説明

抗潰瘍剤

【課 題】天然物由来成分を有効成分とする効果的な抗潰瘍剤を提供する。
【解決手段】リゾホスファチジン酸混合物を含有する抗潰瘍剤であって、この混合物中のリゾホスファチジン酸総量に対する18:2脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が30%以上であり、当該抗潰瘍剤におけるリゾホスファチジン酸の含有量が乾燥重量に換算して0.00004重量%以上である抗潰瘍剤。このリゾホスファチジン酸混合物を、乾燥重量に換算して、全体に対して0.00004重量%以上含む食品組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然物由来の有効成分を含む抗潰瘍剤、及び食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潰瘍は、皮膚、粘膜、眼球の角膜や結膜などを覆う上皮組織、即ち被覆上皮が傷つき、肉眼的な広さにわたって欠損した状態のことである。より深層の組織も損傷を起こしていることが多い。代表的な潰瘍は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍のような上部消化管潰瘍である。胃潰瘍は、ストレス、非ステロイド性消炎鎮痛剤、刺激性の食品などが原因となって、胃から分泌される胃酸と、胃酸から胃壁や十二指腸壁を守る粘液の分泌とのバランスが崩れ、胃酸によって胃壁や十二指腸壁が傷つくことにより引き起こされる。また、ピロリ菌も胃壁を傷つける原因となる。また、角膜潰瘍、皮膚潰瘍、口腔内潰瘍も知られている。角膜潰瘍は、外傷、感染、酸又はアルカリによる腐蝕などが原因となる。口腔内潰瘍は、ウィルス感染、ビタミン不足、繰り返しの口内刺激などが原因となる。
従来、胃潰瘍の治療剤としては、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害剤やH2レセプター阻害剤、胃粘膜保護剤、制酸剤などが用いられている。
また、天然物由来の潰瘍治療剤として、特許文献1には、食肉を粉砕又は磨砕するとき又はその後に糖質及び乳酸菌を添加して発酵処理することにより得られるタンパク質分解処理物を含む、ストレス性胃潰瘍予防作用を有する食品が記載されている。
また、特許文献2には、リゾホスファチジン酸又はそのアシル誘導体を有効成分とする角膜傷害治療剤が記載されている。リゾホスファチジン酸を構成する脂肪酸の好ましい例として、オレイン酸(18:1)及びステアリン酸(18:0)が挙げられている。
【特許文献1】特許第3580546号公報
【特許文献2】特開2000−264847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、天然物由来の成分を有効成分とする効果的な抗潰瘍剤及び食品組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ね、リゾホスファチジン酸混合物の中でも、特に、18:2脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が混合物中のリゾホスファチジン酸総量に対して30%以上であるリゾホスファチジン酸混合物を、乾燥重量に換算して0.00004重量%以上含む組成物が、潰瘍を効果的に予防及び治療できることを見出した。
【0005】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の抗潰瘍剤及び食品組成物を提供する。
項1. リゾホスファチジン酸混合物を含有する抗潰瘍剤であって、この混合物中のリゾホスファチジン酸総量に対する18:2脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が30%以上であり、当該抗潰瘍剤におけるリゾホスファチジン酸の含有量が乾燥重量に換算して0.00004重量%以上である抗潰瘍剤。
項2. リゾホスファチジン酸混合物が、この混合物中のリゾホスファチジン酸総量に対する18:2脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が30%以上、18:0脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が10%以下、18:3脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が10%以下のものである項1に記載の抗潰瘍剤。
項3. リゾホスファチジン酸混合物が、大豆レシチンを、ホスフォリパーゼD、及びホスフォリパーゼAで処理する工程を含む方法により得られるものである項1又は2に記載の抗潰瘍剤。
項4. リゾホスファチジン酸混合物を含有する食品組成物であって、この混合物中のリゾホスファチジン酸総量に対する18:2脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が30%以上であり、当該食品組成物におけるリゾホスファチジン酸の含有量が乾燥重量に換算して0.00004重量%以上である食品組成物。
項5. リゾホスファチジン酸混合物が、この混合物中のリゾホスファチジン酸総量に対する18:2脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が30%以上、18:0脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が10%以下、18:3脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が10%以下のものである項4に記載の食品組成物。
項6. リゾホスファチジン酸混合物が、大豆レシチンを、ホスフォリパーゼD、及びホスフォリパーゼAで処理する工程を含む方法により得られるものである項4又は5に記載の食品組成物。
【発明の効果】
【0006】
リゾホスファチジン酸の抗潰瘍作用は、その脂肪酸組成によって異なる。リゾホスファチジン酸混合物の中でも、脂肪酸が18:2脂肪酸であるリゾホスファチジン酸のモル比が混合物中のリゾホスファチジン酸総量に対して30%以上であるリゾホスファチジン酸混合物は、高い抗潰瘍作用を示す。また、このリゾホスファチジン酸混合物を、乾燥重量に換算して、全体に対して0.00004重量%以上含む場合に極めて高い抗潰瘍作用を示す。また、この組成物は、潰瘍の治療作用だけでなく、予防作用も有する。
このような組成のリゾホスファチジン酸混合物は、大豆レシチンをホスフォリパーゼ処理することにより、簡単に大量生産することができる。また、ホスファチジルコリン含量の高い大豆レシチンが市販されているため、リゾホスファチジン酸混合物の含量が高いリン脂質を容易に得ることができる。このように、本発明の抗潰瘍剤及び食品組成物は、有効成分であるリゾホスファチジン酸混合物を天然物から安定的に入手できるため、安全性に優れ、また製造コストを低く抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
(I)抗潰瘍剤
リゾホスファチジン酸混合物
リゾホスファチジン酸はグリセリンの3位にリン酸が結合し、1位及び2位のいずれか一方に水酸基が結合し、残りの一方に脂肪酸がエステル結合した化合物である。本発明で使用するリゾホスファチジン酸混合物は、中心のグリセリン骨格の1位又は2位に結合する脂肪酸が18:2脂肪酸(例えばリノール酸)であるリゾホスファチジン酸の含有量が高い。本発明で使用するリゾホスファチジン酸混合物では、18:2脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸と他のリゾホスファチジン酸とを含むリゾホスファチジン酸全量に対して、18:2脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が、通常30%以上、好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上、さらにより好ましくは50%以上である。この範囲であれば、高い抗潰瘍作用を示す。また、18:2脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比の上限は、通常70%程度、好ましくは60%程度である。
【0008】
このような18:2脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸の比率の高いリゾホスファチジン酸混合物は植物由来レシチン、特に大豆レシチンを酵素処理することにより得ることができる。また、大豆以外の植物由来レシチンとしては米レシチン、アブラナ科植物由来レシチン(ナタネレシチンなど)を利用できる。また、リゾホスファチジン酸混合物において18:2脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸含量が、その他の脂肪酸(16:0、16:1、18:0、18:1、18:3等)が結合したリゾホスファチジン酸の各含量と比較して高いことが好ましい。
また、リゾホスファチジン酸混合物中の18:0脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比は、10%以下であることが好ましく、7.5%以下であることがより好ましく、6%以下であることがさらにより好ましい。また、リゾホスファチジン酸混合物中の18:3脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比は、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、7%以下であることがさらにより好ましい。この範囲であれば、一層高い抗潰瘍作用を示す。18:0脂肪酸結合リゾホスファチジン酸及び18:3脂肪酸結合リゾホスファチジン酸は、それぞれ、リゾホスファチジン酸混合物中に、通常、モル比で最低0.5%程度は含まれる。その他には、通常、18:1脂肪酸結合リゾホスファチジン酸(モル比で好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下)、16:0脂肪酸結合リゾホスファチジン酸(モル比で好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下)、16:1脂肪酸結合リゾホスファチジン酸(モル比で好ましくは10%以下、より好ましくは3%以下)などが含まれてもよい。
【0009】
18:0脂肪酸はオクタデカン酸(ステアリン酸)と称されるものである。天然に存在する18:1脂肪酸は、主に、18:1(9)脂肪酸(cis-9-オクタデセン酸;オレイン酸)、及び18:1(11)脂肪酸(11-オクタデセン酸;バクセン酸)である。天然に存在する18:2脂肪酸は、主に、18:2(9,12)脂肪酸(cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸;リノール酸)である。天然に存在する18:3脂肪酸は、主に、18:3(9,12,15)脂肪酸(9,12,15-オクタデカトリエン酸;(9,12,15)リノレン酸)、18:3(6,9,12)脂肪酸(6,9,12-オクタデカトリエン酸;(6,9,12)リノレン酸)、及び18:3(9,11,13)脂肪酸(9,11,13-オクタデカトリエン酸;エレオステアリン酸)である。16:0脂肪酸は、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)と称されるものであり、天然に存在する16:1脂肪酸は、主に16:1(9)脂肪酸(9-ヘキサデセン酸;パルミトイル酸)である。
また、リゾホスファチジン酸混合物は、2-アシル-1-リゾホスファチジン酸を含むものであっても、1-アシル-2-リゾホスファチジン酸を含むものであっても、両者を含むものであってもよい。
【0010】
リゾホスファチジン酸混合物の製造方法
上記組成のリゾホスファチジン酸混合物は、例えば、レシチンを、ホスフォリパーゼD、及びホスフォリパーゼAで処理することにより得られる。レシチンとしては上記のレシチンが利用可能であるが、18:2脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸の含量が高いリゾホスファチジン酸混合物が収率良く得られる点で、大豆レシチンが好ましい。大豆レシチンは、例えば、辻製油(株)、日清オイリオグループ(株)、カーギル社、ADM社、LIPOID社などから市販されている。
酵素処理については、レシチンにホスフォリパーゼDとホスフォリパーゼAとを作用させればよい。例えば、ホスフォリパーゼD処理、ホスフォリパーゼA処理の順で作用させてもよく、ホスフォリパーゼA処理、ホスフォリパーゼD処理の順で作用させてもよく、ホスフォリパーゼDとホスフォリパーゼAとを同時に作用させてもよい。また、ホスフォリパーゼAとしてはホスフォリパーゼA1、ホスフォリパーゼA2などが利用でき、これらを併用することもできる。リゾホスファチジン酸の収率の点でホスフォリパーゼAとしてはホスフォリパーゼA2を用いるのが好ましい。以下、ホスフォリパーゼD処理、ホスフォリパーゼA2処理の順で酵素処理する方法を説明するが、他の順序による酵素処理もこの方法に準じて行うことができる。
【0011】
レシチンをホスフォリパーゼDで処理することによりホスファチジン酸を生成させることができる。具体的には、例えば、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、炭酸緩衝液、ホウ酸緩衝液のような緩衝液中でレシチンにホスフォリパーゼDを作用させ、次いで酵素反応液を、ヘプタン、ヘキサン、アセトン、酢酸エチル、エタノール、イソプロピルアルコール、またはそれらの混合液のような有機溶媒で抽出し、ホスファチジン酸含有有機溶媒層を分取すればよい。酵素としては、ナガセケムテックス社製のホスフォリパーゼD、Sigma社製のStreptomyces chromofuscus由来のPLD、Streptomyces sp.由来のPLDなどのホスフォリパーゼDなどを利用できる。酵素使用量は、レシチン1gに対して通常約100〜10,000U、好ましくは約500〜5,000Uとすればよい。酵素反応液のpHは通常約3.5〜8.5、好ましくは約4〜8とすればよく、酢酸緩衝液の場合には約4〜6がより好ましく、リン酸緩衝液の場合には約4〜8が好ましい。酵素反応温度は通常約25〜60℃、好ましくは約40〜55℃とすればよく、酵素反応時間は通常約1〜72時間、好ましくは約3〜48時間とすればよい。
【0012】
ホスフォリパーゼD処理によって得られたホスファチジン酸含有溶液を必要に応じて塩析、濃縮、分液等に供することによりホスファチジン酸を精製してもよい。
次いで、ホスファチジン酸含有溶液をホスフォリパーゼAで処理することによりリゾホスファチジン酸を生成させることができる。具体的には、例えば酢酸エチル等の溶媒中で、ホスファチジン酸含有溶液にホスフォリパーゼAを含む緩衝液(トリス緩衝液、クエン酸緩衝液など)を加えてホスファチジン酸に酵素を作用させリゾホスファチジン酸を生成させればよい。酵素反応後、精製することにより、リゾホスファチジン酸含有リン脂質を得ることができる。酵素としてはホスフォリパーゼA1、ホスフォリパーゼA2などが使用できる。ホスフォリパーゼA1としてはLecitase Ultra(Novo Nordisk)などが利用でき、ホスフォリパーゼA2としてはナガセケムテックス社製のPLA2、Sigma社製のporcine pancreas由来PLA2などが利用できる。酵素使用量は、ホスファチジン酸1gに対して通常約200〜20,000U、好ましくは約1,000〜10,000Uとすればよい。酵素反応のpHは通常約3.5〜9.5、好ましくは約4〜9とすればよく、トリス緩衝液の場合には約7.5〜9がより好ましく、クエン酸緩衝液の場合には約4〜6がより好ましい。酵素反応温度は通常約20〜70℃、好ましくは約25〜60℃とすればよく、酵素反応時間は通常約1〜72時間、好ましくは約3〜48時間とすればよい。
【0013】
製剤
本発明の抗潰瘍剤には、医薬品または医薬部外品などが含まれる。
これらは、各種の経口投与形態を有する製剤とすることができる。経口製剤は、消化管潰瘍の予防又は治療用に好適である。固形製剤としては、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、タブレット剤、丸剤、カプセル剤、チュアブル剤などが挙げられ、液体製剤としては、乳剤、液剤、シロップ剤などが挙げられる。
固形製剤は、有効成分である上記リゾホスファチジン酸混合物に、薬学的に許容される担体や添加剤を配合して調製される。例えば、白糖、乳糖、ブドウ糖、でんぷん、マンニットのような賦形剤;アラビアゴム、ゼラチン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースのような結合剤;カルメロース、デンプンのような崩壊剤;無水クエン酸、ラウリン酸ナトリウム、グリセロールのような安定剤などが配合される。さらに、ゼラチン、白糖、アラビアゴム、カルナバロウなどでコーティングしたり、カプセル化したりしてもよい。また、液体製剤は、例えば、上記のリゾホスファチジン酸混合物を、水、エタノール、グリセリン、単シロップ、又はこれらの混液などに、溶解又は分散させることにより調製される。これらの製剤には、甘味料、防腐剤、粘滑剤、希釈剤、緩衝剤、着香剤、着色剤のような添加剤が添加されていてもよい。
また、本発明の抗潰瘍剤は、皮膚外用剤、点眼剤、眼軟膏、注射剤、座剤などの非経口投与形態の製剤とすることもできる。皮膚外用剤は、皮膚潰瘍や口腔内潰瘍等の予防又は治療用に好適であり、点眼剤及び眼軟膏は角膜潰瘍等の予防又は治療に好適である。
【0014】
皮膚外用剤としては、軟膏剤、ゲル剤、リニメント剤、ローション剤、乳剤、粉剤、懸濁剤、エアゾール剤、液剤などや、基剤を支持体上に支持させた硬膏剤、パップ剤、テープ剤、プラスター剤などが挙げられる。液体状の皮膚外用剤は、口腔内を洗浄するようなものであってもよい。
皮膚外用剤は、上記組成のリゾホスファチジン混合物を適当な基剤に配合して調製することができる。基剤としては、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、カラギーナン、マンナン、アガロース、デキストリン、カルボキシメチルデンプン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、メトキシエチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プルラン等のポリマー類;白色ワセリン、黄色ワセリン、パラフィン、セレシンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素類;ゲル化炭化水素(例えば、商品名プラスチベース、ブリストルマイヤーズスクイブ社製);ステアリン酸等の高級脂肪酸;セタノール、オクチルドデカノール、ステアリルアルコール等の高級アルコール;ポリエチレングリコール(例えば、マクロゴール4000等);プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、濃グリセリン等の多価アルコール;モノオレイン酸エステル、ステアリン酸グリセリド等の脂肪酸エステル類;リン酸緩衝液などが挙げられる。
【0015】
皮膚外用剤には、溶解補助剤、無機充填剤、pH調節剤、保湿剤、防腐剤、粘稠剤、酸化防止剤、清涼化剤などの添加剤が添加されていてもよい。
点眼剤は、上記組成のリゾホスファチジン酸混合物を、水、水性溶媒、水性または油性基剤などに溶解又は分散させることにより調製できる。その他、増粘剤、糖類、界面活性剤、防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤、pH調節剤、等張化剤、香料、清涼化剤、キレート剤、緩衝剤などが含まれていてもよい。
眼軟膏は、上記組成のリゾホスファチジン酸混合物を、白色ワセリン、流動パラフィン等の基剤に配合することにより調製できる。
注射剤は、上記組成のリゾホスファチジン酸混合物を、注射用蒸留水または生理用食塩水などに溶解又は分散させることにより得ることができる。また、pH調整剤等として水溶性無機酸又はその塩、水溶性有機酸又はその塩、中性アミノ酸、酸性アミノ酸又はその塩、塩基性アミノ酸の塩などが含まれていてもよい。また、緩衝剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤などが含まれていてもよい。
【0016】
座剤は、上記組成のリゾホスファチジン酸混合物を、カルボポール及びポリカルボフィルのようなアクリル性高分子;ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースのようなセルロース性高分子;アルギン酸ナトリウム及びキトサンのような天然高分子;脂肪酸ワックスなどの基剤に配合することにより調製できる。また、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラベンのような防腐剤;塩酸、クエン酸、水酸化ナトリウムのようなpH調節剤;メチオニンのような安定化剤を配合してもよい。
【0017】
リゾホスファチジン酸混合物の含有量
抗潰瘍剤中の上記リゾホスファチジン酸混合物の含有量は、乾燥重量に換算して、通常0.00004重量%以上とすればよく、0.02重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましく、1重量%以上がさらにより好ましい。また、当該含有量の上限は通常90重量%以下であり、50重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。上記範囲であれば、十分に抗潰瘍効果が得られる。
【0018】
抗潰瘍剤の使用方法
本発明の抗潰瘍剤の1日使用量は、対象者の健康状態、体重などによっても異なるが、上記リゾホスファチジン酸混合物の乾燥重量に換算した1日使用量が以下の量になる量とすればよい。すなわち、経口製剤の場合、約0.05〜1000mgが好ましく、約1〜300mgがより好ましい。皮膚外用剤の場合、約0.01〜10mg/cm2が好ましい。点眼剤又は眼軟膏の場合、約0.01〜10mg/eyeが好ましい。注射剤の場合、約0.01〜100mgが好ましい。座剤の場合、約0.01〜100mgが好ましい。
本発明の抗潰瘍剤は、上部消化管潰瘍(胃潰瘍、十二指腸潰瘍など)、角膜潰瘍、口腔内潰瘍(口内炎など)、皮膚潰瘍などのあらゆる潰瘍に有効である。特に、上部消化管潰瘍(中でも胃潰瘍)が好適な対象となる。また、ストレス性潰瘍に有効である。
【0019】
(II)食品組成物
本発明の食品組成物は、上記説明した組成のリゾホスファチジン酸混合物を、乾燥重量に換算して、全体の0.00004重量%以上含む食品組成物である。この食品組成物は、健康食品(サプリメント)として用いるのに適している。また、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)に好適である。
本発明の食品組成物は、食品に通常用いられる賦形剤または添加剤を配合して、錠剤、タブレット剤、丸剤、顆粒剤、散剤、粉剤、カプセル剤、水和剤、乳剤、液剤、エキス剤、またはエリキシル剤等の剤型に調製することができる。中でも、潰瘍部位に溶解したリゾホスファチジン酸混合物が速やかに到達する点で、顆粒剤、散剤、液剤が好ましく、液剤がより好ましい。
食品に通常用いられる賦形剤としては、シロップ、アラビアゴム、ショ糖、乳糖、粉末還元麦芽糖、セルロース糖、マンニトール、マルチトール、デキストラン、デンプン類、ゼラチン、ソルビット、トラガント、ポリビニルピロリドンのような結合剤;ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ポリエチレングリコールのような潤沢剤;ジャガイモ澱粉のような崩壊剤;ラウリル硫酸ナトリウムのような湿潤剤等が挙げられる。添加剤としては、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0020】
これらの食品組成物中の上記リゾホスファチジン酸混合物の含有量は、乾燥重量に換算して、通常0.00004重量%以上とすればよく、0.02重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましく、1重量%以上がさらにより好ましい。また、当該含有量の上限は通常90重量%以下であり、50重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。上記範囲であれば、無理なく摂取できる食品量の中に、潰瘍の予防又は改善に有効な量のリゾホスファチジン酸が含まれることになる。
また、本発明の食品組成物は、飲料(スポーツ飲料、ドリンク剤、乳飲料、乳酸菌飲料、果汁飲料、炭酸飲料、野菜飲料、茶飲料等)、菓子類(クッキー等の焼き菓子、ゼリー、ガム、グミ、飴等)を含むものであってもよい。中でも、潰瘍部位に溶解したリゾホスファチジン酸混合物が速やかに到達する点で、飲料あるいは飴が好ましい。
本発明の食品組成物の摂取量は、摂取者の健康状態、体重などによって異なるが、1日あたりの摂取量が、リゾホスファチジン酸混合物の乾燥重量に換算して、約0.05〜1000mg、好ましくは約1〜300mg となる量とすればよい。
【0021】
実施例
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
リゾホスファチジン酸混合物の製造例1
500mlの緩衝液(蒸留水:490g、酢酸:0.9g、酢酸ナトリウム8.7g、pH=5.5)に、120gの大豆レシチン(LIPOID-S,LIPOID社製)とホスフォリパーゼD溶液15ml(10,000U/ml, ナガセケムテックス(株)製)を添加し、50℃、8時間、撹拌しながら酵素反応を行い、ホスファチジン酸(以下PAと称する)を生成させた。酵素反応後、ヘプタン410g、アセトン950gで抽出を行い、PAを含む溶媒層を得た。
280gの15%塩化ナトリウム水溶液、210gのアセトンを添加し、1時間撹拌後、静置し、分液後、溶媒層を得た。さらに280gの蒸留水、210gのアセトンを添加し、1時間撹拌後、静置し、分液後溶媒層を得た。エバポレーターで減圧濃縮(約2倍濃縮)し、PAを含むレシチン溶液を380ml得た。
PAを含むレシチン溶液380mlに酢酸エチル190mlを添加、さらにホスフォリパーゼA2酵素(90,000U、PLA2ナガセ、ナガセケムテックス社製)を含む60mlの緩衝液(0.1Mトリス緩衝液、pH8.5)を添加し、30℃、48時間、撹拌しながら酵素反応を行い、リゾホスファチジン酸を生成させた。
酵素反応後、380mlのエタノールを添加し、不溶物をろ過で除去した後、1Lのアセトン中に添加し、晶析物を得た。晶析物を減圧乾燥し、リゾホスファチジン酸含有リン脂質を得た。HPLCで測定したところリゾホスファチジン酸含有リン脂質におけるリゾホスファチジン酸混合物の含量は91重量%であった。
【0022】
リゾホスファチジン酸混合物の脂肪酸分析
得られたリゾホスファチジン酸含有リン脂質におけるリゾホスファチジン酸混合物の組成を分析した。LC/MS/MSには、Agilent 1100 CapLC システム(Agilent Technology)と4000QTRAP (Applied Biosystems)を使用した。C18逆相カラム(150 mm x 2 mm i.d., 東ソー)を用い、5 mM ギ酸アンモニウム含有メタノール/水(19:1, v/v)を用いた。イオン化にはElectrospray ionization (ESI)法を用い、[M-H]-→m/z153のMultiple Reaction Monitoring(MRM)を行った。リゾホスファチジン酸分子種のピーク面積と内部標準の17:0-リゾホスファチジン酸のピーク面積との相対比から、リゾホスファチジン酸分子種を定量した。リゾホスファチジン酸混合物の脂肪酸組成の分析結果を下記の表1に示す。
【0023】
【表1】

抗ストレス性潰瘍効果
上記で製造したリゾホスファチジン酸含有リン脂質を抗ストレス性潰瘍試験に供した。比較するリゾホスファチジン酸として、18:1脂肪酸が結合した合成リゾホスファチジン酸(Avanti Polar Lipids社製)を用いた。両者を種々のリゾホスファチジン酸濃度(図1(18:1)及び2(混合物)に記載)の生理食塩水溶液に調製した。
24時間絶食させたWistar系ラット雄7週齢(日本チャールスリバー)(1群中のラットの数は各グラフカラム上部に括弧書きで記載)に対して、ストレス負荷2時間前及び負荷直前に、上記のリゾホスファチジン酸溶液を6mL/kgで投与した後、胸骨まで水浸させた(水深25-30cm)。さらに、ストレス負荷30分後に、リゾホスファチジン酸溶液を6mL/kgで投与し、引き続き1時間水浸させた。その後、エーテル麻酔下にて胃を摘出し、胃内に形成された潰瘍の長さをそれぞれ計測し、それらの長さを合計した。
【0024】
結果を図1及び2に示す。図1はリゾホスファチジン酸(18:1)の結果を示す。図1の横軸の数値は投与溶液中のリゾホスファチジン酸(18:1)濃度を示す。図2は上記製造例1で製造したリゾホスファチジン酸含有リン脂質の結果を示す。図2の横軸の数値は投与溶液中のリゾホスファチジン酸混合物濃度を示す。リゾホスファチジン酸(18:1)はリゾホスファチジン酸含量が0.1mM(0.004重量%)で抗潰瘍効果が認められたのに対して、リゾホスファチジン酸混合物を含有するサンプルではリゾホスファチジン酸混合物含量が0.001mM(0.00004重量%)という低い濃度で有意な抗潰瘍効果が認められた。
【0025】
リゾホスファチジン酸混合物の製造例2
大豆レシチンとして、LIPOID-Sに代えて、UltralecP(エー・ディー・エム・ファーイースト(株)製)を用いた以外は、上記リゾホスファチジン酸混合物の製造と同様の方法でリゾホスファチジン酸含有リン脂質を得、リゾホスファチジン酸の脂肪酸組成を分析した(表2)。また、リゾホスファチジン酸含有リン脂質におけるリゾホスファチジン酸混合物の含量は40重量%であった。
【0026】
【表2】

【0027】
処方例
飲料(ジュース)
【表3】

上記の全ての成分を室温にて混合および撹拌して均一な溶液として、飲料を作製する。 リゾホスファチジン酸含有リン脂質は、製造例2で調製したものであり、表2に示す脂肪酸組成を有する。
【0028】
飲料(ヨーグルト)
【表4】

上記の全ての成分を室温にて混合および撹拌して均一な溶液として、飲料を作製する。 リゾホスファチジン酸含有リン脂質は、製造例2で調製したものであり、表2に示す脂肪酸組成を有する。
【0029】

【表5】

砂糖、水あめおよび精製水を鍋中で混合し、これを撹拌しながら均一な液状になるまで加熱する。その後、適切な型に入れる前にリゾホスファチジン酸含有リン脂質、香料およびビタミンEを添加、混合して、成型器に入れ、室温まで冷却し、飴を作製する。リゾホスファチジン酸含有リン脂質は、製造例2で調製したものであり、表2に示す脂肪酸組成を有する。
【0030】
錠剤
【表6】

リゾホスファチジン酸含有リン脂質、乳糖、ジャガイモデンプンを均一に混合する。混合物にポリビニルアルコールの水溶液を加え、湿式顆粒造粒法により顆粒を調製する。顆粒を乾燥し、ステアリン酸マグネシウムを混合し、圧縮打錠して重量300mgの錠剤を作製する。リゾホスファチジン酸含有リン脂質は、製造例2で調製したものであり、表2に示す脂肪酸組成を有する。
【0031】
カプセル剤
【表7】

ステアリン酸マグネシウム以外の4成分を均一に混合する。ステアリン酸マグネシウムを加え、数分間混合する。混合物をハードカプセルに300mgずつ充填し、カプセル剤とする。リゾホスファチジン酸含有リン脂質は、実施例2で調製したものであり、表2に示す脂肪酸組成を有する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】リゾホスファチジン酸(18:1)による抗潰瘍作用を示す図である。
【図2】製造例1で得たリゾホスファチジン酸含有リン脂質中のリゾホスファチジン酸混合物による抗潰瘍作用を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リゾホスファチジン酸混合物を含有する抗潰瘍剤であって、この混合物中のリゾホスファチジン酸総量に対する18:2脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が30%以上であり、当該抗潰瘍剤におけるリゾホスファチジン酸の含有量が乾燥重量に換算して0.00004重量%以上である抗潰瘍剤。
【請求項2】
リゾホスファチジン酸混合物が、この混合物中のリゾホスファチジン酸総量に対する18:2脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が30%以上、18:0脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が10%以下、18:3脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が10%以下のものである請求項1に記載の抗潰瘍剤。
【請求項3】
リゾホスファチジン酸混合物が、大豆レシチンを、ホスフォリパーゼD、及びホスフォリパーゼAで処理する工程を含む方法により得られるものである請求項1又は2に記載の抗潰瘍剤。
【請求項4】
リゾホスファチジン酸混合物を含有する食品組成物であって、この混合物中のリゾホスファチジン酸総量に対する18:2脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が30%以上であり、当該食品組成物におけるリゾホスファチジン酸の含有量が乾燥重量に換算して0.00004重量%以上である食品組成物。
【請求項5】
リゾホスファチジン酸混合物が、この混合物中のリゾホスファチジン酸総量に対する18:2脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が30%以上、18:0脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が10%以下、18:3脂肪酸が結合したリゾホスファチジン酸のモル比が10%以下のものである請求項4に記載の食品組成物。
【請求項6】
リゾホスファチジン酸混合物が、大豆レシチンを、ホスフォリパーゼD、及びホスフォリパーゼAで処理する工程を含む方法により得られるものである請求項4又は5に記載の食品組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−190997(P2009−190997A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32188(P2008−32188)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】