説明

抗精神疲労剤

【課題】日常的な摂取が可能であり、なおかつ摂取することで、精神的ストレスを緩和し、リラックスすることにより、有効な抗精神疲労剤、及び、この機能を配合した飲食品及び飼料を提供すること。
【解決手段】鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする抗精神疲労剤、それを配合した飲食品及び飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口摂取することにより精神的なストレスを緩和する、あるいはリラックス効果をもたらすことが可能となる抗精神疲労剤に関する。本発明の抗精神疲労剤は、鉄結合型ラクトフェリンを有効成分として含有することを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
現在、外部から強い精神的なストレスを受ける社会環境の中で人々は暮らしている。精神的なストレスは、運動競技や各種試験等の個人の成果が求められる場面、対人関係等のコミュニケーションが必要とされる場面、または生理中や更年期等、老若男女を問わずあらゆる階層の人々に密接に結びついている。それらの精神的なストレスを緩和するための方法は、現代社会の大きな課題であり、これまでに多数提案されてきた。精神的なストレスの対処法の一つとして、メンタルトレーニングやマインドコントロール等の種々のトレーニング法があるが、それらを習得するには膨大な時間と資金が必要である。
【0003】
各人の持つ最大能力を発揮させ、それを持続させる目的で中枢神経系を興奮させる、または交感神経系を刺激する薬物も知られている。例えば、アンフェタミン関連化合物、カフェイン、コカイン、エフェドリンといった興奮剤、モルヒネといった麻薬性鎮痛剤や各種ホルモン及びその類似化合物等がある。
また、精神的疲労を緩和するために精神安定剤や抗不安剤、睡眠薬等の化学合成薬剤が用いられることも開示されている。
【0004】
心身をリラックス状態に導き、精神的なストレスを低減する効果を有する食品として、GABA、リジン及びアルギニン、テアニン及びハーブ等が報告されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0005】
また、水生動物の抗ストレス剤に含まれる免疫刺激剤の1種として、ラクトフェリンが(例えば、特許文献4参照)、更に、ラクトフェリンを有効成分として含む陸生動物の抗ストレス剤(例えば、特許文献5参照)及び抗疲労剤(例えば、特許文献6参照)が開示されている。
ラクトフェリンの抗ストレス効果については、成熟ラットを用いて検討されており(例えば、非特許文献1参照)、腹腔内投与したラクトフェリンが体内に移行し、直接的に(もしくはサイトカインを介して)脳内に存在する一酸化窒素の産生を促し、モルヒネ様オピオイドの情報伝達を亢進し、その結果、大脳皮質に伝わるストレスにより脳下垂体中葉を経由して分泌されるストレスホルモンの分泌が抑制され、ストレス低減効果が推察されている。一方、ラクトフェリンは、オピオイド受容体に結合しないことが分かっているため、外因性オピオイドである麻薬のように依存性に陥る危険はない。そこで、鎮痛剤と副作用のない腸溶性ラクトフェリンの併用の開発も進められており、月経前のイライラ感や月経痛の軽減に効果があるとされている。また、関節炎や骨接合部位の疾患に伴う第一相の痛み及び第二相の痛みを含む痛みに対する有効性も開示されている(例えば、特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−252755号公報
【特許文献2】WO2005/070408号公報
【特許文献3】特開2005−232045号公報
【特許文献4】特表平11−514973号公報
【特許文献5】特開2001−354583号公報
【特許文献6】特開2007−22989号公報
【特許文献7】特開2008−44879号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ブレイン・リサーチ(Brain Res.),68巻,102頁,2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、アンフェタミン関連化合物、カフェイン、コカイン、エフェドリンといった興奮剤、モルヒネといった麻薬性鎮痛剤や各種ホルモン及びその類似化合物等は何れも重篤な副作用があり、ドーピング剤として使用が禁止されている。
また、精神的疲労を緩和するために精神安定剤や抗不安剤、睡眠薬等の化学合成薬剤は、副作用や習慣性の面で日常的・長期的に服用することに問題がある。また医師の処方が必要であり手軽に利用することができず、食品へ応用することも不可能である。
特許文献1、2、3に報告されているGABA、リジン及びアルギニン、テアニン及びハーブ等の食品は、独特な香りや風味が強いため、これらを使用できる飲食品等が限定される。また、製造方法が煩雑であることやコストが高い等の問題点が認められる。
特許文献4では、水生動物の抗ストレス剤に含まれる免疫刺激剤(30種類以上挙げられている)の1つとしてラクトフェリンが報告されているが、淡水及び塩水の水生動物、特に魚、エビ及び無脊椎動物の適用に関するものであり、ヒト等の陸生動物にそのまま適用することは難しい。
特許文献5及び6では、何れも運動に起因するストレスに対するものであり、精神的負荷に起因するストレスについての効果ではない。運動に起因するストレスと精神的負荷に起因するストレスとでは、それぞれ別の脳機構を介して伝達されることが報告されており、同様に適用させることは難しい。また、生理効果を発揮するラクトフェリンの有効量は非常に高く、飲食品及び飼料への汎用性やコスト面でも問題がある。
特許文献7、非特許文献1では、ラクトフェリンの精神的ストレスの緩和効果について報告されているが、いずれも疼痛や痛みにより生じる精神的負荷に限定されている。また、胃液によるラクトフェリンの分解を回避するため、成熟ラットを用いた実験においては直接腹腔内に投与、もしくは腸溶性に加工する等の方法を用いている。この場合、ヒトを対象に腹腔内投与することは不可能であること、腸溶性に加工することにより飲食品及び飼料へ応用が困難であることが問題となる。また、本発明は日常生活レベル及び知的作業に由来するストレスに特に有効であり、メカニズムも異なると考える。
従って、本発明は、ヒト等の陸生成物において日常的な摂取が可能であり、なおかつ摂取することで、精神的負荷に起因するストレスを緩和し、リラックスするために有効な抗精神疲労剤、及び、この機能を賦与した飲食品及び飼料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を進めてきたところ、鉄結合型ラクトフェリンを経口摂取することでリラックス効果を示し、精神的ストレスを負荷した場合の精神疲労を低減することを見出した。鉄結合型ラクトフェリンは、ラクトフェリン1分子あたり鉄3〜200分子を結合させることにより、耐熱性・耐消化性の向上を図ったものである。鉄結合型ラクトフェリンは、ラクトフェリンと比較して体内における安定性が高いことから、腸溶性などに加工する必要がなく、少ない量で効果を発揮することができる。また、溶解性及び保存安定性に優れ、幅広い用途特性を有することから、飲食品や飼料へ応用することもでき、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明に係る抗精神疲労剤の好ましい態様は以下の通りである。
(1)鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする抗精神疲労剤。
(2)鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする経口用抗精神疲労剤。
(3)(1)又は(2)に記載の抗精神疲労剤を配合した飲食品。
(4)(1)又は(2)に記載の抗精神疲労剤を配合した飼料。
【発明の効果】
【0011】
本発明の鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする抗精神疲労剤、及び鉄結合型ラクトフェリンを配合した飲食品及び飼料は、精神的ストレスを緩和するために有効である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】リラックス状態を示すα波の発現量の変化率を示した説明図である。(試験例1)
【図2】緊張状態を示すβ波発現量を示した説明図である。(試験例2)
【図3】リラックス状態を示すα波の発現量を示した説明図である。(試験例2)
【図4】疲労マーカーの一つである唾液中のクロモグラニンAの濃度を示した説明図である。(試験例2)
【図5】POMSにより数値化した「緊張−不安」、「抑うつ−落込み」、「怒り−敵意」、「活気」、「疲労」及び「混乱」のスコアを示した説明図である。(試験例2)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
ラクトフェリン類は、通常1分子当たり2原子の鉄をキレート結合する能力を有しており、これはラクトフェリン類1g当たり鉄1.4mgを保持することに相当する。それに対して、本発明で用いる鉄結合型ラクトフェリンは、ラクトフェリン類1分子当たり少なくとも3原子の鉄を、好ましくは3〜200原子の鉄を安定に保持できるようにしたものである。このような鉄結合型ラクトフェリンとすることにより、多量の鉄をラクトフェリン類に保持させることができる。
このような鉄結合型ラクトフェリンは従来より知られており、例えば、ラクトフェリンを水に溶解し、これに鉄化合物を添加してラクトフェリン類と鉄とを反応させて溶液中の鉄を非遊離状態にして得られる鉄−ラクトフェリン(特開平4−141067号公報)、ラクトフェリン溶液に鉄塩を添加し、アルカリを加えて溶液のpHを上げて得られる鉄を安定に保持するラクトフェリン粉末(特開平7−17875号公報)、ラクトフェリンのアミノ基に重炭酸イオンを介して鉄が結合した耐熱性鉄−ラクトフェリン結合体(特開平6−239900号公報)、あるいは、炭酸及び/または重炭酸とラクトフェリンとを含む溶液に鉄を含有する溶液を混合して得られる鉄−ラクトフェリン複合体(特開平7−304798号公報)等を例示することができる。また、鉄−ラクトフェリン分解物も用いることができる。
【0014】
鉄結合型ラクトフェリンは、これらいずれの鉄結合型ラクトフェリンであっても良い。鉄結合型ラクトフェリンとは、鉄とラクトフェリンとが結合した状態のものであって、鉄とラクトフェリンが結合しているか、あるいは他の物質を介して鉄とラクトフェリンが結合しているものであって、いわゆる、鉄がイオン状態で存在していないものであれば良い。特に前記の「鉄−ラクトフェリン結合体」または「鉄−ラクトフェリン複合体」であることが望ましい。これらの鉄結合型ラクトフェリンは、鉄の収斂味や金属味等が全くないという特徴も有しているので、風味上の問題もない。
【0015】
鉄結合型ラクトフェリンを製造する際に、原料として使用できるラクトフェリン類としては、哺乳類の乳等の分泌液から分離されるラクトフェリンを例示することができる。乳由来の天然成分であり、摂取した場合の安全性が高く、食経験も長いため長期間連続摂取しても副作用を示さないことが明らかである。従って、経口による摂取が適宜可能である。
さらに、血液や臓器等から分離されるトランスフェリンや卵等から分離されるオボトランスフェリン等もラクトフェリンと同様に使用することができる。これらのラクトフェリン類については、既に大量に調製する方法がいくつも知られており、どのような方法で調製されたラクトフェリン類でもよい。また、ラクトフェリン類は、完全に単離されている必要はなく、他の成分が含まれていても構わない。さらに、微生物、動物細胞、トランスジェニック動物等から遺伝子操作により産生されたラクトフェリン類も使用することが可能である。そして、ラクトフェリン類をトリプシン、ペプシン、キモトリプシン等の蛋白分解酵素により、或いは、酸やアルカリにより分解したラクトフェリン類分解物もラクトフェリン類として使用することができる。
【0016】
また、鉄結合型ラクトフェリンを製造する際に原料として使用できる鉄としては、硫酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、クエン酸鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄、塩化第二鉄、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄等を例示することができる。
【0017】
抗精神疲労剤には、鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とするものであるが、他の栄養成分、例えばカルシウム、マグネシウム、ビタミンD、ビタミンK、各種オリゴ糖等を併せて配合しても構わない。
また、そのままあるいは必要に応じて他の公知の添加剤、例えば賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、可塑剤等を混合して、常法により顆粒剤、散剤、カプセル剤、錠剤、ドライシロップ剤、液剤等の経口製剤とすることができる。賦形剤としては、例えばマンニトール、キシリトール、チルセルロースナトリウム、リン酸水素カルシウム、小麦デンプン、米デンプン、トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、デキストリン、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、カルボキシビニルポリマー、軽質無水ケイ酸、酸化チタン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。ドリンク剤の場合、必要に応じて他の生理活性成分、ミネラル、ビタミン、栄養成分、香料等を混合することにより、嗜好性を持たせることもできる。
【0018】
鉄結合型ラクトフェリンは、調製した直後の状態である液状のまま用いることもできるし、更に、凍結乾燥や噴霧乾燥等によって乾燥を行い粉末化したものも配合することができる。
【0019】
なお、抗精神疲労効果とは、鉄結合型ラクトフェリンの摂取により、緊張度、抑うつ度、怒り、疲労度、混乱度の上昇及び活気度の低下を抑制する、あるいは脳波の中でリラックス状態を示すα波の発現量の変化率を上昇させる、緊張状態を示すβ波の発現量の変化率を減少させること等をいう。また、精神的なストレスを負荷した場合に、前記に関する項目の改善効果を示す場合も含む。
精神的なストレスの原因としては、精神的な緊張、反復作業、知的労働、月経前の精神的不安定及び緊張、イライラ感からなる群等が挙げられるが、特に限定されるものではなく、精神的にストレスと感じるものを含む。
【0020】
また、上述のようにして得られる鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする飲食品であるが、飲食品としてはどのような飲食品でも良く、鉄結合型ラクトフェリン自体であっても良いし、鉄結合型ラクトフェリン自体を配合した飲食品としても良い。鉄結合型ラクトフェリンは、喫食時にどのような飲食品に添加しても良く、飲食品の製造工程中に製品の原料に配合しても良い。飲食品の例として、チーズ、バター、発酵乳等の乳食品、ドリンクヨーグルト、コーヒー飲料、果汁等の飲料、ゼリー、プリン、クッキー、ビスケット、ウエハース等の菓子、更には、冷凍食品等の飲食品を挙げることができる。
なお、本発明品は鉄を含んでいるため、鉄を補助的に摂取することができる。すなわち、鉄強化を目的とした飲食品の場合、鉄の酸化促進作用や風味への影響が問題となるが、本発明品により、飲食品に配合しにくい鉄も同時に摂取することができる。
【0021】
さらに、上述のようにして得られる鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする抗精神疲労用飼料である。家畜用飼料として、前記飲食品と同様に、どのような飼料に配合しても良く、その製造工程中に原料に添加しても良い。
【0022】
抗精神疲労効果を発揮させるためには、体重、性別や年齢等を考慮して適宜決定すればよいが、通常成人の場合、鉄結合型ラクトフェリンを一日当たり、10〜6,000mg、好ましくは100〜2,000mg、更に好ましくは150〜1,000mg更に好ましくは200〜900mg摂取できるよう配合量等を調整すればよい。このように低用量でも効果が認められる。本発明の抗精神疲労作用を有する成分は、抗精神疲労剤として、あるいはそれらを配合した飲食品、飼料を経口摂取することによって、抗精神疲労作用を発揮する。
本発明の抗精神疲労剤として使用する鉄結合型ラクトフェリンは、安全性に何ら問題はなく、無味無臭であり、実用上極めて利用価値が高い。更に鉄結合型ラクトフェリンは粉末で提供することが可能であり、耐消化性、耐熱性、溶解性に優れているため、多くの飲食品に応用することができ、生活における様々なシーンにおいて活用可能である。よって、本発明により、抗精神疲労剤並びにそれを含有してなる飲食品及び飼料を幅広く提供することにより、ストレス社会における本発明の社会的貢献度は非常に大きい。
【0023】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
(鉄結合型ラクトフェリンの調製1)
ラクトフェリン(TATUA社製)90g、塩化第二鉄6水和物20g、重炭酸ナトリウム5gを水10リットルに溶解し、鉄結合型ラクトフェリンを含む溶液を調製した。この溶液を分子量5,000カットの限外濾過膜で脱塩及び濃縮した後、水を加えて容量10リットルの鉄結合型ラクトフェリン溶液とした。
本溶液を凍結乾燥した後、鉄結合型ラクトフェリン凍結乾燥物の鉄含量を測定した結果、ラクトフェリン1分子あたり鉄を70原子含んでいたことから、本凍結乾燥物を鉄結合型ラクトフェリン(70FeLF)粉末とした。これは、そのまま本発明の抗精神疲労剤として使用し得るものであった。
【0025】
[試験例1]
(鉄結合型ラクトフェリンを摂取した場合のリラックス効果)
本試験は、鉄結合型ラクトフェリンを摂取した場合のリラックス効果を調べるために行った。実施例1で得られた鉄結合型ラクトフェリンを摂取した際の脳波を測定した。
(被験者)
18歳以上の健常者45名を対象に対照食を摂取する試験と、実施例1で得られた鉄結合型ラクトフェリン(70FeLF)食を摂取する試験をそれぞれ実施した。
(方法)
被験者は、外部から遮断された室内(26℃)にて安静状態を保った後、FM515A(フューテックエレクトロニクス社製)によりリラックス状態を示す脳波であるα波を3分間測定した。その結果をパルラックスII(フューテックエレクトロニクス社製)により解析した。対照食もしくは鉄結合型ラクトフェリン食を摂取した後、消化及び吸収のために摂取後15分間ほど安静状態を保ち、再度脳波を測定し、解析した。また、対照食と鉄結合型ラクトフェリン食の組成は、表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
脳波発現量は、3分間の測定時間中1秒ごとに測定されるα及びβ波の数値を積算した測定値であり、単位はμVである。
対照食もしくは鉄結合型ラクトフェリン食の摂取前の脳波発現量と、摂取直後の脳波発現量を比較して得られた脳波発現量の変化率を図1に示した。対照食を摂取した群は、リラックス状態を示すα波に変化は認められなかったが、鉄結合型ラクトフェリンを摂取した群は、摂取前と比較して有意に上昇した。このことより、鉄結合型ラクトフェリンは、摂取することによりリラックス効果をもたらすことが明らかとなった。
【0028】
[試験例2]
(鉄結合型ラクトフェリンを摂取した場合の抗精神疲労効果)
本試験は、鉄結合型ラクトフェリンを摂取した場合の抗精神疲労効果を調べるために行った。実施例1で得られた鉄結合型ラクトフェリンを摂取した後、精神ストレス負荷をかけ、精神疲労の低減効果を調べるため、脳波及び唾液中の疲労マーカーの測定、心理的評価を実施した。
(被験者)
18歳以上の健常な者のうち、精神ストレス負荷により疲労感を得やすい被験者24名を選抜した。なお、疲労感を得やすいとは、ストレス負荷により、POMSの疲労のスコアが上昇した者をいう。これら全員に対照食を摂取する試験と、実施例1で得られた鉄結合型ラクトフェリン(70FeLF)食を摂取する試験とを、それぞれ実施した。
(方法)
被験者は、外部から遮断された室内(26℃)にて安静状態を保った後、FM515A(フューテックエレクトロニクス社製)によりリラックス状態を示す脳波であるα波と緊張状態を示す脳波であるβ波を測定した。また、唾液を採取し、精神的なストレスを負荷した時にのみ即時的に上昇する疲労マーカーであるクロモグラニンA、急性ストレスを受けた場合に上昇し、精神的なストレス負荷による免疫力低下を定量するための指標である分泌型IgAをそれぞれ測定した。一時的な気分を評価するために、日本版簡易型POMS(Plofile of Mood States金子書房社製)を実施し、緊張、抑うつ、怒り、疲労、混乱及び活気をスコア化した。POMSは、質問紙を用いて、その時点での気分を客観的に評価する質問方法の一つであり、国際的に権威ある気分評価尺度である。
対照食もしくは鉄結合型ラクトフェリン食を摂取した後、消化及び吸収のために15分間ほど安静状態を保ち、その後、単純な知的作業であるクレペリンテストにより精神的なストレスを負荷し、直後に脳波及び唾液中の疲労マーカーの測定、POMSを実施した。なお、脳波の解析はパルラックスII(フューテックエレクトロニクス社製)により実施した。対照食と鉄結合型ラクトフェリン食の組成は表1に示したものと同様であった。
【0029】
対照食もしくは鉄結合型ラクトフェリン食の摂取前及びストレス負荷後の脳波発現量を図2、3に示した。対照食を摂取した群では、ストレス負荷後に緊張状態を示すβ波が有意に上昇し(図2)、リラックス状態を示すα波が有意に減少した(図3)。一方、鉄結合型ラクトフェリン食を摂取した群では、ストレス負荷によるβ波の上昇およびα波の減少が認められなかった(図2及び図3)。
【0030】
唾液中のクロモグラニンA濃度を図4に示した。対照食を摂取した群は、摂取前と比較して上昇傾向が認められた。一方、鉄結合型ラクトフェリン食を摂取した群は、変化を示さなかった。
【0031】
心理的評価のためPOMSにより数値化した、緊張−不安、抑うつ−落込み、怒り−敵意、活気、疲労及び混乱のストレス負荷後のスコアを図5に示した。緊張−不安、怒り−敵意、疲労、混乱については、対照食を摂取した群と比較して鉄結合型ラクトフェリン食を摂取した群において有意に減少した。
これらの結果から、鉄結合型ラクトフェリンは、精神ストレスによる疲労を軽減し、気分や感情を改善する効果があることが明らかとなった。
【実施例2】
【0032】
(鉄結合型ラクトフェリンの調製2)
水2リットルに重炭酸ナトリウム400gを添加し、撹拌機で撹拌して調製した重炭酸ナトリウム過飽和溶液中に、水8リットルに市販のラクトフェリン(DMV社製)90gと塩化第二鉄6水和物60gを溶解した溶液を撹拌しながら添加し、鉄結合型ラクトフェリンを含む溶液を調製した。この溶液を分子量5,000カットの限外濾過膜で脱塩及び濃縮した後、水を加えて容量10リットルの鉄結合型ラクトフェリン溶液とした。本溶液を凍結乾燥した後、鉄含量を測定したところ、ラクトフェリン1分子当たりに鉄を200原子含んでいたことから、本凍結乾燥物を鉄結合型ラクトフェリン(200FeLF)粉末とした。これはそのまま抗精神疲労剤として使用し得るものであった。
なお、本抗精神疲労剤を用いて試験例1、2と同様の試験を行った結果、精神ストレスによる疲労を軽減する効果が認められた。
【実施例3】
【0033】
実施例1で調製した鉄結合型ラクトフェリン粉末とカルシウムとを配合し、タブレットを製造した。すなわち、炭酸カルシウム20%、鉄結合型ラクトフェリン粉末10%、マルトース40%、エリスリトール16%、ソルビトール2%、香料4%、甘味料 0.5%、賦形剤5%、滑択剤 2.5%の組成で原料を混合し、常法により打錠し、抗精神疲労用タブレットを製造した。
なお、本抗精神疲労用タブレットを用いて試験例1、2と同様の試験を行った結果、精神ストレスによる疲労を軽減する効果が認められた。
【実施例4】
【0034】
実施例2で調製した鉄結合型ラクトフェリンを配合した清涼飲料水を調製した。すなわち、組成が鉄結合型ラクトフェリン粉末0.1%、50%乳酸溶液0.12%、マルチトール 7.5%、香料 0.2%、水 92.08%である原料を混合し、プレート殺菌機を用いて90℃、15秒間殺菌し、抗精神疲労用清涼飲料水を製造した。
なお、本抗精神疲用清涼飲料水を用いて試験例1、2と同様の試験を行った結果、精神ストレスによる疲労を軽減する効果が認められた。
【実施例5】
【0035】
実施例1で調製した鉄結合型ラクトフェリンを、鉄含量が3mg/100gとなるように生乳に配合し、150kgf/cmで均質処理を行い、プレート殺菌機を用いて 130℃、2秒間殺菌し、抗精神疲労用乳飲料を製造した。
なお、本抗精神疲労用乳飲料を用いて試験例1、2と同様の試験を行った結果、精神ストレスによる疲労を軽減する効果が認められた。
【実施例6】
【0036】
実施例2で調製した鉄結合型ラクトフェリン粉末とカルシウムとを配合したタブレットを製造した。すなわち、炭酸カルシウム20%、鉄結合型ラクトフェリン粉末10%、マルトース40%、エリスリトール16%、ソルビトール2%、香料4%、甘味料 0.5%、賦形剤5%、滑択剤 2.5%の組成で原料を混合し、常法により打錠し、抗精神疲労用タブレットを製造した。
なお、本抗精神疲労用タブレットを用いて試験例1、2と同様の試験を行った結果、精神ストレスによる疲労を軽減する効果が認められた。
【実施例7】
【0037】
(イヌ飼育用飼料の製造)
実施例1で調製した鉄結合型ラクトフェリン粉末を60メッシュのフルイで整粒化し、鉄結合型ラクトフェリン粉末を調製した。表2に示した原料を配合し、本発明の抗精神疲労用イヌ飼育用飼料を製造した。
なお、本抗精神疲労用イヌ飼育用飼料を用いて試験例1、2と同様の試験を行った結果、精神ストレスによる疲労を軽減する効果が認められた。
【0038】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする抗精神疲労剤、及び鉄結合型ラクトフェリンを配合した飲食品及び飼料は、精神的ストレスを緩和するために有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする抗精神疲労剤。
【請求項2】
鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする経口用抗精神疲労剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の抗精神疲労剤を配合した飲食品。
【請求項4】
請求項1又は2記載の抗精神疲労剤を配合した飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−248147(P2010−248147A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101017(P2009−101017)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】