説明

抗糖尿病化合物のスクリーニング方法

本発明は、糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として適する化合物を同定する方法に関連し、前記方法は、(a)タンパク質が(i)SEQ ID NO: 1から29のいずれか一つのアミノ酸配列を含むか、あるいは前記アミノ酸配列からなるもの;(ii)SEQ ID NO: 59から87のいずれか一つの配列を含むか、あるいは前記配列からなる、核酸分子によりコードされるもの;(iii)(i)または(ii)に従うタンパク質のフラグメントであり、かつEph受容体チロシンキナーゼ活性を示すもの;(iv)(i)または(ii)に従うタンパク質、または(iii)に従うフラグメントと、少なくとも75%同一な配列を有し、かつEph受容体チロシンキナーゼ活性を示すもの;であるものを含む細胞と、試験化合物とを接触させる段階;および(b)前記試験化合物が、段階(a)における接触に際して、前記タンパク質のEph受容体チロシンキナーゼ活性を阻害するかどうかを決定する段階;とを含み、ここで前記阻害は、糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として、化合物が適することを示す、前記方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として適する化合物を同定する方法に関連し、前記方法は、(a)タンパク質が(i)SEQ ID NO: 1から29のいずれか一つのアミノ酸配列を含むか、あるいは前記アミノ酸配列からなるもの;(ii)SEQ ID NO: 59から87のいずれか一つの配列を含むか、あるいは前記配列からなる、核酸分子によりコードされるもの;(iii)(i)または(ii)に従うタンパク質のフラグメントであり、かつEph受容体チロシンキナーゼ活性を示すもの;または(iv)(i)または(ii)に従うタンパク質、または(iii)に従うフラグメントと、少なくとも75%同一な配列を有し、かつEph受容体チロシンキナーゼ活性を示すもの;であるものを含む細胞と、試験化合物とを接触させる段階;および(b)前記試験化合物が、段階(a)における接触に際して、前記タンパク質のEph受容体チロシンキナーゼ活性を阻害するかどうかを決定する段階;とを含み、ここで前記阻害は、糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として、化合物が適することを示す、前記方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書を通して、いくつかの文書が引用される。これらの文書(すべての製品説明書および製造者による使用説明書を含む)の開示内容は、本明細書において参照として援用される。
【0003】
II型糖尿病の治療は、過去数年間にわたってその世界的な罹患率が劇的に増加していること、およびさらなる増加が予想されることから、近い将来において大きな課題となるだろう。さらに、この疾患の病因となる原理が複雑であり、そして十分に理解されていないという事実から、複数の治療を使用することが必要とされる。II型糖尿病を罹患する患者の数は、世界中で、今後15〜20年以内に現在の1億9000万人から3億5000万人以上へと増加することが予想されるという推定のため、効果的な治療法の差し迫った必要性がある。この増加は、世界的な人口増加、高齢化、都市化の促進、および肥満の増加を含む、多数の因子により引き起こされることが予想される。前述した病態生理学的な複雑性のため、II型糖尿病は、治療的介入が複雑かつ困難な、不均一な疾患となっている。肥満者率の上昇は、その集団内のインスリン抵抗性の増加と密接な関係があるようである。従って、インスリン感受性の改善が、治療における有望なアプローチであると考えられる。しかしながら、インスリン感受性の低下に加えて、ベータ細胞の機能障害もまた、II型糖尿病の病因に関与しているらしい。グルコース調節機能の低下は、インスリンの分泌および作用の両方の欠陥と関連することが示されてきた。これらの発見を考慮すると、グルコースを介するインスリン分泌を改善することができる治療薬の使用が望ましい。現在のところ、スルホニル尿素が第一選択単独療法とみなされてきた。また、50年以上前に見いだされていたが、その他の経口抗糖尿病薬との組み合わせも、世界的に、糖尿病の薬物治療の多数のガイドラインによって示される(PratoとPulizzi (2006) Metabolism 55,20)。グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)およびジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害薬などのインクレチンは、副作用のより少ないII型糖尿病の代替治療法として、現在開発されている(DruckerとNauck (2006) Lancet 368, 1696)。
【0004】
前述の内容から明らかなように、適切なインスリン分泌は血糖に対応する生体の能力において、極めて重要である。インスリンは、血糖を低下させる唯一のホルモンであり、そしてランゲルハンス島の膵ベータ細胞より分泌される。合成された後、そのホルモンは生物学的活性型に変換され、そして放出に備えて小胞内に蓄積される。インスリン分泌が必要になった場合、ホルモンは、小胞といくつかのタンパク質との相互作用が関わる複雑なプロセスを介して放出される(RorsmanとRenstrom (2003) Diabetologia 46, 1029)。
【0005】
このように、膵島は、グルコースホメオスタシスを維持するために厳密に必要であり、そしてグルコースに応答して適切なそれらのインスリン分泌能力の欠陥は、糖尿病を引き起こす(BellとPolonsky (2001) Nature 414, 788)。
【0006】
胚発生期に、ベータ細胞は、まず散在性の単一の細胞(scattered single cells)として発生する(Lammertら、 (2001) Science 294,564)。しかしながら、それらは1つのままではなく、別のベータ細胞および内分泌細胞と凝集して、膵島を形成する。グルコース代謝が細胞自発的にインスリン分泌を誘発する一方で(MaechlerとWollheim (2001) 414,807)、ベータ細胞間コミュニケーションは、基礎インスリン分泌を抑制するが、グルコース刺激性インスリン分泌を増強する。それによって、ベータ細胞は、飢餓時には少量のインスリンを分泌するが、食事後は十分量のインスリンを分泌することを確実にする。正常な膵島(intact islets)と比較して、分散させた膵島細胞(dispersed islet cells)は、基礎インスリン分泌の増加を示し、そしてグルコース刺激性インスリン分泌の減少を示す(Halbanら、 (1982) Endocrinol. 111, 86; Boscoら (1989) Exp. Cell Res. 184, 72; Mattaら (1994) Pancreas 9, 439; Hopcroftら、 (1985) Endocrinol. 117, 2073)。反対に、膵島細胞の再凝集は、基礎インスリン分泌を抑制し、また、グルコース刺激性インスリン分泌を促進する(Halbanら、 (1982) Endocrinol. 111, 86; MaesとPipeleers (1984) Endocrinol. 114 2205; Medaら、 (1990) J. Clin. Invest. 86, 759)。同様に、マウスまたはラットのインスリノーマ細胞などの、不死化ベータ細胞株の凝集は、グルコース刺激性インスリン分泌を促進する(Lutherら、 (2006) Biochem. Biophys. Res. Commun. 343, 99)。最後に、ベータ細胞における接着結合、およびギャップ結合の阻害は、ベータ細胞間の直接的な細胞-細胞コミュニケーションが、生理学的インスリン分泌およびグルコースホメオスタシスのために必要であることの証拠を提供する(Dahlら、 (1996) Development 1222, 2895; Hauge-Evansら、 (1999) Diabetes 48, 1402; Yamagataら、 (2002) Diabetes 51,114; Ravierら、 (2005) Diabetes 54 1798)。これらすべての見解にも関わらず、ベータ細胞コミュニケーションが、基礎インスリン分泌を抑制する一方、グルコース刺激性インスリン分泌を促進する分子機構は、理解しにくいままである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Prato and Pulizzi (2006) Metabolism 55, 20
【非特許文献2】Drucker and Nauck (2006) Lancet 368, 1696
【非特許文献3】Rorsman and Renstrom (2003) Diabetologia 46, 1029
【非特許文献4】Bell and Polonsky (2001) Nature 414, 788
【非特許文献5】Lammert et al. (2001) Science 294, 564
【非特許文献6】Maechler and Wollheim (2001) 414, 807
【非特許文献7】Halban et al. (1982) Endocrinol. 111 , 86
【非特許文献8】Bosco et al. (1989) Exp. Cell Res. 184, 72
【非特許文献9】Matta et al. (1994) Pancreas 9, 439
【非特許文献10】Hopcroft et al. (1985) Endocrinol. 117, 2073
【非特許文献11】Maes and Pipeleers (1984) Endocrinol. 114, 2205
【非特許文献12】Meda et al. (1990) J. Clin. Invest. 86, 759
【非特許文献13】Luther et al. (2006) Biochem. Biophys. Res. Commun. 343, 99
【非特許文献14】Dahl et al. (1996) Development 1222, 2895
【非特許文献15】Hauge-Evans et al. (1999) Diabetes 48, 1402
【非特許文献16】Yamagata et al. (2002) Diabetes 51, 114
【非特許文献17】Ravier et al. (2005) Diabetes 54, 1798
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
世界人口におけるII型糖尿病の罹患率の増加の観点において、現在の治療の限界を克服するのに適する、適切な治療法の必要性が高まっている。つまり、本発明の根底にある技術的な問題は、II型糖尿病の治療および/または予防に有用な新規の手段および方法の供給である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この問題の解決は、特許請求の範囲において特徴づけられる通り、態様の提供により達せられる。
従って、本発明は、糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として適する化合物を同定する方法に関連し、この方法は、(a)試験化合物をタンパク質を含む細胞と接触させる段階(ここで、前記タンパク質は(i)SEQ ID NO: 1から29のいずれか一つのアミノ酸配列を含むか、あるいは前記アミノ酸配列からなるもの;(ii)SEQ ID NO: 59から87のいずれか一つの配列を含むか、あるいは前記配列からなる、核酸分子によりコードされるもの;(iii)(i)または(ii)に従うタンパク質のフラグメントであり、かつEph受容体チロシンキナーゼ活性を示すもの;または(iv)(i)または(ii)に従うタンパク質、または(iii)に従うフラグメントと、少なくとも75%同一な配列を有し、かつEph受容体チロシンキナーゼ活性を示すもの);および(b)前記試験化合物が、段階(a)における接触に際して、前記タンパク質のEph受容体チロシンキナーゼ活性を阻害するかどうかを決定する段階;とを含み、ここで前記阻害は、糖尿病の治療および/または予防を目的として、リード化合物としておよび/または医薬として、化合物が適することを示す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、膵島およびMIN6 細胞におけるephrin-A類およびEphA類の発現および局在を示す。
【図2】図2は、ephrin-A5は、グルコース刺激性インスリン分泌において必要とされることを示す。
【図3−1】図3は、インスリン分泌に対するEphA5-Fcとephrin-A5-Fcの反対の作用を示す。
【図3−2】図3は、インスリン分泌に対するEphA5-Fcとephrin-A5-Fcの反対の作用を示す。
【図4−1】図4は、インスリン分泌顆粒融合に対する、、ephrin-A逆方向シグナル伝達とEphA順方向シグナル伝達との反対の作用を示す。
【図4−2】図4は、インスリン分泌顆粒融合に対する、、ephrin-A逆方向シグナル伝達とEphA順方向シグナル伝達との反対の作用を示す。
【図5】図5は、F-アクチンおよびRac1活性に対する、EphA5-Fcおよびephrin-A5-Fcの反対の作用を示す。
【図6】図6は、EphA5のグルコース誘導性脱リン酸化を示す。
【図7】図7は、EphA脱リン酸化はインスリン分泌において必要とされることを示す。
【図8】図8は、ヒト膵臓におけるephrin-A5およびEphA5の発現:EphA5-Fcおよびephrin-A5-Fcは、ヒト膵島からのインスリン分泌に、反対に作用することを示す。
【図9】図9は、マウス膵臓におけるephrin-A1およびEphA7の発現:EphA7-Fcおよびephrin-A1-Fcは、グルコース刺激性インスリン分泌に、反対に作用することを示す。
【図10】図10は、マウスインスリノーマ細胞における、EphA類とephrin-A類の区別を示す。
【図11】図11は、インスリン分泌アッセイにおける対照を示す。
【図12】図12は、EphA順方向シグナル伝達は、インスリン分泌を阻害することを示す。
【図13】図13は、グルコース刺激性インスリン分泌に対する、EphA5-Fcを介する作用において、コネキシン-36が必要とされることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の下で、“化合物”という用語は、一つの選択肢として、低分子を意味する。そのような低分子は、例えば、有機分子であってよい。有機分子は、炭素-炭素結合によって炭素原子が互いに結合した、炭素に基づく化合物分類に関するか、あるいはその分類に属する。有機という用語のもともとの定義は、有機化合物が、植物または動物、あるいは微生物源より得られる、炭素を含む化合物であるという、化合物の源に関連したものであり、一方無機化合物は、鉱物源より得られたものである。有機化合物は、天然または合成であることができる。あるいは、化合物は、無機化合物であってよい。無機化合物は、鉱物源より得られ、そして炭素原子を含まない(二酸化炭素、一酸化炭素、および炭酸塩を除く)全ての化合物が含まれる。あるいは、化合物は天然または合成由来の高分子であってよい。天然高分子は、例えば、ペプチド、抗体などのタンパク質、DNA、RNA、またはアプタマーなどの核酸分子、あるいは多糖類である。合成高分子は、例えば、有機低分子の共有結合からなるポリマーである。
【0012】
低分子とは、10000 Daに満たない分子量を有し、好ましくは1000 Daより小さく、より好ましくは500 Daより小さく、そして最も好ましくは、200 Daと400 Daの間である。高分子は数千Daから数百万 Daの範囲の分子量を有する。好ましくはその分子量は10000 Daより大きく、より好ましくは100000 Daより大きく、そして最も好ましくは150000 Daと250000 Daの間である。
【0013】
本発明の下で、“核酸分子”には、cDNAまたはゲノムDNAなどのDNA、およびRNAが含まれる。本明細書中で使用される“RNA”という用語には、mRNA、ncRNA(非コードRNA)、tRNA、およびrRNAを含む、全ての形態のRNAが含まれることが理解される。“非コードRNA”という用語には、siRNA(低分子干渉RNA)、miRNA(マイクロRNA)、rasiRNA(反復配列関連RNA)、snoRNA(核小体低分子RNA)、およびsnRNA(核内低分子RNA)が含まれる。DNAまたはRNAの合成または半合成誘導体、およびセンス鎖とアンチセンス鎖両方の混合ポリマーなどの、当該技術分野において既知である核酸模倣分子がさらに含まれる。本発明に従う、この核酸模倣分子または核酸誘導体には、ホスホロチオエート核酸、ホスホロアミデート核酸、2’-O-メトキシエチルリボ核酸、モルフォリノ核酸、ヘキシトール核酸(HNA)、およびLocked核酸(LNA)(BraaschとCorey (2001) Chem Biol. 8, 1参照)が含まれる。LNAは、リボース環が2’-酸素と4’-炭素の間をメチレン結合により固定されている、RNA誘導体である。それらには、当業者により容易に理解されるであろう通り、さらなる非天然ヌクレオチド塩基または誘導体化ヌクレオチド塩基が含まれてよい。
【0014】
本発明の下で、“抗体”という用語は、ポリクローナル抗体、およびモノクローナル抗体、並びに、未だ結合特性を保持しているそれらの誘導体またはフラグメントを含む。抗体の作成に関する技術は、当該技術分野においてよく知られており、そして例えば、HarlowとLane “Antibodies, A Laboratory Manual”, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988、およびHarlowとLane “Using Antibodies: A Laboratory Manual” Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999に記述される。本発明の抗体には、キメラ抗体、一本鎖抗体、およびヒト化抗体などの形態、並びに、特にFabフラグメントのような、抗体フラグメント、並びに、Eph、ephrin、またはホスファターゼ細胞外ドメインと、Fcとからなる融合タンパク質もまた、含まれる。抗体フラグメントまたは誘導体には、さらに、F(ab’)2、FvまたはscFvフラグメントが含まれる; 例えば、HarlowとLane (1988) および (1999) 、前記と同出典、参照。様々な方法が当該技術分野において既知であり、そして前記抗体および/またはフラグメントの作成に関して使用することができる。このように、(抗体)誘導体は、ペプチド類似体により作成されることができる。さらに、一本鎖抗体の作成に関して記述された技術(特に、アメリカ合衆国特許4,946,778参照)は、ポリペプチドに特異的な一本鎖抗体、および本発明の融合タンパク質を作成するのに適用することができる。トランスジェニック動物もまた、ポリペプチドに特異的なヒト化抗体、および本発明の融合タンパク質の発現に使用され得る。最も好ましくは、本発明の抗体は、モノクローナル抗体である。モノクローナル抗体の調製については、細胞株の継続的培養によって産生される抗体を提供する、あらゆる技術を使用することができる。前記技術の例には、ハイブリドーマ技術(KohlerとMilstein (1975) Nature 256, 495)、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor (1983) Immunology Today 4, 72)、およびヒトモノクローナル抗体を作成するためのEBV-ハイブリドーマ技術(Coleら、(1985) Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., 77)が含まれる。BIAcoreシステムにおいて使用されるように、表面プラズモン共鳴を使用して、本発明のポリペプチドのエピトープに結合するファージ抗体の効率を増加させることができる(Schier (1996) Human Antibodies Hybridomas 7, 97; Malmborg (1995) J. Immunol. Methods 183, 7)。本発明の文脈において、“抗体”という用語には、例えば、様々なものの中で、ウイルスベクター、またはプラスミドベクターを介して、トランスフェクションおよび/または形質導入することができる抗体構築物を細胞内で発現させることができる、抗体構築物が含まれることもまた、予想される。本発明の文脈において記述される抗体は、Eph 受容体チロシンキナーゼ、ephrin、またはEph受容体チロシンキナーゼに対するプロテインチロシンホスファターゼのエピトープと特異的に結合/相互作用することができる。本発明に従って使用される場合、“〜との特異的な結合/相互作用”という用語は、抗体が類似構造のエピトープと交差反応をしない、あるいは基本的にしないことを意味する。つまり、本発明の抗体は、先行技術のカルボキシルエステラーゼと結合しない。開発中の抗体パネルの交差反応性を、例えば、通常条件下、前記抗体パネルの、着目するエピトープ、ならびに多かれ少なかれ(構造的におよび/または機能的に)密接に関わる多数のエピトープへの結合を調べることにより、調査することができる。その関連する文脈において着目するエピトープ(例えば、タンパクの構造における特異的なモチーフ)に結合するが、その他のエピトープのいずれにも結合しない、または基本的に結合しない抗体のみが、着目するエプトープに対して特異的であると見なされ、そしてそのため、本発明に従う抗体となる。相当する方法は、例えば、HarlowとLane、1988および1999、前記と同出典、において、記述される。抗体は、Eph 受容体チロシンキナーゼ、ephrin、またはEph受容体チロシンキナーゼに対するプロテインチロシンホスファターゼに特有の、立体配座エピトープまたは連続エピトープに特異的に結合/相互作用する。立体配座エピトープまたは不連続エピトープは、ポリペプチド抗原について、一次配列においては分離しているが、ポリペプチドが天然のタンパク質/抗原に折り畳まれたときに分子の表面上で一体となる、2つまたはそれ以上の離散したアミノ酸残基の存在により特徴づけられる(Sela (1969) Science 166, 1365; Laver (1990) Cell 61, 553)。エピトープに寄与する2つまたはそれ以上の分離したアミノ酸残基は、1つまたはそれ以上のポリペプチド鎖の分離した部分に存在する。これらの残基は、ポリペプチド鎖が三次元構造に折り畳まれてエピトープを構成するときに分子の表面上で一体となった。対照的に、連続エピトープまたは線状エピトープは、2つまたはそれ以上の分離したアミノ酸残基からなり、それらは、ポリペプチド鎖の一つの線状セグメントに存在する。
【0015】
本発明の下で、“アプタマー”という用語は、その他の分子と結合するその能力に基づいて、ランダムプールから選択されてきた、DNAまたはRNA分子、あるいはペプチドのことを言う。アプタマーは、核酸、タンパク質、有機低分子化合物、およびさらには生物全体に結合するものが選択されている。アプタマーのデータベースは、http://aptamer.icmb.utexas.edu/で維持されている。
【0016】
上記に加え、以下の定義がアプタマーを特徴づけることができる。DNAまたはRNAアプタマーは、(通常短い)オリゴヌクレオチド鎖からなり、一方ペプチドアプタマーは、両端でタンパク質骨格に結合する、短い可変ペプチドドメインからなる。核酸アプタマーは、in vitro選択、または同義のSELEX法(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)の反復を介して得られた核酸種であり、低分子、タンパク質、核酸、およびさらには細胞、組織、および生物などの多様な分子標的に結合する。ペプチドアプタマーは、細胞内でのその他のタンパク質相互作用を阻害するように設計されるタンパク質である。それらは、両端でタンパク質骨格に結合する、可変ペプチドループからなる。この二重の構造的拘束が、ペプチドアプタマーの結合親和性を、抗体の親和性(ナノモル範囲)に相当するレベルまで、著しく上昇させる。可変ループ長は典型的には10から20アミノ酸を含み、そしてその骨格は、良好な可溶性特性を有するあらゆるタンパク質であってよい。現在のところ、細菌タンパク質チオレドキシン-Aが、最も使用される骨格タンパク質であり、還元型活性部位内に可変ループが挿入され、このループは野生型タンパクでは-Cys-Gly-Pro-Cys-ループであって、2つのシステイン側鎖はジスルフィド架橋を形成することができる。一般的な骨格タンパク質の別の例には、緑色蛍光タンパク質(GFP)、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、およびプロテアーゼ阻害剤ステフィンAが含まれる。ペプチドアプタマー選択は、様々な系を使用してなされることができるが、一番使用されるのは、現在のところ、酵母2-ハイブリッド系である。
【0017】
アプタマーは、一般的に使用される生体分子、特に抗体に匹敵する分子認識特性を提示するので、生物工学的、および治療的応用への有用性を提供する。その識別認識に加えて、アプタマーは、完全に試験管内で生成することができ、化学合成によって容易に産生され、望ましい保存特性を有し、さらに、治療応用において、ほとんどあるいは全く免疫原性を引き起こさないため、抗体を超える利点を提供する。非修飾アプタマーは、アプタマーが本質的に低分子量である結果、主にヌクレアーゼ分解および腎臓による生体からの除去のため、数分から数時間の半減期で、血流から迅速に消失する。非修飾アプタマーの応用は、現在のところ、血液凝固のような一過的状態の処置、または地域的な運搬が可能である目などの器官の治療に焦点が合わせられている。この迅速な消失は、in vivo画像診断などの応用において利点となり得る。科学者には、2’-フルオリン置換ピリミジン、ポリエチレングリコール(PEG)結合などのような、いくつかの修飾を使用することができ、それによって、アプタマーの半減期は、日または週単位までに、容易に増加させることができる。
【0018】
本発明の下で“リード化合物”という用語は、例えば、特に薬学的により許容可能となるように、さらに最適化されるであろう、本発明の方法の段階(b)で見いだされる化合物のことを言う。同定されたリード化合物を最適化して、例えば、薬剤組成物として使用することが可能である1つの化合物へと達することができる。スクリーニングで同定された化合物である、リード化合物の薬理学的特性を最適化する方法は、当該技術分野において既知であり、そしてリード化合物として同定された化合物を、以下のように達するように修正する方法を含む:(i)カルボキシル基のエステル化、または(ii)水酸基のカルボン酸によるエステル化、または(iii)例えば、リン酸塩、ピロリン酸塩、または硫酸塩、またはヘミコハク酸塩への水酸基のエステル化、または(iv)薬理学的に許容可能な塩の形成、または(v)薬理学的に許容可能な錯体の形成、または(vi)薬理学的に活性のあるポリマーの合成、または(vii)親水性部分の導入、または(viii)芳香族基(aromate)または側鎖への置換基の導入/置換、置換様式の変換、または(ix)等価部分、または生物学的等価部分の導入による修飾、または(x)同族化合物の合成、または(xi)分岐側鎖の導入、または(xii)アルキル置換基の環状アナログへの変換、または(xiii)水酸基のケタール、アセタールへの誘導体化、または(xiv)アミド、フェニルカルバミン酸へのN-アセチル化、または(xv)マンニッヒ塩基、イミンの合成、または(xvi)ケトンまたはアルデヒドの、シッフ塩基、オキシム、アセタール、ケタール、エノールエステル(enolester)、オキサゾリジン、チアゾリジン、またはそれらの組み合わせへの変換による、(i)作用部位、活性のスペクトル、臓器特異性の修正、および/または(ii)効能の改善、および/または(iii)毒性の減少(治療指数の改善)、および/または(iv)副作用の減少、および/または(v)治療作用の開始、効果の継続期間の修正、および/または(vi)薬物動態パラメータ(吸収、分布、代謝、および排泄)の改善、および/または(vii)物理化学的パラメータ(可溶性、吸湿性、色、味、匂い、安定性、状態)の改善、および/または(viii)一般的な特異性、臓器/組織特異性の改善、および/または(ix)投与形態および投与経路の最適化。
【0019】
上で挙げられた様々な段階は、当該技術分野において、一般的に知られる。それらは、定量的構造活性相関(QSAR)分析(Kubinyi (1992) “Hausch-Analysis and Related Approaches”, VCH Verlag, Weinheim)、コンビナトリアルバイオケミストリー、古典的化学、およびその他(例えば、HolzgrabeとBechtold (2000) Deutsche Apotheker Zeitung 140(8), 813参照)を含み、また、依存する。
【0020】
本明細書中で使用される場合、“糖尿病”という用語は、生体が血中の糖の量を適切に調節できない状態の疾患のことを言う。結果として、血糖値が非常に高い。この疾患は、生体が十分なインスリンを産生しないか、あるいはそれを適切に使用しない場合に起こる。糖尿病は、I型糖尿病とII型糖尿病の2つの型に分けられる。I型糖尿病は、若年齢で発症し、そしてランゲルハンス島の完全な破壊によって特徴づけられる。II型糖尿病は、肥満およびインスリン抵抗性と相関があり、そして成年期に発症する。生体のインスリン要求性の増加を補填するために十分なインスリンを、ランゲルハンス島が分泌できないことにより、特徴づけられる。
【0021】
本明細書全体を通じて使用される場合、“細胞”とは、初代細胞、または細胞株由来の細胞のことを言う。初代細胞は、生物から直接得られる細胞および不死化していない細胞である。適切な初代細胞は、例えば、マウス、ラット、ヒト、モルモット、ハムスター、ブタ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ロバ、またはウシなどの種由来の、膵ベータ細胞などのインスリンを分泌することができる細胞であり、そしてランゲルハンス島の形態あるいは単離された細胞の形態のどちらかで使用される。細胞株は、例えば、INS-1(Asfariら、 (1992) Endocrinol.130, 167)、INS-2(Asfariら、 (1992) Endocrinol.130, 167)、RIN-r(Philippeら、(1986) Endocrinol. 119, 2833)、およびRIN-m(Bathenaら、 (1982) Diabetes 31 , 521 ; Prazら、 (1983) Biochem. J. 210, 345; Philippeら、(1987) J. Clin. Invest. 79, 351)などのラットインスリノーマ(RIN)細胞株、またはHIT-T15(Santerreら、 (1981) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78, 4339)などのハムスターインスリノーマ(HIT)細胞株、またはbetaTC1、betaTC2、betaTC3(Efratら、 (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85, 9037)、betaTC6(Poitoutら、(1995) Diabetes 44, 306)、betaTC7(Efratら、 (1993) Diabetes 42, 901)、betaTCtet(Efrat et al. (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92, 3576)などのSV40ラージT抗原を発現するマウスベータ細胞株(beta-TC株)、またはMIN6(Myazakiら、 (1990) Endocrinol. 127, 126)などの、マウスインスリノーマ(MIN)細胞株、から選択されてよい。
【0022】
上記の通り、前記細胞は、SEQ ID NO: 1から29のどれか1つのアミノ酸配列を含むか、またはどれか1つのアミノ酸配列からなるタンパク質、あるいはSEQ ID NO: 59から87のどれか1つを含むか、またはどれか1つからなる核酸にコードされるタンパク質、を含む。これらの配列は、様々なEph受容体チロシンキナーゼのアミノ酸配列、または核酸配列のことを言う(表1参照)。
【0023】
【表1−1】

【0024】
【表1−2】

【0025】
各アクセッション番号のエントリーが、データベースにおける将来的なアップデートの可能性によって、対応するSEQ ID NO: によって示される配列と完全に一致するかどうかにかかわらず、表1のGenBankアクセッション番号によってアクセス可能なすべての配列もまた、本発明の範囲内であることは、注目すべきである。つまり、これは、継続的な科学の進展によって起こる可能性のある、GenBankのエントリーの将来的な訂正および修正を説明するものである。
【0026】
様々なタンパク質と関連して本明細書中で定義される“タンパク質のフラグメント”という用語は、タンパク質の生物学的活性を維持するのに必要なアミノ酸残基を少なくとも含む、タンパク質の一部分のことを言う。
【0027】
本発明の下で、“タンパク質のフラグメント…そして、Eph受容体チロシンキナーゼ活性を示す”という用語は、膜近傍領域およびキナーゼドメインのアミノ酸残基を少なくとも含む、タンパク質の一部分のことを言う。好ましくは、フラグメントは少なくとも長さ200アミノ酸を有し、より好ましくは、250から500アミノ酸、そして最も好ましくは300から350アミノ酸である。さらに、前記フラグメントはEph受容体チロシンキナーゼ(Eph)活性を示す。Eph受容体チロシンキナーゼ活性は、Eph受容体細胞内ドメインのリン酸転移により特徴づけられ、そしてGTP-交換因子(GEF)を介して、F-アクチンの重合およびRac1活性の抑制 をもたらす(MuraiとPasquale (2005) Neuron 46, 161)。Eph受容体チロシンキナーゼ活性を決定する方法は、当業者に良く知られており、また限定されるわけではないが、キナーゼアッセイ、またはEph順方向シグナル伝達経路の一部である下流エフェクターのEph受容体への結合アッセイが含まれる。下流タンパク質には、エフェキシン(Shamahら、 (2001) Cell 105: 233)などのグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)、あるいはACP-1(Steinら、 (1998) Genes&Dev 12:667)またはPTP-RO(Shintaniら、 (2006) Nat. Neurosci. 9: 761)などのEph受容体チロシンホスファターゼ(PTP)が含まれる。例えば、ラジオイムノアッセイまたはELISAを使用することにより、in vitroで結合を検出することができる。
【0028】
本発明には、上記のタンパク質と少なくとも75%の同一性を示す配列もまた含まれる。同一性は、好ましくは、少なくとも80%などの、75から98%であり、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは95%であり、そして最も好ましくは同一性は少なくとも98%である。そのような分子は、スプライシング型、オルソログなどの別の種の相同分子、または最も顕著な例について言及する同種の変異配列であってよい。2つのヌクレオチド配列、あるいはタンパク質配列間の同一性を評価するために、当該技術分野において既知である適切なコンピュータプログラムを使用して、電子的にアライメントすることができる。そのようなプログラムには、BLAST(Altschulら、 (1990) J. MoI. Biol. 215, 403)、WU-BLAST(Altschulと Gish (1996) Methods Enzymol. 266, 460)などのBLASTの別種、FASTA(PearsonとLipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85, 2444)、またはSmith-Watermanアルゴリズムの実装(SSEARCH, SmithとWaterman (1981) J. Mol. Biol., 147, 195)が含まれる。これらのプログラムは、対配列アライメントを提供することに加えて、配列同一性レベル(通常、同一性の%)、および偶然にそのアライメントが発生する可能性(P-値)も、報告する。CLUSTALW(Higginsら、 (1994) Nucleic Acids Res. 22, 4673)などのプログラムは、2つより多い配列をアライメントするために使用することができる。
【0029】
本発明の下で、“Eph受容体チロシンキナーゼ”は、細胞外に、ephrin結合ドメイン、および2つのフィブロネクチンタイプIIIリピート、さらに、膜近傍領域、キナーゼドメイン、SAM(sterile αモチーフ)ドメイン、およびPSD-95,Deg,ZO-1/2(PDZ)結合モチーフを含む細胞質部分を含む、タンパク質である。これらの2つの部分は膜貫通ドメインを介して繋がっている。本発明の下で、“Eph受容体チロシンキナーゼ活性”は、リン酸転移(キナーゼ分子から別のキナーゼ分子へのリン酸基の転移)によって、特徴づけられる。Eph受容体チロシンキナーゼ活性は、Eph受容体チロシンキナーゼと、PDZドメイン含有タンパク質およびRhoファミリーグアニンヌクレオチド交換因子などの、その他のタンパク質との相互作用によっても特徴づけられる。最後に、本発明中で見出されるように、Eph受容体チロシンキナーゼ活性は、インスリン分泌およびRac1活性の減少、ならびにF-アクチン含量の増加によって、特徴づけられる。
【0030】
“Eph受容体チロシンキナーゼ活性の阻害”とは、以下の作用の1つまたはそれ以上を行うことにより、上で定義されるEph受容体チロシンキナーゼ活性を減少させることとして定義される:(i)阻害すべきタンパク質をコードする遺伝子の転写を低下させる、すなわち、mRNAレベルを低下させる、(ii)阻害すべきタンパク質をコードするmRNAの翻訳を低下させる、(iii)タンパク質が、阻害剤の存在下、効率が低下した状態でその生化学的機能を行う、および(iv)タンパク質が、阻害剤の存在下、効率が低下した状態でその細胞機能を行う。
【0031】
好ましい態様において、活性のレベルは、阻害剤の非存在下の活性の90%より低く、より好ましくは、80%、70%、60%、または50%より低い。さらにより好ましくは、阻害剤の非存在下の活性の25%より低いか、10%より低いか、5%より低いか、または1%より低いレベルまで、低下させる阻害剤である。
【0032】
阻害がタンパク質の発現レベルの減少である場合、タンパク質の発現レベルの測定は、例えば、核酸またはタンパク質レベルで行うことができる。
核酸レベルでタンパク質の発現を測定する方法には、限定するものではないが、ノザンブロッティング、PCR、RT-PCR、またはreal RT-PCRが含まれる。PCRは、当該技術分野において良く知られており、そして標的配列の多数の複製物を作成するために行われる。これは、反応混合液の入った容器を、非常に短時間で加熱および冷却することができる、自動サイクラー装置で行われる。PCRは一般に、以下からなるサイクルの多数回の繰り返しからなる:(a)DNA分子の両鎖を溶解させ、そしてそれ以前のすべての酵素反応を終了させる、変性段階;(b)DNA分子の溶解した鎖に特異的にプライマーをアニールさせることを目的とする、アニール段階;(c)鋳型鎖より提供される情報を使用することにより、アニールされたプライマーを伸長する、伸長段階。一般に、PCRは、例えば、1.5 mM MgCl2含有10×PCRバッファー5μl、各デオキシヌクレオシド三リン酸200μM、各プライマー(10μM)0.5μl、鋳型DNA約10 ngから100 ng、およびTaqポリメラーゼ1〜2.5ユニットを含む、50μlの反応混合液中で行うことができる。増幅用のプライマーは、標識または非標識であってよい。DNA増幅は、例えば、モデル2400サーマルサイクラー(Applied Biosystems, Foster City, CA)で、以下のように行うことができる:94℃で2分、続いて、アニーリング(例えば50℃で30秒)、伸長(例えば、72℃で1分、DNA鋳型の長さおよび使用する酵素に依存する)、変性(例えば94℃で10秒)からなるサイクルを30から40サイクル、そして最終アニーリング段階55℃で1分間、さらに、最終伸長段階72℃で5分間。DNA鋳型とともに使用するのに適切なポリメラーゼには、例えば、E. Coli DNAポリメラーゼIまたはそのクレノウ断片、T4 DNAポリメラーゼ、Tthポリメラーゼ、Taqポリメラーゼ、Thermus aquaticusより単離された熱安定DNAポリメラーゼVent、Amplitaq、PfuおよびKODが含まれ、それらのいくつかは、プルーフリーディング機能および/または異なる至適温度を示すことができる。しかしながら、様々な長さのプライマーおよび/または組成物を用いて特定の核酸分子を増幅するためのPCR条件を最適化する方法、あるいは反応混合液容量を少なくするか、または増加させる方法は、当業者には既知である。“逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応”(RT-PCR)は、増幅される核酸がRNAからなる場合に使用される。“逆転写酵素”という用語は、デオキシリボヌクレオシド三リン酸のポリメリゼーションを触媒して、リボ核酸鋳型に相補的なプライマー伸長産物を形成する酵素のことを言う。酵素によってプライマーの3’末端で合成が始まり、そして鋳型の5’末端に向かって合成が終るまで続行する。RNA標的配列を相補的、複製DNA(cDNA)配列に変換する適切なポリメリゼーション試薬の例は、ニワトリ骨髄芽球症ウイルス逆転写酵素、およびPerkin Elmerにより市販される、逆転写酵素活性をもつ熱安定性DNAポリメラーゼである、Thermus thermophilus DNAポリメラーゼである。典型的に、ゲノムRNA/cDNA二本鎖鋳型は、最初の逆転写段階の後、最初の変性段階中に熱変性され、増幅鋳型として使用できるDNA鎖が残る。高温RTは、より高いプライマー特異性と改善された効率を提供する。1991年8月15日に出願されたアメリカ合衆国特許申請シリアル番号07/746,121には、同一のプライマーおよびポリメラーゼが、逆転写段階およびPCR増幅段階の両方において十分であり、そして両反応が試薬の変更なく行われるように反応条件が最適化される、“均質なRT-PCR”が記述される。逆転写酵素として機能することができる熱安定性DNAポリメラーゼである、Thermus thermophilus DNAポリメラーゼは、鋳型に関わらず、すべてのプライマー伸長段階において使用することができる。両方のプロセスは試薬の変更または追加のために容器を開ける必要なく行われることができ;温度プロフィールだけを、第一サイクル(RNA鋳型)と残りの増幅サイクル(DNA鋳型)の間で調節する。RT反応は、例えば、以下を含む20μl反応混合液中で行うことができる:5×AMV-RTバッファーを4μl、オリゴdT(100μg/ml)を2μl、10 mM dNTPを2μl、全RNAを1μl、AMV逆転写酵素を10ユニット、および総容量が20μlになる量のH2O。反応は、例えば、以下の条件を使用することによって行われてよい:反応液を70℃、15分維持して、逆転写を行わせる。次に反応温度を95℃に上げて1分間、RNA-cDNA二本鎖を変性させる。次に、反応温度は、95℃15秒、60℃20秒を2サイクル、続いて、90℃15秒および60℃20秒を38サイクルで行う。最後に、最終伸長段階として反応温度を60℃4分間維持し、15℃まで冷却し、そして増幅試料のさらなるプロセッシングまで、その温度で維持される。上述したあらゆる反応条件は、特定の状況における必要に従って、増量されてよい。結果として生じる生成物をアガロースゲルにロードし、そして臭化エチジウムまたはSybrGreenなどのインターカレーティング色素で核酸分子を染色後、バンド強度を比較する。非処理細胞と比較して、試験化合物を処理した細胞に由来する試料のバンド強度が低いことによって、そのタンパク質を阻害する化合物が示される。
【0033】
リアルタイムPCRでは、5’末端には共有結合したレポーター色素を有し、そして3’末端にはクエンチャー色素を有する、当該技術分野においてTaqManプローブとも言われる、特異的なプローブを使用する。PCR反応のアニーリング段階でTaqManプローブが増幅されたポリヌクレオチドの相補的部位にハイブリダイゼーションした後、PCR反応の伸長段階において、5’蛍光色素分子がTaqポリメラーゼの5’ヌクレアーゼ活性によって切断される。これにより、その前にはTaqManプローブ配列中で3’アクセプターと近接していたために消光されていた5’ドナーの蛍光が、増強される。それによって、増幅のプロセスを直接的かつリアルタイムでモニターすることができ、これは、従来のエンドポイントPCRよりも、著しく正確な発現レベルの測定を可能にする。SybrGreenなどのDNAインターカレーティング色素は、二本鎖DNA分子のde novo合成をモニターするために、リアルタイムRT-PCR実験においても有用である。
【0034】
アミノ酸レベルでタンパク質の発現を測定する方法は、限定するものではないが、ウエスタンブロッティング、またはクマシーブリリアントブルーまたは銀染色などのタンパク質染色技術を併用する、ポリアクリルアミドゲル電気泳動が含まれる。全タンパク質をポリアクリルアミドゲル上にロードし、そして電気泳動する。その後、分離されたタンパク質を、例えばポリビニルジフルオリド(PVDF)膜などの膜上に、電流をかけることにより転写する。着目するタンパク質、ここではEph受容体チロシンキナーゼを特異的に認識する抗体に、膜上のタンパク質を暴露する。洗浄後、一次抗体を特異的に認識し、かつ蛍光色素などの表示システムを有する二次抗体を適用する。着目するタンパク質の量は、試験化合物を処理した細胞由来のタンパク質の蛍光強度と、非処理細胞由来のタンパク質の蛍光強度とを比較することにより測定される。試験化合物で処理した細胞由来のタンパク質の蛍光強度が低いことによって、タンパク質の阻害剤が示される。タンパク質の定量には、Agilent Bioanalyzer技術もまた有用である。
【0035】
本発明の下で、“当該試験化合物がEph受容体チロシンキナーゼ活性を阻害するかどうかを決定すること”という言葉は、当該細胞から分泌されるインスリンの測定のことを言う。さらに、それは、Eph受容体のリン酸化、F-アクチンの重合、Rac1活性、および細胞-細胞接着の測定のことも言う。
【0036】
本発明の下で、先行技術では、インスリン分泌とグルコースホメオスタシスへのEph-ephrinシグナル伝達の関与の示唆が提供されなかったのに対して、Eph受容体チロシンキナーゼとそれに対応するephrinリガンドとの間の相互作用が、凝集した膵ベータ細胞においてインスリン分泌を調節することが、驚いたことに明らかになった。本発明では、膵ベータ細胞間のEph受容体チロシンキナーゼとそのそのリガンドであるephrinを介するコミュニケーションが、グルコースに応答する最適なインスリン分泌、すなわち、基礎インスリン分泌の抑制およびグルコース刺激性インスリン分泌の亢進を説明することを、始めて示す。Ephおよびephrinは、二方向性のシグナル伝達を示す。シグナル伝達事象はそれらの分子の両方を介して生じる。従来、Ephを介するシグナル伝達は、順方向シグナル伝達と言われ、一方ephrinを介するシグナル伝達は、逆方向シグナル伝達と言われる。本発明の発見までは、Ephおよびephrinは、主に、形態形成およびパターン形成、または細胞運命決定に関与していると考えられていた(Pasquale (2005) Nat Rev Mol Cell Biol 6, 462)。Ephおよびephrinは、マウス膵島細胞、MIN6細胞(実施例1および図1)と、ヒト膵島(実施例1および図8)の両方において存在する。実施例2から明白であるように、ephrin-A5は膵ベータ細胞からのインスリン分泌の制御のために必要である(図2も参照)。ephrin逆方向シグナル伝達とは対照的に、Eph順方向シグナル伝達は、膵島およびベータ細胞においてインスリン分泌を顕著に減少させることが、さらに示される可能性がある(実施例3、5、および7を参照)。グルコース刺激性インスリン分泌におけるEphの関与に関するさらなる証拠は、グルコース刺激に際したEphのリン酸化レベルの変化によっても確認される(実施例9および10参照)。Ephはグルコース刺激下、脱リン酸化され、そしてこの脱リン酸化は刺激条件下のインスリン分泌のために必要とされる。出願人は科学的理論に縛られることを望まないが、図7に概要されるモデルは、グルコースを介するインスリン分泌におけるEph-ephrin相互作用の基礎にあるメカニズムの説明を提示する。このように、Eph受容体チロシンキナーゼは、本明細書中に上述される通り、抗糖尿病化合物をスクリーニングする新規の可能性を提示する。
【0037】
従って、上述の方法により同定される化合物は、Eph受容体チロチンキナーゼのリン酸転移を阻害することができる。例えば、細胞外ephrin結合部位に結合し、そしてそれによってキナーゼ活性を誘導することなくその結合部位を遮断することによって、前記阻害を行うことができる。阻害はまた、Eph受容体チロシンキナーゼの細胞内キナーゼドメインを遮断し、それによってリガンドの結合に際した受容体のリン酸転移を防ぐことによっても、行うことができる。両方の場合において、シグナル伝達は生じず、結果的に、インスリン分泌の阻害は行われないであろう。つまり、Eph受容体チロシンキナーゼ活性を阻害する化合物はまた、本発明の知見に従って、インスリン分泌を増加もさせるであろう。Eph受容体とRho GTP交換因子(GEF)との報告される相互作用(MuraiとPasquale (2005) Neuron 46, 161)に基づいて、前記GEFの阻害が、インスリン分泌を増加させることも予想される。
【0038】
上に記述する効果を及ぼすために、本発明の方法により同定される化合物は、細胞外で、あるいは細胞内で作用することができる。細胞内で作用する化合物は、例えば、タンパク質の発現レベルを制御するsiRNA、あるいは細胞質キナーゼドメインの阻害を介して作用する化合物であってよい。細胞外でその効果を発揮する化合物は、例えば、Eph受容体チロシンキナーゼの細胞外部分へのephrinの結合を阻害する化合物であってよい。前記化合物の一例は、ephrin結合部位に結合する、アプタマーであってよい。
【0039】
適切には、本発明の方法は、in vitroで実行される。in vitroの方法は、何千もの化合物を並行してスクリーニングすることができる、ハイスループットアッセイを確立する可能性を提示する。生化学的アッセイ、細胞アッセイ、またはその他のアッセイとは独立して、ハイスループットアッセイは、一般に、各プレートが96、384、または1536ウェルを含み得る、マイクロタイタープレートのウェル内で行うことができる。室温以外の温度でのインキュベーション、およびアッセイ混合物と試験化合物を接触させることを含む、プレートの操作は、好ましくは、ピペッティング装置を含む1つまたはそれ以上のコンピューター制御ロボットシステムによって達成される。試験化合物の大規模なライブラリーがスクリーニングされる場合、および/またはスクリーニングが短時間で行われる場合、例えば、10、20、30、40、50、または100種の試験化合物の混合物を、各ウェルに添加することができる。あるウェルがEph受容体チロシンキナーゼ活性の阻害を示す場合は、その試験化合物の混合物を、阻害を引き起こすその混合物中の1つあるいはそれ以上の試験化合物を同定するために、遡って求める(de-convolute)ことができる。
【0040】
別の態様において、本発明は、糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物として、および/または医薬として適切な化合物を同定する方法に関連し、この方法は、(a)タンパク質が(i)SEQ ID NO: 1から29のいずれか一つのアミノ酸配列を含むか、あるいは前記アミノ酸配列からなるもの;または(ii)SEQ ID NO: 59から87のいずれか一つの配列を含むか、あるいは前記配列からなる、核酸分子によりコードされるもの;または(iii)(i)または(ii)に従うタンパク質のフラグメントであり、かつEph受容体チロシンキナーゼ活性を示すもの;または(iv)(i)または(ii)に従うタンパク質、または(iii)に従うフラグメントと、少なくとも75%同一な配列を有し、かつEph受容体チロシンキナーゼ活性を示すもの;であるものと、試験化合物とを接触させる段階;および(b)前記試験化合物が、段階(a)における接触に際して、前記タンパク質のEph受容体チロシンキナーゼ活性を阻害するかどうかを決定する段階;とを含み、ここで前記阻害は、糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として、化合物が適することを示す。
【0041】
本発明は、従って、与えられた化合物の抗糖尿病特性を調べるための生化学的アッセイもまた、提供する。生化学的アッセイは、上述のような細胞アッセイと比較すると、大規模な細胞培養作業の必要なしで行われる利点を提示する。タンパク質は、マウス、ラット、またはヒトなどの哺乳動物から得られる組織などの、天然源から精製することができる。タンパク質精製技術は当業者に良く知られている。あるいは、タンパク質は、組換え的に、細菌中、または培養細胞中で発現させることができる。例えば、タンパク質をコードする核酸分子を含む核酸配列をPCRにより合成することができ、そして発現ベクターに挿入する(PCRプロセスの詳細の説明については下記を参照)。発現ベクターの限定的ではない例には、pREP(Invitrogen)、pcDNA3(Invitrogen)、pCEP4(Invitrogen)、pMC1neo(Stratagene)、pXT1(Stratagene)、pSG5(Stratagene)、EBO-pSV2neo、pBPV-1、pdBPVMMTneo、pRSVgpt、pRSVneo、pSV2-dhfr、pIZD35、pLXIN、pSIR(Clontech)、pIRES-EGFP(Clontech)、pEAK-10(Edge Biosystems)、pTriEx-Hygro(Novagen)、pCINeo(Promega)、Okayama-Berg cDNA発現ベクターpcDV1(Pharmacia)、pRc/CMV、pcDNA1、pSPORT1(GIBCO BRL)、pGEMHE(Promega)、pSVLおよびpMSG(Pharmacia, Uppsala, Sweden)、pRSVcat(ATCC 37152)、pSV2dhfr(ATCC 37146)、またはpBC12MI(ATCC 67109)などの、哺乳動物細胞における発現と互換性のあるベクターが含まれる。pUCシリーズ、pBluescript(Stratagene)、発現ベクターであるpETシリーズ(Novagen)またはpCRTOPO(Invitrogen)などの原核生物プラスミドベクターもまた、適切である。
【0042】
タンパク質精製後、タンパク質の活性を評価するのに適切な条件下で、試験化合物とタンパク質とを混合することにより、前記タンパク質を試験化合物と接触させることができる。生物学的アッセイにおいて、多くの場合、塩化ナトリウム以外の塩、微量元素、アミノ酸、ビタミン、成長因子、ATPまたはGTPなどの普遍的な補因子を含む、さらなる物質の存在が必要とされる。前記のさらなる物質は、個々に添加されるか、あるいは血清または細胞抽出物などの複合混合物中に提供されることができる。これら及びさらなる補足物質は、生物学的アッセイにおいて適切な濃度として、当該技術分野においてよく知られている。
【0043】
例えば、細胞外空間と細胞の内部とを比較する場合、本発明に従うタンパク質の活性を評価するために適切な条件は、著しく変化する可能性がある。例示的な細胞内条件は、14 mM Na+、140 mM K+、10-7 mM Ca2+、20 mM Mg2+、4 mM Cl-、10 mM HCO3-、11 mM HPO42-およびH2PO4-、1 mM SO42-、45 mM クレアチンリン酸、14 mM カルノシン、8 mMアミノ酸、9 mMクレアチン、1.5 mM 乳酸塩、5 mM ATP、3.7 mM ヘキソース一リン酸、4 mMタンパク質、および4 mM尿素を含む。
【0044】
タンパク質を試験化合物と接触させた後、Eph受容体チロシンキナーゼの活性を測定する。それをするためには、当業者に良く知られている、キナーゼアッセイが適切であるかもしれない。試験化合物が、Eph受容体チロシンキナーゼのキナーゼ活性を阻害する場合、それは、本発明に従う医薬として、あるいはリード化合物として、適切である。特に適している別のアッセイは、Eph順方向シグナル伝達経路の一部である下流エフェクターの、Eph受容体との結合である。下流タンパク質には、エフェキシン(Shamahら、 (2001) Cell 105: 233)などのグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)、あるいはACP-1(Steinら、 (1998) Genes&Dev 12:667)またはPTP-RO(Shintaniら、 (2006) Nat. Neurosci. 9: 761)などのEph受容体チロシンホスファターゼ(PTP)が含まれる。結合は、ラジオイムノアッセイまたはELISAを使用することによって、in vitroで検出することができる。
【0045】
別の態様において、本発明は糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物として、および/または医薬として適する化合物を同定する方法に関連し、この方法は(a)タンパク質が(i)SEQ ID NO: 48から58のいずれか一つのアミノ酸配列を含むか、あるいは前記アミノ酸配列からなるもの;または(ii)SEQ ID NO: 106から116のいずれか一つの配列を含むかあるいは前記配列からなる、核酸分子によりコードされるもの;または(iii)(i)または(ii)に従うタンパク質のフラグメントであり、かつEph受容体チロシンキナーゼに対するプロテインチロシンホスファターゼとして機能するもの;あるいは(iv)(i)または(ii)に従うタンパク質、または(iii)に従うフラグメントと、少なくとも75%同一な配列を有し、かつEph受容体チロシンキナーゼに対するプロテインチロシンホスファターゼとして機能するもの;であるものを含む細胞と、試験化合物とを接触させる段階;および(b)前記試験化合物が、段階(a)における接触に際して、前記タンパク質の発現および/または活性を活性化するかどうかを決定する段階;とを含み、ここで前記活性化は、糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として、化合物が適することを示す。本発明の文脈において配列同一性の定義に関しては、上記配列同一性の考察で言及される。
【0046】
本発明の下で、“Eph受容体チロシンキナーゼに対するプロテインチロシンホスファターゼ”という用語は、in vitroまたはin vivoでEph受容体チロシンキナーゼを脱リン酸化するタンパク質のことを言う。そのようなプロテインチロシンホスファターゼ(PTP)の例は、酸性ホスファターゼ-1(ACP-1)、およびそのアイソフォームのACP-1d(タンパク質SEQ ID NO: 48;核酸配列SEQ ID NO: 106)、ACP-1b(タンパク質SEQ ID NO: 49;核酸配列SEQ ID NO: 107)、ACP-1c(タンパク質SEQ ID NO: 50;核酸配列SEQ ID NO: 108)、マウスACP(タンパク質SEQ ID NO: 51;核酸配列SEQ ID NO: 109)、ラットACP(タンパク質SEQ ID NO: 52;核酸配列SEQ ID NO: 110)、並びに、プロテインチロシンホスファターゼ受容体タイプO(PTP-RO)およびそのアイソフォームのPTP-ROアイソフォームa(タンパク質SEQ ID NO: 53;核酸配列SEQ ID NO: 111)、PTP-ROアイソフォームb(タンパク質SEQ ID NO: 54;核酸配列SEQ ID NO: 112)、PTP-ROアイソフォームc(タンパク質SEQ ID NO: 55;核酸配列SEQ ID NO: 113)、PTP-ROアイソフォームd(タンパク質SEQ ID NO: 56;核酸配列SEQ ID NO: 114)、マウスPTP-RO(タンパク質SEQ ID NO: 57;核酸配列SEQ ID NO: 115)、またはラット受容体型プロテインチロシンホスファターゼD30(タンパク質SEQ ID NO: 58;核酸配列SEQ ID NO: 116)である。
【0047】
上述の通り、Eph受容体チロシンキナーゼのリン酸化状態は、グルコース濃度に依存する。Eph受容体の脱リン酸化は、酸性ホスファターゼ-1(ACP-1、低分子量プロテインチロシンホスファターゼLMW-PTPとも呼ばれる)(Parriら、 (2005) J. Biol. Chem. 280, 34008)およびプロテインチロシンホスファターゼ受容体タイプO(PTP-RO)(shintaniら、 (2006) Nat. Neurosci. 9, 761)を介して起こることが報告される。本発明の下で、グルコース刺激が、膵島およびインスリノーマ細胞においてEphを脱リン酸化するプロテインチロシンホスファターゼ(PTP)活性を誘導することが、見出された(実施例9および10参照)。従って、PTPもまた、PTPの活性化を介して作用することによりインスリン分泌を調節する化合物のスクリーニングの標的として、有用である。このアッセイは、Ephおよびephrinなどの膜貫通タンパク質よりも、しばしば操作および分析が容易である、細胞質タンパク質またはタンパク質フラグメントを用いて行われるという利点を有する。
【0048】
前記タンパク質の活性の測定は、例えば、Eph受容体のリン酸化速度をACP-1および/またはPTP-ROを発現する細胞において測定することによって、達せられる。これは、細胞溶解物からのEphA5の免疫沈降、およびそれに続くリン酸化チロシン特異的抗体(4G10)(Santa Cruz)を用いるウエスタンブロットによって、行うことができる。あるいは、Eph受容体のリン酸化は、リン酸化Eph特異的抗血清(Sharmaら、(2001) Cell 105, 233)を使用することにより、測定される。PTPの発現レベルの測定は、本発明のその他の態様の文脈において上述されたように、実施することができる。
【0049】
本発明の下で、“タンパク質のフラグメント…およびEph受容体チロシンキナーゼ活性に対するプロテインチロシンホスファターゼとして機能する”という言葉は、Eph受容体チロシンキナーゼに対するプロテインチロシンホスファターゼ活性を示す、タンパク質の一部分のことを言う。前記タンパク質の活性は、上に定義されている。一般に、特にPTP-ROについてのフラグメントの好ましい長さは、少なくとも150アミノ酸であり、より好ましくは200から400アミノ酸であり、そして最も好ましくは、220から250アミノ酸である。特にACPにおけるフラグメントの好ましい長さは、一般に、少なくとも100アミノ酸であり、より好ましくは、少なくとも110アミノ酸であり、そして最も好ましくは、少なくとも112アミノ酸である。
【0050】
別の態様において、本発明は糖尿病の治療および/または予防を目的とするリード化合物として、および/または医薬として適する化合物を同定する方法に関連し、この方法は、(a)タンパク質が(i)SEQ ID NO: 48から58のいずれか一つのアミノ酸配列を含むか、あるいは前記アミノ酸配列からなるもの;または(ii)SEQ ID NO: 106から116のいずれか一つの配列を含むか、あるいは前記配列からなる、核酸分子によりコードされるもの;または(iii)(i)または(ii)に従うタンパク質のフラグメントであり、かつEph受容体チロシンキナーゼに対するプロテインチロシンホスファターゼとして機能するもの;または(iv)(i)または(ii)に従うタンパク質、または(iii)に従うフラグメントと、少なくとも75%同一な配列を有し、かつEph受容体チロシンキナーゼに対するプロテインチロシンホスファターゼとして機能するもの;であるものと、試験化合物とを接触させる段階;および(b)前記試験化合物が、段階(a)における接触に際して、前記タンパク質の活性を増強するかどうかを決定する段階;とを含み、ここで前記増強は、糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として、化合物が適することを示す。
【0051】
別の態様の文脈において上述の通り、PTPを直接的に使用する生化学的アッセイもまた、本発明によって想定される。上に概説されるように、生化学的アッセイは、大規模な細胞培養作業を回避する可能性を提示する。活性の亢進を評価するための可能性のある読み出しは、対応する細胞スクリーニング方法の文脈において、既に上で提供される。アッセイを行うのに適するセットアップに到達するための、すべての必要な段階を行う詳細な方法もまた、生化学的アッセイに関連するその他の態様の文脈において、上で提供される。特に適する方法は、Eph受容体の膜近傍ドメインのホスホペプチド、例えば、EphA4のVDPFT(‘P’-Y)EDPN(Shintaniら、 (2006) Nat. Neurosci. 9, 761)を、従来のプロテインチロシンホスファターゼアッセイ(例えばSIGMA)においてリコンビナントホスファターゼと一緒に使用することにより、in vitroでホスファターゼの活性を決定することである。後者の方法は、ラジオイムノアッセイまたはELISAを使用することによる化合物スクリーニングに使用することができる。
【0052】
別の態様において、本発明は糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として適する化合物を同定する方法に関連し、この方法は、(a)タンパク質が(i)SEQ ID NO: 30から47のいずれか一つのアミノ酸配列を含むか、あるいは前記アミノ酸配列からなるもの;または(ii)SEQ ID NO: 88から105のいずれか一つの配列を含むか、あるいは前記配列からなる、核酸分子によりコードされるもの;または(iii)(i)または(ii)に従うタンパク質のフラグメントであり、かつephrin活性を示すもの;または(iv)(i)または(ii)に従うタンパク質、または(iii)に従うフラグメントと、少なくとも75%同一な配列を有し、かつephrin活性を示すもの;であるものを含む細胞と、試験化合物とを接触させる段階;および(b)前記試験化合物が、段階(a)における接触に際して、前記タンパク質の発現および/または活性を活性化するかどうかを決定する段階;とを含み、ここで前記活性化は、糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として、化合物が適することを示す。
【0053】
“ephrin活性”という用語は、一方では、Eph受容体チロシンキナーゼのリン酸転移を誘導する活性のことを、そして他方では、ephrin逆方向シグナル伝達を誘導する活性のことを言う。ephrin逆方向シグナル伝達は、Rac1の活性の亢進、および皮質F-アクチンの減少をもたらす(実施例8、図5)。ephrin-A逆方向シグナル伝達は、ベータ細胞ギャップ結合タンパク質コネキシン-36の発現を減少させることにより模倣されることから(実施例8、図13)、ephrin-A逆方向シグナル伝達はベータ細胞間のギャップ結合コミュニケーションを阻害することが考えられる。ephrin-A逆方向シグナル伝達の主要な効果は、インスリン分泌の上昇である(実施例3、4、および6、図3、図4、および図9)。
【0054】
本発明の下で、“タンパク質のフラグメント…およびephrin活性を示す”という言葉は、ephrin活性を示すタンパク質の一部分のことを言う。ephrin活性は上で定義されている。一般に、フラグメントの好ましい長さは、少なくもとも100アミノ酸であり、より好ましくは少なくとも150アミノ酸、および最も好ましくは少なくとも186アミノ酸である。
【0055】
上述の通り、ephrinは膵ベータ細胞からのインスリン分泌に関与する。そのため、アミノ酸配列がSEQ ID NO: 30から47によって示され、そしてそれをコードする核酸配列が、SEQ ID NO: 88から105によって示されるephrinは、上述の通り、細胞アッセイにおける化合物のスクリーニングの可能性を提示する。ephrinはインスリン分泌に関してEph受容体チロシンキナーゼとは反対の様式で作用するため、Eph受容体チロシンキナーゼと比較すると、ephrinは機能的に異なる標的を示す(上記および実施例3から7を参照)。そのため、ephrinを介してインスリン分泌を刺激する化合物は、Eph受容体チロシンキナーゼを介して作用する化合物とは、構造的に異なってよい。
【0056】
好ましい態様において、細胞は膵ベータ細胞、またはベータ細胞株由来細胞である。
適切な膵ベータ細胞は、例えば、マウス、ラット、ヒト、モルモット、ハムスター、ブタ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ロバ、またはウシなどの種由来であり、そしてランゲルハンス島の形態、あるいは単離された細胞の形態のどちらかにおいて使用される。細胞株は、例えば、INS-1(Asfariら、 (1992) Endocrinol.130, 167)、INS-2(Asfariら、 (1992) Endocrinol.130, 167)、RIN-r(Philippeら、(1986) Endocrinol. 119, 2833)、およびRIN-m(Bathenaら、 (1982) Diabetes 31 , 521 ; Prazら、 (1983) Biochem. J. 210, 345; Philippeら、(1987) J. Clin. Invest. 79, 351)などのラットインスリノーマ(RIN)細胞株、またはHIT-T15(Santerreら、 (1981) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78, 4339)などのハムスターインスリノーマ(HIT)細胞株、またはbetaTC1、betaTC2、betaTC3(Efratら、 (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85, 9037)、betaTC6(Poitoutら、(1995) Diabetes 44, 306)、betaTC7(Efratら、 (1993) Diabetes 42, 901)、betaTCtet(Efrat et al. (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92, 3576)などのSV40ラージT抗原を発現するマウスベータ細胞株(beta-TC株)、またはMIN6(Myazakiら、 (1990) Endocrinol. 127, 126)などの、マウスインスリノーマ(MIN)細胞株から選択されてよい。
【0057】
好ましい態様において、段階(b)における測定には、インスリン分泌の定量が含まれる。
抗糖尿病化合物についてスクリーニングをする場合、インスリン分泌は望ましい結果であるため、インスリン分泌の直接的定量は、スクリーニングされた化合物の効果の、直接的な生理学的読み出しをもたらすという利点を有する。
【0058】
好ましくは、インスリン分泌の測定は、限定するものではないが、ELISAキット(Crystal Chem Inc.からのものなど)、またはラジオイムノアッセイ(Linco, St. Charles, MO, USAからのものなど)を含む方法により、行われる。
【0059】
一般に、インスリン分泌の測定は、グルコース濃度が6から30 mMの範囲、より好ましくは10から30 mMの範囲、そして最も好ましくは20から25 mMの範囲において、あるいは例えば、グルコースおよびグルカゴン様ぺプチド-1(GLP-1)、またはグルコースと3-イソブチル-1-メチルキサンチン(IBMX)の組み合わせの存在下、行われる。
【0060】
別の好ましい態様において、段階(b)における測定は、前記細胞におけるF-アクチンの定量を含み、ここでF-アクチンの量は、刺激性グルコース濃度において測定され、そして試験化合物と接触した細胞におけるF-アクチンの量の減少は、糖尿病の治療および/または予防を目的とするリード化合物としておよび/または医薬として化合物が適することを示す。
【0061】
“刺激性グルコース濃度”という言葉は、一般に、5.5から30 mMの範囲、より好ましくは10から30 mMの範囲、そして最も好ましくは20から25 mMの範囲のグルコース濃度のことを言う。特に、ephrin-A逆方向シグナル伝達の活性化を調べるための好ましい範囲は、6から20 mMであり、最も好ましくは6から8 mMである。
【0062】
グルコース刺激性インスリン分泌へのそれらの関与に加えて、本発明は、Ephおよびephrinシグナル伝達のF-アクチンへの反対の効果を示す。F-アクチンの中程度の不安定化は、インスリン分泌を亢進することが示され、一方F-アクチンの安定化は、インスリン分泌を阻害することが示された(Cableら、 (1995) Biochem. J. 307: 169; Wangら、 (1990) Biochem. Biophys. Res. Commun. 171 : 424; Wilsonら、 (2001) FEBS Lett 492: 101 ; Lawrenceら、 (2003) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 100: 13320; Tomasら、 (2006) J. Cell Sci. 119: 2156; Orciら、 (1972) Science 175: 1128; Jijakliら、 (2002) Int. J. Mol. Med. 9: 165; Thurmondら、 (2003) Mol. Endocrinol. 17: 732; Tsuboiら、 (2003) J. Biol. Chem. 278: 52042)。本発明は、グルコース刺激に応答する細胞のF-アクチン含量と、Ephとephrinの間の分子相互作用との関係を、ここで初めて証明する(実施例5参照)。F-アクチンの定量は、ELISAなどの時間がかかるアッセイの必要はなく、むしろ単純な蛍光測定であるので、インスリン分泌の直接的な定量よりもずっと容易である。そのため、読み出しとしてのF-アクチン含量の使用は、抗糖尿病化合物のスクリーニングのためのハイスループットアッセイ確立の困難性を減少させる。
【0063】
前記細胞におけるF-アクチンの定量は、例えば、限定するものではないが、蛍光測定またはF-アクチンELISAを含む方法によって実施することができる。
別の好ましい態様において、上で言及される通り、タンパク質は、前記タンパク質をコードする核酸を発現する、あるいはその核酸をトランスフェクションされた細胞内に含まれる。
【0064】
細胞は、好ましくは、膵ベータ細胞などの初代細胞、または細胞株由来細胞である。適切な細胞株の例は、上で言及される。
細胞または細胞株への上述のタンパク質をコードする核酸のトランスフェクションは、例えばより実行しやすい培養条件下で成育できる、異なる細胞株の使用などの実験のセットアップへ、本発明のスクリーニング方法を適応させる。
【0065】
より好ましい態様において、上述のタンパク質を含む細胞は、非ヒト動物内に含まれる。
非ヒト動物内における上述のタンパク質の導入または発現は、本発明のスクリーニング方法が、生理学的条件下で行われることを可能にし、そしてその抗糖尿病活性に加え、薬理学的に許容可能な様式において、効果的に吸収され、分布され、やがてはその生化学的活性型への代謝され、および排泄されることができる化合物の同定への道を開く。好ましくは、動物は、例えば、ラット、マウス、ハムスター、モルモット、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、またはロバから選ばれる。
【0066】
トランスジェニック非ヒト動物、例えば、トランスジェニックマウスを作製する方法は、上述の核酸分子を、生殖細胞、胚細胞、幹細胞、または卵、またはそれらに由来する細胞へ、導入することを含む。非ヒト動物を、本発明に従って、糖尿病の治療および/または予防に有用である化合物を同定する方法において、使用することができる。トランスジェニック胚の作製、およびそれらのスクリーニングは、例えば、A. L. Joyner Ed., Gene Targeting, A Practical Approach (1993) , Oxford University Pressに記述されるように、行うことができる。胚の胚膜のDNAを、例えば、適当なプローブを用いるサザンブロットを使用して、分析することができる。トランスジェニック非ヒト動物を作製する一般的な方法は、当該技術分野において記述されている(例えば、WO 94/24274を参照のこと)。トランスジェニック非ヒト生物(相同的にターゲッティングされた非ヒト動物が含まれる)の作製のため、胚性幹細胞(ES細胞)が好ましい。原則的に記述されるように(Robertson, E. J. (1987) in Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: A Practical Approach. E. J. Robertson, ed.(Oxford: IRL Press), p. 71)、有糸分裂不活性のSNL76/7細胞フィーダー層(McMahonとBradley (1990) Cell 62,1073)上に成育されるAB-1細胞株などのマウスES細胞は、相同性遺伝子ターゲッティングに用いることができる。その他の適切なES細胞株には、限定するものではないが、E14細胞株(Hooperら、 (1987) Nature 326, 292)、D3細胞株(Doetschmanら、(1985) J. Embryol. Exp. Morph. 87, 27)、CCE細胞株(Robertsonら、 (1986) Nature 323, 445)、AK-7細胞株(Zhuangら、(1994) Cell 77, 875)が含まれる。特異的な標的化変異をもつES細胞からのマウス系統作製の成功は、ES細胞の多能性に依存する(すなわち、胚盤胞または桑実胚などの胚を発生させる宿主に注入されると、胚形成に加わり、そして結果として生じる動物の生殖細胞に寄与する、それらの細胞の能力)。注入されたES細胞を含む胚盤胞は、偽妊娠した非ヒトメスの子宮内で発生することができ、そして例えば、キメラマウスとして産まれる。結果として生じるトランスジェニックマウスは、リコンビナーゼかレポーター遺伝子座のどちらかを有する細胞のキメラであり、そして戻し交配し、次にリコンビナーゼか(1または複数の)レポーター遺伝子座のどちらかについてヘテロ接合体であるトランスジェニックマウスを同定するために、産仔の尾生検DNAをPCRまたはサザンブロット分析よって正しくターゲティングされたトランスジーンの存在をスクリーニングする。例えば、ベータ細胞特異的および膵臓特異的遺伝子操作については、ラットインスリンプロモーター(RIP-1およびRIP-2)および膵-十二指腸-ホメオボックス-1(Pdx1)プロモーターをそれぞれ使用することができる。これらのプロモーターは、一般に、着目する遺伝子を定常的または誘導的様式で発現させることに使用される。
【0067】
より好ましい態様において、段階(b)における測定は、前記非ヒト動物におけるインスリン分泌の定量に関与する。
本発明はまた、糖尿病治療のための医薬組成物の製造のための、ephrin活性の活性化因子の使用にも関連し、ここでこの活性化因子は、(a)Eph受容体チロシンキナーゼの細胞外ドメインおよびFc鎖からなる、融合タンパク質;(b)細胞質尾部を欠失する、Eph受容体チロシンキナーゼのドミナントネガティブ欠失変異タンパク質;(c)(a)または(b)のタンパク質をコードする核酸分子;(d)(c)の核酸分子を含むベクター;および(e)(d)のベクターを含む宿主、からなる群より選択される。
【0068】
本発明の下で、“活性化因子”という用語は、好ましくは、以下の作用の1つまたはそれ以上を行うことによって、標的分子の活性化を亢進する化合物として定義される:(i)活性化されるべきタンパク質をコードする遺伝子の転写を亢進する、(ii)活性化されるべきタンパク質をコードするmRNAの翻訳を亢進する、(iii)活性化因子の存在下、タンパク質が、効率が低下した状態でその生化学的機能を示す、および(iv)活性化因子の存在下、タンパク質が、効率が低下した状態でその細胞内機能を示す。
【0069】
別の態様において、活性化因子は低分子である。低分子は、天然由来の化合物、または化学的に合成された化合物であり、好ましくは、分子量が10000 Da未満、より好ましくは1000 Da未満、より好ましくは500 Da未満、そして最も好ましくは200 Daから400 Daである。
【0070】
好ましくは、低分子は、例えば有機分子であってよい。有機分子は、炭素-炭素結合によって炭素原子が互いに結合した、炭素に基づく化合物分類に関連するか、あるいはその分類に属する。有機という用語のもともとの定義は、有機化合物が、植物または動物、あるいは微生物源より得られる、炭素を含む化合物であり、一方無機化合物は、鉱物源より得られるという、化合物の源に関連した。有機化合物は、天然または合成であってもよい。あるいは、化合物は、無機化合物であってよい。無機化合物は、鉱物源より得られ、そして炭素原子を含まない(二酸化炭素、一酸化炭素、および炭酸塩を除く)全ての化合物が含まれる。
【0071】
活性化因子の効率は、活性化因子の存在下における活性レベルを、活性化因子の非存在下での活性レベルと比較することにより、定量することができる。例えば、活性測定として以下を使用することができる:形成されるmRNA量の変化、形成されるタンパク質量の変化、リン酸化の量の変化、および/または細胞の表現型または生物の表現型における変化。
【0072】
好ましい態様において、活性のレベルは、活性化因子の非存在下の活性より10%高く、より好ましくは活性のレベルは活性化因子の非存在下の活性より25%または50%高い。活性のレベルが、活性化因子の非存在下の活性よりも、75%、80%、90%、または100%高くまで活性化因子が亢進することがさらにより好ましい。
【0073】
本発明の下で、“医薬組成物”という用語は、患者、好ましくはヒトの患者に投与する組成物に関連する。本発明の医薬組成物は、上述の化合物を含む。それはさらに、本発明の化合物の特性を変化させて、それによって例えばその機能を安定化、調節、および/または活性化することができる分子を、さらに含むことができる。この組成物は、固体、液体、または気体の形態であってよく、そして特に、粉末、錠剤、液剤、またはエアロゾルの形態であってよい。本発明の医薬組成物は、選択的および付加的に、薬学的に許容可能な担体を含むことができる。安定な薬学的担体の例は、当該技術分野でよく知られており、そしてリン酸緩衝生理食塩水、水、油/水エマルションなどのエマルション、様々な型の湿潤剤、滅菌溶液、DMSOを含む有機溶媒などが含まれる。前記担体を含む組成物は、良く知られた通常の方法によって製剤化することができる。これらの医薬組成物は、適切な投与量で患者に投与することができる。投薬計画は、主治医および臨床的因子によって、決定されるであろう。医学分野で良く知られている通り、あらゆる患者に対する投与量は、患者のサイズ、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与の時間および経路、総体的な健康、および同時に投与されるその他の薬剤を含む、多数の因子に依存する。与えられた状況における、治療的有効量は、日常的な実験によって容易に決定することができ、そして通常の臨床医または医師の技術および判断の範囲内である。一般に、医薬組成物の通常の投与計画は、1日に1μgから5 g単位の範囲内であるべきである。しかしながら、より好ましい投与量は、1日に、0.01 mgから100 mg、さらにより好ましくは0.01 mgから50 mg、そして最も好ましくは0.01 mgから10 mgの範囲内であってよい。
【0074】
本発明の下で、“Eph受容体チロシンキナーゼの細胞外ドメイン”は、Eph受容体チロシンキナーゼの細胞外ドメインを含むタンパク質として定義され、一般に、N末端のはじめの200アミノ酸残基を、好ましくははじめの300アミノ酸残基を、より好ましくははじめの400アミノ酸残基を、より好ましくは、はじめの530アミノ酸残基を、より好ましくははじめの590アミノ酸残基を、そして最も好ましくははじめの600アミノ酸残基を含む。
【0075】
“Fc鎖”という用語は、抗体のクラスに応じて、2〜3個の定常ドメインがそれぞれ寄与する、2本の重鎖からなる抗体の領域として、定義される。Fc鎖は様々な細胞受容体および補体タンパク質に結合する。
【0076】
“細胞質尾部を欠失するEph受容体チロシンキナーゼ”は、最後の200〜850個のC末端アミノ酸残基を欠失するタンパク質として定義され、そのタンパク質は、好ましくは最後の400〜600個のC末端アミノ酸残基を欠失し、より好ましくは、最後の450〜550個のアミノ酸残基を欠失し、そして最も好ましくは、最後の470〜520個のC末端アミノ酸残基を欠失する。あるいは、前記“細胞質尾部を欠失するEph受容体チロシンキナーゼ”は、少なくとも細胞外部分を含むEph受容体チロシンキナーゼとして定義されることができ、そして好ましくは、前記Eph受容体チロシンキナーゼは、少なくとも細胞外部分および膜貫通領域を含む。
【0077】
“ドミナントネガティブ変異体”という用語は、野生型タンパク質の機能と相互作用する、および/または阻害する、タンパク質を産生する変異体のことを言う。
好ましい態様において、核酸分子はDNAである。
【0078】
核酸分子は、いくつかの商業的に入手可能なベクターに挿入することができる。限定的ではない例には、pREP(Invitrogen)、pcDNA3(Invitrogen)、pCEP4(Invitrogen)、pMC1neo(Stratagene)、pXT1(Stratagene)、pSG5(Stratagene)、EBO-pSV2neo、pBPV-1、pdBPVMMTneo、pRSVgpt、pRSVneo、pSV2-dhfr、pIZD35、pLXIN、pSIR(Clontech)、pIRES-EGFP(Clontech)、pEAK-10(Edge Biosystems)、pTriEx-Hygro(Novagen)、pCINeo(Promega)、Okayama-Berg cDNA発現ベクターpcDV1(Pharmacia)、pRc/CMV、pcDNA1、pSPORT1(GIBCO BRL)、pGEMHE(Promega)、pSVLおよびpMSG(Pharmacia, Uppsala, Sweden)、pRSVcat(ATCC 37152)、pSV2dhfr(ATCC 37146)、またはpBC12MI(ATCC 67109)などの、哺乳動物細胞における発現と互換性のあるベクターが含まれる。
【0079】
上述の核酸分子は、別の核酸分子との翻訳的融合を生じさせるベクターに挿入することもできる。ベクターはまた、正確なタンパク質折り畳み(folding)を促進する、1つまたはそれ以上のシャペロンをコードする、さらなる発現可能なポリヌクレオチドを含むこともできる。
【0080】
ベクター改変技術に関しては、SambrookとRussel (2001) 前記と同出典、を参照のこと。一般に、ベクターは、1つまたはそれ以上の複製開始点(ori)およびクローニングまたは発現用の遺伝システム(inheritance system)、1つまたはそれ以上の、例えば抗生物質耐性などの、宿主内での選択用マーカー、および1つまたはそれ以上の発現カセットを含むことができる。
【0081】
ベクター内に挿入されたコード配列は、例えば、標準的な方法によって合成されるか、あるいは天然源から単離されることができる。転写制御エレメントへのコード配列のライゲーション、および/またはその他のアミノ酸コード配列へのコード配列のライゲーションは、確立された方法を使用して実行することができる。真核細胞における発現を確実にする転写調節エレメント(発現カセットの一部)は、当業者によく知られている。これらのエレメントは、転写開始を確実にする制御配列(例えば、転写開始コドン、プロモーター、エンハンサー、および/またはインスレーター)、内部リボソーム進入部位(IRES)(Owens (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 1471)、および選択的に転写の終結および転写物の安定化を確実にするポリAシグナルを含む。さらなる制御エレメントには、転写エンハンサーおよび翻訳エンハンサー、および/または天然関連(naturally-associated)プロモーター領域または異種プロモーター領域が含まれてよい。好ましくは、核酸分子は前記発現調節配列と機能可能に連結して、真核細胞における発現を可能にする。ベクターは、さらなる制御エレメントとして、分泌シグナルをコードするヌクレオチド配列をさらに含むことができる。そのような配列は、当業者によく知られている。さらに、使用する発現系に応じて、発現したポリペプチドを細胞内コンパートメントに移動させることができるリーダー配列を、本発明のポリヌクレオチドのコード配列に付加することができる。そのようなリーダー配列は、当該技術分野において、よく知られる。
【0082】
転写の開始を確実にする制御エレメントの可能な例は、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40-プロモーター、RSV-プロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、lacZプロモーター、gai10プロモーター、ヒト伸長因子1a-プロモーター、CMVエンハンサー、CaM-キナーゼプロモーター、Autographa californica 核多角化ウイルス(AcMNPV)多角化プロモーター、またはSV40-エンハンサーを含む。原核細胞および真核細胞におけるさらなる制御エレメントの例には、SV40-ポリ-A部位、またはtk-ポリ-A部位などの転写終結シグナル、またはポリヌクレオチド下流のSV40、lacZおよびAcMNPV多角的ポリアデニル化シグナルが含まれる。さらに、複製開始点などのエレメント、薬物耐性遺伝子、レギュレーター(誘導性プロモーターの一部として)もまた、含まれていてもよい。さらなるエレメントには、エンハンサー、コザック配列、およびRNAスプライシングのドナーおよびアクセプター部位によって挟まれた介在配列が含まれてよい。高効率の転写は、SV40由来の初期および後期プロモーター、例えば、RSV、HTLVI、HIVIなどのレトロウイルス由来の長い末端反復(LTR)、およびサイトメガロウイルス(CMV)の初期プロモーターによって、達成されることができる。しかしながら、細胞エレメントもまた使用することができる(例えば、ヒトアクチンプロモーター)。
【0083】
dhfr、gpt、ネオマイシン、ハイグロマイシンなどの選択可能なマーカーとの同時トランスフェクションは、トランスフェクションされた細胞の同定および単離を可能にする。トランスフェクションされた核酸を増幅して、コードされた(ポリ)ペプチドを大量に発現することもできる。DHFR(ジヒドロ葉酸還元酵素)マーカーは、着目する遺伝子の数百、あるいは数千ものコピーをもつ細胞株を作成するために有用である。別の有用な選択マーカーは、酵素グルタミンシンターゼ(GS)(Murphyら、 (1991) Biochem J. 227, 277; Bebbingtonら、 (1992) Bio/Technology 10, 169)である。これらのマーカーを使用して、哺乳動物細胞は選択培地中で成育され、そして最も高い耐性を有する細胞が選択される。上に示される通り、発現ベクターは、好ましくは少なくとも1つの選択可能なマーカーを含むだろう。そのようなマーカーには、真核細胞培養のための、ジヒドロ葉酸還元酵素、G418、またはネオマイシン耐性が含まれる。
【0084】
本明細書中に上述の通り、核酸分子は、細胞への直接的な導入、またはリポソーム、ファージベクター、またはウイルスベクター(例えばアデノウイルス、レトロウイルスの)を介する細胞への導入に向けて、設計されることができる。さらに、バキュロウイルス系、またはワクシニアウイルスまたはセムリキ森林熱ウイルスに基づく系を、本発明の核酸分子における真核発現系として、使用することができる。
【0085】
使用することができる哺乳動物宿主細胞には、ヒトHela、HEK293、H9、およびJurkat細胞、マウスNIH3T3およびC127細胞、Cos 1、Cos 7、およびCV1、ウズラQC1-3細胞、マウスL細胞、およびチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が含まれる。さらに、初代細胞もまた、本発明の範囲内である。そのような初代細胞は、例えば、マウス、ラット、またはヒトなどの、哺乳動物由来であってよい。
【0086】
好ましい態様において、上述の核酸分子は、哺乳動物に含まれる細胞中に含まれる。
好ましくは、前記哺乳動物はヒトである。
好ましい態様において、医薬組成物は、Eph受容体チロシンキナーゼの阻害剤をさらに含み、ここでその阻害剤は、前記Eph受容体チロシンキナーゼをコードする核酸に特異的に結合する、アンチセンス核酸分子、miRNA、siRNA、またはshRNAからなる群、あるいは抗体またはアプタマーからなる群より選択される。
【0087】
“阻害剤”という用語は、好ましくは1つまたはそれ以上の以下の作用を実施することによって、標的分子の活性を低下させる化合物を言う:(i)阻害されるべきタンパク質をコードする遺伝子の転写を低下させる、(ii)阻害されるべきタンパク質をコードするmRNAの翻訳を低下させる、(iii)阻害剤の存在下、タンパク質が、効率が低下した状態でその生化学的機能を示す、および(iv)阻害剤の存在下、タンパク質が、効率が低下した状態でその細胞機能を示す。
【0088】
分類(i)に入る化合物には、転写装置を阻害する化合物、および/または前記遺伝子のプロモーターおよび/またはエンハンサーなどのプロモーターから離れた発現調節エレメントとのその相互作用を阻害する化合物が含まれる。分類(ii)の化合物は、アンチセンス構造物、および当該技術分野においてよく知られるRNA干渉を行う構造物(例えばsiRNA)を含む(例えば、Zamore (2001) Nat Struct Biol. 8(9), 746; Tuschl (2001) Chembiochem. 2(4), 239参照)。分類(iii)の化合物は、阻害されるべきタンパク質の分子機能、Eph受容体チロシンキナーゼの場合にはその酵素活性を、特に、プロテインキナーゼ活性を阻害する。従って、活性部位結合化合物、特にあらゆるプロテインキナーゼの活性部位に結合することができる化合物が、想定される。より好ましくは、Eph受容体チロシンキナーゼの活性部位に特異的に結合する化合物である。分類(iv)には、Eph受容体チロシンキナーゼに必ずしも直接的に結合しないが、それでも、例えば、Eph受容体チロシンキナーゼを含む経路の構成要素に結合することによって、および/またはEph受容体チロシンキナーゼを含む経路の構成要素の機能を阻害することによって、またはEph受容体チロシンキナーゼを含む経路の構成要素の発現を阻害することによって、Eph受容体チロシンキナーゼ活性を阻害する化合物が含まれる。これらの構成要素は、前記経路内のEph受容体チロシンキナーゼの上流あるいは下流のどちらかであってよい。
【0089】
阻害剤の効率は、阻害剤の存在下における活性レベルを、阻害剤の非存在下の場合と比較することにより、定量することができる。例えば、活性測定として以下を使用することができる:形成されるmRNA量の変化、形成されるタンパク質量の変化、リン酸化の量の変化、および/または細胞の表現型または生物の表現型における変化。
【0090】
好ましい態様において、活性のレベルは、阻害剤の非存在下の活性の90%より低く、より好ましくは、80%、70%、60%、または50%より低い。さらにより好ましくは、阻害剤の非存在下の活性の25%より低いか、10%より低いか、5%より低いか、または1%より低いレベルまで低下させる阻害剤である。
【0091】
Eph受容体チロシンキナーゼの阻害剤の添加は、例えば、Eph受容体チロシンキナーゼが、活性のときにインスリン分泌を阻害するため、インスリン分泌を亢進させる(実施例3、7、9、および10参照)。そのため、治療濃度域は、例えば、ephrin活性化因子およびEph受容体チロシンキナーゼ阻害剤の組み合わせを使用する場合により広く、例えば、インスリン分泌の望ましい効果と比較して副作用が少ない。
【0092】
本発明はまた、糖尿病の治療を目的とする医薬組成物の製造における、Eph受容体チロシンキナーゼ活性の阻害剤の使用にも関連し、ここでその阻害剤は、(a)前記Eph受容体チロシンキナーゼに特異的に結合する、抗体、アプタマー、またはそれらのフラグメントまたは誘導体;(b)前記Eph受容体チロシンキナーゼの細胞内ドメインをコードする核酸を特異的に切断するリボザイム;(c)Eph受容体チロシンキナーゼに対するプロテインチロシンホスファターゼ;(d)Eph受容体チロシンキナーゼに対するプロテインチロシンホスファターゼの還元剤;(e)(c)のプロテインチロシンホスファターゼをコードする核酸分子;(f)(e)の核酸分子を含むベクター;(g)(f)のベクターを含む宿主;および(h)ATPと競合するEph受容体チロシンキナーゼの阻害剤;からなる群から選択される。
【0093】
“リボザイム”という用語は、タンパク質の非存在下で、酵素として働くRNA分子のことを言う。これらのRNA分子は、触媒作用、または自己触媒作用を示し、そして例えば、別のRNAを、特異的な標的部位において切断することができる。適切な標的部位の選択および対応するリボザイムの選択は、例えば、Steineckeら( (1995) Methods in Cell Biology 50, 449)に記載される通りに行うことができる。
【0094】
十分に特徴づけられた小さい自己切断RNAの例には、限定するものではないが、ハンマーヘッド、ヘアピン、デルタ肝炎ウイルス、およびin vitroで選択された鉛-依存性リボザイムが含まれる。これらの小さい触媒の構成は、グループIイントロンなどのより大きなリボザイムのものと対照的である。
【0095】
触媒的自己切断の原理は、過去10年間に十分に確立された。ハンマーヘッドリボザイムは、リボザイム活性を有するRNA分子の中で、一番よく特徴づけられている。ハンマーヘッド構造を異種RNA配列中に組み入れることができること、そしてそれによって、そのリボザイム活性をこれらの分子に移行させることができることが示されたため、標的配列が切断部位に適合することができる配列を含むならば、ほとんどすべての標的配列に対する触媒的アンチセンス配列を作成することができると考えられる。
【0096】
ハンマーヘッドリボザイムを構築する基本的な原理は、以下の通りである:GUC(またはCUC)トリプレットを含む、RNAの着目する領域が選択される。それぞれ6から8ヌクレオチドをもつ2つのオリゴヌクレオチド鎖が選ばれ、そして触媒的ハンマーヘッド配列をそれらの間に挿入する。この型の分子が、多数の標的配列に対して合成された。それらは、in vitroで、そしていくつかの場合にはin vivoでも触媒活性を示した。通常、短いリボザイムおよび短い標的配列について、一番良い結果が得られる。
【0097】
そのようなリボザイムは、例えばEph受容体チロシンキナーゼをコードする核酸の細胞質尾部を、特異的に切断し、それによって、例えば、細胞外部分および膜貫通部分のみからなる、短縮されたEph受容体チロシンキナーゼを生じる。好ましくは、そのリボザイムは、前記Eph受容体チロシンキナーゼをコードする核酸分子の3’末端から少なくとも500ヌクレオチドにおいて、より好ましくは少なくとも1000ヌクレオチドで、そして最も好ましくは3’末端から少なくとも2500において、切断する。
【0098】
ベクターおよび宿主は、上述の通りに定義される。
“ATPと競合するEph受容体チロシンキナーゼの阻害剤”とは、例えばキナーゼのATP結合部位に結合し、そしてこの部位にATPが近づけないようにすることによってその活性を阻害する、その能力によってさらに特徴づけられる、上述のような低分子のことを言う。例には、限定するものではないが、スタウロスポリンが含まれる。
【0099】
キナーゼ活性の阻害は、Eph受容体チロシンキナーゼがリン酸転移の能力の欠損をもたらし、Eph受容体チロシンキンキナーゼ活性の喪失を導く。
好ましい態様において、治療される糖尿病の型はII型糖尿病である。
【0100】
図1:膵島およびMIN6 細胞におけるephrin-A類およびEphA類の発現および局在
(A)2つの隣接したβ-細胞間の、ephrin-AおよびEphAの両方向性シグナル伝達、およびそれぞれEph-A5-Fcおよびephrin-A5-Fc融合タンパク質による、ephrin-A逆方向シグナル伝達およびEphA順方向シグナル伝達の外因性活性化のモデル。円で囲まれたPは、チロシンリン酸化を示す。
【0101】
(B)マウス膵島およびマウスインスリノーマ細胞(MIN6)から単離されたmRNAを使用して行われる、ephrin-A1からephrin-A5、およびEphA1からEphA8についてのRT-PCR産物。
(C〜F)マウス膵臓切片の共焦点画像は、外分泌膵臓組織に囲まれた膵島を示す。切片は、(C)抗ephrin-A5抗体、(D)ephrin-A類に結合するEphA5-Fc、(E)抗EphA5抗体、および(F)EphA類に結合するephrin-A5-Fcを用いて、染色された。スケールバーは50μm。
【0102】
(G〜I)ephrin-A類およびEphA5について染色されたMIN6細胞の群の共焦点画像。(G)低倍率、(H、I)(G)における以下の領域の高倍率:(H)EphA-ephrin-Aが共局在している2つのMIN6細胞間の接触領域(白の矢頭)、および(I)ephrin-A類(薄い灰色矢頭)およびEphA5(濃い灰色矢頭)間の共局在のない、MIN6細胞の結合のない(free)表面。抗EphA5抗体は、EphA5のC末端に対して作られており、ephrin-A類を染色するのに用いられるEphA5-Fcには結合できなかったことに注目すべきである。
【0103】
スケールバーは、Gでは10μm、HおよびIでは2μm。
図2:ephrin-A5は、グルコース刺激性インスリン分泌において必要とされる
(A)2 mMグルコース(白カラム)および25 mMグルコース(黒カラム)における、対照および、ephrin-A5-/-膵島からのインスリン分泌。分泌されたインスリンは、インスリン含量および全タンパク質含量に対して正規化される。Δ、基礎インスリン分泌とグルコース刺激性インスリン分泌の差。N=3実験。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。
【0104】
(B)対照マウスおよびephrin-A5-/-マウスから単離された膵島の、全タンパク質含量の%で示された、インスリン含量。N=3実験。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。
【0105】
(C)対照およびephrin-A5-/-マウスのグルコース負荷試験。N=各7匹のマウス。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。
(D、E)(D)対照siRNAおよび(E)ephrin-A5 siRNA 2をトランスフェクションしたMIN6細胞のEphA5-Fc免疫染色(白)。細胞核はDAPI(灰色)によって染色される。スケールバーは20μm。
【0106】
(F)対照siRNA、ephrin-A5 siRNA 1、ephrin-A5 siRNA 2をトランスフェクションしたMIN6細胞からの、あるいはephrin-A5 siRNA 2と標的3’-UTRをもたないephrin-A5 cDNAとを共トランスフェクションしたMIN6細胞からの、インスリン分泌。白カラムは2 mMグルコース;黒カラムは25 mMグルコース。分泌されたインスリンは、インスリン含量および全タンパク質含量に対して正規化される。N=6実験。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。
【0107】
図3:インスリン分泌に対するEphA5-Fcとephrin-A5-Fcの反対の作用
(A、B)2 mMグルコース(白カラム)および25 mMグルコース(黒カラム)において、Fc(対照として)、EphA5-Fc(ephrin-A逆方向シグナル伝達を活性化する)、およびephrin-A5-Fc(EphA順方向シグナル伝達を活性化する)で処理された(A)マウス膵島、および(B)MIN6細胞からのインスリン分泌であり、インスリン含量および全タンパク質含量に対して正規化される。N=3実験。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。
【0108】
(C)高細胞密度(左下画像)および低細胞密度(右下画像)における、Fc(白カラム)またはEphA5-Fc(黒カラム)処理後の、MIN6細胞からのグルコース刺激性インスリン分泌。N=4実験。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。スケールバーは100μm。
【0109】
(D)高細胞密度(左下画像)および低細胞密度(右下画像)における、Fc(白カラム)またはephrin-A5-Fc(黒カラム)処理後の、MIN6細胞からの基礎インスリン分泌。N=3実験。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。スケールバーは100μm。
【0110】
(E)高細胞密度および低細胞密度で成育され、基礎的な条件下、+Fcまたは+ephrin-A5-Fcで1時間維持したMIN6細胞の溶解物からEphA5免疫沈降後、ウェスタンブロットにおけるチロシンリン酸化EphA5(PY)および全EphA5の検出。
【0111】
(F)全EphA5タンパク質に対するEphA5チロシンリン酸化が、(E)に示される実験についてのヒストグラムで示される。N=2実験。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。
図4:インスリン分泌顆粒融合に対する、ephrin-A逆方向シグナル伝達とEphA順方向シグナル伝達との反対の作用
(A)インスリン-GFPを発現する1つのマウス膵β-細胞における、EphA5-Fcによるephrin-A逆方向シグナル伝達の活性化を示すモデル。全反射蛍光顕微鏡(TIR-FM)を使用して、インスリン分泌顆粒(SG)と細胞膜との融合を検出した。
【0112】
(B)EphA5-Fcの非存在下(対照)、または存在下、22 mMグルコース処理において、1つのβ-細胞における、16分間に検出されるすべての分泌融合事象を示すヒストグラム。先にドッキングされたSG(黒カラム)および新しく導入されたSG(白カラム)の融合事象は、面積に対して正規化された。N=各5から7細胞。*p<0.05。すべての値は平均値±SEM。
【0113】
(C、D)1つのβ-細胞における、融合事象の経時変化。細胞は、EphA5-Fcの(C)非存在下、または(D)存在下、22 mMグルコースで処理された。新しく導入されたSG(白カラム)、および先にドッキングされたSG(黒カラム)の、融合事象が示される。N=各5から7細胞。
【0114】
(E)1つのインスリン-GFP発現マウス膵β-細胞における、ephrin-A5-FcによるEphA順方向シグナル伝達の活性化を示すモデル。TIR-FMを使用して、SGと形質膜との融合を検出した。
【0115】
(F)ephrin-A5-Fcの非存在下(対照)、または存在下、22 mMグルコース処理において、1つのβ-細胞における、16分間に検出されるすべての分泌融合事象を示すヒストグラム。先にドッキングされたSG(黒カラム)および新しく導入されたSG(白カラム)の融合事象は、面積に対して正規化された。N=各20から21細胞。*p<0.05。すべての値は平均値±SEM。
【0116】
(G、H)1つのβ-細胞における、融合事象の経時変化。細胞は、ephrin-A5-Fcの(G)非存在下、または(H)存在下、22 mMグルコースで処理された。新しく導入されたSG(白カラム)、および先にドッキングされたSG(黒カラム)による、融合事象が示される。N=各20から21細胞。
【0117】
図5:F-アクチンおよびRac1活性に対する、EphA5-Fcおよびephrin-A5-Fcの反対の作用
(A〜D)(A)2 mMグルコースおよびFc(対照)、(B)2 mMグルコースおよびEphA5-Fc(ephrin-A逆方向シグナル伝達を活性化する)、(C)25 mMグルコースおよびFc(対照)、(D)25 mMグルコースおよびephrin-A5-Fc(EphA順方向シグナル伝達を活性化する)によって、10分間処理されたMIN6細胞のF-アクチン染色。スケールバーは、20μm。
【0118】
(E)2 mMグルコース(白カラム)および25 mMグルコース(黒カラム)において、Fc、EphA5-Fc、およびephrin-A5-Fcで10分間処理されたMIN6細胞における、F-アクチン蛍光強度の定量。N = 3カバースリップそれぞれのN = 10画像を定量した。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。
【0119】
(F)コンフルエントMIN6細胞の溶解物からPak1-PBDプルダウン後、ウエスタンブロットにおける、活性型Rac1-GTP(上のバンド)および全Rac1(下のバンド)の検出。細胞は、2 mMグルコース(白カラム)および25 mMグルコース(黒カラム)において、Fc、EphA5-Fc、およびephrin-A5-Fcで10分間処理された。
【0120】
(G)全Rac1タンパク質に対するRac1活性の対応するヒストグラム。N=3実験。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。
(H)2 mMグルコース(白カラム)および25 mMグルコース(黒カラム)において、空ベクター、DN-Rac1およびwtRac1をトランスフェクションしたMIN6細胞からの、Fc、EphA5-Fc、およびephrin-A5-Fc処理後のインスリン分泌。N=3実験。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。
【0121】
図6:EphA5のグルコース誘導性脱リン酸化
(A、B)EphA-ephrin-A両方向性シグナル伝達の結果をグルコースがどのように変化させるかを示すモデル。(A)低グルコース濃度において、EphA順方向シグナル伝達は活性化している。(B)グルコース刺激の際の、プロテインチロシンホスファターゼ(PTP)活性に関与する、EphAの脱リン酸化によってEphA順方向シグナル伝達は弱まる。
【0122】
(C〜G)細胞溶解物からのEphA5の免疫沈降後、ウエスタンブロットにおける、チロシンリン酸化EphA5(PY)および全EphA5の検出。全EphA5タンパク質に対するEphA5リン酸化レベルが、ヒストグラムに示される。2mMグルコース(白カラム);25 mMグルコース(黒カラム)。
【0123】
(C)2 mMグルコースで30分間、次に25 mMグルコースで5、10、および30分間、続いて25 mMから2 mMグルコースへ変換して30分間処理された、膵島。2 mMおよび25 mMグルコースにおいて10 分間、ephrin-A5-Fc(EphA順方向シグナル伝達を活性化する)で処理された膵島もまた示される。
【0124】
(D)2 mMグルコースで30分間、次に25 mMグルコースで2、5、10、および30分間、続いて25 mMから2 mMグルコースへ変換して30分間処理されたMIN6細胞。
(E〜G)2 mMおよび25 mMグルコースにおいて、(E)Fc(対照)、(F)ephrin-A5-Fc(EphA順方向シグナル伝達を活性化する)、および(G)Fc+10μMペルオキシバナジン酸(PV)(グルコース誘導性EphA5脱リン酸化を阻害する)によって、5分間処理されたMIN6細胞。N=2実験。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。
【0125】
図7:EphA脱リン酸化はインスリン分泌において必要とされる
(A)高グルコース濃度において、通常EphA類を脱リン酸化するPTP活性を、ペルオキシバナジン酸(PV)が遮断することを示すモデル。(B)高グルコース濃度において、PV処理細胞におけるEphA順方向シグナル伝達の阻害を、細胞質ドメインを欠失したEphA5(DN-EphA5)の過剰発現が、回復させることを示すモデル。
【0126】
(C)wt EphA5の過剰発現がPV処理細胞におけるEphA順方向シグナル伝達を促進することを示すモデル。
(D)2 mMグルコース(白カラム)および25 mMグルコース(黒カラム)において、10μMペルオキシバナジン酸(PV)の非存在下または存在下、Fc処理された、マウス膵島からのインスリン分泌。分泌されたインスリンは、インスリン含量および全タンパク質含量に対して正規化される。N=3実験。*p<0.05。すべての値は、平均値±SDである。
【0127】
(E)2 mMグルコース(白カラム)、および25 mMグルコース(黒カラム)において、10μMペルオキシバナジン酸(PV)の非存在下または存在下、空ベクター(対照として)、DN-EphA5、またはwt EphA5をトランスフェクションしたMIN6細胞からのインスリン分泌。分泌されたインスリンは、インスリン含量および全タンパク質含量に対して正規化される。N=2実験。*p<0.05。すべての値は、平均値±SDである。
【0128】
(F、G)モデル。(F)低グルコース濃度において、隣接するβ-細胞細胞膜上のEphA類とephrin-A類との相互作用が、EphAリン酸化およびキナーゼ依存性EphA順方向シグナル伝達をもたらす。これは、Rac1活性を阻害し、皮質F-アクチンを増加させ、そしてインスリン分泌を抑制する。(G)グルコース刺激に際して、PTP活性がEphA類を脱リン酸化し、そしてEphA-ephrin-A相互作用は、キナーゼ依存性EphA順方向シグナル伝達をもたらさない。その代わり、EphA類は主にephrin-A逆方向シグナル伝達を活性化し、Rac1活性を亢進し、皮質F-アクチンを再構成し、およびインスリン分泌を刺激する。
【0129】
図8:ヒト膵臓におけるephrin-A5およびEphA5の発現:EphA5-Fcおよびephrin-A5-Fcは、ヒト膵島からのインスリン分泌に、反対に作用する
(A〜F)ヒト膵臓切片の共焦点画像は、外分泌膵臓組織によって囲まれた膵島を示す。切片は、(A)ephrin-A5、(B)インスリン、(C)ephrin-A5およびインスリン(重ね合わせmerge)、(D)EphA5、(E)インスリン、(F)EphA5およびインスリン(重ね合わせmerge)について染色される。スケールバーは、Cでは100μm、Fでは50μm。
【0130】
(G)2 mMグルコース(白カラム)および25 mMグルコース(黒カラム)において、Fc(対照として)、EphA5-Fc(ephrin-A逆方向シグナル伝達を活性化する)、およびephrin-A5-Fc(EphA順方向シグナル伝達を活性化する)で処理されたヒト膵島からのインスリン分泌であり、インスリン含量および全タンパク質含量に対して正規化される。N=3実験。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。
【0131】
図9:マウス膵臓におけるephrin-A1およびEphA7の発現:EphA7-Fcおよびephrin-A1-Fcは、グルコース刺激性インスリン分泌に、反対に作用する
(A、B)外分泌膵臓組織によって囲まれた膵島を示す、マウス膵臓切片の共焦点画像。切片は、(A)ephrin-A1、および(B)EphA7について染色された。スケールバーは、20μm。
【0132】
(C)2 mMグルコース(白カラム)および25 mMグルコース(黒カラム)において、Fc(対照として)、EphA7-Fc(ephrin-A逆方向シグナル伝達を活性化する)、およびephrin-A1-Fc(EphA順方向シグナル伝達を活性化する)で処理されたMIN6細胞からのインスリン分泌であり、インスリン含量および全タンパク質含量に対して正規化される。N=3実験。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。
【0133】
図10:マウスインスリノーマ細胞における、EphA類とephrin-A類の区別
(A、B)(A)EphA5-Fcによりephrin-A類について、および(B)ephrin-A5-FcによりEphA類について染色された、透過処理をしていないMIN6細胞の共焦点画像。スケールバーは、20μm。
【0134】
(C)EphA5-Fcによりephrin-A類について(白)、およびインスリンについて(灰色)染色された、透過処理されたMIN6細胞の共焦点画像。低倍率画像でのスケールバーは10μm、および高倍率画像でのスケールバーは2μm。
【0135】
(D)ephrin-A5-FcによるEphA類について(灰色)、およびインスリンについて(白)染色された、透過処理されたMIN6細胞の共焦点画像。低倍率画像でのスケールバーは10μm、および高倍率画像でのスケールバーは2μm。
【0136】
図11:インスリン分泌アッセイにおける対照
(A、B)2 mMグルコース(白カラム)および25 mMグルコース(黒カラム)における、(A)マウス膵島、および(B)Fc対照フラグメントなし(w/o)または有りのMIN6細胞からのインスリン分泌。分泌されたインスリンは、インスリン含量および全タンパク質含量に対して正規化される。N=3実験。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。
【0137】
(C、D)それぞれ図3Aおよび図3Bに示される、インスリン分泌測定に使用された(C)マウス膵島、および(D)MIN6細胞のインスリン含量。インスリン含量は、全タンパク質含量の%として示される。N=3実験。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。
【0138】
(E)Fc、EphA5-Fc、およびephrin-A5-Fcで1時間処理されたMIN6細胞におけるBrdU取り込みアッセイ。N=3実験。すべての値は平均値±SDである。
(F)Fc、EphA5-Fc、およびephrin-A5-Fcで1時間処理されたMIN6細胞のWST-1(水溶性テトラゾリウム-1)生存率力アッセイ。N=3実験。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。
【0139】
図12:EphA順方向シグナル伝達は、インスリン分泌を阻害する
(A、B)EphA5細胞質ドメインの可能性のある役割を示すモデル。
(A)細胞質ドメインをもたないドミナントネガティブEphA5(DN-EphA5)の過剰発現は、EphA5順方向シグナル伝達を遮断し、そしてephrin-A逆方向シグナル伝達を活性化する。(B)全長EphA5(wt EphA5)の過剰発現は、EphA順方向シグナル伝達およびephrin-A逆方向シグナル伝達を活性化する。
【0140】
(C)2 mMグルコース(白カラム)および25 mMグルコース(黒カラム)において、対照として空ベクター、DN-EphA5、およびwt EphA5をトランスフェクションしたMIN6細胞からのインスリン分泌。N=3実験。*p<0.05。すべての値は平均値±SDである。
【0141】
図13:グルコース刺激性インスリン分泌に対する、EphA5-Fcを介する作用において、コネキシン-36が必要とされる
(A、B)(A)対照siRNA、および(B)Cx36 siRNA 2をトランスフェクションしたMIN6細胞の、コネキシン-36(Cx36)染色(白)。細胞核は、DAPIにより染色された(灰色)。スケールバーは20μm。
【0142】
(C)2 mMグルコース(白カラム)および25 mMグルコース(黒カラム)における、対照siRNA、Cx36 siRNA 1、Cx36 siRNA 2、Cx36 siRNA2およびCx36 cDNAをトランスフェクションしたMIN6細胞からのインスリン分泌。N=3実験。*p≦0.05。すべての値は平均値±SDである。
【実施例】
【0143】
本実施例は、本発明を説明する。特に、本実施例は、本発明の態様において必須の化学的基盤を形成する、Eph受容体チロシンキナーゼとephrinとの間の相互作用が、グルコース刺激下のインスリン分泌亢進における分子基盤であるという、驚くべき知見を証明する。
【0144】
実験方法
細胞培養およびトランスフェクション方法
37-47継代のMIN6細胞(Miyazakiら、 (1990) Endocrinol. 127, 126)を、先に記載の通り(Nikolovaら、 (2006) Dev. Cell 10, 397)維持した。pEGFP、pEGFP-wtEphA5(Gaoら、(1998) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95, 5329)、pEGFP-DN-EphA5(Gaoら、 (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95, 5329)、pEGFP-ephrin-A5、(Wimmer-Kleikamp ら、 (2004) J. Cell Biol. 164, 661)、pEGFP-wtRac1、pEGFP-DN-Rac1(Rac1N17)(Hall (2005) Biochem. Soc. Trans. 33, 891)、およびpcDNA-Cx36コンストラクト(Ravierら、 (2005) Diabetes 54, 1798);ホタルルシフェラーゼに対するsiRNA(対照siRNA)、ephrin-A5およびCx36を、Amaxa nucleofection(Amaxa biosystems)を使用することによって、細胞にエレクトロポレーションした。
【0145】
マウスモデル、膵島培養、およびグルコース負荷試験
C57BL/6(Knollら、(2001) Development 128, 895)である、オスephrin-A5-/-および対照となる同腹子を用いる実験を除く、すべての実験において、膵島はNMRIマウスより単離された。使用されたすべてのマウスは、8〜10週齢であった。ヒト膵島は、ドレスデン工科大学医学部の倫理調査委員会により承認され、かつザクセン州の法律に従ったプロトコールを使用することにより、かん流ヒト膵臓から単離された。マウスおよびヒト膵島は、一晩、加湿環境で(5%CO2、37℃)10%非働化ウシ胎児血清(FCS)、100 U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、1.5 g/L NaHCO3を加えた、11 mMグルコース(Gibco)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養した。グルコース負荷試験は、前述の通り行われた(Lammertら、 (2003) Curr. Biol. 13, 1070)。
【0146】
RT-PCR、siRNA合成、およびリアルタイムRT-PCR
MIN6細胞およびマウス膵島より、RNeasy Miniキット(Qiagen)を使用することによって全RNAを抽出し、そしてcDNAに転写して、それをRT-PCRに使用した。すべてのEph類およびephrin類のプライマーは、まず、陽性対照として、様々なマウス胎児器官および成体の器官から単離されたcDNAで試験された。
【0147】
ephrin-A5およびCx36の3’-UTRに対する低分子干渉RNAを、前述の通り調製した(Nikolovaら、 (2006) Dev. Cell 10, 397)。ephrin-A5およびCx36ノックダウン効率を、リアルタイムRT-PCRを使用してmRNAレベルにおいて(データは示されていない)、および免疫細胞化学において、モニターした。
【0148】
膵島およびMIN6細胞からのインスリン分泌
インスリン分泌測定のため、膵島またはMIN6細胞を、115 mM NaCl、5 mM KCl、1.2 mM KH2PO4、1 mM MgSO4、2.5 mM CaCl2、24 mM NaHCO3、2 mMグルコース、25 mM HEPES(pH 7.4)、および0.1%ウシ血清アルブミンを含む、Krebs Ringer Buffer(KRB)中、1時間、飢餓状態にした。飢餓状態にした後、基礎分泌を測定するため、培地を同一バッファー+/−Fc融合タンパク質に交換するか、あるいはグルコース刺激性インスリン分泌を測定するため、25 mMグルコース+/−Fc融合タンパク質を含むKRBに交換して、1時間インキュベーションした。Fc融合タンパク質を使用する場合、膵島を連続的に振とうして(300〜500 rpm)、Fc融合タンパク質の膵島β-細胞への接触を促進させた。分泌されたインスリンの量を培地中で測定し、そしてそれに続いて、膵島またはMIN6細胞をRIPAバッファー中に溶解させ、インスリン含量および全タンパク質含量を測定した。分泌されたインスリンは全インスリン含量および全タンパク質含量に対して正規化され、そして基礎対照インスリン分泌の%として示された。第三のカラムが基礎対照とされた図3Cを除いて、すべてのヒストグラムにおいて、第一カラムは基礎対照(=100%)を示す。分泌されたインスリンおよびインスリン含量を、超高感度ラットインスリンELISAキット(Crystal Chem inc.)を使用することによって測定した。全タンパク質含量は、BCAキット(Molecular Probes)を使用して測定した。Fc融合タンパク質(R&D systems)およびペルオキソバナジン酸(Sigma)は、それぞれ4μg/mlおよび10μMの濃度で使用した。1時間のインスリン分泌アッセイ中の膵島およびMIN6細胞の生存率および増殖を測定するため、水溶性テトラゾリウム(WST-1)試薬(Roche)およびBrdU ELISAアッセイ(Roche)をそれぞれ使用した。
【0149】
共焦点光学顕微鏡法およびTIR-FM
成体マウス膵臓、MIN6細胞、およびヒト膵臓の生検を、4%PFAで固定した。段階的スクロース浸透(9、18、および30%)の後、膵臓組織をO.C.T.で包埋し、凍結させ、そして10μmの厚さの凍結切片に切り出した。1:100-希釈のウサギ抗EphA5、ウサギ抗EphA7、ウサギ抗ephrin-A1(Santa Cruz)、ヤギ抗ephrin-A5(R&D systems)、モルモット抗インスリン(DAKO)、ウサギ抗コネキシン-36抗体、および4μg/ml Fc融合タンパク質(R&D systems)を、染色に使用した。AlexaFluor488(Molecular Probes)と、そしてCy5(Dianova)と結合した、1:500-希釈の二次抗体を使用した。1μg/ml DAPI(Sigma)を使用して、細胞核を染色した。2 mMまたは25 mMグルコースにおいて、Fc融合タンパク質あり、またはなしで、単層のMIN6細胞を10分間処理し、固定し、そして1:500-希釈のファロイジン-ローダミン(Molecular Probes)で染色した。Zeiss共焦点顕微鏡を使用することにより、共焦点画像を得て、そしてImageJ software(NIH)を使用することにより、強度を定量した。
【0150】
高開口数対物レンズ(Apo 100× OHR; NA 1.65, Olympus)を用い、Olympus全反射蛍光顕微鏡(TIR-FM)を使用した(Ohara-Imaizumiら、 (2004) Biochem. J. 381 , 13)。1つのインスリン顆粒をモニターするため、アデノウイルス(インスリン-GFP)感染初代マウスβ-細胞をオープンチャンバー内で高屈折率ガラス上にマウントし、そして2.2 mMグルコースを含むKRB(飢餓状態)中、37℃、60分間、インキュベーションした。細胞を、基礎条件下、+/−Fc融合タンパク質で、15分間、プレインキュベーションし、サーモスタット制御ステージ(37℃)に移し、そして22 mMグルコース-KRB+/−4μg/ml EphA5-Fcまたはephrin-A5-Fcを加えることにより、グルコース刺激を行った。画像は、300ミリ秒ごとに取得し、そしてMetamorph software(Molecular Devices)を使用することにより、画像を解析した。
【0151】
免疫沈降およびウエスタンブロット
MIN6細胞および膵島を、プロテアーゼインヒビターおよびホスファターゼインヒビターを加えたRIPAバッファー中で溶解させた。MIN6細胞溶解物より単離した1μgの全タンパク質、あるいは膵島溶解物より単離した500 ngの全タンパク質を、1:1,000-希釈のウサギ抗EphA5(Santa Cruz)およびプロテイン-Aビーズ(Amersham)を用いる免疫沈降に使用した。Pak1-PBD(P21-活性化キナーゼ-1-P21結合ドメイン)を用いるRac1-GTPの免疫沈降/プルダウンおよびウエスタンブロットにおいて、Rac1 Activation StressXPress Kit(Biomol)を使用した。免疫沈降物を4〜12%グラジェントSDSポリアクリルアミドゲル(Invitrogen)で分離し、そしてPVDF膜(Amersham)上に転写した。ウエスタンブロットにおいて、1:500希釈ウサギ抗EphA5抗体(Santa Cruz)、1:1,000希釈マウス抗PY抗体(Biomol)および1:200希釈ウサギ抗Rac1抗体(Santa Cruz)を使用した。1:10,000希釈HRP結合ロバ抗ウサギ抗体(Dianova)および1:5,000希釈HRP結合ヤギ抗マウス抗体(Dianova)を、二次抗体として使用した。ウエスタンブロットは、ECLシステム(Amersham)を使用して検出した。EphA5およびRac1のバンド強度を、それぞれ、全EphA5およびRac1の強度に対して正規化し、基礎対照の%として示した。バンドの強度は、TotalLab software(Stratagene)を使用することにより定量した。
【0152】
統計解析
すべての値は平均値±SDである。統計的有意性は、両側不対スチューデントt検定(two -tailed unpaired Student's t-test)を使用して決定され、そしてp<0.05であるとき、差を統計的に有意であるとみなした。
【0153】
【表2−1】

【0154】
【表2−2】

【0155】
実施例1:マウスおよびヒト膵島における、ephrin-AおよびEphAの発現
細胞-細胞コミュニケーションに関与する可能性のある候補分子として、膵島におけるEph類およびephrin類の存在を調べた(図1A)。まず初めに、我々は、マウス膵島、およびマウスインスリノーマ細胞、MIN6における、Eph類およびephrin類の転写プロフィールを調べた(図1B)。膵島およびMIN6細胞において、ephrin-A類およびEphA類の類似した転写が検出された(図1B)。我々は、ephrinB類およびEphB類の発現も検出したが(データは示さない)、膵島およびMIN6細胞の両方において、豊富かつ類似した発現のため、ephrin-A類およびEphA類に焦点を合わせた。
【0156】
免疫染色したマウス膵臓切片は、ephrin-A5とEphA5タンパク質との膵島における共発現を示し、そしてこの発現は、周囲の外分泌組織よりも膵島において強かった(図1Cおよび図1E)。同様の発現は、ヒト膵臓においても観察された(図8A〜図8F)。ephrin-A1およびEphA7などの、その他のephrin-A類およびEphA類もまた、マウス膵島において発現していた(図9Aおよび図9B)。
【0157】
次に、我々は、様々な親和性でほとんどすべてのephrin-A類およびEphA類にそれぞれ結合する、EphA5-Fc およびephrin-A5-Fc融合タンパク質で、マウス膵臓切片を染色した(図1A)(FlanaganとVanderhaeghen (1998) Annu. Rev. Neurosci. 21 , 309)。染色により、膵島ephrin-A類はEPhA5に結合し(図1D)そして、膵島EphA類はephrin-A5に結合すること(図1F)が示された。
【0158】
EphA5およびephrin-A類は、MIN6細胞が互いに接触する領域において共局在していた(図1Gおよび図1H)。EphA類とephrin-A類が運動ニューロンにおいて分離していること(Marquardtら、 (2005) Cell 121 , 127)および、いくつかの膜貫通タンパク質もまた、インスリノーマ細胞において分離していること(Ohara-Imaizumiら、 (2004) J. Biol. Chem. 279, 8403; Uhlesら、 (2003) J. Cell Biol. 163, 1327)という知見と一致して、我々はMIN6細胞の自由表面においてはEphA5とephrin-A類はほとんど共局在しないことを観察した(図1I)。さらに、透過処理をしていないMIN6細胞におけるEphA5-Fcおよびephrin-A5-Fc染色に基づいて、我々は、ephrin-A類が、EphA類と比較して、より強く細胞膜に局在していることを見い出した(図10Aおよび図10B)。反対に、EphA類は、インスリン分泌顆粒に強く局在し(図10D)、一方ephrin-A類は局在しなかった(図10C)。
【0159】
これらの結果により、EphA類およびephrin-A類は、β-細胞において共局在することが示され、また、EphA-ephrin-A両方向性シグナル伝達は隣接するβ-細胞間で行われることができることが示唆される(図1A)。
【0160】
実施例2:ephrin-A5はグルコース刺激性インスリン分泌において必要とされる
β-細胞間両方向性シグナル伝達に携わっている可能性のあるephrin-A5が、インスリン分泌に必要とされるかどうかを調べるために、我々は対照の膵島をephrin-A5欠失膵島(ephrin-A5-/-)と比較した(図2A〜図2C)。対照の膵島と比較して、ephrin-A5-/-膵島はグルコース刺激性インスリン分泌を有意に減少させた(図2Aにおける黒カラムを比較する)。これらの結果は、ephrin-A5が、通常のβ-細胞におけるグルコースに応答するインスリン分泌に必要であることを示す(図2AにおけるΔを比較する)。対照的に、対照とephrin-A5-/-膵島との間で、インスリン含量における違いは検出されず(図2B)、つまり、インスリン産生に対するephrin-A5の作用は除外された。ephrin-A5-/-マウス膵島において観察されたインスリン分泌不全(図2A)に従って、我々はephrin-A5欠失マウスにおいて耐糖能異常も検出した(図2C)。
【0161】
観察された欠失が、膵島にも存在する非β-細胞における変化による可能性を除外するため、我々はβ-細胞について頻繁に用いられるのモデルであるMIN6細胞(Miyazakiら、(1990) Endocrinol. 127, 126)において、ephrin-A5をノックダウンした(図2Dおよび図2E)。我々は、ephrin-A5ノックダウンにより、基礎インスリン分泌が有意に増加し(図2Fにおける白カラム)、並びにグルコース刺激性インスリン分泌が有意に減少すること(図2Fにおける黒カラム)を見いだした。さらに、siRNA分子の二番目のセットを用いてこの効果を再現できた。ノックダウンの特異性の証拠を提供するために、我々はsiRNAの標的となる3’-UTRを欠失したephrin-A5 cDNAを細胞に同時トランスフェクションすることにより、グルコースに対するインスリン分泌応答を回復した(図2F)。これらの結果は、ephrin-A5が基礎インスリン分泌の抑制に関与すること、およびグルコース刺激性インスリン分泌に必要であることを示す。
【0162】
実施例3:インスリン分泌に対するEphA5-Fcおよびephrin-A5-Fcの反対の作用
β-細胞間のコミュニケーションは、低グルコース濃度においてインスリン分泌を阻害するが、高グルコース濃度においてインスリン分泌を促進することが示されており、そして我々のデータは、これらのコミュニケーション作用にephrin-A5が関与することを示唆する。基本的な分子機構を明らかにするために、まず、インスリン分泌に対する、ephrin-A逆方向シグナル伝達およびEphA順方向シグナル伝達の作用を調べた(図3)。我々は、EphA5-Fcを使用して、ephrin-A逆方向シグナル伝達を促進し、そしてephrin-A5-Fcを使用して、EphA順方向シグナル伝達を促進した(図3Aおよび図3B)。しかしながら、β-細胞が互いに相互作用する場合、EphA5-Fcおよびephrin-A5-Fc融合タンパク質が、内因性のEphA順方向シグナル伝達およびephrin-A逆方向シグナルをそれぞれ阻害することもできることは、注目に値する。
【0163】
ephrin-A類およびEphA類は無差別(promiscuos)であるため(FlanaganとVanderhaeghen (1998) Annu. Rev. Neurosci. 21 , 309)、EphA5-Fcおよびephrin-A5-Fc融合タンパク質は、β-細胞における、ほとんどすべての関連するephrin-A類およびEphA類をそれぞれ操作することを可能にした。はじめに、対照Fcフラグメントが、膵島またはMIN6細胞のいずれかからのインスリン分泌に作用しないことを確認した(図11Aおよび図11B)。我々は、次に、EphA5-Fcが基礎インスリン分泌およびグルコース刺激性インスリン分泌を有意に増加させ(図3AにおけるEphA5-FcとFcを比較する)、一方ephrin-A5-Fcが膵島からのグルコース刺激性インスリン分泌を有意に減少させること(図3Aにおけるephrin-A5-FcとFcを比較する)を示した。
【0164】
膵島は主にβ-細胞からなるが、α細胞および内皮細胞などのその他の細胞型も含み、それがこれらの実験に影響した可能性もあった。そのため、我々はephrin-A逆方向シグナル伝達およびEphA順方向シグナル伝達の役割をMIN6細胞において試験し(図3B)、そして同様の結果を得た:EphA5-Fcが基礎インスリン分泌およびグルコース刺激性インスリン分泌を増加させ(図3BにおけるEphA5-FcとFcを比較する)、一方ephrin-A5-Fcがグルコース刺激性インスリン分泌を減少させる(図3Bにおけるephrin-A5-FcとFcを比較する)。さらに、EphA7-Fcおよびephrin-A1-Fcはグルコース刺激性インスリン分泌に対して同様の作用を有した(図9C)。
【0165】
インスリン分泌に対する作用は、EphA5-Fcおよびephrin-A5-Fcとの1時間のインキュベーション時間において、インスリン含量、細胞分裂または細胞生存率には、変化をもたらさなかった(図11C〜図11F)。さらに、我々は、ヒト膵島において、EphA5-Fcが基礎インスリン分泌およびグルコース刺激性インスリン分泌を大きく増加させ、一方ephrin-A5-Fcがグルコース刺激性インスリン分泌を抑制することも示した(図8G)。従って、これらの結果は、EphA5-Fcおよびephrin-A5-Fcが、効果的かつ反対方向に、マウスおよびヒト膵島からのインスリン分泌を変化させることを証明する。
【0166】
実施例4:EphA5-Fcは、細胞-細胞接触が減少した細胞において、グルコース刺激性インスリン分泌を部分的に回復させる
β-細胞コミュニケーションが減少した状況において、グルコース刺激性インスリン分泌は減少する。そのため、我々は、EphA5-Fcが、コンフルエントでないMIN6細胞におけるグルコース刺激性インスリン分泌を回復させるかどうかを調べた(図3C)。我々はまず、コンフルエントでない細胞(“低細胞密度”)が、コンフルエント細胞(“高細胞密度”)と比較して、より低いグルコース刺激性インスリン分泌を有することを示した(図3Cにおける白カラムを比較する)。次に我々は、EphA5-Fcが、コンフルエントでない細胞におけるグルコース刺激性インスリン分泌を部分的に回復させることを示した(図3Cにおける最後の2つのカラムを比較する)。これらの結果は、内因性ephrin-A逆方向シグナル伝達が、グルコース刺激性インスリン分泌を亢進することを示唆する。
【0167】
実施例5:ephrin-A5-Fcは、細胞-細胞接触が減少した細胞において、基礎インスリン分泌の抑制を完全に回復する
膵島、およびコンフルエントMIN6細胞単層を用いる実験において、我々は、ephrin-A5-Fcがグルコース刺激性インスリン分泌を減少させたが、基礎インスリン分泌を抑制しなかったことに着目した(図3Aおよび図3B)。我々は、基礎インスリン分泌が、内因性EphA-ephrin-A相互作用によって既に最大限抑制されており、そしてそのため、我々はephrin-A5-Fcを使用することによってさらに基礎インスリン分泌を減少させることができなかったと仮定した。このような場合には、内因性のEphA-ephrin-A相互作用の程度が少ない場合、ephrin-A5-Fcが基礎インスリン分泌を減少させることができることが予想される。従って、我々は、細胞-細胞接触が少ない結果として、より低い内因性EphA順方向シグナル伝達のレベルを有する、コンフルエントでないMIN6細胞を用いて実験を行った。
【0168】
図3Dに示される通り、コンフルエントでないMIN6細胞は、基礎インスリン分泌を有意に亢進した(白カラムを比較する)。これは減少した内因性EphA順方向シグナル伝達によるという仮説を支持して、我々はEphA5のリン酸化レベルが、コンフルエントの細胞と比較して、コンフルエントでないMIN6細胞においてより低いことを観察した(図3E;図3Fの白カラムを比較する)。重要なことには、ephrin-A5-Fcはコンフルエントでない細胞における基礎インスリン分泌を、コンフルエントのMIN6細胞に特徴的なレベルまで減少させた(図3Dの最後の2つのカラムを比較する)。これがEphA順方向シグナル伝達の外因性活性化に起因するという考えと一致して、EphA5のリン酸化レベルは、コンフルエントでないMIN6細胞へのephrin-A5-Fc処理により、有意に増加した(図3E;図3Fの最後の2つのカラムを比較する)。もしかすると、EphA類を細胞膜で保持し、そこでephrin-A5-Fcと結合することができるインスリン分泌顆粒の融合の増加によって、ephrin-A5-Fc処理は、コンフルエントの場合よりもコンフルエントでないMIN6細胞において、EphA5のより強いリン酸化をも誘導した(図3F)。これらの結果は、内因性EphA順方向シグナル伝達が、基礎インスリン分泌を阻害することを示唆する。
【0169】
実施例6:ephrin-A逆方向シグナル伝達は、インスリン分泌を促進する
以前の実験は、ephrin-A逆方向シグナル伝達がインスリン分泌を亢進することを強く示唆した(図3)。ここで、我々は、1つの初代β-細胞を使用して、内因性EphA順方向シグナル伝達に同時に作用することなく、EphA5-Fcを用いてephrin-A逆方向シグナル伝達を刺激した(図4A)。これは、細胞が互いに接触しなかったので可能であり、そしてそのため、それらのephrin-A類は隣接する細胞のEphA類と相互作用できなかった(図4A)。
【0170】
我々は、GFPタグのついたインスリンを初代マウスβ-細胞に発現させ、そしてこれらの細胞を、EphA5-Fcの存在または非存在下、グルコースで刺激した(図4A)。我々は次に、1つのβ-細胞における分泌事象を、全反射蛍光顕微鏡(TIR-FM)を使用することによってモニターした。経時的TIR-FMは、以前にドッキングした分泌顆粒と新しく導入された分泌顆粒の融合事象を区別することを可能にした(Ohara-Imaizumiら、 (2004) Biochem. J. 381 , 13)。図4Bに示される通り、EphA5-Fc処理は、新しく導入されたインスリン分泌顆粒の融合事象を有意に増加させた(白カラム)。
【0171】
グルコース刺激性インスリン分泌は、グルコース濃度の突然の上昇に応じて、急速な第一相それに続く持続性の第二相からなる二相性の経時変化に従う(RorsmanとRenstrom (2003) Diabetologia 46, 1029)。我々は、EphA5-Fcが、第二相に対してより強い効果を伴って、両方の相のインスリン分泌における分泌事象の数を増加させることを見出した(図4Cおよび図4Dを比較する)。我々は、これらの実験より、ephrin-A逆方向シグナル伝達はインスリン分泌を亢進させることを結論づける。
【0172】
実施例7:EphA順方向シグナル伝達はインスリン分泌を抑制する
図3に示された実験は、EphA順方向シグナル伝達がインスリン分泌を抑制することを、強く示唆した。ここで、我々は、ephrin-A5-Fc処理された1つのβ-細胞のTIR-FMを使用して、EphA順方向シグナル伝達の抑制性作用の証拠を提供した(図4E)。図4Fに示される通り、ephrin-A5-Fc処理は、新しく導入されたインスリン分泌顆粒の融合事象の数を有意に減少させた(白カラム)。さらに、ephrin-A5-Fcは、第二相に対してより強い作用を伴って、インスリン分泌の両方の相の間、分泌事象の数を減少させた(図4Gおよび図4Hを比較する)。
【0173】
インスリン分泌に対するEphA順方向シグナル伝達の阻害作用のさらなる証拠として、その細胞質ドメインを欠失したドミナントネガティブEphA5タンパク質(DN-EphA5)をMIN6細胞に発現させた(図12A)。このDN-EphA5はephrin-A類に結合し、そしてこの結合は、ephrin-A逆方向シグナル伝達を誘導するが、EphA順方向シグナル伝達を誘導しないことが予想される。対照的に、全長EphA5タンパク質(wt EphA5)の過剰発現は、ephrin-A逆方向シグナル伝達、およびEphA順方向シグナル伝達も誘導することが予想される(図12B)。EphA順方向シグナル伝達の阻害効果を支持して、我々はDN-EphA5が基礎インスリン分泌およびグルコース刺激性インスリン分泌を増加させ、一方wt EphA5過剰発現はコンフルエントMIN6細胞単層において、グルコース刺激性インスリン分泌を減少させることを見出した(図12C)。我々はEphA順方向シグナル伝達がインスリン分泌を抑制することを結論づける。
【0174】
実施例8:EphA-ephrin-Aシグナル伝達の下流標的およびそれらのインスリン分泌に対する影響
F-アクチンの不安定化はインスリン分泌を亢進し、一方その安定化はインスリン分泌を阻害することが示されてきた(Tomasら、 (2006) J. Cell Sci. 119, 2156)。このことは、高密度皮質F-アクチンネットワークが、インスリン分泌顆粒の細胞膜へのアクセスを制限するという仮説を導いた。しかしながら、完全なF-アクチンの脱重合は、グルコース刺激性インスリン分泌を阻害するため(Liら、 (1994) Mol. Biol. Cell 5, 1199)、特定のアクチンフィラメントが、分泌過程において必要とされるようである。
【0175】
ephrin-A逆方向シグナル伝達およびEphA順方向シグナル伝達が、いくつかの細胞型においてF-アクチンを再構成させることが示されたため(Marquardtら、 (2005) Cell 121 , 127)、我々はEphA5-Fcおよびephrin-A5-Fcが、マウスインスリノーマ細胞のF-アクチン状態も変化させるかどうかを試験した(図5A〜図5E)。我々は、EphA5-Fcが、そのインスリン分泌に対する刺激作用と一致して、基礎条件下、F-アクチン強度のかすかな減少を伴う、F-アクチンの再構成をもたらすことを見出した(図5Aおよび図5Bを比較する)。対照的に、ephrin-A5-Fcが、インスリン分泌へのその阻害作用と一致して、基礎条件および刺激性条件下、F-アクチンの重合を大きく増加させた(図5Cおよび図5Dを比較する)。
【0176】
EphA類は、F-アクチンのリモデリングおよびエンドサイトーシスに関与するRac1、Rho-GTPaseの活性を調節する(MuraiとPasquale (2005) Neuron 46, 161)。Rac1は、グルコース刺激性インスリン分泌にも関与するため(KowluruとVeluthakal (2005) Diabetes 54, 3523; Liら、(2004) Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 286, E818)、我々は、MIN6細胞において、EphA5-Fcおよびephrin-A5-FcがRac1活性を調節するかどうかを調べた。以前の報告(KowluruとVeluthakal (2005) Diabetes 54, 3523; Liら、 (2004) Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 286, E818)と一致して、グルコース刺激はRac1活性を有意に亢進した(Fc、図5Fおよび図5G)。インスリン分泌に対するその刺激性作用と一致して、我々は、EphA5-Fcが、基礎条件および刺激性条件下、Rac1活性を亢進することが見出された(図5GのFcとEphA5-Fcを比較する)。対照的に、ephrin-A5-Fcは、インスリン分泌に対するその阻害作用と一致して、刺激性条件下、コンフルエントのMIN6細胞において、Rac1活性を阻害した(図5GのFcとephrin-A5-Fcを比較する)。さらに、EphA5-Fcおよびephrin-A5-Fcは、グルコース刺激性インスリン分泌に対するその作用においてRac1活性を必要とした(図5HのDN-Rac1と空ベクターを比較する)。これらの結果は、EphA5-Fcおよびephrin-A5-Fcが、β-細胞において、Rac1活性およびF-アクチンに影響することにより、グルコース刺激性インスリン分泌を調節することを示唆する。
【0177】
Eph-ephrinシグナル伝達は、コネキシン局在およびギャップ結合コミュニケーションに影響することも示されていたため(Mellitzerら、 (1999) Nature 400: 77; Davyら、 (2006) PLOS Biol. 4: 1763)、我々は、β-細胞のギャップ結合タンパク質である、コネキシン-36(Ravierら、 (2005) Diabetes 54: 1798)が、インスリン分泌に対するEph-ephrinシグナル伝達の作用において必要とされるかどうかを調べた(図13)。我々は、基礎インスリン分泌およびグルコース刺激性インスリン分泌に対するEphA5-Fcの刺激性作用にはコネキシン-36が必要であり(図13CのFcとEphA5-Fcを比較する)、一方ephrin-A5-Fcの阻害作用には必要でないことが示された(図13FのFcとephrin-A5-Fcを比較する)。
【0178】
まとめると、これらの結果は、Eph-ephrin-Aシグナル伝達が、インスリン分泌の制御において必要とされるいくつかのβ-細胞成分である、F-アクチン、Rac1、およびコネキシン-36に作用することを示す。
【0179】
実施例9:グルコースにより誘導されるEphA5の脱リン酸化
EphA類は、ephrin-Aの結合によってオリゴマー化する受容体チロシンキナーゼ(RTK)である(KullanderとKlein (2002) Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 3, 475)。オリゴマー化は、細胞質EphA RTKドメインをお互いに近接させ、それによって、EphA順方向シグナル伝達を促進する、それらのリン酸転移を可能にする。キナーゼ依存性EphA順方向シグナル伝達のレベルは、そのため、EphAチロシンリン酸化のレベルを測定することにより決定することができる。ここで、我々は、EphA順方向シグナル伝達が、インスリン分泌を抑制するために、低グルコース濃度において活性化するという仮説を調べた(図6A)。我々は、グルコース刺激に際して、EphA順方向シグナル伝達が脱リン酸化、つまり、インスリン分泌を促進するephrin-A逆方向シグナル伝達を優位にさせることによって下方制御されるかどうかも調べた(図6B)。
【0180】
この仮説と一致して、我々は、膵島およびMIN6細胞の両方において、EphA5のリン酸化レベルが、グルコース刺激(25 mM)後の示されたすべての時点と比較して、低グルコース濃度(2 mM)においてより高いことを見出した(図6Cおよび図6D)。膵島において、リン酸化されたEphA5の存在は、グルコース刺激のすぐあとに減少した(図6Cのカラム1とカラム2から4を比較する)。しかしながら、膵島を低グルコース濃度に戻すと、EphA5のリン酸化は、基礎レベルに再び達した(図6Cのカラム1とカラム5を比較する)。
【0181】
MIN6細胞においては、これらの細胞が非β-細胞と混合しておらず、そして大量に取得できるため、EphA5のリン酸化レベルを測定することはより容易であった(図6D)。膵島をの場合と同様、リン酸化されたEphA5の量は、グルコース刺激のすぐあとに減少した(図6Dのカラム1とカラム2から5を比較する)。5分の時点で、EphA5のリン酸化は、基礎レベルの約20%まで減少した(図6Dのカラム1とカラム3を比較する)。膵島と同様、グルコース刺激MIN6細胞を低グルコース濃度に戻すと、EphA5基礎リン酸化レベルまで完全に回復した(図6Dの最後のカラムを最初のカラムと比較する)。EphA5だけがβ-細胞において脱リン酸化されるEphAではないことを証明するため、我々は、EphAファミリーのその他の構成要素を用いて実験を行い、そしてグルコース刺激に際した同様の脱リン酸化を観察した(データは示さない)。
【0182】
ephrin-A5-Fcはインスリン分泌を阻害したため、我々は、この作用がEphA5のリン酸化レベルと相関しているかどうかを試験した。我々は、膵島へのephrin-A5-Fcの処理が、刺激性条件下、EphA5のリン酸化を上昇させたことに着目した(図6Cのカラム3と最後のカラムを比較する)。さらに、コンフルエントでないMIN6細胞のephrin-A5-Fc処理は、基礎条件下においても、EphA5のリン酸化を有意に上昇させた(図3Eおよび図3F;図6Eおよび図6F)。したがって、EphA5のリン酸化レベルは、インスリン分泌の阻害と相関する。
【0183】
次に、我々は、プロテインチロシンホスファターゼ(PTP)が、グルコース刺激に応答したEphA類の脱リン酸化に関与するかどうかを試験した(図6B)。我々は、PTPインヒビターである10μMペルオキソバナジン酸(PV)が、グルコース誘導性EphA5脱リン酸化を効果的に阻害し(図6G)、および基礎条件下に特徴的なレベル以上に、刺激性条件におけるEphA5のリン酸化レベルの増加をも、効果的に阻害した(図6Eおよび図6Gにおけるカラムを比較する)。そのため、これらの結果は、EphA順方向シグナル伝達が低グルコース濃度においてインスリン分泌を阻害するために活性であり(図6A)、そしてEphA順方向シグナル伝達は、グルコース刺激によって、脱リン酸化により下方制御される(図6B)ことを示唆する。
【0184】
実施例10:EphA5脱リン酸化は、グルコース刺激性インスリン分泌において必要とされる
膵島への10μM PV処理が、グルコース刺激性インスリン分泌を大きく減少させることが、以前示された(Goggら、 (2001) Biochem. Biophys. Res. Commun. 280, 1161)。我々の実験に基づいて、我々は、PVが、グルコース刺激性インスリン分泌を、部分的には、グルコース誘導性EphA脱リン酸化を阻害することによって、阻害すると仮定した(図7A)。10μM PVがグルコース刺激性インスリン分泌を減少させることを確認した後(図7Dおよび図7E)、我々は、PV処理MIN6細胞において、DN-EphA5の過剰発現によって、インスリン分泌を回復させることができるかどうかを試験した(図7B)。我々は、PV処理MIN6細胞において、wt EphA5の過剰発現によって、インスリン分泌をさらに減少させることができるかどうかも試験した(図7C)。我々は、PV処理MIN6細胞において、DN-EphA5がグルコース刺激性インスリン分泌を部分的に回復させることを見出した(図7Eの空ベクター/PVとDN-EphA5/PVを比較する)。対照的に、PV処理MIN6細胞において、wt EphA5は、グルコース刺激性インスリン分泌をさらに減少させた(図7Eの空ベクター/PVとwt EphA5/PVを比較する)。我々は、EphA順方向シグナル伝達の下方制御は、グルコース刺激性インスリン分泌において不可欠であると結論づける。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として適する化合物を同定する方法であって、
(a)タンパク質が
(i)SEQ ID NO: 1から29のいずれか一つのアミノ酸配列を含むか、あるいは前記アミノ酸配列からなるもの;
(ii)SEQ ID NO: 59から87のいずれか一つの配列を含むか、あるいは前記配列からなる、核酸分子によりコードされるもの;
(iii)(i)または(ii)に従うタンパク質のフラグメントであり、かつEph受容体チロシンキナーゼ活性を示すもの;あるいは、
(iv)(i)または(ii)に従うタンパク質、または(iii)に従うフラグメントと、少なくとも75%同一な配列を有し、かつEph受容体チロシンキナーゼ活性を示すもの;
であるものを含む細胞と、試験化合物とを接触させる段階;および
(b)前記試験化合物が、段階(a)における接触に際して、前記タンパク質のEph受容体チロシンキナーゼ活性を阻害するかどうかを決定する段階;
とを含み、ここで前記阻害は、糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として、化合物が適することを示す、前記方法。
【請求項2】
糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として適する化合物を同定する方法であって、
(a)タンパク質が
(i)SEQ ID NO: 1から29のいずれか一つのアミノ酸配列を含むか、あるいは前記アミノ酸配列からなるもの;または
(ii)SEQ ID NO: 59から87のいずれか一つの配列を含むか、あるいは前記配列からなる、核酸分子によりコードされるもの;または
(iii)(i)または(ii)に従うタンパク質のフラグメントであり、かつEph受容体チロシンキナーゼ活性を示すもの;または、
(iv)(i)または(ii)に従うタンパク質、または(iii)に従うフラグメントと、少なくとも75%同一な配列を有し、かつEph受容体チロシンキナーゼ活性を示すもの;
であるものと、試験化合物とを接触させる段階;および
(b)前記試験化合物が、段階(a)における接触に際して、前記タンパク質のEph受容体チロシンキナーゼ活性を阻害するかどうかを決定する段階;
とを含み、ここで前記阻害は、糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として、化合物が適することを示す、前記方法。
【請求項3】
糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として適する化合物を同定する方法であって、
(a)タンパク質が
(i)SEQ ID NO: 48から58のいずれか一つのアミノ酸配列を含むか、あるいは前記アミノ酸配列からなるもの;
(ii)SEQ ID NO: 106から116のいずれか一つの配列を含むか、あるいは前記配列からなる、核酸分子によりコードされるもの;
(iii)(i)または(ii)に従うタンパク質のフラグメントであり、かつEph受容体チロシンキナーゼに対するプロテインチロシンホスファターゼとして機能するもの;あるいは、
(iv)(i)または(ii)に従うタンパク質、または(iii)に従うフラグメントと、少なくとも75%同一な配列を有し、かつEph受容体チロシンキナーゼに対するプロテインチロシンホスファターゼとして機能するもの;
であるものを含む細胞と、試験化合物とを接触させる段階;および
(b)前記試験化合物が、段階(a)における接触に際して、前記タンパク質の発現および/または活性を活性化するかどうかを決定する段階;
とを含み、ここで前記活性化は、糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として、化合物が適することを示す、前記方法。
【請求項4】
糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として適する化合物を同定する方法であって、
(a)タンパク質が
(i)SEQ ID NO: 48から58のいずれか一つのアミノ酸配列を含むか、あるいは前記アミノ酸配列からなるもの;または
(ii)SEQ ID NO: 106から116のいずれか一つの配列を含むか、あるいは前記配列からなる、核酸分子によりコードされるもの;または
(iii)(i)または(ii)に従うタンパク質のフラグメントであり、Eph受容体チロシンキナーゼに対するプロテインチロシンホスファターゼとして機能するもの;または、
(iv)(i)または(ii)に従うタンパク質、または(iii)に従うフラグメントと、少なくとも75%同一な配列を有し、かつEph受容体チロシンキナーゼに対するプロテインチロシンホスファターゼとして機能するもの;
であるものと、試験化合物とを接触させる段階;および
(b)前記試験化合物が、段階(a)における接触に際して、前記タンパク質の活性を亢進するかどうかを決定する段階;
とを含み、ここで前記亢進は、糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として、化合物が適することを示す、前記方法。
【請求項5】
糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として適する化合物を同定する方法であって、
(a)タンパク質が
(i)SEQ ID NO: 30から47のいずれか一つのアミノ酸配列を含むか、あるいは前記アミノ酸配列からなるもの、または
(ii)SEQ ID NO: 88から105のいずれか一つの配列を含むか、あるいは前記配列からなる、核酸分子によりコードされるもの、または
(iii)(i)または(ii)に従うタンパク質のフラグメントであり、かつephrin活性を示すもの、または
(iv)(i)または(ii)に従うタンパク質、または(iii)に従うフラグメントと、少なくとも75%同一な配列を有し、かつephrin活性を示すもの、
であるものを含む細胞と、試験化合物を接触させる段階;および
(b)前記試験化合物が、段階(a)における接触に際して、前記タンパク質の発現および/または活性を活性化するかどうかを決定する段階;
とを含み、ここで前記活性化は、糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として、化合物が適することを示す、前記方法。
【請求項6】
前記細胞が膵ベータ細胞またはベータ細胞株由来の細胞である、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
段階(b)における決定が、インスリン分泌の定量を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
段階(b)における決定が、前記細胞におけるF-アクチンの定量を含み、F-アクチンの定量は刺激性グルコース濃度において測定され、そして試験化合物と接触した細胞におけるF-アクチン量の減少は、糖尿病の治療および/または予防を目的とする、リード化合物としておよび/または医薬として、適する化合物を示す、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記タンパク質が、前記タンパク質をコードする核酸を発現するか、またはその核酸でトランスフェクションされる細胞内に含まれる、前記請求項のいずれかの方法。
【請求項10】
前記細胞が非ヒト動物内に含まれる、前記請求項のいずれかの方法。
【請求項11】
段階(b)における決定が、インスリン分泌の定量に関与する、請求項10の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2010−517511(P2010−517511A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545875(P2009−545875)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/000353
【国際公開番号】WO2008/087035
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(598165611)マックス−プランク−ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ (4)
【Fターム(参考)】