説明

抗細菌組成物

本発明は、細菌において外からの溶菌を誘導するのに十分に高い濃度のバクテリオファージ(ファージ)を含む、抗細菌組成物に関する。こうした組成物の使用を開示する。ファージKおよび/またはP68が特に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリオファージ(「ファージ」)を含む配合物、ならびに高濃度のバクテリオファージならびに/あるいはファージKおよび/またはP68を含有する配合物を用いて、細菌感染を治療するかまたは表面を殺菌する方法に関する。特に、本発明は、「外からの溶菌(lysis−from−without)」として知られる現象を利用する。
【背景技術】
【0002】
ペニシリンまたはテトラサイクリンなどの化学薬品に基づく抗生物質(すなわち非ウイルス剤)の形の抗細菌剤が周知である。こうした抗生物質に伴う問題は、これらに対する耐性がますます一般的になってきていることである。抗生物質耐性を与える突然変異、またはペニシリナーゼなどの抗生物質耐性酵素をコードする遺伝子は、世界中の病原性細菌においてますます一般的になってきている。例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)細菌は、ますます一般的な感染の型となってきており、しばしば病院で、他の原因のための手術中に獲得される。MRSA感染は、慣用的な抗生物質を用いて治療するのが非常に困難である。
【0003】
細菌感染を治療する1つの代替アプローチは、バクテリオファージとして知られるウイルスに細菌を感染させることである。こうした「バクテリオファージ療法」は、20世紀初頭に最初に発展したが、1940年代の抗生物質の出現以来、西洋ではほとんど使用されてこなかった。より広範囲の研究は東欧で行われてきた。
【0004】
バクテリオファージ(「ファージ」としてもまた知られる)は、細菌細胞の特定の種類に特異的である。重要な細胞内機構ならびに細胞表面構成要素が大きく異なるため、より複雑な生物の細胞はこれらには感染しえない。大部分のバクテリオファージは、ターゲット細菌の表面上の特定の分子に結合するのを可能にする、テール・ファイバーなどの構造を有する。次いで、バクテリオファージ内のウイルスDNAまたはいくつかのバクテリオファージではRNAが、通常はテールを通じて、宿主細胞内に注入され、次いでこれが子孫バクテリオファージの産生を指示する。
【0005】
異なる細菌を感染させる異なる種類のバクテリオファージが見出されている。慣用的には、これらは、特定の細菌が増殖する環境から、例えば汚水または糞便から単離可能である。試料中のバクテリオファージの存在は、細菌がフィルターを通り抜けることを防止するのに十分に小さい孔を持つフィルターに試料を通過させることによって決定可能である。通常、ろ過された抽出物を増殖培地と混合し、適切な宿主細菌を添加し、そして次いで、例えば寒天プレート上にスプレッドする。生じた細菌叢上に、プラークと呼ばれる透明な点が存在していれば、細菌を溶菌させる1以上のバクテリオファージが存在していることが示される。
【0006】
細菌を殺すことのみ可能なバクテリオファージは、「偏性溶菌性(obligately lytic)」バクテリオファージとして知られる。偏性溶菌性バクテリオファージは、タンパク質コートに囲まれた核酸物質、通常はDNAの形で、細菌細胞外に存在する。タンパク質コートには、通常、バクテリオファージが細菌表面上の特定の分子に付着するのを可能にする、1以上の分子が付着している。細菌に結合すると、DNAは細菌宿主内に進入可能となり、ここで、新規バクテリオファージの複製および組み立てに必要な多様なタンパク質に転写され、そして翻訳される。DNAはまた、複製され、そして新規バクテリオファージへとパッケージングされて、細菌細胞の溶菌に際して放出される。
【0007】
偏性溶菌性バクテリオファージに加えて、溶原性またはテンペレート・バクテリオファージがある。これらのテンペレート・バクテリオファージは、2つの生活環を有し、一方では、該ファージは感染細胞を溶菌させ、そしてもう一方では、該ファージはプロファージ状態に入る。偏性溶菌性バクテリオファージは、常に、外部から感染しなければならず、宿主細胞を再プログラミングして、そして感染細胞をこじ開けるかまたは溶菌させることによって、バクテリオファージを爆発的に放出させる。「テンペレート」・バクテリオファージは、そのDNAを宿主細菌DNA内に組み込み、特定の細菌およびその子孫内で、プロファージとして実質的に永続的な関連を生じうる。いくつかのプロファージは物理的に染色体内に組み込まれず、自律レプリコンとして存在する。プロファージは、自身の遺伝子の発現、およびまたいかなる近縁テンペレート・バクテリオファージの発現も遮断する、リプレッサーの合成を指示する。時々、プロファージはリプレッサーによる制御を回避しうる。そうすると、部位特異的組換えによって、プロファージDNAがゲノムから切り出され、複製され、そして大部分の場合、溶菌によって、子孫が宿主細胞から放出されうる。
【0008】
偏性溶菌性バクテリオファージを用いて、細菌感染が治療されてきている。単離偏性溶菌性バクテリオファージは、創傷に適用されるかまたは静脈内注射されて、細菌を殺してきた。バクテリオファージの利点は、これらが自己複製性であり、100程度のバクテリオファージが1億もの細菌を殺しうることである。バクテリオファージは、個体または環境から細菌が除去されるまで、細菌を殺すことによって、単純に自身を複製する。WO 01/51066は、例えば、1以上の偏性溶菌性バクテリオファージで患者を治療する方法を開示する。同様に、US 4,957,686は、バクテリオファージで虫歯を治療する方法を開示する。
【0009】
バクテリオファージ使用に伴う1つのありうる問題は、患者自身の体が、バクテリオファージに対する免疫応答をしばしば有し、そして血中からバクテリオファージを排除することであった。US 5,660,812、US 5,688,501およびUS 5,766,892はすべて、治療しようとする患者の血液内のバクテリオファージ半減期が改善されるように、バクテリオファージを選択する方法を示す。US 5,811,093は、バクテリオファージが動物の循環系でより長く生存するように、カプシド(コーティング)タンパク質の1つをコードする修飾遺伝子(カプシドE)を選択する工程を論じる。後者の特許の場合、修飾は、遺伝子内の点突然変異と同定された。
【0010】
細菌混入物質または疾患を殺菌するかまたは治療する先行技術使用に伴う問題は、ファージがしばしば細菌株特異的であることである。例えば、細菌内のプロファージの存在は、感染性ファージからの遺伝子の発現を遮断し、こうして感染性ファージの複製を防止し、そして細菌の溶菌および殺傷を防止することも可能である。プロファージはまた、入ってくるファージDNAの破壊も引き起こしうる。
【0011】
これは、以前は、ファージが細菌にマッチしていることが必要であり、しばしば細菌の複雑な遺伝子分析を必要とするか、または多くの異なるファージを組み合わせて使用する必要があることを意味した。一団の異なるファージ、例えば、テンペレート・バクテリオファージ由来の一団のvir突然変異体の産生が、WO 03/080823に開示される。
【0012】
「外からの溶菌」として知られる現象は、1930年代後期および1940年代初期から知られてきた。Delbruck M.(J. Gen. Physiol., (1940), 643−660ページ)は、2つの概念:「内からの溶菌(lysis−from−within)」および「外からの溶菌」を論じる。
【0013】
「内からの溶菌」は、細菌細胞がファージに感染し、ファージが細胞内部で増殖し、そして細胞が溶菌されて、新規ファージが放出され、そして細菌を殺すものである。これは、通常、偏性溶菌性ファージによって用いられるプロセスである。一方、「外からの溶菌」は、細菌細胞内部のファージの複製を伴わない。Delbruckは、ファージが細菌細胞によって吸着されるが、子孫ファージが遊離しないことに注目した。この結果、細菌細胞は球状体に変形し、そして溶菌によって細菌が殺された。この現象を誘導するには、閾値を超える高濃度のファージが必要であることが注目された。
【0014】
本発明者らには、ここで、少なくとも部分的に、これが、可溶性型で、またはファージ粒子に付着してのいずれかで存在する酵素による細菌細胞壁の消化のためであることがわかっている。(Stent. G.S., Molecular Biology of Bacterial Particles, W.H. Freeman & Co.(1963), 71−87ページ)。「リシン」として知られる溶菌酵素を単離し、そして性質決定する、多数の研究が行われてきている。リシンはまた、ムレイン加水分解酵素としても知られる。
【0015】
例えば、Ralston D.J.ら(J. Gen. Physiol.(1957), 41(2):343−358)は、細菌に対するファージおよびビロリシンの作用を研究した。ビロリシンは、ファージに感染した細胞の溶解物から得られている。同じグループがこの現象に関して報告し続けてきた。1964年、彼らは、外からの溶菌が、ファージによる感作後のリシンによる壁の消化を必要とするようであることを報告した(Ralston D.ら, J. Bacteriol.(1964), 88:676−681)。
【0016】
単離リシンの使用は、潜在的な療法適用を有するとして、科学コミュニティによって注目されてきた。ホリンなどの他の単離溶菌関連酵素およびタンパク質もまた研究されてきている。ホリンは、細胞膜の透過処理に関連づけられている。
【0017】
例えば、Nelson D.ら(PNAS, (2001), 98:4107−4112)は、細菌感染を治療するための精製リシンの使用を開示する。このグループは、経口導入された精製リシンを用いて、上気道における連鎖球菌感染を治療可能であった。WO 01/19391およびUS 2002/0094319もまた、リシンなどの精製偏性溶菌性酵素の使用を開示する。
【0018】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、特に、病気であるか、高齢であるかまたは免疫が低下した患者において、全身感染または膿瘍および潰瘍を引き起こしうる。MRSAは、ますます、病院における主な死因となりつつあるか、または死に寄与しつつある。MRSAは、いかなる明らかな疾患症状も伴わずに、医師または見舞人の鼻腔に住み着きうる。しかし、細菌は、患者を含むヒトからヒトに蔓延しうる。したがって、細菌を殺すと、疾患防止の補助となる。
【0019】
一団のバクテリオファージを用いる、1つのありうるアプローチが、WO 03/080823に提供される。しかし、MRSAの多くの異なる株が存在する。したがって、この一団は、細菌の偏性溶菌性感染によって、MRSAのすべては殺せない可能性もある。本発明者らは、現在、外からの溶菌を誘導するのに十分に高い濃度でファージを提供すると、細菌を感染させて、内からの溶菌を引き起こすことなく、細菌を迅速に殺す方法が提供されることを知っている。これは、ファージで治療可能な株の数を拡大する一方、ファージの感受性株において、内からの溶菌もなお可能にしておく。
【0020】
他の細菌、例えばクロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile(C.ディフィシレ(C. difficile)))もまた、病院において問題のあるものとなりつつあり、そしてこうした細菌は、他の患者、医療従事者または見舞人との接触によって、あるいは周囲の環境から、蔓延する。
【0021】
病院は現在、アルコールでの手洗いを利用して、MRSA伝染防止を補助している。しかし、こうしたアルコール洗浄は、しばしば、鼻腔の感じやすい裏打ちまたは皮膚の破壊された領域に対して使用するのに適していない。したがって、MRSAまたはC.ディフィシレなどの細菌を殺すのに適した組成物を産生する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】WO 01/51066
【特許文献2】US 4,957,686
【特許文献3】US 5,660,812
【特許文献4】US 5,688,501
【特許文献5】US 5,766,892
【特許文献6】US 5,811,093
【特許文献7】WO 03/080823
【特許文献8】WO 01/19391
【特許文献9】US 2002/0094319
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】J. Gen. Physiol., (1940), 643−660ページ
【非特許文献2】Stent. G.S., Molecular Biology of Bacterial Particles, W.H. Freeman & Co.(1963), 71−87ページ
【非特許文献3】J. Gen. Physiol. (1957), 41(2):343−358
【非特許文献4】J. Bacteriol.(1964), 88:676−681
【非特許文献5】PNAS, (2001), 98:4107−4112
【発明の概要】
【0024】
本発明者らは、予期せぬことに、外からの溶菌を適用すると、より単純で費用効果的な配合物が産生可能になることを同定した。外からの溶菌は、細菌を迅速に殺す方法を提供する。これによって、抗生物質あるいは有害なまたは刺激性の化学薬品を必要とせずに、抗生物質耐性細菌を殺すことが可能になる。さらに、全ファージを利用すると、ファージが内からの溶菌を通じて細菌を感染させうるならば、配合物が二重の攻撃様式;外からの溶菌による殺傷、および粘液などの体液によって配合物濃度が希釈されていた場合であってさえ、内からの溶菌による殺傷の両方を有することも可能である利点を有する。
【0025】
さらに、本発明者らが用いる好ましいファージ、ファージKおよび/またはファージP68は、一緒にまたは個々に、広範囲の細菌株に対する活性を有し、そして以下に記載するさらなる利点を有することが見出されてきている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
ファージKは、以前、抗MRSAファージとして性質決定されている。O’Flaherty S.O.ら(Appl. Environ. Microbiol.(2005), 71(4):1836−1842)は、黄色ブドウ球菌の異なる薬剤耐性株に対してファージKを研究した。ファージP68は、例えば、Takac M.およびBlasi U.(Antimicrob. Agents and Chemo.(2005):2934−2940)によって研究された。本発明者らは、ファージKおよび/またはP68が感染させるMRSA株の範囲が、互いに補完し、抗MRSAの組み合わせにおいて使用するのに特に適した2つの株の組み合わせをなすことを見出した。
【0027】
ファージKはさらなる利点を有する。グラム陰性細菌の細胞壁は、主に、ペプチドグリカンで構成されるが、グラム陽性細菌は、さらに、陰イオン性リン酸ポリオールポリマーであるタイコ酸を多量に含有する。1970年代以降、ファージKに耐性である黄色ブドウ球菌突然変異体が、リビトール・タイコ酸を欠くことが知られてきている(Shaw D.R.D.ら(1970)J. Biol. Chem. 245(19)5101−5106)。ファージKは、タイコ酸を介して、細菌壁に結合する。細胞壁のタイコ酸の欠如は、内皮細胞との相互作用を減少させることが見出されてきており、タイコ酸は、鼻細胞への付着に必要とされる(Weidenmaier Cら Int. J. Medical Microbiol(2008)298, 505−513)。したがって、タイコ酸が存在する場合、ファージKは細菌に結合するはずである。細菌が細胞壁中のタイコ酸を減少させることによってファージKに耐性であるように突然変異した場合、細菌が鼻細胞に結合する能力が減少するはずである。これは、ファージKでの処置後に残っているいかなる細菌の毒性も減少させるのを補助するはずである。
【0028】
本発明者らによる実験によってまた、例えば、高濃度のファージKおよびその宿主範囲変化誘導体は、黄色ブドウ球菌が偏性溶菌性感染に耐性であるように突然変異していたとしても、なお黄色ブドウ球菌を殺しうることも見出された。
【0029】
本発明の第一の側面は、キャリアーおよび少なくとも1つのタイプのファージを含む、表面を殺菌するための殺菌組成物であって、ファージが細菌の病原体(pathogen)となる該細菌が、殺菌しようとする表面上に存在する場合、該細菌において外からの溶菌を誘導するのに十分に高い濃度のファージが組成物中に提供されることを特徴とする、前記組成物を提供する。
【0030】
外からの溶菌を引き起こすのに必要なファージの濃度は、例えば、異なる濃度のファージとともに、細菌細胞を通常の増殖温度でインキュベーションし、そして培養物が濁度を失うことによって示されるように、どのファージ濃度で細菌細胞が溶菌するかを観察することによって、実験的に決定可能である。
【0031】
組成物中のファージは、通常、細菌のあらかじめ決定された特定の種に由来するであろう。用語「病原体」は、本明細書において、ファージが細菌種表面に特異的に結合可能であり、そして高濃度である場合、外からの溶菌を誘導可能であることを意味するよう意図される。ファージは、内からの溶菌を誘導可能である必要はない。上に示すように、細菌の同じ種の異なる株内の異なるプロファージの存在は、特定のファージが、内からの溶菌機構を介して、細菌の溶菌を誘導する可能性もまたはしない可能性もあることを意味する。しかし、ファージはなお細菌表面に結合する可能性もあり、そしてなお、外からの溶菌機構を介して、溶菌を誘導する可能性もある。
【0032】
好ましくは、ファージ濃度は、ファージのプラーク形成単位(pfu):細菌のコロニー形成単位(cfu)が、少なくとも4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、10:1、少なくとも20:1、40:1、50:1、少なくとも100:1である。ファージのプラーク形成単位は、内からの溶菌を介してファージによって溶菌されうる細菌上で決定される。
【0033】
異なるタイプのファージが異なる細菌に対して外からの溶菌を誘導可能である効率は、ファージ間で多様であろうことが認識されるであろう。こうした現象を誘導するのに必要な濃度は、ルーチンの実験を介して決定可能である。
【0034】
潜在的には、必要な外からの溶菌を生じるのに十分に高い濃度のファージを産生するような殺菌組成物を適用可能な、いかなる表面を処置してもよい。したがって、表面は、例えば、病院における医療機器、寝具類、家具、壁または床であってもよい。しかし、最も好ましくは、処置すべき表面は、哺乳動物の外表皮膚、例えば鼻腔、あるいは哺乳動物表面における創傷または傷口の表面である。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0035】
殺菌組成物は、表面用のスプレーまたは液体洗浄剤の形であってもよい。組成物は手洗い剤であってもよい。好ましくは、組成物が局所適用用配合物である場合、ローション、クリーム、軟膏、ペースト、ジェル、泡(foam)の形状、または局所投与に関して一般的に知られるキャリアーとしての任意の他の物理的形状を取ってもよい。こうした粘度が高い局所配合物は、材料を配置する皮膚の領域に付着し、こうして殺菌しようとする特定の領域に、局在した高濃度のファージが導入されることを可能にするため、特に好適である。
【0036】
例えば、鼻腔への産物の適用に特に有用な、パラフィンおよびラノリンに基づくクリームが、当該技術分野に一般的に知られる。しかし、ポリマー増粘剤などの他の増粘剤も使用可能である。
【0037】
配合物はまた:1以上の以下:水、保存剤、活性界面剤、乳化剤、酸化防止剤、または溶媒も含んでもよい。
2以上の異なるファージを用いてもよい。例えば、細菌の同じ種の異なる株の表面コーティングが異なることもある。したがって、特定の配合物が、特定の表面上の特定の種の細菌集団において、外からの溶菌を誘導しうる可能性を増加させるため、細菌の同じ種の異なる株に感染可能である2以上の異なるファージを使用することが好ましい。これはまた、特定の表面上の細菌を殺す二次的方法として、内からの溶菌もまた用いうる可能性も増加させる。
【0038】
あるいは、またはさらに、2以上の異なるタイプのファージを用いてもよく、各ファージが細菌の異なる種に特異的であってもよい。これによって、特定の表面上に、いくつかの異なる細菌が存在しうる状況において、特定の配合物を対照として使用することが可能になる。
【0039】
好ましくは、ファージは、ブドウ球菌属(Staphylococcus)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、クレブシエラ属(Klebsiella)、リステリア属(Listeria)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、エシェリキア属(Escherichia)、髄膜炎菌属(Meningococcus)、カンピロバクター属(Campylobacter)、連鎖球菌属(Streptococcus)、腸球菌属(Enterococcus)、赤痢菌属(Shigella)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バークホルデリア属(Burkholderia)、クロストリジウム属(Clostridium)、レジオネラ属(Legionella)、アセチノバクター属(Acetinobacter)、またはサルモネラ属(Salmonella)より選択される細菌の病原体である。
【0040】
好ましくは、ファージは黄色ブドウ球菌、特にMRSAまたはC.ディフィシレの病原体である。
実際、ファージの複製を可能にしない細菌株に対して外からの溶菌を誘導する高い濃度、および実質的に内からの溶菌のみが起こりうる、より低い濃度の両方で、ファージKおよび/またはファージP68またはその突然変異体の組み合わせを用いてもよい。本発明者らは、殺菌配合物において、ファージKを単独で、またはファージP68と組み合わせて用いると、広範囲のMRSA株が感染し、そして殺されることが可能になることを見出した。ファージKおよびファージP68の宿主範囲は互いに補完する。
【0041】
したがって、本発明のさらなる側面は、キャリアー、ファージKおよび/またはファージP68またはその突然変異体を含む、表面を殺菌するための殺菌組成物を提供する。
ファージKまたはファージP68を単独で、あるいは互いにまたは他のファージと組み合わせて用いてもよい。ファージKを、ファージP68を含まずに単独で、または他のファージとともに用いてもよい。
【0042】
組成物は、ファージKおよび/またはファージP68に加えて、ファージのさらなるタイプを含んでもよい。
ファージKまたはP68の突然変異体は、点、欠失または付加突然変異であってもよい。元来のファージKまたはP68配列に比較して、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10塩基を変化させてもよい。こうした突然変異体は、好ましくは、改変された宿主範囲を有する。
【0043】
ファージKは、その全体が本明細書に援用されるO’Flahertyらによる論文(J. Bacteriol.(2004)2862−2871)に詳細に論じられる。該ファージは、127,395bpのDNAゲノムを持つ多価ファージである。典型的には、ファージKは、実質的に、GATCおよびGGNCC部位を欠く。典型的には、該ファージは、リステリア属ファージA511に相同性を有するゲノムの広い領域を含む。ゲノムはまた、典型的には、本質的なファージ機能において、イントロンを含み、ポリメラーゼ遺伝子中に2つ、およびリシン遺伝子中に1つを含む。
【0044】
P68のヌクレオチド配列は、その全体が本明細書に援用されるVybiral D.らによる論文(FEMS Microbiol. Lett(2003), 219, 275−283)に示される。P68は18277bpを含む(Genbank番号AF513033)。
【0045】
好ましくは、ファージKまたはファージP68の突然変異は、ファージの天然配列に対して、少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも92%、94%、96%、98%または99%である。
【0046】
ファージは、上述のような外からの溶菌を誘導するのに十分に高い濃度で存在してもよい。しかし、2つのファージの一方または両方はまた、外からの溶菌を誘導するのに必要な濃度よりも低い濃度で存在してもよい。例えば、ファージKおよびファージP68は、各々、pfuファージ:cfu細菌が5:1未満で存在してもよく、この場合、細菌濃度は、ファージKまたはファージP68が病原体である細菌の表面での濃度である。
【0047】
組成物は、例えばヒトなどの哺乳動物の皮膚上への、局所適用のためのものであってもよい。例えば、皮膚は、鼻腔または手の上の皮膚であってもよい。他の表面は、上に定義する通りであってもよい。
【0048】
組成物の型、組成物の構成要素、および使用は、上に定義する通りでありうる。
異なる種の細菌、および実際に異なる株の細菌に特異的なファージが、一般的に当該技術分野に知られる。例えば、組成物は、ファージKおよび/またはファージP68を含む、MRSAを感染させうる1以上の一般的に知られるファージを含んでもよい。
【0049】
本発明はまた、本発明の第一の側面にしたがった殺菌組成物を表面に適用する工程を含む、表面上の細菌を殺す方法も提供する。これは、例えば特定の細菌の蔓延を防止するための殺菌剤として使用可能である。これはまた、例えば皮膚の表面上の細菌感染を阻害する方法として使用可能である。
【0050】
好ましくは、表面はヒトなどの哺乳動物皮膚である。特に、表面は、哺乳動物の鼻腔、またはヒトの手の上の皮膚であってもよい。
本発明にしたがった組成物を感染表面に適用する工程を含む、細菌感染を治療する方法もまた提供する。本発明のさらなる側面は、細菌感染を治療するのに使用するための、本発明の第一の側面にしたがった組成物を提供する。
【0051】
殺菌組成物を包帯または創傷包帯材に適用してもよい。
本発明のさらなる側面は、少なくとも1つのタイプのファージを含む包帯または創傷包帯材であって、ファージを、それが細菌の病原体となる該細菌と接触させた場合、該細菌において外からの溶菌を誘導するのに十分に高い濃度のファージが包帯または創傷包帯材上に提供されることを特徴とする、前記包帯または創傷包帯材を提供する。
【0052】
本発明のさらなる側面は、ファージKおよび/またはファージP68またはその突然変異体を含む、包帯または創傷包帯材を提供する。ファージKまたはP68を単独でまたは組み合わせて用いてもよい。
【0053】
創傷包帯材は、パッドまたは絆創膏型包帯材であってもよい。用いるファージおよび/または濃度は、好ましくは、本発明の先の側面に関して上に定義した通りである。ファージを創傷包帯材または包帯に適用する前に、殺菌配合物または局所クリームとして創傷包帯材または包帯に適用してもよい。
【0054】
あるいは、創傷包帯材または包帯を、ファージを含有するキャリアー中に浸し、そして乾燥させて、包帯材または包帯内にファージを染み込ませてもよい。
また、当該技術分野に一般的に知られる技術を用いて、包帯または創傷包帯材表面上に、ファージを吸着させてもよい。
【0055】
このアプローチの利点は、包帯または創傷包帯材が、細菌を含有しうる創傷とファージを接触させることが可能になることである。
患者に包帯または創傷包帯材を適用することによって細菌を阻害するかまたは治療する方法もまた提供する。
【0056】
好ましくは、バクテリオファージKおよび/またはバクテリオファージP68、およびこれらに由来するファージを、本発明の組成物中で用いる。これらは、広範囲のMRSA株において、外からの溶菌を誘導する。どちらのファージも当該技術分野に一般的に知られる。例えば、ファージKは、ATCCより入手可能であり(ATCC 19685−B1)、そして/またはP68は、ラバル大学のFelix d’Herelle Reference Center for Bacterial Virusesより入手可能である(HER49)。他のファージもまた使用可能である。
【実施例】
【0057】
方法
問題のファージによる偏性溶菌性感染に感受性でない黄色ブドウ球菌細菌を、1mlあたりおよそ2x10コロニー形成単位(cfu)の濃度まで、増殖培地、LBブロス中で増殖させた。異なる濃度のファージを、培地中に懸濁された細菌の異なるアリコットに添加して、そして37℃で一晩インキュベーションした。
【0058】
培養の濁度を測定した。濁度の減少は、細胞の外からの溶菌を示す。
ファージが感染しそして内からの溶菌を誘導してプラークを形成することが知られる細菌細胞上のプラーク形成単位(pfu)として、ファージ濃度を計算した。ファージおよび細菌細胞のpfuの計算は標準的技術である。
【0059】
あるいは、固形増殖培地(LB培地)のペトリ皿を提供する。問題のファージによる偏性溶菌性感染に非感受性の細菌を液体低密度寒天と混合し、そして次いで、固形増殖培地上にスプレッドする。次いで、異なる希釈のファージ調製物のアリコット(〜20μl)を、ペトリ皿表面上にスポットする。ペトリ皿をインキュベーションして細菌を増殖させる。ファージ希釈のいずれかがスポットされた位置に対応する、細菌増殖がない領域は、外からの溶菌を示す。
【0060】
いくつかの技術によって、ファージが内からの溶菌を誘導する能力を決定してもよい。典型的には、固形増殖培地(LB培地)のペトリ皿を提供する。細菌をファージおよび低密度寒天と混合し、そして次いで、固形増殖培地上にスプレッドする。ペトリ皿をインキュベーションして細菌を増殖させる。内からの溶菌が起こった場合、細菌増殖中にプラークが観察された。
【0061】
結果
表1は、ファージKおよびファージP68が、ある範囲の異なる株のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)において、内からの溶菌(プラーク)を誘導する能力を示す。SAI653は標準として用いられてきている。これは、ATCCより公的に入手可能であり(ATCC番号19685)、そして黄色ブドウ球菌亜種アウレウス・ローゼンバッハ(aureus Rosenbach)である。残りの株は、英国および海外の病院で患者から単離されたMRSA株である。
【0062】
この表はまた、ファージが、内からの溶菌を介してプラークを形成しないものを含む株において、外からの溶菌を誘導するために、高濃度のファージを用いてもよいことも示す。
【0063】
これは、ファージを含有する配合物を用いて感染させうる細菌の異なる株の数を増加させることによって、ファージを含む配合物の有効性をかなり増加させる。
ファージKでは、プラーク形成を誘導不能であるファージに対して外からの溶菌を誘導するのに必要なファージKの最少濃度は、プラークpfu対細胞が5:1であることが観察された。
【0064】
ファージ感染に耐性である黄色ブドウ球菌突然変異体の外からの溶菌
黄色ブドウ球菌ファージK、KおよびK710(元来の親Kに由来する自然発生宿主範囲突然変異体)およびファージP68は、試験した大部分の黄色ブドウ球菌株の外からの溶菌を引き起こしうる。偏性溶菌性感染(内からの溶菌)に耐性である黄色ブドウ球菌突然変異体が、なお、外からの溶菌に感受性であるかどうかを調べるため、実験を行った。ファージK710に耐性である黄色ブドウ球菌株SAI669(EMRSA−15単離体)の5つの独立の突然変異体を単離し、ファージP68に耐性である別の5つの突然変異体も同様に単離した。ファージK710による偏性溶菌性感染に耐性であるとして単離された突然変異体はすべて、ファージKおよびKによる偏性溶菌性感染にも耐性を示した。K/K/K710による偏性溶菌性感染に耐性である突然変異体は、ファージP68による偏性溶菌性感染に感受性であり、そして逆に、ファージP68による偏性溶菌性感染に耐性である突然変異体は、なお、K/K/K710による偏性溶菌性感染に感受性であった。個々のファージ耐性突然変異体各々を、外からの溶菌に対する感受性に関して試験した。Lブロス寒天(1.5% w/v)のプレート上に、3mlのLブロス上層寒天(0.7% w/v)中の黄色ブドウ球菌株菌叢を接種し、そして次いで、20μlの10倍連続希釈の各ファージ(最初の濃度が〜5x10プラーク形成単位/ml)を上層寒天上にスポッティングし、その後、37℃で20時間インキュベーションすることによって、この試験を行った。細菌叢中、高濃度のファージで透明になる領域があるが、低濃度のファージでは個々のプラークが存在しない場合、外からの溶菌を示すと解釈された。
【0065】
10の突然変異体はすべて、ファージK、KおよびK710による外からの溶菌に感受性であった。しかし、P68に耐性である突然変異体は、P68による外からの溶菌に感受性でなかった。ここでK710およびP68の両方に耐性となった、元来の10の突然変異体各々の自然発生二重突然変異体を単離した。外からの溶菌に対する感受性に関して、これらの二重突然変異体をスクリーニングした。二重突然変異体はすべて、ファージK、KおよびK710による外からの溶菌に感受性であったが、ファージP68による溶菌には感受性でなかった。これらの結果から、ファージKによる偏性溶菌性感染に耐性である黄色ブドウ球菌の突然変異体、およびファージKに由来する自然発生宿主範囲突然変異体は、外からの溶菌に感受性であり続けると結論づけられる。
【0066】
したがって、ファージ療法に関連して、ファージKおよびその宿主範囲突然変異体誘導体を十分に高い濃度で使用すると、黄色ブドウ球菌株が偏性溶菌性感染に耐性であるように突然変異していても、なお、該細菌を殺すはずである。
【0067】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアーおよび少なくとも1つのタイプのファージを含む、表面を殺菌するための殺菌組成物であって、ファージが細菌の病原体である該細菌が、殺菌しようとする表面上に存在する場合、該細菌において外からの溶菌(lysis−from−without)を誘導するのに十分に高い濃度のファージが組成物中に提供されることを特徴とする、前記組成物。
【請求項2】
ファージKおよび/またはP68またはその突然変異体を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ファージ濃度は、pfuファージ:cfu細菌が少なくとも5:1である、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
哺乳動物皮膚へ適用するために局所適用するものである、先行する請求項いずれか記載の組成物。
【請求項5】
皮膚が鼻腔内にあるか、またはヒトの手の皮膚である、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
クリーム、ローション、軟膏、ペースト、ジェルまたは泡(foam)の形である、請求項4または請求項5記載の組成物。
【請求項7】
キャリアーがラノリンまたはパラフィンを含む、請求項4〜6のいずれか一項記載の組成物。
【請求項8】
2以上の異なるファージを含む、先行する請求項いずれか記載の組成物。
【請求項9】
ファージが、ブドウ球菌属(Staphylococcus)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、クレブシエラ属(Klebsiella)、リステリア属(Listeria)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、エシェリキア属(Escherichia)、髄膜炎菌属(Meningococcus)、カンピロバクター属(Campylobacter)、連鎖球菌属(Streptococcus)、腸球菌属(Enterococcus)、赤痢菌属(Shigella)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バークホルデリア属(Burkholderia)、クロストリジウム属(Clostridium)、レジオネラ属(Legionella)、アセチノバクター属(Acetinobacter)、またはサルモネラ属(Salmonella)より選択される細菌の病原体である、先行する請求項いずれか記載の組成物。
【請求項10】
ファージが黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の病原体である、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
キャリアー、ファージKおよび/またはファージP68またはその突然変異体を含む、表面を殺菌するための殺菌組成物。
【請求項12】
ファージが細菌の病原体となる該細菌が、殺菌しようとする表面上に存在する場合、該細菌において外からの溶菌を誘導するのに十分に高い濃度でファージが提供される、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
ファージ濃度は、pfuファージ:cfu細菌が5:1未満である、請求項11記載の殺菌組成物。
【請求項14】
哺乳動物皮膚への局所適用するためのものである、請求項11〜13のいずれか記載の組成物。
【請求項15】
皮膚が鼻腔、またはヒトの手の皮膚である、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
クリーム、ローション、軟膏、ペースト、ジェルまたは泡の形である、請求項14〜15のいずれか一項記載の組成物。
【請求項17】
キャリアーがラノリンまたはパラフィンを含む、請求項14〜16のいずれか一項記載の組成物。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項記載の殺菌組成物を表面に適用する工程を含む、表面上の細菌を殺す方法。
【請求項19】
表面が哺乳動物皮膚である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
表面が哺乳動物の鼻腔である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
請求項1〜17のいずれか一項記載の組成物を感染表面に適用する工程を含む、細菌感染を治療する方法。
【請求項22】
細菌感染を治療するのに使用するための、請求項1〜11のいずれか一項記載の組成物。
【請求項23】
少なくとも1つのタイプのファージを含む包帯または創傷包帯材であって、ファージを、それが細菌の病原体となるような該細菌と接触させた場合、該細菌において外からの溶菌を誘導するのに十分に高い濃度のファージが包帯または創傷包帯材上に提供されることを特徴とする、前記包帯または創傷包帯材。
【請求項24】
ファージKおよび/またはファージP68を含む、請求項23記載の包帯または創傷包帯材。

【公表番号】特表2011−501740(P2011−501740A)
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527533(P2010−527533)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【国際出願番号】PCT/GB2008/003363
【国際公開番号】WO2009/044163
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(510092292)ノボリティクス・リミテッド (1)
【Fターム(参考)】