説明

抗性腺刺激剤としての9,11−コルテキソロンのC3−C1017α−エステル類

本発明は、性腺刺激ホルモンの分泌を阻害するための剤としての9,11−デヒドロコルテキソロンのC−C1017α−エステル類の使用に関する。よって、本発明は、性腺刺激ホルモンの分泌に関連する疾患の治療のための医薬の調製のための9,11−デヒドロコルテキソロンのC−C1017α−エステル類の使用、および対応する医薬配合物に関連する。本発明は、具体的には、9,11−デヒドロコルテキソロン17α−ブチレートの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
性腺刺激ホルモン(LHおよびFSH)は、下垂体(下垂体前葉)によってヒト中で生成されるホルモンであり、そして下垂体の作用は、間欠的分泌によって性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)を放出する視床下部によって制御される。
【0002】
次いで、性腺刺激ホルモンは男性生殖腺を刺激して、男性ホルモン、特にテストステロンを生成する。
【0003】
脱毛症、多毛症、脂漏症のようないくつかの皮膚疾患、良性前立腺肥大症のような前立腺疾患、前立腺ガン、および多嚢胞性卵巣症候群および性的早熟のような他の医学的症状は、男性ホルモンおよび/または性腺刺激ホルモンに支配される。
【0004】
前述の疾患の治療戦略は、
i)性腺刺激ホルモンの分泌を抑制し、その結果として男性ホルモンの生成を抑制すること;
ii)アンドロゲン類からそれらの生理学的に活性な代謝物への変換をブロックすること;
iii)組織内におけるアンドロゲン類の直接的作用を阻害すること
である(非特許文献1参照)。
【0005】
第1の目的は、通常、ステロイドホルモン、または類似体、および/または性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の拮抗剤により達成される。それらの剤は、性腺刺激ホルモンの分泌を抑制し、性腺に由来するホルモンの合成をブロックすることができる。
【0006】
第2の目的は、テストステロン(T)のその主代謝物(すなわち、デヒドロテストステロン(DHT))への変換を防止するアンドロゲン代謝阻害剤によって達成される。第3の目的は、抗アンドロゲンとして知られる物質の投与によって達成される。その物質は、アンドロゲンのレセプタをブロックし、アンドロゲンの生成部位(精巣、卵巣、副腎皮質)に無関係にアンドロゲンの作用をブロックする。
【0007】
特に、性腺刺激ホルモンの下垂体からの分泌の抑制は、前立腺の腫瘍、多嚢胞性卵巣症候群、子宮内膜症、性腺刺激ホルモン依存性的早熟、男性避妊、および異常性行動のような病の治療において、および/または、性腺刺激ホルモンの分泌の調節を必要とする全ての医療処置(たとえば、女性の顔面紅潮を防止するために用いられる不妊治療手術(fertilization)方法、および補助交配治療における卵巣刺激)において、非常に重要な機構である(非特許文献2〜4参照)。
【0008】
特許文献1は、高い抗アンドロゲン活性を有するものとして、コルテキソロン(11-デオキシコルチゾン)に構造的に関連するステロイド群に属する化合物を記載している(特許文献1参照)。
【0009】
コルテキソロン17α−プロピオネートのようなこれら化合物は、アンドロゲンからそれらの生理学的に活性な代謝物への変換をブロックすること、および/または組織内での男性ホルモンの直接的作用を阻害することによって機能する。しかしながら、性腺刺激ホルモンの分泌に関する何らの抑制効果を有することも見いだされていない。
【0010】
特許文献2は、新規のフッ素化されたステロイドを得るための方法を記載しており、合成の中間体としていくつかのコルテキソロン誘導体(9,11−デヒドロコルテキソロン17α−ブチレート(図B)のようなもの)に言及している(特許文献2参照)。
【0011】
【特許文献1】国際公開第03/014141号パンフレット
【特許文献2】米国特許第3,780,177号明細書
【非特許文献1】Motta M., in: The Medicinal Management of Prostate Cancer, L. Denis (ed.), pp 19-35 (Springer-Verlag, Berlin, 1998)
【非特許文献2】Goodman & Gilman's The Phermacological Basis of Therapeutics, 9th Edition 1996, pp 1379-1380
【非特許文献3】Ehrmann D. A., Polycystic ovary syndrome, N Engl J Med 2005; 352:1223-1236
【非特許文献4】Ron-El A. et al., Induction of ovulation after GnRH antagonists, Human Reproduction Update 2000; 6:318-32
【非特許文献5】Shipley E. G., in: Methods in Hormone Research, R. I. Dorfman(ed.), vol. 2, pp 179-274 (Academic Press, New York and London, 1962)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
コルテキソロン群に構造的に関連する新規ステロイドの評価中に、驚くべきことには、本発明の目的にしたがって、式(I)を有する9,11−デヒドロコルテキソロンのC−C1017α−エステル類が、前述の化合物群の典型的抗アンドロゲン活性に加えて、下垂体に対する強力な活性を示すことを見いだした。実際、それら化合物は、性腺刺激ホルモンの分泌を著しく抑制することによって作用する。したがって、本発明は、抗性腺刺激剤としての9,11−デヒドロコルテキソロンのC−C1017α−エステル類の新規の使用に関する。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Rは水素であり、およびRは直鎖状または分枝状のC−C10アシル基である。)
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に従う9,11−デヒドロコルテキソロンのC−C1017α−エステル類の使用は、前立腺腫瘍、多嚢胞卵巣および性腺刺激ホルモン依存性的早熟のような性腺刺激ホルモンの過剰生成に密接に関連する疾患の治療のための配合物、異常性行動の制御のための配合物、男性避妊のための配合物、および/または性腺刺激ホルモンの分泌の調節を必要とする全ての医療処置(たとえば、女性の顔面紅潮を防止するために用いられる不妊治療手術(fertilization)方法、および補助交配治療における卵巣刺激)における配合物の調製を特に目的とする。
【0016】
本発明は、性腺刺激ホルモンの分泌を抑制することができる抗性腺刺激剤としての式(II)を有する9,11−デヒドロコルテキソロン17α−ブチレート(Rが水素であり、Rが直鎖状Cアシルである式(I)の化合物に相当する)の使用に特に関連する。
【0017】
【化2】

【0018】
それゆえ、本発明は、薬理学的に許容可能な賦形剤および任意選択的に相乗作用を有する他の活性素とともに、9,11−デヒドロコルテキソロンのC−C1017αエステル群に属する化合物、特に9,11−デヒドロコルテキソロン17α−ブチレートを活性素として含有する薬剤配合物をも提案する。
【0019】
本発明の配合物は、溶剤中の単一相または多相溶液および/または懸濁液のような注射可能な液体薬剤配合物、またはタブレット、カプセル、ペレットのような固形の薬剤配合物、または液体および/または半固形の経口薬剤配合物、および/または溶液または懸濁液のような局所薬剤配合物、座薬、小球(globuli)、膣用座薬、クリーム、軟膏、ローションおよび/またはゲル、経皮吸収パッチ、および皮膚用または鼻用のスプレーとして調剤することができる。
【0020】
本発明によれば、9,11−デヒドロコルテキソロンのC−C1017αエステル類、特に9,11−デヒドロコルテキソロン17α−ブチレートは、単位用量あたり0.1から1000mgまで、および好ましくは0.5から500mgまで変化する量において、計画的に投与することができる。本発明によれば、用語「単位用量」は、タブレット、カプセル、および/または注射のような投与形態の1回分を意味する。
【0021】
本発明によれば、9,11−デヒドロコルテキソロンのC−C1017α−エステル類、特に9,11−デヒドロコルテキソロン17α−ブチレートは、処方物(クリーム、軟膏、ローション、ゲル、経皮吸収パッチおよび/または皮膚用スプレー)の総重量の0.01から25%まで、好ましくは0.01%から2%まで変化する量において、局所的に投与することができる。
【0022】
抗性腺刺激ホルモン作用は、パラビオーゼラットにおける去勢によって誘起される性腺の過分泌の評価によって、動物モデルにおいて評価した(非特許文献5参照)。性腺に対する9,11−デヒドロコルテキソロン17α−ブチレートの阻害作用の結果を以下の第1表に示す。
【実施例1】
【0023】
(パラビオーゼラット中の性腺刺激ホルモンの過分泌に対する9,11−デヒドロコルテキソロンの効果)
体重50〜60gを有する両性のウィスターラットを使用した。オスを去勢し、その翌日に、未去勢のメスと体側に沿って外科的に一体化した(パラビオーシス)。この実験手順において、オスの去勢は、その体内において即時の性腺刺激ホルモンの過分泌を誘起し、その性腺刺激ホルモンは、パラビオーゼ結合を介してメスに到達した際に卵巣の成長を刺激する。パラビオーシスの日から開始して、オスへの皮下注射によって、1mgおよび5mgの用量にて9,11−デヒドロコルテキソロン17α−ブチレート、およびその類似体(コルテキソロン17α−プロピオネート)を毎日注射した。正の対照としてプロゲステロンを使用し、同様の手順によって、0.5mgおよび2mgの用量にて投与した。
【0024】
未去勢のオス/未去勢のメス、および去勢されたオス/未去勢のメスを含む追加のペア群を賦形剤のみで処理し、対照として用いた。
【0025】
処置期間の終了時に、ペアを殺し、剖検を実施した。それぞれのメスのラットの卵巣および子宮を単離および計量した。
【0026】
去勢による性腺刺激ホルモンの過分泌の原因となる阻害作用を、卵巣の重量増加に対抗する試験化合物の能力によって評価した。
【0027】
【表1】

【0028】
(結果)
第1表は、9,11−デヒドロコルテキソロン17α−ブチレートが、性腺刺激ホルモンの分泌に対して、用量に相関して強力かつ著しい阻害効果を有することを示す。この効果は、パラビオーゼ結合中のメスの卵巣の重量の%減少から明らかであり、1mgの試験化合物を投与した場合に59%減少し、および5mgの同化合物を投与した場合に96%減少する。
【0029】
9,11−デヒドロコルテキソロン17α−ブチレートの抗性腺刺激効果は、匹敵する用量のプロゲステロンによって示される効果に匹敵する。
【0030】
一方、コルテキソロン17α−プロピオネートは、抗性腺刺激作用を全く持たない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗性腺刺激作用を有する医薬の調製における、下式
【化1】

(式中、Rは水素であり、およびRはC−C10アシル基である)を有する9,11−デヒドロコルテキソロンのC−C1017α−エステル類の使用。
【請求項2】
が水素であり、およびRは直鎖状または分枝状のCアシル基である請求項1に記載の使用。
【請求項3】
が水素であり、およびRはCOCHCHCHである請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記医薬が性腺刺激ホルモンの分泌に関連する疾患の治療に用いられる請求項1から3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
前記疾患が:前立腺の腫瘍、多嚢胞性卵巣および性腺刺激ホルモン依存性的早熟、異常性行動の制御、男性避妊、女性の顔面紅潮、および/または補助交配治療における卵巣刺激から選択される請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記医薬が計画的に投与することができる請求項1から5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
前記計画的方法が:注射可能な溶液および/または懸濁液、タブレット、カプセル、ペレット、経口投与用溶液および/または懸濁液、小球、鼻用スプレー、膣用座薬、および他の座薬から選択される請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記医薬が、単位用量あたり0.1mgから1000mgまで変化する量で投与される請求項6または7に記載の使用。
【請求項9】
前記医薬が、単位用量あたり0.5mgから500mgまで変化する量で投与される請求項に記載の使用。
【請求項10】
前記医薬が局所的に投与することができる請求項1から5のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
前記局所的方法が:クリーム、軟膏、ローション、ゲル、皮膚用スプレーおよび/または経皮吸収パッチから選択される請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記医薬が、0.01質量%から25質量%まで変化する量で投与される請求項10および11に記載の使用。
【請求項13】
前記医薬が、0.01質量%から2質量%まで変化する量で投与される請求項12に記載の使用。
【請求項14】
薬理学的に許容可能な賦形剤とともに、活性素として下式
【化2】

(式中、Rは水素であり、およびRはC−C10アシル基である)を有する9,11−デヒドロコルテキソロンのC−C1017α−エステル類を含有する薬剤配合物。
【請求項15】
が水素であり、およびRは直鎖状または分枝状のCアシル基である請求項14に記載の薬剤配合物。
【請求項16】
が水素であり、およびRはCOCHCHCHである請求項14に記載の薬剤配合物。
【請求項17】
性腺刺激ホルモンの分泌に関連する疾患の治療のための、請求項14から16のいずれかに記載の薬剤配合物。
【請求項18】
前記疾患が:前立腺の腫瘍、多嚢胞性卵巣および性腺刺激ホルモン依存性的早熟、異常性行動の制御、男性避妊、女性の顔面紅潮、および/または補助交配治療における卵巣刺激から選択される請求項17に記載の薬剤配合物。
【請求項19】
注射可能な溶液および/または懸濁液、タブレット、カプセル、ペレット、経口投与用溶液および/または懸濁液、経皮吸収パッチ、座薬、小球、膣用座薬、クリーム、軟膏、ローション、皮膚用および/または鼻用スプレー、および/またはゲルの形態をにある請求項14から18のいずれかに記載の薬剤配合物。

【公表番号】特表2009−507879(P2009−507879A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530439(P2008−530439)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際出願番号】PCT/EP2006/062995
【国際公開番号】WO2007/031349
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(508080333)コスモ バイオ−テクノロジーズ ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (1)
【Fターム(参考)】