説明

抗癌剤のスクリーニング方法

【課題】 癌細胞の増殖を促進する生体内分子を同定し、その分子メカニズムに基づく抗癌剤の同定方法および抗癌剤を提供することを目的とする。さらに、本発明は、リンパ性白血病および悪性リンパ腫の診断方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)の阻害を指標とする、細胞増殖抑制剤の同定方法。披験リンパ球が白血病由来のリンパ球であるか否かを判定する方法であって、該披験リンパ球におけるユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)の発現量を測定する工程を含む判定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)の阻害を指標とする、細胞増殖抑制剤の同定方法に関する。さらに、本発明は、USP20の阻害を指標とする、抗癌活性を有する化合物の同定方法に関する。また、本発明は、被験リンパ球が白血病由来のリンパ球であるか否かを判定する方法に関する。さらに、本発明は、USP20及び/又はUSP20をコードする遺伝子を含有する試薬キットであって、細胞増殖抑制剤の同定、抗癌剤の同定又は白血病診断に用いる試薬キットに関する。また、本発明は、USP20遺伝子の発現を抑制する2重鎖ポリヌクレオチド、該2重鎖ポリヌクレオチドを含有する細胞増殖抑制剤、該2重鎖ポリヌクレオチドを含有する抗癌剤に関する。さらに、本発明は、該2重鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、細胞増殖抑制方法、癌の予防及び/又は治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の悪性腫瘍に対して、抗癌剤による化学療法、放射線療法、造血幹細胞移植方法などによる治療がすすめられている。しかし、多くの抗癌剤について未だに副作用が存在する。従って、癌細胞の増殖や癌の発症・転移に関与する分子を新たに見出し、副作用の少ない新しい分子メカニズムに基づく抗癌剤を開発することが望まれている。
【0003】
ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)は、USPのCys-box 、His-box、及びAspドメインを有する全長913アミノ酸をコードする蛋白質であり、大腸菌共発現系において脱ユビキチン化活性を有する蛋白質であることが見出されている(特許文献1)。
【0004】
USP20は、ユビキチンリガーゼであるpVHLの基質であること(非特許文献15)、低酸素条件で発現が誘導されるHypoxia Inducible Factor 1α(HIF-1α)(非特許文献16)及び甲状腺ホルモンに関与する酵素であるタイプII 5'-ヨードサイロニン脱ヨード酵素(D2)を脱ユビキチン化すること(非特許文献17)が報告されている。
【0005】
しかし、USP20と癌との関連についての報告・示唆はない。
【0006】
【特許文献1】特開2003-189883
【非特許文献1】FEBS Letter. volume 420, issue 1, pages 25-27 (1997)
【非特許文献2】Oncogene volume 8, issue 8, pages 2307-2310 (1993)
【非特許文献3】Oncogene volume 10, issue 11, pages 2179-2183 (1995)
【非特許文献4】Nature volume 366, issue 6453, pages 313-319 (1993)
【非特許文献5】Annu. Rev. Biochem. volume 67, pages 425-479 (1998)
【非特許文献6】Proc.Natl. Acad. Sci. USA volume 93, issue 8, pages 3275-3279 (1996)
【非特許文献7】J. Biol. Chem. volume 272, issue 1, pages 51-57 (1997)
【非特許文献8】EMBO J. volume 16, issue 7, pages 1519-30 (1997)
【非特許文献9】Trends Neurosci. volume 21, issue 12, pages 516-520 (1998)
【非特許文献10】Nature volume 395, issue 6701, pages 451-452 (1998)
【非特許文献11】Nature Genet. volume 23, issue 1, pages 47-51 (1999)
【非特許文献12】Biochem. Biophys. Res. Commun. volume 266, issue 3, pages 633-640 (1999)
【非特許文献13】FASEB J. volume 11, pages 1245-1256 (1997)
【非特許文献14】Crit. Rev. Biochem Mol. Biol. volume 33, issue 5, pages 337- 352 (1998)
【非特許文献15】Biochem. Biophys. Res. Commun. volume 294, issue 3, pages 70 0-709(1999)
【非特許文献16】EMBO Rep. volume 6, issue 4, pages 373-378 (2005)
【非特許文献17】J Clin Invest. volume 112, issue 2, pages 189-196 (2003)
【非特許文献18】Nat Rev Cancer. 2003 Oct;3(10): pp.721-732
【非特許文献19】Proc Natl Acad Sci U S A. 2000 Sep 12;97(19): pp.10430-10435
【非特許文献21】Exp Cell Res. 2001 Mar 10;264(1): pp.117-125
【非特許文献22】Biochem Biophys Res Commun. 2002 Jun 14;294(3): pp.700-709
【非特許文献23】J Biol Chem. 2002 Feb 15;277(7): pp.4656-4662. Epub 2001 Dec 5
【非特許文献24】Proc. Natl. Acad. Sci. USA Vol.92, pp.5510-5514, June 1995
【非特許文献25】Biochemistry 1998, Vol.37, pp.1868-1879
【非特許文献26】EMBO J. volume 23, issue 9, pp.1949-1956 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、癌細胞の増殖を促進する生体内分子を同定し、その分子メカニズムに基づく抗癌剤の同定方法及び抗癌剤を提供することを目的とする。さらに、本発明は、リンパ性白血病や悪性リンパ腫の診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、RNA干渉法を用いて癌細胞におけるUSP20遺伝子の発現を阻害したところ、該癌細胞の増殖が抑制されることを見出した。さらに、本発明者らは、USP20遺伝子の発現解析を行った結果、白血病(Leukemia)由来細胞株においてUSP20遺伝子が発現していること、結節硬化型ホジキンリンパ腫においてUSP20遺伝子の発現が亢進していることを見出した。
【0009】
本発明者らは、これら知見に基づき本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の(1)〜(22)を提供する。
【0010】
(1)USP20の阻害を指標とする、細胞増殖抑制剤の同定方法。
【0011】
(2)USP20遺伝子の発現阻害を指標とする、細胞増殖抑制剤の同定方法。
【0012】
(3)USP20遺伝子、USP20遺伝子の転写産物及びUSP20のうち少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする、細胞増殖抑制剤の同定方法。
【0013】
(4)以下の工程を含む、細胞増殖抑制剤の同定方法;(i) 被験化合物存在下、USP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性を測定する工程、及び、(ii) (i)で測定したUSP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性と被験化合物非存在下におけるUSP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性を比較する工程。
【0014】
(5)以下の工程を含む、細胞増殖抑制剤の同定方法;(i) 被験化合物存在下、USP20遺伝子の発現量を測定する工程、及び、(ii) (i)で測定したUSP20遺伝子の発現量と被験化合物非存在下におけるUSP20遺伝子の発現量を比較する工程。
【0015】
(6)以下の工程を含む、細胞増殖抑制剤の同定方法;(i) 被験化合物存在下、USP20活性を測定する工程、及び、(ii) (i)で測定したUSP20活性と被験化合物非存在下におけるUSP20活性を比較する工程。
【0016】
(7)USP20の阻害を指標とする、抗癌活性を有する化合物の同定方法。
【0017】
(8)USP20遺伝子の発現阻害を指標とする、抗癌活性を有する化合物の同定方法。
【0018】
(9)USP20遺伝子、USP20遺伝子の転写産物及びUSP20のうち少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする、抗癌活性を有する化合物の同定方法。
【0019】
(10)以下の工程を含む、抗癌活性を有する化合物の同定方法;(i) 被験化合物存在下、USP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性を測定する工程、及び、(ii) (i)で測定したUSP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性と被験化合物非存在下におけるUSP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性とを比較する工程。
【0020】
(11)以下の工程を含む、抗癌活性を有する化合物の同定方法;(i) 被験化合物存在下、USP20遺伝子の発現量を測定する工程、及び、(ii) (i)で測定したUSP20遺伝子の発現量と被験化合物非存在下におけるUSP20遺伝子の発現量とを比較する工程。
【0021】
(12)以下の工程を含む、抗癌活性を有する化合物の同定方法;(i) 被験化合物存在下、USP20活性を測定する工程、及び、(ii) (i)で測定したUSP20活性と被験化合物非存在下におけるUSP20活性とを比較する工程。
【0022】
(13)下記の群より選ばれるいずれか1のRNA;
(a) 配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるRNA、
(b) 配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるRNA、
(c) 配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるRNA、
(d) 配列表の配列番号7に記載の塩基配列で表されるRNA、及び
(e) 配列表の配列番号9に記載の塩基配列で表されるRNA。
【0023】
(14)下記の群より選ばれるいずれか1の2重鎖ポリヌクレオチド;
(a) 配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号2に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニ−ルして得られる2重鎖ポリヌクレオチド、
(b) 配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号4に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニ−ルして得られる2重鎖ポリヌクレオチド、
(c) 配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号6に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニ−ルして得られる2重鎖ポリヌクレオチド、
(d) 配列表の配列番号7に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号8に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニ−ルして得られる2重鎖ポリヌクレオチド、及び
(e) 配列表の配列番号9に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号10に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニ−ルして得られる2重鎖ポリヌクレオチド。
【0024】
(15)(14)の2重鎖ポリヌクレオチドを含有する細胞増殖抑制剤。
【0025】
(16)(14)の2重鎖ポリヌクレオチドを含有する抗癌剤。
【0026】
(17)(14)の2重鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、癌細胞の増殖抑制方法。
【0027】
(18)(14)の2重鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、癌の予防及び/又は治療方法。
【0028】
(19)被験リンパ球が悪性リンパ腫由来のリンパ球であるか否かを判定する方法であって、該被験リンパ球におけるUSP20遺伝子の発現量を測定する工程を含む判定方法。
【0029】
(20)USP20及び/又はUSP20をコードする遺伝子を含有する、細胞増殖抑制剤の同定用試薬キット。
【0030】
(21)USP20及び/又はUSP20をコードする遺伝子を含有する、抗癌剤の同定用試薬キット。
【0031】
(22)USP20及び/又はUSP20をコードする遺伝子を含有する、悪性リンパ腫診断用試薬キット。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、USP20が癌細胞の増殖に関与しているという新しい知見に基づくものであり、この新しいメカニズムに基づく抗癌剤とその同定方法を提供する。また、本発明は、白血病患者由来のリンパ球においてUSP20の発現が亢進しているという新たな知見に基づく悪性リンパ腫及びリンパ性白血病の診断方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。
【0034】
本発明は、USP20の阻害を指標とする細胞増殖抑制剤の同定方法を提供する。さらに、本発明は、USP20の阻害を指標とする抗癌活性を有する化合物の同定方法を提供する。両方法は、USP20の阻害を指標とする点で共通する。
【0035】
本発明者らは、HEK293細胞(ヒト胎児腎臓由来細胞株)にUSP20遺伝子の発現を阻害すると考えられる5種類のsiRNA(short interfering RNA;以下、siRNAと略称する。)をそれぞれ導入した結果、これら全てのsiRNAが、HEK293細胞内のUSP20遺伝子の発現を阻害し、かつ、HEK293細胞の細胞増殖を抑制することを見出した。さらに、本発明者らはHCT116細胞(ヒト大腸癌由来細胞株)及びA549細胞(ヒト肺腺癌由来細胞株)のそれぞれに該5種類のsiRNAそれぞれを導入した結果、これら全てのsiRNAがA549細胞の細胞増殖を抑制し、これらsiRNAのうち4種類のsiRNAがHCT116細胞の細胞増殖を抑制した(本願実施例)。
【0036】
従って、USP20の阻害によって、癌細胞等の細胞の増殖が抑制される。よって、USP20の阻害化合物は抗癌活性を有する。USP20阻害の具体的態様として、USP20遺伝子の発現阻害を例示できる(本願実施例)。
【0037】
USP20阻害と細胞増殖抑制あるいは癌との詳細なメカニズムは明らかではない。
【0038】
発明者は、本メカニズムを以下に述べるように考える。
【0039】
HIF-1αは低酸素条件において発現誘導される転写因子であり、VEGF、TGFαやGLUT1などの遺伝子の発現を調節していることが知られている(非特許文献18)。また、一部の癌において、HIF-1α遺伝子の発現亢進が認められている(非特許文献18)。異種の癌細胞をヌードマウスに移植するインビボ(in vivo)の実験系において、移植された癌細胞におけるHIF-1αの活性を抑制することにより癌細胞増殖が抑制され、移植された癌細胞におけるHIF-1αの活性を亢進することにより癌細胞増殖が亢進されることも報告されている(非特許文献18、Table3)。また、HIF-1αは、pVHL複合体によりユビキチン化を受けてプロテアソームにより分解される(非特許文献19)。一方、ユビキチン化HIF-1αは、USP20の脱ユビキチン化活性によって、そのユビキチンが解離する(非特許文献16)。ユビキチン化HIF-1αのユビキチンの解離によって、HIF-1αのプロテアソームによる分解が抑制され、その結果、HIF-1αが安定化する。
【0040】
しかし、前記のインビボの実験系において、Mouse ES細胞(該細胞においてHIF-1αがノックアウトされている)をヌードマウスに移植した結果、その細胞増殖が亢進されたことが報告されている(非特許文献18、Table3)。さらに、卵巣癌において、HIF-1αの過剰発現がその癌細胞のアポトーシスと相関すること、その相関が、卵巣癌の患者の生存率改善に関与していることも報告されている(非特許文献18、右カラム、725ページ)。また、HIF-1αの過剰発現の効果は(HIF-1αを過剰発現している)癌種に依存すると報告している(非特許文献18、右カラム、725ページ)。
【0041】
さらに、インビトロの実験系において、HIF-1αが細胞増殖を抑制し、アポトーシスを促進することが報告されている(非特許文献25)。このHIF-1αによる細胞増殖抑制は、HIF-1αの転写因子としての作用に由来するものではなく、HIF-1αによるMyc阻害により誘導される細胞周期の停止によって示されるものであることが報告されている(非特許文献25)。
【0042】
このように、HIF-1αと細胞増殖の関連性は、その細胞の生理学的環境やその細胞の種類に依存する。さらに、前述のように、USP20と細胞増殖あるいは癌との関連性については知られていなかった。これらのことから、本願発明完成以前においては、HIF-1αの安定化作用を有するUSP20が、細胞増殖(例えば、癌細胞の増殖)に対していかなる影響を与えるかについては不明であった。
【0043】
前述のようにインビトロの実験系においてHIF-1αが細胞増殖を抑制することが報告されているにもかかわらず(非特許文献25)、発明者らは、同様にインビトロの実験系において、HIF-1αを安定化する作用を有するUSP20遺伝子の発現抑制によって細胞(HEK293, A549, HCT116)増殖が抑制されることを見出した(本願実施例)。これらの細胞が(低酸素条件下ではない)通常の培養条件下において培養されていることを考慮すると、USP20遺伝子発現の抑制は、HIF-1αとは異なる別の基質へのUSP20の作用の阻害を誘導し、その結果、癌細胞等の細胞の増殖が抑制された可能性が高いと発明者は考えている。
【0044】
pVHL遺伝子はvon Hippel-Lindau(VHL)病の原因遺伝子として1993年に同定された。pVHL遺伝子は腎臓癌の癌抑制遺伝子であり、腎臓癌の発症の初期過程に関与する。VHL病は腎臓、網膜、中枢神経系、副腎の各部位における癌を含む数種の異なる腫瘍型の発生に特徴づけられる(非特許文献20)。pVHLはE3ユビキチンリガーゼ複合体の構成要素としてHIF-1α、USP20(非特許文献21)及びUSP33(非特許文献22)の分解を仲介する。pVHLの基質として、USP20とHIF-1αが報告されている。しかし、pVHLとUSP20の作用が癌あるいは細胞増殖に与える影響の開示や示唆はない。
【0045】
「ユビキチン化」は、1分子の蛋白質に1分子以上のユビキチンが共有結合することによる、ユビキチンによる該蛋白質の修飾を意味する。ユビキチンは、標的蛋白質のリジン残基に共有結合すると考えられる。標的蛋白質内のリジン残基に結合したユビキチン内のリジン残基に、別のユビキチンがさらに共有結合することにより、蛋白質には複数のユビキチンが鎖状に結合する。このように複数のユビキチンが鎖上に結合したものをポリユビキチン鎖と称する。ユビキチン内のユビキチン化を受ける部位として、そのアミノ酸配列の第48番目のリジン残基が同定されている。
【0046】
「ユビキチン」は、真核生物に普遍的に存在する76アミノ酸からなる蛋白質である。ユビキチン(以下、Ubと略称することもある。)の生体内での役割は様々であり、発癌 (非特許文献1−4)、細胞周期 (非特許文献5−7)、ウイルス感染 (非特許文献8) 、及び神経変性疾患 (非特許文献9−11) など多くの生体反応に関与している。Ubの最も重要な機能は、26Sプロテアソームでの蛋白質分解におけるシグナルとしての働きである。ユビキチン活性化酵素 (E1) 、ユビキチン結合酵素 (E2) 、及びユビキチンリガーゼ (E3) といった一連のユビキチン化酵素によって、Ubは標的タンパクにイソペプチド結合し、ポリユビキチン鎖を形成する。そのポリユビキチン鎖が分解シグナルとなりプロテアソームに認識され、ユビキチン化されたタンパクは分解される。一方、生体は蛋白質からUbを遊離させ、タンパクの分解を抑制する機能も備えている。その脱ユビキチン化反応を担うのが脱ユビキチン化酵素 (DUB) である。DUBは、その構造から大きく2つのファミリーに分類されている (非特許文献12−14)。一つはUbiquitin C-terminal hydrase (UCH) と呼ばれるもので、分子量20から30 kDaが多く、異種間で一次構造が保存されている。主にUbのC末端に低分子のペプチドが結合している場合にUbを遊離させる。もう一つはUbiquitin specific protease (USP) と呼ばれるもので、分子量は40から150 kDaと様々であり、アミノ酸配列の共通性が少ない。USPはその活性ドメインとしてCysドメイン (Cys box)、Hisドメイン (His box) 、及びAspドメインを持ち、Cysドメイン内に存在するCys残基を活性部位とするシステインプロテアーゼである。USPはUbのC末端に高分子の蛋白質が結合している場合にUbを遊離させる。ユビキチンは、プロテアソ−ムによる蛋白質分解において、標的蛋白質に結合してポリユビキチン鎖を形成し、蛋白質分解の標識として機能する。ユビキチン遺伝子、及び該遺伝子によりコードされる蛋白質として、それぞれ配列表の配列番号11及び12に記載の各配列で表されるヒト由来の遺伝子、及び蛋白質を好ましく例示できる。該遺伝子、及び蛋白質は、それぞれNCBI公開データベースにアクセッションナンバーNM_002954及びNP_002945としてその塩基配列、及びアミノ酸配列が公開されている。アクセッションナンバーNM_002954に公開されている塩基配列(配列番号11)は、2つの蛋白質、すなわちユビキチンとリボソーム蛋白質S27aをコードしており、該塩基配列内の第39番目から第266番目までの領域(該塩基配列内のORF領域の第1番目から第228番目までの領域)がユビキチンをコードする領域である。また、アクセッションナンバーNP_002945に公開されているアミノ酸配列(配列番号12)の第1番目から第76番目までのアミノ酸配列がユビキチンのアミノ酸配列である。
【0047】
「USP20」は、USPのCys-box(G-[LIVMFY]-x(1,3)-[AGC]-[NASM]-x-C-[FYW]- [LIVMFC]-
[NST]-[SACV]-x-[LIVMS]-Q) とHis-box (Y-x-L-x-[SAG]-[LIVMFT]-x(2)-H-x-G-x(4,5)- G-H-Y) 、及びAspドメインを有する蛋白質である(図1)。USP20は、ユビキチン化蛋白質からユビキチンを切断する脱ユビキチン化活性を有していることが報告されている(非特許文献17)。USP20遺伝子として配列番号13又は配列番号15に記載の配列で表されるポリヌクレオチド、さらに該遺伝子にコードされる蛋白質として、配列番号14又は配列番号16に記載の各配列で表される蛋白質を好ましく例示できる。USP20又はUSP20遺伝子の取得は、自体公知の方法(特許文献1)に従って容易に実施できる。
【0048】
「USP20の阻害」とは、USP20遺伝子の発現を阻害すること、USP20の活性を阻害すること、又はUSP20の量を低減又は消滅させること(例えば、USP20を分解すること)など、結果としてUSP20の機能を阻害することを意味する。USP20の活性として、例えば、USP20の基質に対するUSP20の脱ユビキチン化活性を例示できる。USP20阻害は、例えば、USP20の阻害化合物により実施できる。USP20の阻害化合物として、本願実施例に記載の5種類のsiRNA(本願実施例において、U20-1, U20-2, U20-3, U20-4及びU20-5と称されるsiRNA)を例示できる。
【0049】
「USP20遺伝子の発現阻害」における「USP20遺伝子の発現」とは、USP20をコードするDNAがmRNAに転写され、最終遺伝子産物であるUSP20が生成する一連の反応を意味する。従って、「USP20遺伝子の発現阻害」とは、この反応の全部又は一部を阻害することを意味する。「USP20遺伝子の発現阻害」の具体的態様として、例えば、転写により生成したUSP20のメッセンジャーRNAの分解を例示できる。USP20遺伝子の発現阻害は、例えば、リボザイム法、アンチセンス法又はRNA干渉法を用いて実施できる。RNA干渉法は、リボザイム法やアンチセンス法と比べて低濃度、及び高確率で特異的に目的遺伝子の発現を阻害することができる有用な方法であることから、USP20遺伝子の発現阻害方法としてRNA干渉法を好ましく例示できる。USP20遺伝子の発現阻害は、USP20遺伝子の発現阻害化合物により実施できる。USP20遺伝子の発現阻害化合物として、USP20遺伝子を阻害するアンチセンスDNA、USP20遺伝子を阻害するショートヘアピンRNA(shRNA)、USP20遺伝子を阻害するsiRNAを例示できる。このようなRNAとして、本願実施例に記載の5種類のsiRNA(本願実施例において、U20-1, U20-2, U20-3, U20-4及びU20-5と称されるsiRNA)を例示できる。
【0050】
「細胞増殖抑制剤」における「細胞」は、特に限定されず、例えば、初代培養、樹立細胞株、生体を構成する各種の細胞(組織細胞、リンパ球など)を例示できるが、好ましくは癌細胞、さらに好ましくはヒト癌細胞を例示できる。ヒト癌細胞として、例えば、ヒト大腸癌細胞、ヒト肺腺癌細胞を例示できる。
【0051】
「抗癌活性を有する化合物」とは、癌細胞の細胞増殖を抑制する化合物のみならず、癌細胞に対する殺細胞効果を有する化合物、哺乳動物(ヒトを含む)に投与可能な抗癌剤の有効成分など、細胞又は組織レベルにおいて、抗癌活性を示すあらゆる化合物を含む。
【0052】
本発明で用いるUSP20及びユビキチン並びにそれらの遺伝子の由来生物種は、特に制限されず、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ブタ、ウシ等が挙げられ、好ましく、ヒトを例示できる。本発明で用いるUSP20又はUSP20遺伝子は、天然に存在する野生型の蛋白質又はその遺伝子のみならず、USP20又はUSP20遺伝子の機能が認められる限り、変異蛋白質や相同蛋白質又はそれらの遺伝子であってもよい。USP20の機能として、例えば、ユビキチン化HIF-1αやユビキチン化D2に対する脱ユビキチン化活性を例示できる。
【0053】
このような変異蛋白質や相同蛋白質は、一般的には、野生型の蛋白質のアミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸の欠乏、置換、付加及び/又は挿入等の変異を有するアミノ酸配列、あるいは、野生型の蛋白質のアミノ酸配列と一定以上(例えば、70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、特に好ましくは95%以上)の相同性を有するアミノ酸配列で表される。このような変異蛋白質や相同蛋白質又はそれらの遺伝子を取得する方法は既知であり、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(Sambrookら編、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリ・プレス、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク、1989年)等に記載された方法又はそれに準ずる方法により適宜実施可能である。
【0054】
さらに、USP20は、USP20の機能が認められる限りにおいて、その構成アミノ基又はカルボキシル基等を改変することもできる。例えば、USP20の機能が認められる限りにおいて、タグペプチド(GST-tag, His-tag, Myc-tag, HA-tag, FLAG-tag等)、蛍光物質(フルオレセインイソチオシアネート等)及びビオチンなどを単独又は組合せてUSP20を化学修飾することも可能である。これらの化学修飾により、USP20の精製や検出などが容易になる場合がある。
【0055】
「USP20の阻害を指標とする」とは、被験化合物によるUSP20阻害の有無及び/又はその程度を同定の基準とすることを意味する。例えば、1)被験化合物がUSP20を阻害する場合、2)被験化合物によるUSP20阻害が陰性対照化合物によるUSP20阻害と比較して同等又はより強い場合、及び/又は、3)被験化合物によるUSP20阻害が陽性対照化合物によるUSP20阻害と比較して同等又はより強い場合、被験化合物を細胞増殖抑制剤あるいは抗癌活性を有する化合物と同定できる(本願実施例)。
【0056】
本同定方法の1つの態様として、USP20遺伝子、USP20遺伝子の転写産物及びUSP20のうち少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする、細胞増殖抑制剤の同定方法を提供する。具体的には、USP20阻害を指標とする細胞増殖抑制剤の同定方法を提供する。USP20阻害として、USP20遺伝子の発現阻害を好ましく例示できる。
【0057】
また、本同定方法の1つの態様として、USP20遺伝子、USP20遺伝子の転写産物及びUSP20のうち少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする、抗癌活性を有する化合物の同定方法を提供する。具体的には、USP20阻害を指標とする抗癌活性を有する化合物の同定方法を提供する。USP20阻害として、USP20遺伝子の発現阻害を好ましく例示できる。
【0058】
例えば、本同定方法の1つの具体的態様として、例えば、(1)被験化合物存在下、USP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性を測定する工程、及び、(2)(1)で測定したUSP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性と被験化合物非存在下におけるUSP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性とを比較する工程を含む同定方法を例示できる。
【0059】
各工程について、具体的に説明する。
【0060】
まず、(1)被験化合物存在下、USP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性を測定する。
【0061】
(1)の工程は、USP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性を測定可能な試験系で実行される。USP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性を測定可能な試験系は、in vitroの試験系でよく、あるいはin vivoの試験系でもよい。
【0062】
本同定方法で用いる被験化合物は、特に制限されない。被験化合物は、合成化合物でもよく、天然物抽出物中に存在する化合物であってもよい。被験化合物として、例えば、合成化合物、天然化合物、植物抽出物、動物抽出物、発酵生産物、市販の試薬、化合物ライブラリーから選抜された化合物などが挙げられる。被験化合物の分子種も特に制限されず、例えば、低分子化合物、ペプチド、蛋白質、糖、核酸等を例示できる。核酸として、例えば、アンチセンスDNA、shRNA、siRNAを例示できる。被験化合物として、公知の抗癌剤、公知の細胞増殖抑制剤又は公知のシステインプロテアーゼ阻害剤を用いることも可能である。
【0063】
以下に、USP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性を測定可能なin vitroの試験系について説明する。
【0064】
USP20遺伝子の発現量を測定可能な系として、in vitro 転写/翻訳試験系、in vitro翻訳試験系を例示できる。in vitro 転写/翻訳試験系として、転写及び翻訳を望む遺伝子(cDNA等)を挿入した組換えベクターを、ウサギ網状赤血球抽出液又は小麦胚芽抽出液に添加することにより、該遺伝子の転写と翻訳反応が行われる試験系を例示できる。in vitro翻訳試験系として、翻訳を望む遺伝子の転写産物を、ウサギ網状赤血球抽出液又は小麦胚芽抽出液に添加することにより、該遺伝子がコードする蛋白質の合成反応が行われる試験系を例示できる。これらの試験系を実現するための試薬が販売されている(TNT T7 Quick Coupled Transcription/Translation System;プロメガ社製)。
【0065】
USP20遺伝子の発現量は、USP20遺伝子の転写産物(USP20遺伝子のメッセンジャーRNA)量でもよく、該USP20遺伝子の転写産物から翻訳されてなるUSP20の量としてもよく、またその組合せの量でもよい。
USP20遺伝子の転写産物の量は、逆転写ポリメラーゼ鎖伸長反応法(RT-PCR法)やノーザンブロット法により測定可能である。定量性の観点から、USP20遺伝子の発現量の測定方法として、好ましくRT-PCR法をより好ましくリアルタイムRT-PCR法を例示できる。
【0066】
USP20の量は、例えば、免疫沈降法やウェスタンブロット法などにより測定可能である。例えば、本願実施例のように、USP20遺伝子を発現する細胞の細胞溶解液を電気泳動装置に供与・泳動した後、泳動後のゲル、一次抗体であるUSP20抗体及び二次抗体である標識抗IgG抗体を用いて抗原抗体反応を行わせることにより、USP20量を測定することができる。
【0067】
USP20活性を測定可能な試験系として、in vitroにおけるUSP20とUSP20の基質との酵素反応系を例示できる。
【0068】
USP20活性は、例えば、USP20の基質とUSP20を含む適当な緩衝液を調製し、USP20によるUSP20の基質の脱ユビキチン化反応を行わせた後、USP20の基質の低減又は消失、及び/又は、生成物の増加又は発生を検出することにより測定可能である。USP20の基質として、人工基質を用いてもよい。人工基質は、USP20の酵素活性を測定するための人工基質であれば特に制限されないが、例えば、N-benzyloxycarbonyl-Leu-Arg-Gly-Gly-7-amino-4-methylcoumarin(以下、Z-LRGG-AMCと称する。)やUb-7-amino-4-methylcoumarin(以下、Ub-AMCと称する。)などを例示できる(非特許文献24)。USP20をZ-LRGG-AMC又はUb-AMCに作用させると、7-amino-4-methylcoumarin(以下、AMCと称する。)が遊離するため、遊離したAMCを測定することによりUSP20活性を測定可能である。また、人工基質として、tetra-ubiquitinを例示できる。USP20の脱ユビキチン化活性によりtetra-ubiquitinのubiquitin間のイソペプチド結合が切断され、ubiquitinが遊離する。遊離したubiquitin をSDS-PAGE、western blotting後に抗ユビキチン抗体により検出することによりUSP20活性を測定可能である。さらに、人工基質としてubiquitin GSTを例示できる。脱ユビキチン化の酵素がubiquitinのC末端を切断する機能を利用して、ubiquitin-GSTのubiquitinとGSTが切断されることによるubiquitin-GSTの減少を、SDS-PAGEにより展開し抗体等により検出、またはELISA法にて検出することによりUSP20活性を測定可能である。
【0069】
次に、USP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性を測定可能なin vivoの試験系について説明する。
【0070】
in vivoの試験系として、USP20遺伝子を発現する細胞の試験系を好ましく例示できる。
USP20遺伝子を発現する細胞の細胞内の転写/翻訳システムにより、該細胞内において、USP20遺伝子が転写/翻訳され、結果として、USP20が合成される。
【0071】
USP20遺伝子を発現する細胞は、USP20遺伝子を発現する限りにおいて制限されず、初代培養、細胞株のいずれでもよい。細胞内におけるUSP20遺伝子発現の有無は、例えば、USP20特異的な抗体を用いたウェスタンブロット方法により確認できる。また、本同定方法で用いるUSP20遺伝子を発現する細胞は、USP20遺伝子を導入した細胞であってもよい。あるいは、USP20をコードする遺伝子とUSP20の基質をコードする遺伝子を共導入させた細胞であってもよい。USP20遺伝子の導入は、例えば、USP20遺伝子を含有する組換えベクターを慣用の遺伝子工学的手法で細胞にトランスフェクションすることで実施できる。USP20をコードする遺伝子とUSP20の基質をコードする遺伝子の共導入は、USP20をコードする遺伝子を含む組換えベクターとUSP20の基質をコードする遺伝子を含む組換えベクターを慣用の遺伝子工学的手法で細胞にトランスフェクションすることで実施できる。USP20遺伝子を発現する細胞として、例えば、HEK293細胞(ヒト胎児腎臓由来)、HCT116細胞(ヒト大腸癌由来)、A549細胞(ヒト肺腺癌由来)、T47D細胞(ヒト乳癌由来)、MCF7細胞(ヒト乳癌由来)、MIAPaCa-2細胞(ヒト膵臓癌由来)、JURKAT細胞(ヒト白血病由来)、K562細胞(ヒト慢性骨髄性白血病)をより好ましく例示できる。本願において、結節硬化型ホジキンリンパ腫においてUSP20遺伝子の発現が亢進していることを見出した。従って、USP20遺伝子を発現する細胞として、悪性リンパ腫又は白血病由来のリンパ細胞株を好ましく例示できる。本同定方法で用いる細胞の培養は、用いる細胞に応じた各種培養条件(培地の組成、培養時間、培養温度など)を設定して実施することができる。
【0072】
(1)の工程では、前記の試験系に被験化合物を混在させ、USP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性を測定する。
【0073】
例えば、in vitroにおけるUSP20とUSP20の基質との酵素反応系に被験化合物を混在させる場合には、該酵素反応の前に該酵素反応溶液に被験化合物を添加してもよく、あるいは該酵素反応中に酵素反応溶液に被験化合物を添加してもよい。
【0074】
例えば、USP20遺伝子を発現する細胞の試験系に被験化合物を混在させる場合には、該細胞内に被験化合物を導入してもよく、該細胞の培養上清に添加してもよい。これらの導入又は添加は、該細胞の培養からUSP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性の測定までの過程のいずれの時であってもよい。被験化合物が核酸(例えば、siRNA又はshRNA)の場合には、該細胞に導入することが好ましい。被験化合物が核酸の場合、自体公知の遺伝子導入方法(リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法など)により、被験化合物を細胞に導入可能である。
【0075】
さらに、(2)(1)で測定したUSP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性と被験化合物非存在下におけるUSP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性とを比較する。このような比較として、(a)(1)で測定したUSP20遺伝子の発現量と被験化合物非存在下におけるUSP20遺伝子の発現量との比較、(b)(1)で測定したUSP20活性と被験化合物非存在下におけるUSP20活性との比較、又は(a)及び(b)の両方の比較を例示できる。比較の結果、(1)で測定したUSP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性が、被験化合物非存在下におけるUSP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性を下回る(USP20遺伝子の発現量値とUSP20活性値が共に下回る、又は、USP20遺伝子の発現量値とUSP20活性値のいずれかが下回る)場合には、被験化合物はUSP20を阻害すると判定できる。
【0076】
例えば、被験化合物存在下におけるUSP20遺伝子の発現量が被験化合物非存在下におけるUSP20遺伝子の発現量と比べ低減又は消滅している場合、被験化合物存在下におけるUSP20量が被験化合物非存在下におけるUSP20量と比べ低減又は消滅している場合、被験化合物存在下におけるUSP20活性が被験化合物非存在下におけるUSP20活性と比べ低減又は消滅している場合、被験化合物存在下におけるUSP20の基質の量が被験化合物非存在下におけるUSP20の基質の量と比べ増加している場合、及び、被験化合物存在下における脱ユビキチン化されたUSP20の基質(生成物)量が被験化合物非存在下における脱ユビキチン化されたUSP20の基質量と比べ低減又は消滅している場合の少なくともいずれかの1の場合には、被験化合物はUSP20を阻害すると判定できる。
【0077】
なお、「被験化合物非存在下」という反応条件の代わりに、「実質的にUSP20阻害活性のない化合物(以下、陰性対照化合物と称することもある)存在下」という反応条件としてもよい。すなわち、被験化合物存在下におけるUSP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性の測定値と陰性対照化合物存在下におけるUSP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性の測定値とを比較してもよい。このような陰性対照化合物として、scramble siRNAを例示できる(本願実施例)。
【0078】
さらに、本発明は、USP20阻害化合物からなる細胞増殖抑制剤を提供する。本発明において、用いた5種類全てのsiRNA(本願実施例において、U20-1, U20-2, U20-3, U20-4及びU20-5と称されるsiRNA)がHEK293細胞内のUSP20遺伝子の発現を阻害し(すなわち、細胞内のUSP20量を低下させ)、かつ、HEK293細胞の細胞増殖を抑制することを明らかにした。さらに、用いた5種類全てのsiRNAがA549細胞(ヒト肺腺癌由来)の細胞増殖を抑制し、そのうち4種類のsiRNA(本願実施例において、U20-2, U20-3, U20-4、及びU20-5と称されるsiRNA)がHCT116細胞(ヒト大腸癌由来)の細胞増殖を抑制することを明らかにした。従って、USP20阻害化合物は細胞増殖抑制作用、好ましくは癌細胞増殖抑制作用を有する。
【0079】
USP20阻害化合物は、特に限定されず、例えば、USP20遺伝子発現を阻害する化合物、USP20活性を阻害する化合物、USP20を分解する化合物を例示できる。USP20活性を阻害する化合物として、USP20の脱ユビキチン化活性を阻害する化合物、例えばユビキチンアルデヒドを例示できる。また、USP20はシステインプロテアーゼと考えられるため、システインプロテアーゼ阻害剤もUSP20阻害化合物として好適に用い得る。
【0080】
USP20遺伝子発現を阻害する化合物として、例えば、USP20遺伝子の発現を阻害するアンチセンスDNA、USP20遺伝子の発現を阻害するshRNA、USP20遺伝子の発現を阻害するsiRNAを例示できる。USP20遺伝子発現を阻害する化合物として、次の(1)〜(5)のいずれか1つの2重鎖ポリヌクレオチドを例示できる。(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号2に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニ−ルして得られる2重鎖ポリヌクレオチド(本願実施例においてU20-1と称されるsiRNA)、(2)配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号4に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニ−ルして得られる2重鎖ポリヌクレオチド(本願実施例においてU20-2と称されるsiRNA)、(3)配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号6に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニ−ルして得られる2重鎖ポリヌクレオチド(本願実施例においてU20-3と称されるsiRNA)、(4)配列表の配列番号7に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号8に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニ−ルして得られる2重鎖ポリヌクレオチド(本願実施例においてU20-4と称されるsiRNA)、及び(5)配列表の配列番号9に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号10に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニ−ルして得られる2重鎖ポリヌクレオチド(本願実施例においてU20-5と称されるsiRNA)。「RNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させる」とは、該RNAの3´末端のリボース3´水酸基部位に2つのデオキシチミジル酸からなるオリゴヌクレオチドをジエステル結合により結合させることを意味する。また、2つのデオキシチミジル酸からなるオリゴヌクレオチドの代わりに、公知のオーバーハング配列からなるオリゴヌクレオチドを用いてもよい。
【0081】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるRNA、配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるRNA、配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるRNA、配列表の配列番号7に記載の塩基配列で表されるRNA及び配列表の配列番号9に記載の塩基配列で表されるRNAも本発明に含まれる。
【0082】
上記RNA及びポリヌクレオチドは、公知の化学合成法を用いて調製することができる。例えば、市販のRNA合成試薬を用いてDNA/RNA合成装置により調製可能である。上記二重鎖ポリヌクレオチドを得るためのアニ−リングは、慣用の方法で行うことができる。
【0083】
一般的に、in vitroスクリーニングのみにより医薬又はその候補化合物が見出されるとは限らない。最近では、in vitroスクリーニングで多数の検体を高速で調べることのできる自動化されたハイスル−プットスクリーニング(high-throughput screening;HTS)系が導入されているが、1)ハイスル−プットスクリーニングによって選択された化合物(例えば、ヒット化合物やシード化合物と呼ばれることもある)の中から、化学修飾により活性、薬物動態、及び安全性等の資質の改善が見込める化合物(例えば、リード化合物と呼ばれることもある)が選択され、2)その選択された化合物を化学修飾した化合物について、生物活性(in vitro, in vivo)、物性、薬物動態、及び安全性などが評価され、3)その評価に基づいて化学修飾された化合物の中から好ましい化合物がさらに選択される。4)そして、このような化学修飾、評価、及び選択が繰り返され、最終的に医薬として資質が高いと考え得る化合物が臨床試験に供与される医薬の候補化合物となる。以上の1)〜4)の過程を経て、医薬品が創製される場合もある。
【0084】
従って、ヒトに投与可能な抗癌剤開発を最終目的とし、生物活性評価系としてUSP20阻害のアッセイ系を導入した抗癌剤創製過程においてUSP20阻害活性化合物を選抜する行為は、本同定方法の範囲に含まれる。例えば、ヒトに投与可能な抗癌剤開発を最終目的とし、USP20阻害を指標とするハイスル−プットスクリーニング系を構築し、そのスクリーニング系でヒット化合物やリード化合物をスクリーニングする行為、又は、それらの修飾化合物の中からUSP20阻害化合物を選抜する行為も、本同定方法に含まれる。
【0085】
本発明において、USP20阻害化合物は肺腺癌由来細胞株及び大腸癌由来細胞株のいずれにおいてもその細胞増殖抑制効果を示した。さらに、数種類の白血病(Leukemia)由来細胞株においてUSP20遺伝子が発現していること、結節硬化型ホジキンリンパ腫においてUSP20遺伝子の発現が亢進していることを明らかにした。
【0086】
従って、本抗癌剤に適用される癌の種類は特に限定されないと発明者は考える。具体的には、本抗癌剤は、固形腫瘍又は非固形腫瘍のいずれにも適用可能であり、USP20遺伝子の発現が認められるあらゆる種類の癌に適用可能である。例えば、胃癌 、食道癌 、大腸癌 、小腸癌 、十二指腸癌 、肺癌 、肝臓癌 、胆嚢癌 、膵臓癌 、腎臓癌 、膀胱癌 、口腔癌 、骨癌 、皮膚癌 、乳癌 、子宮癌 、前立腺癌 、脳腫瘍、神経芽腫等の固形腫瘍、あるいは白血病や悪性リンパ腫等の非固形腫瘍等を挙げることができる。
【0087】
本同定方法で同定された細胞増殖抑制剤及び抗癌活性を有する化合物はいずれも、適当な医薬担体と組合せて抗癌剤(すなわち、癌の予防及び/又は治療剤)として用いられる。製剤化にあたっては、その剤形に応じて適切な製剤用添加物を用いることができる。
【0088】
このような製剤用添加物として、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤等を用いることができる。
【0089】
投与経路は、全身投与であってもよく、局所投与であってもよい。投与経路は、疾患や症状に応じて選択する。例えば、静脈投与、動脈投与、皮下、皮内、又は筋肉内投与を選択することができる。腫瘍患部に直接に抗癌剤を投与してもよい。
【0090】
必要な容量範囲は、有効成分の有効性、疾患、患者の症状、投与経路、及び担当医師の判断等によるが、一般的には、患者の体重1kgあたり0.1乃至100μg程度である。
【0091】
経口投与に適する製剤の例として、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤を挙げることができる。非経口投与に適する製剤の例として、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、点眼剤、点耳剤、軟膏剤、クリ−ム剤、貼付剤を例示できる。
【0092】
さらに、本発明は、被験リンパ球が白血病由来のリンパ球であるか否かを判定する方法を提供する。本発明者らは、USP20遺伝子の発現解析を行った結果、白血病(Leukemia)由来細胞株においてUSP20遺伝子が発現していること、結節硬化型ホジキンリンパ腫においてUSP20遺伝子の発現が亢進していることを見出した。悪性リンパ腫はリンパ球の癌化により発症する悪性腫瘍であり、リンパ節が腫れて腫瘤ができる疾病である。一方、同様にリンパ球の癌化により発症するリンパ性白血病は主に血液や骨髄において悪性癌細胞の増殖が認められる悪性腫瘍である。悪性リンパ腫は、ホジキン病と非ホジキンリンパ腫に大別され、それぞれにつき病変部の腫瘍細胞の形状やその配列状態の違いなどいわゆる病理組織学的所見に基づきさらに病型分類がなされる。慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia;CLL)と急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia:ALL)はいずれも白血病の一種である。それぞれ、血液に存在する成熟したリンパ球又は未熟なリンパ球が著しく増殖する疾病である。急性リンパ性白血病は、小児から成人までのどの年齢でも発症するが、主に小児に発症する。逆に、慢性リンパ性白血病は、主に成人に発症する。結節硬化型ホジキンリンパ腫は悪性リンパ腫の一種であることから悪性リンパ腫由来のリンパ球においてもUSP20遺伝子の発現が亢進していると発明者は考えている。さらに、3種類の白血病由来細胞株においてUSP20遺伝子が発現していること及び悪性リンパ腫が白血病の一種であることから、白血病由来のリンパ球においてUSP20遺伝子の発現が亢進していると発明者は考えている。
【0093】
すなわち、本発明は、被験リンパ球におけるUSP20遺伝子の発現量を指標として、被験リンパ球が白血病由来であるか否かを判定する方法を提供する。すなわち、本判定方法は、被験リンパ球におけるUSP20遺伝子の発現量を測定する工程を含む点に特徴を有する。白血病として、好ましく悪性リンパ腫、さらに好ましくホジキンリンパ腫、最も好ましく結節硬化型ホジキンリンパ腫を例示できる。
【0094】
本判定方法に用いる被験リンパ球は、USP20遺伝子の発現が認められる限りにおいて特に限定されず、例えば、CD4陽性Tリンパ球、CD8陽性Tリンパ球、Bリンパ球などが例示される。被験リンパ球は、これらの混合物でもよく、例えばCD4陽性Tリンパ球単独であってもよい。例えば、CD8陽性Tリンパ球の精製物は、抗CD8抗体を用いて取得できる。本判定方法に用いる被験リンパ球は、リンパ球とともにリンパ球以外の物質が混合している混合試料であってもよい。
【0095】
被験リンパ球は、哺乳動物の血液、脾臓、リンパ節などから採取可能である。被験リンパ球がホジキンリンパ腫由来であるか否かを判定する場合には、被験リンパ球をリンパ節から採取することが好ましい。尚、哺乳動物として、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、サル、ウシなどが例示される。ヒト由来のリンパ球を好適に用い得る。血液を被験リンパ球の採取源とする場合には、Ficoll密度勾配遠心分離法などの自体公知のリンパ球分離方法を使用することによって、被験リンパ球を取得できる。リンパ節を被験リンパ球の採取源とする場合には、摘出したリンパ節をコラゲナーゼ等の酵素処理又はキレート剤処理をすることが好ましい。摘出したリンパ節や脾臓などにのせた金属メッシュを圧迫することで、摘出したリンパ節や脾臓内部に存在する被験リンパ球を取得することができる。
【0096】
採取した被験リンパ球をそのまま用いることも可能であるが、さらに培養してもよい。培養液は特に限定されず、動物細胞の培養に一般的に使用されている基本培地、例えば最小基本培地(MEM)、RPMI-1640培地、ハム F12培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)などが好適に例示される。さらに、ウシ胎児血清(FCS)を培養液に添加することが好ましい。培養する被験リンパ球の細胞増殖能を高めるために、インターロイキンやインターフェロンなどを単独で又は組合せて培養液に添加することもできる。その他の培養条件も特に限定されないが、例えば、3-8% 程度のCO2インキュベーターにおいて30〜40℃で数日〜10日程度培養することも可能である。
【0097】
被験リンパ球におけるUSP20遺伝子の発現量は、例えば、自体公知の方法により調製した被験リンパ球の細胞溶解液に含まれるUSP20メッセンジャーRNAやUSP20量から測定され得る。USP20メッセンジャーRNAやUSP20量は、自体公知の方法、例えば、RT-PCR法、ノーザンブロット法、ウェスタンブロット法などにより測定可能である。
【0098】
被験リンパ球におけるUSP20遺伝子の発現量が、対照となる健常体由来のリンパ球におけるUSP20遺伝子の発現量と比較して、亢進している場合には、被験リンパ球は白血病由来のリンパ球であると判定することができる。対照となる健常体由来のリンパ球は、被験リンパ球の同様の採取・精製方法に従って取得することが好ましい。
【0099】
被験リンパ球におけるUSP20遺伝子の発現量が、対照となる健常体由来のリンパ球におけるUSP20遺伝子の発現量と比較して、1.5倍以上、好ましくは2.0倍以上、さらに好ましくは3.0倍以上亢進している場合には、被験リンパ球は白血病由来のリンパ球であると判定することができる。
【0100】
さらに、本発明は、USP20及び/又はUSP20をコードする遺伝子を含有する、試薬キットを提供する。本試薬キットは、例えば、上記同定方法、判定方法に好適に用いられる。
【0101】
本試薬キットには、上記同定方法や判定方法に用いられるマーカー物質、緩衝液、塩、安定化剤、防腐剤などが含まれていてもよい。製剤化にあたっては、使用する各物質それぞれに応じた製剤化手段を導入すればよい。
【0102】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
【実施例】
【0103】
(実施例1:各種細胞株のUSP20遺伝子発現量の確認)
後述の実施例2で用いる細胞を選抜するため、各種細胞株におけるUSP20遺伝子発現量をウェスタンブロット法により確認した。
【0104】
本実施例で用いた細胞株は、HeLa, A-549, HCT116, HEK293T, CHO-K1, PC12, MCF7, T47D, MIAPaCa-2, PANC1, OVCAR-3, IGR-OV1, LNCaPとした。
【0105】
各細胞株の細胞溶解液より蛋白質濃度を測定後、アプライする蛋白質量を一定(25μg)にしてwestern blot法を実施した。なお、検出バンドのポジティブコントロールとしてFLAGタグを付加させたUSP20発現プラスミドを導入したHEK293細胞から調製したサンプルも同時にアプライした。その結果(図2)、USP20はHEK293TとT47Dにおいて発現が高い傾向があった。他の細胞株については、HEK293T、T47Dほどではないが、弱い発現として検出された。そこで、USP20の発現が比較的高いHEK293Tに近い関係のHEK293を用いてsiRNA導入実験を実施することとした。
(実施例2:USP20遺伝子発現を阻害する二重鎖ポリヌクレオチドの探索、該二重鎖ポリヌクレオチドがHEK293細胞に与える影響の評価)
(1) USP20遺伝子発現を阻害する二重鎖ポリヌクレオチドの探索
細胞内におけるUSP20遺伝子発現が該細胞に与える影響を評価するため、まず、USP20遺伝子発現を阻害する二重鎖ポリヌクレオチドを探索した。
【0106】
具体的には、RNA干渉によりUSP20遺伝子発現を阻害すると考えられる以下に示す1)〜5)の二重鎖ポリヌクレオチド(siRNA)を合成(B-Bridge社に委託)した。
【0107】
1)U20-1
5´- GCAUGAAGAACCUCGGGAAdTdT -3´ (dTdTを除く部分配列:配列番号1)
3´- dTdTCGUACUUCUUGGAGCCCUU - 5´ (dTdTを除く部分配列:配列番号2)
2)U20-2
5´- GGACAAUGAUGCUCACCUAdTdT -3´ (dTdTを除く部分配列:配列番号3)
3´- dTdTCCUGUUACUACGAGUGGAU - 5´ (dTdTを除く部分配列:配列番号4)
3)U20-3
5´- GGUCAAAGGAAGCGGCCAUdTdT -3´ (dTdTを除く部分配列:配列番号5)
3´- dTdTCCAGUUUCCUUCGCCGGUA - 5´ (dTdTを除く部分配列:配列番号6)
4)U20-4
5´- CGUGUGAUCUGCUGGGCUAdTdT -3´ (dTdTを除く部分配列:配列番号7)
3´- dTdTGCACACUAGACGACCCGAU - 5´ (dTdTを除く部分配列:配列番号8)
5)U20-5
5´- GGAUGAUGAAACAGGGAUAdTdT -3´ (dTdTを除く部分配列:配列番号9)
3´- dTdTCCUACUACUUUGUCCCUAU - 5´ (dTdTを除く部分配列:配列番号10)
また、対照の陰性化合物として、6)の二重鎖ポリヌクレオチド(siRNA)を合成(B-Bridge社に委託)した。
【0108】
6)scramble siRNA
5´- GCGCGCUUUGUAGGAUUCGdTdT -3´
3´- dTdTCGCGCGAAACAUCCUAAGC - 5´
また、対照の陰性化合物として、6)の二重鎖ポリヌクレオチド(siRNA)を合成(B-Bridge社に委託)した。scramble siRNAは、哺乳動物の細胞には存在しない配列を二本鎖にしたRNAであって、植物の葉緑体遺伝子の中にある配列から選出された。
【0109】
6well plateへ2 x 105 cells/wellで播種したHEK293細胞を1日培養し、前記の6種類のsiRNA(80 pmol/well)それぞれを導入試薬であるLipofectamine2000とともにHEK293細胞に導入した。
【0110】
siRNA導入1日後にトリプシン-EDTAにより培養細胞を解離させて細胞けん抱液を調製し、100mm dishに細胞を播種して3日間培養した。siRNA導入4日目に細胞増殖をWST-8(TetraColor Oneキット、生化学工業(株))を用いて測定・数値化した。具体的には、8ml10% Fetal calf Serumを含むDMEMで培養した培養細胞に400μL/dishのWST-8を添加して、5% CO2 incubatorにて37℃、1〜4時間培養し、培地の一部を96 well plateに移し、450nmの波長(対照波長として630nm)で発色を数値化した。培養細胞内部の蛋白質の発現量をwestern blot法で確認するため、細胞溶解液を調製した。すなわち、トリプシン-EDTAにより細胞を解離させて、PBSで洗浄後、細胞をペレットとして凍結させた。その後、凍結サンプルをLysis buffer(CelLytic-M, SIGMA社製)にて細胞溶解液を調製した。細胞溶解液の蛋白質濃度を測定後、アプライする蛋白質量を一定(25μg)にしてwestern blot法を実施した。
【0111】
HEK293細胞にsiRNAを導入したときのHEK293細胞の増殖への影響とUSP20のノックダウン効果を図3〜5に示す。前記の1)〜5)全てのsiRNAは、ネガティブコントロールであるscramble siRNAと比べ、細胞増殖を抑制した(図4)。また、これらの細胞より調製した細胞溶解液を用いて蛋白質発現抑制が起こるかをwestern解析で確認したところ、scramble siRNAを導入した細胞と比較して、前記の1)〜5)全てのsiRNAはUSP20遺伝子の発現を抑制した(図3)。さらに、検出バンドをデンシトメータで数値化し、GAPDHの発現量で補正したところ、USP20遺伝子の発現が細胞増殖抑制に応じて抑制されていることが確認された(図5)。
【0112】
以上の結果から、前記の1)〜5)全てのsiRNAはUSP20遺伝子の発現を阻害し、本阻害によってHEK293細胞の増殖抑制が誘導されたものと考えられた。
(2) USP20遺伝子発現を阻害する二重鎖ポリヌクレオチドが癌細胞に与える影響評価
前記の1)〜5)全てのsiRNA はUSP20遺伝子発現を阻害する二重鎖ポリヌクレオチドであることが確認されたため、これらのsiRNAが癌細胞に与える影響を評価した。
【0113】
24 well plateへ播種し、1日間培養した癌細胞株(HCT116 、及びA549)(HCT116 、及びA549の播種数は、それぞれ5.0 x 104、及び2.5 x 104 cells/well)に、導入試薬であるLipofectamine2000とともに前記の6種類のsiRNA(20 pmol/well)それぞれを導入した。導入1日後にトリプシン-EDTAにより癌細胞株を解離させて細胞けん抱液を調製し、60mm dishに細胞を播種して3日間培養した。siRNAによる細胞の表現型の変化を確認するため、導入4日後にWST-8キットによって細胞増殖を数値化した。具体的には、培養細胞に100μL/dishのWST-8を添加して、5% CO2 incubatorにて37℃、1〜4時間培養し、培地の一部を96 well plateに移し、450nmの波長(対照波長として630nm)で発色を数値化した。
【0114】
HCT116細胞、及びA549細胞にsiRNAを導入したときの細胞増殖への影響の結果を図6に示す。HEK293細胞に加えて、HCT116細胞、A549細胞においても複数のsiRNA配列が細胞増殖を抑制することを明らかにした。HEK293細胞においてUSP20に対するsiRNA導入によってUSP20の蛋白質発現が抑制されていることより、HCT116細胞、及びA549細胞においてもUSP20のノックダウン効果により、細胞増殖が抑制されたものと考えられる。
【0115】
以上の結果より、USP20に対するsiRNAを癌細胞に導入することにより、複数のsiRNAの配列で細胞増殖が抑制されることから、USP20は癌細胞における細胞増殖に何らかの影響を及ぼしていることが示唆された。
(実施例3:USP20遺伝子の発現解析)
各種疾病の患者から採取した組織の遺伝子発現解析データベース(BioExpress)を用いて、USP20遺伝子の発現解析を行った。
【0116】
その結果、結節硬化型ホジキンリンパ腫由来のリンパ節におけるUSP20遺伝子の発現量が、健常体由来のリンパ節におけるUSP20遺伝子の発現量のおよそ2.1倍であることを見出した(p-value 0.03)。なお、健常体由来の各組織においてUSP20遺伝子の発現量は小さく、比較的的脳関連組織に発現が集中していることも明らかにした。
【0117】
白血病とUSP20遺伝子の発現量との関連性について調査した結果、白血病由来の各種細胞株(JURKAT (ヒト白血病Tリンパ細胞)K-562(ヒト慢性骨髄白血球細胞)、MOLT-4(ヒト白血病Tリンパ細胞)等においてUSP20遺伝子が発現していることを見出した。
【0118】
また、Inguinal lymph node(鼡径リンパ節)関連腫瘍に共通してUSP20遺伝子の発現亢進が認められた。
【0119】
以上の結果から、USP20は悪性リンパ腫又はリンパ性白血病への関与が示唆される。
(実施例4:USP20の調製)
(1) USP20発現ベクターの構築
USP20 ORFの開始コドン直前にNotIサイト、終止コドン直後にNheIサイトを入れたプライマー1)USP20 Forwardおよび2)USP20 Reverseを用いて、KIAA1003(配列番号15、かずさDNA研究所)を鋳型としてPCRを行った。得られたPCR産物を、制限酵素(NotI、NheI)処理後、pCIベクターのMCSの5’端にFLAG配列を付加したベクターに組み込んでUSP20発現ベクター(pCI-FLAG-USP20)を調製した。
また、USP20の酵素活性の特異性を確認するため、USP20の酵素活性部位の変異体を作製した。USP はシステインプロテアーゼの一つであり、Cys box 内に存在するシステイン残基が活性部位であることが知られている。そこで、USP20における推定活性部位である第154番目のシステインをセリンに置換した変異体(USP20(C154S))を作製するため、第154番目のシステインのコドンであるTGC がセリンのコドンであるAGT に置換するように設計した3)および4)のプライマーを用いて、pCI-FLAG-USP20を鋳型としてQuikChange XL Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社)にてUSP20変異体発現ベクター(pCI-FLAG-USP20(C154S))を調製した。
1)USP20 Forward
5´- ATCGCACAGTGCGGCCGCATGGGGGACTCCAGGGACCTTTGC-3´(配列番号16)
2)USP20 Reverse
5´- GGGCCCGCTAGCTTACACGGCCCGCGTCTCGGCTTCG-3´(配列番号17)
3)KIAA1003 C154S F
5´- GAAGAACCTCGGGAACTCCAGTTACATGAACGCCGCCCTG-3´(配列番号18)
4)KIAA1003 C154S R
5´- CAGGGCGGCGTTCATGTAACTGGAGTTCCCGAGGTTCTTC-3´(配列番号19)
【0120】
(2) USP20発現ベクターのHEK293細胞への導入
Opti-MEM I Reduced Serum Medium(Invitrogen社)で希釈したpCI-FLAG-USP20とOpti-MEM I Reduced Serum Mediumで希釈したLipofectamine2000(Invitrogen社)の混合液を10% FCSを含むDMEM培地で培養のHEK293細胞に添加して、pCI-FLAG-USP20を細胞へ導入した。なお、pCI-FLAG-USP20の対照として、pCIベクターまたはpCI-FLAG-USP20(C154S)を導入した。37℃、5% CO2環境下で2日間培養後、トリプシン処理により細胞を回収し、PBSで洗浄後、細胞ペレットを-20℃で保存した。
(3) USP20の精製
(2)で得られた細胞ペレットにCelLytic M(SIGMA社)を添加し、細胞溶解液を調製した。これを4℃、12,000 rpmで10分以上遠心分離し、その上清を回収した。ANTI-FLAG M2 Affinity Gel(SIGMA社)をTBS(50 mM Tris-HCl (pH7.5)、150m NaCl)で平衡化し、回収した上清を平衡化したANTI-FLAG M2 Affinity Gelにアプライした。FLAG-USP20をAffinity Gelに結合させるため4℃で混和後、TBSで洗浄、さらに2% TritonX-100を含むTBSで洗浄を行った。洗浄後、0.1mg/mL FLAG peptideを含む2% TritonX-100を含むTBSによる溶出でFLAG-USP20を溶出した。溶出画分はwestern blotting分析(抗FLAGタグ抗体(SIGMA社)のよる検出)した。また、pCIベクターとpCI-FLAG-USP20(C154S)を導入した細胞においても同様な方法でサンプル調製した。
(実施例5:Ubiquitin-AMC(7-amido-4-methylcoumarin)アッセイ)
384ウェルプレートに反応バッファー(50mM Tris-HCl (pH 7.5), 0.5mM EDTA, 5mM DTT, 0.1mg/mL Ovalbumin )で希釈したFLAG−USP20もしくはFLAG−USP20(C154S)を5μL添加後、さらに反応バッファーで希釈した800nM ubiquitin-AMCを5μL添加して(最終ubiquitin-AMC濃度:400nM)、30℃で反応させ、ARVO-SX(PerkinElmer社)にて遊離AMCの蛍光(Excitation; 390nm/Emission; 460nm)を測定した。なお、測定のポジティブコントロールとしてIsopeptidase T(Boston Biochem社製)を使用した。
動物細胞により生産したUSP20の検出を図7に示す。抗FLAG抗体(SIGMA社)による検出にて、FLAG−USP20、FLAG−USP20 (C154S)ともに約120KDaにバンドが検出された。また、これらのバンドは、ほぼ同等のバンドの濃さであった。この精製サンプルを用いて、ubiquitin-AMC法による活性測定を実施した結果を図8に示す。FLAG−USP20においてのみ活性が認められた。また、希釈に応じた活性も認められた。一方、pCIベクターやFLAG−USP20(C154S)においては、活性は認められなかった。このことより、HEK293細胞で生産したUSP20は、脱ユビキチン化酵素として活性を有することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】USP20の一次構造を模式的に示した図である。Zinc-fingerドメイン、Cys Boxドメイン、Aspドメイン、His Boxドメインを有することを示す。Cys Boxドメイン、Aspドメイン及びHis Boxドメインは、システインプロテアーゼ活性の活性ドメインである。
【図2】各種細胞株(HeLa, A-549, HCT116, HEK293T, CHO-K1, PC12, MCF7, T47D, MIAPaCa-2, PANC1, OVCAR-3, IGR-OV1, LNCaP)の細胞溶解液に含まれるUSP20遺伝子の発現量を示した図である。各細胞株の細胞溶解液を調製し、調製した細胞溶解液を電気泳動装置に供与(レーン毎に1細胞株の細胞溶解液を供与)し、ウェスタンブロット法によりUSP20を検出した。抗原抗体反応をCan Get Signalを用いて実施した。検出用の試薬としてECL plus(Amersham)を使用した。なお、各レーンに供与した細胞溶解液に含まれる総蛋白質含量を一定(25μg /レーン)とした。図中、矢頭はUSP20のバンドの位置を示す。
【図3】6種類のsiRNAそれぞれを導入したHEK293細胞のUSP20遺伝子の発現量(すなわちUSP20量)を示す(上図)。各々の細胞の細胞溶解液を調製し(n=2)、調製した細胞溶解液を電気泳動装置に供与し、ウェスタンブロット法によりUSP20を検出した。抗原抗体反応をCan Get Signalを用いて実施した。検出用の試薬としてECL plus(Amersham)を使用した。なお、各レーンに供与した細胞溶解液に含まれる総蛋白質含量を一定(25μg)とした。下図は、各々の細胞のGAPDH量を示す。
【図4】6種類のsiRNAそれぞれを導入したHEK293細胞の細胞増殖を示した図である。細胞増殖は、テトラカラーによって測定した。
【図5】6種類のsiRNAそれぞれを導入したHEK293細胞のUSP20遺伝子の発現量(すなわちUSP20量)を示す。発現量は、図3に示されるUSP20に相当するバンドをデンシトメータ解析により測定した。なお、発現量は、各細胞の細胞内のGAPDH量で規格化(補正)している。
【図6】3種類の細胞株(HEK293, A549, HCT116)それぞれに6種類のsiRNAそれぞれを導入した場合の、各siRNA導入が各細胞の細胞増殖に与える影響を示す図である。各値は、scramble siRNA(図中、N.C.と記載)を導入した際の細胞増殖度に対する比で表される。
【図7】HEK293で生産したUSP20およびUSP20(C154S)の抗FLAG抗体による検出。1は pCIベクターを導入したHEK293より精製したサンプル、2はpCI-FLAG-USP20を導入したHEK293より精製したサンプル、3はpCI-FLAG-USP20(C154S)を導入したHEK293より精製したサンプルを表す。
【図8】HEK293で生産したUSP20の酵素活性をUbiquitin-AMC assayによって評価した結果を示した図である。縦軸は蛍光強度、N.C.はNegative control、IsoTはIsopeptidase T 、Empty vectorはpCIベクターを導入したHEK293より精製したサンプル、USP20 W.T.は pCI-FLAG-USP20を導入したHEK293より精製したサンプル、USP20 mutantはpCI-FLAG-USP20(C154S)を導入したHEK293より精製したサンプルを表す。
【配列表フリーテキスト】
【0122】
配列番号1:U20-1と称した二重鎖ポリヌクレオチドのセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号2:U20-1と称した二重鎖ポリヌクレオチドのアンチセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号3:U20-2と称した二重鎖ポリヌクレオチドのセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号4:U20-2と称した二重鎖ポリヌクレオチドのアンチセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号5:U20-3と称した二重鎖ポリヌクレオチドのセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号6:U20-3と称した二重鎖ポリヌクレオチドのアンチセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号7:U20-4と称した二重鎖ポリヌクレオチドのセンス鎖(ただしdTdTを除く)の配列。
配列番号8:U20-4と称した二重鎖ポリヌクレオチドのアンチセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号9:U20-5と称した二重鎖ポリヌクレオチドのセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号10:U20-5と称した二重鎖ポリヌクレオチドのアンチセンス鎖(ただしdTdTを除く)の塩基配列。
配列番号11:ユビキチン遺伝子の塩基配列。
配列番号12:ユビキチン遺伝子がコードする蛋白質のアミノ酸配列。
配列番号13:USP20遺伝子の塩基配列。
配列番号14:USP20遺伝子がコードする蛋白質のアミノ酸配列。
配列番号15:ヒト由来USP20遺伝子の塩基配列(KIAA1003)。
配列番号16:KIAA1003にコードされるヒト由来USP20のアミノ酸配列。
配列番号17:USP20 Forwardと称した1重鎖ポリヌクレオチドの塩基配列。
配列番号18:USP20 Reverseと称した1重鎖ポリヌクレオチドの塩基配列。
配列番号19:KIAA1003 C154S Fと称した1重鎖ポリヌクレオチドの塩基配列。
配列番号20:KIAA1003 C154S Rと称した1重鎖ポリヌクレオチドの塩基配列。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)の阻害を指標とする、細胞増殖抑制剤の同定方法。
【請求項2】
ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)遺伝子の発現の阻害を指標とする、細胞増殖抑制剤の同定方法。
【請求項3】
ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)遺伝子、USP20遺伝子の転写産物及びUSP20のうち少なくともいずれか1つを用いる
ことを特徴とする、細胞増殖抑制剤の同定方法。
【請求項4】
以下の工程を含む、細胞増殖抑制剤の同定方法;
(1)被験化合物存在下、ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性を測定する工程、及び、
(2)(1)で測定したUSP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性と被験化合物非存在下におけるUSP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性を比較する工程。
【請求項5】
以下の工程を含む、細胞増殖抑制剤の同定方法;
(1)被験化合物存在下、ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)遺伝子の発現量を測定する工程、及び、
(2)(1)で測定したUSP20遺伝子の発現量と被験化合物非存在下におけるUSP20遺伝子の発現量を比較する工程。
【請求項6】
以下の工程を含む、細胞増殖抑制剤の同定方法;
(1)被験化合物存在下、ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)活性を測定する工程、及び、
(2)(1)で測定したUSP20活性と被験化合物非存在下におけるUSP20活性を比較する工程。
【請求項7】
ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)の阻害を指標とする、抗癌活性を有する化合物の同定方法。
【請求項8】
ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)遺伝子の発現の阻害を指標とする、抗癌活性を有する化合物の同定方法。
【請求項9】
ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)遺伝子、USP20遺伝子の転写産物及びUSP20のうち少なくともいずれか1つを用いる
ことを特徴とする、抗癌活性を有する化合物の同定方法。
【請求項10】
以下の工程を含む、抗癌活性を有する化合物の同定方法;
(1)被験化合物存在下、ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性を測定する工程、及び、
(2)(1)で測定したUSP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性と被験化合物非存在下におけるUSP20遺伝子の発現量及び/又はUSP20活性を比較する工程。
【請求項11】
以下の工程を含む、抗癌活性を有する化合物の同定方法;
(1)被験化合物存在下、ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)遺伝子の発現量を測定する工程、及び、
(2)(1)で測定したUSP20遺伝子の発現量と被験化合物非存在下におけるUSP20遺伝子の発現量を比較する工程。
【請求項12】
以下の工程を含む、抗癌活性を有する化合物の同定方法;
(1)被験化合物存在下、ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)活性を測定する工程、及び、
(2)(1)で測定したUSP20活性と被験化合物非存在下におけるUSP20活性を比較する工程。
【請求項13】
下記の群より選ばれるいずれか1のRNA;
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるRNA、
(2)配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるRNA、
(3)配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるRNA、
(4)配列表の配列番号7に記載の塩基配列で表されるRNA、及び、
(5)配列表の配列番号9に記載の塩基配列で表されるRNA。
【請求項14】
下記の群より選ばれるいずれか1の2重鎖ポリヌクレオチド;
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号2に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニ−リングして得られる2重鎖ポリヌクレオチド、
(2)配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号4に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニ−リングして得られる2重鎖ポリヌクレオチド、
(3)配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号6に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニ−リングして得られる2重鎖ポリヌクレオチド、
(4)配列表の配列番号7に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号8に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニ−リングして得られる2重鎖ポリヌクレオチド、及び、
(5)配列表の配列番号9に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号10に記載の塩基配列で表されるRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニ−リングして得られる2重鎖ポリヌクレオチド。
【請求項15】
請求項14に記載の2重鎖ポリヌクレオチドを含有する細胞増殖抑制剤。
【請求項16】
請求項14に記載の2重鎖ポリヌクレオチドを含有する抗癌剤。
【請求項17】
請求項14に記載の2重鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、
癌細胞の増殖抑制方法。
【請求項18】
請求項14に記載の2重鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、
癌の予防及び/又は治療方法。
【請求項19】
被験リンパ球が悪性リンパ腫由来のリンパ球であるか否かを判定する方法
であって、該被験リンパ球におけるユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)遺伝子の発現量を測定する工程を含む判定方法。
【請求項20】
ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)及び/又はUSP20をコードする遺伝子を含有する、細胞増殖抑制剤の同定用試薬キット。
【請求項21】
ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)及び/又はUSP20をコードする遺伝子を含有する、抗癌剤の同定用試薬キット。
【請求項22】
ユビキチン特異プロテアーゼ20(Ubiquitin specific protease20; USP20)及び/又はUSP20をコードする遺伝子を含有する、悪性リンパ腫診断用試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−282628(P2007−282628A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61172(P2007−61172)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】