説明

抗真菌剤の標的遺伝子の選定とその機能の推定方法

【課題】新たな抗真菌剤を開発するための新規の標的遺伝子の探索方法及び機能推定方法を提供する。
【解決手段】以下の工程を含む方法:1)標的遺伝子の候補遺伝子を選択する工程、2)基準酵素系阻害剤の投与により特異的に誘導される遺伝子をレポーター遺伝子の候補遺伝子として選択する工程、3)上記候補遺伝子のプロモーターとマーカー遺伝子が導入されたベクターを構築する工程、4)上記ベクターを導入し形質転換体を作製する工程、5)該形質転換体に欠失破壊または条件破壊を導入する工程、6)欠失破壊あるいは条件破壊の以前の菌株との生育の違いを指標に抗真菌剤の標的遺伝子を選定する工程、又は、6)欠失破壊あるいは条件破壊の以前の菌株との上記マーカー遺伝子の発現量の違いに基づき抗真菌剤の標的遺伝子の機能を推定する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真菌、より好ましくは植物または動物への感染性真菌に対する阻害活性物質を開発するための標的遺伝子の探索方法、及び探索された標的遺伝子の機能を推定する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
植物やヒトを含む動物に感染する真核糸状真菌(カビ)は、近年、大きな脅威となっている。例えば、免疫不全の弱点を持つ患者、例えば後天性免疫不全症候群の患者あるいは免疫抑制的治療を受けている患者の数が増加する結果として、真菌症の発生数は増加傾向にある。特にカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)やアスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)の感染によって引き起こされる深在性真菌症に対しては、現状はわずかの抗真菌剤、例えばアンフォテリシンB及びフルシトシン、またはアゾール誘導体のフルコナゾールやイトラコナゾール等の抗真菌剤が存在するのみである。
【0003】
植物感染菌としても、葉の病斑(Septoria tritici)、包頴の病斑(Septoria nodorum)、様々なコムギさび病(Puccinia recondita、Puccinia graminis)、ウドンコ病(様々な種)および茎/根茎(stem/stock)の腐敗病(Fusarium spp.)を引き起こすコムギ真菌病原体が挙げられる。その他の特に有害な植物病原体の例としては、ジャガイモ飢饉の原因微生物Phytophthora infestans、オランダエルム病を引き起こす子嚢菌類Ophiostoma ulmi、トウモロコシ黒穂病を引き起こす病原体Ustilago maydis、およびイネいもち病を引き起こす病原体Magnaporthe griseaが挙げられる。
【0004】
真菌は真核生物であり、高等植物や動物などの高等真核生物と類似の細胞システムを有しているために、真菌に選択毒性のある薬剤種は限定されている。また、既知の抗真菌剤への抵抗性菌の出現もあり、新規の抗真菌剤の開発需要は高い。
【0005】
近年の真菌の相同組換え技術に関する研究から、ku70, ku80, ligDといった遺伝子は非相同的な遺伝子組み換えに係ることが明らかとなった(特許文献1,2及び非特許文献1,2,3参照)。これらの遺伝子を破壊した真菌は、野生株と同等の表現系と生育とを示すものの、野生株に比べて非相同組換えの頻度が減少し、従来では困難であった標的の遺伝子だけを効率的に特異的に破壊することが可能となった。
現在までに、カンジダ・アルビカンスやアスペルギルス・フミガーツスで破壊に伴い生育に障害の起こる遺伝子を抗真菌剤の標的遺伝子として見つけ出し、さらに破壊に伴って効力の強まる抗真菌剤を探し出すことで、その抗真菌剤の作用機構に基づいて標的遺伝子の機能を推定する方法は既に報告されている(特許文献3及び非特許文献4参照)。
しかしながら、この方法では標的遺伝子を破壊後の菌に対する抗真菌剤の効力の増大を指標にその遺伝子の機能を推定しているが、その実施において抗真菌剤の添加された寒天培地に菌体(又はその胞子)を植える際の菌体量や菌体の保存期間などでその後の生育は大きく影響されることがあり、その結果、実験誤差が大きくて再現性や正確性に問題があると考えられる。
また、真菌でレポーターを用いた技術として、MAPキナーゼ経路への影響を示すことの出来るレポーターを構築してそれを真菌に導入し、該真菌にMAPキナーゼ経路に働く可能性のある抗カビ剤の候補物質を投与してレポーターの応答を見ることで、MAPキナーゼ経路に働く抗真菌剤(抗カビ剤)をスクリーニングする方法が出願されている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特許第4050712号明細書
【特許文献2】特開2007-300857号公報
【特許文献3】特表2005-522980号公報
【特許文献4】特開2006-280372号公報
【非特許文献1】Ishibashiら、Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 103: 14871-14876. 2006
【非特許文献2】Takahashiら、Mol. Gen. Genomics 275: 460-470. 2006
【非特許文献3】Mizutaniら、Fungal Genet. Biol. 45: 878-889. 2008
【非特許文献4】Huら、PLoS Pathog. 3: e42. 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したことから明らかなように、現在、新規で有用な抗真菌剤の開発が待望されているが、その要望に応えるまでには至ってはいない。すなわち、抗真菌剤の開発においては、その標的となる遺伝子を明らかとすることで、それに対する薬剤の合成が可能となるが、標的遺伝子の発見からそれに対する薬剤を見つけ出すための簡便な評価系は確立されていない。現在、薬剤の選択は、多数の化合物群から成る薬剤ライブラリーを評価することが一般的となっており、高速かつ高効率で膨大な数の薬剤を少量で評価する系の開発をする必要があった。
本発明の課題は、抗真菌剤の標的として最適な遺伝子を、簡便効率的に見い出す手段を提供するとともに、抗真菌剤開発に重要な見い出された標的遺伝子の機能を推定する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、特定の選定基準により、該遺伝子候補を探索した。また、真菌の生育に障害を与えるが致死に至らしめない濃度で投与された基準酵素系阻害剤により発現が誘導される遺伝子、即ち、該真菌類の基準酵素系が部分的に阻害された時に特異的に発現が誘導される遺伝子を、又は他の生物の遺伝子との相同性解析により基準酵素系で機能すると予測される真菌の遺伝子を、特定の選定基準により見つけ出し、見いだされた遺伝子をレポーター遺伝子の候補遺伝子としてそのプロモーターにマーカー遺伝子を連結して新たなレポーター検出系を構築した。そして、該レポーター検出系を真菌類に導入した後、該真菌類の生育に重要と考えられる候補遺伝子の欠失破壊株あるいは条件破壊株を作製し、該破壊株を完全培地または最少培地あるいはそれらに生育可能な濃度で基準酵素系阻害剤を含有した培地で培養し、同条件で培養した欠失破壊あるいは条件破壊の以前の菌株と生育を比較することにより、抗真菌剤の標的遺伝子を見いだし得ること、及び該マーカー遺伝子の発現を比較することにより標的遺伝子の機能を推定し得ることを確信し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)以下の1)〜6)の工程を少なくとも含むことを特徴とする、抗真菌剤の標的遺伝子の選定方法:
1)上記標的遺伝子の候補遺伝子を選択する工程;
2)基準酵素系阻害剤を真菌に生育に障害を与えるが致死に至らしめない濃度で投与して、これにより発現が誘導される真菌の遺伝子をレポーター遺伝子の候補遺伝子として選択する工程;
3)上記レポーター遺伝子の候補遺伝子のプロモーターを採取し、該プロモーターとそれに機能的に結合したマーカー遺伝子が導入されたベクターを構築する工程;
4)真菌類に上記ベクターを導入して形質転換体を作製する工程;
5)該形質転換体の上記標的遺伝子の候補遺伝子に欠失破壊あるいは条件破壊を導入する工程;及び
6)得られた欠失破壊株あるいは条件破壊株を、条件破壊株の場合は標的遺伝子の候補遺伝子の発現抑制条件として、完全培地または最少培地あるいはそれらに生育可能な濃度で基準酵素系阻害剤を含有した培地で培養し、同条件で培養した欠失破壊あるいは条件破壊の以前の菌株と生育を比較することにより、抗真菌剤の標的遺伝子を選定する工程。
(2)以下の1)〜6)の工程を少なくとも含むことを特徴とする、抗真菌剤の標的遺伝子の機能を推定する方法:
1)を上記標的遺伝子の候補遺伝子を選択する工程;
2)基準酵素系阻害剤を真菌に生育に障害を与えるが致死に至らしめない濃度で投与して、これにより発現が誘導される真菌の遺伝子をレポーター遺伝子の候補遺伝子として選択する工程;
3)上記レポーター遺伝子の候補遺伝子のプロモーターを採取し、該プロモーターとそれに機能的に結合したマーカー遺伝子が導入されたベクターを構築する工程;
4)真菌類に上記ベクターを導入して形質転換体を作製する工程;
5)該形質転換体の上記標的遺伝子の候補遺伝子に欠失破壊あるいは条件破壊を導入する工程;及び
6)得られた欠失破壊株あるいは条件破壊株を、条件破壊株の場合は標的遺伝子の候補遺伝子の発現抑制条件として、完全培地または最少培地あるいはそれらに生育可能な濃度で基準酵素系阻害剤を含有した培地で培養し、同条件で培養した欠失破壊あるいは条件破壊の以前の菌株とマーカー遺伝子の発現量を比較することにより、抗真菌剤の標的遺伝子の機能を推定する工程。
(3)標的遺伝子の候補遺伝子が該真菌の生育に重要な遺伝子である、上記(1)又は(2)記載の方法。
(4)生育に重要な遺伝子が、以下のa)〜e)に示される少なくとも1以上該当する遺伝子であって、該真菌に対する致死性遺伝子あるいは生育障害性遺伝子であることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の方法:
a)近縁の真菌で欠失破壊により致死性または生育条件によって致死性の効果を与える遺伝子のオーソログで、かつ当該真菌のゲノム上にエクストラホモログの存在しない遺伝子;
b)当該真菌への既存の抗真菌剤の添加により特異的に誘導される遺伝子;
c)近縁の真菌で欠失破壊により致死性となる遺伝子のオーソログで、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、マグナポルセ・グリセ(Magnaporthe grisea)、 フサリウム・グラミネラム(Fusarium graminearum)といったゲノムが解読されている糸状菌に共通してオーソログが存在し、ヒト(Homo sapiens)や植物(Arabidopsis thaliana)にはオーソログの無い遺伝子;
d)当該真菌の固体培養で高発現誘導される遺伝子;
e)近縁の真菌のオーソログが欠失破壊により致死の効果を与える遺伝子;及び
f)相同性検索などで機能が予測され、その結果から当該真菌で欠失破壊により致死あるいは生育障害の効果を与えるものと予測される遺伝子。
(5)マーカー遺伝子が、β−グルクロニダーゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色又は赤色蛍光蛋白質遺伝子、薬剤耐性遺伝子、及び栄養要求遺伝子からなる群から選択されたものである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)プロモーターが、標的遺伝子およびレポーター遺伝子のそれぞれの候補遺伝子の翻訳開始コドンから上流1 kbまでの塩基配列の少なくとも一部からなることを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 条件破壊が、標的遺伝子の候補遺伝子のプロモーターをthiAプロモーター、alcAプロモーター、tetAプロモーター、又は、niiAプロモーターといった特定の培養条件で発現制御が可能なプロモーターに置換することによることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)基準酵素系阻害剤が、エネルギー代謝、細胞壁形成、細胞骨格形成を阻害する薬剤から選ばれたものであることを特徴とする、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)マーカー遺伝子の発現量を、マーカー遺伝子がコードするタンパク質量、あるいはmRNA量、または蛍光強度を測定することにより行うことを特徴とする、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の方法に使用するベクターであって、レポーター遺伝子の候補遺伝子又は選択されたレポーター遺伝子のプロモーターとその下流側にマーカー遺伝子が導入されたベクター。
(11)上記(10)に記載のベクターが真菌に導入されていることを特徴とする、形質転換体。
(12)真菌の生育に障害を与えるが致死に至らしめない濃度で投与された基準酵素系阻害剤により発現が誘導される真菌の遺伝子(レポーター遺伝子)のプロモーター、又は他の生物の遺伝子との相同性解析により基準酵素系で機能すると予測される真菌の遺伝子(レポーター遺伝子)のプロモーター。
【発明の効果】
【0009】
本発明は従来の技術とは異なり、遺伝子破壊と各機能に特異的なレポーター検出系を用いて抗真菌剤の標的遺伝子の探索とその機能の推定とを同時に行ない、レポーター検出系の応答を指標とすることを特徴としている。その結果、抗真菌剤の効力の違いによる生育の差を比較するのではなく、菌体の発色や蛍光を見ることで標的遺伝子の機能を推定しており、より正確で再現性の高い結果が得られる。
本発明によって、真菌におけるエネルギー代謝、細胞壁形成、細胞骨格形成に関連する生育に重要な遺伝子、すなわち抗真菌剤の標的となる遺伝子をスクリーニングすることが可能となる。更に、レポーター検出系の使用により、マーカー遺伝子の発現量から、抗真菌剤の標的となる遺伝子の機能を推定することも可能となり、本発明は有用な抗真菌剤の開発に大いに資するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、真菌剤の標的となる遺伝子を選定する方法は、以下の1)〜6)の工程を少なくとも含む。
1)標的遺伝子の候補遺伝子を選択する工程、2)基準酵素系阻害剤の投与により特異的に誘導される遺伝子、又は相同性解析により基準酵素系で機能すると予測される遺伝子をレポーター遺伝子の候補遺伝子として選択する工程、3)上記候補遺伝子のプロモーターとマーカー遺伝子が導入されたベクターを構築する工程、4)上記ベクターを導入し形質転換体を作製する工程、5)該形質転換体に欠失破壊または条件破壊を導入する工程、6)欠失破壊あるいは条件破壊の以前の菌株との生育の違いを指標に抗真菌剤の標的遺伝子を選定する工程。
また、本発明は、抗真菌剤の標的遺伝子の機能を推定する方法を含み、該方法は、上記1)〜5)と同様の工程及び6)欠失破壊あるいは条件破壊の以前の菌株との上記マーカー遺伝子の発現量の違いに基づき抗真菌剤の標的遺伝子の機能を推定する工程を含む。
尚、既に特定されているレポーター遺伝子のプロモーターを使用する場合には、本発明の方法において、レポーター遺伝子の候補遺伝子を選択する工程2)は不要である。
以下これらの工程を工程順に説明する。
【0011】
〔工程1:標的遺伝子の候補遺伝子の選択〕
この工程は、開発しようとする抗真菌剤の標的となる遺伝子を選択するために、その候補となる遺伝子(以下、「候補遺伝子」という。)を選択する工程である。
候補遺伝子は当業者に公知の任意の基準・方法等で選択することが出来るが、真菌、特に感染性真菌の遺伝子であって、該真菌の生育に重要と判断される遺伝子から選択されることが好ましい。
感染性真菌としては、例えば、酵母及び真核糸状真菌等の感染性の真菌類が挙げられ、酵母としては、ヒトにカンジダ症を引き起こすカンジダ(Candida)属、真核糸状真菌としては、例えばアスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、リゾプス(Rhizopus)属、ムコール(Mucor)属、フミコーラ(Humicola)属、イネいもち病を引き起こすマグナポルサ(Magnaporthe)属、メタリチウム(Metarhizium)属、ノイロスポラ(Neurospora)属、モナスカス(Monascus)属、アクレモニウム(Acremonium)属、コムギの茎/根茎(stem/stock)の腐敗病を引き起こすフザリウム(Fusarium)属、植物に灰色カビ病を引き起こすボトリティス(Botrytis)属、及びトウモロコシ裸黒穂病を引き起こすウスチラーゴ(Ustilago)属、を挙げることが出来る。アスペルギルス(Aspergillus)属には、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・ニドランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、及びヒトにアスペルギルス症を引き起こすアスペルギルス・フミガートゥス(Aspergillus fumigatus)等が挙げられる。
【0012】
当該真菌の生育に重要な遺伝子は、当該真菌および可能性としてその他の真菌に対する抗真菌剤を開発するための標的遺伝子の候補になりうる。この真菌の生育に重要な遺伝子は、当業者に公知の任意の方法による遺伝子欠失破壊や条件破壊により生育阻害または生育障害を引き起こすことを指標に探索して選定する。
当該真菌の生育に重要と考えられる遺伝子は、例えば、下記のa〜fの遺伝子を対象に上記の実験を行って選択することができる。即ち、該真菌の生育に重要な遺伝子の代表例として該真菌に対する致死性遺伝子又は生育傷害性遺伝子を挙げることが出来る。
a)近縁の真菌で欠失破壊により致死性または生育条件によって致死性の効果を与える遺伝子のオーソログで、かつ当該真菌のゲノム上にエクストラホモログの存在しない遺伝子
b)当該真菌への既存の抗真菌剤の添加により特異的に誘導される遺伝子
c)近縁の真菌で欠失破壊により致死性となる遺伝子のオーソログで、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、マグナポルセ・グリセ(Magnaporthe grisea)、 フサリウム・グラミネラム(Fusarium graminearum)といったゲノムが解読されている糸状菌に共通してオーソログが存在し、ヒト(Homo sapiens)や植物(Arabidopsis thaliana)にはオーソログの無い遺伝子
d)当該真菌の固体培養で高発現誘導される遺伝子
e)近縁の真菌のオーソログが欠失破壊により致死の効果を与える遺伝子
f)相同性検索などで機能が予測され、その結果から当該真菌で欠失破壊により致死あるいは生育障害の効果を与えるものと予測される遺伝子
【0013】
a)の遺伝子は近縁の真菌で致死または生育条件によって致死の影響を与える遺伝子のオーソログということで当該真菌の生育に重要である可能性が高く、しかも当該真菌に該遺伝子に似た配列の遺伝子が無いことから該遺伝子を標的としてその働きを抑えると真菌の生育が阻害される可能性が高いものと予測されることから選出される。b)の遺伝子は、薬剤を添加すると真菌はそれを分解したり排出したりしてその影響から逃れようとして誘導される遺伝子であると推測され、この誘導された遺伝子の働きを抑えられれば、菌体は薬剤から逃れられず致死に至る可能性があると考えられ、選出される。c)の遺伝子は、近縁の真菌で致死または生育条件によって致死の影響を与える遺伝子のオーソログということで真菌の生育に重要である可能性が高く、しかも複数の真菌でオーソログが存在する一方でヒトや植物にはオーソログが無いことから、真菌に特異的な幅広いスペクトルの抗真菌剤の開発の標的と考えられ、選出される。d)の遺伝子は、真菌の感染は動物の粘膜表面や植物の葉や茎や根の表面などの固体表面で起こることから、固体表面での生育で高く発現誘導されている遺伝子は感染に必要な可能性があり、その働きを抑えることで、感染を防ぐことのできる抗真菌剤を開発できると推測され、選出される。e)の遺伝子は、近縁の真菌のオーソログの欠失が致死性の効果を与えることから、当該真菌においてもそれは欠失により致死性の可能性の高い生育に重要なものと考えられ、選出される。f)の遺伝子は、配列情報を元にした機能予測の結果から当該真菌の生育に重要であるものと推測されるので選出される。
【0014】
もし当該真菌が多核で基本的に生育する場合、当該真菌における遺伝子欠失破壊実験において、欠失株がホモカリオンとして得られ、しかも生育が野生株と同様であれば、欠失遺伝子は生育には影響しない、つまり生育には重要で無い遺伝子と考える。一方、欠失株がホモカリオンとして得られたが、生育速度の低下、菌体の形態の変化、薬剤感受性の上昇、の少なくともいずれか一つが生じて野生株に比べて生育が有意に衰えている場合は、欠失遺伝子は欠失により致死性では無いが生育障害をきたす生育障害性遺伝子と考える。欠失株がホモカリオンとして得られない、つまりへテロカリオンとしてしか得られないか、ヘテロカリオンとしても得られない場合は、欠失遺伝子は欠失により致死の影響を与える致死性遺伝子である可能性が高いと考える。従って、これらの致死性遺伝子、及び生育障害性遺伝子が抗真菌剤を開発する上での標的候補となると考える。
【0015】
もし当該真菌が単核で基本的に生育する場合、当該真菌における遺伝子欠失実験において、欠失株が得られない場合は、欠失遺伝子は欠失により致死の影響を与える致死性遺伝子である可能性が高く、抗真菌剤を開発する上での標的候補となると考える。
【0016】
〔工程2:レポーター遺伝子の候補遺伝子の選択〕
レポーター検出系に使用可能な遺伝子(レポ−ター遺伝子)は、阻害する機能(作用部位)が明らかとなっている既存の薬剤(基準酵素系阻害剤)を当該真菌を致死に至らしめない程度、即ち、生育が遅くなるが止まらない程度の濃度で当該真菌に投与し、それにより特異的に誘導される遺伝子、又は他の生物の遺伝子との相同性解析により基準酵素系で機能すると予測される遺伝子から選択することができる。薬剤による選択の際には、機能推定の精度を高めるため、阻害する機能が異なる複数の基準酵素系阻害剤で誘導される遺伝子は除外することが好ましい。
基準酵素系阻害剤の好適例として、エネルギー代謝、細胞壁形成、細胞骨格形成を阻害する薬剤から選ばれたものを挙げることができる。
【0017】
基準酵素系阻害剤によって誘導される遺伝子は、マイクロアレイ、RT-PCR、ノーザンブロットなどの当業者に公知の任意の方法を用いて調べることができる。このようなレポ−ター遺伝子の例として、該真菌のエネルギー代謝、細胞壁形成、細胞骨格形成に関連する各経路に関連する遺伝子を挙げることが出来る。このような各経路に関連する遺伝子には、アスペルギルス(Aspergillus)属(例えば、アスペルギルス・ニドランス、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・フミガタス)、ノイロスポラ(Neurospora)属、マグナポルサ(Magnaporthe)属、及び、フザリウム(Fusarium)属等の本発明の真核糸状真菌において、夫々のオーソロガス遺伝子が存在し、それらの同等の機能を有する遺伝子も本発明におけるエネルギー代謝、細胞壁形成、細胞骨格形成に関連する各遺伝子に含まれる。
【0018】
〔工程3:レポーター遺伝子のプロモーターの採取及びレポーター遺伝子ベクターの構築〕
レポーター遺伝子のプロモーターに機能的に結合したマーカー遺伝子を含むプラスミドベクター又はウィルスベクター等の適当な組換えベクター(レポーター遺伝子ベクター)は、当業者に公知の任意の方法で作製することができ、該ベクターによって真核糸状真菌を形質転換することによって好適に実施することが出来る。「レポーター遺伝子のプロモーターに機能的に結合したマーカー遺伝子」とは、該プロモーターの転写調節作用によって該マーカー遺伝子が発現することが出来るように、両者がベクター内で結合していることを意味する。形質転換の結果、このような組換えベクターは宿主ゲノム内に組み込まれるか、又は、プラスミド等としてゲノムとは独立して細胞内に存在することができる。従って、本発明は、こうして作製される、エネルギー代謝、細胞壁形成、細胞骨格形成に関連するレポーター遺伝子の5‘上流領域のプロモーターに機能的に結合したマーカー遺伝子を含む組換えベクターによって形質転換された真核糸状真菌自体にも係るものである。尚、このような形質転換菌の宿主となる真核糸状真菌は、各種の栄養要求性株又はその復帰株であっても良い。
【0019】
本明細書において、「プロモーター」とは、真核細胞において一般に転写開始反応の効率に関与するDNA配列を意味し、転写開始位置の40塩基対程度にある転写開始反応自体に関与するDNA領域である狭義のプロモーターに加えて、転写開始反応の効率に影響を与える様々なDNA要素(プロモーター近位配列及び遠位配列(上流制御要素))も含む広義のプロモーターを意味する。このようなプロモーターの一例として、当遺伝子の翻訳開始コドンから上流1 kb内に位置するものを挙げることができる。この領域には、上記広義のプロモーターの各配列が殆ど含まれていると考えられる。但し、本発明で使用する5‘上流領域のプロモーターにこのような要素が全て含まれている必要はない。例えば、上記遺伝子の5‘上流の-600〜-1、-400〜-1、及び-200〜-1領域のような上流1 kb内の領域の一部が欠失した配列にも転写制御に関与する特定のシスエレメントが含まれていると考えられ、そのようなより短い5‘上流領域も本発明のプロモーターに含まれる。
【0020】
尚、このような組換えベクター(又は、レポーター遺伝子のプロモーターと機能的に結合したマーカー遺伝子)が複数コピーで宿主ゲノム内に組み込まれることによって、測定感度を更に向上させることが出来る。又は、プロモーター又は該プロモーター中の転写制御に関与する特定のシスエレメントがレポーター遺伝子ベクター中でタンデム化されることにより該レポーター系での検出感度を向上させることも可能である。
【0021】
更に、本発明において、5‘上流領域のプロモーターには、上記に挙げられた遺伝子の特定の5‘上流領域のプロモーター配列に限らず、マーカー遺伝子と機能的に結合した場合に、それらと実質的に同等の機能を示すことができる限り、そのような特定の5‘上流領域のプロモーター配列において、例えば、その配列末端等のプロモーターとしての機能に実質的な影響を与えないような部位において、その塩基配列の一部、例えば、数個の塩基が欠失、置換、又は挿入された各種の修飾プロモーター配列も含まれる。
【0022】
このような修飾プロモーター配列の例として、上記の特定の5‘上流領域のプロモーター配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNA配列を挙げることが出来る。ここで、「ストリンジェントな条件下」とは、各塩基配列間の相同性の程度が、例えば、全体の平均で約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、更に好ましくは約99%以上であるような、高い相同性を有する塩基配列間のみで、特異的にハイブリッドが形成されるような条件を意味する。具体的には、例えば、温度60℃〜68℃において、ナトリウム濃度150〜900 mM、好ましくは600〜900 mM、pH 6〜8であるような条件を挙げることが出来る。
【0023】
本発明は、例えば、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987))に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
【0024】
エネルギー代謝、細胞壁形成、細胞骨格形成に関連する各経路に関連する遺伝子の5‘上流領域のプロモーター又はそれらの修飾プロモーター配列は、当業者に公知の任意の方法で容易に調製することが出来る。例えば、寄託されている菌株から実施例で記載した方法によって容易にクローニングすることが出来る。或は、各種のデータベースに記載された真核糸状真菌のゲノム情報に基づき、エネルギー代謝、細胞壁形成、細胞骨格形成に関連する各経路に関連する遺伝子の5‘上流領域のプロモーターをPCRにより増幅して調製し、該プロモーターとすることが出来る。
【0025】
尚、本発明における組換えベクターには、各要素、例えば、エンハンサー、マーカー遺伝子、ターミネーター、及び各種制限酵素部位等の各要素を目的等に応じて適宜含むことが出来る。
【0026】
本発明におけるマーカー遺伝子としては、β−グルクロニダーゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色又は赤色蛍光蛋白質遺伝子、EGFP-LacI等の融合体遺伝子、薬剤耐性遺伝子、及び栄養要求遺伝子等の当業者に公知の任意の遺伝子をその目的等に応じて使用することが出来る。β−グルクロニダーゼ遺伝子又はβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を使用した場合には、該遺伝子がコードする蛋白質発現量の変化をその酵素活性量を基質の発色反応で測定することにより、それを指標として該遺伝子の発現量を検出することができる。ルシフェラーゼ遺伝子又は緑色若しくは赤色蛍光蛋白質遺伝子を使用した場合には、それがコードする蛋白質が発する蛍光を測定することにより、該遺伝子の発現量の変化を検出することができる。或いは、該レポーター遺伝子がコードする蛋白質とそれに対する特異的抗体との反応を該遺伝子の発現量の変化の指標として検出することもできる。更に、CAT遺伝子をレポーター遺伝子として用いたCATアッセイ(放射能アッセイ)を行うことも出来る。
【0027】
〔工程4:レポーター遺伝子ベクターが導入された形質転換体の作製〕
例えば、プロトプラスト−PEG法、エレクトロポレーション法、Ti−プラスミド法、及びパーティクルガン、並びに、例えば、本明細書の実施例中に記載されているような、それらの各種改良法等のような、当該技術分野において周知の様々な技術及び手段を用いた組換え法によって、本発明の真菌を該組換えベクターにより形質転換することによって、本発明の形質転換体を容易に調製することが出来る。
【0028】
〔工程5:形質転換体における標的遺伝子の候補遺伝子の欠失破壊又は条件破壊〕
こうして得られた形質転換体において、標的遺伝子の候補遺伝子である、致死性遺伝子あるいは生育障害性遺伝子等の条件破壊を行う。生育障害性遺伝子は欠失破壊を行うことでも良い。
このような遺伝子破壊は当該技術分野において公知の様々な相同遺伝子組み換え技術を駆使して行なうことが出来る。本明細書において、「条件破壊」とは、遺伝子のプロモーターを発現制御可能なプロモーターに置き換えることで、ある特定の培養条件でその遺伝子の発現を抑制して遺伝子の機能を欠損させることの出来る遺伝子変異、を意味するものであり、「条件特異的抑制」、あるいは「条件特異的な発現抑制」、という用語でも別に表現できる。例えば、これまでに、条件破壊の例としてerg11Aやerg11Bの遺伝子を条件破壊した菌株がConditional mutantとして記載されている(Huら、PLoS Pathog. 3: e42. 2007)。
条件破壊に用いる発現制御の可能なプロモーターとしては、このような機能を有する当業者に公知の任意のプロモーターを使用することができ、例えば、thiA, alcA, tetA, niiAが知られている (特開2004-254670号公報及び特開2007-259787号公報、並びに、上記文献)。
【0029】
〔工程6:抗真菌剤の標的遺伝子の選定およびその機能の推定〕
こうして得られた条件破壊又は欠失破壊株を、完全培地または最少培地あるいはそれらに菌体が生育可能な濃度で基準酵素系阻害剤を含有した培地で培養し、同条件で培養した親株(非破壊株)と生育を比較することにより、抗真菌剤の標的遺伝子を選定することが出来る。更に、上記マーカー遺伝子の発現量を指標に作動した上記プロモーターを特定することにより、上記プロモーターの由来に基づき標的遺伝子の機能を推定することができる。条件破壊株の場合には標的遺伝子の候補遺伝子の発現抑制条件で培養することが好ましい。マーカー遺伝子の発現量は当該技術分野において周知の様々な技術及び手段を用いて測定することが出来る。この際、致死性または生育障害性遺伝子の条件破壊または欠失破壊をレポーター検出系導入菌株で行い、菌体の発色または蛍光を調べることが望ましい。
【0030】
更に、本発明において、マーカー遺伝子が、エネルギー代謝、細胞壁形成、細胞骨格形成に関連する各経路に関連するレポーター遺伝子のプロモーターにより転写制御される遺伝子である場合には、それらの転写量の変化を、該遺伝子のmRNA量の変化として検出することも可能である。より具体的には、PCRを利用する方法としては、例えば、競合的PCR又はリアルタイムPCR(定量RT-PCR)並びにそれらの各種改良方法等の当業者に公知の方法を挙げることが出来る。或いは、ハイブリダイゼーシンを利用したDNAチップ又はマイクロアレイ等によって、エネルギー代謝、細胞壁形成、細胞骨格形成に関連する各経路に関連する遺伝子のmRNA量の変化を検出することも可能である。
【0031】
以下、実施例に即して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって何等制限されるものではない。尚、実施例における各種遺伝子操作は、Current protocols in molecular biology (edited by Fredrick M. Ausubel et al., 1987)に記載されている方法に従った。
【実施例1】
【0032】
アスペルギルス・オリゼは、ゲノム情報が明らかとなっていること(Machidaら, 2005)、他の真核糸状真菌に比べて二次代謝系が発達していること、高い抗真菌剤耐性を有していること、取り扱いが安全な菌であること、遺伝子操作が可能であること、高効率相同組換え実験系が利用可能であること、発明者らが過去にゲノムを解読して特許出願しておりゲノム情報の研究目的の利用に制限が無いこと、などの理由から抗真菌剤を開発するための良いモデル生物になると考えた。
【0033】
アスペルギルス・オリゼの生育に重要な遺伝子は、アスペルギルス・オリゼを含む真核糸状真菌に対する抗真菌剤を開発するための標的遺伝子の候補遺伝子になると考えた。
【0034】
アスペルギルス・オリゼの生育に重要な遺伝子を、欠失破壊や条件破壊により生育に致死または障害を引き起こす遺伝子を探すことで、調べた。
【0035】
アスペルギルス・オリゼの生育に重要と考えられる下記のa〜fに記載の基準で種類の遺伝子を選択した。
a)酵母Saccharomyces cerevisiaeで欠失破壊により致死性または生育条件によって致死性の効果を与える遺伝子のオーソログで、かつアスペルギルス・オリゼのゲノム上にエクストラホモログの存在しない84種類の遺伝子
b)アスペルギルス・オリゼに既存の抗真菌剤の添加により特異的に誘導される89種類の遺伝子
c)酵母で欠失破壊により致死性となる遺伝子のオーソログで、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、マグナポルセ・グリセ(Magnaporthe grisea)、 フサリウム・グラミネラム(Fusarium graminearum)の全ての糸状菌でオーソログが存在し、ヒト(Homo sapiens)や植物(Arabidopsis thaliana)にはオーソログの無い33種類の遺伝子
d)アスペルギルス・オリゼの小麦フスマを用いた固体培養(Tamanoら, 2007)で高発現誘導される26種類の遺伝子(そのうち植物(Arabidopsis thaliana)にオーソログが無い遺伝子は6個存在)
e)近縁の糸状真核真菌であるアスペルギルス・ニドランス(Aspergillus nidulans)あるいはアスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)のオーソログが欠失破壊により致死の効果を与えるアスペルギルス・オリゼの11種類の遺伝子
f)相同性検索などで機能が予測され、その結果からアスペルギルス・オリゼで欠失破壊により致死あるいは生育障害の効果を与えるものと予測される8種類の遺伝子
【実施例2】
【0036】
遺伝子欠失破壊用DNA断片の作製
上記の251種類の遺伝子の中から更に4種類の遺伝子(AO090005000456(GenBank Gene ID: 169766099), AO090005000363(GenBank Gene ID: 169765933), AO090005000301(GenBank Gene ID: 169765821), AO090005000125(GenBank Gene ID: 169765533))を選択して、それらの欠失破壊を作製した。最初に欠失破壊用DNA断片を作製した。欠失破壊を試みる遺伝子の開始コドンから5’側上流領域(5’-UTR)と終止コドンから3’側下流領域(3’-UTR)の各1.2〜1.5kbのDNA領域を、5’側上流領域はLUプライマーとLLプライマーとを、3’側上流領域はRUプライマーとRLプライマーとを用いてPCRで増幅した。また、欠失破壊株の選択用マーカーとしてウラシル合成に関連するpyrG栄養要求性マーカー遺伝子もPUプライマーとPLプライマーとを用いてPCRで増幅した。各遺伝子についてのLU, LL, PU, PL, RU, RLプライマーの配列を以下の表1(配列番号1〜24)に記した。
【0037】
【表1】

【0038】
その後、5’-UTR, pyrG, 3’-UTRを混合してPCRを行い、5’-UTR, pyrG, 3’-UTRの順にDNA断片をつなぎ合わせた欠失破壊用DNA断片をFusion PCRにより作製することになるが、その模式図を図2に記す。
Fusion PCRに用いる5’-UTR, pyrG, 3’-UTRの各DNA断片の作製の際に、Fusion PCRで隣り合うDNA断片との連結部になる位置にアニールするプライマー(LL, PU, PL, RU)のテール部に、連結先のDNA断片の末端の配列を13〜18 base導入した。
【0039】
・1st PCR
5’-UTR, pyrG, 3’-UTRの各DNA断片の作製は、Expand High Fidelity PLUS (ロシュ・ダイアグノスティックス)またはKOD PLUS, Version 1(東洋紡)で増幅した。テンプレートは全てアスペルギルス・オリゼ野生株RIB40の染色体DNAを用いた。以下の表2及び表3の組成で反応を行った。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
上記の反応液50 μlを0.2 ml反応チューブ中で混合してDNA Thermal Cyclerにセットし、以下のような温度設定によりPCRを行った。

94℃、40秒 1サイクル
94℃、15秒 63℃、30秒 68℃、2分30秒 35サイクル
68℃、2分30秒 4℃、〜O/N 1サイクル
【0043】
PCR反応液50μlに6×Loading Bufferを10μl添加して混和後、ウェル幅が1 cm程度のコームで作製した0.7%アガロースゲルに30 μlずつ2レーンにサンプルを電気泳動した。目的のDNA断片のバンドを含むゲルを切り出し、Wizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System (プロメガ)を用いて、Nuclease Free Waterを50 μlずつ2回カラムに通し、カラムからDNAを完全に溶出させ、DNA断片を精製した。
【0044】
・Fusion PCR
精製した5’-UTR, pyrG, 3’-UTRの各DNA断片を並べてアガロースゲルで泳動し、バンドの濃さを参考にDNA断片のモル比が5’-UTR断片:pyrG断片:3’-UTR断片=1:3:1となるようにして、かつこれらの3つのDNA断片の合計液量が12 μl以内として、DNA断片を混合し、以下の表4の反応系でFusion PCRを行った。
【0045】
【表4】

【0046】
上記の反応液100 μlを0.2 ml反応チューブ中で混合してDNA Thermal Cyclerにセットし、以下のような温度設定によりPCRを行った。
94℃、2分 1サイクル
94℃、15秒 66℃、30秒 68℃、6分 35サイクル
68℃、7分 4℃、〜O/N 1サイクル
【0047】
Fusion PCRで5.0〜6.0kbの遺伝子欠失破壊用DNA断片を増幅した。その後、必要により再PCRやNested PCRを行い、目的のDNA断片がメジャーバンドで最も多く増幅しており、非特異増幅したDNA断片がほとんど無い状態とした。また、上記のPCRを2チューブ以上用いて行うことにより、遺伝子欠失破壊用DNA断片を20マイクログラム程度作製した。PCR反応液は、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up Systemで処理し、欠失破壊用DNA断片を精製した。当DNA断片は形質転換に使用するので、コンタミがおこらないよう、DNA溶出には滅菌水を用いた。
【0048】
形質転換
アスペルギルス・オリゼRIB40 ku70::ptrA ΔpyrG株の分生子懸濁液を、ウリジンを20 mM添加したポリペプトン−デキストリン液体培地(4 g デキストリン水和物(和光純薬), 2 g ポリペプトン(日本製薬), 0.2 g カザミノ酸(ディフコ), 1 g KH2PO4, 0.2 g NaNO3, 0.2 g MgSO4・7H2O, pH 6.0)に植菌し、30℃、24時間振盪培養した。17G1滅菌済ガラスフィルターを用いて集菌後、菌体を滅菌水2回、滅菌0.8 M NaClで1回洗浄した。その後、菌体を30 mlのプロトプラスト化溶液(0.8 M NaCl, 10 mM NaH2PO4, 100 mg/30 ml Lysing enzyme (シグマ), 50 mg/30 ml Cellulase Onozuka R-10 (ヤクルト薬品), 100 mg/30 ml Yatalase (タカラバイオ))の入った50 ml容の滅菌済遠心チューブに移して懸濁し、30℃、50 rpm、2.5時間振盪しプロトプラスト化反応を行った。滅菌した17G3ガラスフィルターにて濾過し、濾液中のプロトプラストを3,000xg、4℃、5分間遠心分離して沈澱として得た。Solution B(1.2 M Sorbitol, 50 mM CaCl2, 10mM Tris-HCl、pH 7.5)にて3回プロトプラストを洗浄し、3,000xg、4℃、5分間遠心分離することで沈澱として得た。このプロトプラストをSolution B 1 mlで懸濁した。プロトプラスト懸濁液を200 μlずつ滅菌した1.5 mlエッペンドルフチューブに移し、それぞれにSolution C(50%(w/v) PEG♯3350, 50 mM CaCl2, 10 mM Tris-HCl、pH 7.5)25 μlと前述の形質転換用DNA溶液各10 μl(DNA量として20μg)を加えよく混合し、氷中で30分間放置した。15 ml容の遠心チューブに2 mlのSolution Bと1 mlのSolution Cとを加え混合し、そこにプロトプラスト懸濁液を加えて懸濁した。そして、70℃に温めておいたソルビトールを1.2 Mの濃度で添加したCzapek−Dox(CD)軟寒天最少培地10〜25 mlをそこに加えて混合し、ソルビトールを1.2 Mの濃度で添加したCD寒天培地に重層した。その後、30℃で分生子を形成するまで培養した。
形質転換後に再生した菌体のうちシングルコロニーを形成した菌体の分性子を単離し、CD寒天培地の全体に植え継いだ。その後、30℃で分生子を形成するまで培養した。
【0049】
単核分性子濃縮法による核の純化
アスペルギルス・オリゼの菌糸及び分生子は複数の核を有する多核の形態をとり、外から導入したDNAは一部の核の染色体だけに組み込まれる場合がある。従って、欠失破壊株を作製する場合、当該遺伝子が欠失破壊された核だけが細胞に存在するホモカリオンとして純化することが必要である。その際に、形質転換候補株中に存在する単核の分生子を選抜し継代すれば、目的の遺伝子が欠失破壊された核のみを持つ株を純化できる確率が高くなる。そこで、単核の分生子は多核のそれと比較して大きさが小さいという特性を生かして、メンブランフィルターを通すことで単核の分生子を濃縮し、それらからコロニーが形成されるよう継代培養を行った。
方法は、Haraら(2002)の方法を参考にして、滅菌した0.01% Tween 20溶液に分生子を懸濁し、それをフィルターホルダーにセットした孔径5 μm、直径25 mmのISOPORETM MEMBRANE FILTER(ミリポア)にシリンジを用いて通した。この操作により、通過した分生子の約80%が単核の分生子からなる濃縮画分を調製した。これを適宜希釈して1つの分生子から1つのコロニーが形成されるようにCD寒天培地に撒いた。その後、30℃で分生子を形成するまで培養した。
【0050】
遺伝子欠失破壊株の確認
形質転換体からの遺伝子欠失破壊株の確認は、Fusion PCRに用いたLUとRLのプライマーを用いて形質転換体のゲノムDNAに対してPCRを行い、欠失破壊用DNA断片に相当する大きさのDNA断片の増幅のみが見られたものをホモ欠失破壊株、野生株の場合と同じ大きさのDNA断片の増幅のみが見られたものはpyrGが染色体にectopicに取り込まれた非欠失破壊株、これらの両方のDNA断片の増幅が見られたものはヘテロ欠失破壊株とした(図3)。
ホモ欠失破壊株が得られ、しかも生育が野生株と同様であれば、欠失破壊遺伝子は生育には影響しない、つまり生育には重要で無い遺伝子とした。一方、ホモ欠失破壊株が野生株に比べ生育が衰えている場合は、欠失破壊遺伝子は欠失破壊により致死性では無いが生育障害をきたす生育障害性遺伝子とした。ホモ欠失破壊株が得られない、つまりへテロ欠失破壊株または非欠失破壊株としてしか得られない場合は、欠失破壊遺伝子は欠失破壊により致死の影響を与える致死性の可能性が高いと考えた。致死性の可能性が高い遺伝子および生育障害性遺伝子が、抗真菌剤を開発する上での標的候補となると考えた。
選択された4遺伝子の欠失破壊の場合、いずれも欠失破壊株はホモカリオンとして得られたが、そのうちAO090005000456遺伝子とAO090005000125遺伝子の各欠失破壊株はそれぞれ遺伝子欠失前の菌株に比べて生育が衰えていることが確認された。このことからAO090005000456遺伝子とAO090005000125遺伝子は欠失破壊により生育障害をきたしたため、真菌の生育障害性遺伝子とあると認められ、真菌の生育に重要な遺伝子として抗真菌剤開発の標的の候補遺伝子である可能性が考えられた。
【実施例3】
【0051】
欠失破壊より致死の影響を与える遺伝子の条件破壊
生育に重要と考えられる遺伝子の中で、その欠失破壊により致死の影響を与える遺伝子は、抗真菌剤を開発するための有効な標的となると考えられるが、一方で欠失破壊株が得られないことから、欠失破壊株を用いた機能解析が出来ない。また、いくつかの遺伝子は、ホモロジー解析やモチーフ検索といった比較ゲノム的手法により機能予測が可能であるものの、実際にその予測が正しいかは実験により解析しないとわからない。そして、生育に重要と考えられる遺伝子の機能を明らかに出来なければ、それに対する薬剤を開発することは困難である。そこで、当遺伝子の発現を抑制し、当遺伝子が十分に機能し無い状態、すなわち致死に至らないが生育に障害をきたした状態で菌を生育させ、当遺伝子の機能推定を試みた。この目的の遺伝子の発現抑制を制御できるようにした株を条件破壊株と呼ぶ。
条件破壊により機能推定を行う遺伝子は、前記の(a)〜(e)の基準で選ばれた243種類の遺伝子のうち欠失破壊実験で生育に重要の可能性が高いと考えられ、しかもヒト(Homo sapiens)や植物(Arabidopsis thaliana)にオーソログが無い真核糸状真菌特異的なもので、これまでにアスペルギルス・オリゼで機能が明らかとされていない30種類の遺伝子とした。また、上記の(f)の基準で選ばれた相同性検索などで機能の予測が可能であり、その結果からアスペルギルス・オリゼで欠失破壊により致死あるいは生育障害の効果を与えるものと予測された8遺伝子についても、今回の機能推定方法で機能を正しく明らかとできるかを調べるコントロールとして、致死性の遺伝子は条件破壊、生育障害性の遺伝子は条件破壊あるいは欠失破壊を行った。
条件破壊方法として、機能を調べたい生育に重要と考えられる遺伝子のプロモーターを、チアミン添加により人為的な発現抑制の制御が可能と報告(Shojiら, 2005)されているthiA遺伝子のプロモーターと置き換え、チアミン添加によりその発現抑制を試みる方法を用いた(図4)。このthiAプロモーターのチアミン添加による抑制制御は、チアミンがmRNAのプロモーター領域に直接結合することにより、プロモーターでのスプライシングを阻害し、結果として翻訳が正しく行えなくするという原理で、リボスイッチと呼ばれるものである(Kuboderaら, 2003)。
条件破壊実験は、目的の遺伝子の開始コドンから3’下流側の約1 kbと5’-UTRの約2 kbとの計約3 kbのDNA配列のうち、開始コドンから5’-UTRに約1 kbのDNA配列を、thiAプロモーターとpyrGマーカーとをタンデムにつなぎ合わせたDNA配列に置き換えたDNA断片を作製し、これをアスペルギルス・オリゼに導入して相同性組換えにより行うこととした。
遺伝子条件破壊用DNA断片の作製は、前述の遺伝子欠失破壊用DNA断片の作製と同様にFusion PCRにより行った。1st PCRとFusion PCRの反応液組成、反応プログラム、前後のDNA断片精製は遺伝子欠失破壊の場合と同様に行ったが、遺伝子条件破壊用という用途の違いから下記の3点について遺伝子欠失破壊の場合からDNA断片作製法を変更した。
1. pyrGマーカーDNA断片を、逆方向のアスペルギルス・ニドランスのpyrGマーカーDNAと順方向のthiAプロモーター約1 kbとをタンデムに連結したものにした点。
2. 5’-UTR 1.2〜1.5 kbのDNA断片を、開始コドンから5’上流に1 kb遡ったところから更に5’上流に1.2-1.5 kbのDNA領域の断片に変更した点。
3. 3’UTR 1.2〜1.5 kbのDNA断片を、開始コドンから3’下流に1.2〜1.5 kbのDNA領域の断片に変更した点。
上記の1.にあるpyrGとthiAプロモーターとを連結したDNA断片は、予め適当なベクターにそのように連結された状態でクローニングしたものを鋳型としてPCRにより増幅した。
遺伝子条件破壊用DNA断片は、アスペルギルス・オリゼNS4 ligD::ptrA pyrG::sC株のレポーター検出系導入株に導入した。形質転換、純化、及び条件破壊された核のPCR確認は前述の方法により行った。その結果、破壊が致死性と考えられる遺伝子のうち約3分の1の遺伝子についてチアミン添加による条件破壊の効果が生じ生育抑制が起こった。しかし、条件破壊を行った残りの約3分の2の遺伝子については、チアミン添加による発現抑制の結果としての生育抑制が観察されなかった。原因としては、本来のプロモーターとthiAプロモーターとの間の発現レベルの違いや、タンパク質の発現抑制のdose responseが最も考えられるが、これまでのDNAマイクロアレイによる解析では、条件破壊の成功と遺伝子の発現レベルの相関関係は見いだされていない。thiAプロモーターは全ての遺伝子の条件破壊に有効ではなかったものの、条件破壊が有効であったいくつかの遺伝子についてはレポーターを用いた機能推定に適用可能であった。
ホモ欠失破壊株が得られなかったことから致死性の可能性が高いと考えられたAO090003000174遺伝子(GenBank Gene ID: 169769850)の条件破壊の結果を記す。AO090003000174遺伝子の5’-UTRおよび開始コドンから3’下流に1.2 kbのDNA領域を、LUプライマー5’-ACCGTCTTCATCCGACTGATTCTAGC-3’(配列番号25)とLLプライマー5’-AGACAAGCACTGAGGCTCTAGAAGAGTAACGACAATGTC-3’ (配列番号26)との組み合わせおよびRUプライマー5’-TGCAACTTGAAACATGGTTGCCACATCTGTGAATCGCAC-3’ (配列番号27)とRLプライマー5’-GAGACCAATGCACTTGGCGTAGCAAC-3’ (配列番号28)との組み合わせで、それぞれ麹菌の染色体DNAを鋳型としてPCRで増幅した。また、逆方向のアスペルギルス・ニドランスのpyrGマーカーDNAと順方向のthiAプロモーター約1 kbとをタンデムに連結したDNA断片をクローニングしたプラスミドDNAを鋳型として、PUプライマー5'-ACTCTTCTAGAGCCTCAGTGCTTGTCTACCAGATTAGG-3'(配列番号29)とPLプライマー5'-GTGGCAACCATGTTTCAAGTTGCAATGACTATCATC-3'(配列番号30)とを用いて逆方向のアスペルギルス・ニドランスのpyrGマーカーDNAと順方向のthiAプロモーター約1 kbとをタンデムに連結したDNA断片をPCRで増幅した。その後は、これらの増幅した3つのDNA断片について実施例2に記載された方法と同様にしてFusion PCRで1つのDNA断片として連結し、それでNS4 ligD::ptrA pyrG::sC株を形質転換した。その結果、ホモカリオンとして得られたAO090003000174遺伝子条件破壊株について、チアミンを2 μM の濃度で加えたCD軟寒天最少培地とチアミン無添加のCD軟寒天最少培地のそれぞれで培養し生育を比較した。その結果、チアミン添加した場合、それにより生育が衰えることが確認された。これは、前述のリボスイッチによりAO090003000174遺伝子の発現が抑制された結果であると考えられ、AO090003000174遺伝子は麹菌の生育に重要な致死性の遺伝子であることが確認された。
【実施例4】
【0052】
細胞システムモニター用レポーター検出系の作製
致死性の可能性が高い遺伝子および生育障害性遺伝子の機能が、ホモロジー検索やモチーフ解析などにより予測できない場合、その大まかな機能推定にレポーター検出系を用いることとした。この簡便な機能推定方法は、菌の発色や蛍光で遺伝子の機能を表示するというものである。レポーター検出系を導入した麹菌で、致死性の可能性が高い遺伝子の場合はその発現を抑制的に制御可能な遺伝子改変、すなわち条件破壊を行い、生育障害性遺伝子の場合は条件破壊または欠失破壊を行う。これにより、致死性の可能性が高い遺伝子および生育障害性遺伝子の機能の低下又は欠損によるレポーターの応答を見ることで、その遺伝子の機能を大まかに推定することができ、抗真菌剤を開発するための重要な情報が得られる。
機能推定を希望する細胞システムとして、エネルギー代謝、細胞壁形成、細胞骨格形成の各細胞システムとし、これについてレポーター検出系の作製を試みた。
レポーター検出系は、GUSやEGFPの開始コドン〜(終止コドン)〜ターミネーターまでのDNA断片に、レポーターとして機能推定に使用可能な遺伝子のプロモーターのDNA断片を連結し、この連結型のDNA断片をアスペルギルス・オリゼに導入することで作製した。レポーターとして機能推定に使用可能な遺伝子のプロモーターは、阻害する機能が明らかとなっている薬剤(基準酵素系阻害剤)をアスペルギルス・オリゼに死なない程度、つまり生育が遅くなるが止まらない程度の以下の表5に記した濃度で投与した。
【0053】
【表5】

【0054】
表5の濃度での薬剤の投与により誘導される遺伝子を、アスペルギルス・オリゼのゲノム上の全ての遺伝子のプローブが載ったマイクロアレイを用いて調べた。そして、阻害する機能が異なる複数の薬剤のどちらでも誘導される遺伝子は除外することで、レポーターとして機能推定に使用の可能性が考えられるプロモーターを持つ遺伝子を選択した。また、マイクロアレイのデータを参照せずに、相同性解析から基準酵素系で機能するものと予測された遺伝子からレポーターとして機能推定に使用の可能性が考えられるプロモーターを持つ遺伝子も併せて選択した。以下の表6に選択した遺伝子を記す。
【0055】
【表6】

【0056】
表6に記したレポーターとして選択した遺伝子のプロモーターDNAとGUSやEGFPの開始コドン〜(終止コドン)〜ターミネーターまでのDNAとを連結したレポーター検出系DNA断片を作製し、これをアスペルギルス・オリゼに導入してレポーター検出系導入麹菌を作製した。
この連結は、GUSの場合、既にGUSの開始コドン〜(終止コドン)〜ターミネーターまでのDNA を組み込んでいるpNGGプラスミドのPstI, NotI, SalIのいずれかの制限酵素サイトに、選択した遺伝子のテールにPstI, NotI, SalIのいずれかの制限酵素サイトを持つプライマー対で増幅した約1 kbの5'-UTRのDNA断片の制限酵素消化したものをクローニングすることにより行った(図5)。
エネルギー代謝系レポーターのAO090003000310(GenBank Gene ID: 169770082), AO090003000174(GenBank Gene ID: 169769850), AO090005001430(GenBank Gene ID: 169767769)の3遺伝子と細胞壁形成系レポーターのAO090005000560(GenBank Gene ID: 169766275)遺伝子での実施例を記す。AO090003000310, AO090003000174, AO090005001430, AO090005000560の各プロモーターを以下の表7に記したFwdとRevのプライマー(配列番号31〜38)を用いてPCRにより増幅した。
【0057】
【表7】

【0058】
増幅した各プロモーターのDNA断片をPstIとSalIで制限酵素消化し、同じくPstIとSalIとで制限酵素消化したpNGGプラスミドとともにDNA断片をアガロースゲル電気泳動に供して、それぞれを含むゲルを切り出して、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up Systemを用いて滅菌水50 μlにDNAを抽出した。これらを、それぞれ挿入用ベクター及び挿入DNA断片とした。次に、このベクターDNA断片1 μgと挿入DNA断片1.5 μgとをDNA Ligation kit, Version 1(タカラバイオ)により連結反応を行い、この反応液で大腸菌を形質転換し、各レポーター遺伝子のプロモーターをクローニングしたpNGGプラスミドを得た。次に、この作製したレポーター導入用ベクターをXcmIによりniaD栄養要求性マーカー遺伝子の中央部で切断し、その断片をアガロースゲル電気泳動に供して、これを含むゲルを切り出して、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up Systemを用いてDNAを滅菌水50 μlに抽出した。これを、前述の形質転換法によりアスペルギルス・オリゼniaD300株に導入した。
実際に、当レポーター検出系DNA断片のアスペルギルス・オリゼ導入株が、目的の機能推定のために正常に機能することを、致死性あるいは生育障害性遺伝子の機能推定を行う前に予め確認した(図6)。エネルギー代謝系レポーターAO090003000310, AO090003000174, AO090005001430の作動の確認は、クレソキシムメチル20 μg/ml、ジフルメトリム1 μg/ml、またはオリゴマイシン20 μg/mlの濃度で各阻害剤を菌体培養液に添加して、β-glucuronidase活性の増加を観察することによって行った。細胞壁形成系レポーターAO090005000560の作動の確認は、フルジオキソニル20 μg/mlの濃度で各阻害剤を菌体培養液に添加して、β-glucuronidase活性の増加を観察することによって行った。β-glucuronidaseの活性測定方法は以下の通り実施した。
【0059】
・β-glucuronidase活性測定によるレポーター応答の確認
レポーター導入株の分生子を2×106個分生子/mlになるように、200 mlのCD最少液体培地を入れた500 ml容フラスコに接種し次の条件で培養した。
(条件1)30℃、24時間培養
(条件2)30℃、24時間培養した後、表5に記した濃度で薬剤を添加し、さらに30℃で4〜8時間培養
【0060】
菌体をガラスフィルターで集菌し、この回収した菌を乳鉢中で液体窒素を注ぎながらパウダー状になるまで破砕した。500 μlのLysis buffer (10 mM EDTA, 0.1% (w/v) Triton X-100, 10 mM 2-メルカプトエタノール, 50 mM リン酸カリウム, 0.5 mg Sarkosyl, pH 7.0)を入れた1.5 mlのエッペンドルフチューブにパウダー状の菌体を移し懸濁した。氷上に30分間静置後4℃で15,000×g,10分間遠心し、上清を菌体内粗酵素液とした。
酵素抽出液のタンパク定量を行い、タンパク濃度を測定した。タンパク濃度100μg/100μl以下になるように、濃度高いものは希釈した。その後、酵素反応液を作製し、混和した後、37℃で10分間反応させた。酵素反応液の組成を下記の表8に記した。
【0061】
【表8】

【0062】
その後、80 μl Termination solutionを加えて反応を停止し、反応で生成したp-nitorophenol量を415 nmの波長の吸光度で測定した。
上記の測定に用いた溶液のうちReaction bufferの組成は下記の表9、p-nitorophenyl-β-D-glucuronide solutionの組成は下記の表10、Termination solutionの組成は下記の表11の通りである。
【0063】
【表9】

【0064】
【表10】

【0065】
【表11】

【0066】
菌体内粗酵素液のタンパク質濃度の測定はBCA Protein Assay Reagent Kit(ピアス)を用い、添付のマニュアルに従った。
【0067】
作製したレポーター検出系のうち感度の上昇を試みる際は、GUSではなく、より感度の高いEGFPをレポーター検出系に用いた。
このレポーター検出形の作製は、EGFPの開始コドン〜終止コドンまでのDNA を組み込んでいるpEGFPプラスミドのNotIまたはPstIの制限酵素サイトに、選択した遺伝子のテールにNotIまたはPstIの制限酵素サイトを持つプライマー対で増幅した約1 kbの5'-UTRのDNA断片のNotIまたはPstIの制限酵素消化したものをクローニングすることにより行った(図7)。
エネルギー代謝系レポーターのAO090011000022(GenBank Gene ID: 169782511)遺伝子および細胞骨格形成系レポーターのAO090124000010(GenBank Gene ID: 169778459)遺伝子についての実施例を記す。AO090011000022およびAO090124000010の各プロモーターを以下の表12に記したFwdとRevのプライマー(配列番号39〜42)を用いてPCRにより増幅した。
【0068】
【表12】

【0069】
増幅したAO090011000022プロモーターのDNA断片をNotI、AO090124000010プロモーターのDNA断片をPstIで制限酵素消化し、NotIまたはPstIで制限酵素消化したpEGFPプラスミドとともにDNA断片をアガロースゲル電気泳動に供して、それぞれを含むゲルを切り出して、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up Systemを用いて滅菌水50 μlにDNAを抽出した。これらを、それぞれ挿入用ベクター及び挿入DNA断片とした。次に、このベクターDNA断片1 μgと挿入DNA断片1.5 μgとをDNA Ligation kit, Version 1(タカラバイオ)により連結反応を行い、この反応液で大腸菌を形質転換し、各レポーター遺伝子のプロモーターをクローニングしたpEGFPプラスミドを得た。次に、この作製したレポーター導入用ベクターをXcmIによりniaD栄養要求性マーカーの中央部で切断し、その断片をアガロースゲル電気泳動に供して、これを含むゲルを切り出して、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up Systemを用いてDNAを滅菌水50 μlに抽出した。これを、前述の形質転換法によりアスペルギルス・オリゼniaD300株に導入した。
当レポーター検出系DNA断片のアスペルギルス・オリゼ導入株が、目的の機能推定のために正常に機能することを、致死性あるいは生育障害性遺伝子の機能推定を行う前に予め確認した。レポーター作動の確認は、AO090011000022レポーター遺伝子については、エネルギー代謝系に作用する薬剤のジフルメトリムを1 μg/mlの濃度で菌体培養液に添加してそれに伴うegfp遺伝子発現の増大を定量RT-PCRで確認するとともに、0 μg/mlから1 μg/mlまで段階的に菌体培養液に添加して、ジフルメトリム濃度が増大するに伴い菌体がEGFPにより蛍光を呈することを蛍光顕微鏡観察することにより行った(図8)。AO090124000010レポーター遺伝子については、細胞骨格形成系に作用する薬剤のベノミルを1 μg/ml及び20 μg/mlの濃度で菌体培養液にそれぞれ添加してそれに伴うegfp遺伝子発現の増大を定量RT-PCRで確認するとともに、0 μg/mlから10 μg/mlまで段階的に菌体培養液に添加して、ベノミル濃度が増大するに伴い菌体がEGFPにより蛍光を呈することを蛍光顕微鏡観察することにより行った(図9)。
【実施例5】
【0070】
生育に重要と考えられる遺伝子のレポーターによる機能推定
生育に重要と考えられる遺伝子の機能の推定は、これまでに作製を行ったレポーター検出系のアスペルギルス・オリゼ導入株において、機能を推定したい生育に重要と考えられる遺伝子のうち前述の条件破壊が有効とわかった遺伝子について条件破壊または欠失破壊を行い、遺伝子破壊時のレポーター応答を見ることにより行った。
まず、構築した表6のレポーター検出系について、遺伝子破壊のためのpyrG栄養要求性マーカーが使用できるNS4 ligD::ptrA pyrG::sC株にレポーター検出系を導入した株を作製した。この際、NS4 ligD::ptrA pyrG::sC株にレポーター検出系は表6のどれか一つを入れることになるので、エネルギー代謝、細胞壁形成、細胞骨格形成の3種類の細胞機能について推定するために少なくとも3種類のレポーター導入麹菌株を作製した。
チューブリンをコードするものとしてアミノ酸配列の相同性解析により予測された(即ち、条件fを満たす)AO090009000281(GenBank Gene ID: 169764582)遺伝子欠失破壊に伴う細胞骨格形成系レポーターAO090124000010の応答、およびATPaseをコードするものとしてアミノ酸配列の相同性解析により予測された(即ち、条件fを満たす)AO090020000403(GenBank Gene ID: 169780523)遺伝子の条件破壊に伴う2種類のエネルギー代謝系レポーターAO090005001430とAO090003000310の応答の結果を示す。麹菌NS4 ligD::ptrA pyrG::sC株に実施例4に記載した方法でレポーターを導入した菌株について、細胞骨格形成系レポーターAO090124000010導入株でAO090009000281遺伝子の欠失破壊、エネルギー代謝系レポーターAO090005001430およびAO090003000310の各導入株でAO090020000403遺伝子の条件破壊を実施した菌株を例2に記載したものと同様の方法により作製した。使用したプライマーの配列(配列番号43〜54)を以下の表13に記す。
【0071】
【表13】

【0072】
細胞骨格形成系レポーターAO090124000010を導入した菌株でAO090009000281遺伝子の欠失破壊を行うと、AO090009000281遺伝子欠失株は遺伝子欠失前の親株に比べ生育が遅くなるとともに、欠失破壊前の親株では応答しない低濃度のベノミルに応答して蛍光を発した(図10)。このことから、AO090009000281遺伝子は生育に重要であって抗真菌剤を開発するための標的になる可能性があり、しかも細胞骨格の形成に機能する可能性があることを、遺伝子欠失破壊とレポーター検出系との組合せで示すことができた。
また、エネルギー代謝系のレポーターAO090005001430およびAO090003000310をそれぞれ導入した菌株でAO090020000403遺伝子の条件破壊を行うと、菌体はAO090020000403発現抑制時に非発現抑制時に比べて生育が遅くなるとともに、非発現抑制時や条件破壊前の親株には見られない菌体の周囲にGUS活性による5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-グルクロン酸 (X-Gluc) の分解による青色の発色を呈した(図11)。このことから、AO090020000403遺伝子は生育に重要であって抗真菌剤を開発するための標的になる可能性があり、しかもエネルギー代謝に機能する可能性があることを、遺伝子条件破壊とレポーター検出系との組合せで示すことができた。
【0073】
上記実施例で作製したAO090003000310, AO090003000174, AO090005001430, AO090005000560,AO090011000022,及びAO090124000010各遺伝子のプロモーターは、本発明の真菌に生育に障害を与えるが致死に至らしめない濃度で投与された基準酵素系阻害剤により発現が誘導される真菌の遺伝子(レポーター遺伝子)、又は他の生物の遺伝子との相同性解析により基準酵素系で機能すると予測される真菌の遺伝子(レポーター遺伝子)のプロモーターの代表例である。それらの塩基配列を配列番号55〜60で示す。
【0074】
AO090003000310プロモーター(配列番号55):5’- atcacattactgttgcccaaaggccaccaaatgcactgtggaggtgtatacttgagtcccgttacctaggaatcgactcaatcaagatatttctacttctcggccgggaaaagtgaaactcatgatgttactaaagtagtacgaagggtatccatattagaagttcggggtctgctgtacgtaaggagttcgtggctgaagaaaatttgcaagggatctgacgtatggagagcccgatagtccgtaactatacgagtgaatcaatcaaagacaatcggttccgagtcgattcggaggtcaagcttcggcatcgcgttgagtcagacgccgttccggtttccaccgaagtcatctgcccgccccttcgtatatttaaaattacacaagccgtatcaatctgtaatatacggtatctcgccgctgaatgacctgattctttctcgggcatagggataatggggagacttttaaattcgcttttacttcagtcgcataaagaatacagcggggttcctttattaaacatcttaattgagattcctaggtgtcgagaggatgttcgcgatggttgcttccatgtaacttcggtgtaacttctagagccttgaaagcttggtccctaagggacccgccaagaaaaccagttccagaatcttggatgtcctttgaaaggcatgttagaatcccgcaaacggatcttagttggtcgtcccggtgtagctcagggtcgttctaattgtcagcctgttctggcgagaagattttgcgccctatgacagtatattgttctcatttggttccggccttattccgatttctgccataagcttcttatccaggactatatatagatagactgtagaggcgtagcttcccaatgtccagtaaacagcaagccttttgtgatcaaagcacgactctttctactactacttcaccccaagaccattaatcagtttatctaataacgtatactcgg-3’
【0075】
AO090003000174プロモーター(配列番号56):5’- accgaatgactaacagcatgcctaaaggaggaaagcgtcattgaaatgatgaacgggaacccgagacttcagccggggtttcgtcatgagcacgtctcttttggctaggatgaagtgattattggtttctattgattgttaccctaaagaggggctaaagataggcactctctgggggcgatactgcgccacctgggcatttcgacattgtcgttactcttctagagcgtttgctttcacccatgtggtctcgagctcccccggtccggcagcaaaaggtctagccgaaaatgttctccccgcaatttgggtcttggccgcttgaaccaaacaaaatagaacaaaaagagtagactgagatcattcaacgtcaccactttgctgacttttccctctgcccgcataaaccctggagactgattgatcgaattctttgtagaaaaagtaaatacagagggaacatactttggggattgtgtaatggcaaacgaatgtaagacataaataattggtaggcaagctgtcgtttgcagcggtactttcagcctgtcctaaacatagtttgcattcctgcgcctgggcacccacacccacgcactaaaactcatttacacctgcattttgctcctgcatgagacatttcttgactggataccatccgcgcgttatcataatccagagacacacccctttattttcattccgaaaatcgcattttcttgcttctagttggtgcacccgaccggttttcccggaaccacttcgtgcctacatctggggttcggaacaagtcggagaacccacaagaggcattttacacactccagagtccacggttaccaacgctgcctcagcccggtcttcagccccgacatctcccgtcaaactgtggagaagcatatcggagtcgaagactgaaacgccttctggacttactttgctgtgatcatggctcctgctgaaaacattaatataccccgtgcttccccagtagaaccaggtcctctctacacagatttcttccaacaacaagtcgcaaagcagcgcaacaataactatcactccacatcattaagaaac-3’
【0076】
AO090005001430プロモーター(配列番号57):5’- ggcagcagacacggaatctgattctttgatagttccttctttcaaaagctgcttgagccggggaatgctgaggtagccaagtagggatcgtttcgtagaagaggtgaccgttaaatgagtgaaatcacgttcgtaggctgcgagcatggcggaggagactaagtcgttaggtgagacagacagtgccggaggggggtccagatcttcgacagtagcctagatttttttttcatcggtaagtagggaatgacaatagggtctatgcagttgggcgtgtaatgccatcatagagtggtaactaacccctcggtacttgtctgcccacgatgacggggaagtggactgttccgcagtagaagagagcttttcgcgggcaaatgcctcgctgccggtcgaataggaagccatatccactgagtgattcacaggaggggcggcaaaggcgatgaggaggggtacgaagaggggccaactataatgttcaattggcgatagtaacggcgtcaaatcgggacaccaagtattacagggtaaactcggagaaacacggttatgcgagcactaagagcaaacgatacgaggtaaggaggccggttcgtgttttgacaatatcgcaaggtgaggtctgttccaatggacgataaatttatcgattgcggcccacgagagccttagtctccgccctctaagcggatcgggtttggcgccaaccagaagtgggtgagacgataccattcgacgtcattgccggccgctaccgcagtgtcagatctctcttcctttcggttgttcggactgagtcacttgtcattttactatttatactgtcatactgctcctttaacatttttgaatgaagaaaaaagtcggtagttcgagtggttcgtgtcccaactgtttttgtactcattgagataccagttgccctacaagtggggacgatcttctctatagatatacaacccccagtacgtgcggtctggtcctgtggagacctctcaacttacgataaacccaatattttgacacggctcaactaggaaatccctcgccaag-3’
【0077】
AO090005000560プロモーター(配列番号58):5’- gttgggtgatggcaagtcttagctatttttgaatctgttgagttatcatatttactaaataaaattttcacttttgatcattgttaaaatcactagccatcttttctattcttttccaacaaaccacgctaacttaggcgcttcaaagtgctggcgtagacacactgactgggcttaactagcgctaccaaaaatactacaaaagttcgagacttcaagtgaaccaagtggggttcgagttcccgattcatccaccaagtcaaataaatccgagaacgctgggagattcggaccacggaaaaaatacttttttttttgagaaagagatttgtttcaaatggcatttcgaaacacatttgcatatcagaattcgccaatgaagattgttgtcaatggatgtggactttgacgtgtatgacagtgtggtcttgttagggcaaagggcgggagaaaactcaagcgaggcatacgtatgctccgatatcagatttcgggcaaccacgcaagccgcagtgtcaaccacaaaagtcaagctttgaacgggatccacttctcataggctacaacaatacttttagcgattgttttcagtctccccactgttcatggccaattgacaagcctcggcctgaatgccacgactacggttaggatgtctttgcatcgcatggctggaagcgggccggcaaacataagatgttatgactcgatgcatccaatggccagtgtgcatactttgtatatccatggtttatagtccaacaaacttgggaagaactagtattagcagatctcttgccaagttgccacttccgactgatgggtacgaggcctgtacaaggtccaagatttgtcttactcttatctccgatcagtcaaaattcttatccatctcccagccatatgctttacgttccccgtatgcctatacttatatagtttgtccttgttcatctagcacgtccttagctgcataggttgcctctcttcaatccacccacagtgaccaacaccatccctcggcacaaaactctaac-3’
【0078】
AO090011000022プロモーター(配列番号59):5’- ggcgtggagtatgtggtagaaacattatggccacatcaagccttctgttggtgtgtcgagtcattagagagaatccacgacgacgaacaaaaacaaagggatggaggaaatgcgtcacgtgctgcttatctcagcagaatatcgacccttctcttccacacgagaccaacatcgcaaccatcatagcgccctgtctgttctgcagtggccctccttgtacagagcatgttattgtgatgtgaagttcactcgacaccgtgagtaaaacgtgacccatctagtgaagggactcccgattgcgaacatttcggtgttagctcggcgtctcatcccgagagactaccgacgaatcctagattgtccgaccagctggattagggttttcgaaatagaaaatcactaatcgaatcccggttggttctgagatctgcattgtcatcataaatttaagttgcgaacatgatcgcggctgcagtgtacagcacatcctgccctggtgcaggacccggggtacgcggtagaccagagaacatgggggtcgaccaagaaagttaacgacgagattctagcctcctatccgcttgatgccctctaactggttattgtctcagttgatgctcccggggaatcttcgtcgtgctgcaacggggatcctcaacataccctcaacgacaactagtgactcactggttggttcgcaaggatggtgcgtcaatcggggtagactatggctagaacctgggggtaaagcgccagcactacagcccaatctctctccatgcggtgggtgtgtggacaggttgatgggcactccctgagctcgaggctctcgtcgtactcttggcctggctgcgcagtccgttacctataaatatctggacgtcctgtactctcagggaagacagaaagacatcaccgggcttcaatgtgtctactactctgaatacataccctttccacttgacctatcgcgctgtactctttctcatctgtcagcc-3’
【0079】
AO090124000010プロモーター(配列番号60):5’- ctgcagatgaatcttctactacaacagcggtttggtcgtctgagatccggtaaatcacgaatgttggctttttcgcccctcttccggaacggagttgcttgtaggtggtgatgcattcatccgctatggaaacgctgttaatagctcagttagtaaggagccgggaatgtgtaatgtactaataaagggtggtatatatagcaacataccccgatggcatctacaagagtcaagacggacctgggtaagcgaaagtcttcagggacgaggacgatacataccgacatattgatcgctagaaactgaaataggtcaaagactgataaagtgcttgtctgccaatcactgaatccgataagtgactctcactttatatgatggttctggttaggctgctttattccatagaaaaatgaatgcctaaggaaggctgcgctgatttgcttggcggatacctgcggccgcgcaatccgggatgccgagcaggtataacgaccatgaaccctaactcatcctcattgcgacgcgcaatcaatgttacgaagggtctgttgcctggagatgttattgcgtattcacattcatctacgtcgtgaattcatgatgctatcctgagtatttgggcagcctagactaaaccatttaggcatttacgttattttatctataagtacgttgtagctatcgccatatttgcgaggaagttcgcataccgtggctacctctgatctcatcatttggtctatcgttcttatagttcagtgtcgacagactctatctgtattcgaagctccctgattcggtaggacgatcacatcagatccatc-3’
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、新規の抗真菌剤を高効率に開発するためのストラテジー(Strategy)を提供するものである。
【0081】
参考文献
(1)Ausubelら、1987. Current protocols in molecular biology. John Wiley & Sons, New York.
(2)Haraら、Biosci. Biotechnol. Biochem. 66: 693-696. 2002
(3)Huら、PLoS Pathog. 3: e42. 2007
(4)Ishibashiら、Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 103: 14871-14876. 2006
(5)Kuboderaら、FEBS Lett. 555: 516-520. 2003
(6)Machidaら、Nature 438: 1157-1161. 2005
(7)Mizutaniら、Fungal Genet. Biol. 45: 878-889. 2008
(8)Shojiら、FEMS Microbiol. Lett. 244: 41-46. 2005
(9)Takahashiら、Mol. Gen. Genomics 275: 460-470. 2006
(10)Tamanoら、Fungal Genet. Biol. 45: 139-151. 2008
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】発明した抗真菌剤開発方法の概要の模式図を示す。
【図2】Fusion PCRによる遺伝子欠失破壊用DNA断片の作製の模式図を示す。
【図3】PCRによる遺伝子欠失破壊の確認の実施例を示す。
【図4】遺伝子の条件破壊方法の模式図を示す。
【図5】GUSベクターpNGGとそれにレポーター用遺伝子プロモーターを挿入する模式図を示す。
【図6】エネルギー代謝系レポーターおよび細胞骨格形成系レポーターのGUS活性による菌体の発色を指標とした薬剤ストレス応答の検出の実施例を示す。
【図7】EGFPベクターpEGFPとそれにレポーター用遺伝子プロモーターを挿入する模式図を示す。
【図8】AO090011000022遺伝子プロモーターを用いたエネルギー代謝系レポーターのEGFPによる菌体の蛍光提示を指標とした薬剤ストレス応答の検出の実施例を示す。
【図9】AO090124000010遺伝子プロモーターを用いた細胞骨格形成系レポーターのEGFPによる菌体の蛍光提示を指標とした薬剤ストレス応答の検出の実施例を示す。
【図10】AO090009000281遺伝子について、遺伝子欠失破壊とレポーター検出系との組み合わせで抗真菌剤開発の標的の判断とその機能の推定とを同時に行った実施例を示す。CD最少液体培地で30℃、24時間 前培養後、薬剤添加して6時間培養して写真撮影した。
【図11】AO090020000403遺伝子について、遺伝子条件破壊とレポーター検出系との組み合わせで抗真菌剤開発の標的の判断とその機能の推定とを同時に行った実施例を示す。フィルター上30℃で2日間培養し、フィルターを非抑制または抑制条件の培地(X-gluc (25μg/ml) 含む)に移植し、30℃で4日間培養して写真撮影した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の1)〜6)の工程を少なくとも含むことを特徴とする、抗真菌剤の標的遺伝子の選定方法:
1)上記標的遺伝子の候補遺伝子を選択する工程;
2)基準酵素系阻害剤を真菌に生育に障害を与えるが致死に至らしめない濃度で投与して、これにより発現が誘導される真菌の遺伝子、又は他の生物の遺伝子との相同性解析により基準酵素系で機能すると予測される真菌の遺伝子をレポーター遺伝子の候補遺伝子として選択する工程;
3)上記レポーター遺伝子の候補遺伝子のプロモーターを採取し、該プロモーターとそれに機能的に結合したマーカー遺伝子が導入されたベクターを構築する工程;
4)真菌類に上記ベクターを導入して形質転換体を作製する工程;
5)該形質転換体の上記標的遺伝子の候補遺伝子に欠失破壊あるいは条件破壊を導入する工程;及び
6)得られた欠失破壊株あるいは条件破壊株を、条件破壊株の場合は標的遺伝子の候補遺伝子の発現抑制条件として、完全培地または最少培地あるいはそれらに生育可能な濃度で基準酵素系阻害剤を含有した培地で培養し、同条件で培養した欠失破壊あるいは条件破壊の以前の菌株と生育を比較することにより、抗真菌剤の標的遺伝子を選定する工程。
【請求項2】
以下の1)〜6)の工程を少なくとも含むことを特徴とする、抗真菌剤の標的遺伝子の機能を推定する方法:
1)上記標的遺伝子の候補遺伝子を選択する工程;
2)基準酵素系阻害剤を真菌に生育に障害を与えるが致死に至らしめない濃度で投与して、これにより発現が誘導される真菌の遺伝子、又は他の生物の遺伝子との相同性解析により基準酵素系で機能すると予測される真菌の遺伝子をレポーター遺伝子の候補遺伝子として選択する工程;
3)上記レポーター遺伝子の候補遺伝子のプロモーターを採取し、該プロモーターとそれに機能的に結合したマーカー遺伝子が導入されたベクターを構築する工程;
4)真菌類に上記ベクターを導入して形質転換体を作製する工程;
5)該形質転換体の上記標的遺伝子の候補遺伝子に欠失破壊あるいは条件破壊を導入する工程;及び
6)得られた欠失破壊株あるいは条件破壊株を、条件破壊株の場合は標的遺伝子の候補遺伝子の発現抑制条件として、完全培地または最少培地あるいはそれらに生育可能な濃度で基準酵素系阻害剤を含有した培地で培養し、同条件で培養した欠失破壊あるいは条件破壊の以前の菌株とマーカー遺伝子の発現量を比較することにより、抗真菌剤の標的遺伝子の機能を推定する工程。
【請求項3】
標的遺伝子の候補遺伝子が該真菌の生育に重要な遺伝子である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
該真菌の生育に重要な遺伝子が、以下のa)〜f)に示されるいずれか1以上該当する遺伝子であって、該真菌に対する致死性遺伝子又は生育障害性遺伝子であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法:
a)近縁の真菌で欠失破壊により致死性または生育条件によって致死性の効果を与える遺伝子のオーソログで、かつ当該真菌のゲノム上にエクストラホモログの存在しない遺伝子;
b)当該真菌への既存の抗真菌剤の添加により特異的に誘導される遺伝子;
c)近縁の真菌で欠失破壊により致死性となる遺伝子のオーソログで、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、マグナポルセ・グリセ(Magnaporthe grisea)、 フサリウム・グラミネラム(Fusarium graminearum)といったゲノムが解読されている糸状菌に共通してオーソログが存在し、ヒト(Homo sapiens)や植物(Arabidopsis thaliana)にはオーソログの無い遺伝子;
d)当該真菌の固体培養で高発現誘導される遺伝子;
e)近縁の真菌のオーソログが欠失破壊により致死の効果を与える遺伝子;及び
f)相同性検索などで機能が予測され、その結果から当該真菌で欠失破壊により致死あるいは生育障害の効果を与えるものと予測される遺伝子。
【請求項5】
マーカー遺伝子が、β−グルクロニダーゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色又は赤色蛍光蛋白質遺伝子、薬剤耐性遺伝子、及び栄養要求遺伝子からなる群から選択されたものである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
プロモーターが、標的遺伝子およびレポーター遺伝子のそれぞれの候補遺伝子の翻訳開始コドンから上流1 kbまでの塩基配列の少なくとも一部からなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
条件破壊が、標的遺伝子の候補遺伝子のプロモーターをthiAプロモーター、alcAプロモーター、tetAプロモーター、又は、niiAプロモーターに置換することによることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
基準酵素系阻害剤が、エネルギー代謝、細胞壁形成、細胞骨格形成を阻害する薬剤から選ばれたものであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
マーカー遺伝子の発現量を、マーカー遺伝子がコードするタンパク質量、あるいはmRNA量、または蛍光強度を測定することにより行うことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法に使用するベクターであって、レポーター遺伝子の候補遺伝子又は選択されたレポーター遺伝子のプロモーターとその下流側にマーカー遺伝子が導入されたベクター。
【請求項11】
請求項10に記載のベクターが真菌に導入されていることを特徴とする、形質転換体。
【請求項12】
真菌の生育に障害を与えるが致死に至らしめない濃度で投与された基準酵素系阻害剤により発現が誘導される真菌の遺伝子、又は他の生物の遺伝子との相同性解析により基準酵素系で機能すると予測される真菌の遺伝子のプロモーター。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−124803(P2010−124803A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305762(P2008−305762)
【出願日】平成20年11月29日(2008.11.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新規抗真菌剤(抗カビ剤)開発のための標的遺伝子知的基盤研究開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】