法を用いて、細菌細胞に対する繊維の作用様態を調査した。本実験では、細胞生存率のために2つの異なる染料を用いた。集団において死細胞を識別するためにヨウ化プロピジウム(赤色の光)を使用し、その対比染色として、生細胞または固定細胞を染色するためにヘキスト(青色の光を発する)を使用した。
【0047】
実験的に、繊維の小片を、染色希釈済の細菌溶液(黄色ブドウ球菌細胞のFSO溶液、0.85%NaCl)に入れ、30分間インキュベートすることによって実施した。インキュベーション中に、蛍光像を撮像して変化を監視した。その結果を、繊維を含有しないサンプルと比較した。
【0048】
30分後、撮像結果によって生細胞の有意な減少が示された。実際には、その効果は迅速であり、赤色標識された蛍光細胞が経時的に増加した。赤色標識蛍光細胞の外観は、全ての損傷細胞膜がヨウ化プロピジウムを透過させることによるヨウ化プロピジウムの取り込みによって説明され、細胞死の指標となる。
【0049】
その一方で、繊維を含まないサンプルの蛍光像は色の違いを全く示さず、撮像された標識細胞は青色のままであった。
【0050】
異なる基Rを有する様々な化合物が同様の抗微生物性を有するであろうと予測されるが、しかし、異なる化合物の全てのファミリーの例のように、1またはその他の異なる細菌またはその他の生物学的種に対して、不活性なものもあれば、部分的に活性なものもあり、非常に活性が高いものもある。
【0051】
したがって、本発明による各種の異なる化合物に対してさらなる試験を実施した。これら化合物は、全て上述した方法で調製してポリマー繊維へとエレクトロスピニングした。繊維化合物を、細菌菌株である黄色ブドウ球菌(グラム陽性)、大腸菌(Erescheirea coli)、および緑膿菌(グラム陰性)のうちの幾つかまたは全てに対して評価した。
【0052】
抗微生物有効性試験では、細菌培養物を栄養溶液(黄色ブドウ球菌についてはブレインハートインフュージョン(BHI)、緑膿菌および大腸菌についてはLB培地)で一晩37℃で成長させた。細胞を遠心分離機に採取し、無菌食塩水である約0.9%(w/v)の塩化ナトリウム溶液に再懸濁した。溶液をさらにストックボトルに希釈し、ブランクのシラン溶液に対する600nmの光学密度(OD)測定によって、約10細胞/ミリリットルであることが推定された。
【0053】
各ポリマーのエレクトロスピニングした繊維マットを3回試験した。数片の繊維マット(25〜26mg)を無菌遠心分離管に入れ、ストック培養液から5mlの分割量を各管に加えた。繊維を含まない対照培養物も同様の方法で処理した。37℃で24時間インキュベーション後、1ミリリットルの細菌培養物を各管から取り出し、9ミリリットルの無菌食塩水に加えた。この10−1希釈物を、さらに10−6まで連続希釈した。次いで、分割量(0.1ミリリットル)の希釈済サンプルを3回、栄養寒天のプレート(ペトリ皿)上に広げた。
【0054】
37℃で24時間インキュベーション後、プレートを調べた。コロニー形成単位(CFU)数を手動で計数し、希釈係数で乗算後の結果を、1ミリリットルあたりの平均コロニー形成単位(CFU/ミリリットル)として表した。試験した各種化合物の結果は以下のとおりである。
【0055】
1.SMI−Pとして特定される化合物であって、50%の無水マレイン酸で上述のように作成した共重合体由来であり、下式を有する化合物:
【0056】
【化6】

【0057】
本化合物は、黄色ブドウ球菌に対して5log活性を有し、緑膿菌に対して活性を有さず、大腸菌に対して3log活性を有していた。
【0058】
2a.SMI−Pq1として特定される化合物であって、50%の無水マレイン酸で上述のように作成した共重合体由来であり、下式を有する化合物:
【0059】
【化7】

【0060】
本化合物は、黄色ブドウ球菌に対して6log活性(全滅)を有し、大腸菌に対して5log活性を有していた。
【0061】
2b.SMI−Cq1として特定される同じ化合物は、28%のみの無水マレイン酸を有する市販のSMAから作成した共重合体由来であり、黄色ブドウ球菌に対して3log活性を有し、大腸菌に対して3log活性を有していた。
【0062】
3a.SMI−Pq4として特定される化合物であって、50%の無水マレイン酸で上述のように作成した共重合体由来であり、下式を有する化合物:
【0063】
【化8】

【0064】
本化合物は、黄色ブドウ球菌に対して6log活性(全滅)を有し、大腸菌に対して6log活性(全滅)を有していた。
【0065】
3b.SMI−Cq4として特定される同じ化合物は、28%のみの無水マレイン酸を有する市販のSMAから作成した共重合体由来であり、黄色ブドウ球菌に対して3log活性を有し、大腸菌に対して2log活性を有していた。
【0066】
4a.SMI−Pq8として特定される化合物であって、50%の無水マレイン酸で上述のように作成した共重合体由来であり、下式を有する化合物:
【0067】
【化9】

【0068】
本化合物は、黄色ブドウ球菌に対して6log活性(全滅)を有し、緑膿菌に対して5log活性(全滅)を有し、大腸菌に対して6log活性(全滅)を有していた。
【0069】
4b.SMI−Cq8として特定される同じ化合物は、28%のみの無水マレイン酸を有する市販のSMAから作成した共重合体由来であり、黄色ブドウ球菌に対して3log活性を有し、大腸菌に対して1log活性を有していた。
【0070】
5a.SMI−Pq12として特定される化合物であって、50%の無水マレイン酸で上述のように作成した共重合体由来であり、下式を有する化合物:
【0071】
【化10】

【0072】
本化合物は、黄色ブドウ球菌に対して6log活性(全滅)を有し、大腸菌に対して6log活性(全滅)を有していた。
【0073】
5b.SMI−Cq12として特定される同じ化合物は、28%のみの無水マレイン酸を有する市販のSMAから作成した共重合体由来であり、黄色ブドウ球菌に対して3log活性を有し、大腸菌に対して1log活性を有していた。
【0074】
6.SMI−APとして特定される化合物であって、50%の無水マレイン酸で上述のように作成した共重合体由来であり、下式を有する化合物:
【0075】
【化11】

【0076】
本化合物は、黄色ブドウ球菌に対して6log活性(全滅)を有し、緑膿菌に対して3log活性を有し、大腸菌に対して5log活性を有していた。
【0077】
7.SMI−NHとして特定される化合物であって、50%の無水マレイン酸で上述のように作成した共重合体由来であり、下式を有する化合物:
【0078】
【化12】

【0079】
本化合物は、黄色ブドウ球菌に対して有意な活性を有さず、大腸菌に対して有意な活性を有さなかった。
【0080】
8.SMI−NBとして特定される化合物であって、50%の無水マレイン酸で上述のように作成した共重合体由来であり、下式を有する化合物:
【0081】
【化13】

【0082】
本化合物は、黄色ブドウ球菌に対して有意な活性を有さず、緑膿菌に対して活性を有さず、大腸菌に対して2log活性を有していた。
【0083】
9.SMI−AEとして特定される化合物であって、50%の無水マレイン酸で上述のように作成した共重合体由来であり、下式を有する化合物:
【0084】
【化14】

【0085】
本化合物は、黄色ブドウ球菌に対して有意な活性を有さず、大腸菌に対して有意な活性を有さなかった。
【0086】
上に示された結果より、4級化タイプのポリマー繊維が、グラム(−)細菌およびグラム(+)細菌の菌株のいずれに対しても最も効力があったことが明らかに示されている。抗微生物性評価に使用された繊維の濃度は、合理的に低く(126〜130μg/ミリリットル)、殆どの繊維に対して興味深くかつ肯定的な結果が得られた。
【0087】
機能化繊維であるSMI−NHおよびSMI−AEは、試験した菌株のいずれに対しても、有意な活性を全く示さなかった。
【0088】
SMI−NB繊維は、大腸菌に対して僅かに活性を有していた。
【0089】
SMI−P繊維は、黄色ブドウ球菌に対して良好な活性を示し、大腸菌に対して適度な活性を示した。
【0090】
SMI−APを除いて、非4級化繊維の全てにおいて、緑膿菌に対する有意な殺菌活性は検出されなかった。
【0091】
本発明による選択された化合物は、戦争行為、生物兵器防衛、またはテロ行為に使用され得る生物剤に対して有用であり得る。このような生物剤としては、ウイルス、細菌、およびそれらの毒、たとえば、炭疽菌(bacillus anthracis)/炭疽、ペスト菌(yersinia pestisi)/疫病、およびコレラ菌/疫病などの細菌性の脅威/病気が挙げられる。
【0092】
SMI−Pの繊維サンプルを、オランダTNO応用科学研究機構(TNO)で、炭疽菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、ペスト菌、およびコレラ菌(Vibrio Cholerae)に対して試験した。
【0093】
試験を上述の試験と同様の方法で実施し、繊維を試験管内で希釈済一晩培養物で処理した。2、4、6、24、および48時間の時間間隔で、0.1mlを採取して寒天プレート上に播種し、コロニーを計数した。
【0094】
結果によると、以下のように繊維が全ての菌株の成長を抑制することができることが示された。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌については、24時間後に3log減少し、71時間後に継続して減少(ただし、全滅せず)した。
コレラ菌については、24時間後に3log減少した。
ペスト菌については、6時間後に6log減少(全滅)した。
炭疽菌については、76時間後でさえ5log減少したが死滅はしなかった。
炭疽菌胞子に対して有意な活性は認められなかった。
【0095】
最も強力な化合物/繊維の細胞毒性については、ある程度まで調査したが、現在未だ評価中である。これら方法のうちの一つは蛍光顕微鏡技術を使用する。本方法では、時間に応じて蛍光像を監視することによって、繊維を哺乳類細胞と接触させた時の影響を目視検査によって決定することができる。最初の試行では、哺乳類の心臓細胞を用いて、細菌細胞に使用した方法と同様の方法で試験を行い、PI(ヨウ化プロピジウム)およびヘキスト染料を用いて細胞を染色した。SMI−Pq1、SMI−Pq8、SMI−Pq12の繊維サンプルを細胞培養物とインキュベートし、異なる時間点(5分、10分、30分、および1時間)で蛍光撮像を実施した。撮像結果によると、最も長いアルキル鎖を含有する4級化繊維であるSMI−Pq12は、細胞への毒性が最も低く、1時間以内の接触では膜損傷の兆候が観察されないことが示された。これに反して、SMI−Pq1繊維は、PI(赤色光)の取り込みによって示されるように、細胞への毒性を有するようである。
【0096】
本発明は、依然として調査および開発中であり、特にナノファイバー作成への応用に好適かつ有益な化合物を決定するためには多数の異なる化合物を調査する必要があることは理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式:
【化1】

を有する抗微生物性ポリマー化合物であって、Rは、化合物に許容可能な特性を与えるように選択される、抗微生物性ポリマー化合物。
【請求項2】
Rは、炭素数1〜15の単純アルキル鎖;炭素数1〜15の短鎖アルキル基を有する第3アミン基;水酸化物などの1または複数の単純置換基を持つ芳香環を1つのみ有する芳香族化合物;および置換基が炭素数1〜15の短鎖アルキル基である第4アンモニウム塩から選択される、請求項1に記載の抗微生物性ポリマー化合物。
【請求項3】
前記単純アルキル鎖および短鎖アルキル基が、それぞれ炭素数1〜6である、請求項2に記載の抗微生物性ポリマー化合物。
【請求項4】
Rは、下記:
【化2】

から選択される式を有する、請求項1に記載の抗微生物性ポリマー化合物。
【請求項5】
いずれかの第4アンモニウム塩が、塩化物、臭化物、およびヨウ化物から選択される、請求項4に記載の抗微生物性ポリマー化合物。
【請求項6】
前記化合物が、SMI−P;SMI−Pq1;SMI−Pq4;SMI−Pq8;SMI−Pq12;およびSMI−APとして本明細書に特定される化合物から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗微生物性ポリマー化合物。
【請求項7】
繊維状である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗微生物性ポリマー化合物。
【請求項8】
前記繊維が、ナノファイバーである、請求項7に記載の抗微生物性ポリマー化合物。
【請求項9】
前記繊維が、エレクトロスピニングした繊維である、請求項7または8に記載の抗微生物性ポリマー化合物。
【請求項10】
前記繊維が、空気浄化または水浄化に用いる抗微生物性フィルタエレメントに形成される、請求項7〜9のいずれか1項に記載の抗微生物性ポリマー化合物。
【請求項11】
前記化合物が、抗微生物性コーティングとして用いるフィルムに形成される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗微生物性ポリマー化合物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の化合物を製造する方法であって、スチレンと無水マレイン酸とを共重合してスチレン−無水マレイン酸共重合体を形成し、続いて、前記化合物のいずれかの繊維またはフィルムを形成する前または後のいずれかにおいて、スチレン−N−(N’,N’−ジメチルアミノプロピル)マレイミドへと修飾する、方法。
【請求項13】
スチレンと無水マレイン酸とを実質的に等モル量で共重合する、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−518964(P2013−518964A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551698(P2012−551698)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【国際出願番号】PCT/IB2011/000158
【国際公開番号】WO2011/095867
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(510337919)ステレンボッシュ ユニバーシティ (4)
【氏名又は名称原語表記】STELLENBOSCH UNIVERSITY
【Fターム(参考)】