説明

抗真菌医薬組成物

低温、高温域での保存において、一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩に対して可溶化安定性に優れる製剤を提供する。1)下記一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩と、2)メチルエチルケトン等のケトン類を含有する医薬組成物。前記一般式(1)に表される化合物は、ルリコナゾール(R=R=塩素原子)であることが好ましい。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物に関し、詳細には抗真菌剤として有用な医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ルリコナゾール(一般式(1)においてR=R=塩素原子)に代表される、一般式(1)に表される構造を有する化合物は、優れた抗真菌活性を有しており、これまで外用投与では治療不可能とされてきた爪真菌症の治療にも応用可能性が指摘されている(例えば、特許文献1を参照)。この様な爪真菌症の治療のための製剤としては、一般式(1)に表される化合物の含有量を更に高めることが望まれているが、その結晶性の良さから、かかる化合物を高濃度に含有する製剤を作るために用いることの出来る溶媒はごく限られたものにならざるを得ない状況が存した。即ち、溶媒の種類によっては、5℃等の低温条件で結晶を析出したり、塗布時に結晶を析出するなどの不都合を生じる場合が存した。加えて、ルリコナゾール等の立体異性体を有する一般式(1)に表される構造を有する化合物の溶液においては、SE体等の立体異性体を生じやすい状況が存し、この様な立体異性体が生じるのを防ぐ溶媒としては、クロタミトン、炭酸プロピレン及びN−メチル−2−ピロリドンが知られるのみであった(例えば、特許文献2を参照)。しかしながら、かかる溶媒においても、溶媒が元来持っている抗炎症作用などの薬効によって、配合が制限される場合が存し、これらに代わる新たなルリコナゾール等の製剤用の溶媒の開発が望まれていた。特に、溶液製剤においては、結晶析出などによりその薬理効果は著しく減じられるため、この様な可溶化技術は重要な製剤化の要素となっていた。加えて、Z体のような立体異性体も考慮しなければならない状況も存する。
【0003】
一般式(1)に表される化合物としては、ラノコナゾール(一般式(1)においてR=水素原子、R=塩素原子)も有用な抗真菌剤として存するが、この化合物においても、低温域の使用での結晶析出と高温域での保存による含有量の低下は製造技術上の大きな問題となっていた。
【0004】
他方、メチルエチルケトン等のケトンは可溶化力の優れた溶媒として、広く世の中で使用されている。しかしながら、1)下記一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩と、2)一般式(2)に表されるケトンとを含有する医薬製剤は全く知られていない。
【0005】
【化1】

(但し、式中R、Rはそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子を表し、R、Rの少なくとも一方はハロゲン原子である。)
【0006】
【化2】

(但し、式中R、Rはそれぞれ独立に芳香族基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基又は芳香族基を表し、且つ、RとRの炭素数の和は3以上である。)
【0007】
また、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等のヒドロキシアルキルベンゼンは、難溶性の成分を可溶化する溶媒として、医薬品或いは医薬部外品などの分野において広く使用されていたが(例えば、特許文献3を参照)、上記一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩の可溶化に用いられた例はなく、さらにこのような化合物等と上記一般式(2)に表されるケトンとを含有する医薬製剤において可溶化溶媒として用いられた例もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2007/102241
【特許文献2】WO2007/102242
【特許文献3】特開2006−232856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、低温、高温域での保存において、一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩に対して可溶化安定性に優れる製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、低温、高温域での保存において、一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩の可溶化安定性を高める作用を有する、クロタミトン、炭酸プロピレン、N−メチル−2−ピロリドンを代替可能な製剤成分を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、メチルエチルケトン等の一般式(2)に表されるケトンがそのような特性を有していることを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
【0011】
<1> 1)下記一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩と、2)下記一般式(2)に表されるケトン、とを含有することを特徴とする、医薬組成物。
【0012】
【化3】

(但し、式中R、Rはそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子を表し、R、Rの少なくとも一方はハロゲン原子である。)
【0013】
【化4】

(但し、式中R、Rはそれぞれ独立に芳香族基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基又は芳香族基を表し、且つ、RとRの炭素数の和は3以上である。)
<2> 前記一般式(1)に表される化合物は、R=R=塩素原子であるルリコナゾールであることを特徴とする、<1>に記載の医薬組成物。
<3> 一般式(2)に表されるケトンは、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン又はベンゾフェノンであることを特徴とする、<1>又は<2>に記載の医薬組成物。<4> 更にヒドロキシアルキルベンゼンを含有することを特徴とする、<1>〜<3>何れかに記載の医薬組成物。
<5> 前記ヒドロキシアルキルベンゼンは、ベンジルアルコールであることを特徴とする、<4>に記載の医薬組成物。
<6> 更に、α−ヒドロキシ酸及び/又はリン酸を含有することを特徴とする、<1>〜<5>何れかに記載の医薬組成物。
<7> 爪白癬治療用の薬剤であることを特徴とする、<1>〜<6>何れかに記載の医薬組成物。
<8> 1)下記一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩、2)下記一般式(2)に表されるケトン、3)ヒドロキシアルキルベンゼン、とを含有する医薬組成物の製造方法であって、
ヒドロキシアルキルベンゼンを溶解補助剤として一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩と混合し;
得られた混合物に一般式(2)に表されるケトンを希釈媒として混合することを含む製造方法。
【0014】
【化5】

(但し、式中R、Rはそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子を表し、R、Rの少なくとも一方はハロゲン原子である。)
【0015】
【化6】

(但し、式中R、Rはそれぞれ独立に芳香族基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基又は芳香族基を表し、且つ、RとRの炭素数の和は3以上である。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低温、高温域での保存において、一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩に対して可溶化安定性に優れる製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<1>本発明の医薬組成物の必須成分である一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩
本発明の医薬組成物は、ルリコナゾール、ラノコナゾール等の一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩を含有することを特徴とする。ルリコナゾールは、化学名(R)−(−)−(E)−[4−(2,4−ジクロロフェニル)−1,3−ジチオラン−2−イリデン]-1−イミダゾリルアセトニトリル、ラノコナゾールは、化学名(±)−(E)−[4−(2−クロロフェニル)−1,3−ジチオラン−2−イリデン]-1−イミダゾリルアセトニトリルで表される化合物であり、かかる化合物の製造方法は既に知られている(例えば、特開平09−100279号公報など)。
【0018】
本発明の医薬組成物は、一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩を、医薬組成物全量に対し、通常0.5〜20質量%、好ましくは1〜10質量%を含有することを特徴とする。ルリコナゾール等の一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩は結晶性に優れ、乳酸などのヒドロキシカルボン酸を添加し、結晶化を抑制した状態においても、5℃等、低温下の保存では4質量%以上の含有において結晶を析出する場合が存する。本発明においては、後記メチルエチルケトン等のケトンを含有させた製剤においてこの様な析出を抑制し、さらにヒドロキシアルキルベンゼン及びメチルエチルケトン等のケトンを含有させた製剤の組合せにおいて析出をさらに抑制する。また、立体異性体を有するルリコナゾール等の一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩の場合には、40℃等、高温下の保存では立体異性化により、有効成分の化合物の濃度が減少する場合がある。本
発明においては、後記メチルエチルケトン等のケトンを含有させた製剤においてこの様な立体異性化を抑制する。このような作用により、その生体利用性、特に爪中への移行を高め、爪白癬の治療効果を高めている。通常の足の真菌症や体部の真菌症においては、一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩は1〜5質量%程度の濃度の組成物による処理で十分な効果を奏するが、爪白癬などの爪での真菌症においては5質量%乃至はそれ以上の濃度の一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩を含有する医薬組成物で処置する必要を要する。言い換えれば、爪は組織内への移行が困難な器官であり、有効量が移行するためには、一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩を医薬組成物全量に対し、5質量%以上、より好ましくは6質量%以上の含有量とすることが好ましい。又、低温での結晶析出抑制の点から10質量%以下であることが好ましい。これらを鑑みれば、爪用の医薬組成物としては、6〜10質量%程度が好ましい。
【0019】
上記「その塩」としては、生理的に許容されるものであれば特段の限定はされないが、例えば、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の鉱酸塩;クエン酸塩、蓚酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、酢酸塩等の有機酸塩;メシル酸塩、トシル酸塩等の含硫酸塩等が好適に例示できる。中でも、リン酸塩等の鉱酸塩や、グリコール酸塩、乳酸塩等のα−ヒドロキシ酸塩が特に好ましい。
【0020】
<2>本発明の医薬組成物の必須成分である一般式(2)に表されるケトン
本発明の医薬組成物は、一般式(2)に表されるケトンを必須成分として含有することを特徴とする。一般式(2)に表されるケトンにおいて、R、Rはそれぞれ独立に芳香族基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基又は芳香族基を表し、且つ、RとRの炭素数の和は3以上である。RとRの置換基の炭素数は一般式(1)の化合物を可溶化できる溶剤特性の点から、通常15以下、好ましくは13以下である。
【0021】
芳香族基を有していてもよいアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ベンジル基である。
【0022】
芳香族基を有していてもよいアルケニル基としては、例えば、ブテニル基である。
【0023】
芳香族基としては、例えば、フェニル基である。
【0024】
かかるケトンとして具体的には、例えば、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルプロピルケトン、プロピルブチルケトン又はベンゾフェノンが好ましく例示でき、中でも、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン又はベンゾフェノンが特に好ましい。これは一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩を高濃度に溶解せしめながら、高温保存において立体異性体を形成するのを抑制する作用に優れるためである。かかる一般式(2)に表されるケトンは、通常溶媒として市販されているものを使用すればよく、その1種乃至は2種以上を単独若しくは複合させて用いることが出来る。
【0025】
その好ましい含有量は、医薬組成物全量に対して、総量で5〜99質量%が例示でき、10〜80質量%であることが好ましい。また一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩と、一般式(2)に表されるケトンとの含有量の比(質量比)は、通常1:200〜1:0.1、好ましくは1:150〜1:0.5、より好ましくは1:100〜1:0.6である。
【0026】
一般式(2)に表されるケトンは、一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩、好ましくは塩を後記ヒドロキシアルキルベンゼンで溶媒和させた後、攪拌下徐々に添加し、希釈媒として、一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩を可溶化することが好
ましい。この様な製造法により、より高濃度の製剤を得ることが出来る。
【0027】
<3>本発明の医薬組成物
本発明の医薬組成物は、前記必須成分を含有し、製剤化のための任意成分を含有することを特徴とする。前記製剤化のための任意成分としては、例えば、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール類;イソステアリルアルコール、オレイルアルコールなどの高級アルコール類;ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、グルコノラクトン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、イソプレングリコール、1,2−ペンタンジオール、2,4−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、ポリプロピレングリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール等の多価アルコール類;アセトンなどのケトン類;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸などの非イオン界面活性剤;ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロースなどの増粘剤;セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジプロピル、アジピン酸ジエチルなどの二塩基酸のジエステル類;ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、フェニルプロパノールなどのヒドロキシアルキルベンゼン類;炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の炭酸アルキレン、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と記載する)、クロタミトン等の溶媒;乳酸、グリコール酸、クエン酸等のα−ヒドロキシ酸、リン酸等の鉱酸等の安定化剤;等が好適に例示できる。これらの中では、ヒドロキシアルキルベンゼンが、一般式(2)に表されるケトンとともに働いて、一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩の優れた可溶化作用と立体異性化抑制作用を発揮することから、かかる成分を含有させることが特に好ましい。
【0028】
前記ヒドロキシアルキルベンゼンにおける、アルキル基としては炭素数1〜4のものが好ましく、具体的には、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、フェニルプロパノール等が好適に例示できる。かかる成分は唯一種を含有することもできるし、二種以上を組み合わせて含有することもできる。より好ましいものは、ベンジルアルコール又はフェネチルアルコールであり、特に好ましくはベンジルアルコールである。
【0029】
かかる成分は、医薬組成物全量に対して、総量で1〜99質量%含有されることが好ましく、より好ましくは10〜99質量%である。この様な含有量で含有させることにより、前記一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩の低温域、例えば、5℃付近での低温下での保存において、溶状を安定させ、結晶析出を防ぐ作用を発揮する。又、40℃以上の高温下での保存において、一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩の立体異性化を抑制する作用を奏する。また一般式(2)に表されるケトンと、ヒドロキシアルキルベンゼンとの含有量の比(質量比)は、通常20:1〜1:1、好ましくは15:1〜2:1、より好ましくは10:1〜3:1である。ヒドロキシアルキルベンゼンは、特に低温域での結晶析出を抑制することから、一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩の溶解補助剤として使用することが好ましい。本発明の医薬組成物は、このような溶解補助剤を用いて製造することが好ましく、一般式(1)に表される化合物及び/又は塩、好ましくは塩を、まずヒドロキシアルキルベンゼンで溶媒和させ、希釈媒としてメチルエチルケトン等の一般式(2)に表されるケトンを攪拌下加えて溶解せしめる方法で本発明の医薬組成物を製造することが好ましい。
【0030】
本発明においては、メチルエチルケトン等の一般式(2)に表されるケトン、及びこのようなケトンとベンジルアルコール等のヒドロキシアルキルベンゼンとの組み合わせにより、炭酸プロピレン、NMP、又はクロタミトンの代替手段となりうるので、これらを使用しない製剤化も可能であるが、立体安定性維持効果の技術補完の意味で、これらを使用した製剤も好ましい。また、これらを使用した製剤も本発明の技術範囲に属する。炭酸プ
ロピレン等の炭酸アルキレン、NMP、又はクロタミトンを含有させる場合は、医薬組成物全量に対して、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜15質量含有させることができる。
【0031】
更に、本発明の医薬組成物の安定性と、塗工後の結晶析出の抑制効果を向上させるために、乳酸、グリコール酸、クエン酸等のα−ヒドロキシ酸や、リン酸などの鉱酸等の安定化剤を、医薬組成物全量に対して、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは1〜10質量%含有させることも好ましい。加えて、溶解性・安定性を向上させるために、イソステアリルアルコールのような1気圧25℃で液状を呈する高級アルコールを、好ましくは10〜30質量%、より好ましくは15〜25質量%含有することも好ましい。加えて、溶解性を向上させるために、プロピレングリコールのような多価アルコールを、医薬組成物全量に対して、1〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%含有することも好ましい。
【0032】
これらの必須成分、任意成分を常法に従って処理することにより、本発明の医薬組成物を製造することができる。特に、ヒドロキシアルキルベンゼンを溶解助剤に、一般式(2)に表されるケトンを希釈媒とする製造法が特に好ましく例示できる。このような本発明の医薬組成物の製造方法として具体的には、一般式(1)に表される化合物又はその塩に、ヒドロキシアルキルベンゼンを加えて溶媒和させ、次いで一般式(2)に表されるケトンを加え希釈・可溶化する方法が好ましく例示できる。この様な溶媒和・可溶化作業には30〜90℃の加温を伴うことが好ましい。斯くの如くの操作を行い、さらに常法に従って処理すれば、本発明の外用医薬組成物を得ることができる。
【0033】
本発明の医薬組成物としては、医薬組成物で使用されている剤形であれば特段の限定無く適用することが出来、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、フィルムコーティング剤、散剤、シロップ剤等の経口投与製剤;注射剤、坐剤、吸入剤、塗布剤、貼付剤、エアゾール剤、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等の非経口投与剤などが挙げられる。中でも塗布剤、貼付剤、エアゾール剤、経皮吸収剤等の皮膚外用剤が好ましく例示でき、皮膚外用剤形としては、例えばローション剤、乳液剤、ゲル剤、クリーム剤、エアゾル剤、ネイルエナメル剤、ハイドゲル貼付剤などが好適に例示できる。特に好ましいものはローション剤である。
【0034】
本発明の医薬組成物は、ルリコナゾール等の特性を利用し、真菌による疾病の治療又は悪化の予防に用いることが好ましい。真菌による疾病としては、水虫のような足部白癬症、カンジダ、デンプウのような体部白癬症、爪白癬のようなハードケラチン部分の白癬症が例示でき、その効果が顕著なことから、爪白癬のようなハードケラチン部分の処置に用いることが特に好ましい。本発明の医薬組成物の効果は爪に特に好適に発現されるが、通常の皮膚真菌症にも及ぶので、本発明の構成を充足する皮膚真菌症に対する医薬組成物も本発明の技術的範囲に属する。この様な皮膚真菌症としては、足白癬症や足白癬症の内、かかとなどに現れる角質増殖型の白癬症などが例示できる。上記皮膚真菌症においては、通常の薬剤が効果を奏しにくい角質増殖型の白癬症への適用が本発明の効果が著しく現れるので好ましい。
【0035】
その使用態様は、患者の体重、年令、性別、症状等を考慮して適宜選択できるが、通常成人の場合、一般式(1)に表される化合物及び/又は塩を1日当たり0.01〜1g投与するのが好ましい。また、真菌による疾病に通常使用されている一般式(1)に表される化合物及び/又は塩の使用量を参考にすることができる。
例えば外用剤であれば、一日に一回又は数回、疾病の箇所に適量を塗布することが例示でき、かかる処置は連日行われることが好ましい。特に、爪白癬に対しては、通常の製剤では為し得ない量の有効成分であるルリコナゾール等を、爪内に移行せしめることが出来
る。これにより、長期間抗真菌剤を飲用することなく、外用のみによって爪白癬を治療することが出来る。又、再発や再感染が爪白癬では大きな問題となっているが、本発明の医薬組成物を、症状鎮静後1〜2週間投与することにより、この様な再発や再感染を防ぐことができる。この様な形態で本発明の医薬組成物は予防効果を奏する。
【0036】
上述のとおり、本発明の医薬組成物は、低温、高温域での保存において、一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩に対して可溶化・立体安定性に優れる製剤とすることができる。本発明の医薬組成物は、好ましくは、次の2)、3)の性状を有する製剤とすることができる。また、一般式(1)に表される化合物及び/又は塩が立体異性体を有する場合、次の1)〜3)の性状を有する製剤とすることができる。
1)40℃以上3週間以上の保存条件において、生成する該化合物及び/又はその塩の立体異性体の量は、当初の当該化合物及び/又はその塩の全質量に対して1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下である。
2)60℃に3週間保存した場合に結晶を析出しない。
3)5℃に4週間保存した場合に結晶を析出しない。
【0037】
1)に関しては、例えば、製剤を製造後40℃(例えば40℃、好ましくは60℃)に3週間以上(例えば3週間、好ましくは4週間)保存し、目的の化合物及びその光学異性体を分離できる光学活性な固定相を用いて液体クロマトグラフィーによってそれらを光学分割し、得られたチャートの光学異性体のピークの面積を計算することにより求めることができる。
2)に関しては、例えば、製剤を製造後60℃に3週間保存し、肉眼及び/又は顕微鏡下で観察することにより判定できる。肉眼及び/又は顕微鏡下で結晶の析出を認めない又は顕微鏡下の観察で初めて認める程度の結晶であって、経時的に当該結晶の成長が認められない場合、結晶を析出しないと判定する。(但し、以後、この様な状態を「僅かに結晶析出を認める」と記することもある。)
3)に関しては、例えば、製剤を製造後5℃に4週間保存し、肉眼及び/又は顕微鏡下で観察することにより判定できる。肉眼及び/又は顕微鏡下で結晶の析出を認めない又は顕微鏡下の観察で初めて認める程度の結晶であって、経時的に当該結晶の成長が認められない場合、結晶を析出しないと判定する。(但し、以後、この様な状態を「僅かに結晶析出を認める」と記することもある。)
【0038】
斯くして得られる本発明の医薬組成物は、高濃度の一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩を含有しながら、透明の性状を長期間維持する作用に優れる。又、外用剤の場合、塗布後に結晶が析出するのを抑制しているが故に、該結晶により、臓器への化合物の配向、移行が阻害されることが抑制される。これにより優れた生物利用性を有することとなる。又、爪のような薬剤配向性の低い臓器にも十分な量が配向するので、爪用の外用医薬組成物として好適である。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例を挙げて、本発明について、更に詳細に説明を加える。
【0040】
<実施例1>
以下に示す処方に従って、本発明の医薬組成物1を製造した。即ち、処方成分を90℃で加熱、攪拌し可溶化し、攪拌冷却し、本発明の医薬組成物1を製造した。同様に処置して、比較例1〜4も作成した。これらを40℃で1ヶ月保存し、下記高速液体クロマトグラフィー条件で、生成したルリコナゾールの立体異性体であるSE体の量を定量した。結果を表1に示す。これより、一般式(2)に表されるケトンであるメチルエチルケトンは、40℃で1ヶ月保存の立体安定化に関して、炭酸プロピレンやN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、クロタミトン、DMSOと同様の作用を有することが判る。
【0041】
なお、ルリコナゾールの立体異性体であるSE体及びZ体の構造を以下に示す。
【0042】
【化7】

【0043】
【化8】

【0044】
<高速液体クロマトグラフィー条件>
HPLC:島津製作所製 LC-20AD
HPLC条件:カラム;CHIRALCEL OD-RH 4.6×150mm、
カラム温度;35℃、
移動相;メタノール/1.8%ヘキサフルオロリン酸カリウム水溶液の混液(83:17、v/v)、
流速;0.56mL/min.、
検知;295nm
【0045】
【表1】

【0046】
<参考例1>
以下に示す処方に従って、実施例1と同様に、参考例の医薬組成物1と比較例1〜4を作成し、60℃で1ヶ月の保存試験を行い、SE体量を定量した。これより、ベンジルアルコールは、60℃で1ヶ月保存の立体安定化に関して、炭酸プロピレンやNMP、クロタミトンと同様の作用を有することが判る。
【0047】
【表2】

【0048】
<実施例2>
以下に示す処方に従って、実施例1と同様に、本発明の医薬組成物2と比較例5とを作成し、60℃1ヶ月の保存試験を行い、SE体の生成量を計測した。これより、一般式(2)に表されるケトンであるメチルエチルケトンは、エタノールを希釈媒とした場合でも、60℃で1ヶ月保存の立体安定化に関して、炭酸プロピレンやNMP、クロタミトンと同様の作用を有することが判る。また、エタノールを溶媒に用いた場合には、メチルエチルケトンのみを溶媒としたときよりも立体安定化効果が低下することも判る。
【0049】
【表3】

【0050】
<実施例3〜10>
下記に示す表4の処方に従って、本発明の組成物3〜10を作成した。又比較例6として、一般式(2)に表されるケトンに代えてジアセチルを用いたものも作成した。ルリコナゾールをベンジルアルコールと混和し、これに一般式(2)に表されるケトンを加え、90℃で加熱し更に溶解した後、残りの成分を順次加えて、攪拌可溶化し、可溶化を確認した後、攪拌冷却し、医薬組成物を得た。又、上記HPLC条件を用いて、SE体を定量するとともに、Z体も定量した。結果を表4に示す。これより本発明の医薬組成物は高濃度製剤の調整を可能にならしめると同時に、一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩の立体構造及び溶解性を安定化する作用を有することが判る。又、このデータより、ケトンを含有させる場合には、ベンジルアルコールとの併用が可溶化においても、立体安定化においても好ましいことも判る。かかる組み合わせは、溶媒にエタノールを用いた場合にも優れた立体安定効果を奏することもわかる。この効果は、ルリコナゾールが高濃度であるほど顕著であり、ルリコナゾールの濃度は4質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることが特に好ましいことが分かる。
【0051】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は医薬組成物に応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)下記一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩と、
2)下記一般式(2)に表されるケトン、とを含有することを特徴とする、医薬組成物。
【化1】

(但し、式中R、Rはそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子を表し、R、Rの少なくとも一方はハロゲン原子である。)
【化2】

(但し、式中R、Rはそれぞれ独立に、芳香族基を有していてもよいアルキル基若しくはアルケニル基、又は芳香族基を表し、且つ、RとRの炭素数の和は3以上である。)
【請求項2】
前記一般式(1)に表される化合物は、R及びRが塩素原子であるルリコナゾールであることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
一般式(2)に表されるケトンは、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン又はベンゾフェノンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
更にヒドロキシアルキルベンゼンを含有することを特徴とする、請求項1〜3何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ヒドロキシアルキルベンゼンは、ベンジルアルコールであることを特徴とする、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
更に、α−ヒドロキシ酸及び/又はリン酸を含有することを特徴とする、請求項1〜5何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
爪白癬治療用の薬剤であることを特徴とする、請求項1〜6何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
1)下記一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩、
2)下記一般式(2)に表されるケトン、
3)ヒドロキシアルキルベンゼン、とを含有する医薬組成物の製造方法であって、
ヒドロキシアルキルベンゼンを溶解補助剤として一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩と混合し;
得られた混合物に一般式(2)に表されるケトンを希釈媒として混合することを含む製造方法。
【化3】

(但し、式中R、Rはそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子を表し、R、Rの少なくとも一方はハロゲン原子である。)
【化4】

(但し、式中R、Rはそれぞれ独立に、芳香族基を有していてもよいアルキル基若しくはアルケニル基、又は芳香族基を表し、且つ、RとRの炭素数の和は3以上である。)

【公表番号】特表2013−503108(P2013−503108A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507741(P2012−507741)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際出願番号】PCT/JP2010/063230
【国際公開番号】WO2011/024620
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(507029007)株式会社ポーラファルマ (7)
【出願人】(000232623)日本農薬株式会社 (97)
【Fターム(参考)】