説明

抗真菌剤およびそれを含有する頭皮・頭髪用化粧料

【課題】 本発明は、優れた抗真菌剤、特にフケ菌に対して強い抗菌活性を示す抗真菌剤、およびそれを含有する頭皮・頭髪用化粧料を提供することにある。
【解決手段】 バラ科に属する植物の花、及び/又はブドウ科に属する植物の果実の水蒸気蒸留水に良好な抗真菌効果があり、これらからなる抗真菌剤により、フケ菌に対して強い抗菌活性を示す頭皮・頭髪用化粧料が得られる。さらにエタノール、1,3−ブタンジオール、1,2−アルカンジオール、メントールから選ばれる1種または2種以上を配合することでより有効な頭皮・頭髪用化粧料が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラ科に属する植物の花、及び/又はブドウ科に属する植物の果実の水蒸気蒸留水からなる抗真菌剤、およびそれを含有する頭皮・頭髪用化粧料に関し、真菌の中でも特にフケ菌に対して効果的な抗真菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の花・果実・葉などから水蒸気蒸留によって芳香成分を得る際、一般に上層の精油成分が天然香料として有効利用され、水層部である水蒸気蒸留水は精油に比べ大量に採取されるにもかかわらず、香気成分を含む蒸留水として、化粧水などにしか利用されることがなく、あまり有効利用されることはなかった。
【0003】
また、精油によっては、微生物に対する抗菌活性を示す香気成分が含まれることが知られており、その水蒸気蒸留水についても、微量の抗菌活性成分が溶解されているということは知られていた。
【0004】
しかしながら、その量は微量であることから、実際、充分な抗菌活性が認められるかどうかに関しては、研究された例はない。
【0005】
抗菌活性を示す水蒸気蒸留水に関しては、青森ヒバ廃材から水蒸気蒸留によってヒバ油を抽出する際に、副製する抽出排水液による抗菌液(特許文献1参照)、水蒸気蒸留によりヒノキ科植物の木部及び/又は枝葉から精油を抽出する際に留出する抽出排水を配合した化粧品、衛生用品及び医薬部外品(特許文献2参照)などが出願されている。
【0006】
また水蒸気蒸留して得られた精油を抗菌性目的で利用することに関しては、和漢生薬として知られているショウウイキョウ又はダイウイキョウ、オウレン、チンピ、タイサン、ハッカ、シソ又はシソヨウ、トウヒ、ケイヒ、サンシュユ、ニクズク、セッコツボク、イズイ、サンソウニン、ボウフウ又はハマボウフウなどの植物の抽出成分を含有するフケ菌発育阻止剤を配合してなる、フケ・カユミ防止用の皮膚外用剤及び皮膚・頭皮・頭髪化粧料(特許文献3参照)が出願されている。
【0007】
【特許文献1】特開平8−245308号公報
【特許文献2】特開平11−228379号公報
【特許文献3】特開平3−176413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明においては、精油を抽出する際に副生成物として得られる水蒸気蒸留水について、これまで香気成分を含む水性液体としてしか利用価値のなかったものを、他の機能面で有効利用する方法について鋭意検討した。さらに本発明は、上記のような問題点を解決し、優れた抗真菌剤、特にフケ菌に対して強い抗菌活性を示す抗真菌剤、およびそれを含有する頭皮・頭髪用化粧料を提供することを目的とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために研究を行った結果、バラ科に属する植物の花、及び/又はブドウ科に属する植物の果実の水蒸気蒸留水に良好な抗真菌効果があることを見いだし、それを抗真菌剤として利用できること、さらにそれを含有する頭皮・頭髪用化粧料に、真菌の中でも特にフケ菌に対して効果的であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、バラ科に属する植物の花、及び/又はブドウ科に属する植物の果実の水蒸気蒸留水からなる抗真菌剤、およびそれを含有する頭皮・頭髪用化粧料を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
バラ科に属する植物の花、及び/又はブドウ科に属する植物の果実の水蒸気蒸留水に、特にフケ菌に対して強い抗菌活性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
本発明で使用するバラ科植物としては、特に限定されず、一般的には商業ベースで栽培されている次の2種、ダマスクスバラ(Rosa damascena Mill)と、センティフォリアバラ(Rosa centifolia L.)を用いることができる。ダマスクスバラ(Rosa damascena Mill)は、16世紀にヨーロッパに紹介されたローザガリカ(Rosa gallica)とローザフェニシア(Rosa phoenicia)の交雑原種といわれている種類で、香料原料として栽培されている。
【0014】
また、センティフォリアバラ(Rosa centifolia L.)は、ダマスクスバラ(Rosa damascena Mill)とシロバラ(Rosa alba)の自然交配雑種といわれ、フランスのグラース地区や、アフリカのモロッコや地中海沿岸各国に栽培されている。フケ菌に対して充分な抗菌活性を示すことにおいては、センティフォリアバラ(Rosa centifolia L.)の花の水蒸気蒸留水が好ましい。
【0015】
本発明で使用するブドウ科植物としては、特に限定されず、一般にワインなどに用いられる品種である、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)を用いることができる。この系統に属する品種には、ワインの原料にされるセミオンやリースリング、干しブドウに加工されるカラント、日本の在来種である甲州などがある。具体的にはその果実の水蒸気蒸留水を用いることができる。
【0016】
本発明で用いるバラ科に属する植物の花、及び/又はブドウ科に属する植物の果実の水蒸気蒸留水は、植物体の花及び果実を生のまま、公知の水蒸気蒸留装置を用いた方法で水蒸気蒸留を行うことができる。これらの植物体は、表面のすぐ下の膜の薄い細胞内に精油を含むことから、前処理として素材を予備粉砕しなくても、充分に水蒸気蒸留することができる。一般に、微妙な精油の抽出を行う場合は、蒸留される素材が完全に水中に沈んだ状態にて煮沸処理する方法を採用するが、非常に高沸点の芳香物質を抽出したい場合は、素材を水中に浸漬させずに、上部の格子の上に置き、加熱水蒸気を通過させる方法をとることがある。本発明の水蒸気蒸留水は、どちらの方法でも採用できる。
【0017】
本発明の水蒸気蒸留水は、最終的には得られた留分から分取された水層部を、ろ過することで得ることができる。必要であれば、その効果に影響のない範囲で更に、濾過、脱臭、脱色などの処理を加えてもよい。また、得られた水蒸気蒸留水は長期保存される間に腐敗しないよう、パラオキシ安息香酸エステルなどの防腐剤を用いてもよい。
【0018】
バラ科に属する植物の花、及び/又はブドウ科に属する植物の果実の水蒸気蒸留水の、頭皮・頭髪用化粧料への配合量については、特に限定はなく、皮膚刺激における安全性も高く、臭いもきつ過ぎることもなく、不快な使用感を有することもないあっさりとした感触であることから、ヘアートニックなどの水系の化粧液などにおいては100重量%でも使用することが可能である。一般的には化粧料に対して20重量%以上が好ましい。20重量未満では、期待される充分な効果が得られないことがある。さらに好ましくは、60重量%以上である。
【0019】
この頭皮・頭髪用化粧料は、エチルアルコール、1,3−ブタンジオール、1,2−アルカンジオール、メントールから選ばれる1種または2種以上を配合することによって、さらにフケ菌に対して有効な抗菌活性を示す。その中でも特に、エチルアルコール、炭素数5〜11の1,2−アルカンジオール、1,3−ブタンジオールが有効である。
【0020】
また、フケ菌に対する抗菌活性は、一般的に低pH域で有効に働くことが知られており、クエン酸などの有機酸をpH調節に用いて酸性域に調整するだけで、ある程度の抗菌性を得ることができる。本発明品においては、pHの影響を受けていないpH5.5〜7.5の弱酸性〜中性域でも充分な抗菌活性を得ることができる。
【0021】
本発明の頭皮・頭髪用化粧料には、必要に応じて、頭皮・頭髪用化粧料に配合される、油脂,保湿剤,粉体,色素,乳化剤,可溶化剤,洗浄剤,紫外線吸収剤,増粘剤,pH調整剤,薬剤,香料,樹脂,その他アルコール類等を適宜配合することができる。また、本発明の頭皮・頭髪用化粧料の剤型は任意であり、例えばヘアートニックなどの可溶化系,クリーム,乳液などの乳化系として、提供することもでき、また噴射剤と共に充填したエアゾールの剤型をとってもよい。
【実施例】
【0022】
まず、バラ科に属する植物の花、及び/又はブドウ科に属する植物の果実の水蒸気蒸留水のフケ菌に対する抗菌性を評価を行った。
【0023】
[試料1]センティフォリアバラ(Rosa centifolia L.)の新鮮な生花の花弁500gを準備し、精製水2リットルを加えて、2時間浸漬した後、水中に沈んだこのままの状態で水蒸気蒸留を行い、得られた留分から分取された水層部を、さらにろ過し、全量の0.1重量%のパラオキシ安息香酸メチルを加えて試料1(ローズ水)1000mLを得た。
[試料2]ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)の生の果実500gに、精製水2リットルを加え、2時間浸漬した後、このまま水蒸気蒸留を行い、得られた留分から分取された水層部を、さらにろ過し、全量の0.1重量%のパラオキシ安息香酸メチルを加えて試料2(ブドウ水)1000mL得た。
【0024】
表1に示される実施例1〜7の試料を調製し、それらを検体に用いて、フケ菌に対する抗菌性の評価を行った。尚、評価方法としてATP試験法を用いた。なお、比較例として、フケ菌に対して充分な抗菌活性が認められており、ふけ取り用シャンプー等に実績のある1−ヒドロキシ−2−ピリドン(ピロクトンオラミン)の0.1重量%水溶液を用いた。また、試料に用いた精製水中にも0.1重量%のパラオキシ安息香酸メチルを含む。
【0025】
表2には、水蒸気蒸留水20重量%を含むの実施例1及び実施例4の試料に対して、さらにエチルアルコール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、メントールをそれぞれ加えた実施例8〜15の試料を用いて、同様の抗菌性の評価を行った結果を示す。
【0026】
試験菌としては、一般的なフケ菌であるマラセッツィアフルフル(Malassezia furfur)を用いた。
【0027】
最初に接種菌液の調製を行う。その手順として、まず液体窒素保存のM.furfur凍結菌チューブ1個を解凍し、ポテトデキストロース寒天+TMGO−15(モノオレイン酸ポリオキシエチレングリセリル、5%)平板培地にて30℃で72時間培養する。発育したフケ菌を白金耳にてかきとり、MY培地に懸濁させる(計10mL)。懸濁させた液を透過率にて測定し、濃度(透過度40)を目安に調整し接種菌とする。
【0028】
試験方法としてATP試験方法を用いる。試験検体を、24穴のマイクロプレートに各1mL入れる。検体1mLに対して菌液を0.05mL接種し、チュプレミキサーにセット後37℃恒温槽にて24時間振盪培養する。培養24時間後の菌懸濁液0.1mLをATP測定専用試験管に採取する。ATP抽出用試薬0.1mLを添加し10秒間良く混和させる。更に発光試薬0.1mLを添加し、10秒間混和後ATP測定機器OR−100(ORGANO製)にて蛍光強度を測定した。
【0029】
ATP試験法による抗菌性評価の結果を、表1に示す。抗菌性はATP測定値(nmol/L)にて示される。さらに、各ATP測定値の結果を基に、表1に示す通りフケ菌に対する抗菌力を算出した。数値は各検体が溶媒コントロールに比べ、どの程度抗菌力があるかを割合(%)で示すもので、次の算出式にて求めた。
【0030】
抗菌力(%)=100−S/N×100
S:検体の発光量、N:溶媒コントロールの発光量
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
この結果、試料1(ローズ水)及び試料2(ブドウ水)にフケ菌に対する抗菌作用が認められた。特に、ローズ水とブドウ水を1:1で用いた実施例7の試料において、ピロクトンオラミン0.1%水溶液と同等の、抗菌力99%という高い抗菌作用が認められた。試験菌は真菌のため、pH2以上は発育可能域である事から、検体のpHは抗菌力に対し直接的な影響はなく、純粋に水蒸気蒸留水で抗菌作用が見られたといえる。また、エチルアルコール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、メントールをさらに配合することで、フケ菌に対する抗菌作用の向上が認められた。
【0034】
最後に、バラ科に属する植物の花、及び/又はブドウ科に属する植物の果実の水蒸気蒸留水からなる抗真菌剤を含有する頭皮・頭髪用化粧料の処方例を示す。本発明の抗真菌剤を含有する頭皮・頭髪用化粧料は、これらに限定されるものではない。なお、各処方例に配合した抗真菌剤である、ローズ水及びブドウ水には、試料1及び試料2を用いた。
【0035】
[実施例16]ヘアートニック
(1)エチルアルコール 20.0(重量%)
(2)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(3)試料1のローズ水 50.0
(4)精製水 29.9
製法:(1)に(2)を溶解したのち、(3)及び(4)の成分を加え、混合・均一化する。
【0036】
[実施例17]ヘアーローション(A)
(1)エチルアルコール 5.0(重量%)
(2)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(3)l−メントール 0.3
(4)試料1のローズ水 94.6
製法:(1)に(2)及び(3)を溶解したのち、(4)を加え、混合・均一化する。
【0037】
[実施例18]ヘアーローション(B)
(1)エチルアルコール 19.9(重量%)
(2)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(3)1,3−ブチレングリコール 4.0
(4)試料1のローズ水 38.0
(5)試料2のブドウ水 38.0
製法:(1)に(2)及び(3)を溶解したのち、(4)及び(5)の成分を加え、混合・均一化する。
【0038】
[実施例19]ヘアーローション(エアゾールタイプ)
(1)エチルアルコール 50.0(重量%)
(2)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(3)酢酸dl−α−トコフェロール 0.05
(4)グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
(5)試料1のローズ水 25.0
(6)試料2のブドウ水 24.75
製法:(1)に(2)〜(4)を溶解したのち、(5)及び(6)の成分を加え、混合・均一化し、エアゾール原液とする。原液98重量部に対し、噴射剤である炭酸ガス2重量部を加える。
【0039】
[実施例20]フケ防止用シャンプー
(1)ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム 2.50
(2)N−ミリスチルジメチルアミノ酢酸ベタイン 12.00
(3)N−ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン 1.75
(4)塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アク
リル酸共重合体液(37.5%水溶液) 0.50
(5)ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド 1.50
(6)グリチルリチン酸ジカリウム 0.10
(7)DL−α−トコフェロール・2−L−アス
コルビン酸リン酸ジエステルカリウム塩 0.05
(8)塩化ナトリウム 2.00
(9)炭酸水素ナトリウム 0.08
(10)クエン酸 0.08
(11)エチルアルコール 5.0
(12)l−メントール 0.3
(13)試料1のローズ水 60.0
(14)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(15)精製水 14.04
製法:(1)〜(14)を順次、(15)に加えてゆき、混合・均一化する。
【0040】
以上の本発明の実施例16〜20においては、実使用の結果、使用上充分なフケ防止効果が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラ科に属する植物の花、及び/又はブドウ科に属する植物の果実の水蒸気蒸留水からなる抗真菌剤。
【請求項2】
請求項1記載の抗真菌剤を含有する頭皮・頭髪用化粧料。
【請求項3】
さらに、エタノール、1,3−ブタンジオール、1,2−アルカンジオール、メントールから選ばれる1種または2種以上を配合してなる請求項2記載の頭皮・頭髪用化粧料。

【公開番号】特開2006−182670(P2006−182670A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375905(P2004−375905)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000135324)株式会社ノエビア (258)
【Fターム(参考)】