説明

抗痴呆薬を含有した経皮適用製剤又は坐剤

【課題】抗痴呆薬を含有する非経口適用製剤を提供する。
【解決手段】抗痴呆薬を含有する経皮適用製剤又は坐剤。抗痴呆薬に高級アルコール、高級アルコールの乳酸エステル、高級脂肪酸と低級アルコールのエステル又は炭素数6から18の脂肪酸とプロピレングリコールとのエステルを配合してなる抗痴呆薬含有の経皮適用製剤、又は抗痴呆薬に脂肪酸トリグリセリド及び/又は水溶性高分子基剤を配合してなる抗痴呆薬含有の坐剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗痴呆薬を含有する経皮適用製剤、抗痴呆薬の経皮吸収促進剤又は坐剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、老齢者の増加に伴いアルツハイマー等の痴呆症患者も増大し、その介護等をめぐって社会問題化している。一方、痴呆症治療薬の開発も急速に進み、例えば塩酸ドネペジルは、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用を有する、軽度から中等度のアルツハイマー痴呆症の治療剤として広く使用されている。従来、これら痴呆症治療薬は錠剤等により経口的に投与されることが多かった。薬剤を患者等に投与する方法には、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、顆粒剤等の経口投与の他に、経皮投与、注射投与、直腸投与等が知られておりその疾患、薬物の性質に応じて適宜選択されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
抗痴呆薬は、痴呆患者が服用するために、症状が進んだ場合には経口的に服用することが困難となる場合がある。したがって、軟膏等により経皮的に投与することは、症状の進んだ患者の場合特に有用である。しかし、一般に皮膚は薬物を透過させないため十分に効果を奏する量を皮膚から体内に吸収させることは困難である。こうした困難を克服するために、従来から多くの経皮吸収促進剤が研究されているが、その効果は薬物により異なり、過去の情報から特定の薬物の経皮吸収性を予測することは極めて困難である。また、経口以外の投与剤形としては、坐剤が挙げられる。坐剤は、固形薬剤を肛門又は膣から挿入し、直腸又は膣において薬物を吸収せしめる製剤であるが、薬物の物理化学的性質、基剤との反応性等複雑な要因を考慮して製剤設計を行う必要があり、単なる従来技術の敷衍では最適な坐剤を製造することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、抗痴呆薬を含有する経皮適用製剤又は坐剤である。本発明は、また、抗痴呆薬に高級アルコール、高級アルコールの乳酸エステル、高級脂肪酸と低級アルコールのエステル又は炭素数6から18の脂肪酸とプロピレングリコールとのエステルを配合してなる抗痴呆薬含有の経皮適用製剤である。また、本発明は、高級アルコール、高級アルコールの乳酸エステル、高級脂肪酸と低級アルコールのエステル又は炭素数6から18の脂肪酸とプロピレングリコールとのエステルから選ばれる抗痴呆薬の経皮吸収促進剤である。さらに、本発明は、抗痴呆薬に脂肪酸トリグリセリド及び/又は水溶性高分子基剤を配合してなる抗痴呆薬含有の坐剤である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明において抗痴呆薬とは、脳血管性痴呆症、アルツハイマー痴呆症等の痴呆薬の予防・治療剤を意味し、具体的な例としては、ドネペジル、TAK−147、CP118954、リバスチグミン(Rivastigmine)、メトリフォネート(Metrifonate)、ガランタミン(Galanthamine)等を挙げることができる。ドネペジルは、通常塩酸ドネペジルとして軽度〜中等度のアルツハイマー痴呆症治療剤として用いられている。化学名は1−ベンジル−4−(5、6−ジメトキシインダノン−2−イル)メチルピペリジンである。また、TAK−147、CP118954の化学名はそれぞれ、3−[1−(フェニルメチル)ピペリジン−4−イル]−1−(2,3,4,5−テトラヒドロ−1H-1−ベンズアゼピン−8−イル)−1−プロパンフマル酸塩、5,7−ジヒドロ−3−[2−[1−(フェニルメチル)−4−ピペリジニル]エチル]−6H−ピロロ[4,5−f]−1,2−ベンズイソキサゾール−6−オンマレイン酸塩である。これら化合物の構造式は以下に示すとおりである。
【0006】
【化1】

【0007】
本発明における高級アルコールとは、飽和又は不飽和の炭素数10以上の直鎖又は分枝アルコールを意味し、例えばデカノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等を挙げることができる。また、本発明における高級アルコールの乳酸エステルとは、上記高級アルコールと乳酸とのエステル体であり、例えば乳酸ミリスチル、乳酸セチル、乳酸ラウリル等を挙げることができる。高級脂肪酸と低級アルコールのエステルとは、飽和又は不飽和の炭素数12以上の直鎖又は分枝状脂肪酸と炭素数3以下の低級アルコールとのエステル体を意味し、例えばアジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル等を挙げることができる。さらに、本発明における炭素数6から18の脂肪酸とプロピレングリコールとのエステルの具体的な例としては、モノカプリル酸プロピレングリコール、モノカプロン酸プロピレングリコール、ジカプリル酸プロピレングリコールなどを挙げることができ、セフゾール(商品名)等として入手できる。本発明における、抗痴呆薬とこれらの物質との混合比率は、一般に、抗痴呆薬1重量部に対し、0.1〜10重量部であり、好ましくは0.2〜5重量部、さらに好ましくは0.5〜3重量部である。
【0008】
本発明にかかる経皮適用製剤の剤形は皮膚に適用できる剤形であれば特に限定されず、例えば軟膏剤、クリーム剤、貼付剤、ローション剤等を挙げることができる。これらの剤形とするには、通常使用される基剤原料を用いることができる。例えば油性基剤原料としては、白色ワセリン、精製ラノリン、スクワラン、シリコン、流動パラフィン、植物油、ワックス類等を挙げることができ、水性基剤原料としては水、低級アルコール、多価アルコール、水溶性高分子物質等を挙げることができる。また、貼付剤として通常使われる基剤原料、例えばポリマー組成物として天然ゴム、合成ゴム、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリイソブチレン系樹脂など粘着性を示すもの、そして軟質ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアクリル系樹脂などが挙げられる。さらに、界面活性剤、安定化剤、保存剤等も必要に応じて適宜配合することができ、通常用いられる方法により、軟膏剤、貼付剤等の経皮適用製剤を製造することができる。これら経皮適用製剤中の薬物含有比率は通常0.1から5%である。
【0009】
一方、本発明が坐剤である場合には、カカオ脂、中鎖から長鎖の脂肪酸トリグリセリド等の油脂性基剤又はマクロゴール等の親水性基剤等に加熱溶融等の方法により分散させて製することができる。抗痴呆薬と基剤との比率は、特に限定されないが、通常坐剤重量は1から3g程度であり、薬物は0.5から50mgを含有する。坐剤は、形状によって直腸投与又は膣内投与が可能である。
【0010】
発明の効果
本発明によると、ほとんど皮膚から吸収されない抗痴呆薬を経皮投与により体循環に到達させることが可能となり、経口的に薬物を服用することが困難な痴呆症患者には特に大きな利点を有する。また、望ましくない作用が発現した場合には直ちに投与を中止できるため安全性の点からも優れた製剤である。一方、坐剤の場合は、一般に経口投与に比べて吸収率が低下するといわれているにもかかわらず、基剤によっては経口投与の数倍の吸収増加を示した。次に本発明の効果を以下の方法により確認した。
【0011】
体重約300g(9〜10週令)のHWY/Slc系雄性ラット(ヘアレスラット)を麻酔し、皮膚に傷がないことを確認した後、腹部全皮を剥離した。これを適当な大きさにカットし、0.785cm2の透過面積を有する垂直型in vitro拡散セルにセットした。レシーバー側としてpH7.4リン酸緩衝液3mlを用いた。ドナー側には以下に示す試料溶液を各3ml注入し、レシーバー側、ドナー側ともにスターラーで撹拌した。経時的にレセプター側溶液を200μlづつサンプリングし、ドネペジルの定量を行った。定量はODSカラムを用い、高速液体クロマトグラフィーにより行った。
【0012】
試料溶液の調製
プロピレングリコール90mlに対し、精製水5mlを添加した後、塩酸ドネペジルを5g添加し撹拌した。この懸濁液に4N NaOHを滴下し、pHを7に調製した。次に蒸留水を加えて全量を100mlとし、塩酸ドネペジル・プロピレングリコール溶液とした(以下、溶液Aと称する)。
【0013】
比較試料1:溶液A8mlにプロピレングリコール2mlを添加し、試料とした。
本発明試料1:溶液A8mlにプロピレングリコール1.7ml及びプロピレングリコールモノカプリレート(商品名セフゾール218)0.3mlを添加し、試料とした。
本発明試料2:溶液A8mlにプロピレングリコール1.7ml及びアジピン酸ジイソプロピル0.3mlを添加し、試料とした。
本発明試料3:溶液A8mlにプロピレングリコール1.7ml及びミリスチン酸イソプロピル0.3mlを添加し、試料とした。
【0014】
本発明試料4:溶液A8mlにプロピレングリコール1.7ml及びセバシン酸ジエチル0.3mlを添加し、試料とした。
本発明試料5:溶液A8mlにプロピレングリコール1.7ml及びパルミチン酸イソプロピル0.3mlを添加し、試料とした。
本発明試料6:溶液A8mlにプロピレングリコール1.7ml及びデカノール0.3ml添加し、試料とした。
本発明試料7:溶液A8mlにプロピレングリコール1.7ml及びラウリルアルコール0.3mlを添加し、試料とした。
【0015】
本発明試料8:溶液A8mlにプロピレングリコール1.7ml及びミリスチルアルコール0.3mlを添加し、試料とした。
本発明試料9:溶液A8mlにプロピレングリコール1.7ml及び溶融したセチルアルコール0.3mlを添加し、試料とした。
本発明試料10:溶液A8mlにプロピレングリコール1.7ml及びステアリルアルコール0.3mlを添加し、試料とした。
本発明試料11:溶液A8mlにプロピレングリコール1.7ml及び溶融した乳酸ミリスチル0.3mlを添加し、試料とした。
本発明試料12:溶液A8mlにプロピレングリコール1.7ml及び乳酸セチル0.3mlを添加し、試料とした。
【0016】
結果を図1〜3に示した。図より本発明に係る経皮適用製剤によると薬物の皮膚透過性が著しく増大することが明らかである。
【0017】
一方、坐剤の場合は、次に示す試料を24時間絶食したラットの直腸に、体重1kgあたり500mgを挿入し、経時的に血液を採取し、高速クロマトグラフィーにより薬物濃度を定量し、静脈内投与との比から吸収率を求めた。
本発明試料12:ウィッテプゾールH15gに対し、塩酸ドネペジル60mgを混和、溶解後冷却して試料とした。
本発明試料13:ポリエチレングリコール1500を3.5g及びポリエチレングリコール6000を1.5gに対し、塩酸ドネペジル60mgを混和、溶解後冷却して試料とした。
結果を図4に示した。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明がこれらに限定されるわけではない。
【0019】
実施例1
プロピレングリコールを60℃に加温し、塩酸ドネペジルを加え分散・溶解した。これに、あらかじめ60℃に加温した乳酸セチル及びプラスチベース(商品名)を混合したものを加え、撹拌しながら室温まで冷却し、下記組成の油性軟膏剤を得た。
塩酸ドネペジル 5重量%
乳酸セチル 10
プロピレングリコール 15
プラスチベース 70
【0020】
実施例2
乳酸ミリスチルに塩酸ドネペジルを加え分散させた。一方、ソルビタントリオレートと白色ワセリンを60℃に加温し均一に混合し、これに上記の乳酸ミリスチルと塩酸ドネペジルの撹拌均質物を加え、全量を均質に撹拌混合し、室温に冷却して垣組成の油性軟膏を得た。
塩酸ドネペジル 1.5重量%
乳酸ミリスチル 5 重量%
ソルビタントリオレート 3 重量%
白色ワセリン 90.5重量%
【0021】
実施例3
ラウリルアルコール、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート、日局マクロゴール軟膏及び保存剤を60℃に加温し均質に混合した後、塩酸ドネペジルを加え、冷却しながら十分に混和して下記組成の親水性軟膏を得た。
塩酸ドネペジル 2 重量%
ラウリルアルコール 3 重量%
ポリオキシエチレン(20) ソルビタンモノオレート 2 重量%
日局マクロゴール軟膏 92.9重量%
保存剤(メチルパラベン) 0.1重量%
【0022】
実施例4
スクワラン、ミリスチン酸イソプロピル、ステアリン酸、ステアリン酸モノグリセライド、ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート及び乳酸ミリスチルを70℃に加温し均一に溶解し、塩酸ドネペジルを添加撹拌し均質にした。別に60℃に加温したプロピレングリコール、防腐剤及び精製水を徐々に加え、撹拌しながら約30℃に冷却し、下記組成のO/W型クリーム剤を得た。
塩酸ドネペジル 2 重量%
スクワラン 8 重量%
ミリスチン酸イソプロピル 4 重量%
ステアリン酸 4 重量%
ステアリン酸モノグリセライド 4 重量%
ソルビタンパルミテート 1.5重量%
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート 1.5重量%
乳酸ミリスチル 5 重量%
プロピレングリコール 5 重量%
保存剤(メチルパラベン) 0.1重量%
【0023】
実施例5
ウィッテプゾールH15を50℃に加温し、塩酸ドネペジルを加え分散、溶解した。坐剤用コンテナに溶液を流し込み、室温まで徐冷し、下記組成の油性坐剤を得た。
塩酸ドネペジル 1 重量%
ウィッテプゾールH15 99 重量%
【0024】
実施例6
ポリエチレングリコール1500及びポリエチレングリコール6000を60℃に加温し、塩酸ドネペジルを加え分散・溶解した。坐剤用コンテナに溶液を流し込み、室温まで徐冷し下記組成の親水性坐剤を得た。
塩酸ドネペジル 1 重量%
ポリエチレングリコール1500 69 重量%
ポリエチレングリコール6000 30 重量%
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、高級脂肪酸と低級アルコールのエステル又は炭素数6から18の脂肪酸とプロピレングリコールとのエステルが薬物の皮膚透過性に及ぼす影響を示す図である。
【図2】図2は、高級アルコールが薬物の皮膚透過性に及ぼす影響を示す図である。
【図3】図3は、高級アルコールの乳酸エステルが薬物の皮膚透過性に及ぼす影響を示す図である。
【図4】図4は、坐剤の吸収性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドネペジル又はその塩を含む坐剤。
【請求項2】
前記ドネペジルが、塩酸ドネペジルである、請求項1に記載の坐剤。
【請求項3】
脂肪酸トリグリセリド及び水溶性高分子基剤からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む請求項1又は2に記載の坐剤。
【請求項4】
前記水溶性高分子基剤が、ポリエチレングリコールである、請求項3に記載の坐剤。
【請求項5】
前記水溶性高分子基剤が、ポリエチレングリコール1500、ポリエチレングリコール6000又はこれらの混合物である、請求項3に記載の坐剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−16052(P2007−16052A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282463(P2006−282463)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【分割の表示】特願平11−50332の分割
【原出願日】平成11年2月26日(1999.2.26)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】